JP6578532B2 - 被覆層を有する耐熱合金製工具および加工装置 - Google Patents

被覆層を有する耐熱合金製工具および加工装置 Download PDF

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Description

本発明は、被覆層を有する耐熱合金製工具に関する。より特定的には、鋼材料、特にはステンレス系材料の摩擦攪拌接合に好適な、被覆層を有する耐熱合金に関する。
近年、熱間押出用ダイス、継目無製管用ピアサープラグ、射出成形用ホットランナノズル、などの高温環境下で用いられる塑性加工用工具の長寿命化に適する耐熱合金が要求されている。
特に近年開発の進みつつある摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding、以下FSWとも略す)に用いられる回転工具は、摩擦攪拌接合の適用範囲を拡大するため、高温強度および室温硬度の高い材料の開発が進んでいる。
摩擦攪拌接合は、金属部材の接合部に回転工具を押し当て、その摩擦熱により軟化した被接合材を塑性流動させて接合する方法である。摩擦攪拌接合は既に、アルミニウム、マグネシウムなどの低融点、軟質材料の接合において実用化が進み適用範囲が拡大しつつある。しかし現在は、より高融点、硬質な被接合材への適用を図るために、高温強度、耐磨耗性を向上させた実用寿命を有する工具の開発が求められている。
その理由として、FSWでは摩擦熱により被接合材を軟化させた際に、接合条件、被接合材による違いがあるものの、一般には工具の温度が被接合材の融点の70%前後にまで上昇することがあるためである。すなわち低融点のアルミニウムではこの温度が約400℃程度であるのに対し、鉄鋼材では1000〜1200℃に達するため、工具材質にはこの温度域においても被接合材を塑性流動させることが出来る高温強度、靭性および耐摩耗性が要求される。これは、FSW、FSJ(Friction Spot Joining、摩擦点接合)および摩擦攪拌応用技術に使用される工具に共通の課題である。
また、摩擦撹拌接合工具や、熱間加工用工具に用いられる材料は、耐摩耗性と耐欠損性が求められるため、高温での強度や硬度だけではなく、靭性も必要とされる。これまで提案されている耐熱材料として、W、Mo系の耐熱合金が挙げられるが、発明者らもMoにTiCNを添加することによって優れた高温特性を示す合金が得られることを見出し、鋭意開発した結果、TiCNの添加量を調整することによって、硬度、強度と靭性のバランスのとれた材料を開発することができた(特許文献1)。
一方で、W、Mo系耐熱合金が工具材料として使用される用途は、加工対象として鉄系材料を想定しているケースが多く、特に炭素鋼やステンレス鋼は変形抵抗が高いため難加工材として位置づけられる。鉄系の材料を熱間塑性加工する場合、工具の使用中の温度が1000℃前後になるため、Mo系母材の工具を使用すると被処理材に主として含まれるFeと工具に主として含まれるMoとが反応し、Fe−Mo系の金属間化合物が工具表面に形成される場合がある。中でもFeMo(μ相)は、硬くて脆い性質があることが知られており(非特許文献1、2)、工具表面に形成されるとこの金属間化合物相が脱落するため、工具摩耗量を増大させる原因となり得るため、加工対象が鉄系材料である場合は、金属間化合物相を形成しない組成がより望ましい。
これに対しては、同様に高融点材料として知られているWは、工具使用温度域では金属間化合物を形成しないことが状態図からわかるため、W系合金を用いることによって、加工対象が鉄系材料である場合でも金属間化合物相の形成を防ぐことができる。
高融点材料を摩擦撹拌接合するための工具として、W基合金は既に着目されており、W-Re合金や硬質材料との複合材料であるW−Re材料(特許文献2)、W−PcBN(特許文献3)、などが開発されている。また他には、Co基合金(特許文献4、5)、W−TiCN合金(特許文献6、非特許文献3)、Ni基超合金(特許文献7)、Ir合金(特許文献8)シリコンナイトライド(特許文献9)の摩擦撹拌接合工具が開発されている。
特開2013−249512号公報 特開2004−358556号公報 特表2003−532543号公報 国際公開第2007/032293号明細書 特開2011−62731号公報 特開平06−279911号公報 特開2009−255170号公報 特開2004−90050号公報 国際公開第2005/105360号明細書
Intermetallics, Vol. 15 (2007) 1573-1581 Phase Diagrams of Binary Tungsten Alloys, Indian Institute of Metal(1991) 89 辻、山崎、瀧田、池ヶ谷「硬質粒子を添加したMoとW焼結合金の機械的特性の比較」粉体粉末冶金協会講演論文集、平成25年度秋季大会、紛体粉末冶金協会
上記のように、接合対象が鉄系材料である摩擦攪拌接合工具材料として、種々の材料が開発されている。
しかしながら、上記材料には以下のような問題があった。
まず、W−Reは靭性に優れるが摩耗しやすく、PcBNは耐摩耗性に優れるが折損しやすい欠点があった。W−Re/PcBNは耐欠損性と耐摩耗性を両立した非常に優れた材料であるが、高価であるため、実用性に乏しいという問題があった。
一方、Co基合金はチタン合金の接合には有効であるが、ステンレスの接合には耐摩耗性が十分ではなく適用できないという問題があった。
またNi基超合金は、高温での硬度が低いため耐摩耗材料として不十分であった。
さらに、Ir合金は、高融点合金原料のIrが高価である点で実用化が難しいという問題があった。
さらに、シリコンナイトライドは、ステンレスの薄板の接合には効果があるが、5mmを超える厚板を接合する場合には、プローブ長が長くなるため折損する可能性が高いという問題があった。
一方、W−TiCN合金は、TiCNの添加により、延性を低下させることなく室温硬度、高温強度を改善できる点では優れた材料である。
一方で、延性を低下させない範囲でのTiCNの添加量には限度があり、また、鉄系材料用の摩擦撹拌接合用工具としてW−TiCN合金を用いた場合、変形抵抗により工具が塑性変形してしまう場合があり、工具寿命が低下してしまう問題があった。
このように、従来の摩擦攪拌接合工具材料は、鉄系材料を接合対象とした場合、未だ改善の余地があった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は鉄系材料、特にはステンレス系材料の摩擦攪拌接合用工具基材として好適なタングステン基耐熱合金とその耐熱合金に被覆して用いるに好適な被覆膜質を提供することにある。
即ち、本発明の第1の態様は、タングステン基耐熱合金と、前記タングステン基耐熱合金の上に形成された被覆層とを備え、前記タングステン基耐熱合金は、Wを主成分とし、Ti、ZrおよびHfからなる群より選ばれた少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験により破断に至る変位が1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上であり、前記被覆層は窒化物を含み、金属成分としてTiを50〜96at%、Siを3〜20at%、Ta、Nb、W、Moから選ばれた元素のうち少なくとも一種を1〜30at%含む被覆層を有する耐熱合金製工具である。at%とはアトミック%を意味する。
なお、本明細書において、周期律表5A族元素とは、V、Nb、Ta、をいう。
周期律表4A族元素とは、Ti、Zr、Hf、をいう。
周期律表6A族元素とは、Cr、Mo、W、をいう。
周期律表3B族元素とは、B、Al、Ga、In、Tlをいう。
周期律表4B族元素とは、Si、Ge、Sn、Pbをいう。
本発明の第2の態様は、タングステン基耐熱合金と、前記タングステン基耐熱合金の上に形成された被覆層とを備え、前記タングステン基耐熱合金は、Wを主成分とし、Ti、ZrおよびHfからなる群より選ばれた少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験により破断に至る変位が1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上であり、前記被覆層のナノインデンター硬度は20GPa以上50GPa以下、ヤング率は250GPa以上600GPa以下、残留応力は−5GPa以上−0.5GPa以下、面粗さRaは0.01μm以上0.1μm以下である、被覆層を有する耐熱合金製工具である。
