以下、図面を参照しながら、電動車両100に搭載された本発明の実施形態のバッテリ放電制御装置40について説明する。電動車両100は、バッテリ10と、正極ライン11と負極ライン12を介してバッテリ10に接続されたインバータ13と、インバータ13によって駆動制御される車両駆動用モータであるモータジェネレータ14と、インバータ13およびモータジェネレータ14の動作を制御するECU60と、バッテリ10の放電を制御するバッテリ放電制御装置40とを含んでいる。
バッテリ10には、電圧値Vbを検出する電圧センサ31と、温度Tbを検出する温度センサ33が取り付けられている。また、正極ライン11には、バッテリ10の電流値Ibを検出する電流センサ32が取り付けられている。電圧センサ31、電流センサ32、温度センサ33の各検出信号はバッテリ放電制御装置40に入力される。
バッテリ10は、リチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池である。モータジェネレータ14は、バッテリ10から出力された電力を受けて電動車両100を駆動し、電動車両100の制動時に発生する運動エネルギを電力に変換してバッテリ10に充電する。したがって、電動車両100の走行中には、バッテリ10は、充放電を繰り返すことになる。なお、バッテリ10からの電流値Ibは、放電電流を正(+)、充電電流を負(−)とする。
バッテリ放電制御装置40は、内部に情報処理や演算を行うCPU41と、制御プログラム、制御データ等を格納するメモリ42と、電圧センサ31、電流センサ32、温度センサ33が接続されるセンサインターフェース43とを備え、CPU41とメモリ42とセンサインターフェース43の間が相互にデータバス44によって接続されているコンピュータである。また、ECU60も内部に情報処理や演算を行うCPUと制御プログラム、制御データ等を格納するメモリとを含むコンピュータである。ECU60は、バッテリ放電制御装置40の上位の制御装置であり、バッテリ放電制御装置40とはデータバス45で接続されており、相互にデータを交換できるように構成されている。
メモリ42の中には、後で説明する図4に示す忘却係数αのマップと、図5に示す限界閾値c0のマップ、図6に示す劣化進行指標値ΣDに対する放電可能電力のマップの他、電流係数βのマップ、減衰係数γ、補正係数η、目標値E等のデータが格納されている。
次に、図2を参照しながら本実施形態のバッテリ放電制御装置40の機能ブロックについて説明する。図2に示すように、本実施形態のバッテリ放電制御装置40は、劣化指標算出部51と、第1電力算出部52と、第2電力算出部53と、最大放電可能電力設定部54とを含んでいる。
劣化指標算出部51は、電圧センサ31、電流センサ32、温度センサ33によって検出したバッテリ10の電圧値Vb、電流値Ib、温度Tbおよびメモリ42に格納されたマップおよびデータに基づいてバッテリ10の充放電によるダメージ量Dを算出し、算出したダメージ量Dを積算してバッテリ10の劣化の進行度合いを推定する劣化進行指標値ΣDを算出する。劣化指標算出部51が算出したダメージ量Dは第1電力算出部52に、劣化進行指標値ΣDは第1電力算出部52と第2電力算出部53に入力される(図3に示すステップS101からS104)。
第1電力算出部52は、ダメージ量Dに基づいて過渡的なバッテリ10の放電可能電力である第1放電可能電力を算出し、劣化進行指標値ΣDとメモリ42に格納したマップおよびデータに基づいて経年的なバッテリ10の放電可能電力である第2放電可能電力を算出する。そして、第1電力算出部52は算出した第1放電可能電力と第2放電可能電力の小さい方を通常用放電可能電力として出力する(図3に示すステップS105からS107)。
第2電力算出部53は、劣化指標算出部51が算出した劣化進行指標値ΣDとメモリ42に格納したマップおよびデータに基づいて、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbs以下のような低温の場合に、電動車両100の発進時に短時間だけ許容しうる発進用放電可能電力を算出し、出力する。また、第2電力算出部53は、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbsを超える場合には、発進用放電可能電力をゼロとして出力する(図3に示すステップS108からS109,S114)。ここで、所定温度Tbsは、例えば、−10℃程度でもよいし、−5℃あるいは−15℃程度であってもよい。
最大放電可能電力設定部54は、第1電力算出部52が出力した通常用放電可能電力と、第2電力算出部53が出力した発進用放電可能電力とが入力され、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超える場合には、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定して出力する。また、最大放電可能電力設定部54は、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下の場合には、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力として設定して出力する。最大放電可能電力設定部54は、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定して出力した後、第1所定期間が経過したら、発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を解除する。そして、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力として再設定して出力する(図3に示すステップS110からS113,S115)。
最大放電可能電力設定部54から出力されたバッテリ10の最大放電可能電力は、ECU60に入力される。ECU60は、バッテリ10の放電電力が入力された最大放電可能電力を超えないように、インバータ13、モータジェネレータ14を制御して電動車両100を駆動する。
以上説明したような本実施形態のバッテリ放電制御装置40の機能ブロックは、バッテリ放電制御装置40に含まれるCPU41およびメモリ42とメモリ42から読み出されてCPU41で実行されるプログラムとを主体としたソフトウェアで実現される。
