JP6426533B2 - エンジン制御ユニットの監視装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンの運転制御を行う制御ユニットの監視装置に係り、特に燃料噴射量の制御が正常に行われているか否かを監視するための技術に関する。
従来より車両等にはエンジンの運転制御を行うための制御ユニットが搭載されており、例えば運転者の要求に応じたエンジン出力を得るために、燃料噴射量の制御を行っている。このようなエンジン制御ユニットは、演算処理を行うマイクロコンピュータと、インジェクタ(燃料噴射弁)を駆動する電子駆動ユニット(EDU:Electric Driving Unit)とを備えている。
そして、燃料噴射量の制御ではマイクロコンピュータが、要求噴射量を算出するとともに、この要求噴射量を得るために必要なインジェクタ駆動電流の通電期間を算出し、この通電期間の情報を含む制御信号をEDUに送信する。EDUは、その通電期間に基づいて噴射指令信号を生成し、インジェクタに駆動電流を流すことによって好適に燃料噴射量を制御する。
このような燃料噴射量の制御が正常に行われているか否かを監視する監視装置として、例えば特許文献1に開示されているものでは、インジェクタに流れる駆動電流の通電期間(実通電期間)に応じて噴射モニタ信号が生成され、EDUからマイクロコンピュータに送信される。そして、この噴射モニタ信号から算出される燃料噴射量(モニタ噴射量)と要求噴射量とが比較されて、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否かが監視されている。
特開2013−238203号公報
前記特許文献1に記載の制御ユニットでは、まず、アクセル開度やエンジン回転数などに応じて算出された要求噴射量と、インジェクタに供給される燃料の圧力(コモンレール圧)とに基づき、インジェクタの流量特性のマップを参照して、その駆動電流の通電期間が算出される。この通電期間は予め実験やシミュレーションによって適合されたベース値であり、これに対して、インジェクタの個体差や経時的な変化によるばらつきを補正するための種々の補正が行われる。
こうして補正された駆動電流の通電期間に応じて生成される噴射モニタ信号は、その補正の分、要求噴射量から乖離した値となるので、この噴射モニタ信号から算出される燃料噴射量(モニタ噴射量)と要求噴射量とを比較しても、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否か精度良く判定することはできない。そこで、補正による影響を除去したモニタ噴射量を要求噴射量と比較するようにすることが考えられる。
ところで、近年、ディーゼルエンジンのような圧縮自着火方式のエンジンにおいては、気筒内に直接、噴射する燃料の制御への要求が厳しくなっており、噴射制御の精度を高めるために、インジェクタによる燃料の噴射を模擬する物理モデルを構築し、そのモデル式を用いて、要求噴射量を満たすようにインジェクタ駆動電流の通電期間を算出することが
提案されている。
このようにモデル式を用いた通電期間の演算ロジックは、複雑であって高い演算負荷を要求するが、従来例のようにマップを参照して算出したベース値に種々の補正を加えるものに比べて、即応性および安定性が高くなる。また、エンジンの運転中にモデル式のパラメータを学習することによって、インジェクタの経時的な変化によるばらつきを精度良く補正することができる。
しかしながら、そのようにインジェクタ駆動電流の通電期間を高い精度で算出するものにおいて、制御が正常に行われているか否か正確に監視するためには、噴射量の演算ロジックと同等の演算を監視系においても行う必要があり、複雑で高い演算負荷が要求されるという問題がある。監視のための演算は、演算負荷の高騰が抑えられるように、噴射量制御における通電期間の演算に比べて簡略化された演算ロジックを用いることが望ましい。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジン制御ユニットの監視のための演算負荷を抑えつつも、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否かを精度良く判定できるようにすることにある。
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、エンジンの制御ユニットにて算出される燃料の要求噴射量と、燃料噴射弁の駆動電流の実通電期間を表す噴射モニタ信号から算出されるモニタ噴射量とを比較して、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否か監視するエンジン制御ユニットの監視装置を対象として、前記制御ユニットは、前記要求噴射量と、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力とに基づき、当該燃料噴射弁による燃料の噴射を模擬するモデル式を用いて前記駆動電流の通電期間を算出し、この通電期間の情報を含む制御信号を出力する噴射制御手段を有しているものとする。
