以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態として、土圧式シールド工法(密閉型シールド工法)を用いたトンネル施工で発生した有害物質を含む建設汚泥(掘削土)を処理する場合について説明する。図1は、土圧式シールド工法に用いられるトンネル施工設備1を示す概略構成図である。このトンネル施工設備1は、土圧式シールド機(密閉型シールド機)2を備え、この土圧式シールド機2は、有害物質を含む地盤Aを掘進して断面円形のトンネル100を形成する。また、トンネル施工設備1は、トンネル施工で発生した建設汚泥を処理する処理システム(掘削土の処理システム)20を含んでいる。
図1に示す土圧式シールド機2は、図示左側へトンネル100を掘り進めている。また、トンネル100には、上下方向に連続する立穴101が連結されている。また、トンネル100の内壁面にはセグメント102が施工されている。
土圧式シールド機2は円筒状のシールド3を備え、このシールド3の正面側には、地盤Aから切削された土が充満されるカッターチャンバー4が配置されている。切羽5は地盤Aの掘削面であり、カッターヘッド6により掘削される。また、カッターチャンバー4の背面側には、カッターチャンバー4の内外を仕切る円盤状の隔壁7が配置されている。
隔壁7の中央部には、カッターヘッド6を回転するための駆動源であるモータMが設けられている。モータMによる回転駆動力によって、カッターヘッド6が回転し、地盤Aが切削される。切削された土は、カッターヘッド6に設けられた開口を通じて、カッターヘッド6と隔壁7とに挟まれた空間(カッターチャンバー4の内部)に収容される。
また、隔壁7の背面側には、シールド3の内周に沿って複数のジャッキ8が配置されている。ジャッキ8は、土圧式シールド機2を推進させるための駆動部であり、隔壁7から後方へ延びている。ジャッキ8の後端部は、セグメント102の端面に押し当てられ、ジャッキ8が伸長することで、カッターヘッド6が前方へ押し出される。
また、隔壁7には、カッターチャンバー4の内部に添加剤(加泥材)を注入するための添加剤注入管9が設けられている。添加剤は、例えば、水分を加えて粘性土を薄めたものであり、掘削により生じた建設汚泥(泥土)の流動性を向上させるものや、掘削土砂の摩擦、粘着力を低減するものである。
カッターヘッド6の背面には、後方に張り出す撹拌羽根11が設けられている。この撹拌羽根11は、カッターヘッド6と共に回転し、カッターチャンバー4の内部に充満された建設汚泥及び添加剤を撹拌混合する。また、隔壁7の下部には、カッターチャンバー4の内部に充満された建設汚泥を排出するスクリューコンベア12設けられている。スクリューコンベア12の先端部は、カッターチャンバー4内に配置されている。スクリューコンベア12は、隔壁7から斜め上方へ延びている。
土圧式シールド機2では、掘り進んだ分の掘削土量とスクリューコンベア12から排出される排土量と調整することで、カッターチャンバー4の内部の土圧を管理している。具体的には、隔壁7の内面に配置された土圧計により、カッターチャンバー4の内部の圧力を計測し、この圧力がカッターヘッド6の前面の土と水の圧力にほぼ同じになるように、スクリューコンベア12の回転数を制御して排土量を制御している。
次に、土圧式シールド機2による掘削により発生した建設汚泥を処理する処理システム20について説明する。この処理システム20は、トンネル施工設備1に組み込まれている。処理システム20は、カッターチャンバー4に酸化還元電位調整剤を供給する酸化還元電位調整剤供給手段21と、カッターチャンバー4から排出された建設汚泥を輸送する建設汚泥輸送手段22と、建設汚泥輸送手段22にpH調整剤を供給するpH調整剤供給手段23とを備える。
酸化還元電位調整剤供給手段21は、上記の添加剤注入管9を通じて、添加材と共に酸化還元電位調整剤をカッターチャンバー4内に供給するものである。酸化還元電位調整剤は、建設汚泥の酸化還元電位を調整するものである。酸化還元電位調整剤は、建設汚泥の酸化還元電位を上昇させるものであり、例えば酸素水である。建設汚泥の酸化還元電位を上昇させる酸化還元電位調整剤として、過酸化水素水を用いてもよい。また、酸化還元電位調整剤として、酸素を供給してもよい。
ここでは、酸化還元電位調整剤として酸素水を供給する酸化還元電位調整剤供給手段21について説明する。酸化還元電位調整剤供給手段21は、酸素水製造装置24と、添加剤貯留槽25と、添加剤供給配管26とを備えている。酸素水製造装置24及び添加剤貯留槽25は、地上部において坑口103近傍に配置されている。酸素水製造装置は、酸素を供給する酸素供給装置と、酸素と水とを混合する混合装置とを有する。酸素供給装置に代えて、酸素貯留装置(例えば酸素ボンベ)から酸素を供給してもよい。
図2は、酸化還元電位調整剤供給手段21の酸素水製造装置24及び添加剤貯留槽25を示す概略構成図である。酸素水製造装置24は、水中に酸素を吹き込んで混合して酸素水を製造するものである。酸素水における酸素濃度は、例えば20〜40mg/Lである。また、酸素水は、掘削土量に対して5〜15体積%供給される。また、酸素水を建設汚泥に混合した後の、建設汚泥の酸化還元電位は、0〜500mVであり、好ましくは100〜500mVであり、更に好ましくは200〜500mVである。
酸素水製造装置24は、酸素水の原料となる水を貯留する水貯留槽27と、酸素を発生させる酸素発生装置28と、水に酸素を混合する酸素混合槽29と、を有する。供給された水は、一時的に水貯留槽27で貯留された後、酸素混合槽29に供給される。酸素混合槽29には水中に酸素を吹き込むためのジェットポンプが設けられている。酸素発生装置28で発生した酸素は、酸素混合槽29に供給されて、ジェットポンプを用いて水中に吹き込まれる。これにより、水中の酸素濃度が上昇されて酸素水が製造される。製造された酸素水は、添加剤貯留槽25に供給される。
添加剤貯留槽25は、酸素水に添加剤を混合するものである。添加剤貯留槽25では、酸素水を一時的に貯留し、貯留された酸素水に対して添加剤を混合する。
添加剤供給配管26は、添加剤貯留槽25と添加剤注入管9とを接続している。添加剤貯留槽25に接続された添加剤供給配管26は、坑口103を通じて、立穴101の内部に導入され、トンネル100の内部において前方に延在し、添加剤注入管9に接続されている。また、添加剤供給配管26には、酸素水及び添加剤を移送する移送ポンプが接続されている。添加剤供給配管26の内部を流れた添加剤及び酸素水は、添加剤注入管9を通じて、カッターチャンバー4の内部に供給される。
