JP2006218500A - 薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板およびその溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 レーザー突合せ溶接薄鋼板のうち、特に素材の引っ張り強度が1000MPa以上の超々高張力鋼板において、プレス成型中のHAZ軟化部での破断を起因とする成型性の問題を解決し、これまで困難であった、超々高張力鋼板のテーラードブランクへの適用を可能ならしめると共に、その製造コストを低減せしめること。
【解決手段】 溶接鋼板の溶接部近傍の熱影響軟化部の幅が、板厚の25%以下で、かつ、少なくとも一方の母材の引張強度が780MPa以上であることを特徴とする薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板であり、溶接速度を毎分8m以上の超高速度で溶接することを特徴する。
【選択図】 図2
【解決手段】 溶接鋼板の溶接部近傍の熱影響軟化部の幅が、板厚の25%以下で、かつ、少なくとも一方の母材の引張強度が780MPa以上であることを特徴とする薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板であり、溶接速度を毎分8m以上の超高速度で溶接することを特徴する。
【選択図】 図2
Description
本発明は、突合せ溶接された薄鋼板に関するものであり、更に詳しくは、レーザー光線により複数の鋼板を接合して製造される溶接薄鋼板のうち、プレス等の塑性加工に供されるためのレーザー突合せ溶接薄鋼板およびその溶接方法に関するものである。
近年、レーザー光線により複数の鋼板を事前に突合せ接合し、その鋼板(所謂テーラードブランク)をプレス成型等の塑性加工による二次加工にて所望の形状に成型する技術の適用が、自動車向けとして一般化しつつある。異種または異厚の鋼板をプレス成型以前に接合し、一枚の鋼板としてプレスを行えば、製品の部分的な補強や軽量化を促す効果がある。また同様に自動車部品の強度向上や軽量化を目的とした高張力鋼板の適用も増えつつあるが、これらの効果の相乗発揮を目的に高張力鋼板を用いたテーラードブランク材も増加しつつある。
レーザー溶接を用いれば、マッシュシームなどの抵抗溶接やプラズマ溶接に比して、溶接部近傍の熱影響による軟化部や、熱歪を小さくすることができるため、プレス成型性には有利である。
例えば、板厚4〜20mmで引っ張り強度が400〜700MPa程度の鋼板を、鋼板表面および裏面のそれぞれから板厚方向に板厚の5%以上までの範囲において、平均円相当径で3μm以下の細粒フェライト組織を有し、溶接部の熱影響部の幅が1.6mm以下であるレーザー溶接継ぎ手を備えた構造物として、機械的特性を向上させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。
熱影響部での軟化部は、引っ張り強さが低い鋼板の溶接品に比較して、引っ張り強さが高い高張力鋼の溶接品において顕著に現れ、特にプレスによる溶接シームの直角方法への引っ張りが大なるような場合には、この熱影響による軟化部(以下HAZ部)において破断を引き起こすことが報告されている(例えば、非特許文献1および2参照)。
このHAZ部は、特に二相組織型などの変態強化型の高張力鋼板において顕著である。これは高張力鋼板中のマルテンサイト組織が溶接熱により焼き戻されるからである。このような高張力鋼板は、引っ張り強度が高いほど組織中のマルテンサイトの比率が大きいため、とくに引っ張り強度800MPa以上の超高張力鋼板でHAZ軟化部が顕著に観察され、引っ張り強度1000MPa以上の超々高張力鋼板ではプレス成型性が極端に悪化する問題があった。
通常レーザー溶接においてのHAZ軟化幅は、板厚と同程度の幅を持ち、特に、超高張力鋼板においてのHAZ軟化幅は、板幅と同程度以上存在することが通常で、例えば、高速溶接化に関する技術論文では、最新の技術を持ってしてもHAZ軟化幅3.0m程度の溶接が限界でることが示されている(例えば、非特許文献3参照)。これまで超高張力鋼板でのHAZ軟化部に起因する成形性悪化の対策としては、低強度の材料を使用することで妥協するか、高価な元素を添加した特殊な鋼材を使用するかしか方法が無かった。
このような理由から、従来超々高張力鋼をテーラードブランクへ適用する場合は成型性の観点から困難を伴うので、従来はテーラードブランク技術本来の目的である高強度化や軽量化を犠牲にしながらも、成型性に問題を来たさないレベルまで材料強度を下げるしか方法がなかった。
