[第1実施形態]
本発明に係る、濾過袋タイプの固液分離フィルターに用いられる固液分離フィルター材の第1実施形態について詳しく説明する。
本実施形態の固液分離フィルター材は、湿熱接着性繊維の集合体であるウェブを湿熱処理することにより、湿熱接着性繊維を部分接着させて形成された、見掛け密度0.05〜0.4g/cm3の不織布を含む。
湿熱接着性繊維は湿熱処理により接着性を示す湿熱接着性樹脂を含む繊維であって、例えば、高温水蒸気や熱水に接触させる等の湿熱処理により接着性を帯び、湿熱接着性繊維同士、または、湿熱接着性繊維と湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性繊維とを接着する繊維である。湿熱処理により湿熱接着性樹脂は接着性を帯びる。そのためにニードルパンチや水流絡合処理のような厚み方向に繊維を絡合させて繊維を固定するような処理を用いずに、繊維を固定することができる。
また、湿熱接着性樹脂は親水性が高い樹脂であるために、吸水性に優れている。そのために、固液分離フィルター材として用いた場合には、高い通水性能を発揮する。
湿熱接着性繊維の集合体であるウェブは、湿熱接着性繊維を含むウェブであればとくに限定なく用いられる。湿熱接着性繊維としては、1種類の湿熱接着性樹脂のみを含む繊維であっても、異なる種類の湿熱接着性樹脂同士を組み合わせて複合化された複合繊維であっても、湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性樹脂と湿熱接着性樹脂とを組み合わせて形成された複合繊維であってもよい。湿熱処理の条件は特に限定されないが、例えば、70〜150℃、さらには90〜130℃、とくには80〜120℃程度の高温水蒸気や熱水に接触させるような条件が挙げられる。
湿熱接着性樹脂の具体例としては、例えば、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体;ポリエチレンオキシド,ポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシドおよびそれらを骨格中に有する重合体;セルロース又はその誘導体;カルボキシ基,水酸基,エーテル基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体20〜100質量%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0質量%とを重合して得られる重合体;等が挙げられる。
なお、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体の具体例としては、例えば酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,酪酸ビニル,カプロン酸ビニル等が挙げられる。また、不飽和二重結合を有するその他の単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル,(メタ)アクリルアミド,N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド,スチレン,メチルビニルエーテル,ビニルピロリドン,エチレン,プロピレン,ブタジエン等が挙げられる。また、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリアルキレンオキシドおよびそれらを骨格中に有する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどを共重合したポリエステルまたはポリウレタン等が挙げられる。また、セルロースの誘導体の具体例としては、例えば、メチルセルロースなどのアルキルセルロースエーテル,ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロースエーテル,カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロースエーテルまたはそれらの塩等が挙げられる。また、カルボキシ基,水酸基,エーテル基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸,(無水)マレイン酸,イタコン酸,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル,4−ヒドロキシスチレン,メチルビニルエーテル,エチルビニルエーテル,(メタ)アクリルアミド,N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドおよびビニルピロリドン等が挙げられる。なお、例えば、(メタ)アクリル酸のような表記は、メタアクリル酸またはアクリル酸を意味するものとする。従って、(メタ)アクリルアミドの表記はメタクリルアミドまたはアクリルアミドを意味する。
上述したような湿熱接着性樹脂は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体が、湿熱接着性に優れ、また、高い強度や耐摩耗性を維持する点から好ましい。なお、ビニルエステル基含有単量体とその他の単量体との重合体は、ケン化により主鎖骨格中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。
加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体単位とその他の単量体単位とを含む重合体中の、その他の単量体単位の共重合率としては、20〜60モル%、さらには、25〜55モル%、とくには、30〜50モル%であることが好ましい。
また、加水分解によりビニルアルコール骨格を形成するビニルエステル基含有単量体20〜100モル%と不飽和二重結合を有するその他の単量体80〜0モル%との重合体を加水分解(ケン化)して得られる重合体としては、酢酸ビニルとエチレンとの重合体のケン化物である、エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化物(エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)とも称される)が特に好ましい。
EVOHのエチレン単位の共重合率としては、20〜60モル%、さらには25〜55モル%、とくには30〜50モル%であることが好ましい。エチレン単位の共重合率がこのような範囲である場合には、湿熱接着性は高いが熱水溶解性は低いという性質が得られる。エチレン単位の共重合率が低すぎる場合には、低温の水や水性スラリーに容易に膨潤したりゲル化しやすいEVOHが得られる傾向があり、得られる固液分離フィルター材の耐久性が低下しやすくなる傾向がある。また、エチレン単位の共重合率が高すぎる場合には、吸湿性が低下することにより湿熱接着性が低下する傾向がある。
また、EVOHにおけるビニルエステル単位のケン化度(加水分解した割合)としては、90〜99.99モル%、さらには93〜99.9モル%、とくには95〜99.5モル%程度であることが好ましい。ケン化度が低すぎる場合には、熱安定性が低下することにより紡糸時に熱分解やゲル化を起こしやすくなる傾向がある。また、ケン化度が高すぎる場合には、ケン化に長時間要するために生産性が低下するのに対して顕著な改善効果が低い傾向がある。
また、湿熱接着性繊維が湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合繊維であることが、得られる不織布の見掛け密度や強度を調整しやすい点から好ましい。非湿熱接着性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド10,ポリアミド12,ポリアミド6−12,ポリアミド9T等のポリアミド系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;塩化ビニル系樹脂;スチレン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリウレタン系樹脂;熱可塑性エラストマー等の非水溶性樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂が、とくにはポリエチレンテレフタレートが、EVOHのような湿熱接着性樹脂よりも融点が高く、耐熱性や繊維形成性に優れる点から特に好ましい。
