JP6488126B2 - ゴルフクラブのフィッティング装置、方法及びプログラム - Google Patents

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Description

本発明は、ゴルファーに適したゴルフクラブの重量(以下、最適クラブ重量)を決定するフィッティング装置、方法及びプログラムに関する。
従来より、ゴルファーにテストクラブを試打させてその動作を計測機器により計測し、当該計測値に基づいてゴルファーに適したゴルフクラブを決定する様々なフィッティング方法が提案されている。特許文献1では、ゴルファーに適したゴルフクラブを選択するために、ゴルフクラブの重量やゴルフクラブの長さ等を考慮することが重要であることが指摘されている。
特開2013−226375号公報
ところで、最適クラブ重量は、そのゴルファーが現在使っているゴルフクラブの重量や、様々なゴルフクラブの試打結果や見た目のスイングのテンポ等に基づいて、熟練のクラブフィッターにより経験的に決定されることが多い。しかしながら、このような経験や勘に依存したフィッティング方法は客観的ではなく、フィッティングの結果に個人差が生じるという問題がある。
本発明は、ゴルファーに適したゴルフクラブの重量である最適クラブ重量を客観的に精度よく決定するフィッティング装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
本発明の第1観点に係るフィッティング装置は、ゴルファーに適したゴルフクラブの重量である最適クラブ重量を決定するフィッティング装置であって、取得部と、算出部と、決定部とを備える。前記取得部は、前記ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測値を取得する。前記算出部は、前記計測値に基づいて、前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮されるエネルギー又はトルクを表す指標、或いはこれらと相関のある指標を算出する。前記決定部は、前記指標の大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定する。
本発明の第2観点に係るフィッティング装置は、第1観点に係るフィッティング装置であって、前記算出部は、複数の種類の前記指標を算出する。前記決定部は、前記複数の種類の指標の大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定する。
本発明の第3観点に係るフィッティング装置は、第1観点又は第2観点に係るフィッティング装置であって、前記指標には、前記スイング動作時の前記ゴルファーの腕エネルギー及び前記スイング動作時の前記ゴルファーの肩周りのトルクの少なくとも一方が含まれる。
本発明の第4観点に係るフィッティング装置は、第3観点に係るフィッティング装置であって、前記算出部は、前記スイング動作時のヘッドスピードを算出する。前記決定部は、前記腕エネルギー及び前記肩周りのトルクの少なくとも一方の大きさに加え、前記ヘッドスピードの大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定する。
本発明の第5観点に係るフィッティング装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るフィッティング装置であって、前記決定部は、前記指標が大きい又は小さい程、前記最適クラブ重量を大きな値に決定する。
本発明の第6観点に係るフィッティング装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係るフィッティング装置であって、記憶部をさらに備える。前記記憶部は、前記テストクラブの種類毎に、前記指標の大きさと前記最適クラブ重量との対応関係を定める対応関係データを記憶する。前記決定部は、前記テストクラブの種類に応じて、前記記憶部内の前記対応関係データを参照することにより、前記最適クラブ重量を決定する。
本発明の第7観点に係るフィッティング装置は、第1観点から第6観点のいずれかに係るフィッティング装置であって、前記最適クラブ重量に合致する複数本のゴルフクラブの中から、スイング慣性モーメントが小さく、グリップエンド慣性モーメントの大きいゴルフクラブを特定する最適クラブ特定部をさらに備える。
本発明の第8観点に係るフィッティング方法は、ゴルファーに適したゴルフクラブの重量である最適クラブ重量を決定するフィッティング方法であって、以下の(1)〜(3)のステップを備える。
(1)前記ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測するステップ。
(2)前記計測機器による計測値に基づいて、前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮されるエネルギー又はトルクを表す指標、或いはこれらと相関のある指標を算出するステップ。
(3)前記指標の大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定するステップ。
本発明の第9観点に係るフィッティング方法は、第8観点に係るフィッティング方法であって、以下の(4)のステップをさらに備える。
(4)前記最適クラブ重量に合致する複数本のゴルフクラブの中から、スイング慣性モーメントが小さく、グリップエンド慣性モーメントの大きいゴルフクラブを特定するステップ。
本発明の第10観点に係るフィッティングプログラムは、ゴルファーに適したゴルフクラブの重量である最適クラブ重量を決定するフィッティングプログラムであって、以下の(1)〜(3)のステップをコンピュータに実行させる。
(1)前記ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測値を取得するステップ。
(2)前記計測機器による計測値に基づいて、前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮されるエネルギー又はトルクを表す指標、或いはこれらと相関のある指標を算出するステップ。
(3)前記指標の大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定するステップ。
本発明の第11観点に係るフィッティングプログラムは、第10観点に係るフィッティングプログラムであって、以下の(4)のステップをさらにコンピュータに実行させる。
(4)前記最適クラブ重量に合致する複数本のゴルフクラブの中から、スイング慣性モーメントが小さく、グリップエンド慣性モーメントの大きいゴルフクラブを特定するステップ。
本発明者らは、最適クラブ重量と、スイング動作時にゴルファーにより発揮されるエネルギー又はトルクとの間には、相関関係があることを発見した。そこで、本発明によれば、ゴルファーによるテストクラブのスイング動作時に当該ゴルファーにより発揮されるエネルギー又はトルクを表す指標、或いはこれらと相関のある指標の大きさに応じて、最適クラブ重量が決定される。これにより、最適クラブ重量を客観的に精度よく決定することができる。
本発明の一実施形態に係るフィッティング装置を備えるゴルフスイングシステムを示す図。 フィッティングシステムの機能ブロック図。 ゴルフクラブのグリップを基準とするxyz局所座標系を説明する図。 (A)アドレス状態を示す図。(B)トップ状態を示す図。(C)インパクト状態を示す図。(D)フィニッシュ状態を示す図。 第1変換処理の流れを示すフローチャート。 アドレスの時刻を導出する処理の流れを示すフローチャート。 スイング平面を説明する図。 肩挙動導出工程の流れを示すフローチャート。 二重振り子モデルを概念的に説明する図。 指標算出工程の流れを示すフローチャート。 二重振り子モデルを概念的に説明する別の図。 重量指標の1つである腕エネルギーを説明する図。 最適総重量決定工程の流れを示すフローチャート。 プロモデルユーザ10名及びアベレージモデルユーザ10名によるスイング動作時の腕エネルギー及び平均肩トルクの値をプロットした図。 プロモデル領域及びアベレージモデル領域を示す図。 ゴルフクラブの重量とヘッド速度との関係を示す図。 実験により求めた、プロモデルユーザによるスイング動作時のヘッド速度及び最適クラブ重量を示す図。 実験により求めた、アベレージモデルユーザによるスイング動作時のヘッド速度及び最適クラブ重量を示す図。 プロモデルユーザに最適クラブ重量を割り当てるための分割領域を示す図。 アベレージモデルユーザに最適クラブ重量を割り当てるための分割領域を示す図。 シミュレーションによるヘッド速度の等高線図。 別のシミュレーションによるヘッド速度の等高線図。 さらに別のシミュレーションによるヘッド速度の等高線図。 シミュレーションによるコック角の等高線図。 最適クラブ特定工程を説明する図。 変形例に係る重量指標である各種角度を説明する図。
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブのフィッティング装置、方法及びプログラムについて説明する。
<1.フィッティングシステムの概略構成>
図1及び図2に、本実施形態に係るフィッティング装置2を備えるフィッティングシステム100の全体構成を示す。フィッティング装置2は、ゴルファー7によるゴルフクラブ4のスイング動作を計測した計測データに基づいて、ゴルフクラブ4のスイング動作を解析する装置である。本実施形態では、フィッティング装置2は、ゴルフクラブ4のフィッティングを支援する用途で使用される。スイング動作の計測は、ゴルフクラブ4のグリップ42に取り付けられたセンサユニット1(計測機器)により行われ、フィッティング装置2は、このセンサユニット1とともに、フィッティングシステム100を構成する。
