JP6520762B2 - シートの帯電密着装置、シートの真空成膜装置、および薄膜付きシートの製造方法 - Google Patents

シートの帯電密着装置、シートの真空成膜装置、および薄膜付きシートの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、シートの帯電密着装置、シートの真空成膜装置、および薄膜付きシートの製造方法に関する。
従来から、プラスチックフィルムに例示される電気絶縁性シート上に薄膜を形成することにより、フィルムコンデンサや磁気記録テープ、包装用フィルム等の素材となる金属蒸着フィルムが製造されている。この製造には、例えば真空槽内で巻状物のプラスチックフィルムを巻き出し、薄膜形成した後に再び巻き取る巻取式蒸着装置が用いられる。
その概要について図7を用いて説明する。図7はプラスチックフィルムなどのシート上に連続的に薄膜を形成する薄膜形成装置の主要構成要素を示した図である。図7に示すように、長尺の電気絶縁性シート1は、原反ロール体2から繰り出され、シートの走行方向に沿って回転する円筒状シート案内面3に中間ローラ4、5によって所要の巻き付け角で巻き付いた状態で搬送され、巻取ロール体6として巻き取られる。電気絶縁性シート1がシート案内面3上に搬送される際に、蒸発源7の中にある蒸着材料8より蒸発した蒸気9がシート1上に付着し、薄膜10が形成される。なお蒸発には、例えば誘導加熱や抵抗加熱の原理を利用して蒸着材料を加熱する方式や、電子ビームを蒸着材料に照射して蒸着材料を加熱する方式がある。またシート案内面3は主にシート1をシワなく搬送する役目と、シート1が受けた熱負荷を効率よく逃がす役目を持つ。このためシート案内面3は、例えば公知の熱媒体の循環による温度制御により、所要の温度に制御される。
ところが、シート案内面3上のシート1が受ける熱負荷によりシート1の温度が過度に上昇した部位が大きい場合や、シート1とシート案内面3が接触していない部分がある場合には、シート1が熱変形(熱負け)を起こしてしまうことがある。特にシート案内面3上でシート1にしわが発生した場合、そのシワ発生部分がシート案内面3と接触しなくなり、そのシワの形状の熱変形(熱負け)を起こす場合がある。なおシート1が受ける主な熱負荷とは、この場合蒸発源7等から受ける輻射熱や、蒸着された薄膜10から受ける凝縮熱が挙げられる。
上記のような熱変形を起こさないようにするために、蒸着時にシート1の受けた熱を効率よくシート案内面3に逃がすべく、シート帯電用の直流電源14によってプラズマ発生手段16の筐体19とシート案内面3との間に10V以上1000V以下の電位差を与えて、プラズマ発生手段16から供給される荷電粒子のうちいずれかの極性の荷電粒子をシート1の薄膜形成面に誘導することにより、シート1の薄膜形成面とシート案内面3との間に働く静電気力でシート1をシート案内面3に強く貼り付かせる技術が用いられる。(特許文献1)。
また、図8に示すように、荷電粒子の供給源として電子線を照射する電子銃24を用いて、フィルムを帯電させる技術が用いられる。(特許文献2)。
特許第5056114号公報 特開2000−17440号公報
しかしながら、特許文献1に開示されている巻取式蒸着装置では、プラズマ発生手段16の荷電粒子放出口25からは、シート1の薄膜形成面を帯電させるのに必要十分な荷電粒子だけでなく、シート1の帯電に寄与しない余剰荷電粒子が大量に減圧室13内に放出されることが判った。減圧室13内に放出されて浮遊している余剰荷電粒子は、シート帯電用の直流電源14により与えられているプラズマ発生手段16の筐体19とシート案内面3の間の電位差により、加速されながら原子や分子などの中性子に衝突することで電離が加速され、空間の電子密度が急増して、いわゆる電子なだれにより火花放電を引き起こす場合がある。火花放電により発生した突発的な過電流はシート案内面3の金属部を経由してシート帯電用の直流電源14に流入し、電圧降下が生じることで、プラズマ発生手段16の筐体19とシート案内面3の間に与えている電位差を安定して維持出来なくなるだけでなく、過電流によりシート帯電用の直流電源14の故障を引き起こすこともある。