本発明によれば、鉄系材料、特にはステンレス系材料の摩擦攪拌接合に好適な工具を提供することができる。
本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金中の各相の模式図である。 本発明の実施形態に係る摩擦撹拌接合工具の製造方法を示すフローチャートである。 本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具を示す側面図である。 本発明の実施例に係るタングステン基耐熱合金の断面の拡大写真を模した図である。 実施例1の試料に対してX線回折による測定を行うことにより得られた回折ピークの例である。 3点曲げ試験の概略を示す模式図である。 3点曲げ試験の概略を示す模式図である。 本発明の比較例に係るタングステン基耐熱合金の断面の拡大写真を模した図である。 本発明の参考例に係るタングステン基耐熱合金の断面の拡大写真を模した図である。
[本発明の実施形態の説明]
まず、本願発明の実施形態を列記して説明する。
上記した課題を解決するため、本発明者は、W合金について再度検討した。
上記の通り、Wに、延性を低下させない範囲で添加可能なTiCNの量には限度があり、硬質粒子の添加により、これ以上の高強度化、高硬度を達成するのは困難と考えられていた。
しかしながら、発明者らは、Ti、Zr、Hfの炭窒化物を所定の割合でWに添加し、さらに周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を添加することにより、延性を極端に損なうことなく、高強度化、高硬度を達成可能な耐熱材料を得られることを見出した。
本発明の第1の態様は、タングステン基耐熱合金と、前記タングステン基耐熱合金の上に形成された被覆層とを備え、前記タングステン基耐熱合金は、Wを主成分とし、Ti、ZrおよびHfからなる群より選ばれた少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験により破断に至る変位が1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上であり、前記被覆層は窒化物を含み、金属成分としてTiを50〜96at%、Siを3〜20at%、Ta、Nb、W、Moから選ばれた元素のうち少なくとも一種を1〜30at%含む被覆層を有する耐熱合金製工具である。
上記タングステン基耐熱合金では、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上である。なお、本発明では、「室温におけるビッカース硬度」とは、20℃におけるビッカース硬度をいう。室温におけるビッカース硬度を550Hv以上とすることによって、実際に工具として使用した場合に、回転初期の母材の変形、破壊または母材と被覆膜との剥離がないようにできる。本発明がタングステン「耐熱」合金であるにも関わらず、室温硬度を条件にしているのは、この理由によるものである。
前記被覆層のナノインデンター硬度は20GPa以上50GPa以下、被覆層のヤング率は250GPa以上600GPa以下、被覆層の残留応力は−5GPa以上−0.5GPa以下、被覆層の面粗さRaは0.01μm以上0.1μm以下である。
本発明の第2の態様は、タングステン基耐熱合金と、前記タングステン基耐熱合金の上に形成された被覆層とを備え、前記タングステン基耐熱合金は、Wを主成分とし、Ti、ZrおよびHfからなる群より選ばれた少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験により破断に至る変位が1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上であり、前記被覆層のナノインデンター硬度は20GPa以上50GPa以下、ヤング率は250GPa以上600GPa以下、残留応力は−5GPa以上−0.5GPa以下、面粗さRaは0.01μm以上0.1μm以下である、被覆層を有する耐熱合金製工具である。
好ましくは、前記タングステン基耐熱合金中のTi、Zr、Hfの炭窒化物の合計の含有量は5体積%以上、25体積%以下である。
好ましくは、前記周期律表5A族元素の含有量は、0.5体積%以上15体積%以下である。
好ましくは、前記タングステン基耐熱合金は、Wを主成分とする第1の相と、Wを含み、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相と、Wを含み、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相と、を有する。
好ましくは、前記第1の相、前記第2の相、および前記第3の相の平均結晶粒径が0.1μm以上10μm以下である。
好ましくは、被覆層を有する耐熱合金製工具は、摩擦攪拌接合用工具である。
好ましくは、前記摩擦攪拌接合用工具はステンレスの接合に用いられる。
好ましくは、加工装置は、上記のいずれかの被覆層を有する耐熱合金製工具を有する。
[本発明の実施形態の詳細]
次に、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
<タングステン基耐熱合金組成>
まず、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具(塑性加工用工具)に用いられるタングステン基耐熱合金の組成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金中の各相の模式図である。
本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具に用いられるタングステン基耐熱合金は、図1に示すように、Wを主成分とする第1の相1と、Wを含み、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相2と、Wを含み、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相3と、を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上である。
また、図1では、さらに、第2の相2と第3の相3の周囲に形成された固溶体である第4の相4も図示されている。
以下、各相および各相を構成する材料について説明する。なお、第1の相1から第4の相4は必ずしも耐熱合金に含まれていなくてもよい。図1では、第1の相1から第4の相4の境界が明確に表れているが、これらの境界が明らかでなくてもよい。
<第1の相>
第1の相1はWを主成分とする相である。ここでいう主成分とは最も含有量(質量%)が多い成分であることを意味する(以下同様)。
具体的には、第1の相1は例えばWと不可避不純物で構成されるが、後述する炭窒化物や炭化物の含有量によっては、第1の相1に炭窒化物や炭化物を構成する元素が固溶している場合もある。
第1の相1におけるWは高融点、高硬度でかつ高温における強度に優れ、タングステン基耐熱合金に金属としての物性をもたせる。第1の相は、マトリックスとして、硬質相である第2の相および第3の相を保持する役割を担い、材料に優れた高温特性を与える。
<第2の相>
第2の相2は、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの炭窒化物を有し、Wを除いた場合に炭窒化物を主成分とする相である。具体的には、例えば上記した炭窒化物、W、および不可避不純物で構成される。
第2の相2におけるTi、Zr、Hfの炭窒化物は、Wに添加することにより、後述するように、室温硬度、および高温での0.2%耐力を高めることができる。
なお、炭窒化物の代表的なものとしてはTiCNが挙げられるが、TiCNの組成としては、例えばTiC1−x(x=0.3〜0.7)となるものが挙げられ、具体的にはTiC0.30.7、TiC0.50.5、TiC0.70.3などが挙げられる。
この中で代表的なものとしては、TiC0.50.5が知られているが、その他の組成の炭窒化チタン、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウムも、TiC0.50.5と同様の効果が得られる。
<第3の相>
第3の相3は、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする相である。具体的には、例えば上記した炭化物、W、および不可避不純物で構成される。
