以下、図面を参照して、本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
[第1の実施形態]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法は、スパッタリングにより、粒状担体にカーボンナノチューブ合成用触媒を付着(担持)させることで、カーボンナノチューブ合成用触媒を製造するものである。
図1は、第1の実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法は、触媒担持層が形成された粒状担体にカーボンナノチューブ合成用触媒を付着させる触媒担持工程(S1)を備えている。
粒状担体は、耐熱性を有する粒子状の耐熱性ビーズで構成されている。粒状担体の材質としては、Si、Al、Mg、Zr、Ti、O、N、C、Mo、Ta及びWからなる群より選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましい。具体的な材質としては、SiO2、Al2O3、MgO等の酸化物、Si 3 N 4 、AlN等の窒化物、SiC等の炭化物が挙げられる。また、Al2O3−SiO2のような複合酸化物であってもよい。
カーボンナノチューブ合成用触媒は、一般にカーボンナノチューブの合成に用いられる金属であることが好ましく、Ti、Ta、V、Cr、Fe、Co、Ni、W、及びAuの中から選択される1以上の元素を含むものがよい。中でも特に、炭素の固溶量が大きいFe、Co、Niが好ましい。
触媒担持層は、Si、Al、Mg、O、C、Mo及びNの中から選択される1以上の元素を含むものがよい。中でも、SiO 2 、Al 2 O 3 、及びMgO等の酸化物、Si3N4及びAlN等の窒化物、SiC等の炭化物で形成されているとよい。また、Al2O3−SiO2のような複合酸化物であってもよい。
[ドラムスパッタ装置]
ここで、触媒担持工程(S1)において用いるドラムスパッタ装置について説明する。
図2は、ドラムスパッタ装置の概略縦断面図である。図3は、ドラムスパッタ装置の概略横断面図である。図2及び図3に示すように、ドラムスパッタ装置1は、スパッタリングを行う真空容器2と、真空容器2に接続されて真空容器2内に粒状担体を供給するための粒状担体供給室3と、真空容器2に接続されて真空容器2から粒状担体を回収するための粒状担体回収室4と、を備えている。真空容器2と粒状担体供給室3との間には、真空容器2と粒状担体供給室3とを連通する上側連通口5が形成されており、真空容器2と粒状担体回収室4との間には、真空容器2と粒状担体回収室4とを連通する下側連通口6が形成されている。
真空容器2には、真空容器2を開閉するメインハッチ7が設けられている。また、真空容器2には、真空容器2内の空気を真空吸引する真空ポンプ8と、真空状態の真空容器2内に空気を供給するためのリークバルブ9と、が接続されている。このため、メインハッチ7を閉じて真空ポンプ8で真空容器2内の空気を真空吸引することにより、真空容器2内を真空状態にすることができる。また、真空状態の真空容器2内にリークバルブ9から空気を供給することにより、真空容器2を大気圧状態に戻してメインハッチ7を開閉可能にすることができる。
真空容器2の内部には、粒状担体を収容するドラム10が配置されている。
ドラム10は、内部に粒状担体を収容可能な筒状に形成されており、ドラム10の中心軸線(以下、単に「軸線」という。)が水平方向を向くように配置されている。ドラム10の筒形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円筒状、角筒状等とすることができる。また、ドラム10の内面形状も、特に限定されるものではなく、円形断面、多角形断面等とすることができる。なお、ドラム10の内面には、粒状担体を撹拌する撹拌板等の部材を取り付けてもよい。ドラム10の軸線方向両端部10aは、収容された粒状担体が脱落しないように漏斗状に窄んでいる(小径化されている)。ドラム10の軸線方向における一方側端面10cには、粒状担体をドラム10内に供給するための開口10bが形成されている。なお、開口10bと対向されるドラム10の軸線方向における他方側端面10dは、開口されていてもよく、開口されていなくてもよい。
また、ドラム10は、真空容器2の側壁から延びる略L字状の支持アーム11により、軸線周りに回転可能に軸支されるとともに、上下方向に傾動可能に軸支されている。そして、ドラムスパッタ装置1には、真空容器2の外部に、ドラム10を軸線周りに回転駆動する回転用駆動モータ12と、ドラム10を上下方向に傾動させて揺動駆動する揺動用駆動モータ13が設けられている。
具体的に説明すると、支持アーム11は、真空容器2の側壁から垂直に延びる基端アーム部11aと、基端アーム部11aの先端から直角に屈曲した先端アーム部11bと、を備えている。そして、基端アーム部11aが、真空容器2に対して基端アーム部11aの軸線周りに回動可能に軸支されている。
基端アーム部11aは、揺動用駆動モータ13の駆動軸の軸線と基端アーム部11aの軸線とが平行に配置されるように、揺動用駆動モータ13の駆動軸と直接的又は間接的に噛合わされている。先端アーム部11bは、ドラム10の軸線と一致する方向に延びて、その先端がドラム10の内部に挿入されている。
