以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
この発明の実施の形態における左右、前後、上下とは、介護が必要な被介護者が移乗機10の胴体支持部20に対向しかつ位置調整部16に跨るように着座した状態を基準とした左右、前後、上下を意味する。
図1〜図6を参照して、この発明の一実施形態の移乗機10は、走行部12、高さ調整部14、位置調整部16、角度調整部18、胴体支持部20、顎支持部22、抱き付き部24、一対の脇支持部26a,26b、一対の足置き28a,28b、および一対の足置き調整部30a,30bを含む。
さらに図7〜図9を参照して、走行部12は、略直方体状の筐体32と、筐体32内に設けられる一対の電動モータ34a,34bと、筐体32内に設けられかつそれぞれ複数のギアからなる一対の動力伝達部36a,36bと、筐体32を幅方向に貫通する一対の車軸38a,38bと、筐体32を挟んで相互に平行に設けられる一対の駆動輪40a,40bとを含む。筐体32は、前面、後面および上面開口の縦断面略U字状の筐体本体32aと、筐体本体32aの後面に設けられる角板状の板状部材32bと、筐体本体32aの上面に設けられる蓋部材32cとを含む。電動モータ34a,34bの駆動力はそれぞれ、動力伝達部36a,36bおよび車軸38a,38bを介して駆動輪40a,40bに伝達される。したがって、移乗機10は、駆動輪40a,40bによって走行可能である。駆動輪40a,40bをそれぞれ独立に正転/逆転させることによって、前進、後退および回転の3種類の動作を行うことができる。また、筐体32内には、高さ調整部14の電動モータ42が設けられている。
さらに図10および図11を参照して、高さ調整部14は、走行部12と位置調整部16との間に設けられ、走行部12と位置調整部16とを連結する。
高さ調整部14は、パンタグラフ機構44を含む。パンタグラフ機構44は、4つのスライダ46a,46b,48a,48b、および4つのリンク部材50a,50b,52a,52bを含む。
スライダ46aは、走行部12の筐体32(蓋部材32c)の上面の左側に設けられかつ前後方向に延びるレール54aと、レール54aに摺動可能に取り付けられるテーブル56aとを有する。スライダ48aは、位置調整部16の下面左側に設けられかつ前後方向に延びるレール58aと、レール58aに摺動可能に取り付けられるテーブル60aとを有する。スライダ48aは、スライダ46aに対向する位置に設けられる。リンク部材50aの一端部はフランジ部62aを介してテーブル56aに連結され、リンク部材50aの他端部はフランジ部64aを介して位置調整部16の下面における左側後方に連結される。リンク部材52aの一端部はフランジ部66aを介してテーブル60aに連結され、リンク部材52aの他端部はフランジ部68aを介して走行部12の上面における左側後方に連結される。したがって、リンク部材50aと52aとは交差する。
同様に、スライダ46bは、走行部12の筐体32(蓋部材32c)の上面の右側に設けられかつ前後方向に延びるレール54bと、レール54bに摺動可能に取り付けられるテーブル56bとを有する。スライダ48bは、位置調整部16の下面右側に設けられかつ前後方向に延びるレール58bと、レール58bに摺動可能に取り付けられるテーブル60bとを有する。スライダ48bは、スライダ46bに対向する位置に設けられる。リンク部材50bの一端部はフランジ部62bを介してテーブル56bに連結され、リンク部材50bの他端部はフランジ部64bを介して位置調整部16の下面における右側後方に連結される。リンク部材52bの一端部はフランジ部66bを介してテーブル60bに連結され、リンク部材52bの他端部はフランジ部68bを介して走行部12の上面における右側後方に連結される。したがって、リンク部材50bと52bとは交差する。リンク部材50a,50b,52a,52bは、連結棒70によって連結される。
また、走行部12の筐体32(蓋部材32c)の上面の中央部、すなわちスライダ46aと46bとの間には、前後方向に延びかつ回転可能にボールねじ72が設けられ、ボールねじ72にはテーブル74が取り付けられる。テーブル74には、左右のテーブル56a,56bが連結される。ボールねじ72は、複数のギアを含む動力伝達部76を介して電動モータ42に接続される。
したがって、電動モータ42の駆動力が動力伝達部76を介してボールねじ72に与えられると、ボールねじ72が回転し、それによってテーブル74が前後方向に移動する。すると、スライダ46a,46bのテーブル56a,56bおよびスライダ48a,48bのテーブル60a,60bが前後方向に移動し、位置調整部16の高さが変更される。その結果、高さ調整部14によって、胴体支持部20の高さを任意に調整することができ、ベッドや車椅子など被介護者の座る高さが異なる機器への移乗が可能となる。