以下、センサユニット1及びフィッティング装置2の構成について説明した後、スイング動作の解析処理の流れについて説明する。
<1−1.センサユニットの構成>
センサユニット1は、図1及び図3に示すとおり、ゴルフクラブ4のグリップ42におけるヘッド41と反対側の端部に取り付けられており、グリップ42の挙動を計測する。なお、ゴルフクラブ4は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト40と、シャフト40の一端に設けられたヘッド41と、シャフト40の他端に設けられたグリップ42とから構成される。センサユニット1は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。図2に示すように、本実施形態に係るセンサユニット1には、加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13が搭載されている。また、センサユニット1には、これらのセンサ11〜13による計測データを外部のフィッティング装置2に送信するための通信装置10も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置10は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式にフィッティング装置2に接続するようにしてもよい。
加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13はそれぞれ、グリップ42を基準としたxyz局座標系におけるグリップ加速度、グリップ角速度及びグリップ地磁気を計測する。より具体的には、加速度センサ11は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップ加速度ax,ay,azを計測する。角速度センサ12は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップ角速度ωx,ωy,ωzを計測する。地磁気センサ13は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップ地磁気mx,my,mzを計測する。これらの計測データは、所定のサンプリング周期Δtの時系列データとして取得される。なお、xyz局所座標系は、図3に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト40の延びる方向に一致し、ヘッド41からグリップ42に向かう方向が、z軸正方向である。x軸は、ヘッド41のトゥ−ヒール方向にできる限り沿うように配向され、y軸は、ヘッド41のフェース面の法線方向にできる限り沿うように配向される。
本実施形態では、加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13による計測データは、通信装置10を介してリアルタイムにフィッティング装置2に送信される。しかしながら、例えば、センサユニット1内の記憶装置に計測データを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置から計測データを取り出して、フィッティング装置2に受け渡すようにしてもよい。
<1−2.フィッティング装置の構成>
図2を参照しつつ、フィッティング装置2の構成について説明する。フィッティング装置2は、CD−ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体20に格納された本実施形態に係るフィッティングプログラム3を、当該記録媒体20から汎用のパーソナルコンピュータにインストールすることにより製造される。フィッティングプログラム3は、センサユニット1から送られてくる計測データに基づいてスイング動作を解析し、ゴルファー7に適したゴルフクラブを選択するのを支援する情報を出力するためのソフトウェアである。フィッティングプログラム3は、フィッティング装置2に後述する動作を実行させる。
フィッティング装置2は、表示部21、入力部22、記憶部23、制御部24及び通信部25を備える。そして、これらの部21〜25は、バス線26を介して接続されており、相互に通信可能である。本実施形態では、表示部21は、液晶ディスプレイ等で構成され、後述する情報をユーザに対し表示する。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファー7自身やそのインストラクター等の、フィッティングの結果を必要とする者の総称である。また、入力部22は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、フィッティング装置2に対するユーザからの操作を受け付ける。
記憶部23は、ハードディスク等の不揮発性の記憶装置により構成される。記憶部23内には、フィッティングプログラム3が格納されている他、センサユニット1から送られてくる計測データが保存される。また、記憶部23には、対応関係データ28が格納されている。対応関係データ28とは、詳細は後述するが、様々なモデルのゴルフクラブ4毎に規定されており、最適クラブ重量を決定するための条件を示すデータである。通信部25は、フィッティング装置2と外部装置との通信を可能にする通信インターフェースであり、センサユニット1からデータを受信する。
制御部24は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部24は、記憶部23内のフィッティングプログラム3を読み出して実行することにより、仮想的に取得部24A、グリップ挙動導出部24B、肩挙動導出部24C、指標算出部24D、決定部24E、表示制御部24F及び最適クラブ特定部24Gとして動作する。各部24A〜24Gの動作の詳細については、後述する。
<2.スイング動作の解析処理>
続いて、フィッティングシステム100による、ゴルフクラブ4のフィッティングのためのスイング動作の解析処理について説明する。本実施形態に係る解析処理は、以下の7つの工程から構成されている。
(1)xyz局所座標系でのグリップ加速度ax,ay,az、グリップ角速度ωx,ωy,ωz及びグリップ地磁気mx,my,mzの計測データを計測する計測工程
(2)計測工程で得られたxyz局所座標系での計測データを、XYZ全体座標系でのグリップ加速度aX,aY,aZ及びグリップ角速度ωX,ωY,ωZに変換する第1変換工程(第1変換工程では、XYZ全体座標系でのグリップ速度vX,vY,vZも導出される。)
(3)XYZ全体座標系でのグリップ42の挙動(グリップ角速度ωX,ωY,ωZ及びグリップ速度vX,vY,vZ)を、スイング平面P(後述する)内でのグリップ42の挙動へと変換する第2変換工程
(4)スイング平面P内でのグリップ42の挙動に基づいて、スイング平面P内でのゴルファー7の疑似的な肩の挙動を導出する肩挙動導出工程
(5)グリップ42の挙動及び疑似的な肩の挙動に基づいて、最適クラブ重量を決定するための仕様となる重量指標(本実施形態では、ゴルファー7により発揮される平均肩トルクTAVE、腕エネルギーEAVE及びヘッド速度Vhに関する3つの指標)を算出する指標算出工程
(6)重量指標に基づいて、最適クラブ重量を決定する最適総重量決定工程
(7)ゴルファー7に適したシャフト40の重量(以下、最適シャフト重量)及び曲げ剛性(以下、最適曲げ剛性)を算出する最適シャフト決定工程
(8)最適総重量決定工程で特定された最適クラブ重量に合致するとともに、最適シャフト決定工程で算出された最適シャフト重量及び最適曲げ剛性に合致する複数本のゴルフクラブの中から、特にヘッド速度を高めることができるゴルフクラブを特定する最適クラブ特定工程
以下、これらの工程を順に説明する。
なお、XYZ全体座標系は、図1に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、Z軸は、鉛直下方から上方に向かう方向であり、X軸は、ゴルファー7の背から腹に向かう方向であり、Y軸は、地平面に平行でボールの打球地点から目標地点に向かう方向である。
<2−1.計測工程>
計測工程では、ゴルファー7により、上述のセンサユニット1付きゴルフクラブ4がスイングされる。計測工程でスイングされるゴルフクラブ4は、2本のテストクラブのうちの1本である。ただし、詳細は後述されるが、最初に選択されたテストクラブがゴルファー7に適していないと判断される場合には、続けてもう一本のゴルフクラブもスイングされる。これらのテストクラブは、異なる種類のゴルフクラブであり、本実施形態では、1本はプロ仕様のゴルフクラブ(以下、プロモデルクラブ)であり、もう1本はアベレージユーザーに適したゴルフクラブ(以下、アベレージモデルクラブ)である。また、本実施形態では、プロモデルクラブは、アベレージモデルクラブよりも重量が大きい。計測工程でいずれのテストクラブがスイングされるかは、ゴルファー7の好みや経験等に基づいて、決定される。
続いて、以上のようなゴルフクラブ4のスイング動作中のグリップ加速度ax,ay,az、グリップ角速度ωx,ωy,ωz及びグリップ地磁気mx,my,mzの計測データが、セ
ンサユニット1により計測される。この計測データは、センサユニット1の通信装置10を介してフィッティング装置2に送信される。一方、フィッティング装置2側では、取得部24Aが通信部25を介してこれを受信し、記憶部23内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスからインパクトまでの時系列の計測データが計測される。