そこで、本発明の目的は、レーザー突合せ溶接薄鋼板のうち、特に素材の引っ張り強度が1000MPa以上の超々高張力鋼板において、プレス成型中のHAZ軟化部での破断を起因とする成型性の問題を解決し、これまで困難であった、超々高張力鋼板のテーラードブランクへの適用を可能ならしめると共に、その製造コストを低減せしめることを目的とする。
前記課題を解決するため、本発明者は、超高張力鋼板においてもプレス加工時にHAZ部からの割れを回避できる技術について鋭意研究し、その結果、HAZ軟化部を、母材硬さより低い部分であると定義するとき、その幅が母材板厚の25%以下(1/4以下)であるときHAZ部からの破断を防止することが可能であり、HAZ軟化部の幅を母材板厚の25%以下とするにはレーザー溶接プロセスと組み合わせることで達成できることを見出して本発明を完成した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板であって、溶接鋼板の溶接部近傍の熱影響軟化部の幅が、板厚の25%以下で、かつ、すくなくとも一方の母材の引張強度が780MPa以上であることを特徴とする薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板
(2)上記(1)記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法において、溶接速度を毎分8m以上の速度で溶接することを特徴とする薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
(2)上記(1)記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法において、溶接速度を毎分8m以上の速度で溶接することを特徴とする薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
(3)炭酸ガスレーザー発振機出力をP(W)、母材板厚の厚い側の板厚をT(mm)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/(TV)が、280〜570となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、上記(2)に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
(4)YAGレーザー発振機出力をP(W)、母材板厚の厚い側の板厚をT(mm)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/(TV)が、190〜290となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、上記(2)に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
(5)板厚0.5乃至2.0mmの薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法であって、炭酸ガスレーザー発振機出力をP(W)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/Vが、210〜1000となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、上記(2)または(3)に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
(6)板厚0.5乃至2.0mmの薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法であって、YAGレーザー発振機出力をP(W)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/Vが、95〜490となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、上記(2)または(4)に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
本発明によれば、レーザー突合せ鋼板のうち、特に素材の引っ張り強度が780MPa以上の超々高張力鋼板において、プレス成型中のHAZ軟化部での破断を起因とする成型性の問題を解決でき、これまで困難であった、超々高張力鋼板のテーラードブランクへの適用を可能ならしめると共に、その製造コストを低減せしめることが可能となる。
以下図を参酌して本発明を詳細に説明する。
図1は薄鋼板のレーザー突合せ溶接プロセスの俯瞰図である。
