JP6577193B2 - 転がり軸受用保持器および転がり軸受 - Google Patents
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Description
特許文献2に記載のフッ素樹脂被膜は、フッ素樹脂の架橋反応およびフッ素樹脂と基材表面との化学反応を同時に生じさせ、それによって両者の強固な接着を達成することを目的としており、転がり軸受や保持器などの鉄基材の場合、基材表面との化学反応を生成することが困難であり、強固な接着は達成できないという問題がある。
特許文献3に記載の摺動部材は、無潤滑軸受やダイナミックシール等に使用され、被膜の形状ではなくフッ素樹脂からなる摺動部材に関する。そのため、被覆材としての特性は不明であり、更に潤滑油中、高滑り速度、高面圧を要求される転がり軸受用途に適用が困難である。
特許文献4に記載の銀めっきが施されている保持器においては、摺動面の摩耗量の経時変化がより少ない保持器が求められており、銀めっきに代わる摺動材が要求されている。また、銀めっきは、エンジンオイル中に含まれる硫黄成分によって硫化するという問題を有している。保持器表面に施された銀めっきが硫化すると、保持器から剥離や脱落が発生し、保持器の素地が露出する。
鉄系金属材料は、転がり軸受などに使用される軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼、冷間圧延鋼、または熱間圧延鋼等が挙げられる。鉄系金属材料は摺動部材の形状に加工後、焼入焼戻し処理することで所定の表面硬度に調整する。例えばクロムモリブデン鋼(SCM415)を用いた鉄系金属材製保持器の場合、Hv値が484〜595に調整した鉄系金属材料を使用することが好ましい。
下地層は、耐熱性樹脂および第一のフッ素樹脂を含む混合物層であり、鉄系金属材料と架橋フッ素樹脂層との密着性を向上させる。
耐熱性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミドイミド樹脂、イミド樹脂、エーテルイミド樹脂、イミダゾール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。また、フッ素樹脂が塗膜形成時の収縮を防ぐウレタン樹脂、アクリル樹脂を併用することができる。
(1)鉄系金属材料の表面処理
鉄系金属材料は、摺動層形成前にショットブラスト等を用いて、予め金属材料表面の粗さ(Ra)を1.0〜2.0μmに調整し、その後、石油ベンジン等の有機溶剤内に浸漬させ、5分〜1時間程度超音波脱脂を行なうことが好ましい。
(2)下地層を形成する水系塗布液の塗装
下地層を形成する水系塗布液を塗布前に、水分散液の分散性を向上させるために、ボールミルを用いて、例えば40rpmで1時間回転させ再分散する。この再分散した水系塗布液を100メッシュの金網を用いて濾過し、スプレー法を用いて塗布する。
(3)下地層を形成する水系塗布液の乾燥
水系塗布液を塗布後乾燥する。乾燥条件としては、例えば90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥が好ましい。乾燥後の下地層の層厚さは5μm以上20μm未満、好ましくは10〜15μmの範囲内である。5μm未満下であると、被膜の密着不良による剥離や初期摩耗の摩耗により、金属基材が露出するおそれがある。20μm以上であると、被膜形成時のクラック発生や運転中に剥離して潤滑状態が悪化するおそれがある。層厚さを5μm以上20μm未満の範囲とすることで、初期摩耗による金属基材の露出を防止でき、運転中における剥離を長期間にわたって防止できる。
第二のフッ素樹脂層を形成する水系塗布液前に、水分散液の分散性を向上させるために、ボールミルを用いて、例えば40rpmで1時間回転させ再分散する。この再分散した水系塗布液を100メッシュの金網を用いて濾過し、スプレー法を用いて塗装する。
(5)第二のフッ素樹脂層を形成する水系塗布液の乾燥
水系塗布液を塗布後乾燥する。乾燥条件としては、例えば90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥が好ましい。乾燥後の第二のフッ素樹脂層の層厚さは5μm以上20μm未満、好ましくは10〜15μmの範囲内である。5μm未満であると、被膜の密着不良による剥離や初期摩耗の摩耗により、金属基材が露出するおそれがある。20μm以上であると、被膜形成時のクラック発生や運転中に剥離して潤滑状態が悪化するおそれがある。層厚さを5μm以上20μm未満の範囲とすることで、初期摩耗による金属基材の露出を防止でき、運転中における剥離を長期間にわたって防止できる。
