ところで、ヒーター装置の焼損や破損を防止するため、ヒーター装置には、通電時における耐用時間を越えて電流を流し続けることはできないが、寒冷時においては耐用時間いっぱいまでヒーター装置に通電しても、エンジンの予熱時間が不充分となることもある。その場合、燃焼室内の空気温度が低すぎて失火によりエンジン始動に失敗することがある。また仮に、最初のクランキング時における燃焼室内の初爆は成功しても、後続の燃焼サイクルにおいて予熱されていない冷たい給気が送り込まれると、後続の燃焼サイクルにおいて失火してしまい、エンジン始動に失敗したり、燃焼室内で発生する未燃燃料によりエンジンから白煙が出たりすることもある。
しかしながら、特許文献1および特許文献2では、ヒーター装置に耐用時間を越えて通電することができないという制限を克服してエンジンの予熱によりエンジン始動性を向上させるための工夫は開示も示唆もされていない。そこで、上記問題点に鑑み、本発明に係る幾つかの実施形態では、ヒーター装置に耐用時間を越えて通電することができないという制限を克服して、ヒーター装置によるエンジンの予熱効果を向上させ、それによりエンジンの始動性を向上させることが可能なエンジン始動補助装置を得ることを目的とする。
(1)本発明の幾つかの実施形態に係るエンジン始動補助装置は、
エンジンを予熱するヒーター装置と、
前記ヒーター装置の状態を報知する第1報知手段と、
前記ヒーター装置および前記第1報知手段を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
予熱開始指令を受信すると、第1期間に亘って前記ヒーター装置へ通電するとともに、前記第1期間の後、第2期間に亘って前記ヒーター装置が余熱状態にあることを報知するように前記第1報知手段に指示することを特徴とする。
上記(1)の構成によれば、コントローラは、予熱開始指令を受信すると、第1期間に亘ってヒーター装置へ通電するとともに、第1期間の後、第2期間に亘ってヒーター装置が余熱状態にあることを第1報知手段によって報知する。従って、ヒーター装置の通電終了後、第1報知手段からの報知に応じて運転者が一定期間にわたってエンジン始動を待つようにすれば、ヒーター装置の余熱によってヒーター装置の通電終了後もエンジンの予熱が継続される。その結果、ヒーター装置への通電時間を延長せずにエンジンの予熱効果を向上させることができるので、ヒーター装置に耐用時間を越えて通電することができないという制限を克服して、エンジンの始動性を向上させることができる。
(2)例示的な一実施形態では、上記(1)の構成において、前記エンジンを始動するためのスタータ装置と、
前記ヒーター装置および前記スタータ装置に対して電力を供給可能なバッテリと、をさらに備え、
前記コントローラは、エンジン始動指令を受信すると、前記スタータ装置へ通電するように構成されるとともに、前記バッテリから前記ヒーター装置および前記スタータ装置へは同時に通電しないように構成されることを特徴とする。
ヒーター装置およびスタータ装置は、通電時に大電流が流れ、消費電力が大きい装置であるので、バッテリからヒーター装置およびスタータ装置の両方に同時に通電すると、バッテリが急激に放電して干上ってしまう。そこで、上記(2)の構成では、エンジン始動指令に応じてバッテリからスタータ装置へ通電する際には、バッテリからヒーター装置およびスタータ装置の両方に同時に通電しないように構成されている。その結果、上記(2)の構成によれば、バッテリの急激な放電によるバッテリ寿命の短縮、バッテリの劣化もしくはバッテリの損傷を防止することができる。
(3)例示的な一実施形態では、上記(2)の構成において、前記エンジンにより駆動する発電機をさらに備え、
前記コントローラは、前記スタータ装置への通電の後、前記エンジンの始動により前記発電機において発電電圧確立が検出された後に、第3期間に亘って断続的に前記ヒーター装置に通電することで前記エンジンを再び予熱する再予熱処理を実施するように構成されていることを特徴とする。
上記(3)の構成では、コントローラは、スタータ装置へ通電し、エンジンが始動した後に、発電機において発電電圧確立が検出されると、第3期間に亘って断続的にヒーター装置に通電する。これにより、上記(3)の構成では、スタータ装置によるエンジン始動後にエンジンを再び予熱する再予熱処理を行う。その結果、上記(3)の構成によれば、最初のクランキング時における燃焼室内の初爆の後に、後続の燃焼サイクルにおいて予熱されていない冷たい給気が送り込まれても、初爆後の燃焼サイクルにおいてエンジンの予熱を断続的に継続することができる。
従って、上記(3)の構成によれば、エンジン始動後の燃焼サイクルにおいても燃焼室内の空気温度を可燃限界温度以上に維持することができる。そのため、上記(3)の構成によれば、最初のクランキング時における燃焼室内の初爆を補助するだけでなく、初爆後の燃焼サイクルにおいて予熱されていない冷たい給気が送り込まれても、燃焼室内の空気温度低下による失火や未燃燃料の発生による白煙発生を防止することができる。
(4)例示的な一実施形態では、上記(3)の構成において、前記コントローラは、前記エンジンの回転数がアイドリング回転数に到達する前に、前記ヒーター装置への断続的な通電を開始することを特徴とする。
一般的に、エンジンは、最初のクランキング時における燃焼室内の初爆から始まって、エンジンの回転数がアイドリング回転数に到達するまでは燃焼サイクルを安定的に反復継続できる状態とはならない。そこで、上記(4)の構成では、コントローラは、エンジンの回転数がアイドリング回転数に到達する前に、上記(3)で述べたヒーター装置への断続的な通電を開始するようにしている。それにより、上記(4)の構成によれば、燃焼室内の初爆から始まって、エンジンの回転数がアイドリング回転数に到達するまでのエンジン始動途上においてエンジンを再び予熱する再予熱処理を実施することが可能となる。その結果、上記(4)の構成によれば、最初のクランキング時における燃焼室内の初爆を補助するだけでなく、初爆からアイドリング回転数に到達するまでのエンジン始動途上においてエンジン始動を効果的に補助することができる。
(5)例示的な一実施形態では、上記(3)または(4)の構成において、前記コントローラは、前記第3期間の後、再予熱再開操作指令を受信することで、前記再予熱処理を再び実施するように構成されていることを特徴とする。
エンジンの再予熱処理を第3期間にわたって実施した後、アイドリング状態のエンジン内において、冷たい外気により燃焼室の空気温度が徐々に低下してくると、燃焼室内に未燃燃料が発生し、エンジンから白煙が出る場合がある。そこで、上記(5)の構成によれば、コントローラは、第3期間の経過後、再予熱再開操作指令に応じて再予熱処理を再び実施するように構成される。従って、上記(5)の構成によれば、第3期間の経過後、アイドリング状態のエンジンにおいて燃焼室の空気温度が低下しても、再予熱再開操作指令に応じて再予熱処理を再開することで、燃焼室の空気温度低下を防止することができる。
