JP2017032093A - 転がり軸受用保持器および転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受用保持器および転がり軸受 Download PDF

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晶美 多田
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Abstract

【課題】潤滑油中、高滑り速度、高面圧の条件下においても、摺動性に優れた摺動面を有する転がり軸受および保持器を提供する。【解決手段】油潤滑環境下で使用される転がり軸受の転動体を保持し、基材と、この基材表面に形成されている摺動層とを有している。基材が鉄系金属基材であり、また摺動層は、層厚さが5μm以上40μm未満のフッ素樹脂層であり、このフッ素樹脂層が摺動層表面から基材面まで架橋された架橋フッ素樹脂層である。【選択図】図6

Description

本発明は、転がり軸受用保持器および転がり軸受に関し、特に保持器表面の耐摩耗性・耐焼付き性に優れ、その優れた耐摩耗性・耐焼付き性を長期間維持できる転がり軸受用保持器、この保持器を用いた転がり軸受に関する。
転がり軸受や保持器などの摺動面は、潤滑油や潤滑グリースなどが供給されて転がり摩擦またはすべり摩擦を低減している。また、更に摺動性を向上させるための表面処理が摺動面になされている。表面処理の1つにフッ素系樹脂被膜を形成する方法がある。例えば、摺動部材の摺動部に形成したポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)被膜に50〜250kGyの線量の放射線を照射することにより、耐摩耗性および基材との密着性を高める方法が知られている(特許文献1)。
ポリイミド樹脂、銅、アルミニウムおよびそれらの合金等の金属材料、セラミックス、およびガラスから選択された、耐熱性に優れた基材の表面にフッ素樹脂の被膜を形成し、フッ素樹脂の融点以上の温度で電離性放射線を照射する改質フッ素樹脂被覆材の製造方法が知られている(特許文献2)。
無潤滑軸受やダイナミックシール等に使用されるフッ素樹脂からなる摺動部材として、フッ素樹脂をその結晶融点以上に加熱し、酸素不在のもとで照射線量1kGy〜10MGyの範囲内において電離性放射線を照射したフッ素樹脂が知られている(特許文献3)。
PTFEにより構成されるフィルムまたはシート状傾斜材料と、アルミニウム、鉄、ステンレス、ポリイミドおよびセラミックスからなる群より選択される基材とが積層されているフィルムまたはシート状製品であって、該材料の、基材と接していない一の面ならびにその近傍層に存在するポリマーが三次元構造を有し、該材料の基材と接している他の面ならびにその近傍層に存在するポリマーが二次元構造を有し該一の面と該他の面との間に存在するポリマーの三次元構造の含率が連続的に変化しており、該材料の厚さが5〜500μmであるフィルムまたはシート状製品が知られている(特許文献4)。
一方、自動車、バイク等のエンジンに用いられる転がり軸受、特に保持器付き針状ころ軸受があり、この保持器表面の焼付きを防止するために保持器表面に銀めっきがなされている。この保持器付き針状ころ軸受は、針状ころを等間隔に保持するプレス製金属保持器から構成され、この保持器の表面全体に銀めっきが施されている(特許文献5)。
特開2010−155443号公報 特開2002−225204号公報 特開平9−278907号公報 特許第5454903号公報 特許第5189427号公報
しかしながら、特許文献1に示す製造方法は、無潤滑下、低面圧の条件下で使用するため、基材との密着性を高める方法であり、各種機械の摺動面に要求される潤滑油中、高滑り速度、高面圧の条件の場合は適用が困難である。
特許文献2に記載のフッ素樹脂被膜は、フッ素樹脂の架橋反応およびフッ素樹脂と基材表面との化学反応を同時に生じさせ、それによって両者の強固な接着を達成することを目的としており、転がり軸受や保持器などに用いられる鉄基材の場合、基材表面との強固な接着が可能か否かは不明である。
特許文献3に記載の摺動部材は、無潤滑軸受やダイナミックシール等に使用され、被膜の形状ではなくフッ素樹脂からなる摺動部材に関する。そのため、被覆材としての特性は不明であり、更に潤滑油中、高滑り速度、高面圧を要求される転がり軸受用途に適用が困難である。
特許文献4に記載の被膜も特許文献1に記載の方法で製造される被膜と同様、平板試験片、低面圧、低滑り速度、無潤滑での評価であり、保持器試験片、高面圧、高滑り速度、油潤滑下で使用できるか否かは知られていない。