なお、ゴルフクラブのスイング動作は、一般に、アドレス、トップ、インパクト、フィニッシュの順に進む。アドレスとは、図4(A)に示すとおり、ゴルフクラブ4のヘッド41をボール近くに配置した初期の状態を意味し、トップとは、図4(B)に示すとおり、アドレスからゴルフクラブ4をテイクバックし、最もヘッド41が振り上げられた状態を意味する。インパクトとは、図4(C)に示すとおり、トップからゴルフクラブ4が振り下ろされ、ヘッド41がボールと衝突した瞬間の状態を意味し、フィニッシュとは、図4(D)に示すとおり、インパクト後、ゴルフクラブ4を前方へ振り抜いた状態を意味する。
また、計測工程では、以上のゴルフクラブ4が複数回、好ましくは5回以上試打されることが好ましい。この場合、計測データの平均値を算出し、以降の演算に使用することができる。また、ミスショットや計測ミス等による異常値を取り除くため、計測データの標準偏差σを算出し、試打全ての計測データが好ましくは平均値±1.65σ以内に、より好ましくは平均値±1.28σ以内に収まるような計測データを得ることが好ましい。そして、当該チェックを行うべく、制御部24により計測データの標準偏差σを算出するようにし、このσの値が以上の条件を満たしていない場合には、計測の追加又はやり直しを求めるメッセージを表示部21上に表示させるようにしてもよい。なお、計測データ自体の平均値ではなく、計測データに基づいて算出される加工値(例えば、後述する平均肩トルクTAVE、腕エネルギーEAVE及びヘッド速度Vh)の平均値を算出するようにしてもよい。加工値の平均値を算出する場合も、同じく標準偏差σに基づくデータの信頼性のチェックを行うことができる。
<2−2.第1変換工程>
以下、図5を参照しつつ、xyz局所座標系の計測データをXYZ全体座標系の値へと変換する第1変換工程について説明する。具体的には、まず、取得部24Aが、記憶部23内に格納されているxyz局所座標系でのグリップ加速度ax,ay,az、グリップ角速度ωx,ωy,ωz及びグリップ地磁気mx,my,mzの時系列の計測データを読み出す(ステップS1)。
次に、ステップS1で読み出されたxyz局所座標系での時系列の計測データに基づいて、グリップ挙動導出部24Bが、インパクト、トップ及びアドレスの時刻ti,tt,taを導出する(ステップS2)。本実施形態では、まずインパクトの時刻tiが導出され、インパクトの時刻tiに基づいてトップの時刻ttが導出され、トップの時刻ttに基づい
てアドレスの時刻taが導出される。
具体的には、グリップ角速度ωxのサンプリング周期Δt当たりの増分が閾値である300deg/sを最初に超えた時刻が、仮のインパクトの時刻として設定される。そして、この仮のインパクトの時刻から所定の時間を溯った時刻から、仮のインパクトの時刻までで、グリップ角速度ωxのサンプリング周期Δt当たりの増分が200deg/sを超えた時刻が検出され、インパクトの時刻tiとして設定される。
次に、インパクトの時刻tiよりも前の時刻であって、グリップ角速度ωyが負から正へ切り替わった時刻が、トップの時刻ttとして特定される。また、アドレスの時刻taは、図6のフローチャートに従って算出される。
続くステップS3では、グリップ挙動導出部24Bが、アドレスからインパクトまでの時刻tにおける姿勢行列N(t)を算出する。今、姿勢行列を以下の式で表すとする。姿勢行列N(t)は、時刻tにおけるXYZ全体座標系をxyz局所座標系に変換するための行列である。
姿勢行列N(t)の9つの成分の意味は、以下のとおりである。
成分a:全体座標系のX軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分b:全体座標系のY軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分c:全体座標系のZ軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分d:全体座標系のX軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分e:全体座標系のY軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分f:全体座標系のZ軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分g:全体座標系のX軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分h:全体座標系のY軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分i:全体座標系のZ軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
ここで、ベクトル(a,b,c)は、x軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(d,e,f)は、y軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(g,h,i)は、z軸方向の単位ベクトルを表している。
また、姿勢行列N(t)は、Z−Y−Z系のオイラー角の考え方に従うと、以下の式で表すことができる。ただし、φ,θ,ψは、Z軸、Y軸、Z軸周りの回転角度とする。
アドレスからインパクトまでの姿勢行列N(t)を算出するに当たり、まず、アドレスの時刻taにおける姿勢行列N(ta)が算出される。具体的には、以下の式に従って、アドレス時のφ,θが算出される。なお、以下の式は、アドレス時にはゴルフクラブ4は静止しており、加速度センサ11によって鉛直方向の重力のみが検出されることを利用している。以下の式中のグリップ加速度ax,ay,azは、アドレス時の値である。
続いて、以下の式に従って、アドレス時のψが算出される。
ただし、上式中のmxi,myiの値は、以下の式に従って算出される。また、以下の式中のグリップ地磁気mx,my,mzは、アドレス時の値である。
以上より、アドレス時のφ,θ,ψが、xyz局所座標系でのグリップ加速度ax,ay,az及びグリップ地磁気mx,my,mzに基づいて算出される。そして、これらのφ,θ,ψの値を数2の式に代入することにより、アドレス時の姿勢行列N(ta)が算出され
る。
続いて、アドレス時の姿勢行列N(ta)をサンプリング周期Δt間隔で時々刻々更新してゆくことにより、アドレスからインパクトまでの姿勢行列N(t)が算出される。具体的に説明すると、まず、姿勢行列N(t)は、クォータニオンの4変数q1,q2,q3,q4(q4がスカラー部)を用いて、以下の式で表される。
従って、数1及び数7より、クォータニオンの4変数q1,q2,q3,q4は、以下の式に従って、算出することができる。
今、アドレス時の姿勢行列N(ta)を規定するa〜iの値は既知である。よって、以上の式に従って、まず、アドレス時のクォータニオンの4変数q1,q2,q3,q4が算出される。
そして、時刻tから微小時刻経過後のクォータニオンq’は、時刻tにおけるクォータニオンqを用いて以下の式で表される。
また、クォータニオンの4変数q1,q2,q3,q4の時間変化を表す1階微分方程式は、以下の式で表される。
数9及び数10の式を用いれば、時刻tのクォータニオンを順次、次の時刻t+Δtのクォータニオンへと更新することができる。ここでは、アドレスからインパクトまでのクォータニオンが算出される。そして、アドレスからインパクトまでのクォータニオンの4変数q1,q2,q3,q4を数7の式に順次代入してゆくことにより、アドレスからインパクトまでの姿勢行列N(t)が算出される。
次に、ステップS4では、グリップ挙動導出部24Bが、アドレスからインパクトまでの姿勢行列N(t)に基づいて、アドレスからインパクトまでのxyz局所座標系でのグリップ加速度ax,ay,az及びグリップ角速度ωx,ωy,ωzの時系列データを、XYZ全体座標系での時系列データに変換する。変換後のグリップ加速度aX,aY,aZ及びグ
リップ角速度ωX,ωY,ωZは、以下の式に従って算出される。
続くステップS5では、グリップ挙動導出部24Bは、グリップ加速度aX,aY,aZの時系列データを積分することにより、アドレスからインパクトまでのXYZ全体座標系でのグリップ速度vX,vY,vZを導出する。このとき、アドレスからインパクトまでのグリップ速度vX,vY,vZを、トップにおいて0m/sとなるように、オフセットを行うことが好ましい。例えば、任意の時刻tにおけるオフセットは、時刻tにおけるグリップ速度vX,vY,vZから、(トップの時刻ttでのグリップ速度vX,vY,vZ)×t/(tt−ta)を減算することにより行われる。
<2−3.第2変換工程>
以下、第1変換工程で算出されたXYZ全体座標系でのグリップ42の挙動を、スイング平面P内でのグリップ42の挙動へと変換する第2変換工程について説明する。本実施形態では、スイング平面Pは、XYZ全体座標系の原点を含み、Y軸及びインパクト時のゴルフクラブ4のシャフト40と平行な面として定義される(図7参照)。第2変換工程では、グリップ挙動導出部24Bは、XYZ全体座標系でのグリップ速度vX,vY,vZ及びグリップ角速度ωX,ωY,ωZをスイング平面P内へ射影したグリップ速度vpX,vpY,vpZ及びグリップ角速度ωpX,ωpY,ωpZを算出する。
具体的には、シャフト40の延びる方向を表す、姿勢行列N(t)に含まれるz軸ベクトル(g,h,i)に基づいて、X軸正方向から見た(ゴルファー7を正面から見た)シャフト40の傾きの時系列データを算出する。そして、この時系列データに基づいて、X軸正方向から見てシャフト40がZ軸と平行になる時刻を特定し、これをインパクトの時刻tiとする。なお、ここでのインパクトの時刻tiは、既出のインパクトの時刻tiと一致するとは限らない。続いて、このインパクトの時刻tiにおける姿勢行列N(ti)に含まれるz軸ベクトル(g,h,i)に基づいて、Y軸負方向から見たシャフト40の傾きを算出する。すなわち、インパクト時にY軸負方向から見たシャフト40とX軸との為す角度α’を算出し、これをスイング平面角度とする。
