JP6494505B2 - 硬質炭素皮膜 - Google Patents

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Description

本発明は、硬質炭素皮膜に関し、特に、硬質炭素皮膜層内での密着性が高く、初期なじみ性及び耐摩耗性が良好な硬質炭素皮膜に関する。
従来より、ピストンリングなどの摺動部品の摺動面に形成され、低フリクションと耐摩耗性を有する種々の硬質炭素皮膜が知られている。
下記特許文献1には、炭素系皮膜が摺動面に皮膜されたピストンリングにおいて、前記皮膜は硬度の異なる2種類の層が2層以上積層された積層皮膜であり、前記2種類の層の硬度差は500〜1700HVで、硬度の高い層が硬度の低い層の厚さと同一又はそれ以上の厚さを有し、皮膜全体の厚さが5.0μm以上に形成された硬質炭素皮膜が記載されている。
また、下記特許文献2には、内燃機関の滑動部材、特にピストンリングであり、ta−CタイプのDLCコーティングを有し、前記コーティングの厚さに亘り残留応力が変化し、少なくともひとつの残留応力勾配を含むDLCコーティングが記載されている。
特開2012−202522号公報 特表2012−527581号公報
しかし、特許文献1に記載された硬質炭素皮膜は、硬度の異なる硬質炭素皮膜を多層積層して構成しているので、膜厚を厚く形成することができるものの、硬度の高い層の厚さが5〜90nmでは、最表面に高硬度の膜が常に維持されるとは限らない為、耐摩耗性が劣るという問題があった。また、層間剥離を生じる可能性があり、多層積層構造を形成するために製造工程が煩雑となり容易に製造することが難しいという問題があった。
また、特許文献2に記載された硬質炭素皮膜は、層厚さを厚く形成することができるものの、皮膜の厚さに亘り残留応力が変化し、少なくともひとつの残留応力勾配を形成する必要があるため、製造工程が煩雑となり容易に製造することが難しいという問題があった。
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、硬質炭素皮膜層内での密着性が高く、初期なじみ性及び耐摩耗性が良好であると共に、簡便な製造方法で所望の膜厚に形成することができる硬質炭素皮膜を提供することを目的とする。
本発明に係る硬質炭素皮膜は、ピストンリング基材の少なくとも外周摺動面上に形成される水素を0.1〜5.0原子%含有する硬質炭素皮膜であって、前記硬質炭素皮膜は、透過型電子顕微鏡(TEM)に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSスペクトルで測定されたsp成分比が40%〜80%であり、含有するマクロパーティクルの硬質炭素皮膜表面における面積比が0.1%〜10.0%であり、前記硬質炭素皮膜は、最表面に皮膜断面が透過型電子顕微鏡(TEM)にて縞状に観察される表層ナノ積層部を備え、前記表層ナノ積層部は、合計厚さが0.1μm以上、2μm以下に成膜されることを特徴とする。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、前記硬質炭素皮膜の下にTi、Cr又はSiから成る下地層を備えると好適である。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、前記下地層と前記ピストンリング基材の間にPVD皮膜,Crめっき皮膜又は窒化層のいずれかからなる基材層が形成されると好適である。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜の表面粗さは、DIN4776規格に基づく初期摩耗高さRpkが0.2μm以下に形成されると好適である。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、膜厚が5μm以上に形成されると好適である。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、膜厚が0.5μm以上、5μm未満に形成されると好適である。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜の製造方法は、アーク電流が60A〜100A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第1の成膜工程と、アーク電流が100A〜150A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第2の成膜工程とを備えことを特徴とする。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜の製造方法は、前記第2の成膜工程の後にパルスバイアス電圧を−2000V〜−800Vの高電圧処理とパルスバイアス電圧を−200V〜−100Vの低電圧処理を所定の間隔で複数回繰り返す最表面成膜工程を更に備えると好適である。
