JP6539972B2 - 鋼板のレーザ溶接方法、及び溶接構造体の製造方法 - Google Patents
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最近は、スポット溶接に代えてレーザ溶接を適用することで、ハット型部材のフランジ幅を狭くして部材を軽量化する検討がなされている。具体的には次の通りである。
例えば「安藤弘平ら、「回転変形による高温割れの発生進展機構と高温割れ感受性の評価方法−薄板アルミニウム合金の高温割れ現象(第2報)−」、溶接学会誌、第42巻、第9号、pp.37−47(1973)」等によれば、溶接時の凝固割れは、溶融した金属が凝固する過程において、固相と液相が共存する延性が低下した部分である凝固脆性温度領域(Brittleness Temperature Range(BTR))内において、溶融熱で鋼板端部(ハット型部材では、フランジ)が変形することにより生じるひずみの増分が、割れ発生に要するひずみ(以下、「限界ひずみ」という)を超えることで生じる、と考えられる。これを鑑みると、凝固割れの防止方法として、溶接金属の成分適正化によるBTRの縮小や限界ひずみの制御、及び鋼板端部に発生するひずみの抑制が挙げられる。ところが、溶接金属の成分適正化によるBTRの縮小や限界ひずみの制御については、鋼板の材料自体を調整する必要がある。鋼板の材料自体の調整は、他の性能に影響を与えることもあるので、対策としては限界がある。
しかしながら、このように冶具を用いると、溶接の際に鋼板端部の膨張を抑制する装置(冶具)を配置する必要があり、小さな部材や複雑な形状の部材の溶接部には用いることができないとともに、溶接の作業工数が増加して煩雑になってしまう。
しかしながら、フランジ端面を冷却すると溶接線との温度差が大きくなり回転変形の駆動力が大きくなることで、溶接条件によってはひずみが大きくなり割れ発生を助長するおそれもある。さらには、この方法では上記と同様に冷却装置の配置に留意しなければならず、作業工数が増加するおそれがある。
フランジ幅が大きく、溶接位置がフランジ端から距離が大きいほど、剛性が高く、フランジの変形(回転変形)及びそれにより受けるひずみは抑制される。しかしながら、単にフランジ幅を大きくするのでは、前述したような部材の軽量化には反する。
鋼板の板幅方向に温度分布の不均一があるとき、回転変形の駆動力が働くことはよく知られているが、この回転変形が割れの原因となると考えられる。すなわち、図6(a)に示すように板1のAからBへ溶接を行うと、板幅方向に不均一な温度分布を生じるため、板1は溶融池Yの前方点Pを支点として矢印Cの方向に回転変形を生じる。溶接部の脆化領域の強度はきわめて小さいため、脆化領域部分の溶接金属はこの回転変形をほとんど抑制できない。この回転変形によって脆化領域部分に加えられるひずみ量が限界ひずみ量を超えるとき割れが発生する。その後溶接が進行すると、図6(b)に示すように溶融池Yも進行し、回転変形の支点もそれに追随して点P’に移動する。このとき、温度分布が準定常状態にあると、脆化領域部に加えられるひずみ量は時間的に一定と考えられ、この場合割れは図6(b)に示すように溶接線に沿って進展する。
一方、溶接速度が遅い場合は、板幅方向の温度分布は均一化しやすくなり回転変形の駆動力は小さくなる。しかし、単に溶接速度を下げるのでは、部材の生産性が悪くなり、板幅を小さくするのでは、剛性が落ちるため発生するひずみを抑制できず凝固割れが発生する可能性が高くなる。
ハット型部材11は、鋼板から形成されており金属板部材の1つである。ハット型部材11は、その長手方向に直交する断面においてウェブ片11a、ウェブ片11aの両端から延びる壁片11b、及び壁片11bの端部に設けられるフランジ11cを有していわゆるハット型に形成されている。そしてフランジ11cには、その幅方向端部に、初期残留塑性ひずみが他の部位(平坦部)より大きい(増大させている。)、初期残留塑性ひずみ増大部11dが配置されている(図2ではハッチングで示している部分。)。
ここで「残留塑性ひずみ」とは、材料に外力(荷重)を加えていない状態において材料中に残留している塑性ひずみを意味し、「初期残留塑性ひずみ」は、残留塑性ひずみのうち溶接前に存在する残留塑性ひずみである。
