(発明が解決しようとする課題)
特許文献1及び2に記載のようなピストンシリンダ装置を利用したドアチェック装置は、ドアの開閉動作を停止させた任意の開度位置にて、バルブ部材の開弁圧に基いた大きな保持力を発生し得ることから、フリーストップドアチェック装置とも呼ばれる。フリーストップドアチェック装置は、ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置と、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置に大別される。ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置は、ロッド部材がシリンダ部材(シリンダ空間)を貫通するように構成される。ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置は、ロッド部材がシリンダ部材(シリンダ空間)を貫通しないように、すなわちロッド部材の先端がシリンダ空間内に配設されるように、構成される。ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置として、例えば上記特許文献1に記載の装置が好適に示される。ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置として、例えば上記特許文献2に記載の装置が好適に示される。
ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置は、ドアの開閉動作に伴ってロッド部材が動作した場合であってもシリンダ空間の空間容積(流体が存在し得る容積)が変動しないように構成される。そのため、シリンダ空間の空間容積の変動を補償するための体積補償構造を設ける必要はなく、それ故に、フリーストップドアチェック装置を簡便に構成することができる。しかしながら、ロッド貫通タイプのフリーストップドアチェック装置のロッド部材はシリンダ部材(シリンダ空間)を貫通しているため、ロッド部材の全長が長くなり、それ故に装置が大型化する。よって、ドア内部でロッド部材の先端(シリンダ部材を貫通した先の部分)が他の部品(例えばウィンドウレギュレータ装置)と干渉する虞があり、これを回避するために他の部品の設計寸法が制限される。
一方、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置は、ロッド部材がシリンダ部材(シリンダ空間)を貫通しないため、コンパクトに構成することができる。しかし、ロッド部材がシリンダ空間内にて移動する際に、シリンダ空間にロッド部材が出し入れされることによって、シリンダ空間の空間容積が変動する。この場合、空間容積の変動を補償するための体積補償構造が必要である。上記特許文献2によれば、シリンダ空間に連通する接続空間に、気体が充填された体積補償空間が設けられており、この体積補償空間内の容積が増減することにより、シリンダ空間の空間容積の増減が相殺される。
上述のように、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置に利用可能なピストンシリンダ装置には、シリンダ空間の体積補償をするための構造が必要である。従来においては、上述の特許文献2のように、体積補償空間内の気体の体積変化が、流体が封入されたシリンダ空間の体積補償に利用される。この場合、体積補償空間の圧力がシリンダ空間に作用するため、シリンダ空間の圧力が増大する。シリンダ空間の圧力が増大すると、シリンダ空間内でのピストンの移動に対する抵抗力が増加する。よって、この種のピストンシリンダ装置をフリーストップドアチェック装置に用いた場合、ドアの開閉操作力が増加して、ドアを開閉し難くなる。
体積補償空間の圧力を低下させた場合、シリンダ空間内でのピストンの移動動作に与える体積補償空間の圧力の影響の度合いを減ずることができる。しかし、この場合、シリンダ空間からロッド部材が引き出される際にシリンダ空間の圧力が負圧になる虞がある。シリンダ空間の圧力が負圧になるとキャビテーションが発生して装置の動作に支障を来す虞がある。よって、キャビテーションの発生を防止するためには、体積補償空間の圧力を、それがシリンダ空間内におけるピストンの移動動作に大きく影響を及ぼさない程度にまで低下させることはできない。
本発明は、ロッド非貫通タイプのドアチェック装置に適用でき、且つ、シリンダ空間内におけるピストン部材の移動動作に影響を及ぼさないように、流体が封入されたシリンダ空間の体積補償がなされるピストンシリンダ装置を提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明は、流体が充填される主シリンダ空間(S)が内部に形成された主シリンダ部材(1)と、主シリンダ空間の軸方向に移動可能に主シリンダ空間内に配設されるとともに、主シリンダ空間を第一主空間(S1)と第二主空間(S2)とに区画し、且つ、主シリンダ空間内を移動したときに、第一主空間と第二主空間との間の流体の流通が可能な流体流通路(SM)がその内部に形成されるように構成された主ピストン部材(2)と、外部から第一主空間に進入して主ピストン部材に連結され、主ピストン部材の移動に伴い軸方向移動する主ロッド部材(3)と、第一主空間に連通する一方の端部(Va)と、大気開放された他方の端部(Vb)とを有し、その軸方向が主シリンダ空間の軸方向と同じ方向となるように主シリンダ空間に平行に配置された副シリンダ空間(V)が内部に形成された副シリンダ部材(4)と、副シリンダ空間の軸方向に移動可能に副シリンダ空間内に配設されるとともに、副シリンダ空間を、流体が充填されるとともに副シリンダ空間の一方の端部を含む第一副空間(V1)と、副シリンダ空間の他方の端部を含む第二副空間(V2)とに区画する副ピストン部材(5)と、外部から第一副空間に進入して副ピストン部材に連結され、副ピストン部材の移動に伴い軸方向移動するとともに、その軸方向が主ロッド部材の軸方向と同じ方向となるように主ロッド部材に平行に配置された副ロッド部材(6)と、を備え、主ピストン部材の移動に伴う主ロッド部材の軸方向移動量と副ピストン部材の移動に伴う副ロッド部材の軸方向移動量が同じ移動量となるように、主ロッド部材と副ロッド部材が連結され、副シリンダ空間の断面積(Sps)と副ロッド部材の断面積(Sp)との差の大きさ(Spr(=Sps−Sp))が、主ロッド部材の断面積(S)と副ロッド部材の断面積(Sp)との和の大きさ(S+Sp)に一致するように、副ロッド部材、主ロッド部材、及び、副シリンダ空間が形成されている、ピストンシリンダ装置を提供する。この場合において、上記「断面積」とは、各空間又は各部材をその軸方向に垂直な平面で切断した場合における断面積を言う。また、上記「シリンダ空間」とは、軸方向に沿って一定の断面積を有する空間を言う。従って、断面円形状の空間のみならず、断面楕円形状、断面小判形状、或いは断面多角形状の空間も、本発明においては、「シリンダ空間」である。