位置調整部16は、スライダ収容部78と、2つの電動スライダ80a,80bと、2つの補助スライダ82a,82bとを含む。スライダ収容部78は、前面、後面および上面開口の縦断面略U字状に形成され、高さ調整部14上において前後方向に延びるように設けられる。
スライダ収容部78内には、2つの電動スライダ80a,80bが左右方向に並びかつ前後方向に延びるよう配置される。図12〜図14を参照して、電動スライダ80aは、スライダ本体84と、スライダ本体84の端部に設けられる電動モータ86と、スライダ本体84内に収容されかつ端部が電動モータ86に接続されるボールねじ88と、ボールねじ88に取り付けられかつボールねじ88の回転によって移動可能なテーブル90とを含む。電動モータ86が回転すると同時にボールねじ88が回転し、ボールねじ88に取り付けられたテーブル90がボールねじ88に沿って移動する。電動スライダ80bについても同様に構成されるので、その重複する説明は省略する。補助スライダ82aは、スライダ収容部78の左外側面に設けられるレール部92aと、レール部92aに摺動可能に取り付けられるテーブル94aとを含む。同様に、補助スライダ82bは、スライダ収容部78の右外側面に設けられるレール部92bと、レール部92bに摺動可能に取り付けられるテーブル94bとを含む。また、スライダ収容部78の後部には、カバー部96が取り付けられる。カバー部96には、高さ調整部14を後方からカバーするようにカバー部98が取り付けられる。
このような位置調整部16は、被介護者が座ることができるとともに角度調整部18を支持しかつ角度調整部18および胴体支持部20の水平方向の位置を調整する。したがって、位置調整部16によって、胴体支持部20を水平方向に移動させることができ、胴体支持部20へ抱き付いた被介護者を移乗機10の中心まで移動させることができる。
図15〜図17を参照して、角度調整部18は、筐体100と、電動モータ102と、動力伝達部104と、揺動軸106と、取付部108とを含む。電動モータ102、動力伝達部104および揺動軸106は、筐体100に収容される。動力伝達部104は、ギア110,112、回転軸114、ギア116,118を含み、電動モータ102と揺動軸106とを連結する。揺動軸106は、支持部120a,120bによって揺動可能に支持される。取付部108は、胴体支持部20が取り付けられる部材であり、揺動軸106の中央部において揺動軸106に対して回転不能に取り付けられる。なお、角度調整部18の取付部108には、種々のタイプの胴体支持部を着脱可能に取り付けることができ、被介護者の状態に合わせて胴体支持部を交換することができる。胴体支持部は、移乗時に胴体、すなわち胸部および腹部を支持する部材であり、この実施形態では、後述するように、対面式と斜面式の2種の胴体支持部を選択的に用いる。
電動モータ102の駆動力は、ギア110,112、回転軸114、ギア116,118を介して揺動軸106に伝達され、揺動軸106が揺動すると、それに伴って、取付部108が揺動軸106を中心として揺動する。すなわち、取付部108が傾く。
このように角度調整部18によって、移乗の際、取付部108に取り付けられた胴体支持部20の角度を調整できる。したがって、角度調整部18によって、胴体支持部20に抱き付いた被介護者を傾けることができ、それとともに被介護者に固定された座部150を同時に傾けることができ、被介護者の臀部を浮かすことができる。取付部108の角度は、任意の角度に調整できる。
したがって、移乗機10では、高さ調整部14、位置調整部16および角度調整部18によって、胴体支持部20の上下方向(図4に示すV方向)および水平方向(図4に示すH方向)の位置ならびに前後方向(図4に示すR方向)の角度を調整でき、おんぶ式移乗動作を実現する。また、高さ調整部14、位置調整部16および角度調整部18はそれぞれ微調整が可能であり、使用者に応じた調整ができる。これによって、様々な体格の被介護者に対して移乗機10を使用することができる。また、人間は、おんぶされることによって安心感を得ることができ、また、目線の方向へ傾くことよって傾き動作時の恐怖感を軽減できる。
