JP6435185B2 - エレベータ装置およびエレベータ気圧制御方法 - Google Patents

エレベータ装置およびエレベータ気圧制御方法 Download PDF

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Description

本発明は、エレベータ装置およびエレベータ気圧制御方法に関する。
本技術分野の背景技術として、特開2014−118220号公報(特許文献1)がある。この公報には、エレベータの昇降による乗りカゴ内圧力の変化に伴い耳詰まり現象を緩和するために、「エレベータ下降時においては、運転時間の前半(T<T0)は乗りカゴ内陽圧状態のみで階段状の圧力制御を構成し、後半(T>T0)は乗りカゴ内陰圧側のみで階段状の圧力制御を構成する…」と記載されている。また、「運転時間の前半(T<T0)は、乗りカゴ内圧力が陽圧状態になるよう送風機2から乗りカゴ1に空気を流入させる。…圧力測定装置4により乗りカゴ内圧力を測定し、制御装置6により乗りカゴ1内の圧力曲線Bを所定の階段状に変化させるために必要な圧力調整弁3の開度を計算し、圧力調整弁3の開度を調整することで、乗りカゴ1内から適正な空気が外部に流出し、乗りカゴ1内の圧力を階段状に変化するよう制御する。」と記載されている。
特開2014−118220号公報
しかしながら、特許文献1に記載のエレベータ装置では、乗りカゴ内の気圧を目標とする階段状の気圧パタンに応答性良好に追従させるために、乗りカゴ内の給排気用の送風機と共に、圧力調整弁を組み合わせて用いている。したがって、部品点数が多く、装置構成および制御が複雑なものとなっている。
そこで本発明は、送風機の回転制御のみにより、走行中の乗りカゴ内の気圧を設定された圧力パタンに対して高精度に追従させることが可能なエレベータ装置、およびエレベータ気圧制御方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、昇降自在に走行する乗りカゴと、前記乗りカゴと外気とに連通して設けられた送風機と、予め設定された走行中における前記乗りカゴ内の気圧パタンに基づいて前記送風機の回転速度を制御すための回転速度指令を生成する指令生成器とを備え、前記指令生成器は、前記乗りカゴの走行開始に先行して前記送風機の駆動を開始させると共に、前記送風機の最大角減速度を当該送風機の性能値よりも小さい値に設定した前記回転速度指令を生成するエレベータ装置である。
以上の構成のエレベータ装置によれば、送風機の回転制御のみにより、走行中の乗りカゴ内の気圧を設定された圧力パタンに対して高精度に追従させることが可能である。
第1実施形態のエレベータ装置の構成を説明するための概略構成図である。 指令生成器において実施される回転速度指令[n]の生成の詳細を説明するためのフロー図である。 下降運転における乗りカゴ内の気圧パタンの一例を示す図である。 乗りカゴ内の気圧パタンと外気圧との差をとった目標差圧[ΔPref]を示す図である。 回転速度指令[n]の生成を説明するために目標差圧[ΔPref]を単純化した三角波を示す図である。 送風機の回転速度指令の理想値[n0]と性能値[n1]とを示す図である。 送風機の回転速度[N]の制御に対する乗りカゴの内外の気圧差[ΔP]の制御誤差を説明するための図である。 性能値[n1]に従って送風機を制御した場合の乗りカゴの内外の気圧差[ΔPc1]を示す図である。 補正性能値[n2]および回転送度指令[n]の生成を説明するための図である。 補正性能値[n2]または回転送度指令[n]に従って送風機を制御した場合の乗りカゴの内外の気圧差[ΔPc2]を示す図である。 第2実施形態のエレベータ装置の構成を説明するための概略構成図である。
以下、本発明のエレベータ装置に関する各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。各実施形態においては、乗りカゴの昇降動作に伴う耳詰まり現象を緩和するための機能を有するエレベータ装置の構成を説明する。尚、以下に説明する各実施形態において同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
≪第1実施形態≫
<エレベータ装置の概略構成>
図1は、第1実施形態のエレベータ装置1の構成を説明するための概略構成図である。この図に示すエレベータ装置1は、乗りカゴ11、送風機13、および指令生成器15を備えており、指令生成器15において生成する回転速度指令[n]が特徴的である。これらの構成は、次のようである。
[乗りカゴ11]
乗りカゴ11は、ここでの図示を省略した建物の上下方向に延設された昇降路内につり下げられたもので、巻き上げ機の駆動によって昇降路内において昇降自在に走行する。この乗りカゴ11の側面には、水平方向にスライドするカゴドア11aが設けられている。カゴドア11aが閉じられた状態において、乗りカゴ11内は、ほぼ密閉された状態に保たれるが、この密閉状態は完全ではなく隙間を有している。したがって、乗りカゴ11は、その昇降動作にともない乗りカゴ11の内外で気圧差が発生すると、乗りカゴ11内外の空気がカゴドア11a等の隙間を通過し、乗りカゴ11内外の空気に漏れが生じる構成である。
以上のような乗りカゴ11には、内部の気圧(カゴ内気圧[Pc])を測定するためのセンサ11bが設けられていても良い。
[送風機13]
送風機13は、乗りカゴ11と外気とに連通して設けられており、ここでの図示を省略した送風路によって乗りカゴ11と連通した状態で配置され、これにより送風機13で発生させた風量に応じてカゴ内気圧[Pc]を変化させる構成となっている。