建設汚泥輸送手段22は、カッターチャンバー4による掘削により発生した建設汚泥を、地上部まで輸送するものである。建設汚泥輸送手段22は、建設汚泥を圧送する圧送配管31と、建設汚泥を昇圧する圧送ポンプPとを備えている。圧送配管31は、例えば鋼製の配管である。圧送配管31は、鋼製の配管に限定されず、例えば塩化ビニル管でもよく、その他の材質からなる配管でもよい。
圧送配管31は、スクリューコンベア12の後端部近傍から、地上部に設けられた汚泥ピット(貯留槽)32まで連続している。汚泥ピット32は、地上部の坑口103の近傍に設けられ、圧送配管31で圧送された建設汚泥が一時的に貯留される貯留部である。圧送配管31は、スクリューコンベア12の後端側から、トンネル100の内部において後方に延在している。圧送配管31は、トンネル100の内部から立穴101に導入されて上方に延び、坑口103を通り地上部に導出されている。圧送配管31は地上部において、坑口103から汚泥ピット32まで連続している。
圧送ポンプPは、圧送配管31に複数設けられている。圧送ポンプPは、例えば、スクリューコンベア12の後端部近傍、トンネル100の内部における中間位置、立穴101の下端部等に配置されている。スクリューコンベア12によって、カッターチャンバー4から排出された建設汚泥は、スクリューコンベア12の後端側に配置された圧送ポンプPに供給されて昇圧される。圧送ポンプPによって昇圧された建設汚泥は、圧送配管31の内部を流れて、地上部まで輸送されて、汚泥ピット32に導入される。
pH調整剤供給手段23は、汚泥ピット32の直前であり圧送配管31の後端部にpH調整剤を供給するものである。pH調整剤は建設汚泥のpHを調整するものである。pH調整剤は、建設汚泥のpHを下げるものであり、例えば、建設汚泥のpHを、4.0以上、9.0以下に調整する。pH調整剤としては、例えば、希硫酸を用いることができる。希硫酸の濃度は、例えば70質量%である。pH調整剤供給手段23は、70質量%希硫酸を、建設汚泥1m3に対して、10kg/m3程度供給する。希硫酸の濃度及び供給量は、これらの値に限定されず、その他の値でもよい。例えば、建設汚泥に対して濃硫酸を供給してもよく、硫酸を供給してもよい。
pH調整剤供給手段23は、図3に示されるように、pH調整剤貯留槽33、pH調整剤注入管34、及びpH調整剤混合部35を有する。pH調整剤貯留槽33はpH調整剤を貯留するものである。pH調整剤貯留槽33には、pH調整剤を移送する複数(例えば3本)のpH調整剤移送配管36が接続されている。また、複数のpH調整剤移送配管36には、それぞれpH調整剤移送ポンプが接続されている。
pH調整剤移送配管36の先端部には、pH調整剤注入管34がそれぞれ設けられ、pH調整剤注入管34は、圧送配管31の後端部に挿入されている。pH調整剤注入管34は、図4に示されるように、圧送配管31の管壁を貫通して管内に達している。複数のpH調整剤注入管34は、圧送配管31の延在する方向において、異なる位置に配置されている。また、複数のpH調整剤注入管34は、圧送配管31の周方向において、異なる位置に配置されている。複数のpH調整剤注入管34は、例えば、周方向に120度ずつ角度をずらして配置されている。
pH調整剤混合部35は、圧送配管31においてpH調整剤注入管34が配置された位置よりも下流に設けられ、建設汚泥を混合する部分である。pH調整剤混合部35は、図5及び図6に示されるように、圧送配管31の内部に設けられた複数の撹拌板37を有する。撹拌板37は、圧送配管31の管壁に支持されて、管内に張り出している。複数の撹拌板37は、建設汚泥の流れ方向において異なる位置に配置されている。圧送配管31の径方向の中心に向かうにつれて、建設汚泥の流れ方向の下流側に傾斜している。
また、複数の撹拌板37は、図6に示されるように、例えば、扇形を成すように形成されている。そして、複数の撹拌板37は、圧送配管31の周方向において、異なる位置に配置されている。複数の撹拌板37は、例えば、周方向に120度ずつ角度をずらして配置されている。圧送配管31の内部を流れる建設汚泥は、撹拌板37に当たると、撹拌板37に沿って流れの向きが変えられて管内で撹拌される。
次に、土圧式シールド工法を用いたトンネル施工で発生した建設汚泥の処理方法について説明する。この建設汚泥の処理方法は、トンネル施工設備1の処理システム20を用いて行われる。また、地盤Aに存在する自然由来の有害物質としては、例えば、シアン、水銀、六価クロム、鉛、カドミウム、セレン、フッ素及びホウ素がある。これらの有害物質は、地盤Aを掘削した際に発生する建設汚泥に含まれている。
トンネル施工設備1では、土圧式シールド機2によって地盤Aを掘削してトンネル100を施工する(トンネル掘削工程)。まず、処理システム20の酸素水製造装置24において、酸素水が製造され、製造された酸素水は、添加剤貯留槽25に供給される。添加剤貯留槽25では、添加剤と酸素水とが混合される。混合された添加剤及び酸素水は添加剤供給配管26を通り、トンネル100の内部に導入されて、添加剤注入管9を通じて、土圧式シールド機2のカッターチャンバー4の内部に供給される。
また、土圧式シールド機2では、カッターヘッド6が回転することで、地盤Aが掘削されており、掘削された土を含む建設汚泥がカッターチャンバー4の内部に充満している。添加剤注入管9によってカッターチャンバー4に供給された添加剤及び酸素水は、カッターヘッド6が回転することで、カッターヘッド6の背面に設けられた撹拌羽根11によって撹拌混合される。これにより、建設汚泥に酸素水が混合されて、建設汚泥の酸化還元電位が調整される(酸化還元電位調整工程)。具体的には、酸素水が混合されて建設汚泥の酸化還元電位が上昇する。また、カッターチャンバー4の内部で、掘削土に添加剤が混合されて、掘削土が泥水化されて建設汚泥となる(泥水化工程)。
カッターチャンバー4の内部の建設汚泥は、スクリューコンベア12によって移送されて、カッターチャンバー4の外部に排出されて、圧送配管31の端部に設けられた圧送ポンプPに供給される。なお、建設汚泥がスクリューコンベア12によって移送される際には、スクリューコンベア12のスクリューによって建設汚泥が更に撹拌されて、酸素水及び添加剤が混合される。
圧送ポンプPに供給された建設汚泥は昇圧されて、圧送配管31の内部を通り圧送される(輸送工程)。圧送配管31の内部を流れる建設汚泥は、複数の圧送ポンプPによって順次、昇圧されて、トンネル100及び立穴101の内部を通過して、坑口103を通り、地上部まで輸送される。
更に、圧送配管31の後端部において、pH調整剤貯留槽33に貯留されている70%希硫酸がpH調整剤注入管34を通じて、圧送配管31に供給されて建設汚泥に注入される。圧送配管31に供給されたpH調整剤は、建設汚泥と共に流されて下流のpH調整剤混合部35において、撹拌板37に当たって撹拌混合され、建設汚泥のpHが調整される(pH調整工程)。pH調整剤混合部35を通過した建設汚泥は、圧送配管31から排出されて、汚泥ピット32に供給されて収容される。