薄鋼板のレーザー突合せ溶接では、図1に示すように、突合せた薄鋼板1、薄鋼板2同士のギャップ部分にレーザートーチ3からレーザービーム5を溶接ゾーン7に照射し、レーザートーチを突合せ線に沿って溶接進行方向6に移動もしくは、固定されたレーザートーチに対し薄鋼板を溶接進行方向6に移動しながら、溶接ビード4を形成するものである。
薄鋼板のレーザー突合せ溶接では、図1に示すように、突合せた薄鋼板1、薄鋼板2同士のギャップ部分にレーザートーチ3からレーザービーム5を溶接ゾーン7に照射し、レーザートーチを突合せ線に沿って溶接進行方向6に移動もしくは、固定されたレーザートーチに対し薄鋼板を溶接進行方向6に移動しながら、溶接ビード4を形成するものである。
図3はレーザーにより突合せ溶接された薄鋼板の、溶接部近傍の断面図である。この図3のように、溶接部近傍は、溶接ビード部4とその周りの母材部が熱影響により軟化された熱影響軟化部8、その外側の母材部分9に分けられる。
レーザー溶接を用いれば、マッシュシームなどの抵抗溶接やプラズマ溶接に比して、溶接部近傍の熱影響による軟化部や、熱歪を小さくすることができるため、プレス成型性には有利である。この熱影響部による軟化部は、高張力鋼の溶接品において顕著に現れ、特にプレスによる溶接シームの直角方法への引っ張りが大なるような場合には、この熱影響による軟化部(以下HAZ部)において破断を引き起こす。このHAZ部は、特に二相組織型などの変態強化型の高張力鋼板において顕著である。これは高張力鋼板中のマルテンサイト組織が溶接熱により焼き戻されるからである。このような高張力鋼板は、引っ張り強度が高いほど組織中のマルテンサイトの比率が大きいため、とくに引っ張り強度800MPa以上の超高張力鋼板でHAZ軟化部が顕著に観察され、引っ張り強度1000MPa以上の超々高張力鋼板ではプレス成型性が極端に悪化する問題があった。
このような理由から、従来超々高張力鋼のテーラードブランクへの適用は成型性の観点から困難を伴うので、従来はテーラードブランク技術本来の目的である高強度化や軽量化を犠牲にしながらも、成型性に問題を来たさないレベルまで材料強度を下げるしか方法がなかった。
この問題を解決するためには、プレス成型上ネックとなるHAZ部の生成を無くすることによりその目的を達成できる。一般的に極低炭素鋼板では、HAZ部の生成を無くすることが可能であるが、本発明の解決しようとする課題を解決するための手段にはならない。そこで、発明者らは例えHAZ部が存在しても、溶接の組織変態によりマルテンサイト化された溶接部シーム部近傍であり、なおかつHAZ部の幅が小さければ、高強度な溶接シーム部が、プレス加工時におけるHAZ部での塑性変形を制限し、HAZ部での縊れ現象を防止し、HAZ部からの板破断を防止できるのではないかと仮定し、種々解析および実験を行った結果、超高張力鋼板においてもプレス加工時にHAZ部からの割れを回避できる技術を発明した。また、レーザー溶接プロセスでは、溶接プロセスにおける母材の溶融が極短い範囲で完了されるため、溶接後溶接シーム部が焼き入れされ、マッシュシーム溶接や、プラズマ溶接に比べて溶接シーム部の強度が高いため、本技術はレーザー溶接プロセスと組み合わせることで、成立することが出来る。その指標としては、HAZ軟化部の幅で整理することが可能である。
HAZ軟化部を、母材硬さより低い部分であると定義するとき、その幅が母材板厚の25%以下(1/4以下)であるときHAZ部からの破断を防止することが可能である。
溶接ビード近傍にHAZ軟化部を持つテーラードブランク材にプレス加工を行うと、溶接方向と垂直方向への引っ張りにより、HAZ軟化部の板厚が薄くなるくびれが発生する。一旦板厚が薄くなるとその部分の断面積が減少するためその部分の応力が大きくなり、加速度的にこの部分に歪が集中し、最終的にはこの部分を起点にしてワレが発生する。そのためHAZ軟化部を持つテーラードブランク材はプレス加工時に極端に成型性が悪化する。HAZ軟化部の幅が小さいほど成型性が良くなる理由は、たとえHAZ軟化部が存在しても、その幅が小さい場合には、その周りの熱影響を受けない健全な母材やレーザー溶接により硬度が上がり変形しにくくなった溶接ビード部が、HAZ部の変形を拘束し、この部分の板厚減少を起こしにくくさせるからである。
このメカニズムによれば、これまでの従来知見で議論されていたような絶対的なHAZ軟化部の幅ではなく、その板厚とHAZ軟化部の幅の比率により、HAZ軟化部の変形拘束力が決定されることがわかった。たとえ全体的なHAZ軟化部の幅が広くても、板厚が比較的大きい場合には板厚方向の拘束力も大きくなり、HAZ軟化部での板厚減少を起こしにくい。逆に絶対的なHAZ軟化幅が狭くても板厚が比較的に小さい場合には板厚方向の拘束力も小さくなりHAZ軟化部での板厚減少を起こしやすい。また一旦HAZ部で板厚が薄くなったときのHAZ部での応力集中係数も、板厚とHAZ軟化部の幅とで整理可能で、HAZ軟化幅が板厚と同等であったときの応力集中による応力増分代は100としたときに、HAZ部軟化の幅が板厚の50%のときには40、25%の時には15と、劇的に低下させることが可能である。
