JP6548222B2 - フタロシアニン化合物および該フタロシアニン化合物を含む組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、表面改質剤に関するものである。
少量添加することによって、塗布あるいは成形して得られる固体表面に対して機能性を付与することのできる表面改質剤は、従来から広く検討されてきた。例えば、樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の固体表面を表面改質剤により覆うことで、撥水性や防汚性等の所望の効果を固体表面に付与することができるだけでなく、汚れや磨耗などから固体表面を保護することができる。これらの表面改質剤としては、界面活性剤、シリコーン系化合物、フッ素含有化合物等が知られている。これらの中でも、フッ素含有化合物を固体表面に塗布すると、表面エネルギーが著しく低下し、高い撥水性・撥油性を示すことから、フッ素含有化合物について多くの検討がされている。
例えば、フッ素含有化合物としては、フタロシアニン骨格の水素原子がフッ素原子で置換されたフッ素置換フタロシアニン化合物が知られている。フタロシアニン化合物は、優れた耐熱性や耐候性が得られるので、フッ素が導入されることで、さらに撥水性が付与され、熱可塑性樹脂用の改質剤、層間絶縁膜、封止材料、難燃剤、塗料添加剤などとしての利用が期待されている(例えば、特許文献1)。
特開2012−97254号公報
しかしながら、フッ素含有化合物は、その化合物自体が溶剤への分散性または溶解性が低く、そのためフッ素含有化合物を含む塗布液を作製する際には溶剤に分散させるための分散剤が必要であったり、添加剤としての量が限定されてしまったりするという問題があった。
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、溶剤への分散性または溶解性に優れ、高い撥水性を有するフタロシアニン化合物を含む組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、下記化合物により上記課題が解決されることを見出した。すなわち、本発明の目的は、下記式(1):
式中、
Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリールオキシ基、または置換基を有してもよいアリールチオ基を表し;
Yは、それぞれ独立して、−OCHCQを表し、Qは、フッ素原子、塩素原子または水素原子を表し;
Zは、それぞれ独立して、式:−A−Bで表される基を表し、Aは酸素原子または硫黄原子を表し、Bは、炭素数3〜10のフッ素原子を含む飽和炭化水素基、塩素原子を含む飽和炭化水素基、または飽和炭化水素基を表し;
YまたはZの少なくともひとつがフッ素原子または塩素原子を含み;
mは、0〜15の整数であり、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜16の整数であり、m+n+pは16であり;
Mは、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物、またはアルキルオキシ基置換金属を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物によって解決される。
本発明によれば、溶剤への分散性または溶解性に優れ、高い撥水性を有するフタロシアニン化合物および該フタロシアニン化合物を含む組成物が提供される。
本発明のフタロシアニン化合物(a)の立体化学構造を示す図である。 本発明のフタロシアニン化合物(b)の立体化学構造を示す図である。 化合物(c)であるヘキサデカフルオロフタロシアニンの立体化学構造を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、式(1)で表されるフタロシアニン化合物、または式(2)で表されるフタロシアニン化合物と樹脂とを含む組成物に係る発明である。以下、式(1)または式(2)で表されるフタロシアニン化合物を、それぞれ、「フタロシアニン化合物(1)」、「フタロシアニン化合物(2)」と称する場合もある。または、フタロシアニン化合物(1)とフタロシアニン化合物(2)とを一括して「本発明のフタロシアニン化合物」とも称する場合がある。
<フタロシアニン化合物>
本発明のフタロシアニン化合物は、下記式(1)または(2)で示されるように、フタロシアニン骨格に、少なくともひとつのYまたはZで表される置換基を有し、YまたはZの少なくともひとつがフッ素原子または塩素原子を有する。これにより、本発明のフタロシアニン化合物は溶剤への分散性または溶解性に優れ、そのため表面改質剤として安定性が高いものとなる。さらには、本発明の表面改質剤を付与した基材表面に、優れた撥水性を付与することができる。上記利点が達成できるメカニズムは不明であるが、以下のように推察される。なお、本発明は、下記推論によって何ら制限されるものではない。
本発明のフタロシアニン化合物は、フッ素原子または塩素原子をフタロシアニン骨格に有するものであるが、フタロシアニン骨格に直接結合したフッ素原子または塩素原子を有するのではなく、フタロシアニン骨格に結合した飽和炭化水素基を介してフッ素原子または塩素原子を有する。そのため、飽和炭化水素基に結合したフッ素原子または塩素原子としては、フタロシアニン骨格に直接結合したフッ素原子または塩素原子に比べて、フタロシアニン骨格の形成する平面性に対して自由度が高い。図1−A、図1−Bおよび図1−Cに、本発明のフタロシアニン化合物およびヘキサデカフルオロフタロシアニンの具体的な立体化学構造の例を示す。図1−Aおよび図1−Bの立体化学構造(A)で示されるように、本発明のフタロシアニン化合物は、フタロシアニン骨格の形成する平面に対して、平行面を正面とした立体構造を有するものと推測される。また、図1−Cの立体化学構造(B)で示されるように、ヘキサデカフルオロフタロシアニンは、フタロシアニン骨格の形成する平面に対して、垂直面を正面とした立体構造を有するものと推測される。
図1−Cの立体化学構造(A)および(B)より、ヘキサデカフルオロフタロシアニンのフッ素原子は、フタロシアニン骨格の形成する平面性に対して、ほぼ平面の位置に配置されることがわかる。一方、本発明のフタロシアニン化合物(a)および(b)のフッ素原子は、フタロシアニン骨格に直接結合した飽和炭化水素基により、フタロシアニン骨格の形成する平面性から湾曲する方向に配置されている。これにより、フタロシアニン分子の1分子内において撥水性を多方向に発揮することができる。よって、撥水性を多方向に発揮することができることから、本発明のフタロシアニン化合物を表面改質剤として用いた場合、効率よく撥水性を発揮することができるものと考えられる。また、フッ素原子または塩素原子を含む化合物は溶剤溶解性が低いことが知られており、例えば、ヘキサデカフルオロフタロシアニンは溶剤溶解性が低く、粉砕したり分散剤と共に用いたりして溶剤に溶解または分散させる必要がある。一方、本発明のフタロシアニン化合物は、溶剤への溶解性または分散性に優れており、溶剤に溶解または分散させる際には、単独で用いることができる。これは、フッ素原子または塩素原子がフタロシアニン骨格の形成する平面性から湾曲して配置されることにより、フタロシアニン化合物のスタッキング性が低くなり、溶剤への溶解性または分散性を向上させていると推測される。
以上のように、本発明のフタロシアニン化合物は、溶剤への溶解性または分散性に優れ、優れた撥水性を発揮する表面改質剤として用いることができる。
また、本発明のフタロシアニン化合物は、上記と同様の理由により、樹脂への分散性または溶解性にも優れる。
したがって、本発明によれば、下記式(1)または(2)で表されるフタロシアニン化合物と樹脂とを含む組成物が提供される。また、下記式(1)または(2)で表されるフタロシアニン化合物と樹脂とを含む組成物は、上述したように、表面改質剤として好適に用いられる。
また、本発明のフタロシアニン化合物と樹脂とを含む組成物は、各種素材および基材に対して塗布した場合、または各種素材および基材に内添した場合に、撥水性、防汚性、レベリング性、撥油性、耐擦傷性、耐油性、平滑性、減摩性、耐水性、防湿性、防錆性、剥離性、離型性、低吸水性等に優れた表面を形成することができ、表面改質剤として使用することができる。よって、本発明のフタロシアニン化合物と樹脂とを含む組成物は、各種素材ならびに基材に対する保護剤や表面処理剤、内添剤として単独または構成要素として使用することができ、撥水剤、防汚剤、レベリング向上剤、剥離剤、離型剤として好適に用いられる。特に好ましくは、本発明のフタロシアニン化合物と樹脂を含む組成物(表面改質剤)は、撥水剤、防汚剤、レベリング向上剤として用いられる。
[フタロシアニン化合物(1)および(2)]
以下、本発明のフタロシアニン化合物について説明する。
本発明のフタロシアニン化合物は、下記式(1)で表される。
式(1)中、Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリールオキシ基、または置換基を有してもよいアリールチオ基を表す。
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、表面改質剤としての機能発現や耐久性の観点から、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
置換基を有していてもよいアリールオキシ基のアリールオキシ基としては、(アリール基)−O−で表される基を意味し、炭素数6〜20のアリールオキシ基が好ましい。例えば、フェノキシ基(フェニルオキシ基)、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、1−アントリルオキシ基、2−アントリルオキシ基、9−アントリルオキシ基、1−フェナントリルオキシ基、2−フェナントリルオキシ基、1−ピレニルオキシ基等等が挙げられる。好ましくはフェノキシ基である。
