JP6529245B2 - 硬化性樹脂組成物 - Google Patents

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本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、耐熱性、電気的特性などに優れ、特に電子材料分野に適した多価グリシジル化合物(以下、エポキシ化合物又はエポキシ樹脂と表記することがある)を含む硬化性樹脂組成物に関する。
グリシジル化合物(エポキシ樹脂)は電気特性、接着性、耐熱性などに優れており、塗料分野、土木分野、電気分野などの多くの用途で使用されている。特に、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などに代表される芳香族グリシジル化合物は、耐水性、接着性、機械物性、耐熱性、電気絶縁性、経済性などに優れており、種々の硬化剤と組み合わせて広く使用されている。
グリシジル化合物は、それを用いた硬化物の物性を向上させるため、目的物性に合うように分子設計される。分子設計にはグリシジル化合物骨格自体の構造設計に加え硬化剤などとの組み合わせの検討も含まれる。例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂においては、グリシジル化合物の重合度、分子量分布などを調整することで、熱硬化時の流動性を変化させたり、硬化物の耐熱性、接着性などを制御したりすることができる。
分子設計に関する一つの側面として、グリシジル基を1分子内に3つ以上有する多価グリシジル化合物は、グリシジル基を1分子内に2つ以下有するグリシジル化合物と比較して、それを用いた硬化物の耐熱性が向上することが知られている。これは、一分子あたりに含まれる反応性官能基の量が増加することで、グリシジル化合物及び必要に応じて硬化剤を含む組成物の硬化物中の単位体積当たりの架橋点が増加し、分子のミクロ運動が制御されるためである。また、組成物中のグリシジル基の密度が増加するとその硬化物中の水酸基などの極性部位が増加するため、金属、無機材料などの被着体と硬化物との接着性が向上することが知られている。
分子内の官能基密度が高いグリシジル化合物を得る方法として、例えば芳香環を有する化合物の芳香環骨格に2つ以上のグリシジル基を導入する方法が挙げられる。このような化合物として、1つの芳香環に2つ以上のグリシジルエーテル基を有する多価グリシジルエーテル化合物、フェノール部位に結合したグリシジルエーテル基に対しオルト位又はパラ位にグリシジル基を有する化合物などが挙げられる。グリシジルエーテル基はグリシジル基と酸素原子とが結合したものであるのでグリシジル基を含む。
フェノール部位に結合したグリシジルエーテル基に対しオルト位又はパラ位にグリシジル基を有する多価グリシジル化合物としては、例えば特許文献1(特開昭63−142019号公報)にビスフェノールFを基本骨格とする化合物が開示されている。
しかしながら、これまで開示されている、フェノール部位に結合したグリシジルエーテル基に対しオルト位又はパラ位にもグリシジル基を有する多価グリシジル化合物は、いずれもビスフェノールFに代表されるビスフェノール化合物又はビフェニル化合物に関するものである。また、これらの多価グリシジル化合物を含む硬化性樹脂組成物の物性に関しては詳述されていない。
特開昭63−142019号公報
本発明は、耐熱性に優れた硬化物が得られる、多価グリシジル化合物及び特定のフェノール系硬化剤を含む硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、基質として分子内の同一芳香環に結合したグリシジル基及びグリシジルエーテル基を有する多価グリシジル化合物を、特定のフェノール系硬化剤と併用して硬化することにより、耐熱性に優れた硬化物が得られることを見出した。すなわち、本発明は以下の実施態様を含む。
[1]分子内の同一芳香環に結合したグリシジル基及びグリシジルエーテル基を有する多価グリシジル化合物(A)と、フェノール性水酸基のオルト位に置換基を有さないフェノール系硬化剤(B)とを含む硬化性樹脂組成物。
[2]前記多価グリシジル化合物(A)が、一般式(1)で表される化合物であり、該化合物のエポキシ当量をE、その化合物の骨格を有し全てのR及びRが式(3)で表される基である化合物の理論エポキシ当量をErとするとき、E/Erが1.01〜1.60である[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
Figure 0006529245
(式中、R及びRは、各々独立して、下記式(2)又は(3)で表される基であり、Qは、各々独立して、式:−CR−で表されるアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基、炭素数6〜10の単独芳香環からなるアリーレン基若しくは2〜3の炭素数6〜10の芳香環が結合してなるアリーレン基、炭素数7〜12の二価の脂環式縮合環、又はこれらを組み合わせた二価基であり、R及びRは各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、nは0〜50の整数を表す。)
Figure 0006529245
Figure 0006529245
(式(2)中のR、R及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、式(3)中のR、R及びR10は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。)
[3]前記多価グリシジル化合物(A)が、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、フェノールノボラック、トリフェニルメタンフェノール、ビフェニルアラルキル型フェノール、フェニルアラルキル型フェノール、又は無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノール若しくは両端に−CH−が結合した無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノールのいずれかの基本骨格を有し、ORに対してRがオルト位又はパラ位に位置するグリシジル化合物である[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4]前記フェノール系硬化剤(B)がフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノール重合型樹脂、ベンズアルデヒド/フェノール重合型ノボラック樹脂、又はテルペン/フェノール重合型樹脂のいずれかである[1]〜[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[5]前記フェノール系硬化剤(B)がフェノールノボラック樹脂である[4]に記載の硬化性樹脂組成物。
[6]前記多価グリシジル化合物(A)におけるグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計に対する前記フェノール系硬化剤(B)における水酸基のモル比率(フェノール系硬化剤(B)の水酸基のモル数/[多価グリシジル化合物(A)のグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計モル数])が0.8〜1.0である[1]〜[5]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[7]硬化促進剤(C)をさらに含む[1]〜[6]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[8]充填材(D)をさらに含む[1]〜[7]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[9]前記充填材(D)が非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの混合物からなる群より選択される無機充填材である、[8]に記載の硬化性樹脂組成物。
[10]半導体封止用である[9]に記載の硬化性樹脂組成物。
本発明の多価グリシジル化合物と特定のフェノール系硬化剤を併用した硬化性樹脂組成物を用いることにより、樹脂中の架橋密度を増加させることができ、耐熱性、剛性、接着性などに優れた硬化物を得ることができる。従って、本発明の硬化性樹脂組成物は、半導体封止材、特に高い耐熱性が求められるパワー半導体封止材などに好適に用いることができる。
合成例2で得られた生成物のH−NMRスペクトルである。 合成例4で得られた生成物のH−NMRスペクトルである。 合成例6で得られた生成物のH−NMRスペクトルである。 DSCを用いて実施例1の硬化性樹脂組成物の発熱挙動を測定して求めた硬化反応速度とKamalモデル数式(1)とのフィッティングを示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の硬化性樹脂組成物は、分子内の同一芳香環に結合したグリシジル基及びグリシジルエーテル基を有する多価グリシジル化合物(A)と、フェノール性水酸基のオルト位に置換基を有さないフェノール系硬化剤(B)とを含むことを特徴とする。本明細書において「グリシジル基」とは、置換又は非置換のグリシジル基を意味し、「グリシジルエーテル基」とは、置換又は非置換のグリシジルエーテル基を意味する。
[多価グリシジル化合物(A)]
本発明の硬化性樹脂組成物に用いられる多価グリシジル化合物(A)は、分子内にグリシジル基及びグリシジルエーテル基の両方が結合された芳香環を少なくとも1つ有するものである。具体的には一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
Figure 0006529245
式中、R及びRは、各々独立して、下記式(2)又は(3)で表される基であり、Qは、各々独立して、式:−CR−で表されるアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基、炭素数6〜10の単独芳香環からなるアリーレン基若しくは2〜3の炭素数6〜10の芳香環が結合してなるアリーレン基(例えば、2つの芳香環が結合してなるアリーレン基としてビフェニル骨格を有するアリーレン基が、3つの芳香環が結合してなるアリーレン基としてトリフェニル骨格を有するアリーレン基が挙げられる)、炭素数7〜12の二価の脂環式縮合環、又はこれらを組み合わせた二価基であり、R及びRは各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、nは0〜50の整数を表す。
Figure 0006529245
Figure 0006529245
