図1は、本発明の好適な実施例であるホウ素中性子捕捉療法システム10(以下、単に治療システム10という)の構成の一例を概略的に説明する図である。図1に示すように、本実施例の治療システム10は、例えば、中性子線遮蔽に覆われた室12内に、中性子線照射装置14及び照射台16を備えている。前記室12外に、3次元診断装置18を備えている。前記室12内外を移動し得る搬送装置20を備えている。
前記治療システム10は、前記中性子線照射装置14により被験者8(図2等を参照)の患部或いは患部を含む広領域に対して中性子線を照射することで治療を行う。前記中性子線照射装置14は、例えば、前記被験者8に対して鉛直上方或いは水平方向等から中性子線を照射する公知の装置である。前記治療システム10による治療では、例えば、治療対象となる前記被験者8の体内に予めホウ素化合物が注入される。患部にホウ素が集積する一定時間の後に、患部或いは患部を含む広領域に対して前記中性子線照射装置14から中性子線が照射されると、その中性子線がホウ素に捕獲される。中性子線を捕獲したホウ素から発生させられるアルファ線等により、前記被験者8における腫瘍等の治療が行われる。すなわち、本実施例の治療システム10は、前記中性子線照射装置14により被験者8の患部に対して中性子線を照射することで、公知のホウ素中性子捕捉療法を実行する。
前記治療システム10による治療では、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に先立って、前記3次元診断装置18により、前記被験者8における患部の位置が検出される。前記3次元診断装置18は、前記被験者8の体内の画像を撮影する装置であり、好適には、前記被検体8の体に対して多方向からX線を照射し、その体を透過してきたX線を検出器で検出して、透過X線量の情報をコンピュータで処理して3次元画像として再構成する公知のX線CT(Computed Tomography)装置である。前記3次元診断装置18は、公知の磁気共鳴(MRI;Magnetic Resonance Imaging)装置等であってもよいが、本実施例においては、前記3次元診断装置18としてX線CT装置を備えた治療システム10について説明する。
前記治療システム10は、その治療システム10による前記被験者8の治療において、その被験者8を載置した状態で固定する被験者固定載置部22を備えている。この被験者固定載置部22は、後述する図4等に示すように、平面視において矩形状(長方形状)である平板状の部材(天板)であり、例えば、矩形状の部材の周縁部に、被験者が載置される上面22a側に向かって突出する縁部が設けられている。すなわち、前記被験者固定載置部22は、換言すれば、平面視において矩形状である上面のない箱状部材である。前記治療システム10による前記被験者8の治療において、好適には、前記被験者8は、仰臥の状態で前記被験者固定載置部22に載置され、図示しない所定の固定具によりその被験者固定載置部22に固定される。そのように前記被験者固定載置部22に載置され且つ固定された前記被験者8に対して、前記3次元診断装置18による患部の位置の検出、前記3次元診断装置18と前記中性子線照射装置14との間の前記被験者8の移動、及び前記中性子線照射装置による前記被験者の患部に対する中性子線の照射等が行われる。
前記照射台16は、中性子線により放射化し難い、或いは放射化したとしてもその放射化を十分小さな値に抑制できる単一材料或いは複合材料から構成されたものである。例えば、炭素繊維強化プラスチック(例えば、カーボン繊維を合成樹脂で硬化させたもの)等の材料から構成されている。斯かる材料から構成されることで、前記照射台16は、好適には、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線により放射化された場合において、1時間あたりの従事者の被曝(線量当量)が最大でも20mSv以下とされる。本実施例において、従事者とは、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に際して、前記室12内において作業に従事する者であり、例えば、診療放射線技師、医師、或いは看護師等である。前記従事者は、例えば、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に際して、前記被験者8が載置された前記被験者固定載置部22を前記搬送装置20から前記照射台16へ移乗させる、その照射台16付近で前記中性子線の照射に関する各種操作を行う、中性子線の照射が行われた後、前記被験者8が載置された前記被験者固定載置部22を前記照射台16から前記搬送装置20へ移乗させる等の作業に従事する。前述のような従事者を想定した場合において、例えば、前記照射台16を、前記中性子線照射装置14における照射口14oの至近距離に位置させ、その照射口14oから1時間中性子線の照射を行った場合において、前記照射台16の表面における放射化が、前記従事者の1時間あたりの被曝に換算して最大でも20mSv以下の範囲に収まる材料が選択されて用いられる。
図2は、前記3次元診断装置18により前記被験者8の患部の位置が検出される様子を概略的に説明する図である。この図2に示すように、前記3次元診断装置18は、例えば、基台24と、その基台24に対して1方向(図2に示す例ではy軸方向)に移動させられつつ前記3次元画像を撮影する自走式撮像部26と、前記3次元画像の撮影に際して前記被験者8(被験者8が固定された被験者固定載置部22)が載置される寝台28とを、備えている。前記寝台28は、好適には、平面視において矩形状であり、その長手方向が図2に示すy軸方向となるように設けられている。前記3次元診断装置18は、前記寝台28を前記基台24に対して図2に示すy軸方向にスライド移動させるスライド機構30と、前記寝台28を前記基台24に対して図2に示すz軸方向に昇降移動させる昇降機構32とを、備えている。
前記3次元診断装置18による3次元画像の撮影に際して、前記被験者8は、頭足方向が前記基台24に対する前記自走式撮像部26の移動方向(すなわち図2に示すy軸方向)となるように前記寝台28に仰臥させられる。すなわち、前記被験者固定載置部22に仰臥の状態で載置され且つ固定された前記被験者8の頭足方向が前記基台24に対する前記自走式撮像部26の移動方向となるように、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22が前記寝台24に載置され、前記自走式撮像部26による3次元画像の撮影が行われる。
図3は、前記照射台16の構成を説明する斜視図である。前記照射台16は、前記室12内における前記中性子線照射装置14の近傍に設置され、その中性子線照射装置14における中性子線の照射口14oに対して位置決めされる。図3に示すように、前記照射台16は、平面視において矩形状(長方形状)である平板状の部材であり、好適には、平面視において前記被験者固定載置部22と略同じ形状に形成されたものである。前記照射台16は、例えば、炭素繊維強化プラスチック等の材料で構成されている。
