JP6490980B2 - ポリアミド樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、帯電防止性と耐摩耗性に優れ、精密部品用途に適したポリアミド樹脂組成物に関する。
CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を有するレンズユニットは、携帯電話、ゲーム機、パソコン、車載カメラ、携帯電話端末等に用いられており、近年ではさらに小型化・高性能化されたマイクロレンズユニットの開発が進められている。
レンズユニットは、一般に、リフロー方式により電気配線のハンダ付けがおこなわれている。このため、レンズユニットを構成するバレルやホルダ等の精密部品には、リフロー工程のハンダ付け温度(最高265℃程度)に曝された場合に、外観を損なわないことに加えて、寸法安定性が要求されている。このような特性を満たす樹脂材料として、半芳香族ポリアミドが検討され、例えば、特許文献1に、ポリアミド9Tと繊維状強化材からなるポリアミド樹脂組成物が開示されている。
また、レンズユニット内部の撮像素子表面やレンズ表面は、塵や埃により容易に黒傷やシミを生じ、これが原因となりカメラ性能が低下しやすい。このため、レンズユニットを構成する部品には、製造時や使用時における塵や埃の発生を抑制することを目的として、帯電防止性を付与するための導電性フィラーを配合することが検討されている。そのような導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、グラファイト、炭素繊維、金属繊維、金属粉末が挙げられる。
特開2010−286544号公報
しかしながら、繊維状強化材等を一定量以上充填した樹脂組成物に対してさらに導電性フィラーを配合すると、機械的強度や成形加工性を損なうという問題がある。また、配合する導電性フィラーのアスペクト比が大きいと、樹脂組成物中の繊維状強化材の配向に影響し、寸法安定性が低下するという問題がある。
本発明は、上記課題に対し、優れた機械的特性、耐熱性、寸法安定性を保ちつつ、導電性フィラーの配合により帯電防止性が向上したポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、強化材を含有する半芳香族ポリアミドにカーボンナノファイバーを配合するにあたり、前記ポリアミドに特定量分子量の脂肪族モノカルボン酸を含有させることにより、帯電防止性が飛躍的に向上し、かつ、予想外の効果として耐摩耗性が格段に向上することを見出し、本発明に到達した。
(1)半芳香族ポリアミド(A)40〜89.5質量%、強化材(B)10〜50質量%、およびカーボンナノファイバー(C)0.5〜10質量%を含有し、半芳香族ポリアミド(A)が、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分と脂肪族モノカルボン酸とから構成され、芳香族ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を主成分とし、脂肪族ジアミン成分が、1,8−オクタンジアミンまたは1,10−デカンジアミンを主成分とし、脂肪族モノカルボン酸成分が、分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)()に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる精密部品。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、優れた機械的特性、耐熱性、寸法安定性を有することに加え、帯電防止性が飛躍的に向上しているとともに、さらに耐摩耗性が格段に向上している。このようなポリアミド樹脂組成物は、マイクロレンズユニット等の精密部品として好適に使用することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)と強化材(B)とカーボンナノファイバー(C)から構成される。
半芳香族ポリアミド(A)は、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分と脂肪族モノカルボン酸成分から構成される。
芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分として含むことが好ましい。テレフタル酸の含有量は、芳香族ジカルボン酸成分において、95モル%以上とすることが好ましく、100モル%とすることが好ましい。他の芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
脂肪族ジアミン成分は、1,8−オクタンジアミンまたは1,10−デカンジアミン(以下、「特定ジアミン」と略称する。)を主成分として含むことが好ましい。中でも、融点と耐熱性のバランスが特に優れていることから、1,10−デカンジアミンを用いることが好ましい。いずれかの特定ジアミンの含有量は、脂肪族ジアミン成分において、95モル%以上とすることが好ましく、100モル%とすることが好ましい。特定ジアミン以外の他の脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンが挙げられる。
テレフタル酸や特定ジアミンは、化学構造が対称であるため、これらのモノマーを用いることにより、結晶性や耐熱性を向上させることができる。