また、電気絶縁性シート1によって覆われていないシート案内面3の金属露出部周辺に大量の余剰荷電粒子が浮遊していると、シート案内面3の金属露出部と周囲の接地電位部材間の絶縁破壊電圧が低下し、シート案内面3に印加している電位差によって、定常的にグロー放電が発生することがある。グロー放電が発生すると、そのグロー放電で発生した正負極の荷電粒子が周囲に拡散し、帯電処理した直後のシート1の表面電荷を除電することで、シート1のシート案内面3に対する静電気力が弱まり、密着効果が不充分となる場合がある。
また、突発的な火花放電や定常的なグロー放電発生まで至らない場合においても、大量の余剰荷電粒子が、シート案内面3の金属露出部から、常にシート帯電用の直流電源14に流入してくるために、プラズマ発生手段16の筐体19とシート案内面3の間の電位差を維持するためには、定格電流の大きなシート帯電用の直流電源14を用いる必要があり、経済的な面から好ましくない。よって、減圧室13内に大量の余剰荷電粒子が無作為に浮遊している状態ではシート案内面3に電位差を安定的に印加することができず、シート1の薄膜形成面とシート案内面3との間に働く静電気力でシート1をシート案内面3に強く貼り付かせて、シート1の熱変形を抑制することが出来ない。
特許文献1の巻取式蒸着装置は、プラズマ放電領域27に多量に存在する荷電粒子を減圧室13内に極力放出しないようにするために、荷電粒子放出口25をシート1に近づけたり、荷電粒子放出口25の開口面積を調整するためのスリットやピンホールを設ける技術が用いられている。これらの技術はシート1の帯電に寄与しない余剰荷電粒子を、減圧室13内に放出しない役目も果たすと考えられる。
しかしながら、特許文献1で開示されている技術では、プラズマ放電領域27に多量に存在する荷電粒子を減圧室13内に極力放出しないように、荷電粒子放出口25がシート1に接触しない程度に、荷電粒子放出口25とシート1の距離を数ミリオーダーで近づけているが、本発明者の知見によると、荷電粒子放出口25の近傍には、プラズマ発生手段16にて生成した正負極の荷電粒子が多量に存在するため、シート1と放出口25の距離d1が近いと、帯電したシート1が除電される。これにより、シート1をシート案内面3に貼り付かせる効果が弱くなる問題が生じる。また、多量に存在する荷電粒子の影響で、突発的な火花放電も起こりやすくなる。
また、荷電粒子放出口25にスリットやピンホールを設ける場合は、それらの開口面積を小さくすることで一定の余剰荷電粒子の抑制効果は得られるものの、開口面積が小さ過ぎるとシート1の帯電に寄与する荷電粒子も放出されなくなる問題が生じる。また、これらの開口面積は、プラズマ放電領域27のガス圧力や放電出力などの放電条件に加えて、荷電粒子放出口25の汚染による電気抵抗値の変化によっても適宜調整する必要があり、安定的に帯電に寄与する荷電粒子のみを放出することは困難である。
更に、プラズマ発生手段16においてプラズマを生成するためのプラズマ用電源17の出力を低くして、プラズマ放電領域27内で生成する荷電粒子の総量を減らすことにより、シート1の帯電に寄与しない余剰荷電粒子の量を減らす手段もあるが、プラズマ放電を維持できる最低の放電出力程度でもシート1を帯電させるには十分すぎるほどの荷電粒子が生成され、余剰荷電粒子の低減には繋がらない。
また、特許文献2に開示されている荷電粒子の供給源である電子ビーム照射装置やイオンビーム照射装置は、一般的に数kVから数十kVの加速電圧を印加して電子またはイオンの荷電粒子をシート薄膜形成面に向けて照射するため、シートの表面状態が強く改質されてしまい、シート上に形成する薄膜の密着力低下を引き起こすことがある。
以上説明したように従来技術では、減圧室内に放出される余剰荷電粒子によって、プラズマ発生手段の筐体とシート案内面に電位差を与えて、安定的にシートをシート案内面に強く貼り付かせることが困難であった。また、数kVの高い加速電圧でシートに荷電粒子を照射することにより、シートの表面状態を改質させてしまう問題があった。
そこで本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、荷電粒子放出口とシート案内面の距離をプラズマの影響を受けない程度に離した状態で、漏れ出たシートの帯電に寄与しない余剰荷電粒子を減圧室内に無作為に拡散させないようにして、シートの表面状態を改質させずに、シート案内面に安定的に高い電位差を与えて、シートをシート案内面に強く貼り付かせることができるシートの帯電密着装置を提供する。さらに、本発明は、本発明のシートの帯電密着装置を用いたシートの真空成膜装置と、このシートの真空製膜装置を用いた薄膜付きシートの製造方法を提供する。