前記中性子線照射装置14における中性子線照射口14oに対して前記照射台16の位置決めを行う機構として、位置調整機構34、第1角度調整機構36、及び第2角度調整機構38を備えている。前記位置調整機構34は、相互に直交する3つの軸(並進軸)それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる。図3においては、前記3つの軸を相互に直交するx、y、z軸で示している。z軸方向が鉛直方向に相当する。前記位置調整機構34は、例えば、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16の位置を図3に示すy軸方向及びz軸方向に移動させるy−z移動用アーム40と、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置を図3に示すx軸方向に移動させるx軸移動用可動軸42とを、備えている。
前記第1角度調整機構36は、前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる。例えば、図3に示すx軸と平行な軸を中心として、前記中性子線照射口14oからの中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させるピッチング角調整軸44を備えている。前記第1角度調整機構36による回転中心となる軸は、例えば、平面視(z軸方向に視た場合)において前記照射台16の長手方向の中央に位置するx軸に平行な軸であって、その照射台16よりもz軸方向に所定高さに位置する軸である。本実施例において、前記第1角度調整機構36により調整される角度をピッチング角という。換言すれば、前記照射台16は、前記第1角度調整機構36により前記軸まわりに回転させられることで、前記中性子線の照射方向に対するピッチング角が変化させられるように構成されている。
前記第2角度調整機構38は、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線照射口14oからの中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる。例えば、図3に示すy軸と平行であるローテーション角調整軸46を中心として、前記中性子線照射口14oからの中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる。本実施例において、ローテーション角調整軸46を中心とする角度をローテーション角という。換言すれば、前記照射台16は、前記ローテーション角調整軸46を中心として回転させられることで、前記中性子線の照射方向に対するローテーション角が変化させられるように構成されている。
前述のように、前記照射台16は、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38を備えていることで、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16のx、y、z軸方向の位置をそれぞれ変化させられると共に、x軸に平行な軸まわりのピッチング角及びy軸に平行な軸まわりのローテーション角を変化させられるように構成されている。好適には、図3に示すように、床面と前記照射台16との間に、その床面側から前記照射台16側に向かって、前記y−z軸移動用アーム40、前記x軸移動用可動軸42、前記ピッチング角調整軸44、前記ローテーション角調整軸46の順に積み上げられている。これらy−z軸移動用アーム40等は、例えば、後述する制御部60から供給される指令に従って電動モータ等により発生させられる動力により駆動され、前記照射台16の移動を実現する。前記照射台16の上面板16aと前記ローテーション角調整軸46とは機械的に連結されている。
図4〜図8は、前記照射台16、前記搬送装置20、及び前記被験者固定載置部22の構成を詳しく説明する斜視図である。図4等に示すように、前記被験者固定載置部22及び前記照射台16は、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に載置された際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造を備えている。すなわち、前記照射台16は、前記上面板16aから突出して設けられた、その上面板16aの短軸方向(すなわち、図4に示すx軸方向)に長手状である複数の突出部48を備えている。前記被験者固定載置部22の下面には、前記複数の突出部48と嵌合させられる位置に、前記被験者固定載置部22の短軸方向(すなわち、図4に示すx軸方向)に長手状である複数の溝部50を備えている。前記被験者固定載置部22が前記照射台16に載置された際に、前記照射台16に形成された前記突出部48と、前記被験者固定載置部22に形成された前記溝部50とが相互に嵌合させられることで、前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22の位置が定められる。前記突出部48及び前記溝部50が何れも前記被験者固定載置部22及び前記照射台16の短軸方向に長手状に構成されていることで、少なくとも前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22の長軸方向(図4に示すy軸方向)の移動が抑制される。図8を用いて後述するように、前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置をずらすことで、図4に示すy軸方向に関して、前記被験者固定載置部22を前記照射台16に対してオフセットできるように構成されている。
図4においては、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20に載置された様子を例示している。本実施例において、前記搬送装置20は、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22を、前記3次元診断装置18と前記照射台16との間で搬送すると共に移乗させる移乗装置として機能する。図4等に示すように、前記搬送装置20は、前記被験者固定載置部22を載置した状態で保持し、且つその被験者固定載置部22を前記3次元診断装置18又は前記照射台16に移乗させた後に引き抜くことができるフォーク状の保持部52と、複数の車輪を備え、それら車輪の転動により床面上において前記搬送装置20を移動させるキャスタ部54とを、備えている。前記搬送装置20は、前記保持部52に載置された前記被験者固定載置部22を昇降させる昇降機構を備えたものであってもよい。前記搬送装置20は、その搬送装置20に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置18に設けられた前記昇降機構32、又は前記位置調整機構34を用いて、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22を、前記搬送装置20と前記3次元診断装置18又は前記照射台16との間で移乗させる。