このように、Ti、Zr、Hfの炭窒化物元素を添加するだけでなく、上記の炭化物を複合添加することにより、単純に炭窒化物元素の添加量を増やす場合と比較して、添加による延性の低下を抑制しつつ、室温硬度、高温強度を向上させることができる。
この点について、より具体的に説明する。まず、炭窒化物がTiCNである場合を考える。この場合、W−TiCN合金の特性(強度)向上を目的とする場合、TiCN添加量の増量が考えられるが、TiCN添加量を増やしてTi含有量が25体積%以下であれば、延性を向上させる効果が顕著となる。その結果、工具として使用した場合に寿命を長くすることができる。そこで、TiCN以外の硬質粒子をさらに添加し、TiCNと複合添加することで、室温硬度、高温強度が向上し、かつ延性を持つタングステン基耐熱合金を得ることができる。なお炭窒化物がZrCN、HfCNの場合も炭窒化物がTiCNである場合と同様である。
<第4の相>
第4の相4は第2の相2および第3の相3の少なくとも一方の周囲に形成される層であり、第1の相1のWと第2の相2の炭窒化物または第3の相3の炭化物との固溶体を主成分とし、これと不可避不純物で構成される。
即ち、第4の相4は第2の相2の周囲に形成される場合は炭窒化物の存在割合が、第1の相1よりも高い固溶体であり、第3の相3の周囲に形成される場合は炭化物の存在割合が、第1の相1よりも高い固溶体である。
なお第4の相4は必須の構成ではない。
<組成>
合金中のTi、Zr、Hfの炭窒化物の含有量は5体積%以上、25体積%以下であるのが望ましい。これは、5体積%以上であれば室温硬度、高温での0.2%耐力を高くする効果が特に高い。25体積%以下であれば延性を向上させる効果が特に高い。そのため上記工具として使用した場合に欠損および亀裂を発生させることがない。なお、延性の大幅な向上という観点から、上記範囲の中でも、5体積%以上、20体積%以下であることがより望ましい。
また、5A族炭化物の含有量は0.5体積%以上、15体積%以下であることが望ましい。5A族炭化物の含有量が0.5体積%以上の場合は5A族添加による室温硬度、高温での0.2%耐力を高くする効果が特に高い。15体積%を越えると延性を向上させる効果が特に高い。これらの効果をより高めるためには、上記範囲の中でも、1体積%以上、13体積%以下であることがより望ましい。
<質量%から体積%への換算>
また、本発明において、Ti、Zr、Hfの炭窒化物および5A族炭化物の含有量(体積%)とは、以下の方法により算出した値をいうものとする。まず、タングステン基耐熱合金の試料中に含まれるW、Ti、Zr、Hfおよび5A族元素の元素含有量(質量)を測定する。次に、測定したそれぞれの質量から、Wは全量が金属として、Ti、Zr、Hfは全量が炭窒化物として、5A族元素は全量が炭化物として上記試料中に存在しているとした場合の、W金属およびTi、Zr、Hfの炭窒化物ならびに5A族元素炭化物の体積をそれぞれの密度を用いて算出し、それら体積の合計を試料全体の体積としてTi、Zr、Hfの炭窒化物および5A族元素炭化物の体積割合(体積%)を算出する。上記元素含有量(質量)を測定する方法としては、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析により測定する方法を用いることができる。なお、本発明における「Ti、Zr、Hfの炭窒化物の含有量」とは、TiC0.50.5、ZrC0.50.5、HfC0.50.5に換算した場合の含有量をいう。
<不可避不純物>
本発明に係る摩擦攪拌接合工具を形成するタングステン基耐熱合金は、上記した必須の成分に加え、不可避不純物を含む場合がある。
不可避不純物としては、Fe、Ni、Cr、などの金属成分や、C、N、Oなどがある。
<結晶粒径>
第1の相1、第2の相2、第3の相3および第4の相4が存在するのであれば、第1の相1、第2の相2、第3の相3および第4の相4の平均結晶粒径が0.1μm以上、10μm以下であることが望ましい。
タングステン基耐熱合金の主となる相である第1の相1の平均結晶粒径を小さくすることにより硬度や強度を高めることができるが、0.1μm以上であれば、延性を高める効果が特に大きくなる。また、焼結材料で結晶粒径を細かくするためには原料粉末の粒度を細かくする方法が一般的であるが、上記平均結晶粒径を0.1μm以上とすることで原料粉末の凝集を避けることができる。その結果、硬度や強度を高めるという効果が特に大きくなる。上記第1の相1の平均結晶粒径を大きくすることにより、第1の相1の連続区間が長くなるため変形しやすくなり、延性の低下を抑制することができるが、10μm以下であれば、硬度や強度を高める効果が特に大きくなる。したがって、第1の相1の平均結晶粒径は0.1μm以上、10μm以下であることが望ましい。さらに、延性の低下を抑制しつつ硬度や強度を高めるという効果をより高めるためには、上記範囲の中でも、0.5μm以上、8μm以下であることがより望ましい。
第2の相2、第3の相3および第4の相4の平均結晶粒径についても、タングステン基耐熱合金の一部を構成する相ではあるものの、第1の相1と同様のことがいえる。すなわち、これらの相の平均結晶粒径についても、0.1μm以上、10μm以下であることが望ましく、0.5μm以上、8μm以下であることがより望ましい。
なお、結晶粒径を測定する方法としては、インターセプト法が挙げられる。これは、測定箇所となる断面について倍率1000倍の拡大写真を撮り、この写真上において、任意に直線を引き、この直線が横切る対象となる結晶粒の粒子について、この直線状を横切る個々の結晶粒の粒径を測定し総和を算出する方法である。測定の視野は例えば120μm×90μm程度であり、測定する粒子数は例えば50個以上である。また、観察された結晶粒の組成は例えばEPMA(Electron Probe Micro Analyser)による線分析で特定できる。
<物性>
次に、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具用のタングステン基耐熱合金の物性について説明する。
本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金の強度は、室温におけるビッカース硬度(室温硬度)が550Hv以上、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上である。
タングステン基耐熱合金をこのような物性にすることにより、タングステン基耐熱合金を例えばFe系、FeCr系、Ti系用等の摩擦攪拌接合部材のような、高融点、高強度が要求される耐熱部材に適用することができる。
なお、ここでいう0.2%耐力(曲げ相当)とは、曲げ試験を行い、永久ひずみ量が0.2%となる場合の応力を示すものであり、以下「0.2%耐力(曲げ相当)」と記載する。
実際に工具として使用する場合、まず室温にて工具を接合対象材料に強く押し込みながら回転させ、摩擦熱により接合対象物の温度を上昇させる。よつて、回転初期の母材の変形、破壊または母材と被覆膜との剥離がないように、母材の室温硬度が高い(550Hv以上である)ことが必要である。本発明がタングステン「耐熱」合金であるにも関わらず、室温硬度を条件にしているのは、この理由によるものである。
また、上記タングステン基耐熱合金は、1000℃におけるビッカース硬度が190Hv以上であることが好ましい。190Hv以上とすることによって、摩擦攪拌接合工具として用いる場合の連続使用時の摩耗をより抑制することができる。
以上がタングステン基耐熱合金の条件である。
<被覆層>
本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金を摩擦攪拌接合工具の基材として用いる場合、工具の摩耗量が工具材料の硬度と密接な関係にあり、硬度が高いほど工具摩耗量を少なくできる効果がある。摩擦攪拌接合の場合、ツールを挿入する際に工具への高い負荷が生じるため、挿入時の摩耗が顕著に現れる。挿入時はまだ工具もワークも発熱が少なく、両者の温度も高くはなっていないため、工具の摩耗量は、室温の硬度に依存しやすい。