そして、本発明では、前記要求噴射量と、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力とに基づき、予め設定したマップを参照して前記通電期間のベース値を算出するとともに、このベース値と、前記噴射制御手段によって算出された通電期間との差分を通電期間の補正値として算出する補正値演算手段と、前記噴射モニタ信号から得られる実通電期間を前記補正値によって補正した上で、この補正後の実通電期間に基づき、前記マップを参照して前記モニタ噴射量を算出するモニタ噴射量演算手段と、そのモニタ噴射量の要求噴射量からの乖離が所定以上のときに、燃料噴射量制御が正常に行われていないと判定する異常判定手段と、を備えたものである。
前記の特定事項により、エンジンの運転中には、制御ユニットの噴射制御手段において燃料噴射弁の駆動電流の通電期間が、要求噴射量に基づきモデル式を用いて算出され、この通電期間の情報を含む制御信号が出力される。こうしてモデル式を用いて算出された通電期間は、燃料噴射のばらつきなどを好適に補正したものなので、その通電期間に応じて燃料噴射弁が駆動されることによって、燃料の噴射量を精度良く制御することができる。
これと並行して制御ユニットでは、前記要求噴射量などに基づきマップを参照して、前記通電期間のベース値が算出されるとともに、このベース値と、前記噴射制御手段によって算出された通電期間との差分が、通電期間の補正値として算出される。そして、前記噴射モニタ信号から得られる実通電期間が前記補正値によって補正され、この補正後の実通電期間に基づき、前記マップを参照してモニタ噴射量が算出される。
このようにして、噴射モニタ信号から得られる実通電期間を補正することで、燃料噴射のばらつきなどの補正分が除去されて、通電期間のベース値に対応する実通電期間が求め
られる。そして、この補正後の実通電期間に基づき、マップを参照することによって、演算負荷を抑えつつモニタ噴射量を算出でき、このモニタ噴射量と要求噴射量とを比較することで、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否か正確に判定することができる。
つまり、エンジンの燃料噴射量の制御にモデル式を導入して、その精度を高めるようにした場合でも、監視系の演算負荷は高騰しないように抑えつつ、制御が正常に行われているか否かを精度良く判定できる。
ところで、前記のようにマップを参照して算出されたベース値と、噴射制御手段によって算出された通電期間との差分(通電期間の補正値)には本来、燃料噴射のばらつきなどの補正分が含まれているが、仮に噴射制御手段による通電期間の演算に異常が発生した場合には、この異常による影響も補正値に含まれることになる。そこで、この補正値によって実通電期間を補正すると、実通電期間に含まれている異常の影響が除去されてしまい、異常を判定できなくなるおそれがある。
例えば、噴射制御手段による演算に異常が発生し、算出される通電期間が過大になった場合には、これに応じて噴射される燃料の量も過大になってしまい、噴射モニタ信号から得られる実通電期間も過大なものとなる。ところが、前記過大な通電期間とそのベース値との差分(補正値)も過大なものとなる結果、この補正値によって補正された実通電期間からは異常の影響が除去されることになり、モニタ噴射量と要求噴射量との間に差が生じ難くなるからである。
この点を考慮して好ましいのは、前記補正値演算手段によって算出された補正値の絶対値が予め設定した上限ガード値を超えていれば、この上限ガード値を絶対値とするように前記補正値を変更する上限ガード手段を備えることである。こうすると、前記のように噴射制御手段による演算に異常が発生し、算出された通電期間が過大なものになってしまったときには、この過大な通電期間とそのベース値との差分も過大なものとなるものの、その絶対値が上限ガード値を超えないように変更される。
このため、実通電期間を補正する補正値は過大なものにはならず、これによって補正をしても実通電期間には異常の影響が残ることになる。よって、この補正後の実通電期間に基づき、マップを参照して算出されるモニタ噴射量にも異常の影響が残り、要求噴射量との間に差が生じ易くなるので、要求噴射量との比較によって、燃料噴射量の制御(この場合は噴射制御手段による演算)に異常が発生していることを正確に判定できる。
また、好ましいのは、エンジンの運転中に、前記燃料噴射弁による燃料の噴射率波形の特性パラメータについて学習する学習手段を備えるとともに、前記燃料噴射弁による燃料の噴射を模擬するモデル式が、前記学習手段による学習結果が反映される学習補正項を有することである。こうすれば、経時的変化による燃料噴射のばらつきの影響を学習して、好適にモデル式に反映させることができ、燃料噴射量の制御の精度がより高くなる。
より好ましいのは、前記噴射制御手段によって、前記モデル式の学習補正項に学習結果を反映させずに、前記駆動電流の通電期間を算出する第1の演算と、この第1の演算の結果に前記学習結果を反映させる第2の演算と、を行うことである。この場合、前記補正値演算手段は、前記通電期間のベース値と、前記第1の演算の結果である第1演算値との差分を、通電期間の第1の補正値として算出し、また、その第1演算値と、前記第2の演算によって算出された通電期間の第2演算値との差分を、通電期間の第2の補正値として算出する。さらに、前記モニタ噴射量演算手段は、前記実通電期間を前記第1および第2補正値によって補正し、この補正後の実通電期間に基づいて前記モニタ噴射量を算出する。