胴体支持部20は、上述のように角度調整部18の取付部108に取り付けられる。胴体支持部20は、移乗の際、身体が胴体支持部に対面する形をとる対面式胴体支持部である。対面式胴体支持部は、胸部、腹部の広い面で圧力を分散することができるが、移乗時に脚を開く必要がある。図1〜図3等に示すように、対面式胴体支持部である胴体支持部20の形状は、おんぶ式ということから背中をイメージして設計されている。胴体支持部20は、たとえば一枚のABS樹脂板を含み軽量化を図っており、被介護者との接触面は、突出部のない平面状に形成されている。図3を参照して、胴体支持部20の前面(胴体が接触する面とは反対側の面)には、ブラケット21a,21bを介してフック21c,21dが取り付けられる。
顎支持部22は、抱き付き部24の上端部に取り付けられ、移乗した際に顎を支持するための部材である。図1〜図6を参照して、顎支持部22の形状は,顎の形をイメージして設計され、台形状に形成されている。図18を参照して、顎支持部22は、抱き付き部24に取り付けられる連結棒122と、連結棒122の外周に相互に間隔をあけてかつ逆向きに取り付けられる2つのワンウェイクラッチ124a,124bとを有する。2つのワンウェイクラッチ124a,124bは、相互に逆向きに取り付けられているので、力を加えない場合では固定状態となる(図18(a)参照)。ワンウェイクラッチ124a,124bに固定荷重以上の荷重を加えるとクラッチが滑り、顎支持部22の角度が変わる(図18(b)参照)。この機構によって顎支持部22の角度が調整される。ワンウェイクラッチ124a,124bとしては、たとえばNTN株式会社製のワンウェイクラッチが用いられる。
抱き付き部24は、胴体支持部20の前面上部に取り付けられ、移乗した際に抱き付くことができる部材である。すなわち、抱き付き部24は、移乗機10に移乗する際に、被介護者が胴体支持部20を挟んで抱き付き部24に抱き付くことができるように構成される。図1、図2、図4〜図6、図19を参照して、抱き付き部24は、胴体支持部20から前方に突出するフランジ状の天板126と、天板126より下方において胴体支持部20から前方に突出するフランジ状の底板128と、天板126と底板128間に設けられる角柱部130と、角柱部130の左右両側に位置する円柱状のグリップ132a,132bとを含む。左腕で角柱部130を抱いてかつグリップ132bを握り、右腕で角柱部130を抱いてかつグリップ132aを握ることによって、抱き付き部24に抱き付くことができ、腕が支持されている。このように、角柱部130に抱き付く動作や、グリップ132a,132bを握る動作によって、安心感を得ることができる。
図1〜図6を参照して、脇支持部26a,26bは、胴体支持部20を挟むように胴体支持部20の両側部に設けられる。脇支持部26a,26bは、補助的に脇を支持する部材であり、たとえば12段階の角度調整可能に揺動でき、使用しない場合には下げておくことができる。したがって、被介護者の脇の高さに応じて、脇支持部26a,26bの角度を調整することができる。角度調整のための機構としては、たとえば向陽技研株式会社製の「ISギア」を用いることができる。
一対の足置き28a,28bは、移乗の際に足場となり、走行部12を左右から挟むように設けられる。言い換えれば、一対の足置き28a,28bは、平面視において位置調整部16を左右から挟むように設けられる。また、一対の足置き調整部30a,30bも、走行部12を左右から挟むように設けられる。すなわち、足置き28aおよび足置き調整部30aは、走行部12の左側に配置され、足置き28bおよび足置き調整部30bは、走行部12の右側に配置される。
走行部12の左右にはそれぞれ、前後方向に延びる板状かつ短冊状の支持部材134a,134bが配置され、支持部材134a,134b上にそれぞれ、足置き調整部30a,30bが配置される。
足置き調整部30aは、支持部材134a上に配置されかつ前後方向に延びるスライダ保持部136aと、スライダ保持部136aと走行部12の筐体32とを連結する連結部138a,140aと、スライダ保持部136a上に設けられかつ前後方向に延びる電動スライダ142aとを含む。電動スライダ142a上に足置き28aが取り付けられ、電動スライダ142aによって足置き28aが前後方向に移動する。電動スライダ142aは、図12〜図14に示す電動スライダ80aと同様に構成されるので、その重複する説明は省略する。同様に、足置き調整部30bは、支持部材134b上に配置されかつ前後方向に延びるスライダ保持部136bと、スライダ保持部136bと走行部12の筐体32とを連結する連結部138b,140bと、スライダ保持部136b上に設けられかつ前後方向に延びる電動スライダ142bとを含む。電動スライダ142b上に足置き28bが取り付けられ、電動スライダ142bによって足置き28bが前後方向に移動する。電動スライダ142bは、図12〜図14に示す電動スライダ80aと同様に構成されるので、その重複する説明は省略する。