上記課題を解決する本発明のシートの薄膜形成装置は、減圧室と、この減圧室内の空気を排気する排気手段と、前記減圧室内に設置され、シートと接触しながらシートを搬送するシート案内面を有し、このシート案内面の移動に伴ってシートを搬送するシート搬送手段と、前記シート案内面上のシートを帯電させる帯電手段と、を備えたシートの帯電密着装置であって、
前記帯電手段が、プラズマ発生手段と、接地電位と前記シート案内面電位との間に10V以上1000V以下の電位差を付与できるシート帯電用の電位差付与手段と、で構成され、
前記プラズマ発生手段が、筐体と、この筐体の内部に設置されプラズマを発生させるプラズマ電極と、前記筐体の前記シート案内面と対向する位置に設けられプラズマで発生した荷電粒子を前記筐体の外部に放出するための放出口と、で構成され、
前記放出口よりもシート搬送方向の上流側と下流側にそれぞれ少なくとも1つずつ、上流側と下流側とで対となるように配置された一対の導電性部材であって、これらの前記シート案内面までの距離が搬送されるシートと前記放出口との距離よりも短くなるように配置された一対の第1の導電性部材を備えた、シートの帯電密着装置で構成されている。
上記課題を解決する本発明の薄膜付きシートの製造方法は、本発明のシートの薄膜形成装置を用い、減圧雰囲気下において、シート案内面に接触しながら搬送方向に搬送されている電気絶縁性シート上に、微粒子発生源から飛来させた微粒子を堆積させ、薄膜を形成する薄膜付きシートの製造方法であって、
プラズマ発生手段の内部の空気を排気口から排気しながら、シート案内面上のシート薄膜形成面に、プラズマ発生手段から供給される荷電粒子のうちいずれかの極性の荷電粒子を、前記プラズマ発生手段と前記シート案内面との間に10V以上1000V以下の電位差を付与し誘導することにより、前記シート薄膜形成面を帯電させた後、前記シート案内面上の前記シート薄膜形成面に前記薄膜を形成する。
本発明において「減圧雰囲気下」とは、本発明が適用される薄膜形成方法である真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長(PVD)法や化学的気相成長(CVD)法が好ましく適用される圧力である1,000Pa以下の圧力の環境のことをいう。
本発明が好ましく適用される電気絶縁性シートとして、代表的なものには、プラスチックフィルムや紙等のシートがある。特に電気絶縁性の高いプラスチックフィルムが本発明を適用するには好適である。プラスチックフィルムの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類や、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、ナイロンなどの高分子プラスチックフィルムなどが例示できるがこれらに限定されるものではない。また、プラスチックフィルムは単層でもよく、また2層以上の積層体フィルムでもよい。
本発明の薄膜形成方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長(PVD)法や化学的気相成長(CVD)法が挙げられる。中でも特に真空蒸着法は、成膜速度が数百nm/sと高く、その分シート搬送速度も数百m/分と速いため、シートに与える熱負荷やシートの冷却が難しいことなどから、本発明の対象としては好適である。
本発明において「微粒子」とは、前述の薄膜形成方法においてシート上に薄膜を形成する際にシート上に飛来し付着する薄膜材料をいう。例えば真空蒸着法においては、微粒子発生源、いわゆる蒸発源で加熱され蒸発した薄膜材料の蒸気粒子をいう。真空蒸着法の蒸発源としては、誘導加熱方式の他、抵抗加熱方式、電子ビーム方式などあるが、いずれでも適用可能である。
本発明において「シート案内面」とは、前述の薄膜形成方法においてシート上に薄膜を形成する際に、シートの薄膜形成面の反対面に接触しながらシートを搬送する薄膜形成装置の構成要素をいう。この「シート案内面」は主にシートをシワなく搬送する役目と、シートが受けた熱を効率よく逃がす役目を持つ。代表的なものとしては、図7に示すように円筒形状のものでこの軸を中心に回転しながらシートを搬送するものがある。安定した電位差をシート薄膜形成面とシート案内面の間に付与し、シートを静電気力によって効果的にシート案内面に密着させるためには、シート案内面の表面またはその近傍を、導電性とすることが好ましい。
