本発明の実施形態を説明する前に、従来技術の問題点、すなわち成形性、自己修復性、密着耐久性と防汚性の両立について、本発明者の視点で考察する。
[本発明と従来技術の比較]
まず、特許文献1および特許文献2に記載の従来技術の自己修復性材料が、密着耐久性と両立できない理由は、従来技術では塗膜を柔軟にするため、塗膜中の架橋構造の密度を下げることにより、自己修復性や成形性を得ている。しかし、副作用的効果として、空気中の水分が塗膜へ浸透する量が多くなり、長期使用条件下においては塗膜の破壊、もしくは塗膜が基材から剥離するなど、密着耐久性は十分ではなかった。
また、特許文献3〜5の技術は、材料表面の架橋密度を高め、空気中の水分の浸透量もしくは染料の浸透を防ぐため、優れた密着耐久性や耐染料移行性を示す一方で、成形性や自己修復性は示さない。さらに特許文献1や2の材料に特許文献3や4の材料を組み合わせても、自己修復性と成形性および密着耐久性や防汚性がトレードオフの関係になるため、両立することができない。さらに、特許文献4の技術では材料の強度に劣るため、成形材料に求められる耐擦傷性は不十分である。
そこで、本発明者らは成形材料に求められる成形性と自己修復性による耐擦傷性の検討を進める上で、表面層の力学的特性として粘弾性特性、すなわち弾性的性質を示す貯蔵弾性率と、粘性的性質を示す損失弾性率、損失弾性率を貯蔵弾性率で除した損失正接に着目した。
表面層が外部から負荷を受ける際、その力学的応答は前述の粘弾性特性に依存する。損失正接が低い材料、すなわち弾性的性質が強い材料では、負荷の大部分を力学的エネルギーで蓄えようとするため、負荷が大きいと貯蔵可能な範囲を超えてしまい材料が破壊する。このような場合、表面層には傷が発生するなど、耐擦傷性が不十分となってしまう。一方、損失正接が高い材料、すなわち粘性的性質が強い材料では、負荷を損失エネルギー、すなわち熱エネルギーとして逃がす効果が大きく、貯蔵する力学的エネルギーが相対的に小さい。そのため、負荷が大きくても貯蔵可能な範囲を下回る可能性が高くなり、材料が破壊しづらくなる。結果として、表面層への傷の発生などを抑制でき、耐擦傷性に優れる。
以上から、表面層の損失正接が高くする方法として、貯蔵弾性率を下げることで、前記表面層の成形性と自己修復性が向上し好ましい。
具体的には、前記表面層の貯蔵弾性率を一定の値以下にすることが好ましい。
さらに、積層フィルムの表面層の自己修復性に対し、表面層の粘弾性挙動の温度依存性に着目した理由は、ある温度における貯蔵弾性率よりも高温での貯蔵弾性率が高い自己修復材料において、加熱による表面層の貯蔵弾性率が上昇に伴い、自己修復性が向上することを発見したことに基づく。
本発明者らが上記現象の解析を進めたところ、表面層に擦傷が発生すると、その変位に伴い発生した残留応力と貯蔵弾性率に相関があることを見出した。すなわち、表面層の貯蔵弾性率が上昇すると、表面層内部の弾性力が擦傷に伴う残留応力を解放する力となり、結果として擦傷が修復することが判明した。
この性質の利用を実使用状況で想定した場合、本発明の積層フィルムはスマートフォンなどの成形材料として好適に用いられるため、スマートフォンなどの各種電子機器が内部で発生する熱を筐体表面から放熱することに起因して、表面温度が上昇した際、自己修復材料も連動して温度が上昇し、室温で発生した擦傷が修復するため、自己修復性が向上することが期待される。
具体的には、表面層の100℃での貯蔵弾性率が、25℃での貯蔵弾性率より高いことが好ましい。
さらに、本発明者らは密着耐久性を解析するにあたり、表面層に浸入する空気中の水分に着目した。特に長期使用条件下において、浸入した水分が表面層−支持基材界面まで到達し、界面を破壊することが原因となって、表面層が支持基材から剥離することを見出した。特に、自己修復材料では表面層の架橋密度を下げているため、表面層に侵入する水分が多かったとみられる。
表面層−支持基材界面の破壊を防ぐ方法の検討を進めたが、当初、表面層中の架橋構造の密度を上げたところ密着耐久性は向上したが、前述の通り成形性や自己修復性と両立しなかった。
そこで、成形性と自己修復性、および密着耐久性を両立する方法を検討したところ、表面層に含まれる樹脂への疎水性セグメント導入が有効であることを見出した。
表面層に含まれる樹脂が疎水性セグメントを含むと、表面層に浸入する空気中の水分が減少する。また、浸入した水分に着目すると、表面層表面から表面層−支持基材界面に到達するまで疎水セグメントに繰返し接触するため、界面に到達する水分量はさらに減少する。したがって、浸入した水分を原因とする表面層−支持基材界面の破壊を抑制することができ、結果として密着耐久性を向上することが可能となる。
また、前記効果について検証を重ねたところ、特に、脂環構造や芳香環に由来する疎水性セグメントの導入が有効であることを見出した。脂環構造や芳香環は立体的な構造を有するため、鎖状構造に由来するセグメントよりも相対的に運動性が低い。そのため、成形時や外部からの負荷により表面層が変形を受ける場合においても、表面層中の疎水性セグメントの分布状態に粗密が発生することを抑制できるため、密着耐久性の低下を防ぐことが可能となる。なお、この効果は表面層の架橋構造密度を変化させるものではないため、脂環構造や芳香環により成形性や自己修復性が低下しにくい。
具体的には、前記表面層に含まれる樹脂がグリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含むことが好ましい。
さらに、本発明者らは染料移行性の解析にあたり、染料の移行プロセスに着目した。すると、表面層への染料移行性に関しては、染料が浸入するプロセス、染料が定着するプロセス、それぞれの切り分けが重要であることを見出した。
まず、染料が浸入するプロセスについて、染料の浸入においては水が媒介となるため、表面層への水の浸入を防ぐことで、染料の浸入を抑制することが可能である。染料の浸入を抑制することで、後述の染料の定着が起こる機会を減らすことが可能であり、結果として耐染料移行性を向上させることができる。このような方法として、前述の表面層に含まれる樹脂へ疎水性セグメント、特に脂環構造や芳香環に由来する疎水性セグメントを導入することが有効である。
具体的には、染料の浸入に対しては前記表面層に含まれる樹脂がグリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含むことが好ましい。
次に、染料が定着するプロセスについて、表面層に含まれる樹脂と染料の親和性が高いと、染料の定着する確率が高くなる。したがって、表面層に含まれる樹脂と染料の親和性を下げることで、染料の定着を抑制することが可能となり、結果として耐染料移行性を向上させることができる。このような方法として、前述の表面層に含まれる樹脂へ染料との親和性が低いセグメントを導入することが有効である。
具体的には、前記表面層に含まれる樹脂がグリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメント、ポリカプロラクトンセグメントを含むことが好ましい。
さらに本発明者らは、成形時の負荷や長期使用条件下など、表面層−支持基材の界面に生じる負荷に着目した。成形時においては、表面層−支持基材の界面に力学的な負荷、つまり応力や変形が発生し、表面層−支持基材界面に局所的な密着破壊が生じることがあり、これが成形性を低下させる原因であることを見出した。また、長期使用条件下においては、空気中の水分が表面層に浸入し、表面層−支持基材の界面を破壊するため支持基材から表面層が剥離し、これが密着耐久性を低下させる原因であることを見出した。そこで、これらの表面層−支持基材界面の密着破壊を防ぐ方法を検討したところ、溶媒との親和性が一定以上の表面を有する支持基材の選択が有効であることを見出した。
支持基材表面と溶媒の親和性が高いと、支持基材上に表面層を形成する際、表面層の成分が支持基材上に浸透するため、表面層−支持基材界面の密着力を向上することができる。これは、表面層−支持基材界面の局所的な密着破壊抑制や基材からの表面層剥離抑制に有効であるため、成形性や密着耐久性を向上させることができる。具体的には、支持基材の膨潤度指数を特定の範囲にすることが好ましい。
さらに、本発明者らは積層フィルムの層構成に着目し、表面層を後述のA層とB層とからなる層とし、支持基材側からB層、A層がこの順で接していることが、成形性および密着耐久性の向上に有効であることを見出した。
弾性回復により自己修復性を発現する材料を表面層に、一般的な熱可塑性樹脂を基材に用いた積層フィルムは、表面層側が「エントロピー弾性体=ゴム弾性体」、支持基材が「エネルギー弾性体」になるため、熱に対する力学的挙動が大きく異なる材料で形成されているともいえる。このようなフィルムを加熱、成形すると、支持基材側は塑性変形し固定化されるが、自己修復層は弾性変形範囲で変形するため、支持基材によって伸長方法に引っ張られた状態になり、表面層内に残留応力が発生する。そして、後工程、例えば射出成形により更なる加熱を受けたり、または使用環境において高い温度になったりすると、表面層はエントロピー弾性体であるが故、成形時よりも弾性率が上昇し、成形時の伸長が大きい場合には破断限界に達して、クラックを生じる場合がある。
そこで、特定の熱的特性および厚みを持つB層を導入することで、前述の表面層内に発生した残留応力を緩和することができ、後工程や使用環境での負荷時でも表面層のクラック発生を抑制することができ、また、塗膜−基材界面での破壊を抑制することができる。その結果、成形性および密着耐久性を向上することができる。
具体的には、前記B層のガラス転移温度を特定の範囲にすることや、前記B層の厚みを特定の範囲にすることが好ましい。
さらに、本発明者らは積層フィルムの層構成に着目し、表面層の支持基材側と反対の面にX層を導入することが、密着耐久性および防汚性の向上に有効であることを見出した。
前述のように、密着耐久性や防汚性の向上には表面層に侵入する水(空気中の水分、染料の媒介となる水など)を防ぐことが重要であり、その方法の一つとして、表面層の架橋密度を向上させる方法がある。しかし、これは既に述べたように、単純に表面層の架橋密度を向上するだけでは他の特性、特に自己修復性と両立することができなかった。
そこで、本発明者らは積層フィルムの層構成を見直した結果、単に表面層の架橋密度を上げるのではなく、表面層の支持基材側と反対の面に、架橋密度の高いX層を、柔軟な表面層よりも薄く設けることで塗膜全体として柔軟性を付与することにより、水の浸入を防ぐ効果と自己修復性を両立可能であることを見出した。その結果、自己修復性を維持しながら、密着耐久性と防汚性を向上させることができる。
具体的には、架橋密度の指標として前記X層の貯蔵弾性率を特定の範囲にすること、前記X層と前記表面層の厚みの比率を特定の範囲にすること、前記X層の厚みを特定の範囲にすることが好ましい。
[本発明の形態]
以下、本発明の実施の形態について具体的に述べる。
上記課題、すなわち成形性、自己修復性、密着耐久性および防汚性を満足するために、本発明の積層フィルムは、支持基材の少なくとも一方に、表面層を有する積層フィルムであって、以下の条件1および条件2を満たすことが好ましい。
条件1:表面層の貯蔵弾性率が1,000MPa以下。
条件2:表面層の吸水率が8.0質量%以下。
貯蔵弾性率および吸水率の測定方法は後述する。
成形性および自己修復性の観点から、本発明の積層フィルムは、前記表面層の貯蔵弾性率が1,000MPa以下であることが好ましいが、より好ましくは800MPa以下であり、特に好ましくは500MPa以下である。貯蔵弾性率は外部負荷への応答性を表し、貯蔵弾性率の値を一定以下にすることで、成形性および自己修復性を高めることができる。
貯蔵弾性率が小さいと、前述の効果により、外部負荷を熱エネルギーとして逃がす効果が大きくなるため、成形性および自己修復性が向上し好ましい。貯蔵弾性率が小さいほどこの効果は大きいが、自己修復材料が架橋ネットワークを有するため限界があり、下限値は1MPa程度と考えられる。一方で、貯蔵弾性率が1,000MPaより大きくなると、外部からの負荷によって表面層が破壊され、成形性および自己修復性が低下する場合がある。
前記表面層の貯蔵弾性率を1,000MPa以下とするためには、前記表面層に含まれる樹脂が後述の条件3を満たすことで可能となる。
密着耐久性および防汚性の観点から、本発明の積層フィルムは、前記表面層の吸水率が8.0質量%以下であることが好ましいが、より好ましくは6.0質量%以下であり、特に好ましくは5.0質量%以下である。吸水率を特定の値以下にすることで、密着耐久性および防汚性を高めることができる。
吸水率が小さいと表面層に侵入する空気中の水分が減少するため、前述の効果により密着耐久性および防汚性が向上し好ましい。吸水率が小さいほどこの効果は大きいが、樹脂材料であるため限界があり、下限値は0.1質量%程度と考えられる。一方で、吸水率が8.0質量%より大きくなると、表面層に侵入する空気中の水分量が多くなるため、表面層が破壊され、密着耐久性および防汚性が低下する場合がある。
前記表面層の吸水率を8.0質量%以下とするためには、前記表面層に含まれる樹脂が後述の条件3を満たすことで可能となる。
さらに、成形性、自己修復性、密着耐久性および防汚性の観点から、前記積層フィルムにおいて、以下の条件3を満たすことが好ましい。
条件3:前記表面層に含まれる樹脂が、以下を含む。
(1)ポリカプロラクトンセグメント。
(2)ウレタン結合。
(3)グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメント。
ここで樹脂とは高分子化合物を含む物質を指し、その範囲はポリマーからオリゴマーまでの範囲を含む。
前記(1)ポリカプロラクトンセグメントは化学式1で示されるセグメントを指し、(2)ウレタン結合は化学式2で示される結合を指し、グリシジルエーテル誘導体セグメントは化学式3で示されるセグメントを指し、フタル酸誘導体セグメントは化学式4で示されるセグメントを指し、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントは化学式5で示されるセグメントを指す。これらの詳細は後述する。
(nは1〜35の整数である。)
前記表面層に含まれる樹脂が(1)ポリカプロラクトンセグメントを有すると、得られる表面層の自己修復性が向上することができ好ましい。
前記表面層に含まれる樹脂が(2)ウレタン結合を有すると、得られる表面層の強靭性を向上させると共に、自己修復性が向上することができ好ましい。
前記表面層に含まれる樹脂が(3)グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含むと、得られる表面層の成形性、密着耐久性、耐染料移行性、塗膜の強靭性が向上することができ好ましい。
さらに、成形性、密着耐久性の観点から、前記積層フィルムにおいて、以下の条件4を満たすことが好ましい。
条件4:引張試験法における、前記表面層の23℃でのクラック伸度が20%以上。
なお、引張試験法については後述する。
成形性の観点から、引張試験法における、前記表面層の23℃でのクラック伸度は20%以上が好ましく、30%がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。クラック伸度は成形時の追従性を表しており、クラック伸度の大きさは成形性の高さを表す。
23℃でのクラック伸度が大きいと、成形される物品の形状に前記積層フィルムが追従することができるため、成形性が向上する。23℃でのクラック伸度は大きいほど好ましいが、表面層と支持基材には成形時の柔軟性に差があるため、上限値は500%程度と考えられる。一方で、23℃でのクラック伸度が20%より小さい場合、成形加工時に表面層にクラックが入り成形不良となるため、成形性が低下する場合がある。
23℃でのクラック伸度を20%以上とするためには、前記表面層に含まれる樹脂が前述の条件2を満たすことで可能となる。
さらに、自己修復性および成形性の観点から、前記積層フィルムにおいて、以下の条件5を満たすことが好ましい。
条件5:前記表面層の100℃での貯蔵弾性率が、25℃での貯蔵弾性率より高い。
なお、貯蔵弾性率の測定方法は後述する。
自己修復性および成形性の観点から、前記表面層の100℃での貯蔵弾性率が、25℃での貯蔵弾性率より高いことが好ましい。貯蔵弾性率は負荷がかかったとき材料がどの程度回復できるかを表し、貯蔵弾性率が上昇することは自己修復性が向上することを表す。
前記表面層の100℃での貯蔵弾性率が、25℃での貯蔵弾性率より高いと、前述の効果により、自己修復性が向上するため好ましい。
前記表面層の100℃での貯蔵弾性率を、25℃での貯蔵弾性率より高くするためには、表面層に含まれる樹脂が条件2を満たすことで可能となるため好ましい。
