JP6523021B2 - 競合法による生体分子の検出又は定量方法、及び生体分子の検出又は定量装置 - Google Patents
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Description
かかる生体分子の検出法の特徴として下記の3点が挙げられる。
(1)判定までに要する時間が短く迅速な検査が可能である。
(2)検体を滴下するだけで測定でき操作が簡便である。
(3)特別な検出装置を必要とせず判定が容易である。
これらの特徴を利用して、前記の検出法は妊娠検査薬やインフルエンザ検査薬に用いられており、新たなPOCT(Point Of Care Testing)の手法として利用されている。また、食品検査においても、例えば食物アレルゲンの検査試薬等として広く利用され益々注目を集めている。
このうち競合法は、多孔質支持体に固定された捕捉物質と、標識試薬粒子及び標的物質とを競合的に接触させ、捕捉物質が固定化されている領域の標識試薬粒子由来の発色度に基づいて標的物質の濃度を定量する。競合法において標識試薬粒子及び標的物質が競合して捕捉物質が固定化されている領域に結合するので、標識試薬粒子由来の発色度は、標的物質の濃度が少ないほど上昇する。よって、競合法による検出方法では、サンドイッチ法では検出できないような極微量の低分子量の生体分子を検出することができる。
そこでこれまでに、各種生体分子検出用試験キットを用いた、競合法による生体分子の検出方法が提案されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
しかし、従来の競合法による生体分子の検出方法では、試験キットの構成部材の不均一性やばらつき、試験キットを流れる標識試薬粒子の流れのばらつきなどによって、定量した生体分子濃度に誤差が生じることがある。よって、従来の競合法による生体分子の検出方法には、検出対象物の定量性に問題があった。
さらに本発明は、試験キットの構成部材の不均一性やばらつき、試験キットを流れる標識試薬粒子の流れのばらつきによることなく、競合法により高感度及び高精度で生体分子を検出又は定量する、生体分子の検出又は定量装置を提供することを課題とする。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
(1)生体分子検出又は定量用試験キットを用いた、競合法による、分子量が40以上1,000以下の生体分子の検出又は定量方法であって、
前記生体分子検出又は定量用試験キットは、生体分子検出又は定量用の試験片と、生体分子検出又は定量用の、蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子を有し、
前記試験片は、生体分子と標識試薬粒子を捕捉する試験領域を有し、
検出対象である生体分子と競合する物質が前記標識試薬粒子の表面に導入されており、
生体分子を含む試料と前記標識試薬粒子の混合物を前記試験片に滴下し、
前記生体分子と競合して前記試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を測定し、
試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を、試験片を移動した標識試薬粒子量を示す測定値で補正し、
補正した数値に基づいて生体分子を検出又は定量する、
生体分子の検出又は定量方法。
(2)前記試験片に、生体分子との競合により前記試験領域に結合しなかった標識試薬粒子を捕捉する参照領域をさらに設けた、前記(1)項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
(3)試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値が、蛍光シリカナノ粒子からなる前記標識試薬粒子が結合した試験領域の発光強度である、前記(1)又は(2)項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
(4)試験片を移動した標識試薬粒子量を示す測定値が、試験領域の発光強度と、試験領域に結合しなかった蛍光シリカナノ粒子からなる前記標識試薬粒子が結合した参照領域の発光強度との合計値である、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
(5)試験領域の発光強度を、試験領域の発光強度と参照領域の発光強度の合計値で割り、試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を補正する、前記(4)項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
(6)前記参照領域に対する結合性を有する参照用物質が、前記標識試薬粒子の表面に導入されており、
前記参照用物質と前記参照領域との結合性により、前記試験領域に結合しなかった標識試薬粒子を前記参照領域に捕捉する、
