JP6447829B2 - Rna修飾の簡易検出法、及び該検出法を用いた2型糖尿病の検査方法 - Google Patents
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Description
本発明はまた、RNAに存在する修飾を検出及び/又は定量することにより、該修飾に関連する疾患又はそのリスクを診断する方法を提供することを目的とする。例えば、リジンtRNAのチオメチル化を検出及び/又は定量することにより、ヒト2型糖尿病又はそのリスクを診断する方法を提供することを目的とする。
本発明は以下の通りである。
(1)RNAに存在するRNA修飾を検出するための方法であって、
以下の2つの工程:
a.第1プライマーを用いて、該RNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第1プライマーは、該RNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
b.第2プライマーを用いて、該RNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第2プライマーは、該RNA上の該RNA修飾を有する部位より3’側の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
をそれぞれ別々又は同時に行い、それぞれの工程から生成されたcDNA量の差を測定することにより該RNA修飾を検出する方法。
(2)前記工程aとbを別々に行う前記(1)に記載の方法。
(3)前記cDNA量の差を核酸増幅反応又は蛍光法により測定する前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記核酸増幅反応が、定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法を用いて行われる、前記(3)に記載の方法。
(5)前記cDNA量の差を、核酸増幅反応における核酸の増幅速度の差として測定する、前記(4)に記載の方法。
(6)前記RNAがtRNAである前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法。
(7)前記RNAに存在するRNA修飾が、tRNAに存在するチオメチル化、メチル化又はタウリン化である、前記(6)に記載の方法。
(8)前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、前記(7)に記載の方法。
(9)前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNAの37番目のアデノシンのチオメチル化である、前記(8)に記載の方法。
(10)前記RNAがヒト組織又はヒト血液由来のRNAを含む、前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の方法。
(11)前記RNAがヒト末梢血由来のRNAを含む前記(10)に記載の方法。
(13)前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、前記(12)に記載の方法。
(14)RNAに存在するRNA修飾率が未知の試料について前記(1)〜(11)のいずれか一つに記載の方法を行い、その試料について測定されたcDNA量の差を示すパラメーターを予め決められている検量線と比較することにより、未知の試料中のRNA修飾率を測定する方法。
(15)前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、前記(14)に記載の方法。
該RNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第1のプライマー、および
該RNA上の該RNA修飾を有する部位より3’側の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第2のプライマー、
を含むキット。
(17)前記RNAがtRNAである前記(16)に記載のキット。
(18)前記RNAに存在するRNA修飾が、tRNAに存在するチオメチル化である、前記(17)に記載のキット。
(19)前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、前記(18)に記載のキット。
(20)さらに、PCRを行うための別のプライマーを含む、前記(16)〜(19)のいずれか一つに記載のキット。
(22)前記tRNAは、被験者の組織又は血液(好ましくは末梢血)に由来するtRNAである前記(21)に記載の方法。
(23)前記(9)に記載の方法を用いて、前記tRNAが由来する被験者のインスリン分泌能を検定する方法。