以下、図4〜図6を用いて、前記被験者固定載置部22の、前記搬送装置20から前記照射台16への移乗について説明する。図4〜図8においては、便宜上、前記被験者8が載置されていない前記被験者固定載置部22を図示しているが、前記治療システム10による実際の治療においては、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22に関して、以下に説明するような移乗が行われる。前述のように、図4においては、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20に載置された様子を例示している。この状態においては、前記キャスタ部54により前記搬送装置20が床面上を移動させられ、前記保持部52に保持された前記被験者固定載置部22の搬送が行われる。
図5は、前記搬送装置20の搬送により、前記被験者固定載置部22が前記照射台16の鉛直上方に移動させられた様子を例示している。換言すれば、前記保持部52により保持された前記被験者固定載置部22の鉛直下方に、前記照射台16が位置させられた様子を例示している。ここで、図5に示すように、前記照射台16の上面板16aに形成された前記突出部48と、前記被験者固定載置部22の下面に形成された前記溝部50とが、相互に対応する位置となるように、前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22のx軸方向及びy軸方向の位置が調整される。この状態から、前記位置調整機構34により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられると、前記照射台16が前記被験者固定載置部22を持ち上げ、前記搬送装置20の保持部52に対して前記被験者固定載置部22が離隔させられる。
図6は、前記被験者固定載置部22の、前記搬送装置20から前記照射台16への移乗が完了した様子を例示している。前記照射台16が前記被験者固定載置部22を持ち上げ、前記搬送装置20の保持部52に対して前記被験者固定載置部22が離隔させられた状態から、前記搬送装置20が図6に示すx軸方向に移動(退避)させられると、前記保持部52が前記被験者固定載置部22の下側から引き抜かれる。この際、前記照射台16の上面板16aに形成された前記突出部48と、前記被験者固定載置部22の下面に形成された前記溝部50とが、相互に対応する位置とされていたことで、図6に示すように、前記突出部48と前記溝部50とが相互に嵌合させられる。
図7は、前記被験者固定載置部22を載置した前記照射台16の位置が、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38により変化させられる様子を例示する斜視図である。図8は、図7に示す状態から、前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置がずらされ、y軸方向に関して前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対してオフセットされた様子を例示している。図7及び図8においては、区別のために前記複数の溝部50を、溝部50a、50b、50c、50d、50eで示している。図7及び図8に示すように、前記照射台16に載置された前記被験者固定載置部22は、締結部56により前記照射台16に対して固定される。図7に示す状態は、y軸方向に関して前記被験者固定載置部22の前記照射台16に対するオフセットが行われていない状態(y軸オフセット=0mm)を例示している。y軸方向における前記複数の溝部50相互の間隔(すなわち、前記複数の突出部48相互の間隔)が300mmである場合、前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置を1つ分ずらす(例えば、図7において溝部50cと嵌合させられていた突出部48に、溝部50dが嵌合させられる位置とする)と、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対して300mmオフセット(y軸方向の位置が変更)される。
図7及び図8では、前記中性子線照射装置14における中性子線照射口14aの中心位置をCirで示している。前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対してオフセットされると、前記被験者固定載置部22における、前記中性子線照射口14aの中心位置がy軸方向に移動させられる。例えば、図7に示す状態では、前記中性子線照射口14aの中心位置Cirが前記溝部50bと50cとの間とされているが、その状態から前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置を1つ分ずらすオフセットが行われた図8に示す状態では、前記中性子線照射口14aの中心位置Cirが前記溝部50cと50dとの間とされている。すなわち、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対して300mmオフセットされることで、前記被験者固定載置部22に対する前記中性子線照射口14aの中心位置Cirは、y軸方向に関して逆方向に300mm移動させられる。換言すれば、前記被験者固定載置部22に載置され且つ固定された被験者8に対する前記中性子線照射口14aの中心位置Cirが、y軸方向に関して移動させられる。このようにして、前記被験者8を前記被験者固定載置部22に載置した状態で固定したまま、前記前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置をずらすことで、前記被験者8に対する前記中性子線照射口14aの中心位置Cirを調整することができる。
図1に示すように、前記治療システム10は、制御部60を備えている。この制御部60は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記治療システム10に係る各種制御を実行する。前記制御部60は、例えば、着脱式のハンディターミナルを備えており、そのハンディターミナルが前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に際しては取り外され、前記室12外へ持ち出せるように構成されている。前記制御部60は、例えば、前記中性子線照射装置14の作動及び前記3次元診断装置18の作動を制御する。前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより、前記中性子線照射装置14の中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる制御を実行する。具体的には、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸(図3等に示すx、y、z軸)それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させる制御を行う。前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16におけるピッチング角を、前記ピッチング角調整軸44により変化させる制御を行う。前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16におけるローテーション角を、前記ローテーション角調整軸46により変化させる制御を行う。以上の制御により、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記中性子線照射口14oに対して可及的に接近させる制御を行う。
