本発明の作業車両の一実施の形態について、図面を用いて説明する。
なお、本明細書では作業車両の運転座席に座って右手側を右、左手側を左と呼ぶことにする。
以下、本発明の作業車両の一例である農業機械のトラクター1を例として具体的に説明する。
図1は、本実施の形態の農用トラクター1の概略左側面図である。
また、図2は、本実施の形態の農用トラクター1のキャビン内の概略左側面図である。
また、図3は、同農用トラクター1のキャビン内の概略平面図である。
また、図4は、同農用トラクター1の前後進レバー220の斜視図である。
図1に示す通り、本実施の形態の農業用トラクター1は、左右一対の前輪2と、左右一対の後輪3を備え、走行車体1aの前部にエンジン5を内装し、後部にキャビン4を備える構成である。
また、本実施の形態の農用トラクター1は、エンジン5からの動力の伝達経路を、前進走行モード、中立モード(動力の伝達を中断するモード)、または後進走行モードの何れかに切り替える油圧多板式の前後進クラッチ48をトランスミッション(図示省略)内に備えている。
また、キャビン4内には、図2、図3、図4に示す通り、運転座席200と、運転座席200の前方に配置されたステアリングハンドル210と、ステアリングハンドル210の近傍であってハンドルポスト211の左側面に設けられた前後進レバー220と、を備えている。
前後進レバー220は、走行車体1aの前進走行、中立、又は後進走行の切替操作を行うと共に、前進走行位置、及び後進走行位置において上下方向への切替操作が可能に構成されたレバーである。
また、前後進レバー220の前進走行位置、中立位置、後進走行位置の検出の他に、前進走行位置、及び後進走行位置にあっては、前後進レバー220の上下方向の操作をも検出するレバー位置検出器220a(図4、図5参照)をハンドルポスト211内に備えている。
そして、本実施の形態では、前後進レバー220の上方向への切替操作は、作業者が左手でステアリングハンドル210を持ったまま、左手の指先一つで前後進レバー220を持ち上げることで、上方向への移動が可能であり、その後、指先を前後進レバー220から放すと自動的に下方向に移動して元の位置に戻る構成である。
レバー位置検出器220aにより、前後進レバー220が前進走行位置、又は後進走行位置にあって、且つ、前後進レバー220が上方向に操作されたことが検出されると、後述する制御部270(図5参照)を介して、前後進クラッチ48が中立モードに切り替えられ、前後進レバー220が上方向に操作され続けている間は、前後進クラッチ48の中立モードが維持される構成である。
尚、レバー位置検出器220aにより、前後進レバー220が中立位置にあることが検出されると、制御部270を介して、前後進クラッチ48が中立モードに切り替えられる構成は従来の構成と同じである。
また、運転座席200の右側には、前後進クラッチ48の接続時の昇圧カーブを調節する第1感度調節ダイヤル240と2感度調節ダイヤル250等の各種操作レバーや操作スイッチ類を配置した操作パネル260を備えている(図3参照)。
副変速レバー230は、副変速レバー230のグリップ部の上端であって前方に向けて突き出した突き出し部231の下面側に設けられた切替スイッチ232を押しながら、走行車体1aの走行速度の切替操作を行うレバーである。切替スイッチ232を押している間は、後述する制御部270(図5参照)を介して、前後進クラッチ48が中立モードに切り替えられて、その状態が維持される構成である。
また、第1感度調節ダイヤル240は、前後進クラッチ48の昇圧カーブの変化度合いを緩やかにするか急峻にするかを調節するダイヤルである。
即ち、第1感度調節ダイヤル240は、前後進レバー220が前進走行位置、又は後進走行位置にあって、且つ、前後進レバー220が上方向に操作されたことが、レバー位置検出器220aにより検出されることにより、前後進クラッチ48が中立モードに切替られ、その後、作業者が左手の指先を前後進レバー220から放すことで、前後進レバー220が下方に移動し、前後進クラッチ48が元の走行モードに復帰する。
第1感度調節ダイヤル240は、そのときの前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブの変化度合いを、上述した通り、緩やかにするか急峻にするかを調節するダイヤルである。
一方、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232を押しながら副変速レバー230を操作することで、前後進クラッチ48が中立モードに切替られた状態、即ち、エンジン5からの駆動力の伝達が一時的に遮断された状態で、副変速部(図7参照)におけるギヤの噛み合わせが変更された後、作業者が切替スイッチ232を押す操作を止めることで、前後進クラッチ48が元の走行モードに復帰することで、変速操作が完了する。