(6)例示的な一実施形態では、上記(3)〜(5)の構成において、前記コントローラは、1回当たりの通電時間が、前記ヒーター装置の通電状態における耐用時間より短くなるように構成されることを特徴とする。
ヒーター装置は、電流を流すことによって発熱する熱電素子を含むので、通電状態における耐用時間を越えてヒーター装置に通電すると、ヒーター装置が故障したり熱電素子が焼損したりする。そこで、上記(6)の構成によれば、コントローラは、1回当たりの通電時間が、ヒーター装置の通電状態における耐用時間より短くなるように通電する。それにより、上記(6)の構成によれば、ヒーター装置によるエンジンの予熱効果を向上させ、エンジンの始動性を向上させると同時に、通電によるヒーター装置の損傷を防止し、ヒーター装置を長持ちさせることができる。
(7)例示的な一実施形態では、上記(2)〜(6)の構成において、所定のエンジン始動操作が行われると、前記コントローラに対して前記エンジン始動指令を送信するように構成された操作スイッチと、
前記エンジンの始動を促す旨を報知する第2報知手段と、をさらに備え、
前記コントローラは、前記第2期間の後、前記エンジンの始動を促す旨を報知するように前記第2報知手段に指示することを特徴とする。
上記(7)の構成によれば、コントローラは、ヒーター装置が余熱状態にあることを第1報知手段により運転者に報知する第2期間の経過後、エンジンの始動を促す旨を第2報知手段により報知する。その場合、例えば、ヒーター装置の余熱状態を示す第2期間の長さを適切に設定するようにすれば、ヒーター装置の余熱により燃焼室内が充分に暖気された後にコントローラが運転者にエンジンの始動を促す旨を報知することが可能となる。そうすることで、上記(7)の構成によれば、エンジンの予熱効果を向上させるのみならず、適切なタイミングで運転者にエンジン始動操作を行うように促すことによりエンジンの始動性をさらに高めることができる。
(8)例示的な一実施形態では、上記(7)の構成において、前記コントローラは、前記エンジンの温度が所定の温度を下回った場合に、前記エンジンの始動を促す旨を報知することを停止するように前記第2報知手段に指示することを特徴とする。
上記(7)の構成において、燃焼室内が充分に暖気された後に運転者にエンジンの始動を促す旨を一旦は報知しても、その後エンジン始動がされないまま時間が経過すると、外気により燃焼室内の温度が再び低下することもある。従って、エンジンの始動を促す旨を一旦は報知しても、そのような場合にまで、運転者にエンジン始動を促し続けるのは適切ではない。
そこで、上記(8)の構成によれば、コントローラは、エンジンの温度が所定の温度を下回った場合に、上記(7)の構成において第2報知手段により行ったエンジンの始動を促す旨の報知を停止するようにしている。そうすることで、上記(8)の構成によれば、運転者が不適切なタイミングでエンジン始動操作を行わないようにし、上記(1)〜(7)の構成により得られるエンジンの予熱効果の向上が損なわれないようにしている。
(9)例示的な一実施形態では、上記(2)〜(8)の構成において、所定のエンジン始動操作が行われると、前記コントローラに対して前記エンジン始動指令を送信するように構成された操作スイッチをさらに備え、
前記コントローラは、所定の条件を満たした場合には、前記エンジン始動指令を受信していなくても、前記スタータ装置へ通電するように構成されることを特徴とする。
上記(1)の構成において、例えば、ヒーター装置の余熱状態を示す第2期間の長さを適切に設定するようにすれば、第2期間の経過後にヒーター装置の余熱により燃焼室内が充分に暖気されているようにすることが可能である。そのような場合、エンジンは充分に予熱されているから、運転者によりエンジン始動操作が行われるのを待たずにエンジン始動を自動的に行っても失火する可能性は低く、予熱開始操作を行うのに続いてエンジン始動操作を別途行うのは煩雑であると運転者が感じる場合もある。
そこで、上記(9)の構成において、コントローラは、所定の条件を満たした場合には、エンジン始動指令を受信していなくても、スタータ装置へ通電する。例えば、上記(9)の構成において、コントローラは、第2期間の経過後にヒーター装置の余熱により燃焼室内が充分に暖気された場合に、所定の条件を満たしたと判定するようにしてもよい。その結果、上記(9)の構成によれば、運転者に余計な操作を要求することなく、適切なタイミングで自動的にエンジン始動を行うようにすることで、エンジンの始動性をさらに高めることができる。
(10)例示的な一実施形態では、上記(8)または(9)の構成において、前記操作スイッチは、所定の予熱開始操作が行われると、前記コントローラに対して前記予熱開始指令を送信するように構成されることを特徴とする。
上記(10)の構成では、運転者により所定の予熱開始操作が行われると、操作スイッチからコントローラに対して予熱開始指令が送信される。従って、例えば、操作スイッチから予熱開始指令を受信したコントローラは、タイマー制御などによりエンジンの予熱が完了するまで、ヒーター装置への通電動作を持続的に行うようにしてもよい。そうすることで、運転者がグローボタンを押し続けるなどしてエンジンの予熱完了まで予熱操作を続けなくても予熱完了までヒーター装置への通電動作を持続させることができる。その結果、上記(10)の構成によれば、運転者によるエンジンの予熱操作を簡易化することが可能となる。
(11)例示的な一実施形態では、上記(1)〜(10)の構成において、前記コントローラは、外気温に応じて前記第2期間の長さを調整することを特徴とする。
外気温が低ければ外気温が高い時よりもエンジンの予熱に時間を要するから、エンジンの予熱時間は外気温に応じて調整するのが望ましい。そこで、上記(11)の構成によれば、コントローラは、外気温に応じて第2期間の長さを調整することで、ヒーター装置の余熱によりエンジンを暖気する時間の長さを外気温に応じた適切な長さとするように運転者に促すことができる。
(12)例示的な一実施形態では、上記(1)〜(10)の構成において、前記コントローラは、前記エンジンが所定の温度に予熱された時点を前記第2期間の終了時点とすることを特徴とする。
上記(12)の構成では、コントローラは、ヒーター装置の余熱によりエンジンが暖気されていることを報知する期間の終了時点をエンジンが所定の温度に予熱された時点までとしている。一例において、この所定の温度を燃焼室内における燃料の可燃限界温度よりも充分に高い温度に設定するならば、エンジンが上記温度に予熱されるまで、ヒーター装置が余熱状態にある旨の報知を継続することができる。その結果、上記(12)の構成によれば、エンジンが充分に暖気され、燃焼サイクルが安定的に反復継続できるようになるまでエンジン始動操作を待つように運転者に促すことができる。
以上より、本発明に係る幾つかの実施形態によれば、ヒーター装置に耐用時間を越えて通電することができないという制限を克服して、ヒーター装置によるエンジンの予熱効果を向上させ、それによりエンジンの始動性を向上させることができる。