半芳香族ポリアミド(A)は、本発明の効果を損なわない限りで、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸や、脂肪族ジアミン以外のジアミンや、ラクタム類や、ω−アミノカルボン酸を含んでいてもよい。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジアミン以外のジアミンとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。ラクタムとしては、例えば、カプロラクタムやラウロラクタムが挙げられる。ω−アミノカルボン酸としては、例えば、アミノカプロン酸や11−アミノウンデカン酸が挙げられる。
半芳香族ポリアミド(A)は、分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸成分を含むことが必要である。脂肪族モノカルボン酸成分としては、例えば、ステアリン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸がより好ましい。分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸を含むことにより、カーボンナノファイバーの分散性が向上し、帯電防止性が飛躍的に向上する。また、摺動性が格段に向上するため、他の部材との接触摺動による摩耗粉等の塵や埃の発生が抑制される。脂肪族モノカルボン酸の分子量は、重合時に用いる原料の脂肪族モノカルボン酸の分子量とする。脂肪族モノカルボン酸成分の含有量は、(A)を構成する全モノマーに対して、0.6〜5.0モル%とすることが好ましく、1.0〜3.5モル%とすることがより好ましい。
半芳香族ポリアミド(A)は、本発明の効果を損なわない限りで、脂肪族モノカルボン酸以外のモノカルボン酸を含んでいてもよい。脂肪族モノカルボン酸以外のモノカルボン酸としては、例えば、4−エチルシクロヘキサンカルボン酸、4−へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4−ラウリルシクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、4−エチル安息香酸、4−へキシル安息香酸、4−ラウリル安息香酸、アルキル安息香酸類、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸等の芳香族モノカルボン酸が挙げられる。
半芳香族ポリアミド(A)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、ジカルボン酸成分と、ジアミン成分と、モノカルボン酸成分とから反応物を得る工程(i)と、得られた反応物を重合する工程(ii)とからなる方法が挙げられる。
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とを混合し、予めジアミンの融点以上、かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度のジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とに、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含まずに、ジアミンを添加する方法が挙げられる。あるいは、別の方法としては、溶融状態のジアミンと固体のジカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で、ジカルボン酸とジアミンとモノカルボン酸の反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応物の形状の制御が容易な前者の方が好ましい。
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
工程(i)および工程(ii)の反応装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(i)と工程(ii)を同じ装置で実施してもよいし、異なる装置で実施してもよい。
また、加熱重合法における加熱の方法としては、特に限定されないが、例えば、水、蒸気、熱媒油等の媒体にて反応容器を加熱する方法、電気ヒーターで反応容器を加熱する方法、攪拌により発生する攪拌熱等内容物の運動に伴う摩擦熱を利用する方法が挙げられる。また、これらの方法を組み合わせてもよい。
半芳香族ポリアミド(A)の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。重合触媒の添加量は、通常、(A)を構成する全モノマーに対して、2モル%以下で用いることが好ましい。
半芳香族ポリアミド(A)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物中において、40〜89.5質量%とすることが必要であり、50〜70質量%とすることが好ましい。(A)の含有量が89.5質量%を超える場合、機械的強度が低下するので好ましくない。一方、(A)の含有量が40質量%未満の場合、相対的に強化材量が多くなり溶融混練が困難となる場合があるので好ましくない。