置換基を有していてもよいアリールチオ基のアリールチオ基としては、(アリール基)−S−で表される基を意味し、炭素数6〜20のアリールチオ基が好ましい。例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基、1−アントリルチオ基、2−アントリルチオ基、9−アントリルチオ基、1−フェナントリルチオ基、2−フェナントリルチオ基、1−ピレニルチオ基等が挙げられる。
式(1)中、Yは、それぞれ独立して、−OCHCQを表し、Qは、フッ素原子、塩素原子または水素原子を表す。これらのうち、表面改質剤としての機能発現や耐久性の観点から、Qはフッ素原子または塩素原子であるのが好ましく、フッ素原子であるのがより好ましい。
式(1)中、Zは、それぞれ独立して、式:−A−Bで表される基を表す。ここで、Aは酸素原子または硫黄原子を表し、好ましくは酸素原子である。Bは、炭素数3〜10のフッ素原子を含む飽和炭化水素基、塩素原子を含む飽和炭化水素基、または飽和炭化水素基を表す。
ここで、飽和炭化水素基としては、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基が挙げられる。具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−tert−ブチル−シクロヘキシル基等が挙げられる。
これらのうちでも、炭素数3〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数3〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数3〜5の直鎖状または分岐状のアルキル基が特に好ましい。具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基が好ましく、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基が特に好ましい。
フッ素原子を含む飽和炭化水素基または塩素原子を含む飽和炭化水素基としては、上記アルキル基の水素原子を1以上のフッ素原子または塩素原子で置換されたものであり、その置換位置は特に制限されない。フッ素原子または塩素原子の置換数としては、少なくとも1以上であり、好ましくは1〜20であり、より好ましくは1〜10である。
例えば、炭素数3〜10のフッ素原子を含む飽和炭化水素基としては、ジ(トリフルオロメチル)メチル基(CH(CF)、(1−トリフルオロメチル−(2,2,2、−トリフルオロエチル))基、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル基(−CHCFCFCF)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ基、2,2−ジフルオロエチル、2−トリフルオロメチル−2−プロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロピル基、2,2,2-トリフルオロ-1-メトキシエチル基、2−フルオロシクロヘキシル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基等が挙げられる。
例えば、炭素数3〜10の塩素原子を含む飽和炭化水素基としては、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタクロロブチル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロ−2−プロピル基、1−クロロ−2−メチル−2−プロピル基、1,3−ジクロロ−2−プロピル基、2,3−ジクロロ−1−プロピル基等が挙げられる。
この際、YまたはZの少なくともひとつがフッ素原子または塩素原子を含む。式(1)中のYまたはZとして、フッ素原子を含む置換基の数は、式(1)中、樹脂および/または溶剤への分散性または溶解性の観点から、2以上であることが好ましく、より好ましくは8〜16であり、さらに好ましくは12〜16である。
式(1)中、mは、0〜15の整数であり、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜16の整数であり、m+n+pは16である。特性が発現するには、mが小さいほどよく、n+pが大きいほどよい。この観点から、mは、好ましくは0〜12であり、より好ましくは0〜10であり、さらに好ましくは0〜8である。n+pは、好ましくは1〜16であり、より好ましくは4〜16であり、さらに好ましくは8〜16である。また、nは、好ましくは4〜15であり、より好ましくは6〜15であり、さらに好ましくは8〜12である。pは、好ましくは0〜10であり、より好ましくは0〜8であり、さらに好ましくは0〜4である。
式(1)中、Mは、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物、またはアルキルオキシ基置換金属を表わす。金属としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等が挙げられる。金属酸化物としては、チタニル、バナジル等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫(II)、塩化錫(IV)、塩化珪素等が挙げられる。アルキルオキシ基置換金属としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜10のアルキルオキシ基に置換された上記金属が挙げられる。好ましくは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物であり、具体的には、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、鉄、バナジル、チタニル、塩化錫(II)であり、より好ましくは亜鉛および銅であり、さらに好ましくは銅である。Mが銅である場合、耐熱性や耐久性に優れる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、複素環基、アリール基、ヒドロキシ基、アシル基、アルキル基、フェニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、アリールオキシカルボニル基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基が複数個存在する場合には同種または異種のいずれであってもよい。上記置換基よりその一部をより具体的な例を挙げて以下に示す。なお、場合によって存在する置換基は、置換される基と同じになることはない。例えば、アルキル基がアルキル基で置換されることはない。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルコキシ基としては、例えば、炭素原子数1〜8のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうち複素環基としては、炭素原子数2〜10であり、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を含む複素環基が含まれ、単環式複素環基に限らず、複数の複素環が縮合した縮合複素環基、複素環と炭化水素環(非芳香族性炭化水素環または芳香族炭化水素環)とが縮合(オルソ縮合、オルソアンドペリ縮合など)した縮合複素環基であってもよい。複素環基は、非芳香族性であってもよく芳香族性であってもよい。さらに、複素環と炭化水素環とが縮合した縮合複素環基においては、複素環または炭化水素環のいずれかが結合手を有していてもよい。ヘテロ原子として窒素原子を有する複素環基としては、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基などの5員または6員単環式複素環基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、フェナジニル基などの5員または6員複素環が炭化水素環に縮合した縮合複素環基などが例示でき、ヘテロ原子として酸素原子を有する複素環基としては、フリル基(例えば、テトラヒドロフルフリル基)などの5員または6員単環式複素環基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基などの5員または6員複素環が炭化水素環に縮合した縮合複素環基などが例示できる。ヘテロ原子として硫黄原子を有する複素環基には、チエニル基などの5員または6員単環式複素環基、チアントレニル基などの5員または6員複素環が炭化水素環に縮合した縮合複素環基などが含まれる。また、異種のヘテロ原子を有する複素環基としては、モルホリニル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基などの5員または6員単環式複素環基、フェノキサチイニル基などの5員または6員複素環が炭化水素環に縮合した縮合複素環基などが挙げられる。好ましい複素環基には、ヘテロ原子として少なくとも窒素原子を有する5または6員の複素環基(ピロリル、ピリジルなど)、ヘテロ原子として少なくとも窒素原子を有する5または6員の複素環基と芳香族炭化水素類が縮合した複素環基(例えば、カルバゾリル基)などが含まれる。これらのうち、溶媒への溶解性などを考慮すると、具体的には、テトラヒドロフルフリル基、4−ピコリル基などが好ましい。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアシル基としては、炭素数1〜10のアシル基が挙げられ、具体的には、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、p−t−ブチルベンゾイル基など等が挙げられ、これらのうち、アセチル、エチルカルボニル基が好ましい。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルキル基とは、炭素数1〜20個、好ましくは炭素数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基およびエチル基が好ましい。