第2感度調節ダイヤル250は、前後進クラッチ48が元の走行モードに復帰するときの前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブの変化度合いを緩やかにするか急峻にするかを調節するダイヤルである。
図5(a)〜図5(c)は、第1感度調節ダイヤル240、第2感度調節ダイヤル250の調節により、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブの変化度合いを、それぞれ独立して変更出来ることを説明する図である。
例えば、第1感度調節ダイヤル240(図3参照)を、その可動範囲内において時計方向回りに限界位置まで回した場合、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブは、図5(a)に示す通りに設定される。
即ち、この場合の昇圧カーブは緩やかに立ち上がっており、昇圧開始から昇圧完了までの昇圧時間はT1である。
また、第1感度調節ダイヤル240(図3参照)を、その可動範囲内において反時計方向回りに限界位置まで回した場合、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブは、図5(c)に示す通りに設定される。
即ち、この場合の昇圧カーブは急峻に立ち上がっており、昇圧開始から昇圧完了までの昇圧時間はT3(T3<T1)である。
また、第1感度調節ダイヤル240(図3参照)を、その可動範囲内において中央位置に設定した場合、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブは、図5(b)に示す通りに設定される。
即ち、この場合の昇圧カーブは、図5(a)の昇圧カーブよりやや急峻であるが、図5(c)の昇圧カーブより緩やかに立ち上がっており、昇圧開始から昇圧完了までの昇圧時間はT2(T2=T1)である。
第2感度調節ダイヤル250の調節についても、上記と同様に行える。
これにより、作業者の所望の感度をダイヤル毎に個別に調整出来る。
次に、本実施の形態の農用トラクター1の動作について、前後進クラッチ48の接続及び切断に関する動作を中心に、図6を用いて説明する。
図6は、本実施の形態の農用トラクター1の制御部270による前後進クラッチ48の制御を説明するためのブロック図である。
図6に示す通り、制御部270は、レバー位置検出器220aからの出力信号や、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232からの出力信号に応じて、前後進クラッチ48の接続及び切断を制御する。
また、制御部270は、第1感度調節ダイヤル240、第2感度調節ダイヤル250からの出力信号に応じて、前後進クラッチ48を元の走行モードに復帰させるときの前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブの変化度合いを緩やかにするか急峻にするかを決める。
尚、クラッチペダル300は、動力の伝達をオンオフする前後進クラッチ48の接続および切断を、作業者のペダル操作に応じて、クラッチ操作検出器310及び制御部270を介して行うためのペダルである。そして、クラッチペダル300は、第一高・低クラッチ24(図7参照)および第二高・低クラッチ25(図7参照)の接続および切断を行うためのペダルでもある。
また、クラッチ操作検出器310は、クラッチペダル300に対する作業者のペダル操作に関する検出を行う手段である。
ここでは、本実施の形態の農用トラクター1の動作説明として、(1)農用トラクター1の前部に装着されたフロントローダー(図示省略)を動作させる場合において、前後進レバー220が前進走行位置にあって走行車体1aが前進走行の最中に一時的に走行を停止させる場合、及び(2)農用トラクター1を走行中に副変速レバー230を切り替える、即ち変速操作を行う場合について具体的に説明する。
尚、本実施の形態では、作業者は、第1感度調節ダイヤル240を反時計回りの限界位置まで回して、図5(c)に示す昇圧カーブに設定しており、且つ、第2感度調節ダイヤル250を時計回りの限界位置まで回して、図5(a)に示す昇圧カーブに設定しているものとする。