湿熱接着性樹脂が複合繊維である場合、湿熱接着性樹脂は、非湿熱接着性樹脂からなる繊維の表面に、その長手方向に連続するように被着されていることが好ましい。また、複合繊維の横断面の相構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型または多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型等が挙げられる。これらの中では、湿熱接着性樹脂が鞘部を形成し、非湿熱接着性樹脂または他の湿熱接着性樹脂繊維が芯部を形成し、湿熱接着性樹脂が繊維の表面を覆う芯鞘型構造であることが、湿熱接着性が高い点から好ましい。また、湿熱接着性繊維は、非湿熱接着性繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコートして形成されるような繊維であってもよい。
湿熱接着性繊維が湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合繊維である場合、湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂との複合割合は、湿熱接着性樹脂を少なくとも表面に有して湿熱接着性を維持する繊維であれば特に限定されず、複合繊維の横断面構造等に応じて適宜調整される。具体的には、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂が、25/75〜90/10、さらには35/65〜80/20、とくには40/60〜75/25、ことには45/55〜70/30程度であることが好ましい。なお、湿熱接着性樹脂の割合が低すぎる場合には、繊維の長手方向に連続して表面を覆いにくくなり、湿熱接着性が低下して、得られる固液分離フィルター材の強度や耐久性、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、湿熱接着性樹脂の割合が高すぎる場合には、非湿熱接着性樹脂との複合化による強度や耐久性の向上効果が充分に得られなくなる傾向がある。
また、湿熱接着性繊維の捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、さらには5〜50個/25mm、とくには10〜30個/25mm程度であることが好ましい。
繊維ウェブを形成するための繊維成分は、湿熱接着性繊維に組み合わせて、湿熱処理により接着性を示さない非湿熱接着性繊維を含んでもよい。非湿熱接着性繊維を形成する樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体等のアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂等のアクリル系樹脂;ポリビニルアセタール系樹脂;ポリ塩化ビニル,塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体,塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂;塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体,塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体等のポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリスチレン,スチレン−メタクリル酸メチル共重合体等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド610,ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド系樹脂やポリアミド6T,ポリアミド9T等の半芳香族ポリアミド系樹脂等のポリアミド系樹脂;ビスフェノール型ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの樹脂には、共重合可能なその他の単量体単位が含まれていてもよい。これらの樹脂の中では、ポリオレフィン系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリアミド系樹脂から選ばれる、湿熱処理で溶融または軟化して融着しない軟化点または融点が100℃以上の樹脂が好ましく、さらには、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点からポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂がとくに好ましく、ポリエステル系樹脂が最も好ましい。
非湿熱接着性繊維としては、とくに、湿熱処理等による加熱により捲縮が増加する、熱収縮率または熱膨張率の異なる複数の樹脂が非対称または層状に複合化された繊維断面の相構造を有する複合繊維である、いわゆるバイメタル構造を有する潜在捲縮繊維を用いることがとくに好ましい。このようなバイメタル構造を有するような潜在捲縮繊維は、互いの樹脂の熱収縮率等の違いにより、加熱により捲縮を顕在化させる繊維である。潜在捲縮繊維は湿熱処理時に捲縮を顕在化させるために、湿熱接着性繊維とともに繊維ウェブに含有させることにより不織布の見掛け密度の調整に寄与する。
潜在捲縮繊維を形成する熱収縮率または熱膨張率の異なる複数の樹脂としては、互いに熱収縮率または熱膨張率が異なる樹脂の組み合わせであれば、特に限定なく用いられ、同系の樹脂の組み合わせや、異系の樹脂の組み合わせであってもよい。なお、同系の樹脂の組み合わせであることが密着性に優れる点からとくに好ましい。同系の樹脂を組み合わる場合には、例えば、少なくとも一種の樹脂を変性するために少量成分の変性用の単量体を共重合させ、その成分や割合を調整することにより融点、軟化点、結晶化度等を制御して熱収縮率や熱膨張率を調整できる。変性用の単量体の含有割合としては、1〜50モル%、さらには2〜40モル%、とくには3〜30モル%、ことには5〜25モル%程度であることが好ましい。このようにして、互いの樹脂の融点または軟化点の差が5〜150℃、さらには50〜130℃、とくには70〜120℃程度になるような組み合わせを選択することが好ましい。
このような潜在捲縮繊維を形成するための熱収縮率または熱膨張率が異なる樹脂の組み合わせの具体例としては、例えば、ポリエステル系樹脂同士の組み合わせやポリアミド系樹脂同士の組み合わせが、さらにはポリエステル系樹脂同士の組み合わせ、とくにはポリエチレンテレフタレート(PET)と変性PETとの組み合わせが製造性と物性のバランスに優れている点から好ましい。なお、変性PETは、PETの構成成分であるエチレングリコールおよびテレフタル酸に、少量成分として、エチレングリコール以外のジオール成分またはテレフタル酸以外のジカルボン酸成分を共重合することにより変性されたPETである。エチレングリコール以外のジオール成分の具体例としては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど等が挙げられる。またテレフタル酸以外のジカルボン酸成分の具体例としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。