式(2)中のR、R及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、式(3)中のR、R及びR10は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。式(2)及び式(3)中の*は、酸素原子又は芳香環を構成する炭素原子との結合部であることを意味する。
硬化性樹脂組成物が一般式(1)で表される化合物を含み、その化合物のエポキシ当量をE、その化合物の骨格を有し全てのR及びRが式(3)で表される基である化合物の理論エポキシ当量をErとするとき、E/Erが1.01〜1.60であることが好ましい。本明細書において「エポキシ当量」とはグリシジル化合物の分子量を分子内に有するオキシラン環の数で割った数値を意味し、後述するエポキシ当量の測定方法により求められる。エポキシ当量比(E/Er)が1.60より大きいと硬化性樹脂組成物に使用したときに、硬化物の耐熱性の指標となるガラス転移温度(Tg)、機械的物性などの低下を招き、硬化性樹脂組成物の硬化速度にも悪影響を与えることがある。より好ましいエポキシ当量比(E/Er)は、1.40以下であり、さらに好ましくは1.20以下である。エポキシ当量比(E/Er)を1.01より小さくするためには精製に手間がかかるため、生産性を考慮するとエポキシ当量比(E/Er)はより好ましくは1.02以上であり、さらに好ましくは1.03以上である。
一例として硬化性樹脂組成物に含まれる一般式(1)で表される化合物が、nが1、繰り返し単位中のR及びRがともにアリル基(式(2)中のR〜Rが全て水素原子)、両端のR及びRがともにグリシジル基、(式(3)中のR〜R10が全て水素原子)、Qがメチレン基である場合について説明すると、この化合物のエポキシ当量がEに相当し、nが1、繰り返し単位中のR及びR並びに両端のR及びRが全てグリシジル基、Qがメチレン基である化合物のエポキシ当量が理論エポキシ当量Erに相当する。硬化性樹脂組成物に含まれる一般式(1)で表される化合物が、nが1、繰り返し単位中のR及びR並びに両端のR及びRが全てグリシジル基、Qがメチレン基である化合物であれば、E/Erは1となる。後述する多価グリシジル化合物の製造方法を用いると、反応生成物中には同一の基本骨格を有する一般式(1)で表される複数種(R及びRとして式(2)又は式(3)で表される基の数が異なる)の化合物が生成物に通常含まれる。その場合、エポキシ当量Eは複数種の化合物の混合物全体としてのエポキシ当量となる。
一般式(1)で表される化合物として、R及びRの好ましいものとしてはR〜R10が全て水素原子の式(2)又は式(3)で表される基が挙げられる。Qの好ましいものとしては、式:−CR−で表されるアルキレン基としてR及びRが各々独立して、水素原子、炭素数が1〜10のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基であるものが挙げられる。炭素数3〜12のシクロアルキレン基の好ましいものとしてはシクロヘキシリデン基、炭素数6〜10の単独芳香環からなるアリーレン基若しくは2〜3の炭素数6〜10の芳香環が結合してなるアリーレン基の好ましいものとしてはフェニレン基、及びビフェニルジイル基が挙げられる。炭素数7〜12の二価の脂環式縮合環の好ましいものとしては二価のテトラヒドロジシクロペンタジエン環が挙げられる。これらを組み合わせた二価基の好ましいものとしては、−CH−Ph−Ph−CH−基(本明細書においてPhは無置換のベンゼン環を意味する)、及び−CH−Ph−CH−基が挙げられる。好ましい具体的な化合物としては、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、フェノールノボラック、トリフェニルメタンフェノール、例えば−CH−Ph−Ph−CH−骨格を有するビフェニルアラルキル型フェノール、例えば−CH−Ph−CH−骨格を有するフェニルアラルキル型フェノール、又は無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノール若しくは両端に−CH−が結合した無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノールのいずれかの基本骨格を有し、ORに対してRがオルト位又はパラ位に位置するグリシジル化合物が製造上簡便でありより好ましい。
[多価グリシジル化合物の製造方法]
次に、本発明の硬化性樹脂組成物に用いる上記多価グリシジル化合物(A)の製造方法について説明する。本発明の多価グリシジル化合物の製造方法は特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。好ましい一方法として、同一芳香環に結合した2−アルケニル基と2−アルケニルエーテル基又はグリシジルエーテル基とを有する化合物の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合を、過酸化水素水溶液を酸化剤として用いて、触媒としてタングステン酸、第四級アンモニウム塩、及び少なくともリン酸を含む2種類以上の酸の存在下、酸化(グリシジル化)することで得ることができる。
上記酸化反応に用いられる反応基質は、分子内の同一芳香環に結合した2−アルケニル基と2−アルケニルエーテル基又はグリシジルエーテル基とを有する化合物であれば特に制限はないが、2−アルケニルエーテル基又はグリシジルエーテル基に対してオルト位又はパラ位に2−アルケニル基が位置する化合物が比較的容易に入手できる点で好ましい。例えば、好適な2−アルケニル化合物として以下の一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
Figure 0006529245
式中、R11は、各々独立して、下記式(5)又は(6)で表される基であり、R12は式(5)で表される基である。Qは、式:−CR1314−で表されるアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基、炭素数6〜10の単独芳香環からなるアリーレン基若しくは2〜3の炭素数6〜10の芳香環が結合してなるアリーレン基、炭素数7〜12の二価の脂環式縮合環、又はこれらを組み合わせた二価基であり、R13及びR14は各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、mは0〜50の整数を表す。
Figure 0006529245
Figure 0006529245
式(5)中のR15、R16及びR17は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、式(6)中のR18、R19及びR20は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。式(5)及び式(6)中の*は、酸素原子又は芳香環を構成する炭素原子との結合部であることを意味する。
上記一般式(4)で表される具体的な2−アルケニル化合物としては、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、フェノールノボラック、トリフェニルメタンフェノール、ビフェニルアラルキル型フェノール、フェニルアラルキル型フェノール、又は無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノール若しくは両端に−CH−が結合した無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノールのいずれかの基本骨格を有し、ORに対してRがオルト位又はパラ位に位置する2−アルケニル化合物が挙げられる。
一例として、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン(ビスフェノール−A)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノール−F)などのビスフェノール化合物、フェノール及びホルムアルデヒドをベースとしたノボラックなどの公知のポリフェノールを用い、これを相当する2−アルケニルエーテル化合物に変換した後、続けてクライゼン転位を経て、フェノール化合物に誘導化することによりフェノール性水酸基のオルト位又はパラ位に2−アルケニル基が位置する化合物を得ることができる。このフェノール化合物を再度相当する2−アルケニルエーテル化合物又はグリシジルエーテル化合物に変換することにより一般式(4)で表される化合物を得ることができる。
クライゼン転位後の2−アルケニルエーテル化合物への変換工程は、例えば米国特許第5578740号公報に記載されたカルボン酸アリルをアリル化剤として金属触媒を用いる方法が知られている。他にも、J. Muzartら, J. Organomet. Chem., 326, pp. C23−C28 (1987)などに金属触媒を用いてアリルエーテル体へと変換する方法が開示されている。これらの手法により、多価グリシジル化合物の原料となる2−アルケニル基をオルト位又はパラ位に有する2−アルケニルエーテル化合物を得ることができる。オルト位が2−アルケニル化されたフェノールのアリルエーテル化反応として、アリル化剤として酢酸アリル、アリルアルコール、炭酸アリル、カルバミン酸アリル、塩化アリルなどを用いる手法が挙げられるが、工業的に安価な、酢酸アリル又はアリルアルコールを用いることが好ましい。一方、クライゼン転位後グリシジルエーテル化合物への変換は、フェノール性水酸基とエピハロヒドリンを反応させることによって行うことができる。
2−アルケニルエーテル化又はグリシジルエーテル化において、生成物中の塩素含有量を低くする必要がある場合は、ハロゲン化2−アルケニル又はエピハロヒドリンの使用を回避することが好ましい。これらの使用を避けることによりハロゲン化2−アルケニル又はエピハロヒドリン由来のハロゲンコンタミを抑制することができる。この実施態様によれば、硬化性樹脂組成物を電気・電子材料分野などに利用した際に長期絶縁性などの電気的特性を改善する効果が期待できる。
上記多価グリシジル化合物の製造方法においては、反応基質である式(4)で表わされる2−アルケニル化合物の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合を、過酸化水素水溶液を酸化剤として用いて酸化(グリシジル化)する。過酸化水素水溶液の濃度には特に制限はないが、一般的には約1〜約80質量%、好ましくは約20〜約60質量%の範囲から選ばれる。工業的な生産性の観点、及び分離の際のエネルギーコストの点からは過酸化水素水溶液は高濃度のほうが好ましいが、一方で過度に高濃度の、及び/又は過剰量の過酸化水素水溶液を用いないほうが経済性、安全性などの観点で好ましい。