基端アーム部11aには、ボールベアリング等の転がり軸受を介して、環状の第一ギア部材14が連結されている。このため、基端アーム部11aと第一ギア部材14とは、互いに、基端アーム部11aの軸周り方向に回動自在に連結されている。そして、回転用駆動モータ12の駆動軸の軸線と基端アーム部11aの軸線とが平行に配置されるように、回転用駆動モータ12の駆動軸と第一ギア部材14とが直接的又は間接的に噛合わされている。
先端アーム部11bには、ボールベアリング等の転がり軸受を介して、環状の第二ギア部材15が連結されている。このため、先端アーム部11bと第二ギア部材15とは、互いに、先端アーム部11bの軸周り方向に回転自在に連結されている。そして、ドラム10の軸線と先端アーム部11bの軸線とが一致するように、第二ギア部材15が、ドラム10の他方側端面10dに固定されている。
第一ギア部材14及び第二ギア部材15には、それぞれ、直交する二軸間に回転を伝達する傘歯車が形成されており、これらの傘歯車において第一ギア部材14と第二ギア部材15とが噛合わされている。
このため、回転用駆動モータ12の駆動軸を回転駆動すると、この回転駆動が第一ギア部材14及び第二ギア部材15を介してドラム10に伝達され、ドラム10が軸線周りに回転する。
また、揺動用駆動モータ13の駆動軸を回動駆動すると、基端アーム部11aが、基端アーム部11aの軸周りに方向に回動し、先端アーム部11bが、基端アーム部11aとの接続点を中心軸として傾動する。これにより、ドラム10が、基端アーム部11aと先端アーム部11bとの接続点を中心軸として上下方向に傾動する。このとき、揺動用駆動モータ13の駆動軸の回転方向を反転することで、ドラム10の傾動方向が上下に反転する。このため、揺動用駆動モータ13の駆動軸を回動駆動するとともに、ドラム10が所定角度傾動する度に揺動用駆動モータ13の駆動軸の回転方向を反転させることで、ドラム10が、軸線方向における一方側端部と他方側端部とが相対的に上下に入れ替わるように揺動する。
ここで、図4も参照して、ドラム10の揺動について詳しく説明する。図4は、ドラムの姿勢を示した概略正面図である。図4において、符号Aは、ドラム10の軸線を示しており、符号Hは、ドラム10の軸線方向中心を通る水平軸線を示している。
まず、ドラム10が、軸線Aと水平軸線Hとが重なって、ドラム10の軸線方向における一方側端部10eとドラム10の軸線方向における他方側端部10fとが同じ高さとなる水平姿勢α(図4(a))になっている場合を考える。
この場合に、揺動用駆動モータ13の駆動軸を回動駆動すると、一方側端部10eが水平軸線Hの上方に向けて移動するとともに他方側端部10fが水平軸線Hの下方に向けて移動するように、ドラム10が傾動する。これにより、ドラム10は、軸線Aが水平軸線Hに対して傾斜して、一方側端部10eが他方側端部10fよりも高くなる第一傾斜姿勢β(図4(b))となる。
その後、揺動用駆動モータ13の駆動軸の回転方向を反転させて、揺動用駆動モータ13の駆動軸を回動駆動すると、一方側端部10e及び他方側端部10fが水平軸線Hに近づくようにドラム10が傾動する。これにより、ドラム10は、水平姿勢α(図4(a))に戻る。更に、揺動用駆動モータ13の駆動軸を同じ回転方向に回動駆動すると、一方側端部10eが水平軸線Hの下方に向けて移動するとともに他方側端部10fが水平軸線Hの上方に向けて移動するように、ドラム10が傾動する。これにより、ドラム10は、軸線Aが水平軸線Hに対して傾斜して、一方側端部10eが他方側端部10fよりも低くなる第二傾斜姿勢γ(図4(c))となる。
その後、揺動用駆動モータ13の駆動軸の回転方向を反転させて、揺動用駆動モータ13の駆動軸を回動駆動すると、一方側端部10e及び他方側端部10fが水平軸線Hに近づくようにドラム10が傾動する。これにより、ドラム10は、水平姿勢α(図4(a))に戻る。
このように、揺動用駆動モータ13の駆動軸を回動駆動するとともに、ドラム10が所定角度傾動する度に揺動用駆動モータ13の駆動軸の回転方向を反転させると、ドラム10の姿勢が、(1)水平姿勢α、(2)第一傾斜姿勢β、(3)水平姿勢α、(4)第二傾斜姿勢γ、(5)水平姿勢α、の順に変化し、この(1)〜(5)のサイクルが繰り返される。これにより、ドラム10は、軸線方向における一方側端部10eと他方側端部10fとが相対的に上下に入れ替わるように揺動する。
このように構成されるドラム10の内部には、スパッタリングターゲット16が配置されている。スパッタリングターゲット16は、触媒担持層を形成する金属又はカーボンナノチューブ合成用触媒を形成する金属により平板状に形成されている。スパッタリングターゲット16の配置は、ドラム10の内部に挿入されている先端アーム部11bに脱着可能に取り付けることにより行われている。このため、スパッタリングターゲット16は、ドラム10の揺動にのみ追従し、ドラム10の軸線周りの回転には追従しない。なお、スパッタリングターゲット16は、ドラム10内の如何なる位置に配置されてもよいが、粒状担体に触媒担持層又はカーボンナノチューブ合成用触媒を効率的に形成する観点から、ドラム10の軸線方向における中央部に配置されることが好ましい。
また、真空容器2の内部には、ドラム10から排出された粒状担体を下側連通口6に案内する略漏斗状の案内部材19が取り付けられている。
また、真空容器2には、スパッタリングターゲット16をスパッタするためのスパッタガスを真空容器2内に供給するスパッタガス供給装置17と、酸素を真空容器2内に供給する酸素供給装置18と、が接続されている。なお、スパッタガス供給装置17と酸素供給装置18とは、一体的に構成されてもよい。この場合、スパッタガスと酸素とが混合された状態で真空容器2内に供給される。