図1に示すように、前記3次元診断装置18は、その3次元診断装置18による前記3次元画像の撮影に係る座標系に対応する位置を確認するための表示を行う1対の水平方向レーザ64a、64b、及び垂直方向レーザ66を備えている。これら水平方向レーザ64a、64b及び垂直方向レーザ66は、必ずしも前記3次元診断装置18に一体的に備えられたものでなくともよく、前記3次元診断装置18が設置された室内に、その3次元診断装置18とは別体として備えられたものであってもよい。前記中性子線照射装置14は、その中性子線照射装置14における前記中性子線照射口14oから照射される中性子線の位置を確認するための表示を行う1対の水平方向レーザ68a、68b、及び垂直方向レーザ70を備えている。これら水平方向レーザ68a、68b及び垂直方向レーザ70は、必ずしも前記中性子線照射装置14に一体的に備えられたものでなくともよく、前記中性子線照射装置14が設置された室12内に、その中性子線照射装置14とは別体として備えられたものであってもよい。本実施例において、前記3次元診断装置18に備えられた前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び垂直方向レーザ66、及び前記中性子線照射装置14に備えられた前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び垂直方向レーザ70は、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部に対応する。
前記3次元診断装置18に備えられた前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66は、好適には、前記寝台28(被験者8)に対する位置を変更できる可動式の装置であり、前記制御部60等の制御装置によりその位置が制御される。好適には、後述する図9に併せて示すように、前記水平方向レーザ64a、64bの垂直方向の位置(z軸方向の位置)が変化させられると共に、前記垂直方向レーザ66の水平方向の位置(x軸方向の位置)が変化させられる。
図9は、前記3次元診断装置18により撮影される3次元画像における1断面に相当する画像を例示する図である。図9においては、撮影された前記被験者8の体における前記位置表示部による表示位置を併せて例示している。前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66は、前記3次元診断装置18による前記被験者8に係る3次元画像の撮影に際して、その被験者8の体に対してレーザ光を照射させることで、前記3次元画像の撮影に係る座標系に対応する位置を表示させる。図9においては、前記水平方向レーザ64aによる表示を位置72aで、前記水平方向レーザ64bによる表示を位置72bで、前記垂直方向レーザ66による表示を位置74でそれぞれ示している。前記3次元診断装置18による前記3次元画像の撮影に際して、前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66により前記被験者8の体に表示される位置72a、72b、74は、前記3次元診断装置18の撮影に係る原点(例えばCT原点)Octに対応している。図9においては、前記検出に係る座標系を一点鎖線で示している。例えば、前記1対の水平方向レーザ64a、64bによる表示位置72a、72bを相互に結んだ直線と、その直線に垂直な直線であって前記垂直方向レーザ66による表示位置74を通る直線との交点が、前記3次元診断装置18の撮影に係る原点Octに相当する。
前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像において、前記被験者8の患部が検出されると、その患部の治療を行うための中性子線の照射領域を定めることができる。すなわち、検出された患部に対応して、前記中性子線照射装置14による治療計画を立てることができる。この治療計画においては、前記被験者8の体に対する、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向が決定される。前述のように、前記中性子線照射装置14は、好適には、前記被験者8に対して鉛直上方から中性子線を照射させる装置であるが、前記中性子線照射装置14における前記中性子線照射口14oに対する前記被験者8の体の位置及び角度等を変化させることで、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向を変化させることができる。
図9においては、前記3次元画像における腫瘍中心位置Ccaを星印で示すと共に、その腫瘍中心位置Ccaにおける治療を効果的に行うための中性子線の位置に対応する前記水平方向レーザ68aによる表示を位置76aで、前記水平方向レーザ68bによる表示を位置76bで、前記垂直方向レーザ70による表示を位置78でそれぞれ示している。前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70は、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に際して、その被験者8の体に対してレーザ光を照射させることで、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置を表示させる。すなわち、前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置76a、76b、78は、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の、前記被験者8の体に対する照射位置及び照射方向に対応している。従って、前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像に基づいて、前記中性子線照射装置14による治療計画が立てられ、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向が決定されると、その中性子線の照射位置及び照射方向に対応して、前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置76a、76b、78が定まる。図9においては、前記中性子線の位置に対応する座標系を二点鎖線で示している。