過酸化水素水溶液の総使用量は、反応基質の有する2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合に対して1.0〜5.0当量であり、好ましくは1.1〜3.0当量、より好ましくは1.2〜2.0当量である。1.0当量未満では理論上2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合の全てを酸化することができない。5.0当量より多いと過剰な酸化剤をクエンチするための還元剤が多量に必要となり、後処理工程が煩雑となる。反応液中の過酸化水素濃度は反応の進行に伴い減少する。この減少に対し追添補充することにより反応液中の過酸化水素濃度を約0.1〜約30質量%、より好ましくは約5〜約10質量%の範囲内に保持することが好ましい。0.1質量%より少ないと生産性が悪くなり、一方、30質量%より多いと溶媒と水の混合組成中での爆発性が高まり危険となる場合がある。
過酸化水素水溶液の反応液への添加は、添加開始から0.1〜2時間の範囲で行い、好ましくは0.5〜1.5時間の範囲で行う。過酸化水素水溶液の添加時間が長くなる(添加速度が遅い)と、系内の過酸化水素濃度が低下し、酸化反応の効率が低下するとともに、加水分解が競合して起こるおそれがある。なお、反応初期に反応液に多量の過酸化水素水溶液を一度に添加すると反応が急激に進行し危険な場合があるため、過酸化水素水溶液は反応液を撹拌しながら反応液の過酸化水素濃度について反応で消費されているのを確認しつつ滴下することにより加えることが好ましい。
過酸化水素水溶液の添加終了後も反応を継続することが好ましい。反応液を撹拌しながら反応を継続することが好ましく、撹拌には磁気撹拌子又は撹拌翼を有するスターラーを用いることが好ましい。撹拌速度は一般に100〜2000rpmの範囲であり、好ましくは300〜1500rpmの範囲である。反応液は、反応基質である2−アルケニル化合物単体、又は有機溶媒に溶解させた2−アルケニル化合物を含む有機相と、過酸化水素を含む水相の二相系であり、この二相がエマルジョン様となるよう撹拌することが好ましい。2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合の酸化(グリシジル化)反応の進行に伴い、グリシジル化合物が生成し、反応液の粘性は高まる。中間生成物又は最終生成物であるグリシジル化合物のグリシジル基の加水分解及びそれに起因するゲル状物の副生を防ぐため、過酸化水素水溶液の添加終了後、2〜6時間の範囲で反応を継続した後、撹拌及び加熱を停止して酸化反応を完了する。2時間未満で反応を停止すると、反応基質の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合が多数残留し、目的物の収率が低い。6時間より長く反応を継続すると、加水分解物が主生成物となり、場合によってはゲル状物が生成することから、反応液の後処理工程が煩雑となり、目的物の収率が低下する。
過酸化水素水溶液を用いた酸化(グリシジル化)は、タングステン化合物、第四級アンモニウム塩及び少なくともリン酸を含む2種類以上の酸を含む触媒の存在下で実施することができる。これらの化合物は比較的安価であるため、過酸化水素を酸化剤として用いた2−アルケニル化合物の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合の酸化を低コストで行うことができる。
触媒として用いるタングステン化合物としては、水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物が好適であり、例えば、タングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム一水和物及び二水和物、タングステン酸ナトリウム一水和物及び二水和物などが挙げられるが、タングステン酸、三酸化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム一水和物及び二水和物などが好ましい。これらタングステン化合物類は単独で使用しても2種以上を混合使用してもよい。
これらの水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物の触媒活性は、タングステン酸アニオン1モルに対して、約0.2〜約0.8モルの対カチオンが存在したほうが高い。このようなタングステン組成物の調製法としては、例えばタングステン酸とタングステン酸のアルカリ金属塩を、タングステン酸アニオンと対カチオンが前記比率となるように混合してもよいし、タングステン酸をアルカリ化合物(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩など)と混合するか、タングステン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩とリン酸、硫酸などの鉱酸のような酸性化合物を組み合わせてもよい。これらの好ましい具体例としては、タングステン酸ナトリウムとタングステン酸の混合物、タングステン酸ナトリウムと鉱酸の混合物、又はタングステン酸とアルカリ化合物の混合物が挙げられる。
タングステン化合物の触媒としての使用量は、タングステン元素について、反応基質である2−アルケニル化合物の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合に対して、約0.0001〜約20モル%、好ましくは約0.01〜約20モル%の範囲から選ばれる。
触媒として用いる第四級アンモニウム塩としては、その窒素原子に結合した置換基の炭素数の合計が6以上50以下、好ましくは10以上40以下の第四級有機アンモニウム塩が、酸化(グリシジル化)反応の活性が高くて好ましい。
第四級アンモニウム塩としては、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルエチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化トリカプリルメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムなどの塩化物;臭化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルエチルアンモニウム、臭化ジラウリルジメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、臭化トリカプリルメチルアンモニウム、臭化ジデシルジメチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウムなどの臭化物;ヨウ化トリオクチルメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルエチルアンモニウム、ヨウ化ジラウリルジメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ステアリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、ヨウ化トリカプリルメチルアンモニウム、ヨウ化ジデシルジメチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウムなどのヨウ化物;リン酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、リン酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、リン酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、リン酸水素化トリカプリルメチルアンモニウム、リン酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、リン酸水素化テトラブチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウムなどのリン酸水素化物;硫酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、硫酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、硫酸水素化トリカプリルメチルアンモニウム、硫酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、硫酸水素化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウムなどの硫酸水素化物などが挙げられる。
これらの第四級アンモニウム塩は、単独で使用しても2種以上を混合使用してもよい。その使用量は反応基質の2−アルケニル化合物の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合に対して約0.0001〜約10モル%が好ましく、より好ましくは約0.01〜約10モル%の範囲から選ばれる。
第四級アンモニウム塩として、対アニオンに塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを有する相間移動触媒を用いた場合には、生成物中のハロゲン化物の含有量が増加する。生成物中のハロゲンに由来する不純物を低減するために、特開2010−70480号公報などに開示されている第四級アンモニウム塩除去剤を用いることができる。ハロゲン系第四級アンモニウム塩を用いて酸化反応を実施することは可能であるが、第四級アンモニウム塩の除去工程が必要となるため、操作が煩雑となる。そのため、第四級アンモニウム塩としてリン酸水素化物又は硫酸水素化物を用いることが好ましく、硫酸水素化物を用いることがより好ましい。
本発明の多価グリシジル化合物の製造方法においては、助触媒としてリン酸を用いる。リン酸は、酸素原子が触媒金属であるタングステン金属中心に配位することで、活性種を生成する。また、リン酸以外の酸を併用することで、反応液のpHを1.0〜4.0に制御する。反応液のpHは1.2〜3.8であることが好ましく、1.4〜3.5であることがより好ましい。反応液のpHが4.0より高いと反応速度が低下するため生産性が低下し、一方、1.0より低い場合、グリシジル基の加水分解が進行して収率が低下する傾向がある。リン酸の使用量は反応基質の2−アルケニル化合物の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合に対して約0.1〜約10モル%が好ましく、より好ましくは約1〜約10モル%の範囲から選ばれる。
リン酸以外の酸としては鉱酸又は有機酸のいずれも用いることができる。鉱酸の例としては、ポリリン酸、ピロリン酸、スルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸、及びホウ酸が挙げられる。有機酸の例としては、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、及びトリフルオロ酢酸が挙げられる。その使用量は反応基質の2−アルケニル化合物の2−アルケニル基及び2−アルケニルエーテル基の炭素−炭素二重結合に対して約0.001〜約10モル%が好ましく、より好ましくは約0.01〜約10モル%の範囲から選ばれる。これらの酸の中でも緩衝効果が大きくpHを1.0〜4.0の範囲に保持しやすいため硫酸が好ましい。