本発明に係る硬質炭素皮膜は、透過型電子顕微鏡(TEM)に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSスペクトルで測定されたsp2成分比が40%〜80%であり、含有するマクロパーティクルの硬質炭素皮膜表面における面積比が0.1%〜10.0%であるので、耐摩耗性に優れた硬質炭素皮膜を形成することができる。また、マクロパーティクルの硬質炭素皮膜表面における面積比が0.1%〜10.0%であるので、その表面凹凸は小さくなる。その結果、最終加工として行われる、例えばラッピングやバフ加工等の表面平滑化処理が不要になり、低コストで上記特性を有するピストンリングを提供することができる。
本発明に係る硬質炭素皮膜は、アーク電流が60A〜100A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第1の成膜工程と、アーク電流が100A〜150A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第2の成膜工程とを備えるイオンプレーティング法によって形成されるので、同一のバッチ内で処理を行うことができ、容易に硬質炭素皮膜層内での密着性が高く、耐摩耗性が良好な硬質炭素皮膜を形成することができる。第1の成膜工程にて、マクロパーティクルの核生成が抑制されると共に、核成長も抑制される。その結果、第2の成膜工程においてマクロパーティクルの増加が抑制され、表面凹凸の小さい平坦な膜を形成でき、初期なじみ性及び耐摩耗性を向上させることができる。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、最表面に皮膜断面の透過型電子顕微鏡(TEM)にて縞状に観察される表層ナノ積層部を備えているので、靱性及び耐摩耗性を向上させることができる。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、前記第2の成膜工程の後にパルスバイアス電圧を−2000V〜−800Vの高電圧処理とパルスバイアス電圧を−200V〜−100Vの低電圧処理を所定の間隔で複数回繰り返す最表面成膜工程を更に備えるので、硬質炭素皮膜の表面の靱性及び耐摩耗性を向上させ、クラックや欠けを防止することができる。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、前記硬質炭素皮膜の下にTi、Cr又はSiから成る下地層を備えるので、硬質炭素皮膜の密着性を向上させることができる。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、前記下地層と前記ピストンリング基材の間にPVD皮膜,Crめっき皮膜又は窒化層のいずれかからなる基材層が形成されるので、硬質炭素皮膜の密着性を向上させることができる。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜の表面粗さは、DIN4776規格に基づく初期摩耗高さRpkが0.2μm以下であるので、初期なじみ性を向上させることができる。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、硬質炭素皮膜内での密着性が高いので、その膜厚を5μm以上に形成しても耐摩耗性を良好に保つことができる。
また、本発明に係る硬質炭素皮膜は、硬質炭素皮膜内での密着性が高いので、その膜厚を0.5μm以上、5μm未満に形成しても耐摩耗性を良好に保つことができる。
本発明の実施形態に係る硬質炭素皮膜を形成したピストンリングの断面図。 (a)は、2ピース構成オイルリングに本実施形態に係る硬質炭素皮膜を形成した場合を示し、(b)は3ピース構成オイルリングに本実施形態に係る硬質炭素皮膜を形成した場合を示す図。 本発明の実施形態に係る硬質炭素皮膜の製造工程を示すフロー図。 イオンプレーティング法でのアーク電流及びパルスバイアス電圧の変化を示す図。 摩擦摩耗試験の概要を説明するための図。 摩耗試験の概要を説明するための図。 摩耗試験の試験結果を表すグラフ。 透過型電子顕微鏡の確認結果を表す皮膜断面TEM像でアンダーフォーカス条件にて撮影されたものであり、(a)は実施例1,(b)は実施例2の観察結果。 共焦点顕微鏡による皮膜表面状態の確認結果を表す図であり、(a)は実施例1,(b)は比較例2の観察結果。 本実施形態に係る硬質炭素皮膜を基材層を形成したピストンリング基材に適用した場合のピストンリングの断面図。
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本発明の実施形態に係る硬質炭素皮膜を形成したピストンリングの断面図であり、図2(a)は、2ピース構成オイルリングに本実施形態に係る硬質炭素皮膜を形成した場合を示し、(b)は3ピース構成オイルリングに本実施形態に係る硬質炭素皮膜を形成した場合を示す図であり、図3は、本発明の実施形態に係る硬質炭素皮膜の製造工程を示すフロー図であり、図4は、イオンプレーティング法でのアーク電流及びパルスバイアス電圧の変化を示す図であり、図5は、摩擦摩耗試験の概要を説明するための図であり、図6は、摩耗試験の概要を説明するための図であり、図7は、摩耗試験の試験結果を表すグラフであり、図8は、透過型電子顕微鏡の確認結果を表す皮膜断面TEM像でアンダーフォーカス条件にて撮影されたものであり、(a)は実施例1,(b)は実施例2の観察結果であり、図9は、共焦点顕微鏡による皮膜表面状態の確認結果を表す図であり、(a)は実施例1,(b)は比較例2の観察結果であり、図10は、本実施形態に係る硬質炭素皮膜を基材層を形成したピストンリング基材に適用した場合のピストンリングの断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る硬質炭素皮膜を形成したピストンリング10は、ピストンリング基材11の少なくとも外周摺動面に硬質炭素皮膜12が形成されている。また、硬質炭素皮膜12の下には、下地層13が形成されている。なお、下地層13は必ずしも設けられなくてもよく、その形成は任意である。
