JP6434766B2 - 鉄筋コンクリート造の設計方法及び鉄筋コンクリート造 - Google Patents
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Description
非特許文献1における鉄筋断面積とは、複数の梁用の主筋の断面積の合計値である。複数の梁用の主筋の断面積の合計は鉄筋量として、梁用の主筋の本数として換算される。
一般的な鉄筋コンクリート造では、設計用曲げモーメントが梁の付け根部で最大となることから、梁用の主筋の径や本数は、付け根部の設計用曲げモーメントの大きさに基づいて算出される。
そのため、梁用の主筋の径の大きさや本数は、付け根部の曲げモーメントが大きいと、1本あたりの梁用の主筋の強度が同一であれば、多くの梁用の主筋が必要とされたり、径の大きな主筋が必要とされたりする。
しかし、梁用の主筋の本数が多く配置できない場合には、梁幅を大きくして配置できるようにするか、主筋量を減らすために梁せいを大きくして梁あるいは柱梁接合部の断面積を大きくしなければならない。柱梁接合部の断面積を大きくすると、梁や柱全体や梁全体の断面積も大きくなり、居住空間が狭くなる。
降伏ヒンジの位置を梁の柱梁接合部の付け根部ではなく、この付け根部から離れた境界部とすることで、設計用曲げモーメントの大きさが小さくてもよい。つまり、設計用曲げモーメントは、柱梁接合部の付け根部で最も大きく、柱梁接合部から離れるに従って大きさは小さくなるため、降伏ヒンジを、付け根部ではなく、付け根部から離れた境界部とすることで、設計用曲げモーメントのモーメント値が小さくなり、その分、鉄筋量が少なくてすむ。
従って、本発明では、鉄筋量が少なくてすむので、梁や柱梁接合部の断面積を大きくすることを要せず、そのため、居住空間を広いものにできる。
この構成では、主筋の柱梁接合部の付け根部の応力が高強度部分の降伏点以下であるため、設定した降伏ヒンジ位置より先に柱梁接合部の付け根部が降伏しない。そのため、鉄筋コンクリート造自体の規準を満たすことができる。
この構成では、前述と同様の効果を奏することができる。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を図面の図1から図6に基づいて説明する。
図1には第1実施形態の全体構成が示されている。
図1において、建物は、複数の梁2と、梁2と接合する複数の柱3とを備えた複数階建ての鉄筋コンクリート造であり、鉄筋構造1にコンクリート体100が打設されている。
梁2と柱3とが接合された柱梁接合部200の形態としては、十字形接合S1やト形接合S2があるが、本実施形態では、他の接合に適用されるものでもよい。
水平方向に隣合う主筋21は、継手4で接合されている。継手4は、機械式継手や、それ以外の継手でもよい。あるいは、端部同士を重ね合わせ、針金等で結線する構成でもよい。さらには、端部同士を突き合わせて溶接等で接合する構成でもよい。
柱3の鉄筋構造1は、垂直方向に延びて所定間隔を空けて配筋された複数の柱用の鉄筋材31と、鉄筋材31の軸方向と交差する平面内において鉄筋材31を囲んで等間隔に鉄筋材31の延出方向に配筋されて柱3のせん断強度を補強する複数の柱用のせん断補強筋32とを備える。鉄筋材31及びせん断補強筋32は普通鉄筋である。
なお、図1は、本実施形態の概略を示すものであるため、主筋21や鉄筋材31の本数や配列は、後述する図2(B)とは異なる。
高強度部分211は、十字形接合S1と十字形接合S1から梁長さ方向に沿った高強度領域210Aとに配置される。普通強度部分212は、高強度領域210Aを挟んで十字形接合S1とは反対側に位置する普通強度領域210Bに配置されている。高強度部分211及び普通強度部分212は、1本の鉄筋から一体に形成されている。
普通強度部分212は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定されている。
高強度部分211は、普通強度部分212より高強度である。
例えば、高強度部分211の降伏点又は0.2%耐力は、490MPa(N/mm2)以上1000MPa(N/mm2)以下である。普通強度部分212の降伏点又は0.2%耐力は、295MPa(N/mm2)以上390MPa(N/mm2)以下である。
以上の構成の主筋21は、普通強度部分212と同じ強度の1本の普通鉄筋(SD345)を部分焼入れして高強度部分211にする。