前記(2)〜(5)のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
(7)前記標識試薬粒子において、標識試薬粒子の表面に導入された前記参照用物質を介して、標識試薬粒子と、生体分子と競合する物質が結合している、前記(6)項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
(8)前記参照用物質が、ウシ血清アルブミン、カゼイン、スカシガイヘモシアニン、ヒト血清アルブミン、卵白アルブミン、グロブリン、アビジン、及びストレプトアビジンからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質である、前記(6)又は(7)項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
(9)前記標識試薬粒子の平均粒径が30nm以上500nm以下である、前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
生体分子と蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子が互いに競合して結合する生体分子検出又は定量用の試験片の試験領域、に光を照射する、光照射部と、
前記試験領域に結合した蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部、
を備えた、生体分子の検出又は定量装置。
(11)生体分子との競合により前記試験領域に結合しなかった蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子を捕捉する参照領域に光を照射する、光照射部と、
前記参照領域に結合した蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部、
をさらに有する、前記(10)項に記載の生体分子の検出又は定量装置。
(12)試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部及び参照領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部が、標識試薬粒子が結合した試験領域又は参照領域の発光強度を測定し、測定した発光強度から結合した標識試薬粒子量を算出する、
前記(10)又は(11)項に記載の生体分子の検出又は定量装置。
(13)試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を、試験片を移動した標識試薬粒子量を示す測定値で補正する、補正手段をさらに有する、前記(10)〜(12)のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量装置。
さらに本発明の生体分子の検出又は定量装置は、試験キットの構成部材の不均一性やばらつき、試験キットを流れる標識試薬粒子の流れのばらつきによることなく、競合法により高感度及び高精度で生体分子を検出又は定量することができる。
また、本明細書において「結合」又は「連結」とは、複数のものが分離した状態から連続して一体となることを全般的に指し、共有結合やイオン結合、水素結合といった化学的な結合のほか、化学吸着や物理吸着、そのほか嵌合、螺合、咬合した物理的な連結状態等も含む意味である。ここで、「結合」又は「連結」とは、直接複数のものが結合しても、別のものを介して間接的に結合してもよい意味である。
さらに、本明細書において「検出」とは、定性的な検出や定量的な検出のみならず、その他の各種の測定や同定、分析、評価等を含む概念である。
以下、本発明の構成についてその好ましい実施形態を中心に詳述する。
本発明において、生体分子の検出又は定量は競合法により行う。ここで「競合法」とは、測定対象物質(標的物質)と標識試薬粒子との間で競合して、多孔質支持体に固定された捕捉物質により測定対象物質及び標識試薬粒子を捕捉する手法である。競合法において、測定対象物質に比べて標識試薬粒子の量が多いと、捕捉物質への標識試薬粒子の結合が優位となる。したがって、測定対象物質の量が少ないほど、捕捉物質が固定化されている領域の標識試薬粒子による標識度合が上昇する。一方、測定対象物質が多量に存在する場合捕捉物質への測定対象物質の結合が優位となるため、捕捉物質が固定されている領域の標識度合は低下する。競合法はこのようなメカニズムに基づくものであって、捕捉物質が固定されている領域の標識度合を測定し、測定対象物質濃度が増えるにしたがって標識度合が低下する現象を利用して、間接的に測定対象物質の濃度を定量する。
本発明において、検出対象物質(標的物質)としての生体分子に特に制限はなく、抗原、抗体、核酸、糖、糖鎖、リガンド、受容体、ペプチド、その他生体活性を有する化学物質等が挙げられる。
前述のように、本発明において生体分子の検出又は定量は競合法により行う。本発明において生体分子は、競合法による検出又は定量により生体分子を認識できる大きさであれば特に問題ない。例えば、本発明における検出対象物質としての生体分子の分子量は、40以上が好ましく、80以上がより好ましい。