本実施形態に係る硬質炭素皮膜12が形成されたピストンリング10は、ピストンに形成されたピストンリング溝に装着され、ピストンの往復運動によってシリンダライナの内周面を摺動しながら往復運動する摺動部材である。なお、ピストンリング10は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れのピストンリングとして用いても構わない。なお、本実施形態に係る硬質炭素皮膜12をオイルリングに適用する場合は、図2(a)に示すように、オイルリング本体とコイルエキスパンダからなる2ピース構成オイルリングや、図2(b)に示すように、2本のサイドレールとスペーサエキスパンダからなる3ピース構成オイルリングのいずれのオイルリングにも適用することができる。
ピストンリング基材11は、従来より使用されている材質からなるものであれば材質は特に限定されず、如何なる材料からなるピストンリング基材11に対しても適用可能であり、例えば、ステンレススチール材、鋳物材、鋳鋼材、鋼材などが好適に用いられる。具体的には、マルテンサイト系ステンレス鋼、クロムマンガン鋼(SUP9材)、クロムバナジウム鋼(SUP10材)並びにシリコンクロム鋼(SWOSC−V材)などが好適に用いられる。また、ピストンリング基材11は、母材に直接硬質炭素皮膜12を形成しても構わないし、PVD処理(Cr−N系、Cr−B−N系、Ti−N系)、Crめっき処理又は窒化処理されたピストンリング基材11に対して硬質炭素皮膜12を形成しても構わない。なお、本実施形態に係るピストンリング10は、アルミニウム合金で形成されたピストンに装着されるピストンリングとして好ましく用いられ、鋳鉄、ボロン鋳鉄、鋳鋼、アルミニウム合金等からなるシリンダライナに対するピストンリングとして好ましく用いられる。また、ピストンリング基材11には、必要に応じて前処理を行っても構わない。前処理としては、表面研磨をして表面粗さを調整することが好ましい。表面粗さの調整は、例えばピストンリング基材11の表面をダイヤモンド砥粒でラッピング加工して表面研磨する方法などで行うことが好ましい。こうした表面粗さの調整によって、ピストンリング基材11の表面粗さをJIS B 0601(2001)における算術平均粗さRaで0.02μm以上、0.07μm以下の好ましい範囲内に調整することができる。
本実施形態に係る硬質炭素皮膜12は、アモルファス状の炭素からなる皮膜であり、0.1〜5.0原子%の水素(H)を含有し、残部が炭素(C)その他不可避不純物で構成されている。なお、本実施形態に係る硬質炭素皮膜12の膜厚は、所望の厚さに形成することができ、例えば5μm以上に形成することができる。
ここで、Hを上述した比率で含有させた理由について説明する。Hが0.1原子%よりも少ないと膜硬度が高すぎて密着性が悪化してしまい、5.0原子%よりも多いと硬質炭素皮膜の特徴である低摩擦性及び耐摩耗性を妨げてしまうからである。なお、本実施形態に係る硬質炭素皮膜は、Hが0.1〜5.0原子%程度のみ含有されているので、硬質炭素皮膜全体からみると実質的に水素が含有されていない所謂水素フリーの硬質炭素皮膜である。
なお、Hは、Ar雰囲気で硬質炭素皮膜を形成する際に、アルゴンガスに微量に封入されることで硬質炭素皮膜中に含有させている。
一般的に硬質炭素皮膜は、グラファイトに代表される炭素結合sp2結合と、ダイヤモンドに代表される炭素結合sp3結合とが混在する膜である。また、sp2成分比とは、硬質炭素のグラファイト成分(sp2)及びダイヤモンド成分(sp3)に対するグラファイト成分(sp2)の成分比(sp2/(sp2+sp3))を示すものである。
本実施形態に係る硬質炭素皮膜12は、透過型電子顕微鏡(TEM)に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSによる測定により、sp2成分比が40%以上80%以下の範囲内であることが好ましい。sp2成分比が40%未満では、硬質炭素皮膜内部の剥離が起きやすくなり、好ましくない。sp2成分比が80%を超えると、グラファイトになる為、硬質炭素皮膜の形成が困難になり、好ましくない。更に好適には、sp2成分比が40%以上60%以下の範囲内であることがより好ましい。こうしたsp2成分比の測定は、EELS分析装置(Gatan製、Model863GIF Tridem)によって行うことができる。