スパッタガスは、スパッタリングターゲット16をスパッタできる不活性ガスであれば如何なるガスであってもよいが、スパッタ効率の観点から、アルゴンガスであることが好ましい。
粒状担体供給室3は、ドラム10内に粒状担体を供給するためのものであり、真空容器2の上側に配置されている。
粒状担体供給室3の内部には、粒状担体を溜めておく粒状担体供給容器部21が設置されており、粒状担体供給室3の上部には、粒状担体供給容器部21に粒状担体を供給するために開閉される供給用開閉扉22が取り付けられている。
粒状担体供給容器部21には、粒状担体供給容器部21に供給された粒状担体をドラム10内に供給するための供給ノズル23が取り付けられている。供給ノズル23は、粒状担体供給容器部21から上側連通口5を通ってドラム10の開口10bまで延びている。そして、供給ノズル23と上側連通口5とが気密に接続されて、供給ノズル23においてのみ、真空容器2と粒状担体供給容器部21とが連通されている。
また、粒状担体供給室3には、粒状担体供給容器部21を通って供給ノズル23に挿抜される供給機構24が設けられている。供給機構24は、上下に延びる棒状に形成されており、その上部が粒状担体供給室3を貫通して粒状担体供給室3の外部に露出されている。また、供給機構24は、粒状担体供給室3に対して気密に摺動可能となっており、供給ノズル23に対して気密に挿抜可能となっている。このため、供給機構24を引き上げると、供給ノズル23が開かれて、粒状担体供給容器部21に溜められている粒状担体が供給ノズル23を通ってドラム10内に供給される。一方、供給機構24を押し下げると、供給ノズル23が閉ざされて、粒状担体のドラム10内への供給が停止されるとともに、粒状担体供給室3と真空容器2との間が気密に保持される。
また、粒状担体供給室3には、粒状担体供給室3内の空気を真空吸引する真空ポンプ25と、真空状態の粒状担体供給室3内に空気を供給するためのリークバルブ26と、が接続されている。このため、供給用開閉扉22を閉じて供給機構24を供給ノズル23に挿入し、真空ポンプ25で粒状担体供給室3内の空気を真空吸引することで、粒状担体供給室3内を真空状態にすることができる。また、真空状態の粒状担体供給室3内にリークバルブ26から空気を供給することにより、粒状担体供給室3を大気圧状態に戻して供給用開閉扉22を開閉可能にすることができる。
粒状担体回収室4は、ドラム10内から排出された粒状担体を回収するためのものであり、真空容器2の下側であってドラム10の開口10bの直下に配置されている。真空容器2と粒状担体回収室4とを連通する下側連通口6には、下側連通口6を気密に開閉する下側連通口用開閉扉31が取り付けられている。
粒状担体回収室4の内部には、粒状担体を回収する粒状担体回収容器部32が設置されており、粒状担体回収室4の側面には、粒状担体回収容器部32を出し入れするために開閉される回収用開閉扉33が取り付けられている。
また、粒状担体回収室4には、粒状担体回収室4内の空気を真空吸引する真空ポンプ34と、真空状態の粒状担体回収室4内に空気を供給するためのリークバルブ35と、が接続されている。このため、下側連通口用開閉扉31及び回収用開閉扉33を閉じて、真空ポンプ34で粒状担体回収室4内の空気を真空吸引することにより、粒状担体回収室4内を真空状態にすることができる。また、真空状態の粒状担体回収室4内にリークバルブ35から空気を供給することにより、粒状担体回収室4を大気圧状態に戻して回収用開閉扉33を開閉可能にすることができる。
[触媒担持工程(S1)]
次に、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法における触媒担持工程(S1)について詳しく説明する。
触媒担持工程(S1)では、カーボンナノチューブ合成用触媒を形成する素材により形成されたスパッタリングターゲット16が取り付けられたドラムスパッタ装置1を用意する。
図1〜図3に示すように、触媒担持工程(S1)では、まず、ドラム10内に粒状担体を供給する供給工程(S11)を行う。
供給工程(S11)において供給する粒状担体の粒状担体の平均粒径は、5μm以上とすることができる。この場合、粒状担体の平均粒径は、20μm以上とすることが好ましく、100μm以上とすることが更に好ましい。粒状担体の平均粒径を5μm以上とすることで、粒状担体の凝集がおこりにくくなり、またドラム10を回転させても粒状担体をドラム10の底部付近に留めておくことができるため、粒状担体の撹拌効率を高めることができる。そして、粒状担体の平均粒径を20μm以上、更には100μm以上とすることで、この効果が更に高まる。なお、粒状担体の平均粒径の最大値は、ドラム10内で撹拌できる範囲で適宜設定することができる。
供給工程(S11)では、まず、供給機構24を押し下げて供給ノズル23を閉ざし、供給用開閉扉22から粒状担体供給容器部21に粒状担体を供給する。次に、供給用開閉扉22を閉じて、真空ポンプ25で粒状担体供給室3内の空気を真空吸引する。そして、供給機構24を引き上げて供給ノズル23を開き、粒状担体供給容器部21に供給された粒状担体を供給ノズル23からドラム10内に供給する。これにより、真空容器2が真空状態である場合に、真空容器2の真空状態を保持したまま粒状担体をドラム10内に供給することができる。なお、供給工程(S11)を初めて行う場合であって、真空容器2が大気圧状態である場合は、真空ポンプ25で粒状担体供給室3内の空気を真空吸引する必要はない。粒状担体をドラム10内に供給し終わると、供給機構24を押し下げて供給ノズル23を閉ざしておく。そして、リークバルブ26により粒状担体供給室3内に空気を供給することで真空状態の粒状担体供給室3を大気開放し、次の粒状担体の供給に備える。