移乗の際、足置き調整部30a,30bは、位置調整部16とリンクして動作する。すなわち、足置き28a,28bと胴体支持部20とが相互の相対的位置関係を維持した状態で同方向に移動する。なお、足置き28a,28bの上面(足接触面)に滑り止めゴムを設け、足置き28a,28bの外周縁にスポンジカバーを設けるようにしてもよい。これによって、より快適に移乗動作を行うことができる。
支持部材134a,134bの下面前部にはそれぞれ、前輪144a,144bが取り付けられ、支持部材134a,134bの下面後部にはそれぞれ、後輪146a,146bが取り付けられる。また、移乗機10の前部には、コントローラ198(後述)等が格納されるボックス148が配置される。
図20を参照して、移乗機10はさらに座部150を含む。座部150は、移乗する際に被介護者の臀部および腰部を後方から覆うように胴体支持部20の後方に設けられ臀部と腰部とを支持し、かつ移乗機10に対して着脱可能な部材である。座部150は、展開可能であり、座部本体152を含む。
図21をも参照して、座部本体152は、臀部を支持する略角板状の臀部支持部154と腰部を支持する角板状の腰部支持部156とを含む。臀部支持部154の一側部には、台形状の板状部158a,160aが設けられ、臀部支持部154の他側部には、台形状の板状部158b,160bが設けられる。また、腰部支持部156の両側部にはそれぞれ、板状部162a,162bが設けられる。腰部支持部156は臀部支持部154に対して折り曲げ可能であり、板状部158a,158b,160a,160bは臀部支持部154に対して折り曲げ可能であり、板状部162a,162bは腰部支持部156に対して折り曲げ可能である。
図20に戻って、板状部158a,162aにはそれぞれ、紐164a,166aが取り付けられ、紐164aと166aとは、バックル168aによって連結される。すなわち、バックル168aは、紐164aに取り付けられる雄部170aと、紐166aに取り付けられる雌部172aとを有し、雄部170aを雌部172aに差し込むことによって連結される。同様に、板状部158b,162bにはそれぞれ、紐164b,166bが取り付けられ、紐164bと166bとは、バックル168bによって連結される。すなわち、バックル168bは、紐164bに取り付けられる雄部170bと、紐166bに取り付けられる雌部172bとを有し、雄部170bを雌部172bに差し込むことによって連結される。また、板状部160a,160b,162a,162bにはそれぞれ、移乗機10に係止するための環状の係止部174a,174b,176a,176bが設けられる。
座部150の表面の材質は、低摩擦力を有することが好ましく、たとえばナイロンタフタ等が用いられる。
このような座部150をベッド228(後述)上で展開することによって、被介護者をベッド228に寝ている状態からベッドサイドへ座るまでの動作を簡単に行うことができる。したがって、座部150を用いれば、被介護者が座位状態にある場合だけではなく臥位状態にある場合にも対応できる。なお、座部150と同一構造でかつ横幅および縦幅が座部150より大きい座部を用いれば、座位状態および臥位状態のいずれにも一層容易に対応できる。また、座部150の表面に低摩擦力の材質を用いることによって、座部150をベッド228(たとえば、綿からなるベッドシーツ)上で円滑に滑らせることができる。さらに、係止部174a,174b,176a,176bを、移乗機10の胴体支持部20の前面(胴体が接触する面とは反対側の面)に取り付けられる2つのフック21c,21d(図3参照)に係止することによって、座部150を胴体支持部20に簡単に固定できる。
図22(a)および(b)を参照して、移乗機10はさらに頭部支持部178を含む。頭部支持部178は、被介護者が頭部を動かした際、バランスをくずさないように頭部を支持するものである。頭部支持部178は、クッション性を有する支持部本体180と、支持部本体180に取り付けられる紐182と、抱き付き部24の天板126に取り付けられる2つの紐184a,184bと、紐182の一端部と紐184aとを連結するバックル186aと、紐182の他端部と紐184bとを連結するバックル186bとを含む。バックル186aの雄部188aは紐182の一端部に取り付けられ、バックル186aの雌部190aは紐184aに取り付けられる。バックル186bの雄部188bは紐182の他端部に取り付けられ、バックル186bの雌部190bは紐184bに取り付けられる。抱き付き部24の天板126に取り付けられた紐184a,184bと、支持部本体180に取り付けられた紐182とを、バックル186a,186bを介して連結することによって、頭部支持部178が抱き付き部24に取り付けられる。この実施形態では、支持部本体180は、後頭部だけではなく、首の後部および両側部を覆うように形成される。紐182は、その両端部が支持部本体180からはみ出すように、支持部本体180に取り付けられる。したがって、被介護者に頭部支持部178を装着することによって、頭部の左右への動きおよび後方への動きを抑制できる。また、バックル186a,186bによって、頭部支持部178を抱き付き部24ひいては移乗機10に容易に着脱できる。
