加工装置の実施形態について説明する。本実施形態の加工装置1は、対象物Wを加工するための装置である。本実施形態では、加工装置1は、対象物Wの3次元加工を行うことができる3次元加工装置として構成されている。以下、この加工装置1の詳細について説明する。
なお、以下の説明において、工具保持装置2,3,4及び把持装置5,6のうち、加工のための回転駆動部を有する方の装置の回転軸(主軸)に平行な方向を「Z軸方向」と定義する。各工具保持装置2,3,4の並び方向を「X軸方向」と定義する。X軸方向及びZ軸方向の両方に直交する方向を「Y軸方向」と定義する。また、X軸方向の一方側(X軸第一方向側)である第一工具保持装置2側を「+X側」と表し、X軸方向の他方側(X軸第二方向側)である第二工具保持装置3側を「−X側」と表す。Z軸方向の一方側(Z軸第一方向側)である各工具保持装置2,3,4における工具Tが取り付けられた側を「−Z側」と表し、その反対側(Z軸第二方向側)を「+Z側」と表す。Y軸方向の一方側(Y軸第一方向側)である各工具保持装置2,3,4における工具Tが取り付けられた側を「+Y側」と表し、その反対側(Y軸第二方向側)を「−Y側」と表す。
また、以下の説明において、記載を簡略化するため、第一工具保持装置2に保持された工具Tにより加工を行うことを、単に“第一工具保持装置2により加工を行う”(これに類似する表現を含む)と言う場合がある。同様に、第二工具保持装置3に保持された工具Tにより加工を行うことを、単に“第二工具保持装置3により加工を行う”等と言う場合があり、第三工具保持装置4に保持された工具Tにより加工を行うことを、単に“第三工具保持装置4により加工を行う”等と言う場合がある。
図1〜図4に示すように、加工装置1は、第一工具保持装置2、第二工具保持装置3、及び第三工具保持装置4の3つの主軸装置と、第一把持装置5及び第二把持装置6の2つの把持装置と、X軸案内部7とを備えている。第一工具保持装置2、第二工具保持装置3、及び第三工具保持装置4は、X軸方向に並んで配置されている。これらの並び順は、+X側から−X側に向かって、第一工具保持装置2、第三工具保持装置4、第二工具保持装置3の順となっている。第一工具保持装置2、第三工具保持装置4、及び第二工具保持装置3は、等間隔に配置されている。第一把持装置5及び第二把持装置6は、X軸方向に並んで配置されている。これらの並び順は、+X側から−X側に向かって、第一把持装置5、第二把持装置6の順となっている。また、各把持装置5,6とX軸案内部7とは同じZ軸方向の領域を含むように配置されている。各工具保持装置2,3,4は、各把持装置5,6及びX軸案内部7よりも+Z側に配置されている。
加工装置1は、第一工具保持装置2、第二工具保持装置3、第三工具保持装置4、第一把持装置5、第二把持装置6、及びX軸案内部7を支持する躯体(装置躯体)8をさらに備えている。躯体8は、装置全体を支える土台となるベッド部81と、各工具保持装置2,3,4の支持部となるコラム部82とを含む。ベッド部81は、各把持装置5,6よりも−Z側において、加工装置1の幅方向(X軸方向)全域に亘ってY軸方向に延びるように設けられている。コラム部82は、ベッド部81の−Y側の端部において、加工装置1の幅方向(X軸方向)全域に亘ってZ軸方向に延びるように設けられている。コラム部82における+Z側の端部には、庇部83が形成されている。
加工装置1は、第一工具保持装置2、第二工具保持装置3、第三工具保持装置4、第一把持装置5、及び第二把持装置6のそれぞれの動作を制御する制御部(図示せず)をさらに備えている。制御部は、例えば加工プログラムが記憶されたマイクロコンピュータやワークステーション等で構成されている。制御部は、例えばNC(Numerical Control)によって、上記の各部の動作を制御することが可能となっている。
第一工具保持装置2は、第一Y軸案内部21と、第一Y軸移動部22と、第一Z軸案内部23と、第一Z軸移動部24と、第一工具保持部25とを備えている。また、本実施形態では、第一工具保持装置2は、第一駆動部26をさらに備えている。第一Y軸案内部21は、庇部83の+Z側の面に固定されている。第一Y軸案内部21は、直線型のレール状に形成されている。第一Y軸案内部21は、第一Y軸移動部22のY軸方向の移動を案内する。第一Y軸移動部22は、第一Y軸案内部21に対して滑動する滑動部を備えている。図示の例では、第一Y軸移動部22は、多面体の箱状に形成されている。第一Y軸移動部22は、第一Y軸案内部21によって案内された状態で、Y軸移動機構(図示せず)によってY軸方向に沿って往復移動可能となっている。Y軸移動機構は、例えば第一Y軸移動部22に設けられたナット部に螺合し且つY軸方向に沿って配設されるボールネジと、そのボールネジを回転駆動する駆動モーターとを含む。
第一Z軸案内部23は、第一Y軸移動部22の+Y側の端部に固定されている。図示の例では、第一Z軸案内部23は、矩形筒状に形成されている。第一Z軸案内部23は、第一Z軸移動部24のZ軸方向の移動を案内する。第一Z軸移動部24は、第一Z軸案内部23に対して滑動する滑動部を備えている。図示の例では、第一Z軸移動部24は、第一Z軸案内部23の内側空間に収容可能な直方体状に形成されている。第一Z軸移動部24は、第一Z軸案内部23によって案内された状態で、Z軸移動機構(図示せず)によってZ軸方向に沿って往復移動可能となっている。Z軸移動機構は、例えば第一Z軸移動部24に設けられたナット部に螺合し且つZ軸方向に沿って配設されるボールネジと、そのボールネジを回転駆動する駆動モーターとを含む。
第一工具保持部25は、第一Z軸移動部24の−Z側の端部に設けられている。第一工具保持部25は、対象物Wを加工するための工具Tを保持する。第一工具保持部25は、Z軸方向に沿って配置される工具Tを周方向の複数箇所から径方向に挟み込んで保持するチャック機構を含む。ここで、加工装置1によって加工される対象物W(被加工物)は、主に金属材料で構成された一体物である。対象物Wは、その性状は特に限定されないが、例えばハイブリッド車両やエンジン車両に搭載される車両用駆動装置(自動変速装置を含む)のケース等の用途で製造される鋳造品であっても良い。
対象物Wが鋳造品である場合、その「加工」には、外形切削加工、孔あけ加工(穴加工)、内径切削加工、ネジ孔加工(タップ加工)、溝削り加工、及び平面削り加工のうちの少なくとも1つが含まれる。外形切削加工は、対象物Wの外形を切削によって仕上げる加工である。孔あけ加工は、対象物Wに対して孔をあける加工である。この孔あけ加工では、対象物Wに対して単一の方向からの孔あけがなされても良いが、互いに異なる複数の方向からの孔あけがなされても好適である。内径切削加工は、鋳造段階で形成された孔や、孔あけ加工によって対象物Wに形成された孔の内径を、切削によって高精度に仕上げる加工である。ネジ孔加工は、鋳造段階で形成された孔や、孔あけ加工によって対象物Wに形成された孔の内面に、ネジ山を形成する加工である。溝削り加工は、対象物Wに対して溝を形成する加工である。平面削り加工は、対象物Wの外面に平滑な平面を仕上げる加工である。