特許文献5に記載の銀めっきが施されている保持器においては、摺動面の摩耗量の経時変化がより少ない保持器が求められており、銀めっきに代わる摺動材が要求されている。また、銀めっきは、エンジンオイル中に含まれる硫黄成分によって硫化するという問題を有している。保持器表面に施された銀めっきが硫化すると、保持器から剥離や脱落が発生し、保持器の素地が露出する。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、潤滑油中、高滑り速度、高面圧の条件下においても、摺動性に優れた摺動面を有する転がり軸受用保持器およびこの保持器を用いた転がり軸受の提供を目的とする。
本発明の転がり軸受用保持器は、油潤滑環境下で使用される転がり軸受の転動体を保持し、基材と、この基材表面に形成されている摺動層とを有している。この摺動層は、フッ素樹脂層であり、このフッ素樹脂層が摺動層表面から基材面まで架橋された架橋フッ素樹脂層であることを特徴とする。
上記フッ素樹脂がPTFE樹脂であり、該樹脂の層厚さが5μm以上40μm未満であることを特徴とする。
また、上記基材が鉄系金属材であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は上記本発明の保持器を使用した転がり軸受であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受用保持器は、表面から基材面まで架橋された架橋フッ素樹脂層であるので、潤滑油中、高滑り速度、高面圧の条件下においても摩耗を抑制でき軸受の寿命を長期間にわたり維持できる。また、この保持器を用いた転がり軸受は、潤滑油中での摺動性に優れる。
摺動層の断面図である。 実験例1のNMRチャートの拡大図である。 実験例4のNMRチャートの拡大図である。 実験例6のNMRチャートの拡大図である。 架橋に伴なう−82ppmの規格化シグナル強度比である。 針状ころを転動体とする転がり軸受用保持器の斜視図である。 針状ころ軸受を示す斜視図である。 4サイクルエンジンの縦断面図である。
本発明の転がり軸受用保持器は、基材表面に形成された摺動層を有し、この摺動層が表面から基材面まで架橋された架橋フッ素樹脂層である。摺動層の断面図を図1に示す。摺動層19は、鉄系金属材20の表面に形成された架橋フッ素樹脂層21からなる。架橋フッ素樹脂層21は金属基材面から摺動層表面まで三次元構造からなる架橋構造を有している。
本発明の転がり軸受用保持器に使用できる基材としては、アルミニウム材、鉄系金属材、ポリイミド材、またはセラミックス材等が挙げられる。これらの中で転がり軸受用保持器としては、鉄系金属材が好ましい。
鉄系金属材は、転がり軸受などに使用される軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼、冷間圧延鋼、または熱間圧延鋼等が挙げられる。鉄系金属材は保持器の形状に加工後、焼入焼戻し処理することで所定の表面硬度に調整する。例えばクロムモリブデン鋼(SCM415)を用いた鉄系金属材製保持器の場合、Hv値を484〜595に調整した鉄系金属材を使用することが好ましい。
摺動層は、上記鉄系金属材表面に形成された架橋フッ素樹脂材料層からなる。
フッ素樹脂としては、PTFE、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAという)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルが挙げられる。これらの樹脂は単独でも混合物としても使用できる。また、これらの中で、耐熱性および摺動性に優れるPTFEが好ましい。
架橋する前のフッ素樹脂層は、PTFE樹脂粒子を分散させた水分散液を塗布乾燥することにより得られる。PTFE樹脂粒子を分散させた水分散液としては、例えば、ダイキン工業株式会社製ポリフロン=PTFEエナメルが挙げられる。
架橋フッ素樹脂層は、上記塗布乾燥された未架橋フッ素樹脂層を表面から基材面まで架橋した架橋フッ素樹脂層である。
鉄系金属材表面への摺動層の形成方法について以下説明する。
(1)鉄系金属材の表面処理
鉄系金属材は、摺動層形成前にショットブラスト等を用いて、予め金属材表面の粗さ(Ra)を1.0〜2.0μmに調整し、その後、石油ベンジン等の有機溶剤内に浸漬させ、5分〜1時間程度超音波脱脂を行なうことが好ましい。
(2)フッ素樹脂層を形成する水系塗布液の塗装
フッ素樹脂層を形成する水系塗布液前に、水分散液の分散性を向上させるために、ボールミルを用いて、例えば40rpmで1時間回転させ再分散する。この再分散した水系塗布液を100メッシュの金網を用いて濾過し、スプレー法を用いて塗装する。