図23を参照して、移乗機10はさらにアームカバー192を含む。アームカバー192は、抱き付き部24に取り付けられ、移乗の際、角度調整を行ったときに抱き付き部24から手が脱落するのを防ぐものである。アームカバー192は、カバー本体194と、カバー本体194の上端部両側に設けられる環状の係止部196a,196bとを含む。係止部196a,196bを抱き付き部24の天板126の係止部(図示せず)に掛けるだけで、アームカバー192を抱き付き部24に取り付けることができる。これによって、抱き付き部24の天板126と底板128との間の前方を覆うことができる。
図24を参照して、移乗機10の前部に位置するボックス148には、コントローラ198と、それぞれコントローラ198に接続されるモータドライバ200〜206およびスライダドライバ208〜214が収容される。モータドライバ200,202,204および206にはそれぞれ、電動モータ34a,34b,42および102が接続される。スライダドライバ208,210,212および214にはそれぞれ、電動スライダ80a,80b,142aおよび142bが接続される。より具体的には、スライダドライバ208,210,212および214には、電動スライダ80a,80b,142aおよび142bのそれぞれの電動モータが接続される。また、ボックス148には、電動モータ34a,34b,42および102、ならびに電動スライダ80a,80b,142aおよび142b等に供給すべき電力を蓄える図示しないバッテリが収容される。
コントローラ198は、移乗機10の動作を制御し、必要な演算を行うCPU、プログラム等を格納するROM、演算に必要なデータを一時的に格納するRAM等を含む。
また、コントローラ198には、コントローラ198に指示を与えるための操作ユニット216が接続される。操作ユニット216は、無線でまたはケーブルを介して有線でコントローラ198に接続される。コントローラ198は、操作ユニット216に含まれるボタンが押されることによって、モータドライバ200〜206およびスライダドライバ208〜214を動作させ、電動モータ34a,34b,42および102、ならびに電動スライダ80a,80b,142aおよび142bを駆動させる。
図25を参照して、操作ユニット216の長方形状の主面には、初期位置ボタン218,前進ボタン220a、後退ボタン220b、左転回ボタン220c、右転回ボタン220d、高さ調整のためのボタン222a,222b、水平方向の位置調整のためのボタン224a,224b、および角度調整のためのボタン226a,226bが設けられる。
初期位置ボタン218を押すことによって、高さ調整部14、位置調整部16および角度調整部18が初期位置に戻される。前進ボタン220aを押すことによって、駆動輪40a,40bが正転し、移乗機10が前進する。後退ボタン220bを押すことによって、駆動輪40a,40bが逆転し、移乗機10が後退する。左転回ボタン220cを押すことによって、駆動輪40aが逆転するとともに駆動輪40bが正転し、移乗機10が左転回する。右転回ボタン220dを押すことによって、駆動輪40aが正転するとともに駆動輪40bが逆転し、移乗機10が右転回する。高さを下げるボタン222aを押すことによって、パンタグラフ機構44が収縮して高さ調整部14の高さが小さくなり、胴体支持部20の位置が低くなる。高さを上げるボタン222bを押すことによって、パンタグラフ機構44が伸張して高さ調整部14の高さが大きくなり、胴体支持部20の位置が高くなる。水平方向に引っ込めるボタン224aを押すことによって、位置調整部16の電動スライダ80a,80bのテーブル90が前方(ボックス148側)に移動し、胴体支持部20が前方に移動する。水平方向に寄せるボタン224bを押すことによって、位置調整部16の電動スライダ80a,80bのテーブル90が後方に移動し、胴体支持部20が後方に移動する。角度を起こすボタン226aを押すことによって、角度調整部18の取付部108の傾きが小さくなり、胴体支持部20の傾きが小さくなる。角度を傾けるボタン226bを押すことによって、角度調整部18の取付部108の傾きが大きくなり、胴体支持部20の傾きが大きくなる。