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
以下、最初に、幾つかの実施形態に係るエンジン始動補助装置を説明するのに先立って、当該エンジン始動補助装置の適用対象であるエンジンを含む動力システムの一例について図1を参照して説明する。続いて、当該エンジン始動補助装置の構成について図2を参照しながら説明し、当該エンジン始動補助装置の動作原理とエンジンの予熱性能の改善効果について図3乃至図7を参照して説明する。
図1は、本発明の幾つかの実施形態に係るエンジン始動補助装置の適用対象として、舶用エンジンであるエンジン100を動力源とする小型船舶の動力システムの一部を例示したものである。エンジン100は、以下において後述するコントローラ200およびバッテリ300と共に小型船舶の機関室1内に設置されている。また、エンジン100の予熱操作と始動操作を行うために運転者が使用する計器盤400は、小型船舶の操舵室2に設置されている。計器盤400は、小型船舶の操舵室において運転者が図1に示す動力システムを操作するために使用される。
図1に示す構成において、計器盤400は予熱管理部410と操作スイッチ420と、を備えている。予熱管理部410および操作スイッチ420は、接続線C1およびC2を介してコントローラ200とそれぞれ接続されている。予熱管理部410は、以下において後述する再予熱モード切替部411に加え、エンジンの予熱状態を運転者に報知する第1報知手段412aおよび第2報知手段412bを備えている。一例においては、操作スイッチ420は、運転者がエンジン100の予熱操作や始動操作を行うために操作するキースイッチであってもよい。運転者が操作スイッチ420を使用してエンジン100の予熱操作や始動操作を行うと、当該操作がされた旨は接続線C2を介してコントローラに伝達される。
図1に示すように、エンジン100は、エンジン100をクランキングすることによりエンジン100を始動するための電動機を含むスタータ装置101と、エンジン始動前にエンジン100を予熱するためのヒーター装置102と、を備える。さらに、エンジン100は、エンジン100の回転エネルギーにより発電する発電機103を備える。また、図1に示すように、スタータ装置101、ヒーター装置102および発電機103は、スイッチング機構110を介してコントローラ200およびバッテリ300と電気的に接続されている。
図1に示す構成において、スイッチング機構110は、コントローラ200から制御線C3を介して与えられた制御電流または制御電圧に基づいて、バッテリ300および発電機103からスタータ装置101およびヒーター装置102への通電のオンオフを切り替える回路機構である。なお、スイッチング機構110は具体的な回路構造ではなく、説明を簡単にするために便宜上図示した抽象的な回路機構である。つまり、スイッチング機構110は、バッテリ300および発電機103からスタータ装置101およびヒーター装置102への電流の流れがコントローラ200からの制御に従ってオンオフ切替えされることを単に抽象的に表しているに過ぎない。従って、コントローラ200からの制御に従ってバッテリ300および発電機103からスタータ装置101およびヒーター装置102へ通電するための具体的な回路接続構成は、必ずしも図1に示すような回路接続構成とする必要はなく、図2を参照しながら具体的に後述する回路接続構成としてもよい。
次に、図2を参照しながら、本発明の幾つかの実施形態に係るエンジン始動補助装置10の構成について説明する。図2に示すエンジン始動補助装置10は、エンジン100(図1)を予熱するヒーター装置102と、ヒーター装置102によるエンジン100の予熱状況を報知する第1報知手段412aと、エンジン100の始動を促す旨を報知する第2報知手段412bと、を備えている。さらに、エンジン始動補助装置10は、エンジン100を始動するためのスタータ装置101と、ヒーター装置102およびスタータ装置101に対して電力を供給可能なバッテリ300と、エンジン100により駆動する発電機103と、を備えている。また、エンジン始動補助装置10は、ヒーター装置102、スタータ装置101、第1報知手段412aおよび第2報知手段412bを制御するコントローラ200を備えている。
また、エンジン始動補助装置10は、操作スイッチ420を備える。操作スイッチ420は、運転者により所定の予熱開始操作が行われると、コントローラ200に対して予熱開始指令を送信するように構成されている。また、操作スイッチ420は、運転者により所定のエンジン始動操作が行われると、コントローラ200に対してエンジン始動指令を送信するように構成されている。運転者が操作スイッチ420に対して上述した予熱開始操作およびエンジン始動操作を含む何らかの操作を行うと、操作内容が操作スイッチ420から接続線C2を介してコントローラ200に伝達される。
例示的な一実施形態では、図2に示すように、キースイッチとして構成された操作スイッチ420は、オフ状態位置420a、予熱操作位置420bおよび始動操作位置420cを含む少なくとも3つの操作位置を有している。ここで、上述した予熱開始操作として、運転者が操作スイッチ420の操作位置をオフ状態位置420aから予熱操作位置420bに切り替えると、操作スイッチ420からコントローラ200に対して予熱開始指令が送信される。また、上述したエンジン始動操作として、運転者が操作スイッチ420の操作位置を予熱操作位置420bから始動操作位置420cに切り替えると、操作スイッチ420からコントローラ200に対してエンジン始動指令が送信される。
また、エンジン始動補助装置10は、図1に示す予熱管理部410の上に設けられた第1報知手段412aと、第2報知手段412bと、を備えている。第1報知手段412aは、ヒーター装置102によるエンジン100の予熱状況を報知するように構成されている。一例においては、第1報知手段412aは、ヒーター装置102によるエンジン100の予熱状況を表す電圧や電流をコントローラ200から与えられ、点灯や消灯によってエンジン100の予熱状況を視覚的に表示するランプであってもよい。第2報知手段412bは、エンジン100の始動を促す旨を運転者に報知するように構成されている。一例においては、第1報知手段412bは、エンジン100の予熱が完了し、エンジン始動の準備ができた旨を表す電圧や電流をコントローラ200から与えられると、点灯することによってエンジン始動の準備ができた旨を視覚的に表示するランプであってもよい。
また、図2に示す構成において、スタータ装置101のB端子101Bには、発電機103とバッテリ300が接続されていると共に、リレースイッチ111を介してヒーター装置102が接続されている。さらに、スタータ装置101のB端子101Bは、リレースイッチ112を介してスタータ装置101のS端子101Sとも接続されている。また、図2に示すように、コントローラ200が接続線C32を介してリレースイッチ111をオンオフ切替することにより、発電機103およびバッテリ300の少なくとも一方からヒーター装置102に流れる電流がオンオフ切替される。また、図2に示すように、コントローラ200が接続線C31を介してリレースイッチ112をオンオフ切替することにより、スタータ装置101のB端子101BとS端子101Sとの間の導通状態がオンオフ切替される。従って、図2に示すリレースイッチ111、リレースイッチ112および接続線C51〜C56は、図1に示すスイッチング機構110に相当する機能を実現している。