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルキルアミノ基とは、炭素数1〜20個、好ましくは炭素数1〜8個のアルキル部位を有するアルキルアミノ基であり、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−ヘプチルアミノ基、n−オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基などが挙げられる。これらのうち、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基およびn−ブチルアミノ基が好ましい。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルキルカルボニルアミノ基としては、炭素数2〜10のアルキル部位を有するアルキルカルボニルアミノ基であり、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、n−プロピルカルボニルアミノ基、iso−プロピルカルボニルアミノ基、n−ブチルカルボニルアミノ基、iso−ブチルカルボニルアミノ基、sec−ブチルカルボニルアミノ基、t−ブチルカルボニルアミノ基、n−ペンチルカルボニルアミノ基、n−ヘキシルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、n−ヘプチルカルボニルアミノ基、3−ヘプチルカルボニルアミノ基、n−オクチルカルボニルアミノ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアリールアミノ基としては、炭素数6〜20のアリール基を有するアリールアミノ基であり、フェニルアミノ基、p−メチルフェニルアミノ基、p−t−ブチルフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ−p−メチルフェニルアミノ基、ジ−p−t−ブチルフェニルアミノ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアリールカルボニルアミノ基としては、炭素数6〜20のアリール基を有するアリールカルボニルアミノ基であり、ベンゾイルアミノ基、p−クロロベンゾイルアミノ基、p−メトキシベンゾイルアミノ基、p−t−ブチルベンゾイルアミノ基、p−トリフロロメチルベンゾイルアミノ基、m−トリフロロメチルベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルコキシカルボニル基とは、アルコキシル基のアルキル基部分にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜8個、好ましくは1〜5個のアルコキシカルボニル、またはヘテロ原子を含んでもよい炭素数3〜8個、好ましくは5〜8個の環状アルコキシカルボニルを示す。具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。これらのうち、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が好ましい。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルキルアミノカルボニル基としては、炭素数1〜20のアルキル部位を有するアルキルアミノカルボニル基であり、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、n−プロピルアミノカルボニル基、n−ブチルアミノカルボニル基、sec−ブチルアミノカルボニル基、n−ペンチルアミノカルボニル基、n−ヘキシルアミノカルボニル基、n−ヘプチルアミノカルボニル基、n−オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジ−n−プロピルアミノカルボニル基、ジ−n−ブチルアミノカルボニル基、ジ−sec−ブチルアミノカルボニル基、ジ−n−ペンチルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘキシルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘプチルアミノカルボニル基、ジ−n−オクチルアミノカルボニル基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルコキシスルホニル基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基を有するアルコキシスルホニル基であり、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基、n−プロピルオキシスルホニル基、n−ブチルオキシスルホニル基、n−ペンチルオキシスルホニル基、エチルヘキシルオキシスルホニル基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアルキルチオ基としては、炭素数1〜10のアルキル部位を有するアルキルチオ基であり、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、イソペンチルチオ基、ネオペンチルチオ基、1,2−ジメチルプロピルチオ基、n−ヘキシルチオ基、1,3−ジメチルブチルチオ基、1−イソプロピルプロピルチオ基、1,2−ジメチルブチルチオ基、n−ヘプチルチオ基、1,4−ジメチルペンチルチオ基、2−メチル−1−イソプロピルプロピルチオ基、1−エチル−3−メチルブチルチオ基、n−オクチル基、2−エチルヘキシルチオ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基、アリールチオ基に場合によっては存在する置換基のうちアリールオキシカルボニル基としては、炭素数6〜20のアリールオキシカルボニル基であり、例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
ここで、フタロシアニン骨格の構造単位を、下記のようにA、B、C、Dとして表す。
この際、X、Y、Zが存在する位置は、特に制限されないが、例えば、YまたはZで表される「フッ素原子または塩素原子を有する置換基」がフタロシアニン化合物中に2つ以上存在する場合は、フッ素原子または塩素原子を有する置換基は、同じ構成単位中に存在するよりも、別の構造単位に存在する方が好ましく、例えば、A構造単位に1つのフッ素原子または塩素原子を有する置換基が存在し、B構造単位、C構造単位、またはD構造単位に他方のフッ素原子または塩素原子を有する置換基が存在するのが好ましい。より好ましくは、フッ素原子または塩素原子を有する置換基が各構造単位にひとつずつ存在する場合であり、A構造単位、B構造単位、C構造単位、およびD構造単位にそれぞれ1つ以上のフッ素原子または塩素原子を有する置換基が存在する。
また、フタロシアニン化合物(1)においてX、Y、Zで表される置換基は、フタロシアニン骨格のどの位置に置換されていてもよいが、α位(1、4、5、8、9、12、13、16位)、β位(2、3、6、7、10、11、14、15)のうち、撥水性を効果的に発揮するとの観点から、YまたはZで表される「フッ素原子または塩素原子を有する置換基」が、α位であることが好ましい。YまたはZで表される置換基は撥水性に大きく寄与する置換基である。ゆえに、置換基YまたはZがフタロシアニン骨格のα位に存在することで、フタロシアニン骨格の平面から垂直方向にフッ素原子が飛び出した形態、すなわち、フタロシアニン分子の表面にフッ素原子が多く存在した状態となり、結果として、フタロシアニン化合物の撥水性が向上すると考えられる。
上記式(1)中、XとYとの組み合わせとしては、(i)Xが8であり、Yが8である、(ii)Yが12であり、Zが4である、(iii)Yが8であり、Zが8である、(iv)Xが8であり、Zが8である、(v)Xが4であり、Yが8であり、Zが4である、(vi)Xが8であり、Yが4であり、Zが4である、等の組み合わせが好ましく、(i)Xが8であり、Yが8である、(ii)Yが12であり、Zが4である、形態がより好ましい。
本発明のフタロシアニン化合物は、下記式(2)で表される。
式(2)中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリールオキシ基、または置換基を有してもよいアリールチオ基を表す。
式(2)中、Yは、それぞれ独立して、−OCHCQを表し、Qは、フッ素原子、塩素原子または水素原子を表す。
式(2)中、Zは、それぞれ独立して、式:−A−Bで表される基を表し、Aは酸素原子または硫黄原子を表し、Bは、炭素数3〜10のフッ素原子を含む飽和炭化水素基、塩素原子を含む飽和炭化水素基、または飽和炭化水素基を表す。
この際、YまたはZの少なくともひとつがフッ素原子または塩素原子を含む。
式(2)中、mは、0〜15の整数であり、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜16の整数であり、m+n+pは16である。
式(2)中、Mは、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物、またはアルキルオキシ基置換金属を表わす。
式(2)におけるX、Y、ZおよびMの具体例および好ましい基、m、nおよびpの好ましい数値範囲は、上述の式(1)と同様であるため省略する。
式(2)中、Mは、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物、またはアルキルオキシ基置換金属を表す。Mは、上記式(1)と同様であるため、ここでは省略する。
式(1)または式(2)で表されるフタロシアニン化合物としては、下記構造が例示される。
[フタロシアニン化合物(1)および(2)の製造方法]