スイング平面角度α’が求まると、これを用いてXYZ全体座標系における任意の点をスイング平面Pに射影するための射影変換行列Aを、以下のとおり算出することができる。ただし、α=90°−α’である。
ここでは、以上の射影変換行列Aに基づいて、以下の式に従って、アドレスからインパクトまでの射影変換後のグリップ速度vpX,vpY,vpZ及びグリップ角速度ωpX,ωpY,ωpZの時系列データが算出される。
なお、以上の演算により得られるグリップ速度(vpY,vpZ)は、スイング平面P内でのグリップ速度(ベクトル)を表しており、グリップ角速度ωpXは、スイング平面Pに対して垂直な軸周りの角速度を表している。ここでは、以下の式に従って、アドレスからインパクトまでのスイング平面P内でのグリップ速度(スカラー)が算出される。
また、ここでは、後の計算に必要となる、スイング平面P内におけるトップでのシャフト40の傾きも算出される。具体的には、まず、トップでの姿勢行列N(tt)に含まれるz軸ベクトル(g,h,i)を、射影変換行列Aを用いて、以下の式に従ってスイング平面P内に射影する。ただし、射影後のベクトルを(g’,h’,i’)とする。
以上の式により特定されるベクトル(h’,i’)は、スイング平面P内におけるトップでのシャフト40の傾きを表すベクトルである。従って、以上の計算結果を以下の式に代入することにより、スイング平面P内におけるトップでのシャフト40の傾きβが算出される。
<2−4.肩挙動導出工程>
以下、図8を算出しつつ、スイング平面P内でのグリップの挙動(グリップ速度VGE及びグリップ角速度ωpX)に基づいて、スイング平面P内の疑似的な肩の挙動を導出する肩挙動導出工程について説明する。本実施形態では、ゴルフクラブ4の挙動は、ゴルファー7の肩及びグリップ42(或いは、これを握るゴルファーの手首)を節点とし、ゴルファー7の腕及びゴルフクラブ4をリンクとする二重振り子モデルに基づいて解析される。ただし、肩の挙動は直接的に実測されるのではなく、実測されたグリップの挙動に基づいて、疑似的な肩の挙動として導出される。以下では、特に断らない限り、単に「肩」という場合も、このような疑似的な肩を意味するものとする。疑似的な肩とグリップ42(手首)との間を直線的に延びるものとして定義される疑似的な「腕」についても同様である。
グリップの挙動から肩の挙動を特定するに当たり、本実施形態に係る二重振り子モデルは、以下の(1)〜(5)を前提とする。図9は、以下の前提条件を概念的に説明する図である。
(1)スイング平面P上において、グリップ42(手首)は肩を中心として円運動する。(2)スイング平面P上において、肩とグリップ42との距離(半径)Rは、一定である。
(3)肩は、スイング動作中は動かない(ただし、回転する)。
(4)スイング平面P上において、トップでの腕とゴルフクラブ4との為す角度は90°である。
(5)インパクト時の腕は、X軸正方向から見てZ軸下方を向く。
以上の前提の下、肩挙動導出部24Cは、スイング平面P内におけるトップからインパクトまでのグリップ42の移動距離Dを算出する(ステップS21)。移動距離Dは、トップからインパクトまでのグリップ速度VGEを積分することにより導出される。
続いて、肩挙動導出部24Cは、スイング平面P内におけるトップからインパクトまでの腕の回転角度γを算出する(ステップS22)。回転角度γは、第2変換工程で算出されたトップでのシャフト40の傾きβに基づいて算出される。次に、肩挙動導出部24Cは、半径R=D/γを算出する(ステップS23)。
そして、肩挙動導出部24Cは、以下の式に従って、肩の挙動として、スイング平面P内におけるトップからインパクトまでの肩周りの角速度(腕の角速度)ω1を算出する。すなわち、腕の角速度ω1は、計測によるグリップ速度VGEが反映された値となる。
ω1=VGE/R
<2−5.指標算出工程>
以下、図10を参照しつつ、グリップ42の挙動及び肩の挙動に基づいて、最適クラブ重量を決定するための重量指標を算出する指標算出工程について説明する。本実施形態では、重量指標として、後述される平均肩トルクTAVE、腕エネルギーEAVE及びヘッド速度Vhが算出される。
具体的には、まず、ステップS31では、肩挙動導出部24Cは、トップからインパクトまでの腕の角速度ω1を積分し、トップからインパクトまでの腕の回転角度θ1を算出する。このとき、台形積分を用いることが好ましい。なお、回転角度θ1は、図11のよう
に定義され、図11の紙面は、スイング平面Pに等しい。以下では、図11に示されるスイング平面P内での新たなXY座標系に基づいて、解析が進められる。スイング平面P内での新たなXY座標系のX軸は、上述したXYZ全体座標系のY軸に等しく、新たなXY座標系のY軸は、XYZ全体座標系のZ軸をスイング平面P内に投影した軸である。
また、肩挙動導出部24Cは、トップからインパクトまでの腕の角速度ω1を微分し、トップからインパクトまでの角加速度ω1’を算出する。次に、肩挙動導出部24Cは、トップからインパクトまでの腕の重心の位置(X1,Y1)、速度(VX1,VY1)及び加速度(AX1,AY1)を算出する。これらの値は、上述した計算結果を以下の式に代入することにより算出される。
ただし、rは、肩から腕の重心までの距離である。本実施形態では、腕の重心は、腕の中心にあるものと仮定される。従って、R=2rである。
次に、ステップS32では、グリップ挙動導出部24Bは、ステップS31と同様の演算をグリップ42周りについても行う。すなわち、トップからインパクトまでのグリップ角速度ωpX=グリップ42周りのゴルフクラブ4の角速度ω2を積分し、トップからインパクトまでのグリップ42周りのゴルフクラブ4(シャフト40)の回転角度θ2を算出する。このときも、台形積分を用いることが好ましく、回転角度θ2は、図11のように定義される。
続いて、グリップ挙動導出部24Bは、トップからインパクトまでのゴルフクラブ4の角速度ω2を微分し、トップからインパクトまでの角加速度ω2’を算出する。次に、グリップ挙動導出部24Bは、トップからインパクトまでのゴルフクラブ4の重心の位置(X2,Y2)、速度(VX2,VY2)及び加速度(AX2,AY2)を算出する。これらの値は、上述した計算結果を以下の式に代入することにより算出される。
ただし、Lは、グリップ42からゴルフクラブ4の重心までの距離である。Lの値は、ゴルフクラブ4のスペックであり、予め定められているものとする。
次に、ステップS33では、指標算出部24Dは、上述した計算結果を以下の式に代入することにより、トップからインパクトまでのグリップ42に発生する拘束力R2=(RX2,RY2)を算出する。以下の式は、並進方向の力の釣り合いに基づくものである。ただし、m2は、ゴルフクラブの質量であり、gは、重力加速度である。また、m2は、ゴルフクラブ4のスペックであり、予め定められているものとする。
続くステップS34では、指標算出部24Dは、上述した計算結果を以下の式に代入することにより、トップからインパクトまでの肩周りのトルクT1及びグリップ42周りのトルクT2を算出する。
ただし、I1は、腕の重心周りの慣性モーメントであり、I2は、ゴルフクラブ4の重心周りの慣性モーメントである。本実施形態では、腕の重心周りの慣性モーメントI1は、
腕の重心が腕の中心にあるとの仮定の下、I1=m12/3として算出される。m1は、腕の質量であり、本実施形態では、腕の質量m1は、適宜予め定められているものとする。
例えば、解析を開始する前に、ゴルファー7の体重を入力しておき、入力された体重に所定の係数を掛ける等して、自動的に腕の質量が算出される。また、I2は、ゴルフクラブ4のスペックであり、予め定められているものとする。
また、本実施形態では、指標算出部24Dは、肩周りのトルクT1をトップからインパクトまでの区間で積分した値Ttiを算出する。Ttiは、トップからインパクトまでの間にゴルファー7の肩周りで発揮されるトルクの総量(以下、総肩トルク)であり、この意味でスイング動作中の肩周りのトルクを表す指標である。また、指標算出部24Dは、トルクTtiをトップからインパクトまでの時間で除算したスイング動作中の平均的な肩周りのトルク(以下、平均肩トルク)TAVE=Tti/ti−tcを算出する。平均肩トルクTAVEも、スイング動作中の肩周りのトルクを表す指標となり、重量指標の1つとなる。なお、総肩トルクTtiを算出するに当たり、正のトルクT1だけを積分してもよいし、トルクT1の平均値を積分してもよい。
続くステップS35では、指標算出部24Dは、上述した計算結果に基づいて、トップからインパクトまでの腕の仕事率(パワー)E1’を算出する。具体的には、E1’は、肩の速度ベクトルをvsとし、グリップ42の速度ベクトルをvgとして、以下の式に従って表される。ただし、R1は、肩に発生する拘束力である。また、vs,vgはそれぞれ、肩
の位置ベクトルds、グリップ42の位置ベクトルdg=ds+(2X1,2Y1)を一階微分することにより算出可能である。
また、本実施形態では、肩は動かないため、vs=(0,0)となり、腕の仕事率E1’は、以下の式に従って算出される。指標算出部24Dは、上述した計算結果を以下の式に代入することにより、トップからインパクトまでの腕の仕事率E1’を算出する。
続くステップS36では、指標算出部24Dは、トップ以降で腕の仕事率E1’が正か
ら負へ転じる時刻tcを特定し、トップの時刻ttから時刻tcまでの腕の仕事量E1を算出する。腕の仕事量E1は、時刻tt〜tcまでの区間で腕の仕事率E1’を積分することにより、算出される(図12参照)。なお、仕事量E1は、時刻tt〜tcの間に腕で発揮され
る仕事量(エネルギー)を表す指標と考えることができるから、この意味で、スイング動作中の腕エネルギーと呼ぶことができる。