本発明においては、優れた機械的特性を付与するために、強化材(B)を含有させる必要がある。強化材(B)としては、繊維状強化材、板状強化材、球状強化材が挙げられる。繊維状強化材としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維(ステンレス繊維、酸化アルミニウム繊維等)、セラミック繊維、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、アスベスト、ウォラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、針状酸化チタン、セピオライト、ゾノトライト、ミルドファイバー、カットファイバーが挙げられる。板状強化材としては、例えば、ガラスフレーク、タルク、マイカ、グラファイト、金属箔が挙げられる。球状強化材としては、例えば、カーボンブラック、炭化ケイ素、シリカ、石英粉末、ハイドロタルサイト、溶融シリカ、ガラス類(ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドガラスファイバー)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)、ケイ酸塩(ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレー、ケイ藻土、ウォラストナイト等)、金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等)、硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)が挙げられる。中でも、成形加工時に、端部までしっかりと充填されつつ、薄肉にもかかわらず剛性を示すので、タルク、溶融シリカビーズ、ウォラストナイト、酸化チタンウィスカが好ましい。強化材(B)は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。強化材の表面は、芳香族ポリアミド(A)中への分散性を高める目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の高分子または低分子の化合物によって表面処理されていることが好ましい。
強化材(B)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物中において、10〜50質量%とすることが必要であり、15〜45質量%とすることが好ましい。(B)の含有量が50質量%を超える場合、溶融混練によるペレット製造が困難となる場合があるので好ましくない。一方、(B)の含有量が10質量%未満の場合、機械的強度が低下するので好ましくない。
本発明において、用いる強化材(B)の平均長さは、異方性を小さくし、塵や埃の発生をさらに抑制できることから、250μm以下であることが好ましい。強化材(B)の「平均長さ」は、1個の強化材の樹脂組成物に配合する前の形状の最も長い部分をその強化材の長さとし、その平均した値とする。強化材(B)の平均長さの下限は特に限定されないが、原料の取り扱いの観点から、0.1μm以上とすることが好ましい。
本発明においては、優れた帯電防止性を付与するために、カーボンナノファイバー(C)を含有させる必要がある。本発明において、カーボンナノファイバー(C)とは、単繊維径が0.5〜20nmであって、平均長さが100〜5000nmであるものをいう。カーボンナノファイバー(C)には、いわゆる中空のカーボンナノチューブも含まれる。カーボンナノチューブは、炭素層が、炭素六角網面が円筒状に閉じた単層のものであっても、円筒状の炭素層が入れ子状になった多層のもの、いずれであってもよいが、溶融混練時に破損しにくい曲げ強度の高い多層のものが好ましい。カーボンナノファイバー(C)は、単位繊径や平均長さが小さいため、異方性を大きくすることなく帯電防止性を付与することができる。単繊維径は5〜15nmとすることが好ましく、平均長さは150〜3000nmとすることが好ましい。単繊維径が0.5nm未満の場合、熱可塑性樹脂中で分散できない場合があり、一方、20nmを超える場合、異方性が大きくなる場合がある。また、平均長さが100nm未満の場合、補強効果が小さかったり、帯電防止性や摺動性が発現しにくかったりする場合があり、一方、平均長さが5000nmを超える場合、異方性が大きくなる場合がある。平均長さを単繊維径で除したアスペクト比は10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。
カーボンナノファイバー(C)の製造方法は限定されないが、例えば、炭素電極間にアーク放電し放電用電極の陰極表面に成長させる方法や、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して加熱昇華させる方法や、遷移金属触媒を用いて炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法が挙げられる。製造方法により得られるカーボンナノファイバー(C)の形状やサイズは異なるものとなる。
カーボンナノファイバー(C)の含有量は、0.5〜10質量%とすることが必要であり、1〜8質量%とすることが好ましい。(C)の含有量が10質量%を超える場合、溶融混練によるペレット製造が困難となる場合があるので好ましくない。一方、(C)の含有量が0.5質量%未満の場合、帯電防止性や摺動性が発現しなかったりするので好ましくない。
本発明の樹脂組成物においては、他の充填材、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、結晶核剤等の添加剤を用いてもよい。添加剤の含有量は、樹脂組成物において、1質量%以下とすることが好ましい。
