以下、本発明を記録装置に適用した例について説明する。しかし、本発明は、記録装置に限られず、シートを取り扱う様々な用途の装置に適用可能である。
<第一実施形態>
図1は記録装置Aの概略図である。記録装置Aは記録媒体としてシートSに画像を記録するインクジェット記録装置である。なお、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれ、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、記録媒体は紙の他、布、プラスチック・フィルム等であってもよい。また、本発明は他の形式の記録装置にも適用可能である。
記録装置Aは、シートSを搬送方向Fに搬送する機構として、供給ユニット2、搬送ユニット3及び排出ユニット9を備える。搬送方向Fを副走査方向と呼び、搬送方向Fに直交する方向を主走査方向と呼ぶ場合がある。また、供給ユニット2側を上流側、排出ユニット9側を下流側と呼ぶ場合がある。
供給ユニット2、搬送ユニット3及び排出ユニット9は、支持部4上でシートSを搬送する。支持部4は供給ユニット2から排出ユニット9に渡って設けられ、シートSの搬送路(搬送面)を形成する。シートSは支持部上で支持されつつ、搬送される。
供給ユニット2は、未記録のシートロール1を支持する。シートSは、ウェブ状の連続シートであり、シートロール1の形態で供給ユニット2に備えられている。シートSは例えばシート幅が数cmから数mに及ぶ様々なサイズを採用可能である。供給ユニット2はシートロール1を回転自在に支持する。供給ユニット2は、シートロール1から引き出されたシートSの張力を調整する駆動機構を備える。この駆動機構は、例えば、モータを駆動源として、シートロール1を回転駆動する機構であり、シートSの送り出しや、巻き取りを行ってシートSの張力を調整する。供給ユニット2は、この他に、シートSを挟持して搬送するローラ対(駆動ローラ、従動ローラ)を備えていてもよい。
搬送ユニット3は、供給ユニット2の下流側に配置されており、シートSを挟持して搬送する。搬送ユニット3は、主走査方向に延設された搬送ローラ3aと、搬送ローラ3aに圧接されるピンチローラ3bとを備える。搬送ローラ3aとピンチローラ3bは、使用が想定されるシートSの最大幅に対応した長さに渡る。
搬送ユニット3は、モータを駆動源とする駆動機構を備え、この駆動機構は搬送ローラ3aを回転駆動する。搬送ユニット3は、また、搬送ローラ3aの回転量を検出するセンサ(例えばロータリエンコーダ)を備える。シートSの搬送量はこのセンサの検出結果に基づき制御することが可能である。
ピンチローラ3bは、本実施形態の場合、主走査方向に複数設けられているが、一つであってもよい。ピンチローラ3bは搬送ローラ3aとニップ部を形成し、搬送ローラ3aの回転に従動して回転する。シートSはこのニップ部に挟持されて搬送される。
解除ユニット6は、搬送ユニット3によるシートSの挟持を少なくとも部分的に解除可能なユニットである。本実施形態の場合、解除ユニット6は、複数のピンチローラ3bの少なくとも一部のピンチローラを圧接位置(図1で実線の位置)と圧接解除位置(図1で破線の位置)で移動可能である。圧接位置とは、ピンチローラ3bが搬送ローラ3aに圧接してシートSを挟持する位置であり、図1で実線で示す位置である。圧接解除位置とは、ピンチローラ3bが搬送ローラ3aから離間してシートSの挟持を解除する位置であり、図1で破線で示す位置である。本実施形態の場合、解除ユニット6は、一部のピンチローラ3bのみを移動するが、全部のピンチローラ3bを移動してもよい。
解除ユニット6は、例えば、ピンチローラ3bを支持する可動部材と、ピンチローラ3bが搬送ローラ3aに圧接するように可動部材を付勢する弾性部材(例えばコイルスプリング)と、アクチュエータと、を備える。アクチュエータは、例えば、電磁ソレノイドやモータ等であり、動作時に、弾性部材の付勢に抗して、ピンチローラ3bが搬送ローラ3aから離間するように可動部材を付勢する。可動部材は、ピンチローラ3bを移動可能なようにスライド自在又は回動自在に設けられる。
排出ユニット9は、搬送ユニット3の下流側に配置されており、記録後のシートSを排出する。排出ユニット9は排出ローラ9を備え、排出ローラ9の回転によりシートSが搬送される。シートSは下方へ落下しながら装置外へ排出される。排出ユニット9は、モータを駆動源とする駆動機構を備え、この駆動機構は排出ローラ9aを回転駆動する。なお、排出ユニット9の下流側には、シートSを切断するカッターユニットを設けてもよい。
記録装置Aは、搬送ユニット3により搬送されるシートSに画像を記録する記録ユニット7を備える。支持部4のうち、記録ユニット7に対向する領域はプラテンを構成する。記録ユニット7は、キャリッジ5と、キャリッジ5に搭載された記録ヘッド10とを備える。キャリッジ5には、記録ヘッド10から吐出するインクを貯留するインク貯留部を搭載してもよい。
キャリッジ5は不図示の駆動機構により主走査方向に往復移動される。駆動機構は、例えば、モータ等の駆動源と、駆動源の駆動力をキャリッジ5に伝達する伝達機構と、キャリッジ5の移動を案内する案内軸等を備える。伝達機構は例えばベルト伝動機構である。また、往復移動するキャリッジ5の位置を検出する位置検出機構(不図示)が設けられている。位置検出機構は、例えば、主走査方向に延設されたリニアスケールと、キャリッジ5に搭載されてリニアスケールを読み取るエンコーダセンサと、を備える。この位置検出機構によりキャリッジ5の位置制御、つまり、シートSに対するインクの吐出位置の制御を行うことができる。
記録ヘッド10は、ヒータを用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式のいずれであってもよい。本実施形態ではエマルションインク(分散系インク)を使用する記録ヘッドを想定するが、これに限定するものではない。
エマルションインクは、シートS上に吐出着弾されたインク滴に熱を加えることで膜を形成してシートS表面に固化定着する。この定着を促進するため、加熱ユニット100が設けられている。加熱ユニット100はシートSを加熱するユニットであり、支持部4により形成されるシートSの搬送面の下側に配置されている。