触媒担持工程(S1)では、次に、ドラム10内に供給された粒状担体にカーボンナノチューブ合成用触媒を付着させる触媒担持用スパッタリング工程(S12)を行う。
触媒担持用スパッタリング工程(S12)では、まず、真空ポンプ8で真空容器2内の空気を真空吸引する。このとき、供給機構24及び下側連通口用開閉扉31を閉じて、真空容器2内を気密に保持しておく。なお、今回の触媒担持用スパッタリング工程(S12)が2回目以降であって、既に真空容器2内が真空状態に保持されている場合は、真空ポンプ8で真空容器2内の空気を真空吸引する必要はない。また、触媒担持用スパッタリング工程(S12)において真空容器2内の空気を真空吸引する作業と、供給工程(S11)において粒状担体供給室3を大気開放する作業とは、同時に行うことができる。次に、回転用駆動モータ12及び揺動用駆動モータ13を駆動することにより、ドラム10を軸線周りに回転させるとともに、一方側端部10eと他方側端部10fとが相対的に上下に入れ替わるようにドラム10を揺動させる。
ドラム10の回転速度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1rpm以上60.0rpm以下とすることができる。この場合、ドラム10の回転速度を、0.5rpm以上30.0rpm以下とすることが好ましく、1.0rpm以上20.0rpm以下とすることが更に好ましい。
攪拌性の点ではドラム10の回転速度は大きい方がよいが、カーボンナノチューブ合成用触媒の剥離の点からはドラム10の回転速度は小さい方がよい。回転速度の上限は、粒状担体の大きさや比重、ドラム10内への粒状担体の充填量によって変わるが、粒状担体がドラム10と一体となって回転して落下しなくなるのを防ぐために、60.0rpm以下が好ましい。また粒状担体がドラム10内で舞って、ターゲット電極部(不図示)に付着しショートすることを防ぐために、30.0rpm以下がより好ましい。また粒状担体がドラム10内壁と衝突して、カーボンナノチューブ合成用触媒が剥離することを防ぐために、20.0rpm以下がもっとも好ましい。また、回転速度の下限は、粒状担体がドラム10内壁に付着して攪拌できなくなることを防ぐために0.1rpm以上が好ましい。また、粒状担体の表面全体にカーボンナノチューブ合成用触媒を均一に形成するためには、0.5rpm以上が好ましく、1.0rpm以上がより好ましい。
ここで、ドラム10の回転速度が高くなるほど、粒状担体がドラム10の回転方向に巻き上げられやすくなる。そこで、スパッタリングターゲット16が取り付けられる支持アーム11の先端アーム部11b等に、スパッタリングターゲット16の取り付け角度を変更する角度変更機構を設けることが好ましい。そして、触媒担持用スパッタリング工程(S12)では、この角度変更機構により、ドラム10の回転速度に応じてスパッタリングターゲット16の取り付け角度を変更することが好ましい。これにより、ドラム10の回転速度が高くなっても、粒状担体全体にカーボンナノチューブ合成用触媒を確実かつ効率的に付着させることができる。
ドラム10の最大傾斜角度は、ドラム10内から粒状担体が脱落しない範囲で適宜設定することができ、例えば、0.5°以上45.0°以下とすることができる。この場合、ドラム10の最大傾斜角度を、1.0°以上30.0°以下とすることが好ましく、3.0°以上15.0°以下とすることが更に好ましい。ここで、ドラム10の最大傾斜角度とは、水平軸線Hに対する軸線Aの最大傾斜角度(図4参照)をいう。
ここで、ドラム10の最大傾斜角度が小さ過ぎると、粒状担体が移動しなくなる。また、粒状担体が移動してもその移動速度が遅いため、触媒担持用スパッタリング工程(S12)におけるドラム10の揺動回数が少なくなる。そこで、ドラム10の最大傾斜角度を0.5°以上とすることで、ドラム10の軸線方向における粒状担体の移動が促進され、その移動速度が高くなるため、触媒担持用スパッタリング工程(S12)におけるドラム10の揺動回数を増やすことができる。これにより、粒状担体全体にカーボンナノチューブ合成用触媒が均一に付着されやすくなる。そして、ドラム10の最大傾斜角度を、1.0°以上、更には2.0°以上とすることで、この効果が更に高まる。
一方、ドラム10の最大傾斜角度が大き過ぎると、粒状担体の移動速度が速くなり過ぎるため、ドラム10の開口10bから粒状担体がこぼれ落ちやすくなる。しかも、ドラム10内への粒状担体の充填量を増やせないことから、粒状担体ではなくドラム10の内壁にスパッタしてしまい、ドラム10の汚れや剥がれを誘発してしまう。そこで、ドラム10の最大傾斜角度を45.0°以下とすることで、粒状担体の移動速度が過大となるのを抑制して、ドラム10の開口10bから粒状担体がこぼれ落ちるのを抑制することができる。これにより、ドラム10内への粒状担体の充填量を増やすことができるため、ドラム10の汚れや剥がれを抑制することができる。そして、ドラム10の最大傾斜角度を30.0°以下、15.0°以下とすることで、この効果が更に高まる。