また、一般に、サンドイッチ法による生体分子の検出方法は、低分子量の生体分子の検出には不向きである。これは、サンドイッチ法において、生体分子に2種類の抗体を結合させる必要があるからである。生体分子が小さい場合、1つの抗体が生体分子に結合すると、もう1つの抗体が他方の抗体の立体障害により結合できなくなる。したがって、低分子量の生体分子の検出又は定量を行う場合、競合法はサンドイッチ法に比べて相対的に優位な手法である。そこで、本発明の検出又は定量方法がサンドイッチ法よりも優位であるとする観点からは、生体分子は低分子量であることが好ましい。例えば、本発明における検出対象物質としての生体分子の分子量は、1,000以下が好ましく、500以下がより好ましい。しかしこのような分子量の範囲は、分子量が大きいものが競合法に不向きであることを示すものではない。
また、試料は液体であればそのまま用いることもできる。試料が半固形又は固形物等の場合には、希釈や抽出等の処理を施した後に用いることもできる。
本発明で用いる試験キットに含まれる試験片の形状に特に制限はないが、平面状の試験片であることが好ましく、ラテラルフロー用の試験片であることがより好ましい。
また、試験片の構造に特に制限はないが、試料添加用部材(サンプルパッド)と、生体分子と標識試薬粒子を競合的に捕捉する試験領域を有するメンブレンと、吸収パッドとが、この順でそれぞれ相互に毛細管現象が生じるように直列に連結している構造であることが好ましい。そして、各構成部材は粘着剤付きバッキングシートにより裏打ちされていることが好ましい。
以下、上記形状及び構造を有する試験片について、図1を参照しながら本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
サンプルパッド2は、生体分子を含む試料と標識試薬粒子の混合物を滴下する構成部材である。サンプルパッド2の材料や寸法等は特に限定されず、この種の製品に適用される一般的なものを利用することができる。
メンブレン3は、サンプルパッド2から毛細管現象により移動してきた生体分子と標識試薬粒子を捕捉するための構成部材である。
図1に示すように、メンブレン3には、少なくとも1つの試験領域10が設けられている。そして、生体分子と標識試薬粒子それぞれに対して特異的な結合性を有し、生体分子及び標識試薬粒子と競合的に複合体を形成しうる捕捉物質(以下、本明細書において「第1の捕捉物質」ともいう)が、試験領域10の所定の領域に導入されている。これにより、生体分子と標識試薬粒子が競合的に試験領域10へ捕捉される。
なお図1に示すように、生体分子と標識試薬粒子が毛細管現象により移動する方向に対して、試験領域10よりも下流に参照領域11を設けることが好ましい。
試験領域10に用いる第1の捕捉物質としては、標識試薬粒子と生体分子それぞれに対して特異的な結合性を有するものであれば特に制限はない。第1の捕捉物質と生体分子の組み合わせの例としては、抗体とその抗原の組み合わせ、抗原とその抗体の組み合わせ、核酸(DNAやRNA等)とストリンジェントな条件で該核酸とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの組み合わせ、受容体とそのリガンドの組み合わせ、リガンドとその受容体の組み合わせ、レクチンと糖鎖の組み合わせ、アプタマーと該アプタマーに特異的に結合する分子の組み合わせが挙げられる。
なお、本明細書において、「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
参照領域11に用いる第2の捕捉物質としては、生体分子に対して結合性を有さず、標識試薬粒子に対して特異的な結合性を有するものから、適宜選択することができる。具体的には、抗体、抗原、核酸、受容体、リガンド、糖鎖、アプタマーなどから適宜選択することができる。
以上の観点から、試験領域10の形状がライン状の場合、単位長さ(cm)当たりの第1の捕捉物質の固定化量は0.001μg以上が好ましく、0.01μg以上がより好ましく、10μg以下が好ましく、2μg以下がより好ましい。また、参照領域11における第2の捕捉物質の固定化量は、検出又は定量装置で標識試薬粒子を検出するために十分な量の粒子が結合し得る範囲であれば特に制限ない。例えば、参照領域11の形状がライン状の場合、単位長さ(cm)当たりの第2の捕捉物質の固定化量は0.1μg以上が好ましく、1μg以上がより好ましく、20μg以下が好ましく、5μg以下がより好ましい。
第1の捕捉物質及び第2の捕捉物質それぞれの固定化方法としては、各捕捉物質の溶液をメンブレン3の所定の領域に塗布、滴下又は噴霧後、乾燥して物理吸着により固定化する方法等が挙げられる。また、非特異的吸着による測定への影響を防止するため、各捕捉物質の固定化後にメンブレン3全体をいわゆるブロッキング処理を施してもよい。
吸収パッド4は、毛細管現象でメンブレン3を移動してきた溶液を吸収し、一定の流れを生じさせるための構成部材である。