本実施形態の場合、加熱ユニット100は、独立して制御可能な複数のヒータユニット101〜104を含む。各ヒータユニット101〜104は熱源を備える。熱源は、例えば、電力を熱に変換するデバイスであり、ここでは電力の供給量によって発熱量を制御できるものである。各ヒータユニット101〜104の加熱範囲は、主走査方向にシートSの最大記録幅に対応した幅に設定される。各ヒータユニット101〜104は搬送方向Fに並べて配置されている。
各ヒータユニット101〜104は支持部4を介してシートSを加熱する。換言すると、支持部4を加熱することで、支持部4に接触するシートSを加熱する。支持部4は、ヒータユニット101〜104毎に設けられてもよく、各ヒータユニット101〜104の一部を構成する壁体であってもよい。なお、各ヒータユニット101〜104は、シートSを輻射熱、温風等により非接触で加熱するものでもよい。こうした非接触で加熱する場合、支持部4はシートSを通じて同程度の温度に加熱されることになる。
各ヒータユニット101〜104のうち、ヒータユニット102はメインヒータであり、記録ユニット7に対向した位置(プラテンの下側の位置)に配置されている。ヒータユニット102のことをプラテンヒータ102と呼ぶ場合がある。ヒータユニット101は画像の記録前にシートSを予備加熱する補助ヒータであり、プラテンヒータ102の上流側に配置されている。ヒータユニット101のことを補助ヒータ101又はプレヒータ101と呼ぶ場合がある。ヒータユニット103は、記録後にインクの乾燥を更に促進させる補助ヒータであり、プラテンヒータ102の下流側に配置されている。ヒータユニット103のことを補助ヒータ103又はアフターヒータ103と呼ぶ場合がある。ヒータユニット100は、必要に応じて補助的に設けられるヒータであり、本実施形態の場合、プレヒータ101よりも上流側に配置されている。なお、ヒータユニットの数や配置はこれに限られず、様々な数及び配置を採用可能である。
本実施形態の場合、プラテンヒータ102は、加熱装置100における主たる熱源であり、停止状態のおける温度低下が最も遅いヒータユニットである。温度低下が最も遅くなる要因としては、例えば、発生する熱量が最も大きい構造を有している、発生する熱量が最も大きくなるように制御される、最も蓄熱量が大きい構造を有している、若しくは、周辺に他のヒータユニットが存在する、を挙げることができる。
シートSの加熱温度に関してはインク乾燥のために所定温度以上であることが求められる一方、温度が高すぎるといわゆる熱ダメージが発生する場合がある。そこで、所定温度範囲内で安定するよう制御することができる。熱ダメージとしては、記録不良や、シートSの熱変形、気泡、粘着剤のしみ出し等を挙げることができる。所定温度とはシートSの種類によって異なるが、例えば、シートSが粘着塩化ビニール素材のシートであればその温度帯は、例えば、30℃〜110℃であり、より狭い範囲でいうと40℃〜90℃であり、更に狭い範囲でいうと50℃〜80℃である。
プラテンヒータ102へは温度を変動させる様々な要因(以下、温度変動要因という)が作用する。例えば記録ユニット7によって、シートSに付与されるインク量の変動が挙げられる。これは、インク成分が乾燥する際にシートSを通じていわゆる気化熱によってプラテンヒータ102から奪われる熱量は、付与されるインク量に応じて変動することに起因する。
他の温度変動要因としては、例えば、シートSの搬送速度、供給されるインク温度等様々な要因が挙げられる。これらの温度変動要因が作用してもシートSを所定温度範囲内に維持するため、プラテンヒータ102が加熱する支持部4を構成する部材を、熱伝導率が高く蓄熱量の大きい材料に設定することができる。例えばアルミニウムや銅などの金属材料を採用することができる。具体的には厚さ5〜10mmのアルミニウム板を採用することが可能であるが、これに限定されるものではない。
記録装置Aは温度センサ13を備える。温度センサ13は、プラテンヒータ102の加熱領域における温度を検出するセンサであり、破線で示すように、プラテンヒータ102上のシートSの温度を検出する。温度センサ13は、例えば、シートSの表面温度を非接触で検出する赤外線温度センサや、シートSに接触して温度検出する接触式温度センサなどが考えられる。なお、本実施形態の場合、温度の検出対象をプラテンヒータ102の加熱領域としたが、各ヒータユニット101〜104にそれぞれ対応する温度センサを設け、各加熱領域における温度を個別に検出してもよい。無論、センサの数が少なければ、その分コストダウンを図ることができる。
記録装置AはシートSを支持部4に吸着する吸着ユニット8を備える。吸着方式としては、例えば、支持部4に空気孔を設け、この空気孔から空気を吸引してシートSを支持部4の表面に吸着する方式を挙げることができる。この場合、吸着ユニット8は空気を吸引するポンプ等の負圧発生源を備えることになる。また、吸着方式として、例えば、静電気力によってシートSを支持部4の表面に吸着する方式も挙げることができる。この場合、吸着ユニット8は支持部4の表面に静電気を発生させる電気回路を備えることになる。
吸着ユニット8によりシートSと支持部4とを密着させることで、例えば、シートSと記録ヘッド10との干渉を防止する。また、シートSへの熱伝導性が向上し、シートSをより安定した温度に加熱することができる。なお、吸着力はシートSをその支持部4表面に垂直方向に働くため、搬送方向Fに対しては比較的拘束力が弱い。このため、吸着中もシートSの搬送動作が可能であり、また、熱によるシートSの膨張、収縮等も生じ得る。
記録装置Aは制御ユニット14を備える。制御ユニット14は記録装置Aが備える各種のセンサの検出結果に基づいて記録装置Aが備える各種のデバイスの制御を行う電子回路である。制御ユニット14は、例えば、温度センサ13の検出結果に基づいて加熱ユニット100の出力を制御する。制御ユニット14は加熱ユニット100の出力を停止(OFF)含めて制御する。ここでいう出力とは例えば加熱ユニット100の発熱のことである。制御ユニット14は解除ユニット6によるピンチローラ3bの挟持と解除や、吸着ユニット8の吸着状態も制御する。