非湿熱接着性繊維が熱収縮率または熱膨張率の異なる複数の樹脂が複合化された潜在捲縮繊維である場合、その横断面の相構造としては、例えば、異なる相が隣り合う構造であるサイドバイサイド型または多層貼合型のようなバイメタル構造、相構造が非対称な偏芯芯鞘型構造または並列型構造、芯鞘型構造、海島型構造、ブレンド型構造、放射状貼合型や中空放射型のような放射型構造、ブロック型構造、ランダム複合型構造等が挙げられる。これらの中では、加熱による高い捲縮性を発現させ易い点からバイメタル構造や偏芯芯鞘型構造または並列型構造がとくに好ましい。このような潜在捲縮繊維は、加熱により、螺旋状やつるまきバネ状のようなコイル状の立体捲縮を顕在化または増加させる。
このような潜在捲縮繊維の捲縮数は、加熱前は0〜30個/25mm、さらには1〜25個/25mm、とくには5〜20個/25mm程度であり、加熱後は、30〜200個/25mm、さらには35〜150個/25mm、とくには40〜120個/25mm、ことには50〜100個/25mm程度であることが好ましい。
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維とを組み合わせて用いる場合、その質量比は特に限定されないが、得られる固液分離フィルター材の機械的特性等のバランスから、湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との合計量に対する非湿熱接着性繊維の含有割合は70質量%以下、さらには60質量%以下、とくには50質量%以下、ことには40質量%以下であることが好ましい。非湿熱接着性繊維は、単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
繊維ウェブを形成する湿熱接着性繊維や非湿熱接着性繊維の平均繊維径は特に限定されないが、1〜1000μm、さらには5〜100μm、とくには10〜50μmであることが好ましい。平均繊維径が大きすぎる場合には、平均細孔径が大きくなりすぎてシルト等を捕捉しにくくなり、平均繊維径が小さすぎる場合には、ウェブの作成が困難になり、平均細孔径も小さくなりすぎて被処理液のろ過速度が低下する。
また、繊維ウェブを形成する湿熱接着性繊維や非湿熱接着性繊維の平均繊維長も特に限定されないが、例えば10〜100mm、さらには20〜80mm、とくには25〜75mm程度であることが好ましい。この範囲であれば、カード機による繊維間の開繊状態がより良好となり、各繊維が均一に分散した繊維ウェブを得ることができる。それにより均一な繊維絡合体を形成できるために、繊維間の距離が近くなる。その結果、湿熱処理によって繊維間の接着点となりやすい部位が数多く且つ均一に形成されることにより、平均細孔径の分布が小さくなるとともに、湿熱接着性繊維の接着性が向上し、不織布の機械的強度も均質になる。
繊維ウェブを形成する繊維の横断面の形状も特に限定されない。具体例としては、例えば、一般的な中実断面形状である丸型断面や、偏平状,楕円状,多角形状,3〜14葉状,T字状,H字状,V字状,ドッグボーン(I字状),中空断面等の異型断面等が挙げられる。
また、不織布が潜在捲縮繊維を含む場合には、捲縮が顕在化した後の捲縮繊維の捲縮数が厚さ方向においてほぼ均一であることが好ましい。また、捲縮繊維のコイルで形成される円の平均曲率半径は、10〜900μm、さらには20〜700μm、とくには30〜500μm、ことには40〜300μm、最も50〜200μmであることが固液分離フィルター材の見掛け密度を好適な範囲に調整しやすく、製造も容易である点から好ましい。なお、平均曲率半径は、捲縮繊維のコイルにより形成される円の平均的大きさを表す指標であり、この値が大きい場合は形成されたコイルがルーズな形状を有し、言い換えれば捲縮数の少ない形状を有していることを意味する。また、コイル状に捲縮した複合繊維において、コイルの平均ピッチは、0.03〜5mm、さらには0.03〜2mm、とくには0.05〜1mm、ことには0.05〜0.5mm程度であることが好ましい。
また、上述した繊維成分には、本発明の効果を損なわない限り、例えば、熱安定剤,紫外線吸収剤,光安定剤,酸化防止剤等の安定剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤等の添加剤を必要に応じて含有してもよい。また、本発明の効果を阻害しない限り、繊維の外部に熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,無機粒子等を必要に応じて含んでもよい。
上述したような湿熱接着性繊維の集合体であるウェブを湿熱処理することにより、湿熱接着性繊維を部分接着させて形成される不織布の見掛け密度は0.05〜0.4g/cm3であり、0.1〜0.3g/cm3、とくには0.1〜0.2g/cm3であることが好ましい。見掛け密度が0.05g/cm3未満の場合には、平均細孔径が大きくなりすぎてシルト等を充分に捕捉しにくくなり、また、耐久性も低下する。一方、見掛け密度が0.4g/cm3を超える場合には平均細孔径が小さくなりすぎて被処理水のろ過速度が低下する。
さらに、不織布中の繊維は、各々の繊維の接着点で接着しているが、この接着点が厚さ方向に沿って、表面から中央部を経て裏面に至るまで、ほぼ均一に分布していることが好ましい。接着点が表層または内層に偏在する場合には、不織布の特性が厚み方向で不均一になる傾向がある。
本実施形態の固液分離フィルター材は、細孔径分布において、平均細孔径が30〜200μmである。平均細孔径が小さすぎる場合には被処理水のろ過速度が低下する傾向がある。また、平均細孔径が大きすぎる場合にはシルト等を充分に捕捉できなくなる傾向がある。また、最大細孔径は500μm以下、さらには300μm以下であることが好ましい。最大細孔径が大きすぎる場合には、シルト等を充分に捕捉できなくなる傾向がある。
また、固液分離フィルター材は、細孔径分布において、5〜1000μmの範囲に細孔径ピークを一つのみ有することが好ましい。ニードルパンチや水流絡合法によりウェブを厚み方向に絡合させて得られた不織布の場合には、ニードルパンチや水流絡合の痕である比較的大きな孔が形成され、5〜1000μmの範囲に細孔径ピークが2つ以上形成されやすい。このとき、細孔径が大きい方の孔からシルトがすり抜けやすくなる傾向がある。また、細孔径分布において、細孔分布の標準偏差としては40m以下、さらには30m以下であることが好ましい。
また、フラジール形法による通気度としては、10〜110cm3/(cm2・秒)、さらには30〜90cm3/(cm2・秒)であることが、被処理水のろ過速度とシルト等の捕捉性とのバランスに優れる点から好ましい。
次に、本実施形態の固液分離フィルター材の製造方法の一例を説明する。
はじめに、上述したような湿熱接着性繊維を含む繊維ウェブを製造する。繊維ウェブの製造方法の具体例としては、例えば、スパンボンド法、メルトブロ一法などの直接法を用いて溶融紡糸された繊維をそのまま積層するようにしてウェブ化する方法や、ステープル繊維をカーディングしてウェブ化するカード法やエアレイ法等の乾式法等、特に限定されない。これらの中では、特にステープル繊維を用いたカード法が好ましく用いられる。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
次に、得られた繊維ウェブを湿熱処理することにより繊維同士を接着させて不織布を形成する。具体的には、例えば、得られた繊維ウェブをメッシュコンベアで搬送しながら、蒸気噴射装置のノズルから噴出される高温水蒸気(スチームジェット、高圧スチーム)に接触させることにより繊維同士を接着させて不織布を得ることができる。
蒸気噴射装置から噴射される高温水蒸気は、蒸気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、繊維ウェブ中の繊維を大きく動かさずに繊維ウェブの内部に進入する。そして、繊維ウェブ中に蒸気流が進入することにより、繊維ウェブを形成する湿熱接着性繊維が接着性を帯び、繊維同士が接着される。このような方法によれば、湿熱処理が蒸気の高速気流下で短時間で行われるために、繊維表面に対しては熱が充分に付与され、一方、繊維内部に対しては過剰な熱が伝わる前に湿熱処理が終了する。そのため、蒸気の圧力や熱により繊維の形態が完全には失われることがない。その結果、繊維ウェブの溶融または軟化による大きな変形が生じることなく、厚み方向に均一に接着された不織布が得られる。