TEM−EELS法による測定の測定手順は以下の通りである。(1)EELS分析装置によってEELSスペクトルを測定する。測定されたEELSスペクトルに対し、ピーク前を一次関数でフィットさせ、ピーク後を三次関数でフィットさせ、ピーク強度を規格化する。(2)その後、ダイヤモンドのデータとグラファイトのデータを照らし合わせ、ピークの開始位置を揃えてエネルギー校正を行う。(3)校正済みのデータに対し、280eV〜310eVの範囲内の面積を求める。(4)280eV〜295eVの範囲で2つのピーク(一つはsp2のピークであり、もう一つはCHやアモルファスのピークである)に分離し、285eV付近のピーク面積を求める。(5)上記(3)の280eV〜310eVの範囲内の面積と、上記(4)の285eV付近のピーク面積をとる。この面積比について、グラファイトを100とし、ダイヤモンドを0とし、相対値からsp2成分比を求める。こうして求められた値を、sp2成分比とする。
なお、後述する実施例1及び2を試料とした場合の上記測定手順で得られたデータを下記表に示す。本測定方法では分析点を3点とり平均した値として算出した。
Figure 0006494505
また、本実施形態に係る硬質炭素皮膜12の表面粗さである初期摩耗高さRpkは、0.2μm以下であり、その結果初期なじみ性を向上させることができる。0.2μmを超えると表面の凹凸が大きくなり、優れた初期なじみ性を実現することができなくなる。なお、初期摩耗高さRpkは0.15μm以下がより好ましい。
マクロパーティクルの本実施形態に係る硬質炭素皮膜12表面における面積比は、0.1%〜10.0%であり、その結果、初期なじみ性と耐摩耗性を向上させることができる。10.0%を超えると表面の凹凸が大きくなり、優れた耐摩耗性を実現することができない。また、0.1%未満であると、優れた耐摩耗性を実現することができるが、成膜自体が難しく、製造管理とコスト面でやや難点がある。なお、マクロパーティクルの硬質炭素皮膜12表面における面積比は、0.1%〜5.0%がより好ましい。
このマクロパーティクルの硬質炭素皮膜表面における面積比は、レーザーテック株式会社製の共焦点顕微鏡(OPTELICS H1200)を用いて画像解析を行って得ることができる。具体的には、ピストンリング外周を撮影し(対物レンズ100倍、モノクロコンフォーカル画像)、自動二値化を実施して行った。しきい値決定法は判別分析法で行い、研磨キズ等を除外するように調整を行った上で二値化された画像から面積率を抽出した。硬質炭素皮膜の任意の箇所を5点測定し、その平均値とした。
さらに、本実施形態に係る硬質炭素皮膜12の硬さ(皮膜表面から測定)は、ビッカース硬さHvで1500〜2500の範囲であり、ナノインデンテーション法で測定した場合は、20GPa以上、30GPa以下の範囲である。なお、ビッカース硬度は、微小ビッカース硬さ試験機(株式会社アカシ製)等を用いて測定することができ、ナノインデンテーション法での測定は、例えば、株式会社エリオニクス製のナノインデンテーションを用いて測定することができる。
また、本実施形態に係る硬質炭素皮膜12の最表面には表層ナノ積層部が形成されており、該表層ナノ積層部は、所望の厚さになるまで積層され、合計厚さは0.1μm以上、2μm以下程度で成膜される。厚さが0.1μm未満であると、靭性及び耐摩耗性向上が十分発揮できず、2μmを超えると成膜に時間を要し、コスト高となるので好ましくない。表層ナノ積層部の各層厚さは、0.01μm以上、0.02μm以下程度であり、その範囲内の厚さの層が複数積層されて構成されている。表層ナノ積層の最表面の硬度は、Hv1800〜2800の範囲であることが好ましい。
下地層13はCr、Ti又はSiからなる群より選択される少なくとも1種の金属から形成される。本実施形態に係る硬質炭素皮膜12は、硬質炭素皮膜12下に下地層13が形成されているので、硬質炭素皮膜12とピストンリング基材11との密着性を高めることができる。下地層13は、スパッタリング法又はイオンプレーティング法によって形成することが望ましい。なお、下地層13は、硬質炭素皮膜12の膜厚を5μm以上に形成する場合は、0.1〜2.0μmの厚みに形成されると好適である。また、硬質炭素皮膜12の膜厚が5μm未満の場合には、下地層13は0.05〜1.0μmの厚みに形成されると好適である。
次に、本実施形態に係る硬質炭素皮膜12の製造方法について図2及び図3を参照して説明を行う。
第1に、ピストンリング基材11の表面粗さをJIS B 0601(2001)における算術平均粗さRaを0.02〜0.07μmに調整するためにピストンリング基材11の表面にダイヤモンド砥粒によるラッピングを施して表面を研磨する。
その後、チャンバ内に取付治具を介してセットし、チャンバ内を真空にした後、ヒータによる予熱、イオンクリーニングを施して不活性ガスであるアルゴンを導入して下地層13をスパッタリング法又はイオンプレーティング法によって予めピストンリング基材11に対して形成する(S101)。
その後、ターゲットを閉塞するシャッターを開放してターゲットからカーボンプラズマを放出しアークイオンプレーティング法によって硬質炭素皮膜12を下地層13に積層して形成する(S102〜S104)。