(24)前記tRNAは、被験者の組織又は血液(好ましくは末梢血)に由来するtRNAである前記(23)に記載の方法。
本発明は、RNA試料中のRNA上に存在する修飾を、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いて逆転写することにより検出することを特徴とする。より具体的には、第1のプライマーを用いてRNAから逆転写によりcDNAを生成し、そのcDNAの量を、第2のプライマーを用いてRNAから逆転写により生成されるcDNAの量と比較することにより、RNA上に存在する修飾を検出することを特徴とする。
また、検出対象とするtRNAも特に限定されず、例えば、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNA等をあげることができる。
本発明の方法において検出できるRNA修飾と、その修飾との関連が判っている疾患(すなわち、本発明の方法を用いて、その疾患に罹っている或いはそのリスクがあるかを判定できる疾患)は、例えば、タウリン化とミトコンドリア脳筋症、チオメチル化と糖尿病、メチル化とX染色体連鎖性精神遅滞をあげることができる。
第1プライマー及び第2プライマーは、上記条件を満たし、かつ、逆転写法、及び必要に応じて本発明においてそれに組み合わされるPCR法のそれぞれでプライマーとして機能する限り特に制限はなく設計することができ、その長さは、特に制限がないが、例えば、10塩基以上、好ましくは、10〜30塩基、より好ましくは、15〜20塩基に設計できる。
第1プライマーは、上記のように標的のチオメチル化塩基部位を含む領域と相補的に結合するに設計され、より好ましくは、標的のチオメチル化塩基部位がプライマーのほぼ中心の位置に対応するように設計する。この第1プライマーを利用して逆転写を行うと、チオメチル基に非依存的に逆転写が行われ、逆転写産物の量はtRNAの全量に相関する。一方、第2プライマーは、標的のチオメチル化塩基部位より3’側に位置するように設計されているので、チオメチル化部位のチオメチル基が逆転写の効率を阻害するため、第2プライマーを用いて逆転写を行うと、チオメチル化されたtRNAの量が多いほど、逆転写産物の量が低下する、という反比例の相関が生じる。その結果、tRNAのチオメチル化の程度に相関して、第2プライマーを用いて生成されるcDNA量は、第1プライマーを用いて生成されるcDNA量より少なくなる。
本発明において「被験者」とは、特に制限されず、2型糖尿病患者、2型糖尿病に対する感受性を有する者、及び健常人を含む。
また、本発明の検査方法を用いて、2型糖尿病を発症した患者から採取した試料を検査することにより、2型糖尿病の原因としてtRNAのチオメチル化に異常があるか否かを判断可能である。
実施例1:tRNAのチオメチル化の検出
(1)リジンに対応するtRNA(tRNALys(UUU))のチオメチル化
2型糖尿病の発症と最も高い相関があるSNPsが確認されているCdkal1は、リジンに対応するtRNAの37番目のアデノシンをチオメチル化して、2−メチルチオ−N6−スレオニルカルバモイルアデノシン(ms2t6A)とする酵素である。チオメチル修飾(37A(ms2))されたリジンtRNA及びCdkal1によるチオメチル化反応を図1に模式的に示す。
tRNALys(UUU)の検出の概略図を図2に示す。tRNALys(UUU)のユニーク部位(チオメチル化部位)を標的とするように2つのリバースプライマーを用いて逆転写を行った。第1のリバースリバースプライマーは、チオメチル化部位(37番目のアデノシン)を含む特異的領域にアニールするように設計し、一方、第2のリバースプライマーは、チオメチル化部位の3’方向の下流の特異的配列にアニールするように設計した。まず、tRNALys(UUU)を線状化し(Step1)、ついで、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、逆転写を行った(Step2)。その後、第1のリバースプライマー又は第2のリバースプライマーのいずれかによって生成されたcDNAを、定量PCRを行って増幅した(Step3)。
完全に修飾されたtRNALys(UUU)の逆転写においては、37番目のアデノシンのms2修飾が逆転写を減衰させるので、第2のリバースプライマーによって生成されるcDNA量は、第1のリバースプライマーによって生成されるcDNA量より少なくなる。一方、部分的に修飾されたtRNALys(UUU)の場合は、修飾の減少に応じて、第2のリバースプライマーによって生成されるcDNA量は、第1のリバースプライマーによって生成されるcDNA量に近づく。
(3−1)粗精製RNAの単離
全RNA単離物(粗精製RNA)は、細胞又は組織(マウス肝臓)より、TRlzol試薬(Invitrogen)を用いたグアニジンチオシアネート/フェノール/クロロフォルム法により、製造元のプロトコールに従い単離した。