本発明に係るピストンシリンダ装置によれば、主ロッド部材が主シリンダ空間内で主ピストン部材に連結し、副ロッド部材が副シリンダ空間内で副ピストン部材に連結している。従って、本発明に係るピストンシリンダ装置は、ロッド非貫通タイプのドアチェック装置を構成することができる。また、本発明に係るピストンシリンダ装置において、流体が封入(充填)される空間は、主シリンダ空間及びそれに連通した第一副空間(主シリンダ空間と第一副空間を合わせた空間を、以下、シリンダ総空間と呼ぶ場合もある)である。シリンダ総空間の空間容積の体積補償がなされた場合、シリンダ総空間内に各ロッド部材(主ロッド部材及び副ロッド部材)を出し入れすることができる。
また、本発明によれば、主ピストン部材の移動に伴う主ロッド部材の軸方向移動量と、副ピストン部材の移動に伴う副ロッド部材の軸方向移動量が同じ軸方向移動量(移動ストロークL)となるように、主ロッド部材と副ロッド部材が連結されている。このとき、主シリンダ空間内にて主ロッド部材が軸方向移動することにより、主ロッド部材の断面積Sに移動ストロークLを乗じて求められる容積(S×L)分だけ、シリンダ総空間の空間容積が変動する。また、第一副空間内にて副ロッド部材が軸方向移動することにより、副ロッド部材の断面積Spに移動ストロークLを乗じて求められる容積(Sp×L)だけ、シリンダ総空間の空間容積が変動する。
また、副シリンダ空間内を副ピストン部材が移動することによって、第一副空間の軸方向長さ(副ロッド部材の移動方向における長さ)自体が変動するため、シリンダ総空間の空間容積が変動する。この副ピストン部材の移動によるシリンダ総空間の空間容積の変動量は、第一副空間の空間断面積(第一副空間の断面積のうち流体が存在する部分の面積)に副ピストンの移動ストロークLを乗じることによって求められる。第一副空間の空間断面積は、副シリンダ空間の断面積Spsから副ロッド部材の断面積Spを引くことによって、求められる。つまり、副ピストン部材の移動によるシリンダ総空間の容積変動量は、(Sps−Sp)×Lによって求められる。
以上より、主ロッド部材及び副ロッド部材が軸方向移動した場合におけるシリンダ総空間の空間容積の変動量は、主シリンダ空間内での主ロッド部材の軸方向移動に起因した容積変動量(S×L)と、第一副空間内での副ロッド部材の軸方向移動に起因した容積変動量(Sp×L)と、副シリンダ空間内での副ピストン部材の移動に起因した容積変動量(Sps−Sp)×Lとによって、表される。
また、主ロッド部材が主シリンダ空間から引き出される場合、副ロッド部材も第一副空間から引き出される。主ロッド部材が主シリンダ入空間から引き出された場合、引き出された主ロッド部材の容積分だけシリンダ総空間の空間容積は増加する。同様に、副ロッド部材が第一副空間から引き出された場合、引き出された副ロッド部材の容積分だけシリンダ総空間の空間容積は増加する。一方、副ロッド部材が第一副空間から引き出される場合、副ピストン部材は第一副空間の軸方向長さを短くする方向に移動する。このため、副ピストン部材の移動によって、シリンダ総空間の空間容積が減少する。
また、主ロッド部材が主シリンダ空間に押し込まれる場合、副ロッド部材も第一副空間に押し込まれる。主ロッド部材が主シリンダ空間に押し込まれた場合、押し込まれた主ロッド部材の容積分だけシリンダ総空間の空間容積が減少する。同様に、副ロッド部材が第一副空間に押し込まれた場合、押し込まれた副ロッド部材の容積分だけシリンダ総空間の空間容積は減少する。一方、副ロッド部材が第一副空間に押し込まれる場合、副ピストン部材は、第一副空間の軸方向長さを長くする方向に移動する。このため、副ピストン部材の移動によって、シリンダ総空間の空間容積が増加する。
このように、主ロッド部材及び副ロッド部材の軸方向移動に起因してシリンダ総空間の空間容積が減少した場合には、副ピストン部材の移動に起因してシリンダ総空間の空間容積が増加する。また、主ロッド部材及び副ロッド部材の軸方向移動に起因してシリンダ総空間の空間容積が増加した場合には、副ピストン部材の移動に起因してシリンダ総空間の空間容積が減少する。このとき、主ロッド部材及び副ロッド部材の軸方向移動に起因したシリンダ総空間の空間容積の変動量((S+Sp)×L)と、副ピストン部材の移動に起因したシリンダ総空間の空間容積の変動量((Sps−Sp)×L)が一致すれば、シリンダ総空間の正味の容積変化は0になる。つまり、シリンダ総空間の体積補償がなされる。
従って、副シリンダ空間の断面積Spsと副ロッド部材の断面積Spとの差の大きさSpr(=Sps−Sp)が、主ロッド部材の断面積Sと副ロッド部材の断面積Spとの和の大きさ(S+Sp)に一致するように、副ロッド部材、主ロッド部材、及び、副シリンダ空間を形成することで、シリンダ総空間を体積補償することができる。このような体積補償構造は、気体の体積変化を利用していないため、主シリンダ空間内における主ピストン部材の移動動作に影響を及ぼさない。すなわち、本発明によれば、ロッド非貫通タイプのドアチェック装置に適用でき、且つ、シリンダ空間内におけるピストン部材の移動動作に影響を及ぼさないようにシリンダ空間の体積補償がなされるピストンシリンダ装置を提供することができる。
この場合、主シリンダ空間及び副シリンダ空間の軸方向に垂直な方向に主シリンダ部材と副シリンダ部材が積層されるように、主シリンダ部材と副シリンダ部材が配設されているとよい。これによれば、各シリンダ空間の軸方向に垂直な方向に主シリンダ部材及び副シリンダ部材を積層配置することで、上記軸方向におけるピストンシリンダ装置の長さの短縮化を図ることができる。
また、本発明に係るピストンシリンダ装置は、主ピストン部材に形成された流体流通路の途中に設けられ、第一主空間内の圧力と第二主空間内の圧力との差圧が所定の開弁圧を上回ったときに開弁して流体流通路を開通させる弁部材(7,8)を備えるとよい。そして、主ロッド部材と副ロッド部材は、共に、車体に揺動可能に接続され、主シリンダ部材と副シリンダ部材が、車両ドア内に配設されているとよい。これによれば、本発明に係るピストンシリンダ装置を、車両のドアチェック装置、特に、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置に利用することができる。
この場合、主シリンダ空間の径は、副シリンダ空間の径よりも大きくされているとよい。これによれば、主シリンダ空間内の主ピストン部材の受圧面積が大きくされることによって、主ピストン部材内の流体流通路の途中に設けられる弁部材をコンパクトに構成することができる。