(3)フッ素樹脂層を形成する水系塗布液の乾燥
水系塗布液を塗布後乾燥する。乾燥条件としては、例えば90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥が好ましい。乾燥後のフッ素樹脂層の層厚さは5〜40μm、好ましくは5〜20μm、より好ましくは10〜20μmの範囲内である。5μm未満であると、被膜の密着不良による剥離や初期摩耗により、金属基材が露出するおそれがある。40μm超であると、被膜形成時のクラック発生や運転中に剥離して潤滑状態が悪化するおそれがある。層厚さを5〜40μmの範囲とすることで、初期摩耗による金属基材の露出を防止でき、運転中における剥離を長期間にわたって防止できる。
なお、下地層およびフッ素樹脂層の塗装方法としては、スプレー法以外にディッピング法、刷毛塗り法など被膜を形成できるものであれば使用できる。被膜の表面粗さ、塗布形状をできるだけ小さくし、層厚さの均一性を考慮するとスプレー法が好ましい。
(4)焼成
フッ素樹脂層の乾燥後、加熱炉内、空気中でフッ素樹脂の融点以上の温度、好ましくは(融点(Tm)+30℃)〜(融点(Tm)+100℃)、5〜40分の範囲内で焼成する。フッ素樹脂がPTFEの場合、好ましくは380℃の加熱炉内で30分間焼成する。
(5)フッ素樹脂層の架橋
焼成後の被膜に、照射温度がフッ素樹脂層の融点より30℃低い温度から該融点の50℃高い温度以下、好ましくはフッ素樹脂層の融点より20℃低い温度から該融点の10℃高い温度以下にて、また、照射線量が250kGy超750kGy以下で放射線を照射してフッ素樹脂層を架橋させる。放射線としては、α線(α崩壊を行なう放射性核種から放出されるヘリウム−4の原子核の粒子線)、β線(原子核から放出される陰電子および陽電子)、電子線(ほぼ一定の運動エネルギーを持つ電子ビーム;一般に、熱電子を真空中で加速してつくる)などの粒子線;γ線(原子核、素粒子のエネルギー準位間の遷移や素粒子の対消滅、対生成などによって放出・吸収される波長の短い電磁波)などの電離放射線を用いることができる。これらの放射線の中でも、架橋効率や操作性の観点から、電子線およびγ線が好ましく、電子線がより好ましい。特に電子線は、電子線照射装置が入手しやすいこと、照射操作が簡単であること、連続的な照射工程を採用することができることなどの利点を有している。
照射温度がフッ素樹脂層の融点より30℃低い温度から該融点の50℃高い温度以下の温度範囲以外ではフッ素樹脂層の架橋が十分に進まない。また、照射雰囲気は架橋を効率的に行なうため、真空引きや不活性ガス注入により照射領域の酸素濃度を低くする必要がある。酸素濃度の範囲は0〜300ppmが好ましい。酸素濃度を以上のような濃度範囲に維持するには操作性やコスト面の観点から窒素ガス注入による不活性雰囲気が好ましい。
照射線量が250kGy以下であると架橋が不十分となり、摩耗量が大きく、金属基材が露出してしまう場合がある。また、照射線量が750kGy超であると架橋が必要以上に進み、被膜の硬度が上昇することで、脆化し、剥離等の被膜損傷が起こりやすくなる場合がある。
照射するときの加速電圧は500kV以上、好ましくは800〜1200kVである。この加速電圧で放射線をフッ素樹脂層に照射すると、照射される表面から基材面に至る全層面に放射線が届き、表面から基材面まで架橋された架橋フッ素樹脂層が得られる。
上述した方法により得られた摺動層の層厚さは、5μm以上40μm未満、好ましくは15μm以上30μm未満である。層厚さが5μm未満であると、被膜の密着不良による剥離や初期摩耗の摩耗により、金属基材が露出するおそれがある。40μm以上であると、被膜形成時のクラック発生や運転中に剥離して潤滑状態が悪化するおそれがある。層厚さを5μm以上40μm未満の範囲とすることで、初期摩耗による金属基材の露出を防止でき、運転中における剥離を長期間にわたって防止できる。
次に本発明に用いるフッ素樹脂層が架橋構造を有していることについて説明する。一般に、フッ素系樹脂、特にPTFE樹脂は化学的に非常に安定で、有機溶媒などに対しても極めて安定であるため、分子構造あるいは分子量などを同定することは困難である。さらにPTFE樹脂は架橋による三次元構造を形成しているため、さらに溶媒に溶解し難くなり、構造分析はいっそう困難となる。しかしながら19F Magic angle Spinning)(MAS)核磁気共鳴(NMR)法(High speed magic angle nuclear magnetic resonance)による測定ならびに解析により、PTFE樹脂の三次元構造を同定することが可能となる。
架橋による三次元構造の形成を確認するために、以下の実験を行なった。