次に、図3を参照しながらバッテリ放電制御装置40の動作について説明する。バッテリ放電制御装置40は、図3に示すステップS101からS115を予め決められた周期Δt(例えば、0.1秒)毎に繰り返して実行する。
図3のステップS101に示すように、劣化指標算出部51は、電圧センサ31、電流センサ32、温度センサ33によりバッテリ10の電圧値Vb,電流値Ib、温度Tbを検出する。次に、劣化指標算出部51は、ステップS102に示すように、検出した電圧値Vb、電流値Ib、温度Tbに基づいてバッテリ10の充電率(以下、SOCという)を算出する。SOCは、ある電流値Ib、温度TbにおけるSOCに対する電圧値Vbの変化を示すマップをメモリ42に格納しておき、このマップを参照して求めるようにしてもよい。
次に、劣化指標算出部51は、ステップS103で以下の式(1)を用いてバッテリ10の充放電による劣化を推定するダメージ量Dを算出する。
D(t+Δt)
=D(t)−α×Δt×D(t)+β×Ib×Δt/c0 −−−−(1)
式(1)において、tは時間を示し、D(t+Δt)は、今回算出されるダメージ量Dであり、右辺第1項のD(t)は、前回算出されたダメージ量Dを示す。αは、忘却係数であり、βは電流係数であり、Ibはバッテリ10の電流値(放電時は+、充電時は−)、c0は限界閾値である。上記の式(1)に示すように、今回のダメージ量D(t+Δt)は、前回のダメージ量D(t)に基づいて算出される。初期値としてのダメージ量D(t)は、例えば、0とすることができる。
電解液中の塩濃度の偏りは、時間の経過に伴うイオンの拡散に応じて緩和されるため、時間が経過するにつれてダメージ量Dは減少してくる。上記の式(1)の右辺第2項は、所定の周期Δtの間におけるダメージ量Dの減少を考慮する項である。忘却係数αは、バッテリ10の電解液中におけるイオンの拡散速度に対応する係数であり、拡散速度が高いほど、忘却係数αが大きくなる。「α×Δt」の値は、0から1の範囲内で設定される。「α×Δt」の値が、「1」に近づくほど、右辺第2項の絶対値は大きくなる。また、忘却係数αの値が大きくなるほど、或いは、周期Δtが長くなるほど、「α×Δt」の値が「1」に近づく。
忘却係数αは、バッテリ10のSOCや温度Tbに依存するため、SOCや温度Tbに応じて、忘却係数αを設定することができる。具体的には、忘却係数αとSOCおよび温度Tbとの対応関係を実験などによって予め求め、図4に示すようなマップとしてメモリ42に記憶しておき、ステップS102で算出したSOCとステップS101で検出したバッテリ10の温度Tbとメモリ42に記憶した図4に示すマップとに基づいて忘却係数αを設定する。図4に示すように、忘却係数αは、バッテリ10の温度Tbが低いほど小さくなるので、式(1)の右辺第2項はバッテリ10の温度Tbが低いほど絶対値が小さくなる。
電解液中の塩濃度の偏りは、電流値Ibの絶対値が大きい程大きくなる。また、放電中と充電中とでは、塩濃度の偏りの方向が逆になる。このため、電流値Ibが正(+)となる放電中には、式(1)の右辺第3項は正の値となってダメージ量Dを増加させ、電流値Ibが負(−)となる充電中には、式(1)の右辺第3項は負の値となって、ダメージ量Dを減少させる。したがって、ハイレートの放電電流が流れるとダメージ量Dは増加し、ハイレートの充電電流が流れるとダメージ量Dは減少する。
式(1)の右辺第3項の電流係数βと限界閾値c0とは、バッテリ10のSOCや温度Tbに依存する。このため、忘却係数αと同様、SOCおよび温度Tbとの対応関係を実験などによって予め求め、図5に示すようなマップとしてメモリ42に記憶しておき、ステップS102で算出したSOCとステップS101で検出したバッテリ10の温度Tbとメモリ42に記憶した図5に示すマップとに基づいて電流係数βと限界閾値c0を設定するようにしてもよい。図5に示すように、限界閾値c0はバッテリ10の温度Tbが低いほど小さくなるので、式(1)の右辺第3項は、バッテリ10の温度Tbが低いほど大きくなる。
図3のステップS104に示すように、劣化指標算出部51は、ステップS103で算出したダメージ量Dを下記の式(2)のように積算して劣化進行指標値ΣDを算出する。式(2)中のD(t)は、ステップS103で上記の式(1)によって計算したダメージ量Dである。
ΣD(t+Δt)=γ×ΣD(t)+η×D(t) −−−−(2)
上記の式(2)において、γは減衰係数で1よりも小さい値であり、時間経過に伴うイオンの拡散によって塩濃度の偏りが緩和される程度を予測して設定される値であり、メモリ42の中に格納されている値である。また、ηは補正係数であり、γ同様、メモリ42の中に格納されている値である。
先に述べたように、ハイレートの放電電流が流れるとダメージ量Dは増加し、ハイレートの充電電流が流れるとダメージ量Dは減少するので、劣化進行指標値ΣDも、ハイレートの放電電流が流れると増加し、ハイレートの充電電流が流れると減少する。
次に、第1電力算出部52は、図3のステップS105に示すように、次の式(3)によって時刻tにおける第1放電可能電力(t)を算出する。第1放電可能電力は、バッテリ10が初期状態で劣化進行指標値ΣDがゼロの場合のバッテリ10の放電可能電力の最大値であるWout11(図6参照)から時刻tのダメージ量D(t)と目標値Eとの差に応じて放電可能電力を減少させたものである。式(3)中のD(t)は、ステップS103で上記の式(1)によって計算した時刻tのダメージ量D(t)である。
第1放電可能電力(t)=Wout11―k×[D(t)―E] −−−−(3)
第1放電可能電力(t)は、最大値であるWout11を超えないので、D(t)<Eで、右辺第2項がプラスの場合には、第1放電可能電力(t)は最大値のWout11となる。また、目標値Eは、図7(b)に示すように、バッテリ10が劣化領域に達する限界値Dmaxより所定の余裕分を引いた値である。
次に、第1電力算出部52は、図3のステップS106に示すように、ステップS104で計算した劣化進行指標値ΣD(t)と、図6に示すマップの実線aに基づいて、次の式(4)によって時刻tにおける第2放電可能電力(t)を算出する。式(4)において、マップ6a[ΣD(t)]は、図6の実線aを時刻tの劣化進行指標値ΣD(t)の関数として表したものである。