また、主ロッド部材と副ロッド部材が、同一の軸部材に揺動可能に取り付けられているとよい。これによれば、主ロッド部材と副ロッド部材とを、同一の方向に同じ長さだけ軸方向移動させることができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態においては、車両のドアチェック装置(フリーストップドアチェック装置)に適用されるピストンシリンダ装置について説明する。図1は、本実施形態に係るピストンシリンダ装置が搭載される車両の概略図である。図1に示す車両Vは車体B(本体)および車両ドアDRを備える。車体Bの側方部に乗降用の開口OPが形成される。開口OPの周縁のうち車両前方側の縁部(前縁部)FEに、一対のドアヒンジH,Hが上下方向に沿って取り付けられる。一対のドアヒンジH,Hを介して、車両ドアDRが車体Bに揺動可能に連結される。従って、車両ドアDRは、車体Bに形成された開口OPを開閉可能に車体Bに取り付けられる。
図2は図1のA部を詳細に示す図である。図2に示すように、一対のドアヒンジH,Hは、それぞれ同軸のヒンジ軸H1、H1を備える。車両ドアDRの開閉動作時に、車両ドアDRはヒンジ軸H1,H1を中心として車体Bに対して揺動する。また、前縁部FEにブラケットBRがボルト等の締結手段により固定される。このブラケットBRには、上下方向に沿った軸を持つピンGが固定される。そして、ピンGを介して、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100の構成要素である主ロッド部材3の一方端3a及び副ロッド部材6の一方端6aが、それぞれ揺動可能に車体Bに取り付けられる。つまり、主ロッド部材3と副ロッド部材6が、同一の軸部材(ピンG)を介して連結される。車体Bに揺動可能に連結された主ロッド部材3及び副ロッド部材6は、車両ドアDRの全閉時に車体Bの前縁部FEに対面する部分である車両ドアDRの前端部DEに形成された孔Yを経由して、車両ドアDR内に延出される。車両ドアDRの閉動作に伴い、主ロッド部材3及び副ロッド部材6は孔Yを経由して車両ドアDR内に進入する。一方、車両ドアDRの開動作に伴い、主ロッド部材3及び副ロッド部材6は孔Yを経由して車両ドアDR内から退出する。
図3は、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100を上方から見た平面図である。なお、図3の左右方向は、車両ドアDRが全閉状態である場合における車両Vの前後方向であり、図3の左方が車両前方、図3の右方が車両後方である。図3に示すように、ピストンシリンダ装置100は、車両ドアDRが全閉状態であるときは、車両前後方向に沿って長く延びるように形成される。
図4は、図3のA−A断面図である。図4は、ピストンシリンダ装置100を、その長手方向及び上下方向を含む平面で切断した場合における、ピストンシリンダ装置100の断面構造を表す。
図4に示すように、このピストンシリンダ装置100は、主シリンダ部材1と、主ピストン部材2と、主ロッド部材3と、副シリンダ部材4と、副ピストン部材5と、副ロッド部材6と、一対のバルブユニット(第一バルブユニット7、第二バルブユニット8)と、を備える。一対のバルブユニットが、本発明の弁部材に相当する。
主ロッド部材3と副ロッド部材6は、これらの軸方向が同じ方向になるように、上下方向に所定の間隔を開けて平行に配置している。本実施形態では、副ロッド部材6が主ロッド部材3の上側に配置しているが、主ロッド部材3と副ロッド部材6との配置関係は、図4に示す場合と逆でも良い。また、主ロッド部材3及び副ロッド部材6は、図4においては左右方向に延びるように、設けられている。図4において、主ロッド部材3及び副ロッド部材6の軸方向(図4の左右方向)をロッド長手方向と呼び、ロッド長手方向のうち左方をロッド前方、右方をロッド後方と呼ぶ。なお、車両ドアDRが全閉状態であるとき、ロッド長手方向は、車両前後方向に、ほぼ一致する。
主シリンダ部材1は、ロッド長手方向に長い直方体状に形成される。主シリンダ部材1の上部に副シリンダ部材4が設けられる。副シリンダ部材4も、ロッド長手方向に長い直方体状に形成される。
副シリンダ部材4の上面及び主シリンダ部材1の下面に、回転軸ピン9,9が上下方向に沿って同軸的に取り付けられる。それぞれの回転軸ピン9,9は、ブッシュ9a,9aを介してアーム10,10に回転可能に連結される。アーム10,10は、上下方向に垂直な方向に沿って互いに平行に伸びており、その先端部分(図3において前端部分)にてボルト等の締結部材によって車両ドアDRに固定される。従って、主シリンダ部材1及び副シリンダ部材4は、回転軸ピン9,9を中心として、上下方向に垂直な平面内で揺動可能に車両ドアDRに取り付けられる。
主シリンダ部材1内には、円柱状の主シリンダ空間Sが形成される。円柱状の主シリンダ空間Sは、その軸方向がロッド長手方向に一致するように形成される。従って、主ロッド部材3の軸方向と主シリンダ空間Sの軸方向は一致する。また、円柱状の主シリンダ空間Sのロッド前方側の端部は、主シリンダ部材1のロッド前方側の部分を形成する前壁面1aにより塞がれており、ロッド後方側の端部は、主シリンダ部材1のロッド後方側の部分を形成する後壁面1bにより塞がれている。
副シリンダ部材4内には、円柱状の副シリンダ空間Vが形成される。円柱状の副シリンダ空間Vは、その軸方向がロッド長手方向に沿うように形成される。従って、副ロッド部材6の軸方向と副シリンダ空間Vの軸方向は一致する。また、円柱状の主シリンダ空間Sの軸方向と、円柱状の副シリンダ空間Vの軸方向も同じ方向であり、これらの両空間S,Vは、上下方向に並ぶようにして平行配置される。また、円柱状の副シリンダ空間Vの一方の端部(ロッド前方側の端部)Vaは、副シリンダ部材4のロッド前方側の部分を形成する前壁面4aにより塞がれている。一方、円柱状の副シリンダ空間Vの他方の端部(ロッド後方側の端部)Vbは、大気開放されている。
また、主シリンダ空間S内に主ピストン部材2が配設される。この主ピストン部材2は、円板状の第一壁部2aと、円板状の第二壁部2bと、接続部2cと、第一筒状シール部2dと、第二筒状シール部2eとを備える。主ピストン部材2の構成要素のうち、第一壁部2aと第二壁部2bが磁性体により形成され、それ以外の部分は非磁性体により形成される。第一壁部2aと第二壁部2bが、主シリンダ空間S内にてロッド長手方向に離間して対面するように、対向配置している。また、第一壁部2aの中央部分に、第一開口2fが形成され、第二壁部2bの中央部分に、第二開口2gが形成される。第一壁部2aと第二壁部2bは、接続部2cを介して連結している。なお、接続部2cは、枠体状に形成されており、第一壁部2aと第二壁部2bとを接続した状態において、これらの構成(第一壁部2a、第二壁部2b、接続部2c)に囲まれた領域と接続部2cよりも主シリンダ空間Sの径外方の領域が連通するように、構成される。
