(第1実施形態)
以下、印刷装置を、ラインプリンターに具体化した第1実施形態を、図面を参照して説明する。なお、本実施形態の印刷装置は、例えば、液体の一例であるインクを媒体に吐出することにより印刷を行うインクジェット式のプリンター(液体吐出装置)である。
図1及び図2に示すように、印刷装置11は、例えば長尺シート状の連続紙からなる媒体Pを搬送する搬送部の一例としての搬送装置12と、搬送装置12によって搬送される媒体Pに対してインクを吐出して印刷を行う印刷部13と、搬送装置12と印刷部13とを制御する制御部の一例としてのコントローラー14とを備える。
また、印刷装置11において、印刷部13に対して媒体Pの搬送経路を挟んで対向する位置には、搬送装置12により搬送される媒体Pを支持する支持面15aを有する媒体支持部15が配置されている。
搬送装置12は、媒体Pを繰り出す繰出部16と、印刷部13によって印刷が行われた媒体Pを巻き取る巻取部17とを備える。また、搬送装置12は、搬送経路における繰出部16と媒体支持部15との間の位置に配置された搬送ローラー対18と、搬送経路における媒体支持部15と巻取部17との間の位置に配置されたテンションローラー19とを有する。本例の搬送装置12は、ローラー搬送方式である。
繰出部16は、回転駆動される繰出軸16aを有し、この繰出軸16aには、媒体Pが予めロール状に巻かれたロールが繰出軸16aと一体回転可能に支持されている。そして、繰出軸16aが回転駆動することで、ロールから媒体Pが搬送ローラー対18に向かって繰り出される。
搬送ローラー対18は、回転駆動される駆動ローラー18aと、この駆動ローラー18aの回転に従動する従動ローラー18bとを有している。搬送ローラー対18は、媒体Pを駆動ローラー18aと従動ローラー18bとの間に挟持(ニップ)する状態で回転することにより、媒体Pを支持面15aに導く。そして、テンションローラー19は、媒体Pにおける印刷済みの領域に所定の張力を付与する。
巻取部17は、回転駆動される巻取軸17aを有する。巻取軸17aが回転駆動することで、テンションローラー19側から搬送される印刷済みの媒体Pが巻取軸17aによって順次巻き取られる。
さらに搬送装置12は、繰出軸16aを回転させる動力源となる給送モーター31と、駆動ローラー18aを回転させる動力源となる搬送モーター32と、巻取軸17aを回転させる動力源となる巻取モーター33とを備える。コントローラー14は、搬送モーター32の駆動速度を制御し、搬送ローラー対18で搬送される媒体Pの搬送速度に合わせて、給送モーター31と巻取モーター33の各駆動速度を制御する。これにより、媒体Pは適度な弛みが付与されつつ繰出され、搬送中に印刷部13により印刷された媒体Pは、適度な張力が付与されつつ巻取られる。
図1及び図2に示す印刷部13は、想定される最大幅の媒体Pの幅全域に亘って印刷が可能に幅方向X(図1の紙面と直交する方向)に所定長さを有するラインヘッド型である。本例の印刷部13は、その長手方向に沿って複数の印刷ヘッド13Hが所定の配置パターンで配列された所謂マルチヘッドタイプのものである。複数の印刷ヘッド13Hは、一定の間隔(ピッチ)で配列された2列の印刷ヘッド13Hが列間で列方向に半ピッチずれることでジグザグ状に配列されている。印刷ヘッド13Hは、各色のインクを吐出可能な複数のノズル13aが幅方向Xに1列に配列されてなるノズル列Nを複数列(図2の例では4列)備える。図2の例では、複数のノズル列Nは、ノズル13aから黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の4色のインク滴をそれぞれ吐出する。同一色のインクを吐出可能な複数のノズル列Nは、幅方向Xに連続して分布している。このため、印刷装置11では、各印刷ヘッド13Hによって、想定最大幅の媒体Pに幅一杯に印刷することが可能となっている。
図1及び図2に示すコントローラー14は、入力した印刷ジョブデータPDに基づいて生成した吐出データを印刷部13に出力することで、印刷ヘッド13Hのノズルからのインク滴の吐出を制御する。各印刷ヘッド13Hがノズル列Nのノズルから吐出したインク滴は、搬送中の媒体Pの表面に着弾することで、媒体Pに印刷ジョブデータPDに基づく画像又は文書等が印刷される。本例の印刷ヘッド13Hは、吐出駆動方式が圧電素子を用いた圧電方式又は静電素子を用いた静電方式である。なお、印刷ヘッド13Hの駆動方式は、ヒーター素子からなる吐出駆動素子が加熱したインクの膜沸騰により発生した気泡の膨張圧を利用してノズルからインク滴を吐出させるサーマル方式でもよい。また、印刷部13は、マルチヘッドタイプに替え、一つの長尺状の印刷ヘッドを有する構成でもよい。
また、図1に示すように、印刷装置11には、媒体Pを撮像した画像に基づいて媒体Pの移動量(搬送量)を非接触で検出する撮像部の一例である撮像装置20が取り付けられている。撮像装置20は、搬送ローラー対18よりも搬送方向Y下流側の位置でかつ印刷部13によって媒体Pに印刷が行われる印刷領域よりも搬送方向Y上流側の位置となる領域の一部を撮像する。また、印刷装置11には、駆動ローラー18aの回転を検出する例えばロータリーエンコーダーからなるエンコーダー30が設けられている。撮像装置20の撮像エリアを上記の位置に設定する理由は、媒体Pにおいてなるべく印刷領域の近くで媒体Pの移動量を検出でき、かつ厚みの薄い媒体Pのときに裏面に透けたインクに起因する誤検出の心配がないように、印刷前の領域を撮像エリアとするためである。なお、撮像エリアは、搬送ローラー対18よりも搬送方向Y上流側の位置でもよいし、使用される媒体Pがある程度の厚みのあるものであれば、印刷領域の裏面でもよい。さらに、撮像エリアは、媒体Pにおいて印刷がなされる表面(印刷面)でもよい。但し、媒体Pの表面である場合は、印刷領域よりも搬送方向Y上流側の位置が好ましい。
図2及び図3に示すように、エンコーダー30は、駆動ローラー18aの一端部に一体回転可能に固定された円板状のスケール板30aと、スケール板30aの周縁部に周方向に一定ピッチで形成された多数の被検検出部を光学的に検出する光学式センサー30bとを有する。エンコーダー30は、駆動ローラー18aの回転量に比例する数のパルスを含むエンコーダーパルス信号ES(以下、「エンコーダー信号ES」ともいう。)を出力する。
図3に示すように、エンコーダー30のスケール板30aには、内周寄り部分の周方向の1箇所に原点検出用の第1被検出部301が形成され、外周寄り部分に多数の第2被検出部302が周方向に一定ピッチで全周に渡って形成されている。なお、第2被検出部302は、スケール板30aの1周に例えば100〜1000の範囲内の所定数設けられている。
図3に示すように、光学式センサー30bは、第1被検出部301を検出する第1センサー303と、第2被検出部302を検出する第2センサー304とを備える。各センサー303,304は、例えばフォトインターラプターからなる。第1センサー303は、駆動ローラー18aと共に回転するスケール板30aが原点位置に配置される度に、第1被検出部301を検出して原点パルスを含む原点信号を出力する。また、第2センサー304は、スケール板30aが駆動ローラー18aと共に回転する過程で一定ピッチの第2被検出部302を検出する度にパルスを発生し、駆動ローラー18aの回転量に比例する数のパルスを含むエンコーダー信号ESを出力する。エンコーダー30から出力されたエンコーダー信号ESは、コントローラー14に入力される。
コントローラー14は、エンコーダー信号ESに基づいて印刷ヘッド13Hの吐出タイミングを規定する吐出タイミング信号PTSを生成し、その吐出タイミング信号PTSに基づき印刷ヘッド13Hのノズル13aからインク滴を吐出する吐出タイミングを制御する。印刷ヘッド13Hでは吐出データに基づき吐出するべきノズル13aから吐出タイミング信号PTSに基づく吐出タイミングでインク滴が吐出される。なお、インクジェット式の印刷装置11である本例では、印刷ヘッド13Hからインク滴を吐出する吐出タイミングが、印刷タイミングの一例に相当する。
撮像装置20は、搬送装置12により搬送される媒体Pの非印刷面となる裏面のテクスチャー(紙面性状)を単位時間毎に撮像し、撮像装置20の下部に配置された検出制御部21に画像信号を出力する。撮像装置20は、例えば10〜1000Hzの範囲内の所定のサンプル周期で、媒体Pを撮像する。検出制御部21は、撮像装置20からの画像信号に基づく画像(スチル画像)を得る度に、前回と今回の連続する2枚の画像(画像データ)に基づいてテンプレートマッチング処理を行って媒体Pの単位時間当たりの移動量Δyを取得し、コントローラー14に出力する。ここで、媒体Pの単位時間当たりの移動量Δyは、媒体移動速度Vpに等しい。
また、検出制御部21は、エンコーダー30から入力したエンコーダー信号ESに基づいて駆動ローラー18aの単位時間当たりの回転量Δrを検出し、コントローラー14に出力する。ここで単位時間当たりの回転量Δrとは、駆動ローラー18aと従動ローラー18bとの間に媒体Pを挟持するニップ点(挟持点)における駆動ローラー18aの偏心回転が考慮された単位時間当たりの周方向移動量に相当し、これは駆動ローラー18aのニップ点における周速度に等しい。そして、この回転量Δrは、駆動ローラー18aの回転量δrからそのときの駆動ローラー18aの回転角θに応じた偏心回転の影響を考慮して推定される媒体の単位時間当たりの推定移動量、つまり媒体推定移動速度Vrに相当する。なお、本実施形態では、駆動ローラー18aの偏心回転が考慮された単位時間当たりの回転量Δr、つまり媒体推定移動速度Vrが、回転情報の一例に相当する。また、媒体Pの単位時間当たりの移動量Δyである媒体移動速度Vpが、媒体の移動情報の一例に相当する。
次に、図4を参照して、撮像装置20の詳細な構成について説明する。図4に示すように、撮像装置20は、支持面15aと直交する方向Zに延びる円筒状の鏡筒40を備える。鏡筒40は、その上端部においてねじ(図示略)により媒体支持部15に固定され、その下端部においてねじ(図示略)により検出制御部21の筐体に固定されている。