このような送風機13は、性能上の限界値としての最大角加速度[αacc]を有している。最大角加速度[αacc]は、送風機13の回転速度を加速させる加速運転時におけるプラスの最大角加速度の大きさである。また送風機13は、この最大各加速度[αacc]以下で加速運転される。
このような送風機13は、ここでの図示を省略したブレーキを備えたものであって、送風機13の回転速度を、単に回転を停止させた場合よりも早く、所定の角減速度で減速可能となっている。このブレーキは、このブレーキの作動による送風機13の最大角減速度[αdec]が、送風機13の性能上の最大角加速度[αacc]と同じかそれ以上の大きさとなるような性能を有するものである。これにより、送風機13は、送風機13に対して設定される値に合わせて最大角減速度[αdec]が調整可能となっている。ここで、最大角減速度[αdec]は、送風機13の回転速度を減速させる減速運転時におけるマイナスの最大角加速度の大きさであり、最大角減速度[αdec]が小さいとは、その絶対値の大きさが小さいことを意味する。
このようなブレーキとしては、例えば回生ブレーキが設けられ、走行する乗りカゴ11の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し制動回収する構成としてもよい。
また以降に説明するように、走行中における乗りカゴ11内の気圧が、外気に対して陽圧と陰圧とで切り替えて制御される場合、この送風機13は、乗りカゴ11に対する接続状態を切り替えることによって給気用および排気用として機能する構成であってもよい。あるいは送風機13は、給気用と排気用の2台で構成されていてもよい。
[指令生成器15]
指令生成器15は、送風機13の回転速度を制御するためのものである。この指令生成器15は、指令生成器15に対して入力される乗りカゴ11内の目標気圧[Pref]、送風機13の最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]に基づいて、乗りカゴ11の走行中における送風機13の回転速度指令[n]を生成する。
ここで、指令生成器15に入力される目標気圧[Pref]とは、降下および上昇といった乗りカゴ11の走行中における、乗りカゴ11内の気圧の目標値であり、予め設定された気圧パタンに基づいて経時的に制御変化させる気圧である。この目標気圧[Pref]の経時変化として示される気圧パタンは、例えば乗りカゴ11の昇降動作に伴う耳詰まり現象を緩和するために、乗りカゴ11の走行開始から走行終了までの間に設定される乗りカゴ11内の気圧パタンである。
また指令生成器15に入力される最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]は、例えば送風機13の性能上の最大値である。
このような指令生成器15において生成する回転速度指令[n]は、乗りカゴ11の走行開始に先行して送風機13の駆動を開始させると共に、送風機13の最大角減速度[αdec]が、送風機13の性能値よりも小さい値に設定されたものである。この回転速度指令[n]における最大角減速度[αdec]は、最大角加速度[αacc]を超えない値に設定されることが好ましい。
図2は、指令生成器15において実施される回転速度指令[n]の生成の詳細を説明するためのフロー図であり、指令生成器15における回転速度指令[n]およびその生成の詳細は、以降に図2に基づいて説明する。
また指令生成器15は、乗りカゴ11の昇降動作、すなわち下降運転であるか上昇運転であるか、何階から何階にまで移動するのか等が決定した場合に、回転速度指令[n]を生成し、生成した回転速度指令[n]を送風機13に出力し、送風機13の回転速度を制御する。これにより、指令生成器15は、走行中における乗りカゴ11内の気圧を、予め決め設定された目標気圧[Pref]に合わせて変動させように送風機13の回転速度をフィードフォワード制御する。
−気圧パタンについて−
図3は、走行中に求められる乗りカゴ11内の気圧パタンの一例を示す図である。以降で指令生成器15による回転速度指令[n]の生成の詳細を説明するあたり、先ず、指令生成器15に入力される目標気圧[Pref]の経時変化として表される気圧パタン100について、先の図1と共に図3を用いて説明する。
先に述べたとおり、気圧パタン100は、例えば乗りカゴ11の昇降動作に伴う耳詰まり現象を緩和するための乗りカゴ11内の気圧の経時変動を示すパタンである。図3は、乗りカゴ11を展望階から地上階まで下降運転した場合の例を示している。
通常、乗りカゴ11は、その昇降動作において走行開始[t0]から徐々に速度を上げて最高速度に達し、一定時間最高速度で走行した後、徐々に速度を落として停止する。そのため、図3に示すように、乗りカゴ11外の外気圧101は、走行開始[t0]から走行終了[tf]まで、S字形に変化する。
そこで、乗りカゴ11の昇降動作に伴う耳詰まり現象を緩和するための一例としての気圧パタン100は、乗りカゴ11の走行期間の前半(t0〜tm)と後半(tm〜tf)とで、乗りカゴ11内の気圧が外気圧101に対して陽圧と陰圧とで切り替わるパタンである。走行期間の前半(t0〜tm)では、外気圧101に対して陽圧とした階段状での圧力制御とする。一方、走行期間の後半(tm〜tf)では、外気圧101に対して陰圧とした階段状での圧力制御としている。このような階段状の気圧パタン100において、気圧変化が急な部分と気圧変化が緩やかな部分の、それぞれの時間間隔は3〜7秒に設定されている。このため、このような気圧パタン100を実現するためには、短い時間間隔で乗りカゴ11内に出入りする風量を変化させる必要がある。