第一筒状シール部2dは第一壁部2aに取り付けられ、第二筒状シール部2eは第二壁部2bに取り付けられる。第一筒状シール部2d及び第二筒状シール部2eは、それぞれ、主シリンダ空間Sを形成する主シリンダ部材1の内周壁面に、周方向に亘り接触可能に構成される。このため、主ピストン部材2(第一筒状シール部2d及び第二筒状シール部2e)により、主シリンダ空間Sが、第一壁部2aのうち図4においてロッド前方側を向く面に面する第一主空間S1と、第二壁部2bのうち図4においてロッド後方側を向く面に面する第二主空間S2と、主ピストン部材2の内部であって第一壁部2aと第二壁部2bとの間に形成される中間空間SMとに区画される。中間空間SMは、本発明の流体流通路に相当する。
また、第一筒状シール部2dは、第一主空間S1から中間空間SMに向かう流体の流れを遮断し、中間空間SMから第一主空間S1に向かう流体の流れを許容するように形成される。第二筒状シール部2eは、第二主空間S2から中間空間SMに向かう流体の流れを遮断し、中間空間SMから第二主空間S2に向かう流体の流れを許容するように形成される。
また、主ピストン部材2は、主シリンダ空間S内を、ロッド長手方向に沿って、すなわち主シリンダ空間Sの軸方向に沿って、移動可能であるように構成される。
主シリンダ部材1のロッド前方端を構成する前壁面1aに、第一貫通孔1cが形成される。第一貫通孔1cを経由して、主ロッド部材3が第一主空間S1内に進入している。主ロッド部材3は、上述したようにその一方端3aにて車体Bに連結しているが、その他方端3bにて、主ピストン部材2の第一壁部2aに接続される。従って、主ロッド部材3は、主シリンダ空間Sを貫通しない。また、主ロッド部材3の軸方向と、主シリンダ空間Sの軸方向(主ピストン部材2の移動方向)は、一致しているので、主ロッド部材3は、主シリンダ空間S内における主ピストン部材2の移動に伴って、軸方向移動する。また、図4に示すように、主ロッド部材3の他方端3b側の内部に、第一連通路3cが形成される。第一連通路3cは、径方向通路3dと軸方向通路3eとを有し、その断面がT字形状を呈する。径方向通路3dは主ロッド部材3の径方向に沿って形成され、その両端は主ロッド部材3の側周面であって、第一主空間S1に位置する部分に開口する。軸方向通路3eは主ロッド部材3の軸方向に沿って形成され、その一端が径方向通路3dに連通し、その他端が第一壁部2aに形成されている第一開口2fに通じる。第一開口2f及び第一連通路3cを経て、第一主空間S1と中間空間SMが連通する。
また、上述したように、主ピストン部材2の第二壁部2bには、第二開口2gが形成されている。この第二開口2gを経て、第二主空間S2と中間空間SMが連通する。
主ピストン部材2の第一壁部2aと第二壁部2bとの間に、一対のバルブユニット(第一バルブユニット7、第二バルブユニット8)が配設される。ここで、第一壁部2aと第二壁部2bとの間には中間空間SMが形成されており、一対のバルブユニット7,8はこの中間空間SM内、すなわち流体流通路の途中に設けられている。また、中間空間SMは、第一主空間S1と第二主空間S2との間に設けられている。従って、一対のバルブユニット7,8は、第一主空間S1と第二主空間S2との間に設けられていることになる。
図5は、一対のバルブユニット7,8の詳細を示す概略断面図である。図5に示すように、第一バルブユニット7は、第一バルブケース7aと、第一弁体7bと、第一磁石7cと、第一ヨーク7dとを有する。第二バルブユニット8は、第二バルブケース8aと、第二弁体8bと、第二磁石8cと、第二ヨーク8dとを有する。
第一バルブケース7aは樹脂製であり、その内部に第一磁石7c及び第一ヨーク7dが埋め込まれている。第一ヨーク7dは、磁性体により形成された一対のアーム7e,7fからなり、一方のアーム7eが第一磁石7cのN極に接触し、他方のアーム7fが第一磁石7cのS極に接触するように、第一バルブケース7aに埋め込まれている。それぞれのアーム7e,7fの先端部分は、第一バルブケース7aの同一の表面から突出している。また、第一弁体7bは、第一バルブケース7aの表面のうち、一対のアーム7e,7fのそれぞれの先端部分が突出している面であって且つ一対のアーム7e,7f間の領域部分に取り付けられている。
第二バルブケース8aも樹脂製であり、その内部に第二磁石8c及び第二ヨーク8dが埋め込まれている。第二ヨーク8dは、磁性体により形成された一対のアーム8e,8fからなり、一方のアーム8eが第二磁石8cのN極に接触し、他方のアーム8fが第二磁石8cのS極に接触するように、第二バルブケース8aに埋め込まれている。それぞれのアーム8e,8fの先端部分は、第二バルブケース8aの同一の表面から突出している。また、第二弁体8bは、第二バルブケース8aの表面のうち、一対のアーム8e,8fのそれぞれの先端部分が突出している面であって且つ一対のアーム8e,8f間の領域部分に取り付けられている。
第一弁体7bは、図5に示すように、主ピストン部材2の第一壁部2aに設けられた第一開口2fを中間空間SM側から塞ぐことができるように、中間空間SM内に配設されている。第一弁体7bが第一開口2fを塞いでいるとき、第一ヨーク7dの一対のアーム7e,7fの先端面が、磁性体からなる第一壁部2aに接触する。このため磁性体を通過する磁路ループが形成されるとともに、第一磁石7cの磁力が第一弁体7bに作用することにより、所定の力(第一磁石7cの磁力)でもって、第一開口2fが第一弁体7bに塞がれる。このようにして、第一バルブユニット7が第一開口2fを封止する。
第二弁体8bは、図5に示すように、主ピストン部材2の第二壁部2bに設けられた第二開口2gを中間空間SM側から塞ぐことができるように、中間空間SM内に配設されている。第二弁体8bが第二開口2gを塞いでいるとき、第二ヨーク8dの一対のアーム8e,8fの先端面が、磁性体からなる第二壁部2bに接触する。このため磁性体を通過する磁路ループが形成されるとともに、第二磁石8cの磁力が第二弁体8bに作用することにより、所定の力(第二磁石8cの磁力)でもって、第二開口2gが第二弁体8bに塞がれる。このようにして、第二バルブユニット8が第二開口2gを封止する。
上記のようにして第一開口2f及び第二開口2gが第一バルブユニット7及び第二バルブユニット8により塞がれている場合、中間空間SM(流体流通路)を経由した第一主空間S1と第二主空間S2との間の流体の流通は、遮断される。このとき、第一磁石7cの磁力が、車両ドアDRを開動作させる際の保持力として車両ドアDRに作用し、第二磁石8cの磁力が、車両ドアDRを閉動作させる際の保持力として車両ドアDRに作用する。