続くステップS37では、指標算出部24Dは、スイング動作中のコック解放タイミングtrを算出する。なお、本発明者らは、実験を通して、重量指標となるインパクト時のヘッド速度Vhが、スイング動作中のコック解放タイミングtr、及び、腕エネルギーE1又は平均仕事率EAVE=E1/tc―ttと相関があることを発見した。平均仕事率EAVEは、スイング動作中に単位時間当たりに平均的に発揮ないし消費される腕エネルギーである。そこで、ここでは、インパクト時のヘッド速度Vhを算出すべく、コック解放タイミングtrが算出される。本実施形態では、コック解放タイミングtrは、時刻tt〜tcまでの区間で腕の仕事率E1’が最大となる時刻が、コック解放タイミングtrとして特定される(図12参照)。
続くステップS38では、指標算出部24Dは、コック解放タイミングtr及び腕エネルギーEAVEに基づいて、インパクト時のヘッド速度Vhを算出する。具体的には、インパクト時のヘッド速度Vhは、下の式に従って算出される。なお、k1,k2,k3は、予め行われた多数の実験結果から重回帰分析により得られた定数であり、記憶部23内に予め保持されている値である。以上より、指標算出工程が終了する。
h=k1・EAVE+k2・tr+k3
<2−6.最適総重量決定工程>
以下、図13を参照しつつ、最適クラブ重量を決定する最適総重量決定工程の流れについて説明する。
まず、ステップS40において、決定部24Eは、計測工程で試打されたテストクラブの種類を判定する。プロモデルクラブが試打されていた場合には、ステップS41に進み、アベレージモデルクラブが試打されていた場合には、ステップS51に進む。いずれのテストクラブが試打されたかは、入力部22を介してユーザにより入力される情報に基づいて判定されるものとする。
なお、ステップS40においてテストクラブの種類が判定されるのは、テストクラブの種類に応じて重量指標の分布する領域が異なるからである。具体的に説明すると、本発明者らは、プロモデルのゴルフクラブを通常使用しているゴルファー(以下、プロモデルユーザ)10名及びアベレージモデルのゴルフクラブを通常使用しているゴルファー(以下、アベレージモデルユーザ)10名に、それぞれプロモデルクラブ及びアベレージモデルクラブを試打させて重量指標を算出したところ、図14に示す結果を得た。なお、この実験で算出された重量指標は、平均肩トルクTAVE及び腕エネルギーEAVEであり、具体的な値は、上記した工程と同様の工程に従って算出された。そして、本発明者らは、図14に示す結果から、重量指標を示す空間は、図15に示すようにプロモデル領域とアベレージモデル領域とに分割されることを発見した。なお、プロモデル領域とは、プロモデルユーザによるスイング動作時の重量指標が分布する領域であり、アベレージモデル領域とは、アベレージモデルユーザによるスイング動作時の重量指標が分布する領域である。図14の例では、プロモデル領域とは、平均肩トルクTAVE≧55N・mかつ腕エネルギーEAVE≧150N・m/sの領域であり、アベレージモデル領域とは、平均肩トルクTAVE<55N・m又は腕エネルギーEAVE<150N・m/sの領域である。しかしながら、これらの数値は、テストクラブの種類等のスイング条件によって異なるものとなり得る。本実験では、プロモデルクラブとして、ダンロップスポーツ株式会社製のSRIXON(登録商標)Z−525(シャフトは、Miyazaki KENA Blue6 S−Flex、ゴルフクラブの重量は、315g、バランスは、D2)のドライバーが用いられ、アベレージモデルクラブとして、ダンロップスポーツ株式会社製のXXIO(登録商標)7(シャフトは、MP−700 R−Flex、ゴルフクラブの重量は、285g、バランスは、D1)のドライバーが用いられた。
続いて、ステップS41及びこれに続くステップS42〜S45について説明する。ステップS41〜S45は、平均肩トルクTAVE、腕エネルギーEAVE及びヘッド速度Vhの大きさに応じて、最適クラブ重量の範囲(以下、最適重量帯)を決定するステップである。ここでは、TAVE,EAVE及びVhの値が大きい程、最適重量帯は段階的に大きな値に設
定される。
具体的には、ステップS41では、決定部24Eは、ヘッド速度Vhが45m/s以上であり、平均肩トルクTAVEが85N・m以上であり、かつ、腕エネルギーEAVEが350N・m/s以上(以下、プロ条件1)であるか否かを判定する。そして、プロ条件1が満たされる場合には、320g以上が最適重量帯であると判定する。一方、ステップS41でプロ条件1が満たされない場合には、ステップS42に進む。ステップS42では、決定部24Eは、平均肩トルクTAVEが75N・m以上であり、かつ、腕エネルギーEAVEが250N・m/s以上(以下、プロ条件2)であるか否かを判定する。そして、プロ条件2が満たされる場合には、310g〜320gが最適重量帯であると判定する。一方、ステップS42でプロ条件2が満たされない場合には、ステップS43に進む。ステップS43では、決定部24Eは、平均肩トルクTAVEが70N・m以上であり、かつ、腕エネルギーEAVEが175N・m/s以上(以下、プロ条件3)であるか否かを判定する。そして、プロ条件3が満たされる場合には、305g〜315gが最適重量帯であると判定する。一方、ステップS43でプロ条件3が満たされない場合には、ステップS44に進む。ステップS44では、決定部24Eは、平均肩トルクTAVEが55N・m以上であり、かつ、腕エネルギーEAVEが120N・m/s以上(以下、プロ条件4)であるか否かを判定する。そして、プロ条件4が満たされる場合には、300g〜310gが最適重量帯であると判定する。一方、ステップS44でプロ条件4が満たされない場合には、ステップS45に進む。ステップS45では、決定部24Eは、ヘッド速度Vhが38m/sより大きいか否か(以下、プロ条件5)を判定する。そして、プロ条件5が満たされる場合には、290g〜300gが最適重量帯であると判定する。一方、ステップS45でプロ条件5が満たされない場合には、プロモデルクラブよりも、アベレージモデルクラブの方が適切であると判定する。これを受けて、表示制御部24Fは、アベレージモデルクラブを用いて計測工程からやり直す旨を示すメッセージを表示部21上に表示させ、ステップS51に進む。
一方、ステップS51及びこれに続くステップS52,S53は、平均肩トルクTAVE、腕エネルギーEAVE及びヘッド速度Vhの大きさに応じて、最適重量帯を決定するステップである。ここでは、TAVE,EAVE及びVhの値が大きい程、最適重量帯は段階的に大きな値に設定される。
具体的には、決定部24Eは、ステップS51において、ヘッド速度Vhが40m/s
以上であり、平均肩トルクTAVEが65N・m以上であり、かつ、腕エネルギーEAVEが200N・m/s以上(以下、アベレージ条件1)であるか否かを判定する。そして、アベレージ条件1が満たされる場合には、アベレージモデルクラブよりも、プロモデルクラブの方が適切であると判定する。これを受けて、表示制御部24Fは、プロモデルクラブを用いて計測工程からやり直す旨を示すメッセージを表示部21上に表示させ、ステップS41に進む。一方、ステップS51でアベレージ条件1が満たされない場合には、ステップS52に進む。ステップS52では、決定部24Eは、平均肩トルクTAVEが55N・m以上であり、かつ、腕エネルギーEAVEが150N・m/s以上(以下、アベレージ条件2)であるか否かを判定する。そして、アベレージ条件2が満たされる場合には、290g〜300gが最適重量帯であると判定する。一方、ステップS52でアベレージ条件2が満たされない場合には、ステップS53に進む。ステップS53では、決定部24Eは、ヘッド速度Vhが38m/sより大きく、平均肩トルクTAVEが48N・m以上であり、かつ、腕エネルギーEAVEが100N・m/s以上(以下、アベレージ条件3)であるか否かを判定する。そして、アベレージ条件3が満たされる場合には、290g〜300gが最適重量帯であると判定する。一方、ステップS53でアベレージ条件3が満たされない場合には、290g以下が最適重量帯であると判定する。
以上のステップS41〜S45及びステップS51〜S53は、以下の知見に基づく。すなわち、図14及び図15を参照して説明した上記実験では、ヘッド速度Vh及び、飛距離を最大にする最適クラブ重量も算出された。ヘッド速度Vhは、上記した工程と同様の工程に従って算出された。一方、最適クラブ重量については、ゴルファーに様々な重量のゴルフクラブをスイングさせ、最大の飛距離を与えるゴルフクラブの重量を特定し、これを最適クラブ重量とした。より具体的には、プロモデルユーザには、324g,316g,312g,308g,300gの5種類のゴルフクラブをスイングさせ、アベレージモデルユーザには、295g,290g,285gのゴルフクラブをスイングさせた。図17及び図18に、本実験により得られたヘッド速度Vh及び最適クラブ重量の値を示す。
なお、最適クラブ重量は、以下のアルゴリズムに従って、シミュレーション上の最適クラブ重量として算出することも可能である。すなわち、本発明者らは、ヘッド速度Vhとゴルフクラブ4の重量との間には、概ね図16に示すような関係があることを発見した。具体的に説明すると、スイングされるゴルフクラブ4が重くなる程、ゴルファーの力ではゴルフクラブ4を振り切ることができなくなり、ヘッド速度Vhが小さくなる。かといって、ある一定以上軽くしても、ヘッド速度Vhは頭打ちとなる(図16参照)。フルスイング以上の力では振ることができないからである。言い換えると、ある一定以上軽く振り易くしても、ゴルファーの限界に達すれば、ヘッド速度Vhが伸びなくなる。従って、ヘッド速度Vhは、ある点(図16の変化点)を境にして、ヘッド速度Vhがゴルフクラブ4の重量に比例する比例領域と、ヘッド速度Vhがゴルフクラブ4の重量に関わらず概ね一定となる一定領域とに分かれる。また、飛距離を伸ばすためには、ヘッド速度Vh及びゴルフクラブ4の重量は共に大きい方がよいため、以上の変化点に対応するゴルフクラブ4の重量が、飛距離を最大にする最適クラブ重量であると言うことができる。従って、上記実験に参加するゴルファーに様々な重量のゴルフクラブ4をスイングさせて、ヘッド速度Vhとゴルフクラブ4の重量との関係をヘッド速度Vh−ゴルフクラブの重量平面内にプロットする。そして、比例領域における回帰直線及び一定領域における回帰直線を算出し、その交点である変化点を求め、当該変化点に対応するゴルフクラブ重量を、最適ゴルフクラブ重量とすることもできる。