さらに、室温硬度だけでなく、本発明のタングステン基耐熱合金は、特にステンレスの摩擦攪拌接合用工具として用いられた場合、高温環境においてステンレス中に含まれるCr成分とタングステンとが反応して、タングステン基耐熱合金表面にWとCrの反応層からなる強固な凝着が生じやすく、この凝着が生成と脱離を繰り返すことで摩耗の増大やチッピングを生じやすい。このため、ステンレスとタングステン基耐熱合金が直接に接触することを防ぐ被覆層を設けることが好ましい。本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金は、摩擦攪拌接合工具そのものとして使用される場合もあるが、多くの場合は摩擦攪拌接合工具母材として使用され、周期律表4A、5A、6A、3B族元素およびC以外の4B族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を含む被膜が表面に被覆され工具とされる。
前記被覆層のうち、ステンレスの摩擦攪拌接合用工具の被覆層として特に優れた性能を発揮するのは、前記被覆層が窒化物の場合であり、金属成分としてTiを50〜96at%、Siを1〜20at%、Ta、Nb、Cr、W、Moからなる群より選ばれた少なくとも1種を1〜30at%含む組成の場合に特に優れた性能を発揮する。Tiの窒化物が被覆層の主成分となると、耐摩耗性と耐チッピング性のバランスに優れ、さらにSiを3〜20at%、Ta、Nb、Cr、W、Moから選ばれた少なくとも一種類の元素を1〜30at%含む場合は、特に優れた耐熱性と耐溶着性を兼備できるため好ましい。Siを1〜20at%と限定した理由は、Siが1at%よりも少ないと添加効果が小さく、20at%よりも多いと耐摩耗性の改善効果が小さくなるためである。Siの添加量が10at%を超えると膜硬度が上昇し、耐チッピング性が低下しやすく、特に好ましいのはSiを1〜10at%含む場合である。Ta、Nb、Cr、W、Moを1〜30at%と限定した理由は、Ta、Nb、Cr、W、Moの合計含有量が1at%よりも少ないと添加効果が小さく、30at%よりも多いと耐摩耗性の改善効果が小さくなり、耐チッピング性が低下しやすいためである。本明細書における「ステンレス」とは鉄(Fe)を主成分(50at%以上)とし、クロム(Cr)を10.5at%以上含む合金鋼である。
上記の通り、鋼材料を摩擦攪拌接合する場合、被覆層がないとツールの摩耗量は非常に大きなものとなり、特にステンレスを摩擦攪拌接合する場合には被覆層の組成の選択は慎重に行う必要がある。一般に鋼用切削工具の被覆層にはTiAlN、AlCrN、AlTiSiNなどのAlを含む組成の被覆層が利用されることが多い。しかし、ステンレスの摩擦攪拌接合の場合には、被覆層にAlが含まれているとツール摩耗が促進されることを本発明者らは知見した。そこで、本発明者らは、ステンレスの摩擦攪拌接合用工具に用いられる耐摩耗性、耐溶着性に優れる被覆層として、Alを含まずTiを50〜96at%、Siを1〜20at%、Ta、Nb、Cr、W、Moから選ばれた少なくとも一種類の元素を1〜30at%含む組成の被覆層を見出したのである。
この被覆層が優れた耐摩耗性と耐溶着性を発現できるメカニズムの詳細は不明であるが、ステンレスの摩擦撹拌接合では、溶着が起こりやすく、摩擦熱により被覆層成分が酸化して生じた硬質のアルミナを成長した溶着がツール表面から引きはがし、工具表面を擦過して工具自身の摩耗を促進するのに対し、本発明の実施形態に係るTiを50〜96at%、Siを1〜20at%、Ta、Nb、Cr、W、Moから選ばれた少なくとも一種類の元素を1〜30at%含む組成の被覆層は、被覆層が酸化したときに硬質のアルミナを形成せず、溶着物とともに硬質物質が工具表面を擦過して工具自身の摩耗を促進する現象を抑制できたためであると考えている。
前記被覆層のナノインデンター硬度は20GPa以上50GPa以下、ヤング率は250GPa以上600GPa以下、残留応力は−5GPa以上−0.5GPa以下、面粗さRaは0.01μm以上0.1μm以下である。
被覆層の厚みが0.5μm以上であれば、耐摩耗性を向上させる効果が特に大きくなる。厚みが10μm以下であれば、耐チッピング性を高くする効果が特に大きくなる。より好ましい厚みは2−8μmである。
被覆層のナノインデンター硬度が20GPa以上であれば耐摩耗性が特に高くなる。ナノインデンター硬度が50GPa以下であれば、耐チッピング性を高くする効果が特に大きくなる。より好ましいナノインデンター硬度は25GPa以上40GPa以下である。
被覆層の残留応力が−5GPa以上であれば膜の耐剥離性が特に大きくなる。被覆層の残留応力が0.5GPa以下であれば、耐チッピング性を高くする効果が特に大きくなる。より好ましい残留応力は−4GPa以上−1GPa以下である。
被覆層の面粗さRaは0.01μm以上であれば生産性が著しく向上する。面粗さRaが0.1μm以下であれば耐剥離性および耐チッピング性を特に向上されることができる。より好ましい面粗さRaは0.02μm以上0.06μm以下である。
<製造方法>
次に、本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金およびそれを用いた摩擦攪拌接合工具の製造方法について、図2を参照して説明する。
本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金およびそれを用いた摩擦攪拌接合工具の製造方法については、上記した条件を満たす摩擦攪拌接合工具が製造できるものであれば、特に限定されるものではないが、図2に示すような方法を例示することができる。
まず、原料粉末を所定の比率で混合して混合粉末を生成する(図2のS1)。
原料としては、W粉末およびTiCN粉末(または炭窒化チタン、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウム等の炭窒化物粉末)、5A族の炭化物粉末が挙げられるが、以下、各粉末の条件について、簡単に説明する。
W粉末は純度99.99質量%以上、Fsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)平均粒径0.1μm〜5.0μmのものを用いるのが好ましい。
なお、ここでいうW粉末純度とは、JIS H 1403(2001)記載のタングステン材料の分析方法により得たものであり、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Si、Snの値を除いた金属純分を意味する。
炭窒化物粉末は、純度99.9%以上、Fsss平均粒径2μm〜3μmのものを用いるのが好ましい。
炭化物粉末も、純度99.9%以上、Fsss平均粒径2μm〜3μmのものを用いるのが好ましい。
なお、ここでいう炭窒化物粉末の純度とは、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Si、Snを除いた純分を意味する。
また、粉末の混合に用いる装置や方法については特に限定されることはなく、例えば、乳鉢、V型ミキサー、ボールミルなど公知の混合機を使用することができる。
次に、得られた混合粉末を圧縮成形し、成形体を形成する(図2のS2)。
圧縮成形に用いる装置は特に限定されるものではなく、一軸式プレス機やCIP(Cold Isostatic Pressing)など公知の成形機を使用すればよい。圧縮の際の条件としては、圧縮の際の温度は室温(20℃)でよい。
一方、成形圧はCIPの場合、98〜294MPa(室温)であるのが好ましい。これは、成形圧が98MPa未満の場合は成形体が十分な密度を得られず、また、294MPaを超えると、圧縮装置と金型が大型化し、コスト面で不利になるためである。
次に、得られた成形体を加熱し、焼結する(図2のS3)。
具体的には、常圧焼結で、焼結温度を1800℃以上、2000℃以下とするのが望ましい。
これは、加熱温度が1800℃未満の場合、焼結不十分となり焼結体の密度が低くなるためであり、また、加熱温度が2000℃より高いと、炭窒化物の分解が進行することにより巨大柱状結晶粒の成長へと至り、その結果タングステン基耐熱合金の強度が低下してしまうためである。そのため、焼結する際には、1800℃以上、2000℃以下で焼結するのが好ましい。さらに、高温強度をより高めるという観点から、より好ましい焼結温度は、1900℃以上2000℃以下である。
次に、得られた焼結体の相対密度が95%程度であった場合には、不活性雰囲気にて熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing 以降HIPとも呼ぶ)することが好ましい。(図2のS4)。ただし、得られた焼結体の相対密度が96%以上となっていれば、HIPを省略しても室温硬度や高温での0.2%耐力を低下させることはほとんどない。