さらに、成形性および密着耐久性の観点から、前記積層フィルムにおいて、以下の条件6を満たすことが好ましい。
条件6:支持基材の膨潤度指数が0.01以上。
なお、膨潤度指数の測定方法は後述する。
前記支持基材の膨潤度指数は0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。膨潤度指数は溶媒および塗料組成物との親和性を表しており、膨潤度指数の大きさは支持基材と表面層の密着性の高さ、すなわち、成形性や密着耐久性の高さを表す。
支持基材の膨潤度指数が大きいと、表面層と支持基材との密着性が向上するため、成形性や密着耐久性が向上する。膨潤度指数は大きいほど好ましいが、あまりにも大きい場合は表面層形成時に支持基材が破壊されてしまう場合があるため、上限値は10程度と考えられる。一方で、膨潤度指数が0.01より小さくなると、成形での変形時や長期使用による経年劣化の際、表面層と支持基材との界面が破壊され、成形性や密着耐久性が低下する場合がある。
支持基材の膨潤度指数を0.01以上とするためには、特定の表面物性を持つ支持基材を選択することで可能となる。
さらに、密着耐久性、防汚性の観点から、前記積層フィルムにおいて、以下の条件7を満たすことが好ましい。
条件5:前記表面層に含まれる樹脂が(4)から(6)のうち少なくとも一つを含む。
(4)フッ素化合物セグメント
(5)ポリシロキサンセグメント
(6)ポリジメチルシロキサンセグメント
ここで樹脂とは高分子化合物を含む物質を指し、その範囲はポリマーからオリゴマーまでの範囲を含む。
前記(4)に記載のフッ素化合物セグメントは、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基およびフルオロオキシアルカンジイル基からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むセグメントを指し、さらに好ましくは前記フッ素化合物セグメントが、フルオロポリエーテルセグメントである。前記フルオロポリエーテルセグメントとは、フルオロアルキル基、オキシフルオロアルキル基、オキシフルオロアルカンジイル基などからなるセグメントで、化学式(6)、化学式(7)に代表される構造である。
(ここで、n1は1〜3の整数、n2〜n5は1または2の整数、k、m、p、sは0以上の整数でかつp+sは1以上である。好ましくは、n1は2以上、n2〜n5は1または2の整数であり、より好ましくは、n1は3、n2とn4は2、n3とn5は1または2の整数である。)
前記フルオロポリエーテルセグメントの詳細については後述するが、表面層を構成する樹脂がこれらを含むことにより最表面に低表面エネルギーを示す分子を高密度に存在させることができる。
このフルオロポリエーテルセグメントの鎖長には好ましい範囲があり、炭素数は4以上12以下が好ましく、4以上10以下がより好ましく、6以上8以下が特に好ましい。炭素数が、3以下では表面エネルギーが十分に低下しないため撥油性が低下する場合があり、13以上では溶媒への溶解性が低下するため、表面層の品位が低下する場合がある。
前記(5)ポリシロキサンセグメントは化学式8で示されるセグメントを指し、(6)ポリジメチルシロキサンセグメントは化学式9で示されるセグメントを指す。これらの詳細は後述する。
(R1、R2は、OHまたは炭素数1〜8のアルキル基のいずれかであり、式中においてそれぞれを少なくとも1つ以上有するものであり、nは100〜300の整数である。)
(mは10〜300の整数である。)
前記表面層に含まれる樹脂が(4)フッ素化合物セグメント、(5)ポリシロキサンセグメント、(6)ポリジメチルシロキサンセグメントのうち少なくとも一つを含むと、得られる表面層の密着耐久性、耐染料移行性が向上することができ好ましい。
さらに、自己修復性、成形性、密着耐久性の観点から、前記積層フィルムにおいて、以下の条件8を満たすことが好ましい。
条件8:前記表面層に含まれる樹脂が以下の(7)を含む。
(7)ポリカーボネートセグメント
ここで樹脂とは高分子化合物を含む物質を指し、その範囲はポリマーからオリゴマーまでの範囲を含む。
前記(7)ポリカーボネートセグメントは化学式10で示されるセグメントを指す。これらの詳細は後述する。
(nは2〜16の整数である。R3は炭素数1〜8までのアルキレン基またはシクロアルキレン基を指す。)
前記表面層に含まれる樹脂が(7)ポリカーボネートセグメントを有すると、得られる表面層の自己修復性および成形性が向上することができ好ましい。
さらに、成形性および密着耐久性の観点から、前記表面層の特徴に加えて、前記表面層がA層とB層とを有しており、支持基材側からB層、A層がこの順で接しており、以下の条件9を満たすことが好ましい。
条件9:前記B層のガラス転移温度が60℃以上130℃以下。
ここで、条件9は、支持基材に接するB層のガラス転移温度の好ましい範囲を示しており、より好ましくは、60℃以上100℃以下である。B層のガラス転移温度が上記範囲を満たすと、A層−B層間、およびB層−支持基材間に発生する残留応力を緩和することができ、成形性および密着耐久性が向上し好ましい。
前記ガラス転移温度は、前述の微小硬度計により測定された貯蔵弾性率と損失弾性率との比(損失正接)の温度分散の極大値から求めた値を示す。測定方法の詳細については後述する。
B層のガラス転移温度が60℃よりも低くなると、A層−B層間、およびB層−支持基材間の密着力が低下するため、室温での剥離や、硬い材料による擦過で傷が残りやすくなる場合がある。また、B層のガラス転移温度が130℃よりも高い場合には、条件によっては成形時にクラックや剥離を生じやすくなる場合がある。
さらに、成形性および密着耐久性の観点から、前記B層は、以下の条件10を満たすことが好ましい。
条件10:前記B層の厚みが0.1μm以上5μm以下。
ここで条件10は、支持基材に接するB層の厚みの好ましい範囲を示しており、より好ましくは0.5μm以上3μm以下である。B層の厚みが上記範囲を満たすと、A層−B層間、およびB層−支持基材間に発生する残留応力を緩和することができ、成形性および密着耐久性が向上し好ましい。
B層の厚みが、0.1μmよりも薄くなると、成形時にA層−B層間およびB層−支持基材間で生じる残留応力を吸収する能力がやや弱くなる場合があり、5μmよりも厚くなると、A層−B層間およびB層−支持基材間の密着力がやや弱くなる場合がある。
ここで、表面層の貯蔵弾性率、損失弾性率、およびガラス転移温度の測定について述べる。これらの測定は、超微小硬度計(Hysitron 社製Tribo Indentr)を用いてモジュラスマッピング像[貯蔵弾性率(E’)像・損失弾性率(E’’)像]を取得して行うことができる。
例えば、積層フィルムを電顕用エポキシ樹脂(日新EM社製Quetol812)で包埋し硬化させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ社製Ultracut S)で積層フィルムの表面層の断面の超薄切片を作製し測定サンプルとし、以下の条件で測定し、ヘルツの接触理論を用いて弾性率を算出する。
測定装置:Hysitron社製Tribo Indenter
使用圧子:ダイヤモンド製Cubecorner圧子(曲率半径50nm)
測定視野:約30mm角
測定周波数:200Hz
測定雰囲気:室温・大気中
接触荷重:0.3μN
以下に超微小硬度計による測定原理を説明する。
軸対称圧子を試料に押し込んだ際の、測定系のスチフネス(K)は式(1)で表されることが知られている。
ここで、Aは、試料と圧子が接触してできる圧痕の投影面積、E*は圧子系と試料系の複合弾性率である。
一方、圧子が試料のごく表面に接触した際には、圧子先端を球形状とみなし、球形と半無限平板の接触に関するヘルツの接触理論を適用できると考えられる。ヘルツの接触理論では、圧子と試料が接触している際の圧痕投影面の半径aは式(2)で表される。
ここで、Pは荷重、Rは圧子先端の曲率半径である。
よって、試料と圧子が接触してできる圧痕の投影面積Aは式(3)で表され、式(1)〜式(3)を用いて、E*を算出することができる。
モジュラスマッピングとは、上記ヘルツの接触理論に基づき、試料のごく表面に圧子を接触させ、試験中に圧子を微小振動させ、振動に対する応答振幅、位相差を時間の関数として取得し、K(測定系スチフネス)およびD(試料ダンピング)を求める方法である。
この振動が単純調和振動子であると、試料へ圧子が侵入する方向の力の総和(検出荷重成分)F(t)は、式(4)で表される。
ここで、式(4)第1項は圧子軸由来の力(m:圧子軸の質量)、式(4)第2項は試料の粘性的成分由来の力を、式(4)第3項は試料系の剛性を表し、tは時間を表している。式(4)のF(t)は、時間に依存することから、式(5)のように表される。
ここで、F0は定数、ωは角振動数である。式(5)を式(4)に代入して、常微分方程式の特別解である式(6)を代入し、方程式を解くと、式(7)〜(10)の関係式を得ることができる。
ここで、φは位相差である。mは測定時に既知であることから、供試体の測定時に、変位の振動振幅(h0)、位相差(φ)と励起振動振幅(F0)を計測することによって、式(7)〜式(10)より、KおよびDを算出することができる。
E*を貯蔵弾性率(E’)とみなして式(1)〜式(10)をまとめ、測定系スチフネスのうち、試料由来であるKs(=K−mω2)を用いて式(11)から貯蔵弾性率を算出した。
本発明中の損失弾性率も前述した貯蔵弾性率の測定と同様に測定でき、前述の式(8)における測定系スチフネスのうち、試料由来であるKsを用い、式(11)とあわせてまとめた式(12)から損失弾性率(E’’)を算出した。
本発明のガラス転移温度も前途した貯蔵弾性率の測定と同様に測定でき、前途で算出された貯蔵弾性率、損失弾性率の比から損失正接(tanδ)を求め、得られた損失正接(tanδ)のピーク値の温度を、ガラス転移温度(Tg)とした。
さらに、密着耐久性および防汚性の観点から、前記表面層の特徴に加えて、前記積層フィルムが、前記表面層の支持基材側と反対の面にX層を有しており、以下の条件13および条件14を満たすことが好ましい。
条件13:前記X層の貯蔵弾性率が1,000MPaより大きい。
条件14:前記X層の厚みをTx、前記表面層の厚みをTsとしたとき、下記式が成り立つ。
Tx/Ts ≦ 0.50
ここで、条件13はX層の貯蔵弾性率の好ましい範囲を示しており、より好ましくは1,500MPa以上であり、特に好ましくは2,000MPa以上である。
また、条件14はX層と表面層との厚み比率Tx/Tsの好ましい範囲を示しており、より好ましくは0.40以下、特に好ましくは0.30以下である。
X層の貯蔵弾性率およびTx/Tsが上記範囲を満たすと、前述した水の浸入を防ぐ効果と自己修復性を両立することができ、密着耐久性および防汚性が向上し好ましい。
X層の貯蔵弾性率は高ければ高いほど、架橋密度が高いため前述の水の浸入を防ぐ効果を得られるが、過剰な場合には自己修復性が低下する場合があるため、その上限値は5,000MPa程度と考えられる。一方、X層の貯蔵弾性率が1,000MPa以下になると、前述した水の浸入を防ぐ効果が不十分となる場合がある。
Tx/Tsは小さければ小さいほど、自己修復性を阻害しにくいため好ましいが、Tx/Tsが0.01より小さくなると、前述した水の浸入を防ぐ効果が不十分となる場合がある。一方、Tx/Tsが0.50より大きい場合、自己修復性が低下する場合がある。
さらに、密着耐久性および防汚性の観点から、前記X層が、以下の条件15を満たすことが好ましい。
条件15:前記X層の厚みTxが5.0μm以下。
ここで、条件15は前記X層の厚みTxの好ましい範囲を示しており、より好ましくは4.0μm以下であり、特に好ましくは3.0μm以下である。X層の厚みTxが上記範囲を満たすと、前述した水の浸入を防ぐ効果と自己修復性を両立することができ、密着耐久性および防汚性が向上し好ましい。
X層の厚みTxは小さいほど自己修復性を阻害しにくいため好ましいが、0.1μmより小さくなると、水の浸入を防ぐ効果が不十分となる場合がある。一方、X層の厚みTxが5.0μmより大きいと、自己修復性が低下する場合がある。
以下、本発明の実施の形態の詳細に説明する。
[積層フィルム、表面層、およびX層]
本発明の積層フィルムは、前述の物性を示す表面層を有していれば平面状態、または成形された後の3次元形状のいずれであってもよい。ここで本発明における「表面層」は、少なくとも2以上の層から形成されていることが好ましい。また、本発明の積層フィルムがX層を有するとより好ましい。
前記表面層の厚みは特に限定はないが、5μm以上200μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましく、前述した他の機能に応じてその厚みを選択することができる。
前記表面層がA層とB層を有する場合、前記B層の厚みは特に限定はないが、前述のとおり、0.1m以上5μm以下が好ましく、前述した他の機能に応じてその厚みを選択することができる。
前述の2以上の層として、少なくとも前記表面層においてB層と接する層(A層)、支持基材に接している層(B層)を有し、A層、B層、支持基材が、前述の関係を満たすことが好ましい。なお、表面層とは基材上に積層された層すべてをいうものとする(すなわち、支持基材上にA層とB層とが積層されている場合、A層とB層とを合わせて表面層という)。
前記X層の厚みは特に限定はないが、前述のとおり、さらに、本発明の積層フィルムがX層を有する場合、前述のように表面層との厚み比率が特定の範囲にあることが好ましい。また、前述のようにX層の厚みTxは特定の範囲にあることが好ましく、前述した他の機能に応じてその厚みを選択することができる。
前記表面層および前記X層は、本発明の課題としている成形性、意匠性、自己修復性、密着耐久性、防汚性の他に、光沢性、耐指紋性、反射防止、帯電防止、導電性、熱線反射、近赤外線吸収、電磁波遮蔽、易接着等の他の機能を有してもよい。
[支持基材]
本発明の積層フィルムに用いられる支持基材を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、ホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。支持基材を構成する樹脂は、成形性が良好であるため、熱可塑性樹脂がより好ましい。
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂などを用いることができる。熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。熱可塑性樹脂は、十分な延伸性と追従性を備える樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂は、強度・耐熱性・透明性の観点から、特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、もしくはメタクリル樹脂であることがより好ましい。
本発明におけるポリエステル樹脂とは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、酸成分およびそのエステルとジオール成分の重縮合によって得られる。具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを挙げることができる。またこれらに酸成分やジオール成分として他のジカルボン酸およびそのエステルやジオール成分を共重合したものであってもよい。これらの中で透明性、寸法安定性、耐熱性などの点でポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。
また、支持基材には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。支持基材は、単層構成、積層構成のいずれであってもよい。
支持基材の表面には、前記表面層を形成する前に各種の表面処理を施すことも可能である。表面処理の例としては、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火焔処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理およびオゾン酸化処理が挙げられる。これらの中でもグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および火焔処理が好ましく、グロー放電処理と紫外線処理がさらに好ましい。
また、本発明の積層フィルムに用いられる支持基材は、前述のように膨潤度指数が0.01以上の支持基材(以下、支持基材A)を用いることが好ましい。支持基材Aを用いると、前述のように表面層と支持基材との密着性が向上し、結果として成形性や密着耐久性が向上するため好ましい。