前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像に基づいて、前記中性子線照射装置14による治療計画が立てられ、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向が決定された場合、前記制御部60は、前記被験者8における前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66による表示位置72a、72b、74が、前記中性子線照射装置14による治療に際しての前記被験者8における前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置76a、76b、78と一致するように、前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66の位置を制御する。すなわち、前記水平方向レーザ64a、64bそれぞれのz軸方向の位置を変更すると共に、前記垂直方向レーザ66のx軸方向の位置を変更し、レーザ光の照射を行う。この態様によれば、前記3次元診断装置18による診断において、検出された患部の位置に対応してその位置が変更された前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66の表示位置に目印を付すことで、前記中性子線照射装置14による治療に際して前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により表示されるべき位置を簡便に示すことができる。
以上に説明したように、前記3次元診断装置18に備えられた前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び垂直方向レーザ66、及び前記中性子線照射装置14に備えられた前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び垂直方向レーザ70は、前記照射台16における前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置18により撮影された前記3次元画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものである。前記治療システム10による前記被験者8の治療において、好適には、前記3次元診断装置18による前記被験者8に係る3次元画像の撮影に際して、前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66により前記被験者8の体に表示された前記位置72a、72b、74に、マーカ等により目印(マーキング)が付される。この目印は、好適には、人的な作業により付されるものであるが、例えば前記被験者8の体に予めレーザ光に反応して色が変わる素材を塗布しておく等の方法により、人的な作業を要することなく付されるものであってもよい。前記目印の素材には、好適には、前記3次元診断装置18により撮影された前記3次元画像上において、前記被験者固定載置部22の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられる。
前記治療システム10による前記被験者8の治療において、好適には、前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に先立ち、前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像に基づく患部の位置に対応して、前記中性子線照射装置14における前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示されるべき前記位置76a、76b、78に、マーカ等により目印が付される。この目印の素材は、前記3次元診断装置18による診断に係る目印と同じ素材によるものであってもよいが、好適には、その材料と少なくとも視覚的に十分に区別される素材が用いられる。
図1に示すように、前記制御部60は、位置調整部62を備えている。この位置調整部62は、前記制御部60に機能的に備えられたものであってもよいし、その制御部60とは別体の制御装置として備えられたものであってもよい。前記位置調整部62は、前記3次元診断装置18による前記患部の位置の検出に際して前記被験者8に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させることで、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させる。
前記位置調整部62は、好適には、前記中性子線照射装置14における前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示されるべき位置76a、76b、78に付された目印に基づいて、前記中性子線照射装置14による実際の治療に際して、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置が、前記目印の付された位置と合致するように位置調整を行う。具体的には、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記目印の付された位置との誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整を行う。すなわち、前記照射台16における前記3つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置18による前記3次元画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行う。前記位置調整部62による調整は、好適には、施術者が前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記目印の付された位置とのずれを視覚的に確認しつつ人的な操作により行われるものであるが、撮像装置により前記被験者8の体を撮影し、撮影された画像における前記目印が付された位置とレーザ光の照射位置とが合致するように自動的に調整を行うものであってもよい。
以下、前記治療システム10による具体的な治療の一例を詳細に説明する。前記治療システム10による治療では、先ず、前記3次元診断装置18により前記被験者8の体内の3次元画像が撮影され、その3次元画像に基づいて治療計画が立てられる。前記3次元診断装置18による診断では、先ず、前記3次元診断装置18における寝台28に前記被験者固定載置部22が載置される。次に、その被験者固定載置部22の上に被験者8が仰臥させられると共に、専用の固定具にて前記被験者固定載置部22に固定される。次に、前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66により、前記被験者8の体に対して前記3次元診断装置18の撮影開始位置(例えば、CT原点)が表示され、その表示された位置72a、72b、74に目印(マーキング)が付される。次に、前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像から患部(例えば、腫瘍)の輪郭が抽出され、その患部の中心座標及び中性子線照射角度等の、治療に係る中性子線の位置が決定される。次に、決定された中性子線の位置に対応して、前記制御部60により、前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66の位置が変化させられる。これにより、前記被験者8の体表面における中性子線入射位置及び照射軸に直交する左右側面から見た腫瘍中心位置72a、72b、74(すなわち、中性子線照射装置14による治療に際しての位置76a、76b、78)が表示される。この3箇所に、新たに目印(マーキング)が付される。次に、前記3次元診断装置18による診断に係る、前記被験者固定載置部22上における患部の中心(例えば、腫瘍中心)の位置座標(例えば、xyz座標)及び前記被験者8の姿勢に関する情報(例えば、ピッチング角及びローテーション角に相当する情報)が、前記制御部60(照射台16の制御システム)に対して出力される。