HIPを行う際の具体的な加圧条件としては、温度1400〜1800℃、圧力152.0〜253.3MPaの不活性雰囲気で、HIP処理を行うのが好ましい。これは、この範囲を下回ると密度が上がらなくなり、上回ると大型装置が必要となり製造コストに影響するためである。
このようにして得られた摩擦攪拌接合工具の素材は、切削、研削・研磨、コーティング等の加工を経て(図2のS5)、摩擦攪拌接合工具が作製される。
以上が本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金とそれを用いた摩擦攪拌接合工具の製造方法である。
<摩擦攪拌接合工具>
本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具を形成するタングステン基耐熱合金は、上記の構成を有するものであるが、ここで、本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金を用いた摩擦攪拌接合工具の構成について、図3を参照して簡単に説明する。
図3は本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合工具としての、被覆層を有する耐熱合金製工具101を示す側面図である。
図3に示すように、被覆層を有する耐熱合金製工具101は、接合装置の図示しない主軸と連結されるシャンク102と、接合時に接合対象物の表面と接触するショルダー部103と、接合時に接合対象物に挿入されるピン部104を有している。
このうち、少なくともショルダー部103とピン部104の母材は、本発明に係るタングステン基耐熱合金で形成される。
また、摩擦攪拌接合工具が使用中の温度によって酸化、また接合対象物と溶着することのないように、タングステン基耐熱合金の表面に周期律表4A、5A、6A、3B族元素およびC以外の4B族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を含む被膜が表面に被覆されるのが好ましい。被膜層の厚さは、1〜20μmが好ましい。被膜層の厚さが1μm以上であれば、被膜層を設けたことによる効果が顕在化する。一方で、被膜層の厚さが20μm以下の場合は、膜の剥離を特に効率的に防止することができる。その結果、歩留まりを向上させることができる。
このような被膜(コーティング層)としては、TiC、TiN、TiCN、ZrC、ZrN、ZrCN、VC、VN、VCN、CrC、CrN、CrCN、TiAlN、TiSiN、TiCrN、および少なくともこれらの内の2層以上を含む多層膜を有するものが挙げられる。ここで、コーティング層の各元素の組成比率は任意に設定できる。上記TiCNも本願発明に記載のTiC1−x(x=0.3〜0.7)のX値に限定されるものではない。
コーティング層の形成方法は、特に限定されることなく、公知の方法で被膜形成できる。代表的な方法として、アークイオンプレーティングやスパッタリングなどのPVD(Physical Vapor Deposition)処理、化学反応によりコーティングするCVD(Chemical Vapor Deposition)処理、ガス状元素をプラズマにより分解、イオン化しコーティングするプラズマCVD処理などがあるが、いずれの方法でも単層膜から多層膜まで処理可能であり、本願発明のタングステン基耐熱合金を母材とした場合に、優れた密着性を発揮できる。
このように、本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金はWを主成分とする第1の相1と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相2と、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相3と、を有し、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上であり、1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上である。
そのため、本発明の実施形態に係るタングステン基耐熱合金を用いた摩擦攪拌接合工具は従来よりも接合対象物(加工対象物)の高融点化に対応した耐力や硬度等の物性と実用性の双方を充足する。
[実施例]
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
まず、Wに炭窒化物としてTiCNを10体積%、5A族炭化物としてNbCを2.5体積%配合した合金を作製し、硬度の測定および曲げ試験を行った。具体的な手順は以下の通りである。
<試料(タングステン基耐熱合金)の作製>
まず、原料として、W粉末、TiCN粉末、NbC粉末を用意した。具体的には、W粉末はアライドマテリアル製の純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒径が1.2μmのものを用いた。
さらに、TiCN粉末には、株式会社アライドマテリアル製のTiCN粉末・品種名5OR08で、純度99.9質量%以上、Fsss法による平均粒径が0.8μmのものを用いた。
また、NbC粉末は和光純薬工業製の和光一級NbC粉末で、平均粒径が1μm〜3μmの粉末を用いた。
次に、TiCN、NbC、Wの体積比が10体積%、2.5体積%および残部となるように各々の粉末を配合した。これらの粉末を乳鉢で混合して混合粉末を作製した。一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧294MPaの条件下で加圧して成形体を得た。
次に、得られた成形体を常圧水素雰囲気下にて温度2000℃で加熱し、相対密度95%以上の焼結体を得た。
さらに、焼結体を処理温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理し、相対密度約99%のタングステン基耐熱合金を製作した。
<試料の組成の分析>
次に、作製したタングステン基耐熱合金について、電子顕微鏡による組織観察、およびEPMAによる組織の組成分析(合金の複数個所で実施)を行った。測定条件は以下の通りである。
EPMAによる線分析の分析条件
装置 :EPMA1720H(島津製作所製)
加速電圧 :15kV
ビーム電流 :20nA
ビームサイズ :1μm
測定倍率 :5000倍
積分時間 :20s/point
図4に電子顕微鏡写真を模した図を示す。
また、観察された組織の組成を表1に示す。組成は図4の3か所において、EPMAで特定した。
なお、ここでいう組成とは、各組織中のW、Ti、Nb、C、Nの割合を示す。表1において第1から第3の相の組成は範囲を有している。たとえば、第1の相のWの組成は85−95%である。これは、EPMAで3か所の組成を分析し、測定箇所によって組成が異なるからである。
EPMAでは観測箇所における組成比を特定できるが、化合状態(例えばC,NはTiと化合してTiCNを形成しているかどうか)を特定するはできない。そのため、表1における「第1の相」とはWを主成分とする相と定義される。表1における「第2の相」とはWを除くとTiを主成分とする相と定義される。表1における「第3の相」とはWを除くとNbを主成分とする相と定義される。
次に、試料における金属成分とC,Nとの化合状態を、X線回折装置により調べた。
測定条件は以下の通りである。
装置:PANalytical製X線回折装置(Empyrean)
管球:Cu(KαX線回折)
ソーラースリット:0.04rad
発散スリットの開き角:1/2°
散乱スリットの開き角1°
管電流:40mA
管電圧:45kV
スキャンスピード:0.33°/min
図5に、X線回折により得られた回折ピークの例を示す。WのピークはWCのピークよりもはるかに大きい。これは、Wの大部分が金属形態で存在し、少量のWがCと化合してWCを形成していることが分かった。そのため、第1の相は、Wを主成分とすることが分かった。
TiCNのピークは検出されたが、Ti、TiN、TiCのピークはほとんど検出されなかった。この結果により、ほぼすべてのTiはTiCNとして存在していることが分かった。第2の相の主成分はTiCNであることが分かった。
NbCのピークは検出されたが、Nb、NbN、NbCNのピークはほとんど検出されなかった。この結果により、ほぼすべてのNbはNbCとして存在していることが分かった。第3の相の主成分はNbCであることが分かった。
タングステン基耐熱合金中のW、Tiの炭窒化物およびNbの炭化物の含有量(体積%)をICPを用いて調べた。ICPで金属元素の質量比を求め、上記の<質量%から体積%への換算>の欄で記載した方法で体積比を求めた。その結果、出発物質における配合比(TiCN,NbC,Wの体積比が10体積%、2.5体積%および残部)と同じであった。