本発明のフタロシアニン化合物(1)および(2)の製造方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適当に利用することができるが、好ましくは溶融状態または有機溶媒中で、フタロニトリル化合物と金属塩とを環化反応する方法が特に好ましく使用できる。以下、本発明のフタロシアニン化合物(1)および(2)の製造方法の特に好ましい実施形態を記載する。しかしながら、本発明は、下記好ましい実施形態に制限されるものではない。
すなわち、下記式(I):
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(II):
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(III):
で示されるフタロニトリル化合物(3)、および下記式(IV):
で示されるフタロニトリル化合物(4)を、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属(本明細書中では、一括して「金属塩」とも称する)からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物が製造できる。
なお、上記式(I)〜(IV)中、Z1〜Z16は、所望のフタロシアニン化合物(1)または(2)の構造によって規定される。具体的には、上記式(I)〜(IV)中、Z1〜Z16は、それぞれ、上記式(1)中のX、YおよびZの定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記態様において、出発原料である式(I)〜(IV)のフタロニトリル化合物は、特開昭64−45474号公報に開示されている方法などの、従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできるが、好ましくは、下記式(V):
式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子、塩素原子および臭素原子、特に好ましくはフッ素原子または塩素原子を表わす、
で示されるフタロニトリル誘導体を、H−A−Bと反応させることによって得られる。置換基「−A−B」は、具体的には、フタロシアニン化合物(1)または(2)では、Xで表されるアリールオキシ基もしくはアリールチオ基、Yで表される基(−O−CHCQ)、またはZで表される基(−A−B)に相当する。また、フタロシアニン化合物(2)において、Xが水素原子の場合、そのようなフタロニトリル誘導体(フタロニトリル)をそのまま用いればよく、フタロシアニン化合物(1)または(2)において、Xがハロゲン原子の場合は、適当なハロゲン原子を有するフタロニトリル誘導体をそのまま用いればよい。
特にテトラフルオロフタロニトリル(以下、TFPNと略す)、テトラクロロフタロニトリル(以下、TCPNと略す)またはテトラブロモフタロニトリル(以下、TBPNと略す)を出発原料として使用する場合には、H−A−Bが、当該TFPNの場合は4,5位のフッ素原子が優先的に、またTCPNまたはTBPNの場合は3〜6位の塩素原子または臭素原子とランダムに反応する。このため、TFPNを出発原料とした場合は、ある程度置換位置が制御され、TCPNまたはTBPNを出発原料として使用した場合は、置換フェノキシ基(1)が、フタロシアニン骨格のα位およびβ位にランダムに導入できる。このため、TCPNまたはTBPNをフタロニトリル誘導体の出発原料として使用する場合には、フタロニトリル誘導体は、TCPNまたはTBPNの4個の塩素原子または臭素原子が任意に前駆体で置換された混合物の形態で得られる。
H−A−Bの割合は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択されるものである。また、H−A−Bの使用量は、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、例えば、フタロシアニン化合物(A−1)では、2,2,2−トリフルオロエタノールが、フタロニトリル誘導体1モルに対して、通常、0.1〜8モルの量で使用される。これらの比率は、所望のフタロシアニン化合物(1)および(2)の構造によって規定される。
また、上記好ましい実施態様において、フタロニトリル誘導体とH−A−Bとの反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、アセトニトリルおよびベンゾニトリル等のニトリル;アセトンおよび2−ブタノン等の極性溶媒などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アセトニトリル、ベンゾニトリルおよびアセトンである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、フタロニトリル誘導体の濃度が、通常、1〜40(w/v)%、好ましくは3〜30(w/v)%となるような量である。また、このフタロニトリル誘導体とH−A−Bとの反応は、反応中に発生するハロゲン化水素を除去するために、これらのトラップ剤を使用することが好ましい。トラップ剤を使用する際の具体的なトラップ剤の例としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムなどが挙げられ、これらのうち、炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムが好ましい。また、トラップ剤を使用する際のトラップ剤の使用量は、反応中に発生するハロゲン化水素等を効率良く除去できる量であれば特に制限されないが、フタロニトリル誘導体1モルに対して、通常1.0〜5.0モルである。
または、出発原料である式(I)〜(IV)のフタロニトリル化合物を、下記式(VI):
のニトロフタロニトリル化合物(以下、単に「ニトロフタロニトリル化合物」とも称する)を、H−A−Bと反応させることによって得てもよい。上記式中の置換基「−A−B」は、具体的には、フタロシアニン化合物(1)または(2)では、Xで表されるアリールオキシ基もしくはアリールチオ基、Yで表される基(−O−CHCQ)、またはZで表される基(−A−B)に相当する。
このように、式(VI)のニトロフタロニトリル化合物とH−A−Bとを反応させると、ニトロフタロニトリル化合物中のニトロ基(−NO2)とH−A−Bとが優先して反応し、当該ニトロ基(−NO2)が−A−Bに選択的に置換されうる。このため、当該方法によると、ニトロフタロニトリル化合物中のニトロ基の置換位置を選択することによって、フタロシアニン化合物(1)または(2)中への置換基の導入位置を容易に規定できる。すなわち、フタロシアニン化合物(1)または(2)におけるXで表されるアリールオキシ基もしくはアリールチオ基、Yで表される基(−O−CHCQ)、またはZで表される基(−A−B)が、フタロシアニン骨格のα位またはβ位に選択的に導入できる。
また、H−A−Bの割合は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択されるものである。また、H−A−Bの使用量は、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、例えば、上記のフタロシアニン化合物(A−1)では、2,2,2−トリフルオロエタノールが、式(VI)のニトロフタロニトリル化合物1モルに対して、通常、0.1〜8モル、好ましくは0.5〜6モルの量で使用される。これらの比率は、所望のフタロシアニン化合物(1)および(2)の構造によって規定される。
また、上記式(VI)において、ニトロ基のフタロニトリルへの結合位置は、目的とするフタロニトリル化合物の構造によって適宜選択されるものであり、3、4、5、6位のいずれか、またはこれらの組み合わせでもよい。
上記方法において、ニトロフタロニトリル化合物とH−A−Bとの反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリルおよびベンゾニトリル等のニトリル類などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリルである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、ニトロフタロニトリル化合物の濃度が、通常、3〜80(w/v)%、好ましくは5〜50(w/v)%となるような量である。また、このニトロフタロニトリル化合物とH−A−Bとの反応は、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、フッ化カリウム(KF)、炭酸カリウム(K2CO3)などの触媒の存在下で行われることが好ましい。この際、触媒の使用量は、上記反応が良好に進行する量であれば特に制限されない。具体的には、触媒は、ニトロフタロニトリル化合物1モルに対して、通常、1.0〜4.0モル添加されることが好ましい。
また、上記ニトロフタロニトリル化合物とH−A−Bとの反応条件は、上記反応が良好に進行する条件であれば特に制限されない。具体的には、ニトロフタロニトリル化合物とH−A−Bとを、好ましくは30〜150℃、より好ましくは40〜100℃の温度で、好ましくは2〜12時間、より好ましくは3〜8時間反応させる。
上記態様において、環化反応は、フタロニトリル化合物(1)〜(4)と金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属からなる群から選ばれる一種を溶融状態または有機溶媒中で反応させることが好ましい。この際使用できる金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物および有機酸金属(以下、一括して「金属化合物」ともいう)としては、反応後に得られるフタロシアニン化合物(1)または(2)のMに相当するものが得られるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、上記式(1)におけるMの項で列挙された鉄、銅、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウムおよびスズ等の金属、当該金属の、塩化物(塩化銅など)、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物、酸化バナジウム、酸化チタニルおよび酸化銅等の金属酸化物、酢酸塩等の有機酸金属、ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物およびカルボニル鉄等の金属カルボニル等が挙げられる。これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物および金属ハロゲン化物である。