前記粘着剤付きバッキングシート5としては、AR9020(商品名、Adhesives Research社製)等が挙げられる。
本発明で用いる標識試薬粒子としては、この種の試験キットに通常適用されるものを適宜使用することができる。例えば、蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子、吸光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子、蛍光ラテックスナノ粒子からなる標識試薬粒子、吸光ラテックスナノ粒子からなる標識試薬粒子、半導体微粒子からなる標識試薬粒子、金コロイド粒子からなる標識試薬粒子、放射性物質で標識した粒子が挙げられる。
本発明で用いる標識試薬粒子は、蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子が好ましい。蛍光シリカナノ粒子を用いた場合、蛍光検出装置により蛍光強度を容易に数値化でき、高感度及び高精度で生体分子を検出することができる。さらに、蛍光シリカナノ粒子の表面に様々な官能基を導入することができ、試験領域の発光が高輝度である。そのため、蛍光シリカナノ粒子を用いた場合、広い定量レンジで生体分子の検出を実現することができる。
以下、蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子について説明する。しかし、本発明はこれに限定するものではない。
蛍光色素を含有するシリカ粒子は、蛍光色素とシランカップリング剤とを反応させ、共有結合、イオン結合その他の化学的に結合若しくは吸着させて得られた生成物に1種又は2種以上のシラン化合物を縮重合させシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。これによりオルガノシロキサン成分とシロキサン成分とがシロキサン結合してなるシリカ粒子が得られる。1例としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する又は付加した蛍光色素と、それら活性基と対応して反応する置換基(例えば、アミノ基、水酸基、チオール基)を有するシランカップリング剤とを反応させ、共有結合させて得られた生成物に1又は2種以上のシラン化合物を縮重合させシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。
本発明において、前記平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した100個の標識試薬シリカ粒子の合計の投影面積から蛍光シリカナノ粒子の占有面積を画像処理装置によって求め、この合計の占有面積を、選択した蛍光シリカナノ粒子の個数(100個)で割った値に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)を求めたものである。
なお、前記平均粒径は、一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む概念の後述する「動的光散乱法による粒度」とは異なり、一次粒子のみからなる粒子の平均粒径である。
所望の平均粒径の蛍光シリカナノ粒子を得るためには、YM−10、YM−100(いずれも商品名、ミリポア社製)等の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行い、粒径が大きすぎたり小さすぎる粒子を除去するか、又は適切な重力加速度で遠心分離を行い、上清若しくは沈殿のみを回収することで可能である。
蛍光シリカナノ粒子は粒状物質として単分散であることが好ましい。蛍光シリカナノ粒子の粒度分布の変動係数、いわゆるCV値に特に制限はないが、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
動的光散乱法による粒度の測定装置としては、ゼータサイザーナノ(商品名;マルバーン社製)が挙げられる。この手法は、微粒子などの光散乱体による光散乱強度の時間変動を測定し、その自己相関関数から光散乱体のブラウン運動速度を計算し、その結果から光散乱体の粒度分布を導出するというものである。
生体分子と競合する物質は、生体分子と競合して、前記試験領域10に標識試薬粒子が結合しうるものであれば特に制限はなく、検出対象である生体分子や試験領域10に固定化する第1の捕捉物質などに応じて適宜選択することができる。なお、蛍光シリカナノ粒子の表面に導入する生体分子と競合する物質は、検出対象である生体分子と同種の物質であっても、異種の物質であってもよい。
本発明で好ましく用いることができる参照用物質に特に制限はない。具体的には、参照領域11に固定化した第2の捕捉物質に応じて、タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」ともいう)、カゼイン、スカシガイヘモシアニン、ヒト血清アルブミン、卵白アルブミン、グロブリン、アビジン、及びストレプトアビジンなど)、アミノ酸、タグペプチド(例えば、Hisタグ、FLAGタグなど)、抗体、核酸、糖鎖などから適宜選択することができる。