図17及び図18に示すとおり、上記の実験からは、最適クラブ重量は、腕エネルギーEAVE及び平均肩トルクTAVEが共に大きいほど、大きくなることが分かる。その結果、本発明者らは、平均肩トルクTAVE−腕エネルギーEAVE−ヘッド速度Vh空間を、プロモデルユーザについては図19に示すように、アベレージモデルユーザについては図20に示すように領域分割することで、最適重量帯を示す領域を定義可能であることを発見した。ただし、簡単のため、図19及び図20では、ヘッド速度Vhを表す軸は省略され、平均肩トルクTAVE−腕エネルギーEAVE平面が示されている。すなわち、上述のステップS41〜S45及びステップS51〜S53は、平均肩トルクTAVE、腕エネルギーEAVE及びヘッド速度Vhを示す点が、TAVE−EAVE−Vh空間におけるどの領域にプロットされるかに応じて、最適重量帯を判定するステップとなっている。なお、ステップS41〜S45及びステップS51〜S53での判定に使用されるTAVE,EAVE及びVhの閾値、言い換えると、図19及び図20に示す分割領域の境界を示す値は、テストクラブのモデル毎に整理され、対応関係データ28として記憶部23内に格納されている。すなわち、対応関係データ28とは、TAVE,EAVE及びVhの大きさと最適重量帯との対応関係を定める示すデータである。ステップS41〜S45及びステップS51〜S53では、この記憶部23内の対応関係データ28が参照され、上記の判定が行われる。なお、図2では、対応関係データ28は、フィッティングプログラム3とは別のデータとして示されているが、プログラム3内に組み込まれていてもよい。
ところで、プロモデル領域では、TAVE≧85N・m、かつ、EAVE≧350N・m/sの場合には、ヘッド速度Vhが45m/sか否かにより、最適重量帯が320g以上か310g〜320gかのいずれかに振り分けられるようになっている。これは、図17に示す実験結果に示されるとおり、TAVE≧85N・m、かつ、EAVE≧350N・m/sの領域の境界線付近においては、Vh≦45m/sの場合の最適クラブ重量が316gで、Vh≧45m/sの場合の最適クラブ重量が324g以上になっているためである。
<2−7.最適シャフト決定工程>
以下、ゴルファー7に適した最適シャフト重量及び最適曲げ剛性を算出する最適シャフト決定工程について説明する。
まず、決定部24Eは、最適重量帯に基づいて、最適シャフト重量の範囲(以下、最適シャフト重量帯)を決定する。具体的には、ゴルフクラブ4のモデル毎の各最適重量帯には、以下の表1及び2とおり、予め最適シャフト重量帯が定められており、これに基づいて最適シャフト重量帯が決定される。
続いて、決定部24Eは、シャフト40の最適曲げ剛性の範囲(以下、最適曲げ剛性帯)を決定する。最適曲げ剛性帯の決定方法は、公知であるため(要すれば、特開2013−208366号公報参照)、ここでは詳細な説明を省略する。
以上のステップにより、最適重量帯、最適シャフト重量帯及び最適曲げ剛性帯が決定されると、決定部24Eは、ゴルフクラブ4全体での重量、シャフト40の重量及び曲げ剛性が既知の様々なゴルフクラブ(以下、対象クラブ)の中から、最適重量帯、最適シャフト重量帯及び最適曲げ剛性帯に属するゴルフクラブ(以下、候補クラブ)を特定する。表示制御部24Fは、特定された候補クラブの種類を示す情報とともに、最適重量帯、最適シャフト重量帯及び最適曲げ剛性帯を表示部21上に表示させる。これにより、ユーザは、ゴルファー7に適したゴルフクラブの種類を知ることができるとともに、最適重量帯、最適シャフト重量帯及び最適曲げ剛性帯を知ることができる。
<2−8.最適クラブ特定工程>
以下、上記の工程で特定された候補クラブの中から、特にヘッド速度を高めることができるゴルフクラブ(以下、最適クラブ)を特定する最適クラブ特定工程について説明する。最適クラブは、フィッティングを行っているゴルファー7が各候補クラブを用いた場合のグリップエンド慣性モーメントIG及びスイング慣性モーメントISの値に基づいて特定される。
なお、グリップエンド慣性モーメントIGとは、グリップエンド周りの慣性モーメントであり、IG=I2+m22として算出される。一方、スイング慣性モーメントISは、スイング中の肩周りの慣性モーメントであり、以下の式に従って算出可能である。
S=I2+m2(2r+L)2+I1+m12
ただし、各ゴルファー7については、ゴルフクラブが変わっても腕の重量は同じである。従って、簡単のため、本実施形態におけるスイング慣性モーメントISは、腕の回転分の慣性モーメントを省略し、以下の式に従って定義される。
S=I2+m2(2r+L)2
以下に説明する最適クラブ特定工程のアルゴリズムは、ヘッド速度Vh、グリップエンド慣性モーメントIG及びスイング慣性モーメントISが、図21〜図23に示すような関係を有することに基づく。図21〜図23は、本発明者らが行ったシミュレーションの結果である。図21中のIG−IS平面内の13個の点(丸)は、被験者がスペックの異なる13本のゴルフクラブをスイングしたときの(IG,IS)を示す点である。ただし、本データは、実際に13本のゴルフクラブを被験者に試打させて得たデータではなく、1本のゴルフクラブ(以下、基準クラブ)を試打させ、このときのデータからシミュレーションにより得たデータである。
基準クラブのスペック(ゴルフクラブ重量m2[g],重心位置L[mm],慣性モーメントI2[kg・cm2])は、(272,936,453)であった。また、基準クラブには、上記計測工程で用いられたようなセンサユニット1が取り付けられた。そして、当該基準クラブを被験者に試打させ、上述したアルゴリズムと同様のアルゴリズムに従って逆動力学解析を行い、肩周りのトルクT1、グリップ42周りのトルクT2及び腕長さRを算出した。続いて、これらのパラメータT1,T2,Rを一定と仮定した上で、13本のゴルフクラブのスペック(ゴルフクラブ重量m2、重心距離L、慣性モーメントI2等)の値を用いて、順運動力学解析を行った。なお、図21のシミュレーションでは、ゴルフクラブ重量m2=272g(一定)のゴルフクラブが用いられ、基準クラブを除く残りの12本のゴルフクラブのスペック(L,I2)は、(941,192)(941,138)(938.5,324)(936,507)(941,83)(938.5,270)(933.5,633)(931,809)(936,399)(933.5,578)(931,755)(931,700)とされた。以上の順運動力学解析により、各ゴルフクラブによるヘッド速度Vh、グリップエンド慣性モーメントIG及びスイング慣性モーメントISが算出された。図21中に引かれている10本の斜線は、13個のヘッド速度Vhの値に基づいて導出されたヘッド速度Vhの等高線である。
同様のシミュレーションを異なる13本のゴルフクラブに対し行った結果が、図22及び図23である。具体的には、図22のシミュレーションでは、重心位置L=936cm(一定)のゴルフクラブが用いられ、基準クラブを除く残りの12本のゴルフクラブのスペック(m2,I2)は、(284,349)(284,294)(278,400)(272,507)(284,240)(278,346)(266,560)(260,666)(272,399)(266,506)(260,612)(260,557)とされた。また、図23のシミュレーションでは、慣性モーメントI2=453kg・cm2(一定)のゴルフクラブが用いられ、基準クラブを除く残りの12本のゴルフクラブのスペック(L,m2)は、(932.6,293)(930.9,297)(934.3,282)(937.8,267.6)(929.2,302)(932.5,287)(933.5,258)(943.5,244)(934.2,276.4)(937.8,262)(941.5,248)(939.7,252)とされた。
以上の図21〜図23の等高線図は、0.1m/s刻みで引かれている。これらの等高線に添えられている数値は、基準クラブでのヘッド速度Vhを0.0m/sとしたときの相対的なヘッド速度Vhの値である。これらの等高線図からは、IG−IS平面内では、右下にいくにつれてヘッド速度Vhが向上し、左上にいくほど低下することが分かる。言い換えると、スイング慣性モーメントISの値が小さくなり、グリップエンド慣性モーメントIGが大きくなる程、ヘッド速度Vhが向上することが分かる。この傾向は、ゴルフクラブ重量m2が一定であるか、重心位置Lが一定であるか、慣性モーメントI2が一定であるか等の条件には依存しない。
ところで、一般に、グリップエンド慣性モーメントIGやスイング慣性モーメントISが増大すると、重心の位置がヘッド側に近づくためゴルフクラブが振りにくくなり、ヘッド速度Vhが低下すると考えられている。しかしながら、本発明者らは、図21〜図23のシミュレーション結果から、たとえグリップエンド慣性モーメントIGが増大したとしても、当該増分に対するスイング慣性モーメントISの増分を一定値以下とすれば、むしろヘッド速度Vhを向上させることができることに気が付いた。発明者らはさらに検討を進め、このことは、図24に示す別のシミュレーションの結果から説明できることが分かった。
図24は、図21のシミュレーションにおいて、被験者が13本のゴルフクラブをスイングしたときの13個のコック角の値に基づいて導出されたコック角の等高線図である。なお、ここでいうコック角とは、コック解放タイミングtrにおける腕とゴルフクラブとの為す角度(図11に一定鎖線で示される角度)である。