このような各種の加工態様に応じて、第一工具保持部25によって保持される工具Tには、例えば平フライス、ドリル、中ぐりバイト、ボーリングバー、リーマ、タップ、エンドミル、及び正面刃フライス等の各種の加工用工具が含まれる。これらは、それぞれ単一サイズのみが準備されていても良いし、複数サイズが準備されていても良い。
第一駆動部26は、第一工具保持部25を回転駆動する。本実施形態では、第一駆動部26は、ビルトイン型となっており、第一Z軸移動部24の内部に組み込まれている。第一駆動部26は、例えば第一Z軸移動部24に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転可能に配置され、且つ、第一工具保持部25に固定されたロータとを含むモーターである。この第一駆動部26が駆動することで、第一工具保持部25に保持された工具Tは、Z軸方向に平行な回転軸(主軸)まわりに高速回転駆動される。
本実施形態の第一工具保持装置2は、高速回転駆動される工具Tによって対象物Wに対して加工を行う“第一主軸装置”として構成されている。つまり、本実施形態の加工装置1は、フライス盤型(又はボール盤型)の加工装置となっている。このような構成の加工装置1であれば、円筒状の対象物Wに限らず、例えば車両用駆動装置の異形ケース等のような、複雑な形状の様々な対象物Wの加工を行うことができるという利点がある。また、Z軸方向まわりの周方向に不均等な加工を行うこともでき、例えば対象物Wが車両用駆動装置のケースである場合に、例えば溝削り加工によって当該ケースの端壁又は中間壁に径方向に延びる油路を形成すること等ができる。
第二工具保持装置3及び第三工具保持装置4も、第一工具保持装置2と同様の構成を備えている。第二工具保持装置3は、第二Y軸案内部31と、第二Y軸移動部32と、第二Z軸案内部33と、第二Z軸移動部34と、第二工具保持部35と、第二駆動部36とを備えている。第三工具保持装置4は、第三Y軸案内部41と、第三Y軸移動部42と、第三Z軸案内部43と、第三Z軸移動部44と、第三工具保持部45と、第三駆動部46とを備えている。これらの構造や機能等については、第一工具保持装置2における対応する部位と同様に考えることができるので、ここでは詳細な説明を割愛する。
但し、特筆すべき点としては、3つの工具保持装置2,3,4で(各工具保持部25,35,45によって)同時期に保持される工具Tが少なくとも2種以上であることが挙げられる。ここで、第一工具保持部25に保持された工具を第1の工具T1とし、第二工具保持部35に保持された工具を第2の工具T2とし、第三工具保持部45に保持された工具を第3の工具T3とする。例えば、第3の工具T3は、第1の工具T1及び第2の工具T2のいずれとも異なる種類の工具とされることが好ましい。第1の工具T1と第2の工具T2とは、互いに同種の工具であっても良いし、互いに異種の工具であっても良い。
各工具保持部25,35,45は、同時期に保持される計3つの工具Tに関する上記のような制約を満足させながら、適宜、実際に保持される工具Tの交換を行うことができるように構成されている。本実施形態では、複数種類の工具Tを整列状態で保管する工具ラック95が、工具保持装置2,3,4のそれぞれに対応するX軸方向の位置であって、且つ、各工具保持部25,35,45よりも−Y側の位置に、それぞれ設置されている(図2を参照)。本例では、各工具保持部25,35,45は、Y軸方向及びZ軸方向に適宜移動して工具Tの交換を行う。但し、そのような構成に限定されることなく、工具Tの交換は、別途設けられる例えばロボットアーム等の工具交換機構(図示せず)によって実施されても良い。
第一把持装置5は、第一X軸移動部51と、第一B軸回転部52と、第一C軸回転部53と、第一チャック部54とを備えている。第一X軸移動部51は、ベッド部81の+Z側の面とコラム部82の+Y側の面との両方に対向する状態に設けられている。第一X軸移動部51は、コラム部82に配設されたX軸案内部7に対して滑動する滑動部を備えている。図示の例では、第一X軸移動部51は、直方体状に形成されている。第一X軸移動部51は、X軸案内部7によって案内された状態で、X軸移動機構(図示せず)によってX軸方向に沿って往復移動可能となっている。X軸移動機構は、例えば第一X軸移動部51に設けられたナット部に螺合し且つX軸方向に沿って配設されるボールネジと、そのボールネジを回転駆動する駆動モーターとを含む。
第一B軸回転部52は、第一X軸移動部51の+Y側の端部に設けられている。第一B軸回転部52は、第一X軸移動部51の+Y側の面に沿う矩形板状の基部52Aと、この基部52Aの4辺のうちの1辺から+Y側に延びる支持部52Bとを含む。基部52Aと支持部52Bとは一体的に形成されており、第一B軸回転部52は全体としてL字状の外形形状を呈する。基部52Aは、第一X軸移動部51により、B軸まわりに回転可能に支持されている(図3及び図4を参照)。なお、「B軸」は、X軸方向及びZ軸方向の両方に直交するY軸方向に平行な軸である。支持部52Bには、第一C軸回転部53を介して第一チャック部54が設けられている。これにより、第一B軸回転部52は、B軸まわりに第一チャック部54を回転させることができるように構成されている。
ここで、第一チャック部54がZ軸方向に沿って+Z側を向く状態での回転角を“0°”と定義すると、第一B軸回転部52は、B軸まわりの少なくとも±90°の範囲で第一チャック部54を回転可能とされている。もちろん、このような構成に限定されることなく、第一B軸回転部52は、例えばB軸まわりの±120°又はそれ以上の範囲で第一チャック部54を回転可能とされていても良い。また、第一チャック部54の可動範囲は、少なくとも±90°の範囲を含んでいれば、回転角0°の位置に対して非対称な範囲であっても良い。なお、第一B軸回転部52を回転駆動してその位相(回転角)を調節するエンコーダ付きのサーボモーター(図示せず)や、その回転を減速するための歯車機構等は、例えば第一X軸移動部51の内部に組み込まれて備えられている。