ドラム10の軸線方向における粒状担体の移動速度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5cm/s以上50.0cm/s以下とすることができる。この場合、粒状担体の移動速度を、1.0cm/s以上30.0cm/s以下とすることが好ましく、2.0cm/s以上20.0cm/s以下とすることが更に好ましい。粒状担体の移動速度は、ドラム10の傾斜角度により調整することができる。粒状担体の移動速度を0.5cm/s以上とすることで、触媒担持用スパッタリング工程(S12)におけるドラム10の揺動回数を増やすことができる。これにより、粒状担体全体にカーボンナノチューブ合成用触媒が均一に付着されやすくなる。そして、ドラム10の移動速度を、1.0cm/s以上、更には2.0cm/s以上とすることで、この効果が更に高まる。一方、粒状担体の移動速度を50.0cm/s以下とすることで、ドラム10の開口10bから粒状担体がこぼれ落ちるのを抑制することができる。これにより、ドラム10内への粒状担体の充填量を増やすことができるため、ドラム10の汚れや剥がれを抑制することができる。そして、ドラム10の移動速度を、30.0cm/s以下、更には20.0cm/s以上とすることで、この効果が更に高まる。
ドラム10の揺動周期は、特に限定されるものではないが、例えば、2秒以上120秒以下とすることができる。この場合、ドラム10の揺動周期を、5秒以上60秒以下とすることが好ましく、10秒以上30秒以下とすることが更に好ましい。ここで、ドラム10の揺動周期とは、一方側端部10eと他方側端部10fとが相対的に上下に入れ替わるようにドラム10を1サイクル揺動させる時間である。つまり、ドラム10が、水平姿勢αから、第一傾斜姿勢β、水平姿勢α及び第二傾斜姿勢γを順に経て、再び水平姿勢αに戻るまでの時間である。ドラム10の揺動周期を2秒以上とすることで、ドラム10の軸線方向における粒状担体の移動域が広がるため、粒状担体全体にカーボンナノチューブ合成用触媒が形成されやすくなる。そして、ドラム10の揺動周期を5秒以上、更には10秒以上とすることで、この効果が更に高まる。一方、ドラム10の揺動周期を120秒以下とすることで、ドラム10の軸線方向端部における粒状担体の滞留時間が短くなるため、各粒状担体にカーボンナノチューブ合成用触媒を均一に付着させることができる。そして、ドラム10の揺動周期を60秒以下、30秒以下とすることで、この効果が更に高まる。
カーボンナノチューブ合成用触媒としてFeを用いた場合、粒状担体に形成されるカーボンナノチューブ合成用触媒の膜厚は、0.1nm以上10.0nm以下であることが好ましく、0.2nm以上5.0nm以下であることが更に好ましく、0.5nm以上2.0nm以下であることが更に好ましい。粒状担体にAlの担持層が形成されている場合、カーボンナノチューブ合成用触媒の膜厚を0.1nm以上とすることで、Alの担持層にFeのカーボンナノチューブ合成用触媒を取り込ませやすくなり、Feのカーボンナノチューブ合成用触媒を粒子形成しやすくなり、カーボンナノチューブ合成用触媒の密度を高くすることができる。また、粒状担体にAlの担持層が形成されている場合、カーボンナノチューブ合成用触媒の膜厚を10nm以下とすることで、Feのカーボンナノチューブ合成用触媒が粒子状となってカーボンナノチューブを成長させることができる。更に、この膜厚を5nm以下とすることで、カーボンナノチューブを長尺に成長させることができ、この膜厚を2nm以下とすることで、単層のカーボンナノチューブを成長させることができる。カーボンナノチューブ合成用触媒の厚みは、例えば、粒状担体の断面を走査線電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
そして、スパッタガス供給装置17及び酸素供給装置18からスパッタガス及び酸素を真空容器2に供給しながら、スパッタリングターゲット16をスパッタする。なお、真空容器2への酸素の供給は必ずしも必須ではないが、カーボンナノチューブ合成用触媒の酸化により粒状担体への接合強度が高まるため、スパッタガスとともに少量の酸素を真空容器2に供給することが好ましい。スパッタガスに対する酸素の割合は、特に限定されないが、例えば、0.1%以上20.0%以下とすることができる。この場合、スパッタガスに対する酸素の割合を、0.5%以上15.0%以下とすることが好ましく、1.0%以上10.0%以下とすることが更に好ましい。スパッタガスに対する酸素の割合を0.1%以上とすることで、粒状担体に対するカーボンナノチューブ合成用触媒の接合強度を高めることができる。そして、スパッタガスに対する酸素の割合を0.5%以上、更には1.0%以上とすることで、この効果が高まる。一方、スパッタガスに対する酸素の割合を20.0%以下とすることで、スパッタリングの効率を維持することができる。そして、スパッタガスに対する酸素の割合を15.0%以下、10.0%以下とすることで、この効果が高まる。
そして、所定の設定時間が経過すると、スパッタリングを終了して、回転用駆動モータ12及び揺動用駆動モータ13の駆動を停止する。
触媒担持工程(S1)では、次に、粒状担体を回収する回収工程(S13)を行う。