本発明に用いられる支持基材Aとしては、“コスモシャイン”(登録商標)A4300、A4100(東洋紡株式会社)、“パンライト”(登録商標)PC−2151(帝人化成株式会社)などの製品を好適に例示することができる。
[塗料組成物]
本発明の積層フィルムの製造方法は特に限定されないが、本発明の積層フィルムは、前述の支持基材の少なくとも一方に、塗料組成物を塗布する工程、必要に応じて乾燥する工程や硬化する工程を経て、得ることができる。
この塗料組成物は、前述の(1)ポリカプロラクトンセグメント、(2)ウレタン結合、(3)グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含む樹脂、もしくは塗布プロセス内でそれらを形成可能な材料(以降これを前駆体と呼ぶ)を含むことが好ましく、後述する製造方法に当該塗料組成物を用いることで、表面層に含まれる樹脂がこれらのセグメントおよび/または結合を有することができる。
さらに、前記塗料組成物は(4)フッ素化合物セグメント、(5)ポリシロキサンセグメントおよび(6)ポリジメチルシロキサンセグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含む樹脂もしくは前駆体を含むことがより好ましい。また、(4)、(5)および(6)からなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含む樹脂もしくは前駆体に代えて(7)ポリカーボネートセグメントを含む樹脂もしくは前駆体を含んでもよいし、(4)、(5)および(6)からなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含む樹脂または前駆体と(7)ポリカーボネートセグメントを含む樹脂もしくは前駆体との両方を含んでもよい。
さらに、本発明の積層フィルムがA層とB層とを有する場合、前述のように少なくとも2種類の塗料組成物を用い、支持基材上に前述のB層とA層とを逐次に塗布、または同時塗布することにより形成することが好ましい。
ここで塗料組成物Bは、表面層の支持基材と接している層、すなわち前述のB層を形成するのに適した樹脂、または前駆体を含む液体であり、支持基材上に塗布、乾燥、硬化、もしくは表面側に表面層と同時に塗布、乾燥、硬化することにより、B層を形成できる。
さらに、本発明の積層フィルムがX層を有する場合、前述のように少なくとも2種類の塗料組成物を用い、X層とA層とB層とを有する場合は少なくとも3種類の塗料組成物を用い、支持基材上にそれぞれ逐次に塗布、または同時塗布することにより形成することが好ましい。
ここで塗料組成物Xは、X層を形成するのに適した樹脂、または前駆体を含む液体であり、表面層上に塗布、乾燥、硬化、もしくは表面層と同時に塗布、乾燥、硬化することにより、X層を形成できる。
また、塗料組成物中には、後述の溶媒やその他の成分を含んでもよい。
[ポリカプロラクトンセグメント]
本発明の積層フィルムにおいて、表面層に含まれる樹脂が(1)ポリカプロラクトンセグメントを含むことが好ましい。ここでポリカプロラクトンセグメントとは前述の化学式1で示されるセグメントを指す。表面層に含まれる樹脂が(1)ポリカプロラクトンセグメントを含むと、表面層の自己修復性および成形性を向上することができるため好ましい。
表面層を形成するために用いる塗料組成物が、ポリカプロラクトンセグメントを含む樹脂、もしくは前駆体を含むことにより、表面層に含まれる樹脂はポリカプロラクトンセグメントを有することが可能となる。
ポリカプロラクトンセグメントを含む樹脂は、少なくとも1以上の水酸基(ヒドロキシル基)を有することが好ましい。水酸基はポリカプロラクトンセグメントを含む樹脂の末端にあることが好ましい。
ポリカプロラクトンセグメントを含む樹脂としては、特に2〜3官能の水酸基を有するポリカプロラクトンが好ましい。具体的には、化学式11で示されるポリカプロラクトンジオール、
ここで、m+nは4〜35の整数で、R4はC2H4、C2H4OC2H4、C(CH3)3(CH2)2
または化学式12で示されるポリカプロラクトントリオール、
ここで、l+m+nは3〜30の整数で、R5はCH2CHCH2、CH3C(CH2)3、CH3CH2C(CH2)3
などのポリカプロラクトンポリオールや化学式13で示されるポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート
ここで、nは1〜25の整数で、R6はHまたはCH3などの活性エネルギー線重合性カプロラクトンを用いることができる。
なお、(メタ)アクリレートとはメタクリレートもしくはアクリレートを示す。
ここで活性エネルギー線重合性とはUV、EBなどの活性エネルギー線によって架橋が進行する性質のことであり、(メタ)アクリレート基などの官能基を有する化合物が該当する。ほかの活性エネルギー線重合性カプロラクトンの例として、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
さらに本発明において、ポリカプロラクトンセグメントを含む樹脂は、ポリカプロラクトンセグメント以外に、他のセグメントやモノマーが含有(あるいは、共重合)されていてもよい。たとえば、後述するトリシクロデシルセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントやポリシロキサンセグメント、ポリカーボネートセグメント、イソシアネート化合物を含有する化合物が含有(あるいは、共重合)されていてもよい。
また、本発明において、ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂中の、ポリカプロラクトンセグメントの重量平均分子量は500〜2,500であることが好ましく、より好ましい重量平均分子量は1,000〜1,500である。ポリカプロラクトンセグメントの重量平均分子量が500〜2,500であると、自己修復性の効果がより発現し、また耐傷性がより向上するため好ましい。
ポリカプロラクトンセグメントが共重合される場合であっても、別途添加される場合であっても、表面層を形成するために用いる塗料組成物の全固形分100質量%において、ポリカプロラクトンセグメントの含有量が5〜50質量%であると、自己修復性、意匠性、成形性の点で好ましい。
[ウレタン結合]
本発明の積層フィルムにおいて、表面層に含まれる樹脂が(2)ウレタン結合を含むことが好ましい。ここでウレタン結合とは前述の化学式2で示されるセグメントを指す。表面層に含まれる樹脂が(2)ウレタン結合を含むと、表面層の強靭性を向上させると共に自己修復性を向上することができ好ましい。
表面層を形成するために用いる塗料組成物が、市販のウレタン変性樹脂を含むことにより、表面層に含まれる樹脂はウレタン結合を有することが可能となる。また、表面層を形成する際に前駆体としてイソシアネート基を含有する化合物と水酸基とを含有する化合物を含む塗料組成物を塗布することにより、塗布工程にてウレタン結合を生成させて、表面層にウレタン結合を含有させることもできる。
本発明では好ましくはイソシアネート基と水酸基を反応させてウレタン結合を生成させることにより、表面層に含まれる樹脂はウレタン結合を有する。イソシアネート基と水酸基とを反応させてウレタン結合を生成させることにより、表面層の強靱性を向上させると共に自己修復性を向上させることができる。
また、前述したポリカプロラクトンセグメントを含む樹脂やトリシクロデシルセグメントを含む樹脂やポリカーボネートセグメントを含む樹脂、後述するポリシロキサンセグメントを含む樹脂やポリジメチルシロキサンセグメントを含む樹脂などが、水酸基を有する場合は、熱などによってこれら樹脂と前駆体としてイソシアネート基を含有する化合物との間にウレタン結合を生成させることも可能である。イソシアネート基を含有する化合物と、水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含む樹脂や水酸基を有するポリジメチルシロキサンセグメントを含む樹脂を用いて表面層を形成すると、表面層の強靱性および弾性回復性(自己修復性)および表面のすべり性を高めることができるため好ましい。
本発明において、イソシアネート基を含有する化合物とは、イソシアネート基を含有する樹脂や、イソシアネート基を含有するモノマーやオリゴマーを指す。イソシアネート基を含有する化合物は、例えば、メチレンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンイソシアネートのビューレット体などのポリイソシアネート、および上記イソシアネートのブロック体などを挙げることができる。
これらのイソシアネート基を含有する化合物の中でも、脂環族や芳香族のイソシアネートに比べて脂肪族のイソシアネートが、自己修復性が高く好ましい。イソシアネート基を含有する化合物は、より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートである。また、イソシアネート基を含有する化合物は、イソシアヌレート環を有するイソシアネートが耐熱性の点で特に好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体が最も好ましい。イソシアヌレート環を有するイソシアネートは、自己修復性と耐熱特性を併せ持つ表面層を形成する。
[グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメント、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメント]
本発明の積層フィルムにおいて、表面層に含まれる樹脂がグリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含むことが好ましい。ここでグリシジルエーテル誘導体とは前述の化学式3で示されるセグメント、フタル酸誘導体セグメントとは前述の化学式4で示されるセグメント、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントとは前述の化学式5で示されるセグメントを指す。表面層に含まれる樹脂がグリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含むと、表面層の防汚性および密着耐久性を向上することができるため好ましい。
表面層を形成するために用いる塗料組成物が、グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメント含む樹脂、もしくは前駆体を含むことにより、表面層に含まれる樹脂はグリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを有することが可能となる。
以下、グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメント、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントの詳細を順に記述する。
〔グリシジルエーテル誘導体セグメント〕
グリシジルエーテル誘導体セグメントの構造については、前述の化学式3で述べたとおりであるが、前述の塗料組成物に好ましいグリシジルエーテル誘導体セグメントを含む樹脂、または前駆体は化学式14、化学式15で示される化合物である。
(nは1〜10の整数である。)
D1は反応性部位を示す。
(nは1〜10の整数である。)
Rg1はアルカンジイル基、アルカントリイル基、オキシアルカンジイル基、オキシアルカントルイル基、およびそれらから導出されるエステル構造、ウレタン構造、エーテル構造、トリアジン構造のいずれかを示す。D1は反応性部位を示す。
この反応性部位とは、熱または光などの外部エネルギーにより他の成分と反応する部位を指す。このような反応性部位として、反応性の観点からアルコキシシリル基およびアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基や、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。なかでも、反応性、ハンドリング性の観点から、ビニル基、アリル基、アルコキシシリル基、シリルエーテル基あるいはシラノール基や、エポキシ基、アクリロイル(メタクリロイル)基が好ましい。
より好ましくは、Rg1がアルカンジイル基、またはウレタン結合、エステル構造で、D1がアクリロイル(メタクリロイル)基または水酸基である。
前述の塗料組成物に好ましいグリシジルエーテル酸誘導体セグメントを含む(メタ)アクリレートの市販されている材料の例としては、“EBECRYL600”や“EBECRYL3500”や“EBECRYL3700”(ダイセル・オルネクス株式会社)、“ヒタロイド7851”や“ヒタロイド7663”(日立化成株式会社)、“BAEA−100”や“BAEM−100”や“CNEA−100”(ケーエスエム株式会社)などが挙げられる。
〔フタル酸誘導体セグメント〕
フタル酸誘導体セグメントの構造については、前述の化学式4で述べたとおりであるが、前述の塗料組成物に好ましいフタル酸誘導体セグメントを含む樹脂、または前駆体は化学式16で示される化合物である。
R7、R8はアルカンジイル基、アルカントリイル基、オキシアルカンジイル基、オキシアルカントルイル基、およびそれらから導出されるエステル構造、ウレタン構造、エーテル構造、トリアジン構造を示す。D1は反応性部位を示す。反応性部位については、前述の通りである。
より好ましくは、R7およびR8がアルカンジイル基、またはウレタン結合、エステル構造で、D1がアクリロイル(メタクリロイル)基または水酸基である。
前述の塗料組成物に好ましいフタル酸誘導体セグメントを含む(メタ)アクリレートの市販されている材料の例としては、“DA−721”(ナガセケムテックス株式会社)、“ライトアクリレートHOA−MPE(N)”(共栄社化学株式会社)などが挙げられる。
〔ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメント〕
ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントの構造については、前述の化学式5で述べたとおりであるが、前述の塗料組成物に好ましいヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントを含む樹脂、または前駆体は化学式17で示される化合物である。
R9はアルカンジイル基、アルカントリイル基、オキシアルカンジイル基、オキシアルカントルイル基、およびそれらから導出されるエステル構造、ウレタン構造、エーテル構造、トリアジン構造を示す。R10はアルカンジイル基、アルカントリイル基、オキシアルカンジイル基、オキシアルカントルイル基、およびそれらから導出されるエステル構造、ウレタン構造、エーテル構造、トリアジン構造、水素基のいずれかを示す。D1は反応性部位を示す。反応性部位については、前述の通りである。
より好ましくは、R9、R10がアルカンジイル基、またはウレタン結合、エステル構造で、D1がアクリロイル(メタクリロイル)基または水酸基である。
前述の塗料組成物に好ましいヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントを含む(メタ)アクリレートの市販されている材料の例としては、“DA−722”(ナガセケムテックス株式会社)、“ビスコート#2150“(大阪有機化学工業株式会社)、”ライトエステルHO−HH(N)や“ライトアクリレートHOA−HH(N)”(共栄社化学株式会社)などが挙げられる。
[フッ素化合物セグメント]
本発明の積層フィルムにおいて、表面層およびX層に含まれる樹脂が(4)フッ素化合物セグメントを含むことが好ましい。表面層およびX層に含まれる樹脂が(4)フッ素化合物セグメントを含むと、表面層およびX層の防汚性および耐指紋性を向上することができ好ましい。
表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物が、フッ素化合物セグメントを含む樹脂、もしくは前駆体を含むことにより、表面層およびX層に含まれる樹脂はフッ素化合物セグメントを有することが可能となる。
フッ素化合物セグメントは、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基およびフルオロオキシアルカンジイル基からなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを指す。