図4に示すように、副シリンダ部材4に形成されている副シリンダ空間V内に、副ピストン部材5が配設されている。副ピストン部材5は円柱状に形成される。副ピストン部材5の側周面にリング溝が形成され、このリング溝内にシールリング5aが配設される。リング溝内に配設されたシールリング5aが、副シリンダ空間Vを形成する副シリンダ部材4の内周壁面に当接することにより、副シリンダ空間Vがロッド長手方向に沿って、副シリンダ空間Vの一方の端部Vaを含む第一副空間V1と、副シリンダ空間Vの他方の端部Vbを含む大気開放された第二副空間V2とに区画される。
また、副ピストン部材5は、副シリンダ空間V内を、ロッド長手方向に沿って、すなわち副シリンダ空間Vの軸方向に沿って、移動可能であるように構成される。
また、図4からわかるように、副シリンダ空間Vの一方の端部Vaは、主シリンダ空間Sの第一主空間S1に連通している。従って、副シリンダ空間Vの一方の端部Vaを含む第一副空間V1は、主シリンダ空間Sに連通する。また、第一副空間V1内には、主シリンダ空間S内に充填されている流体が充填される。従って、流体が充填されている空間は、主シリンダ空間S及び第一副空間V1ということになる。このように流体が封入されている空間を、本実施形態では、シリンダ総空間Tと呼ぶ場合もある。また、互いに連通している第一主空間S1と第一副空間V1とを合わせた空間を、第一空間SV1と呼ぶ場合もある。
図4に示すように、副シリンダ部材4のロッド前方端を構成する前壁面4aに第二貫通孔4cが形成されている。第二貫通孔4cを経由して、副ロッド部材6が第一副空間V1内に進入している。副ロッド部材6は、上述したようにその一方端6aにて車体Bに連結しているが、その他方端6bにて、副ピストン部材5に接続される。従って、副ロッド部材6は、副シリンダ空間Vを貫通しない。また、副ロッド部材6の軸方向と、副シリンダ空間Vの軸方向(副ピストン部材5の移動方向)は一致するので、副ロッド部材6は、副ピストン部材5の移動に伴って、軸方向移動する。
次に、ピストンシリンダ装置100の作動を説明する。まず、車両ドアDRが開動作する場合におけるピストンシリンダ装置100の作動を説明する。ピストンシリンダ装置100が図3及び図4に示す状態であるとき、車両ドアDRは全閉している。このとき、車両ドアDRを開動作させるためにユーザが車両ドアDRに開動作方向への力(開閉操作力)を加えると、その開閉操作力は主シリンダ部材1の主シリンダ空間S内に配設された主ピストン部材2、及び、副シリンダ部材4の副シリンダ空間V内に配設された副ピストン部材5に伝えられる。主ピストン部材2は、開動作方向への開閉操作力によって、主シリンダ部材1に対して図4の左方(ロッド前方)に相対移動しようとする。同様に、副ピストン部材5は、開動作方向への開閉操作力によって、副シリンダ部材4に対して図4の左方(ロッド前方)に相対移動しようとする。
主ピストン部材2及び副ピストン部材5に開動作方向への開閉操作力が作用した場合、その開閉操作力によって、第一主空間S1の圧力及び第一副空間V1の圧力、すなわち第一空間SV1の圧力が上昇するとともに、第二主空間S2の圧力が低下する。このときにおける第一空間SV1の圧力と第二主空間S2の圧力との差圧は、第一バルブユニット7に作用する。具体的には、上記差圧は、主ピストン部材2の第一壁部2aの第一開口2fを封止している第一弁体7bに作用する。第一バルブユニット7(第一弁体7b)は、第一磁石7cと第一壁部2aとの間に発生している磁力(保持力)によって第一開口2fを封止している。従って、上記差圧が、第一バルブユニット7の保持力(すなわち開弁圧)を上回らない限り、車両ドアDRは開作動しない。
上記差圧が第一バルブユニット7の保持力(開弁圧)を上回った場合、第一弁体7bが第一開口2fから離れる。これにより第一バルブユニット7が開弁する。すると、高圧状態の第一主空間S1内の流体が第一連通路3cを通り、第一開口2fを経由して中間空間SMに流れ込む。さらに中間空間SM内の流体の流れにより、第二筒状シール部2eを主シリンダ部材1の内壁から浮き上がらせる。これにより、第二筒状シール部2eと主シリンダ部材1の内壁との間に隙間が形成される。この隙間を通って中間空間SM内の流体が第二主空間S2に流れ込む。すなわち、第一バルブユニット7が開弁することにより、中間空間SM(流体流通路)が開通する。図6は、第一バルブユニット7が開弁した状態が表された、ピストンシリンダ装置100の概略断面図である。
第一バルブユニット7が開弁した場合、第一壁部2aと第一バルブユニット7に備えられる第一磁石7cとの距離が大きくなるため、第一バルブユニット7による保持力(磁力)が小さくされる。よって、ユーザは、小さい力で車両ドアDRを開動作させることができる。車両ドアDRが開動作すると、それに伴い、主ピストン部材2が、主シリンダ部材1に対して図6の左方(ロッド前方)に相対的に移動し、主ピストン部材2の移動に伴い、主ロッド部材3も図6の左方(ロッド前方)に軸方向移動する。このとき、第一主空間S1内の流体が、第一連通路3c及び第一開口2fを経由して中間空間SMに流れ込むとともに、中間空間SM内の流体が、第二筒状シール部2eと主シリンダ部材1の内壁との間の隙間を経由して、第二主空間S2に流れ込む。また、車両ドアDRが開動作すると、それに伴い、副ピストン部材5が、副シリンダ部材4に対して図6の左方(ロッド前方)に相対的に移動し、副ピストン部材5の移動に伴い、副ロッド部材6も図6の左方(ロッド前方)に軸方向移動する。図8に、主ピストン部材2及び副ピストン部材5がロッド前方に移動した状態が表されたピストンシリンダ装置100の断面図を、主シリンダ空間S内の流体の流れとともに示す。
また、図7は、主ピストン部材2及び副ピストン部材5がロッド前方に移動した場合における、ピストンシリンダ装置100の概略平面図である。なお、図7には、主ピストン部材2及び副ピストン部材5がロッド前方に移動する前におけるピストンシリンダ装置100が、破線により示されている。図7に示すように、主ロッド部材3及び副ロッド部材6がロッド前方側に軸方向移動すると、主ロッド部材3の一方端3a及び副ロッド部材6の一方端6aに接続されている車体B(ピンG)が、車両ドアDRから離れる。また、車両ドアDRの揺動中心軸位置(ヒンジ軸H1の位置)と、主ロッド部材3及び副ロッド部材6の揺動中心軸位置(ピンGの位置)は異なるため、車両ドアDRが開動作方向に揺動した場合、車両ドアDRから見て両ロッド部材3,6の揺動中心軸位置が円弧を描く。そのため、車両ドアDRの開動作時に、ピストンシリンダ装置100は、回転軸ピン9を中心として車両ドアDR内で揺動する。つまり、主ロッド部材3及び副ロッド部材6は、車両ドアDRの開動作に伴い、ロッド前方に軸方向移動しながら、車両前後方向に対して車両ドアDR内で揺動する。そのため、ロッド長手方向(図7における軸線Bで表される方向)が、車両前後方向に対して傾斜する。