なお、生体分子と競合する物質及び参照用物質をそれぞれ蛍光シリカナノ粒子の表面に独立して導入してもよいし、生体分子と競合する物質及び参照用物質の複合体を蛍光シリカナノ粒子の表面に導入してもよい。本発明で好ましく用いることができる蛍光シリカナノ粒子は、その表面に参照用物質が結合しており、参照用物質を介して蛍光シリカナノ粒子と生体分子と競合する物質とが結合していることが好ましい。このような構成とすることで、蛍光シリカナノ粒子への生体分子と競合する物質の固定化の効率が向上する。さらに、蛍光シリカナノ粒子が試験領域に非特異的に吸着することを抑制し、生体分子の定量結果の精度をさらに向上させることができる。
反応性官能基を有するシランカップリング剤の具体例としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、MPS、APS、3-チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソチオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン、(-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが挙げられる。
反応性官能基がチオール基である場合は、蛍光シリカナノ粒子表面におけるチオール基の密度は0.002〜0.2個/nm2が好ましく、0.002〜0.1個/nm2がより好ましい。当該含色素シリカ粒子の表面に存在するチオール基の量Bは、DNTB(5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸))を試薬として用いて測定することができる。DNTBを用いたチオール基の定量法としては、例えば、Archives of Biochemistry and Biophysics, 82, 70(1959)の方法で行うことができる。具体的な方法の一例としては、リン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した10mMのDNTBの溶液20μLと、200mg/mLに調製したシリカ粒子コロイド2.5mLとを混合し、1時間後に412nmの吸光度を測定し、標準物質としてγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)を用いて作成した検量線から粒子表面に存在するチオール基量を定量することができる。
反応性官能基がチオール基である場合は、チオール基が導入された蛍光シリカナノ粒子と、マレイミド基及びカルボキシル基を有するリンカー分子とを非プロトン性溶媒中に共存させる。これにより、チオール基とマレイミド基との間でチオエーテル結合を形成させて、リンカー分子が結合した粒子を作製する。続いて、リンカー分子が結合した粒子と、カルボジイミドと、アミノ基を有するBSAとを水系溶媒中に共存させる。これにより、カルボジイミドにより活性エステル化されたリンカー分子のカルボキシル基と、BSAが有するアミノ基との間でアミド結合を形成させ、蛍光シリカナノ粒子とBSAとの複合体を形成する。
反応性官能基がアミノ基、カルボキシル基、ビニル基、エポキシ基、イソシアネート基である場合も、常法によりBSAと蛍光シリカナノ粒子との複合体を形成することができる。これらの方法は、例えば、特開2009−274923号公報、特開2009−162537号公報、特開2010−100542号公報等の記載を参照することができる。
本発明の生体分子の検出又は定量方法は、生体分子を含む試料と標識試薬粒子の混合物を試験片1に滴下し、生体分子と競合して試験領域10に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を測定し、試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を、試験片1を移動した標識試薬粒子量を示す測定値で補正し、補正した数値に基づいて生体分子を検出又は定量する。
以下、上記構成の生体分子の検出又は定量方法について、好ましい実施態様に基づいて説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
ここで、試験領域10の発光強度と、試験領域10に結合する粒子量の関係性を決定する。そして、決定した発光強度と粒子量との関係性と、実際に測定した試験領域10の発光強度から、試験領域10に結合した標識試薬粒子量を算出することができる。その結果、間接的に、試料に含まれる生体分子を定性的又は定量的に検出することができる。
汎用の蛍光検出器は、励起光源及びフィルタからなる。前記励起光源としては水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、レーザダイオード、発光ダイオードなどが挙げられる。前記フィルタは、励起光源から特定の波長の光のみを透過するフィルタであり、前記蛍光微粒子の蛍光波長、蛍光波長から適宜選択する。前記蛍光検出器は、蛍光を受光する光電子倍増管又はCCD検出器を備えていてもよい。これにより目視では確認できない強度ないしは波長の蛍光も検出でき、さらにはその蛍光強度を測定できる。