本発明において「シート薄膜形成面」とは、シートが前述のシート案内面上で薄膜が形成される側の面をいう。薄膜の形成の有無に関わらず、形成される側の面をこのように呼ぶ。
本発明において「プラズマ発生手段」とは、減圧雰囲気下において、導電性の電極に直流、交流、矩形波などの電圧を印加して、電極周囲に存在する中性気体の一部を電子とイオンに電離させてグロー放電を発生させる装置のことをいい、特に電圧を印加する電極自体は赤熱や発光はせず、電極周囲の気体雰囲気のみをグロー放電させ発光させる原理のものを指す。
本発明において「交流電圧」とは、時間により電圧の大きさが常に変化する電圧のことをいう。時間とともに正弦波状に電圧値が変化するものが一般的であるが、この他にも矩形波状やパルス波状に電圧値が変化するものも例示される。
本発明において「荷電粒子」とは、プラズマ発生手段によって気体中の原子や分子などの中性子が電離して生成された、電荷を帯びたイオンや電子のことをいう。またこれらの電子やイオンが他の原子や分子に衝突、付着することによって副次的に発生する電子やイオンもこれに含まれる。
本発明における薄膜形成材料としては、特に限定されるものではなく、金属または金属アロイ、金属化合物などいずれでもよい。具体的には単体金属としては、Al、Cu、Zn、Co、Fe、Snが例示される。また、金属アロイとしては、Al−Zn、Al−Cu、Co−Cr、などが挙げられ、さらに金属化合物としては、AlOx、CuOx、ZnS、ZnO、SiOx、ITOなどが例示される。
本発明によれば、薄膜形成中における電気絶縁性シートの熱変形(熱負け)を抑制することができる、シートの帯電密着装置が提供される。さらには、本発明のシートの帯電密着装置を用いたシートの真空成膜装置と、このシートの真空成膜装置を用いた薄膜付きシートの製造方法が提供される。
本発明のシートの帯電密着装置を巻取式蒸着装置に適用した第1の実施形態の概略断面図である。 本発明のシートの帯電密着装置におけるプラズマ発生手段の概略断面図である。 本発明のシートの帯電密着装置における別態様のプラズマ発生手段の概略断面図である。 本発明のシートの帯電密着装置における別態様のプラズマ発生手段の概略断面図である。 本発明のシートの帯電密着装置における別態様のプラズマ発生源の概略断面図である。 本発明のシートの帯電密着装置における別態様のプラズマ発生源の概略断面図である。 従来の巻取式真空蒸着装置の概略断面図である。 従来の巻取式真空蒸着装置の概略断面図である。
以下、本発明の最良の実施形態の例を巻取式蒸着装置に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明のシートの帯電密着装置を巻取式蒸着装置に適用した第1の実施形態の概略断面図である。また図2は本発明のシートの帯電密着装置のプラズマ発生手段16を拡大した概略断面図である。なお、図7に示した従来技術である特許文献1の巻取式蒸着装置と同一または同等の機能を有する構成要素には同一番号を付け、詳細な説明を省略する。
図7に示した従来技術の装置との大きな相違点は、図1に示すように、本発明の帯電密着装置では、放出口25よりもシート搬送方向12の上流側と下流側にそれぞれ1つずつ対となるように一対の第1の導電性部材26が、プラズマ発生手段16の筐体19に備えられており、なおかつ第1の導電性部材26からシート案内面3までの距離d2が、シート1から放出口25までの距離d1よりも短くなるように配置されている点である。なお、図1の構成では第1の導電性部材26は一対のみ備えられているが、後述するように、本発明の帯電密着装置では、第1の導電性部材26は二対以上備えられていてもよい。また、図1の構成では第1の導電性部材26は筐体19に接しているが、後述するように、本発明の帯電密着装置では、第1の導電性部材26は筐体19に接していなくともよい。
プラズマ発生手段16の筐体19とシート案内面3に印加した電位差の極性に応じて、正負極の荷電粒子のいずれかをシート1に誘引し、シート1を帯電させている。荷電粒子放出口25の近傍には、プラズマ発生手段16にて生成した正負極の荷電粒子が多量に存在するため、シート1と放出口25の距離d1が近いと、帯電したシート1が除電される。これにより、シート1をシート案内面3に貼り付かせる効果が弱くなる問題が生じる。また、多量に存在する荷電粒子の影響で、突発的な火花放電も起こりやすくなる。そのため、シート1と放出口25の距離d1を離す必要があるが、距離d1を離すことにより余剰荷電粒子の拡散の影響が無視できなくなる。