鏡筒40の上端部には、鏡筒40を上側から塞ぐように鏡筒カバー41が取り付けられている。鏡筒カバー41には、光の透過を許容する無色透明の透光部材42が固定されている。また、鏡筒40の上端部及び鏡筒カバー41により形成された空間には、媒体Pの非印刷面(下面)に光を照射する発光部43が配置されている。発光部43は、発光ダイオード(LED)又はハロゲンランプ等の光源であり、本例では発光ダイオードからなる。発光部43は、支持面15a上に搬送される媒体Pの裏面側から透光部材42越しに光を媒体Pに向けて照射する。
鏡筒40の円筒部40aの方向Zの上端側には、光学部材の一例である対物レンズ44(集光レンズ)が収容され、円筒部40aの下端側には、光学部材の一例である投影レンズ45が収容されている。鏡筒40の円筒部40a内には、対物レンズ44と投影レンズ45との間に位置する絞り46が形成されている。
対物レンズ44は、一例としてテレセントリックレンズであり、発光部43から出射されて透光部材42を透過した光が媒体Pで反射した後に再び透光部材42を透過して鏡筒40の円筒部40a内に入射した反射光を集光させる。その集光した反射光は絞り46で絞られる。投影レンズ45は、一例としてテレセントリックレンズであり、絞り46を通過した光を集光させる。
検出制御部21に収容された鏡筒40の下端部には、投影レンズ45により集光された媒体Pの像が結像される撮像面47aを有する撮像素子47が配置されている。撮像素子47は、例えば2次元イメージセンサーにより構成されている。2次元イメージセンサーは、例えばCCDイメージセンサー又はCMOSイメージセンサーにより構成される。撮像素子47は、鏡筒40内の暗室に収容されており、発光部43が間欠的にストロボ発光した際に媒体Pの像を撮像する。撮像装置20が媒体Pの裏面を撮像して得た画像信号は、検出制御部21に出力される。
次に、図5を参照して、コントローラー14による搬送モーター32の速度制御について説明する。図5にグラフで示す速度制御データVDは、コントローラー14が記憶部の一例として備える例えば不揮発性メモリーからなるメモリー14aに記憶されている。この速度制御データVDは、搬送位置yと搬送速度Vとの関係が示されたデータである。搬送位置yは、搬送モーター32の駆動開始位置を原点とし、原点からのモーター回転量を媒体Pの搬送位置を管理するカウント値に換算した値である。搬送位置yが原点から搬送位置yaまでの範囲が加速領域であり、搬送位置yaで目標搬送速度Vc(定速度)に達すると、目標搬送速度Vcに維持される。印刷部13による媒体Pへの印刷は、媒体Pが一定の目標搬送速度Vcで搬送されているときに行われる。そして、印刷が終わって媒体Pが規定の位置まで搬送されることで、搬送位置yが減速開始位置ybに達すると、搬送モーター32の減速が開始され、停止位置ygで搬送モーター32の駆動が停止される。コントローラー14は、搬送モーター32の駆動開始時点からエンコーダー信号ESを基に計数した搬送位置yから、速度制御データVDを参照してその搬送位置yに対応する目標速度を取得し、実速度を目標速度に近づけるフィードバック制御を行う。なお、フィードバック制御に替え、フィードフォワード制御を行ってもよい。
ところで、駆動ローラー18aが、搬送モーター32からの動力を駆動ローラー18aに伝達する回転軸又は軸受に対して偏心して組み付けられている場合がある。この場合、搬送モーター32が印刷中に定速で駆動しているときに、駆動ローラー18aは偏心回転する。
図6(a)に示すように、駆動ローラー18aが回転軸の回転中心C1(回転軸線)に対してその軸心C2(軸線)が偏心した状態で組み付けられていると、駆動ローラー18aの軸心C2が回転中心C1の周りを、円を描くように回転する。この結果、駆動ローラー18aは偏心回転する。
図6(b)に示すように、駆動ローラー18aの軸心C2が回転中心C1よりも媒体P側(同図では上側)に位置するとき、回転中心C1と媒体Pとの距離(回転半径)が相対的に長くなり、媒体Pの搬送速度が高速側に変動する。一方、図6(c)に示すように、駆動ローラー18aの軸心C2が回転中心C1よりも媒体Pと反対側(同図では下側)に位置するとき、回転中心C1と媒体Pとの距離(回転半径)が相対的に短くなり、媒体Pが低速側に変動する。
このため、駆動ローラー18aの回転速度が一定で、エンコーダー30から出力されるエンコーダー信号ESのパルス周期が一定であっても、図6に示すように、駆動ローラー18aが偏心回転している場合は、駆動ローラー18aの1回転の周期で媒体Pの搬送速度が周期的に変動する。つまり、駆動ローラー18aが1回転する間に、駆動ローラー18aの単位時間当たりの回転角に対して媒体Pが単位時間に移動する移動量が変動する。
また、吐出タイミング信号PTSのパルス周期は、エンコーダー信号ESのパルス周期に比例する。このため、印刷中に駆動ローラー18aが一定速度で回転していて吐出タイミング信号PTSに基づき印刷部13から一定の吐出周期でインク滴が吐出されていても、駆動ローラー18aの偏心回転によって媒体Pの移動速度が周期的に変動すると、媒体Pに印刷される印刷ドットの搬送方向Yにおけるドットピッチが変動することになる。そのため、本実施形態では、この種の駆動ローラー18aの偏心回転を考慮して、駆動ローラー18aの回転角θと媒体Pの単位時間当たりの移動量との対応関係を示す補正データが、検出制御部21内の不図示のメモリーに記憶されている。
補正データは、例えば次のように作成される。コントローラー14は、駆動ローラー18aを印刷時よりも低速の一定速度で回転させて媒体Pを搬送し、エンコーダー30から原点信号を入力すると、テストパターンの印刷を開始する。テストパターンには、原点信号の入力の度に原点マークが印刷される。駆動ローラー18aがN回転(但し、Nは自然数)する間、テストパターンの印刷を継続する。駆動ローラー18aの偏心回転による媒体Pの速度変動は、テストパターンの印刷ドットのドットピッチの変動として現れる。そして、不図示のスキャナー装置によりテストパターンを読み取らせ、原点マーク(回転角θ=0度)から搬送方向Yに印刷ドットのドットピッチを計測する。ここで、ドットピッチは、媒体Pと駆動ローラー18aとの間に滑りがないときの媒体Pの単位移動量に相当する。そして、コントローラー14は、回転角θとドットピッチとの対応関係、つまり回転角θと媒体Pの単位移動量(移動量の一例)との対応関係から、回転角θと補正値との対応関係を示す補正データを作成する。この補正値は、駆動ローラー18aの偏心回転が考慮されていない単位時間当たりの回転量δrを、偏心回転が考慮された単位時間当たりの回転量Δrに変換する補正係数である。なお、補正データ作成時における駆動ローラー18aの1回転当たりのサンプリング数は、例えば10〜100の範囲内の所定値である。
コントローラー14は、検出制御部21から、駆動ローラー18aの単位時間当たりの回転量Δr(媒体推定移動速度Vr)と、媒体Pの単位時間当たりの移動量Δy(媒体移動速度Vp)とを取得する。そして、コントローラー14は、媒体推定移動速度Vrと媒体移動速度Vpとに基づいて、媒体Pの搬送速度の補正と、印刷ヘッド13Hの吐出タイミングの補正とを行う。前者の補正では、コントローラー14は、媒体推定移動速度Vr(=Δr)と媒体移動速度Vp(=Δy)とに基づいて、搬送モーター32の目標搬送速度Vcを補正する。また、後者の補正では、コントローラー14は、駆動ローラー18aの偏心回転を考慮して推定される媒体推定移動速度Vr(=Δr)と媒体移動速度Vp(=Δy)との間に許容範囲を超えるずれ量があると、そのずれ量に応じて吐出タイミングを補正する。
次に図7(a)を参照して、駆動ローラー18aの回転量Δrを取得する時刻と、媒体Pを撮像する時刻とがずれている場合に発生する制御上の不具合について説明する。偏心回転しているときの駆動ローラー18aのニップ点における周速度は、図7(a)に示すように、駆動ローラー18aの回転角に応じて周期的に変動する。回転量Δrの取得時刻T1,T2と、媒体Pの撮像時刻t1,t2とがずれていると、サンプリングする単位時間Toが同じでも、駆動ローラー18aの偏心回転に起因して、回転量Δrと移動量Δyとの間にずれが生じる。
つまり、図7(a)において、時刻T1,T2間で検出される左下がりの斜線領域の面積で示される回転量Δrと、時刻t1、t2にそれぞれ媒体Pを撮像して得られた2枚の画像F1,F2とに基づいてテンプレートマッチング処理により取得した同図における右下がりの斜線領域の面積で示される移動量Δyとの間に大きなずれ量が発生する。このずれ量を媒体Pの滑り等とみなして吐出タイミングを補正することになると、却って印刷ドットの搬送方向Yにおけるドットピッチのばらつきを助長する。
そこで、本実施形態では、図7(b)に示すように、回転量Δrを取得する時刻T1,T2,T3(第1時刻)と、媒体Pを撮像する時刻t1,t2,t3(第2時刻)とを合わせるべく、発光部43を間欠的に発光させて媒体Pに光を照射する照射タイミングを規定するストロボ制御信号Stに基づいて、第1時刻と第2時刻との同期をとっている。このため、時刻t1〜t2間で取得される左下がりの斜線領域の面積で示される回転量Δr1と、時刻T1〜T2間で取得される左下がりの斜線領域の面積で示される移動量Δy1とが同じになる。また同様に、時刻t2〜t3間で取得される回転量Δr2と、時刻T2〜T3間で取得される移動量Δy2とが、共に同図における右下がりの斜線領域の面積で示され、同じになる。なお、本実施形態では、ストロボ制御信号Stが、制御信号の一例に相当する。
図8は、印刷装置11の電気的構成を示す。印刷装置11は、コントローラー14、搬送装置12、印刷部13、撮像装置20、検出制御部21、エンコーダー30及び搬送系のモーター31〜33の他、ヘッドコントローラー51、モーター駆動回路52、表示駆動回路53及び表示部54を備えている。また、検出制御部21は、エンコーダー30から入力するエンコーダー信号ESに基づいて駆動ローラー18aの回転量Δrを検出する検出部の一例としての第1検出部55と、撮像装置20を構成する撮像素子47により撮像された媒体Pの一部の画像に基づいて媒体Pの移動量Δyを検出する取得部の一例としての第2検出部56とを備える。第1検出部55が検出した回転量Δrと、第2検出部56が検出した移動量Δyは、共にコントローラー14に入力される。