車両ドアDRの開動作によって、主ロッド部材3が、図4に示す状態から図8に示す状態になるまでロッド前方に軸方向移動すると、主ロッド部材3が第一主空間S1から引き出される。同様に、車両ドアDRの開動作によって、副ロッド部材6が、図4に示す状態から図8に示す状態になるまでロッド前方に軸方向移動すると、副ロッド部材6が第一副空間V1から引き出される。この場合において、上述したように、主ロッド部材3と副ロッド部材6は、車体B側に設けられた同一の軸(ピンG)を介して連結されているため、車体Bに対して車両ドアDRが開動作した場合における主ロッド部材3の軸方向移動量(移動ストローク)と副ロッド部材6の軸方向移動量(移動ストローク)は等しい。
また、車両ドアDRの開動作によって、主ロッド部材3が第一主空間S1から引き出された場合、引き出された分だけ、流体が封入されている空間であるシリンダ総空間T(主シリンダ空間S+第一副空間V1)の空間容積が増加する。ここで、図4に示す状態である場合における主ロッド部材3の第一主空間S1内への進入長さをL1とし、図8に示す状態である場合における主ロッド部材3の第一主空間S1内への進入長さをL2とし、主ロッド部材3の直径をdrとする。この場合、主ロッド部材3が軸方向移動することによるシリンダ総空間Tの空間容積の増加量ΔS+は、以下の(1)式により表すことができる。
ΔS+=(L1−L2)×π(dr/2)2 (1)
また、車両ドアDRの開動作によって、副ロッド部材6が第一副空間V1から引き出された場合、引き出された分だけ、流体が封入されているシリンダ総空間Tの空間容積が増加する。ここで、図4に示す状態である場合における副ロッド部材6の第一副空間V1への進入長さをLp1とし、図8に示す状態である場合における副ロッド部材6の第一副空間V1への進入長さをLp2とし、副ロッド部材6の直径をdprとする。この場合、副ロッド部材6が軸方向移動することによるシリンダ総空間Tの空間容積の増加量ΔV1+は、以下の(2)式により表すことができる。
ΔV1+=(Lp1−Lp2)×π(dpr/2)2 (2)
また、車両ドアDRの開動作によって、副ピストン部材5がロッド前方に移動すると、ロッド長手方向における第一副空間V1の長さが短くされる。第一副空間V1の長さが短くされた分だけ、第一副空間V1の空間容積(第一副空間V1の全容積から、第一副空間V1内に進入している副ロッド部材6の容積を引いた容積)が減少する。第一副空間V1の空間容積が減少することによって、流体が封入されているシリンダ総空間Tの空間容積も減少する。ここで、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の直径をdpとすると、副ピストン部材5がロッド前方に移動することによるシリンダ総空間Tの空間容積の減少量ΔV1ーは、以下の(3)式により表すことができる。
ΔV1ー
=(Lp1−Lp2)×π((dp/2)2−(dpr/2)2) (3)
また、主ロッド部材3の軸方向に垂直な断面積をS(=π(dr/2)2)、副ロッド部材6の軸方向に垂直な断面積をSp(=π(dpr/2)2)、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の軸方向に垂直な断面積をSps(=π(dp/2)2)とすると、上記(1)〜(3)式は、以下の(4)〜(6)式のように表すことができる
ΔS+=(L1−L2)×S (4)
ΔV1+=(Lp1−Lp2)×Sp (5)
ΔV1−=(Lp1−Lp2)×(Sps−Sp) (6)
主ロッド部材3及び副ロッド部材6がそれぞれシリンダ総空間Tから引き出されることによるシリンダ総空間Tの空間容積の増加量(ΔS++ΔV1+)が、副ピストン部材5が移動することによるシリンダ総空間Tの減少量(ΔV1−)に一致する場合、正味のシリンダ総空間Tの空間容積の変動量は0になる。このとき、シリンダ総空間Tが体積補償される。この場合、以下の(7)式が成立する。
(L1−L2)×S+(Lp1−Lp2)×Sp
=(Lp1−Lp2)×(Sps−Sp) (7)
また、主ロッド部材3の移動ストローク量(L1−L2)と、副ロッド部材6の移動ストローク量(Lp1−Lp2)は等しいから、(7)式は、以下の(8)式のように変形できる。
S+Sp=Sps−Sp (8)
従って、上記(8)式が成立するように、すなわち、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の断面積Spsと副ロッド部材6の断面積Spとの差の大きさSpr(=Sps−Sp)が、主ロッド部材3の断面積Sと副ロッド部材の断面積Spとの和の大きさ(S+Sp)に一致するように、副ロッド部材6、主ロッド部材3、及び、副シリンダ空間V(第一副空間V1)を形成することにより、シリンダ総空間Tの体積補償がなされる。このようにしてシリンダ総空間Tが体積補償されるため、シリンダ総空間Tから主ロッド部材3及び副ロッド部材6を引き出すことができる。
車両ドアDRの開動作が任意の開度位置で停止した場合、シリンダ総空間T内における流体の流れも停止する。このため、中間空間SM内の流体の流れにより浮き上がっていた第二筒状シール部2eが主シリンダ部材1の内壁に接触して、第二筒状シール部2eと主シリンダ部材1の内壁との間の隙間が消失する。また、第一弁体7bが、互いに離間している第一磁石7cと第一壁部2aとの間に発生する弱い磁力によって、第一壁部2aに徐々に引き寄せられる。そして、やがて、第一ヨーク7dと第一壁部2aが接触することにより第一バルブユニット7が第一壁部2aの第一開口2fを封止する。これにより、中間空間SMと、第一主空間S1及び第二主空間S2との連通が遮断される。このとき、第一磁石7cの磁力により再び強い保持力(磁力)が発生する。このように、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100は、車両ドアDRの開動作が停止した任意の位置で、大きな保持力を発生することができるフリーストップドアチェック装置を構成することができる。
次に、車両ドアDRが閉動作する場合におけるピストンシリンダ装置100の作動を説明するが、その作動は、基本的には、車両ドアDRが開作動する場合の作動と同じである。図9は、車両ドアDRが全開であるときにおける、ピストンシリンダ装置100の概略断面図である。車両ドアDRが全開であるときに、車両ドアDRを閉動作させるためにユーザが車両ドアDRに閉動作方向への力(開閉操作力)を加えると、その開閉操作力は主シリンダ部材1の主シリンダ空間S内に配設された主ピストン部材2、及び、副シリンダ部材4の副シリンダ空間V内に配設された副ピストン部材5に伝えられる。主ピストン部材2は、閉動作方向への開閉操作力によって、主シリンダ部材1に対して図9の右方(ロッド後方)に相対移動しようとする。同様に、副ピストン部材5は、閉動作方向への開閉操作力によって、副シリンダ部材4に対して図9の右方(ロッド後方)に相対移動しようとする。