(1)の場合は、作業者は、フロントローダーを動作させる為に、ステアリングハンドル210の右手側に配置されたJOYスティックレバー(図示省略)を右手で握り、且つ、左手でステアリングハンドル210を握りながら、走行車体1aを前進走行させている。
この状況下において、走行車体1aを一時的に走行停止させる為に、作業者は、左手でステアリングハンドル210を握った状態で、「前進走行位置」にある前後進レバー220を、左手の指先で上向きに移動させて(図4中の矢印A参照)、その状態を維持する。
作業者による前後進レバー220の上記操作を検出したレバー位置検出器220aは、第1の信号を制御部270に送る。
第1の信号を受けた制御部270は、エンジン5からの動力の伝達を一旦遮断するために、前後進クラッチ48の接続状態を切断するべく、前後進クラッチ48を制御する。
このとき、作業者は、前後進レバー220を、左手の指先で上向きに移動させると同時に、右足でブレーキペダル(図示省略)を踏むことで、走行車体1aを一時的に停止させることが出来る。
その後、作業者は、前後進レバー220を、左手の指先で上向きに移動させ続けていた状態を解除するべく、左手の指先を前後進レバー220から放すことで、前後進レバー220は下向きに移動して元の走行位置に復帰すると共に、ブレーキペダルから右足を放す。
作業者による前後進レバー220の上記復帰操作を検出したレバー位置検出器220aは、第2の信号を制御部270に送る。
第2の信号を受けた制御部270は、前後進クラッチ48の接続圧力を、第1感度調節ダイヤル240により予め設定されている昇圧カーブ(図5(c)参照)に従って変化させる。
これにより、通常の昇圧カーブ(図5(b)参照)より早めの立ち上がりで昇圧して、フロントローダー(図示書略)の先端部に取り付けられたバケット(図示省略)の爪の突き刺さりを向上させることが出来る。
また、ステアリングハンドル210の右手側に配置されたJOYスティックレバー(図示省略)を右手で操作している際に、従来のごとく左足でクラッチペダル300を踏む必要が無く、左手はステアリングハンドル210を握ったまま、左手の指先だけでワンタッチで前後進レバー220を前進走行位置(又は、後進走行位置)で上方に移動させることが出来て、前後進クラッチ48を切断することが容易に行えるので、操作性が向上する。
また、前後進レバー220の「前進位置」、「後進位置」において、前後進クラッチ48を切断する操作は、上下方向のストロークの内、上方向に寄った位置への移動で行われる構成としたことで、振動や、作業者が無意識に軽く当たっただけの操作で簡単に前後進クラッチ48が切断されることが無い。
次に、(2)の場合は、左手でステアリングハンドル210を握った状態で、農用トラクター1を走行中に、右手で副変速レバー230を切り替える「変速操作」をする際に、作業者は、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232を右手の指先で押さえながら(図2中の矢印B参照)、副変速レバー230を移動させる。
作業者による切替スイッチ232の上記操作により、切替スイッチ232は、第3の信号を制御部270に送る。
第3の信号を受けた制御部270は、「変速操作」時においてエンジン5からの動力の伝達を一旦遮断するために、前後進クラッチ48の接続状態を切断するべく、前後進クラッチ48を制御する。
そして、作業者は、副変速レバー230を所望の位置に移動させた後、切替スイッチ232を右手の指先で押さえる操作を止めると、切替スイッチ232は第4の信号を制御部270に送る。
第4の信号を受けた制御部270は、前後進クラッチ48の接続圧力を、第2感度調節ダイヤル250により予め設定されている昇圧カーブ(図5(a)参照)に従って変化させる。
これにより、通常の昇圧カーブ(図5(b)参照)より緩やかな立ち上がりで昇圧することが出来るので、変速操作がスムーズに行える。
また、上記の(1)、(2)の場合において、前後進クラッチ48の接続圧力をいきなり全圧にするのではなく、昇圧して接続する構成としたことにより、発進時のショック、あるいは、変速時のショックを低減出来る。
尚、上記実施の形態の前後進レバー220は、「前進位置」、「中立位置」、「後進位置」のそれぞれの位置で、落ち込む構成としても良い。この構成によれば、前後進レバー220の各位置への移動が牽制されて、「前進位置」、「後進位置」の区別を明確に出来る。また、誤操作を低減できるので、安全性が確保出来る。