次に、溶接材料を超高強度鋼板としつつ、材料の変更無しにこの極狭いHAZ軟化幅に制限することを実現するための技術を発明した。通常レーザー溶接においてもHAZ軟化幅は板厚と同程度の幅を持ち、超高張力鋼板においてHAZ軟化幅は通常板幅と同程度以上存在することが通常で、その対策は放置されてきた。これを防止するためには前述したように低強度の材料を使用することで妥協するか、高価な元素を添加した特殊な鋼材を使用するかしか方法が無かった。本発明によれば、溶接速度を毎分8m以上とすることで、所望のHAZ軟化幅に押さえることが可能である。又このような超高速溶接においては、HAZ部の低減とともに、生産性も著しく向上するため大幅なコストダウンもあわせて可能となる。
高速溶接の最新の技術を持ってしてもHAZ軟化幅3.0m程度の溶接が限界であった。高速溶接を実現するためには、溶接熱源の大容量化すなわちレーザー発振機の大出力化が必要となってくる。しかしレーザー発振機のエネルギー効率は10〜30%と低く、その発振出力に比例して電力代が膨大になり、本発明のような超高速溶接では電力コストが嵩むと言う問題もあった。出来る限り低レーザー出力で溶接することが好ましいが、低レーザー出力では高速溶接の場合、レーザービームが板を貫通せずに十分な溶融ビードを形成することが出来ずに、未溶接部を残した状態となるため、溶接部の強度が低下する。この低レーザー出力での超高速溶接という相反する2つの技術的困難を解決するためには、炭酸ガスレーザー発振機出力をP(W)、母材板厚の厚い側の板厚をT(mm)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/(TV)が、280〜570、好ましくは320〜550となるように、レーザー発信機出力を制御すると、低出力での超高速溶接が可能となることを発見した。
本発明者らの研究結果によれば、鋼板の高速での炭酸ガスレーザー溶接において、レーザーパワーをP(W)、鋼板上でのレーザービーム有効径D(mm)、溶接速度V(mm毎秒)、板厚をT(mm)とするときの、各パラメータの最適条件は、P/(D*V*T)=85.6(J/mm3)であることが判った。図9にそのときのP/DTVと、溶接良否判定の試験結果を示す図である。試験は板厚0.5〜2.0mmの範囲で、溶接速度は毎分4〜12mの範囲、レーザービームの鋼板上での有効径は0.25〜0.37mmの範囲で試験を行った。なお当該数値P/(DVT)の単位は(J/mm3)で、被溶接部の単位体積辺りの投入熱量を意味している。この試験から明らかなように、レーザー溶接プロセスにおける溶接可能となる各種パラメータはP/(DTV)で整理できることが今回明らかとなった。又、ここで炭酸ガスレーザーの鋼板上でのレーザービーム有効径は0.2〜0.4mmであるので、P/(TV)は280〜570の範囲が最適である。
図7はレーザービーム有効径0.25mmの場合のP/TVと、電力コスト、溶接良否判定実験結果を示す図であり、板厚は0.5〜2mmのものである。横軸はP/(VT)であり、縦軸は溶接単位長さおよび単位板厚辺りの電力コスト指数である。この場合、P/(VT)は320以上である必要があるが、大きくしすぎると電力コストが嵩むため、溶接コストの最適なP/(VT)の値は320程度であるといえる。また、同様に図8はレーザービーム有効径0.37mmの場合のP/TVと、電力コスト、溶接良否判定の実験結果を示す図であるが、同様にP/(VT)の溶接コストの最適値は550程度であることが判った。同様にYAGレーザーによる実験も行い、その場合P/(TV)が190〜290の条件が最適であることがわかった。
また、板厚0.5〜2.0mmの薄鋼板を炭酸ガスレーザーで突き合せ溶接する場合には、板厚を変数とすることなしに、P/Vが210〜1000の範囲となるように、炭酸ガスレーザー発信機出力P(W)及び溶接速度V(m/分)を制御すればよく、そして、同様に、板厚0.5〜2.0mmの薄鋼板をYAGレーザーで突き合せ溶接する場合には、板厚を変数とすることなしに、YAGレーザー発信機出力P(W)及び溶接速度V(m/分)をP/Vが95〜490の範囲となるように、YAGレーザー発信機出力P(W)を制御すれば、成形性に悪影響を与えずに低出力での超高速溶接が可能となることが分かった。