前記3次元診断装置18による診断に続いて、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22が、その被験者8が固定された状態のまま、前記3次元診断装置18から前記照射台16へ前記搬送装置20により搬送され、移乗させられる。先ず、前記3次元診断装置18における前記寝台28のy軸方向及びz軸方向の位置が、前記スライド機構30及び前記昇降機構32により移乗用の位置に移動させられる。次に、前記搬送装置20が移動させられ、フォーク状の前記保持部52が、前記被験者固定載置部22における溝部50と前記寝台28との隙間に挿し込まれる。次に、前記昇降機構32により前記寝台28がz軸方向に下降させられ、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20の保持部52により保持された状態とされる。次に、前記被験者固定載置部22を載置した状態で前記搬送装置20が、前記中性子線照射装置14が設置された前記室12へ移動させられる。次に、前記制御部60にて、前記3次元診断装置18による診断において出力された座標値、及び前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22のy軸方向のオフセット位置が確認される。次に、確認されたオフセット位置に対応して、前記保持部52により保持された前記被験者固定載置部22が、前記照射台16の上方に位置させられる。次に、前記位置調整機構34により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられる。これにより、前記被験者固定載置部22が前記照射台16上に載置され、前記突出部48と前記溝部50とが前記オフセット位置において嵌合した状態とされる。次に、前記搬送装置20が移動させられ、フォーク状の前記保持部52が前記被験者固定載置部22の下方から引き抜かれた後、前記室12外へ退出(退避)させられる。
前記搬送装置20による前記被験者固定載置部22の前記照射台16への移乗に続いて、前記被験者8の体に付された目印(マーキング)と、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置とに基づいて、前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に係る位置合わせが行われる。図10は、この位置合わせの様子を概略的に示す図である。先ず、前記3次元診断装置18による撮影に係る撮像基準点(例えば、CT原点)が、前記水平方向レーザ68a、68bの表示位置を結ぶ直線と、その直線に垂直な直線であって前記垂直方向レーザ70の表示位置を通る直線との交点(以下、レーザポインタ交点という)に合致するように、前記位置調整機構34等により前記照射台16が移動させられる。次に、前記撮像基準点に対応して付された目印(マーキング)と、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。次に、前記3次元診断装置18による診断において出力された前記被験者8の姿勢に関する情報に基づいて、前記第1角度調整機構36及び前記第2角度調整機構38により、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16のピッチング角及びローリング角が変更される。以上の位置調整により、前記制御部60に出力されたデータ上における前記患部の中心位置が、前記レーザポインタ交点に合致するように前記照射台16が移動させられる。次に、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記患部に対応して前記被験者8の体に付された目印(マーキング)の位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。すなわち、前記目印の付された位置との誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整が行われる。好適には、この位置調整に係るピッチング角及びローリング角の中心(回転中心)は、前記レーザポインタ交点とされる。
前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に係る位置合わせに続いて、その中性子線照射装置14による中性子線の照射すなわちホウ素中性子捕捉療法が行われる。先ず、前記位置調整部62による例えば人的な操作により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられ、前記被験者8の患部が前記中性子線照射口14oに対して可及的に接近させられる。次に、前記制御部60におけるハンディターミナルが取り外され、そのハンディターミナルと共に施術者が前記室12外へ退出(退避)させられる。次に、前記中性子線照射装置14により前記被験者8の患部に対して中性子線の照射が行われる。次に、前記搬送装置20が前記室12内へ移動させられ、前記第1角度調整機構36及び前記第2角度調整機構38等により、前記照射台16が水平に戻される。次に、前記被験者固定載置部22の下方にフォーク状の前記保持部52が挿し込まれる位置に前記搬送装置20が移動させられ、前記位置調整機構34により前記照射台16がz軸方向に下降させられる。これにより、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20の保持部52により保持された状態とされる。そして、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22が、前記室12の外へ搬送される。
以下、前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に係る位置合わせ制御のアルゴリズムについて、(1)式〜(13)式等を参照しつつ詳しく説明する。以下の説明は、あくまで好適な制御の一例を示すものであり、他のアルゴリズムによって同様の位置合わせ制御が実現されるものであってもよい。先ず、治療計画として、前記被験者固定載置部22上におけるCT原点及び腫瘍中心(患部中心)のxyz座標と、治療姿勢に係る情報とが与えられる。例えば、CT原点の座標として(Xct, Yct, Zct)、腫瘍中心の座標として(Xiso, Yiso, Ziso)、ピッチング角としてP0、ローリング角としてR0、及びy軸オフセット量として300×S等の情報が与えられる。
次に、前記被験者固定載置部22に係る座標系(以下、天板座標系という)から、前記照射台16に係る座標系(以下、照射台座標系)への変換が行われる。照射台座標系から見た天板座標系の原点は、例えば(−200, 300×S−850, 187.75)である。従って、原点の平行移動を次の(1)式で、座標の定義が異なるために変換することを目的としたx軸まわりの90°回転を次の(2)式でそれぞれ定義すると、天板座標系におけるCT原点Mは、照射台座標系において次の(3)式のように表される。