図4は、図3に示す気圧パタン100と外気圧101との差をとったものであり、これを目標差圧[ΔPref]と定義する。目標差圧[ΔPref]の波形を見ると、走行期間の前半部分は正、後半部分は負になっている。走行期間の前半においては、第1の最大気圧変化率[P1’]で差圧「ΔP」が増大する部分と、第2の最大気圧変化率[P2’]で差圧「ΔP」が減少する部分がある。目標差圧[ΔPref]は、走行期間の中心の切り替え部[tm]に対して対称形になっているとすると、前半と後半のそれぞれの中央付近で、同じ大きさの最大差圧[ΔPmax]に達する。
図1に示したエレベータ装置1は、図4に示した目標差圧[ΔPref]が正の場合は、送風機13によって乗りカゴ11内に空気を供給して乗りカゴ11内を陽圧にする。また目標差圧[ΔPref]が負の場合は、送風機13によって乗りカゴ11内の空気を排気して乗りカゴ11内を陰圧にする。この際、エレベータ装置1は、指令生成器15によって、送風機13の回転速度を制御しながら乗りカゴ11を走行させることにより、乗りカゴ11内の気圧パタン100と外気圧101との差を目標差圧[ΔPref]とするフィードフォワード制御を行う。
図5は、回転速度指令[n]の生成を説明するために目標差圧[ΔPref]を単純化した三角波を示す。この三角波は、図4に示した目標差圧[ΔPref]における立ち上がりの加圧部分における第1の最大気圧変化率[P1’]部分と、最大差圧[ΔPmax]と、立ち下がりの減圧部分における第2の最大気圧変化率[P2’]とで構成された三角波である。
以下、このような単純化した目標差圧[ΔPref]を例にして、走行中の乗りカゴ内の気圧を高精度に制御するための回転速度指令[n]の生成の詳細についてを、制御誤差がどのように発生するのかと共に説明する。尚、外気圧に対して乗りカゴ内のカゴ内気圧が陽圧の場合も陰圧の場合も、乗りカゴ11に対して送風機13からの給気を行うか排気を行うかが違うだけで、気圧制御の原理は同じである。このため以下においては、図5に示したように、走行期間の前半の陽圧部分を例示して指令生成器15による回転速度指令[n]の生成の詳細を説明する。
<指令生成器15による回転速度指令[n]の生成の詳細>
図2は、指令生成器15において実施される回転速度指令[n]の生成の詳細を説明するためのフロー図である。以下においては、図2のフロー図に従って、図1および必要図を参照しつつ、指令生成器15における回転速度指令[n]の生成を説明する。
[ステップS1(図6参照)]
先ず、ステップS1においては、指令生成器15に入力された目標気圧[Pref]に基づいて、次のように乗りカゴ11内の気圧を調整するために送風機13に求められる風量[QB]を計算する。これにより、送風機の回転速度指令の理想値[n0]を生成する。
ボイル・シャルルの法則より、温度一定の条件で気体の体積と圧力の積は一定である。よって、走行前の初期における乗りカゴ11内の初期カゴ内空気体積を[V0]、初期カゴ内気圧を[P0]、乗りカゴ11内の目標気圧を[Pref]、目標気圧[Pref]にするために乗りカゴ11内に供給する必要のある供給必要体積[V1]とすると、下記式(1)が成り立つ。
P0×(V0+V1)=Pref×V0・・・式(1)
この式(1)を、供給必要体積[V1]について解き、さらに時間で微分すると、単位時間当たりに必要な必要風量[Q1]を求める下記式(2)が得られる。
Q1=(V0/P0)×d/dt(Pref)・・・式(2)
また送風機13の風量[QB]は、送風機13の回転速度にほぼ比例する。このため、比例定数を[CB]とすれば、必要風量[Q1]に基づく送風機13の回転速度の値[n0’](図示省略)は、下記式(3)となる。
n0’=Q1/CB・・・式(3)
この値[n0’]は、目標気圧[Pref]のみから導出した値である。このため、この値[n0’]に対して、乗りカゴ11の隙間を通過する空気の漏れ風量[Q2]を加える。この漏れ風量[Q2]は、ベルヌーイの定理により、下記式(4)で計算できる。
Q2=A×(2×ΔP/ρ)1/2・・・式(4)
ただし、式(4)中、[A]は乗りカゴの隙間面積、ΔPは乗りカゴ11内外の気圧差、[ρ]は標準大気圧における空気密度である。
よって、隙間からの漏れ風量[Q2]も考慮して送風機13に求められる風量[QB]は、下記式(5)となる。
QB=Q1+Q2・・・式(5)
そして、この漏れ風量[Q2]も考慮した送風機13の回転速度の理想値[n0]は、下記式(6)によって算出される。
n0=(Q1+Q2)/CB・・・式(6)
図6には、以上のようにして導出された送風機13の回転速度の理想値[n0]を示す。図6の横軸は時間、縦軸は送風機13の回転速度[N]を示している。この図に示すように、指令生成器15によって生成する理想値[n0]は、乗りカゴ11の走行に伴う回転速度[N]の経時変化として表される。この理想値[n0]は、カゴ内外を目標差圧[ΔPref]とするために、目標気圧[Pref]と共に、乗りカゴ11の隙間における空気の漏れ風量[Q2]をも考慮した値である。
ここで、送風機13は、その特性として、羽根車の慣性抵抗よりモータ発生トルクの性能以上に角加速度を上げることはできない。ところが、上述した理想値[n0]は、このような送風機13の特性を考慮したものではない。このため、この理想値[n0]では、送風機13の駆動を開始した直後、すなわち乗りカゴの走行開始[t0]直後において、回転速度[N]が急激に上昇しており、このような理想値[n0]通りの回転速度で送風機13を制御することは不可能である。
[ステップS2(図6参照)]