コントローラー14は、例えばホスト装置(図示せず)から入力した印刷ジョブデータPDに基づいて、印刷モード、媒体種及び媒体サイズを把握する。コントローラー14は、印刷モードに応じてメモリー14aから読み出した速度制御データVDに基づいて、モーター駆動回路52を介して搬送系のモーター31〜33を駆動制御することで、媒体Pを所定の速度プロファイルに従って搬送させる。そして、コントローラー14は、印刷ジョブデータPD中の印刷画像データを、ヘッドコントローラー51を介して分配した各吐出データを各印刷ヘッド13Hに送ることで、各印刷ヘッド13Hに吐出データに従ってインク滴を吐出させる吐出制御を行う。これにより、印刷部13により印刷データに基づく画像等が媒体Pに印刷される。
コントローラー14は、CPU(中央処理装置)、カスタムLSIとしてのASIC(Application Specific Integrated Circuit)(特定用途向け集積回路)、ROM、RAM及び不揮発性メモリー(例えばフラッシュROM)等を有するコンピューターを備える。コントローラー14は、CPUとASICとのうち少なくとも一方により構築された印刷制御部57及び吐出タイミング制御部58を備える。印刷制御部57は、第1検出部55から入力した回転量Δrと、第2検出部56から入力した移動量Δyとに基づいて、印刷ヘッド13Hの吐出タイミングの制御と、搬送系のモーター31〜33の速度制御とを行う。また、吐出タイミング制御部58は、印刷制御部57からの指示に従って、回転量Δr(=Vr)と移動量Δy(=Vp)とに基づいて印刷ヘッド13Hの吐出タイミングを補正する。
次に図9を参照して、検出制御部21の詳細な構成を説明する。図9に示すように、第1検出部55は、入力ポート61aを介してエンコーダー30から入力したエンコーダー信号ESのパルスエッジの数を計数するカウンター62と、撮像タイミングでカウンター62の計数値を保持するラッチ回路63とを備える。カウンター62は、搬送系のモーター31〜33の駆動開始前にリセットされ、リセット以後に入力するエンコーダー信号ESのパルスエッジの数を計数することで、駆動ローラー18aの回転量rをその計数値として取得する。
ラッチ回路63は、一定周期(単位時間To)毎の撮像のために媒体に光を照射する照射タイミングに達する度に、カウンター62から入力中の現在の回転量rを保持する。回転量取得部64は、前回の回転量r1を記憶部に記憶しており、今回の回転量r2を入力する度に、前回の回転量r1と今回の回転量r2との差分を演算して単位時間当たりの回転量δrを取得し、この回転量δrを基に、駆動ローラー18aの偏心回転が考慮された単位時間To当たりの回転量Δrを取得する。詳しくは、回転量取得部64は、補正データを記憶する不図示の記憶部と、エンコーダー30から原点信号を入力する度にリセットされる不図示の回転角計数用のカウンターとを内蔵する。このカウンターは、エンコーダー信号ESのパルスエッジの数を計数し、その計数値を回転角θとして取得する。回転量取得部64は、カウンターから読み出した回転角θを基に補正データを参照してその回転角θに対応する補正値を取得し、回転量δrに補正値を乗じて単位時間当たりの回転量Δr(=Vr)を取得する。そして、第1検出部55は、その検出した回転量Δrをコントローラー14へ出力ポート61dを介して出力する。
また、図9に示すように、第2検出部56は、撮像制御部65、発光制御部66及び移動量取得部67を備える。撮像制御部65は、ストロボ制御信号Stを生成する信号生成回路68と、撮像素子47から入力した画像信号ISにガンマ補正等を含む公知の画像処理を施して画像データを生成する画像処理回路69とを備える。信号生成回路68が生成したストロボ制御信号Stは、発光制御部66及びラッチ回路63に出力される。ストロボ制御信号Stは、発光部43を間欠的に発光させるストロボ制御に用いられる所定周期のパルス信号からなる。ストロボ制御信号Stは、撮像装置20による撮像時に発光部43を発光させる発光タイミング、すなわち媒体Pに光を照射して行われる撮像タイミングを規定するパルス信号である。前述のラッチ回路63は、ストロボ制御信号Stのパルスをトリガーとして、カウンター62の計数値である回転量rを保持(ラッチ)する。このため、ラッチ回路63は、撮像装置20が媒体Pを撮像した時刻の回転量rを保持する。
発光制御部66は、出力ポート61bを介してストロボ制御信号Stを発光部43に出力することで、発光部43をストロボ制御信号Stのパルスの発生期間に発光させる。撮像制御部65は、入出力ポート61cを介して撮像制御信号を撮像素子47に出力し、発光部43の発光期間で撮像素子47に撮像を行わせる。この結果、撮像素子47は、発光部43が一瞬発光した際に媒体Pを撮像する。撮像素子47が撮像して得た画像信号ISは、入出力ポート61cを介して撮像制御部65に入力される。そして、撮像制御部65では、画像処理回路69が画像信号ISに公知の画像処理を施して画像データIDを生成し、その画像データIDを移動量取得部67に出力する。
移動量取得部67は、前回の画像データIDを不図示の記憶部に記憶しており、画像データIDを入力する度に、前回と今回の画像データIDに基づいて後述のテンプレートマッチング処理を行って媒体Pの移動量Δyを取得し、出力ポート61eを介してその移動量Δyをコントローラー14へ出力する。
次に図10を参照して、ストロボ制御信号Stに基づいて同期して行われる、撮像素子47による撮像処理及びラッチ回路63が回転量rを保持する処理について説明する。図10に示すように、信号生成回路68が生成するストロボ制御信号Stは、媒体Pの撮像周期と同じ周期の複数のパルスStpを含むパルス信号である。パルスStpの幅は、発光部43の発光期間を規定し、撮像に必要な発光時間に設定されている。また、図10に示すように、撮像素子47は、発光部43が発光した際に媒体Pの像として受光し、その受光量に応じた電荷が蓄積されることで電位が上昇する。そして、パルスStpが立ち下がると、撮像を終えて、撮像素子47から画像信号ISの読み出しが開始される。そして、画像信号ISの読み出しが終わると、撮像素子47は、次のパルスStp(発光時期)の発生時期よりも少し前にリセットされる。
また、図10に示すように、ラッチ回路63は、パルスStpの立ち下がり時にカウンター62が計数している回転量rを保持する。そして、ラッチ回路63は、撮像素子47と同様に、次のパルスStp(発光時期)の発生時期よりも少し前にリセットされる。こうしてストロボ制御信号StのパルスStpの立ち下がりをトリガーとして、カウンター62が計数している回転量rの取得時刻(第1時刻)と、撮像装置20による媒体Pの撮像時刻(第2時刻)とが一致するよう同期がとられる。このため、回転量rの取得時刻T1,T2,…,Tnと、媒体Pの撮像時刻t1,t2,…,tnとが一致する。よって、回転量Δrと移動量Δyは、それぞれ同じ時刻ti,ti+1間のものが取得される(図7(b)参照)。
次に図11を参照して、媒体Pの移動量Δyを取得する移動量取得処理について説明する。撮像装置20は、媒体Pの搬送中に、単位時間To毎に一定の時間間隔で連続的に媒体Pを撮像する。検出制御部21内の移動量取得部67は、時系列的に前後する2枚の画像に基づいて、単位時間Toにおける媒体Pの移動距離を移動量Δyとして取得する。そして、検出制御部21は、この移動量取得処理を、媒体Pの搬送中に撮像された全ての画像について行う。
図11(a)は撮像開始からi枚目(iは自然数)の画像F1を示し、図11(b)は撮像開始からi+1枚目の画像F2を示す。各画像F1,F2には媒体Pの裏面のテクスチャーが撮像されている。
移動量取得処理では、まず、図11(a)に示す画像F1において予め設定された基準領域BAをテンプレートTPとして取得する。基準領域BAには、撮像エリア内でなるべく搬送方向Y上流側の位置が選択される。次に、画像F2において、テンプレートTPのテクスチャーと一致又は類似する部分を探索する。例えば、検出制御部21内の移動量取得部67は、画像F2においてテンプレートTPと同形状・同サイズの比較領域を設定し、この比較領域とテンプレートTPとを比較し、比較領域とテンプレートTPとの類似度を算出するマッチング処理を行う。移動量取得部67は、一回のマッチング処理が終了する度に、比較領域を所定方向に1画素分ずつシフトさせる。そして、新たな比較領域の設定の度に、マッチング処理を実行する。こうして、画像F2の全領域についてマッチング処理を完了すると、移動量取得部67は、類似度が最大になる比較領域をマッチング領域MAとして検出する。そして、基準領域BAとマッチング領域MAとの間の媒体Pの移動方向に沿う距離を求める。こうして求めた距離を移動量Δyとして記憶する。
こうして移動量取得部67は、時刻t1に媒体Pを撮像した画像F1と、時刻t2に媒体Pを撮像した画像F2とに基づいて移動量取得処理を実行し、時刻t1〜t2間における媒体Pの移動量Δy(図11(b)参照)を取得する。移動量取得部67は、このような移動量取得処理を、媒体Pの搬送中に得られた全ての画像について行い、単位時間To毎に移動量Δy1〜Δyn(nは自然数)を取得する。
次に図12を参照して、コントローラー14による印刷ヘッド13Hの吐出タイミングを制御する吐出制御系の電気的構成について説明する。図12に示すように、コントローラー14内には、前述の印刷制御部57及び吐出タイミング制御部58の他、エッジ検出回路71、補正回路72及びPFカウンター73等が設けられている。印刷制御部57は、主制御部81、ヘッド制御部82及び駆動パルス生成部83を備える。印刷制御部57は、例えばホスト装置から印刷ジョブデータPDを入力することで印刷の指示を受付け、媒体Pの搬送中は検出制御部21から回転量Δr及び移動量Δyを入力する。
主制御部81は、印刷ヘッド13Hの吐出タイミング制御及び搬送系のモーター31〜33の駆動制御等の各種の制御を司る。
ヘッド制御部82は、印刷ヘッド13Hがノズルからインク滴を吐出する吐出制御を行う。ヘッド制御部82は、印刷ジョブデータPDに含まれる印刷画像データを展開して生成した吐出データをヘッド駆動回路131へ出力する。また、ヘッド制御部82は、吐出タイミングを補正する際の基準となる基準値(ディレイ基準値)を吐出タイミング制御部58に出力する。基準値とは、駆動ローラー18aが目標搬送速度Vc(定速度)のときに適正な吐出タイミングとなるように設定された基準のディレイ値である。この基準値は印刷モードに応じた目標搬送速度Vc毎に設定されている。