(3−2)RNAの精製
個々のtRNALys(UUU)は、Miyauchi, et al. Nucleic Acids Res. 35, e24 (2007) に記載の方法に従い、往復循環クロマトグラフィ(RCC)法を用いて精製した。
(3−3)末梢血からのRNAの単離
全RNA(粗精製RNA)は、1.5mlの末梢血から、QIAamp RNA Blood Mini Kit(Qiagen)を用いて製造元のプロトコールに従って単離した。精製RNAは、50mlの末梢血から、過剰のQIAamp RNA Blood Mini Kit(Qiagen)の低張液を加えて赤血球を破壊し、その後、TRlzolを用いて白血球中の全RNAを精製することにより、単離した。
(4)質量分析
単離・精製したそれぞれのtRNA(tRNALys(UUU)、tRNATrp、tRNAPhe、tRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)を消化してオリゴヌクレオチドにした後、Weiら(非特許文献4)に記載の方法に従って、液体クロマトグラフィ/質量分析を行った。
(5)プライマー
tRNALysのms2修飾を測定するために設計したプライマー配列(フォワードプライマー(forward primer)配列(配列番号2)、第1リバースプライマー(reverse Primer r1)配列(配列番号3)、第2リバースプライマー(reverse Primer r2)配列(配列番号4))を、tRNALys配列(配列番号1)(ms2修飾部位である37番目のアデノシン(A37)を矢印で示す)とともに以下の表1に示す。
細胞又は組織(例えば、肝臓)より単離した全RNA(粗精製又は精製RNA)を、特にことわりのない限り、RNase−free水で100ng/mlに調製した。ゲノムの混入を避けるために、20μlの反応液中、2μl(200ng)の全RNAを5UnitsのDNaseI(Roche)で、37℃で20分間分解し、次いで、75℃で10分間処理することにより、DNaseIを熱不活性化した。DNase処理後に、消化した全RNAの2.5μlを、20μMの第1リバースプライマー又は第2リバースプライマーを含む1μlの溶液と混合し、次いで、65℃で10分間、熱変性を行った後、少なくとも5分間氷上にて急速に冷却した。氷上にて、組換え逆転写酵素(Transcriptor、Roche)を終濃度が、0.5unit/μlとなるように添加した。逆転写を、10μlの全反応容量中で、55℃で30分間行い、次いで、85℃で5分間、熱不活性化を行った。第1又は第2リバースプライマーから合成されたcDNAについて、SYBR Premix Ex Taq Kit(Takara)及びABI PRISM 7300 Real-Time PCRシステム(Applied biosystems)を用いて、製造元のプロトコールに従い、定量PCRを行った。
Cdkal1ノックアウトマウスは、Wei, F. Y. et al. J. Clin. Invest. 121, 3598-3608 (2011)(非特許文献4)に記載の方法に従って作成した。偏在的なCdk5rap1の発現を取り除くために、loxP配列よってに隣接されたCdk5rap1のエクソン4及び5をもったトランスジェニックマウスを、CAGプロモーターの制御下にあるCreリコンビナーゼを発現しているトランスジェニックマウスと交配させた。全ての動物実験は、熊本大学の動物倫理委員会の承認を得た手順書(ID:B24-134、B24-132)に従って行った。
(8)トランスフェクション
HeLa細胞は、10%FBSを含む高グルコース濃度DMEM培地(Invitrogen)で培養した。siRNAのトランスフェクションは、以下のようにして行った。HeLa細胞を、24ウェルプレートに、30%の密度になるように播種した。24時間後、細胞に、ヒトCdk5rap1をターゲットとするsiRNA(Dharmacon)又はネガティブコントロールsiRNA(Ambion)を、LIpofectamine RNAiMAX試薬(Invitrogen)を用いて、終濃度50nMにて導入した。トランスフェクション3日後に、全RNAを上記の方法を用いて単離した。
QIAamp DNA Blood Mini Kit(Qiagen)を用いて、200μlの末梢血からゲノムDNAを精製し、蒸留水で10ng/μlとなるように調製した。Cdkal1のSNP(rs7754840)は、Taqman SNP Genotyping Assay Kit(Applied biosystems)を用いて検査した。ヒトのゲノム試料を用いた実験は、熊本大学の倫理委員会の承認(承認番号:ゲノム159)を得て行った。