本発明の幾つかの実施形態では、図2に示すコントローラ200は、以下の動作を実行する。コントローラ200は、操作スイッチ420から予熱開始指令を受信すると、第1期間に亘ってヒーター装置102へ通電する。その際、第1期間の長さは、ヒーター装置102への1回当たりの通電時間に相当し、ヒーター装置102の通電状態における耐用時間より短くなるように設定されるのが好適である。何故なら、ヒーター装置102は、電流を流すことによって発熱する熱電素子を含むので、通電状態における耐用時間を越えてヒーター装置102に通電すると、ヒーター装置102が故障したり熱電素子が焼損したりするからである。こうすることで、ヒーター装置102への通電によるヒーター装置102の損傷を防止し、ヒーター装置102を長持ちさせることができる。
続いて、コントローラ200は、第1期間の経過後、第2期間に亘ってヒーター装置102が余熱状態にあることを報知するように第1報知手段412aに指示する。その際、ヒーター装置102への通電終了後、第1報知手段412aからの報知に応じて運転者が第2期間にわたってエンジン始動を待つようにすれば、ヒーター装置102の余熱によってヒーター装置102の通電終了後もエンジン100の予熱が継続される。その結果、ヒーター装置102への通電時間を延長せずにエンジン100の予熱効果を向上させることができる。そのため、この実施形態によれば、ヒーター装置102に耐用時間を越えて通電することができないという制限を克服して、エンジン100の始動性を向上させることができる。
例示的な一実施形態では、コントローラ200は、エンジン100が所定の温度に予熱された時点を第2期間の終了時点としてもよい。一例において、この所定の温度をエンジン100の燃焼室内における燃料の可燃限界温度よりも充分に高い温度に設定するならば、エンジン100が上記温度に予熱されるまで、ヒーター装置102が余熱状態にある旨の報知を継続することができる。その結果、エンジン100が充分に暖気され、燃焼サイクルが安定的に反復継続できるようになるまでエンジン始動操作を待つように運転者に促すことができるようになる。
また、例示的な一実施形態では、コントローラ200は、外気温に応じて前記第2期間の長さを調整するようにしてもよい。何故なら、外気温が低ければ外気温が高い時よりもエンジン100の予熱に時間を要するから、エンジン100の予熱時間は外気温に応じて調整するのが望ましいからである。従って、コントローラ200は、外気温に応じて第2期間の長さを調整することで、ヒーター装置102の余熱によりエンジン100を暖気する時間の長さを外気温に応じた適切な長さとするように運転者に促すことができる。
続いて、コントローラ200は、第2期間の経過後、エンジン100の始動を促す旨を運転者に報知するように第2報知手段412bに指示する。続いて、エンジン100の始動を促す旨が第2報知手段412bにより運転者に報知されると、運転者は操作スイッチ420に対して所定のエンジン始動操作を行ってもよい。その結果、操作スイッチ420に対して所定のエンジン始動操作が行われると、操作スイッチ420から接続線C2を介してコントローラ200にエンジン始動指令が送信される。コントローラ200は、操作スイッチ420からエンジン始動指令を受信すると、スタータ装置101内の電動機への通電を開始する。これにより、スタータ装置101内の電動機が回転してエンジン100をクランキングし、エンジン100の始動が行われる。
このようにヒーター装置102の余熱によってヒーター装置102への通電終了後もエンジン100の予熱が継続される様子を実験結果により具体的に例示すると図3に示すとおりとなる。図3(A)では、ヒーター装置102に通電する第1期間をT1 Aに設定し、期間T1 Aにわたってヒーター装置102に通電した場合におけるエンジン100内の各部の温度変化のグラフを示し、横軸は時間軸である。例えば、期間T1 Aにわたってヒーター装置102に通電した場合に、ヒーター装置102が備える熱電素子の表面温度は、図3(A)において実線で示す曲線g31のように変化する。また、期間T1 Aにわたってヒーター装置102に通電した場合に、エンジン100の燃焼室の出口付近で計測した空気温度は、図3(A)において点線で示す曲線g32のように変化する。また、エンジン100に繋がる排気ダクトの先端付近で計測した空気温度は、図3(A)において一点鎖線で示す曲線g33のように変化する。
図3(A)の曲線グラフg31を参照すると、ヒーター装置102に通電する期間T1 Aの終了時点(時刻t1の少し前)でヒーター装置102の熱電素子の表面温度はピークに達し、その後はヒーター装置102に通電されないので、熱電素子の表面温度は低下している。しかしながら、ヒーター装置102への通電終了後も、ヒーター装置102の余熱により燃焼室内の予熱が継続されるので、燃焼室の出口付近で計測した空気温度は時刻t3を少し過ぎた時点まで上昇し続けている。従って、期間T1 Aの終了時点(時刻t1の少し前)から時刻t3までを第2期間に設定し、第2期間の終了までエンジン始動を待つようにすれば、ヒーター装置102の余熱によってヒーター装置102への通電終了後もエンジン100の予熱を継続することができる。その結果、ヒーター装置102への通電時間を延長せずにエンジン100の予熱効果を向上させることができる。
図3(B)は、ヒーター装置102に通電する第1期間を図3(A)に示す期間T1 Aよりも長い期間T1 Bに設定している点を除いて、図3(A)に示す実験結果と同様の実験条件の下でエンジン100内の各部の温度変化を測定した結果である。図3(B)において、期間T1 Bにわたってヒーター装置102に通電した場合に、ヒーター装置102が備える熱電素子の表面温度は、図3(B)において実線で示す曲線g34のように変化する。また、期間T1 Bにわたってヒーター装置102に通電した場合に、エンジン100の燃焼室の出口付近で計測した空気温度は、図3(B)において点線で示す曲線g35のように変化する。また、エンジン100に繋がる排気ダクトの先端付近で計測した空気温度は、図3(B)において一点鎖線で示す曲線g36のように変化する。