そこで次のステップS2では、上述した理想値[n0]に対して、指令生成器15に入力された送風機15における性能限界上の最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]による制限を加えた性能値[n1]を生成する。
この性能値[n1]において、送風機13の駆動を開始した直後の加速運転時の立ち上がり部分では、送風機13の性能限界上の最大角加速度[αacc]で回転速度[N]が増加する。一方、この性能値[n1]において、最高速度に達した後の減速運転時の立ち下がり部分では、送風機13に設けたブレーキを機能させた場合の性能限界上の最大角減速度[αdec]で回転速度[N]が減少する。この立ち下がり部分では、送風機13に設けたブレーキの作動により、送風機13における最大角減速度[αdec]は、最大角加速度[αacc]よりも大きくできる。そのため、性能値[n1]は、立ち上がりの加速運転時における回転速度[N]の傾きよりも、立ち下がりの減速運転時における回転速度[N]の傾きの方が大きくなる。
−制御誤差の発生−
ここで、図6に示す理想値[n0]と性能値[n1]とを比較してわかるように、回転速度の性能値[n1]は、送風機13の性能を考慮した値であるため、回転速度の理想値[n0]に対して回転速度の変化に遅れが発生する。これにより、回転速度の性能値[n1]は、カゴ内外を目標差圧[ΔPref]とするための回転速度の理想値[n0]に対して、制御誤差が加わったものとなっている。
−制御性のバラツキの発生−
また図7は、送風機の回転速度[N]の変化と乗りカゴの内外の気圧差[ΔP]の変化との関係を説明するための図である。図7Aは、送風機の回転速度パタンの一例を示す図である。図7Aに示す回転速度パタンは、単純な台形パタン103であり、立ち上がり部分103aにおける送風機の角加速度と、立ち下がり部分103bにおける送風機の角減速度とは、同じ大きさであることとする。図7Bは、図7Aの台形パタン103にしたがって送風機を駆動した場合の乗りカゴ内外の気圧差[ΔP]の経時変化を示している。
図7Aに示したように、立ち上がり部分103aの角加速度と立ち下がり部分103bの角減速度とが同じ大きさの台形パタン103で送風機13を回転させた場合であっても、図7Bに示すように、カゴ内気圧の変化に全体的な遅れが生じる。また、これに加えて、立ち下がり側と比較して、立ち上がり側における気圧差[ΔP]の傾斜が小さく気圧差[ΔP]の変化の遅れが大きくなる、制御性のバラツキが発生する。
このような制御性のバラツキは、乗りカゴの隙間を通過する空気の漏れに起因して発生する。つまり、乗りカゴ内が陽圧の場合、乗りカゴ11内の空気が隙間から漏れ出す。このため、加圧時、すなわち送風機の回転速度を加速させる加速運転時には、送風機13から乗りカゴ11内に供給される風量の実質的な値が減り、乗りカゴ11内の気圧は上がり難くなる。これに対して、加圧状態からの減圧時、すなわち送風機の回転速度を減速させる減速運転時には、隙間から漏れ出す空気により、送風機13から乗りカゴ11内に供給される風量を減らした以上に、乗りカゴ11内の空気が減少する。そのため、乗りカゴ内の気圧は下がり易く、気圧が下がるときの遅れが小さくなるのである。
またこのような制御性のバラツキは、送風機13の性能や乗りカゴ11の隙間等の条件で変化するが、台形パタンで同じように送風機13を駆動した際に普遍的に発生する現象と考えてよい。
そして、ステップS1で生成した理想値[n0]は、乗りカゴの隙間を通過する空気の漏れ風量[Q2]を考慮した値であるものの、ステップS2で送風機13の性能による制限を加えて生成した性能値[n1]は、漏れ風量[Q2]が考慮された値となっていない。したがって、性能値[n1]によって送風機の回転速度を制御した場合の乗りカゴの内外の気圧差[ΔP]には、回転速度の理想値[n0]に対する制御誤差と、乗りカゴの隙間を通過する空気の漏れの影響が現れる。
図8は、目標差圧[ΔPref]に対して、性能値[n1]に従って送風機13を制御した場合の乗りカゴ11の内外の気圧差[ΔPc1]を示す図である。目標差圧[ΔPref]は図5に示したものであり、性能値[n1]は図6に示したものである。尚、図8中に示す破線は、気圧差[ΔPc1]の極大点[M1]に対して、極大点[M1]以前の気圧差[ΔPc1]の変化形状を反転させたものである。
図8に示すように、性能値[n1]での制御による乗りカゴ11の内外の気圧差[ΔPc1]は、目標差圧[ΔPref]に対して全体的に遅れて気圧が変化したものとなっている。そして、気圧差[ΔPc1]が極大点[M1]に達する時刻[t1’]は、目標差圧[ΔPref]が頂点[S]に達する時刻[t1]に対して、時間差[Δt1]だけ遅くなっている。
さらに、この気圧差[ΔPc1]は、乗りカゴの隙間を通過する空気の漏れの影響により、送風機13の加速運転時の気圧変化の遅れが、減速運転時の気圧変化の遅れよりも大きく、最大差圧に達する極大点[M1]に対して左右が非対称の形になっている。尚、気圧差[ΔPc1]は、実験的に求めるか、または以降に説明する式(8)〜式(14)に基づき、式中の[Δt1]=0として求められる。
そこで、次のステップS4以降において、この性能値[n1]を補正して以降のように回転速度指令[n]を生成する。
[ステップS3(図8参照)]
先ず、ステップS3では、性能値[n1]によって得られる気圧差[ΔPc1]が極大点[M1]に達する時刻[t1’]と、目標差圧[ΔPref]が頂点[S]に達する時刻[t1]との時間差[Δt1]を求める。
このような時間差[Δt1]は、実験的に求めるか、または計算によって求める。計算によって求める場合であれば、先ず下記式(7)により性能値[n1]から、気圧[Pc]の変化を計算する。