なお、下地層および第二のフッ素樹脂層の塗装方法としては、スプレー法以外にディッピング法、刷毛塗り法など被膜を形成できるものであれば使用できる。被膜の表面粗さ、塗布形状をできるだけ小さくし、層厚さの均一性を考慮するとスプレー法が好ましい。
第二のフッ素樹脂層の乾燥後、加熱炉内、空気中で第二のフッ素樹脂の融点以上の温度、好ましくは(融点(Tm)+30℃)〜(融点(Tm)+100℃)、5〜40分の範囲内で焼成する。第一および第二のフッ素樹脂がPTFEの場合、好ましくは380℃の加熱炉内で30分間焼成する。
焼成後の被膜に、照射温度が第二のフッ素樹脂層の放射線照射前の融点より30℃低い温度から該融点の20℃高い温度以下であり、被膜の融点が265〜310℃、好ましくは272〜301℃となるように放射線を照射してフッ素樹脂層を低融点化させる。放射線照射によりフッ素樹脂が架橋して融点を低下させることができる。放射線としては、α線(α崩壊を行なう放射性核種から放出されるヘリウム−4の原子核の粒子線)、β線(原子核から放出される陰電子および陽電子)、電子線(ほぼ一定の運動エネルギーを持つ電子ビーム;一般に、熱電子を真空中で加速してつくる)などの粒子線;γ線(原子核、素粒子のエネルギー準位間の遷移や素粒子の対消滅、対生成などによって放出・吸収される波長の短い電磁波)などの電離放射線を用いることができる。これらの放射線の中でも、架橋効率や操作性の観点から、電子線およびγ線が好ましく、電子線がより好ましい。特に電子線は、電子線照射装置が入手しやすいこと、照射操作が簡単であること、連続的な照射工程を採用することができることなどの利点を有している。放射線の使用以外にもラジカル発生剤あるいはプラズマ照射の使用によっても同様の効果を得られる。
照射の結果、融点が310℃よりも高いと、摩耗量が大きく、金属基材が露出してしまう場合がある。また、融点が265℃よりも低いと、被膜の硬度が上昇することで、脆化し、剥離等の被膜損傷が起こりやすくなる場合がある。
保持器1は、針状ころを保持するためのポケット2が設けられ、各ポケットの間に位置する柱部3と、この柱部3を固定する両側円環部4、5とで、各針状ころの間隔を保持する。柱部3は針状ころを保持するため、柱部の中央部で山折・谷折に屈曲され、両側円環部4、5との結合部において平面視円形の膨らみを有する平板の複雑な形状とされている。本保持器の製造方法は、素形材より円環を削り出し、ポケット2をプレス加工により打抜きで形成する方法、平板をプレス加工した後、適当な長さに切断し、円環状に丸めて溶接により接合する方法などを採用することができる。この保持器1の表面部位にフッ素樹脂被膜の摺動層が形成されている。摺動層を形成する保持器の表面部位は潤滑油またはグリースと接触する部位であり、針状ころと接触するポケット2の表面を含めた保持器1の全表面に摺動層を形成することが好ましい。
図7は本発明の転がり軸受の一例として針状ころ軸受を使用した4サイクルエンジンの縦断面図である。4サイクルエンジンは、吸気バルブ8aを開き、排気バルブ9aを閉じてガソリンと空気を混合した混合気を吸気管8を介して燃焼室10に吸入する吸入行程と、吸気バルブ8aを閉じてピストン11を押し上げて混合気を圧縮する圧縮行程と、圧縮された混合気を爆発させる爆発行程と、爆発した燃焼ガスを排気バルブ9aを開き排気管9を介して排気する排気行程とを有する。そして、これらの行程で燃焼により直線往復運動を行なうピストン11と、回転運動を出力するクランク軸12と、ピストン11とクランク軸12とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド13とを有する。クランク軸12は、回転中心軸14を中心に回転し、バランスウェイト15によって回転のバランスをとっている。
摺動性に優れた針状ころ軸受を使用することにより、小型化あるいは高出力化された2サイクルエンジンや4サイクルエンジンであっても耐久性に優れる。
焼入焼戻し処理したクロムモリブデン鋼(SCM415)製φ44mm×幅22mmのニードル軸受保持器(基材表面硬度 Hv:484〜595)を準備して、下地層はダイキン社製プライマー塗料(型番:EK−1909S21R)、第二のフッ素樹脂層にはダイキン社製トップ塗料(型番:EK−3700C21R)を用いて摺動層を形成した。乾燥時間はそれぞれ90℃の恒温槽内で30分間乾燥し、380℃の加熱炉内で30分間焼成した。その後、被膜の融点が表1に示す所定の温度となるように電子線を照射した。比較例1は未照射とした。また、比較例3は摺動被膜の焼成段階でクラックが発生したため以後の電子線照射、評価試験は中止した。比較例4は下地層を形成することなく、直接第二のフッ素樹脂層を各実施例と同一の塗布液および条件で形成し、実施例2と同一の融点となるように電子線照射したものである。比較例5は焼入焼戻し処理したクロムモリブデン鋼(SCM415)製φ44mm×幅22mmのニードル軸受保持器表面に銀めっき層を有する例である。