また、上記実施の形態では、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブを、前後進レバー220のレバー位置検出器220aの位置検出結果に基づく場合と、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232を使用する場合とで、第1感度調節ダイヤル240と第2感度調節ダイヤル250を用いて、それぞれ個別に設定出来る構成としたが、これに限らず例えば、第1感度調節ダイヤル240と第2感度調節ダイヤル250を設けずに、それぞれの場合における前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブを、使用条件に応じて、昇圧カーブを使い分けられる構成とするべく、複数種類の昇圧カーブをメモリ部(図示省略)に格納しておいて、使用条件毎にどの昇圧カーブを使用するかが予め設定されており、制御部がその予め定められた設定に基づいて、昇圧する構成であっても良い。
また、上記実施の形態では、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブを、前後進レバー220のレバー位置検出器220aの位置検出結果に基づく場合と、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232を使用する場合とで、第1感度調節ダイヤル240と第2感度調節ダイヤル250を用いて、それぞれ個別に設定出来る構成としたが、これに限らず例えば、前後進レバー220のレバー位置検出器220aの位置検出結果に基づく場合と、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232を使用する場合と、前後進レバー220の中立位置から前進位置又は後進位置への操作直後の場合との3種類で、別々の昇圧カーブとする構成でも良い。これにより、使用条件に応じて、接続圧力の昇圧カーブを分けることで、作業に応じた最適な発進にすることが出来る。
また、前後進レバー220のレバー位置検出器220aの位置検出結果に基づく場合と、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232を使用する場合と、前後進レバー220の中立位置から前進位置又は後進位置への操作直後の場合との3種類で、別々の昇圧カーブとする構成において、それぞれの昇圧カーブは、マイコンチェッカ等で変更可能な構成としても良い。これにより、作業者毎、作業内容毎に最適な昇圧カーブに設定できる。
また、クラッチペダル300(図6参照)を踏み込んだ状態で、農用トラクター1が停止している時であって、前後進レバー220を「中立位置」にしている時に、前後進レバー220を上方側に5秒間以上保持した場合、メモリ変速の自動/手動を切り替える構成であっても良い。ここで、メモリ変速とは、時間的に最も長く使用する作業速を記憶して、次回の作業でその速度を復帰させる機能をいう。これにより、メモリ変速に自動/手動を簡単に切り替えることが出来る。また、これにより、メモリ変速用のスイッチが不要である。
また、前後進レバー220を「前進位置」から「後進位置」、或いは、「後進位置」から「前進位置」に切り替える操作をしたとき、レバー位置検出器220aにより、前後進レバー220が上方に移動したことが検知された後、下方に戻ったと判定されてから500msec以上経過していない場合は、前後進レバー220が上方に移動したとしても、前後進クラッチ48の接続を、500msec経過するまで待ってから行う構成としても良い。これにより、前後進クラッチ48に対する負荷を低減することが出来る。
次に、本実施の形態の農用トラクター1の動力伝動機構の構成および動作について、図7を用いて説明する。
図7は本実施の形態の農用トラクター1の動力伝動機構の模式的な伝動線図である。
以下では、フロントケースとリアケースとが一体に組み付けられたミッションケース内の変速装置の動力伝動機構について、エンジン5から、前輪2および後輪3への変速伝動機構を中心に説明する。
はじめに、主変速部150について説明する。
エンジン5のエンジン出力軸20の回転は、入力軸21に伝動される。
すなわち、クラッチペダル300による動力の伝達及び遮断は前後進クラッチ48で行われ、前後進クラッチ48がメインクラッチの役割を果たす。
尚、本実施の形態の農用トラクター1では、前後進クラッチ48の切断(オフ)および接続(オン)は、前後進レバー220が、「前進走行位置」、或いは「後進走行位置」にあって、作業者が左手の指先で前後進レバー220(図4参照)を上方に持ち上げる操作をしたり、或いは、その操作を解除することによっても行えることは、既に上述した通りである(図5参照)。