ついで、図26〜図33を参照して、このような移乗機10による移乗動作について説明する。ここでは、胴体支持部として、対面式の胴体支持部20を使用した場合の移乗動作を説明する。
まず、図26に示すように被介護者をベッド228上で横向きに寝かせ、ベッド228上に座部150を展開した状態で配置する。次に、図27に示すように被介護者を座部150上に仰向けに載せる。このとき、足を少しベッドサイドから出しておく。足をベッドサイドから少し出しておくことによって、起こす時に腹部が圧迫されることを防ぐことができる。そして、 図20をも参照して、座部150の紐166a,166bを引いて腰部支持部156を起こし、バックル168aによって紐164a,166aを連結し、バックル168bによって紐164b,166bを連結し、図28に示すように被介護者をベッド228上に座らせる。さらに、座部150を回転させて、図29に示すように被介護者をベッドサイドに座らせた状態にする。そして、移乗機10を被介護者に近づけ、開脚させた両足をそれぞれ足置き28a,28bに載せた状態で、図30に示すように胴体支持部20に被介護者をもたれさせ、抱き付き部24に抱き付かせる。このとき、顎支持部22に被介護者の顎をのせ、被介護者の両脇はそれぞれ、脇支持部26a,26bに支持され、図示しないが、座部150と頭部支持部178とを固定する。座部150は、胴体支持部20に固定され、頭部支持部178は、抱き付き部24の天板126に固定される。次に、角度調整部18を動作させて、胴体支持部20を図31に示すように傾け、被介護者の臀部を浮かせる。その後、位置調整部16を動作させて、図32に示すように被介護者を移乗機10の前方向にスライドさせる。このとき、足置き調整部30a,30bも動作し、胴体支持部20に同期して胴体支持部20と同方向に足置き28a,28bも移動する。そして最後に、図33に示すように、角度調整部18を動作させて、胴体支持部20の角度を戻して移乗が完了する。このとき、被介護者は、移乗機10の位置調整部16上に座っている状態となる。なお、移乗機10からベッド228に移乗する際は、上述の手順を逆に行うことによって、ベッド228に移乗することができる。
また、移乗機10は胴体支持部を着脱可能であるので、胴体支持部20に代えて図34〜図40に示す胴体支持部20aを用いることができる。胴体支持部20aは、斜面式胴体支持部であり、対面式胴体支持部を使用することができない開脚不能な被介護者に用いられる。
図34〜図40を参照して、胴体支持部20aは、蝶番機構230を含む。蝶番機構230は、2つの板状の角度調整可能部232,234と、2つの板状の固定部236,238と、組み合わされた角度調整可能部232,234および固定部236,238の全てを通る1本の軸240(図40参照)とを有し、蝶番のように角度調整可能部232,234の角度を変更することができる。角度調整可能部232と234とは、互いの側部で接触しかつ角度調整可能部232より角度調整可能部234の方が低くなるように配置される。また、固定部236は、角度調整可能部232と234とによって形成される上側の角部に設けられ、固定部238は、角度調整可能部232と234とによって形成される下側の角部に設けられる。
角度調整可能部232と固定部236とのそれぞれの上面を連結する角度調節金具242、および角度調整可能部234と固定部238とのそれぞれの下面を連結する角度調節金具244によって、角度調整可能部232,234を一定の角度で固定することができる。図39および図40を参照して、左腕を支持するために、角度調整可能部234の前面(胴体が接触する面とは反対側の面)には、直動ベアリングロック機構246、直動ベアリングロック機構246によって上下方向の位置調整が可能となる左脇支持部248a、および左手グリップ250が設けられる。図38を参照して、胴体支持部20aの前面(胴体が接触する面とは反対側の面)には、フック251a,251bがブラケット251cを介して取り付けられる。座部150の係止部174a,174b,176a,176bを、フック251a,251bに係止することによって、座部150を胴体支持部20aに簡単に固定できる。角度調整可能部232の右側部には、右脇を支持するための右脇支持部248bが設けられ、角度調整可能部232の前部には、抱き付き部24aが設けられる。右脇支持部248bは、脇支持部26bと同様に構成され、抱き付き部24aは、抱き付き部24から左手用のグリップ132bを除いた構成に相当する。また、抱き付き部24aの上部には、抱き付き部24と同様に、顎支持部22が設けられる。角度調節金具242,244としては、たとえば向陽技研株式会社製の「ISギア」が用いられる。直動ベアリングロック機構246としては、たとえば株式会社ハイテック・プレシジョン製の固定機構付き直線ガイドユニット「フィット・オン」が用いられる。