SUJ2製、焼入れ焼戻し処理HRC62、凹部表面粗さ0.1〜0.2μmRaの凹状相手材19を垂直方向から回転軸に取り付けた保持器1に所定の荷重20で押し付けた状態で、回転軸とともに保持器1を回転させることにより保持器1表面に施した被膜の摩擦特性を評価し摩耗量を測定した。測定条件は、荷重:440N、潤滑油:鉱油(10W−30)、滑り速度:930.6m/分、測定時間:100時間である。また、その時の剥離量を目視で観察することでPTFE被膜の密着性についても評価した。剥離量が「大」とは最大剥離箇所の剥離面積が1mm2以上の場合であり、「小」とは最大剥離箇所の剥離面積が1mm2未満の場合である。なお凹R部半径は、保持器半径よりも20〜55μm大きい寸法で設定した。潤滑油は保持器の半分の高さまで浸漬する量を使用した。結果を表1に示す。
被膜を施した角棒3本を150℃の潤滑油〔ポリ−α−オレフィン:ルーカントHL−10(三井化学社製)にZnDTP(LUBRIZOL677A、LUBRIZOL社製)を1重量%添加したもの〕2.2gに200時間浸漬した後、潤滑油中に溶出した被膜成分の濃度(溶出量の単位、ppm)を測定した。濃度測定は、蛍光X線測定〔蛍光X線測定装置:Rigaku ZSX100e(リガク社製)〕により定量した。試験片はSCM415製3mm×3mm×20mmの角棒を3本ずつ(合計表面積774mm2)用いた。
2 ポケット
3 柱部
4 円環部
5 円環部
6 針状ころ軸受
7 針状ころ
8 吸気管
9 排気管
10 燃焼室
11 ピストン
12 クランク軸
13 コンロッド
14 回転中心軸
15 バランスウェイト
16 大端部
17 小端部
18 ピストンピン
19 凹状相手材
20 荷重
Claims (8)
- 油潤滑環境下で使用される転がり軸受の転動体を保持する転がり軸受の内・外輪の間で軸受荷重を支持する転動体を回転自在に保持する転がり軸受用保持器であって、
前記転がり軸受用保持器の表面は、基材と、この基材表面に形成されたフッ素樹脂被膜による摺動層とを有し、
前記摺動層は、前記基材表面に形成される耐熱性樹脂および第一のフッ素樹脂を含む下地層と、この下地層表面に形成される第二のフッ素樹脂層と、前記下地層および前記第二のフッ素樹脂層を焼成後、放射線照射して形成される摺動層であり、
前記耐熱性樹脂は前記焼成時において熱分解しない樹脂であり、放射線照射後の前記第二のフッ素樹脂の融点は265〜310℃であることを特徴とする転がり軸受用保持器。 - 前記第二のフッ素樹脂層を架橋する照射温度が前記第二のフッ素樹脂の放射線照射前の融点より30℃低い温度から該融点の20℃高い温度以下であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。
- 前記放射線が電子線であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受用保持器。
- 前記第二のフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
- 前記第二のフッ素樹脂は、未架橋ポリテトラフルオロエチレン樹脂に比較して、固体19F Magic angle Spinning(MAS)核磁気共鳴(NMR)チャートに出現する化学シフト値(δppm)が前記未架橋ポリテトラフルオロエチレン樹脂の−82ppm、−122ppm、−126ppm、に加えて、−68ppm、−70ppm、−77ppm、−80ppm、−109ppm、−112ppm、−152ppm、および−186ppmから選ばれる少なくとも1つの化学シフト値が出現するか、または−82ppmに出現する化学シフト値のシグナル強度が、前記未架橋ポリテトラフルオロエチレン樹脂のシグナル強度に比較して、増加することを特徴とする請求項4記載の転がり軸受用保持器。
- 前記摺動層の層厚さが10μm以上40μm未満であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
- 前記基材が鉄系金属材料であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
- 回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの端部に設けられる係合穴、または前記クランク軸に取り付けられる転がり軸受において、
前記転がり軸受の転動体を保持する保持器が請求項1から請求項7のいずれか1項記載の転がり軸受用保持器であることを特徴とする転がり軸受。
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