酸化によるグリシジル化反応において、有機溶媒を用いないか必要に応じて有機溶媒を用いて、過酸化水素水溶液と前記した触媒とを混合し、反応基質の2−アルケニル化合物のグリシジル化反応を進行させることができる。溶媒を用いる場合には、反応速度が遅くなり、溶媒によっては加水分解反応などの望ましくない反応が進行しやすくなることがあるため、適切に選択する必要がある。反応基質の式(4)で表わされる2−アルケニル化合物の粘度があまりに高い場合や固体である場合には必要最小限の有機溶媒を用いてもよい。用いることができる有機溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、又は脂環式炭化水素が好ましく、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどが挙げられる。濃度については必要最小限の使用に留めた方が製造コストなどの点で有利であり、有機溶媒の使用量は2−アルケニル化合物100質量部に対して好ましくは約300質量部以下、より好ましくは約100質量部以下である。
また、酸化(グリシジル化)反応において、工業的に安定に生産を行うことを考えると、触媒と基質を最初に反応器に仕込み、反応温度を極力一定に保ちつつ、過酸化水素水溶液については反応で消費されているのを確認しながら、徐々に加えていった方がよい。このような方法を採れば、反応器内で過酸化水素が異常分解して酸素ガスが発生したとしても、過酸化水素の蓄積量が少なく圧力上昇を最小限に留めることができる。
反応温度があまりに高いと副反応が多くなり、低すぎる場合には過酸化水素の消費速度が遅くなり、反応液中に蓄積することがあるので、反応温度は、好ましくは約40〜約100℃、より好ましくは約50℃〜約80℃の範囲で制御する。過酸化水素水溶液の添加及び添加終了後の反応のいずれも上記温度範囲で行うことが好ましい。
反応終了後は、水層と有機層の比重差がほとんど無い場合があるが、その場合には水層に無機化合物の飽和水溶液を混合して、有機層と比重差をつけることにより有機抽出溶媒を使用しなくても二層分離を行うことができる。特にタングステン化合物の比重は重いので、水層を下層に持って来るために、本来触媒として必要な前記した使用量を超えるタングステン化合物を用いてもよい。この場合、水層からのタングステン化合物を再使用して、タングステン化合物の利用効率を高めることが好ましい。
また、逆に基質によっては有機層の比重が1.2近くとなるものもあるので、このような場合には水を追添して、水層の比重を1に近づけることにより、上層に水層、下層に有機層を持って来ることもできる。また、反応液の抽出にトルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、塩化メチレンなどの有機溶媒を用いて抽出を実施することもでき、状況に応じて最適な分離方法を選択することができる。
このようにして水層と分離した有機層を濃縮する、あるいは必要に応じて濃縮した後に、蒸留、クロマト分離、再結晶、昇華などの通常の方法によって、得られた多価グリシジル化合物を取り出すことができる。多価グリシジル化合物は、同一の基本骨格を有する一般式(1)で表される複数種(R及びRとして式(2)又は式(3)で表される基の数が異なる)の化合物が通常含有される混合物として得られる。この混合物は必要に応じて公知の分離方法を用いて各化合物に分離することもできるが、このまま本発明の硬化性樹脂組成物に適用することもできる。
[フェノール系硬化剤(B)]
本発明の硬化性樹脂組成物には、上記多価グリシジル化合物(混合物)(A)を硬化させるための硬化剤を併用する。本発明の硬化性樹脂組成物において使用する硬化剤は、フェノール性水酸基のオルト位に置換基を有さないフェノール系硬化剤である。
上記多価グリシジル化合物(A)はグリシジル基とグリシジルエーテル基が同一の芳香環に結合し、反応点同士の立体的距離が近いため、本発明の硬化性樹脂組成物に用いるフェノール系硬化剤として、フェノール性水酸基のオルト位に置換基を有さないものを用いる。フェノール性水酸基のオルト位に置換基を有する硬化剤を用いると、高い立体障害に起因して反応性が低下し、硬化物の耐熱性の低下を招く。
具体的なフェノール系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノール重合型樹脂、ベンズアルデヒド/フェノール重合型ノボラック樹脂、テルペン/フェノール重合型樹脂などの多価フェノール化合物が例示され、これらの中でもフェノール性水酸基近傍の立体障害が特に低いフェノールノボラック樹脂が好ましい。これらのフェノール系硬化剤と比べて、反応点のフェノール性水酸基のオルト位に置換基、例えばメチル基を有するクレゾールノボラック樹脂などのフェノール系硬化剤を用いると、高い立体障害に起因して反応性が低下する。後述するが、このことは、グリシジル化合物として1つの芳香環に1つのグリシジルエーテル基が結合している一般的なフェノールノボラック型グリシジル化合物をフェノール系硬化剤と併用する場合とは逆の傾向を示す。なお、フェノールノボラック樹脂などにおいて、隣接する芳香環を有するユニットと結合している部位がフェノール水酸基に対してオルト位に結合する場合もあるが、この部位は本明細書におけるフェノール性水酸基のオルト位の置換基には該当しない。本明細書におけるフェノール性水酸基のオルト位の置換基とは、クレゾールノボラック樹脂のメチル基のように基本骨格を構成する芳香環のうち一つのみに結合する基を意図する。
上記フェノール系硬化剤(B)の配合量は、多価グリシジル化合物(混合物)(A)のグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計に対するフェノール系硬化剤(B)の水酸基のモル比率(フェノール系硬化剤(B)の水酸基のモル数/[多価グリシジル化合物(A)のグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計モル数])が0.8〜1.0の範囲とすることが好ましい。上記モル比率はより好ましくは約0.85〜約0.99であり、さらに好ましくは約0.90〜約0.98である。上記モル比率が0.8より小さい場合、硬化後に未反応のグリシジル基及びグリシジルエーテル基が多数残り硬化物の耐熱性が低下する。一方、多価グリシジル化合物(A)のグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計がフェノール系硬化剤(B)の水酸基に対して化学量論的に少ない、すなわち上記モル比率が1.0を越える場合、硬化物のTgが低くなる傾向がある。
[硬化促進剤(C)]
本発明の硬化性樹脂組成物に、さらに硬化促進剤(C)を含有させることが、該組成物の硬化速度を向上させる観点から好ましい。硬化促進剤としては特に限定されず、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの第三級アミン及びそれらの塩;トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどのホスフィン;テトラブチルホスホニウムO,O−ジエチルホスホロジチオアート、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、トリフェニルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩;アミノトリアゾール類;オクチル酸スズ、ジブチルスズジラウレートなどのスズ化合物;オクチル酸亜鉛などの亜鉛化合物;アルミニウム、クロム、コバルト、ジルコニウムなどのアセチルアセトナト錯体などの金属触媒などが挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記硬化促進剤の配合量は特に限定されないが、硬化性樹脂組成物の硬化成分100質量部に対して、通常0.01〜5質量部である。配合量が0.01質量部未満であると、上記硬化促進剤を添加する効果が得られない傾向があり、5質量部を超えると、硬化物の着色、耐熱性、耐光性などの低下が生じることがある。配合量のより好ましい範囲は0.05〜1.5質量部である。
本明細書における「硬化性樹脂組成物の硬化成分」とは、上記多価グリシジル化合物(混合物)(A)及びフェノール系硬化剤(B)以外に、必要に応じて添加される硬化に寄与する他の成分、例えば上記多価グリシジル化合物(A)以外のエポキシ化合物を含んでもよい。すなわち、「硬化性樹脂組成物の硬化成分100質量部」とは、これら硬化性樹脂組成物中の硬化に寄与する成分の合計量が100質量部であることを意味する。
[充填材(D)]
本発明の硬化性樹脂組成物には充填材を配合してもよい。充填材の種類は用途により適宜選択される。例えば、本発明の硬化性樹脂組成物を半導体封止用途に使用する場合には、硬化物の熱膨張係数を低下させるために絶縁性である無機充填材を配合する。この無機充填材は特に限定されず、公知のものを使用することができる。
無機充填材として、具体的には、非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの粒子が挙げられる。低粘度化の観点からは、中でも真球状の非晶質シリカが望ましい。無機充填材は、シランカップリング剤などで表面処理が施されたものであってもよいが、表面処理が施されていなくもよい。これら無機充填材の平均粒径は0.1〜20μmであり、最大粒径が75μm以下、特に20μm以下のものが好ましい。平均粒径がこの範囲にあると硬化性樹脂組成物の粘度が過度に高くならず、該組成物の狭ピッチ配線部、狭ギャップ部などへの注入性も適切である。本明細書における「平均粒径」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50であり、「最大粒径」とは、粒子が球形であれば直径、楕円形状であれば長径、針状であれば長軸寸法、多角形状であれば最長の辺(三角形)又は最長の対角線(四角形以上)、その他の不定形状であれば最大寸法である。硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、用途に応じて適宜決定することができる。例えば、半導体封止用途では、硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は一般に50〜95質量%であり、好ましくは65〜90質量%である。
[その他の成分]
本発明の硬化性樹脂組成物は、接着性付与のためにカップリング剤を含有してもよい。カップリング剤は特に限定されず、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などが挙げられる。これらカップリング剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記カップリング剤の配合量は、硬化性樹脂組成物100質量部に対して、通常0.1〜5質量部である。0.1質量部未満であると、カップリング剤の配合効果が充分発揮されないことがあり、5質量部を超えると、余剰のカップリング剤が揮発し、硬化性樹脂組成物を硬化させたときに、膜減りなどを起こすことがある。