ここで、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基、フルオロオキシアルカンジイル基とはアルキル基、オキシアルキル基、アルケニル基、アルカンジイル基、オキシアルカンジイル基が持つ水素の一部、あるいは全てがフッ素に置き換わった置換基であり、いずれも主にフッ素原子と炭素原子から構成される置換基であり、構造中に分岐があってもよく、これらの部位を有する構造が複数連結したダイマー、トリマー、オリゴマー、ポリマー構造を形成していてもよい。
また、前記フッ素化合物セグメントとしては、フルオロポリエーテルセグメントが好ましく、これはフルオロアルキル基、オキシフルオロアルキル基、オキシフルオロアルカンジイル基などからなる部位で、より好ましくは化学式6、化学式7に代表されるフルオロポリエーテルセグメントであることはすでに述べたとおりである。
この表面層およびX層に含まれる樹脂がフッ素化合物セグメントを含むには、前述の塗料組成物が以下のフッ素化合物を含むことが好ましい。このフッ素化合物は化学式18で示される化合物である。
ここでRf1はフッ素化合物セグメント、R11はアルカンジイル基、アルカントリイル基、およびそれらから導出されるエステル構造、ウレタン構造、エーテル構造、トリアジン構造のいずれかを、D1は反応性部位を示す。
この反応性部位とは、熱または光などの外部エネルギーにより他の成分と反応する部位を指す。このような反応性部位として、反応性の観点からアルコキシシリル基およびアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基や、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。なかでも、反応性、ハンドリング性の観点から、ビニル基、アリル基、アルコキシシリル基、シリルエーテル基あるいはシラノール基や、エポキシ基、アクリロイル(メタクリロイル)基が好ましい。
フッ素化合物の一例は次に示される化合物である。3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリイソシアネートシラン、2−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン、2−パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、2−パーフルオロオクチルエチルトリイソプロポキシシラン、2−パーフルオロオクチルエチルトリクロロシラン、2−パーフルオロオクチルイソシアネートシラン、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフロオロプロピルアクリレート、2−パーフルオロブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロデシルエチルアクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−3−メトキシブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルアクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ドデカフルオロヘプチルアクリレート、ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2−パーフルオロブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロデシルエチルメタクリレート、2−パーフルオロ−3−メチルブチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−3−メチルブチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−5−メチルヘキシルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−5−メチルヘキシル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−パーフルオロ−7−メチルオクチルエチルメタクリレート、3−パーフルオロ−6−メチルオクチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、1−トリフルオロメチルトリフルオロエチルメタクリレート、ヘキサフルオロブチルメタクリレート、トリアクリロイル−ヘプタデカフルオロノネニル−ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
なお、フッ素化合物は1分子あたり複数のフルオロポリエーテル部位を有していてもよい。
上記フッ素化合物の市販されている例としては、RS−75(DIC株式会社)、オプツールDAC−HP(ダイキン工業株式会社)、C10GACRY、C8HGOL(油脂製品株式会社)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
[ポリシロキサンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメント]
本発明の積層フィルムにおいて、表面層およびX層に含まれる樹脂が(5)ポリシロキサンセグメントや(6)ポリジメチルシロキサンセグメントを含むことが好ましい。ここでポリシロキサンセグメントは前述の化学式8で示されるセグメントを指し、ポリジメチルシロキサンセグメントとは前述の化学式9で示されるセグメントを指す。表面層およびX層に含まれる樹脂が(5)ポリシロキサンセグメントや(6)ポリジメチルシロキサンセグメントを含むと、ポリジメチルシロキサンセグメントが表面層中およびX層中の最表面側に配位することにより、表面層およびX層の潤滑性が向上するため負荷を逃がす効果があり、表面層およびX層に発生する修復不可能な擦傷発生を抑制するため、表面層およびX層の自己修復性を向上させることができ好ましい。
表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物が、ポリシロキサンセグメントやポリジメチルシロキサンセグメントを含む樹脂、もしくは前駆体を含むことにより、表面層およびX層に含まれる樹脂はポリシロキサンセグメントやポリジメチルシロキサンセグメントを有することが可能となる。
また、ポリシロキサンセグメントやポリジメチルシロキサンセグメントを含む樹脂、もしくは前駆体は反応性部位を含むことが好ましい。この反応性部位とは、熱または光などの外部エネルギーにより他の成分と反応する部位を指す。このような反応性部位として、反応性の観点からアルコキシシリル基およびアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基や、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。なかでも、反応性、ハンドリング性の観点から、ビニル基、アリル基、アルコキシシリル基、シリルエーテル基あるいはシラノール基や、エポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。
以下、ポリシロキサンセグメントとポリジメチルシロキサンセグメントの詳細を順に記述する。
〔ポリシロキサンセグメント〕
本発明において、ポリシロキサンセグメントとは、前述の化学式8で示されるセグメントを指す。
本発明では、加水分解性シリル基を含有するシラン化合物の部分加水分解物、オルガノシリカゾルまたは該オルガノシリカゾルにラジカル重合体を有する加水分解性シラン化合物を付加させた組成物を、ポリシロキサンセグメントを有する化合物として用いることができる。
ポリシロキサンセグメントを有する化合物は、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルアルキルジアルコキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシランなどの加水分解性シリル基を有するシラン化合物の完全もしくは部分加水分解物や有機溶媒に分散させたオルガノシリカゾル、オルガノシリカゾルの表面に加水分解性シリル基の加水分解シラン化合物を付加させたものなどを例示することができる。
また、本発明において、ポリシロキサンセグメントを含む樹脂は、ポリシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていてもよい。たとえば、ポリカプロラクトンセグメント、グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメント、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメント、ポリカーボネートセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントを有するモノマー成分が含有(共重合)されていてもよい。
本発明においては、ポリシロキサンセグメントを含む樹脂として、イソシアネート基と反応する水酸基を有するモノマー等が共重合されていることが好ましい。ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂に、イソシアネート基と反応する水酸基を有するモノマー等が共重合すると、表面層の強靱性が向上する。
ポリシロキサンセグメントを含む樹脂が水酸基を有する共重合体である場合、水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含む樹脂(共重合体)とイソシアネート基を含有する化合物とを含む塗料組成物を用いて表面層を形成すると、効率的に、ポリシロキサンセグメントとウレタン結合とを有する表面層とすることができる。
〔ポリジメチルシロキサンセグメント〕
本発明において、ポリジメチルシロキサンセグメントとは、前述の化学式9で示されるセグメントを指す。
本発明において、ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物としては、ポリジメチルシロキサンセグメントにビニルモノマーが共重合された共重合体を用いることが好ましい。
ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物が、ビニルモノマーとの共重合体の場合は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物がビニルモノマーとの共重合体の場合、これを、ポリジメチルシロキサン系共重合体という。
ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物(ポリジメチルシロキサン系共重合体)として、ポリジメチルシロキサン系ブロック共重合体を合成するには、リビング重合法、高分子開始剤法、高分子連鎖移動法などにより製造することができるが、生産性を考慮すると高分子開始剤法、高分子連鎖移動法を用いるのが好ましい。
高分子開始剤法を用いる場合には、ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物(ポリジメチルシロキサン系共重合体)は、化学式19で示される高分子アゾ系ラジカル重合開始剤
(mは10〜300の整数、nは1〜50の整数である。)
を用いて他のビニルモノマーと共重合させることで得ることができる。
またペルオキシモノマーと不飽和基を有するポリジメチルシロキサンとを低温で共重合させて過酸化物基を側鎖に導入したプレポリマーを合成し、該プレポリマーをビニルモノマーと共重合させる二段階の重合を行うこともできる。
高分子連鎖移動法を用いる場合は、ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物(ポリジメチルシロキサン系共重合体)は、例えば、化学式20に示すシリコーンオイル
(mは10〜300の整数である。)
に、HS−CH2COOHやHS−CH2CH2COOH等を付加してSH基を有する化合物とした後、SH基の連鎖移動を利用して該シリコーン化合物とビニルモノマーとを共重合させることで得ることができる。
ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物(ポリジメチルシロキサン系共重合体)として、ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体を合成するには、例えば、化学式21に示す化合物
(mは10〜300の整数である。)
すなわちポリジメチルシロキサンのメタクリルエステルなどとビニルモノマーを共重合させることにより、容易に得ることができる。
ポリジメチルシロキサンセグメントを有する化合物との共重合体に用いられるビニルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジアセチトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコールなどを挙げることができる。
また、ポリジメチルシロキサン系共重合体は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤などを単独もしくは混合溶媒中で溶液重合法によって製造されることが好ましい。また、必要に応じてベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチルニトリルなどの重合開始剤を併用することが好ましい。重合反応は50〜150℃で3〜12時間行うのが好ましい。
本発明におけるポリジメチルシロキサン系共重合体中のポリジメチルシロキサンセグメントの量は、表面層の潤滑性や耐汚染性の点で、ポリジメチルシロキサン系共重合体の全成分100質量%において1〜30質量%であるのが好ましい。またポリジメチルシロキサンセグメントの重量平均分子量は1,000〜30,000とするのが好ましい。
ポリジメチルシロキサンセグメントが共重合される場合であっても、別途添加される場合であっても、表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物の全成分100質量%においてジメチルシロキサンセグメントが1〜20質量%であると、自己修復性、耐汚染性、耐候性、耐熱性の点で好ましい。塗料組成物の全成分100質量%には、反応に関与しない溶媒は含まない。反応に関与するモノマー成分は含む。
本発明において、表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物として、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を使用する場合は、ポリジメチルシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていてもよい。たとえば、ポリカプロラクトンセグメント、グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメント、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメント、ポリカーボネートセグメントやポリシロキサンセグメントが含有(共重合)されていてもよい。
表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物には、ポリカプロラクトンセグメントとポリジメチルシロキサンセグメントの共重合体、ポリカプロラクトンセグメントとポリシロキサンセグメントとの共重合体、ポリカプロラクトンセグメントとポリジメチルシロキサンセグメントとポリシロキサンセグメントとの共重合体などを用いることが可能である。このような塗料組成物を用いて得られる表面層は、ポリカプロラクトンセグメントとポリジメチルシロキサンセグメントおよび/またはポリシロキサンセグメントとを有することが可能となる。
ポリカプロラクトンセグメント、ポリシロキサンセグメントおよびポリジメチルシロキサンセグメントを有する表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物中の、ポリジメチルシロキサン系共重合体、ポリカプロラクトン、およびポリシロキサンの反応は、ポリジメチルシロキサン系共重合体合成時に、適宜ポリカプロラクトンセグメントおよびポリシロキサンセグメントを添加して共重合することができる。
[ポリカーボネートセグメント]
本発明の積層フィルムにおいて、表面層およびX層に含まれる樹脂が(7)ポリカーボネートセグメントを含むことが好ましい。ここでポリカーボネートセグメントとは前述の化学式8で示されるセグメントを指す。表面層およびX層に含まれる樹脂が(7)ポリカーボネートセグメントを含むと、表面層およびX層の強靭性および自己修復性を向上することができ好ましい。