上記に記載のRNAの単離方法に従い、野生型マウスの肝臓より37番目のアデノシンがms2によって完全に修飾されているtRNALys(UUU)を、CadKal1 KOマウスの肝臓よりms2修飾が完全に止められているtRNALys(UUU)を精製した。精製したそれぞれのtRNALys(UUU)を用いて、逆転写、次いで定量PCRを行った。結果を図3に示す。図3aは、野生型マウスからのtRNALys(UUU)を用いてqPCR−MtRを行った結果を、図3bは、CadKal1 KOマウスからのtRNALys(UUU)を用いてqPCR−MtRを行った結果を示している。
完全にms2修飾された野生型tRNALys(UUU)をテンプレートとして用いた場合は、第2のリバースプライマー(r2)によって得られる閾値サイクル数(threshold cycle:CT)CTr2は、第1のリバースプライマー(r1)によって得られる閾値サイクル数CTr1に比べて、顕著に増加していた(図3a)。一方、ms2修飾を欠いているtRNALys(UUU)の場合は、CTr2は、CTr1に近づいていた。これらの結果より、第2のリバースプライマーを用いた場合は、37番目のアデノシンのms2修飾よって逆転写が減ぜられているが、第1のリバースプライマーを用いた場合は、逆転写に影響がないことが確認された。すなわち、CTr2はms2修飾の程度を反映し、CTr1は、tRNA試料中の全tRNA分子を反映していることが判った。
慣用のddCT法と以下の計算モデルを用い、修飾率を表す指標として、任意の試料中のCTr1とCTr2間の差(dCTr2r1=CTr2−CTr1)を用いることができる。すなわち、dCTr2r1値が小さければ小さいほど、tRNAのms2修飾は少ない。また、以下の計算式に基づき、tRNAのms2修飾率について既知の2つの参照試料を用いて、未知の試験試料中のtRNAのms2修飾率を求めることができる。
修飾率aの任意の試料からプライマーr1又はr2により生成されたcDNAを用いてPCRを行っている間は、以下の関係式(9)で表される。
修飾率a又はbの試料を比較すると、以下の式(11)となる。
本発明の原理を用いて、種々のms2修飾率のtRNAの試料を測定した。野生型マウスからの精製tRNALys(UUU)とCadKal1 KOマウスからの精製tRNALys(UUU)を、表に示した割合で組み合わせることにより、種々のms2修飾率(25、50、75、及び100%)をもつtRNAを調製し、qPCR−MtRを行った。ddCT値は、サンプル1のdCTr2r1値から各サンプルのdCTr2r1値を引くことにより算出した。計算修飾率(calculated modification ratio)は、実施例3の式に従って算出した。結果を以下の表4に示す。
少量の粗精製RNAを用いて、qPCR−MtRにより、ms2修飾の測定を行った。野生型マウスとCadKal1 KOマウスのそれぞれから、200ngの全RNAを単離し、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR−MtRを行った。結果を図5に示す。図5aは、野生型マウスからの粗精製RNAを用いてqPCR−MtRを行った結果を、図5bは、CadKal1 KOマウスからの粗精製RNAを用いてqPCR−MtRを行った結果を示している。精製tRNALys(UUU)を用いた実験結果と一致し、CadKal1 KOマウスからの全RNAから得られたCTr2値は、野生型マウスからの全RNAから得られたCTr2値に比べて顕著に減少していた。
さらに、実施例4と同様に、野生型マウスからの全RNA(粗精製RNA)とCadKal1 KOマウスからの全RNA(粗精製RNA)を、特定の割合で組み合わせることにより、種々のms2修飾率(25、50、75、及び100%)をもつRNAを調製し、同様にしてqPCR−MtRを行った。各SampleのdCTr2r1値は、Sample1のdCTr2r1値をもとに標準化し、ddCT値として示している。結果を以下の表5に示す。
実施例5と同様にして測定を行った。但し、用いた全RNA量は、2ngとした。野生型マウス及びCadKal1 KOマウスから得られた全RNAを、1ng/μlとなるように調製し、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR−MtRを行った。結果を以下の表6及び図7に示す。RNA量が2ngでも、十分に検出できることが判った。