Pc=(P0/V0)×[V0+∫(QB)dt−∫(Q2)dt]・・・式(7)
式(7)によって得られた気圧[Pc]が極大となる時刻[t1’]を求めることにより、目標差圧[ΔPref]が頂点[S]に達する時刻[t1]との時間差[Δt1]が得られる。
[ステップS4(図9参照)]
次いでステップS4では、ステップS2で生成した性能値[n1]を時間差[Δt1]の分だけ前倒し、さらに最大角減速度[αdec]を最大角加速度[αacc]にまで低下させた補正性能値[n2]を生成する。この補正性能値[n2]によれば、送風機の駆動開始[tp]は、乗りカゴの走行開始[t0]よりも、時間差[Δt1]だけ先行することになる。
[ステップS5(図10参照)]
その後ステップS5では、補正性能値[n2]に従って送風機を制御した場合の乗りカゴの内外の気圧差[ΔPc2]を、下記式(8)〜式(14)に従って算出する。
尚、ここで算出する気圧差[ΔPc2]の範囲は、送風機の駆動開始[tp]から、目標差圧[ΔPref]=0(t>0)となる時刻[t2]に対して時間差[Δt1]を追加した時刻[t2’]までとする。これは、最大角減速度[αdec]を制限した補正性能値[n2]での制御による気圧差[ΔPc2]の波形は、目標差圧[ΔPref]が頂点[S]に達する時刻[t1]に対して左右対称の三角形となった場合に、目標差圧[ΔPref]に対する気圧差[ΔPc2]の誤差が最も小さくなるからである。
先ず、気圧差[ΔPc2]は、下記式(8)から算出される。
ΔPc2=(P0/V0)×(V0+VB−V2)−P0・・・式(8)
ただし、式(8)中、[P0]は走行前の初期における乗りカゴ11内の初期カゴ内気圧、[V0]は初期カゴ内空気体積、[VB]は送風機13によって乗りカゴ11内に供給した空気の供給体積、[V2]は乗りカゴ11の隙間から漏れた空気の漏れ体積である。
式(8)中の供給体積[VB]は、送風機13の風量[QB]を積分して求める。送風機13の回転速度から風量[QB]に換算する係数を[CB’]とすると、送風機13の駆動開始[tp]から、目標差圧[ΔPref]が頂点[S]に達する時刻[t1]までのある時間[t]における風量[QB1]は、下記式(9)で計算できる。尚、送風機13の駆動開始[tp]は、時間差[Δt1]だけ前倒しした時点である。
QB1=CB’×αacc×(t+Δt1)・・・式(9)
よって、送風機13の駆動開始[tp]から時刻[t1]までの間に、送風機13によって乗りカゴ11内に供給される空気体積[VB1]は、下記式(10)で計算できる。
VB1=∫(QB1)dt=CB’×αacc×[(1/2)×t+Δt1×t]
・・・式(10)
また、時刻[t1]から、時刻[t2’](=t1+t1+Δt1)までのある時刻[t]の風量[QB2]は、下記式(11)で計算できる。
QB2=CB’×αacc×(t1+Δt1)−CB’×αdec×(t-t1)
・・・式(11)
よって、時刻[t1]から時刻[t2’](=t1+t1+Δt1)までの、送風機13から乗りカゴ11内に供給する空気体積[VB2]は、下記式(12)で計算できる。
VB2=∫(QB2)dt
=CB’×αacc×[(1/2)×t1+Δt1×t1]−CB’×αdec×[(1/2)×t−t1×t]・・・式(12)
以上より、式(8)中の供給体積[VB]が、上記式(10)の空気体積[VB1]と式(12)の空気体積[VB2]との合計として得られる。
また式(8)中の漏れ体積[V2]は、通常、乗りカゴ11の隙間の漏れ風量[Q2]を積分して求められる。しかしながら、ここでは前述の式(4)で示される漏れ風量[Q2]が、時刻[t]について線形になると仮定し、下記式(13)に示す漏れ風量の平均値[Q2ave]を求め、下記式(14)により、漏れ体積[V2]を求める。
Q2ave=[(1/2)/ΔPave]×A×(2×ΔPave/ρ)1/2・・・式(13)
V2=Q2ave×t・・・(14)
ただし、式(13)内の[ΔPave]は、平均的な隙間漏れ風量を与えるために着目する、乗りカゴ内差圧(例えばカゴ内目標差圧の平均値)である。
以上より、上記式(10)、式(12)、および式(14)を、式(8)に代入することにより、補正性能値[n2]での制御による時刻[tp]から時刻[t2’]までの気圧差[ΔPc2]が算出される。
[ステップS6(図10参照)]
そこで次のステップS6では、気圧差[ΔPc2]=0となる時刻[tx(>0)]と、時刻[t2’]との間隔[Δt2’]が、予め設定した範囲内であるか否かを判断する。範囲内である(Yes)と判断された場合には、気圧差[ΔPc2]が、頂点[S]となる時刻[t1]に対して許容範囲で左右対称となったと判断し、次のステップS7に進む。一方、範囲内ではない(No)と判断された場合には、気圧差[ΔPc2]が、頂点[S]となる時刻[t1]に対して左右対称ではないと判断し、次のステップS8に進む。
[ステップS7(図9参照)]
ステップS7では、直前のステップS5において算出された気圧差[ΔPc2]となる補正性能値[n2]を、回転速度指令[n]として採用する。
[ステップS8(図10参照)]
一方、ステップS8では、ステップS5で算出した気圧差[ΔPc2]が極大値[M2]に達する時刻[t1”]と、目標差圧[ΔPref]が頂点[S]に達する時刻[t1]との時間差[Δt2]を求める。
[ステップS9(図9参照)]
次のステップS9では、補正性能値[n2]を生成するために、性能値[n1]を前倒しした時間差[Δt1]に対して、ステップS7で求めた時間差[Δt2]を加え、Δt1=Δt1+Δt2とする。さらにステップS3において、最大角加速度[αacc]にまで低下させた最大角減速度[αdec]を、さらに微少刻み[Δα]だけ小さくし、補正性能値[n2]をさらに補正する。この微小刻み[Δα]は、送風機13の角減速度の設定分解能以上の値であり、その範囲で選択された大きさに設定される。