表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物が、ポリカーボネートセグメントを含む樹脂、もしくは前駆体を含むことにより、表面層およびX層に含まれる樹脂はポリカーボネートセグメントを有することが可能となる。
ポリカーボネートセグメントを含有する樹脂は、少なくとも1以上の水酸基(ヒドロキシル基)を有することが好ましい。水酸基は、ポリカーボネートセグメントを含有する樹脂の末端にあることが好ましい。
ポリカーボネートセグメントを含有する樹脂としては、特に2官能の水酸基を有するポリカーボネートジオールが好ましい。具体的には化学式22で示される
ポリカーボネートジオール:
(R12は炭素数1〜8のアルキル基のいずれかであり、nは1以上の整数である。)
ポリカーボネートジオールは、カーボネート単位の繰り返し数がいくつであってもよいが、カーボネート単位の繰り返し数が大きすぎるとウレタン(メタ)アクリレートの硬化物の強度が低下するため、繰り返し数nは10以下であることが好ましい。なお、ポリカーボネートジオールは、カーボネート単位の繰り返し数が異なる2種以上のポリカーボネートジオールの混合物であってもよい。
ポリカーボネートジオールは、数平均分子量が500〜10,000のものが好ましく、1,000〜5,000のものがより好ましい。数平均分子量が500未満になると好適な柔軟性が得難くなる場合があり、また数平均分子量が10,000を超えると耐熱性や耐溶剤性が低下する場合があるので前記程度のものが好適である。
また、本発明で用いられるポリカーボネートジオールとしては、UH−CARB、UD−CARB、UC−CARB(宇部興産株式会社)、のPLACCEL CD−PL、PLACCEL CD−H(ダイセル化学工業株式会社)、クラレポリオールCシリーズ(クラレ株式会社)、デュラノールシリーズ(旭化成ケミカルズ株式会社)のなど製品を好適に例示することができる。これらのポリカーボネートジオールは、単独で、または二種類以上を組合せて用いることもできる。
さらに本発明において、ポリカーボネートセグメントを含有する樹脂もしくは前駆体は、ポリカーボネートセグメント以外に、他のセグメントやモノマーが含有(あるいは、共重合)されていてもよい。たとえば、前述のポリカプロラクトンセグメント、トリシクロデシルセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントやポリシロキサンセグメント、イソシアネート化合物を含有する化合物が含有(あるいは、共重合)されていてもよい。
本発明では、好ましくは、前述のイソシアネート基を含有する化合物とポリカーボネートジオールの水酸基を反応させてウレタン(メタ)アクリレートとして塗料組成物に用いることにより、表面層およびX層が(7)ポリカーボネートセグメントおよび(2)ウレタン結合を有することができ、結果として表面層およびX層の強靱性を向上させると共に自己修復性を向上することができ、好ましい。
[塗料組成物B]
塗料組成物Bは支持基材上に塗布、乾燥、硬化することにより、表面層よりも表面硬度が高くなるような材料を形成可能な液体で、中間層を形成するのに適した樹脂、または前駆体を含む。
塗料組成物Bは特に制限されるものではないが、熱硬化型樹脂や紫外線硬化型樹脂が好ましく、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂のいずれでもよく、2種類以上のブレンドであってもよい。
本発明における熱硬化型樹脂は、水酸基を含有する樹脂とポリイソシアネート化合物を含むことが好ましく、水酸基を含有する樹脂としてアクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール等が挙げられ、これらは1種類、もしくは2種類以上のブレンドであってもよい。これらのアクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール等は水酸基を含有することが好ましい。
水酸基を含有する樹脂の水酸基価は1〜200mgKOH/gの範囲であれば、塗膜としたときの耐久性、耐加水分解性、密着性の観点から好ましい。水酸基価が1より小さい場合は塗膜の硬化がほとんど進まず、耐久性や強度が低下する場合がある。一方、水酸基が200より大きい場合は、硬化収縮が大きすぎるために、密着性を低下させる場合がある。
本発明におけるアクリルポリオールとは、例えば、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを成分として重合して得られる。この様なアクリル樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを成分として、必要に応じて(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル酸基含有モノマーを共重合することで容易に製造することができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。この様なアクリルポリオールとしては、例えば、DIC株式会社;(商品名“アクリディック”(登録商標)シリーズなど)、大成ファインケミカル株式会社;(商品名“アクリット”(登録商標)シリーズなど)、株式会社日本触媒;(商品名“アクリセット”(登録商標)シリーズなど)、三井化学株式会社;(商品名“タケラック”(登録商標)UAシリーズ)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
本発明におけるポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールあるいはトリオール、ポリブチレングリコールあるいはトリオール、ポリテトラメチレングリコールあるいはトリオール、さらには、これら炭素数の異なるオキシアルキレン化合物の付加重合体やブロック共重合体等が挙げられる。この様なポリエーテルポリオールとしては、旭硝子株式会社;(商品名“エクセノール”(登録商標)シリーズなど)、三井化学株式会社;(商品名“アクトコール”(登録商標)シリーズなど)を挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
本発明におけるポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコールと、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、スベリン酸、アゼライン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族二塩基酸との必須原料成分として反応させた脂肪族ポリエステルポリオールや、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコールと、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族二塩基酸とを必須原料成分として反応させた芳香族ポリエステルポリオールが挙げられる。
このようなポリエステルポリオールとしては、DIC株式会社;(商品名“ポリライト”(登録商標)シリーズなど)、株式会社クラレ;(商品名“クラレポリオール”(登録商標)シリーズなど)、武田薬品工業株式会社;(商品名“タケラック”(登録商標)Uシリーズ)を挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
本発明におけるポリオレフィン系ポリオールとしては、ブタジエンやイソプレンなどの炭素数4から12個のジオレフィン類の重合体および共重合体、炭素数4から12のジオレフィンと炭素数2から22のα−オレフィン類の共重合体のうち、水酸基を含有している化合物である。水酸基を含有させる方法としては、特に制限されないが、例えば、ジエンモノマーを過酸化水素と反応させる方法がある。さらに、残存する二重結合を水素結合することで、飽和脂肪族化してもよい。このようなポリオレフィン系ポリオールとしては、日本曹達株式会社;(商品名“NISSO−PB”(登録商標)Gシリーズなど)、出光興産株式会社;(商品名“Poly bd”(登録商標)シリーズ、“エポール”(登録商標)シリーズなど)を挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
本発明におけるポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸ジアルキルと1,6−ヘキサンジオールのみを用いて得たポリカーボネートポリオールを用いることもできるが、より結晶性が低い点で、ジオールとして、1,6−ヘキサンジオールと、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオールまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールとを共重合させて得られるポリカーボネートポリオールを用いることが好ましい。
このようなポリカーボネートポリオールとしては、共重合ポリカーボネートポリオールである旭化成ケミカルズ株式会社;(商品名“T5650J”、“T5652”、“T4671”、“T4672”など)、宇部興産株式会社;(商品名“ETERNACLL”(登録商標)UMシリーズなど)を挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
本発明における水酸基を含有するウレタンポリオールとは、例えば、ポリイソシアネート化合物と1分子中に少なくとも2個の水酸基を含有する化合物とを、水酸基がイソシアネート基に対して過剰となるような比率で反応させて得られる。その際に使用されるポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。また、1分子中に少なくとも2個の水酸基を含有する化合物としては、多価アルコール類、ポリエステルジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
本発明における熱硬化型樹脂に用いられるポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を含有する樹脂や、イソシアネート基を含有するモノマーやオリゴマーを指す。イソシアネート基を含有する化合物は、例えば、メチレンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンイソシアネートのビューレット体などの(ポリ)イソシアネート、および上記イソシアネートのブロック体などを挙げることができる。この様な熱硬化型樹脂に用いられるポリイソシアネート化合物としては、三井化学株式会社;(商品名“タケネート”(登録商標)シリーズなど)、日本ポリウレタン工業株式会社;(商品名“コロネート”(登録商標)シリーズなど)、旭化成ケミカルズ株式会社;(商品名“デュラネート”(登録商標)シリーズなど)、DIC株式会社;(商品名“バーノック”(登録商標)シリーズなど)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
本発明における紫外線硬化型樹脂としては、特に制限されるものではないが、多官能アクリレートモノマー、オリゴマー、アルコキシシラン、アルコキシシラン加水分解物、アルコキシシランオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマー等が好ましく、多官能アクリレートモノマー、オリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマーがより好ましい。
多官能アクリレートモノマーの例としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレートおよびその変性ポリマー、具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサンメチレンジイソシアネートウレタンポリマーなどを用いることができる。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
また、市販されている多官能アクリル系組成物としては三菱レイヨン株式会社;(商品名“ダイヤビーム”(登録商標)シリーズなど)、日本合成化学工業株式会社;(商品名“SHIKOH”(登録商標)シリーズなど)、長瀬産業株式会社;(商品名“デナコール”(登録商標)シリーズなど)、新中村化学株式会社;(商品名“NKエステル”シリーズなど)、DIC株式会社;(商品名“UNIDIC”(登録商標)など)、東亞合成株式会社;(“アロニックス”(登録商標)シリーズなど)、日油株式会社;(“ブレンマー”(登録商標)シリーズなど)、日本化薬株式会社;(商品名“KAYARAD”(登録商標)シリーズなど)、共栄社化学株式会社;(商品名“ライトエステル”シリーズなど)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
また、前述の特性を付与するために、アクリルポリマーを用いてもよい。該アクリルポリマーは不飽和基を含有せず、重量平均分子量が5,000〜200,000であり、ガラス転移温度が20℃以上200℃以下であることがより好ましい。アクリルポリマーのガラス転移温度が20℃未満では硬度が低下する場合があり、200℃を超えるとの伸度が十分でない場合がある。より好ましいガラス転移温度の範囲は50℃以上150℃以下である。
また、前記アクリルポリマーは親水性官能基を有することで、硬度を付与することができる。具体的には、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、間レイン酸等、あるいは水酸基を有する2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の親水性官能基を有する不飽和単量体を前記不飽和単量体と共重合することにより、アクリルポリマーに親水性官能基を導入することができる。
前記アクリルポリマーの重量平均分子量は5,000〜200,000であることが好ましい。重量平均分子量が5,000未満である場合、硬度が不十分となる場合があり、重量平均分子量が200,000を超える場合、塗工性を含めた成型性や強靱性が不十分となる場合がある。また、重量平均分子量は重合触媒、連鎖移動剤の配合量および使用する溶媒の種別により調整できる。
前記アクリルポリマー含有割合は、塗料組成物Xの総固形分中1質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上30質量%以下である。1質量%以上とすることで伸度が顕著に向上し、50質量%以下にすることで硬度を維持できるため好ましい。
[塗料組成物X]
塗料組成物Xは、X層を形成するのに適した材料を含む、もしくは形成可能な前駆体を含む液体であり、ポリカプロラクトンセグメント、ポリカーボネートセグメント、ポリシロキサンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメント、グリシジルエーテル誘導体セグメント、フタル酸誘導体セグメントおよびヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つのセグメントを含む樹脂もしくは前駆体を含んでもよい。また、前記のセグメント群から選ばれるセグメントを含む樹脂には、防汚性、反射防止性、帯電防止性、防汚性、導電性、熱線反射性、近赤外線吸収性、電磁波遮蔽性、易接着性を付与する各種材料を含んでも良い。さらに、密着耐久性および防汚性を付与する材料としては、フッ素化合物セグメントを含む材料、多官能アクリレート、ブタジエン系材料などが挙げられる。
[溶媒]
前記塗料組成物は溶媒を含んでもよい。溶媒の種類数としては1種類以上20種類以下が好ましく、より好ましくは1種類以上10種類以下、さらに好ましくは1種類以上6種類以下、特に好ましくは1種類以上4種類以下である。
ここで「溶媒」とは、塗布後の乾燥工程にてほぼ全量を蒸発させることが可能な、常温、常圧で液体である物質を指す。
ここで、溶媒の種類とは溶媒を構成する分子構造によって決まる。すなわち、同一の元素組成で、かつ官能基の種類と数が同一であっても結合関係が異なるもの(構造異性体)、前記構造異性体ではないが、3次元空間内ではどのような配座をとらせてもぴったりとは重ならないもの(立体異性体)は、種類の異なる溶媒として取り扱う。例えば、2−プロパノールと、n−プロパノールは異なる溶媒として取り扱う。
さらに、溶媒を含む場合には以下の特性を示す溶媒であることが好ましい。