図24の等高線は、0.5°刻みで引かれている。これらの等高線に添えられている数値は、基準クラブでのコック角を0.0°としたときの相対的な角度である。これらの等高線図からは、IG−IS平面内では、右へいくにつれてコック角が小さくなり、左にいくほど大きくなることが分かる。言い換えると、グリップエンド慣性モーメントIGが大きくなる程、コック角が小さくなることが分かる。一方で、等高線が概ね上下方向に延びていることから、コック角はスイング慣性モーメントISには影響を受けない。なお、簡単のため、図21に対応するシミュレーションの結果のみを示したが、図22及び図23に対応するシミュレーションにおいても、コック角に関し同様の傾向が確認された。
また、コック角が小さいとは、リストコックが溜まっており、スイング中にゴルフクラブがゴルファーの胴体の近くを通ることを意味する。従って、コック角が小さい場合には、実効的なスイング慣性モーメントISが小さくなり、ヘッド速度Vhの上昇が期待される。
以上より、グリップエンド慣性モーメントIGが増大したとしても、スイング慣性モーメントISの増分を一定値以下とすれば、ゴルフクラブが振りにくくなることによるデメリットよりも、コック角が小さくなることによるメリットが勝り、ヘッド速度Vhが向上することが分かる。すなわち、グリップエンド慣性モーメントIGを大きくし、スイング慣性モーメントISを小さくすることができれば、ヘッド速度Vhを向上させることができる。
以上の知見に基づいて、最適クラブ特定工程が実行される。まず、最適クラブ特定部24Gは、フィッティングの対象となる複数本の対象クラブの中から、候補クラブを絞り込む。具体的には、記憶部23内には、各対象クラブのスペックを示す情報(以下、スペック情報)が予め格納されている。本実施形態では、ここでいうスペックとして、各対象クラブに対し、ゴルフクラブ重量m2、ゴルフクラブ4の重心周りの慣性モーメントI2、グリップ42からゴルフクラブ4の重心までの距離(重心距離)L等の値が格納されている。従って、最適クラブ特定部24Gは、記憶部23内の当該スペック情報を参照することにより、対象クラブの中から、候補クラブとして、最適重量帯、最適シャフト重量帯及び最適曲げ剛性帯に属するゴルフクラブを全て特定する。なお、候補クラブが1本しかない場合には、以下の処理は省略され、当該一本の候補クラブが、最適クラブとして特定される。
一方、候補クラブが複数本存在する場合には、これらの候補クラブの中から特にヘッド速度を高めることが可能なゴルフクラブである、最適クラブが特定される。具体的には、最適クラブ特定部24Gは、上述した定義式に従って、フィッティングを行っているゴルファー7が各候補クラブをスイングしたときの、グリップエンド慣性モーメントIG及びスイング慣性モーメントISを導出する。このとき、計測工程から指標算出工程までの工程で既に算出されているパラメータRと、候補クラブのスペック(ゴルフクラブ重量m2、重心距離L、慣性モーメントI2等)の値を用いて、順運動力学解析が実行される。この場合、再度ゴルファー7に、候補クラブをスイングしてもらう必要はない。
各候補クラブに対応する慣性モーメントIG,ISが判明すると、最適クラブ特定部24Gは、複数本の候補クラブの中から、スイング慣性モーメントISがより小さく、グリップエンド慣性モーメントIGのより大きいゴルフクラブを特定し、これを最適クラブとする。具体的には、最適クラブ特定部24Gは、各候補クラブに対応する(IG,IS)の点をIG−IS平面内にプロットし、最も右下にくる点に対応する候補クラブを最適クラブと判定する。例えば、図25(A)に示すような3本の候補クラブA,B,Cが存在する場合には、候補クラブCが最適クラブと判定される。一方、図25(B)のような3本の候補クラブA,B,Cが存在する場合には、B,Cの候補クラブに関しては、どちらが右下に存在しているのか判定することができない。この場合には、B,Cの両方が最適クラブとして判定される。
なお、図25(B)のB,Cに対応する複数本の候補クラブも、IG−IS平面内に図21〜図23に示したような等高線を引くことができれば、優劣を判断することができる。従って、別の実施形態では、最適クラブ特定部24Gが、既に算出済みのパラメータT1,T2,Rと、様々な所定のゴルフクラブのスペック(ゴルフクラブ重量m2、重心距離L、慣性モーメントI2等)の値を用いて、順動力学解析により、IG−IS平面内におけるヘッド速度Vhの等高線を導出するようにしてもよい。なお、この等高線は、ゴルファー7に依存するものである。そして、この等高線の傾きから、B,Cのような複数本の候補クラブに対応するヘッド速度Vhの高低を判断し(図25(C)参照)、最も高いものを最適クラブと判定することができる。
以上の処理が終わると、表示制御部24Fは、最適クラブを特定する情報を表示部21上に表示させる。これにより、ゴルファー7は、自身に最適なゴルフクラブを把握することができる。また、以上の出力値の説得性を向上させるべく、表示制御部24Fは、図25(A)〜(C)に示すグラフも併せて表示部21上に表示させることもできる。
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
<3−1>
上記実施形態では、ゴルファー7のスイング動作を計測する計測機器として、加速度センサ、角速度センサ及び地磁気センサの3つを有するセンサユニット1が使用されたが、計測機器を他の構成とすることもできる。例えば、地磁気センサを省略することもできる。この場合には、統計的手法により、xyz局所座標系からXYZ全体座標系へと計測データを変換することが可能である。なお、このような手法については、公知技術であるため(要すれば、特開2013−56074号公報参照)、ここでは詳細な説明を省略する。或いは、計測機器として、三次元計測カメラを使用することもできる。三次元計測カメラにより、ゴルファーやゴルフクラブ、ゴルフボールの挙動を計測する手法についても、公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、三次元計測カメラを用いた場合には、計測データのxyz局所座標系からXYZ全体座標系への変換工程を省略することもでき、直接的にXYZ全体座標系でのグリップの挙動を計測することができる。
<3−2>
ヘッド速度Vhは、上述した重回帰式に基づく統計的手法ではなく、他の方法で算出することもできる。例えば、以下の式に従って幾何学的に算出してもよい。ただし、Lclubは、ゴルフクラブのスペックであるゴルフクラブの長さである。
シャフト40の先端のヘッドの位置ベクトル(dhX,dhY
hX=2X1+Lclubcosθ2
hY=2Y1+Lclubsinθ2
シャフト40の先端のヘッドの速度ベクトル(VhX,VhY
hX=2VX1−Lclubω2sinθ2
hY=2VY1+Lclubω2cosθ2
h=sqrt(VhX 2+VhY 2
<3−3>
最適総重量決定工程は、フィッティング装置2ではなく、ユーザ自身が実行することができる。すなわち、指標算出工程の終了後に、算出された重量指標を表示部21上に表示させる。そして、図19及び図20に示すような対応関係データ28に基づいて、ユーザが自ら最適重量帯を判断してもよい。このとき、対応関係データ28を表示部21上に表示させたり、或いは対応関係データ28を印刷した紙媒体を用意したりすると、ユーザの判断が容易となる。同様に、最適シャフト決定工程及び/又は最適クラブ特定工程における処理の一部又は全部も、フィッティング装置2に代えて、ユーザ自身が実行することができる。
<3−4>
上記実施形態で示された重量指標は、例示であり、最適クラブ重量と相関があるその他の様々な指標を用いることができる。例えば、腕エネルギーEAVE及び平均肩トルクTAVEに限らず、腕エネルギーE1及び肩トルクTtiを重量指標とすることができる。また、スイング動作時にゴルファー7により発揮される任意の部位のエネルギー又は任意の部位のトルクを表す指標を、重量指標とすることができる。また、ここでいう「スイング動作時」とは、上記実施形態の中で説明したトップからインパクトないしコック解放タイミングまでの時間に限られず、重量指標と最適クラブ重量とに相関がある限り、スイング動作中の任意の時刻又は期間を意味するものということができる。また、ゴルファー7により発揮されるエネルギー又はトルクと相関があると考えられる以下の指標も、重量指標として用いることができる。なお、以下の(7)〜(9)以外の指標は、値が大きい程、最適クラブ重量が大きくなる傾向があり、(7)〜(9)の指標は、値が小さい程、最適クラブ重量が大きくなる傾向がある。
(1)トップの時刻でシャフト40と全体座標系Z軸(グリップよりも下方)とが為す角度θ3(図26参照)
(2)スイング動作中の角速度ω2の平均値
(3)トップからインパクトまでの間での角速度ω2の最大値
(4)トップからインパクトまでのグリップ速度VGEの平均値
(5)トップからインパクトまでのグリップ速度VGEの最大値
(6)トップからインパクトまでの間でのグリップ42の移動距離D
(7)コック解放タイミングtrとインパクトの時間との差分(ここでいうコック解放タイミングtrは、腕とシャフト40が為すコック角θ4の解放スピードが速まり、腕のエネルギーがシャフト40のエネルギーへと変わり始めるタイミングと定義することができる。)
(8)コック解放タイミングtrでの腕とシャフト40が為すコック角θ4(図26参照)
(9)ダウンスイング時間、すなわち、トップからインパクトまでの時間
(10)トップの時刻からグリップ42周りのトルクT2が正負逆転する時刻までのトルクT2の積分値
<3−5>