制御ユニット14は、例えば、CPUと記憶デバイスとインタフェースとを備える。CPUは記憶デバイスに記憶された制御プログラムを実行し、記録装置Aを制御する。記憶デバイスは例えばRAMやROM等である。インタフェースはCPUと各種センサや各種デバイスとの間での信号の送信又は受信を可能とする。制御ユニット14は、また、センサからの信号を処理する回路や、デバイスを駆動する駆動回路等を含む。
記録装置Aの記録動作の例について説明する。シートSに対する画像の記録は記録ヘッド10の主走査方向の移動及びインクの吐出と、シートSの副走査方向の搬送とを交互に繰り返すことで、シートS上に二次元のインク画像を形成することで行うことができる(シリアル記録)。シリアル記録の間、吸着ユニット8によって、シートSは支持部4上により吸着されている。シリアル記録では、キャリッジ5が往復移動しながらシートSの同一箇所に複数回に分けてインクを付与(重ね打ち)して画像を完成させる、いわゆるマルチパス記録方式を採用することができる。
なお、重ね打ち回数はパス数とも呼ばれ、例えば8回の重ね打ちをする記録方法を「8パス記録」などという。エマルションインクを使用する場合には、ある主走査(パス)で記録ヘッド10からインクが付与された箇所は、次の主走査(パス)で同一箇所にインクが付与されるまでの間にある程度乾燥している必要がある。仮に、次の主走査の時点でインクがある程度乾燥していないと、重ね打ちされたインク同士が混じり合って滲みや凝集による画像劣化が起きる原因となる。そこで、加熱ユニット100によってシートSを所定温度範囲を下回らない安定した温度に加熱することができる。
<加熱ユニットの制御>
加熱ユニット100の制御例について説明する。プラテンヒータ102によりシートSを所定温度(例えば60°C)に加熱する際に、記録位置の温度が温度センサ13で検出され、シートSの温度が60℃となるようにプラテンヒータ102がフィードバック制御される。具体的な制御方法としては例えばPID制御などが考えられるがこれに限らない。このようにしてシートS上に画像形成され乾燥定着済のシートを得ることができる。
記録装置Aの動作モードとしては、記録動作を行う記録モードの他、記録待機モード及び省電力モードを設定することができる。記録待機モードは、記録動作終了後に省電力モードに移行する前段階として設定することができる。記録待機モードとは次の記録JOBを直ちに開始できるよう温度等を維持した状態で待機するモードである。記録待機モードでは加熱ユニット100、吸着ユニット8等が記録実行中と同様に作動している。シートSの搬送は停止している。
省電力モードには、記録動作終了後に消費電力削減、騒音防止などの目的で、所定条件、例えば一定時間の経過等を満たした場合に、移行することができる。この省電力モードでは、シートSの搬送を停止する他、プラテンヒータ102や吸着ユニット8の動作を停止する、あるいは加熱温度や吸着力をより低い状態に変更する、といった処理を行う。本実施形態の場合、省電力モードは、記録モードや記録待機モードよりも加熱ユニット100の消費電力が低いモードである。省電力モードは、最終的に、ほとんど電力を消費しない状態(本体電源OFF、いわゆるスリープモード)となってもよい。
ここで、省電力モードに移行する場合に、シートSはその少なくとも一部が搬送路中に存在した状態である。そのため、シートSの温度分布に差が生じてシワの原因となる場合がある。以下、省電力モードの移行するときのシワや凹凸を抑制する制御例について説明する。ここでは主に、プレヒータ101、プラテンヒータ102及びアフターヒータ103を省電力状態にする制御について説明する。
<制御例1>
図2(A)は制御例1の説明図であり、図6(A)は制御ユニット14が実行する処理例を示すフローチャートである。
図2(A)のグラフにおいて縦軸はシートSの温度、横軸は経過時間を示している。曲線L101乃至L103はそれぞれプレヒータ101、プラテンヒータ102、アフターヒータ103におけるシートSの温度を示している。プレヒータ101におけるシートSの温度とは、図1で言うと、シートSのうち、領域RG1に位置する部分の温度である。プラテンヒータ102におけるシートSの温度とは、図1で言うと、シートSのうち、領域RG2に位置する部分の温度である。アフターヒータ103におけるシートSの温度とは、図1で言うと、シートSのうち、領域RG3に位置する部分の温度である。これら各温度のうち、領域RG2におけるシートSの温度は温度センサ13で検出可能である。他の領域RG1、RG3のシートSの温度は本実施形態の場合、推定温度である。
既に述べたとおり、プラテンヒータ102は、加熱装置100における主たる熱源であり、停止状態のおける温度低下が最も遅いヒータユニットである。本例の場合、プラテンヒータ102の蓄熱量が最も大きく設定されている場合を想定している。
また、一例として以下の温度状況を想定する。環境温度を25℃とする。環境温度とは、例えば、記録装置Aが設置される空間の室温である。時間P0乃至P1で示す記録中あるいは記録待機モードにおける、シートSの領域RG1〜RG3の温度設定はそれぞれ例えば50℃、60℃、65℃である。
プレヒータ101とアフターヒータ103とは、プラテンヒータ102と隣接している。このため、記録中あるいは記録待機モードにおいて、それぞれ隣接するヒータ間(換言すれば領域RG間)でのシートSの温度差が許容温度範囲Zとなるように各ヒータを制御する。許容温度範囲Zは、シワや凹凸の発生しない温度範囲であり、例えば、シートSが粘着塩化ビニールの場合で±10℃内の範囲である。
図2(A)では、領域RG2でのシートSの温度を中心とした許容温度範囲Zを斜線で示している。以後、説明の便宜のため許容温度範囲Zの幅の1/2を温度zと定義する。例えば前述の粘着塩化ビニールの場合、z=10℃となる。
時間P0乃至P1(図6(A)のステップS101)では、記録装置Aは記録中あるいは記録待機モードとなっている。図6(A)のステップS102の判定で省電力モードに移行するモード移行制御を実行する。図2(A)の時間P1(図6(A)のステップS103)においてプラテンヒータ102の発熱が制御ユニット14によって停止し(図2(A)の曲線L102)、省電力状態とする。本実施形態の場合、このように省電力状態ではプラテンヒータ102に対する発熱用の電力供給をOFFとして発熱停止状態とするが、省電力状態では発熱を低下させるだけでもよい。