また、初期残留ひずみ増大部11dは、後述する溶接部13からフランジ11cの端部までの幅方向距離(図2のIIaの大きさ)を100%としたとき、初期残留塑性ひずみ増大部11dがそのうちの60%以上100%以下の範囲で占めることが好ましい。
ここで残留塑性ひずみは公知の方法で測定して特定することができる。これには例えば硬さ測定法、X線回折法が挙げられる。硬さ測定法の場合には予め硬さと残留塑性ひずみとの関係を得ておき、この関係に基づいて残留塑性ひずみを特定する。硬さ測定の種類は特に限定されることなく例えばビッカース硬さ測定、ブリネル硬さ測定、及びロックウェル硬さ測定等を挙げることができる。
溶接部13はレーザ溶接により形成されており、フランジ11cの長手方向に沿って延びている。本発明は溶接部13を形成するための溶接方法において、図2にIIaで示したフランジ11cの端部から溶接部13までの距離を従来のレーザ溶接に対して短くしつつ速い速度で溶接しても割れを抑制することができ、その結果、図2にIIbで示したフランジ11cの幅をスポット溶接の場合よりも小さくすることが可能となる。特に限定されることはないが、図2に示したようにフランジ11cの幅IIbを15mm以下程度に、初期残留塑性ひずみ増大部11dを除けば10mm以下程度に抑えることが可能となる。
また、ハット型部材11の形状は、実際の用途に応じて、長手方向にまっすぐであるものもあればカーブしているものもあり、あるいは断面形状が長手方向に変化しているものもあるが、本発明はそのいずれにも適用してよい。また、クロージングプレート12に代えて、他のハット型部材やその他の形状の金属板部材と溶接してもよい。あるいは、3つ以上の金属板部材を重ね合わせて溶接されるような溶接構造体にも適用できる。
初期残留塑性ひずみ増大部31は、図2に示した形状とし、他の部位に比べて端部から4mmの範囲に形成した。より詳細には、端部から2mm幅の領域で初期残留ひずみが30%高く、残り2mm幅の領域で初期残留ひずみが20%高くなる初期残留塑性ひずみ増大部とした。
一方、比較例は実施例と同形状としつつ、初期残留塑性ひずみ増大部を形成しなかった。
11 ハット型部材(金属板部材)
11c フランジ
11d 初期残留塑性ひずみ増大部
12 クロージングプレート(金属板部材)
13 溶接部
Claims (5)
- 鋼板から形成された複数の金属板部材を重ね合わせて当該重ね合わせ部でレーザ溶接する、鋼板のレーザ溶接方法であって、
前記重ね合わせた金属板部材のうち少なくとも1つの金属板部材について、溶接線となるべき線を挟んで一方側と他方側の部位のうち、前記線から端面までの距離が短い一方側の部位の端部を溶接前に冷間加工により加工硬化させることで、初期残留塑性ひずみを増大させ、前記線に沿ってレーザを照射して溶接を行う、鋼板のレーザ溶接方法。 - 前記他方側の部位の初期残留塑性ひずみも増大させる、請求項1に記載の鋼板のレーザ溶接方法。
- 前記初期残留塑性ひずみを増大させる部位は、初期残留塑性ひずみを増大させない部位に対して20%以上残留ひずみを増大させる請求項1又は2に記載の鋼板のレーザ溶接方法。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼板のレーザ溶接方法によりレーザ溶接する工程を含み、前記金属板部材の少なくとも一つは断面がハット型の長尺の部材であり、当該部材のフランジの端部の初期残留塑性ひずみを増大させ、前記フランジと他の金属板部材とを重ね合わせてレーザ溶接する、溶接構造体の製造方法。
- 前記初期残留塑性ひずみを増大させた範囲から10mm以下の領域に、フランジの長手
方向に沿って前記溶接線を形成する、請求項4に記載の溶接構造体の製造方法。
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JP2014203829A JP6539972B2 (ja) | 2014-10-02 | 2014-10-02 | 鋼板のレーザ溶接方法、及び溶接構造体の製造方法 |
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