また、上述したような繊維ウェブを湿熱処理することにより得られる不織布は、ニードルパンチ等の機械的交絡によらないために、繊維ウェブ面に対して平行に繊維を配列した状態を維持することができる。すなわち、ニードルパンチ痕の孔や、繊維ウェブ面に対して垂直な厚み方向に配向した繊維が少なくなる。ニードルパンチ痕の孔はニードルの針径に近い大きさになる。繊維直径が大きい繊維を絡合させるためには、比較的太い針径のニードルが用いられるために、このような場合には、比較的大きな、例えば100μmを超えるようなニードルパンチ痕の孔が残る。このような場合には、ニードルパンチ痕の孔からシルトのような数十μm程度の微粒子はすり抜けてしまう。また、厚さ方向に沿って配向した繊維が多い場合には、その周辺に繊維配列の乱れが生じるために、その周囲の細孔が大きくなったり、細孔径の分布が大きくなったりする。
高温水蒸気の圧力は、繊維ウェブを湿熱処理することにより湿熱接着性繊維を接着させうる限り特に限定されない。具体的には、例えば、0.05〜3MPa、さらには0.1〜2MPa、とくには0.2〜1.5MPa、ことには0.3〜1MPa程度であることが好ましい。蒸気の圧力や気流の速度が高すぎる場合には、繊維ウェブ中の繊維が動くことにより地合に乱れを生じたり、繊維形状を保持されない部分が生じたりする傾向がある。また、蒸気の圧力や気流の速度が低すぎる場合には、繊維ウェブを形成する繊維同士を接着させるのに充分な熱量が付与されなかったり、水蒸気が繊維ウェブを充分に通過せず厚さ方向に接着斑を生じたりする場合がある。さらに、ノズルからの蒸気の均一噴出の制御が困難になる場合もある。高温水蒸気の温度としては、70〜150℃、さらには80〜140℃、とくには90〜130℃、ことには100〜120℃程度であることが好ましい。
また、繊維ウェブが、加熱により捲縮を生じる潜在捲縮繊維を含む場合には、高温水蒸気による処理により捲縮が発現しコイル状となる。高温水蒸気は気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、被処理体であるウェブ中の繊維を大きく移動させることなくウェブ内部へ進入する。このウェブ中への水蒸気流の進入作用によって、水蒸気流がウェブ内に存在する各繊維の表面を効率的に覆い、均一な熱捲縮の発現を可能にすると考えられる。また、乾熱処理に比べても、ウェブ内部の繊維に対して充分に熱を伝えることができるため、繊維ウェブの表面および厚さ方向における捲縮の程度が概ね均一になる。
上述したような湿熱処理を行うための装置の構成としては、コンベアやローラーを用いて繊維ウェブを搬送しながら、繊維ウェブを蒸気や熱水に接触させるような構成であれば特に限定されないが、代表的な構成を以下に説明する。
互いの間隔を任意に調整可能な、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとを備える一対のコンベア装置を準備する。そして、コンベア装置の片側のメッシュコンベアの背面に、他の側のメッシュコンベアに向けて略垂直に蒸気を噴射するように蒸気噴射装置を配置する。そして、このような装置構成の湿熱処理装置において、不織布が目的とする厚みになるように上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間隔を調整し、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間に繊維ウェブを介挿し、介挿した状態で繊維ウェブを搬送する。そして、搬送される繊維ウェブが蒸気噴射装置から噴射される蒸気に接触することにより、繊維ウェブを形成する繊維同士が接着されて不織布が形成される。
なお、背面に蒸気噴射装置が配されたメッシュコンベアに対向する、他の側のメッシュコンベアの背面には、必要に応じて蒸気を吸引排出するためのサクションボックスを配置してもよい。サクションボックスを配置することにより、繊維ウェブに蒸気を効果的に通過させることができる。また、蒸気噴射装置とサクションボックスとは一組のみであっても、例えばコンベア装置の上流側と下流側に1組ずつ配するように、複数組設けるような構成であってもよい。なお、コンベア装置の上流側と下流側に1組ずつ配する場合、上流側と下流側の噴蒸気噴射装置とサクションボックスとを互いに逆方向に向くように配置することが好ましい。このように配置することにより、繊維ウェブの表面及び裏面の両面から蒸気を通過させるために、厚み方向の接着斑を抑制することができる。また、蒸気噴射装置とサクションボックスを一組のみ配置する場合には、一度蒸気噴射装置で湿熱処理した繊維ウェブを、表裏を反転させて再度蒸気噴射装置で湿熱処理することにより、厚み方向の接着斑を抑制することができる。また、サクションボックスを配置しない場合には、その代わりにメッシュコンベアの背面にステンレス板などを設置して蒸気が抜けない構造にすることにより、一旦繊維ウェブを通過した蒸気がステンレス板で留められるために蒸気の保温効果によって接着斑が抑制される。
また、不織布の見掛け密度を調整するためには、目付け量を調整した繊維ウェブを用い、上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとの間、またはローラーのギャップ等を調整して、所定の厚さに圧縮した状態で蒸気を噴射することが好ましい。また、メッシュコンベアの場合には、急激に繊維ウェブを圧縮することが難しいために、メッシュコンベアの張力を高く設定し、上流側から下流側に向かって徐々に上側のメッシュコンベアと下側のメッシュコンベアとのクリアランスを狭めていくことが好ましい。なお、コンベアベルトやローラー表面の材質は、蒸気処理に耐えられるものであれば特に限定されず、耐熱処理したポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、あるいはポリアリレートや全芳香族系ポリエステル等の耐熱性樹脂であることが好ましい。
続いて、湿熱処理により得られた不織布を熱プレスや加熱ロール等を用いて見掛け密度をさらに高密度化してもよい。ただし、高温水蒸気による処理によって所望の見掛け密度となっている場合には、熱プレスや加熱ロール等による高密度化処理を行わなくてもよい。なお、熱プレスや加熱ロール等による高密度処理においては、加熱温度を繊維表面の樹脂の融点よりやや低い温度で行うことにより、表面にスキン層が形成されて厚さ方向に繊維の接着斑や不織布の密度斑が発生することを抑制できる。例えば、熱プレスの条件としては、湿熱接着性繊維に含まれる湿熱接着性樹脂の融点よりも、3〜25℃、さらには5〜20℃、とくには7〜15℃低い温度で、1〜100MPa、さらには3〜50MPa、とくには5〜30MPaの圧力で行うような条件が挙げられる。この際、熱プレスの前に、湿熱接着性樹脂の融点より好ましくは30〜100℃、さらには35〜90℃、とくには40〜80℃低い温度で、予備的に熱プレスを行ってもよい。このように二段階で高密度化を行うことにより、一段目で繊維の接着を防止しながらある程度高密度化し、二段目で繊維を接着させつつ高密度化することができる。この結果、スキン層形成の防止効果が一層高くなり、厚み方向にさらに均一に高密度化することができる。なお、このような高密度化する処理においても、蒸気処理を併用することができるが、その場合にも湿熱接着性樹脂が完全に溶融しないような温度に設定することが好ましい。
本実施形態で得られる固液分離フィルター材として用いられる不織布は、湿熱接着性を示さない通常の繊維ウェブを、ニードルパンチのような機械的絡合をした後に熱プレス処理を経て得られた不織布に比べ、表面のみならず内部まで均一に繊維が接着されているため、固液分離フィルター材に適した細孔径及び細孔径分布を実現できる。