こうして最も蓄熱量の大きな、すなわち放熱による温度低下のもっとも遅いプラテンヒータ102がまず停止される。この時点ではプレヒータ101及びアフターヒータ103はそれ以前と同様の加熱を継続している(図2(A)の曲線L101、L103)。これはプレヒータ101及びアフターヒータ103はプラテンヒータ102と比較してヒータ停止後の温度低下が早いためである。つまり、全ヒータを一斉に停止すると、領域RG2では相対的に高温で、領域RG1及びRG3では相対的に低温で、かつ、その温度差が大きくなる場合がある。本実施形態のように、プラテンヒータ102を停止した後、プレヒータ101及びアフターヒータ103を停止することで、シートS上の温度差を小さくすることができ、シートSにシワが発生することを防止することができる。
続いてプレヒータ101及びアフターヒータ103を省電力状態とするタイミングについて説明する。なお、プレヒータ101及びアフターヒータ103の省電力状態も、本実施形態の場合、発熱用の電力供給をOFFとしたが発熱を低下させてもよい。
曲線L102に示すように、プラテンヒータ102に対応する領域RG2のシートSの温度は時間P1以降、放熱により徐々に低下していく。他のヒータ(曲線L101、L103参照)は、シートSの温度が許容温度範囲Z内で推移するように停止される。ここでは、時間P2でアフターヒータ103が停止され、時間P3でプレヒータ101が停止される。
既に説明したとおり、本実施形態では領域RG1及び領域RG3におけるシートSの温度を検出するセンサを有していない。プレヒータ101及びアフターヒータ103の停止タイミングは、温度センサ13が検出した領域RG2の温度に基づき決定してもよい。また、プラテンヒータ102の停止からの経過時間で決定してもよい。
停止タイミングは、予め把握された装置の特性から決定してもよいし、装置の特性に加えて環境温度に応じて決定してもよい。環境温度は、これを検出するセンサを設けてもよいし、ユーザが入力するようにしてもよい。
予め装置の温度低下特性を把握することで、シートSの各部位の温度が許容温度範囲Z内で推移するように、加熱を継続しているヒータを停止すべき温度を特定可能となる。例えば、領域RG2の温度変化と、領域RG1及びRG3の温度変化との経時的な関係をシミュレーション又は実験により予め求めることができる。すると、温度センサ13が検出した領域RG2の温度が閾値温度に達したタイミングで、プレヒータ101やアフターヒータ103を停止することができる。例えばここではプレヒータ101を停止できる領域RG2の温度をT1、アフターヒータ103を停止できる領域RG2の温度をT2とする。すると、温度センサ13の検出結果を監視すれば、プレヒータ101やアフターヒータ103の停止タイミングの到来を決定することができる。
また、プラテンヒータ102の停止後、領域RG2の温度がT1に到達する時間が略一定時間であるのであれば、温度センサ13の検知結果を利用せずに、所定時間の経過後にプレヒータ101を停止することもできる。同様に、プラテンヒータ102の停止後、領域RG2の温度がT2に到達する時間が略一定時間であるのであれば、温度センサ13の検知結果を利用せずに、所定時間の経過後にアフターヒータ103を停止することもできる。時間で管理する場合は、環境温度の影響を考慮して停止すべき時間を設定することが必要となろう。
図6(A)の制御例は、温度センサ13の検知結果に基づき、プレヒータ101やアフターヒータ103の停止タイミングを決定する場合を示している。
ステップS104で、温度センサ13が検出したシートSの領域RG2の温度が判定さる。ここでは、領域RG2の温度がT1以下であると判定されるとステップS105でプレヒータ101が停止される(図2(A)の時間P3参照)。また、領域RG2の温度がT2以下であると判定されるとステップS106でアフターヒータ103が停止される(図2(A)の時間P2参照)。領域RG2の温度がT1及びT2以下であると判定されるとステップS107でプレヒータ101及びアフターヒータ103の双方が停止される。その後、一単位の処理が終了する。領域RG2の温度がT2よりも高い場合は待ちの処理となる。
プレヒータ101又はアフターヒータ103が停止されると、対応する領域RG1、RG3でのシートSの温度は徐々に温度低下するが、前述した許容温度範囲Z内で推移することになる。
図6(A)のステップS108では、プレヒータ101及びアフターヒータ103の双方が停止されたかどうかを確認し、停止していない場合はS104へ戻り、停止している場合は一単位の処理を終了する。
こうして複数あるヒータユニット101〜103の全てが停止されると、本体電源OFFあるいはスリープモードへの移行が可能である。このように停止タイミングをずらしてヒータを停止するため、シートSの温度差を許容温度範囲内に維持することが可能である。したがってシワや凹凸を抑制できる。また、ヒータの複雑な制御をする必要がないため構成の簡素化が可能である。
なお、本実施形態では、プラテンヒータ102の放熱による温度低下に合わせてシートSの温度分布が許容温度範囲内となるよう他のヒータの停止タイミングを設定しているが、他の隣接するヒータ間でも同様にすればよい。例えば、本実施形態のようにプレヒータ101と隣接する位置にヒータユニット104がある場合には、プレヒータ101の放熱による温度低下に合わせてヒータユニット104を停止すればよい。
<制御例2>
プラテンヒータ102の省電力状態にした後、プレヒータ101及びアフターヒータ103を省電力状態にする前に、温度センサ13の検知結果に基づき、プレヒータ101やアフターヒータ103の発熱を制御してもよい。図2(B)は制御例2の説明図であり、図6(B)は制御ユニット14が実行する処理例を示すフローチャートである。
図2(B)の時間P0乃至P1は記録中又は記録待機中(図6(B)のステップS201)である。図6(B)のステップS202の判定で省電力モードに移行するモード移行制御を実行する。時間P1において最も蓄熱量の大きな、すなわち放熱による温度低下のもっとも遅いプラテンヒータ102が図6(B)のステップS203で停止される。曲線L102に示すようにプラテンヒータ102に対応する領域RG2のシートSの温度は時間P1以降、放熱により徐々に低下していく。時間P1以降、プレヒータ101及びアフターヒータ103は時間P0乃至P1間のそれぞれの固定温度を目標とする設定から温度センサ13が検知した領域RG2のシートSの温度に基づく温度制御へと移行する(図6(B)のステップS204)。温度制御は、例えば温度センサ13の検出温度を目標値とするPID制御である。