また、上記態様において、環化反応は、無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうのが好ましい。有機溶媒は、出発原料としてのフタロニトリル化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、およびベンゾニトリル、アセトニトリル等の不活性溶媒;ならびにピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコールモノメチルエーテルおよびベンゾニトリルが、より好ましくは、エチレングリコールモノメチルエーテルおよびベンゾニトリルが使用される。
上記態様におけるフタロニトリル化合物(1)〜(4)と金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、有機溶媒100重量部に対して、フタロニトリル化合物を2〜75重量部、好ましくは20〜70重量部の範囲の合計量で、かつ金属化合物を該フタロニトリル化合物4モルに対して1〜2モル、好ましくは1.0〜2モルの範囲で仕込んで、反応温度30〜250℃、好ましくは80〜200℃の範囲で反応させる。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニン化合物の合成方法に従って、ろ過、洗浄、乾燥することにより、次工程に用いることのできるフタロシアニン化合物を効率よく、しかも高純度で得ることができる。
なお、本発明の表面改質剤に含まれるフタロシアニン化合物(1)または(2)は、一種の化合物である場合に加えて、複数の種類の化合物が混合物の形態で存在することをも包含する。このような場合には、原料であるフタロニトリル化合物を複数種類混合したものを使用して、これと金属塩とを環化反応することによって、このようなフタロシアニン化合物が製造できる。
<組成物>
本発明によれば、本発明のフタロシアニン化合物と樹脂とを含む組成物(以下、「本発明の組成物」とも称する場合がある。)が提供される。
組成物に含まれる本発明のフタロシアニン化合物は上述したため省略する。
組成物中、本発明のフタロシアニン化合物は、組成物の固形分の全重量に対して、0.1〜25重量%で含まれるのが好ましい。上記範囲内であれば、本発明のフタロシアニン化合物が樹脂に分散または溶解させることができ、組成物が塗布される基材に対して撥水性を十分に付与することができる。
[樹脂]
本発明の組成物は、樹脂を含む。組成物に樹脂を含むことで、フタロシアニン化合物を効率よく分散または溶解させることができ、基材表面への撥水機能の付与が効率よくなしえる。また、組成物が樹脂を含有することで、含有する樹脂の成形物に対して撥水性を付与することもできる。
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフッ化オレフィン樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
これらのうち、本発明のフタロシアニン化合物と相溶性の観点から、オレフィン系樹脂であるのが好ましく、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましく、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂がさらに好ましい。
また、本発明の組成物において、樹脂の含有量は、組成物の固形分の全重量に対して、好ましくは0.1〜60重量%、より好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは2〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量倍である。上記範囲内であれば、本発明のフタロシアニン化合物の樹脂への溶解性または分散性を確保しつつ、含有する樹脂に対して撥水性を十分に付与することができる。
[添加物]
本発明の組成物は、通常用いられている充填剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、加硫剤、密着性付与剤(例えば、シランカップリング剤等)、香料、熱架橋剤、加硫促進剤、着色剤、および重合禁止剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
[組成物について]
以上のように、本発明の組成物は、本発明のフタロシアニン化合物を含むことにより表面改質剤としての機能を有する。すなわち、本発明の組成物は、特に、撥水性、防汚性、レベリング性を向上させる表面改質効果を有する。具体的には、本発明の組成物を基材に塗布して形成される塗布膜は、後述する実施例の方法により測定される水の接触角が、好ましくは80°以上であり、より好ましくは85°以上であり、さらに好ましくは90°以上である。当該塗布膜に対する水の接触角の上限は、特に制限されないが、好ましくは150°である。
[組成物の製造方法および使用方法]
本発明の組成物は、本発明のフタロシアニン化合物を、樹脂と、混合することで製造することができる。混合方法は、特に制限されず、各成分の添加順も特に制限されず、撹拌しながら各成分を順次添加し混合してもよいし、撹拌しながら一度に添加し混合してもよい。これらの組成物の調製方法は、その各成分によって適宜決められる。
本発明のフタロシアニン化合物は、分子内に有するフッ素原子または塩素原子が、フタロシアニン骨格の形成する平面に対して湾曲して存在しているため、樹脂および溶剤との相溶性が高く、分散剤等を別途添加する必要がなく、安定な組成物を得ることができる。よって、本発明の組成物は、さらに溶剤を含む場合であっても、含有するフタロシアニン化合物が凝集や沈殿をすることがなく、安定性の優れた組成物となりうる。
本発明の組成物は、特に用途は限定されないが、基材に対して塗布した場合、または基材に内添した場合(基材と相溶するとき)、撥水性、防汚性、レベリング性、撥油性、耐擦傷性、耐油性、平滑性、減摩性、耐水性、防湿性、防錆性、剥離性、離型性、低吸水性等に優れた表面を形成することができる。よって、本発明の組成物は、基材に対して表面処理効果を付与するために、表面処理剤として単独で用いることもでき、または基材の構成要素としても用いることができる。
具体的には、本発明の組成物を、基材に対して塗布することで、基材表面に優れた表面改質効果を付与することができる。したがって、基材上に、本発明の組成物が塗布されて表面改質層が形成される。よって、本発明によれば、基材と;本発明の組成物により形成される表面改質層と;が、この順で積層されてなる、積層体が提供される。
本発明の組成物を基材表面に塗布する方法としては、特に制限されないが、本発明の組成物をそのまま塗布液としてもよく、または塗布操作を容易にするために適当な溶剤に予め希釈して塗布液を調製してもよい。希釈用の溶剤としては、本発明のフタロシアニン化合物と樹脂とを溶解または分散するものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、テトラリン、ニトロベンゼン、ベンズアルデヒド等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ニトロメタン、ニトロエタン、2−ニトロプロパン、ジクロロメタン、クロロホルム、エチルクロライド、1,1,1−トリクロロエタン、1−クロロブタン、シクロヘキシルクロライド、trans−ジクロロエチレン、1、1、1−トリフルオロトリクロロエタン等の炭化水素類およびニトロ化またはハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル類;シクロヘキサノール、n−プロパノール、n−ブタノール、2−エチルブタノール、n−ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、ブトキシエタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−i−アミルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン等のケトン類;アセトニトリルおよびベンゾニトリル等のニトリル類;フラン、β−β−ジクロロエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルオキシド;シクロヘキシルアミン、エタノールアミン等のアミン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(カルビトール)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール類;等が挙げられる。なおこれらの溶剤は単独で用いても、2種類以上併用してもよい。これらのうち、本発明のフタロシアニン化合物と樹脂との相溶性の観点から、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチルホルムアミド、ジメチルスルオキシドが好ましく、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、ジオキサンがより好ましい。これらの溶剤は1種または2種類以上を併用してもよい。