回収工程(S13)では、まず、回収用開閉扉33を閉じて、真空ポンプ34で粒状担体回収室4内の空気を真空吸引する。なお、回収工程(S13)において粒状担体回収室4内の空気を真空吸引する作業と、触媒担持用スパッタリング工程(S12)の各作業とは、同時に行うことができる。次に、下側連通口用開閉扉31を開く。次に、揺動用駆動モータ13を駆動して、開口10bが下方を向くようにドラム10を傾斜させる。すると、ドラム10内の粒状担体は、開口10bから排出されて、案内部材19に案内されながら、粒状担体回収室4内に設置された粒状担体回収容器部32に入る。次に、下側連通口用開閉扉31を閉じて粒状担体回収室4内にリークバルブ35から空気を供給し、真空状態の粒状担体回収室4を大気開放する。そして、粒状担体回収室4が大気圧状態に戻ると、回収用開閉扉33を開いて、粒状担体が収容された粒状担体回収容器部32を粒状担体回収室4から取り出す。これにより、真空容器2の真空状態を保持したまま、ドラム10内から粒状担体を回収することができる。
触媒担持工程(S1)では、次に、水素等の還元ガスによりカーボンナノチューブ合成用触媒を加熱還元する還元工程(S14)を行う。これにより、カーボンナノチューブ合成用触媒が微小化され、この微小化されたカーボンナノチューブ合成用触媒が粒状担体に形成された触媒担持層の全面に担持される。
触媒担持工程(S1)が終了すると、粒状担体の触媒担持層に担持されたカーボンナノチューブ合成用触媒上にカーボンナノチューブの原料ガスを流通させる合成工程を行う。これにより、カーボンナノチューブ合成用触媒上にカーボンナノチューブが合成され、このカーボンナノチューブが粒状担体の全面から放射状に成長していく。
このように、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法によれば、粒状担体を供給したドラム10を回転させることで、粒状担体を撹拌しながらスパッタリングすることができるため、カーボンナノチューブ合成用触媒を粒状担体の全面に付着させることができる。これにより、加熱還元することで、粒状担体の全面に微粒子化されたカーボンナノチューブ合成用触媒が担持されるため、カーボンナノチューブの生産性が大幅に向上する。しかも、スパッタリングにより粒状担体にカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させるため、この粒状担体を加熱還元することで、粒状担体に担持される微粒子状のカーボンナノチューブ合成用触媒が、CVDを利用した場合よりも小さくなる。これにより、単層カーボンナノチューブを合成することができる。
また、ドラム10を揺動させながらスパッタリングを行うため、ドラム10内に供給された粒状担体をドラムの軸線方向に往復移動させることができるため、カーボンナノチューブ合成用触媒の担持量を全体的に均一化することができる。
また、ドラム10を傾斜させれば、ドラム10から粒状担体が排出されるため、粒状担体を容易に回収することができる。しかも、ドラム10の上下方向の傾動を利用してドラム10を傾斜させることができるため、ドラム10から粒状担体を排出させる機能を別途追加しなくても、粒状担体を回収することができる。これにより、ドラムスパッタ装置1を簡素化することができる。
また、酸素を真空容器2内に供給してスパッタリングを行うことで、カーボンナノチューブ合成用触媒が酸化して粒状担体に対する接合強度が高められるため、ドラム10を軸線周りに回転させてスパッタリングを行っても、カーボンナノチューブ合成用触媒が粒状担体から剥離するのを抑制することができる。
[第2の実施形態]
次に、本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法は、触媒担持工程(S1)の前に、カーボンナノチューブ合成用触媒を担持させるための触媒担持層を粒状担体(支持体)に形成する触媒担持層形成工程(S2)を行う。
図9は、第2の実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法を示すフローチャートである。図9に示すように、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法は、カーボンナノチューブ合成用触媒を担持させるための触媒担持層を粒状担体(支持体)に形成する触媒担持層形成工程(S2)を行い、その後、触媒担持層が形成された粒状担体にカーボンナノチューブ合成用触媒を付着させる触媒担持工程(S1)を行う。なお、触媒担持工程(S1)は、第1の実施形態における触媒担持工程(S1)と同一であるため、説明を省略する。
触媒担持層形成工程(S2)では、触媒担持層を形成する素材により形成されたスパッタリングターゲット16が取り付けられたドラムスパッタ装置1を用意する。ここで用意するドラムスパッタ装置1は、第1の実施形態で説明したものと同一構成のものである。
図2、図3及び図9に示すように、触媒担持層形成工程(S2)では、まず、ドラム10内に粒状担体を供給する供給工程(S21)を行う。供給工程(S21)において供給する粒状担体には、触媒担持層及びカーボンナノチューブ合成用触媒が形成されていないものを用いる。なお、供給工程(S21)は、ドラム10内に供給する粒状担体を除き、触媒担持工程(S1)の供給工程(S11)と同様である。このため、供給工程(S21)におけるその他の説明を省略する。
触媒担持層形成工程(S2)では、次に、ドラム10内に供給された粒状担体に触媒担持層を形成する触媒担持層形成用スパッタリング工程(S22)を行う。