汚泥ピット32に供給された建設汚泥は、酸素水及び70%希硫酸が混合された後の状態であり、酸化還元電位が上昇されていると共にpHが下げられている。
このような建設汚泥の処理方法によれば、建設汚泥に対して酸化還元電位調整剤が混合されるので、建設汚泥の酸化還元電位が調整される。また、この処理方法では、土圧式シールド機2から排出され、酸化還元電位調整剤と共に輸送された建設汚泥に対して、pH調整剤が混合されるので、建設汚泥の酸化還元電位が調整されると共に、建設汚泥のpHが調整される。これにより、建設汚泥中の他の物質に有害物質が吸着されやすい環境にすることができ、有害物質を他の物質に吸着させて不溶化することができる。また、この処理方法により有害物質が不溶化された建設汚泥は、例えば地盤材料として利用することができるので、建設汚泥の処分の方法の選択肢を広げることができる。
また、処理方法では、酸化還元電位調整剤として酸素水、または酸素が混合されている。これにより、酸素水、または酸素によって建設汚泥の酸化還元電位を上昇させることができる。また、酸素水を利用することで、低コストで安全性が高い処理を行なうことができる。
また、この処理方法では、カッターチャンバー4の内部に酸化還元電位調整剤が供給される。これにより、カッターチャンバー4の内部で撹拌されて、酸化還元電位調整剤と建設汚泥とが均一に混合される。その結果、酸化還元電位の調整が確実に行われる。
また、この処理方法では、坑口103の外部に設置された汚泥ピット32まで建設汚泥を輸送する経路中、具体的には坑口103の外部の地上部に設置された汚泥ピット32まで建設汚泥を輸送し、汚泥ピット32の直前でpH調整剤を建設汚泥に混合している。そのため、坑口103の外部であり地上部において、pH調整剤を混合するので、トンネル100の内部でpH調整剤を混合する必要がなく、安全性の高い処理を行うことができる。また、pH調整剤を供給する位置から、汚泥ピット32までの移送距離を短くすることができるので、pH調整剤(特に希硫酸)による腐食により、鋼製の圧送配管31が損傷するおそれを低減することができる。また、坑口103の外側である地上部でpH調整剤を供給するので、ローリー車等による希硫酸の補給が容易である。
本実施形態では、酸化還元電位調整剤である酸素水、または酸素をカッターチャンバー4の内部に供給したが、圧送配管31に酸化還元電位調整剤を供給してもよい。圧送配管31に酸化還元電位調整剤を供給する酸化還元電位供給手段を備える構成とし、pH調整剤である希硫酸を供給するpH調整剤供給手段を酸化還元電位調整剤の供給位置より下流側に設けることで、pH調整剤(特に希硫酸)による圧送配管31の腐食損傷を低減できる。
また、本実施形態では、土圧式シールド工法を用いたトンネル施工で掘削により発生した建設汚泥を圧送配管31と圧送ポンプPにより圧送して坑口103側へ輸送したが、他の方法であってもよい。例えば、スクリューコンベア12の後端部近傍から、ズリ鋼車(鋼製のベッセル缶(鋼製の容器)を搭載した台車)により坑口103側へ輸送してもよい(運搬工程)。その場合、ズリ鋼車に積載された建設汚泥は立穴101下で貯留槽に荷卸しされる場合がある。その場合、pH調整剤は立穴101下の貯留槽で混合してもよい。
また、この処理方法で処理される建設汚泥(掘削土)に含まれる有害物質には、ヒ素、シアン、水銀、六価クロム、鉛、カドミウム、セレン、フッ素及びホウ素がある。これらの化学種は、鉄化合物に吸着されやすい特徴がある。また、建設汚泥中に存在する天然由来の鉄イオンは酸化還元電位が上昇すると水酸化鉄として固体になる特徴があり、pHが4.0〜7.0に調整された建設汚泥中では、上記化学種を吸着し易い特徴がある。これにより、水酸化鉄は、上記化学種を吸着する。そのため、水酸化鉄に吸着された上記化学種は環境中に溶出しにくくなり不溶化される。
次に、図7及び図8を参照して、ヒ素の形態の変化、及び鉄の形態の変化について説明する。図7は、横軸にpH、縦軸にEhをとった場合のヒ素の形態図であり、図8は、横軸にpH、縦軸にEhをとった場合の鉄の形態図である。図7及び図8において斜線で示した領域(pH=5.6〜7.8、Eh=−0.2〜+0.2V程度の領域)、またはpH6.0〜8.0は、一般的な土壌が有するpH及びEhがあてはまる領域であり、これによれば、ヒ素は通常、土壌中では亜ヒ酸(H3AsO3)として存在し、鉄は通常、土壌中では鉄イオン(II)(Fe2+)として存在している。これらの形態図から分かるように、いずれもpH又はEhが変化すると、その存在形態(酸化状態、イオン化状態)が変化する。なお、図7において、「PO2=1bar」が付記された線は、酸素分圧が1気圧である条件で考えられる最大の酸化状態の境界を表し、「PH2=1bar」が付記された線は、水素分圧が1気圧である条件で考えられる最大の還元状態の境界を表している。
カッターチャンバー4の内部に酸素水が供給されると、カッターチャンバー4の内部において、建設汚泥の酸化還元電位が上昇する。また、圧送配管31に70%希硫酸が供給されると、例えば建設汚泥のpHが8.5〜9.8から、4.0〜7.0に下がる。このとき、ヒ素及び鉄イオンはそれぞれ酸化されて、それぞれ図7及び図8に示された上向き矢印の方向へ存在形態が移り、ヒ素はヒ酸イオン(H2AsO4 −又はHAsO4 2−)として、鉄は水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)として存在するようになる。また、水酸化鉄(III)はpHが4.0〜7.0でヒ酸イオンを吸着し易くなり、水酸化鉄(III)は、ヒ酸イオンを吸着し、その結果、ヒ素が環境中に溶出しにくい形態となる。
次に図9を参照して、鉛の形態の変化について説明する。図9は、横軸にpH、縦軸にEhをとった場合の鉛の形態図である。鉛の場合、pHが10前後である領域以外ではイオン化しており、且つ、酸素の給気による酸化還元電位の上昇のみではその存在形態が変化しないが、鉄のほうは上記と同様に水酸化鉄(III)に変化するため、これが鉛(鉛イオン)を吸着して沈殿させ、鉛を環境中に溶出しにくくさせる効果が奏される。
[第2実施形態]