第一C軸回転部53は、第一B軸回転部52の回転角が0°の状態における支持部52Bの+Z側の面に固定されている。第一C軸回転部53は、円柱状に形成されている。第一C軸回転部53における支持部52B側とは反対側の面に、第一チャック部54が設けられている。第一チャック部54は、第一C軸回転部53により、C軸まわりに回転可能に支持されている(図2及び図3を参照)。つまり、第一C軸回転部53は、C軸まわりに第一チャック部54を回転させることができるように構成されている。なお、「C軸」は、Y軸方向に直交する軸(XZ平面に平行な任意の方向(但し、第一B軸回転部52の位相に応じた方向)に沿う軸)である。
第一C軸回転部53は、本実施形態では、C軸まわりの全周(±180°)に亘って第一チャック部54を回転可能とされている。なお、第一チャック部54を回転駆動してその位相(回転角)を調節するエンコーダ付きのサーボモーター(図示せず)や、その回転を減速するための歯車機構等は、例えば第一C軸回転部53の内部に組み込まれて備えられている。
第一チャック部54は、加工装置1による加工対象物である対象物Wを把持する。上述したように、本実施形態の対象物Wは、例えば車両用駆動装置のケース等に代表される鋳造品であっても良く、非円筒状(例えば異形筒状)の外形形状を有しても良い。このような非円筒状の外形形状を有する対象物Wの把持にも対応可能とするため、本実施形態の第一チャック部54は、基台54Aと、複数(好ましくは3本以上)のチャックアーム54Bとを含んでいる(図5を参照)。本実施形態では、基台54Aは矩形状に形成されている。また、3本のチャックアーム54Bが、基台54Aから第一C軸回転部53側とは反対側に向かって、基台54Aと一体的に突出形成されている。3本のチャックアーム54Bは、基台54Aの外縁部において、互いに分散した位置に設けられている。3本のチャックアーム54Bの突出高さは、互いに同一であっても良いし、互いに異なっていても良い。
図5に示すように、各チャックアーム54Bは、その突出先端面に固定された一対の支持爪54cと挟持爪54dとを有している。挟持爪54dは、C軸に沿って見た場合に支持爪54cと重複する状態(重複状態)と、支持爪54cとは重複しない状態(非重複状態)とを切替可能なように、C軸まわりに回動可能となっている。チャックアーム54Bは、例えば対象物Wが車両用駆動装置のケースである場合に当該ケースの外面に設けられるフランジ部Wfを利用して、対象物Wを把持する。この場合、全ての挟持爪54dを非重複状態とした状態で対象物Wのフランジ部Wfの特定部位を各支持爪54cに当て付け、その状態で全ての挟持爪54dを重複状態とする。これにより、支持爪54cと挟持爪54dとの各組でフランジ部Wfの複数箇所を挟持して、対象物Wを安定的に把持することができる。対象物Wを解放する場合には、上記と逆の動作を行えば良い。なお、挟持爪54dの非重複状態と重複状態との切り替えに際しては、C軸に沿う伸縮移動が追加されて、C軸まわりの回動とC軸に沿う伸縮移動とが組み合わされても良い(順次行われても良いし、重畳して行われても良い)。
第一把持装置5は、第一チャック部54で対象物Wを把持した状態で、第一B軸回転部52と第一C軸回転部53との協働により、対象物Wにおける任意の露出部分(第一チャック部54には覆われていない部分)を+Z側に向けることができる。
第二把持装置6も、第一把持装置5と同様の構成を備えている。第二把持装置6は、第二X軸移動部61と、第二B軸回転部62と、第二C軸回転部63と、第二チャック部64とを備えている。第二B軸回転部62は、基部62Aと支持部62Bとを含んでいる。第二チャック部64は、基台64Aと複数のチャックアーム64Bとを含んでいる。各チャックアーム64Bは、支持爪64cと挟持爪64dとを有している。これらの構造や機能等については、第一把持装置5における対応する部位と同様に考えることができるので、ここでは詳細な説明を割愛する。
但し、特筆すべき点としては、各把持装置5,6で(各チャック部54,64によって)把持される対象物Wの具体的な被把持部分が互いに異なることが挙げられる。すなわち、対象物Wにおける第一把持装置5によって把持される部分と、第二把持装置6によって把持される部分とが、互いに異なっている。第一把持装置5は、対象物Wにおける第二把持装置6に把持される部分以外の部分を把持し、第二把持装置6は、対象物Wにおける第一把持装置5に把持される部分以外の部分を把持する。
図1〜図4に示すように、X軸案内部7は、躯体8のコラム部82の+Y側の面に固定されている。X軸案内部7は、各把持装置5,6のX軸方向の移動を案内する。本実施形態では、X軸案内部7は、Z軸方向に一定間隔を隔てつつX軸方向に沿って互いに平行に延びるように配置された一対のガイドレール71を含む。第一把持装置5の第一X軸移動部51及び第二把持装置6の第二X軸移動部61は、一対のガイドレール71に対して滑動する滑動部をそれぞれ有している。各把持装置5,6は、X軸案内部7によって案内されて、X軸方向に沿ってそれぞれ往復移動可能となっている。
ここで、X軸案内部7は、第一把持装置5と第二把持装置6とのX軸方向の並び順を維持したままで、第一把持装置5及び第二把持装置6のX軸方向の移動を案内する。言い換えれば、X軸案内部7によって案内された状態では、第一把持装置5と第二把持装置6とのX軸方向の並び順が入れ替わることはない。
第一把持装置5は、少なくとも、当該第一把持装置5に把持された対象物Wに対する第一工具保持装置2による加工と第三工具保持装置4による加工とに必要なX軸方向の範囲(以下、「第一加工範囲R1」と言う;図6を参照)を移動する。第一加工範囲R1は、第一工具保持装置2による加工が行われる第一加工位置P1と、第三工具保持装置4による加工が行われる第三加工位置P3とを包含する。第一把持装置5は、少なくとも、当該第一把持装置5に把持された対象物Wが第一工具保持部25に保持された第1の工具T1と第三工具保持部45に保持された第3の工具T3との間のX軸方向の範囲を移動するように、X軸方向に沿って移動する。第一把持装置5は、X軸案内部7によって案内移動されて、第一チャック部54で把持された状態の対象物Wを、第1の工具T1に対向させることができるとともに第3の工具T3にも対向させることができる。
また、第二把持装置6は、少なくとも、当該第二把持装置6に把持された対象物Wに対する第二工具保持装置3による加工と第三工具保持装置4による加工とに必要なX軸方向の範囲(以下、「第二加工範囲R2」と言う;図6を参照)を移動する。第二加工範囲R2は、第二工具保持装置3による加工が行われる第二加工位置P2と、第三工具保持装置4による加工が行われる第三加工位置P3とを包含する。第二把持装置6は、少なくとも、当該第二把持装置6に把持された対象物Wが第二工具保持部35に保持された第2の工具T2と第三工具保持部45に保持された第3の工具T3との間のX軸方向の範囲を移動するように、X軸方向に沿って移動する。第二把持装置6は、X軸案内部7によって案内移動されて、第二チャック部64で把持された状態の対象物Wを、第2の工具T2に対向させることができるとともに第3の工具T3にも対向させることができる。