他の充填材としては、例えば、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、アスベスト、二硫化モリブデン、フェノール樹脂粒子、架橋スチレン系樹脂粒子、架橋アクリル系樹脂粒子が挙げられる。他の充填材は、粉末状、クロス状等どのような形態であってもよい。他の充填材の表面は、半芳香族ポリアミド(A)中への分散性を高める目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の高分子または低分子の化合物によって表面処理されていることが好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系が挙げられる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系が挙げられる。熱安定剤としては、例えば、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸やこれらのエステル、銅系化合物、多価アルコールやこれらのエステルが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、チオ系、リン系、ヒンダードアミン系が挙げられる。可塑剤としては、例えば、ポリオレフィンワックス、高級脂肪酸エステル等のワックス類が挙げられる。離型剤としては、例えば、シリコーンオイルが挙げられる。これらは、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
半芳香族ポリアミド(A)、強化材(B)、カーボンナノファイバー(C)および/または添加剤の配合方法は、その効果が損なわれなければ特に限定されないが、溶融混練法がより好ましい。溶融混練法としては、例えば、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は熱可塑性樹脂が溶融し、分解しない領域から選ばれる。通常は、混練機台の設定温度は半芳香族ポリアミドの融点(Tm)に対して、(Tm)〜(Tm+50℃)とするのが好ましい。ただし、半芳香族ポリアミド(A)が固化しなければ、(Tm−20℃)〜(Tm+50℃)としてもよい。混練機台の設定温度が(Tm+50℃)よりも高いと、半芳香族ポリアミド(A)が分解する場合があり、混練機台の設定温度が(Tm−20℃)よりも低いと、混練できない場合がある。
本発明の樹脂組成物の成形方法は特に限定されないが、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられる。中でも、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。射出成形機は特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、(Tm)〜(Tm+50℃)とすることが好ましい。なお、半芳香族ポリアミド(A)、強化材(B)、カーボンナノファイバー(C)および/または添加剤を溶融混練して直接成形してもよいし、溶融混練後、ペレット化し、それを成形してもよい。
本発明の樹脂組成物は、優れた機械的特性、耐熱性、寸法安定性を有しつつ、異方性が低いことに加えて、帯電防止性と耐摩耗性が飛躍的に向上していることから、精密部品に好適に用いることができる。具体的には、携帯電話のマイクロレンズユニット、車載用カメラのレンズユニットや、赤外線カメラ、視界補助カメラ、画像認識カメラ、顕微鏡、一眼レフカメラ、双眼鏡、望遠鏡等の鏡筒や、CD、DVD、ブルーレイディスク等の光ディスクドライブ等に好適に用いることができる。
また、本発明の樹脂組成物は、精密部品のパッケージや運搬用ケースに用いることもできる。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
1.測定方法
(1)融点、ガラス転移温度
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、その後、100℃/分で20℃まで降温し、20℃にて5分間保持後、350℃まで20℃/分でさらに昇温した(2nd Scan)。そして、2nd Scanで観測される結晶融解ピークのピークトップ温度を融点とし、ガラス転移に由来する2つの折曲点の温度の中間点をガラス転移温度とした。
(2)相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
(3)引張強度、引張弾性率
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S−2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、ISO 3167に準拠して、多目的試験片を作製した。
得られた多目的試験片を用いて、ISO527−1に準拠して、引張強度や引張弾性率を測定した。
(4)荷重たわみ温度
(3)で得られた多目的試験片を用いて、ISO75−1、2に準拠して、荷重1.80MPaで荷重たわみ温度を測定した。
(5)吸水率
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S―2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、幅60mm×長さ60mm×厚み3mmの板状試験片を作製した。
得られた板状試験片を、23℃の条件で蒸留水に24時間浸漬し、表面の水分をふき取った後、三菱化学社製カールフィシャー水分計を用いて、150℃の気化条件にて、吸水率を測定した。
(6)成形収縮率
(5)で得られた板状試験片を用いて、23℃で24時間静置後、静置前後の成形収縮率を測定した。