なお、アークイオンプレーティング法は、フィルタードアーク方式(Filtered Cathodic Vacuum Arc:FCVA)を用いるとマクロパーティクルを抑制することができる。なお、FCVAに用いるフィルタリング方法としては、ダクト状の電磁フィルタをターゲットとチャンバとの間で屈曲させた構造(ベント構造)を採用することができる。また、曲げの回数は、一箇所形成しても構わないし、二箇所以上形成しても構わない。このようなベント機構を採用することでベント機構でマクロパーティクルが電磁フィルタの内壁に堆積されることで除去され、イオン化されたターゲットのみをチャンバ内に導入することができる。
このアークイオンプレーティング法は、図3に示すようにアーク電流が60A〜100A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第1の成膜工程S102と、アーク電流が100A〜150A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第2の成膜工程S103とを備えている。また、その後、アーク電流は100A〜150Aに維持したまま、パルスバイアス電圧を−2000V〜−800Vの高電圧処理と、パルスバイアス電圧を−200V〜−100Vの低電圧処理を所定の間隔で複数回繰り返す最表面成膜工程S104とを備えている。
第1の成膜工程S102は急激なアーク電流の増加による密着不良と、マクロパーティクルの増加を抑えるために施される工程であり、当該第1の成膜工程S102により、カーボンプラズマを発生させ、ピストンリング10にパルスバイアス電圧を印加し、硬質炭素皮膜12を0.1〜0.5μmの厚みに形成する。
第2の成膜工程S103は、所望の厚さに硬質炭素皮膜12を形成する工程であり、所望の厚さになるまで処理が施される。なお、第2の成膜工程S103で形成される膜厚は、0.5〜12.0μm程度、更には1.0〜8.0μmに形成するとより好適である。この第2の成膜工程S103
で形成される硬質炭素皮膜12の硬度はビッカース硬さHvで1700程度に形成することができる。
最表面成膜工程S104は、硬質炭素皮膜12の最表面の硬度を高めるために施される工程であり、パルスバイアス電圧を−2000V〜−800Vの高電圧処理と−200V〜−100Vの低電圧処理を1〜10秒間隔で切り替えて成膜する。当該最表面成膜工程S104による処理後の硬質炭素皮膜12の最表面の硬度がビッカース硬さHvで2000程度に形成されると好適である。
この第1の成膜工程S102,第2の成膜工程S103及び最表面成膜工程S104のアーク電流、パルスバイアス電圧を上述の範囲に設定した理由は以下の理由による。
第1の成膜工程S102においては、硬質炭素皮膜12の成膜に際し、成膜初期のアーク電流が60Aより小さい場合は、アーク電流が小さすぎるためにアーク電源での制御を行うことが難しく、アーク電流が100Aを超える場合は、急激なアーク電流の増加による密着不良(剥離)の発生や、マクロパーティクルの増加につながる。
第2の成膜工程S103においては、第1の成膜工程S102によってアーク放電が安定した後は、アーク電流が100Aよりも小さい場合は、成膜速度が遅くなり、所定の膜厚まで硬質炭素皮膜12を成膜するのに時間がかかってしまい、アーク電流が150Aよりも大きい場合は、カーボンプラズマの発生が過剰となりマクロパーティクルの発生が多くなってしまう。
また、パルスバイアス電圧については、単層でピストンリング基材11に印加するパルスバイアス電圧が−800Vよりも大きい場合、耐摩耗性を維持したまま厚膜を成膜することができず、−2000Vよりも小さい場合には、成膜速度が遅くなり、所定の膜厚まで硬質炭素皮膜12を成膜するのに時間がかかってしまう。
さらに、最表面成膜工程S104においては、ピストンリング基材11に印加するパルスバイアス電圧が−100Vよりも大きい場合は、膜応力が低く、耐摩耗性の低い膜が成膜されてしまい、パルスバイアス電圧が−200Vよりも小さい場合は、耐摩耗性を維持したまま厚膜を成膜することができない。
なお、上述した第1の成膜工程S102から第2の成膜工程S103へ移行する際のアーク電流の上昇の方法は、階段状に段階的に変化させても構わないし、傾斜状に直線的に変化させても構わない。
次に、実施例と比較例を参照して、本発明についてさらに詳しく説明を行う。
[摩擦摩耗試験]
まず、φ80mmのピストンリング基材(JIS規格のSWOSC−V材に外周摺動面にCr−N系のPVD皮膜を25μm施したもの)の表面にイオンプレーティング法によって、下地層としてTi層を0.3μm形成した。このピストンリング基材11に以下の方法により硬質炭素皮膜を成膜して摩擦摩耗試験を行い、摩滅の有無を観察した。なお、ピストンリング基材は、C:0.55質量%,Si:1.35質量%,Mn:0.65質量%,Cr:0.70質量%,Cu:0.03質量%,P:0.02質量%,S:0.02質量%,残部:Fe及び不可避不純物から成るものを用いた。
[実施例1]