なお、第一加工位置P1、第二加工位置P2、及び第三加工位置P3は、実際には対象物Wの全長程度の幅を有する位置範囲となるが、図6では、図示の簡略化のためにそれぞれを特定位置として表示している。また、図6における第一加工範囲R1及び第二加工範囲R2は、単にその概念を示すために表示した概略的な範囲であり、厳密には実際の範囲とは異なっている場合がある(次に述べる第一可動範囲R3及び第二可動範囲R4に関しても同様)。
本実施形態では、第一把持装置5は、第二把持装置6よりも+X側に位置する限り、第一加工範囲R1を超えるX軸方向の範囲(以下、「第一可動範囲R3」と言う;図6を参照)を移動することができる。また、第二把持装置6は、第一把持装置5よりも−X側に位置する限り、第二加工範囲R2を超えるX軸方向の範囲(以下、「第二可動範囲R4」と言う;図6を参照)を移動することができる。これにより、第一把持装置5は、対象物Wを搬送(ここでは搬入)する第一搬送装置91(図2を参照)からの対象物Wの受け入れが可能であるとともに、第二把持装置6は、対象物Wを搬送(ここでは搬出)する第二搬送装置92(図2を参照)への対象物Wの排出が可能である。また、特段の制約なく、第一把持装置5と第二把持装置6との間での対象物Wの受け渡しが可能である。
このような構成を備える加工装置1は、制御部による制御の下、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工を少なくとも第一工具保持装置2により行う。また、加工装置1は、第二把持装置6に把持された対象物Wの加工を少なくとも第二工具保持装置3により行う。加工装置1は、第二把持装置6に把持された、前工程で対象物Wにおける第一把持装置5に把持されていた部分(例えば表側領域)以外の部分(例えば裏側領域)の加工を、少なくとも第二工具保持装置3により行う。
さらに、加工装置1は、制御部による制御の下、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工及び第二把持装置6に把持された対象物Wの加工の少なくとも一方を、第三工具保持装置4により行う。本実施形態では、加工装置1は、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工及び第二把持装置6に把持された対象物Wの加工の両方を第三工具保持装置4により行う。すなわち、加工装置1は、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工を、第一工具保持装置2と第三工具保持装置4との協働により行う。また、加工装置1は、第二把持装置6に把持された、前工程で対象物Wにおける第一把持装置5に把持されていた部分以外の部分の加工を、第二工具保持装置3と第三工具保持装置4との協働により行う。
第一工具保持装置2と第三工具保持装置4とによる協働加工について言及すると、第三工具保持装置4は、第一工具保持装置2の第一工具保持部25の回転停止中の期間に、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工を行う。ここで、第一工具保持部25の回転停止中の期間には、第一工具保持部25が保持する工具T(第1の工具T1)をそれとは異なる種類の工具Tに交換する間の期間が含まれる。すなわち、第三工具保持装置4は、少なくとも、第一工具保持部25によって保持される工具Tの交換中の期間に、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工を行う。また、第一工具保持装置2は、第三工具保持装置4の第三工具保持部45の回転停止中の期間に、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工を行うように構成されても良い。ここで、第三工具保持部45の回転停止中の期間には、第三工具保持部45が保持する工具T(第3の工具T3)をそれとは異なる種類の工具Tに交換する間の期間が含まれる。すなわち、第一工具保持装置2は、第三工具保持部45によって保持される工具Tの交換中の期間に、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工を行っても良い。
第二工具保持装置3と第三工具保持装置4とによる協働加工について言及すると、第三工具保持装置4は、第二工具保持装置3の第二工具保持部35の回転停止中の期間に、第二把持装置6に把持された対象物Wの加工を行う。ここで、第二工具保持部35の回転停止中の期間には、第二工具保持部35が保持する工具T(第2の工具T2)をそれとは異なる種類の工具Tに交換する間の期間が含まれる。すなわち、第三工具保持装置4は、少なくとも、第二工具保持部35によって保持される工具Tの交換中の期間に、第二把持装置6に把持された対象物Wの加工を行う。また、第二工具保持装置3は、第三工具保持装置4の第三工具保持部45の回転停止中の期間に、第二把持装置6に把持された対象物Wの加工を行うように構成されても良い。すなわち、第二工具保持装置3は、第三工具保持部45によって保持される工具Tの交換中の期間に、第二把持装置6に把持された対象物Wの加工を行っても良い。
但し、当然ではあるが、第一工具保持部25側の工具Tの交換中の期間と第二工具保持部35側の工具Tの中の期間とが重なった場合には、第三工具保持装置4は、第一把持装置5及び第二把持装置6のいずれか一方に把持された対象物Wの加工のみを行う。この場合、第三工具保持装置4は、先に工具Tの交換を開始した方の工具保持部25/35に対応する把持装置5/6に把持された対象物Wの加工を行うように構成されても良い。或いは、第三工具保持装置4は、トータル加工時間が短く抑えられるように、第一把持装置5に把持された対象物Wの加工と第二把持装置6に把持された対象物Wの加工とをいずれか選択して行うように構成されても良い。
以下、本実施形態の加工装置1を用いた加工処理(加工方法)の一例について説明する。まず、図6に示すように、第一把持装置5が、第一可動範囲R3内の+X側端部に設定された第一出入位置P4に位置している(さらに、第一チャック部54が+X側を向いている)状態で、第一搬送装置91(図2を参照)によって搬入されてくる第1の対象物W1を受け取る。なお、本実施形態では、第一搬送装置91は専ら対象物Wの搬入を行う搬入装置であり、この場合、第一出入位置P4は専ら対象物Wを受け入れる受入位置となる。