照射する励起光の波長は特に限定されないが、300nm以上が好ましく、400nm以上がより好ましく、500nm以上が特に好ましい。また、700nm以下が好ましく、600nm以下がより好ましく、550nm以下が特に好ましい。
蛍光の波長は350nm以上が好ましく、450nm以上がより好ましく、530nm以上が特に好ましい。また、800nm以下が好ましく、750nm以下がより好ましく、580nm以下が特に好ましい。
例えば、試験片1に、参照領域11を試験領域10よりも下流に設け、生体分子との競合により試験領域10に結合しなかった標識試薬粒子を参照領域11に結合させてもよい。そして、参照領域11に光を照射し、参照領域11の発光強度を測定し、試験領域10の発光強度と参照領域11の発光強度の合計値から、試験片を移動した標識試薬粒子量を算出することができる。
あるいは、試験片1に滴下する混合物中の標識試薬粒子の濃度を決定し、実際に試験片1に滴下した混合物の量から、試験片1を移動した標識試薬粒子量を算出することもできる。
本発明の生体分子の検出又は定量装置は、試験片1の試験領域10に光を照射する光照射部と、試験領域10に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部を備える。
本発明の生体分子の検出又は定量装置は、生体分子との競合により試験領域10に結合しなかった標識試薬粒子を捕捉する参照領域11に光を照射する光照射部と、参照領域11に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部をさらに備えていてもよい。
(1)蛍光シリカナノ粒子の調製
蛍光分子であるカルボキシローダミン6Gを含有する蛍光シリカナノ粒子を以下の方法で調製した。
5-(及び-6)-カルボキシローダミン6G・スクシンイミジルエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)31mgをジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解した。これにAPS(信越シリコーン社製)12μLを加え室温(23℃)で1時間反応を行い、5-(及び-6)-カルボキシローダミン6G−APS複合体(5mM)を得た。
反応終了後18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行い、上清を除去した。沈殿した粒子に蒸留水4mLを加え粒子を分散させ、再度18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行った。本洗浄操作をさらに2回繰り返し、分散液に含まれる未反応のTEOSやアンモニア等を除去した。
その結果、平均粒径271nmの蛍光分子を含有する蛍光シリカナノ粒子1.65gを得た(収率約94%)。
上記で得た蛍光シリカナノ粒子1gを水/エタノール=1/4の混合液150mLに分散させた。これにMPS(和光純薬社製)1.5mLを加えた。続いて28%アンモニア水20mLを加え、室温で4時間混合した。
得られたチオール基導入蛍光シリカナノ粒子A 500mgについて、DNTBを用いて導入されたチオール基の定量分析を行った。その結果、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aの粒子表面のチオール基の密度は、0.046個/nm2であった。
以下の方法により、チオール基を介して、前記チオール基導入蛍光シリカナノ粒子AにBSAを標識した参照用物質として結合させた。
チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aの分散液(濃度25mg/mL、分散媒:蒸留水)80μLにDMF420μLを加え、15000×gの重力加速度で10分遠心分離した。上清を除去し、DMFを500μL加え遠心分離し、上清を除去した。再度DMF500μLを加えチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aを分散させた。これにリンカー分子として3-マレイミド安息香酸1mgを加え30分混合した。このようにして、前記リンカー分子のマレイミド基とチオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aのチオール基との間でチオエーテル結合を形成させた。
15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。これに10mM KH2PO4(pH7.5)400μLを加え、粒子を分散させた。続いて15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。再度10mM KH2PO4(pH7.5)400μLを加え、粒子を分散させてコロイドを得た。