駆動パルス生成部83は、ノズルから1ドットを吐出する吐出周期(1周期)毎に複数種(例えば2種又は3種)の吐出波形を含む駆動パルスを生成してヘッドコントローラー51を介してヘッド駆動回路131へ出力する。印刷ヘッド13Hは、複数サイズのインク滴を吐出可能であり、本例では一例として大中小3種類のインク滴の吐出が可能である。なお、印刷ヘッド13Hが吐出可能なインク滴のサイズは、1種類でもよいし、2種類又は4種類以上でもよい。
また、コントローラー14は、印刷装置11の設定動作又は印刷開始前の準備動作で、駆動ローラー18aと媒体Pとの間に滑りが発生しない印刷時よりも低速の一定速度で媒体Pを搬送させ、駆動ローラー18aの1回転当たりの媒体Pの移動量ΔYpを取得する。駆動ローラー18aが摩耗等の原因で当初のローラー径よりも小径化している場合は、1回転当たりの媒体Pの実際の移動量ΔYpが、当初のローラー径のときの初期移動量ΔYoよりも小さく変化している。1回転当たりの媒体Pの移動量ΔYpは、例えば撮像した画像に基づいて駆動ローラー18aをN回転(Nは自然数)させたときの媒体Pの移動量ΔYm=Δy1+Δy2+…+Δymを求め、この移動量ΔYmをNで割ることで取得する(ΔYp=ΔYm/N)。コントローラー14は、ΔYo/ΔYpを補正値として補正回路72に出力する。
エッジ検出回路71は、エンコーダー30からエンコーダー信号ESを入力してそのパルスエッジを検出する度にパルスを発生させてエンコーダー信号ESと同じ周期の基準パルス信号RS1を出力する。
補正回路72は、印刷制御部57から指示された補正値ΔYo/ΔYpに基づいて基準パルス信号RS1のパルス周期を補正した基準パルス信号RS2を生成する。この基準パルス信号RS2は、補正回路72からPFカウンター73と吐出タイミング制御部58とに出力される。
PFカウンター73は、搬送系のモーター31〜33の駆動開始に先立ちリセットされ、駆動開始後、補正回路72から入力する基準パルス信号RS2の例えばパルスエッジの数を計数することで、速度制御データVDに基づくモーター31〜33の制御を行ううえで必要な搬送位置yを取得する。印刷制御部57は、PFカウンター73から現在の搬送位置yを取得し、速度制御データVD(図5)を参照して搬送位置yに応じた目標速度を取得する。また、コントローラー14は、基準パルス信号RS2の一のパルスから次のパルスまでの間に入力するクロック信号CKのパルスエッジの数を計数することでパルス周期Tprtを取得する不図示のカウンターを備え、そのカウンターが計数するパルス周期Tprtの逆数を実速度として取得する。そして、印刷制御部57は、実速度を目標速度に近づけるように搬送モーター32を速度制御する。こうして媒体Pは、図5に示す速度プロファイルに沿って加速・定速・減速し、一定の目標搬送速度Vcで搬送されている媒体Pに対して印刷ヘッド13Hからインク滴が吐出される。
吐出タイミング制御部58は、補正回路72から入力した基準パルス信号RS2及び不図示のクロック回路から入力したクロック信号CK等を用いた信号生成処理を行って吐出タイミング信号PTSを生成する。吐出タイミング制御部58は、補正部91、ディレイ値設定部92及び吐出タイミング信号生成部93を備える。
吐出タイミング制御部58が行う信号生成処理には、基準パルス信号RS2のパルス周期を複数に分割(逓倍)したパルス周期の基準タイミング信号PRS(図13参照)を発生させる逓倍処理と、基準タイミング信号PRSをディレイ時間だけ遅延させて吐出タイミング信号PTSを生成する遅延処理とが含まれる。吐出タイミング制御部58が生成した吐出タイミング信号PTSは、ヘッドコントローラー51を介して印刷部13の印刷ヘッド13Hに出力される。
ここで、駆動ローラー18aのローラー径が摩耗等で小さくなって、駆動ローラー18aの1回転当たりの媒体Pの移動量が短くなると、印刷ヘッド13Hの吐出周期Tjが同じであれば、印刷ドットの搬送方向Yにおけるドットピッチが短くなって、搬送方向Yにおける印刷解像度が相対的に高くなる。そのため、補正回路72は、基準パルス信号RS1のパルス周期をΔYo/ΔYp倍に補正した基準パルス信号RS2を生成することで、吐出タイミング信号PTSのパルス周期を補正する。また、例えば駆動ローラー18aが偏心回転している場合、駆動ローラー18aの回転速度が一定でも、偏心回転に起因して駆動ローラー18aのニップ点における周速度が周期的に変動するため、媒体Pの移動速度が変動する。吐出タイミング制御部58は、この種の速度変動を応じて吐出タイミングを補正する。
主制御部81は、印刷ジョブデータPDに含まれる印刷条件情報から取得した印刷モード及び媒体種(例えば用紙種)の情報に基づいて、不図示のギャップ選択データを参照して印刷ヘッド13Hと媒体Pとの間のギャップPGを取得する。さらに主制御部81は、指定の印刷モードに応じた目標搬送速度Vc(定速度)を取得する。また、主制御部81は、検出制御部21から、単位時間当たりの駆動ローラー18aの偏心回転が考慮されたニップ点における回転量Δr及び単位時間当たりの媒体Pの移動量Δyを入力する。なお、前述のとおり、単位時間当たりの回転量Δrは、駆動ローラー18aの偏心回転が考慮された媒体推定移動速度Vrに相当し、媒体Pの単位時間当たりの移動量Δyは、実際の媒体移動速度Vpに相当する。
ヘッド制御部82は、これらのギャップPG、目標搬送速度Vc、媒体推定移動速度Vr及び媒体移動速度Vpの各情報を吐出タイミング制御部58内の補正部91に出力する。
そして、補正部91は、ヘッド制御部82から、ギャップPG、目標搬送速度Vc、周速度V(θ)、媒体推定移動速度Vr(=Δr)及び媒体移動速度Vp(=Δy)の各情報を取得する。そして、補正部91は、ギャップPG、インク吐出速度Vm、目標搬送速度Vc、周速度V(θ)、媒体推定移動速度Vr及び媒体移動速度Vpの各情報を用いて、ディレイ値Dp(PTSディレイ段数)を、次式により算出する。
Dp=Do+(PG/Vm)・(Vc−V(θ)+Vr−Vp) …(1)
ここで、Doは、媒体Pが目標搬送速度Vcで移動しているときにインク滴を目標位置に着弾させることが可能な基準ディレイ値であり、「0(零)」以上の値が設定される(Do≧0)。V(θ)は、駆動ローラー18aの回転角θの関数として表わされる駆動ローラー18aの偏心回転が考慮されたニップ点における周速度である。換言すれば、V(θ)は、駆動ローラー18aの回転角θに応じた媒体の滑りがないものと想定したときの媒体の推定移動速度に等しい。
コントローラー14は、回転角計数用のカウンターを備え、エンコーダー30から原点信号を入力する度にこのカウンターをリセットし、リセット以後、カウンターに、入力されるエンコーダー信号ESのパルスエッジの数を計数させることで、回転角θを取得する。また、コントローラー14は、回転角θと周速度V(θ)との対応関係を示す補正データを記憶部の一例としてのメモリー14aに記憶している。コントローラー14は、カウンターが計測するその時々の回転角θを基に補正データを参照して回転角θに応じた周速度V(θ)を取得する。
周速度V(θ)の第1サンプリング周期TS1は、媒体推定移動速度Vr及び媒体移動速度Vpを取得する第2サンプリング周期TS2よりも短い。例えば、第2サンプリング周期TS2が、駆動ローラー18aの1/5回転〜2回転の範囲内の所定回転につき1回のサンプリングが可能な値に設定されるのに対し、第1サンプリング周期TS1は、駆動ローラー18aの1回転につき10〜100回の範囲内の所定回数のサンプリングが可能な値に設定されている。なお、両サンプリング周期TS1,TS2は、TS1<TS2の条件を満たす限りにおいて、撮像装置20の撮像速度や駆動ローラー18aのローラー径及び回転速度等に応じた適宜な値に設定することができる。また、高速撮像が可能な撮像装置20を使用するなど、駆動ローラー18aの回転速度の割に撮像速度が高速な場合は、第2サンプリング周期TS2を第1サンプリング周期TS1と同じかそれより短い値に設定してもよい。
よって、ディレイ値Dpは、媒体Pの滑りがないとき、駆動ローラー18aの偏心回転時のニップ点における周速度V(θ)の変動に応じて増減し、周速度V(θ)が高速側に変動しているときに小さな値に補正され、低速側に変動しているときに大きな値に補正される。なお、本実施形態では、コントローラー14における回転角計数用のカウンター及び周速度(θ)を検出する機能部分により、第2の取得部の一例が構成される。また、第1サンプリング周期TS1が第1周期の一例に相当し、第2サンプリング周期TS2が第2周期の一例に相当する。
また、上記(1)式中の(Vr−Vp)は、媒体Pの駆動ローラー18aに対する単位時間当たりの滑り量を示す。この種の滑りが発生すると、駆動ローラー18aのニップ点における周速度で示される媒体推定移動速度Vrよりも実際の媒体移動速度Vpが遅くなるので、滑り量(=Vr−Vp)が多くなるほど、ディレイ値Dpは大きくなる。
補正部91は、上記(1)式で取得したディレイ値Dpを、ディレイ値設定部92に設定する。ディレイ値設定部92は、例えば不図示のレジスターを内蔵し、補正部91がレジスターにディレイ値Dpを格納することで、ディレイ値Dpの設定は行われる。
吐出タイミング信号生成部93は、補正回路72から基準パルス信号RS2と、不図示のクロック回路からのクロック信号CKとを入力するとともに、ディレイ値設定部92からディレイ値Dpを入力する。吐出タイミング信号生成部93は、基準パルス信号RS2を逓倍した基準タイミング信号PRS(図13参照)と、基準タイミング信号PRSよりもパルス周期の十分短い補正計数用パルスCP(図13参照)とを生成する。
吐出タイミング信号生成部93は、ディレイ値Dpに基づくディレイ時間を計時するためのディレイカウンター94を備える。ディレイカウンター94には、ディレイ値Dpが設定されるとともに、基準タイミング信号PRSと、補正計数用パルスCPとが入力される。ディレイカウンター94は、図13に示すように、基準タイミング信号PRSのパルスをトリガーとして補正計数用パルスCPの入力パルス数のカウントダウンを開始し、ディレイカウンター94の計数値が「0(零)」になると、パルスを生成して吐出タイミング信号PTSを出力する。つまり、吐出タイミング信号生成部93は、基準タイミング信号PRSのパルスを、ディレイ値Dpに応じた時間だけ遅らせたタイミングで出力することで、吐出タイミング信号PTSを生成する。そして、吐出タイミング信号PTSは、ヘッドコントローラー51を介して印刷部13内のヘッド駆動回路131に出力される。