このようにして得られた不織布は、必要に応じて、裁断、切削、スライス、打ち抜きなどにより所望の寸法、形状に加工したり目的とする形状に縫製や接着されることにより、濾過袋タイプの固液分離フィルターに用いられる固液分離フィルター材に仕上げられる。固液分離フィルター材の厚みは、0.5〜1.8mmである。固液分離フィルター材が薄すぎる場合には耐久性が低下する傾向がある。一方、固液分離フィルター材が厚すぎる場合には、曲げ剛性が大きくなりすぎて濾過袋の取り扱いが難しくなる傾向がある。
また、不織布は、汚染水が面内に素早く広がるような透水性(吸水性)を有することが好ましい。具体的には、例えば、0.1mLの水滴が表面から裏面にまで2秒間以内、さらには1秒間以内に浸透するような水の浸透性を有する場合には、吸水性が高く、汚染水が素早く面内に広がるために処理速度が向上する。このような浸透性は、不織布を透水性向上剤で処理する方法によって調整することができる。
透水性向上剤とは、不織布に付与することにより水の浸透性を向上させる薬剤であり、使用時に水による脱落の少ないものが好ましく用いられる。具体的には、例えば、陰イオン系、陽イオン系、両性、非イオン系の界面活性剤が挙げられるが、特に陰イオン系活性剤が少量で大きな浸透性を発現する点から好ましい。陰イオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものであり、カルボン酸系としては石鹸の主成分である脂肪酸塩やコール酸塩が、スルホン酸系としては直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩やラウリル硫酸塩、アルキルスルホサクシネート塩などが挙げられる。また、陽イオン系、または両性イオン系界面活性剤も特に限定されない。一方、非イオン系界面活性剤としては、HLB=3〜12程度のものが好ましく、HLB=5〜9のものがより好ましい。HLB≧13の場合には水に溶解しやすくなる傾向がある。このような透水性向上剤で処理する方法としては、例えば、不織布を、上述したような透水性向上剤の水溶液に含浸し、所定のピックアップ率になるように搾液するようなディップニップ処理を行い、乾燥することにより処理することができる。
このようにして得られた本実施形態の濾過袋タイプの固液分離フィルターに用いられる固液分離フィルター材は、例えば、除染作業のプロセスにおいては、高圧水噴射装置から噴射されて洗浄に用いられた洗浄水廃液を回収し、回収された洗浄水廃液中の小石等の微粒子を取り除くための濾過袋タイプの固液分離処理用のフィルターとして好ましく用いられる。このような固液分離フィルター材によれば、回収された洗浄水廃液を繰り返し循環利用するときにフィルターが目詰りしにくいために円滑な循環プロセスを実現できるとともに、数十μm程度の微粒子であるシルトが効率的に回収されるために高圧水噴射装置のノズルを閉塞させることが抑制される。
[第2実施形態]
第1実施形態の固液分離フィルター材は、シルト等を効率的に回収することを目的とする濾過袋タイプの固液分離フィルターに用いられる固液分離フィルター材である。第1実施形態の固液分離フィルター材を放射性物質の除染作業に用いた場合には、シルト等と強く結びついて存在する放射性物質を回収することができる。一方、原子力発電所から外部に放出された一部の放射性セシウムは、Cs+の形態で水中にイオン化して低濃度で存在する。第2実施形態の固液分離フィルター材は、第1実施形態の固液分離フィルター材に含まれる不織布を形成する繊維の表面にセシウム結合性化合物を接着した形態を有する。このような固液分離フィルター材は、シルト等を回収するとともに、水中にイオン化して低濃度で存在する放射性セシウムを回収することができる。
MFe[Fe(CN)6](Mは陽イオン)であらわされる無機化合物を含むプルシアンブルー(紺青:フェロシアン化鉄)のようなセシウム結合性化合物は、水中に存在するCs+を結合させやすい性質を有する。第2実施形態の固液分離フィルター材は、上述したような固液分離フィルター材に含まれる不織布に、セシウム結合性化合物をバインダ樹脂で接着した固液分離フィルター材である。
セシウム結合性化合物としては、セシウムを選択的に結合する、配位子にシアン化物イオンを含む錯体である、フェロシアン化物イオン [Fe(CN)6]4-を含むフェロシアン化物や、フェリシアン化物イオン [Fe(CN)6]3-を含むフェリシアン化物が用いられる。さらに具体的には、例えば、ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)(Fe4[Fe(CN)6]3,フェロシアン化第二鉄),ヘキサシアノ鉄(III)酸鉄(II)、フェロシアン化鉄アンモニウム(Fe(NH4)[Fe(CN)6]),フェロシアン化鉄カリウム,フェロシアン化銅(Cu2[Fe(CN)6]),フェロシアン化銀,フェロシアン化カドミウム(Cd2Fe(CN)6),フェロシアン化コバルト,フェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6]),フェロシアン化鉛(II)(PbFe(CN)6),フェロシアン化マンガン(II)(Mn2Fe(CN)6)等のフェロシアン化物や、フェリシアン化カリウム(K3Fe(CN)6)等のフェリシアン化物等、またはそれらの水和物等が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせても、また、粗精製物を用いてもよい。これらの中では、青色顔料として知られる、Fe4[Fe(CN)6]3を含むプルシアンブルー(紺青)が入手が容易である点から好ましい。プルシアンブルーは、通常、水に不溶または難溶の粒子である。セシウム結合性化合物は通常、粒子であり、その平均粒子径は特に限定されないが、0.01〜10μm、さらには0.01〜1μm、とくには0.02〜0.5μmであることが繊維表面に均一に付着し、脱落しにくい点から好ましい。
繊維表面にセシウム結合性化合物を接着するバインダ樹脂は、繊維表面にセシウム結合性化合物を接着できる限り特に限定なく用いられる。バインダ樹脂の具体例としては、例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリオレフィン、石油樹脂、アスファルト、イソプレン系炭化水素、ブタジエンゴム、塩化ビニルなどの樹脂が挙げられる。
バインダ樹脂は、不織布の繊維間の空隙を閉塞させないように存在している必要がある。不織布の繊維間の空隙を閉塞させた場合には、圧力損失が高くなり、その結果、ろ過性能が低下する。具体的な形態としては、図1に示すように、セシウム結合性化合物2を接着するバインダ樹脂3は、不織布5の繊維1表面に付着して空隙4を閉塞させないるような形態が挙げられる。バインダ樹脂としては、水乳化性ポリウレタンエラストマーや水乳化性アクリル樹脂エラストマー等の水乳化性ポリマーをバインダ樹脂として用いることが好ましい。また、水乳化性ポリマーは水を吸収しやすいために、セシウムイオンを含有する水とセシウム結合性化合物との接触性にも優れている。
水乳化性ポリマーには、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、炭素数3以下のポリアルキレングリコール基等の親水性官能基を有する単量体を共重合単位として含有させることにより、水に対する自己乳化性を付与することができる。そして、このような親水性官能基により、セシウム結合性化合物とセシウムイオンを含有する水との濡れ性が高まる。
例えば、水乳化性のポリウレタンは、例えば、平均分子量500〜3000の高分子ポリオールと有機ポリイソシアネ−トと、必要に応じて鎖伸長剤とを、所定のモル比で含有し、親水性官能基を有する単量体を含む単量体成分を溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合させることにより得られる各種のポリウレタン系樹脂が挙げられる。