図3(B)の曲線グラフg34を参照すると、ヒーター装置102に通電する期間T1 Bの終了時点(時刻t1の少し後)でヒーター装置102の熱電素子の表面温度はピークに達し、その後はヒーター装置102に通電されないので、熱電素子の表面温度は低下している。しかしながら、ヒーター装置102への通電終了後も、ヒーター装置102の余熱により燃焼室内の予熱が継続されるので、燃焼室の出口付近で計測した空気温度は時刻t4付近まで上昇し続けている。従って、期間T1 Bの終了時点(時刻t1の少し後)から時刻t4までを第2期間に設定し、第2期間の終了までエンジン始動を待つようにすれば、ヒーター装置102の余熱によってヒーター装置102への通電終了後もエンジン100の予熱を継続することができる。その結果、ヒーター装置102への通電時間を延長せずにエンジン100の予熱効果を向上させることができる。
そこで、本発明の幾つかの実施形態では、図4に示すように、時刻t1付近においてヒーター装置102への通電が終了した後も、ヒーター装置102の余熱によって燃焼室内の予熱が続いている時刻t2’までエンジン100の始動操作を待つように運転者に報知するようにしている。従って、当該報知に従って運転者が時刻t2’までエンジン100の始動操作を待つことで、外気温が低い寒冷時においても、ヒーター装置102への通電時間を延長せずにエンジン100の予熱効果を向上させ、エンジン始動時の失火の可能性を低減させることができる。
これに対して、図4に示すように、従来は、時刻t1付近においてヒーター装置102への通電が終了し、ヒーター装置102の熱電素子の表面温度がピークに達した直後にエンジン始動操作を促す表示ランプが点灯するようにしていた。その結果、外気温が低い寒冷時において、ヒーター装置102への通電終了直後にエンジン100の始動操作がされると、エンジン100の予熱を充分に行えず、エンジン100の失火によりエンジン始動に失敗する可能性が高くなる。
例示的な一実施形態では、以上のようなコントローラ200の制御動作は、エンジン始動補助装置10について図2を参照しながら後述する以下のような回路構造と回路動作によって実現される。
図2に示すリレースイッチ111は、端子111a〜111cを備えている。リレースイッチ111においては、コントローラ200から接続線C32を介して端子111bに与える制御電圧または制御電流をオンオフ切替えすることにより、端子111aと端子111b間の導通状態がオンオフ切替される。従って、コントローラ200は、操作スイッチ420から接続線C2を介して予熱開始指令を受信すると、接続線C32を介してリレースイッチ111の端子111bに与える制御電圧または制御電流をオフ状態から第1期間にわたってオン状態に切り替える。その結果、リレースイッチ111においてオフ状態である端子111aと端子111b間の導通状態が第1期間にわたってオン状態となるので、バッテリ300からリレースイッチ111を介してヒーター装置102に通電される。
続いて、第1期間が満了すると、コントローラ200は、接続線C32を介してリレースイッチ111の端子111bに与える制御電圧または制御電流をオン状態からオフ状態に切り替える。その結果、リレースイッチ111においてオン状態であった端子111aと端子111b間の導通状態がオフ状態となるので、バッテリ300からヒーター装置102への通電が停止される。そして、コントローラ200は、第1期間経過後にヒーター装置102への通電を停止すると、接続線C1を介して第1報知手段412aに対して与える制御電流をオフ状態から第2期間にわたってオン状態に切り替える。その結果、表示ランプとして構成された第1報知手段412aが消灯状態から点灯状態に切り替わり、ヒーター装置102が余熱状態にあることを運転者に知らせる。
その際、ヒーター装置102への通電終了後、第1報知手段412aからの報知に応じて運転者が第2期間にわたってエンジン始動を待つようにすれば、ヒーター装置102の余熱によってヒーター装置102への通電終了後もエンジン100の予熱が継続される。
ここで、再び図2を参照すると、第2期間が経過した後、コントローラ200は、エンジン100の始動を促す旨を運転者に報知するように第2報知手段412bに指示する。例えば、第2期間の経過後に、コントローラ200は、接続線C1を介して第2報知手段412bに与える制御電流をオフ状態からオン状態に切り替えることにより、表示ランプとして構成された第2報知手段412bを消灯状態から点灯状態に切り替える。これにより、エンジン100の予熱が完了し、エンジン100を始動する準備ができた旨が運転者に知らされる。
続いて、エンジン100の始動を促す旨が第2報知手段412bにより運転者に報知されると、運転者は操作スイッチ420に対して所定のエンジン始動操作を行ってもよい。その結果、操作スイッチ420に対して所定のエンジン始動操作が行われると、操作スイッチ420から接続線C2を介してコントローラ200にエンジン始動指令が送信される。コントローラ200は、操作スイッチ420からエンジン始動指令を受信すると、バッテリ300からスタータ装置101内の電動機へ通電を開始することでエンジン100の始動を行う。コントローラ200は、図2を参照して後述する以下の回路動作によりバッテリ300からスタータ装置101内の電動機への通電を開始する。
図2に示すスタータ装置101において、B端子101Bは、スタータ装置内の電動機によりエンジン100をクランキングするための駆動電力が供給される端子である。また、スタータ装置101において、S端子101Sは、B端子101Bとスタータ装置101内の上記電動機との間の導通状態をオンオフ切替する電磁式スイッチ(図示せず)を電圧駆動するための端子である。具体的には、S端子101Sにバッテリ300からの電圧がかかっていないときには、B端子101Bとスタータ装置101内の上記電動機との間は絶縁状態である。他方、バッテリ300からS端子101Sに通電すると、B端子101Bとスタータ装置101内の上記電動機との間は導通状態となり、バッテリ300からの駆動電力がスタータ装置101内の上記電動機へと供給開始される。
一方、リレースイッチ112は、端子112a〜112cを備えている。リレースイッチ112においては、コントローラ200から接続線C31を介して端子112bに与える制御電圧または制御電流をオンオフ切替えすることにより、端子112aと端子112b間の導通状態がオンオフ切替される。従って、コントローラ200は、操作スイッチ420から接続線C2を介してエンジン始動指令を受信すると、接続線C31を介してリレースイッチ112の端子112bに与える制御電圧または制御電流をオフ状態からオン状態に切り替える。すると、リレースイッチ112においてオフ状態である端子112aと端子112b間の導通状態がオン状態となる。その結果、スタータ装置101のB端子101BとS端子101Sが電気的に直結され、バッテリ300からの電圧がS端子101Sに加わるので、バッテリ300からB端子101Bを経由してスタータ装置101内の電動機に駆動電力が供給開始される。以上のようにして、コントローラ200は、バッテリ300からスタータ装置101内の電動機への通電を開始する。