第2放電可能電力(t)=マップ6a[ΣD(t)] −−−−(4)
図6の実線aは、バッテリ10の劣化進行指標値ΣDが初期値のゼロから増加した場合の劣化進行指標値ΣDに対するバッテリ10の第2放電可能電力の変化を示すものである。劣化進行指標値ΣDが初期値のゼロからΣD1までの間は、バッテリ10の第2放電可能電力は、最大値のWout11である。劣化進行指標値ΣDがΣD1を超えると、バッテリ10のハイレート劣化の進行を抑制するために第2放電可能電力は、最大値のWout11から低減され、劣化進行指標値ΣDがΣD2においてWout12となる。劣化進行指標値ΣDがΣD2を超えると、バッテリ10のハイレート劣化の進行を更に抑制するために第2放電可能電力はWout12からさらに低減され、劣化進行指標値ΣDがΣD3においてWout13となる。なお、Wout11,Wout12,Wout13は、バッテリ10の温度TbやSOC等によって変化するので、メモリ42には、温度TbやSOCに応じた複数の第2放電可能電力のマップが格納されている。式(4)によって時刻tにおける第2放電可能電力(t)を算出する場合には、図3のステップS101で検出したバッテリ10の温度Tb、ステップS102で算出したSOCに応じた第2放電可能電力マップを用いる。
第1電力算出部52は、式(3)、式(4)によって時刻tの第1放電可能電力(t)と第2放電可能電力(t)とを算出したら、図3のステップS107に進み、下記の式(5)のように、第1放電可能電力(t)と第2放電可能電力(t)の小さい方を時刻tの通常用放電可能電力(t)とする。
通常用放電可能電力(t)=
Min[第1放電可能電力(t),第2放電可能電力(t)] −−−−(5)
なお、第1放電可能電力(t)と第2放電可能電力(t)とが等しい場合には、いずれか一方を時刻tの通常用放電可能電力(t)とする。
第2電力算出部53は、図3のステップS108に示すように、ステップS101で検出したバッテリ10の温度Tbが所定温度Tbs、例えば−10℃、以下のような低温となっているかどうか判断する。そして、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbs以下の低温状態で、ステップS108でYESと判断した場合には、ステップS109に進む。
第2電力算出部53はステップS109において、先にステップS104で計算した劣化進行指標値ΣDと、図6に示すマップの一点鎖線bに基づいて下記の式(6)によって時刻tにおける発進用放電可能電力(t)を算出する。発進用放電可能電力は、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbs以下の低温状態の際に電動車両100の発進時に短時間だけ許容しうる電力である。式(6)において、マップ6b[ΣD(t)]は、図6の一点鎖線bを時刻tの劣化進行指標値ΣD(t)の関数として表したものである。
発進用放電可能電力(t)=マップ6b[ΣD(t)] −−−−(6)
図6の一点鎖線bは、バッテリ10の劣化進行指標値ΣDが初期値のゼロから増加した場合の劣化進行指標値ΣDに対するバッテリ10の発進用放電可能電力の変化を示すものである。劣化進行指標値ΣDが初期値のゼロからΣD4までの間は、バッテリ10の発進用放電可能電力は、初期値のWout21である。図6に示すように、初期値のWout21は、最大値のWout11よりも小さい値である。また、ΣD4は、ΣD1よりも小さい値である。
劣化進行指標値ΣDがΣD4を超えると、低温状態でのバッテリ10の劣化の進行を抑制するために発進用放電可能電力は、初期値のWout21から低減され、劣化進行指標値ΣDがΣD5においてWout22となる。劣化進行指標値ΣDがΣD5を超えると、低温状態でのバッテリ10の劣化の進行を更に抑制するために発進用放電可能電力は、Wout22からさらに低減され、劣化進行指標値ΣDがΣD3においてWout23となる。
Wout22,Wout23は、それぞれ、Wout12,Wout13よりも小さい値である。従って、図6の一点鎖線bで規定される発進用放電可能電力は、図6の実線aで規定されるバッテリの第2放電可能電力よりも常に小さい値となっている。なお、バッテリ10の温度TbによってWout21,Wout22,Wout23が異なる複数の発進用放電可能電力のマップをメモリ42に格納しておき、図3のステップS101で検出したバッテリ10の温度Tbに応じた発進用放電可能電力マップを用いるようにしてもよい。
また、第2電力算出部53は、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbsを超える場合には、図3のステップS108でNOと判断して図3のステップS114に進み、発進用放電可能電力をゼロとする。
最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS110に示すように、第1電力算出部52がステップS107で算出した時刻tの通常用放電可能電力(t)と、第2電力算出部53がステップS109で算出した時刻tの発進用放電可能電力(t)とを比較し、発進用放電可能電力(t)が通常用放電可能電力(t)を超える場合には、図3のステップS111に進んで、発進用放電可能電力(t)をバッテリ10の時刻tにおける最大放電可能電力(t)に設定する。一方、発進用放電可能電力(t)が通常用放電可能電力(t)以下の場合には、図3のステップS115に進んで通常用放電可能電力(t)をバッテリ10の時刻tにおける最大放電可能電力(t)に設定する。
最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS111で発進用放電可能電力(t)をバッテリ10の時刻tにおける最大放電可能電力(t)に設定した場合、図3のステップS112で第1所定期間が経過するまで待機した後、ステップS113に進み、ステップS111で行った発進用放電可能電力(t)のバッテリ10の時刻tにおける最大放電可能電力(t)への設定を解除する。そして、通常用放電可能電力(t)をバッテリ10の時刻tにおける最大放電可能電力(t)に再設定する。