高分子ポリオールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリ(メチルテトラメチレングリコール),ポリ(メチルペンタン)ジオール等のポリエーテル系ポリオール及びその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール,ポリブチレンセバケートジオール,ポリヘキサメチレンアジペートジオール,ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール,ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール,ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール及びその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(ポリヘキシレンカーボネートジオール),ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオール,ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオール及びその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリカーボネート系ポリオールが、耐放射線性に優れているために放射線による分解を抑制できる点から好ましい。
なお、高分子ポリオールとしてポリエーテル系ポリオールを含む場合、高分子ポリオール中のポリオキシエチレン(−CH2−CH2−O−)単位の含有割合が、10meq/g以下であることが好ましい。ポリオキシエチレン(−CH2−CH2−O−)は耐放射線性が低いために、ポリオキシエチレン単位の含有割合が高すぎる場合には、経時的な保管安定性が低くなる傾向がある。
有機ポリイソシアネ−トの具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,ノルボルネンジイソシアネート,水添メチレンジイソシアネート等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート(無黄変型ジイソシアネート)や、フェニレンジイソシアネート,2,4−トリレンジイソシアネート,2,6−トリレンジイソシアネート,4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート等の芳香環ジイソシアネート等が挙げられる。
鎖伸長剤の具体例としては、例えば、ヒドラジン,エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ノナメチレンジアミン,キシリレンジアミン,イソホロンジアミン,ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド,イソフタル酸ジヒドラジド等のジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール,プロピレングリコール,1,4−ブタンジオール,1,6−ヘキサンジオール,1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を組み合わせて用いること、とくに、ヒドラジン及びその誘導体は酸化防止効果を有するために、使用後の固液分離フィルター材の経時的な保管安定性が向上する点から好ましい。
また、水乳化性ポリマーは、架橋構造を形成していることが好ましい。一般に、水乳化性ポリマーが親水性官能基を有する場合には、水で膨潤しやすく吸水率が高くなる傾向がある。水に対する膨潤性が高すぎる場合には、経時的に膨潤によりバインダ樹脂が不織布から脱離しやすくなるおそれがある。このような場合には、水乳化性ポリマーに架橋構造を形成させることにより、吸水率を制御して、水乳化性ポリマーが膨潤しすぎることを抑制することができる。例えば水乳化性ポリウレタンの場合、ポリウレタンを形成するモノマー単位が有する官能基と反応し得る、官能基を分子内に2個以上含有する架橋剤や、ポリイソシアネート系化合物、多官能ブロックイソシアネート系化合物等の自己架橋性の化合物を添加することにより、架橋構造を形成させることができる。
モノマー単位が有する官能基と架橋剤の官能基との組み合わせとしては、カルボキシル基とオキサゾリン基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とシクロカーボネート基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボニル基とヒドラジン誘導体またはヒドラジド誘導体などが挙げられる。これらの中では、カルボキシル基を有するモノマー単位とオキサゾリン基、カルボジイミド基またはエポキシ基を有する架橋剤と組み合わせ、水酸基またはアミノ基を有するモノマー単位とブロックイソシアネート基を有する架橋剤との組み合わせ、およびカルボニル基を有するモノマー単位とヒドラジン誘導体またはヒドラジド誘導体との組み合わせが、架橋形成が容易である点から好ましい。
親水性のバインダ樹脂は、130℃の熱水に対する膨潤度が0.3〜300%、さらには1〜100%、とくには5〜50%であることが好ましい。このような親水性のバインダ樹脂は水を吸水しやすいとともに、膨潤による不織布からの脱離を起こしにくいために、セシウム結合性化合物とセシウムイオンを含有する水との接触性を充分に維持しながら、使用後の保管性を維持することができる。
また、バインダ樹脂は、必要に応じて、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、などを含有してもよい。
不織布を形成する繊維の質量に対するバインダ樹脂の割合としては、0.01〜50質量%、さらには0.05〜30質量%、とくには0.5〜20質量%であることが好ましい。バインダ樹脂の割合が高すぎる場合には、不織布中の空隙の割合が少なくなることにより、固液分離フィルター材の圧力損失が大きくなる傾向がある。また、バインダ樹脂の割合が低すぎる場合には、充分な量のセシウム結合性化合物を固着できなかったり、セシウム結合性化合物が脱落しやすくなったりする傾向がある。
また、不織布を形成する繊維の質量に対するセシウム結合性化合物の割合としては、0.00001〜50質量%、さらには0.001〜30質量%、とくには0.01〜20質量%であることが好ましい。セシウム結合性化合物の割合が低すぎる場合には、水中のセシウムイオンの回収効率が低下し、セシウム結合性化合物の割合が高すぎる場合には、セシウム結合性化合物を充分に固着させるためにはバインダ樹脂の割合も高める必要があり、その場合には、固液分離フィルター材の圧力損失が大きくなる傾向がある。
不織布の内部に、セシウム結合性化合物を固着したバインダ樹脂を不織布の内部空隙を閉塞させないように存在させる方法としては、例えば、セシウム結合性化合物を分散させたバインダ樹脂エマルジョンを不織布に含浸させた後、バインダ樹脂を凝固させる方法等が挙げられる。不織布に高分子弾性体のバインダ樹脂エマルジョンを含浸する方法としては、例えば、ナイフコーター、バーコーター、又はロールコーターを用いて、または、ディッピングする方法が挙げられる。
なお、セシウム結合性化合物を固着したバインダ樹脂は、不織布の表層に偏在するように付着させた場合には、セシウム結合性化合物とセシウムを含有する水との接触性がより優れる。不織布の表層にセシウム結合性化合物を固着したバインダ樹脂を偏在するように付着させるためには、不織布にセシウム結合性化合物を分散させたバインダ樹脂エマルジョンを表面から塗布することにより含浸させた後、表面及び裏面から、好ましくは110〜150℃、0.5〜30分間程度加熱することにより、セシウム結合性化合物を分散させたバインダ樹脂エマルジョンを表面に移行させるマイグレーション処理を行うことが好ましい。
そして、得られた不織布に、バインダ樹脂でセシウム結合性化合物を固着させる。バインダ樹脂としては、上述したようなセシウム結合性化合物を繊維表面に固定できる樹脂であれば特に限定なく用いられるが、水乳化性ポリウレタンや水乳化性アクリル樹脂等の親水性の高いバインダ樹脂が吸水性の点から特に好ましい。