その結果、チオール基導入蛍光シリカナノ粒子A1gあたりのBSAの結合量は、14.6mgであった。
以下の方法により、BSAを介して、前記チオール基導入蛍光シリカナノ粒子Aにプロゲステロンを生体分子と競合する物質として結合させた。
BSA定量後に残ったコロイド200μLを15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。これに10mM KH2PO4(pH7.5)500μLを加え、粒子を分散させた。分散液を15000×gの重力加速度で10分遠心分離し、上清を除去した。続いて蒸留水を74.6μL加え粒子を分散させた。さらに0.5M MES(pH6.0)100μL、50mg/mL NHS230.4μL、19.2mg/mL EDC75μLを加え、よく混合した。
これにプロゲステロン−11α−ヘミコハク酸エステル(0.05mg/mL)20μLを加え、60分間混合した。
回収した上清液に含まれるプロゲステロンをELISA法により定量測定した結果、初期濃度からの減少分が0.13μgであった。すなわち、0.13μgのプロゲステロンが前記蛍光シリカナノ粒子に結合したことが分かった。これをチオール基導入蛍光シリカナノ粒子A 1nm2当たりで計算すると、プロゲステロンの結合量は1nm2あたり0.017個であった。
生体分子検出又は定量用テストストリップを以下の方法で作製した。
メンブレン3(丈25mm、商品名:Hi-Flow Plus180 メンブレン、MILLIPORE社製)の端から約8mmの位置に、幅約1mmの試験領域(テストライン)10として、ウサギ由来の抗プロゲステロンポリクローナル抗体(Sigma Aldrich社製)を1mg/mL含有する溶液((50mM KH2PO4、pH7.0)+5%スクロース)を0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
また、幅約1mmの参照領域(コントロールライン)11として、ウサギ由来の抗BSAポリクローナル抗体(ミリポア社製)を1mg/mL含有する溶液((50mM KH2PO4、pH7.0)シュガー・フリー)を0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
その後、50℃で30分乾燥させ、メンブレン3を作製した。なお、テストラインとコントロールラインとの間隔は5mmとした。
続いて、5mm幅、長さ60mmのストリップ状に切断し、生体分子検出又は定量用テストストリップ1を作製した。
表1に示す濃度で、プロゲステロン(Sigma Aldrich社製)の溶液を調製した。
続いて、プロゲステロン溶液100μLと、前記調製例1で作製した蛍光シリカナノ粒子のコロイド(2.5mg/mL)2μLを混合し、混合液をテストストリップ1のサンプルパッド2に滴下した。
15分後、下記検出装置を用いて、テストラインの発光強度(T)とコントロールラインの発光強度(C)を数値化した。さらに、テストラインの発光強度(T)をテストラインの発光強度(T)とコントロールラインの発光強度(C)の合計値で割った値(T/(T+C))を算出した。
その結果を表1に示す。
光源と光学フィルタと光電子倍増管(PMT)からなる検出ユニットを有し、該検出ユニットが、モーターによって一定速度で直線移動する機構を備え、PMTの受光強度を50μ秒ごとに記録する記録機構を備えた検出装置を作製した。なお、検出ユニットは、光源が532nmのレーザダイオードであり、レーザダイオードをサンプルに照射し、反射光を550nm以上の波長の光のみを透過する光学フィルタを透過させた後にPMTで受光する機構を有する。
そして図2及び3に示すそれぞれのグラフについて、決定係数を求めた。決定係数は、横軸をプロゲステロンの濃度(ng/mL)の常用対数、縦軸をテストラインの発光強度(a.u.)又は(T/(T+C))値とし、最小二乗法で一次式の回帰直線を作成することで算出した。その結果を表2に示す。
プロゲステロンの濃度が5ng/mLの溶液について、前記試験例1と同じ方法で10回試験を実施した。そして、テストラインの発光強度(T)の変動係数CV値(標準偏差/平均値)と、テストラインの発光強度をテストラインの発光強度とコントロールラインの発光強度の合計値で割った値(T/(T+C))の変動係数CV値(標準偏差/平均値)を算出した。その結果を表3に示す。
これに対し、テストラインの発光強度とコントロールラインの発光強度の和を、メンブレン3を移動した標識試薬粒子の流れを示す量として用い、この値でテストラインの発光強度Tの値を補正することで、試験キットの構成部材の不均一性やばらつき、標識試薬粒子の流れのばらつきがあっても、テストラインの発光強度と生体分子濃度との高い相関性が得られた。すなわち、本発明により、生体分子の検出精度を向上させることができる。
2 サンプルパッド
3 メンブレン
4 吸収パッド
5 バッキングシート
10 試験領域
11 参照領域
Claims (13)
- 生体分子検出又は定量用試験キットを用いた、競合法による、分子量が40以上1,000以下の生体分子の検出又は定量方法であって、