この温度制御では、領域RG2のシートSの温度が環境温度まで低下するよりも前に、プレヒータ101またはアフターヒータ103を停止することもできる。つまり、プレヒータ101またはアフターヒータ103の停止後に、領域RG1又はRG3でのシートSの温度が、領域RG2でのシートSの温度に対して許容温度範囲Z内となるようなタイミングで停止すればよい。
図6(B)の例では、ステップS205において、領域RG2でのシートSの温度が環境温度+z以下の温度になったかどうかを判定する。該当する場合はS206へ進み、該当しない場合は待ちの処理となる。ステップS206でプレヒータ101及びアフターヒータ103を停止する。
こうして複数あるヒータユニット101〜103の全てが停止されると、本体電源OFFあるいはスリープモードへの移行が可能である。このように停止タイミングをずらしてヒータを停止するため、シートSの温度差を許容温度範囲内に維持することが可能である。したがってシワや凹凸を抑制できる。また、ヒータの複雑な制御をする必要がないため構成の簡素化が可能である。
また上述した温度制御を実施することにより、制御例1と比較して、より狭い許容温度範囲Zに対応することができ、シワや凹凸のない高品質なシートSを得ることができる。
なお、本実施形態では、プラテンヒータ102の放熱による温度低下に合わせてシートSの温度分布が許容温度範囲内となるよう他のヒータを温度制御しているが、他の隣接するヒータ間でも同様にすればよい。例えば、本実施形態のようにプレヒータ101と隣接する位置にヒータユニット104がある場合には、プレヒータ101の放熱による温度低下に合わせてヒータユニット104を温度制御すればよい。
<制御例3>
図3、図7(A)を参照しながら制御例3を説明する。なお、制御例3は上述した制御例1及び2とのいずれの組合せも可能である。これらを組み合わせることにより、より一層のシワや凹凸の抑制効果が期待できる。ここでは一例として制御例2との組み合わせる場合を説明するが、制御例1との組み合わせも可能である。
本例では吸着ユニット8の吸着動作制御について説明する。図3において、上側に示す、許容温度範囲Zを示すグラフの内容は図2(B)と同じである。図3の下側に示すグラフは、経過時間横軸とし、動作内容を縦軸で示した吸着ユニット8の動作を示すタイミングチャートである。
時間P0乃至P1の記録中または記録待機モード(図7(A)のステップS301)では吸着ユニット8はシートSを支持部4に吸着した状態である。図7(A)のステップS302の判定で省電力モードに移行するモード移行制御を実行する。図7(A)のステップS303でプラテンヒータ102が停止される(図3の時間P1)。プレヒータ101及びアフターヒータ103は制御例2と同様、ステップS304で固定温度を目標とする設定から領域RG2におけるシートSの温度を中心とする許容温度範囲Z内での温度制御へと移行する。このとき図7(A)のステップS305に示すように吸着ユニット8の吸着状態は維持する。
吸着ユニット8の吸着は所定の条件が成立するまで維持する。ここではシートSの温度が所定温度まで低下したことを条件とする。図7(A)のステップS306において、領域RG2におけるシートSの温度が環境温度(25℃)付近まで低下したか否かが判定される。領域RG2におけるシートSの温度は温度センサ13の検出温度である。該当する場合はS307へ進み、該当しない場合は待ちの処理となる。図7(A)のステップS307では吸着ユニット8の吸着を停止し、プレヒータ101及びアフターヒータ103を停止する(図3の時間P4参照)。時間P4以降は本体電源OFFあるいはスリープモードへの移行が可能である。
本例では、加熱ユニット100の動作状態に基づいて、吸着ユニット8を制御することで、シートSの温度差に起因したシワの発生防止に吸着ユニット8を利用することができる。すなわち、シートSの温度が低下する過程においてシートSの吸着が継続するために、支持部4を介したプラテンヒータ102の熱伝達が継続する。この結果、シートSの温度は安定、均一化し、温度変化に伴うシワや凹凸を抑制できる。また、吸着によりシートSは支持部4に倣った姿勢に保持されるため、その平面性が維持される。この結果、シワや凹凸を抑制できる。さらに、本実施形態では、吸引負圧によりシートSを吸引する構成としたので、プラテンヒータ102の空冷による効果も期待できる。よって、吸引しない場合と比較してより短時間で記録装置Aを停止することができる。これによりシワや凹凸のない高品質なシートを得ることができる。
図7(B)は、図7(A)のフローチャートの変形例を示す。図7(B)の例は、図7(A)の例のステップS306をステップS406として変更し、他の処理は同じである。図7(B)のステップS406において、領域RG2におけるシートSの温度が環境温度+z以下か否かが判定される。領域RG2におけるシートSの温度は温度センサ13の検出温度である。該当する場合はS307へ進み、該当しない場合は待ちの処理となる。
本例の場合、図3の時間P4よりも前に、吸着ユニット8の吸着が停止され、また、プレヒータ101及びアフターヒータ103が停止される。図7(A)の例よりも本体電源OFFあるいはスリープモードへの移行が可能である。
なお、制御例3を行わない場合、記録装置Aの構成から吸着ユニット8を省略することも可能である。
<制御例4>
図4、図5(A)及び図5(B)並びに図8を参照しながら制御例4を説明する。なお、制御例4は上述した制御例1〜3とのいずれの組合せも可能である。これらを組み合わせることにより、より一層のシワや凹凸の抑制効果が期待できる。ここでは一例として制御例1との組み合わせる場合を説明するが、制御例2、制御例3との組み合わせも可能である。
本例では解除ユニット6の解除動作制御について説明する。図4において、上側に示す、許容温度範囲Zを示すグラフの内容は図2(A)と同じである。図4の下側に示すグラフは、経過時間横軸とし、動作内容を縦軸で示した解除ユニット6の動作を示すタイミングチャートである。