また、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbsを超える場合には、第2電力算出部53は、図3のステップS108でNOと判断してステップS114で発進用放電可能電力をゼロとしているので、発進用放電可能電力(t)は通常用放電可能電力(t)以下となる。従って、この場合、最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS110でNOと判断してステップS115に進み、通常用放電可能電力(t)をバッテリ10の時刻tにおける最大放電可能電力(t)に設定する。
次に、図7(a)〜図7(c)を参照しながら、先に説明したバッテリ放電制御装置40を搭載した電動車両100が停止から発進する際のバッテリ10のバッテリ電力Wb(図7(a)の実線q)、通常用放電可能電力(図7(a)の一点鎖線p1)、発進用放電可能電力(図7(a)の二点鎖線p2)、最大放電可能電力(図7(a)の破線p3)、ダメージ量D(図7(b)の実線r)、劣化進行指標値ΣD(図7(c)の実線s)の時間変化について説明する。なお、バッテリ電力Wbは、バッテリ10からの放電を正(+)、バッテリ10への充電を負(−)とし、放電の際のバッテリ10の電流値Ibを正(+)、充電の際のバッテリ10の電流値Ibを負(−)として説明する。
図7(a)〜図7(c)の時刻ゼロ〜時刻t0の間は、電動車両100は停止しているので、図7(a)に示すように、この間のバッテリ電力Wbはゼロであり、図7(b)に示すように、ダメージ量Dは初期値のゼロとなっており、図7(c)に示す劣化進行指標値ΣDは、時刻ゼロ以前の走行によって積算されたS0となっている。バッテリ10は、初期状態に近いので、S0は、図6に実線aで示す第2放電可能電力の制限が開始される劣化進行指標値ΣD1、図6に一点鎖線bで示す発進用放電可能電力の制限が開始される劣化進行指標値ΣD4よりも小さい値である。また、時刻t0のバッテリ10の温度Tbは、所定温度Tbs以下の、例えば、−15〜−25℃程度の低温となっている。
時刻t0に運転者がアクセルを踏み込んで、電動車両100が発進すると、図7(a)の実線qに示すように、バッテリ10はモータジェネレータ14の要求電力に応じて放電を開始する。これにより、バッテリ電力Wbは、時刻t0以降運転者のアクセルの踏みこみ量に応じて次第に増加していく。
バッテリ放電制御装置40の劣化指標算出部51は、図3のステップS101でバッテリ10の電圧値Vb、電流値Ib、温度Tbを検出し、ステップS102でバッテリ10のSOCを算出し、図3のステップS103、S104で、式(1)、式(2)によって時刻t0のダメージ量D(t0)と、劣化進行指標値ΣD(t0)を計算する。
第1電力算出部52は、図3のステップS105、S106で、式(3)、式(4)によって時刻t0の第1放電可能電力(t0)、第2放電可能電力(t0)を算出する。時刻t0のダメージ量D(t0)は初期値のゼロであり、目標値Eよりも小さいので、第1放電可能電力は、図6に示す最大値のWout11となる。また、時刻t0では、バッテリ10の劣化進行指標値ΣD(t0)は、図6に示すΣD1よりも小さいので、第2放電可能電力(t0)は、図6の実線aに示すようにWout11となっている。従って 、時刻t0では、第1放電可能電力(t0)と第2放電可能電力(t0)とは等しいので、図3のステップS107で、第1電力算出部52は、第2放電可能電力(t0)のWout11を時刻t0の通常用放電可能電力(t0)とする。
時刻t0のバッテリ10の温度Tbは所定温度Tbs以下なので、第2電力算出部53は、図3のステップS108でYESと判断してステップS109に進み、式(6)によって時刻t0の発進用放電可能電力(t0)を算出する。時刻t0では、劣化進行指標値ΣD(t0)は発進用放電可能電力の低減が開始されるΣD4よりも小さいので、図6の一点鎖線bに示すように、発進用放電可能電力(t0)はWout21となる。
第1電力算出部52、第2電力算出部53で通常用放電可能電力(t0)、発進用放電可能電力(t0)の算出が終わったら、最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS110で、通常用放電可能電力(t0)と発進用放電可能電力(t0)とを比較する。時刻t0では、通常用放電可能電力(t0)はWout11で発進用放電可能電力(t0)のWoutよりも大きいので、最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS110でNOと判断し、図3のステップS115に進み、通常用放電可能電力(t0)のWout11を時刻t0のバッテリ10の最大放電可能電力(t0)に設定し、ECU60に出力する。
時刻t0以降、バッテリ放電制御装置40の劣化指標算出部51、第1電力算出部52、第2電力算出部53、最大放電可能電力設定部54は、図3に示すステップS101からS115を所定の周期Δtで繰り返して実行し、バッテリ10の最大放電可能電力(t)を設定し、ECU60に出力する。
時刻t0に電動車両100が発進すると、図7(a)の実線qに示すように、バッテリ10はモータジェネレータ14の要求電力に応じて放電するので、時刻t0以降、バッテリ電力Wbは運転者のアクセルの踏みこみ量または、電動車両100の加速度に応じて次第に増加していく。また、バッテリ10の電流値Ibも増加していく。なお、バッテリ10は放電状態なので、バッテリ10の電流値Ibは正(+)である。
バッテリ10は低温なので、図4に示すように忘却係数αは小さく、式(1)の右辺第2項(減少項)の絶対値は小さく、図5に示すように限界閾値c0が小さいので式(1)の右辺第3項(増加項)は大きくなる。このため、図7(b)の実線rに示すように、時刻t0以降、ダメージ量D(t)は時間と共に急速に増大し、図7(b)に示す時刻t1に目標値Eに達する。ダメージ量D(t)が目標値Eに達するまでの時刻t0から時刻t1の間は、D(t)<Eであり、第1放電可能電力(t)はWout11である。