以上の評価から、作製したタングステン基耐熱合金には、Wを主成分とする第1の相1と、Tiの炭窒化物を有し、Wを除いた場合にTiの炭窒化物を主成分とする第2の相2と、Nbの炭化物を有し、Wを除いた場合にNbの炭化物を主成分とする第3の相3が形成されていた。
<硬度測定>
次に、得られたタングステン基耐熱合金の硬度測定を行った。
具体的には(株)アカシ製マイクロビッカース硬度計(型番:AVK)を用い、測定圧子をダイヤモンドとし、大気中で20℃および1200℃にて測定荷重20kgを15秒間、試料に対して加えることにより、ビッカース硬度を測定した。測定点数は5点とし、平均値を算出した。結果は以下の通りである。
室温硬度:580Hv
1000℃におけるビッカース硬度:220Hv
<高温強度測定>
次に、得られた合金の高温強度を評価した。
摩擦攪拌接合工具は、回転しながら工具の横移動により接合を実施するため、高温での回転曲げに対する強度が必要であるが、高温回転曲げ試験は特殊である。そのためここでは単純曲げ試験により高温強度を評価した。さらに摩擦攪拌接合工具は耐変形性が要求されるため、同じ歪量での評価を実施することを目的として便宜上0.2%の歪を生じた際の応力、すなわち0.2%耐力(曲げ相当)を用いた(一般に0.2%耐力は引張試験時、降伏点が不明瞭な材料の評価に使用される)。
0.2%耐力(曲げ相当)は、以下の手順により測定した。
まず、タングステン基耐熱合金の試料片を長さ:約25mm、幅:2.5mm、厚さ:1.0mmとなるように加工し、表面を#600のSiC研磨紙を用いて研磨した。
次に、図6および図7に示す模式図のように試料片11をピン13の間隔が16mmとなるようにインストロン社製高温万能試験機(型番:5867型)にセットし、Ar雰囲気下で、1200℃で、クロスヘッドスピード1mm/minでヘッド15を試料に押し付けて、3点曲げ試験を行い、0.2%耐力(曲げ相当)を測定した。0.2%耐力(曲げ相当)は、3点曲げ試験における曲げ応力と歪みを下記の式を用いて算出して応力歪み線図を描き、0.2%の永久歪みが生じる応力を解析することによって求めた。
曲げ応力=3FL/2bh
曲げ歪み=600sh/L
ここで、F:試験荷重(N)、L:支点間距離(mm)、b:試験片の幅(mm)、h:試験片の厚さ(mm)、s:たわみ量(mm)である。
さらに、上記測定で荷重とたわみ量との関係が得られるので、破断したときのたわみ量を読み取り、靭性を評価した。ただし、たわみ量は6mm以内が装置限界であり、6mmに達した場合は測定を中断しフルベンドとして扱うことにした。
なお、曲げ試験での0.2%耐力が得られる前(破断撓み0.4mm以下)で破断した場合を脆性破断と規定する。
結果は以下の通りである。
1200℃における3点曲げ試験での0.2%耐力:1150MPa
1200℃における3点曲げ試験での破断撓み:6mm以上(装置限界が6mm)
この結果から、従来では困難とされていた、室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、1000℃におけるビッカース硬度が190Hv以上であり、1200℃における3点曲げ試験による破断撓みが1mm以上であり、0.2%耐力が900MPa以上であるタングステン基耐熱合金が得られることが分かった。
(比較例1)
合金の組成をW−10.5体積%TiCN−1.5体積%HfCとし、その他の条件は実施例1と同様の条件でタングステン基耐熱合金(試料2D−2F)の作製および試験を行った。即ち、5A族元素の炭化物を添加せず、代わりに4A族元素(Hf)の炭化物を添加したタングステン基耐熱合金の作製および試験を行った。HfC粉末は、高純度化学研究所製のHfC粉末で、Fsss法による平均粒径が0.9μmの粉末を用いた。
図8に電子顕微鏡写真を模した図を示す。
また、観察された組織の組成を表2に示す。組成はEPMAで特定した。
なお、ここでいう組成とは、各組織中のW、Ti、Hf、C、Nの割合を示す。表2において第1から第3の相の組成は範囲を有している。これは、EPMAで複数個所の組成を分析し、測定箇所によって組成が異なるからである。
EPMAでは観測箇所における組成比を特定できるが、化合状態(例えばC,NはTiと化合してTiCNを形成しているかどうか)を特定するはできない。そのため、表2における「第1の相」とはWを主成分とする相と定義される。表2における「第2の相」とはWを除くとTiを主成分とする相と定義される。表1における「第3の相」とはWを除くとHfを主成分とする相と定義される。
一方で、図8に示すように、試料は粉末形状が維持されており、焼結が進んでいないことがわかった。これは、4A族の同族の元素であるTiとHfを、それぞれ炭窒化物と炭化物の状態で添加したことにより、TiCN中の窒素の拡散および4A族の元素の互いの拡散が阻害され、焼結の進行が阻害されたためだと考えられる。焼結が進行していなかったので、X線回折による化合物の特定を実施しなかった。
(実施例2)
<試料(タングステン基耐熱合金)の作製>
種々の組成にて合金の作製を行いその他の条件は実施例1と同様の条件でタングステン基耐熱合金の試料1−64を作製した。出発物質の添加量を表3および4に示す。
表3および4における「添加量」の欄に記載された組成(TiCN、ZrCN、…TaC)および体積割合の粉末、およびWの粉末を混合した。1つの試料について表3および4における各化合物の添加量を合計すると100%未満となる。これは、Wの添加量が表3および4で示されていないからである。
W粉末として、アライドマテリアル製のW粉末(品種名A20、B20、C20、D10、D20等:Fsss法で測定した平均粒径0.5〜7.5μm)を用いた。
TiCN粉末として、アライドマテリアル製のTiCN粉末(品種名5OR08、5MP15、5MP30:Fsss法で測定した平均粒径0.8〜3.0μm)を用いた。
ZrCN粉末として、アライドマテリアル製のZrCN粉末(品種名、5OV25)を用いた。Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmであった。
HfCN粉末として、本発明者が試作した、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmの粉末を用いた。
VC粉末として、アライドマテリアル製のVC粉末(品種名OR10)を用いた。Fsss法で測定した平均粒径は、1.2μm以下であった。
NbC粉末として、日本新金属製のNbC粉末を用いた。Fsss法で測定した平均粒径は、1.0−3.0μmであった。
TaC粉末として、日本新金属製のTaC粉末を用いた。Fsss法で測定した平均粒径は、2.0μmであった。
<試料の組成の分析>
試料1−64に関して、EPMAで表面の組成を調べた。Wを主成分とする部分を第1の相とし、Wを除いた場合にTi、Zr、Hfのいずれかを主成分とする部分を第2の相とし、Wを除いた場合に周期律表5A族元素を主成分とする部分を第3の相とした。
試料1−64に対して、実施例1と同様のX線回折装置を用いて金属成分とC,Nとの化合状態を調べた。その結果、第1の相ではWが主成分、第2の相ではWを除いた場合にTi、Zr、Hfのいずれかの炭窒化物が主成分、第3の相ではWを除いた場合に周期律表5A族元素の炭化物が主成分であることが確認された。
第1の相のWの平均粒径、第2の相のTi、Zr、Hfのいずれかの炭窒化物の平均粒径、第3の相の周期律表5A族元素の炭化物の平均粒径をインターセプト法で測定した。その結果も表3および4に示す。
第1から3の相の主成分の結晶粒径は、以下の方法で制御した。
第1の相の主成分はWである。このWの結晶粒径の制御は出発物質であるW粉末における結晶粒径、および焼結時間を制御することにより行うことができる。
第2の相のTi、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物の結晶粒径の制御は、出発物質である炭窒化物粉末における結晶粒径、および焼結時間を制御することにより行われる。
第3の相の周期律表5A族元素の炭化物の結晶粒径の制御は、出発物質である炭化物粉末における結晶粒径、および焼結時間を制御することにより行われる。