本発明の硬化性樹脂組成物は、該組成物の硬化物の耐熱性を改善するために酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は特に限定されず、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,5−ジ−tert−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤;亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリデシル、亜リン酸ノニルジフェニル、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイドなどのリン系酸化防止剤;ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、[4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル)]ビス(アルキルチオプロピオネート)などの硫黄系酸化防止剤;鉄、亜鉛、ニッケルなどの金属系酸化防止剤などが挙げられる。これら酸化防止剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記酸化防止剤の配合量は、硬化性樹脂組成物100質量部に対して、通常0.001〜2質量部である。0.001質量部未満であると、上記酸化防止剤の配合効果が充分発揮されないことがあり、2質量部を超えると、上記酸化防止剤が揮発し、硬化性樹脂組成物を硬化させたときに、膜減りなどを起こしたり、硬化物が脆くなったりすることがある。
本発明の硬化性樹脂組成物は、粘度を調節するために、シリカ微粉末、高分子量シリコーン樹脂などを含有していてもよい。特に、シリカ微粉末は、増粘性作用だけでなく、チキソ性付与剤としても働くため、本発明の硬化性樹脂組成物の流動性をコントロールできるためにより好ましい。
上記シリカ微粉末の平均粒径は特に限定されないが、好ましい範囲は0.1〜100nm、より好ましい範囲は1〜50nmである。LEDなどの光半導体封止に用いる場合には、100nmを超えると硬化性樹脂組成物の透明性が低下することがある。一方、ビルドアップ基板などの配線基板、アンダーフィルなどの半導体封止などの光を透過しない用途では硬化性樹脂組成物の透明性は問題とならない。
本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、消泡剤、着色剤、蛍光体、変性剤、レベリング剤、光拡散剤、難燃剤などの他の添加剤を含有してもよい。
本発明の硬化性樹脂組成物の調製方法は特に限定されず、各成分を所定の配合割合でポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサーなどの混合機に投入し、混合して、調製することができる。
調製時必要に応じて有機溶媒を混合し、均一になるまで混合した後、溶媒を揮発させてもよい。この際使用する有機溶媒は樹脂組成物中の有機成分(多価グリシジル化合物、フェノール系硬化剤、硬化促進剤など)の溶解性に従って適宜選択することができるが、除去作業が容易なアセトン、トルエン、THF、酢酸エチルなどを用いることが好ましい。酢酸などの酸性の強いものや、トリエチルアミン、ピリジンなどの塩基性のものはグリシジル基又は反応性水酸基と反応するため好ましくない。またジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの沸点の高いものは溶媒の残留が問題となるため好ましくない。溶媒を使用した場合は最後に溶媒を減圧下で除去して硬化性樹脂組成物を得ることが好ましい。
硬化性樹脂組成物の粉末化を行う場合は作業工程により発生した熱により樹脂が溶融しない方法であれば特に指定はないが、少量であればメノウ乳鉢を用いるのが簡便である。市販の粉砕機を利用する場合、粉砕に際して熱を発するものは混合物の溶融が起きるため好ましくない。粉末の粒径は約1mm以下であることが好ましい。
本発明の硬化性樹脂組成物は、熱硬化させることができる。熱硬化条件は、通常150〜250℃である。150℃より低い温度では硬化が十分に進行せず、250℃より高い温度では目的物が分解したり低分子量成分が揮発したりするなどの問題が生じるうえ、硬化に使用する設備への要求も厳しくなる。硬化するための加熱時間は0.5〜48時間の範囲とすることができる。この加熱は、複数回に分けて行ってもよい。特に高い硬化度を求める場合には、過度に高温で硬化することは好ましくなく、例えば温度を徐々に上げて硬化を進行させ、最終的な硬化温度を200℃以下とするのがよい。好ましくは180℃以下である。
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
合成例1:基質(4,4’−(ジメチルメチレン)ビス[2−(2−プロペニル)フェニルジアリルエーテル])の合成
500mL三口丸底フラスコに、炭酸カリウム(日本曹達株式会社製)138g(1.00mol)を純水125gに溶解した溶液、式(7)で表される4,4’−(ジメチルメチレン)ビス[2−(2−プロペニル)フェノール](大和化成株式会社製)80.6g(262mmol)、及び炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製)52.0g(0.500mol、固体のまま)を仕込み、反応器を窒素ガス置換し85℃に加熱した。窒素ガス気流下、酢酸アリル(昭和電工株式会社製)220g(2.19mol)、トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)2.62g(10.0mmol)、及び50%含水5%−Pd/C−STDタイプ(エヌ・イーケムキャット株式会社製)84.6mg(Pd原子量として0.0200mmol)を入れ、窒素ガス雰囲気中、105℃に昇温して4時間反応させた後、酢酸アリル22.0g(0.219mol)を追添し、加熱を12時間継続した。反応終了後、反応系を室温まで冷却したのち、純水を析出した塩がすべて溶解するまで加え、分液処理した。有機層を分離し、有機溶媒(70℃、50mmHg、2時間)を留去した。純水(200g)を添加した後、トルエン200gを加え、約80℃の温度に保持して白色沈殿が析出していないことを確認した後、Pd/Cを濾過(空孔径1ミクロンのメンブランフィルター(アドバンテック社製KST−142−JAを用いて加圧(0.3MPa))により回収した。この濾滓をトルエン100gで洗浄するとともに、水層を分離した。約50℃で有機層を水200gで2度洗浄し、水層が中性であることを確認した。有機層を分離後、減圧下、濃縮し、式(8)で表される4,4’−(ジメチルメチレン)ビス[2−(2−プロペニル)フェニルジアリルエーテル]を主成分とする褐色液体(93.6g,241mmol、92.0%収率)を得た。この褐色液体をH−NMR測定した結果、式(8)で表される化合物を主成分として含むことを確認した。式(8)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ1.66(6H,s,CH),δ3.39(4H,d,PhC CH=CH),δ4.95−5.55(4H,m,PhCHCH=C ),δ5.25(2H,d,PhOCHCH=CH),δ5.42(2H,d,PhOCHCH=CH),δ5.25(4H,m,PhOCH=CH,PhCH=CH),δ6.73(d,2H,aromatic),δ6.90−7.08(m,2H,aromatic),δ7.13−7.40(2H,m,aromatic).
Figure 0006529245
Figure 0006529245
合成例2:2,2−ビス(3−グリシジル−4−グリシジルオキシフェニル)プロパン(BATGと略記)の合成
200mL三口丸底フラスコに、上記合成例1で得られた4,4’−(ジメチルメチレン)ビス[2−(2−プロペニル)フェニルジアリルエーテル]18.1g(46.5mmol)、タングステン酸ナトリウム一水和物(日本無機化学工業株式会社製)1.53g(4.70mmol)、リン酸(和光純薬工業株式会社製)0.231g(2.35mmol)、硫酸(和光純薬工業株式会社製)0.230g(2.35mmol)、及び硫酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム(MTOAHS、旭化学工業株式会社製)2.17g(4.70mmol)を入れ、トルエン(純正化学株式会社製)18gに溶解させた。65℃まで昇温した後、35質量%過酸化水素水溶液(菱江化成株式会社製)51.1g(0.465mol)を1時間かけて撹拌しながら滴下し、70℃でさらに2時間撹拌(撹拌速度400rpm)した。反応初期において、反応液のpHは1.5であり、2時間反応後の反応液のpHは3.7であった。反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、水20gを加え分液処理した。有機層を分離し、亜硫酸ナトリウム水溶液(10質量%、和光純薬工業株式会社製)15gを加えて洗浄することで残存する過酸化水素を還元した。水層を除き、水20gを加えて再度洗浄した。有機層を単離し、有機溶媒(トルエン)を留去することによりエポキシ化合物のエポキシ当量比(E/Er=実測によるエポキシ当量/理論エポキシ当量)が1.05である生成物18.6g(41.0mmol、エポキシ当量119、収率88.2%)を得た。収率は、(上記後処理後、目的とするエポキシ化合物を含む混合物の取得量/反応率100%で酸化反応が進行した際に得られる物質量)×100)として算出した。生成物のエポキシ当量が式(9)で表される化合物の理論エポキシ当量と近いことから、生成物中にグリシジル基の加水分解物を殆ど含まないことが示唆される。この生成物をH−NMR測定した結果、式(9)で表される化合物を主成分として含むことを確認した。式(9)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。生成物のH−NMRスペクトルを図1に示す。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ1.64(6H,s,CH),δ2.54(2H,m,PhCHCHCHO),δ2.7−2.8(6H,m,PhC CHCHHO,PhCHCHCHO),δ2.90(4H,m,PhOC CHCHO),δ3.17(2H,m,PhOCHCHCHO),δ3.35(2H,m,PhOCHCHCHO),δ3.95(2H,m,PhCHCHO),δ4.24(2H,dd,PhOCHCHO),δ6.74(d,2H,aromatic),δ7.02−7.05(m,4H,aromatic).