表面改質剤を含む塗布液としては、溶剤の含有量は、フタロシアニン化合物1重量部に対して、好ましくは10〜1000重量部、より好ましくは15〜850重量部、さらに好ましくは20〜800重量部、特に好ましくは25〜750重量部である。上記範囲内であれば、本発明のフタロシアニン化合物の溶剤への溶解性または分散性を確保することができる。
基材上に塗布液を塗布する方法としては、特に制限されないが、例えば、スピンコート法、バーコーター、ドクターブレード、アプリケーター、コンマコーター等を用いた方法、スクリーン印刷法、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スリットコート法、リバースコート法、ディップコート法等が挙げられる。
塗布液を基材上に塗布して塗布膜を形成した後、塗布膜を乾燥させ、本発明の表面改質剤を含む表面改質膜を得ることができる。塗布膜の乾燥方法および条件は特に制限されず、使用した溶剤が十分乾燥する範囲で、従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせることによって設定することができる。一例を挙げると、乾燥のための温度としては、好ましくは40〜350℃未満、より好ましくは50〜250℃であり、さらに好ましくは60℃以上200℃未満である。また、例えば表面改質剤に含まれる樹脂がポリイミドである場合は、徐々に昇温しながら塗布膜を乾燥させることで、より強いポリイミド膜を形成することができる。また、加熱時間としては、例えば、好ましくは1〜60分、より好ましくは2〜20分である。
ここで、基材の素材としては、特に制限されず、ガラス、樹脂、ゴム、繊維、金属、セラミック、シリコンウェハを主体としているもの、および、これらガラス基材、樹脂基材、ゴム基材、繊維基材、金属基材、セラミック基材、シリコンウェハの複合体として、これらを積層したもの、これらが分散されているもの、これらの繊維が含有しているものなどが挙げられる。
本発明にて用いられうるガラス基材としては、石英ガラス、無アルカリガラス、高ケイ酸ガラス(96%シリカ)、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス(パイレックス(登録商標))、ホウケイ酸ガラス(無アルカリ)、ホウケイ酸ガラス(マイクロシート)、アルミノケイ酸塩ガラスが含まれる。
樹脂基材としては、特に制限はないが、樹脂成型品やフィルムであることが好ましく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフッ化オレフィン樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
ゴム基材としては、特に制限はないが、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、NBRゴム、天然ゴム、フッ素ゴムクロロプレンゴム等が挙げられる。
本発明にて用いられうる金属基材としては、W,Mo、Pt、Fe、Ni、Auといった単一元素金属、ステンレス、インコネル、モネル、ニモニック、炭素銅、Fe−Ni系インバー合金、スーパーインバー合金、といった合金などが挙げられる。また、上記の金属に、他の金属層、セラミック層を付加している、多層金属板であってもよい。
繊維基材としては、特に制限されないが、例えば、木綿、麻、絹、羊毛、カシミア等の天然繊維;ナイロン(ポリアミド)系、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系、ポリアクリロニトリル等のアクリル系、ポリビニルアルコール系繊維等のビニロン系、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリウレタン系等の合成繊維;等が用いられる。
本発明にて用いられうるセラミック基材としては、Al、Mullite、AlN、SiC、Si、BN、結晶化ガラス、菫青石、スポジュメン、ガラスセラミックス、ゼロデュア材などの基板用セラミックス;TiO、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム。アルミナ、MgO、ステアタイト、BaTi、BaTiO、BaSrCaZrTiO、Ba(TiZr)Oなどのキャパシター材料;PbNb、Pb0.5Be0.5Nb、PbTiO、BaTiO、PZT、PLZTなどの圧電材料;などが挙げられる。
本発明にて用いられうるシリコンウェハとしては、n型あるいはp型にドーピングされたシリコンウェハであっても、イントリンシックシリコンウェハであってもよい。また、シリコンウェハの表面に酸化シリコン層や、各種薄膜が堆積されたシリコンウェハであってもよい。また、シリコンウェハのほか、ゲルマニウム、シリコンーゲルマニウム、ガリウム−ヒ素、アルミニウム−ガリウム−インジウム、窒素−リン−ヒ素−アンチモンも好適である。また、InP(インジウム燐)、InGaAs、GaInNAs、LT、LN、ZnO(酸化亜鉛)やCdTe(カドミウムテルル)、ZnSe(セレン化亜鉛)などであってもよい。
基材の厚さおよび基材の形状は特に制限されず、板状、フィルム状、円形、リング状、球状、円柱状、ペレット状のほか、成形加工された任意の形状をとることができ、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、基材のサイズについても特に制限はなく、所望のサイズを適宜選択できる。
また、本発明で用いられる基材は、基材の表面処理をしていてもよく、例えばシランカップリング剤等で予め表面処理を行った基材に、本発明の表面処理剤を付与してもよい。
本発明の組成物により形成される塗布膜の膜厚は、特に制限されないが、0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜80μm、さらに好ましくは1〜50μmである。塗布膜の膜厚が上記範囲内であれば、本発明の表面処理剤を含む塗布膜は表面改質効果を発揮できる。これは、本発明のフタロシアニン化合物が表面改質効果を発揮するのに優れた構造をしていることにより、比較的薄い塗布膜であっても表面改質効果が発揮されると考えられる。
また、本発明の組成物は、基材の構成要素としても用いることができる。具体的には、本発明の組成物を、基材を構成する材料に直接添加して、基材を形成させることで、本発明の組成物を基材の構成要素として含む基材が得られる。
本発明の組成物を基材の構成要素として含む場合、例えば、基材の材料である樹脂(成形用の樹脂)に他の添加剤と同様に適宜添加する方法が挙げられる。本発明の組成物を、成形用の樹脂と、必要により溶剤と混合して、本発明の組成物と成形用の樹脂とを含む混合物を得て、当該混合物を用いて樹脂の成形品を作製すればよい。
具体的に、本発明の組成物の成形用の樹脂への配合方法としては、本発明の組成物を、必要により溶剤に分散または溶解してから成形用の樹脂に添加し、均一に混合した後に脱溶剤する方法、本発明の組成物を、直接成形用の樹脂に添加し混練する方法、または予め本発明の組成物のマスターバッチを作製しておき、次いでマスターバッチを成形用の樹脂に添加して均一に混合する方法等が挙げられる。これらのうち、本発明においては、均一に混合した後に脱溶剤する方法が好ましい。
本発明の組成物を成形用の樹脂に添加する場合の添加量は、成形用の樹脂の種類、改質の目的、成形用の樹脂と添加される本発明のフタロシアニン化合物との相溶性にもよるが、例えば、成形用の樹脂100重量部に対して、0.5〜30重量部であり、好ましくは1〜20重量部である。上記範囲であれば、本発明のフタロシアニン化合物を含む表面改質剤の効果が十分発揮されうる。
成形用の樹脂としては、特に制限されないが、一般的な樹脂およびゴムが挙げられる。具体的には、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、NBRゴム、天然ゴム、フッ素ゴムクロロプレンゴム、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフッ化オレフィン樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂等が挙げられ、いずれも効果的な樹脂の改質効果を得ることができる。アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂の場合に本発明の組成物による表面改質効果が特に発揮される。
これらの樹脂、ゴムには、通常用いられている充填剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を配合してもよい。
また、本発明の表面改質剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、本発明の組成物は、公知の表面改質剤、分散剤、界面活性剤、カップリング剤等を併用できる。
以上のように、本発明の組成物の使用形態としては、本発明の組成物を含む溶液を、被処理物である基材表面に塗布したり、本発明の組成物を樹脂中に練り込んでもよく、特にその使用形態は限定されない。
本発明のフタロシアニン化合物は、その分子レベルでの構造において、フタロシアニン骨格により形成される平面の先端部に、フッ素原子または塩素原子が配向される結果、高い表面改質効果(例えば、撥水性、防汚性)、およびその維持性が達成されるものと考えられる。また従来から知られているヘキサデカフルオロフタロシアニンに比較して、本発明のフタロシアニン化合物は、分子中に含まれるフッ素原子または塩素原子が少ない場合でもフッ素原子または塩素原子が分子平面から湾曲して配向するため、本発明のフタロシアニン化合物は、従来のフッ素含有化合物の課題であった溶媒に対する相溶性および樹脂に対する相溶性が向上している。それにより、本発明のフタロシアニン化合物を含む組成物を表面改質剤として用いる際、溶剤または樹脂に溶解または分散させる際に、溶解助剤または分散剤を必要とせず、表面改質剤として高い安定性を有することができる。