次に第2実施形態として、泥水式シールド工法(密閉型シールド工法)を用いたトンネル施工で発生した有害物質を含む建設汚泥(掘削土)を処理する場合について説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同様の説明を省略することがある。図10は、泥水式シールド工法に用いられるトンネル施工設備41を示す概略構成図である。このトンネル施工設備41は、泥水式シールド機(密閉型シールド機)42を備え、この泥水式シールド機42は、有害物質を含む地盤Aを掘進して断面円形のトンネル100を形成する。また、トンネル施工設備41は、トンネル施工で発生した建設汚泥を処理する処理システム(掘削土の処理システム)60を含んでいる。
泥水式シールド機42は円筒状のシールド3を備え、このシールド3の正面側には、泥水が充満されるカッターチャンバー44が配置されている。カッターチャンバー44の正面側には、地盤Aの掘削面である切羽5があり、カッターヘッド6が設けられている。また、カッターチャンバー44の背面側には、カッターチャンバー44の内外を仕切る円盤状の隔壁7が配置されている。また、カッターチャンバー44には、内部の泥水を撹拌するアジテータ(不図示)が設けられている。
隔壁7の上部には、カッターチャンバー44の内部に泥水を供給する送泥管49が設けられている。また、隔壁7の下部には、カッターチャンバー44の内部に充満する泥水(建設汚泥)を排出する排泥管50が設けられている。泥水式シールド機42では、送泥管49を通じてカッターチャンバー4に供給された泥水の圧力によって、カッターヘッド6の前面の土と水の圧力を押さえる。排泥管50及び送泥管49は、例えば鋼製の配管である。また、カッターチャンバー44の内部に泥水を供給することで、地盤Aから掘削された掘削土を泥水化する。
トンネル施工設備41は、カッターチャンバー44から排出された泥水から土砂を分離する土砂分離装置51を備えている。土砂分離装置51は、固液分離槽52と、調整槽53とを備える。固液分離槽52は、例えば振動篩を有し、泥水中から土砂などの固形物を分離するものである。固液分離槽52には、泥水から分離された土砂(建設汚泥、掘削土)を排出する排出管54、及び泥水を移送する泥水移送管55が接続されている。固液分離槽52で分離された土砂は排出管54を通り、汚泥ピット32に排出されて貯留され、土砂が分離された後の泥水は泥水移送管55を通り、調整槽53に供給される。
調整槽53は、泥水を貯留して泥水の比重や粘度を調整するものである。調整槽53で調整された後の泥水は、送泥管49を通じて、カッターチャンバー44に供給される。なお、送泥管49及び排泥管50には、泥水を移送するための移送ポンプPが接続され、これらの移送ポンプPによって泥水が移送されて循環される。
次に、泥水式シールド機42による掘削により発生した建設汚泥を処理する処理システム60について説明する。この処理システム60は、トンネル施工設備41に組み込まれている。処理システム60は、カッターチャンバー44に酸化還元電位調整剤を供給する酸化還元電位調整剤供給手段61と、カッターチャンバー44から排出された建設汚泥を輸送する排泥管50を含む建設汚泥輸送手段62と、建設汚泥輸送手段62にpH調整剤を供給するpH調整剤供給手段63とを備える。
酸化還元電位調整剤供給手段61は、上記の送泥管49を通じて、泥水(送泥水)と共に酸化還元電位調整剤をカッターチャンバー44内に供給するものである。酸化還元電位調整剤供給手段61は、酸素水製造装置を有し、製造された酸素水は調整槽53に供給される。
建設汚泥輸送手段62は、カッターチャンバー44から排出された建設汚泥を含む泥水(排泥水)を輸送するものである。建設汚泥輸送手段62は、建設汚泥をカッターチャンバー44から汚泥ピット32まで輸送するものであり、上記の排泥管50、移送ポンプP、固液分離槽52、排出管54を含む。カッターチャンバー4から排出された建設汚泥は、上述の通り、固液分離槽52で泥水と分離された後、排出管54を通じて、汚泥ピット32に導入される。
pH調整剤供給手段63は、排出管54の後端部にpH調整剤を供給するものである。pH調整剤貯留槽33、pH調整剤注入管34、及びpH調整剤混合部35を有する。pH調整剤貯留槽33はpH調整剤を貯留するものである。pH調整剤貯留槽33に貯留されているpH調整剤は、pH調整剤注入管34を通じて、排出管54に供給されて、建設汚泥と混合されて、汚泥ピット32に導入される。
次に、泥水式シールド工法を用いたトンネル施工で発生した建設汚泥の処理方法について説明する。この建設汚泥の処理方法は、トンネル施工設備41の処理システム60を用いて行われる。
この処理方法では、処理システム60の酸素水製造装置24において、酸素水が製造され、製造された酸素水は、調整槽53に供給される。調整槽53は、泥水と酸素水とが混合される。混合された泥水及び酸素水は送泥管49を通じて、泥水式シールド機42のカッターチャンバー44の内部に供給される(泥水化工程)。
送泥管49によってカッターチャンバー44に供給された泥水及び酸素水は、カッターヘッド6及びアジテータが回転することで撹拌混合される。これにより、建設汚泥に酸素水が混合されて、建設汚泥の酸化還元電位が上昇する(酸化還元電位調整工程)。
カッターチャンバー44の内部の泥水は、排泥管50を通り輸送されて固液分離槽52に供給される(輸送工程)。固液分離槽52で土砂が分離された泥水は、調整槽53に供給されて、再び、カッターチャンバー44に導入されて循環する。一方、固液分離槽52で泥水から分離された土砂は、排出管54を通り、汚泥ピット32に導入される。
この処理方法では、建設汚泥である土砂が排出管54を流れる際に、pH調整剤貯留槽33に貯留されている70%希硫酸がpH調整剤注入管34を通じて、建設汚泥に注入される。排出管54に供給されたpH調整剤は、建設汚泥と共に流れて下流のpH調整剤混合部35において撹拌混合され、建設汚泥のpHが調整される(pH調整工程)。pH調整剤混合部35を通過した建設汚泥は、排出管54から排出されて、汚泥ピット32に導入される。
このような第2実施形態の処理方法においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。この建設汚泥の処理方法によれば、建設汚泥に対して酸化還元電位調整剤が混合されるので、建設汚泥の酸化還元電位が調整される。また、この処理方法では、泥水式シールド機42から排出され、酸化還元電位調整剤と共に輸送された建設汚泥に対して、pH調整剤が混合されるので、建設汚泥の酸化還元電位が調整されると共に、建設汚泥のpHが調整される。これにより、建設汚泥中の他の物質に有害物質が吸着されやすい環境にすることができ、有害物質を他の物質に吸着させて不溶化することができる。