主ピストン部材2及び副ピストン部材5に閉動作方向への開閉操作力が作用した場合、その開閉操作力によって、第一主空間S1の圧力及び第一副空間V1の圧力、すなわち第一空間SV1の圧力が低下するとともに、第二主空間S2の圧力が上昇する。このときにおける第二主空間S2の圧力と第一空間SV1の圧力との差圧は、第二バルブユニット8に作用する。具体的には、上記差圧は、主ピストン部材2の第二壁部2bの第二開口2gを封止している第二弁体8bに作用する。第二バルブユニット8(第二弁体8b)は、第二磁石8cと第二壁部2bとの間に発生している磁力(保持力)によって第二開口2gを封止している。従って、上記差圧が、第二バルブユニット8の保持力(すなわち開弁圧)を上回らない限り、車両ドアDRは閉作動しない。
上記差圧が第二バルブユニット8の保持力(開弁圧)を上回った場合、第二弁体8bが第二開口2gから離れる。これにより第二バルブユニット8が開弁する。すると、高圧状態の第二主空間S2内の流体が第二開口2gを経由して中間空間SMに流れ込む。さらに中間空間SM内の流体の流れにより、第一筒状シール部2dを主シリンダ部材1の内壁から浮き上がらせる。これにより、第一筒状シール部2dと主シリンダ部材1の内壁との間に隙間が形成される。この隙間を通って中間空間SM内の流体が第一主空間S1に流れ込む。すなわち、第二バルブユニット8が開弁することにより、中間空間SM(流体流通路)が開通する。図10は、第二バルブユニット8が開弁した状態が表された、ピストンシリンダ装置100の概略断面図である。
第二バルブユニット8が開弁した場合、第二壁部2bと第二バルブユニット8に備えられる第二磁石8cとの距離が大きくなるため、第二バルブユニット8による保持力(磁力)が小さくされる。よって、ユーザは、小さい力で車両ドアDRを閉動作させることができる。車両ドアDRが閉動作すると、それに伴い、主ピストン部材2が、主シリンダ部材1に対して図10の右方(ロッド後方)に相対的に移動し、主ピストン部材2の移動に伴い、主ロッド部材3も図10の右方(ロッド後方)に軸方向移動する。このとき、第二主空間S2内の流体が、第二開口2gを経由して中間空間SMに流れ込むとともに、中間空間SM内の流体が、第一筒状シール部2dと主シリンダ部材1の内壁との間の隙間を経由して、第一主空間S1に流れ込む。また、車両ドアDRが閉動作すると、それに伴い、副ピストン部材5が、副シリンダ部材4に対して図10の右方(ロッド後方)に相対的に移動し、副ピストン部材5の移動に伴い、副ロッド部材6も図10の右方(ロッド後方)に軸方向移動する。図11に、主ピストン部材2及び副ピストン部材5がロッド後方に移動した状態が表されたピストンシリンダ装置100の断面図を、主シリンダ空間S内の流体の流れとともに示す。
車両ドアDRの閉動作によって、主ロッド部材3が、図9に示す状態から図11に示す状態になるまでロッド後方に軸方向移動すると、主ロッド部材3が第一主空間S1に押し込まれる。同様に、車両ドアDRの閉動作によって、副ロッド部材6が、図9に示す状態から図11に示す状態になるまでロッド後方に軸方向移動すると、副ロッド部材6が第一副空間V1に押し込まれる。この場合において、上述したように、主ロッド部材3と副ロッド部材6は、車体B側に設けられた同一の軸(ピンG)を介して連結されているため、車体Bに対して車両ドアDRが閉動作した場合における主ロッド部材3の軸方向移動量(移動ストローク)と副ロッド部材6の軸方向移動量(移動ストローク)は等しい。
また、車両ドアDRの閉動作によって、主ロッド部材3が第一主空間S1に押し込まれた場合、押し込まれた分だけ、流体が封入されている空間であるシリンダ総空間T(主シリンダ空間S+第一副空間V1)の空間容積が減少する。ここで、図9に示す状態である場合における主ロッド部材3の第一主空間S1内への進入長さをL3とし、図11に示す状態である場合における主ロッド部材3の第一主空間S1内への進入長さをL4とし、主ロッド部材3の直径をdrとする。この場合、主ロッド部材3が軸方向移動することによるシリンダ総空間Tの空間容積の減少量ΔS−は、以下の(9)式により表すことができる。
ΔS−=(L4−L3)×π(dr/2)2 (9)
また、車両ドアDRの閉動作によって、副ロッド部材6が第一副空間V1に押し込まれた場合、押し込まれた分だけ、流体が封入されているシリンダ総空間Tの空間容積が減少する。ここで、図9に示す状態である場合における副ロッド部材6の第一副空間V1への進入長さをLp3とし、図11に示す状態である場合における副ロッド部材6の第一副空間V1への進入長さをLp4とし、副ロッド部材6の直径をdprとする。この場合、副ロッド部材6が軸方向移動することによるシリンダ総空間Tの空間容積の減少量ΔV1−は、以下の(10)式により表すことができる。
ΔV1−=(Lp4−Lp3)×π(dpr/2)2 (10)
また、車両ドアDRの閉動作によって、副ピストン部材5がロッド後方に移動すると、ロッド長手方向における第一副空間V1の長さが長くされる。第一副空間V1の長さが長くされた分だけ、第一副空間V1の空間容積が増加する。第一副空間V1の空間容積が増加することによって、流体が封入されているシリンダ総空間Tの空間容積も増加する。ここで、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の直径をdpとすると、副ピストン部材5がロッド後方に移動することによるシリンダ総空間Tの空間容積の増加量ΔV1+は、以下の(11)式により表すことができる。
ΔV1+
=(Lp4−Lp3)×π((dp/2)2−(dpr/2)2) (11)
また、主ロッド部材3の軸方向に垂直な断面積をS(=π(dr/2)2)、副ロッド部材6の軸方向に垂直な断面積をSp(=π(dpr/2)2)、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の軸方向に垂直な断面積をSps(=π(dp/2)2)とすると、上記(9)〜(11)式は、以下の(12)〜(14)式のように表すことができる
ΔS−=(L4−L3)×S (12)
ΔV1−=(Lp4−Lp3)×Sp (13)
ΔV1+−=(Lp4−Lp3)×(Sps−Sp) (14)
主ロッド部材3及び副ロッド部材6がそれぞれシリンダ総空間Tに押し込まれることによるシリンダ総空間Tの空間容積の減少量(ΔS−+ΔV1−)が、副ピストン部材5が移動することによるシリンダ総空間Tの増加量(ΔV1+)に一致する場合、正味のシリンダ総空間Tの空間容積の変動量は0になる。このとき、シリンダ総空間Tが体積補償される。この場合、以下の(15)式が成立する。