Figure 0006529245
合成例3:基質(オルト位又はパラ位にアリル基を有するフェノールノボラック型アリルエーテル(BRG−556−AL2と略記)の合成
2000mLの3つ口型フラスコに、炭酸カリウム(日本曹達株式会社製)171.1g(1.24mol)を純水155.6gに溶解した溶液、式(10)で表されるフェノールノボラック(ショウノール(登録商標)BRG−556、o=2〜7)(昭和電工株式会社製)500.0g、及び炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製)65.61g(0.619mol、固体のまま)を仕込み、反応器を窒素ガス置換し85℃に加熱した。窒素ガス気流下、酢酸アリル(昭和電工株式会社製)272.7g(2.72mol)、トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)3.247g(12.4mmol)、及び50%含水5%−Pd/C−STDタイプ(エヌ・イーケムキャット株式会社製)0.105g(Pd原子量として0.0248mmol)を入れ、窒素ガス雰囲気中、105℃に昇温して4時間反応させた後、酢酸アリル27.3g(0.273mol)を追添し、加熱を12時間継続した。その後撹拌を停止し、静置することで有機層と水層の二層に分離した。析出している塩が溶解するまで、純水(200g)を添加した後、トルエン200gを加え、約80℃の温度に保持して白色沈殿が析出していないことを確認した後、Pd/Cを濾過(空孔径1ミクロンのメンブランフィルター(アドバンテック社製KST−142−JAを用いて加圧(0.3MPa))により回収した。この濾滓をトルエン100gで洗浄するとともに、水層を分離した。約50℃で有機層を水200gで2度洗浄し、水層が中性であることを確認した。有機層を分離後、減圧下、濃縮し、褐色油状物を得た(560g、定量的)。この褐色油状物をH−NMR測定した結果、式(11)で表されるフェノールノボラックアリルエーテル体(以下、BRG−556−ALと略記)を主成分として含むことを確認した。式(11)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ3.6−4.0(4H,m,PhCHPh),δ4.4−4.8(2H,m,C CH=CH),δ5.1−5.3(1H,m,CHCH=CH),δ5.3−5.5(1H,m,CHCH=CH),δ5.8−6.2(1H,m,CH=CH),δ6.6−7.3(12H,m,aromatic).
Figure 0006529245
Figure 0006529245
1000mLのナスフラスコに磁気撹拌子と、上記合成で得られたフェノールノボラックアリルエーテル体500gを入れ、窒素ガス雰囲気下、190℃で加熱した。3時間後、冷却し、黒色固体を得た(550g、定量的)。この黒色固体をH−NMR測定した結果、式(12)で表されるフェノールノボラックアリル置換体(以下、BRG−556−CLと略記)を主成分として含むことを確認した。式(12)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ3.2−3.4(2H,m,C CH=CH),δ3.6−4.0(5H,m,PhCHPh,OH),δ4.6−5.0(1H,m,CHCH=CH),δ5.0−5.3(1H,m,CHCH=CH),δ5.8−6.1(1H,m,CH=CH),δ6.6−7.2(12H,m,aromatic).
Figure 0006529245
合成例1における4,4’−(ジメチルメチレン)ビス[2−(2−プロペニル)フェノール]を上記合成で得られたフェノールノボラックアリル置換体(BRG−556−CL)に変更した以外は合成例1と同様に酢酸アリルを用いてオルト位又はパラ位にアリル基を有するフェノールノボラック型アリルエーテルを合成し茶褐色油状物を得た(収率92%)。この茶褐色油状物をH−NMR測定した結果、式(13)で表されるオルト位又はパラ位にアリル基を有するフェノールノボラック型アリルエーテル(以下、BRG−556−AL2と略記)を主成分として含むことを確認した。式(13)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ3.4−4.0(4H,m,PhOC CH=CH,PhC CH=CH),δ4.3−4.9(4H,m,PhCHPh),δ5.2−5.3(4H,m,PhOCHCHC=H,PhCHCH=CH),δ5.3−5.5(2H,m,PhOCHCHC=H,PhCHCH=CH),δ5.8−6.2(1H,m,PhOCHC=H,PhCH=CH),δ6.5−7.3(12H,m,aromatic).
Figure 0006529245
合成例4:オルト位又はパラ位にグリシジル基を有するフェノールノボラック型グリシジルエーテル化合物(BRG−556−EP2と略記)の合成
200mL三口丸底フラスコに、上記合成例3で得られたオルト位又はパラ位にアリル基を有するフェノールノボラック型アリルエーテル(BRG−556−AL2)20g(約106mmol)、タングステン酸ナトリウム一水和物3.48g(10.6mmol)、リン酸0.52g(5.27mmol)、硫酸0.51g(5.27mmol)、及びMTOAHS4.94g(10.6mmol)を入れ、トルエン20gに溶解させた。70℃まで昇温した後、35質量%過酸化水素水溶液61.7g(0.63mol)を1時間かけて撹拌しながら滴下し、70℃でさらに2時間撹拌(撹拌速度400rpm)した。反応初期において、反応液のpHは1.4であり、2時間反応後の反応液のpHは3.4であった。反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、水20gを加え分液処理した。有機層を分離し、亜硫酸ナトリウム水溶液(10質量%)20gを加えて洗浄することで残存する過酸化水素を還元した。水層を除き、水20gを加えて再度洗浄した。有機層を単離し、有機溶媒(トルエン)を留去した。エポキシ当量が141、エポキシ当量比(E/Er=実測によるエポキシ当量/理論エポキシ当量)が1.29である茶色高粘性油状物を15.3g(81.4mmol、収率76.5%)得た。この茶色高粘性油状物をH−NMR測定した結果、式(14)で表されるフェノールノボラック型多価グリシジル化合物を主成分として含むことを確認した。式(14)で表されるフェノールノボラック型多価グリシジル化合物は繰り返し単位oが2〜7の混合物であるが、エポキシ当量は繰り返し単位oに殆ど依存せず略一定であるため、o=5のときの化合物をモデル骨格とし、そのときの理論エポキシ当量109をErとして用いた。式(14)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。生成物のH−NMRスペクトルを図2に示す。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ2.5−2.8(2H,m,PhOC CHCHO),δ2.8−3.0(4H,m,PhC CHCHO,PhCHCHC O),δ3.1−3.4(2H,m,PhOCHCHC O),δ3.6−4.0(6H,m,PhCHPh,PhOCHCHO,PhCHCHO),δ6.6−7.2(12H,m,aromatic).
Figure 0006529245
合成例5:基質(オルト位又はパラ位にアリル基を有するトリフェニルメタンノボラック(フェノールとベンズアルデヒドの重縮合物)アリルエーテル(TRI−220−AL2と略記)の合成
原料としてショウノール(登録商標)BRG−556の代わりに式(15)で表されるトリフェニルメタンノボラック(ショウノール(登録商標)TRI−220、p=2〜7)(昭和電工株式会社製)500.0gを用いた以外は、合成例3のBRG−556−AL2と同様に三段階で基質を合成した。まず、第一の工程でトリフェニルメタンノボラックアリルエーテル体(以下、TRI−220−ALと略記)を合成し茶褐色油状物を得た(収率94%)。この茶褐色油状物をH−NMR測定した結果、式(16)で表されるトリフェニルメタンノボラックアリルエーテル体を主成分として含むことを確認した。式(16)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ3.2−3.4(2H,m,PhCHPh),δ4.5−4.6(2H,m,C CH=CH),δ5.2−5.3(1H,m,CHCH=CH),δ5.3−5.5(1H,m,CHCH=CH),δ6.0−6.1(1H,m,CH=CH),δ6.6−7.3(17H,m,aromatic).
Figure 0006529245
Figure 0006529245
上記、BRG−556−AL2の合成同様、第二の工程でトリフェニルメタンノボラックアリル置換体(以下、TRI−220−CLと略記)体を合成し褐色油状物を得た(収率98%)。この褐色油状物をH−NMR測定した結果、式(17)で表される化合物を主成分として含むことを確認した。式(17)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ3.2−3.4(2H,m,PhCHPh),δ4.8−4.9(1H,m,CHCH=CH),δ5.0−5.2(3H,m,CHCH=CH,CHCH=CH,CHCH=CH),δ5.8−6.1(1H,m,CH=CH),δ6.6−7.4(17H,m,aromatic).
Figure 0006529245
上記、BRG−556−AL2と同様、第三の工程でトリフェニルメタンノボラック型アリルエーテル(以下、TRI−220−AL2と略記)体を合成し褐色油状物を得た(収率98%)。この褐色油状物をH−NMR測定した結果、式(18)で表される化合物を主成分として含むことを確認した。式(18)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ2.6−2.9(2H,m,PhOC CH=CH),δ3.1−3.3(2H,m,PhCHPh),δ4.5−4.9(2H,m,PhCHCH=CH,PhOCHCH=CH),δ5.0−5.4(3H,m,PhCHCH=CH,PhOCHCH=CH,PhCHCH=C ,PhOCHCH=C ),δ5.8−6.1(2H,m,PhCH=CH,PhOCH=CH),δ6.6−7.3(17H,m,aromatic).