その後は、ステップS5に戻り、ステップS6において、気圧差[ΔPc2]=0となる時刻[tx(>0)]と、時刻[t2’]との間隔[Δt2’]が、予め設定した範囲内である(Yes)と判断されるまで、ステップS5〜ステップS9を繰り返し行う。そして、ステップS6において、範囲内である(Yes)と判断された場合にステップS7に進み、直前のステップS5において算出された気圧差[ΔPc2]となる補正性能値[n2]を、回転速度指令[n]として採用して処理を終了する。ステップS4またはステップS9で最大角減速度[αdec]の大きさが確定するため、回転速度指令[n]を計算できるようになる。
ここで、以上のステップS5〜ステップS9の繰り返しは、乗りカゴの走行開始[t0]に対して、時間差[Δt1]だけ前倒しされる送風機の駆動開始[tp]が、乗りカゴ11の走行開始決定[tc]よりも先になることがない範囲で実施されることとする。
乗りカゴ11の走行開始決定[tc]は、乗りカゴ11の行き先階が決定し、かつ乗りカゴ11のカゴドア11aが閉じられた時点である。送風機の駆動開始[tp]が、乗りカゴ11のカゴドア11aが閉じられた時点よりも後であることにより、乗りカゴ11内の気密性を高めた状態での気圧制御が可能になる。
尚、通常のエレベータ装置においては、走行開始決定[tc]からインバータが駆動し始めて乗りカゴ11の停止保持ブレーキが解除され、乗りカゴ11の走行開始[t0]に至るまでの時間は、概ね1秒である。したがって、ステップS5〜ステップS9の繰り返しは、時間差[Δt1]が1秒以下の範囲で実施するようにしてもよい。これにより、走行開始決定[tc]から乗りカゴ11の走行開始[t0]までの待機時間が、乗りカゴ11内の気圧制御の影響によって、長くなり過ぎることを防止する。
また以上においては、図3に示した下降運転に際しての気圧パタン100の陽圧部を例示して、指令生成器15による回転速度指令[n]の生成の詳細を説明したが、上昇運転に際しての気圧パタン100の陰圧部に対応する回転速度指令[n]も同様にして生成される。
ただし、乗りカゴ11の走行期間の後半(tm〜tf)に対応させて回転速度指令[n]を生成する際には、図10に示した乗りカゴ11の走行開始決定[tc]から乗りカゴ11の走行開始[t0]までの待機時間の影響を考慮する必要はない。このため、送風機13が、給気用と排気用との2台で構成されている場合であれば、回転速度指令[n]は、送風機13の駆動開始[tp]と乗りカゴ11の走行開始[t0]の間隔よりも大きい間隔で、図3に示した気圧パタン100における陽圧と陰圧との切り替え部[tm]に先行させて、後半(tm〜tf)に対応する送風機13を駆動させることができる。
これにより、下降運転および上昇運転にかかわらず、回転速度指令[n]は、乗りカゴ11の走行期間の後半(tm〜tf)においての最大角減速度[αdec]を、前半(t0〜tm)においての最大角減速度[αdec]よりも小さくすることができる。これにより、回転速度指令[n]の生成においては、走行期間の後半(tm〜tf)においての最大角減速度[αdec]の設定の自由度が高くなる。
以上のような乗りカゴ11の走行期間の後半(tm〜tf)に対応する回転速度指令[n]の生成は、乗りカゴ11に対する接続状態によって給排気の機能の切り替えが行なわれる送風機13であっても同様である。この場合、送風機13の駆動開始[tp]と乗りカゴ11の走行開始[t0]の間隔よりも大きい間隔で、図3に示した気圧パタン100における陽圧と陰圧との切り替え部[tm]に先行させて、給排気の機能の切り替えを行なえばよい。
<第1実施形態の効果>
以上説明したように、図1に示す第1実施形態のエレベータ装置1においては、指令生成器15において生成した回転速度指令[n]により、送風機13の駆動開始[tp]が、乗りカゴの走行開始[t0]に対して時間差[Δt1]だけ前倒しされる。これにより、送風機13の性能限界および乗りカゴ11の隙間を通過する空気の漏れに起因して発生する、走行中の乗りカゴ11内の気圧の制御の遅れを解消することができる。
また特に、このエレベータ装置1は、回転速度指令[n]により、送風機13の減速運転時における最大角減速度[αdec]が、加速運転時における最大角加速度[αacc]を超えない大きさに抑えられる。これにより、乗りカゴ11の隙間を通過する空気の漏れに起因して発生する、送風機13の加速運転時と減速運転時との乗りカゴ11内の気圧の制御性のバラツキを解消することができる。
この結果、第1実施形態のエレベータ装置1は、走行中の乗りカゴ11内の気圧を高精度に気圧パタンに追従させた運転を行なうことが可能になる。また、このような制御は、圧力調整弁を組み合わせて用いていることなく送風機13の回転速度の制御のみにより実施されるため、エレベータ装置1における部品点数の削減と装置コストの削減を図ることができる。
≪第2実施形態≫
<エレベータ装置の概略構成>
図11は、第2実施形態のエレベータ装置2の構成を説明するための概略構成図である。この図に示す第2実施形態のエレベータ装置2が、第1実施形態のエレベータ装置と異なるところは、指令生成器15’の構成、およびフィードバック制御器21を備えたところにある。以下、第1実施形態のエレベータ装置と同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略して各構成を説明する。
[指令生成器15’]