時刻t0から時刻t1までの間、ダメージ量D(t)が増加して来ると、ダメージ量D(t)の積算値である劣化進行指標値ΣD(t)も次第に増加してくる。しかし、図7(c)に示すように、時刻t0から時刻t1までの間、劣化進行指標値ΣD(t)は第2放電可能電力の制限が開始される劣化進行指標値ΣD1に達しないので、時刻t0から時刻t1までの間は、第2放電可能電力(t)はWout11に保たれる。従って、時刻t0から時刻t1までの間は、第1放電可能電力(t)と第2放電可能電力(t)とはWout11で等しく、図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力(t)はWout11一定となる。また、図7(c)の実線sに示すように、時刻t0から時刻t1の間、劣化進行指標値ΣD(t)は、発進用放電可能電力の制限が開始される劣化進行指標値ΣD4に達しないので、図7(a)の二点鎖線p2で示すように、発進用放電可能電力(t)はWout21に保たれる。
このように時刻t0から時刻t1の間は、図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力(t)は、図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力(t)以上なので、最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS110でNOと判断し、ステップS115に進み、時刻tの通常用放電可能電力(t)を時刻tのバッテリ10の最大放電可能電力(t)に設定し、ECU60に出力する。
時刻t1を過ぎると、図7(b)に示すように、ダメージ量D(t)が目標値Eよりも大きくなるので、第1放電可能電力(t)は、最大値のWout11から低減され始める。ダメージ量D(t)は式(3)により目標値Eを超える程大きく低減されるので、時刻t1を過ぎると第1放電可能電力(t)は、急速に低下し、時刻t2には、Wout21まで低下する。
このため、第1電力算出部52は、時刻t1を過ぎると、図3のステップS107で、第1放電可能電力(t)と第2放電可能電力(t)の小さい方の第1放電可能電力(t)を時刻tの通常用放電可能電力(t)とする。従って、時刻t1を過ぎると、図7(a)の一点鎖線p1は、通常用放電可能電力(t)と第1放電可能電力(t)とを示すものとなる。そして、図7(a)の一点鎖線p1に示すように、第1放電可能電力(t)が時刻t2にWout21まで低下すると通常用放電可能電力(t)も時刻t2にWout21まで低下する。
一方、図7(c)の実線sに示すように時刻t1と時刻t2の間も劣化進行指標値ΣD(t)は、ΣD1、ΣD4に達しないので、この間、第2放電可能電力(t)はWout11に保たれ、発進用放電可能電力(t)はWout21に保たれる。このため、時刻t1と時刻t2との間、図7(a)の一点鎖線p1に示す通常用放電可能電力(t)は、図7(a)に二点鎖線p2で示す発電用放電可能電力(t)以上なので、最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS110でNOと判断してステップS115に進み、図7(a)の破線p3に示すように、時刻tの通常用放電可能電力(t)をバッテリ10の最大放電可能電力(t)に設定し、ECU60に出力する。
時刻t2を過ぎると、第1放電可能電力(t)は、Wout21よりも更に低下するので、第1電力算出部52は、時刻t2を過ぎても第1放電可能電力(t)を時刻tの通常用放電可能電力(t)とする。このため、時刻t2を過ぎても、図7(a)の一点鎖線p1は、通常用放電可能電力(t)と第1放電可能電力(t)を示す。そして、図7(a)の一点鎖線p1に示すように、時刻t2を過ぎて、第1放電可能電力(t)がWout21よりも更に低下すると通常用放電可能電力(t)もWout21より更に低下する。
一方、図7(c)の実線sに示すように、劣化進行指標値ΣD(t)は、時刻t2を過ぎてもΣD4に達しないので、図7(a)に二点鎖線p2で示すように、発進用放電可能電力(t)はWout21に保たれる。このため、時刻t2を過ぎると、図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力(t)は、図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力(t)を超える。最大放電可能電力設定部54は、時刻t2を過ぎたら図3のステップS110でYESと判断してステップS111に進み、発進用放電可能電力(t)をバッテリ10の最大放電可能電力(t)に設定し、ECU60に出力する。ECU60は、時刻t2を過ぎたらバッテリ10の放電電力が図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力(t)を超えないようにインバータ13、モータジェネレータ14を制御する。
これにより、ECU60は、時刻t2からt3の間、図7(a)に実線qで示すバッテリ電力Wbが図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力(t)を超えていても、図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力(t)を超えていなければ、バッテリ電力Wbを制限しないので、電動車両100の発進時にモータジェネレータ14に十分な駆動用電力が供給され、発進時の加速性能が低下してしまうことが無くなる。
時刻t3に、図7(a)に実線qで示すバッテリ電力Wbが図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力(t)に達すると、ECU60は、バッテリ10の最大放電可能電力(t)を図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力(t)に制限し、図7(b)に示すようにダメージ量D(t)が限界値Dmaxを超えて劣化領域に入ることを抑制する。
発進用放電可能電力(t)をバッテリ10の最大放電可能電力(t)に設定した時刻t2から第1所定期間が経過した時刻t4になると、最大放電可能電力設定部54は、図3のステップS112でYESと判断し、図3のステップS113に進んで、発進用放電可能電力(t)のバッテリ10の最大放電可能電力(t)への設定を解除する。そして、図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力(t)を最大放電可能電力(t)に再設定し、ECU60に出力する。