不織布にバインダ樹脂でセシウム結合性化合物を固着させる方法の具体例としては、例えば、所定量のセシウム結合性化合物の粒子を分散させたバインダ樹脂のエマルジョンを調整し、不織布に含浸させた後、乾燥することにより凝固させる。
なお、バインダ樹脂のエマルジョンを不織布に含浸させて乾燥する場合、表面からエマルジョンの乾燥が進行するにつれて内層のエマルジョンを不織布の表層に移行させ、表層にバインダ樹脂を遍在させる、所謂、マイグレーションをさせることが好ましい。マイグレーションを生じさせた場合、不織布の厚み方向において、セシウム結合性化合物の粒子を固着したバインダ樹脂の分布が表層に偏在することにより、セシウムの吸着性がより向上する。
[第3実施形態]
第1実施形態及び第2実施形態で説明した固液分離フィルター材は、図2に示すような排水口6に取り付けられる濾過袋10として用いられる。
本実施形態の固液分離フィルター材は、とくに、目の粗い固液分離フィルター材を用いた固液分離処理の後処理用の固液分離フィルター材として用いることが好ましい。具体的には、目詰まりを防止するためには、上流側に目の粗い固液分離フィルター材を配置し、下流側に本実施形態の固液分離フィルター材を配置することにより、上流側で粗い粒子のみを除去し、下流側で微細な粒子を除去するために、目詰まりの頻度を抑制することができる。本実施形態の固液分離フィルター材は、200μm以下の平均粒度を有するような、細砂やシルト等の微粒子を捕捉する性能に優れている。そのために、例えば、図3に示すような、放射性セシウムで汚染された、道路,側溝,土壌等の除染作業に用いられる除染システムにおけるシルト除去に好ましく用いられる。
図3は、放射性セシウムで汚染された、道路,側溝,土壌等の除染作業に用いられる除染システム20の全体構成を説明するための説明図である。図3中、11は給水装置、12は高圧水噴射装置、13は洗浄水廃液を回収するバキュームポンプ、14はバキュームポンプ13で回収された洗浄水廃液を貯留する泥水槽、15は洗浄水廃液中の汚泥を凝集剤で凝集させて沈殿させる凝集槽、16は水切り可能な袋16a,16bと水槽16cを備える水切り工程、17は放射性物質のベクレル数を法定基準値以下になるまで厳密に粒子を除去して側溝19に放出するための濾過袋、18は、濾過袋18aと濾液貯留槽18bとを備えるシルト回収工程であり、Rは除染領域である。
除染システム20においては、はじめに給水装置11から供給される洗浄水を高圧水噴射装置12で除染領域Rに噴射し、洗浄する。洗浄工程においては、さらに必要に応じてポリッシャーやブラシを用いて汚染物質を剥離してもよい。噴射された洗浄水は洗浄水廃液として除染領域Rに溜まる。溜まった洗浄水廃液はバキュームポンプ13で回収されて、配管21により泥水槽14に移送されて貯留される。泥水槽14においては洗浄水廃液中の大きな汚泥は底に沈殿する。そして、上澄みが凝集槽15に移送される。凝集槽15においては、洗浄水廃液中の汚泥が凝集剤で凝集されて沈殿される。そして、凝集槽15で沈殿した沈殿物と上澄みの水は、水切り可能な袋16a,16bを備える水切り工程16に移送される。水切り可能な袋16a,16bは凝集槽15で沈殿した沈殿物と上澄みの水とを分離し、袋16a,16bで沈殿物を回収し、水を袋16a,16bの下方に配置された水槽16cに貯留する。水槽に貯留された水には、袋16a,16bを通り抜けたシルト等が含まれる。水槽16cに貯留された水は、濾過袋18aと濾液貯留槽18bとを備えるシルト等回収工程18に移送される。シルト等回収工程18に移送された水は濾過袋18aを通過した後、濾液貯留槽18bに貯留される。そして、濾液貯留槽18bに貯留された水は、高圧水噴射装置12に供給され、洗浄水として再利用される。そして、除染領域Rで繰り返し利用された洗浄水は、最終的には、放射性物質のベクレル数を法定基準値以下になるまで厳密に粒子を除去するための濾過袋17を通過した後、側溝19に放出される。
本実施形態の固液分離フィルター材は、とくに、200μm以下の平均粒度を有する、細砂やシルト等の微粒子を捕捉する性能に優れているために、除染システム20における、シルト等回収工程18の濾過袋18aのような用途に好ましく用いられる。本実施形態の固液分離フィルター材は、このような工程で用いても、ある程度の処理速度(例えば、20〜200L/時間)を維持することができる。
なお、側溝19に放出される直前に配置される濾過袋17としては、放射性物質のベクレル数を法定基準値以下になるまで厳密に粒子を除去する必要がある。そのために、例えば、繊度0.5デシテックス以下の極細繊維を含む、見かけ密度が0.5〜1.2g/cm3であるような緻密な不織布を用いた固液分離フィルター材を用いることが好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[製造例1]
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET)、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH、エチレン共重合率44モル%、ケン化度98.4モル%、融点165℃)である芯鞘型複合ステープル繊維(平均繊維径18μm、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を準備した。
そして、湿熱接着性繊維を用いて、カード法により目付約400g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブを、コンベア装置とその経路に水蒸気を噴射させる水蒸気噴射装置とを備えた湿熱処理装置に移送した。
なお、コンベア装置は、50メッシュ,幅500mmのポリカーボネート製エンドレスネットからなる、上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとを備え、それらがそれぞれ同速度で同方向に進行し、かつ、互いの間隔を任意に調整可能な一対のメッシュコンベアを備える。また、コンベア装置の上流側には、下側メッシュコンベアの裏側に、搬送されるカードウェブに向かってネットを介して高温水蒸気を吹き付ける水蒸気噴射装置が配置されており、一方、上側メッシュコンベアの裏側にはサクション装置が配置されている。逆に、コンベアの下流側では、下側メッシュコンベアの裏側に同様のサクション装置が配置されており、上側メッシュコンベア内の裏側に同様の水蒸気噴射装置が配置されている。各水蒸気噴射装置は、コンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた複数の孔径0.3mmのノズルを有する。また、ノズルはメッシュコンベアのネットの裏側にほぼ接するように配置されている。このような構成によれば、カードウェブの表裏の両面に対して高温水蒸気が吹き付けられる。
各水蒸気噴射装置から0.4MPaの高温水蒸気を略垂直に噴出させることにより、搬送されるカードウェブに水蒸気処理を施した。なお、コンベアの搬送速度は3m/分であり、厚さ約2.0mmの不織布が得られるように上側メッシュコンベアと下側メッシュコンベアとの間隔を調整した。このようにして、湿熱性接着性繊維が湿熱接着して形成された不織布を、透水性向上剤(アニオン系界面活性剤、「スパラン33」:一方社油脂工業(株)製)の0.25質量%水溶液にピックアップ率55%になるように含浸して乾燥することにより、厚さ1.8mm、見掛け密度0.18g/m3の不織布1を得た。不織布1の断面の走査型顕微鏡(SEM)の写真を図4に示す。
図4に示すように、不織布1の断面は均質であり、厚み方向に配向したような繊維も、不均質な大きな空隙も観察されなかった。
[製造例2]
製造例1において、得られた不織布に対して厚さ1.5mmのスペーサーを用いて140℃、20MPaの条件で5分間熱プレスを行うことにより、厚さ0.9mm、見掛け密度0.4g/cm3の不織布2を得た。
[製造例3]