次に、図7に示すように、第一把持装置5は、X軸方向に沿って第一加工位置P1まで移動するとともに第一チャック部54をB軸まわりにおよそ−90°回動させる。そして、第一把持装置5は、第一チャック部54に把持された第1の対象物W1の露出部分を、第一工具保持装置2に保持された第1の工具T1に対して対向配置させる。第一工具保持装置2は、回転駆動された第1の工具T1を−Z側に送り操作して、第一把持装置5に把持された第1の対象物W1の加工を行う。
この際、回転駆動された第1の工具T1はZ軸方向及びY軸方向の2方向に適宜移動され、且つ、第一把持装置5に把持された第1の対象物W1はB軸まわり及びC軸まわりに適宜回動されながらX軸方向にも適宜移動される。これにより、第1の工具T1に対する第1の対象物W1の向きを任意の向きに変化させながら、第1の工具T1と第1の対象物W1との相対位置関係を、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の3方向に変化させることができる。よって、回転駆動された第1の工具T1を用いて、第1の対象物W1における第一把持装置5で把持されていない露出部分(非把持部分)の任意の箇所に対して、任意の方向から加工を行うことができる。
ところで、対象物Wの加工においては、通常、所望の最終形状を得るために複数種類の加工を順次施していくことが一般的である。この場合、1つの対象物Wに対して、複数の工具Tを用いてそれらを順次交換しながら加工を行っていく。例えば対象物Wが車両用駆動装置のケースである場合には、10種〜20種、場合によってはそれ以上の工具Tを用いて加工を行う場合が多い。そこで、本実施形態の例では、図8に示すように、第1の工具T1での第1の対象物W1の加工が終了すると、加工装置1は、第1の工具T1を第4の工具T4に交換する工程(工具交換工程)を実施する。なお、第4の工具T4は、第1の工具T1や、第三工具保持装置4に保持されている第3の工具T3とは異なる種類の工具である。
この間に、第一把持装置5は、X軸方向に沿って第三加工位置P3まで移動して、把持された第1の対象物W1の露出部分を、第三工具保持装置4に保持された第3の工具T3に対して対向配置させる。第三工具保持装置4は、回転駆動された第3の工具T3を−Z側に送り操作して、第一把持装置5に把持された第1の対象物W1の加工を行う。この際、第一工具保持装置2での加工と同様に、第3の工具T3を用いて、第1の対象物W1における第一把持装置5で把持されていない露出部分(非把持部分)の任意の箇所に対して、任意の方向から加工を行うことができる。こうして、第三工具保持装置4は、第一工具保持装置2での工具交換工程中に、第一把持装置5に把持された第1の対象物W1の加工を行う。
第一工具保持装置2での工具交換工程が完了し、且つ、第3の工具T3での第1の対象物W1の加工が終了すると、図9に示すように、第一把持装置5は、X軸方向に沿って第一加工位置P1まで復帰移動する。そして、第一把持装置5は、把持された第1の対象物W1の露出部分を、第一工具保持装置2に新たに保持された第4の工具T4に対して対向配置させる。第一工具保持装置2は、回転駆動された第4の工具T4を用いて、第1の対象物W1における第一把持装置5で把持されていない露出部分(非把持部分)の任意の箇所に対して、任意の方向から加工を行う。
なお、図示は省略しているが、第1の対象物W1に対してさらに別の種類の加工が必要な場合には、第一工具保持装置2での第4の工具T4を用いた第1の対象物W1の加工中に、第三工具保持装置4において第3の工具T3をさらに別の工具Tに交換する。言い換えれば、第一工具保持装置2は、第三工具保持装置4での工具交換工程中に、第一把持装置5に把持された第1の対象物W1の加工を行う。その後、第一把持装置5で把持されていない露出部分(非把持部分)が所望の形状となるまで、工具Tを順次交換しながら、第一工具保持装置2での加工と第三工具保持装置4での加工とを繰り返し行う(図7〜図9の繰り返し)。このとき、第一工具保持装置2及び第三工具保持装置4のうちの一方の装置での加工工程中に他方の装置での工具交換工程が並行して実施されるので、工具Tの交換を次々と行ないながらも、対象物Wの加工を継続的に行うことができる。よって、対象物Wの加工を効率的に行うことができる。
第一把持装置5による非把持部分の加工が完了すると、図10に示すように、第一把持装置5は、第1の対象物W1が−X側を向くように、第一チャック部54をB軸まわりにおよそ−90°回動させる。その後、第1の対象物W1を−X側に向けて把持した状態の第一把持装置5と、第二チャック部64を+X側に向けた状態の第二把持装置6とが、X軸方向に沿って相対近接移動される。そして、第一把持装置5が第1の対象物W1を把持している状態で、X軸方向における第一把持装置5とは反対側から、当該第1の対象物W1を第二把持装置6が把持する。その際、第二把持装置6は、前工程で(すなわち、第一工具保持装置2による加工時に)第一把持装置5に把持されていた第1の対象物W1の被把持部分以外の部分(既に加工済の部分)を把持する。なお、本実施形態では、第一把持装置5と第二把持装置6との間での第1の対象物W1の受け渡しは、X軸方向の任意の位置で行われて良い。
第1の対象物W1の受け渡しが完了すると、図11に示すように、第二把持装置6は、X軸方向に沿って第二加工位置P2まで移動するとともに第二チャック部64をB軸まわりにおよそ−90°回動させる。そして、第二把持装置6は、第二チャック部64に把持された第1の対象物W1の露出部分(前工程での未加工部分)を、第二工具保持装置3に保持された第2の工具T2に対して対向配置させる。第二工具保持装置3は、回転駆動された第2の工具T2を−Z側に送り操作して、第二把持装置6に把持された第1の対象物W1の加工を行う。この際、第一工具保持装置2や第三工具保持装置4での加工と同様に、第2の工具T2を用いて、第1の対象物W1における第二把持装置6で把持されていない露出部分の任意の箇所に対して、任意の方向から加工を行うことができる。
第1の対象物W1を第二把持装置6に受け渡した第一把持装置5は、X軸方向に沿って再度第一出入位置P4まで移動するとともに第一チャック部54をB軸まわりに+180°回動させる。そして、第一把持装置5は、第一チャック部54が+X側を向いている状態で、第一搬送装置91によって搬入されてくる、第1の対象物W1とは別の未加工の第2の対象物W2を新たに受け取る。この第一把持装置5による第2の対象物W2の受け入れと並行して、第一工具保持装置2に保持される工具Tの交換が行われる。これにより、第一工具保持装置2は、再度、第1の工具T1を保持する状態となる。こうして、第二工具保持装置3での第2の工具T2を用いた第1の対象物W1の加工中に、新たな対象物W(第2の対象物W2)の加工を開始する準備を行うことができる。