また、例示的な一実施形態では、運転者により予熱開始操作が行われた後、操作スイッチ420から予熱開始指令を受信したコントローラ200は、タイマー制御などによりエンジン100の予熱が完了するまで、ヒーター装置102への通電動作を持続的に行うようにしてもよい。そうすることで、運転者がグローボタンを押し続けるなどしてエンジン100の予熱完了まで予熱操作を続けなくても予熱完了までヒーター装置102への通電動作を持続させることができる。その結果、この実施形態によれば、運転者によるエンジンの予熱操作を簡易化することが可能となる。
また、例示的な一実施形態では、コントローラ200は、所定の条件を満たした場合には、エンジン始動指令を受信していなくても、スタータ装置101内の電動機への通電を開始するようにしてもよい。このようにエンジン始動指令が無くても所定の条件が充足された時点でスタータ装置101内の電動機への通電を自動的に開始するようにすれば、以下の利点が得られる。
例えば、ヒーター装置102の余熱状態を示す第2期間の長さを適切に設定するようにすれば、第2期間の経過後にヒーター装置102の余熱により燃焼室内が充分に暖気されているようにすることが可能である。そのような場合、エンジン100は充分に予熱されているから、運転者によりエンジン始動操作が行われるのを待たずにエンジン始動を自動的に行っても失火する可能性は低く、予熱開始操作を行うのに続いてエンジン始動操作を別途行うのは煩雑であると運転者が感じる場合もある。
そこで、上記実施形態では、コントローラ200は、所定の条件を満たした場合には、エンジン始動指令を受信していなくても、スタータ装置101の電動機へと通電を開始する。例えば、コントローラ200は、第2期間の経過後にヒーター装置102の余熱により燃焼室内が充分に暖気された場合に、所定の条件を満たしたと判定するようにしてもよい。その結果、上記実施形態によれば、運転者に余計な操作を要求することなく、適切なタイミングで自動的にエンジン始動を行うようにすることで、エンジン100の始動性をさらに高めることができる。
ここで再び図2を参照すると、スタータ装置101のB端子101Bには、発電機103が接続されており、発電機103は、B端子101Bを介してバッテリ300と電気的に接続されている。また、発電機103は、B端子101Bおよびリレースイッチ111を経由してヒーター装置102と電気的に接続可能に構成されている。ここで、発電機103はエンジン100によって駆動され、一例において、発電機103は、エンジン100のクランク軸の回転により駆動されるダイナモであってもよい。また、コントローラ200は、接続線C41を介して発電機103と接続されており、発電機103の端子電圧を表す信号が発電機103から接続線C41を介してコントローラ200に常時送信されるようになっている。これにより、コントローラ200は、接続線C41を介して発電機103の端子電圧を常時監視することができるようになっている。
従って、スタータ装置101内の電動機によりエンジン100がクランキングされると、エンジン100のクランク軸の回転により発電機103は駆動され、発電を開始する。つまり、エンジン始動指令を受信したコントローラ200が、スタータ装置101内の電動機へ通電を開始し、エンジン100の始動を行うと、その直後に、エンジン100の回転により発電機103が発電を開始し、発電機103が出力する発電電圧のレベルが急速に立ち上がる。ここで、エンジン100の始動後に発電機103により発電された電力は、回生電力としてバッテリ300に充電されるようにしてもよい。また、エンジン100の始動後に発電機103により発電された電力は、エンジン始動後にエンジン100をさらに予熱するために、ヒーター装置102に供給されてもよい。
そこで、例示的な一実施形態では、コントローラ200は、スタータ装置101への通電開始の後、エンジン100の始動により発電機103において発電電圧確立が検出された後に、第3期間に亘って断続的に発電機103およびバッテリ300の少なくとも一方からヒーター装置102に通電することでエンジン100を再び予熱する再予熱処理を実施するようにしてもよい。その際、発電機103が出力する電力のうち、ヒーター装置102により消費しきれなかった余剰電力は、発電機103からバッテリ300へと回生させることが可能である。
これにより、上記実施形態によれば、エンジン100の最初のクランキング時における燃焼室内の初爆の後に、後続の燃焼サイクルにおいて予熱されていない冷たい給気が燃焼室内に送り込まれても、初爆後の燃焼サイクルにおいてエンジン100の予熱を断続的に継続することができる。従って、上記実施形態によれば、エンジン始動後の燃焼サイクルにおいても燃焼室内の空気温度を可燃限界温度以上に維持することができる。そのため、上記実施形態によれば、最初のクランキング時における燃焼室内の初爆を補助するだけでなく、初爆後の燃焼サイクルにおいて予熱されていない冷たい給気が送り込まれても、燃焼室内の空気温度低下による失火や未燃燃料の発生による白煙発生を防止することができる。
次に、図2に示す回路構成において、第1報知手段412a、第2報知手段412b、ヒーター装置102およびスタータ装置101への通電をオンオフ制御するための制御電流および制御電圧をコントローラ200が変化させるタイミングについて図5を参照しながら説明する。
図5のタイミング・チャートを参照すると、g57は、バッテリ300からリレースイッチ111を経由してヒーター装置102に流れる電流のレベル変化を表している。具体的には、図5に示す時刻t50において操作スイッチ420を使用して予熱開始操作が行われると、時刻t50から時刻t51までの第1期間T1においてヒーター装置102への通電が行われる。従って、この期間中は、ヒーター装置102に流れる電流(図5のg57)がローレベルからハイレベルに変化している。また、図5に示すg56は、コントローラ200から第1報知手段412aに与えられる制御電流の変化を表し、ヒーター装置102への通電中の第1期間T1においては、ローレベルからハイレベルに変化している。その結果、ヒーター装置102への通電中の第1期間T1においては、表示ランプとして構成された第1報知手段412aは、消灯状態から点灯状態へと変化している。
続いて、図5に示す時刻t51においてヒーター装置102への通電が終了し第1期間T1が満了すると、ヒーター装置102に流れる電流(図5のg57)がハイレベルからローレベルに変化する。そして、時刻t51から第2期間T2が始まり、第2期間T2は時刻t52まで継続する。第2期間T2においては、通電終了後のヒーター装置102の余熱によりエンジン100の予熱が継続され、コントローラ200から第1報知手段412aに与えられる制御電流(図5のg56)は短い周期でパルス状に変化する。その結果、第2期間T2においては、表示ランプとして構成された第1報知手段412aは短い間隔で点滅を繰り返し、エンジン始動操作を待つように運転者に報知する。なお、図5のg54に示すように、時刻t50において予熱開始操作がされると、エンジン100の燃焼室内の給気温度は、第1期間T1と第2期間T2の両者にわたって(時刻t50から時刻t52まで)持続的な増加傾向を示す。