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態として、浚渫工事で発生した有害物質を含む浚渫土砂(掘削土)を処理する場合について説明する。図11は、浚渫土砂を掘削して処理する処理システムを示す概略構成図である。図12は、図11に示す処理システムのブロック構成図である。この処理システム71は、海底(水底)Bから浚渫土砂を掘削して収集する浚渫土砂収集部72と、浚渫土砂収集部72で収集された浚渫土を処理する処理部73と、を含む。なお、浚渫工事は、海底から浚渫土砂を回収するものに限定されず、川底や湖底から浚渫土砂を回収してもよく、溜池、ダム、砂浜、干拓地、湿地帯など、その他の場所から土砂を回収してもよい。
浚渫土砂収集部72は、例えば、クラブ式の浚渫船74である。クラブ式の浚渫船74には、海底Bの浚渫土砂を回収するためのグラブバケッドが設けられている。また、浚渫船74には、収集された浚渫土砂を貯留する浚渫土砂貯留部が設けられている。浚渫土砂収集部72は、クラブ式の浚渫船に限定されず、ポンプ式の浚渫船でもよく、その他の浚渫船でもよい。また、浚渫土砂収集部72は、浚渫船に限定されず、水上設備でもよく、陸地から水底の浚渫土砂を回収するものでもよい。例えば、バックホウなどを用いて、水底を掘削して浚渫土砂を回収してもよい。
処理部73は、圧送船75と、希硫酸混合設備(pH調整剤供給手段)76とを備える。圧送船75には、浚渫土砂を輸送するための浚渫土砂輸送手段77と、浚渫土砂に酸素を供給する酸素供給手段(酸化還元電位調整剤供給手段)78とが設けられている。浚渫土砂輸送手段77には、浚渫船74に貯留された浚渫土砂を圧送船75に移送する浚渫土砂移送配管L21と、浚渫土砂を希硫酸混合設備76に移送する浚渫土砂移送配管L22とが接続されている。浚渫土砂移送配管L21,L22は、例えば鋼製の配管である。鋼製の配管は、炭素鋼でもよく、ステンレス鋼でもよく、その他のものでもよい。また、浚渫土砂移送配管L21,L22は、鋼製に限定されず、例えば塩化ビニル管などその他の材質の配管でもよい。
浚渫土砂輸送手段77は、浚渫土砂を圧送するためのエジェクター79及び高圧ポンプ80を備えている。エジェクター79には、高圧ポンプ80及び浚渫土砂移送配管L21,L2が接続されている。高圧ポンプ80は、水(例えば海水)を昇圧し、昇圧された水である圧力水をエジェクター79内に噴射する。圧力水が供給されたエジェクター79は、内部が負圧となり、浚渫土砂移送配管L21を介して、浚渫土砂を吸引する。吸引された浚渫土砂は、浚渫土砂移送配管L22を通り、希硫酸混合設備76に供給される。
酸素供給手段78は、浚渫土砂輸送手段77で輸送されている浚渫土砂に、酸素を供給するものである。酸素供給手段78は、酸素発生装置81、コンプレッサ82、酸素注入管83及び酸素供給配管L23を備えている。酸素供給配管L23は、酸素発生装置81、コンプレッサ82及び酸素注入管83を接続している。酸素注入管83は、浚渫土砂移送配管L21,L22に接続されている。酸素発生装置81は、例えば空気中の窒素を吸着除去し、空気よりも酸素濃度が高い酸素含有ガスを発生させる。酸素発生装置81で発生したガスは、コンプレッサ82で昇圧され、酸素注入管83を通り、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れる浚渫土砂に混合される。酸素が混合された浚渫土砂は、希硫酸混合設備76に供給される。
希硫酸混合設備76は、酸素が混合された浚渫土砂に対して、希硫酸を混合するものである。希硫酸混合設備76は、例えば陸上に設置されている。希硫酸混合設備76は、希硫酸タンク84、希硫酸注入管85及び希硫酸供給配管L24を備えている。希硫酸供給配管L24は、希硫酸タンク84及び希硫酸注入管85を接続する。希硫酸注入管85は、酸素注入管83の下流で、浚渫土砂移送配管L22に接続されている。希硫酸タンク84は、希硫酸を貯留する貯留槽である。希硫酸タンク84に貯留された希硫酸は、例えば図示しないポンプによって移送されて、希硫酸供給配管L24を通り、希硫酸注入管85を介して、浚渫土砂移送配管L22に供給される。また、希硫酸注入管85の下流の配管内部には、拡散板などの混合部が設けられている。これにより、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れる浚渫土に、希硫酸が注入されて混合される。
次に、図13を参照して、浚渫工事で掘削されて収集された浚渫土砂の処理方法について説明する。この浚渫土砂の処理方法は、処理システム71を用いて行われる。
この処理システム71では、浚渫船74によって海底Bを掘削する(S21:浚渫工程、掘削工程)。掘削された浚渫土砂は、例えばクラブバケットによって収集されて、浚渫船74上に引き上げられる。海底Bから掘削された浚渫土砂は、浚渫船74は一時的に貯留される。
圧送船75に搭載されたエジェクター79には、高圧ポンプ80から圧力水が供給されている。圧力水が供給されて内部が負圧となったエジェクター79は、浚渫船74上の浚渫土砂を吸い込む。浚渫船74上の浚渫土砂は、浚渫土砂移送配管L21、エジェクター79を通り、輸送される(S22:配管輸送工程)。
エジェクター79によって輸送された浚渫土砂は、下流側の浚渫土砂移送配管L22を通り、酸素注入管83に到達する。
酸素発生装置81では、空気よりも酸素濃度が高い酸素含有ガスが生成される。酸素発生装置81で生成された酸素含有ガスは、コンプレッサ82によって圧縮され、酸素供給配管L23を通り、酸素注入管83を介して、浚渫土砂移送配管L22の内部に供給される(S23:酸素混合工程)。これにより、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れる浚渫土砂に対して、酸素が混合される。
酸素が混合された浚渫土砂は、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れて、圧送船75から希硫酸混合設備76に輸送されて、希硫酸注入管85に到達する。
希硫酸混合設備76では、希硫酸タンク84に貯留された希硫酸が、希硫酸注入管85を介して、浚渫土砂移送配管L22の内部に供給される(S24:希硫酸混合工程)。これにより、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れる浚渫土砂に対して、希硫酸が混合される。
このような浚渫土砂の処理方法によれば、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れる浚渫土砂に対して酸素が供給されて混合されて、浚渫土砂の酸化還元電位が調整される。これにより、浚渫土砂の酸化還元電位を上昇させることができる。