(1)試験片の作成
試験片:SPCC製30mm×30mm、厚さ2mmの金属平板にPTFE樹脂層をダイキン社製トップ塗料(型番:EK−3700C21R)を用いて形成した。乾燥時間は90℃の恒温槽内で30分間乾燥し、380℃の加熱炉内で30分間焼成した。
その後、以下の条件で試験片にPTFE樹脂層表面側から電子線照射を行なった。
使用装置:株式会社NHVコーポレーション社製EPS−3000
加速電圧:1.16MV
照射線量:実験例1が0kGy(未照射)、実験例2が85kGy、実験例3が250kGy、実験例4が500kGy、実験例5が750kGy、実験例6が1000kGy
線量率:実験例2が3.9kGy/s、実験例3、実験例4、実験例5および実験例6が6.1kGy/s
コンベア速度:実験例2が3m/分、実験例3および実験例5が2m/分、実験例4および実験例6が1m/分
照射時の被膜温度:310℃
照射時のチャンバー内雰囲気:加熱窒素
電子流:実験例2が8.1mA、実験例3、実験例4、実験例5および実験例6が12.7mA
照射幅(コンベア移動方向):27.5cm
(2)実験例の試験片被膜
実験例1:PTFE被膜(照射線量:0kGy、層厚さ:20μm)
実験例2:PTFE被膜(照射線量:85kGy、層厚さ:20μm)
実験例3:PTFE被膜(照射線量:250kGy、層厚さ:20μm)
実験例4:PTFE被膜(照射線量:500kGy、層厚さ:20μm)
実験例5:PTFE被膜(照射線量:750kGy、層厚さ:20μm)
実験例6:PTFE被膜(照射線量:1000kGy、層厚さ:20μm)
(3)NMR測定
測定は、日本電子株式会社製NMR装置JNM−ECX400を用いて、好適な測定核種(19F)、共鳴周波数(376.2MHz)、MAS(Magic Angle Spinning)回転数(15および12kHz)、サンプル量(4mm固体NMR管に約70μL)、待ち時間(recycle delay time)(10秒)ならびに測定温度(約24℃)で行なった。
(4)結果
結果を図2〜図5に示す。図2は実験例1のNMR、図3は実験例4のNMR、図4は実験例6のNMRチャートの拡大図をそれぞれ表す。図2〜図4において上段はMAS回転数15kHz、下段はMAS回転数12kHzをそれぞれ表す。図5は架橋に伴い強度が増加する−82ppmでのシグナル強度を主シグナルである−122ppmでのシグナル強度で規格化し、グラフにしたものである。図5において上段は測定値、下段はグラフを表す。このシグナル強度比が高いほど架橋度が進行しているものと考えられる。
放射線照射を行なっていないPTFE樹脂層(実験例1、0kGy)を上記の条件で測定すると、MAS回転数15kHzにおいて、化学シフト値(δppm)である、−82ppm、−122ppm、−162ppmのシグナルが観測された(図2上段)。また、MAS回転数12kHzにおいて、同じく、−58ppm、−82ppm、−90ppm、−122ppm、−154ppm、−186ppmのシグナルが観測された(図2下段)。−122ppmは−CF2−CF2−結合におけるF原子のシグナルであり、−82ppmは−CF2−CF3結合における−CF3のF原子のシグナルであることが知られている。このことから、MAS回転数15kHzにおける−82ppmおよび−162ppm、MAS回転数12kHzにおける−58ppm、−90ppm、−154ppm、−186ppmのシグナルはスピニングサイドバンド(Spinning Side Band:SSB)である。なお、−122ppm〜−130ppmの領域で−122ppmのシグナルに隠れてブロードになっているシグナルが観測されている。このシグナルは−126ppmに観測されるはずの−CF2−CF3結合における−CF2−のF原子のシグナルである。従って、放射線照射を行なっていない未架橋のPTFE樹脂層は−CF2−CF2−結合に帰属する−122ppm、−CF2−CF3に帰属する−82ppmおよび−126ppmのシグナルを有するNMRチャートで表される。
500kGyの線量の放射線を照射したPTFE樹脂層(実験例4、500kGy)の固体19F MAS NMRを未架橋のPTFE樹脂層と同じ条件で測定すると、スピニングサイドバンドを除いて、−68ppm、−70ppm、−80ppm、−82ppm、−109ppm、−112ppm、−122ppm、−126ppm、−152ppm、および−186ppmのシグナルが観測された(図3上段および図3下段)。−68ppm、−70ppm、−80ppm、−109ppm、−112ppm、−152ppm、および−186ppmのシグナルが放射線照射により新たに出現し、−82ppmのシグナルはその強度が未照射より増加していた。