ヘッド駆動回路131は、吐出データと複数種の駆動パルスとを入力し、複数の駆動パルスのうち吐出データの画素の階調値に応じて選択した1種又は2種の吐出波形の駆動パルスを、吐出タイミング信号PTSに基づくタイミングで、吐出駆動素子群132を構成する各吐出駆動素子に印加する。吐出駆動素子に駆動パルスが印加されることで、例えば電歪作用又は静電作用によってインク室が膨張・圧縮することにより、ノズル13aから吐出データに応じたサイズのインク滴が吐出される。
また、印刷制御部57は、媒体推定移動速度Vr(=Δr)と媒体移動速度Vp(=Δy)とを監視し、両速度Vr,Vpの間に閾値を超える不整合が存在する場合は、不整合の内容から搬送系の不具合の種類を判別し、不具合の内容及びその不具合の解決策を、出力部の一例としての表示部54に表示させる。両速度Vr,Vpの不整合の内容から搬送系の不具合の種類を判別する方法の一例を以下に示す。
例えば駆動ローラー18aが回転しているものの、媒体Pが停止状態にある場合(Vr>0かつVp=0)は、媒体サイズの異常、媒体の外れ、媒体切れのいずれかと判別される。また、駆動ローラー18aが停止状態であるものの、媒体Pが移動している場合(Vr=0かつVp>0)は、ユーザーが媒体Pを引っ張るなど媒体Pに異常な力が働いたと判別される。また、駆動ローラー18aが定速状態であるものの、媒体Pの移動量が極端に少ない場合(Vr=VcかつVp<<Vr)は、紙ジャム又は媒体Pが印刷ヘッド13Hに当たったことに起因する媒体Pの浮きであると判別される。こうして印刷制御部57は、両速度Vr,Vpの比較結果に基づき搬送系の不具合を検出すると、その不具合の発生の旨をその解決策と共に表示駆動回路53を介して表示部54に表示させる。なお、不具合の旨を報知する方法は、表示部54による表示に限らず、印刷部13による媒体への印刷や、スピーカー等による音声又は警告音の出力であってもよい。
次に、印刷装置11の作用を説明する。印刷装置11においてコントローラー14内の印刷制御部57は、印刷ジョブデータPDを受け付けると、そのとき指定の印刷モードから決まる目標搬送速度Vc及びインク吐出速度Vmと、印刷モード及び用紙種から決まるギャップPGとを取得し、これらの情報を補正部91に送る。
コントローラー14は、印刷モードに対応する速度制御データVD(図5参照)に基づいて搬送系のモーター31〜33を速度制御する。駆動ローラー18aの回転によって媒体Pは一定の目標搬送速度Vcで搬送される。コントローラー14には、駆動ローラー18aの回転を検出するエンコーダー30からエンコーダー信号ESが入力される。
ところで、印刷装置11では、予め設定動作又は印刷開始前の準備動作で、媒体Pを印刷時よりも低速の一定速度で搬送させ、駆動ローラー18aの1回転当たりの媒体Pの移動量ΔYpを取得する。コントローラー14は、駆動ローラー18aが印刷装置11を使い始めた初期ローラー径のときの1回転当たりの媒体Pの移動量である初期移動量ΔYoをメモリー14aに記憶しており、この初期移動量ΔYoと、実際に計測した現在の移動量ΔYpとの比ΔYo/ΔYpを補正値として補正回路72(図12参照)に出力する。補正回路72は、エッジ検出回路71から入力した基準パルス信号RS1からパルス周期をΔYo/ΔYp倍に補正した基準パルス信号RS2を生成し、この基準パルス信号RS2をPFカウンター73と吐出タイミング信号生成部93とに出力する。
PFカウンター73は、基準パルス信号RS2のパルスエッジの数を計数することで、モーター31〜33の駆動開始時点を原点とする搬送位置yを取得する。コントローラー14は、不図示の速度検出部が基準パルス信号RS2のパルス周期を計時したその値の逆数をとって実速度を取得し、搬送位置yを基に速度制御データVDを参照して得た目標速度に実速度を近づける速度制御を行う。こうして媒体Pは、一定の目標搬送速度Vcで搬送される。なお、本実施形態では、搬送装置12を構成する駆動ローラー18aの回転により媒体Pを搬送する処理が、搬送ステップの一例に相当する。
この媒体Pの搬送中、図9に示す検出制御部21内において第2検出部56の発光制御部66は、撮像制御部65が生成したストロボ制御信号Stに基づいて発光部43を間欠的に発光させる。このとき、撮像制御部65は、ストロボ制御信号Stによる発光の指示に同期させて、撮像制御信号により撮像素子47に撮像を指示する。よって、媒体Pが撮像装置20の撮像エリアに達すると、撮像装置20により、搬送中の媒体Pの撮像が開始される。撮像装置20の撮像素子47が媒体Pを撮像した画像信号ISは、入出力ポート61cを介して検出制御部21内の第2検出部56に入力される。そして、第2検出部56内の撮像制御部65は、その内部で画像処理回路69が画像信号ISに公知の画像処理を施して生成した画像データIDを、移動量取得部67に出力する。こうして移動量取得部67には、ストロボ制御信号Stのパルス周期とほぼ同周期の単位時間To毎に撮像素子47により撮像された画像データIDが逐次入力される。なお、本実施形態では、撮像装置20が発光部43を間欠的に発光させて媒体Pを撮像する処理が、撮像ステップの一例に相当する。
第2検出部56内の移動量取得部67は、撮像制御部65を介して媒体Pの画像データIDを取得する度に、図11(a),(b)に示すように、前回の画像F1と今回の画像F2とを用いて、テンプレートマッチング処理を行って、媒体Pの単位時間To毎の移動量Δy(=媒体移動速度Vp)を逐次取得する。なお、本実施形態では、第2検出部56が、複数の画像F1,F2に基づいて移動量Δy(=Vp)を取得する処理が、取得ステップの一例に相当する。
また、第1検出部55内のカウンター62は、エンコーダー信号ESのパルスエッジの数を計数し、駆動ローラー18aのその時々の回転量rを取得する。ラッチ回路63は、ストロボ制御信号StのパルスStpの入力時、詳しくはパルスStpの立ち下がり時にカウンター62から入力している回転量rを保持する。回転量取得部64は、記憶部に記憶する前回の回転量r1と、ラッチ回路63から入力する今回の回転量r2との差分から取得した単位時間当たりの回転量δrを基に、記憶部の補正データを参照して駆動ローラー18aの偏心回転が考慮された単位時間当たりの回転量Δr(=媒体推定移動速度Vr)を取得する。なお、本実施形態では、第1検出部55が、回転情報の一例として駆動ローラー18aの回転量Δr(=Vr)を検出する処理が、検出ステップの一例に相当する。
このとき、図10に示すように、ストロボ制御信号StのパルスStpの立ち下がり時に、撮像素子47による媒体Pの撮像と、ラッチ回路63による回転量rの保持とが同期して同時刻に行われる。このため、図7(b)に示すように、媒体Pの撮像された画像に基づき移動量Δy(Δy1,Δy2)を取得する際の間の時刻T1〜T2,T2〜T3と、エンコーダー信号ESに基づき回転量Δr(Δr1,Δr2)を検出する際の間の時刻t1〜t2,t2〜t3とが同期する。こうして第1検出部55が検出した単位時間当たりの回転量Δr(媒体推定移動速度Vr)と、第2検出部56が検出した媒体Pの単位時間当たりの移動量Δy(媒体移動速度Vp)とが、同期がとられた状態で、コントローラー14へ出力される。
例えば図6(b),(c)に示すように、駆動ローラー18aが一定速度で偏心回転しているとき、媒体Pの移動速度は駆動ローラー18aの回転角θに応じて変動する。コントローラー14内では、原点信号の入力の度にリセットされるカウンターが、エンコーダー信号ESのパルスエッジを計数することで、その計数値として回転角θを取得する。コントローラー14は、回転角θに基づいてメモリー14aに記憶された補正データを参照して回転角θに応じた駆動ローラー18aの偏心回転が考慮された周速度V(θ)を取得する。この周速度V(θ)の取得は、回転量Δr及び移動量Δyを取得する第2サンプリング周期TS2よりも短い第1サンプリング周期TS1(<TS2)で行われる。そして、コントローラー14は、この周速度V(θ)、検出制御部21から入力した回転量Δr(媒体推定移動速度Vr)及び移動量Δy(媒体移動速度Vp)を、補正部91に出力する。なお、周速度V(θ)の検出は、コントローラー14に替え、検出制御部21が行ってもよい。
一方、吐出タイミング信号生成部93は、入力する基準パルス信号RS2を、クロック信号CKを用いて逓倍することで、吐出周期と同周期の基準タイミング信号PRSと、これよりパルス周期の十分短い補正計数用パルスCP(いずれも図13参照)とを生成する。基準タイミング信号PRSと補正計数用パルスCPは、ディレイカウンター94に入力される。
また、補正部91は、印刷制御部57から入力したギャップPG、インク吐出速度Vm、目標搬送速度Vc、周速度V(θ)、媒体推定移動速度Vr及び媒体移動速度Vpを用いて、上記(1)式により算出したディレイ値Dpを、ディレイ値設定部92に設定する。ディレイ値Dpは、周速度V(θ)を入力する度に計算され、第1サンプリング周期TS1毎に更新される。また、ディレイ値Dpは、媒体推定移動速度Vr(=Δr)及び媒体移動速度Vp(=Δy)を取得する度に計算され、第2サンプリング周期TS2毎に更新される。そして、ディレイ値Dpは、更新される度にディレイ値設定部92に設定される。
よって、図7(b)に例えば黒色の点群の間隔で示される第1サンプリング周期TS1で、ディレイ値Dpは、周速度V(θ)に基づき更新される。また、単位時間To毎に取得される媒体推定移動速度Vr(=Δr)と媒体移動速度Vp(=Δy)とに基づいて、ディレイ値Dpは、第2サンプリング周期TS2で更新される。このとき、回転量rの検出時刻と媒体Pの撮像時刻との同期がとられているため、両速度Vr,Vpに基づき算出されるディレイ値Dpは適切なものとなる。