指令生成器15’は、送風機13の回転速度を制御するためのものである。この指令生成器15’は、指令生成器15’に対して入力される乗りカゴ11内の目標気圧[Pref]、送風機13の最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]と共に、フィードバック制御器21からの入力に基づいて、乗りカゴ11の走行中における送風機13の回転速度指令[n]を生成する。指令生成器15’において実施される回転速度指令[n]の生成は、以降に詳細に説明する。
[フィードバック制御器21]
フィードバック制御器21は、フィードバック制御器21に対して入力された目標気圧[Pref]と、乗りカゴ11に設けられたセンサ11bにおいて測定されたカゴ内気圧[Pc]との偏差にゲイン[Kp]を掛けて操作量を求める。求めた操作量を、指令生成器15’に出力する。
<指令生成器15’による回転速度指令[n]の生成の詳細>
指令生成器15’において実施される回転速度指令[n]の生成の詳細は、第1実施形態において図2のフローを用いて説明した手順において、ステップS7のあとに、送風機13の回転速度指令[n]に対して、フィードバック制御器21から出力された操作量を加える手順を追加する。操作量を加えた結果として[αacc][αdec]を超える場合は、[αacc][αdec]を超えないように回転速度指令を修正する。なお、[αdec]の求め方は第1実施形態と同様である。
<第2実施形態の効果>
以上説明した第2実施形態のエレベータ装置2によれば、回転速度指令[n]の生成において、フィードバック制御器21から出力された操作量が回転速度指令の理想値[n0]に対して加えられる。このようなフィードバック制御を加えたことにより、最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]よりも小さい範囲で送風機13を駆動する期間では、フィードフォワード制御の誤差や外乱影響を、フィードバック制御で補償することができる。
つまり、第1実施形態および第2実施形態においては、原理説明のため、図3に例示した気圧パタン100のうち、気圧の変化率が最も急激な部分を抜き出して合成した図5の目標差圧[ΔPref]を用いて回転速度指令[n]の生成を説明している。しかしながら、実際の気圧パタンは気圧変化率が小さく条件が緩い期間も混在しており、同様に実際に生成される回転速度指令[n]にも、加速度および減速度が最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]よりも小さい期間が存在する。したがって、このような期間に対して、フィードバック制御による操作量を反映させることができ、この期間においては、第1実施形態の構成よりも、高精度にカゴ内気圧[Pc]を制御することが可能である。
また、第2実施形態のエレベータ装置2においては、フィードバック制御を加えた理想値[n0]に対して、第1実施形態と同様に送風機13の最大角減速度[αdec]を最大角加速度[αacc]を超えない大きさに抑えた回転速度指令[n]を生成している。これにより、第1実施形態と同様に、乗りカゴ11の隙間を通過する空気の漏れに起因して発生する、送風機13の加速運転時と減速運転時との乗りカゴ11内の気圧の制御性のバラツキを解消することができる。
ここで、フィードバック制御を加えた理想値[n0]に対しても、第1実施形態と同様に送風機13の最大角減速度[αdec]を抑えることの効果について、簡単のため、比例制御のみのフィードバック制御の例で説明する。比例ゲインを[K]とすると、偏差が[±e]のときの操作量は[±Ke]である。ここで、第1実施形態のステップS2において図7を用いて説明したように、送風機13の加速運転時の気圧変化の遅れが、減速運転時の気圧変化の遅れよりも大きい原理を考えると、正の偏差で操作量[Ke]を加えるのと負の偏差で操作量[Ke]を減じるのとでは、カゴ内気圧の変化への影響度が異なる。
仮に、加速運転時(差圧を増加させる方向)に合わせてフィードバックゲイン[K]を設定すると、次の減速運転時に目標に合わせて差圧を減少させたいときに操作量が過大となりオーバシュート気味になることが推測できる。下げ過ぎた差圧を回復するには、下げたとき以上に操作量を増加させる必要があり、回復が遅れて誤差が増大する。
このため、本第2実施形態においては、差圧を増大させる加速運転時に、できるだけ遅れが発生しないように、最大角加速度[αacc]の範囲で操作量が加えられるようにしている。その代わり、差圧を減少させる減速運転時には、操作量が過大となり差圧を下げ過ぎないように、最大角減速度[αdec]の範囲で操作量が加えられるようにしたものである。これにより、差圧を増大させる加速運転時に合わせてフィードバックゲイン[K]を設定して応答性を向上させ、制御誤差を低減する効果が得られる。
尚、以上の第1実施形態および第2実施形態においては、指令生成器が図2に示すフローの手順に従って、回転速度指令[n]を生成する構成を説明した。しかしながら、指令生成器による回転速度指令[n]の生成は、このような手順に限定されることはない。例えば、図2のフローにおいては、ステップS4において最大角減速度[αdec]を最大角減速度[αdec]=最大角加速度[αacc]に変更する処理を行った。しかしながら、最大角減速度[αdec]を、送風機13の性能限界上の値よりも小さい範囲で選択することにより、比較して空気の漏れに起因して発生する乗りカゴ11内の気圧の制御性のバラツキを抑制する効果が得られることからすれば、ステップS4においての最大角減速度[αdec]=最大角加速度[αacc]とする処理は行わなくても良い。