そこで、本発明の帯電密着装置では、放出口25よりもシート搬送方向12の上流側と下流側にそれぞれ少なくとも1つずつ、上流側と下流側とで対となるように一対の第1の導電性部材26を配置し、さらに第1の導電性部材26からシート案内面3までの距離d2を、シート1から放出口25までの距離d1よりも短くなるようにする。シート1から放出口25までの距離d1を離すことで、帯電したシート1が除電されることや、突発的な火花放電の発生を抑制することができる。そして、シート1から放出口25までの距離d1を離したことで問題となる余剰荷電粒子の拡散も、第1の導電性部材26からシート案内面3までの距離d2を狭くすることで抑制できる。
放出口25から放出されたシート1の帯電に寄与しない余剰荷電粒子は、放出口25と、減圧室13内壁や中間ローラ4などの電気的に接地された部材との最短距離d3で働く電界強度(電界強度E=電位差V/距離d)に応じて誘導され、減圧室13内を拡散する。そこで、第1の導電性部材26からシート案内面3までの距離d2が、放出口25に最も近い電気的に接地された部材から放出口25までの距離d3よりも短くなるように、第1の導電性部材26を配置することが好ましい。距離d2を距離d3よりも短くすることによって、強い電界強度を第1の導電性部材26に働かせ、余剰荷電粒子を第1の導電性部材26で捕獲することができ、余剰荷電粒子の拡散を効果的に抑制できる。
また、シート案内面3と第1の導電性部材26との距離d2は、シート案内面3と第1の導電性部材26との間で働く電界強度が1V/mm以上となるように距離を保つことが好ましい。電界強度が1V/mm以上であれば、火花放電などが発生しにくいので、安定して筐体19とシート案内面3に電位差を付与できる。
また、シート1と放出口25の距離d1は、10mm以上離すことが好ましい。これは、10mm以上離すことで、帯電したシート1のプラズマによる除電が抑制されるためである。
特に薄膜形成が行われることが多い0.1Paから100Paの圧力範囲においてシート案内面3に300V以上の高い電位差を与える場合、シート1の帯電に必要な荷電粒子を多く減圧室内に放出する必要があり、それだけ余剰荷電粒子が発生しやすく、火花放電や定常的なグロー放電の発生頻度が高まるので、余剰荷電粒子の意図しない部分への拡散が抑制できる本発明の効果が顕著となる。
この第1の導電性部材26の構造は、板状構造物や円筒構造物などに限定されるものではなく、例えばメッシュなどの多孔質構造でも構わない。また、プラズマ発生手段16がシート1の幅方向に長さを持つ場合には、第1の導電性部材26をシート1の幅方向に分割して複数配置しても構わない。
余剰荷電粒子を多量に捕獲することによって、第1の導電性部材26が加熱される場合には、放出口25の変形やふく射熱によるシート1の熱負け防止のために、第1の導電性部材26に冷却水経路を設け、冷却水や油等の冷媒を流すことにより冷却しても構わない。
第1の導電性部材26は、余剰荷電粒子の拡散を抑制するために、筐体19に接して隙間無く配置されることが好ましい。筐体19と第1の導電性部材26の間に隙間があると、その隙間から余剰荷電粒子が漏れて、減圧室13に拡散する可能性があるためである。ただし、余剰荷電粒子の拡散が十分に抑制できるのであれば、第1の導電性部材26と筐体19との間に隙間があっても差し支えはない。
第1の導電性部材26は、放出口25よりもシート搬送方向12の上流側に2つ以上、下流側に2つ以上、上流側と下流側とで対となるように複数設けられていても構わない。第1の導電性部材26を複数設けることで、放出口26に最も近い1対目の第1の導電性部材26で捕獲できなかった荷電粒子が、その外側にある2対目以降の第1の導電性部材26で捕獲することができ、余剰荷電粒子の捕獲確率を更に高めることができる。
潤沢な荷電粒子を有するプラズマを荷電粒子供給源とすることにより、図8に記載した電子ビーム照射装置24を荷電粒子供給源とした、従来技術である特許文献2の巻取式成膜装置のように、数kVから数十kVの加速電圧を印加してシート1に荷電粒子を供給する装置と比較して、本発明の本発明の帯電密着装置は、1000V以下の低い電位差でも帯電に必要な荷電粒子をシート1に供給することが出来る。そのため、シート1への荷電粒子の照射によるシート表面状態の改質が起こりにくいため好ましい。なお、シート1表面状態の改質具合は、例えば蒸着を完了した電気絶縁性シート1の、薄膜が形成された領域を切り出し、はく離接着強さ試験方法(JIS K 6854−3)に準じてシートと薄膜の密着力の強弱を評価することで確認することができる。