吐出タイミング信号生成部93では、ディレイカウンター94が、基準タイミング信号PRSのパルス入力時点に開始したディレイ値Dpのカウントダウンによって、その計数値が「0(零)」に達すると、パルスを発生させて吐出タイミング信号PTSが生成される。この吐出タイミング信号PTSは、ヘッドコントローラー51を介してヘッド駆動回路131に出力される。そして、ヘッド駆動回路131は、吐出データと駆動パルスと吐出タイミング信号PTSとに基づいて吐出駆動素子群132を駆動制御することにより、印刷ヘッド13Hのノズル13aからインク滴を吐出させる。
ところで、駆動ローラー18aのローラー径が摩耗等により小さくなっていると、駆動ローラー18aの回転速度の割にその周速度が相対的に遅くなる。しかし、本例では、補正回路72によって、基準パルス信号RS2のパルス周期がエンコーダー信号ESのパルス周期のΔYo/ΔYp倍に調整される。そのため、ローラー径が初期値よりも小さくなっても、そのときの媒体Pの移動速度に応じて吐出タイミング信号PTSのパルス周期を適切な吐出周期に合わせることができる。
また、図6(b),(b)及び図7(b)に示すように、駆動ローラー18aの偏心回転により、媒体Pの移動速度が周期的に変動していても、ディレイ値Dpの算出に用いられる周速度V(θ)の値が、駆動ローラー18aの回転角θに応じて変動する。このため、ディレイ値Dpが、周速度V(θ)の値に応じて変動する。この結果、図6(b)に示すように、駆動ローラー18aのニップ点が高速側に変動しているときにディレイ値Dpは小さく補正され、図6(c)に示すように、駆動ローラー18aのニップ点が低速側に変動しているときにディレイ値Dpは大きく補正される。よって、図7(b)に黒色の点群で示すように、駆動ローラー18aの偏心回転に起因する周速度V(θ)の変動に応じて、ディレイ値Dpが適切な値に変動するため、駆動ローラー18aの偏心回転に起因する媒体Pの速度変動に応じた適切な吐出タイミング信号PTSを生成できる。従って、駆動ローラー18aが偏心回転していても、媒体Pには搬送方向Yのドットピッチがほぼ一定の印刷ドットが形成される。
さらに、図7(b)に示すように、駆動ローラー18aが偏心回転しているとき、回転量rの取得時刻と媒体Pの撮像時刻とが同じである。このため、媒体Pに滑りがなければ、回転量Δr(=Vr)と移動量Δy(=Vp)とが同じ値になり、媒体Pに滑りがあれば、回転量Δr(=Vr)と移動量Δy(=Vp)との間に滑り量に応じた差が生じる。よって、媒体Pの駆動ローラー18aに対する滑りが生じた場合、単位時間当たりの滑り量(Vr−Vp)に応じてディレイ値Dpが補正される。この結果、媒体Pが駆動ローラー18aに対して滑っていても、媒体Pには搬送方向Yのドットピッチがほぼ一定の印刷ドットが形成される。このように本実施形態の印刷装置11では、駆動ローラー18aのローラー径の変化、駆動ローラー18aの偏心回転、媒体Pの駆動ローラー18aに対する滑りがあっても、搬送方向Yにほぼ一定のドットピッチの印刷ドットにより、媒体Pに画像や文書等を印刷することができる。
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)発光部43による光を媒体Pに間欠的に照射させる照射タイミングを規定するストロボ制御信号Stに基づいて、第1検出部55(検出部の一例)による回転量rの取得と、撮像装置20による媒体Pの撮像との同期をとる。例えば駆動ローラー18aが偏心していても、取得される単位時間当たりの回転量Δr(媒体推定移動速度Vr)と単位時間当たりの移動量Δy(媒体移動速度Vp)とを、駆動ローラー18aの同じ回転角θのときのものとすることができる。よって、媒体推定移動速度Vrと媒体移動速度Vpとの差に基づく、ないはずのずれ量が検出されたり、あるはずのずれ量が検出されなかったりすることを回避できる。このため、両速度Vr,Vpに基づき適切な吐出タイミングに制御することができ、精度の高い印刷制御を行うことができる。
(2)撮像制御部65は、発光部43による光を媒体Pに間欠的に照射させるストロボ制御信号Stを第1検出部55に与える。第1検出部55はストロボ制御信号Stに基づくタイミングで回転量rを取得し、撮像装置20はストロボ制御信号Stに基づき発光部43から光が照射された時の媒体Pの画像を撮像する。この結果、第1検出部55による回転量rの検出時刻と、撮像装置20による媒体Pの撮像時刻とが同期してほぼ同じになる。よって、前回と今回の回転量r1,r2の差δrに基づく単位時間当たりの回転量Δr(媒体推定移動速度Vr)と、前回と今回の画像F1,F2に基づく媒体Pの単位時間当たりの移動量Δy(媒体移動速度Vp)とが取得される際の駆動ローラー18aの回転角θを同じにすることができる。
(3)コントローラー14は、媒体推定移動速度Vr(=Δr)と媒体移動速度Vp(=Δy)とに基づいて、印刷ヘッド13Hの吐出タイミングを制御する。つまり、コントローラー14により、ほぼ同じ時刻の区間で取得された回転量Δrと移動量Δyとに基づいて、印刷ヘッド13Hの吐出タイミングが制御される。よって、印刷ヘッド13Hの吐出タイミングをより適切に制御することができる。
(4)第1検出部55は、駆動ローラー18aの回転量を検出するカウンター62及びラッチ回路63を備える。カウンター62及びラッチ回路63が検出した回転量δrに基づいて、駆動ローラー18aの回転角θと媒体Pの移動量との対応関係を示す補正データを参照して媒体推定移動速度Vr(=Δr)を取得する。そして、コントローラー14は、媒体推定移動速度Vrと媒体移動速度Vpとに基づいて印刷ヘッド13Hの吐出タイミングを補正する。よって、駆動ローラー18aが偏心回転していても、媒体推定移動速度Vrと媒体移動速度Vpとの差から媒体Pの滑り量を検出し、印刷ヘッド13Hを滑り量に応じた適切な印刷タイミングに制御することで、媒体Pの搬送方向Yに一定のドットピッチで印刷ドットを印刷することができる。
(5)コントローラー14は、カウンターが計測するその時々の回転角θに応じた周速度V(θ)を取得し、周速度V(θ)に基づいて吐出タイミング信号PTSのパルス周期を補正する。また、周速度V(θ)の第1サンプリング周期TS1は、媒体推定移動速度Vr及び媒体移動速度Vpを取得する第2サンプリング周期TS2よりも短い。例えば、撮像装置20が媒体Pの撮像に必要な所要時間を確保するなどの理由で、媒体推定移動速度Vr及び媒体移動速度Vpに基づいて印刷タイミングを補正する第2サンプリング周期TS2を、駆動ローラー18aの回転周期の割に相対的に短くできない。この場合、媒体推定移動速度Vrに基づき印刷タイミングを補正する第1サンプリング周期TS1は第2サンプリング周期TS2よりも短く、駆動ローラー18aの回転周期よりも十分短いので、駆動ローラー18aの偏心回転時の周速度の変動に応じて、適切な印刷タイミングに補正することができる。
(6)コントローラー14は、媒体推定移動速度Vr(=Δr)と媒体移動速度Vp(=Δy)の差が閾値を超えると、媒体Pの搬送系の不具合が発生した旨及びその解決策を表示部54に表示する。よって、ユーザーは、搬送系の不具合が発生した旨及びその解決策を表示部54の表示内容から知ることができる。
(7)検出制御部21は、ストロボ制御信号StのパルスStpの立ち上がり時に開始した発光部43による媒体Pへの光の照射を、パルスStpの立ち下がり時に終了する。この発光部43から光が照射された時に撮像装置20により媒体Pが撮像される。また、ラッチ回路63は、ストロボ制御信号StのパルスStpの立ち下がり時にカウンター62が検出している回転量rを保持する。よって、回転量Δrを検出する時刻と、媒体Pを撮像する時刻とをより精度よく合わせることができる。例えば駆動ローラー18aが偏心回転しているときに、媒体推定移動速度Vr(=Δr)と媒体移動速度Vp(=Δy)とを取得する際の駆動ローラー18aの回転角θがずれていると、両速度Vr,Vpの間にないはずのずれ量が生じたり、あるはずのずれ量がなかったりする。しかし、本実施形態によれば、駆動ローラー18aが偏心回転しているときに、媒体推定移動速度Vrと媒体移動速度Vpとを取得する際の駆動ローラー18aの回転角θがほぼ同じなので、両速度Vr,Vpに基づいて適切な吐出タイミングでインク滴を吐出することができる。
(8)コントローラー14は、印刷装置11の設定動作又は印刷開始前の準備動作で、印刷時よりも低速の一定速度で媒体Pを搬送させ、駆動ローラー18aの1回転当たりの媒体Pの移動量ΔYpを取得する。駆動ローラー18aが当初のローラー径のときの1回転当たりの媒体Pの初期移動量ΔYoと現在の移動量ΔYpとの比ΔYo/ΔYpを補正値として補正回路72に出力する。補正回路72は、吐出タイミング信号PTSのパルス周期を規定する基準パルス信号RS2のパルス周期を、エンコーダー信号ESのパルス周期のΔYo/ΔYp倍に補正する。よって、基準パルス信号RS2を逓倍して生成される基準タイミング信号PRSを、駆動ローラー18aのローラー径が当初の値から変化したり、定常的な媒体Pの滑りが発生するようになったりしても、そのときの媒体Pの移動速度に合った適切なパルス周期で生成することができる。よって、駆動ローラー18aの1回転当たりの媒体Pの移動量が当初の値から変化しても、媒体Pの搬送方向Yにほぼ一定のドットピッチで印刷ドットを形成でき、高い印刷品質の印刷物を提供することができる。
(第2実施形態)
次に図14等を参照して、シリアルプリンターからなる印刷装置11に適用した第2実施形態を説明する。なお、第1実施形態と共通の構成については説明を省略し、特に第1実施形態と異な点のみを説明する。
図14に示すように、シリアルプリンターからなる印刷装置11では、印刷部13は、媒体Pの搬送方向Yと交差(特に直交)する走査方向X(幅方向に同じ)に沿って往復移動可能なキャリッジ101と、キャリッジ101の支持面15aと対向する側(図14では下側)に固定された印刷ヘッド13Hとを備える。キャリッジ101は、ガイド軸102に沿って走査方向Xに往復移動可能に設けられるとともに、キャリッジ101の移動経路の両端近傍に位置する一対のプーリー103(図14では一方のみ図示)に巻き掛けられた無端状のタイミングベルト104の一部に固定されている。また、印刷装置11には、キャリッジ101の背面側(図14では右側)に、キャリッジ101の走査方向Xの移動量に比例する数のパルスを含むエンコーダー信号を出力可能なリニアエンコーダー105が設けられている。コントローラー14は、リニアエンコーダー105から入力したエンコーダー信号に基づいてキャリッジ101の走査方向Xの位置(キャリッジ位置)を把握し、またこのエンコーダー信号に基づいて吐出タイミング信号PTSを生成する。