これにより、ECU60は、時刻t4を過ぎるとバッテリ10の放電電力が図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力(t)を超えないようにインバータ13、モータジェネレータ14を制御する。図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力(t)は、図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力(t)よりも小さいので、時刻t4を過ぎると発進時の加速性能が低下する。しかし、時刻t4は、ほとんど発進時の加速が終了する時期となるので、運転者がドライバビリティの低下を感じることはほとんどない。一方、時刻t4を過ぎるとバッテリ10の放電電力がより制限されるので、ハイレート劣化が進むことを効果的に抑制することができる。
時刻t5になると、運転者がアクセルの踏みこみを緩めるので、バッテリ電力Wbは低下していく。これにしたがって、バッテリ10の電流値Ibも低下するので、ダメージ量D(t)も低下する。そして、バッテリ電力Wbが負(−)になってバッテリ10が充電されると、ダメージ量Dは負(−)となり、劣化進行指標値ΣDは少しずつ低下する。
本実施形態のバッテリ放電制御装置40は、図7(a)の時刻t2から時刻t4の間のように、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbs以下の低温の場合で、図7(a)に二点鎖線p2で示す発進用放電可能電力が図7(a)に一点鎖線p1で示す通常用放電可能電力を超える場合に、図7(a)のハッチング領域Aのように、バッテリ10の最大放電可能電力を通常用放電可能電力よりも大きい発進用放電可能電力まで拡大するので、バッテリ10の温度Tbが所定温度Tbs以下の低温の場合でも車両発進時の加速性能を向上させることができる。
また、図7(a)の時刻t4を過ぎた際に、発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を解除し、バッテリ10の最大放電可能電力を通常用放電可能電力よりも大きい発進用放電可能電力まで拡大する期間を制限するので、バッテリ10のハイレート劣化が進行することを抑制することができる。
以上説明した実施形態では、最大放電可能電力設定部54は、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定した後、第1所定期間経過後に発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を解除することとして説明したが、CPU41に図8のフローチャートに示す動作と図9のフローチャートの動作を平行して実行させて、電動車両100が発進してから第2所定期間経過後に発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を解除するようにしてもよい。
図8のフローチャートに示す動作は、発進加速中にカウンタNを周期Δt毎にインクレメントし、カウンタNが所定の数値に到達するまでフラグFをオンとし、カウンタNが所定の閾値を超えたら、フラグFをオフとするものである。
図9のフローチャートに示す動作は、図8のフローチャートに示す動作でフラグFがオンの場合で、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超える場合に発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定し、フラグFがオンで発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下の場合およびフラグFがオフの場合に、発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を禁止し、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定するものである。CPU41は、図8、図9のフローチャートに示す動作を予め決められた周期Δt(例えば、0.1秒)毎に繰り返して実行する。
なお、図8に示すフローチャートの動作および、図9のステップS401、S110,S111,S115は図2に示す最大放電可能電力設定部54が実行し、図9のステップS101からS104は劣化指標算出部51が実行し、図9のS105からS107は第1電力算出部52が実行し、図9のステップS108、S109、S114は第2電力算出部53が実行する。
以下、図8、図9のフローチャートに示す動作について説明する。図9のフローチャートに示す動作の内、図3のフローチャートに示す動作と同様の動作には同様のステップ符号を付して説明は省略する。
図8のステップS201、ステップS202に示すように、最大放電可能電力設定部54は、電動車両100が発進したら、カウンタNを初期値の0に設定し、フラグFを初期値のオフに設定する。
図8のステップS203に示すように、最大放電可能電力設定部54は、電動車両100が発進加速中であるかどうかを判断する。この判断は、例えば、アクセル踏み込み量の変化に基づいて判断しても良いし、電動車両100の速度と加速度の変化によって判断してもよい。図8のステップS203でYESと判断したら、最大放電可能電力設定部54は、図8のステップS204に進み、カウンタNが第1閾値tcs以上かどうか判断する。ここで、第1閾値tcsは、ステップS203からステップS208の繰り返し回数の上限を規定する閾値である。
カウンタNの初期値は0であるから、最初の計算サイクルでは、最大放電可能電力設定部54は、ステップS204でNOと判断して図8のステップS205に進み、カウンタNをインクレメントし、図8のステップS206に進み、カウンタNが第2閾値toffs以下かどうかを判断する。ここで、第2閾値toffsは、電動車両100が発進後、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定できる第2所定期間を規定する閾値であり、第2閾値toffs×Δtが発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定できる第2所定期間となる。第2閾値toffsは、第1閾値tcsよりも小さい値である。