以下、本発明の代表的な実施形態を示し、本発明につきさらに説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、実施例中において特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を表す。以下、実施例の化合物の略称において、Pcはフタロシアニン骨格を表わし、Pcの前に記載される置換基は、フタロシアニン骨格の4つの構成単位の1つにおいて置換する4個の置換基を表わす。Pcの後に記載する金属は中心金属の種類を表す。
(合成例1)フタロシアニン化合物(B−1):(CFCHO)ClPc(Cu)の合成
フタロシアニン化合物(B−1)の中間体:(CFCHO)ClPNの合成
反応容器にテトラクロロフタロニトリル19.94g(0.075mol)、炭酸カリウム22.80g(0.165mol)、アセトニトリル145gを仕込み、撹拌しながら70℃に加熱してから2,2,2−トリフルオロエタノール15.00g(0.150mol)を滴下して加えた。反応終了後、後濾過して無機塩を除き、濃縮、乾燥して目的化合物を27.18g(収率92.2%)で得た。
フタロシアニン化合物(B−1):(CFCHO)ClPc(Cu)の合成
反応容器に中間体(CFCHO)ClPNを7.00g(0.018mol)、塩化銅(I)を0.44g(0.005mol)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを17.5g仕込み160℃に加熱した。反応終了後にメチルセロソルブを11.6g加えて、濾過して不溶成分を除いた。反応液をメタノール73gと水7.3gの混合液にゆっくりそそいで、フタロシアニンを析出させた。濾過した後、真空乾燥機で乾燥した。収量3.9g(収率53.5%)で目的のフタロシアニン(CFCHO)ClPc(Cu)を得た。
(合成例2)フタロシアニン化合物(B−2):(CFCHO)ClPc(Zn)の合成
中間体(CFCHO)ClPNは、上記合成例1と同様に行った。
反応容器に中間体(CFCHO)ClPNを6.48g(0.016mol)、ヨウ化亜鉛を1.45g(0.005mol)、ベンゾニトリルを14.3g仕込み160℃に加熱し15時間反応させた。反応終了後に一度濾過して不溶成分を除き、濾液をメタノール120ml、水30.3mlの混合液に撹拌しながらゆっくり滴下した。沈殿物をろ取し、真空乾燥機で乾燥した。収量5.02g(収率74.4%)で目的のフタロシアニン(CFCHO)ClPc(Zn)を得た。
(合成例3)フタロシアニン化合物(B−3):(2,5−ClPhO)(CFCHO)Pc(Zn)の合成
まず、公知の合成法により、(2,5−ClPhO)PNを合成した(特開2005−298491号、段落「0161」参照)。次に、反応容器に(2,5−ClPhO)PNを14.58g(0.030mol)、炭酸カリウム12.44g(0.09mol)、アセトン51.5gを仕込み、25℃でトリフルオロエタノール6.00g(0.060mol)を滴下して加えたのち、36時間反応させた。反応終了後、ろ過して無機塩を除き、ろ液を濃縮、真空乾燥することで目的物(2,5−ClPhO)(CFCHO)PNを得た。収量12.13g(収率57.2%)。
合成例2のフタロシアニン化合物(B−2)の合成において、中間体として(2,5−ClPhO)(CFCHO)PN1.94g(0.003mol)に変更する以外は、合成例2と同様に行い、(2,5−ClPhO)(CFCHO)PNPc(Zn)(1.66g 収率83.5%)を得た。
(合成例4)フタロシアニン化合物(B−4):(CFCFCFCHO)(CFCHO)Pc(Cu)の合成
フタロシアニン化合物(B−4)の中間体:(CFCFCFCHO)(CFCHO)PNの合成
反応容器にテトラフルオロフタロニトリル12.50g(0.062mol)、炭酸カリウム19.86g(0.287mol)、アセトン116gを仕込み、撹拌しながら2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノールを滴下して加えた。その後50℃に昇温した後、反応溶液に炭酸カリウム4.32g(0.062mol)と2,2,2−トリフルオロエタノール10.94g(0.219mol)を加えて反応した。反応終了後、放冷した後濾過して無機塩を除き、濃縮、乾燥して目的化合物を37.8g(収率97.6%)で得た。
フタロシアニン化合物(B−4):(CFCFCFCHO)(CFCHO)Pc(Cu)の合成
反応容器に中間体(CFCFCFCHO)(CFCHO)PNを19.36g(0.031mol)、塩化銅(I)を0.77g(0.008mol)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを48.4g仕込み160℃に加熱した。反応終了後にメチルセロソルブを31g加えて、濾過して不溶成分を除いた。反応液をヘキサン199gにゆっくりそそいで、フタロシアニンを溶媒と分離した。上澄み液を除き、ヘキサンを入れてフタロシアニンを洗浄した後、真空乾燥機で乾燥した。収量6.86g(収率34.5%)で目的のフタロシアニン(CFCFCFCHO)(CFCHO)Pc(Cu)を得た。
(合成例5)フタロシアニン化合物(B−5):((CFCHO)(CFCHO)Pc(Cu)の合成
フタロシアニン化合物(B−5)の中間体:((CFCHO)(CFCHO)PNの合成
反応容器にテトラフルオロフタロニトリル40.02g(0.200mol)、炭酸カリウム138.19g(1.000mol)、アセトン250gを仕込み、撹拌しながら1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールを33.61g(0.200mol)滴下して加えた。その後50℃に昇温した後、2,2,2−トリフルオロエタノール70.02g(0.700mol)を加えて反応した。反応終了後、放冷した後濾過して無機塩を除き、濃縮、乾燥して目的化合物を109.31g(収率92.9%)で得た。
フタロシアニン化合物(B−5):((CFCHO)(CFCHO)Pc(Cu)の合成
反応容器に中間体((CFCHO)(CFCHO)PNを19.35g(0.033mol)、塩化銅(I)を0.81g(0.008mol)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを48.4g仕込み160℃に加熱した。反応終了後にメチルセロソルブを31g加えて、濾過して不溶成分を除いた。反応液をメタノール199gと水40gの混合液にゆっくりそそいで、フタロシアニンを析出させた。濾過した後、真空乾燥機で乾燥した。収量8.00g(収率40.3%)で目的のフタロシアニン((CFCHO)(CFCHO)Pc(Cu)を得た。
≪樹脂組成物の製造方法≫
製造例1(脂環式ポリイミドのジメチルアセトアミド溶液)
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸(東京化成製、純度98%、Mw 260.20)5部と無水酢酸(和光純薬社製)44部とを、フラスコに仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶剤の還流温度まで昇温し、10分間溶剤を還流させた。攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して目的物(1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)の結晶を得た。温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えたフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和光純薬社製、Mw 200.24)8.9部と、溶剤としてジメチルアセトアミド76部を仕込んで溶解させた後、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(Mw 224.17)10部を室温にて、固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。共沸脱水剤としてトルエンを26部添加して、130℃で3時間反応を行い、ディーンスタークで還流して共沸する生成水を分離した。194℃に昇温しながらキシレンを留去した後、冷却しポリイミドのジメチルアセトアミド溶液を得た(20重量%のポリイミド溶液)。
製造例2(ポリアミド酸のN−メチルピロリドン溶液)
1000mL容の三つ口フラスコに、ジアミン化合物として1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(Mw 292.33)8.9部と、酸二無水物として4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(Mw 444.24)13.6部と、溶媒としてN−メチルピロリドン128部とを加えた。この混合液を窒素雰囲気中、室温で攪拌して均一溶液とした後、さらに4日間静置することによって、ポリアミド酸溶液を得た(15重量%のポリアミド酸溶液)。
製造例3(アクリビュアのジメチルアセトアミド溶液)
主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂として、日本触媒製アクリビュアを使用した。アクリビュア7.5部をジメチルアセトアミド22.5部と混合、撹拌することにより、アクリビュアのジメチルアセトアミド溶液とした(25重量%のアクリビュア溶液)。
≪基板の表面処理≫
基板として、ガラス基板(並板硝子(1.0mmx60mmx60m、糸面取、門落し))、ステンレス基板(SUS316 日本テストパネル工業株式会社)を用いて、以下の方法で基板の表面処理を行った。
表面処理方法:シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製 lot.0007011044) IPA5%溶液をスピンコートにて基板表面上に塗布した後、ホットプレートで200℃、10分間熱処理した。
以下、表面処理を行っていないガラス基板をガラス基材(1)、上記表面処理を行ったものをガラス基板をガラス基材(2)、表面処理を行っていないステンレス基板をステンレス基材(1)、上記表面処理を行ったステンレス基板をステンレス基材(2)と称する。