続いて、第2期間T2が満了すると、時刻t52において、コントローラ200から第2報知手段412bに与えられる制御電流(図5のg55)がオフ状態からオン状態へと変化する。その結果、第2期間T2においては、表示ランプとして構成された第2報知手段412bは、消灯状態から点灯状態へと変化し、運転者にエンジン始動操作を促す旨を報知する。続いて、時刻t53において運転者が操作スイッチ420を用いてエンジン始動操作を行うと、図5のg52に示すように、バッテリ300からスタータ装置101内に流れ込む電流がローレベルからハイレベルに変化する。また、時刻t53においてエンジン始動操作が行われると、図5のg51に示すように、時刻t53まではゼロだったエンジン100の回転数が、スタータ装置101によってクランキングされた際のクランキング回転数まで上昇する。
このように、図5に示す時刻t53以降において、スタータ装置101によりエンジン100がクランキングされると、エンジン100のクランク軸の回転により発電機103は駆動され、発電を開始する。つまり、図5に示す時刻t53において、エンジン100の始動を開始すると、その直後に、エンジン100の回転により発電機103が発電を開始し、発電機103が出力する発電電圧のレベルが急速に立ち上がる。その際、エンジン100の始動後に発電機103により発電された電力は、エンジン始動後にエンジン100をさらに予熱(再予熱処理)するために、ヒーター装置102に供給することができるようになる。
スタータ装置101によるエンジン100のクランキングに続いて、時刻t54においてエンジン100の燃焼室内で燃料の初爆が起きる。すると、図5のg51に示すように、時刻t54から時刻t56までの間にエンジンの回転数がクランキング回転数から徐々に増加してゆき、時刻t56においてエンジン100の回転数がアイドリング回転数に到達して安定し、燃焼室内が完爆の状態となる。また、時刻t54においてエンジン100の燃焼室内で燃料の初爆が起きると、スタータ装置101によるクランキングは不要となるので、コントローラ200は、スタータ装置101内の電動機への通電を終了する。その結果、図5のg52に示すように、バッテリ300からスタータ装置101内に流れ込む電流は時刻t54においてハイレベルからローレベルに変化する。
ところで、エンジン100は、最初のクランキング時における燃焼室内の初爆から始まって、エンジン100の回転数がアイドリング回転数に到達するまでは燃焼サイクルを安定的に反復継続できる状態とはならない。そこで、エンジン始動操作前にエンジン100を予熱するだけでなく、燃焼室内の初爆から始まって、エンジン100の回転数がアイドリング回転数に到達するまでのエンジン始動途上においてもエンジン100を再び予熱(再予熱処理)するようにしてもよい。このような再予熱処理を行うことで、初爆からアイドリング回転数に到達するまでのエンジン始動途上においてもエンジン始動を効果的に補助することができる。
そこで、例示的な一実施形態では、コントローラ200は、時刻t54から時刻t56までの期間中、エンジン100の回転数がアイドリング回転数に到達する前に、発電機103およびバッテリ300の少なくとも一方からヒーター装置102への断続的な通電を開始するようにしてもよい。図5に示す例においては、コントローラ200は、エンジン100の回転数がアイドリング回転数に到達する前の時点である時刻t55において、ヒーター装置102への断続的な通電を開始するようにしてもよい。その結果、エンジン100の始動操作が行われた後に、エンジン100を再び予熱するための再予熱処理が行われることとなる。その際、図5のg53に示すように、発電機103およびバッテリ300の少なくとも一方からヒーター装置102に加えられる電圧が時刻t55においてローレベルからハイレベルに変化している。
また、図5に示すように、コントローラ200は、時刻t54においてスタータ装置101内の電動機への通電を停止し、時刻t55においてヒーター装置102への通電を開始する。つまり、コントローラ200は、バッテリ300および発電機103からヒーター装置102およびスタータ装置101へは同時に通電しないように構成されていることになる。何故なら、ヒーター装置102およびスタータ装置101は、通電時に大電流が流れ、消費電力が大きい装置であるので、バッテリ300および発電機103からヒーター装置102およびスタータ装置101の両方に同時に通電すると、バッテリ300が急激に放電して干上ってしまう。そこで、上記構成では、エンジン始動指令に応じてスタータ装置101へ通電する際には、ヒーター装置102およびスタータ装置101の両方に同時に通電しないように構成されている。その結果、上記構成によれば、バッテリ300の急激な放電によるバッテリ寿命の短縮、バッテリ300の劣化もしくはバッテリ300の損傷を防止することができる。
なお、エンジン100の回転数がアイドリング回転数に到達した時刻t56以降においても、発電機103からヒーター装置102への断続的な通電を図5に示す第3期間T3にわたって継続するようにしてもよい。こうすることにより、エンジン始動が完了した後においても、燃焼室内の給気温度低下により燃焼室内に未燃燃料が発生するのを防止することができるので、始動完了後のエンジン100から白煙が発生するのを防止することができるようになる。図5に示すように、第3期間T3における再予熱処理は、ヒーター装置102への通電を時間幅τpにわたって行うオン区間とヒーター装置102への通電を時間幅τpにわたって中断するオフ区間を交互に設けることにより実施される。言い換えると、第3期間T3における再予熱処理は、ヒーター装置102への通電を周期τpのサイクルで断続的に行うことにより実施される。これと並行して、ヒーター装置102に通電中である旨を表示ランプにより報知する第1報知手段412aもまた、第3期間T3において、周期τpのサイクルで断続的に点灯と消灯を繰り返す。
続いて、図5に示す時刻t62において第3期間T3が満了すると、再予熱処理は終了し、発電機103からヒーター装置102への断続的な通電は停止される。しかしながら、エンジン100の再予熱処理を第3期間T3にわたって実施した後、アイドリング状態のエンジン100内において、冷たい外気により燃焼室の空気温度が徐々に低下してくると、燃焼室内に未燃燃料が発生し、エンジンから白煙が出る場合がある。例えば、エンジン100を動力源とする小型船舶において、エンジン始動に成功し、エンジン100がアイドリング状態となった後に、当該小型船舶が操業を終えて帰港した場合を考える。その場合、港に係留されたままの小型船舶内においてエンジン100がアイドリング状態を続けていると、海水温や外気温によって燃焼室の空気温度が徐々に低下し、エンジン100から白煙が出てくることがある。