1000kGyの線量の放射線を照射したフッ素樹脂層(実験例6、1000kGy)の固体19F MAS NMRを未架橋のPTFE樹脂層と同じ条件で測定すると、スピニングサイドバンドを除いて、−68ppm、−70ppm、−77ppm、−80ppm、−82ppm、−109ppm、−112ppm、−122ppm、−126ppm、−152ppm、および−186ppmのシグナルが観測された(図4上段および図4下段)。−68ppm、−70ppm、−77ppm、−80ppm、−109ppm、−112ppm、−152ppm、および−186ppmのシグナルが放射線照射により新たに出現し、−82ppmのシグナルはそのシグナル強度が500kGy照射時より増加していた。
上記シグナルは、帰属するF原子を下線で表せば、例えば−70ppmは=CF−C 3、−109ppmは−C 2−CF(CF3)−C 2−、−152ppmは=C−C=、−186ppmは≡Cに帰属されることが知られている(Beate Fuchs and Ulrich Scheler., Branching and Cross−Linking in Radiation−Modified Poly(tetrafluoroethylene):A Solid−State NMR Investigation.Macromolecules,33,120−124.2000年)。
これらのシグナルは化学的に非等価なフッ素原子の存在を示すと同時にPTFE樹脂層が架橋による三次元構造を形成していることを示す。また、上記文献によれば、観測されるシグナルのシグナル強度は照射線量500kGyよりも照射線量1000kGyの方が強くなり、少なくとも照射線量3000kGyまでは、照射線量の増加に伴ってシグナルのシグナル強度が高くなることが知られている。なお、上記文献に記載されていないシグナルについては、放射線の照射条件の違いによりフッ素樹脂層の構造が異なっていることが考えられるが、架橋構造が形成されていることは、=CF−C 3、−C 2−CF(CF3)−C 2−、=C−C=、≡C等の構造が存在することから明白である。
図5に示すように、規格化シグナル強度比は、照射線量が増加するに従って増加している。照射線量が500kGyで明らかに架橋構造が出現し、照射線量が1000kGyに2倍になると、規格化シグナル強度比は約3倍になっており、架橋がより進行していることが分かった。
以上のことから、架橋PTFE樹脂は、未架橋PTFE樹脂に比較して、固体19F Magic angle Spinning(MAS)核磁気共鳴(NMR)チャートに出現する化学シフト値(δppm)が上記未架橋PTFE樹脂の−82ppm、−122ppm、−126ppmに加えて、−68ppm、−70ppm、−77ppm、−80ppm、−109ppm、−112ppm、−152ppm、および−186ppmから選ばれる少なくとも1つの化学シフト値が出現するか、または−82ppmに出現する化学シフト値のシグナル強度が、上記未架橋PTFE樹脂のシグナル強度に比較して、増加している三次元構造を有しているといえる。
また、上記実験例に用いたフッ素樹脂層を形成する水系塗布液を90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥条件により塗布後乾燥後、空気中で380℃の加熱炉内で30分間焼成して、厚さ4μmの未架橋フッ素樹脂被膜を作製した。このフィルムを5枚密接して積層し、一方の面から、上記実験例4の条件にて電子線照射を行なった。照射後、照射面と反対側のフッ素樹脂被膜を分離して、日本電子株式会社製NMR装置JNM−ECX400を用いて、上記実験例に従いNMR測定を行なった。測定の結果、架橋に伴うシグナルが照射面と同様に認められた。このことから表面から基材面まで架橋された架橋フッ素樹脂層であることが分かった。
上記架橋フッ素樹脂層を有する転がり軸受用保持器の構造を図6に示す。図6は針状ころを転動体とする転がり軸受用鉄系金属製保持器の斜視図である。
保持器1は、針状ころを保持するためのポケット2が設けられ、各ポケットの間に位置する柱部3と、この柱部3を固定する両側円環部4、5とで、各針状ころの間隔を保持する。柱部3は針状ころを保持するため、柱部の中央部で山折・谷折に屈曲され、両側円環部4、5との結合部において平面視円形の膨らみを有する平板の複雑な形状とされている。本保持器の製造方法は、素形材より円環を削り出し、ポケット2をプレス加工により打抜きで形成する方法、平板をプレス加工した後、適当な長さに切断し、円環状に丸めて溶接により接合する方法などを採用することができる。この保持器1の表面部位にPTFE樹脂被膜の摺動層が形成されている。摺動層を形成する保持器の表面部位は潤滑油またはグリースと接触する部位であり、針状ころと接触するポケット2の表面を含めた保持器1の全表面に摺動層を形成することが好ましい。