高強度部分211は、ト形接合S2とト形接合S2から梁長さ方向に沿った高強度領域210Aとに配置される。普通強度部分212は、高強度領域210Aを挟んでト形接合S2とは反対側に位置する普通強度領域210Bに配置されている。
図2では、設計用曲げモーメント分布が(A)に示され、主筋の概略正面図が(B)に示され、概略断面図が(C)に示されている。
図2(B)に示される通り、主筋21は、上下にそれぞれ水平に配置された上部21A及び下部21Bと、上部21A及び下部21Bの間の高さ位置に配置された側部21Cとからなる。
主筋21のうち十字形接合S1から外れた位置には、上部21A、下部21B及び側部21Cの外周部分を覆うようにせん断補強筋22が複数配置されている。これらのせん断補強筋22は、梁の長手方向に沿って互いに等間隔に配置されている。
梁の引張鉄筋比が釣合鉄筋比以下のときは、許容曲げモーメント(設計用曲げモーメント)は次式による。
M=atftj ……式(A)
ここで、atは引張鉄筋断面積であり、ftは鉄筋の許容引張応力度であり、jは梁の応力中心距離である。引張鉄筋断面積atは、主筋21が上下に分かれて複数本ずつ配置されている場合には、上下それぞれ配置された主筋21の断面積の合計値である。
dを梁の有効せい(圧縮縁から引張鉄筋の重心までの距離で、曲げモーメントが作用したときに下側の鉄筋が引張応力となる場合には、下側の主筋の重心Gから梁上面までの寸法(図3(C)参照))とすると、jは(7/8)dあるいは0.9dとしてもよい。許容引張応力度ftは、鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説で規定された下記の表から求められる。例えば、SD345の主筋21では、短期許容引張応力度は345N/mm2である。
長期荷重時に正負最大曲げモーメントを受ける部分の引張鉄筋断面積は0.004bd(bは梁幅)又は存在応力によって必要とされる量の4/3倍のうち、小さい方の数値以上とする。
主要な梁は、全スパンにわたり複筋梁とする。
主筋は、D13(Dは呼び名)以上の異形鉄筋とする。
主筋のあきは、25mm以上かつ異形鉄筋の径(呼び名の数値mm)の1.5倍以上とする。
主筋の配置は、特別な場合を除いて2段以下とする。
なお、主筋21の柱梁接合部200の付け根部Rの応力は、高強度部分211の降伏点以下である。
図2(A)で示される設計用曲げモーメントでは、最大値が梁の左側の付け根部Rの位置であり、最小値が梁の右側の付け根であり、これらの中間位置(隣合う主筋21の普通強度部分同士が接合される位置の近傍(梁の中央部付近))で0となる。降伏ヒンジの位置Qは付け根部Rより小さな値となる。
本実施形態では、主筋21の鉄筋量を図2(A)の設計用曲げモーメントの降伏ヒンジの位置Qでの値から算定する。
鉄筋量は引張鉄筋断面積atから求められる。鉄筋本数は、断面積atから1本あたりの主筋21の断面積を除算することで求められる。
図3、図4及び図5は試験体を示す。
図3及び図4において、試験体は、複数の梁用の主筋21と複数の柱用の鉄筋材31とにコンクリート体100が打設されたものである。主筋21は、SD345の鉄筋の一部を焼入れして高強度部分を形成する。
梁の幅寸法2Y0は250mmであり、高さ寸法2Z0は400mmである。梁の有効せいdは346mmである。
複数の主筋21の外周部には複数のせん断補強筋22が等間隔に配置されている。せん断補強筋22はSBPD1275からなる。隣合うせん断補強筋22の間隔は、150mmである。
主筋21の両端部には梁用端鋼板250が設けられており、鉄筋材31の両端部には柱用端鋼板260が設けられている。梁用端鋼板250は、490mm×390mm×25mmの寸法の鋼板である。柱用端鋼板260は、660mm×760mm×25mmの寸法の鋼板である。
複数の鉄筋材31の外周部には複数のせん断補強筋32が等間隔に配置されている。せん断補強筋32はSBPD1275からなる。
鉄筋材31は、D19(SD345)からなり、柱の外周に沿って16本が配置される。鉄筋材31は、その全長寸法3Lが1860mmであり、梁の下縁から下端までの寸法3L1が850mmであり、梁の上縁から上端までの寸法3L2が610mmである。
高強度部分211の長さ寸法2L1は986mmであり、普通強度部分212の長さ寸法2L2は、632mmである。
高強度部分211と普通強度部分212との境界部と、柱梁接合部200の梁の付け根との間の寸法Sは、318mmである。