また、前後進クラッチ48の切断(オフ)および接続(オン)は、副変速レバー230に設けられた切替スイッチ232(図2参照)を作業者が右手の指先で押す操作をしたり、或いは、その操作を解除することによっても行えることは、既に上述した通りである(図5参照)。
入力軸21に固着の第一入力ギヤ22は第一高・低クラッチ24の第一低速ギヤ26および第二高・低クラッチ25の第二低速ギヤ27に噛み合い、入力軸21に固着の第二入力ギヤ23は第一高・低クラッチ24の第一高速ギヤ30および第二高・低クラッチ25の第二高速ギヤ31に噛み合う。
第一高・低クラッチ24が第一低速ギヤ26側に繋がれると、回転は第一低速ギヤ26から第一クラッチ軸28に伝動され、第一高・低クラッチ24が第一高速ギヤ30側に繋がれると、回転は第一高速ギヤ30から第一クラッチ軸28に伝動される。
第二高・低クラッチ25が第二低速ギヤ27側に繋がれると、回転は第二低速ギヤ27から第二クラッチ軸29に伝動され、第二高・低クラッチ25が第二高速ギヤ31側に繋がれると、回転は第二高速ギヤ31から第二クラッチ軸29に伝動される。
同一の油圧多板クラッチである第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25はそれぞれ、入力軸21の回転を同一減速比で高・低の二段に減速して第一クラッチ軸28および第二クラッチ軸29に伝動する。
第一クラッチ軸28に固着の第一ギヤ113が低速伝動軸34に固着の第二ギヤ35と噛み合って、回転は減速して伝動され、第二クラッチ軸29に固着の第三ギヤ149が高速伝動軸32に固着の第四ギヤ33と噛み合って、回転は増速して伝動される。
ここまでの変速伝動では、低速伝動軸34が低速で二段に変速され、高速伝動軸32が高速で二段に変速されることで、計四段に変速がされる。
低速伝動軸34および高速伝動軸32の回転はそれぞれ、第一シンクロチェンジ42および第二シンクロチェンジ36に伝動される。
第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43および第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37が第一伝動軸39の第五ギヤ40と噛み合い、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ大ギヤ44および第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ大ギヤ38が第一伝動軸39の第六ギヤ41と噛み合い、回転が伝動される。
第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ小ギヤ43と、第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ小ギヤ37と、は全く同一のギヤであり、第一シンクロチェンジ42の第一シンクロ大ギヤ44と、第二シンクロチェンジ36の第二シンクロ大ギヤ38と、は全く同一のギヤである。
低速伝動軸34が低速回転し、高速伝動軸32が高速回転している。
したがって、第一シンクロチェンジ42を切換えると、低速でのさらなる二段の変速がされ、第二シンクロチェンジ36を切換えると、高速でのさらなる二段の変速がされる。
すなわち、第一入力軸21の回転は、第一伝動軸39で低速四段および高速四段に変速される。
かくして、主変速部150は、操縦者が操作する主変速レバー(図示省略)の変速位置を読み取って、走行系ECUで自動的に高・低油圧多板クラッチである第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25、ならびに第一シンクロチェンジ42および第二シンクロチェンジ36を制御し、低速四段および高速四段への変速を行う。
さらに、第一伝動軸39は、第二伝動軸45に軸連結で連結されている。
第二伝動軸45には、第七ギヤ46および第八ギヤ47が固着されている。
第七ギヤ46は、油圧多板の前後進クラッチ48の正転クラッチギヤ49に噛み合わされる。
第八ギヤ47は逆転軸52の逆転ギヤ51に噛み合わされ、逆転ギヤ51は前後進クラッチ48の逆転クラッチギヤ50に噛み合わされる。
したがって、前後進クラッチ48が正転クラッチ48aへの昇圧によって正転クラッチギヤ49に繋がれると、第七ギヤ46の回転は正転状態で前後進クラッチ48に連結された副変速軸53に伝動され、前後進クラッチ48が逆転クラッチ48bへの昇圧によって逆転クラッチギヤ50に繋がれると、第八ギヤ47の回転は逆転状態で副変速軸53に伝動される。