Figure 0006529245
合成例6:オルト位又はパラ位にグリシジル基を有するトリフェニルメタンノボラック(フェノールとベンズアルデヒドの重縮合物)グリシジルエーテル(TRI−220−EP2と略記)の合成
200mL三口丸底フラスコに、上記合成例5で得られたオルト位又はパラ位にアリル基を有するトリフェニルメタンノボラック型アリルエーテル(TRI−220−AL2)15g(約48mmol)、タングステン酸ナトリウム一水和物3.48g(10.6mmol)、リン酸0.52g(5.27mmol)、硫酸0.51g(5.27mmol)、及びMTOAHS4.94g(10.6mmol)を入れ、トルエン20gに溶解させた。70℃まで昇温した後、35質量%過酸化水素水溶液61.7g(0.63mol)を1時間かけて撹拌しながら滴下し、70℃でさらに2時間撹拌(撹拌速度400rpm)した。反応初期において、反応液のpHは1.4であり、2時間反応後の反応液のpHは3.4であった。反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、水20gを加え分液処理した。有機層を分離し、亜硫酸ナトリウム水溶液(10質量%)20gを加えて洗浄することで残存する過酸化水素を還元した。水層を除き、水20gを加えて再度洗浄した。有機層を単離し、有機溶媒(トルエン)を留去し、エポキシ当量が184、エポキシ当量比(E/Er=実測によるエポキシ当量/理論エポキシ当量)が1.29である茶色高粘性油状生成物を11.4g(36mmol、収率75.7%)得た。この茶色高粘性油状物をH−NMR測定した結果、式(19)で表されるトリフェニルメタンノボラック型多価グリシジル化合物を主成分として含むことを確認した。式(19)で表されるトリフェニルメタンノボラック型多価グリシジル化合物は繰り返し単位pが2〜7の混合物であるが、エポキシ当量は繰り返し単位pに殆ど依存せず略一定であるため、p=5のときの化合物をモデル骨格とし、そのときの理論エポキシ当量143をErとして用いた。式(19)で表される化合物に帰属する測定データは以下のとおりである。生成物のH−NMRスペクトルを図3に示す。
H−NMR{400MHz,CDCl,27℃},δ2.4−2.6(2H,m,PhOC CHCHO),δ2.6−2.8(4H,m,PhC CHCHO,PhCHCHC O),δ2.8−3.0(2H,m,PhOCHCHC O),δ3.0−3.3(2H,m,PhCHPh),δ3.8−4.0(2H,m,PhOCHCHO),δ4.1−4.3(2H,m,PhCHCHO),δ6.6−7.3(12H,m,aromatic).
Figure 0006529245
以下に硬化物の特性評価に使用した硬化性樹脂組成物の材料を記す。
・エポキシ樹脂1(本発明の多価グリシジル化合物(A)に相当)
合成例2に示すBATG
エポキシ当量119、全塩素含有量33ppm、粘度18.5mPa・s(150℃)
・エポキシ樹脂2(本発明の多価グリシジル化合物(A)に相当)
合成例4に示すBRG−556−EP2
エポキシ当量141、全塩素含有量48ppm、粘度168mPa・s(150℃)
・エポキシ樹脂3(本発明の多価グリシジル化合物に相当)
合成例6に示すTRI−220−EP2
エポキシ当量184、全塩素含有量42ppm、粘度242mPa・s(150℃)
・エポキシ樹脂4
市販ビスフェノールA型グリシジル化合物 JER828EL(三菱化学株式会社製)
エポキシ当量191、全塩素含有量302ppm、粘度12mPa・s
・エポキシ樹脂5
市販フェノールノボラック型グリシジル化合物 N740(DIC株式会社製)
エポキシ当量179、全塩素含有量1329ppm、粘度54mPa・s(150℃)
・フェノール系硬化剤1(本発明のフェノール系硬化剤(B)に相当)
ストレートノボラック BRG−556(昭和電工株式会社製)
水酸基当量103
・フェノール系硬化剤2(本発明のフェノール系硬化剤(B)に相当)
フェノール/サリチルアルデヒド重合型トリフェニルメタンノボラック
水酸基当量111
一般に広く知られた方法(例えば特開2012−193217号公報などに記載されている)に従って合成
・フェノール系硬化剤3(本発明のフェノール系硬化剤(B)に相当)
ナフトールノボラック SN395(新日鐵住金株式会社製)
水酸基当量110
・フェノール系硬化剤4
クレゾールノボラック CRG−951(昭和電工株式会社製)
水酸基当量118
・フェノール系硬化剤5
クレゾール/サリチルアルデヒド重合型トリフェニルメタンノボラック TRI−002(昭和電工株式会社製)
水酸基当量107
・硬化促進剤1(本発明の硬化促進剤(C)に相当)
市販トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)
・硬化促進剤2(本発明の硬化促進剤(C)に相当)
市販イミダゾール触媒 2E4MZ(四国化成工業株式会社製)
上記エポキシ樹脂のエポキシ当量、全塩素含有量、及び粘度、並びに硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、以下の方法により各々求めた。
<エポキシ当量>
エポキシ当量はJIS K 7236:2001に準拠して決定する。試料を0.1〜0.2g秤量し、三角フラスコに入れた後、クロロホルム10mLを加えて溶解させる。次に、酢酸20mLを加え、続いて臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液(臭化テトラエチルアンモニウム100gを酢酸400mLに溶解させたもの)10mLを加える。得られた溶液にクリスタルバイオレット指示薬を4〜6滴加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液で滴定し、滴定結果に基づいて、下記式に従いエポキシ当量を求める。
エポキシ当量(g/eq)=(1000×m)/{(V−V)×c}
m:試料の重量(g)
:空試験における終点までの滴定に消費した過塩素酸酢酸溶液の量(mL)
:終点までの滴定に消費した過塩素酸酢酸溶液の量(mL)
c:過塩素酸酢酸溶液の濃度(0.1mol/L)
<全塩素含有量>
全塩素含有量は、エポキシ樹脂を800℃以上の高温で燃焼・分解させ、その分解ガスを超純水に吸収させ、イオンクロマトグラフィーで定量することにより決定する。イオンクロマトグラフィーは、ダイオネクス社製IC−1000とIonPac AS12A(4mm)カラムから構成され、溶離液を0.3mM NaHCO/2.7mM NaCO水溶液として、流量1.5mL/minで測定する。
<粘度>
エポキシ樹脂の粘度は、レオメーター(Anton Paar製、MSR301)を使用しコーンプレート(Anton Paar社製、CP25−2、Part.No.79039)を用い以下の条件で測定することにより決定する。
温度:150℃
回転数:0.1rpm〜1000rpm
サンプル重量:約0.2g
<ガラス転移温度(Tg)>
熱機械測定(TMA)により測定する。エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS6100熱機械分析装置を使用し、温度範囲−10〜250℃、昇温速度5℃/min、荷重20.0mNの条件で5×5×5mmの試験片を用いて測定を行う。得られた膨張曲線における転移に基づく変曲点前後の直線領域で各々引いた2本の直線の外挿線の交点の温度をガラス転移温度とする。
表1に示す各成分を同表に示す割合で配合した。表中の「OH基/グリシジル基」はエポキシ樹脂のグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計に対するフェノール系硬化剤の水酸基のモル比率(フェノール系硬化剤の水酸基のモル数/[エポキシ樹脂のグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計モル数])を意味する。各成分を有機溶媒中(樹脂成分と同重量のアセトンを使用)に溶解させ、均一になるまで混合した後、溶媒をエバポレータ及び真空ポンプを用いて留去し混合物を得た。
上記に従い得られた混合物をメノウ乳鉢を用いて粉末状にした。粉末の粒径が1mm以下となるまで粉砕を行った。
得られた粉末を株式会社東洋精機製作所の加熱プレス機を用いて厚さ5mmの板状硬化物に成形した。型はテフロン(登録商標)板の中央部を四角く切り取ったものを用いた。150℃でプレス成形しそのまま150℃で1時間加熱処理した後オーブンを用いて200℃で2時間後硬化を行った。
得られた硬化物についてガラス転移温度(Tg)を測定した。得られた物性値を表1に示す。多価グリシジル化合物を使用した場合一般のグリシジル化合物と比べTgが高く良好な耐熱性を有することが示唆される。
Figure 0006529245
同じフェノール系硬化剤を使用して硬化物を作製した場合、本発明で適用される多価グリシジル化合物を用いると、グリシジルエーテル基のオルト位にグリシジル基を有さない一般のグリシジル化合物を用いた場合と比較し、高い耐熱性(ガラス転移温度Tg)を有することが示される。例えばビスフェノールAを基本骨格とする多価グリシジルエーテル化合物(エポキシ樹脂1)を用いた実施例1では、通常のビスフェノールAのグリシジルエーテル化合物(エポキシ樹脂4)を用いた比較例2に比べてTgが87℃向上した。同様にストレートノボラックを基本骨格に持つ多価グリシジルエーテル(エポキシ樹脂2)を用いた実施例2は、一般のストレートノボラックグリシジルエーテル化合物(エポキシ樹脂5)を用いた比較例5と比較して60℃高いTgが得られた。