Cdkal1 SNP(rs775840)の2型糖尿病関連リスクアレルをもつ人及び健常人(Cdkal1 SNPのリスクアレルをもたない人)から末梢血を採取し、以下の実験を行った。末梢血試料から単離した全RNA(粗精製RNA)の100ngを用いて、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR−MtRを行った。ヒトのtRNALys(UUU)の絶対ms2修飾率を求めるための参照が入手できないので、dCTr2r1値を用いて、相対修飾レベルを測定した。Cdkal1 SNP(rs775840)の2型糖尿病関連リスクアレルをもつ人(個体数:6)及び健常人(個体数:7)のそれぞれの末梢血1.5mlから単離した全RNAのdCTr2r1値を、修飾指標(Modification Index)として比較した。結果を図8に示す。Cdkal1 SNPのリスクアレルをもつ人のdCTr2r1値は、健常人のdCTr2r1値に比べて顕著に低かった。これは、2型糖尿病関連Cdkal1 SNPをもつ人において、ms2修飾が抑制されていることを示している。
ミトコンドリアtRNA試料を用いた測定
哺乳動物のミトコンドリアtRNAも、2−メチルチオ−N6−スレオニルカルバモイルアデノシン(ms2t6A)修飾を受けている。ミトコンドリアtRNAにおいては、tRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)は、ms2t6A修飾を受けているが、tRNALeu(UUR)は、ms2t6A修飾を受けていない。哺乳動物細胞においては、Cdk5rap1が、A37において、N6−イソペンテニルアデノシン(i6A)を、ms2i6Aに変換している。
Cdk5rap1ノックアウト(Cdk5rap1 KO)マウスにおけるミトコンドリアtRNAのms2i6A修飾を、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR−MtRを行うことにより、システマチックに調べた。野生型マウス及びCdk5rap1 KOマウスからそれぞれ全RNA(粗精製RNA)を調製し、前記表3に示されるプライマーを用いて、それぞれの、tRNATrp、tRNAPhe、tRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)のdCTr2r1値を測定した。
結果を、以下の表7に示す。野生型マウス(WT)のtRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)のdCTr2r1値は、Cdk5rap1 KOマウスから得られたdCTr2r1値に比べて顕著に大きかった。このことは、ノックアウトマウスにおいて、tRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)のms2修飾が抑制されていることを示している。一方、野生型マウスのtRNALeu(UUR)のdCTr2r1値は、Cdk5rap1 KOマウスから得られたdCTr2r1値と殆ど同じであった。
Cdk5rap1に対するsiRNAを導入したHeLa細胞(KD)及びコントロールのsiRNAを導入したHeLa細胞(Control)を調製し、それぞれの細胞から、実施例1に記載の方法に従って、粗精製RNAを単離した。単離した粗精製RNAを用いて、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR−MtRを行い、tRNATrp、tRNAPhe、tRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)のdCTr2r1値を測定した。結果を、以下の表8に示す。
実施例1に従い、ヒトの末梢血液よりDNA及びRNAを抽出した。実施例1(9)の方法に従い、糖尿病の発症と関わるCdkal1遺伝子変異を同定し、危険型Cdkal1変異をホモで持つ群(C/C、n=20)、非危険型Cdkal1 変異をホモで持つ群(G/G、n=31)及びヘテロ群(G/C、n=35)に分けた。次に各群のRNAを用いてPCR法を行ってtRNALys(UUU)の修飾を測定して、相対的修飾率を検討した。結果を図11に示す。その結果、糖尿病発症のリスクを高める危険型Cdkal1遺伝子変異を持つ群は、非危険型Cdkal1変異を持つ群より有意にチオメチル化の修飾率が低下した。P<0.05を有意とする。検定はANOVAを用いた。
tRNALys(UUU)のチオメチル化とインスリン分泌能の相関を検討するために、ヒトにおける糖負荷試験を常法に従って実施した。一晩絶食したボランティア28人(Cdkal1変異遺伝子型:C/C, n=9、G/C, n=12、G/G, n=7)に75グラムのブドウ糖を含む溶液(トレランG)を飲んでもらい、飲む前と飲んで30分後に採血し、血中インスリン、血糖値を基にインスリン分泌能(Corrected insulin response)を算出した。また、同血液サンプルよりRNAを精製し、PCR法によりチオメチル化修飾の度合いの検出し、インスリン分泌能とチオメチル化の度合いとの相関を検討した。結果を図12に示す。その結果、チオメチル化修飾が低いほど、インスリン分泌能が低いという正の相関が認められた。