また、表3および4に示したタングステン基耐熱合金のうち、試料番号1、15を除いたすべてのタングステン基耐熱合金には、Wを主成分とする第1の相1と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相2と、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相3が形成されていた。
タングステン基耐熱合金中のW、Tiの炭窒化物およびNbの炭化物の含有量(体積%)をICPを用いて調べた。ICPで金属元素の質量比を求め、上記の<質量%から体積%への換算>の欄で記載した方法で体積比を求めた。出発物質における配合比(表3、表4中の「添加量vol%」の欄に記載)と同じであった。
表より、以下の点が分かった。
まず、周期律表4A族のTi、Zr、Hfのいずれの炭窒化物を添加しても、タングステン基耐熱合金の物性としてはほぼ同等のものが得られた。また、上記4A族の炭窒化物の体積%は、タングステン基耐熱合金の室温硬度、高温強度および延性を高めるという観点から、さらには高温強度を高めるという観点から、5体積%以上、25体積%以下とするのが望ましく、5体積%以上、20体積%以下とするのがさらに望ましいことがわかった。
次に、5A族のV、Nb、Taのいずれかの炭化物の体積%は、タングステン基耐熱合金の室温硬度、高温強度および延性を高めるという観点から、さらには高温強度を高めるという観点から、0.5体積%以上、15体積%以下とするのが望ましく、1体積%以上、13体積%以下とするのがさらに望ましいことがわかった。
次に、各相の結晶の平均粒径は、タングステン基耐熱合金の室温硬度、高温強度および延性を高めるという観点から、さらには高温強度を高めるという観点から、0.1μm以上、10μm以下とすることが望ましく、0.5μm以上、8μm以下とするのがさらに望ましいことが分かった。
(参考例)
これまでの実施例および比較例は組成を体積%で表してきたが、質量%で表すことも可能である。以下の例は質量%で組成を表した場合のものである。
(参考例1)
まず、合金中の炭窒化物の含有量と合金の物性の関係を調べるために、予備試験として、Wに炭窒化物のみを添加したタングステン基耐熱合金を作製し、室温硬度の測定および高温での曲げ試験を行った。具体的な手順は以下の通りである。
<試料の作製>
まず、原料として、母材(第1の相1)としてのW粉末を、炭窒化物としてのTiCN粉末、ZrCN粉末、HfCN粉末を用意した。具体的には、W粉末はアライドマテリアル製の純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒径が1.2μmのものを用いた。
さらに、TiCN粉末には、株式会社アライドマテリアル製のTiCN粉末・品種名5OR08で、純度99.9質量%以上、Fsss法による平均粒径が0.8μmのものを用いた。
また、ZrCN粉末にはアライドマテリアル製のZrCN粉末・品種名、5OV25で、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmのものを用いた。
さらに、HfCN粉末は本出願人が試作した、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmの粉末を用いた。
成形性を促進するバインダーとしてパラフィンを用い、W粉末に対し、TiCN粉末、ZrCN粉末、HfCN粉末のいずれかを表5に示す割合で添加した。
次に、これらの粉末を乳鉢で混合して混合粉末を作製し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cmの条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
次に、得られた成形体を水素雰囲気下(大気圧)にて温度1900℃で加熱し、相対密度90%以上の焼結体を得た。
さらに、焼結体を処理温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理し、相対密度約98%のタングステン基耐熱合金を製作した。
なお、作製した試料中の各元素の含有量は実施例と同様に行った。
<硬度測定>
次に、得られたタングステン基耐熱合金の硬度測定を実施例と同様の条件で行った。
結果を表5に示す。
表5から明らかなように、合金中の炭窒化物の含有量が増えるに従い、炭窒化物の構成元素の1つである金属元素の含有量が高くなり、室温硬度が高くなった。表5における「炭窒化物の元素含有量」とは、炭窒化物として存在する金属炭窒化物の金属の割合をいう。「炭窒化物への換算量」とはその金属が完全に炭窒化物として存在する場合の、その炭窒化物の割合をいう。
一方で、炭窒化物の構成元素の1つである金属元素の含有量が1質量%未満の場合、合金の硬度が純タングステンの硬度(Hv400程度)と同程度であり、炭窒化物を添加する効果が十分に得られないことが分かった。
<高温強度測定>
次に、0.2%耐力(曲げ相当)、抗析力、たわみ量を、実施例と同様の手順により測定した。
結果を表6に示す。
表6から明らかなように、Wに7.6質量%を超えてTiを含有させると、脆性破断を起こすため、合金中のTiの含有量の上限は7.6質量%以下とするのがより望ましいことが分かった。
なお、これらの試験で得られた焼結体の炭窒化物の平均粒径は0.7μm、タングステンの平均粒径は0.8μmであった。なお、炭窒化物としてZrCN、HfCNも用いた場合も、TiCNと同等の室温硬度と高温強度が得られた。
(参考例2)
次に、炭窒化物に加えて5A族炭化物を添加してタングステン基耐熱合金を作製し、合金の組織観察、各相の組成、物性測定を行った。具体的な手順は以下の通りである。
まず、原料として、第1の相1としてのW粉末、第2の相2の炭窒化物としてのTiCN粉末、ZrCN粉末、HfCN粉末を、第3の相3の炭化物としてのNbC粉末、TaC粉末、VC粉末を用意した。
具体的には、W粉末はアライドマテリアル製の純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒径が1.2μmのものを用いた。
さらに、TiCN粉末には、株式会社アライドマテリアル製のTiCN粉末・品種名5OR08で、純度99.9質量%以上、Fsss法による平均粒径が0.8μmのものを用いた。
また、ZrCN粉末にはアライドマテリアル製のZrCN粉末・品種名、5OV25で、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmのものを用いた。
さらに、HfCN粉末は本出願人が試作した、Fsss法による平均粒径が2.0μm〜3.0μmの粉末を用いた。
一方、NbC粉末としては和光純薬工業製の和光一級NbC粉末で、平均粒径が1μm〜3μmの粉末を用いた。
また、TaC粉末としては高純度化学研究所製TaC粉末で純度99%、平均粒径2μmのものを用いた。
さらに、VC粉末としては、アライドマテリアル製のVC粉末・品種名、OR10で、Fsss法による平均粒径が1.2μm以下の粉末を用いた。
次に、上記粉末を所定の割合で乳鉢を用いて混合して混合粉末を作製し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧294MPaの条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
次に、得られた成形体を水素雰囲気下(大気圧)で温度1900℃または2000℃で加熱し、相対密度90%以上の焼結体を得た。
さらに、焼結体を処理温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理し、相対密度約99%のタングステン基耐熱合金が完成した。
作製したタングステン基耐熱合金のうち、組成がW−3質量%TiCN−1質量%NbC(焼結温度2000℃または1900℃)、W−3質量%TiCN−1質量%HfC(焼結温度1900℃)の試料について、電子顕微鏡による組織観察およびEPMAによる組織の組成分析を行った。測定条件は以下の通りである。
EPMAによる線分析の分析条件
装置 :EPMA1720H(島津製作所製)
加速電圧 :15kV
ビーム電流 :20nA
ビームサイズ :1μm
測定倍率 :5000倍
積分時間 :20s/point
組成がW−3質量%TiCN−1質量%HfC(焼結温度1900℃)の試料の電子顕微鏡写真を図9に、それぞれ示す。
上記試料で観察された組織の組成を表7に示す。なお、ここでいう組成とは、各組織中のW、Ti、Nb、C、Nの割合を示す。
図9および表7に示すように、試料には、第1の相1、第2の相2、第3の相3に加えて、第2の相2、第3の相3の周囲に別の相が観察された。