フェノール系硬化剤の種類と得られた硬化物のTgの関係は、本発明の硬化性樹脂組成物に適用する多価グリシジル化合物(エポキシ樹脂1〜3)を用いた場合と、一般のグリシジル化合物(エポキシ樹脂4、5)を用いた場合とで傾向が異なる。一般のグリシジル化合物(エポキシ樹脂4、5)を用いた場合は、硬化剤(B)はより剛直な骨格である場合のほうが、耐熱性(Tg)が高くなる傾向がある。エポキシ樹脂4を用いた場合については比較例2と比較例3、エポキシ樹脂5を用いた場合については比較例5と比較例6の結果に現れている。それに対して本発明の硬化性樹脂組成物に適用する多価グリシジル化合物を用いた場合は、フェノール系硬化剤の水酸基に対してオルト位にメチル基を有するクレゾールノボラックと比較しメチル基を有さないストレートノボラックを用いた方が硬化物の耐熱性(Tg)が高くなっている。エポキシ樹脂1については実施例1と比較例1を見ると立体障害の小さいフェノール系硬化剤を用いた場合にTgが26℃高いことが分かる。同様にエポキシ樹脂2については実施例2と比較例4を見ると、立体障害の小さいフェノール系硬化剤を用いた場合にTgが18℃高いことが分かる。同様に反応性官能基(ヒドロキシ基)のオルト位にメチル基を有するクレゾール/サリチルアルデヒド重合型トリフェニルメタンノボラックを用いた場合より、メチル基を有さないフェノール/サリチルアルデヒド重合型トリフェニルメタンノボラックを硬化剤に用いた場合の方が高い耐熱性(Tg)を示している(実施例4と比較例7の比較)。これらの結果から、多価グリシジル化合物の官能基密度が高いため、フェノール系硬化剤の反応基周りの立体障害が大きくなるに従い反応性が低下していると考えられる。
実施例5〜7も同様に、本発明に適用する種々の種類の多価グリシジル化合物とフェノール系硬化剤を併用することにより耐熱性の良好な硬化物が得られることを示している。
上記立体障害の影響をエポキシ硬化反応についての定量的な評価から検討した。具体的には、アレニウスの式に基づくKamalモデル数式(1)を利用して定量を試みた。このモデル数式は例えばJournal of Polymer Science, Part B Polymer Physics 2004, 42, 20, 3701−3712、SENI GAKKAI Vol 68. No.4, 2012などに示されているように、エポキシ化合物の硬化反応を説明する際に広く用いられている。本モデル数式では下記数式(1)〜(3)の関係を用いて反応速度を算出する。
Figure 0006529245
Figure 0006529245
Figure 0006529245
式中、α:硬化率、m、n:反応次数、E、E:活性化エネルギー、A、A:頻度因子、R:気体定数、T:絶対温度、K、K:反応速度定数)である。硬化率αは示差走査型熱量測定(DSC測定)より求めることが可能である。具体的には100℃から250℃までの昇温速度を5、10、20、40℃/minとして反応熱を測定し、任意の温度Tまでの積分値を全ピークの積分値で割ることで計算できる。αに対してdα/dTをプロットすると山型の曲線が得られる。山形となるのは、温度が上がるにつれて反応速度が上昇するがある程度まで架橋が進行すると反応の支配が拡散律速に移行し反応速度が落ちるためである。得られたグラフについて表計算ソフト(例えばマイクロソフト社のEXCEL(登録商標)ソフトのソルバー機能)を用いてフィッティングを行うと上記数式1の各定数が概算できる。
DSCを用いて実施例1の硬化性樹脂組成物の発熱挙動を測定し、上記モデルに当てはめて得られた山形の曲線を図4に実測値として示す。また、表計算ソフトを用いて実測値とのフィッティングを行った結果の山形の曲線を図4に計算値として示す。フィッティングの結果から得られた数式(1)の各定数を表2に示す。
<示差走査型熱量測定(DSC測定)>
Neztch製DSC/示差走査型熱量測定装置を使用し、温度範囲30℃〜250℃、昇温速度5℃/min、10℃/min、20℃/min、40℃/minの条件で、アルミセルに10mgの試料を量り取り窒素ガス気流下で測定を行う。得られた発熱曲線の積分を計算し、上述のとおり解析に利用した。
Figure 0006529245
アレニウスの式である数式(2)及び数式(3)に、フィッティングより求めた各係数の計算結果を代入すると反応速度定数KとKが求まる。反応速度に対する樹脂の影響はKの項に反映されることが知られている。Kの値は0.042となる(温度は150℃(423K)で計算)。
上記の実験及び解析を比較例4についても行い反応速度定数Kを計算した結果0.007となり、この値は実施例1より比較例4の反応性が低いことを示唆する。
これらの結果は、先に述べたとおりフェノール系硬化剤の反応性水酸基のオルト位にメチル基を有するクレゾールノボラック(CRG−951)を用いた場合よりも、反応性水酸基のオルト位にメチル基を有さないBRG−556を用いた方が反応性が高く、硬化物の耐熱性が高くなる傾向を支持している。
本発明の多価グリシジル化合物と特定のフェノール系硬化剤を併用した硬化性樹脂組成物を用いることにより、樹脂中の架橋密度を増加させることができ、耐熱性、剛性、接着性などに優れた硬化物を得ることができる。従って、本発明の硬化性樹脂組成物は、半導体封止材、特に高い耐熱性が求められるパワー半導体封止材などに好適に用いることができる。

Claims (10)

  1. 分子内の同一芳香環に結合したグリシジル基及びグリシジルエーテル基を有する多価グリシジル化合物(A)と、フェノール性水酸基のオルト位に置換基を有さないフェノール系硬化剤(B)とを含む硬化性樹脂組成物であって、前記多価グリシジル化合物(A)が、一般式(1)で表される化合物であり、該化合物のエポキシ当量をE、その化合物の骨格を有し全てのR及びRが式(3)で表される基である化合物の理論エポキシ当量をErとするとき、E/Erが1.01〜1.40であり、前記一般式(1)においてnが1〜50の整数である、硬化性樹脂組成物。
    Figure 0006529245
    (式中、R及びRは、各々独立して、下記式(2)又は(3)で表される基であり、Qは、各々独立して、式:−CR−で表されるアルキレン基、炭素数3〜12のシクロアルキレン基、炭素数6〜10の単独芳香環からなるアリーレン基若しくは2〜3の炭素数6〜10の芳香環が結合してなるアリーレン基、炭素数7〜12の二価の脂環式縮合環、又はこれらを組み合わせた二価基であり、R及びRは各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であ。)
    Figure 0006529245
    Figure 0006529245
    (式(2)中のR、R及びRは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、式(3)中のR、R及びR10は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表す。)
  2. 前記多価グリシジル化合物(A)が、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、フェノールノボラック、トリフェニルメタンフェノール、ビフェニルアラルキル型フェノール、フェニルアラルキル型フェノール、又は無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノール若しくは両端に−CH−が結合した無置換のテトラヒドロジシクロペンタジエン骨格のフェノールのいずれかの基本骨格を有し、ORに対してRがオルト位又はパラ位に位置するグリシジル化合物である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
  3. 前記フェノール系硬化剤(B)がフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノール重合型樹脂、ベンズアルデヒド/フェノール重合型ノボラック樹脂、又はテルペン/フェノール重合型樹脂のいずれかである請求項1又は2のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
  4. 前記フェノール系硬化剤(B)がフェノールノボラック樹脂である請求項3に記載の硬化性樹脂組成物。
  5. 前記多価グリシジル化合物(A)におけるグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計に対する前記フェノール系硬化剤(B)における水酸基のモル比率(フェノール系硬化剤(B)の水酸基のモル数/[多価グリシジル化合物(A)のグリシジル基及びグリシジルエーテル基の合計モル数])が0.8〜1.0である請求項1〜4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
  6. 硬化促進剤(C)をさらに含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
  7. 充填材(D)をさらに含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
  8. 前記充填材(D)が非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの混合物からなる群より選択される無機充填材である、請求項7に記載の硬化性樹脂組成物。
  9. 半導体封止用である請求項8に記載の硬化性樹脂組成物。
  10. 前記E/Erが1.29以下である請求項1〜9のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
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