第1の成膜工程(アーク電流90A,パルスバイアス電圧−1800V)において、18分で0.2μm、第2の成膜工程(アーク電流120A,パルスバイアス電圧−1800V)において、456分で5.2μm、全体として膜厚が5.4μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[実施例2]
第1の成膜工程(アーク電流90A,パルスバイアス電圧−1800V)において、18分で0.2μm、第2の成膜工程(アーク電流120A,パルスバイアス電圧−1800V)において、456分で5.2μm、最表面成膜工程(アーク電流120A,パルバイアス電圧を−1800Vと−150Vとを3秒間隔で720回繰り返し)において、0.8μm、全体として膜厚が6.2μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[実施例3]
第1の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−1200V)において、41分で0.5μm、第2の成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧−1200V)において、772分で11.0μm、全体として膜厚が11.5μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[実施例4]
第1の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−1200V)において、41分で0.5μm、第2の成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧−1200V)において、772分で11.0μm、最表面成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧を−1200Vと−100Vとを3秒間隔で720回繰り返し)において、1.0μm、全体として膜厚が12.5μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[実施例5]
第1の成膜行程(アーク電流60A,パルスバイアス電圧−2000V)において、14分で0.1μm、第2の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−2000V)において、105分で1.0μm、最表面成膜行程(アーク電流140A,パルスバイアス電圧を−2000Vと−200Vとを3秒間隔で720回繰り返し)において、1.0μm、全体として膜厚が2.1μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[実施例6]
第1の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−2000V)において、41分で0.5μm、第2の成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧−2000V)において、281分で4.0μm、全体として膜厚が4.5μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[実施例7]
第1の成膜行程(アーク電流60A,パルスバイアス電圧−1200V)において、14分で0.1μm、第2の成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧−1200V)において、70分で1.0μm、全体として膜厚が1.1μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[比較例1]
スパッタリング法(電力3000W,パルスバイアス電圧−150V)にて硬度の低いDLCを75分で0.045μm、アークイオンプレーティング法(アーク電流120A,パルスバイアス電圧−150V)にて硬度の高いDLCを39分で0.45μm、2層で0.495μmを11回積層して膜厚が5.45μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[比較例2]
アークイオンプレーティング法(アーク電流90A,パルスバイアス電圧−200V)にて90分で膜厚が1.0μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[比較例3]
第1の成膜行程(アーク電流120A,パルスバイアス電圧−1200V)において、34分で0.5μm、第2の成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧−1200V)において、358分で5.1μm、全体として膜厚が5.6μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[比較例4]
第1の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−200V)において、16分で0.2μm、第2の成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧−200V)において、386分で5.5μm、全体として膜厚が5.7μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[比較例5]