次に、CT原点に対応する位置への前記照射台16の移動について考える。前記中性子線照射装置14による中性子線の照射時における前記照射台16の床面からの高さを1200mmとすると、照射台座標系から見たレーザポインタ交点Lは、例えば(0, 500, 521)である。このLを次の(4)式のように定義すると、CT原点Mをレーザポインタ交点Lへ合致させるように平行移動させる際のxyz軸制御目標値は、L−Mと表される。CT原点に対応する位置への前記照射台16の移動では、前記位置調整機構34により、その照射台16における各軸に関する位置が、この値に対応する位置に移動させられる。
次に、CT原点に対応する位置への前記照射台16の手動による位置調整について考える。前記照射台16におけるローテーション角調整軸46(以下、R軸という)の回転中心は、例えば原点と同じ高さとされる。前記照射台16におけるピッチング角調整軸44(以下、P軸という)の回転中心は、例えば原点から118mm鉛直上方とされている。ここで、C=(0, 0, 118)とし、照射台座標における各軸に係る移動を同次変換行列として次のように定義する。すなわち、平行移動を次の(5)式で、R軸回転を次の(6)式で、P軸回転を次の(7)式で、それぞれ定義すると、CT原点の手動調整にて(X1, Y1, Z1, P1, R1)の補正を実施した後のCT原点Maは、次の(8)式で表される。ここで、CT原点の計画位置からのxyz座標の誤差(Ma−M)及び角度の誤差P1、R1は、主に天板座標系のパターン認識や、前記被験者固定載置部22と前記照射台16との嵌合精度(突出部48と溝部50との嵌合に係る精度)の誤差として解釈できる。
次に、腫瘍中心に対応する位置への前記照射台16の移動について考える。制御軸原点位置が(0, 0, 0, 0, 0)である場合の計画位置としての腫瘍中心Nは、CT原点Mと同様に、次の(9)式で表される。手動調整により、CT原点について(X1, Y1, Z1, P1, R1)の移動を行った結果として、実際の腫瘍中心が指示データ上の座標Nに位置することになる場合、この腫瘍中心に対応する座標Nを照射台原位置のときの座標に一旦戻すと、その腫瘍中心の座標Naは次の(10)式で表される。次に、この腫瘍中心Naをレーザポインタ交点Lへ合わせるときの姿勢、すなわちピッチング角P0+P1、ローテーション角R0+R1へ回転させた座標Nbは、次の(11)式で表される。P軸及びR軸に係る回転後の腫瘍中心Nbをレーザポインタ交点Lへ平行移動する際のxyz軸制御目標値は、L−Nbとなる。
次に、腫瘍中心に対応する位置への前記照射台16の手動による位置調整について考える。手動調整により、腫瘍中心の座標について(X2, Y2, Z2, P2, R2)の補正を行った場合、手動調整後の腫瘍中心Ncは、次の(12)式で表される。ここで、腫瘍中心のxyz座標の誤差(Nc−Nb)及び角度の誤差P2、R2は、主にP軸及びR軸の姿勢変更に対する前記被験者8の体位のぶれや、前記照射台16のたわみ等による誤差と解釈できる。
以上のようにして算出される位置への前記照射台16の移動では、先ず、前記位置調整機構34により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられる。このz軸方向の上昇に係る制御目標値は、前記被験者8の体を前記中性子線照射口14oに可及的に接近させつつ、前記被験者8の体が前記中性子線照射口14oに接触しない高さとする必要がある。具体的には、前記中性子線照射口14oが床面から1500mm、照射台座標でz=821mmである場合、(a)腫瘍中心Ncが前記中性子線照射口14oから100mm下方となる位置、(b)前記被験者固定載置部22における四隅の最高点が前記中性子線照射口14oから200mm下方となる位置の、何れか低い方が制御目標値として設定される。好適には、前記腫瘍中心Ncは、そのz軸成分により規制される。例えば、z軸制御目標値Zmaxが、721からNcのz成分を引いた値よりも小さくなるように、すなわちZmax<721−(Ncのz成分)となるように規制される。前記腫瘍中心Ncは、前記被験者固定載置部22における四隅の最高点により規制される。例えば、原位置のときの四隅の座標Aは(±230, ±1000+300×S, 281)であり、P角及びR角回転後の座標Aaは、次の(13)式で表される。z軸制御目標値Zmaxが、621から4つのAaのz成分のうち最高点に相当する値よりも小さくなるように、すなわちZmax<621−(4つのAaのz成分のうち最高点)となるように規制される。
上記のようにして前記位置調整機構34による前記照射台16の移動が行われた後、前記位置調整部62により、前記照射台16の手動による位置調整が行われ、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置及び前記被験者固定載置部22に固定された被験者8の姿勢が最終決定される。例えば、施術者の手動操作により、前記被験者8の体が前記中性子線照射口14oに可及的に接近する位置まで前記照射台16が上昇させられる。更に、前記3つの軸方向、P軸及びR軸まわりの回転方向の位置調整が行われ、前記被験者固定載置部22に固定された被験者8の姿勢が最終決定される。この手動調整にて(X3, Y3, Z3, P3, R3)の補正が実行される。
以上の制御において、好適には、前記制御部60に備えられた記憶部に、制御に係る情報がログとして記憶される。例えば、所定の記憶媒体に読み込まれたデータ、CT原点の手動調整値(X1, Y1, Z1, P1, R1)、腫瘍中心の手動調整値(X2, Y2, Z2, P2, R2)、最終調整値(X3, Y3, Z3, P3, R3)、及び位置決め手順の各ステップを実行した日時等の情報が記憶される。
図11は、前記照射台16の位置調整に係る各部の移動速度を、図12は、前記照射台16の位置調整に係る各部のパルス数を、それぞれ例示する図である。図13は、前記照射台16の位置調整において、yz軸方向に係るステップ量が一定である場合のz軸座標及びz軸方向の速度を例示する図である。図13に示すように、z軸方向の移動では、可動範囲の上方と下方とで、yz軸の動きに対応する昇降速度が約4倍程度異なる。z軸方向の高さによらずyz軸の速度を一定とする場合、前記被験者8の体がレーザポインタ交点付近となる高さ(例えば、z=200mm)で、他の軸に近い速度となるようにパルス数が設定される。z軸方向の移動に関しては、yz1、yz2のパルス数設定が整数となるような1:αの比率で設定すると、積算誤差によるy軸移動量が小さい。例えば、yz1:yz2=37:237が最適な比である。前記照射台16と前記搬送装置20との移乗における自動昇降動作においては、比較的低速でのz軸方向の移動が求められるため、それ以外の位置調整に係るz軸方向の移動速度の1/3程度の速度とされる。このようにして、前記照射台16の位置調整に係る各部の移動速度及びパルス数として、図11及び図12に示すような値が好適な値として設定される。