時間P0乃至P1の記録中または記録待機モード(図8のステップS501)ではピンチローラ3bはシートSを挟持した状態である。図8のステップS502の判定で省電力モードに移行するモード移行制御を実行する。図4の時間P1(図8のステップS503)においてプラテンヒータ102が停止されるとともに、解除ユニット6によって少なくとも一部のピンチローラ3bを圧接解除位置に移動する。これにより、シートSに対する搬送ローラ3aと複数のピンチローラ3bとの挟持が少なくとも部分的に解除される。
圧接解除位置に移動するピンチローラ3bは、例えば、図5(A)に示すように略中央部のピンチローラ3b’を除いたその両側のピンチローラ3bであってもよい。また、図5(B)にしめすように一端部のピンチローラ3b’を除いたピンチローラ3bであってもよい。解除ユニット6は、圧接解除位置に移動させるピンチローラ3bのみに設ければよい。
ここで、全てのピンチローラ3bを圧接解除位置に移動してもよいが、そうするとシートSの挟持が完全に開放される。すると、シートSの自重の作用や不意の操作等によりシートSの位置が動いてしまう可能性がある。特に、吸着ユニット8によりシートSを吸着していない、あるいは、吸着ユニット8を備えていない構成の場合、シートSの位置が動いてしまう可能性がある。シートSを吸着していても、前述の通り搬送方向Fへの移動に対しては比較的拘束力が弱い。シートSの位置安定性を重視した場合、図5(A)及び図5(B)に示したように、一部のピンチローラ3bを圧接位置に維持し、搬送ローラ3aと一部のピンチローラ3bとのシートSの挟持を継続することができる。
図8のステップS504乃至S508は、制御例1の図6(A)のステップS104乃至S108と同じであるので、説明は省略する。図8のステップS507またはステップS508でヒータが停止していれば、シートSの挟持を一部解除した状態で本体電源OFFあるいはスリープモードへの移行が可能である。
本例では、加熱ユニット100の動作状態に基づいて、解除ユニット6を制御することで、シートSの温度差に起因したシワの発生防止に解除ユニット6を利用することができる。すなわち、シートSの温度が低下する過程において、搬送ユニット3によるシートSの挟持が少なくとも部分的に解除されるため、熱によるシートSの膨張、収縮による歪が解放される。挟持が解除された部分においてはシートSが支持部4に対して容易に移動でき、歪の発生が抑制される。このため、シワや凹凸を抑制することができる。さらに温度が上昇する過程においても同様の効果が期待できる。すなわち温度変化によるシートSの熱収縮や熱膨張による歪を、搬送ユニット3によるシートSの挟持を少なくとも一部解除することで解放し、シートSの温度変化による熱収縮に伴うシワや凹凸を抑制することができる。
なお、制御例4を行わない場合、記録装置Aの構成から解除ユニット6を省略することも可能である。
<第二実施形態>
第一実施形態では、ウェブ状の連続シートを記録媒体とした例を説明したが、本発明は、カットシートを記録媒体とする記録装置にも適用可能である。また、第一実施形態ではシリアル記録を例に説明したが、本発明は、例えば最大記録幅に対応するノズル列のラインヘッドによるライン記録にも適用可能である。
図9はカットシートであるシートC1、C2に画像を記録する記録装置Bの概略図である。ここで、シートC1は先行して搬送されたシートであり、シートC2は後続のシートである。記録装置Bの構成のうち、記録装置Aと共通する構成又は対応する構成については同じ符号を付しており、説明を省略する。
本実施形態の場合、供給ユニット2に代えて搬送ユニット11が設けられている。搬送ユニット11は、駆動ローラである搬送ローラ11aと、搬送ローラ11aに圧接される従動ローラ11bとを含む。カットシートは搬送ローラ11aと従動ローラ11bとに挟持されて搬送される。搬送ユニット11は給送機構の一部を構成するものであってもよいし、別途構成された給送機構から給送されるカットシートを搬送する中間搬送機構を構成してもよい。本実施形態の場合、排出ユニット9が、排出ローラ9aに当接する複数の押え拍車9bを備えている。
図9において、カットシートC1はその後端部付近でインク画像が形成されているところである。図9においてはカットシートC1に続いてカットシートC2が記録ユニット7に向けて搬送されている。図示はしていないが、カットシートC2に引き続き複数のカットシートが連続的に搬送されてくる状態である。記録ユニット7でカットシートに付与されたインクは、加熱されることで乾燥していく。記録がなされたカットシートは排出ユニット9により排出されてゆく。
図10はライン記録を行う記録装置Cの概略図である。記録装置Cは、記録装置Bと同様、カットシートであるシートC1、C2に画像を記録する装置であるが、記録装置Aと同様、ウェブ状の連続シートに画像を記録する装置であってもよい。記録装置Cの構成のうち、記録装置Bと共通する構成又は対応する構成については同じ符号を付しており、説明を省略する。
記録装置Cは、記録ユニット7がラインヘッドである記録ヘッド110を有している。記録ヘッド110はプラテンヒータ102に対向する位置で保持されている。記録装置Aのキャリッジ5、記録ヘッド10等に相当する構成は基本的に必要ない。記録ヘッド110は、使用が想定される最大のシート幅に対応した幅のノズル列を有する記録ヘッドである。一例としてフルカラー記録が可能なプリンタであれば必要な色分のヘッドが順次搬送方向Fに並べて配列される。図10の例ではイエローラインヘッド110Y、マゼンタラインヘッド110M、シアンラインヘッド110C、ブラックラインヘッド110Bkが配列されている。なお、前述した色の種類とその配列順序は一例であり、上記記載以外の色種類や配列の場合にも適用可能である。
記録ヘッド110はシート幅相当のノズル列を有するため、記録中に記録ヘッド110を主走査方向に往復移動する必要がなく、シートを連続的に搬送しながら高速で記録が可能である。したがってライン記録の特徴として、生産性が非常に高いという特徴があげられる。以下にライン記録の場合の記録動作を説明する。