また例えば、回転速度指令[n]を生成するための、性能値[n1]を前倒しする時間差[Δt1]、および最大角減速度[αdec]は、図10に示した目標差圧[ΔPref]と乗りカゴの内外の気圧差[ΔPc2]との最大誤差が、許容範囲内となるとなる値を選択してもよい。さらに性能値[n1]を前倒しする時間差[Δt1]、および最大角減速度[αdec]は、実験的に求めるようにしても良い。
また、回転速度指令[n]における最大角減速度[αdec]は、最大角加速度[αacc]を超えない大きさに制限されていればよく、最大角加速度[αacc]を超えない大きさの範囲で予め設定されていても良い。この場合、指令生成器は、リミッタ機能を有するものであってもよい。
例えば第1実施形態の指令生成器の変形例としては、次のような構成が例示される。すなわち、図2に示すフローのステップS3までの手順に従って得た性能値[n1]を、時間差[Δt1]だけ前倒しし、指令生成器のリミッタ機能によって最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]を予め設定された大きさに制限する。
また第2実施形態の指令生成器の変形例としては、次のような構成が例示される。すなわち、図2に示すフローのステップS3までの手順に従って得た性能値[n1]を、時間差[Δt1]だけ前倒しし、これに対してフィードバック制御器で求めた操作量を加える。これに対して、さらに指令生成器のリミッタ機能によって最大角加速度[αacc]および最大角減速度[αdec]を予め設定された大きさに制限する。
さらに本発明は、上記した実施形態および変形例に限定されるものではなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
1,2…エレベータ装置、11…乗りカゴ、11a…カゴドア、11b…センサ、13…送風機、15,15’…指令生成器)、21…フィードバック制御器、100…気圧パタン、101…外気圧、[n]…回転速度指令、[αdec]…最大角減速度、[αacc]…最大角加速度、[Pref]…目標気圧、[Pc]…カゴ内気圧(乗りカゴ内の気圧)

Claims (8)

  1. 昇降自在に走行する乗りカゴと、
    前記乗りカゴと外気とに連通して設けられた送風機と、
    予め設定された走行中における前記乗りカゴ内の気圧パタンに基づいて前記送風機の回転速度を制御すための回転速度指令を生成する指令生成器とを備え、
    前記指令生成器は、前記乗りカゴの走行開始に先行して前記送風機の駆動を開始させると共に、前記送風機の最大角減速度を当該送風機の性能値よりも小さい値に設定した前記回転速度指令を生成し、
    前記回転速度指令における前記最大角減速度は、当該回転速度指令における最大角加速度を超えない大きさに設定される
    エレベータ装置。
  2. 前記回転速度指令は、前記乗りカゴのカゴドアが閉じた後で、かつ前記乗りカゴの走行開始前に前記送風機の駆動を開始させる
    請求項1に記載のエレベータ装置。
  3. 前記送風機は、ブレーキを備えた
    請求項1または2に記載のエレベータ装置。
  4. 前記乗りカゴ内の気圧を測定するセンサと、
    前記気圧パタンに示される当該乗りカゴ内の目標気圧と前記センサで測定した前記乗りカゴ内の気圧との偏差に基づいて操作量を求めるフィードバック制御器とを有し、
    前記指令生成器は、前記気圧パタンに対して前記フィードバック制御器で求めた操作量を加えて前記回転速度指令を生成する
    請求項1〜の何れか1項に記載のエレベータ装置。
  5. 前記気圧パタンは、前記乗りカゴの走行期間の前半と後半とで、当該乗りカゴ内の気圧が外気圧に対して陽圧と陰圧とで切り替わるパタンであり、
    前記送風機は、前記乗りカゴの走行期間の前半と後半とで、前記乗りカゴに対する機能が給気用と排気用とで切り替えて用いられ、
    前記回転速度指令は、前記乗りカゴの走行期間の後半においての前記最大角減速度が、前半においての前記最大角減速度よりも小さい
    請求項1〜の何れか1項に記載のエレベータ装置。
  6. 前記回転速度指令は、前記送風機の駆動開始と前記乗りカゴの走行開始の間隔よりも大きい間隔で、前記気圧パタンにおける陽圧と陰圧との切り替わり時点に先行させて、前記乗りカゴに対する当該送風機の機能を給気用と排気用とで切り替える
    請求項に記載のエレベータ装置。
  7. 前記送風機は、前記乗りカゴに対する給気用と排気用との2台で構成され、前記乗りカゴの走行期間の前半と後半とで当該2台の送風機を切り替えて用いる
    請求項に記載のエレベータ装置。
  8. 昇降自在に走行する乗りカゴ内の気圧を予め設定された気圧パタンに追従させるように、当該乗りカゴと外気とに連通して設けられた送風機の回転速度を制御するエレベータ気圧制御方法であって、
    前記気圧パタンと前記送風機の性能値とに基づいて、前記乗りカゴの走行開始に先行して前記送風機の駆動を開始させると共に、前記送風機の最大角減速度を当該送風機の性能値よりも小さい値で調整した回転速度指令を生成し、
    前記回転速度指令にしたがって前記送風機の駆動を制御し、
    前記回転速度指令の生成においては、最大角加速度で前記送風機を加速運転した場合の前記乗りカゴ内のカゴ内気圧の変化速度と、最大角減速度で当該送風機を減速運転した場合の当該乗りカゴ内のカゴ内気圧の変化速度とが同等になるように、前記乗りカゴの走行開始に対する当該送風機の駆動開始の前倒しの時間差と当該最大角減速度とを設定する
    エレベータ気圧制御方法。
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