その後、図12に示すように、第一把持装置5が第一加工位置P1まで移動して、当該第一把持装置5に把持された第2の対象物W2の加工を、第一工具保持装置2で行う。なお、第一工具保持装置2での第2の対象物W2の加工に関しては、第1の対象物W1の加工と同様に考えることができる。よって、以下では、第二工具保持装置3での第1の対象物W1の加工との処理タイミングに主に注目して説明するものとし、第2の対象物W2の加工に関しては、詳細な説明は割愛する。
第一工具保持装置2での第2の対象物W2の加工中、第二工具保持装置3での第2の工具T2を用いた第1の対象物W1の加工が終了すると、加工装置1は、第2の工具T2を第5の工具T5に交換する工程(工具交換工程)を実施する。なお、第5の工具T5は、第2の工具T2や、その時点で第三工具保持装置4に保持されている工具T(図示の例では第3の工具T3)とは異なる種類の工具である。
この間に、第二把持装置6は、X軸方向に沿って第三加工位置P3まで移動して、把持された第1の対象物W1の露出部分(前工程での未加工部分)を、第三工具保持装置4に保持された工具Tに対して対向配置させる。第三工具保持装置4は、回転駆動された工具Tを−Z側に送り操作して、第二把持装置6に把持された第1の対象物W1の加工を行う。この際、上述したように、第三工具保持装置4に保持された工具Tを用いて、第1の対象物W1における第二把持装置6で把持されていない露出部分(非把持部分)の任意の箇所に対して、任意の方向から加工を行うことができる。こうして、第三工具保持装置4は、第二工具保持装置3での工具交換工程中に、第二把持装置6に把持された第1の対象物W1の加工を行う。本例では、第三工具保持装置4は、第一把持装置5に把持された第2の対象物W2の第一工具保持装置2での加工中、且つ、第二工具保持装置3での工具交換工程中に、第二把持装置6に把持された第1の対象物W1の加工を行う。
第二工具保持装置3での工具交換工程が完了し、且つ、第3の工具T3での第1の対象物W1の加工が終了すると、図13に示すように、第二把持装置6は、X軸方向に沿って第二加工位置P2まで復帰移動する。そして、第二把持装置6は、把持された第1の対象物W1の露出部分を、第二工具保持装置3に新たに保持された第5の工具T5に対して対向配置させる。第二工具保持装置3は、回転駆動された第5の工具T5を用いて、第1の対象物W1における第二把持装置6で把持されていない露出部分(非把持部分)の任意の箇所に対して、任意の方向から加工を行う。
第二工具保持装置3での第5の工具T5を用いた第1の対象物W1の加工中、第一工具保持装置2での第1の工具T1を用いた第2の対象物W2の加工が終了すると、加工装置1は、第一工具保持装置2での工具交換工程を実施する。このとき、第1の対象物W1の加工に関して上述したのと同様に、第三工具保持装置4は、第一工具保持装置2での工具交換工程中に、第一把持装置5に把持された第2の対象物W2の加工を行う。本例では、第三工具保持装置4は、第二把持装置6に把持された第1の対象物W1の第二工具保持装置3での加工中、且つ、第一工具保持装置2での工具交換工程中に、第一把持装置5に把持された第2の対象物W2の加工を行う。
なお、図示は省略しているが、第1の対象物W1に対してさらに別の種類の加工が必要な場合には、第二工具保持装置3での第1の対象物W1の加工中に、第3の工具T3をさらに別の工具Tに交換する。言い換えれば、第二工具保持装置3は、第三工具保持装置4での工具交換工程中に、第二把持装置6に把持された第1の対象物W1の加工を行う。但し、第三工具保持装置4での第3の工具T3を用いた第2の対象物W2の加工が既に完了していることを条件とする。その後、第二把持装置6で把持されていない露出部分(非把持部分)が所望の形状となるまで、工具Tを順次交換しながら、第二工具保持装置3での加工と第三工具保持装置4での加工とを繰り返し行う(図11〜図13の繰り返し)。このとき、第二工具保持装置3及び第三工具保持装置4のうちの一方の装置での加工工程中に他方の装置での工具交換工程が並行して実施されるので、工具Tの交換を次々と行ないながらも、第二工具保持装置3側でも対象物Wの加工を継続的に行うことができる。よって、対象物Wの加工を効率的に行うことができる。
しかも、本実施形態では、基本的には、第一工具保持装置2での工具交換工程と第二工具保持装置3での工具交換工程とは、互いに並行することなく異なる期間に実施される(図11〜図13を参照)。このため、第一工具保持装置2での工具交換に伴う第三工具保持装置4の稼働期間と、第二工具保持装置3での工具交換に伴う第三工具保持装置4の稼働期間とは、基本的には重ならない。よって、2つの工具保持装置2,3に対して物理的に1つの第三工具保持装置4を追加的に設置するだけで、第一把持装置5に把持された第1の対象物W1と第二把持装置6に把持された第2の対象物W2との両方について、継続的に加工を行うことができる。従って、全体としての加工効率を大幅に向上させる(すなわち、対象物Wの1個あたりの加工時間を大幅に短縮する)ことができる。
第二把持装置6による第1の対象物W1の非把持部分の加工が完了すると、図14に示すように、第二把持装置6は、第二可動範囲R4内の−X側端部に設定された第二出入位置P5まで、X軸方向に沿って移動する。また、第二把持装置6は、加工済の第1の対象物W1が−X側を向くように、第二チャック部64をB軸まわりにおよそ−90°回動させる。この状態で、第二チャック部64での把持を解除して、第二出入位置P5に隣接する位置で待機していた第二搬送装置92(図2を参照)に第1の対象物W1を受け渡す。加工済の第1の対象物W1は、第二搬送装置92によって搬出されていく。なお、本実施形態では、第二搬送装置92は専ら対象物Wの搬出を行う搬出装置であり、この場合、第二出入位置P5は専ら対象物Wを排出する排出位置となる。
また、第一把持装置5による第2の対象物W2の非把持部分の加工が完了すると、図15に示すように、第一把持装置5は、第2の対象物W2が−X側を向くように、第一チャック部54をB軸まわりにおよそ−90°回動させる。また、第1の対象物W1を第二搬送装置92に受け渡した第二把持装置6は、空の第二チャック部64が+X側を向くように、第二チャック部64をB軸まわりに+180°回動させる。その後、第2の対象物W2を−X側に向けて把持した状態の第一把持装置5と、空の第二チャック部64を+X側に向けた状態の第二把持装置6とが、X軸方向に沿って相対近接移動される。第一把持装置5と第二把持装置6との間での第2の対象物W2の受け渡しは、上述した第1の対象物W1の受け渡しと同様に実施することができる。
以後、図11〜図15を参照して説明した各工程を繰り返し実施することで、第2の対象物W2、第3の対象物(図示せず)、第4の対象物(図示せず)、・・・の3次元加工を効率良く順次行うことができる。