シリアル式の印刷装置11の場合、媒体Pが印刷開始位置まで給送されると、キャリッジ101を走査方向Xに移動させてその移動途中に印刷ヘッド13Hのノズル13aからインク滴を吐出して1行分(1パス分)の印刷をする印刷動作と、媒体Pを搬送方向Yに次の印刷位置まで搬送する搬送動作とを略交互に行うことで、媒体Pに印刷される。コントローラー14は、次の印刷位置まで媒体Pを搬送させる目標搬送量ΔY1を取得すると、媒体Pの移動を開始する。コントローラー14は、図5に示す速度制御データVDに基づく速度プロファイルに従って搬送モーター32を速度制御し、1回の搬送動作を行う。
媒体Pの搬送中は、撮像装置20及び検出制御部21により、撮像装置20が単位時間毎に撮像した媒体Pの連続する2枚の画像F1,F2(図11参照)に基づいて、単位時間毎に媒体Pの移動量Δyを逐次取得する。そして、コントローラー14は、移動量Δy1〜Δynの全てを合算して、媒体Pの現在の実際の移動量ΔYactを取得する。シリアルプリンターにおいては、撮像部の一例としての撮像装置20による媒体Pの撮像が行われる「搬送される過程」には、搬送動作と次の搬送動作との間の停止中も含まれる。よって、本実施形態では、搬送動作と次の搬送動作との間の停止中も、撮像装置20による媒体Pの単位時間毎の撮像は行われるため、搬送動作間の停止中に何らかの原因で媒体Pが僅かにでも移動すれば、媒体Pの移動量Δyが取得される。もちろん、搬送動作間の停止中は、媒体Pは移動しないとの想定の下、「搬送される過程」には含めず、媒体Pの撮像を停止させてもよい。なお、本実施形態では、媒体Pの現在の実際の移動量ΔYactが、移動情報の一例に相当する。
また、検出制御部21内の第1検出部55は、エンコーダー30からのエンコーダー信号ESに基づいて駆動ローラー18aの単位時間当たりの回転量Δrを逐次検出する。この回転量Δrは、前記第1実施形態と同様に、駆動ローラー18aの偏心回転が考慮されたニップ点における単位時間当たりの回転方向移動長である。そして、コントローラー14は、回転量Δr1〜Δrnの全てを合算して、媒体Pの搬送制御上の現在の移動量ΔYencを取得する。なお、本実施形態では、搬送制御上の現在の移動量ΔYencが、回転情報の一例に相当する。
コントローラー14は、媒体Pの搬送が終わるまでの間に、搬送制御上の移動量ΔYencと媒体Pの実際の移動量ΔYactとの対応関係がずれた場合に、搬送制御上の移動量ΔYencを実際の移動量ΔYactに一致させるべく、目標搬送量ΔY1を補正して補正目標搬送量ΔY2を取得する。例えばコントローラー14は、媒体Pの搬送過程で、減速開始位置yb(図5参照)よりも搬送方向Y上流側に所定距離だけ手前の判定開始位置を過ぎると、現在の移動量ΔYenc,ΔYactからずれ量を逐次取得し、ずれ量に応じた補正目標搬送量ΔY2を逐次設定する。そして、コントローラー14は、搬送系のモーター31〜33を制御して、移動量ΔYencが補正目標搬送量ΔY2に達した時点で媒体Pを停止させるようモーター31〜33の駆動を停止させる。この制御の結果、媒体Pは実際の移動量ΔYactが当初の目標搬送量ΔY1に一致する位置で停止する。そして、搬送動作間の停止中に仮に媒体Pが移動したとしても、その停止中に取得された回転量Δrが次回の移動量ΔYencに加算されるとともに、その停止中に取得された移動量Δyが次回の実際の移動量ΔYactに加算される。よって、仮に搬送動作間の停止中に、そのとき移動中のキャリッジ101等の振動源からの振動などの何らかの原因で媒体Pが僅かに移動しても、次回の搬送動作において、媒体Pの実際の移動量ΔYactが当初の目標搬送量ΔY1に一致する位置で媒体Pを停止させることができる。
また、例えば図6(b),(c)及び図7(b)に示すように、駆動ローラー18aが偏心回転しているとき、検出制御部21では、ストロボ制御信号Stに基づいて、第1検出部55が回転量rを検出する時刻と、撮像装置20が媒体Pを撮像する時刻との同期がとられる。このため、図7(b)に示すように、第1検出部55が検出した回転量rを取得する時刻T1〜T3と、媒体Pを撮像する時刻t1〜t3とが一致する。よって、駆動ローラー18aの同じ回転角θのときの回転量Δrと移動量Δyとが取得される。
例えば図7(a)に示すように、駆動ローラー18aの異なる回転角θのときの回転量Δrと移動量Δyとが取得されたとする。この場合、駆動ローラー18aの偏心回転に起因する回転量Δrと移動量Δyとのずれが原因で、搬送制御上の移動量ΔYencと、媒体Pの実際の移動量ΔYactとの間に、実際には存在しないずれ量が検出されたり、実際には存在するずれ量が検出されなかったりする。
しかし、本実施形態によれば、図7(b)に示すように、駆動ローラー18aの同じ回転角θのときの回転量Δrと移動量Δyとが取得されるため、駆動ローラー18aが偏心回転していても、搬送制御上の移動量ΔYencと媒体Pの実際の移動量ΔYactは共に正しい値として取得される。よって、両移動量ΔYenc,ΔYactを比較したとき、実際に存在するずれ量のみが検出され、実際には存在しないずれ量は検出されない。
駆動ローラー18aに対して媒体Pが僅かに滑りながら搬送されている場合、回転量Δr1〜Δrnの合算値である搬送制御上の移動量ΔYencと、実際の媒体Pの移動量Δy1〜Δynの合算値である媒体の実際の移動量ΔYactとの間にずれ量が生じる。このため、媒体Pの実際の移動量ΔYpが目標搬送量ΔY1に達した位置で媒体Pを停止させられるように補正目標搬送量ΔY2を設定する。コントローラー14は、モーター31〜33を駆動制御し、移動量ΔYencが補正目標搬送量ΔY2に達した位置で媒体Pを停止させる。こうして媒体Pが駆動ローラー18aに対して滑っても、媒体Pを次の印刷位置に位置精度よく停止させることができる。この結果、媒体Pが駆動ローラー18aに対して滑っても、高い印刷品質で媒体Pに印刷することができる。
また、例えば回転量を取得する時刻と、媒体Pを撮像する時刻とがずれたことに起因して、ないはずの滑りが検出されてしまい、そのずれ量に応じた補正が却って媒体Pを不適切な印刷位置に停止させてしまうことで起こる印刷品質の低下を回避することができる。なお、回転量Δrの合算値である移動量ΔYencと、移動量Δyの合算値である移動量ΔYactとの間にずれが生じた場合、今回の搬送過程で目標搬送量ΔY1を補正して対応するのではなく、そのずれ量の分だけ次回の目標搬送量を補正する構成でもよい。
以上詳述したように第2実施形態によれば、前記第1実施形態における効果(1)〜(8)が同様に得られる他、以下に示す効果を得ることができる。
(9)媒体Pの搬送中に、単位時間毎に入力した回転量Δr1〜Δrnを合算して取得した搬送制御上の移動量ΔYencと、単位時間毎に入力した移動量Δy1〜Δynを合算して取得した媒体Pの実際の移動量ΔYactとの間にずれがある場合は、ずれ量に基づき目標搬送量ΔY1を補正した補正目標搬送量ΔY2を設定する。そして、コントローラー14は、搬送制御上の移動量ΔYencが補正目標搬送量ΔY2に達した際の停止位置で媒体Pを停止させるべく、搬送系のモーター31〜33を駆動制御する。よって、媒体Pを次の印刷位置に精度よく搬送でき、媒体Pに高い印刷品質で印刷することができる。
(第3実施形態)
次に図15等を参照して第3実施形態について説明する。本実施形態は、ラインプリンターからなる印刷装置11において、サンプリング周期を、駆動ローラー18aの1回転につき10〜100回の範囲内の所定回数とした例である。印刷装置11の構成は、前記第1実施形態と同様である。
図15に示すように、駆動ローラー18aが偏心回転するため、駆動ローラー18aのニップ点における周速度及び媒体Pの移動速度は、駆動ローラー18aの回転角θに応じて変動する。図15に示すグラフにおいて、速度カーブ上に複数の黒色の点群で示すように、駆動ローラー18aの1回転当たりのサンプリング数は10〜100回の範囲内の所定数となっており、図15は、駆動ローラー18aの1回転当たりのサンプリング回数が18回の例を示す。単位時間Toは、駆動ローラー18aが印刷時の速度で1回転する間に、上記サンプリング数を確保できる値に設定されている。この単位時間Toは、第1実施形態における単位時間Toよりも十分短い。
図9に示す第1検出部55は、駆動ローラー18aの偏心回転が考慮されていない単位時間当たりの回転量δr、つまり駆動ローラー18aの回転速度Vθを検出する。詳しくは、カウンター62はエンコーダー信号ESのパルスエッジの数を計数することで回転量rを取得する。ラッチ回路63は、入力するストロボ制御信号StのパルスStpの立ち下がり時に、カウンター62の計数値である回転量rを保持する。回転量取得部64は、記憶部に記憶する前回の回転量r1とラッチ回路63が保持する今回の回転量r2との差分を演算し、単位時間当たりの回転量δr、つまり駆動ローラー18aの回転速度を取得する。さらに第1検出部55は、駆動ローラー18aの回転角θを取得するために使用される不図示の回転角計数用のカウンターを備える。このカウンターは、エンコーダー30から原点信号を入力する度にリセットされ、エンコーダー信号ESのパルスエッジの数を計数することにより、駆動ローラー18aの原点からの回転角θを取得する。このように第1検出部55は、駆動ローラー18aの回転角θと回転速度Vθとを単位時間毎に検出する。なお、本実施形態では、回転速度Vθ(=δr)と回転角θとが、回転情報の一例に相当する。
また、第2検出部56は、前記第1実施形態と同様に、媒体Pの単位時間当たりの移動量Δy(つまり媒体移動速度Vp)を単位時間毎に取得する。なお、本実施形態では、単位時間当たりの移動量Δyで示される媒体移動速度Vpが、移動情報の一例に相当する。
そして、補正部91は、印刷制御部57から取得した、ギャップPG、インク吐出速度Vm、目標搬送速度Vc及び媒体移動速度Vpの各情報を用いて、ディレイ値Dpを、次式により算出する。
Dp=Do+(PG/Vm)・(Vc−Vp) …(2)