図7は転がり軸受の一実施例である針状ころ軸受を示す斜視図である。図7に示すように、針状ころ軸受6は複数の針状ころ7と、この針状ころ7を一定間隔、もしくは不等間隔で保持する保持器1とで構成される。エンジンのコンロッド部用軸受の場合、軸受内輪および軸受外輪は設けられず、直接に、保持器1の内径側にクランク軸やピストンピン等の軸が挿入され、保持器1の外径側がハウジングであるコンロッドの係合穴に嵌め込まれて使用される。内外輪を有さず、長さに比べて直径が小さい針状ころ7を転動体として用いるので、この針状ころ軸受6は、内外輪を有する一般の転がり軸受に比べて、コンパクトなものとなる。
上記針状ころ軸受を使用した4サイクルエンジンの縦断面図を図8に示す。
図8は本発明の転がり軸受の一例として針状ころ軸受を使用した4サイクルエンジンの縦断面図である。4サイクルエンジンは、吸気バルブ8aを開き、排気バルブ9aを閉じてガソリンと空気を混合した混合気を吸気管8を介して燃焼室10に吸入する吸入行程と、吸気バルブ8aを閉じてピストン11を押し上げて混合気を圧縮する圧縮行程と、圧縮された混合気を爆発させる爆発行程と、爆発した燃焼ガスを排気バルブ9aを開き排気管9を介して排気する排気行程とを有する。そして、これらの行程で燃焼により直線往復運動を行なうピストン11と、回転運動を出力するクランク軸12と、ピストン11とクランク軸12とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド13とを有する。クランク軸12は、回転中心軸14を中心に回転し、バランスウェイト15によって回転のバランスをとっている。
コンロッド13は、直線状棒体の下方に大端部16を、上方に小端部17を設けたものからなる。クランク軸12は、コンロッド13の大端部16の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受6aを介して回転自在に支持されている。また、ピストン11とコンロッド13を連結するピストンピン18は、コンロッド13の小端部17の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受6bを介して回転自在に支持されている。
摺動性に優れた針状ころ軸受を使用することにより、小型化あるいは高出力化された2サイクルエンジンや4サイクルエンジンであっても耐久性に優れる。
図7では軸受として針状ころ軸受について例示したが、本発明の転がり軸受は、上記以外の円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受等としても使用できる。特に、油潤滑環境下で使用され、鉄系金属材製保持器を使用する転がり軸受に好適に使用できる。
本発明の転がり軸受用保持器は、潤滑油中、高滑り速度、高面圧の条件下においても摩耗を抑制できるので、特に、鉄系金属材製保持器を用いた潤滑油中で使用される転がり軸受の分野で使用できる。
1 保持器
2 ポケット
3 柱部
4 円環部
5 円環部
6 針状ころ軸受
7 針状ころ
8 吸気管
9 排気管
10 燃焼室
11 ピストン
12 クランク軸
13 コンロッド
14 回転中心軸
15 バランスウェイト
16 大端部
17 小端部
18 ピストンピン
19 摺動層
20 鉄系金属材
21 架橋フッ素樹脂層

Claims (4)

  1. 油潤滑環境下で使用される転がり軸受の転動体を保持する転がり軸受用保持器であって、
    前記転がり軸受用保持器は、基材と、この基材表面に形成されている摺動層とを有し、
    前記摺動層はフッ素樹脂層であり、このフッ素樹脂層が摺動層表面から基材面まで架橋された架橋フッ素樹脂層であることを特徴とする転がり軸受用保持器。
  2. 前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂であり、該樹脂の層厚さが5μm以上40μm未満であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。
  3. 前記基材が鉄系金属材であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受用保持器。
  4. 請求項3記載の転がり軸受用保持器を使用した転がり軸受。
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