このような胴体支持部20aによれば、移乗の際、身体と胴体支持部20aとが正対せず、角度がついた形となり、斜めに移乗することによって開脚する必要がない。また、身体が斜めの状態で移乗動作を行うことによって、胸部、腹部および脇腹部の一部で圧力を分散することができる。さらに、移乗後、被介護者にとって斜めの体勢は負荷になると考えられるが、移乗後に身体を回転させることで胴体支持部20aを背もたれとして使用することができる。このとき、蝶番機構230の角度調整可能部232,234の角度を元に戻せば、背もたれとして効果的に用いることができる。
ついで、図41〜図46を参照して、このような移乗機10による移乗動作について説明する。ここでは、胴体支持部として、斜面式の胴体支持部20aを使用した場合の移乗動作を説明する。
被介護者をベッド228上に座らせる状態までは、図26〜図28に示す対面式胴体支持部を用いた場合と同様であるので、その重複する説明は省略する。
ついで、座部150を回転させて、図41に示すように被介護者をベッドサイドに座らせ、その状態で、移乗機10を被介護者に対して角度をつけて近づける。次に、図42に示すように胴体支持部20aの角度調整可能部232,234の角度を調整し、被介護者に対して角度調整可能部232が略正対するように、胴体支持部20aを変形させる。被介護者は、右脇支持部248bで右脇を支持されながら右手でグリップ132aを握って抱き付き部24aに抱き付き、左脇支持部248aで左脇を支持されながら左手で左手グリップ250を握る。このとき、座部150を胴体支持部20aに取り付ける。そして、角度調整部18を動作させることによって、被介護者の臀部を浮かす。この状態で位置調整部16の電動スライダ80a,80bを動作させ、図43に示すように身体を移乗機10へ移動させる。このとき、足置き調整部30a,30bも動作し、胴体支持部20aと同期して胴体支持部20aと同方向に足置き28a,28bも移動する。その後、図44に示すように角度調整部18を元の角度に戻し、斜め方向での移乗状態となる。この状態の移乗であれば身体に負荷が働いてしまう可能性がある。そこで、座位を変更するために、図45に示すように胴体支持部20aの角度調整可能部232,234の角度を元に戻し、角度調整可能部232と234とが略面一になるように胴体支持部20aを変形させる。それと同時に、取り付けていた座部150の固定を外す。そして、図46に示すように、座部150と一体的に被介護者を回転させ、胴体支持部20aが背もたれになるように座位を変更する。最後に、座部150を移乗機10に固定して、移乗が完了する。なお、移乗機10からベッド228に移乗する際は、上述の手順を逆に行うことによって、ベッド228に移乗することができる。また、胴体支持部20aを用いる場合においても、必要に応じて、顎支持部22によって顎が支持され、頭部支持部178によって頭部が支持される。
このような移乗機10によれば、移乗の際に、たとえばベッド228上で被介護者(移乗者)を座部150に座らせて、被介護者の臀部および腰部を後方から覆うように座部150によって被介護者を支持する。その状態で、被介護者を挟むように座部150を胴体支持部20(20a)の後方から移乗機10(胴体支持部20(20a))に取り付ける。これによって、被介護者は胴体支持部20(20a)に容易にもたれることができる。また、胴体支持部20(20a)によって被介護者の胴体を支持するとともに座部150によって被介護者の臀部および腰部を後方から覆うように支持することによって、被介護者を多くの箇所で支持でき、被介護者に加わる圧力を分散することができる。さらに、座部150によって被介護者を下方および後方から支持できるので、胴体支持部20(20a)への被介護者の密着性を高めることができる。したがって、使用者の身体的負担を軽減できる。
移乗機10によれば、ベッド228から移乗機10への移乗動作の際、介護者は少しの補助を行うのみで半自律的に移乗動作を行うことができる。具体的には、介護者は、座部150と頭部支持部178とを移乗機10に取り付けるのみの動作で、被介護者の移乗動作を行うことができる。これによって、介護者の身体的負担をも軽減することができる。