この相の組成は第1の相1と第2の相2または第3の相3の組成の中間の組成であったため、第4の相4に該当することが分かった。
次に、同じ組成で焼結温度2000℃の試料も作製したが、この試料では第4の相4に相当する相が観察されなかった。よって焼結温度を下げると第4の相4が現れやすくなると考えられる。
(参考例3)
組成としてW−TiCN−NbCを選択し、TiCNの添加量を3質量%、NbCの添加量を0.1〜1質量%、焼結温度を2000℃とし、他の条件は参考例2と同様の条件でタングステン基耐熱合金を作製し、参考例1および参考例2と同じ条件で室温硬度および高温強度を測定した。結果を表8に示す。
(実施例3)
<摩擦攪拌接合試験>
実施例2で作製したタングステン基耐熱合金を用いて、図3に示す形状の摩擦撹拌接合用工具(ショルダー径15mm、ピン上端径3.5mm、ピン下端径6mm、ピン高さ1.7mm)を♯800のダイヤモンド研削砥石で加工して準備した。
このツール表面に、アークイオンプレーティング装置を用いて、表9に示す組成の被覆層TiAlN、TiSiN、TiNbSiN、TiTaSiN,TiCrSiN,TiWSiN,TiMoSiNを4μm被覆して、被覆摩擦撹拌接合用工具を作製した。
摩擦攪拌接合試験は、SUS304オーステナイト系ステンレス板に対して、接合条件として、ツール回転速度200rpm、送り速度1mm/sec、挿入量1.8mm、挿入角度3°、1パスの長さ450mmにて、シールドガスにArを用いて、評価を進めた。1パス終了ごとに工具の外形形状を測定し、工具寿命は、摩耗により失われた工具断面積(工具の回転軸を含む縦断面で判断)が2.0mmに達した時の工具の走行距離とした。
試料の特性および試験結果を表10、表11に示す。
表9の測定は日本電子製走査電子顕微鏡JSM−6490LA附属のEDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)検出器JED−2300により行った。加速電圧15kV、観察倍率1000倍にて組成分析を行った。窒素成分を除いて金属成分のみでの成分比として表現した(EDS:Energy Dispersive x−ray Spectroscopy)。
表10における被覆層のナノインデンター硬度及び弾性率の測定は、エリオニクス製ダイナミック硬度計ENT1100aにより、荷重300gにて行った。残留応力の測定は、超硬合金製試験片の片側に膜被覆を行い、膜被覆後に生じた試験片の反り量からStoneyの式を用いて算出する方法により行った。残留応力の符号がマイナスであれば圧縮応力、プラスであれば引張応力を示す。被覆層の面粗さの測定は、東京精密製surfcom480Aにより、評価長さ1.5mm、測定速度0.075mm/sec、カットオフ値0.25mmの条件にて行った。
SUS304は溶着が起こりやすく、被覆層なしでは短寿命であったが、被覆層を設けるといずれの膜も寿命が延長できた。しかし、その中でもTiAlNは早期に膜剥離が生じたため被覆層なしに比べ寿命は倍増程度であったが、TiSiN、TiNbSiN、TiTaSiN、TiCrSiN、TiMoSiN、TiWSiNは剥離が生じず、被覆層なしに比べ4〜5倍の優れた耐久性を示した。特にNb、Ta、Cr、Mo、W入りのTiSiNはNb、Ta、Cr、Mo、Wが無添加のTiSiNよりも耐摩耗性に優れ、特に優れた耐久性を示した。これは、Nb、Ta、Cr、Mo、W添加により被覆層の硬度と耐熱性が向上した上に、ヤング率が小さくなって基材の熱変形に伴う剥離が発生しにくくなった効果であると考えられた。
これに対し、本発明外品である基材1、2、29、14の工具については、被覆を行ってもノンコート品と比べて長寿命化は確認できなかった。中でも基材14、29については初期欠損が生じた。これは、これらの基材は1200℃における3点曲げ試験での0.2%耐力で脆性破断した現象と相関があるように思われた。
以上、実施の形態および実施例について説明したが、この発明はさまざまに変形することが可能である。まず、上記の実施の形態および実施例では、第1の相から第3の相が設けられている例が示されているが、必ずしも第1から第3の相が設けられている必要は無い。第1から第3の相の境界が明確でなくてもよい。さらに、第1の相から第4の相以外の別の相が設けられていてもよい。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
以上、本発明を実施形態および実施例に基づき説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されることはない。
当業者であれば、本発明の範囲内で各種変形例や改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明の範囲に属するものと了解される。
1 第1の相、2 第2の相、3 第3の相、4 第4の相、11 試料片、13 ピン、15 ヘッド、101 摩擦攪拌接合工具、102 シャンク、103 ショルダー部、104 ピン部。

Claims (9)

  1. タングステン基耐熱合金と、
    前記タングステン基耐熱合金の上に形成された被覆層とを備え、
    前記タングステン基耐熱合金は、
    Wを主成分とし、Ti、ZrおよびHfからなる群より選ばれた少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、
    室温におけるビッカース硬度が550Hv以上であり、
    1200℃における3点曲げ試験により破断に至る変位が1mm以上であり、
    1200℃における3点曲げ試験による0.2%耐力が900MPa以上であり、
    前記被覆層は窒化物を含み、金属成分としてTiを50〜96at%、Siを1〜20at%、Ta、Nb、Cr、W、Moから選ばれた元素のうち少なくとも一種を1〜30at%含む、被覆層を有する耐熱合金製工具。
  2. 前記被覆層のナノインデンター硬度は20GPa以上50GPa以下、前記被覆層のヤング率は250GPa以上600GPa以下、前記被覆層の残留応力は−5GPa以上−0.5GPa以下、前記被覆層の面粗さRaは0.01μm以上0.1μm以下である、請求項1に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具。
  3. 前記タングステン基耐熱合金中のTi、Zr、Hfの炭窒化物の合計の含有量は5体積%以上、25体積%以下である、請求項1または2に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具。
  4. 前記周期律表5A族元素の含有量は、0.5体積%以上15体積%以下である、請求項1からのいずれか1項に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具。
  5. 前記タングステン基耐熱合金は、
    Wを主成分とする第1の相と、
    Wを含み、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの元素の炭窒化物を有し、Wを除いた場合に前記炭窒化物を主成分とする第2の相と、
    Wを含み、周期律表5A族元素の少なくとも1つの元素の炭化物を有し、Wを除いた場合に前記炭化物を主成分とする第3の相と、を有する、請求項1からのいずれか1項に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具。
  6. 前記第1の相、前記第2の相、および前記第3の相の平均結晶粒径が0.1μm以上10μm以下である、請求項に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具。
  7. 前記被覆層を有する耐熱合金製工具は、摩擦攪拌接合用工具である、請求項1からのいずれか1項に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具。
  8. 前記被覆層を有する耐熱合金製工具は、ステンレスの摩擦攪拌接合に用いられる請求項に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具。
  9. 請求項1からのいずれか1項に記載の被覆層を有する耐熱合金製工具を有する、加工装置。
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