以下本発明の実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
実施例における薄鋼板のレーザー突合せ溶接プロセスは、図1の薄鋼板のレーザー突合せ溶接プロセスの俯瞰図に示すように、突合せた薄鋼板1及び2同士のギャップ部分にレーザービームを溶接ゾーン7に照射し、レーザートーチ3を突合せ線に沿って溶接進行方向6に移動もしくは、固定されたレーザートーチに対し溶接進行方向6に鋼板を移動しながら、溶接ビード4を形成するように溶接した。
図3はレーザーにより突合せ溶接された薄鋼板の、溶接部近傍の断面図である。この図のように、溶接部近傍は、溶接ビード部4とその周りの母材部が熱影響により軟化された熱影響軟化部8、その外側の母材部分9に分けられる。本発明の実施例として、板厚1.8mmの引張り強度1180MPaの高強度鋼板を炭酸ガスレーザーにより溶接を実施しエリクセン試験にて成型性を評価した。図2はその溶接部近傍の硬さ分布を調査した結果を示す図である。毎分10mの超高速度で溶接した鋼板近傍部から試験片を採取し、その板厚方向中心部の硬度を0.25mmピッチにて、ヴィッカース硬さを測定した。
図2から明らかなように、溶接ビード部はマルテンサイト化されておりその硬度はHv450程度であった。また、母材硬度は平均でHv360程度であるが溶接部近傍にHAZ軟化部が観察される。
次にHAZ軟化部の幅を測定するために次のような処理を行った。溶接ビード中心部から2mm以上外側の材料は、熱影響を受けていない部分として、母材の硬さの測定値データーばらつきを考慮し統計学的処理を施す。母材のベース硬度を平均値から標準偏差の3倍までの範囲とした。図2の例の場合、母材部分の平均硬度はHv361.6で、標準偏差は12.7であったので、母材のベース硬度下限はHv324、上限はHv400であった。HAZ軟化部の、溶接ビード側境界は、測定値がベース強度上限のHv400となる点とし、前後のデーターより直線的に内挿してその境界を求めた。HAZ軟化部と母材との境界線は、測定値がベース強度下限のHv324となる点とし、前後のデーターより直線的に内挿してその境界を求めた。この境界線間の距離を測定すると、この場合、図2の溶接ビード右側のHAZ部で0.42mm、左側で0.34mmであり、母材板厚との比はそれぞれ23%と18%であった。
この場合エリクセン試験値は6.7mmで、HAZ部からの割れも無く、成型性は良好であった。本例では溶接を毎分8m以上の超高速でおこなったために、HAZ部幅を板厚の25%と小さくすることが出来、結果的に成型性は良好となった(表1本発明例1)。なおレーザー出力は8000Wとセットし、溶接中は発振機内に設けた出力計測装置を用いて、目標の8000Wの誤差3%内でパーワー制御を行った。そのときP/TV値は444で、電力コストも良好であった。
その比較例として、図10に、通常の溶接速度4m毎分で実施したときの溶接部近傍の板厚中心付近での硬度分布を示す。この場合も同様に測定し、HAZ部の幅は、左右でそれぞれ0.44mmと0.47mmであり、母材板厚との比は、それぞれ24%と26%であった。この場合エリクセン試験時に、右側のHAZ部から破断して、エリクセン値は5.7mmと、大幅に悪化した(表1比較例3)。なおレーザー出力は4800Wとセットし、溶接中は発振機内に設けた出力計測装置を用いて、目標の4800Wの誤差3%内でパーワー制御を行った。そのときP/TV値は667で、電力コストは許容範囲を超えた。
このことから本発明によれば、低コストでHAZ軟化部を抑制し、製品の成型性向上を達成することが可能であった。このような試験を同じ鋼材で各種実施した結果を図4乃至6に示す。
図4はHAZ軟化幅の板厚比とエリクセン試験値の実験結果例を示す図である。この図から、HAZ軟化幅の板厚比を0.25以下(25%以下)とすれば、成型性良好なエリクセン値6mm以上の成型性を確保することができ、0.3程度以上では、HAZ部からの破断に起因して成型性は大幅に悪化する。
図5は溶接速度とHAZ軟化幅の板厚比との関係を示す図で、本発明によれば溶接速度が毎分8m以上の超高速溶接時に、HAZ軟化幅の板厚比を良好な25%以下にすることが出来た。
図6は図4及び図5の結果を総合的にまとめた溶接速度とエリクセン値の関係を示す図である。この図から明らかなように、溶接速度を毎分8m毎分以上の超高速溶接を行えば、良好な成型性を確保することが可能であることが確認できた。
表1は、これらの実験結果をまとめたものである。
溶接速度毎分8mで、炭酸ガスレーザー発振機出力4000Wとしたときには、P/TV値は277で、本発明範囲を下回っていたため十分な溶接ビードが形成されなかった(表1比較例1)。