第1の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−3000V)において、16分で0.2μm、第2の成膜行程(アーク電流150A,パルスバイアス電圧−3000V)において、365分で5.2μm、全体として膜厚が5.4μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[比較例6]
第1の成膜行程(アーク電流60A,パルスバイアス電圧−3000V)において、14分で0.1μm、第2の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−3000V)において、526分で5.0μm、全体として膜厚が5.1μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
[比較例7]
第1の成膜行程(アーク電流60A,パルスバイアス電圧−300V)において、14分で0.1μm、第2の成膜行程(アーク電流100A,パルスバイアス電圧−300V)において、547分で5.2μm、全体として膜厚が5.3μmの硬質炭素皮膜を成膜した。
なお、試験条件は以下の通りで行った。
硬質炭素皮膜の水素含有量は、0.3原子%とし、ピストンリングを長さ20mmに切り出して摺動側試験片(ピン型試験片)40として使用した。
相手側試験片41は、JIS G4805に高炭素クロム軸受鋼鋼材として規定されるSUJ2鋼から、寸法φ24×7.9mm、硬さHRC62以上の相手側試験片41(ディスク型試験片)を使用し、下記条件によるSRV試験を図5に示すように実施した。
試験装置:SRV試験装置
荷重:100N,200N,300N
周波数:50Hz
試験温度:80℃
摺動幅:3mm
潤滑油:5W−30,125ml/hr
試験時間:10分
試験結果は、表1に示すように、比較例1では、荷重200N以上、比較例2では、荷重が300Nで摩滅が観察されたのに対し、実施例1〜7では、荷重300Nでも摩滅は確認されず、良好な耐摩耗性を有することが確認された。なお、表1において「○」は摩滅が確認されなかったことを示す。
Figure 0006494505
[摩耗試験]
次に、上述した実施例1〜7及び比較例1〜7を用いて、摩耗試験を実施した。摩耗試験は、図6に示すようにアムスラー型摩耗試験機50を使用した。用いた試料51は、実施例1,2及び比較例1,2を7mm×8mm×5mmの固定片とし、相手材52(回転
片)にはドーナツ状(外径40mm,内径16mm、厚さ10mm)のものを用いて試料51と相手材52とを接触させて荷重Pを負荷して以下の試験条件によって行い固定片の摩耗比率を測定した。
試験装置:アムスラー型摩耗試験機
潤滑油:0W−20
油温:80℃
回転数:1.0m/s
荷重:784N
試験時間:7時間
相手材:ボロン鋳鉄
試験結果は、図7に示すように、実施例1及び2は、比較例1と比べて30%〜40%と大幅に摩耗比率が低いことが確認でき、耐摩耗性が非常に良好であることが確認できた。また、実施例3〜7についても比較例1〜7と比べて摩耗比率が低いことが確認できた。
[透過電子顕微鏡観察試験]
次に、上述した実施例1,2及び比較例2を用いて、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)による観察試験を実施した。
まず、実施例1及び2の皮膜断面TEM像を観察した。皮膜断面TEM像の観察はアンダーフォーカス条件での濃淡比較により行った。その結果、図8(a)に示すように実施例1の断面状態は、コントラスト差の小さな均質な膜を構成していることが確認できた。このように、実施例1は、均質な膜で構成されているので、膜の耐摩耗性に優れることが確認できた。
また、実施例2の最表面に形成される表層ナノ積層部は、図8(b)に示すようにコントラストの状態が縞状に観察された。明るいコントラストの部分は、電子線の透過が多い低密度の部分であり、暗いコントラストの部分は、電子線の透過の少ない高密度の部分であることと考えられる。このようなコントラストが縞状に現れるのは、パルスバイアス電圧を−150Vと−1800Vと高電圧処理と低電圧処理を所定の間隔で複数回繰り返すことで表層ナノ積層部を形成しており、該表層ナノ積層部によって靱性及び耐摩耗性の向上が確認できた。
次に、実施例1及び比較例2の表面状態を観察した。図9(a)に示すように、実施例1は、図9(b)に示す比較例2の表面状態に比べてマクロパーティクルの量が大幅に低減していることが確認できた。なお、図9(a),(b)における暗い部分がマクロパーティクルを観察できた箇所である。この観察結果対し、全体に対する暗い部分の面積率を算出することで、マクロパーティクルの面積率を算出した。なお、算出方法については、上述した共焦点顕微鏡を用いた画像解析を行って算出した。さらに、sp2成分比は、上述したTEM−EELSによる測定によって算出した。