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、第一把持装置5と第二把持装置6との間で対象物Wの受け渡しが行われ、当該対象物Wにおける第一工具保持装置2での未加工部分の加工を、後工程において第二工具保持装置3が行う構成を例として説明した。すなわち、第一工具保持装置2での加工と第二工具保持装置3での加工とが、一連の処理工程における上流側工程及び下流側工程となっている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば第一工具保持装置2での加工と第二工具保持装置3での加工とが、互いに独立した処理工程であっても良い。この場合、第一把持装置5と第二把持装置6との間での対象物Wの受け渡しは行われない。第一把持装置5は、第一搬送装置91との間でのみ対象物Wの受け渡しを行い、第二把持装置6は、第二搬送装置92との間でのみ対象物Wの受け渡しを行う。第一搬送装置91及び第二搬送装置92は、それぞれ、搬入装置と搬出装置とを兼用し、第一出入位置P4及び第二出入位置P5は、それぞれ、受入位置と排出位置とを兼用する。第一工具保持装置2で加工される対象物Wと、第二工具保持装置3で加工される対象物Wとは、同種であっても良いし異種であっても良い。
(2)上記の実施形態では、回転駆動する工具Tを保持する各工具保持装置2,3,4がY軸案内部21,31,41とZ軸案内部23,33,43とを備えるとともに、X軸案内部7に案内されてX軸方向に移動可能な各把持装置5,6がB軸回転部52,62とC軸回転部53,63とを備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば各工具保持装置2,3,4ではなく各把持装置5,6に、Y軸案内部(より具体的には、Y軸方向のチャック部54,64の移動を案内するY軸案内部)が設けられても良い。すなわち、各工具保持装置2,3,4が2つの軸に係る動作(主軸周りの回転/Z軸方向の移動)を行うとともに、各把持装置5,6が4つの軸に係る動作(X軸方向の移動/Y軸方向の移動/B軸まわりの回転/C軸まわりの回転)を行っても良い。これら以外にも、工具Tと対象物Wとの相対位置関係を3方向に変化させるためのX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の各方向の移動案内の分担(工具保持装置2,3,4側と把持装置5,6側との分担)は、任意に設定することができる。
(3)各把持装置5,6に加え、各工具保持装置2,3,4がX軸方向に沿って移動するものであっても良い。この場合、第一工具保持装置2及び第二工具保持装置3の一方が工具交換をする際には、第三工具保持装置4は工具交換をする工具保持装置2,3が存在する側に移動するとともに、工具交換をする工具保持装置2,3が工具交換をする直前に加工していた対象物Wが把持された把持装置5,6は、第三工具保持装置4が存在する側に移動し、第三工具保持装置4が保持する工具Tにより対象物Wの加工を行うものであっても良い。或いは、各把持装置5,6はX軸方向に沿って移動せずに各工具保持装置2,3,4だけがX軸方向に沿って移動するものであっても良い。この場合、第一工具保持装置2及び第二工具保持装置3の一方が工具交換をする際には、工具交換をする工具保持装置2,3は退避して、工具交換をする工具保持装置2,3が存在した位置に第三工具保持装置4が移動し、第三工具保持装置4が保持する工具Tにより対象物Wの加工を行うものであっても良い。
(4)上記の実施形態では、第一把持装置5及び第二把持装置6のそれぞれのX軸方向の移動が、共通のX軸案内部7(一対のガイドレール71)によって案内される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば各把持装置5,6のX軸方向の移動が、それぞれ別異のX軸案内部7によって案内されても良い。例えば図16及び図17に示すように、第一把持装置5のX軸方向の移動が一対の第一ガイドレール75によって案内され、且つ、第二把持装置6のX軸方向の移動が一対の第二ガイドレール76によって案内されても良い。図16の例では、両ガイドレール75,76は加工装置1の幅方向(X軸方向)全域に亘って延びるとともに、Z軸方向における互いに異なる位置に入れ子状に配置されている。図17の例では、両ガイドレール75,76は同じZ軸方向の位置において、隙間を隔てつつX軸方向に並んで配置されている。
(5)上記の実施形態では、各工具保持装置2,3,4が駆動部26,36,46を備え、加工装置1が、高速回転駆動される工具Tによって対象物Wに対して加工を行うフライス盤型の加工装置となっている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば各工具保持装置2,3,4ではなく各把持装置5,6に、駆動部(より具体的には、対象物Wを把持した状態のチャック部54,64を回転駆動する駆動部)が設けられても良い。すなわち、加工装置1は、各工具保持装置2,3,4に保持された工具Tに対して回転駆動される対象物Wを当て付けて当該対象物Wの加工を行う、旋盤型の加工装置であっても良い。
なお、上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎないと理解されるべきである。従って、当業者は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
〔実施形態の概要〕
以上をまとめると、本開示に係る加工装置は、好適には、以下の各構成を備える。
[1]
第一把持装置(5)に把持された対象物(W)の加工を第一工具保持装置(2)に保持された工具(T)により行い、第二把持装置(6)に把持された対象物(W)の加工を第二工具保持装置(3)に保持された工具(T)により行う加工装置(1)であって、
前記第一工具保持装置(2)と前記第二工具保持装置(3)との間に第三工具保持装置(4)をさらに備え、
前記第三工具保持装置(4)は、前記第一工具保持装置(2)に保持された工具(T)の交換中に、前記第一把持装置(5)に把持された前記対象物(W)の加工を当該第三工具保持装置(4)に保持された工具(T)により行い、前記第二工具保持装置(3)に保持された工具(T)の交換中に、前記第二把持装置(6)に把持された前記対象物(W)の加工を当該第三工具保持装置(4)に保持された工具(T)により行う。