前述した通り、ライン記録の場合はシートが連続搬送される間にシート幅相当のノズルから連続的にインクが吐出される。各色のラインヘッドが搬送方向に複数配列されている場合には上流側のラインヘッドで吐出されたインクが、下流側のラインヘッドから次のインクが吐出されるまでにある程度乾燥している必要がある。
これは状況的には上述したシリアル記録におけるマルチパスの場合と同様であるが、ライン記録の場合にはインク乾燥の条件が以下の点で非常に厳しくなる。すなわち、例えばライン記録の場合にはシリアル記録と比較してヘッドのノズル数が多い。このため、単位時間当たりにシート上に付与されるインク量が格段に多いという点が挙げられる。また例えば、ライン記録では連続的にシートを搬送しながら記録するため、上流側のラインヘッドによるインク吐出から下流側に隣接するラインヘッドによるインク吐出までの時間が短い。その間にシート上のインクはある程度乾燥をしなければならない。
以上のように大量のインクを短時間で乾燥するという厳しい条件に対してもシートの温度は上述したように所定温度範囲を下回らない安定した温度に維持されなければならない。このため、ライン記録においてはシリアル記録と比較してプラテンヒータ102での温度安定性などの特性はより高いものが求められる。例えば、プラテン102の蓄熱量をより多くするといった対応が考えられる。
蓄熱量が多いということはすなわち、加熱停止後の放熱による温度低下が遅いということである。こうした記録装置Cで記録動作終了後に複数のヒータユニット101〜103を同時に停止した場合、メインヒータ102と、隣接する比較的蓄熱量の少ないヒータユニット101、103との温度差は時間とともにさらに拡大することになる。この結果、シートにシワや凹凸が発生してしまう。このため、上述した制御例を実施することは、シートのシワ発生防止に有効である。
<第三実施形態>
第一、第二実施形態では加熱ユニット100が独立して制御可能な複数のヒータユニットを備える構成を例示した。しかし、制御例3の吸着動作制御や、制御例4の解除動作制御は、加熱ユニット100が独立して制御可能な複数のヒータユニットを備えていない構成においても、実施可能である。
図11は本実施形態の記録装置Dの概略図である。記録装置Dの構成のうち、記録装置Aと共通する構成又は対応する構成については同じ符号を付しており、説明を省略する。なお、図11の例ではウェブ状の連続シートSを記録媒体とする構成であるが、第二実施形態のようにカットシートを記録媒体とする構成も採用可能である。また、図11の例ではシリアル記録を行う構成であるが、第二実施形態のようにライン記録を行う構成も採用可能である。
本実施形態の場合、加熱ユニット100が、プラテンヒータ102のみを備える構成である。この構成の場合、制御例1や制御例2の制御は行えないが、吸着動作制御や、解除動作制御を行うことで、シートにシワが発生することを防止することが可能である。
<制御例5>
まず、本実施形態のおける吸着動作制御について説明する。吸着動作制御の内容は制御例3と同様でもよいが、ここでは異なる例を説明する。図12(A)〜図12(C)は制御例の説明図である。図14(A)は本例のフローチャートである。
図12(A)は縦軸をシートSの温度、横軸を経過時間としたグラフである。本実施形態の場合、シートSの温度と呼ぶ場合、プラテンヒータ102上の領域の温度(図1で言うと領域RG2の温度)であり、温度センサ13の検出温度となる。曲線L102によってプラテンヒータ102上でのシートSの温度を示している。
図12(B)は吸着ユニット8の動作を曲線V102によって示したタイミングチャートであり、図12(C)はプラテンヒータ102の出力を曲線H102によって示したタイミングチャートである。図12(B)及び図12(C)は図12(A)と横軸を同じくし、図12(B)の縦軸は吸着ユニット8の動作(吸着と停止)を、図12(C)の縦軸はプラテンヒータ102の動作状況(例えば投入電力状態)を示している。
一例として環境温度を25℃とし、時間P1乃至P2の記録中もしくは時間P2乃至P3の記録待機中(図14(A)のステップS604乃至S605)のシートSの設定温度は60℃としている。時間P0(図14(A)のステップS601)で記録指令により記録のための準備が開始されるとステップS602でプラテンヒータ102の加熱が開始される。
ここでは60℃のときのプラテンヒータ102の投入電力をHIGHとしている。それと同時に、吸着ユニット8がシートSの吸着を開始する。ステップS603でシートSが記録可能温度(例えば60℃)に到達したと判断されると、すなわち記録準備が完了したと判断されると、時間P1(ステップS604)で記録が開始される。時間P1乃至P2までの間で記録が実行される(ステップS604乃至605)。記録の動作は上述した通りである。
時間P2で記録動作終了後、時間P2乃至P3で示される記録待機モードへ移行する。記録待機モードとは例えば次の記録JOBを直ちに開始できるようプラテンヒータ102及び吸着ユニット8は記録中と同様の状態を継続しているが、記録は実行していない状態である。
次にステップS606で記録終了後一定時間経過等の条件を満たし、省電力モード1に移行可能と判断されると時間P3乃至P4で示される省電力モード1に移行する。省電力モード1とは例えば消費電力削減等のため時間P3(ステップS607)で記録時より低い温度、例えば40℃に移行するモードである。図5(c)に示すように、ここでは40℃のときのヒータへの投入電力をLOWとしている。このとき吸着ユニット8によるシートSの吸着は継続しているためシワや凹凸の抑制効果が高まる。
省電力モード1ではプラテンヒータ102は環境温度まで冷却されていないため、再加熱時の立ち上げを短時間にすることができる。このため、新たな記録JOBに対して比較的速やかに記録を開始することができるという利点がある。
ステップS608で、省電力モード1が開始されてから所定時間経過後等の条件を満たしたと判断されると時間P4乃至P5で示される省電力モード2へ移行する。省電力モード2では時間P4(ステップS609)でプラテンヒータ102の加熱が停止され、曲線L102に示すようにシートSの温度は時間経過とともに放熱により低下する。