条件1 酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度(ASTM D3539−87(2004))が最も低い溶媒を溶媒Bとした際に、溶媒Bの相対蒸発速度が0.4以下。
ここで、溶媒の酢酸n−ブチルを基準とした相対蒸発速度とは、ASTMD3539−87(2004)に準拠して測定される蒸発速度である。具体的には、乾燥空気下で酢酸n−ブチルが90質量%蒸発するのに要する時間を基準とする蒸発速度の相対値として定義される値である。
前記溶媒の相対蒸発速度が0.4よりも大きい場合には、前述のポリシロキサンセグメントおよび/またはポリジメチルシロキサンセグメント、およびフッ素化合物セグメントの表面層中の最表面への配向に要する時間が短くなるため、得られる積層フィルムの自己修復性および防汚性の低下を生じる場合がある。また、前記溶媒Bの相対蒸発速度の下限は、乾燥工程において蒸発して塗膜から除去できる溶媒であれば問題なく、一般的な塗布工程においては、0.005以上であればよい。
溶媒Bとしては、イソブチルケトン(相対蒸発速度:0.2)、イソホロン(相対蒸発速度:0.026)、ジチレングリコールモノブチルエーテル(相対蒸発速度:0.004、)、ジアセトンアルコール(相対蒸発速度:0.15)、オレイルアルコール(相対蒸発速度:0.003)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:0.2)、ノニルフェノキシエタノール(相対蒸発速度:0.25)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(相対蒸発速度:0.1)、シクロヘキサノン(相対蒸発速度:0.32)などがある。
[塗料組成物中のその他の成分]
また、前記塗料組成物は、重合開始剤や硬化剤や触媒を含むことが好ましい。重合開始剤および触媒は、表面層の硬化を促進するために用いられる。重合開始剤としては、塗料組成物に含まれる成分をアニオン、カチオン、ラジカル重合反応等による重合、縮合または架橋反応を開始あるいは促進できるものが好ましい。
重合開始剤、硬化剤および触媒は種々のものを使用できる。また、重合開始剤、硬化剤および触媒はそれぞれ単独で用いてもよく、複数の重合開始剤、硬化剤および触媒を同時に用いてもよい。さらに、酸性触媒や、熱重合開始剤を併用してもよい。酸性触媒の例としては、塩酸水溶液、蟻酸、酢酸などが挙げられる。熱重合開始剤の例としては、過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。また、光重合開始剤の例としては、アルキルフェノン系化合物、含硫黄系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、アミン系化合物などが挙げられる。また、ウレタン結合の形成反応を促進させる架橋触媒の例としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどが挙げられる。
また、前記塗料組成物は、アルコキシメチロールメラミンなどのメラミン架橋剤、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸などの酸無水物系架橋剤、ジエチルアミノプロピルアミンなどのアミン系架橋剤などの他の架橋剤を含むことも可能である。
光重合開始剤としては、硬化性の点から、アルキルフェノン系化合物が好ましい。アルキルフェノン形化合物の具体例としては、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−フェニル)−1−ブタン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−(4−フェニル)−1−ブタン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタン、1−シクロヒキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−エトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2−フェニル−2−オキソ酢酸)オキシビスエチレン、およびこれらの材料を高分子量化したものなどが挙げられる。
また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、表面層およびX層を形成するために用いる塗料組成物にレベリング剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等を加えてもよい。これにより、表面層はレベリング剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等を含有することができる。レベリング剤の例としては、アクリル共重合体またはシリコーン系、フッ素系のレベリング剤が挙げられる。紫外線吸収剤の具体例としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シュウ酸アニリド系、トリアジン系およびヒンダードアミン系の紫外線吸収剤が挙げられる。帯電防止剤の例としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの金属塩が挙げられる。
[積層フィルムの製造方法]
本発明の積層フィルムの製造方法は、表面層および/またはX層が、二種類以上の塗料組成物を支持基材上に逐次に塗布し、乾燥、硬化することにより形成される積層フィルムの製造方法であることが好ましい。また、本発明の積層フィルムの製造方法は、表面層および/またはX層が、二種類以上の塗料組成物を支持基材上に同時に塗布し、乾燥、硬化することにより形成される積層フィルムの製造方法であることが好ましい。
さらに、本発明の積層フィルムの製造方法は、表面層およびX層が、二種類以上の塗料組成物を支持基材上に逐次に塗布し、乾燥、硬化することにより形成される積層フィルムの製造方法であることがより好ましい。また、本発明の積層フィルムの製造方法は、表面層およびX層が、二種類以上の塗料組成物を支持基材上に同時に塗布し、乾燥、硬化することにより形成される積層フィルムの製造方法であることがより好ましい。
本発明の積層フィルムの表面に形成される表面層およびX層は、前述の塗料組成物を前述の支持基材上に塗布−乾燥−硬化することにより形成する製造方法を用いることが好ましい。以下、塗布する工程を塗布工程、乾燥する工程を乾燥工程、硬化する工程を硬化工程と記述する。
また、本発明の積層フィルムがA層とB層とを有する場合、少なくとも前述の塗料組成物Aと塗料組成物Bを、逐次または同時に前述の支持基材上に塗布−乾燥−硬化することにより形成する製造方法を用いることがより好ましい。本発明の積層フィルムがX層を有する場合も同様に、少なくとも前述の塗料組成物Xと塗料組成物Aを、X層とA層とB層とを有する場合は、少なくとも前述の塗料組成物Xと塗料組成物Aと塗料組成物Bを、逐次または同時に前述の支持基材上に塗布−乾燥−硬化することにより形成する製造方法を用いることがより好ましい。
ここで「逐次に塗布する」とは、1種類の塗料組成物を塗布−乾燥−硬化後、次いで種類の異なる塗料組成物を、塗布−乾燥−硬化することによりA層およびB層およびX層を形成することを意図している。本製造方法において用いる塗料組成物の種類、数を適宜選択することにより、表面層(A層とB層)やX層の表面側−基材側の弾性率の大小や勾配、基材と表面層とX層の弾性率の大小を制御することができ、さらに塗料組成物Aおよび塗料組成物Bおよび塗料組成物Xの種類、組成、乾燥条件、硬化条件を適宜選択することにより、表面層全体内および表面層とX層を合わせた全体内の弾性率分布の形態を段階的、または連続的に制御することができる。
もう1つの製造方法としては、2種類以上の塗料組成物を支持基材上に「同時に」塗布、乾燥、硬化することにより形成する方法である。塗料組成物の種類の数は2種類以上であれば特に制約はない。ここで「同時塗布する」とは塗布工程において支持基材上に、2種類以上の液膜を塗布後、乾燥、硬化することを意図している。
塗布工程において、塗料組成物を塗布する方法は特に限定されないが、塗料組成物をディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やダイコート法(米国特許第2681294号明細書)などにより支持基材に塗布することにより表面層を形成することが好ましい。さらに、これらの塗布方式のうち、グラビアコート法または、ダイコート法が塗布方法としてより好ましい。
また、前述の2種類以上の塗料組成物を同時塗布する場合には、塗布前の状態で液膜を順に積層後塗布する「多層スライドダイコート」(図2)や、基材上に塗布と同時に積層する「多層スロットダイコート」(図3)、支持基材上に1層の液膜を形成後、未乾燥の状態でもう1層を積層させる「ウェット−オンーウェットコート」(図4)等のいずれでもよい。
塗布工程に次いで、乾燥工程によって、支持基材の上に塗布された液膜を乾燥する。得られる積層フィルム中から完全に溶媒を除去する観点から、乾燥工程では液膜の加熱を伴うことが好ましい。
乾燥工程における乾燥方法については、伝熱乾燥(高熱物体への密着)、対流伝熱(熱風)、輻射伝熱(赤外線)、その他(マイクロ波、誘導加熱)などが挙げられる。この中でも、本発明の製造方法では、精密に幅方向でも乾燥速度を均一にする必要から、対流伝熱、または輻射伝熱を使用した方式が好ましい。
乾燥工程における乾燥過程は、一般的に(A)恒率乾燥期間、(B)減率乾燥期間に分けられ、前者は、液膜表面において溶媒分子の大気中への拡散が乾燥の律速になっているため、乾燥速度は、この区間において一定で、乾燥速度は大気中の被蒸発溶媒分圧、風速、温度により支配され、膜面温度は熱風温度と大気中の被蒸発溶媒分圧により決まる値で一定になる。後者は、液膜中での溶媒の拡散が律速となっているため、乾燥速度はこの区間において一定値を示さず低下し続け、液膜中の溶媒の拡散係数により支配され、膜面温度は上昇する。ここで乾燥速度とは、単位時間、単位面積当たりの溶媒蒸発量を表わしたもので、g・m−2・s−1の次元からなる。
前記乾燥速度には、好ましい範囲があり、0.1g・m−2・s−1以上10g・m−2・s−1以下であることが好ましく、0.1g・m−2・s−1以上5g・m−2・s−1以下であることがより好ましい。恒率乾燥区間における乾燥速度をこの範囲にすることにより、乾燥速度の不均一さに起因するムラを防ぐことができる。0.1g・m−2・s−1以上10g・m−2・s−1以下の範囲の乾燥速度が得られるならば、特に特定の風速、温度に限定されない。
本発明の積層フィルムの製造方法においては、減率乾燥期間では残存溶媒の蒸発と共に、ポリシロキサンセグメントおよび/またはポリジメチルシロキサンセグメント、およびフッ素化合物セグメントの配向が行われる。この過程においては配向のための時間を必要とするため、減率乾燥期間における膜面温度上昇速度には好ましい範囲が存在し、5℃/秒以下であることが好ましく、1℃/秒以下であることがより好ましい。
さらに、熱またはエネルギー線を照射することによるさらなる硬化操作(硬化工程)を行ってもよい。
また、活性エネルギー線により硬化する場合には汎用性の点から電子線(EB線)および/または紫外線(UV線)であることが好ましい。また紫外線により硬化する場合は、酸素阻害を防ぐことができることから酸素濃度ができるだけ低い方が好ましく、窒素雰囲気下(窒素パージ)で硬化する方がより好ましい。酸素濃度が高い場合には、最表面の硬化が阻害され、表面の硬化が不十分となり、自己修復性および密着耐久性が不十分となる場合がある。また、紫外線を照射する際に用いる紫外線ランプの種類としては、例えば、放電ランプ方式、フラッシュ方式、レーザー方式、無電極ランプ方式等が挙げられる。放電ランプ方式である高圧水銀灯を用いて紫外線硬化させる場合、紫外線の照度が100〜3,000mW/cm2、好ましくは200〜2,000mW/cm2、さらに好ましくは300〜1,500mW/cm2となる条件で紫外線照射を行うことが好ましく、紫外線の積算光量が100〜3,000mJ/cm2、好ましく200〜2,000mJ/cm2、さらに好ましくは300〜1,500mJ/cm2となる条件で紫外線照射を行うことが好ましい。ここで、紫外線の照度とは、単位面積当たりに受ける照射強度で、ランプ出力、発光スペクトル効率、発光バルブの直径、反射鏡の設計および被照射物との光源距離によって変化する。しかし、搬送スピードによって照度は変化しない。また、紫外線積算光量とは単位面積当たりに受ける照射エネルギーで、その表面に到達するフォトンの総量である。積算光量は、光源下を通過する照射速度に反比例し、照射回数とランプ灯数に比例する。
[用途例]
本発明の積層フィルムは、成形性、自己修復性、密着耐久性および防汚性といった利点を活かし、成形により様々な成形体に成形される用途において、特に高い耐擦傷性が求められ、傷を目立ちにくくしたい用途に好適に用いることができる。
一例を挙げると、メガネ・サングラス、化粧箱、食品容器などのプラスチック成形品、スマートフォンの筐体、タッチパネル、キーボード、テレビ・エアコンのリモコンなどの家電製品、建築物、ダッシュボード、カーナビ・タッチパネル、ルームミラーなどの車両内装品、および種々の印刷物のそれぞれの表面などに好適に用いることができる。
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
[ウレタン(メタ)アクリレートA]
〔ウレタン(メタ)アクリレートA1の合成〕
トルエン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性タイプ(三井化学株式会社製 “タケネート”(登録商標)D−170N)50質量部、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ダイセル化学工業株式会社製 プラクセルFA5)76質量部、ジブチル錫ラウレート0.02質量部、およびハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部を混合し、70℃で5時間保持した。その後、トルエン79質量部を加えて固形分濃度50質量%のウレタン(メタ)アクリレートA1のトルエン溶液を得た。
〔ウレタン(メタ)アクリレートA2の合成〕
トルエン50質量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット変性タイプ(旭化成ケミカルズ株式会社製 “デュラネート”(登録商標)24A−90CX、不揮発分:90質量%、イソシアネート含有量:21.2質量%)50質量部、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ダイセル化学工業株式会社製 プラクセルFA2D)92質量部、ジブチル錫ラウレート0.02質量部、及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部を混合し、70℃で5時間保持した。その後、トルエン82質量部を加えて固形分濃度50質量%のウレタン(メタ)アクリレートA2のトルエン溶液を得た。
[ウレタン(メタ)アクリレートB]
〔ウレタン(メタ)アクリレートB1の合成〕
トルエン100質量部、メチル−2,6−ジイソシアネートヘキサノエート(協和発酵キリン株式会社製 LDI)50質量部およびポリカーボネートジオール(ダイセル化学工業株式会社製 “プラクセル”(登録商標)CD−210HL)119質量部を混合し、40℃にまで昇温して8時間保持した。それから、2−ヒドロキシエチルアクリレート(共栄社化学株式会社製 ライトエステルHOA)28質量部、ジペンタエリストールヘキサアクリレート(東亞合成株式会社製 M−400)5質量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部を加えて70℃で30分間保持した後、ジブチル錫ラウレート0.02質量部を加えて80℃で6時間保持した。そして、最後にトルエン97質量部を加えて固形分濃度50質量%のウレタン(メタ)アクリレートB1のトルエン溶液を得た。
[ウレタン(メタ)アクリレートC]
〔ウレタン(メタ)アクリレートC1の合成〕
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(三井化学株式会社製 “タケネート”(登録商標)D−170N、イソシアネート基含有量:20.9質量%)50質量部、ポリエチレングリコールモノアクリレート(日油株式会社製 “ブレンマー”(登録商標)AE−150、水酸基価:264(mgKOH/g))53質量部、ジブチルスズラウレート0.02質量部およびハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部を仕込んだ。そして、70℃で5時間保持して反応を行った。反応終了後、反応液にメチルエチルケトン(以下MEKということもある)102質量部を加え、固形分濃度50質量%のウレタン(メタ)アクリレートC1を得た。