そこで、例示的な一実施形態では、コントローラ200は、第3期間T3の経過後、図1および図2に示す予熱管理部410から接続線C1を介して再予熱再開操作指令を受信することで、上述した再予熱処理を再び実施するようにしてもよい。その結果、この実施形態によれば、第3期間T3の経過後、アイドリング状態のエンジン100において燃焼室の空気温度が低下しても、再予熱再開操作指令に応じて再予熱処理を再開することで、燃焼室の空気温度低下を防止することができる。一例において、運転者は予熱管理部410の上に設けられた再予熱モード切替部411(図1および図2)を始動用位置411aから帰港時位置411cに切り替えることにより、予熱管理部410からコントローラ200に再予熱再開操作指令を送信するようにしてもよい。
以下、図1および図2に示す予熱管理部410に設けた再予熱モード切替部411の機能と上述した再予熱処理との関係について詳しく述べる。図5に示す時刻t55から第3期間T3の終了時点である時刻t62まで実施される再予熱処理は、エンジン100の始動操作に続いて自動的に実行される再予熱処理であるため、始動時の再予熱モードで実施される。従って、エンジン100の始動時には、始動時の再予熱モードで再予熱処理が実施されるように、再予熱モード切替部411は、始動時位置411aに設定されていなくてはならない。
これに対して、第3期間T3の経過後に再予熱処理が一旦停止され、その後に、コントローラ200が再予熱再開操作指令を受信することで実施される再予熱処理は帰港時の再予熱モードで実施される。従って、この場合には、再予熱モード切替部411を始動用位置411aから帰港時位置411cに切り替えることにより、予熱管理部410からコントローラ200に再予熱再開操作指令を送信するようにする。なお、再予熱モード切替部411の切り替えスイッチは、図1に示すように、始動用位置411aからオフ状態位置411bを経由して帰港時位置411cに切り替えられるように構成されてもよい。その際、再予熱モード切替部411がオフ状態位置411bに切り替えられると、上述した再予熱処理は一旦停止される。これにより、始動時の再予熱モードを帰港時の再予熱モードに切り替える際には、再予熱処理を一旦停止してから帰港時の再予熱モードに基づいて再予熱処理を実施することが可能となる。
なお、図1〜図5に示す上記構成において、燃焼室内が充分に暖気された後に第2報知手段412bによりエンジン100の始動を促す旨を一旦は報知しても、その後エンジン始動がされないまま時間が経過すると、外気により燃焼室内の温度が再び低下することもある。従って、第2報知手段412bによりエンジン100の始動を促す旨を一旦は報知しても、そのような場合にまで、運転者にエンジン始動を促し続けるのは適切ではない。そこで、コントローラ200は、エンジン100の温度が所定の温度を下回った場合に、第2報知手段412bにより行ったエンジンの始動を促す旨の報知を停止するようにしてもよい。そうすることで、運転者が不適切なタイミングでエンジン始動操作を行わないようにし、図1〜図5に示す上記構成により得られるエンジンの予熱効果の向上が損なわれないようにすることができる。
次に、複数の異なる設定パラメータに基づいてエンジン100の始動前の予熱処理および再予熱処理を行った際のエンジン100内部の温度変化について図6の実験結果を参照しながら検討する。図6(A)は、エンジン始動前の予熱(第1期間T1における予熱)を15秒間にわたって行い、第3期間T3において実施される再予熱処理を20秒サイクルで行った場合のエンジン100内の各部の温度変化を示す。図6(B)は、エンジン始動前の予熱(第1期間T1における予熱)を20秒間にわたって行い、第3期間T3において実施される再予熱処理を20秒サイクルで行った場合のエンジン100内の各部の温度変化を示す。図6(C)は、エンジン始動前の予熱(第1期間T1における予熱)を15秒間にわたって行い、第3期間T3において実施される再予熱処理を30秒サイクルで行った場合のエンジン100内の各部の温度変化を示す。図6(D)は、エンジン始動前の予熱(第1期間T1における予熱)を20秒間にわたって行い、第3期間T3において実施される再予熱処理を30秒サイクルで行った場合のエンジン100内の各部の温度変化を示す。
図6(A)〜図6(D)を比較すると、エンジン始動前における予熱(第1期間T1における予熱)の時間を長くとると、ヒーター装置102における熱電素子のピーク時の表面温度は顕著に増加するが、燃焼室内の空気温度の変化に大きな差異は見られない。このことから、通電終了後のヒーター装置102の余熱を利用した予熱処理を充分に行えばヒーター装置102への通電時間を多少短くしても依然として充分なエンジン予熱効果が得られることを示唆している。また、図6(A)〜図6(D)を比較すると、再予熱処理におけるヒーター装置102への通電サイクルを長くとると、燃焼室内の空気温度の変動幅が大きくなり、通電サイクルを短くとると、燃焼室内の空気温度の変動幅が小さくなる。従って、再予熱処理による燃焼室内の空気温度を安定化させるには再予熱処理におけるヒーター装置102への通電サイクルを短くとるべきである。その反面、ヒーター装置102への通電サイクルを短くしすぎると、電流の頻繁なオンオフによりヒーター装置102内の熱電素子の寿命が短くなる恐れがあるため、ヒーター装置102への通電サイクルは適切な長さとすべきである。
次に、図5に示す第3期間T3において再予熱処理を行った場合と行わなかった場合のエンジン100の余熱効果の違いについて図7の実験結果を参照しながら説明する。図7において、横軸は時間を表し、縦軸は、エンジン100に繋がる排気ダクトの先端部付近で計測された空気温度を表す。図7に示す曲線グラフg71は、再予熱処理を実施する第3期間T3の長さを3分とし、ヒーター装置102への通電サイクルを10秒周期とした場合の温度変化を示す。図7に示す曲線グラフg72は、再予熱処理を実施する第3期間T3の長さを2分とし、ヒーター装置102への通電サイクルを10秒周期とした場合の温度変化を示す。図7に示す曲線グラフg73は、再予熱処理を実施する第3期間T3の長さを2分とし、ヒーター装置102への通電サイクルを15秒周期とした場合の温度変化を示す。なお、図7の区間t00は第1期間T1に相当し、区間t00においては、エンジン100の始動操作に先立つ予熱処理が行われている。
図7を参照すると、再予熱処理による燃焼室内の空気温度を安定化させるには再予熱処理におけるヒーター装置102への通電サイクルを短くとるべきであるのは図6を用いて上述したとおりである。また、図7を参照すると、再予熱処理を実施する第3期間T3を長くとった方が、燃焼室内の空気温度をより長期にわたって高く維持できることが実証されている。また、再予熱処理を全く行わなかった場合の燃焼室内の空気温度の変化を示す曲線グラフg74を再予熱処理を行った場合に対応する曲線グラフg71〜g73と比較すると、再予熱処理によりエンジン始動後の給気温度の低下が防止され、エンジン始動後もエンジン100の予熱処理が効果的に継続されていることが見て取れる。
以上より、本発明に係る幾つかの実施形態によれば、ヒーター装置102に耐用時間を越えて通電することができないという制限を克服して、ヒーター装置102によるエンジン100の予熱効果を向上させ、それによりエンジン100の始動性を向上させることができる。