Claims (21)
- tRNAに存在するRNA修飾を検出するための方法であって、
前記RNA修飾が、チオメチル化、メチル化又はタウリン化であり、
以下の2つの工程:
a.第1プライマーを用いて、該tRNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第1プライマーは、該tRNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
b.第2プライマーを用いて、該tRNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第2プライマーは、該tRNA上の該RNA修飾を有する部位より3’側の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
をそれぞれ別々又は同時に行い、それぞれの工程から生成されたcDNA量の差を測定することにより該RNA修飾を検出する方法。 - 前記工程aとbを別々に行う請求項1に記載の方法。
- 前記cDNA量の差を核酸増幅反応又は蛍光法により測定する請求項1又は2に記載の方法。
- 前記核酸増幅反応が、定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法を用いて行われる、請求項3に記載の方法。
- 前記cDNA量の差を、核酸増幅反応における核酸の増幅速度の差として測定する、請求項4に記載の方法。
- 前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、請求項1に記載の方法。
- 前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNAの37番目のアデノシンのチオメチル化である、請求項6に記載の方法。
- 前記tRNAがヒト組織又はヒト血液由来のtRNAを含む、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
- 前記tRNAがヒト末梢血由来のtRNAを含む請求項8に記載の方法。
- tRNAに存在するRNA修飾率が既知の少なくとも2つの試料、及びRNA修飾率が未知の試料、のそれぞれについて請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法を行い、それぞれの試料について測定されたcDNA量の差を示すパラメーターを比較することにより、未知の試料中のRNA修飾率を測定する方法。
- 前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、請求項10に記載の方法。
- tRNAに存在するRNA修飾率が未知の試料について請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法を行い、該試料について測定されたcDNA量の差を示すパラメーターを予め決められている検量線と比較することにより、未知の試料中のRNA修飾率を測定する方法。
- 前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、請求項12に記載の方法。
- 試料中のtRNAに存在するRNA修飾を検出するためのキットであって、
前記RNA修飾が、チオメチル化、メチル化又はタウリン化であり、
該tRNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第1のプライマー、および
該tRNA上の該RNA修飾を有する部位より3’側の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第2のプライマー、
を含むキット。 - 前記RNA修飾が、tRNAに存在するチオメチル化である、請求項14に記載のキット。
- 前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、請求項15に記載のキット。
- さらに、PCRを行うための別のプライマーを含む、請求項14〜16のいずれか一つに記載のキット。
- 請求項7に記載の方法を用いて、前記tRNAが由来する被験者が2型糖尿病又はそのリスクがあるか否かを判定する方法(但し、医師による診断行為を除く)。
- 前記tRNAは、被験者の組織又は血液に由来するtRNAである請求項18に記載の方法。
- 請求項7に記載の方法を用いて、前記tRNAが由来する被験者のインスリン分泌能を検定する方法(但し、医師による診断行為を除く)。
- 前記tRNAは、被験者の組織又は血液に由来するtRNAである請求項20に記載の方法。
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