ここで、ディレイ値Dpは、媒体Pを撮像した時刻の媒体移動速度Vpに適した値であり、算出したディレイ値Dpに基づく吐出タイミングでインク滴を吐出する吐出時刻においては厳密には適切な値ではない。そのため、媒体Pを撮像した時刻Tkと、ディレイ値Dpに基づくタイミングで吐出するときの吐出時刻Tk+1、例えば次回又は2回先の吐出が行われる吐出時刻Tk+1での吐出に適切なディレイ値Dpを推定する。
このとき、ディレイ値Dpの算出に必要な時刻Tk+1における媒体移動速度Vpを推定する。時刻Tk+1における回転角θk+1は、時刻Tkにおける回転角θkと、時刻Tk〜Tk+1間の時間、駆動ローラー18aの回転速度Vθとから求まる。求めた回転角θk+1から吐出時刻Tk+1における媒体移動速度Vpを推定する。この推定は、例えば時刻Tkにおける媒体移動速度Vpに、回転角がθkからθk+1に進んだときの媒体Pの移動速度変動分を加算して求める。
例えば過去最新1回転分以上の回転角θと媒体移動速度Vpとの対応関係を示す履歴データを記憶部に記憶し、履歴データから回転角がθkからθk+1に進んだときの対応する媒体移動速度Vpk,Vpk+1を取得する。移動速度変動分は、両者の差Vpk+1−Vpkから求め、媒体移動速度Vpkに、この速度変動分「Vpk+1−Vpk」を加算して、吐出時刻Tk+1における媒体移動速度Vpを取得する。時刻Tk+1におけるディレイ値Dpは、時刻Tk+1における媒体移動速度Vpを用いて、上記(2)式により算出する。なお、本実施形態では、吐出時刻Tk+1が、印刷時刻の一例に相当する。
この第3実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(10)媒体Pを撮像した時刻Tkに取得した媒体移動速度Vpと、そのときの駆動ローラー18aの回転角θと回転速度Vθとから、実際に吐出が行われる吐出時刻Tk+1における媒体移動速度Vpを推定し、推定した媒体移動速度Vpを用いて吐出時刻Tk+1における吐出タイミングを規定するディレイ値Dpを算出する。よって、吐出時刻Tk+1において、そのときの媒体Pの移動速度に合った適切なディレイ値Dpに基づく適切な吐出タイミングで印刷ヘッド13Hからインク滴を吐出させることができる。よって、媒体Pを撮像した時点の媒体移動速度Vpを用いて算出したディレイ値Dpに基づく吐出タイミングに比べ、より適切な吐出タイミングで印刷ヘッド13Hを制御し、印刷品質の一層高い印刷を行うことができる。
なお、上記実施形態は以下のような形態に変更することもできる。
・搬送装置12と印刷ヘッド13Hとのうち少なくとも一方の制御内容を補正すればよい。例えば印刷ヘッド13Hの吐出タイミングは補正せず、搬送装置12の制御内容を補正してもよいし、搬送装置12の制御内容については補正せず印刷ヘッド13Hの吐出タイミングを補正してもよい。例えば第1検出部55がエンコーダー信号ESに基づき取得した回転速度Vθ(回転情報の一例)と媒体移動速度Vp(移動情報の一例)との比Vθ/Vpを目標搬送速度Vcに乗じた値を、補正後の目標搬送速度として、モーター31〜33を速度制御してもよい。例えば速度制御データVDを参照して得られる搬送位置yに応じた目標速度をVθ/Vp倍した値を、補正後の目標速度として速度制御すればよい。
・ディレイ値Dpの演算式は、上記(1)式に替え、式Dp=Do+(PG/Vm)・(Vc−V(θ))・Vr/Vpでもよいし、式Dp=Do+(PG/Vm)・(Vc/V(θ))・(Vr−Vp)でもよい。また、その他の演算式を用いてもよいし、基準タイミング信号PRSを遅延させるディレイ値Dpを用いた補正方法以外の他の方法で吐出タイミングを補正してもよい。
・前記第1及び第2実施形態において、回転情報と移動情報との対応関係を示す偏心回転用の補正データを用いず、上記(1)式中の駆動ローラー18aの周速度V(θ)を無くして、吐出タイミングを補正してもよい。
・前記各実施形態において、コントローラー14が、回転情報と移動情報とに基づき、搬送装置12による目標搬送量と目標搬送速度との両方を補正してもよい。
・照射タイミングを決める制御信号は、ストロボ制御信号Stに限定されない。例えば撮像装置に照射タイミングを決めるシャッターを設け、シャッターの開閉を制御するシャッター制御信号でもよい。シャッター制御信号は、シャッターを開く期間にパルスを有するパルス信号である。撮像装置は、シャッターを開いた期間に発光部の光が媒体Pに照射され、光が照射されたときの媒体Pの画像を撮像する。この構成では、シャッター制御信号に基づいて、検出部による回転情報の検出と、撮像部による媒体の撮像との同期をとることができる。
・搬送部の一例としての搬送装置12は、ローラー搬送方式に限らず、媒体を搬送する無端状の搬送ベルトを備えたベルト搬送方式でもよい。ベルト搬送方式の場合、無端状の搬送ベルトが巻き掛けられた複数のローラーのうち1つをローラーの回転をエンコーダーで検出して検出部を構成すればよい。
・搬送装置12がベルト搬送方式である場合、回転ローラーに巻き掛けられた搬送ベルトにおける媒体の載置領域以外の領域(例えば側縁部)に形成された磁気スケール等のリニアスケールを検出対象として搬送ベルトの駆動量を直接検出するエンコーダーでもよい。このように検出部は、回転ローラーの回転を間接的に検出してもよい。さらに検出部は、搬送装置の動力源であるモーターの回転を検出するエンコーダーを含んでもよい。
・検出部は、エンコーダーを含む構成に限定されず、撮像素子(イメージセンサー)等の撮像部でもよい。例えば撮像部により回転ローラーの外周面を検出して回転情報を取得してもよい。また、ベルト搬送方式の搬送装置において、搬送ベルト又は回転ローラーの周面を撮像部で撮像した画像に基づき、回転ローラーの回転情報を取得してもよい。
・第1実施形態の印刷装置11において、第3実施形態のように次回又は2回先などの吐出時刻に合わせて、その吐出時刻における吐出タイミングを規定するディレイ値Dpを推定してもよい。
・発光部が媒体を撮像するときに照射する光は、可視光に限らず、赤外線や紫外線でもよい。
・排出ローラー対を備えたローラー搬送方式の搬送装置12の場合、回転ローラーは、搬送ローラー対の駆動ローラーに替え、排出ローラー対の駆動ローラーでもよい。また、回転ローラーは従動ローラーでもよい。
・特許文献1に記載の印刷装置のように、回転ローラーの偏心回転による回転角と媒体の移動量との対応関係を示す補正データを作成するときに、回転ローラーの回転情報(例えば回転角)と媒体の移動情報(例えば移動量)とを取得する構成において適用してもよい。すなわち、補正データを作成するときに、例えば撮像部が媒体に光を照射する照射タイミングに基づいて、回転情報の取得時刻と媒体の撮像時刻との同期をとる。照射タイミングを規定する制御信号は、ストロボ制御信号又はシャッター制御信号などを使用できる。
・吐出タイミングの補正及び搬送量の補正を行わず、回転情報と移動情報とに基づいて搬送系の不具合を検出し、その旨を出力部に出力するエラー制御のみ行ってもよい。この構成によれば、回転情報の検出時刻と画像の撮像時刻とが同じ時刻に同期をとって得られるので、回転ローラーが偏心回転していても、エラーを誤報知する頻度を低減できる。
・前記各実施形態において、撮像装置20により媒体Pの印刷面(例えば表面)における印刷前の領域を撮像してもよい。なお、媒体Pの印刷済み領域の非印刷面(例えば裏面)を撮像してもよい。また、移動情報を得られる限りにおいて印刷面における印刷領域を撮像してもよい。さらに媒体Pの印刷領域よりも搬送方向下流側の位置を撮像してもよい。
・撮像装置を複数設けてもよい。例えば印刷開始位置に達するまでの給送中の媒体を撮像可能な撮像装置を追加してもよい。この場合、例えば給送中の媒体を撮像した画像に基づき移動情報(例えば移動量ΔYp)を取得し、補正回路72に補正値ΔYo/ΔYpを与える構成でもよい。この構成によれば、予め移動量ΔYpを計測する必要がない。
・前記各実施形態において、撮像装置20を制御して検出値を得る検出制御部21を、コントローラー14と別体に設ける構成に替え、コントローラー14に組み込んでもよい。
・前記各実施形態において、ストロボ制御信号Stのパルスの立ち上がり時のタイミングで、第1検出部55が回転量Δrを検出してもよい。
・検出部による回転情報の検出時刻と媒体の撮像時刻との同期をとるために、発光部の発光制御又はシャッターの開閉制御に用いられる制御信号を、遅延回路などのタイミング調整回路を介して遅延させることで、回転情報の検出時期を調整してもよい。
・前記第1実施形態において、回転情報と移動情報とを取得する第2サンプリング周期は、周速度V(θ)を取得する第1サンプリング周期よりも長ければよく、駆動ローラー18aの例えば1/5回転〜2回転の範囲内の所定値でもよい。また、第1サンプリング周期が第2サンプリング周期以上でもよい。この場合、第2サンプリング周期は、回転ローラーの1回転当たりに10〜360回のサンプリングが可能な値に設定するのが好ましい。
・コントローラー14内の印刷制御部57内に構築される各機能部は、プログラムを実行するコンピューターによりソフトウェアで実現されたり、例えばFPGA(field-programmable gate array)やASIC(Application Specific IC)等の電子回路によりハードウェアで実現されたり、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現されたりしてもよい。
・媒体は、連続紙に限定されず、単票紙(カット紙)でもよい。また、媒体は、紙に限定されず、樹脂製のフィルムやシート、樹脂と金属の複合体フィルム(ラミネートフィルム)、織物、不織布、金属箔、金属フィルム、セラミックシートなどであってもよい。さらに媒体は、用紙やシート等の平坦形状のものに限らず、円柱、直方体、円錐、多角錐等の所定形状を有する立体物でもよい。
・印刷装置は、インクジェット式に限定されず、ドットインパクト式でもよいし、レーザー方式又はLED方式の電子写真式でもよい。ドットインパクト式又は電子写真式の場合は、回転情報と移動情報とに基づいて媒体の搬送量又は搬送速度を補正すれば、媒体の適切な位置に印刷をすることができる。
・印刷装置は、ラインプリンターやシリアルプリンターに限定されず、ラテラル式プリンターやページプリンターでもよい。また、印刷装置は、複合機でもよい。