胴体支持部20(20a)は着脱(交換)可能であるので、被介護者の状態に適したタイプの胴体支持部を選択することによって、多くの人に移乗機10を使用することができ、使用者の制限を緩和できる。この実施形態では、胴体支持部として、開脚可能な被介護者には対面式の胴体支持部20を用い、開脚不可能な被介護者には斜面式の胴体支持部20aを用いることができる。
移乗の際に、さらに被介護者の足を足置き28a,28bに載せることによって、被介護者をさらに多くの箇所で支持でき、被介護者に加わる圧力をさらに分散することができ、身体的負担をさらに軽減できる。また、足置き28a,28bは位置調整部16ひいては胴体支持部20(20a)と平行に移動可能であるので、胴体と足とを同方向に円滑に移動できる。
足置き28a,28bと胴体支持部20(20a)とはリンクして同方向に動作するので、胴体と足とを同時に同方向に移動させることができ、足への摩擦や足のひねり等のリスクを解消することができる。
移乗の際に、被介護者は抱き付き部24(24a)に抱き付くことができるので、安心感を得ることができ、使用者の精神的負担を軽減できる。
頭部支持部178によって被介護者の頭部を支持することによって、被介護者が自ら頭部を支持する身体的負担を軽減できる。特に、高齢者には頭部を唐突に動かす方がおり、その場合には首に大きな負担がかかり危険な場合があるが、移乗の際にそのような動作を行っても、その動作による危険を回避することができる。
顎支持部22によって被介護者の顎を支持することによって、頭部を支える首の負担を軽減でき、使用者の身体的負担をさらに軽減できる。
移乗の際に、さらに被介護者の脇を脇支持部26a,26b(または左脇支持部248a,右脇支持部248b)によって支持することによって、被介護者を一層多くの箇所で支持でき、被介護者に加わる圧力をより分散することができ、使用者の身体的負担をさらに軽減できる。
このように移乗機10によれば、移乗の際に最大8箇所の部位で使用者の身体を保持できる。具体的には、胸部、腹部、臀部、腰部、足、頭、顎、脇の8箇所である。保持する箇所が多いほど圧力は分散し、身体への負担を軽減できる。
次に、移乗機10についての一実験例について説明する。
この実験では、胴体支持部として対面式の胴体支持部20を用い、移乗の際に、使用者へ作用する圧力を筋電位測定によって明らかにした。測定のために、移乗動作時に力が入りやすいと予想される僧帽筋、大胸筋、広背筋、大腿直筋および腓腹筋の5箇所の筋肉に筋電装置を装着した。被験者は、健常な22歳の成人男性で、身長168cm、体重60kgであった。各筋肉へ筋電装置を装着した状態で移乗動作を行い、被介護者の表面筋電位を測定した。5箇所の筋肉の表面筋電位測定結果を図47に示す。ここで、移乗動作中の筋電位測定の予備実験として、上記5箇所の筋肉に筋電装置を装着した状態で意識的に各筋肉に力を入れ、値の変化を調べた。予備実験の結果、5箇所すべての筋肉で筋電位に0.06mV程度の変化が表れた。
図47に示すように、最も振幅が増加したのは図47(e)の腓腹筋であり、傾け戻し動作時に最大0.03mV程度の振幅増加が生じた。この原因は、足置き28a,28bによって足が半固定状態であることから、傾け戻し動作の際、股関節が開くことで腓腹筋が無意識に動いたことによると考えられる。しかし、腓腹筋の振幅増加は、意識的に力んだ場合の振幅増加より小さいため、ほとんど腓腹筋への負荷は無く、移乗を行うことができると考えられる。その他の振幅が増加している筋肉についても同様のことがいえるので、移乗機10を用いることによって、被介護者に負担を与えることなく移乗動作を行うことができる。
また、図48に、従来の簡易移乗機と移乗機10とについての使用可能者の範囲の比較を示す。
従来の簡易移乗機を使用するには、上肢に変形や拘縮がなく、下肢に硬直がなく、胸部の骨が弱っておらずかつ前傾姿勢が可能である、という全ての条件を使用者が満たす必要がある。
それに対して、本件の移乗機10において対面式胴体支持部を使用するには、上肢の欠損が一上肢までであり、股関節に硬直がなく、座位が可能である、という条件を使用者が満たせばよく、また、本件の移乗機10において斜面式胴体支持部を使用するには、上肢の欠損が一上肢までであり、下肢に大幅な変形がなく、座位が可能である、という条件を使用者が満たせばよい。
したがって、移乗機10によれば、従来の簡易移乗機よりも使用者の制限を緩和できることがわかる。
なお、座部は、臀部支持部と腰部支持部とを有すればよく、展開不能に構成されてもよい。また、座部は、その紐の長さを調整可能に構成されてもよい。さらに、座部の取り付け箇所は、胴体支持部に限定されず、位置調整部や角度調整部等であってもよい。
また、顎支持部の取り付け箇所は、胴体支持部の上部であってもよい。