〔ウレタン(メタ)アクリレートC2の合成〕
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(三井化学株式会社製 タケネートD−170N、イソシアネート基含有量:20.9質量%)50質量部、ポリエチレングリコールモノアクリレート(日油株式会社製 “ブレンマー”(登録商標)AE−400、水酸基価:98(mgKOH/g))142質量部、ジブチルスズラウレート0.02質量部およびハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部を仕込んだ。そして、70℃で5時間保持して反応を行った。反応終了後、反応液にMEK192質量部を加え、固形分濃度50質量%のウレタン(メタ)アクリレートC2を得た。
[シロキサン化合物]
〔シロキサン化合物1〕
シロキサン化合物1として、シリコンジアクリレート化合物(“EBECRYL”(登録商標)350 ダイセル・サイテック株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
[グリシジルエーテル誘導体化合物]
〔グリシジルエーテル誘導体化合物1〕
グリシジルエーテル誘導体化合物1として、グリシジルエーテル誘導体セグメントを含むアクリレート化合物“EBECRYL”(登録商標)600(ダイセル・オルネクス株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
〔グリシジルエーテル誘導体化合物2〕
グリシジルエーテル誘導体化合物2として、グリシジルエーテル誘導体セグメントを含むアクリレート化合物“EBECRYL”(登録商標)3700(ダイセル・オルネクス株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
[フタル酸誘導体化合物]
〔フタル酸誘導体化合物1〕
フタル酸誘導体化合物1として、フタル酸誘導体セグメントを含むアクリレート化合物DA−721(ナガセケムテックス株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
〔フタル酸誘導体化合物2〕
フタル酸誘導体化合物2として、フタル酸誘導体セグメントを含むアクリレート化合物 ライトアクリレート HOA−MPE(共栄社化学株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
[ヘキサヒドロフタル酸誘導体化合物]
〔ヘキサヒドロフタル酸誘導体化合物1〕
ヘキサヒドロフタル酸誘導体化合物1として、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントを含むアクリレート化合物“ビスコート”(登録商標)#2150(大阪有機化学株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
〔ヘキサヒドロフタル酸誘導体化合物2〕
ヘキサヒドロフタル酸誘導体化合物2として、ヘキサヒドロフタル酸誘導体セグメントを含むアクリレート化合物 ライトアクリレート HOA−HH(N)(共栄社化学株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
[フッ素化合物]
〔フッ素化合物1〕
フッ素化合物1としてフルオロポリエーテルセグメントを含むアクリレート化合物(“メガファック”(登録商標) RS−75 DIC株式会社製 固形分濃度40質量% 溶媒(トルエンおよびメチルエチルケトン)60質量%)を使用した。
[光ラジカル重合開始剤]
〔光ラジカル重合開始剤1〕
光ラジカル重合開始剤1として“イルガキュア“(登録商標)184(BASFジャパン株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
[アクリルポリオール]
〔アクリルポリオール1〕
アクリルポリオール1として、水酸基を含有するアクリルポリオール(“タケラック”(登録商標)UA−702 三井化学株式会社製 固形分濃度50質量% 水酸基価:50mgKOH/g)を使用した。
〔アクリルポリオール2〕
アクリルポリオール2として、水酸基を含有するアクリルポリオール(“アクリディック”(登録商標)A−823 DIC株式会社製 固形分濃度50質量% 水酸基価30mgKOH/g)を使用した。
[イソシアネート化合物]
〔イソシアネート化合物1〕
イソシアネート化合物1として、トリレンジジイソシアネート(“コロネート”(登録商標)L 日本ポリウレタン工業株式会社 固形分濃度75質量% NCO含有量13.5質量%)を使用した。
[多官能アクリレート]
〔多官能アクリレート1〕
多官能アクリレート1として、ウレタンアクリレートオリゴマー(“SHIKOH”(登録商標)UV−3310B 日本合成化学工業株式会社製、固形分濃度100質量%)を使用した。
〔多官能アクリレート2〕
多官能アクリレート2として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである“KAYARAD”(登録商標)DPHA (日本化薬株式会社製、固形分濃度100質量%)を使用した。
[アクリルポリマー]
〔アクリルポリマー1〕の合成]
ジラウロイルパーオキサイド(“パーロイル”(登録商標)L 日油株式会社製)24質量部をメチルエチルケトン495質量部に加えて70℃で30分間加温して溶解させ、メタクリル酸50質量部、ブチルアクリレート90質量部、メチルメタクリレート100質量部および4−メチル−2,4−ジフェニルペンテン−1(“ノフマー”(登録商標)MSD 日油株式会社製)2.4質量部を混合した溶液を4時間かけて滴下して撹拌重合させた。その後、さらに80℃で2時間撹拌を行い、親水性官能基を含有した固形分濃度35質量%のアクリルポリマー1のメチルエチルケトン溶液(重量平均分子量6,000)を得た。
[塗料組成物Aの調合]
〔塗料組成物A1〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A1を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・グリシジルエーテル誘導体化合物1 5.0質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A2〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A2を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・グリシジルエーテル誘導体化合物2 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A3〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A3を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 80質量部
・グリシジルエーテル誘導体化合物2 10質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A4〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A4を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・フタル酸誘導体化合物1 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A5〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A5を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部。
・フタル酸誘導体化合物2 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A6〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A6を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 80質量部
・フタル酸誘導体化合物2 10質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A7〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A7を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・ヘキサヒドロフタル酸誘導体化合物1 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A8〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A8を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・ヘキサヒドロフタル酸誘導体化合物2 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A9〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A9を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA2溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・フタル酸誘導体化合物1 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A10〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A10を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・フタル酸誘導体化合物2 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A11〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A11を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 90質量部
・フタル酸誘導体化合物2 5質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
〔塗料組成物A12〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物A12を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 80質量部
・ウレタン(メタ)アクリレートB1溶液(固形分濃度50質量%) 10質量部
・グリシジルエーテル誘導体化合物2 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 10質量部。
[塗料組成物Bの調合]
〔塗料組成物B1〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度20質量%の塗料組成物B1を得た。
・アクリルポリオール1 100質量部
・イソシアネート化合物1 18.8質量部
・アクリルポリマー1 9.6質量部。
〔塗料組成物B2〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度20質量%の塗料組成物B2を得た。
・アクリルポリオール2 100質量部
・イソシアネート化合物1 11.8質量部
・アクリルポリマー1 8.8質量部。
〔塗料組成物B3〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度20質量%の塗料組成物B3を得た。
・アクリルポリオール1 100質量部
・イソシアネート化合物1 18.8質量部
・多官能アクリレート1 22.9質量部
・アクリルポリマー1 13質量部
・光ラジカル重合開始剤1 0.69質量部。
[塗料組成物Cの調合]
〔塗料組成物C1〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物C1を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートC1溶液(固形分濃度50質量%) 100質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
〔塗料組成物C2〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物C2を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートC2溶液(固形分濃度50質量%) 100質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
〔塗料組成物C3〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物C3を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートC1溶液(固形分濃度50質量%) 100質量部
・グリシジルエーテル誘導体化合物2 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
〔塗料組成物C4〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物C4を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートC1溶液(固形分濃度50質量%) 100質量部
・フタル酸誘導体化合物2 5質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
〔塗料組成物C5〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物C5を得た。
・多官能アクリレート化合物2 50質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
[塗料組成物Xの調合]
〔塗料組成物X1〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物X1を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートB1溶液(固形分濃度50質量%) 50質量部
・多官能アクリレート化合物2 25質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
〔塗料組成物X2〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物X2を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA1溶液(固形分濃度50質量%) 20質量部
・多官能アクリレート化合物2 40質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
〔塗料組成物X3〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の塗料組成物X3を得た。
・ウレタン(メタ)アクリレートA2溶液(固形分濃度50質量%) 50質量部
・多官能アクリレート化合物2 25質量部
・シロキサン化合物1 3質量部
・フッ素化合物1溶液(固形分濃度40質量%) 3.8質量部
・光ラジカル重合開始剤1 1.5質量部。
[支持基材]
〔支持基材A1〕
支持基材A1として、“コスモシャイン”(登録商標)A4300(厚み125μm、東洋紡株式会社製)を使用した。
〔支持基材A2〕
支持基材A2として、“パンライト”(登録商標)PC−2151(厚み125μm、帝人化成株式会社製)を使用した。
〔支持基材B1〕
支持基材B1として、“ルミラー”(登録商標)U48(厚み125μm、東レ株式会社製)を使用した。
[支持基材の評価]
支持基材について、次に示す性能評価を実施し、得られた結果を表1に示す。特に断らない場合を除き、測定は各サンプルについて場所を変えて3回測定を行い、その平均値を用いた。