溶接速度毎分2mで、レーザー発振機出力1600Wとしたときには、P/TV値は444で、十分な溶接ビードが形成されて、且つ電力コストも許容範囲内であったが、HAZ軟化部幅板厚比は25%を超え、成型性に問題があった。(表1比較例2)。
溶接速度毎分8mで、レーザー発振機出力8400Wとしたときには、HAZ軟化部幅板厚比は25%以下で、良好な成型性を示したが、P/TV値は583であり、十分な溶接ビードが形成されたが、電力コストが高くなりコスト上問題があった(表1比較例4)。
鋼板板厚を1.0mmとし、溶接速度毎分4mで、レーザー発振機出力3000Wとしたときには、HAZ軟化部幅板厚比は25%を超え、HAZ部からの破断に起因して成型性に大幅に悪化し、P/TV値は750で電力コストは許容範囲を超えた(表1比較例5)。
これに対して、溶接速度毎分8mで、レーザー発振機出力4000Wで行った本発明例では、エリクセン試験値は6.2mmで、HAZ部からの割れもなく、成型性は良好で、P/TV値は500で、電力コストも良好であった(表1、本発明例2)。
以上の実施例および比較例から、本発明で規定する条件を満たす溶接方法で製造したレーザー突合せ溶接薄鋼板は、プレス成型中のHAZ軟化部での破断が生ぜず良好なプレス成形性を示すことが確認できた。また、この鋼板は電力コストが嵩むことなく製造することができた。
1薄鋼板
2薄鋼板
3レーザートーチ
4溶接ビード部
5レーザービーム
6溶接進行方向
7溶接ゾーン
8熱影響軟化部
9母材部分
2薄鋼板
3レーザートーチ
4溶接ビード部
5レーザービーム
6溶接進行方向
7溶接ゾーン
8熱影響軟化部
9母材部分
Claims (6)
- 薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板であって、溶接鋼板の溶接部近傍の熱影響軟化部の幅が、板厚の25%以下で、かつ、すくなくとも一方の母材の引張強度が780MPa以上であることを特徴とする薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板。
- 請求項1記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接鋼板の溶接方法において、溶接速度を毎分8m以上の速度で溶接することを特徴とする薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
- 炭酸ガスレーザー発振機出力をP(W)、母材板厚の厚い側の板厚をT(mm)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/(TV)が、280〜570となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、請求項2に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
- YAGレーザー発振機出力をP(W)、母材板厚の厚い側の板厚をT(mm)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/(TV)が、190〜290となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、請求項2に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
- 板厚0.5乃至2.0mmの薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法であって、炭酸ガスレーザー発振機出力をP(W)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/Vが、210〜1000となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、請求項2または3に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
- 板厚0.5乃至2.0mmの薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法であって、YAGレーザー発振機出力をP(W)、溶接速度をV(m/分)とするときに、P/Vが、95〜490となるように、レーザー発信機出力を制御することを特徴とする、請求項2または4に記載の薄鋼板のレーザー突合せ溶接方法。
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2005
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