この処理方法では、酸素が供給された後、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れる浚渫土砂に対して、希硫酸が供給され、希硫酸が好適に混合されて、浚渫土砂のpHが調整される。これにより、浚渫土砂中の他の物質に有害物質が吸着されやすい環境にすることができる。その結果、有害物質が他の物質に吸着されて不溶化される。また、この処理方法により有害物質が不溶化された浚渫土砂は、例えば地盤材料として利用することができる。そのため、浚渫土砂の処分の方法の選択肢を広げることができる。
また、この処理方法では、陸上に設置された希硫酸混合設備76において、希硫酸を混合しているので、例えば海上において希硫酸が漏れるおそれがない。また、万が一希硫酸が漏洩しても、陸上であれば海上と比較して除去が容易である。また、陸上で希硫酸を混合することにより、海上で希硫酸を混合する場合比較して、希硫酸が掘削土と共に流れる浚渫土砂移送配管L22の距離を短くすることができる。そのため、希硫酸による配管の腐食の範囲が抑制される。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態として、第3実施形態の処理システム71とは異なる処理システム91を用いて、浚渫土砂を処理する場合について説明する。図14は、第4実施形態に係る掘削土の処理方法が適用される処理システムを示すブロック構成図である。第4実施形態が第3実施形態と異なる点は、浚渫土砂に対して、混気ジェットポンプ93を用いて空気を混合している点である。
まず、第4実施形態に係る浚渫土砂を処理方法で利用される処理システム91について説明する。処理システム91では、圧送船92に混気ジェットポンプ93が設けられている。混気ジェットポンプ93には、浚渫土砂移送配管L21,L22及び高圧ポンプ80が接続されている。混気ジェットポンプ93は、図15に示されるように、所定の長さを有する円筒状のジェットポンプ本体94を備えている。ジェットポンプ本体94の長手方向の一端側には、圧力水が注入される圧力水注入ノズル94aが接続されている。ジェットポンプ本体94の長手方向の他端側には、ジェットポンプ本体94よりも大きな内径を有する流送管94bが接続されている。この流送管94bには、浚渫土砂移送配管L22が接続されている。
また、ジェットポンプ本体94の側部において、一端側の位置には、浚渫土砂吸い込みノズル94cが接続されている。浚渫土砂吸い込みノズル94cは、ジェットポンプ本体94の長手方向に対して、交差するように配置されている。この浚渫土砂吸い込みノズル94cには、浚渫土砂移送配管L21が接続されている。浚渫土砂吸い込みノズル94cの内径は、例えば、ジェットポンプ本体94の内径と、略同じとなっている。
また、ジェットポンプ本体94には、ジェットポンプ本体94の長手方向において、圧力水注入ノズル94aと、浚渫土砂吸い込みノズル94cとの間に、空気導入ノズル94dが設けられている。空気導入ノズル94dは、ジェットポンプ本体94の長手方向に対して、傾斜して配置されている。空気導入ノズル94dのジェットポンプ本体94とは反対側は、大気開放されており、空気を吸い込み可能な構造となっている。
この混気ジェットポンプ93では、高圧ポンプ80から供給された圧力水が圧力水注入ノズル94aを通り、ジェットポンプ本体94に導入される。ジェットポンプ本体94に導入された圧力水は、ジェットポンプ本体94の内部を流れ、下流側の流送管94bを通り、浚渫土砂移送配管L22に導入される。この混気ジェットポンプ93では、圧力水の流れに伴って、ジェットポンプ本体94の内部が負圧となり、浚渫土砂吸い込みノズル94cを通じて、浚渫土砂が吸い込まれると共に、空気導入ノズル94dを通じて空気が吸い込まれる。これにより、浚渫土砂及び空気が吸引されて、下流側の浚渫土砂移送配管L22に流れ込む。
次に、処理システム91を用いて実行される浚渫土砂の処理方法について説明する。なお、上記の第3実施形態の処理方法と同一の説明は省略する。
この処理方法では、掘削工程が行われ、海底Bから浚渫土砂が収集され、浚渫船74に一次的に貯留される。浚渫船74に貯留された浚渫土砂は、混気ジェットポンプ93によって吸引されて、浚渫土砂移送配管L21を通り、圧送船92に移送される。移送された浚渫土砂は、混気ジェットポンプ93で吸引された空気と共に、下流側の浚渫土砂移送配管L22に流入する。これにより、浚渫土砂に対して、空気が混合されることで、酸素が混合される(空気(酸素)混合工程)。浚渫土砂及び空気は、浚渫土砂移送配管L22の内部を流れながら、撹拌されて好適に混合される。これにより、浚渫土砂の酸化還元電位が調整される。
酸素が混合された浚渫土砂は、浚渫土砂移送配管L22を通り、希硫酸混合設備76に到達する。希硫酸混合設備76では、第3実施形態と同様に、浚渫土砂に対して希硫酸が供給されて混合される。これにより、浚渫土砂のpHが調整される。
このような第4実施形態の浚渫土砂の処理方法においても、第3実施形態と同様に、浚渫土砂の酸化還元電位が調整されると共に、浚渫土砂のpHが調整される。これにより、浚渫土砂中の他の物質に対して有害物質が吸着され易い環境にして、浚渫土砂に含まれる有害物質を他の物質に吸着させて不溶化する。
また、この浚渫土砂の処理方法では、混気ジェットポンプ93において空気を吸引して、浚渫土砂に対して酸素を混合するので、酸素発生装置を設ける必要が無い。そのため、処理システム91の簡素化を図ることができ、圧送船92に搭載する機器を削減することができる。また、混気ジェットポンプ93自体も構造が簡素であるので、混気ジェットポンプ93の保守、管理も容易である。
なお、上記第4実施形態において、浚渫船74に貯留されている浚渫土砂を混気ジェットポンプ93を用いて、浚渫土砂を吸い込んでいるが、例えば、混気ジェットポンプ(浚渫ポンプ)を用いて、浚渫土砂(掘削土)を吸引する際に、混気ジェットポンプによって空気を吸引し、浚渫土砂と空気とを混合することで、酸化還元電位調整工程を実行してもよい。この場合において、空気の代わりに、酸素含有ガスを吸引してもよく、酸素水を吸引して、酸化還元電位調整工程を実行してもよい。
[第5実施形態]
次に第5実施形態として、地盤掘削工事で発生した掘削土を処理する場合について説明する。図16は、第5実施形態に係る掘削土の処理方法が適用される処理システムを示すブロック構成図である。図17は、第5実施形態の処理システムを示す概略図である。なお、上記の実施形態と同様の説明は省略する。
処理システム111は、地盤掘削工事で発生した掘削土に空気を混合する空気混合部112と、空気が混合された掘削土に希硫酸を混合する希硫酸混合設備113とを備えている。空気混合部112では、例えばバックホウ114を用いて、掘削土に空気を混合する。空気混合部112では、バックホウ114を用いて掘削土を撹拌することで、掘削土と空気との接触を増やしながら、掘削土に対して空気を混合する。空気が混合された掘削土は、例えば、図示しない搬送コンベアを用いて、希硫酸混合設備113に供給される。