前記生体分子検出又は定量用試験キットは、生体分子検出又は定量用の試験片と、生体分子検出又は定量用の、蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子を有し、
前記試験片は、生体分子と標識試薬粒子を捕捉する試験領域を有し、
検出対象である生体分子と競合する物質が前記標識試薬粒子の表面に導入されており、
生体分子を含む試料と前記標識試薬粒子の混合物を前記試験片に滴下し、
前記生体分子と競合して前記試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を測定し、
試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を、試験片を移動した標識試薬粒子量を示す測定値で補正し、
補正した数値に基づいて生体分子を検出又は定量する、
生体分子の検出又は定量方法。 - 前記試験片に、生体分子との競合により前記試験領域に結合しなかった標識試薬粒子を捕捉する参照領域をさらに設けた、請求項1に記載の生体分子の検出又は定量方法。
- 試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値が、蛍光シリカナノ粒子からなる前記標識試薬粒子が結合した試験領域の発光強度である、請求項1又は2に記載の生体分子の検出又は定量方法。
- 試験片を移動した標識試薬粒子量を示す測定値が、試験領域の発光強度と、試験領域に結合しなかった蛍光シリカナノ粒子からなる前記標識試薬粒子が結合した参照領域の発光強度との合計値である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
- 試験領域の発光強度を、試験領域の発光強度と参照領域の発光強度の合計値で割り、試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を補正する、請求項4に記載の生体分子の検出又は定量方法。
- 前記参照領域に対する結合性を有する参照用物質が、前記標識試薬粒子の表面に導入されており、
前記参照用物質と前記参照領域との結合性により、前記試験領域に結合しなかった標識試薬粒子を前記参照領域に捕捉する、
請求項2〜5のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量方法。 - 前記標識試薬粒子において、標識試薬粒子の表面に導入された前記参照用物質を介して、標識試薬粒子と、生体分子と競合する物質が結合している、請求項6に記載の生体分子の検出又は定量方法。
- 前記参照用物質が、ウシ血清アルブミン、カゼイン、スカシガイヘモシアニン、ヒト血清アルブミン、卵白アルブミン、グロブリン、アビジン、及びストレプトアビジンからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質である、請求項6又は7に記載の生体分子の検出又は定量方法。
- 前記標識試薬粒子の平均粒径が30nm以上500nm以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量方法。
- 分子量が40以上1,000以下の生体分子の検出又は定量装置であって、
生体分子と蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子が互いに競合して結合する生体分子検出又は定量用の試験片の試験領域、に光を照射する、光照射部と、
前記試験領域に結合した蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部、
を備えた、生体分子の検出又は定量装置。 - 生体分子との競合により前記試験領域に結合しなかった蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子を捕捉する参照領域に光を照射する、光照射部と、
前記参照領域に結合した蛍光シリカナノ粒子からなる標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部、
をさらに有する、請求項10に記載の生体分子の検出又は定量装置。 - 試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部及び参照領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を検出する検出部が、標識試薬粒子が結合した試験領域又は参照領域の発光強度を測定し、測定した発光強度から結合した標識試薬粒子量を算出する、
請求項10又は11に記載の生体分子の検出又は定量装置。 - 試験領域に結合した標識試薬粒子量を示す測定値を、試験片を移動した標識試薬粒子量を示す測定値で補正する、補正手段をさらに有する、請求項10〜12のいずれか1項に記載の生体分子の検出又は定量装置。
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