≪塗布用樹脂組成物の調製方法と評価≫
実施例1
上記製造例1の脂環式ポリイミドのジメチルアセトアミド溶液をジメチルアセトアミドで2倍に希釈した。得られた10重量%濃度の脂環式ポリイミドのジメチルアセトアミド溶液を樹脂溶液として19部、フタロシアニン化合物(B−1)(CFCHO)ClPc(Cu)0.1部を混合して、固形分中、色素濃度5重量%の塗布用樹脂組成物を調製した。この組成物を、ガラス基材(2)上にスピンコート法により塗布し、熱風乾燥機で150℃の温風で20分乾燥することで塗布膜を得た。この塗布膜について、下記の方法により水の接触角を測定した。
<接触角の測定>
接触角は、協和界面化学社製の接触角計「CA−X」により水の接触角を測定した。
具体的には、接触角計[CA−X型接触角計、協和界面科学(株)製]を用い、乾燥状態(23℃/60%RH)で、液体として純水を使用して約2μLの液滴を針先に作り、これをフィルムの表面に接触させてフィルム上に液滴を作った。フィルムと液体とが接する点における、液体表面に対する接線とフィルム表面がなす角で、液体を含む側の角度を接触角とする。
得られた塗布膜の水の接触角は、99°であった。また、得られた塗布膜は均一であり、平滑性が高く、基材に対してレベリング性を付与することができた。
実施例2〜4
基板を表1に記載のものに変更した以外は実施例1と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布膜を形成し、塗布膜の水の接触角を測定した。結果を表1に示す。
実施例5
樹脂溶液として、上記製造例2のポリアミド酸のN−メチルピロリドン溶液を用いて、フタロシアニン化合物、フタロシアニン化合物の濃度を表1のように変更した以外は実施例1と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物を用いて、この組成物を、ガラス基材(1)上にバーコーター法により塗布し、熱風乾燥機で150℃の温風で20分乾燥することで塗布膜を得た。塗布膜の水の接触角を測定したところ、92°であった。
実施例6〜9
樹脂溶液として、ポリアミド酸の濃度が20重量%となるようにN−メチルピロリドンの添加量を変えた以外は、上記製造例2のポリアミド酸のN−メチルピロリドン溶液と同様にして、20重量%のポリアミド酸のN−メチルピロリドン溶液を得た。当該20重量%のポリアミド酸のN−メチルピロリドン溶液を用いて、フタロシアニン化合物の濃度、基板を表1のように変更した以外は実施例1と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布膜を形成し、塗布膜の水の接触角を測定した。結果を表1に示す。
実施例10〜12
樹脂溶液として、上記製造例3のアクリビュアのジメチルアセトアミド溶液を用いて、フタロシアニン化合物、フタロシアニン化合物の濃度、基材を表1のように変更した以外は実施例1と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物をガラス基板上に、実施例1と同様にして、スピンコート法により塗布、熱風乾燥機で乾燥することで塗布膜を得た。得られた塗布膜の水の接触角を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
比較例1
フタロシアニン化合物(B−1)(CFCHO)ClPc(Cu)を添加せず、基材を表1のように変更した以外は実施例1と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物を、ガラス基材(1)上にバーコーター法により塗布し、熱風乾燥機で150℃の温風で20分乾燥することで塗布膜を得た。塗布膜の水の接触角を測定したところ、68°であった。
比較例2
フタロシアニン化合物(B−1)(CFCHO)ClPc(Cu)の代わりに、下記式で表される(2,5ClPhO)(2,6MePhO)FPc(Zn)(フタロシアニン骨格のひとつの構造単位において、β位に「(2,5ClPhO)基」、α位に「(2,6MePhO)基」および「F原子」が置換した化合物)を色素として用いて、フタロシアニン化合物の濃度、基材を表1のように変更した以外は実施例1と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物を用いて、比較例1と同様にして塗布膜を形成し、塗布膜の水の接触角を測定したところ、87°であった。
比較例3
フタロシアニン化合物(B−1)(CFCHO)ClPc(Zn)を添加しない以外は実施例5と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物を用いて、実施例5と同様にして塗布膜を形成し、塗布膜の水の接触角を測定したところ、76°であった。
比較例4
フタロシアニン化合物(B−1)(CFCHO)ClPc(Cu)を添加しない以外は実施例10と同様に行い、塗布用樹脂組成物を調製した。得られた塗布用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして塗布膜を形成し、塗布膜の水の接触角を測定したところ、68°であった。
実施例13(塗布用樹脂組成物の保存安定性)
上記実施例1の塗布用樹脂組成物を24時間室温(25℃)下で放置した後、ガラス基板(ガラス基材2)上にスピンコート法により塗布、熱風乾燥器で150℃の温風で20分乾燥することで塗布膜を得た。塗布膜の水の接触角を測定したところ、98°であった。
比較例5(塗布用樹脂組成物の保存安定性)
上記製造例2のポリアミド酸のN−メチルピロリドン溶液5.0gに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散液(40重量%)1.3gを加えて、あわとり錬太郎(自公転式回転撹拌装置、商品名、シンキー社製)で分散させ、ポリアミド酸/PTFE混合液を調製し、塗布用樹脂組成物を得た。塗布用樹脂組成物を24時間室温下で放置した後、塗布用樹脂組成物を用いてガラス基材1上に実施例2と同様にして塗布を行った。しかしながら、塗布用樹脂組成物は、液の底にPTFEが凝集して沈降しており、均質な塗布膜を得ることができなかった。塗布膜の水の接触角を測定しようとしたが、基板上で塗布物がはじかれて基板があらわになっている部分や、明らかにPTFEの凝集物と推定される塊が生成しており、接触角を測定できる状態にはなかった。
実施例1〜13および比較例1〜5の構成および評価結果を表1に示す。
以上のように、本発明のフタロシアニン化合物を含む組成物を塗布した塗布膜の接触角は80°以上であり、撥水性に優れていることがわかる。上記結果から、本発明のフタロシアニン化合物は、高い防汚性を発揮すると考察される。また、本発明のフタロシアニン化合物を含む組成物を塗布した塗布膜は均一であり、レベリング向上剤としても好適であることがわかる。
さらに、実施例13の結果より、調製後に時間が経過した表面改質剤を用いて塗布膜を形成しても、塗布膜の優れた撥水性が維持されることが示された。これより、本発明のフタロシアニン化合物を含む組成物は安定性に優れていることがわかる。

Claims (6)

  1. 下記式(1):

    式中、
    Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリールオキシ基、または置換基を有してもよいアリールチオ基を表し;
    Yは、それぞれ独立して、−OCHCQを表し、Qは、フッ素原子、塩素原子または水素原子を表し;
    Zは、それぞれ独立して、式:−A−Bで表される基を表し、Aは酸素原子または硫黄原子を表し、Bは、炭素数3〜10のフッ素原子を含む飽和炭化水素基、塩素原子を含む飽和炭化水素基、または飽和炭化水素基を表し;
    YまたはZの少なくともひとつがフッ素原子または塩素原子を含み;
    mは、0〜15の整数であり、nは、〜15の整数であり、pは、0〜16の整数であり、m+n+pは16であり;
    Mは、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物、またはアルキルオキシ基置換金属を表わす、
    で示されるフタロシアニン化合物。
  2. 下記式(2):

    式中、
    Xは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリールオキシ基、または置換基を有してもよいアリールチオ基を表し;
    Yは、それぞれ独立して、−OCHCQを表し、Qは、フッ素原子、塩素原子または水素原子を表し;
    Zは、それぞれ独立して、式:−A−Bで表される基を表し、Aは酸素原子または硫黄原子を表し、Bは、炭素数3〜10のフッ素原子を含む飽和炭化水素基、塩素原子を含む飽和炭化水素基、または飽和炭化水素基を表し;
    YまたはZの少なくともひとつがフッ素原子または塩素原子を含み;
    mは、0〜15の整数であり、nは、〜15の整数であり、pは、0〜16の整数であり、m+n+pは16であり;
    Mは、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物、またはアルキルオキシ基置換金属を表わす、
    で示されるフタロシアニン化合物と樹脂とを含む組成物。
  3. 表面改質剤である、請求項2に記載の組成物。
  4. 前記表面改質剤が、撥水剤、防汚剤、またはレベリング向上剤である、請求項3に記載の組成物。
  5. 前記フタロシアニン化合物が、組成物の固形分の全重量に対して0.1〜25重量%で含まれる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の組成物。
  6. 基材と;
    請求項2〜5のいずれか1項に記載の組成物により形成される表面改質層と;
    が、この順で積層されてなる、積層体。
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