コンクリート体100のコンクリート強度は、40.2N/mm2であり、ヤング率は2.78×104N/mm2であり、最大強度時ひずみは2406μである。
試験体の柱の軸力比は0.16であり、柱梁接合部の補強量は0.32%であり、柱梁曲げ強度比は2.07であり、接合部せん断余裕度は1.23である。
付け根部Rの曲げモーメントとして予め設定された値が127.2kN・mであり、付け根部Rから曲げモーメントが0となる位置(加圧点)までの寸法が1425mmであり、付け根部Rから降伏ヒンジの位置Qまでの寸法Sが318mmであると、降伏ヒンジの位置Qでの曲げモーメントの値Mは、これらの数値の比から、127.2×(1425−318)/1425≒98.8(kN.m)となる。
式(A)から、M=atftjであるため、98.8=at×345×346×0.9であり、この式から、梁2の上半分に配置された主筋21の鉄筋量atは911mm2である。ここで、使用できる鉄筋は径寸法の規格が決まっているので、鉄筋量atに近づくように、既存の径寸法の鉄筋を選択する。つまり、断面積が127mm2のD13(SD345)の鉄筋を4本、断面積が199mm2のD16(SD345)を2本用いると、これらの主筋21の鉄筋量の合計が906mm2であり、計算で求めた鉄筋量にきわめて近い。そして、図5(A)で示される通り、上部21Aの中央に2本のD13(SD345)の主筋21を配置し、上部の左右角部にそれぞれ1本ずつのD16(SD345)の主筋21を配置し、側部21Cのうち上側の左右にD16の主筋21を1本ずつ配置する。同様に、梁2の下半分に配置された主筋21の鉄筋量atは911mm2となる。
試験体は、梁用の主筋の構成以外は図3及び図4で示される試験体と基本的に同じ構成である。
従来例に対応する試験体では、コンクリート体100のコンクリート強度は、39.2N/mm2であり、ヤング率は2.90×104N/mm2であり、最大強度時ひずみは2319μである。
試験体の柱の軸力比は0.16であり、柱梁接合部の補強量は0.32%であり、柱梁曲げ強度比は2.04であり、接合部せん断余裕度は1.25である。
従来例に対応する試験体では、本実施形態と対応する試験体とは使用される鉄筋から異なるため、圧縮縁から主筋(引張鉄筋)の重心までの距離である梁の有効せいdは343mmである。従来例では、降伏ヒンジの位置が付け根部Rであり、この付け値部Rでの曲げモーメントの値が127.2kN・mである。
許容引張応力度ftは、表1から、345N/mm2である。
式(A)から、M=atftjであるため、127.2=at×345×343×0.9であり、この式から鉄筋量atは1194mm2である。
このように求められた鉄筋量に基づいて、主筋21Pを配置すると、断面積が199mm2のD16(SD345)の主筋21Pを6本用いることになる。これらの主筋21Pの配列を図5(B)に示す。
図5(B)に示される通り、上部21Aの中央及び両角部に4本の主筋21Pを配置し、下部21Bの中央及び両角部に4本の主筋21Pを配置し、側部21Cに上下左右に主筋21Pを1本ずつ配置した。
実験は、試験体の梁端と柱端との合計4点を支点とし、柱下端をピン支持とし、柱上端に三軸一点クレビスを設け、梁の両端にそれぞれジャッキを取り付けた。軸力及び水平力は柱頭から導入し、変位制御で正負交互繰り返して載荷として、層せん断力と層間変形角との関係を調べた。主筋の降伏の判断は鉄筋のひずみゲージで行った。
図6には層せん断力と層間変形角との関係が示されている。(A)が実施形態に対応した試験体のグラフであり、(B)が従来例に対応した試験体のグラフである。
図6(A)と図6(B)とを対比すると、層間変形角が±1.0%の範囲Tでは、実施形態に対応する試験体と従来例に対応する試験体とでは、層せん断力にかわりがない。
層間変形角は、概ね±1.0%の範囲Tが設計上重要な範囲あるため、この範囲Tで、両者に差異がないことにより、本実施形態の設計方法を用いて設計された鉄筋コンクリート造に問題がないことがわかる。
(1)降伏ヒンジの位置Qの曲げモーメントを設計用曲げモーメントとして算定するにあたり、降伏ヒンジの位置Qを、梁の柱梁接合部200の付け根部Rではなく、この付け根部Rから離れた高強度部分211と普通強度部分212との境界部とした。つまり、降伏ヒンジの位置Qを、付け根部ではなく、付け根部から離れた境界部とすることで、設計用曲げモーメントが小さくなり、その分、鉄筋量が少なくてすむ。鉄筋量が少なくてすむので、梁や柱梁接合部の断面積を大きくすることを要せず、そのため、居住空間を広いものにできる。