プラズマ発生手段16において、放出口25以外の開口を設けない筐体19の内部にガスノズル23を設け放電に必要なガスを導入することにより、減圧室13のガス圧力を大幅に高めることなく、プラズマ電極18近傍のガス圧力を放電に適した圧力帯とすることができるため、好ましい。ガスノズル23から導入するガスは、酸素ガス、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等のガス種が選択でき、またこれらの混合ガスも好適に用いることができる。
プラズマ発生手段16に用いるプラズマ電極18は、プラズマ電極18の内部にプラズマ発生面の表面にマグネトロン磁場を形成するための磁石を備えたものが好ましい。これにより、シート1の幅方向に安定で均一なプラズマが形成させることができ、またプラズマ発生手段16の筐体19内において、プラズマ生成領域27を荷電粒子放出口25に近い場所に局在化して、低いプラズマ放電電力においても効率よく荷電粒子を放出することができる。
図3は本発明の帯電密着装置におけるプラズマ発生手段の別の一例を示す概略断面図である。図3の形態では、第1の導電性部材26に、接地電位との間に電位差を付与するための第1の電位差付与手段14bが設けられている。なお、筐体19に第1の導電性部材26を接触させて隙間無く取り付ける際は、絶縁性の部材28を挟んで、接地電位である筐体19と第1の導電性部材26を電気的に切り離す必要がある。
図1の形態では、荷電粒子放出口25の近傍に第1の導電性部材26を設けることで、第1の導電性部材26の電界強度を高めて余剰荷電粒子の拡散抑制を図っている。図3の形態では、第1の導電性部材26と接地電位との間に電位差を付与するための第1の電位差付与手段14bが備えられているため、第1の導電性部材26と荷電粒子放出口25との間の電界強度を効果的に高めることができる。このため、第1の導電性部材26における余剰荷電粒子の捕獲量が増加し、減圧室13への拡散抑制効果が高まるので好ましい。
第1の導電性部材26に接地電位に対して正極となる電位を付与した場合には、余剰荷電粒子のうちの余剰電子を効果的に捕獲することができる。第1の導電性部材26に接地電位に対して負極となる電位差を付与した場合は、余剰荷電粒子のうちの余剰イオンを効果的に捕獲することができる。プラズマ発生手段16の荷電粒子放出口25から誘引する荷電粒子の極性に応じて、第1の導電性部材26の極性を適宜調整することが好ましい。
第1の電位差付与手段14bで付与する電位差を、筐体19とシート案内面3との間に付与する電位差以下となるように制御することが好ましい。第1の導電性部材26に付与する電位差が、筐体19とシート案内面3との間に付与する電位差以下であると、シート1の帯電に必要な荷電粒子が第1の導電性部材26に捕獲されにくくなるので、シート1への帯電量が十分に得られる。なお、筐体19とシート案内面3との間に付与する電位差は、シート帯電用の電位差付与手段14を調整することで設定できる。
図4は本発明の帯電密着装置におけるプラズマ発生手段の別の一例を示す概略断面図である。図4のプラズマ発生手段には、一対の第1の導電性部材26を挟みこむように、第1の導電性部材26よりもシート搬送方向の上流側と下流側に1つずつ対となるように一対の第2の導電性部材26bが備えられている。そして、第1の導電性部材26には第1の電位差付与手段14bが備えられており、第2の導電性部材26bには、第2の導電性部材26bと接地電位との間に電位差を付与できる第2の電位差付与手段14cが備えられている。さらに、第1の電位差付与手段14bにより第1の導電性部材26に付与する電位と、第2の電位差付与手段14cにより第2の導電性部材26bに付与する電位とを、いずれも接地電位に対して正電位とし、第2の電位差付与手段14cにより付与する電位差を、第1の電位差付与手段14bにより付与する電位差以下としている。第1の導電性部材26に付与する電位差よりも、第2の導電性部材26bに付与する電位差を下げると、第1の導電性部材26と第2の導電性部材26bの間で電位差が生じることにより、第1の導電性部材26から第2の導電性部材26bに向かって電気力線が形成され、余剰電子が第1の導電性部材26に向かって押し戻されるため、余剰電子の拡散抑制効果に有効に働く。