正転と逆転とでは減速比が異なり、逆転がより低速になる。また、正転伝動(前進)と逆転伝動(後進)の選択は、ステアリングハンドル210が立設されているハンドルポスト211の左側に設けられている前後進レバー220の操作で行われる。
つぎに、副変速部154について説明する。
副変速軸53に固着された第九ギヤ54および第十ギヤ55はそれぞれ、第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ大ギヤ56および第三シンクロ小ギヤ59に噛み合っている。
したがって、第三シンクロチェンジ58が第三シンクロ大ギヤ56側に繋がれると、第五伝動軸60は第九ギヤ54から第三シンクロ大ギヤ56に伝動した回転で増速して高速で駆動され、第三シンクロチェンジ58が第三シンクロ小ギヤ59側に繋がれると、第五伝動軸60は第十ギヤ55から第三シンクロ小ギヤ59に伝動した回転で減速して中速で駆動される。
第三シンクロチェンジ58の第三シンクロ小ギヤ59側に固着された第十一ギヤ57は、第四シンクロチェンジ71の第四シンクロ小ギヤ69と噛み合っている。
第四シンクロ小ギヤ69側に固着された第十五ギヤ70は第二筒軸114の第十七ギヤ75と噛み合って、回転は第二筒軸114に固着された第十八ギヤ76から第四シンクロ大ギヤ72に伝動される。
第四シンクロチェンジ71が装着された第一筒軸73には、第十六ギヤ74が固着されている。
したがって、第三シンクロチェンジ58が中立にされると、第十ギヤ55の回転が第三シンクロ小ギヤ59に伝動され、回転は第三シンクロ小ギヤ59側に固着された第十一ギヤ57から第四シンクロ小ギヤ69に伝動される。
この状態で、第四シンクロチェンジ71が第四シンクロ小ギヤ69側に繋がれると、第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十六ギヤ74の回転となって低速となり、第四シンクロチェンジ71が第四シンクロ大ギヤ72側に繋がれると、第四シンクロ小ギヤ69の回転が第十五ギヤ70から第十七ギヤ75、第十八ギヤ76および第四シンクロ大ギヤ72に伝動され、第十六ギヤ74が極低速となる。
第三シンクロチェンジ58が第三シンクロ大ギヤ56側または第三シンクロ小ギヤ59側に繋がれるときには、第四シンクロチェンジ71は中立にされる。
かくして、主変速部150変速された副変速軸53の低速四段および高速四段の回転については、副変速部154での四段の変速がされ、低速十六段および高速十六段への変速がされる。
第十六ギヤ74は、第五伝動軸60に固着された第十二ギヤ61と噛み合って第五伝動軸60を駆動する。
第五伝動軸60の軸端に固着された第一ベベルギヤ62は、リアベベルケース64の第二ベベルギヤ63と噛み合っていて、リアベベルケース64のベベル出力軸65から第十三ギヤ66および第十四ギヤ67を介して後輪出力軸68を回転し、後輪3を駆動する。
第五伝動軸60には第二十一ギヤ117が固着されており、回転は副変速軸53に軸支された第二筒軸119に固着された第二十二ギヤ118および第二十二ギヤ148を介して第一前輪駆動軸78の第十九ギヤ77に伝動され、第十六ギヤ74の低速十六段と高速十六段の回転が第一前輪駆動軸78に伝動されている。
この回転は、第一前輪駆動軸78から前輪増速クラッチ79を介して第二前輪駆動軸84に伝動され、第三前輪駆動軸85、第四前輪駆動軸86および前輪駆動ベベル軸87に引き継いで伝動される。
前輪駆動ベベル軸87の軸端に固着された第一前ベベルギヤ88は、前ベベルケース89の第二前ベベルギヤ115と噛み合っており、前ベベルケース89の前ベベル出力軸90、第一前ベベルギヤ組91、前縦軸116および第二前ベベルギヤ組92を介して前輪出力軸93を回転し、前輪2を駆動する。
前輪増速クラッチ79の第一増速クラッチギヤ82および第二増速クラッチギヤ80はそれぞれ、第一増速ギヤ83および第二増速ギヤ81に噛み合っており、前輪増速クラッチ79の切換によって増速率を変更する。
かくして、副変速部154は、副変速レバー230の変速位置を読み取って、走行系ECUで自動的に第三シンクロチェンジ58および第四シンクロチェンジ71を制御し、変速を行う。
尚、以下に、PTO出力軸111の伝動経路について、図7を用いて更に説明する。
第二入力ギヤ23にはPTOメインクラッチ97のメインクラッチギヤ96が噛み合わされており、動力の断続がPTOメインクラッチ97で行われる。
PTOメインクラッチ97は、第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25の下側に位置しており、ミッションケース(図示省略)の内部に溜まる潤滑オイルで冷却および潤滑される。