希硫酸混合設備113は、例えば、液体添加装置を有する撹拌装置であり、具体的には、掘削土が導入される導入部116、導入部に導入された掘削土を搬送する搬送部117、希硫酸を貯留する希硫酸タンク118、希硫酸が供給された後の掘削土を混合する混合部119、及び希硫酸が混合された掘削土を排出する排出部120を有する。
導入部116は、掘削土が導入されるホッパーである。この導入部116の底部は、搬送部117に接続されており、導入部116に導入された掘削土は、導入部116の底部から排出されて、搬送部117の搬送ベルトによって搬送される。
搬送部117の搬送ベルトの下流部の上方には、希硫酸タンク118が配置されている。希硫酸タンク118に貯留された希硫酸は、希硫酸タンク118の底部から排出されて落下し、搬送ベルト上の掘削土に供給される。搬送ベルト上の掘削土は、希硫酸が供給された後に、後段の混合部119に導入される。
混合部119は、掘削土が落下する経路を構成するダクトと、ダクト内を落下する掘削土を撹拌する回転ハンマとを有する。回転ハンマは、落下する掘削土を粉砕すると共に、掘削土を撹拌することで、掘削土と希硫酸とを混合する。
混合部119を通過した後の掘削土は、排出部120に導入される。排出部120は、例えば、ベルトコンベアを有し、このベルトコンベアによって、掘削土を搬送して、撹拌装置から排出する。また、ベルトコンベアの後段には、掘削土を粉砕するカッターが配置されていてもよい。このカッターにより掘削土を粉砕することで、掘削土の粒度を小さくする。
次に、処理システム111を用いて実行される掘削土の処理方法について説明する。図18は、第5実施形態に係る掘削土の処理方法の手順を示すフローチャートである。
まず、地盤掘削工事において地盤を掘削する(S31:掘削工程)。この掘削工程では、例えば、掘削機械などを用いて地盤を掘削する。次に、掘削された掘削土を、例えば、ベルトコンベアなどの搬送機械を用いて搬送する(S32:搬送工程)。なお、搬送機械は、ベルトコンベアに限定されず、バケットコンベアでもよく、配管を用いて輸送してもよく、ダンプカーなど使用して掘削土を搬送してもよい。また、掘削土を収容する容器としてずり缶を用いて、掘削土を運搬してもよい(運搬工程)。
搬送された掘削土は、所定の場所に収集される。掘削土が収集される場所は、掘削土を掘削した場所に隣接してもよく、離れた位置でもよい。また、複数の掘削現場で掘削された掘削土を1箇所に集めてもよい。
次に、空気混合部112において、バックホウ114を用いて、掘削土を撹拌することで、掘削土に対して空気を混合する(S33:酸素混合工程)。
次に、酸素が混合された掘削土を、希硫酸混合設備113に供給する。希硫酸混合設備115では、搬送部117によって掘削土を搬送して、希硫酸タンク118の下方まで移動させる。そして、希硫酸タンク118から希硫酸を落下させて、掘削土に混ぜる(S34:希硫酸混合工程)。搬送部117で搬送された掘削土は、混合部119に導入されて、回転ハンマによって粉砕されると共に撹拌される。これにより、掘削土と希硫酸とが更に混合される。混合部119を通過した掘削土は、排出部120を通り、希硫酸混合設備113から排出される。
このような第5実施形態の掘削土の処理方法においても、上記の実施形態と同様に、掘削土の酸化還元電位が調整されると共に、掘削土のpHが調整される。これにより、掘削土中の他の物質に対して有害物質が吸着され易い環境にして、掘削土に含まれる有害物質を他の物質に吸着させて不溶化する。
また、この処理方法では、空気及び希硫酸を混合した後の掘削土を粉砕して、更に混合しているので、掘削土において、酸化還元電位及びpHをより均一にすることができる。
[第6実施形態]
次に第6実施形態として、第5実施形態の処理システムとは異なる処理システムを用いて、掘削土を処理する場合について説明する。図19は、第6実施形態に係る処理システムを示す概略図である。第6実施形態が第5実施形態と異なる点は、処理システムの構成が違う点である。
まず、第6実施形態に係る処理システム121について説明する。処理システム121は、掘削土を搬送する搬送部122、掘削土に水を混合して泥水化する泥水化部123、泥水に対して酸素を混合する酸素供給手段(酸化還元電位調整剤供給手段)78、及び酸素が混合された後の泥水に対して希硫酸を混合する希硫酸混合設備(pH調整剤供給手段)76を備える。
搬送部122は、例えばベルトコンベアであり、掘削土を泥水化部123に搬送する。泥水化部123は、掘削土に水を供給するための給水タンク126と、泥水を貯留する泥水貯留タンク127と、を備える。給水タンク126は、ベルトコンベアの上方に配置され、ベルトコンベア上の掘削土に対して上方から散水する。
掘削土と水との混合物は、ベルトコンベアの後段にされた泥水貯留タンク127に供給される。また、泥水貯留タンク127に水を直接注入してもよい。泥水貯留タンク127には、泥水移送配管L25が接続されている。泥水移送配管L25は、例えば鋼製の配管である。泥水移送配管L25には、泥水を移送するための泥水移送ポンプ128が接続されている。また、泥水移送配管L25には、泥水移送ポンプ128の下流に、酸素注入管83及び希硫酸注入管85が接続されている。
次に、処理システム121を用いて実行される掘削土の処理方法について説明する。図20は、第5実施形態に係る掘削土の処理方法の手順を示すフローチャートである。なお、上記の実施形態に記載の処理方法と同一の説明は省略する。
この処理方法では、例えばバックホウなどの建設機械を用いて、地盤を掘削する(S41:掘削工程)。次に、掘削された掘削土を搬送部122であるベルトコンベアを用いて搬送する(S42:搬送工程)。そして、搬送部122において搬送方向の下流側で、給水タンク126から散水することで、掘削土を泥水化する(S43:泥水化工程)。ここでは、例えば、掘削土1kgに対して、水1〜2Lを供給する。
搬送部122で搬送された掘削土は、泥水貯留タンク127に導入される。なお、この泥水貯留タンク127に水を供給して、掘削土を泥水化させてもよい。また、泥水貯留タンク127に、酸素含有ガスや酸素水を供給して、混合してもよい。
泥水貯留タンク127に貯留された泥水は、泥水移送ポンプ128によって昇圧されて、泥水移送配管L25を通り、輸送される(S44、配管輸送工程)。また、この配管輸送工程において、泥水中に酸素発生装置81で発生した酸素含有ガスが注入されて混合される(S45、酸素混合工程)。さらに、輸送工程において、酸素混合工程の後で、泥水中に希硫酸タンク84から希硫酸が注入されて混合される(S46、希硫酸混合工程)。