触媒担持層としてAlを用いた場合、粒状担体に形成される触媒担持層の膜厚は、0.1nm以上1000.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以上500.0nm以下であることが更に好ましく、5.0nm以上100.0nm以下であることが更に好ましい。触媒担持層の膜厚を0.1nm以上とすることで、加熱を伴う還元工程及び合成工程で、触媒担持層に担持される鉄等のカーボンナノチューブ合成用触媒金属粒子が肥大化することを抑制することができる。また、触媒担持層は、粒状担体の表面の凹凸を埋めて連続膜となるため、機能を良好に発揮させることができる。そして、この膜厚を1.0nm以上、更には5.0nm以上とすることで、この効果が更に高まる。一方、触媒担持層の膜厚を1000.0nm以下とすることで、粒状担体から触媒担持層が剥がれるのを抑制することができる。また、加熱を伴う還元工程及び合成工程で、触媒担持層に担持される鉄等のカーボンナノチューブ合成用触媒金属粒子が合金化あるいは固溶化するのを抑制して、カーボンナノチューブ合成用触媒粒としての機能を良好に発揮させることができる。触媒担持層の層厚は、例えば、粒状担体の断面を走査線電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
そして、スパッタガス供給装置17及び酸素供給装置18からスパッタガス及び酸素を真空容器2に供給しながら、スパッタリングターゲット16をスパッタする。なお、真空容器2への酸素の供給は必ずしも必須ではないが、スパッタリングターゲット16(触媒担持層)にAlを用いる場合は、Alが酸化すると粒状担体への接合強度が高まるため、スパッタガスとともに少量の酸素を真空容器2に供給することが好ましい。スパッタガスに対する酸素の割合は、特に限定されないが、例えば、0.1%以上20.0%以下とすることができる。この場合、スパッタガスに対する酸素の割合を、0.5%以上15.0%以下とすることが好ましく、1.0%以上10.0%以下とすることが更に好ましい。スパッタガスに対する酸素の割合を0.1%以上とすることで、粒状担体に対する触媒担持層の接合強度を高めることができる。そして、スパッタガスに対する酸素の割合を0.5%以上、更には1.0%以上とすることで、この効果が高まる。一方、スパッタガスに対する酸素の割合を20.0%以下とすることで、スパッタリングの効率を維持することができる。そして、スパッタガスに対する酸素の割合を15.0%以下、10.0%以下とすることで、この効果が高まる。
なお、触媒担持層形成用スパッタリング工程(S22)は、触媒担持層の膜厚を上記とする点を除き、触媒担持工程(S1)の触媒担持用スパッタリング工程(S12)と同様である。このため、触媒担持層形成用スパッタリング工程(S22)におけるその他の説明を省略する。
触媒担持層形成工程(S2)では、次に、粒状担体を回収する回収工程(S23)を行う。なお、回収工程(S23)は、触媒担持工程(S1)の回収工程(S13)と同様である。このため、回収工程(S23)におけるその他の説明を省略する。
このように、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法によれば、触媒担持工程(S1)の前に触媒担持層形成工程(S2)を行うことで、粒状担体にカーボンナノチューブ合成用触媒を適切に担持させることができる。
また、酸素を真空容器2内に供給してスパッタリングを行うことで、触媒担持層及びカーボンナノチューブ合成用触媒が酸化して粒状担体に対する接合強度が高められるため、ドラム10を軸線周りに回転させてスパッタリングを行っても、触媒担持層及びカーボンナノチューブ合成用触媒が粒状担体から剥離するのを抑制することができる。
[比較]
ここで、非特許文献1に記載された平面スパッタ装置を用いた場合と比較して、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法を説明する。
図5は、平面スパッタ装置を用いたカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法を説明するための図であり、図5(a)は触媒担持層形成工程、図5(b)は触媒担持工程をそれぞれ示している。図6は、図5に示す方法で製造されたカーボンナノチューブ合成用触媒にカーボンナノチューブを合成させた状態を示す概略断面図である。図7は、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法を説明するための図であり、図7(a)は触媒担持層形成工程、図7(b)は触媒担持工程をそれぞれ示している。図8は、図7に示す方法で製造されたカーボンナノチューブ合成用触媒にカーボンナノチューブを合成させた状態を示す概略断面図である。なお、図5及び図7では、触媒担持層をAlで形成し、カーボンナノチューブ合成用触媒をFeで形成した場合を示している。
図5に示す平面スパッタ装置100は、平面基板の窪みに粒状担体101を敷き詰めており、この状態で粒状担体101にスパッタリングするものである。このため、図5(a)に示すように、触媒担持層形成工程では、粒状担体101の上面側にしか触媒担持層102が形成されない。また、図5(b)に示すように、触媒担持工程でも、粒状担体101の上面側にしかカーボンナノチューブ合成用触媒103が付着されない。このため、加熱還元して粒状担体に微粒子化されたカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させて、カーボンナノチューブの原料ガスを流通させても、図6に示すように、粒状担体101の上面側からしかカーボンナノチューブ104が成長していかない。