また、実施例1〜7及び比較例1〜7の表面粗さである初期摩耗高さRpkの測定をDIN4776規格に基づいて行った。
これらのマクロパーティクル面積率,sp2成分比及び初期摩耗高さRpkの確認結果をまとめたものが以下の表2である。
Figure 0006494505
このように、実施例1〜7は、マクロパーティクル面積率が0.1%〜10.0%の範囲内にあり、sp2成分比が40%〜80%の範囲内にあることが確認できた。また、比較例1〜3は、マクロパーティクル面積率が13.2%以上と10.0%を超える大きな値を示しており、比較例2及び4〜7は、sp2成分比が40%〜80%の範囲を超えていることが確認できた。さらに、実施例1〜7の固定片摩耗比は、比較例1〜7の固定片摩耗比と比べて低い値を示しており、マクロパーティクル面積率が0.1%〜10.0%及びsp2成分比が40%〜80%の範囲内にある硬質炭素皮膜が高い耐摩耗性を備えることが確認できた。
また、初期摩耗高さRpkについては、実施例1〜7は0.2μm以下となっており、上述したマクロパーティクル面積率及びsp2成分比の構成による耐摩耗性との相乗効果によって更なる耐摩耗性を有することが確認できた。
このように、透過型電子顕微鏡による確認結果から、実施例1〜7並びに比較例1〜7の構造の違いが確認できる。
なお、本実施形態に係る硬質炭素皮膜12は、膜厚が5μm以上の厚さに形成した場合について説明を行ったが、膜厚はこれに限られず、例えば0.5以上かつ5μm未満に形成しても構わない。このように薄膜に形成した場合には、図10に示すように下地層13とピストンリング基材11との間にPVD皮膜,Crめっき皮膜又は窒化層のいずれかからなる基材層14を形成すると硬質炭素皮膜12の密着性を更に高めることができる。
以上、説明した本実施形態に係る硬質炭素皮膜12は、ピストンリング10の外周摺動面のみに硬質炭素皮膜などを形成した場合について説明を行ったが、ピストンリング基材の上面、下面並びに内周面に連続的に硬質炭素皮膜12などを形成しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
10 ピストンリング、 11 ピストンリング基材、 12 硬質炭素皮膜、
13 下地層、 14 基材層。

Claims (8)

  1. ピストンリング基材の少なくとも外周摺動面上に形成される水素を0.1〜5.0原子%含有する硬質炭素皮膜であって、
    前記硬質炭素皮膜は、透過型電子顕微鏡(TEM)に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSスペクトルで測定されたsp成分比が40%〜80%であり、含有するマクロパーティクルの硬質炭素皮膜表面における面積比が0.1%〜10.0%であり、
    前記硬質炭素皮膜は、最表面に皮膜断面が透過型電子顕微鏡(TEM)にて縞状に観察される表層ナノ積層部を備え、
    前記表層ナノ積層部は、合計厚さが0.1μm以上、2μm以下に成膜されることを特徴とする硬質炭素皮膜。
  2. 請求項1に記載の硬質炭素皮膜において、
    前記硬質炭素皮膜の下にTi,Cr又はSiから成る下地層を備えることを特徴とする硬質炭素皮膜。
  3. 請求項2に記載の硬質炭素皮膜において、
    前記下地層と前記ピストンリング基材の間にPVD皮膜,Crめっき皮膜又は窒化層のいずれかからなる基材層が形成されることを特徴とする硬質炭素皮膜。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の硬質炭素皮膜において、
    前記硬質炭素皮膜の表面粗さは、DIN4776規格に基づく初期摩耗高さRpkが0.2μm以下であることを特徴とする硬質炭素皮膜。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の硬質炭素皮膜において、
    前記硬質炭素皮膜は、膜厚が5μm以上に形成されることを特徴とする硬質炭素皮膜。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の硬質炭素皮膜において、
    前記硬質炭素皮膜は、膜厚が0.5μm以上、5μm未満に形成されることを特徴とする硬質炭素皮膜。
  7. 請求項1から6のいずれか1項に記載の硬質炭素皮膜の製造方法であって、
    アーク電流が60A〜100A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第1の成膜工程と、アーク電流が100A〜150A、パルスバイアス電圧が−2000V〜−800Vで処理を行う第2の成膜工程とを備えことを特徴とする硬質炭素皮膜の製造方法。
  8. 請求項7に記載の硬質炭素皮膜の製造方法において、
    前記第2の成膜工程の後にパルスバイアス電圧を−2000V〜−800Vの高電圧処理とパルスバイアス電圧を−200V〜−100Vの低電圧処理を所定の間隔で複数回繰り返す最表面成膜工程を更に備えることを特徴とする硬質炭素皮膜の製造方法。
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