このような第6実施形態の掘削土の処理方法においても、上記の実施形態と同様に、掘削土の酸化還元電位が調整されると共に、掘削土のpHが調整される。これにより、掘削土中の他の物質に対して有害物質が吸着され易い環境にして、掘削土に含まれる有害物質を他の物質に吸着させて不溶化する。
また、この処理方法では、掘削土に対して、水を混合することで泥水化するので、ポンプを用いて泥水を輸送することができる。掘削土を泥水化することで、流動性が向上されるので、掘削土を輸送する際において、泥水移送配管L25内における掘削土の詰まりを防止する。また、掘削土の流動性を向上させることで、酸素や希硫酸の混合を好適に行うことができる。
(実施例1〜8、比較例1〜4)
以下、本発明の実施例1〜8について説明する。
図1に示すトンネル施工設備1を用いて、土圧式シールド工法を用いたトンネル施工を行い、発生した建設汚泥について処理を行った。酸素水及び希硫酸を注入した場合を実施例1〜8とした。また、酸素水及び希硫酸を注入しない場合を比較例1、2とし、酸素水を注入し希硫酸を注入しない場合を比較例3、4とした。酸素水及び希硫酸の注入条件を下記の表1に示す。酸素水は酸素濃度20mg/Lの酸素水を、掘削土量に対して8体積%で添加した。
また、実施例1〜8、比較例1〜4について、汚泥ピット32から、建設汚泥を抜き取り、pH,酸化還元電位、ヒ素、ふっ素、ホウ素の測定を行った。測定結果を下記の表2に示す。
表2に示されるように、実施例1〜8では、ヒ素は検出されず(<0.005)、ヒ素が不溶化されていることが確認できた。また、実施例2,5,8では、ふっ素、ホウ素の測定値が比較例1,4の測定値よりも低く、ふっ素、ホウ素が不溶化されていることが確認できた。
(実施例9〜14、比較例5〜7)
次に、本発明の実施例9〜14について説明する。
複数種類の試料(掘削土)を準備して、試料に有害物質を添加して、実施例9〜14、比較例5〜7を作成した。実施例9〜14、及び比較例5〜7の詳細について、以下の表3に示す。
実施例9,10及び比較例5では、試料として、沖積粘土層から採取した掘削土を用いた。実施例11〜13及び比較例6では、試料として、土丹層から採取した掘削土を用いた。実施例14及び比較例7では、試料として笠岡粘土を用いた。沖積粘土層とは、沖積世に堆積した比較的軟らかい粘土層である。土丹層とは、洪積世に堆積した固い粘土層である。笠岡粘土とは新第三紀に堆積した泥岩層で岡山県笠岡市で採取された土である。
実施例9〜13及び比較例5,6に対しては、有害物質としてヒ素を添加した。実施例14及び比較例7に対しては、有害物質として鉛(塩化鉛)を添加した。
(試験方法)
次に、図21を参照して、実施例における試験方法の作業手順について説明する。
<手順1:汚染泥水作成>
実施例9〜13及び比較例5,6については、ヒ素が添加された掘削土と蒸留水とを混合して、汚染泥水を作成した。実施例14及び比較例7については、掘削土、塩化鉛及び蒸留水を混合して汚染泥水を作成した。掘削土100gに対して、蒸留水200mLを混合した。
<手順2:空気混合>
次に、汚染泥水及び空気が入った容器を24時間振とうして、汚染泥水と空気とを接触させて混合した。
<手順3:希硫酸の添加、pH調整>
次に、汚染泥水に対して、希硫酸を添加して、初期pHを測定した。
また、実施例9〜14の汚染泥水について、表3に示す通り、pHを調整した。
なお、今回、空気混合を実施した後に、希硫酸の添加、pH調整を実施したが、希硫酸の添加、pH調整を実施した後に、空気混合を実施してもよい。
<手順4:遠心分離、ろ過>
次に、遠心分離機(機種名:H−210F(コクサン社製))を用いて、容器内の上澄み水をろ過し、固液分離を行い、ろ液を得た。
<手順5:分析>
次に、分析器(機種名:EC重金属分析装置(フィールドテック社製))を用いて、ろ液の有害物質濃度、鉄濃度を測定した。測定結果を以下の表4,5に示す通りであった。実施例9〜13については、ろ液のヒ素濃度は、手順1後の値と比較して大幅に低い値であった。特に、実施例9,10,13では、ろ液のヒ素濃度は、環境基準値(0.01mg/L)以下であった。
また、実施例14については、ろ液の鉛濃度は、手順1後の値と比較して大幅に低い値であり、環境基準値(0.01mg/L)以下であった。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
上記実施形態では、掘削土の酸化還元電位を調整する酸化還元電位調整剤として、酸素水を例示しているが、その他の酸化還元電位調整剤を使用してもよい。また、上記実施形態では、pH調整剤として、希硫酸を例示しているが、例えば二酸化炭素などその他のpH調整剤を使用してもよい。
また、上記第1実施形態では、酸化還元電位調整剤を、カッターチャンバー4に供給しているが、例えば、その他の位置に酸化還元電位調整剤を供給して、混合してもよい。例えば、スクリューコンベア12、圧送配管31、排泥管50に酸化還元電位調整剤を供給してもよい。
また、上記の第1実施形態では、酸化還元電位調整剤を添加剤と共に、カッターチャンバー4に供給しているが、酸化還元電位調整剤を単独でカッターチャンバー4に供給してもよい。また、上記の第2実施形態では、酸化還元電位調整剤を泥水(送泥水)と共に、カッターチャンバー44に供給しているが、酸化還元電位調整剤を単独でカッターチャンバー44に供給してもよい。
また、上記の第1実施形態では、pH調整剤を圧送配管31の後端部(汚泥ピット32の直前)に供給しているが、pH調整剤を圧送配管31のその他の位置に供給してもよい。また、上記の第2実施形態では、pH調整剤を排出管54に供給しているが、例えば、固液分離槽52など、その他の位置に供給してもよい。
また、上記の実施形態では、カッターチャンバー4,44から排出された建設汚泥(掘削土)を、配管(圧送配管31、排泥管50)を用いて輸送しているが、例えば、ダンプトラック、ズリ缶運搬、バケットコンベアなど、その他の輸送手段を用いて輸送してもよい。また、これらの輸送手段を用いて、建設汚泥を輸送する際に、pH調整剤を建設汚泥に供給して混合してもよい。
なお、汚泥の酸化還元電位(ORP電位)、PHは、例えば、市販されているポータブルPH計 PH6+(輸入元:エムケーサイエンティフィック)等の測定器により測定できる。詳細には、地盤工学会基準により、方法としてJGS0211「土懸濁液のpH試験方法」により測定される。
また、上記の実施形態では、酸化還元電位調整工程を実行した後に、pH調整工程を実行しているが、pH調整工程を実行した後に、酸化還元電位調整工程を実行してもよい。