これに対し、本実施形態に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法では、粒状担体が供給されたドラムを回転させながらスパッタリングを行うため、スパッタリング中は粒状担体が撹拌された状態となる。このため、図7(a)に示すように、触媒担持層形成工程では、粒状担体の全面に触媒担持層が形成される。また、図7(b)に示すように、触媒担持工程でも、粒状担体の全面にカーボンナノチューブ合成用触媒が付着される。このため、加熱還元して粒状担体に微粒子化されたカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させて、カーボンナノチューブの原料ガスを流通させると、図8に示すように、粒状担体41の全面からカーボンナノチューブ44が放射状に成長していく。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、ドラムを軸線周りに回転させる機構とドラムを揺動させる機構とを具体的に説明したが、ドラムを軸線周りに回転させる手段及びドラムを揺動させる手段は、特に限定されるものではなく、公知の様々な手段を採用することができる。
また、上記実施形態では、基端アーム部と先端アーム部との接続点を中心軸としてドラムが上下方向に傾動するものとして説明したが、ドラムの傾動の中心軸はこれに限定されるものではない。例えば、ドラムの軸線方向中心をドラムの傾動中心としてもよい。この場合、ドラムは、ドラムの軸線方向中心を軸としてシーソーのように揺動する。
また、上記実施形態では、粒状担体に触媒担持層を形成した後にカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させるものとして説明したが、粒状担体自体に触媒担持層の機能を持たせることも可能である。この場合、粒状担体に触媒担持層を形成する必要は必ずしもないため、上述した触媒担持層形成工程(S2)を省略することができる。
また、第2の実施形態では、触媒担持層形成工程(S2)と触媒担持工程(S1)とを異なるドラムスパッタ装置1を用いて行うものとして説明したが、ドラム10の内部に配置するスパッタリングターゲット16を交換することにより、同じドラムスパッタ装置1を用いて行うこともできる。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
上記の触媒担持層形成工程(S2)により、粒状担体であるビーズにAlの触媒担持層を形成した後、上記の触媒担持工程(S1)により、ビーズの触媒担持層にFeのカーボンナノチューブ合成用触媒を付着させた。ビーズとしては、φ0.5mmのアルミナビーズを200g用いた。
触媒担持層形成工程(S2)では、ドラム10を1rpmの回転速度で30分間回転させてスパッタリングを行った。Alの平均膜厚は15nmであった。触媒担持工程(S1)では、ドラム10を5rpmの回転速度で9分間回転させてスパッタリングを行った。Feの平均膜厚は1.0nmであった。
図10に示すように、Al及びFeをスパッタしたビーズを、石英ボード52に載置して石英反応器51内に配置した。触媒の還元工程として、供給管53から供給される水素などの還元性ガスを含むガスを石英反応器51内に流通させながら加熱器54により800℃に加熱した状態を10分間保持した。引き続いて、カーボンナノチューブ合成工程として、供給管53から供給されるアセチレンを含む原料ガスを石英反応器51内に流通させ、10分間カーボンナノチューブを合成させた。
(比較例)
ドラム10を回転させずにビーズが静止した状態でスパッタを行ったことを除き、実施例と同一条件とした。
(観察)
図11に、ビーズの写真を示す。図11(a)は、実施例における触媒担持層形成工程(S2)前の写真である。図11(b)は、実施例における触媒担持層形成工程(S2)後の写真である。図11(c)は、実施例における触媒担持工程(S1)後の写真である。図11(d)は、比較例における触媒担持工程(S1)後の写真である。図11(a)〜(c)と図11(d)とを比べると明らかなように、実施例のビーズは、比較例のビーズに比べて、スパッタのムラが小さくなっていた。
図12に、ビーズの断面のSEM画像を示す。触媒担持工程(S1)後の実施例のビーズを樹脂で固め、その後、ビーズの研磨加工を行い、観察用のビーズ断面を作製した。その後、走査線電子顕微鏡(SEM、日立製作所社製:S−4800)を用いてビーズの断面を観察したところ、図12に示すように、実施例のビーズは、表面全体にAl膜が形成されていた。なお、Alの平均膜厚は、このSEM画像から求めた。
図13に、合成したカーボンナノチューブの写真を示す。図13(a)は比較例のビーズに合成したカーボンナノチューブである。図13(b)は実施例のビーズに合成したカーボンナノチューブである。図13に示すように、比較例では、ビーズの片面にしかカーボンナノチューブが合成されなかったが、実施例では、ビーズの全表面にカーボンナノチューブが合成された。
(ラマン測定)
ラマン分光器(HORIBA社製:HR−800)を用い、ラマン分光法により、合成したカーボンナノチューブの結晶性について評価した。測定波長は488nmとした。測定の結果、図14に示すように、1590cm−1付近にグラファイト構造に起因するGバンドを、1340cm−1付近に結晶欠陥に起因するDバンドを観察することができた。
また、400cm−1以下の低波長側で、RBM(RadialBreathing Mode)と呼ばれる単層カーボンナノチューブに起因するピークが複数観察され、単層カーボンナノチューブが合成されていることが分かった。