また、第1の導電性部材26と第2の導電性部材26bの間の電位差は、電界強度が、1V/mm以上となるように制御することが好ましい。電界強度が1V/mm以上であると、余剰荷電粒子が電界により効果的に誘導される。
図5は本発明の帯電密着装置におけるプラズマ発生手段の別の一例を示す概略断面図である。第1の電位差付与手段14bにより第1の導電性部材26に付与する電位と、第2の電位差付与手段14cにより第2の導電性部材26bに付与する電位とを、いずれも接地電位に対して負電位とし、第2の電位差付与手段14cにより付与する電位差を、第1の電位差付与手段14bにより付与する電位差以上とする以外は、図4のプラズマ発生手段と同じ構成である。第1の導電性部材26に付与する電位差よりも、第2の導電性部材26bに付与する電位差を上げると、第1の導電性部材26と第2の導電性部材26bの間で電位差が生じることにより、第2の導電性部材26から第1の導電性部材26bに向かって電気力線が形成され、余剰イオンが第1の導電性部材26に向かって押し戻されるため、余剰イオンの拡散抑制効果に有効に働く。
また、第1の導電性部材26と第2の導電性部材26bの間の電位差は、電界強度が、1V/mm以上となるように制御することが好ましい。これは、電界強度が1V/mm以上であると、余剰荷電粒子が電界により効果的に誘導される。
図6は本発明の帯電密着装置におけるプラズマ発生手段の別の一例を示す概略断面図である。第1の電位差付与手段14bにより第1の導電性部材26に付与する電位を正電位とし、第2の電位差付与手段14cにより第2の導電性部材26bに付与する電位を負電位とする以外は、図4のプラズマ発生手段と同じ構成である。接地電位に対する第1の導電性部材26を正電位に、第2の導電性部材26bの電位を負電位と逆極性にすることにより、第1の導電性部材26と第2の導電性部材26bの間で生じる電位差が大きくなり、第1の導電性部材26から第2の導電性部材26bに向かって電気力線が形成され、余剰荷電粒子が第1の導電性部材26に向かって誘導される効果が強まるため、余剰荷電粒子の拡散を更に抑制できる。
一方、図6のプラズマ発生手段で、第1の電位差付与手段14bにより第1の導電性部材26に付与する電位を負電位とし、第2の電位差付与手段14cにより第2の導電性部材26bに付与する電位を正電位とすれば、第1の導電性部材26と第2の導電性部材26bの間で生じる電位差が大きくなり、第2の導電性部材26bから第1の導電性部材26に向かって電気力線が形成され、余剰イオンが第1の導電性部材26に向かって誘導される効果が強まるため、余剰イオンの拡散を更に抑制できる。
なお、図4、5および6の構成では、第2の導電性部材26bは一対のみ備えられているが、それぞれの構成での効果を妨げない限りにおいて、第2の導電性部材26bは二対以上備えられていてもよい。
本発明のシートの帯電密着装置は、電気絶縁性のプラスチックフィルムを対象とする巻取式真空蒸着装置に非常に好適に用いることができるが、スパッタ装置やCVD装置などにも用いることができ、その適用範囲が、これらに限られるものではない。
1 シート
2 原反ロール体
3 シート案内面
4 中間ローラ(巻出側)
5 中間ローラ(巻取側)
6 巻取ロール体
7 蒸発源(微粒子発生手段)
8 蒸着材料
9 蒸気
10 薄膜
11 接地
12 シート搬送方向
13 減圧室
14 シート帯電用の直流電源(シート帯電用の電位差付与手段)
14b 第1の直流電源(第1の電位差付与手段)
14c 第2の直流電源(第2の電位差付与手段)
15 電気抵抗
16 プラズマ発生手段
17 プラズマ用電源
18 プラズマ電極
19 プラズマ発生手段の筐体
20 真空ポンプ
21 バルブ
22 ガス導入経路
23 ガス導入ノズル
24 電子ビーム照射装置
25 荷電粒子放出口
26 第1の導電性部材
26b 第2の導電性部材
27 プラズマ放電領域
28 絶縁性部材

Claims (8)

  1. 減圧室と、この減圧室内の空気を排気する排気手段と、前記減圧室内に設置され、シートと接触しながらシートを搬送するシート案内面を有し、このシート案内面の移動に伴ってシートを搬送するシート搬送手段と、前記シート案内面上のシートを帯電させる帯電手段と、を備えたシートの帯電密着装置であって、
    前記帯電手段が、プラズマ発生手段と、接地電位と前記シート案内面電位との間に10V以上1000V以下の電位差を付与できるシート帯電用の電位差付与手段と、で構成され、