この加工装置によれば、第一把持装置と第二把持装置とがそれぞれ別の対象物を把持し、第一工具保持装置及び第二工具保持装置のそれぞれに保持された工具により、2つの対象物の加工を並行して行うことができる。しかも、第三工具保持装置は、当該第三工具保持装置に保持された工具により、第一工具保持装置又は第二工具保持装置に保持された工具の交換中に、当該工具交換される工具保持装置に代わって対象物の加工を行う。このため、工具の交換中にも、第三工具保持装置に保持された工具により対象物の加工を継続することができる。従って、対象物の加工を効率的に行うことができる。
[2]
前記第三工具保持装置(4)に保持された工具(T)により前記対象物(W)を加工している間は、前記第一工具保持装置(2)及び前記第二工具保持装置(3)のうちいずれか一方に保持された工具(T)により前記対象物(W)とは別の対象物(W)の加工を行う。
この構成によれば、第一工具保持装置及び第二工具保持装置のいずれか一方に保持された工具で対象物の加工をしている間に、他方が工具交換を行う。その他方が工具交換中に、第三工具保持装置に保持された工具により加工を行うことで、より効率的に対象物の加工を行うことができる。
[3]
前記第一工具保持装置(2)、前記第二工具保持装置(3)、及び前記第三工具保持装置(4)のそれぞれは、工具(T)を保持する工具保持部(25,35,45)と、前記工具保持部(25,35,45)を回転駆動する駆動部(26,36,46)と、を備える。
この構成によれば、例えば第一把持装置及び第二把持装置のそれぞれが、対象物を把持するチャック部と、そのチャック部を回転駆動する駆動部とを備え、各工具保持装置に保持された工具に対して、回転駆動される対象物を当て付けて当該対象物の加工を行う構成の加工装置に比べて、実施可能な加工種別に関する制約が少ない。よって、複雑な形状を有する対象物に対しても、種々の加工を行うことができる。
[4]
前記第一工具保持装置(2)、前記第三工具保持装置(4)、及び前記第二工具保持装置(3)が、この順にX軸方向に並んで配置され、
前記第一把持装置(5)及び前記第二把持装置(6)のそれぞれの前記X軸方向の移動を案内するX軸案内部(7)を備え、
前記第一把持装置(5)は、少なくとも、当該第一把持装置(5)に把持された前記対象物(W)に対する前記第一工具保持装置(2)に保持された工具(T)による加工と前記第三工具保持装置(4)に保持された工具(T)による加工とに必要な前記X軸方向の範囲を移動し、
前記第二把持装置(6)は、少なくとも、当該第二把持装置(6)に把持された前記対象物(W)に対する前記第二工具保持装置(3)に保持された工具(T)による加工と前記第三工具保持装置(4)に保持された工具(T)による加工とに必要な前記X軸方向の範囲を移動する。
この構成によれば、工具を保持する工具保持装置をX軸方向に移動させないようにでき、加工誤差を低減できる。
[5]
前記第一工具保持装置(2)に保持された工具(T)による加工時に前記第一把持装置(5)に把持されていた前記対象物(W)の被把持部分以外の部分を、後工程において前記第二把持装置(6)が把持して、前記対象物(W)における前記被把持部分の加工を前記第二工具保持装置(3)に保持された工具(T)により行う。
この構成によれば、第一把持装置によって把持された対象物の被把持部分以外の部分に対する第一工具保持装置及び第三工具保持装置にそれぞれ保持された工具での加工と、その後の、第二把持装置によって把持された前記対象物の前工程での被把持部分に対する第二工具保持装置及び第三工具保持装置にそれぞれ保持された工具での加工とで、前記対象物の多面加工を行うことができる。また、第二把持装置に把持された前記対象物(ここでは、「第1の対象物」と言う。)の加工中、第1の対象物とは別の第2の対象物を第一把持装置が把持して、第一工具保持装置及び第三工具保持装置にそれぞれ保持された工具により、第1の対象物の加工と並行して第2の対象物の加工を行うことができる。これを順次繰り返すことで、多数の対象物の多面加工を効率良く連続的に行うことができる。
[6]
前記対象物(W)は鋳造品であり、
前記加工は、前記対象物(W)の外形を仕上げる外形切削加工、前記対象物(W)に対して孔をあける孔あけ加工、孔の内径を仕上げる内径切削加工、孔の内面にネジ山を形成するネジ孔加工、前記対象物(W)に対して溝を形成する溝削り加工、及び前記対象物(W)の外面に平面を仕上げる平面削り加工のうち、少なくとも1つを含む。
本開示に係る加工装置によれば、3つの工具保持装置と2つの把持装置とを用いて、複雑な形状の対象物を効率的に加工することができる。この点に鑑み、上記のように種々の形態の加工のうちの少なくとも1つを必要とする鋳造品の加工を行う際に、本開示に係る加工装置を特に好ましく利用することができる。
[7]
前記第一工具保持装置(2)、前記第三工具保持装置(4)、及び前記第二工具保持装置(3)が、この順にX軸方向に並んで配置され、
前記第一把持装置(5)及び前記第二把持装置(6)のそれぞれの前記X軸方向の移動を案内するX軸案内部(7)を備え、
前記第一工具保持装置(2)、前記第二工具保持装置(3)、及び前記第三工具保持装置(4)のそれぞれは、工具(T)を保持する工具保持部(25,35,45)と、前記X軸方向に直交するY軸方向の前記工具保持部(25,35,45)の移動を案内するY軸案内部(21,31,41)と、前記X軸方向及び前記Y軸方向の双方に直交するZ軸方向の前記工具保持部(25,35,45)の移動を案内するZ軸案内部(23,33,43)と、を備える。
この構成によれば、各把持装置のX軸方向の移動を案内するX軸案内部と合わせて、工具保持部に保持された工具と把持装置に把持された対象物との相対位置関係を、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の3方向に変化させることができる。よって、対象物の任意の箇所に対して加工を行うことができる。
[8]
前記第一工具保持装置(2)、前記第三工具保持装置(4)、及び前記第二工具保持装置(3)が、この順にX軸方向に並んで配置され、
前記第一把持装置(5)及び前記第二把持装置(6)のそれぞれが、前記X軸方向に沿って移動可能であるとともに前記対象物(W)を把持するチャック部(54,64)を備え、
前記第一把持装置(5)及び前記第二把持装置(6)のそれぞれは、前記X軸方向に直交するY軸方向に平行な軸であるB軸まわりに前記チャック部(54,64)を回転させるB軸回転部(52,62)と、前記Y軸方向に直交する軸であるC軸まわりに前記チャック部(54,64)を回転させるC軸回転部(53,63)と、を備える。
この構成によれば、各工具保持装置に保持された工具に対する対象物の向きを、任意の向きに変化させることができる。よって、対象物に対して任意の方向から加工を行うことができる。
本開示に係る加工装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができれば良い。