PTOメインクラッチ97が装着された第一PTO軸95には、PTO変速部157が設けられている。
第一PTOギヤ98、第二PTOギヤ99、ならびに第五シンクロチェンジ151の第五シンクロ小ギヤ100および第五シンクロ大ギヤ101が、装着されている。
第二PTO軸104には第二十ギヤ102、第二十三ギヤ152、第二十一ギヤ103および第二十四ギヤ153が固着されており、カウンタ軸106にはPTO逆転ギヤ105が軸支されている。
第一PTOギヤ98がスライドされて第二十ギヤ102に噛み合わせられると、第三PTO軸107においては二速が得られる。
第一PTOギヤ98がスライドされて第二PTOギヤ99に噛合されると、第一PTO軸95の回転が第二PTOギヤ99と第二十三ギヤ152を介して第三PTO軸107に伝わり、四速が得られる。
第五シンクロチェンジ151が第五シンクロ小ギヤ100に繋がれると、回転は第五シンクロ小ギヤ100から第二十一ギヤ103に伝動し、一速が得られる。
第五シンクロチェンジ151が第五シンクロ大ギヤ101に繋がれると、回転は第五シンクロ大ギヤ101から第二十四ギヤ153に伝動し、三速が得られる。
そして、PTO逆転ギヤ105が第一PTOギヤ98と第二十ギヤ102に噛み合わせられると、第一PTO軸95の回転は第一PTOギヤ98からPTO逆転ギヤ105を経て第二十ギヤ102に伝動されて第三PTO軸107に伝わり、逆回転が得られる。
第一PTOギヤ98、第二PTOギヤ99および第五シンクロチェンジ151は、第一高・低クラッチ24および第二高・低クラッチ25と、第一シンクロチェンジ42および第二シンクロチェンジ36と、の間でこれらの下側に配置されている。
第三PTO軸107の回転は、第四PTO軸156を介して第五PTO軸108に伝動され、第一PTO出力ギヤ109および第二PTO出力ギヤ110を駆動し、さらに減速されてPTO出力軸111を駆動する。
尚、上記実施の形態では、副変速レバー230が運転座席の右側に配置されており、前後進レバー220がハンドルポスト211の左側に配置されている場合について説明したが、これに限らず例えば、副変速レバー230が運転座席の左側に配置されており、前後進レバー220がハンドルポスト211の右側に配置されている構成でも良い。
また、上記実施の形態では、前後進レバー220が、前進走行位置、及び後進走行位置において、前後進レバー220が上方に操作された際、前後進クラッチ48を中立モードに切り替える構成であり、且つ、副変速レバー230に設けられている切替スイッチ232が押された際、前後進クラッチ48を中立モードに切り替える構成である場合について説明した。しかし、これに限らず例えば、前進走行位置、及び後進走行位置において、前後進レバー220が上方に操作された際、前後進クラッチ48を中立モードに切り替える構成か、或いは、副変速レバー230に設けられている切替スイッチ232が押された際、前後進クラッチ48を中立モードに切り替える構成かの、何れかの構成であっても良い。
また、上記実施の形態では、前後進レバー220が、前進走行位置、及び後進走行位置において、前後進レバー220が上方に操作された際、前後進クラッチ48を中立モードに切り替える構成について説明したが、これに限らず例えば、前後進レバー220が、前進走行位置、又は後進走行位置において、前後進レバー220が上方又は下方に操作された際、前後進クラッチ48を中立モードに切り替える構成であっても良い。
また、上記実施の形態では、切替スイッチ232が副変速レバー230の突き出し部231の下面側に設けられた構成について説明したが、これに限らず例えば、突き出し部231の先端側や上面側或いは側面側等、どこに設けられていても良い。
また、上記実施の形態では、前後進クラッチ48が中立モードから元のモードに復帰したときの前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブは、前後進レバー230が「前進走行位置」、「後進走行位置」にあるときに、上方へ持ち上げる操作がなされた後、その操作が解除されたことによる場合と、切替スイッチ232を押す操作が解除されたことによる場合とで、異なる構成について説明したが、これに限らず例えば、双方の場合において、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブが同じであっても良い。
また、上記実施の形態では、前後進クラッチ48の接続圧力の昇圧カーブを調節する感度調節ダイヤル(図6の240、250参照)を備えた構成について説明したが、これに限らず例えば、感度調節ダイヤルを備えない構成でも良い。