なお、射出方向をMD、平板表面に平行かつ射出方向と垂直の方向をTDとした。
表において、成形収縮率が5%以上の場合は、「>5」と表示する。
成形収縮率は、MD、TDともに1.0%以下を合格とした。
(7)ブリスターの発生の有無、異方寸法変化率比
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S−2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、幅20mm×長さ20mm×厚み0.5mmの平板試験片を作製した。金型は、20mm×0.5mmの面にフィルムゲートを有するものを用いた。
得られた平板試験片を85℃×85%RHにて168時間静置した。
その後、150℃で1分間加熱した後、100℃/分の速度で265℃まで昇温して10秒間保持する処理した。
上記熱処理後、目視でブリスターの発生の有無を確認した。
射出方向をMD、平板表面に平行かつ射出方向と垂直の方向をTDとして、上記熱処理前後の成形品寸法から、MD、TDそれぞれの寸法変化率を求め、以下の式により、異方寸法変化率比を求めた。
異方寸法変化率比=(TDの寸法変化率)/(MDの寸法変化率)
異方寸法変化率比は、2.0以下を合格とした。
(8)体積固有抵抗値
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S−2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、直径φ100mm,厚み1.6mmの円板試験片を作製した。
得られた円板試験片を用いて、23℃で50%RH環境下に24時間静置後、同環境下においてJIS−K−6911に準拠して、エレクトロメーター(アドバンテスト社製R8340)およびレジスティビティ・チャンバ(アドバンテスト社製R12704A)を用いて体積固有抵抗値を測定した。
体積固有抵抗値は、1010Ω・cm以下を合格とした。
(9)耐摩耗性評価
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、ファナック社製射出成形機(S―2000i)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度(Tm−190℃)の条件で、JIS−K7218に規定される中空円筒試験片を作製した。作製後は吸湿しないようにすぐに絶乾状態で保管した。
得られた中空円筒試験片について、JIS−K7218に準拠して、23℃50%RHの環境下、TOYO BALDEIN社製鈴木式摩擦摩耗試験装置EMF−III−E型を用いて連続すべり摩耗試験を実施した。相手材は金属S45C製の中空円筒試験片(樹脂組成物の中空円筒試験片と同形状)、荷重は5kgf、すべり速度は0.5m/s、すべり距離は5.4kmとした。
連続すべり摩耗試験終了後、試験片を120℃で4時間乾燥して水分を除去し、比摩耗量を測定した。
比摩耗量は、40mm/(km・kN)以下を合格とした。
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)ジカルボン酸成分
・TPA:テレフタル酸
(2)ジアミン成分
・ODA:1,8−オクタンジアミン
・DA:1,10−デカンジアミン
・DDA:1,12−ドデカンジアミン
・NDA:1,9−ノナンジアミン
(3)モノカルボン酸成分
・STA:ステアリン酸(分子量:284)
・BA:安息香酸(分子量:122)
・CA:カプロン酸(分子量:116)
(4)重合触媒
・SHP:次亜リン酸ナトリウム一水和物
(5)熱可塑性樹脂
・半芳香族ポリアミド(A−1)
[工程(i)]
TPA粉末4560質量部、SHP9質量部、STA490質量部を、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温したDA4950質量部を、33質量部/分の速度で、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)にTPA粉末に添加し反応物を得た。原料モノマーのモル比は、DA:TPA:STA=47.4:49.6:3.0(原料モノマーの末端基の当量比率はDA:TPA:STA=48.1:50.4:1.5)であった。
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、引き続き工程(i)で用いたリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド(A−1)を得た。
・半芳香族ポリアミド(A−2)〜(A−6)
樹脂組成を表1のように変更する以外は、半芳香族ポリアミド(A−1)を製造した場合と同様の操作をおこなって、半芳香族ポリアミドを得た。
表1に、半芳香族ポリアミド(A−1)〜(A−6)の樹脂組成およびその特性値を示す。
・脂肪族ポリアミド(ポリアミド66)(A−7)
ユニチカ社製A125J、融点265℃
・脂肪族ポリアミド(ポリアミド6)(A−8)
ユニチカ社製A1030BRL、融点225℃
・ポリカーボネート(A−9)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンS−2000、ガラス転移点150℃
(6)強化材(B)
・ガラス繊維(B−1)
日本電気硝子社製T−249H、繊維径10.5μm×繊維長3μm
・ウォラストナイト(B−2)
NYCO社製NYGLOS 8、繊維径8μm×繊維長136μm
・タルク(B−3)
日本タルク社製MSZ−C、アミノシランで表面処理したもの、平均粒径11μm