吸着ユニット8の吸着は所定の条件が成立するまで維持する。ここではシートSの温度が所定温度まで低下したことを条件とする。ステップS610でシートSの温度が環境温度付近まで低下したと判断されると、時間P5(ステップS611)で吸着ユニット8によるシートSの吸着が停止される。時間P5以降は本体電源OFFあるいはスリープモードへの移行が可能である。
シートSの種類や温度条件によって異なるが、前述したとおりシートSの部分的な温度差があってもシワや凹凸が発生しない、若しくは少なくとも実使用上問題とならない許容温度範囲が存在する。シートSの温度が常温付近に低下する前にこの許容温度範囲内であれば吸着を停止することもできる。この場合には吸着による電力消費や騒音を減らし、記録装置の停止までの時間を短縮できるという効果が得られる。さらに吸引負圧によりシートSを吸引する構成であれば、プラテンヒータ102の空冷による効果も期待できるため、吸引しない場合と比較してより短時間で記録装置を停止することができる。
このようにしてシートSの温度が低下する過程においてシートSの吸着が継続しているため、シートSの温度は安定、均一化し、温度変化に伴うシワや凹凸を抑制できる。また吸着によりシートSはその支持面に倣った姿勢に保持されるため平面性が維持される。これによりシワや凹凸のない高品質なシートを得ることができる。
なお、制御例5を行わない場合、記録装置Dの構成から吸着ユニット8を省略することも可能である。
<制御例6>
次に、本実施形態のおける解除動作制御について説明する。解除動作制御の内容は制御例4と概ね同様である。図13(A)及び図13(B)は制御例の説明図である。図14(B)は本例のフローチャートである。なお、制御例6は制御例5と組み合わせることも可能である。
図13(A)は縦軸がシートSの温度を、横軸は経過時間を示すグラフである。既に述べたとおり、本実施形態ではシートSの温度と呼ぶ場合、プラテンヒータ102上の領域の温度(図1で言うと領域RG2の温度)であり、温度センサ13の検出温度となる。
曲線L102はプラテンヒータ102におけるシートSの温度変化を示している。
プラテンヒータ102は温度安定化のために蓄熱量が大きく設定されている。一例として周囲の環境温度を25℃とし、時間P0乃至P1(図14(B)のステップS701)で示す記録中あるいは記録待機モードでのシートSの温度は例えば60℃としている。
図13(B)は解除ユニット6の動作を曲線P102によって示したタイミングチャートである。図13(A)と横軸を同じくし、縦軸は解除ユニット6により移動されるピンチローラ3bの位置を示している。「挟持」とは、ピンチローラ3bが圧接位置にあることを示し、シートSはピンチローラ3bと搬送ローラ3aとで挟持される。「解除」とはピンチローラ3bが圧接解除位置にあることを示し、ピンチローラ3bと搬送ローラ3aとによるシートSの挟持が解除される。
時間P0乃至P1の記録中または記録待機モード(図14(B)のステップS701)ではピンチローラ3bはシートSを挟持した状態である。ステップS702の判定で省電力モードに移行するモード移行制御を実行する。時間P1(ステップS703)でプラテンヒータ102が停止されるとともに解除ユニット6によって搬送ユニット3によるシートSの挟持が少なくとも一部解除される。図13(A)の曲線L102に示すようにプラテンヒータ102に対応するシートS温度は時間P1以降、放熱により徐々に低下していく。
挟持の解除目的は、シートの熱による膨張、収縮による歪の開放にあるため、加熱停止のタイミングに対し、多少の前後があってもよい。つまり、挟持の解除は、プラテンヒータ102の発熱を低下させる前(この例では停止前)であってもよいし、プラテンヒータ102の発熱を低下させた後(この例では停止後)であってもよい。短時間内の歪の変化は無視できるからである。多少の前後とは、例えばシートSへの影響がほとんど無視できるような短時間であり、例えば1分程度である。プラテンヒータ102の停止前に挟持を解除する場合、記録ジョブ等の内容からプラテンヒータ102を停止させるタイミングを設定し、その前に挟持の解除タイミングを設定すればよい。
挟持解除の場合、全てのピンチローラ3bを圧接解除位置に移動してもよいが、図5(A)及び図5(B)を参照して説明したとおり、一部のピンチローラ3bを圧接解除位置してもよい。シートSの挟持を部分的に解除する、換言すれば残りの部分では挟持を継続する目的は、既に述べたとおり、シートS全体の位置が幅方向や搬送方向に意図せずにずれてしまうのを防止するためである。残りの部分では挟持を継続することで、次の記録の際にシートSが斜行したり余白量が変化することを防止できる。
このようにしてピンチローラ3bによる挟持を少なくとも一部解除した状態にすることでシートSの収縮時に歪を開放し、シワや凹凸を抑制しながら本体電源OFFあるいはスリープモード等の省電力モードへの移行が可能となる。これにより不必要な電力消費を抑制し、シートの品質を維持することができる。
本例では、加熱ユニット100の動作状態に基づいて、解除ユニット6を制御することで、シートSの温度差に起因したシワの発生防止に解除ユニット6を利用することができる。すなわち、シートSの温度が低下する過程において、搬送ユニット3によるシートSの挟持が少なくとも部分的に解除されるため、熱によるシートSの膨張、収縮による歪が解放される。挟持が解除された部分においてはシートSが支持部4に対して容易に移動でき、歪の発生が抑制される。このため、シワや凹凸を抑制することができる。
なお、温度が上昇する過程においても同様の効果が期待できる。例えば、本体電源OFFあるいはスリープモードへの移行後、記録を再開すべく、加熱装置100の発熱を開始される場合にシートSの挟持を少なくとも部分的に解除してもよい。温度変化によるシートSの熱収縮や熱膨張による歪を、搬送ユニット3によるシートSの挟持を少なくとも一部解除することで解放し、シートSの温度変化による熱収縮に伴うシワや凹凸を抑制することができる。
制御例5と制御例6とを併用することによりシートSは支持部4に倣った姿勢に保持されるため平面性が維持される。これによりシワや凹凸のない高品質なシートを得ることができる。
なお、制御例6を行わない場合、記録装置Dの構成から解除ユニット6を省略することも可能である。
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。