本実施例によれば、前記被験者8を載置した状態で固定する被験者固定載置部22と、前記被験者8における患部の位置を検出する3次元診断装置18と、中性子線照射装置14に対して位置決めされる照射台16と、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置14の中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる位置調整機構34と、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させることで、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記中性子線照射口14oに対して可及的に接近させる制御部60とを、備えたものであることから、ホウ素中性子捕捉療法に特有の要請を十分に満たすことができる。すなわち、ホウ素中性子捕捉療法に際して十分な精度で位置決めを行うホウ素中性子捕捉療法システム10を提供することができる。
前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22を、前記3次元診断装置18と前記照射台16との間で移乗させる移乗装置としての搬送装置20を備えたものであるため、ホウ素中性子捕捉療法に際して簡便な移乗を実現すると共に十分な精度で位置決めを行うことができる。
前記3次元診断装置18による前記患部の位置の検出に際して、前記被験者固定載置部22に載置され且つ固定された前記被験者8に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させることで、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させる位置調整部62を備えたものであるため、ホウ素中性子捕捉療法に際して簡便且つ十分な精度で位置決めを行うことができる。
前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる第1角度調整機構36と、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる第2角度調整機構38とを、備えたものであるため、より簡便且つ高い精度でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
前記被験者固定載置部22及び前記照射台16は、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に移乗させられた際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造としての突出部48及び溝部50を備えたものであるため、前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22の位置を簡便且つ高い精度で定めることができる。
前記3次元診断装置18は、前記被験者8の体内の画像を撮影する装置であり、前記目印の素材には、前記3次元診断装置18により撮影された前記画像上において、前記被験者固定載置部22の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられるものであるため、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
前記移乗装置として、前記被験者固定載置部22を載置した状態で搬送する搬送装置20を備え、その搬送装置20は、前記被験者固定載置部22を保持し、且つその被験者固定載置部22を前記3次元診断装置18又は前記照射台16に移乗させた後に引き抜くことができる保持部52を備え、前記搬送装置20に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置18に設けられた昇降機構32、又は前記位置調整機構34を用いて、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22を、前記搬送装置20と前記3次元診断装置18又は前記照射台16との間で移乗させるものであるため、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22を、簡便且つ実用的な態様で、前記搬送装置20と前記3次元診断装置18又は前記照射台16との間で移乗させることができる。
前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部としての水平方向レーザ64a、64b、垂直方向レーザ66等と、その位置表示部による表示に基づいて、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置に対する、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整を行う位置調整部62とを備えたものであるため、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
前記位置表示部は、前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置18による前記画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものであり、前記位置調整部62は、前記位置表示部による表示に基づいて、前記照射台16における前記3つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置18による前記画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行うものであるため、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
前記照射台16は、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線により放射化された場合において、1時間あたりの従事者の被曝が最大でも20mSv以下の材料から構成されたものであるため、前記照射台16の材料として、中性子線により放射化し難い、或いは放射化したとしてもその放射化を十分小さな値に抑制できる材料を用いることで、患者及び医療従事者の被曝を可及的に抑制することができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例において、前記被験者8は、仰臥の状態で前記被験者固定載置部22に載置されるものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記被験者8は、横臥や腹臥等の臥位で前記被験者固定載置部22に載置延いては固定されるものであってもよい。前述の実施例において、前記3次元診断装置18は、前記基台24に対して1方向に移動させられつつ前記3次元画像を撮影する自走式撮像部26を備えたものであったが、本発明に用いられる3次元診断装置は、必ずしも自走式撮像部を備えたものでなくともよく、前記被験者8における患部の位置を検出する種々の3次元診断装置が用いられる。前述の実施例では特に言及していないが、本発明のホウ素中性子捕捉療法における中性子線としては、特定のエネルギを有する生体に安全な中性子線が好適に用いられる。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。