最初の計算サイクルでは、カウンタNの初期値は0で、ステップS205で1だけインクレメントされているので、カウンタNは1となっている。このため、最大放電可能電力設定部54は、ステップS206でYESと判断して図8のステップS207に進み、フラグFをオンとしてステップS203に戻る。
フラグFがオンとなると、最大放電可能電力設定部54は、図9のステップS401でYESと判断して図9のステップS110に進む。そして、ステップS110で発進用放電可能電力と通常用放電可能電力とを比較し、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超える場合には、図9のステップS111に進んで発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定する。また、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下の場合には、図9のステップS115に進んで通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定する。
以後、最大放電可能電力設定部54は、電動車両100が発進加速中は、ステップS203でYESと判断した周期Δt毎にカウンタNをインクレメントしていく。そして、カウンタNが第2閾値toffsとなったら、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定できる第2所定期間が終了したと判断して、図8のステップS206でNOと判断してフラグFをオフとしてステップS203に戻る。
フラグFがオフとなると、最大放電可能電力設定部54は、図9のステップS401でNOと判断して図9のステップS115に進んで通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定する。それ以前は、発進用放電可能電力がバッテリ10の最大放電可能電力に設定されていたので、最大放電可能電力設定部54は、上記動作により、発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を解除して、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に再設定する。これ以後、フラグFはオフのままとなるので、最大放電可能電力設定部54は、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定したままとなる。
そして、カウンタNが第1閾値tcsに到達したら、図8のステップS204でYESと判断して図8のステップS210でカウンタNを0に戻して動作を終了する。
また、カウンタNが第2閾値toffsに到達する前に、電動車両100の発進加速が終了した場合には、最大放電可能電力設定部54は、図8のステップS203でNOと判断して図8のステップS209に進み、フラグFをオフとし、図8のステップS210でカウンタNを0に戻して動作を終了する。
以上説明した実施形態は、電動車両100が発進した後、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超える場合に発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定し、発進してから第2所定期間、すなわち、カウンタNが第2閾値toffsとなる、toffs×Δt、だけの期間が経過したら、フラグFをオフとして、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力への設定を解除して、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に再設定するものである。
本実施形態は、先に説明した実施形態と同様、バッテリ10の最大放電可能電力を通常用放電可能電力よりも大きい発進用放電可能電力まで拡大する期間を制限するので、バッテリ10のハイレート劣化が進行することを抑制することができる。
以上説明した各実施形態は、バッテリ10がほとんど劣化しておらず、バッテリ10の劣化進行指標値ΣDが図6に実線aで示す第2放電可能電力の制限が開始される劣化進行指標値ΣD1、図6に一点鎖線bで示す発進用放電可能電力の制限が開始される劣化進行指標値ΣD4よりも小さい値であり、第2放電可能電力、発進用放電可能電力がいずれも一定である場合の動作について説明したが、劣化進行指標値ΣDが例えば、ΣD1あるいは、ΣD4等の所定値を超えた場合には、以下に説明するように、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定することを禁止する期間を設けて、継続的に発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定することを制限するようにしてもよい。以下、図10、11を参照しながら説明する。
本動作は、先に図8、図9を参照して説明した動作と同様、CPU41に図10のフローチャートに示す動作と図11のフローチャートの動作を平行して実行させるものである。
図10のフローチャートに示す動作は、劣化進行指標値ΣDが所定値を超えている場合で、ダメージ量Dが小さく発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下の場合にフラグAccF1をオフとし、AccF1がオフの場合にカウンタMを周期Δt毎にインクレメントし、カウンタMが所定の数値に到達するまでフラグAccF2をオフとし、カウンタMが第3閾値AccSを超えたら、フラグAccF2をオンとするものである。ここで、フラグAccF1は、ダメージ量Dが増加して発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超えた場合にオンとなり、ダメージ量Dが小さく発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下の場合にオフとなるフラグである。また、フラグAccF2は、フラグAccF1がオンの場合に発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定することを許可するフラグである。