〔支持基材の膨潤度指数〕
支持基材の膨潤度指数は以下の方法から算出した。まず、支持基材のヘイズ値h1(%)を測定した。次に、支持基材上に、メチルエチルケトンをバーコーター(#10)を用いて塗布し、温度40℃にて1分間放置し、メチルエチルケトンを乾燥させた。その後、乾燥後の支持基材のヘイズ値h2(%)を測定した。この2つの値を用いて、以下の式から膨潤度指数を算出した。
膨潤度指数:h=|h2−h1|
なおヘイズ測定は、JIS K 7136(2000)に基づき、日本電色工業株式会社製ヘイズメーターを用いて、支持基材のメチルエチルケトンを塗布した側から光を透過するよう、装置に置いて測定した。
上記の操作を支持基材両面についてそれぞれ行い、膨潤度指数のより大きい方の値を当該支持基材における膨潤度指数とした。
表1に得られた支持基材の評価結果をまとめた。
[積層フィルムの製造方法]
〔積層フィルムの作製1〕
支持基材上に、前記塗料組成物A、塗料組成物Cをスロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布した。塗布から乾燥、硬化までの間に液膜にあたる乾燥風の条件は以下の通りである。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃、相対湿度:1%以下
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 0.1体積%。
〔積層フィルムの作製2〕
支持基材上に塗料組成物Bをスロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上にB層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 大気雰囲気。
さらに、同装置を用い、上記で得られたB層上に塗料組成物Aを、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、積層フィルムを得た。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 200ppm以下。
[積層フィルムの作成3]
支持基材上に塗料組成物Bをスロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上にB層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
さらに、同装置を用い、上記で得られたB層上に塗料組成物Aを、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、積層フィルムを得た。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 200ppm以下。
[積層フィルムの作成4]
支持基材上に塗料組成物AおよびBを、図3に示す多層スライドダイコーターを用いた。図4に示す多層スライドダイコーターは、支持基材に最も近い側に塗布した塗料組成物を、塗布工程の支持基材が搬送方向の上流側に供給する必要があり、搬送方向の最も上流側のスロット(=ダイの最も下側のスロット)から吐出する。一方、最も表面側に塗布したい塗料組成物は、反対に支持基材が搬送方向の最も下流側に供給する必要があり、最も下流側のスロット(=ダイの最も上側のスロット)から吐出する。塗料組成物の中間部に塗布したい塗料組成物は上記の順に倣う。
図3は4層までの同時塗布が可能な装置の例であるが、この層数に限定されるものではない。
同装置の支持基材の搬送方向の上流側スロットから塗料組成物Bを、支持基材の搬送方向の下流側スロットから塗料組成物Aを、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上にB層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 200ppm以下。
[積層フィルムの作成5]
支持基材上に塗料組成物AおよびBを、図4に示す多層スロットダイコーターを用い、同装置の支持基材の搬送方向の上流側スロットから塗料組成物Bを、支持基材の搬送方向の下流側スロットから塗料組成物Aを、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上にB層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 200ppm以下。
[積層フィルムの作成6]
支持基材上に塗料組成物Aをスロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上にB層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃、相対湿度:1%以下
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 大気雰囲気
さらに、同装置を用い、上記で得られた表面層上に塗料組成物Xを、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、積層フィルムを得た。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 200ppm以下。
[積層フィルムの作成7]
支持基材上に塗料組成物AおよびXを、図4に示す多層スロットダイコーターを用い、同装置の支持基材の搬送方向の上流側スロットから塗料組成物Aを、支持基材の搬送方向の下流側スロットから塗料組成物Xを、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上に表面層およびX層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 200ppm以下。
[積層フィルムの作成8]
支持基材上に塗料組成物Bをスロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上にB層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
さらに、図4に示す多層スロットダイコーターを用い、同装置の支持基材の搬送方向の上流側スロットから塗料組成物Aを、支持基材の搬送方向の下流側スロットから塗料組成物Xを、乾燥後の表面層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布し、次いで下記の条件で乾燥工程、硬化工程を行い、支持基材上にB層とA層およびX層を形成した。
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 200ppm以下。
なお、前記風速、温湿度は熱線式風速計(日本カノマックス株式会社製 アネモマスター風速・風量計 MODEL6034)による測定値を使用した。
以上の方法により実施例1〜26、比較例1〜5の積層フィルムを作成した。各実施例、比較例に対応する上記積層フィルムの作成方法、およびそれぞれの各層の膜厚は、後述の表3、4に記載した。
[積層フィルムの評価]
作製した積層フィルムについて、次に示す性能評価を実施し、得られた結果を表3、4に示す。特に断らない場合を除き、測定は各実施例・比較例において1つのサンプルについて場所を変えて3回測定を行い、その平均値を用いた。なお、X層を有する積層フィルムの評価については、後述の吸水率、クラック伸度、耐染料移行性、自己修復性、防汚性、密着指数、密着耐久性については、X層を含めて表面層の評価とした。
〔表面層の吸水率〕
積層フィルムを50mm×50mmの大きさに切り出し、23℃条件下で試験片の質量を測定した。これを初期質量A(g)とする。
次に、この試験片について、純水からなる沸騰した湯(100℃)の中へ試験片を1時間浸漬した。その後、試験片を取出してすぐに表面の水分を拭き取った。
さらに、試験片を湯から取り出して30分以内に、再び23℃条件下で試験片の質量を測定した。これを試験後質量B(g)とする。
また、各積層フィルムに対応する支持基材についても同様の試験を行い、支持基材の初期質量をAr(g)、支持基材の試験後質量Br(g)とした。
積層フィルムの初期質量および試験後質量、対応する支持基材の初期質量および試験後質量の値から、以下の式により、支持基材の影響を排除した表面層の吸水率を算出した。
表面層の吸水率:((B−Br)−(A−Ar))/(A−Ar)×100。
[貯蔵弾性率、ガラス転移温度の測定]
A.積層フィルム断面の確認
積層フィルムをカッターで切り出し、電子顕微鏡用エポキシ樹脂(日新EM社製Quetol812)で包埋し、60℃のオーブン中で48時間かけて該エポキシ樹脂を硬化させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ社製Ultracut S)で厚さ約100nmの超薄切片を作製した。
作製した超薄切片を応研商事社製100メッシュのCuグリッドに搭載して、日立製透過型電子顕微鏡H−7100FAを使用し加速電圧100kVでTEM観察を行い、積層フィルム断面の観察を行い、表面層と支持基材およびX層の場所を確認した。
B.超微小硬度計による測定
上記、超薄切片をサンプルとし、超微小硬度計(Hysitron社製Tribo Indenter)を用いて、表面層と支持基材およびX層のモジュラスマッピング像を取得し、貯蔵弾性率、損失弾性率を算出し、貯蔵弾性率と損失弾性率の比から損失正接(tanδ)を求め、得られた損失正接(tanδ)のピーク値の温度を、ガラス転移温度(Tg)とした。
測定条件は下記に示す。
測定装置: Hysitron社製Tribo Indenter
使用圧子: ダイヤモンド製Cubecorner圧子(曲率半径50nm)
測定視野: 約30mm角
測定周波数:10Hz
測定雰囲気:−20℃〜120℃・大気中
接触荷重: 0.3μN。
〔表面層のクラック伸度〕
積層フィルムを10mm幅×200mm長に切り出し、長手方向にチャックで把持してインストロン型引っ張り試験機(インストロン社製超精密材料試験機MODEL5848)にて引っ張り速度100mm/分で延伸した。測定温度は23℃で行った。延伸する際に、延伸中のサンプルを観察しておき、目視でクラック(亀裂)が生じたら停止した(停止するときのひずみ量は5の整数となるように調整した)。次から測定するサンプルは、停止時のひずみ量より、5%単位でひずみ量を低くしていったサンプルを順次採取し、最終的に目視にてクラックが入らなくなるひずみ量まで行った。
なお、初期引張チャック間距離を50mm、引張チャック間距離をa(mm)として、ひずみ量x(%)は以下の式により算出した。
ひずみ量:x=((a−50)/50)×100。
採取したサンプルのクラック部分の薄膜断面を切り出し、観察する表面層の厚みが、透過型電子顕微鏡の観察画面上において、30mm以上になるような倍率で表面層を観察し、表面層の平均厚みの50%以上のクラックが発生している場合をクラック有り(表面層の破壊有り)として、クラック有りとされたサンプルの中で、最も低いひずみ量を有するサンプルのひずみ量値をクラック伸度とした。そして、同一の測定を計3回行い、それらのクラック伸度の平均値を表面層のクラック伸度とした。
〔耐染料移行性〕
9cm×6cmの大きさに切り出した積層フィルムの表面層に、6cm×6cmの水で濡らしたジーンズ(染料含有)を密着させ、6cm×6cmのガラス板で挟み込んだ。水分が蒸発しないようにポリエチレンフィルムで包み込み、ガラス板の上に3kgの重りを載せ、70℃のオーブンに入れ放置した。24時間後取り出し、積層フィルムを後述する汚染用グレースケールの白色部と同等の白紙上に置き、表面層の表面の汚染度合を汚染用グレースケール(JIS L0805(2005))にて、1〜5級の等級(1級は汚れが汚染用グレースケール1号またはその程度を越えるもの(汚れが濃く残る)、2級は汚れが汚染用グレースケール2号程度のもの(かなり汚れが残る)、3級は汚れが汚染用グレースケール3号程度のもの(やや汚れが残る)、4級は汚れが汚染用グレースケール4号程度のもの(殆ど汚れが残らない)、5級は汚れが汚染用グレースケール5号程度のもの(汚れが残らない))で判定した。なおJIS L0805(2005)の表記に従い、各級の間、例えば1級と2級の間である場合には、「1−2」と表記している。
〔表面層の密着指数〕
表面層の密着指数の評価については、下記に示すように、延伸処理、煮沸処理、密着試験の3段階により行われる。
〔延伸処理〕
積層フィルムを20mm幅×200mm長に切り出し、長辺方向へ延伸されるようにチャックで把持し、インストロン型引っ張り試験機(インストロン社製超精密材料試験機MODEL5848)にて引っ張り速度100mm/分で伸張した。このときの測定雰囲気は23℃である。ひずみ量が20%まで延伸処理を行い、試験片を採取した。なお、この時点で塗膜にクラックが発生したサンプルについては、後述の密着試験評価における密着指数1とした。
なお、初期引張チャック間距離を50mm、引張チャック間距離をa(mm)として、ひずみ量x(%)は以下の式により算出した。
ひずみ量:x=((a−50)/50)×100。
〔煮沸処理〕
次に、延伸処理を行った試験片について、純水からなる沸騰した湯(100℃)の中へ試験片を6時間浸漬した。その後、試験片を取り出し乾燥させた。
〔密着試験〕
さらに、煮沸処理後の試験片の表面層に、1mm2のクロスカットを100個入れた。作業は下記の一部を除き、JIS K5600−5−6(1999)の7項の手順に沿って行った。
試験条件及び試験数:試験条件は23℃、相対湿度65%とした。また、試験数は1とした。
試験板の養生:養生条件は、温度23℃、相対湿度65%とし、養生時間は1時間とした。
カット数:カット数は11とした。
カットの間隔:カットの間隔は1mmとした。
手動手順による積層膜の切込み及び除去:はけを用いたブラッシングは行わないものとした。また、JIS K5600−5−6(1999)の7.2.6項は第2段落の規定(「テープの中心を、図3に示すように角カットの一組に平行な方向で格子の上に置き、格子の部分にかかった箇所と最低20mmを超える長さで、指でテープを平らになるようにする」)のみ準用し、他の規定は準用しないものとした。なお、テープはセロハンテープ(ニチバン(株)製 “セロテープ”(登録商標)CT405AP)を用いた。
また、テープの貼付けは、ハンドローラー((株)オーディオテクニカ製 HP515)を用いて、荷重19.6N/mでローラー移動速度5cm/秒で3往復させ押しつけることによって行った。次いで、テープを表面層表面方向に対して90度方向に秒速10cm/秒の速さで引きはがし、表面層に設けた格子の残存個数により5段階評価を行った。
密着指数5: 表面層の残存個数が100。
密着指数4: 表面層の残存個数が90以上100未満。
密着指数3: 表面層の残存個数が80以上90未満。
密着指数2: 表面層の残存個数が50以上80未満。
密着指数1: 表面層の残存個数が50未満。
〔表面層の自己修復性〕
温度20℃で12時間放置した後、同環境にて表面層表面を、真鍮ブラシ(TRUSCO製)に下記の荷重をかけて、水平に5回引っ掻いたのち、5分間放置後の傷の回復状態を、下記の基準に則り目視で判定を行った。
10点:荷重9.8N(1kg重)で傷が残らない
7点: 荷重9.8N(1kg重)では傷が残るが、6.9N(700g重)では傷が残らない
4点: 荷重6.9N(700g重)では傷が残るが、4.9N(500g重)では傷が残らない
1点: 荷重4.9N(500g重)で傷が残る。
〔表面層の防汚性〕
表面層の防汚性は前記表面層の耐染料移行性について、以下の基準に則り判定を行った。
10点:表面層の耐染料移行性が5級。
7点: 表面層の耐染料移行性が4級以上5級未満。
4点: 表面層の耐染料移行性が3級以上4級未満。
1点: 表面層の耐染料移行性が3級未満。
〔表面層の密着耐久性〕
表面層の密着耐久性は前記表面層の密着指数について、以下の基準に則り判定を行った。
10点:表面層の密着指数が5。
9点: 表面層の密着指数が4。
7点: 表面層の密着指数が3。
4点: 表面層の密着指数が2。
1点: 表面層の密着指数が1。
[表面層、X層の測定]
電子顕微鏡(SEM)を用いて断面を観察することにより、支持基材上の表面層およびX層の厚みを測定した。なお、表面層がA層とB層を有するものについては、それぞれの厚みを測定した。各層の厚みは、以下の方法に従い測定した。積層フィルムの断面の切片をSEMにより3,000倍の倍率で撮影した画像から、ソフトウェア(画像処理ソフトImageJ)にて各層の厚みを読み取った。合計で30点の層厚みを測定して求めた平均値を、測定値とした。
表2〜4に最終的に得られた積層フィルムの評価結果をまとめた。