潜在捲縮繊維として、PET樹脂と、変性モノマーとしてイソフタル酸20モル%およびジエチレングリコール5モル%を共重合させた変性PET樹脂とを複合化したサイドバイサイド型複合ステープル繊維(平均繊維径15μm、51mm長、機械捲縮数12個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数62個/25mm)を準備した。製造例1において、湿熱接着性繊維100質量%を用いて作製した目付60g/m2のカードウェブを作製した代わりに、湿熱接着性繊維80質量%と潜在捲縮繊維である非湿熱接着性繊維20質量%とを混綿したものを用いて、カード法により目付約400g/m2のカードウェブを作製した以外は同様にして、厚さ1.1mm、見掛け密度0.05g/m3の不織布3を得た。
[製造例4]
ポリウレタンエマルジョンに、平均一次粒子径0.08μmの紺青(大日精化(株)製の商品名:MILORIBLUE 905)を、紺青/ポリウレタン固形分=1/3の質量比で分散させた。なお、ポリウレタンエマルジョンは、130℃における熱水膨潤率が9質量%であり、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリオキシエチレン単位の含有量が0meq/gの架橋を形成する水乳化性ポリウレタンのエマルジョンであった。
そして、製造例1で得られた不織布1に紺青を分散させたエマルジョンをポリウレタン固形分で6質量%になるように含浸付与し、乾燥した。このようにして、不織布1と、不織布1を形成する繊維の表面に紺青を固着して付着するポリウレタンとを含む不織布4を得た。
[比較製造例1]
変性PET(イソフタル酸変性量32モル%、融点140℃)のステープル繊維(平均繊維径20μm、51mm長、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm)を用い、カード法により目付約150g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブをニードルパンチ処理することにより、厚さ1.1mm、見掛け密度0.18g/m3の不織布5を得た。得られた不織布5のSEM写真を図5に示す。また、デジタルカメラで撮影した不織布5の上面の写真を図6に示す。
図5に示すように、不織布1の断面は不均質であり、ニードルが打たれた部分が疎になっており、その部分では厚み方向に配向したような繊維が観察された。また、図6に示すように、デジタルカメラで撮影した不織布5の写真はには、拡大したときに、ニードルパンチ痕とみられる孔が観察された。
[比較製造例2]
水溶性熱可塑性PVA系樹脂を海成分に用い、イソフタル酸変性度6モル%のPETを島成分とし、繊維1本あたりの島数が25島で、海成分/島成分が25/75(重量比)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、260℃で海島型のフィラメントを口金より吐出した。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊維径70μmの海島型長繊維をネット上に捕集した。そしてネット上に捕集された海島型長繊維を表面温度42℃の金属ロールで軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えてネットから剥離し、さらに、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させて熱プレスすることにより、表面の極細繊維が仮融着した目付31g/m2の長繊維ウェブを得た。
そして、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングすることにより8枚重ね、これに、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端からバーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2のパンチ密度でニードルパンチングすることにより、目付320g/m2の絡合された長繊維ウェブを得た。
そして、長繊維ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃の熱水中に14秒間浸漬することにより熱収縮させた。さらに95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより変性PVAを溶解除去することにより、平均繊維径3.1μmの極細長繊維を25本含む繊維束が3次元的に交絡した極細繊維の不織布が得られた。そして、不織布は、スライス及びバフィング処理することにより見かけ密度が0.52g/cm3で、厚み0.95mmの不織布6を得た。得られた不織布6のSEM写真を図7に示す。
[実施例1〜4及び比較例1,2]
実施例1〜4として、製造例1〜4でそれぞれ得られた不織布1〜4を、比較例1、2として、比較製造例1,2でそれぞれ得られた不織布5,6を、固液分離フィルター材としての各種特性を以下のようにして評価した。
〈固液分離フィルター材の細孔径分布の評価〉
コールターエレクトロニクス社製「colter POROMETERII」を用い、WET−DRY方式の測定モードで固液分離フィルター材の細孔径分布を測定した。なお、固液分離フィルター材は測定前にGALWICK(西華産業(株)製、表面張力:15.7dyne/cm)に浸漬して湿潤させてものを試料として測定に用いた。
〈フラジール形法による通気度の評価〉
ISL1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
〈微粒子のろ過性能の評価〉
粒径分布45〜300μmのシリカ微粒子を10g/L含有する超純水を、300ml/minの流量で固液分離フィルター材に通過させ、吸光度法により通過前後の液の濃度を測定した。そして、通過前後の液の濃度に基づいて捕集効率を算出した。数値が高いほど捕集効率に優れると言える。
〈放射能含有汚泥のろ過性能の評価〉
福島県内の住宅地の側溝汚泥(乾燥時で48万Bq/Kg)を水に十分に分散して汚泥原水を作成した。そして、原水から目開き2mmの漉し布で枯葉や石を取り除いた。次いで1000メッシュの金網でさらに濾過して、600μmより大きい石や瓦礫、砂成分を除去することにより濾過液を得た。そして、得られた濾過液500mLを各不織布を縫製して製造した濾過袋(50cm×50cm×50cm)に通過させ、濾過後の濾液の放射線量(Bq/L)を測定した。
〈通水量の評価〉
固液分離フィルター材を使用した濾過袋(50cm×50cm×50cm)を作成し、上記の1000メッシュの金網で濾過した汚泥水15kgを注ぎ、水が全て濾過されるまでの時間を測定した。
以上の結果を表1に示す。
表1に示したように、本件発明に係る、湿熱接着性繊維の集合体であるウェブを湿熱処理することにより湿熱接着性繊維を部分接着させて形成された厚み0.5〜1.8mmであって、見掛け密度0.05〜0.4g/cm3の不織布を含む実施例1〜4の濾過袋タイプの固液分離フィルターに用いられる固液分離フィルター材は、いずれも、微粒子の濾過性能が高いにもかかわらず、通水性も高かった。また、特に、紺青を含有する実施例4の固液分離フィルター材は、放射能含有汚泥の濾過において、放射線量が顕著に減少しており、水中に溶解したセシウムイオンを不織布が吸着していることがわかる。一方、従来の通常の繊維径を有する不織布を固液分離フィルター材として用いた比較例1の固液分離フィルター材は、微粒子の濾過性能が低かった。これは、図5及び図6に観察されたように、ニードルパンチに由来する孔の存在により、微粒子を充分に捕捉できなかったと思われる。また、極細繊維を緻密化して得られた不織布を固液分離フィルター材として用いた比較例2の固液分離フィルター材は、緻密化によりニードルパンチに由来する孔も緻密化された繊維で充填されているために、微粒子の濾過性能は高かったが、緻密であるために通水量が低かった。