    前記プラズマ発生手段が、筐体と、この筐体の内部に設置されプラズマを発生させるプラズマ電極と、前記筐体の前記シート案内面と対向する位置に設けられプラズマで発生した荷電粒子を前記筐体の外部に放出するための放出口と、で構成され、
    前記放出口よりもシート搬送方向の上流側と下流側にそれぞれ少なくとも1つずつ、上流側と下流側とで対となるように配置された一対の導電性部材であって、これらの前記シート案内面までの距離が搬送されるシートから前記放出口までの距離よりも短くなるように配置された一対の第1の導電性部材を備え
    前記第1の導電性部材と接地電位との間に電位差を付与できる第1の電位差付与手段を備えた、シートの帯電密着装置。
  2. 前記第1の導電性部材から前記シート案内面までの距離が、前記放出口に最も近い電気的に接地された部材から放出口までの距離よりも短くなるように、前記第1の導電性部材が配置された、請求項1のシートの帯電密着装置。
  3. 前記第1の電位差付与手段により付与された電位差が、前記シート案内面と接地電位との間に付与された電位差以下である、請求項1または2のシートの帯電密着装置。
  4. 前記一対の第1の導電性部材を挟みこむように、第1の導電性部材よりもシート搬送方向の上流側と下流側にそれぞれ少なくとも1つずつ、上流側と下流側とで対となるように配置された一対の導電性部材であって、これら導電性部材と接地電位との間に電位差を付与できる第2の電位差付与手段を有する一対の第2の導電性部材を備え、
    前記第1の電位差付与手段により前記第1の導電性部材に付与された電位と、前記第2の電位差付与手段により前記第2の導電性部材に付与された電位とが、いずれも接地電位に対して正電位であり、
    前記第2の電位差付与手段により付与された電位差が、前記第1の電位差付与手段により付与された電位差以下である、請求項のシートの帯電密着装置。
  5. 前記一対の第1の導電性部材を挟みこむように、第1の導電性部材よりもシート搬送方向の上流側と下流側にそれぞれ少なくとも1つずつ、上流側と下流側とで対となるように配置された一対の導電性部材であって、これら導電性部材と接地電位との間に電位差を付与できる第2の電位差付与手段を有する一対の第2の導電性部材を備え、
    前記第1の電位差付与手段により前記第1の導電性部材に付与された電位と、前記第2の電位差付与手段により前記第2の導電性部材に付与された電位とが、いずれも接地電位に対して負電位であり、
    前記第2の電位差付与手段により付与された電位差が、前記第1の電位差付与手段により付与された電位差以上である、請求項のシートの帯電密着装置。
  6. 前記一対の第1の導電性部材を挟みこむように、第1の導電性部材よりもシート搬送方向の上流側と下流側にそれぞれ少なくとも1つずつ、上流側と下流側とで対となるように配置された一対の導電性部材であって、これら導電性部材と接地電位との間に電位差を付与できる第2の電位差付与手段を有する一対の第2の導電性部材を備え、
    前記第1の電位差付与手段により前記第1の導電性部材に付与された電位と、前記第2の電位差付与手段により前記第2の導電性部材に付与された電位とが、逆極性である、請求項のシートの帯電密着装置。
  7. 請求項1〜のいずれかのシートの帯電密着装置を用いたシートの真空成膜装置であって、
    前記プラズマ発生手段よりもシート搬送方向下流側に、前記シート案内面に接触しながら搬送されるシート上に薄膜を形成するために前記シートに向かって微粒子を飛散させる微粒子発生源が配置された、シートの真空成膜装置。
  8. 請求項のシートの真空成膜装置を用い、減圧雰囲気下において、前記シート案内面に接触しながら搬送方向に搬送されている電気絶縁性シート上に、前記微粒子発生源から飛来させた微粒子を堆積させ、薄膜を形成する薄膜付きシートの製造方法であって、
    前記シート案内面上のシート薄膜形成面に、前記プラズマ発生手段から供給される荷電粒子のうちいずれかの極性の荷電粒子を、接地電位と前記シート案内面電位との電位差が10V以上1000V以下となるよう電位差を付与し誘導することにより、前記シート薄膜形成面を帯電させた後、前記シート案内面上の前記シート薄膜形成面に前記薄膜を形成する薄膜付きシートの製造方法。
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