上記実施形態では、3つの重量指標の大きさに応じて、最適クラブ重量を決定したが、1つ、2つ、又は4つ以上の重量指標の大きさに応じて、最適クラブ重量を決定してもよい。例えば、腕エネルギーEAVE、平均肩トルクTAVE及びヘッド速度Vhの3つから選択される任意の1つ又は2つの指標の大きさのみに応じて、最適クラブ重量を決定することができる。なお、図17及び図18に示す実験の結果からは、腕エネルギーEAVE及び平均肩トルクTAVEは、ヘッド速度Vhよりも最適クラブ重量との相関が高いことが分かる。従って、ヘッド速度Vhを重量指標として用いる場合には、腕エネルギーEAVE及び平均肩トルクTAVEの少なくとも一方と組み合わせて用いることが好ましい。また、EAVE,TAVE,Vhに加え、変形例3−4で例示した重量指標の中から選択される任意の数の指標の大きさに応じて、最適クラブ重量を決定することもできる。
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
プロモデルユーザ及びアベレージモデルユーザ5名ずつに、それぞれプロモデルクラブ及びアベレージモデルクラブを試打させて平均肩トルクTAVE、腕エネルギーEAVE、ヘッド速度Vhを算出したところ、以下の表3,4に示す結果を得た。なお、TAVE,EAVEの値は、上記した計測工程から指標算出工程と同様の工程に従って算出された。また、Vhの値は、BCSシステムで実測した。ここで使用されたBCSシステムとは、出願人らによる特開2012−170547及び特開2012−170532に開示される計測システムである。また、上記実施形態に係る方法で、最適重量帯を導出するとともに、上記実施形態の中で説明した実験と同様の方法で、飛距離を最大にする最適クラブ重量を導出した。
以上の結果より、プロモデルユーザに関しては、5名中P3の1名を除き、本実施例に係る最適重量帯と、実験による最適クラブ重量とが一致した。また、不一致の1名に関しても、両値に大きなずれはなかった。また、アベレージモデルユーザに関しては、5名中A4の1名を除き、本実施例に係る方法での最適重量帯と、実験による最適クラブ重量とが一致した。また、不一致の1名に関しても、両値に大きなずれはなかった。これにより、上記実施形態に係るフィッティング方法の精度の高さが確認された。
また、以上のゴルファーP1,P2,P4,P5及びA1,A2,A5が最適クラブ重量の導出のための実験に用いた複数本のゴルフクラブのうち、最適クラブ重量のもの(以下、実験クラブ)のスペック(ゴルフクラブの長さ、ヘッドの重量、シャフトの重量、グリップの重量、ゴルフクラブの総重量m2)は、以下の表5のとおりであった。また、上記の定義式に従って、各ゴルファーが実験クラブを用いたときのスイング慣性モーメントIS及びグリップエンド慣性モーメントIG)も算出された。そして、これらのゴルファーP1,P2,P4,P5及びA1,A2,A5に、最適重量帯に属するゴルフクラブであって、実験クラブよりもグリップエンド慣性モーメントIGが大きく、スイング慣性モーメントISの小さい別のゴルフクラブ(以下、検証クラブ)をスイングさせた。検証クラブのスペックは、表5のとおりであった。また、上記と同様、BCSシステムを用いて、検証クラブのスイング時のヘッド速度Vhを計測したところ、以下の表5に示すとおりの結果となった。なお、ゴルファーP3,A4については、本実施例に係る方法での最適重量帯と、実験による最適クラブ重量とが一致しなかったため、検証の対象としなかった。また、A3については、適切な検証クラブを用意できなかったため、検証の対象外とした。
以上の結果より、実験クラブよりも、検証クラブの方が、ヘッド速度Vhが速くなることが確認された。すなわち、上記実施形態に係る最適クラブ特定工程によれば、さらにヘッド速度Vhを高めることができるゴルフクラブを絞り込むことが可能であることが確認された。
1 センサユニット(計測装置)
2 フィッティング装置
3 フィッティングプログラム
4 ゴルフクラブ
7 ゴルファー
24A 取得部
24B グリップ挙動導出部
24C 肩挙動導出部
24D 指標算出部(算出部)
24E 決定部
41 ヘッド
42 グリップ

Claims (8)

  1. ゴルファーに最大の飛距離を与えるゴルフクラブの重量である最適クラブ重量を決定するフィッティング装置であって、
    前記ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測値を取得する取得部と、
    前記計測値に基づいて、ダウンスイング中の期間を含む前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮される腕の仕事量、ダウンスイング中の期間を含む前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮される肩周りのトルク、並びにこれらの少なくとも一方と相関のある指標からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出する算出部と、
    前記少なくとも2つの要素の大きさの組み合わせと、最大の飛距離を与える前記最適クラブ重量との対応関係を定める対応関係データを記憶する記憶部と、
    前記対応関係データを参照することにより、前記少なくとも2つの要素の大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定する決定部と
    を備
    前記対応関係データでは、前記少なくとも2つの要素の各々について、当該要素が大きい又は小さい程、前記最適クラブ重量のより大きな値が対応付けられている、
    フィッティング装置。
  2. 前記算出部は、前記相関のある指標として、前記スイング動作時のヘッドスピードを算出し、
    前記決定部は、前記腕の仕事量及び前記肩周りのトルクの少なくとも一方の大きさに加え、前記ヘッドスピードの大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定する、
    請求項に記載のフィッティング装置。
  3. 前記記憶部は、前記テストクラブの種類毎に、前記対応関係データを記憶し、
    前記決定部は、前記テストクラブの種類に応じて、前記記憶部内の前記対応関係データを参照することにより、前記最適クラブ重量を決定する、
    請求項1又は2に記載のフィッティング装置。
  4. 前記最適クラブ重量に合致する複数本のゴルフクラブの中から、スイング慣性モーメントが小さく、グリップエンド慣性モーメントの大きいゴルフクラブを特定する最適クラブ特定部
    をさらに備える、請求項1からのいずれかに記載のフィッティング装置。
  5. ゴルファーに最大の飛距離を与えるゴルフクラブの重量である最適クラブ重量を決定するフィッティング方法であって、
    前記ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測するステップと、
    前記計測機器による計測値に基づいて、ダウンスイング中の期間を含む前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮される腕の仕事量、ダウンスイング中の期間を含む前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮される肩周りのトルク、並びにこれらの少なくとも一方と相関のある指標からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップと、
    前記少なくとも2つの要素の大きさの組み合わせと、最大の飛距離を与える前記最適クラブ重量との対応関係を定める対応関係データを参照することにより、前記少なくとも2つの要素の大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定するステップとを備
    前記対応関係データでは、前記少なくとも2つの要素の各々について、当該要素が大きい又は小さい程、前記最適クラブ重量のより大きな値が対応付けられている、
    フィッティング方法。
  6. 前記最適クラブ重量に合致する複数本のゴルフクラブの中から、スイング慣性モーメントが小さく、グリップエンド慣性モーメントの大きいゴルフクラブを特定するステップ
    をさらに備える、請求項に記載の方法。
  7. ゴルファーに最大の飛距離を与えるゴルフクラブの重量である最適クラブ重量を決定するフィッティングプログラムであって、
    前記ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測値を取得するステップと、
    前記計測機器による計測値に基づいて、ダウンスイング中の期間を含む前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮される腕の仕事量、ダウンスイング中の期間を含む前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮される肩周りのトルク、並びにこれらの少なくとも一方と相関のある指標からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップと、
    前記少なくとも2つの要素の大きさの組み合わせと、最大の飛距離を与える前記最適クラブ重量との対応関係を定める対応関係データを参照することにより、前記少なくとも2つの要素の大きさに応じて、前記最適クラブ重量を決定するステップと
    をコンピュータに実行さ
    前記対応関係データでは、前記少なくとも2つの要素の各々について、当該要素が大きい又は小さい程、前記最適クラブ重量のより大きな値が対応付けられている、
    フィッティングプログラム。
  8. 前記最適クラブ重量に合致する複数本のゴルフクラブの中から、スイング慣性モーメントが小さく、グリップエンド慣性モーメントの大きいゴルフクラブを特定するステップ
    をさらにコンピュータに実行させる、請求項に記載のプログラム。

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