・炭素繊維(B−4)
三菱レイヨン社製TR06NEB4J、繊維径7μm×繊維長 6mm
(7)カーボンナノファイバー(C)
・CNT−1(C−1)
ナノシル社製MWCNT NC−7000、カーボンナノチューブ、平均径9.5nm、平均長さ1.5μm
・CNT−2(C−2)
クムホ社製MWCNT K−NANOs−100T、カーボンナノチューブ、平均径8〜15nm、平均長さ 26μm
実施例1
半芳香族ポリアミド(A−1)58質量部を、ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1型(クボタ社製)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機TEM26SS型(東芝機械社製)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーよりウォラストナイト20質量部とタルク20質量部とCNT−1(C−1)2質量部を供給し、さらに混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(半芳香族ポリアミドの融点+5℃)〜(半芳香族ポリアミドの融点+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/時間とした。
実施例2〜12、比較例2、4〜11 ポリアミド樹脂組成物の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
実施例1〜12、比較例1〜11、参考例1の樹脂組成およびその特性値を表2に示す。
比較例1
ポリアミド樹脂組成物の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなったが、強化材の配合量が多かったため溶融混練が困難となり、ペレットを得ることができなかった。
比較例3
ポリアミド樹脂組成物の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなったが、カーボンナノファイバーの配合量が多かったため溶融混練が困難となり、ペレットを得ることができなかった。
実施例1〜12の樹脂組成物は、本発明の要件を満たしていたため、引張強度、引張弾性率、荷重たわみ温度が高く、成形収縮率、異方寸法変化率比が小さかった。また、体積固有抵抗値が高く、比摩耗量が少なかった。
実施例1、比較例5、6、10の対比から、分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸を含む半芳香族ポリアミドに、カーボンナノファイバーを用いることにより、体積平均抵抗値が相乗的に高くなり、比摩耗量が相乗的に少なくなっていることがわかる。
実施例6、比較例11の対比から、ナノファイバーにより帯電防止性を付与した場合は、炭素繊維により帯電防止機能を付与した場合よりも、ほぼ同じ体積平均抵抗を有しているにもかかわらず、異方寸法変化率比が小さいことがわかる。
実施例1、11、12と参考例1の対比から、特定ジアミンを用いた半芳香族ポリアミドの方が、特定ジアミンを用いていない半芳香族ポリアミドよりも、ブリスター特性等の耐熱性が優れていることがわかる。
比較例2の樹脂組成物は、強化材の配合量が本発明で規定する量よりも少なかったため、引張強度が低かった。
比較例4の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーの配合量が本発明で規定する量よりも少なかったため、体積固有抵抗値が大きく、比摩耗量が多かった。
比較例5、6の樹脂組成物は、それぞれ、安息香酸、カプロン酸(分子量140未満)を含有する半芳香族ポリアミドを用いたため、体積固有抵抗値が高く、比摩耗量が多かった。
比較例7の樹脂組成物は、ポリアミド66を用いたため、ブリスターが発生した。また、異方寸法変化率比が大きく、比摩耗量も多かった。
比較例8の樹脂組成物は、ポリアミド6を用いたため、ブリスターが発生した。また、異方寸法変化率比が大きく、比摩耗量も多かった。
比較例9の樹脂組成物は、ポリカーボネートを用いたため、異方寸法変化率比が大きく、比摩耗量が多かった
比較例10の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーを用いなかったため、体積固有抵抗値が高く、比摩耗量が多かった。
比較例11の樹脂組成物は、カーボンナノファイバーを用いなかったため、異方寸法変化率比が大きかった。

Claims (2)

  1. 半芳香族ポリアミド(A)40〜89.5質量%、強化材(B)10〜50質量%、およびカーボンナノファイバー(C)0.5〜10質量%を含有し、半芳香族ポリアミド(A)が、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分と脂肪族モノカルボン酸とから構成され、芳香族ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を主成分とし、脂肪族ジアミン成分が、1,8−オクタンジアミンまたは1,10−デカンジアミンを主成分とし、脂肪族モノカルボン酸成分が、分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
  2. 請求項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる精密部品。
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