(L4−L3)×S+(Lp4−Lp3)×Sp
=(Lp4−Lp3)×(Sps−Sp) (15)
また、主ロッド部材3の移動ストローク量(L4−L3)と、副ロッド部材6の移動ストローク量(Lp4−Lp3)は等しい。よって、(15)式は、以下の(16)式のように変形できる。
S+Sp=Sps−Sp (16)
従って、上記(16)式が成立するように、すなわち、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の断面積Spsと副ロッド部材6の断面積Spとの差の大きさSpr(=Sps−Sp)が、主ロッド部材3の断面積Sと副ロッド部材の断面積Spとの和の大きさ(S+Sp)に一致するように、副ロッド部材6、主ロッド部材3、及び、副シリンダ空間V(第一副空間V1)を形成することにより、シリンダ総空間Tの体積補償がなされる。このようにしてシリンダ総空間Tが体積補償されるため、シリンダ総空間Tに主ロッド部材3及び副ロッド部材6を押し込むことができる。
車両ドアDRの閉作動が任意の開度位置で停止した場合、シリンダ総空間T内における流体の流れも停止する。このため、中間空間SM内の流体の流れにより浮き上がっていた第一筒状シール部2dが主シリンダ部材1の内壁に接触して、第一筒状シール部2dと主シリンダ部材1の内壁との間の隙間が消失する。また、第二弁体8bが、互いに離間している第二磁石8cと第二壁部2bとの間に発生する弱い磁力によって、第二壁部2bに徐々に引き寄せられる。そして、やがて、第二ヨーク8dと第二壁部2bが接触することにより第二バルブユニット8が第二壁部2bの第二開口2gを封止する。これにより、中間空間SMと、第一主空間S1及び第二主空間S2との連通が遮断される。このとき、第二磁石8cの磁力により再び強い保持力(磁力)が発生する。このように、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100は、車両ドアDRの閉動作が停止した任意の位置で、大きな保持力を発生することができるフリーストップドアチェック装置を構成することができる。
以上のように、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100は、車両用のフリーストップドアチェック装置に適用できる。また、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100は、図4に良く示すように、主ロッド部材3及び副ロッド部材6が、それぞれ、主シリンダ空間S及び副シリンダ空間Vを貫通しない。つまり、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100は、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置として利用できる。また、本実施形態に係るピストンシリンダ装置100によれば、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の断面積Spsと副ロッド部材6の断面積Spとの差の大きさSpr(=Sps−Sp)が、主ロッド部材3の断面積Sと副ロッド部材6の断面積Spとの和の大きさ(S+Sp)に一致するように、副ロッド部材6、主ロッド部材3、及び、副シリンダ空間Vが形成される。このためシリンダ総空間Tを体積補償することができる。このような体積補償構造は、気体の体積変化を利用していないため、主シリンダ空間S内における主ピストン部材2の移動動作に影響を及ぼさない。すなわち、本実施形態によれば、ロッド非貫通タイプのフリーストップドアチェック装置に適用でき、且つ、シリンダ空間内におけるピストン部材の移動動作に影響を及ぼさないように、流体が封入されたシリンダ空間の体積補償がなされるピストンシリンダ装置100を提供することができる。
また、本実施形態によれば、図4に良く示すように、主シリンダ空間S及び副シリンダ空間Vの軸方向(図4の左右方向)に垂直な方向(図4の上下方向)に主シリンダ部材1と副シリンダ部材4が積層されるように、主シリンダ部材1と副シリンダ部材4が配設されている。このように各シリンダ空間の軸方向に垂直な方向に主シリンダ部材1及び副シリンダ部材4を積層配置することで、上記軸方向におけるピストンシリンダ装置100の長さの短縮化を図ることができる。
また、本実施形態においては、図4に良く示すように、主シリンダ空間Sの径dは、副シリンダ空間V(第一副空間V1)の径dpよりも大きい。このため、車両ドアDRの開閉時に主ピストン部材2が主シリンダ空間S内の流体から力を受ける面積、すなわち主ピストン部材2の受圧面積を、相対的に大きくすることができる。主ピストン部材2の受圧面積が大きい場合、車両ドアDRの開閉時に主ピストン部材2に作用する単位面積当たりの力が小さい。よって、例えば第一磁石7c及び第二磁石8cとして用いられる磁石のサイズを小さくすることができる。このように、主ピストン部材2内の設けられている弁部材(第一バルブユニット7及び第二バルブユニット8)をコンパクトに構成することができる。
また、本実施形態においては、主ロッド部材3と副ロッド部材6が、車体Bに取り付けられている同一の軸部材(ピンG)に揺動可能に取り付けられている。つまり、主ロッド部材3と副ロッド部材6が、同一の軸部材を介して連結されている。このため、車両ドアDRの開閉時に、主ロッド部材3と副ロッド部材6とを、同一の方向に同じ長さだけ軸方向移動させることができる。つまり、車両ドアDRの開閉時における主ロッド部材3の移動ストロークと副ロッド部材6の移動ストロークを一致させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、主シリンダ空間S及び副シリンダ空間Vの断面形状が円形である例を示したが、各シリンダ空間の断面形状は、楕円形でも、小判形でも、或いは、多角形状でもよい。また、上記実施形態では、弁部材(第一バルブユニット7、第二バルブユニット8)が磁力を発生し、発生した磁力によって保持力(開弁圧)を得る例を示したが、弁部材の構成は、その他の構成、例えばスプリングの弾性力により保持力(開弁圧)を得るように構成してもよい。また、上記実施形態では、副シリンダ部材4が主シリンダ部材1の上側に配置されている例を示したが、下側でもよく、或いは側方でも良い。つまり、主シリンダ部材1と副シリンダ部材4が、それぞれの内部のシリンダ空間の軸方向に直交する方向に沿って、積層配置していればよい。また、上記実施形態では、本発明に係るピストンシリンダ装置の適用例として車両のフリーストップドアチェック装置を示したが、本発明に係るピストンシリンダ装置はそれ以外の用途にも用いることができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。