(3)主筋21の柱梁接合部200の付け根部Rの応力が高強度部分211の降伏点以下であるため、大きな外力が作用したとき、設計通りに高強度部分211と普通強度部分212との境界部で降伏させることができるから、建物自体の規準を満たすことができる。
本発明の第2実施形態を図7に基づいて説明する。
第2実施形態は、主筋21の構成が第1実施形態とは異なり、他の構成は第1実施形態と同じである。第2実施形態の説明では、第1実施形態と同一の構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
図7(B)に示される通り、主筋21Pは、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定される普通鉄筋から構成されるものであり、普通鉄筋の降伏点又は0.2%耐力は、295MPa(N/mm2)以上390MPa(N/mm2)以下である。
本実施形態では、普通強度部分212は、前述の主筋21Pから構成され、高強度部分211は、これらの主筋21Pと4本の補強筋21Qとから構成されている。
補強筋21Qは、十字形接合S1と十字形接合S1から梁長さ方向に沿った高強度領域210Aとに配置される。
補強筋21Qは、主筋21Pと同じ材料からなる普通鉄筋から構成される。補強筋21Qは、例えば、側部21Cの間に配置されるものであり(図7(C)参照)、その本数は、後述するように、設計用曲げモーメントに基づいて設定される。
モーメント値Mは、降伏ヒンジの位置Qでの値であり、本実施形態では、降伏ヒンジの位置Qは高強度部分211と普通強度部分212との境界部である。
本実施形態では、主筋21Pの鉄筋量を第1実施形態と同様の方法で算出する。寸法Sの区間では、柱梁接合部200の付け根部Rの曲げモーメントに対して、逆算して求められる応力が鉄筋の降伏点以下となるような鉄筋量とすればよい。その結果、左右に隣合う側部21Cを構成する主筋21Pの間に2本ずつの補強筋21Qを配置することで(図7(C)参照)、普通強度部分212より強度の大きな高強度部分211を設定することができた。
(4)梁用の主筋21Pの鉄筋量を、降伏ヒンジの位置Qの曲げモーメントを設計用曲げモーメントとして算定するにあたり、降伏ヒンジの位置Qを補強の境界部に設定したから、設計用曲げモーメントのモーメント値が小さくなり、その分、鉄筋量が少なくてすむ。
例えば、本発明では、建築構造物以外にも、橋等の土木構造物にも適用することができる。
Claims (3)
- 柱と接合される複数の梁用の主筋を備え、前記梁用の主筋は、普通強度部分と、前記普通強度部分よりも強度が大きい高強度部分とを有し、前記高強度部分は、前記梁用の主筋のうち前記柱と接合される柱梁接合部と前記柱梁接合部から梁長さ方向に沿って突出した高強度領域とに配置され、前記普通強度部分は、前記高強度領域を挟んで前記柱梁接合部とは反対側に位置する普通強度領域に配置された鉄筋コンクリート造を設計する方法であって、
前記普通強度部分は降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された295MPa(N/mm 2 )以上390MPa(N/mm 2 )以下であり、前記高強度部分は前記普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きい490MPa(N/mm 2 )以上1000MPa(N/mm 2 )以下であり、
前記梁用の主筋は、前記普通強度部分と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして前記高強度部分とし、
前記梁用の主筋の鉄筋量を、降伏ヒンジの位置の曲げモーメントを設計用曲げモーメントとして算定するにあたり、前記降伏ヒンジの位置を前記高強度部分と前記普通強度部分との境界部に設定する
ことを特徴とする鉄筋コンクリート造の設計方法。 - 請求項1に記載された鉄筋コンクリート造の設計方法において、
前記主筋の前記柱梁接合部の付け根部の応力が前記高強度部分の降伏点以下である
ことを特徴とする鉄筋コンクリート造の設計方法。 - 請求項1又は請求項2に記載された鉄筋コンクリート造の設計方法で設計されたことを特徴とする鉄筋コンクリート造。
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