図11のフローチャートに示す動作は、図10のフローチャートに示す動作でフラグAccF2がオンの場合に発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定可能とし、フラグAccF2がオフの場合には発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を禁止し、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定するものである。CPU41は、図10、図11のフローチャートに示す動作を予め決められた周期Δt(例えば、0.1秒)毎に繰り返して実行する。
なお、図10に示すフローチャートの動作および、図11のステップS501、S110,S111,S115は図2に示す最大放電可能電力設定部54が実行し、図11のステップS101からS104は劣化指標算出部51が実行し、図11のS105からS107は第1電力算出部52が実行し、図11のステップS108、S109、S114は第2電力算出部53が実行する。
以下、図10、図11のフローチャートに示す動作について説明する。図11のフローチャートに示す動作の内、図3のフローチャートに示す動作と同様の動作には同様のステップ符号を付して説明は省略する。
図10のステップS301、ステップS302に示すように、最大放電可能電力設定部54は、カウンタMを0に初期設定し、フラグAccF1、フラグAccF2を初期値のオフに設定する。
最大放電可能電力設定部54は、図10のステップS303に示すように、劣化進行指標値ΣDが所定値を超えているかどうか判断する。劣化進行指標値ΣDが所定値を超えていない場合には、最大放電可能電力設定部54は、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定することを禁止する期間を設ける必要が無いと判断し、図10のステップS308に進み、カウンタMをゼロにリセットし、ステップS309でフラグAccF2をオンとして動作を終了する。
フラグAccF2がオンとなると、最大放電可能電力設定部54は、図11のステップS501でYESと判断して図11のステップS110に進む。そして、ステップS110で発進用放電可能電力と通常用放電可能電力とを比較し、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超える場合には、図11のステップS111に進んで発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定する。また、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下の場合には、図11のステップS115に進んで通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定する。
一方、ステップS303で劣化進行指標値ΣDが所定値を超えている場合には、最大放電可能電力設定部54は、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定しない期間を設ける必要が有ると判断し、図10のステップS304に示すように、フラグAccF1のオン/オフの判断をおこなう。最大放電可能電力設定部54は、フラグAccF1がオフの場合、ダメージ量Dが小さく発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下で、バッテリ10の劣化の進行が抑制されている状態に有ると判断してカウンタMを1だけインクレメントする。そして、図10のステップS306に進み、カウンタMが第3閾値AccS未満の場合、図10のステップS307に進んで、フラグAccF2をオフとし、発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を禁止する。
また、フラグAccF1がオフの場合、ダメージ量Dが大きく発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超えており、バッテリ10の劣化が進行する可能性が有ると判断してカウンタMをインクレメントせずに図10のステップS307に進んで、フラグAccF2をオフとし、発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を禁止する。
フラグAccF2がオフとなると、最大放電可能電力設定部54は、図11のステップS501でNOと判断して図11のステップS115に進んで通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定する。
最大放電可能電力設定部54は、図10のステップS304からS307をカウンタMが第3閾値AccSとなるまで周期Δtで繰り返し、カウンタMが第3閾値AccSとなった場合、バッテリ10の劣化の進行が抑制されている期間が十分な期間に達し、これ以上発進用放電可能電力のバッテリ10の最大放電可能電力への設定を禁止する必要が無いと判断する。そして、最大放電可能電力設定部54は、図10のステップS306でNOと判断し、図10のステップS308に進んでカウンタMをゼロにリセットし、ステップS309でフラグAccF2をオンとして動作を終了する。
フラグAccF2がオンとなると、先に説明したと同様、最大放電可能電力設定部54は、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力を超える場合には、発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定し、発進用放電可能電力が通常用放電可能電力以下の場合には、通常用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定する。
以上説明した実施形態では、劣化進行指標値ΣDが所定値を超えている場合に、継続的に発進用放電可能電力をバッテリ10の最大放電可能電力に設定することを禁止する期間を設けるので、車両発進時の加速性能を向上させるとともに、バッテリ10の劣化の進行を抑制することができる。