すなわち、噴射制御手段においてモデル式を用いて行われる通電期間の演算を、学習結果の反映されない第1の演算と、学習結果の反映される第2の演算とに分けて、それぞれの演算についての異常の影響が含まれ得る第1および第2の補正値を別々に算出するのである。こうすると、第2の補正値には、第2の演算に異常があった場合にその影響が含まれるとともに、学習に異常があった場合にはその影響も含まれることになるが、第1の補正値には、学習の異常の影響が含まれることはない。
このような2つの補正値の特徴を考慮し、モニタ噴射量演算手段において実通電期間を前記第1および第2補正値によって補正する場合に、この補正の重み付けを変えることによって、実通電期間をより適切に補正することが可能になる。この場合に、前記第1および第2の補正値のそれぞれについて、その絶対値が予め設定した上限ガード値を超えていれば、この上限ガード値を絶対値とするように当該補正値を変更する上限ガード手段を備えることが好ましい。
こうすれば、第1の演算に異常があった場合と、第2の演算若しくは学習に異常があった場合とでそれぞれ好適な上限ガード値を設定することができ、第1および第2の補正値による実通電期間の補正をより適切に行える。よって、その補正後の実通電期間に基づくモニタ噴射量の演算、および、このモニタ噴射量と要求噴射量との比較による異常の判定をより適切に行える。
本発明に係るエンジン制御ユニットの監視装置では、燃料噴射量の制御の精度を高めるために、燃料噴射弁の駆動電流の通電期間をモデル式を用いて算出するようにした場合に、噴射モニタ信号から得られる実通電期間から燃料噴射ばらつきなどの補正分を除去した上で、マップを参照してモニタ噴射量を算出するようにしたので、監視系の演算負荷が高騰しないように抑えつつ、モニタ噴射量と要求噴射量との比較によって制御が正常に行われているか否か精度良く判定することができる。
実施形態に係るエンジンの制御ユニットおよび燃料供給系の構成を模式的に示す図である。 エンジン制御ユニットにおける燃料噴射量の制御および監視に係る処理の流れを示す機能ブロック図である。 燃料噴射率波形の特性パラメータの学習について示すイメージ図である。 クランク角信号、噴射指令信号、燃料噴射率、および、噴射モニタ信号それぞれの変化と、監視装置が行う処理の割り込みタイミングとを示すタイミングチャート図である。 通電期間演算処理、ベース値演算処理および補正値演算処理とともに、噴射量換算処理において通電モニタ期間を補正するための構成を示す機能ブロック図である。 インジェクタ駆動電流の通電期間、燃料の圧力および燃料噴射量の相互の関係を実験などによって調べて設定したマップの一例を示す模式図である。 補正値演算処理の具体的な手順を示すフローチャート図である。 モニタ噴射量演算処理の具体的な手順を示すフローチャート図である。 第2異常判定処理の具体的な手順を示すフローチャート図である。 通電期間演算処理におけるインジェクタ駆動電流の通電期間の演算を分割して行うようにした他の実施形態に係る図5相当図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車両に搭載されたディーゼルエンジン(内燃機関)のエンジン制御ユニットに本発明を適用した場合につ
いて説明する。
−エンジンの制御ユニットおよび燃料供給系の全体構成−
図1には、本実施形態に係るエンジンの制御ユニットおよび燃料供給系の構成を概略的に示しており、燃料供給系には、燃料タンク10から汲み上げた燃料を加圧して吐出する燃料ポンプ11が備えられている。この燃料ポンプ11には、燃料の圧力を調整する圧力調整弁(PCV)12が設けられており、これにより圧力を調整された燃料がコモンレール13に圧送され、分岐通路13aを介して各気筒のインジェクタ(燃料噴射弁)14に供給される。
また、コモンレール13には減圧弁15が設けられていて、この減圧弁15の開弁時には燃料の一部が燃料タンク10に戻されることによって、コモンレール13の燃料圧力(レール圧)が降下するようになっている。そして、それらの圧力調整弁12および減圧弁15がエンジン制御ユニット20からの制御信号を受けて動作することにより、コモンレール13に蓄えられている燃料が所定の圧力状態に維持されるようになっている。
前記のエンジン制御ユニット20は、マイクロコンピュータ21、サブマイコン22、電子駆動ユニット(EDU)23および駆動回路24を備えている。マイクロコンピュータ21は、エンジン制御に係る各種演算処理を行う。サブマイコン22は、後述する燃料噴射特性の学習に係わる演算処理を行う。EDU23は、マイクロコンピュータ21からの指令に応じて各インジェクタ14を駆動する。駆動回路24は、マイクロコンピュータ21からの指令に応じてPCV12および減圧弁15を駆動する。
一方、エンジン制御ユニット20には、アクセルポジションセンサ26、水温センサ27、レール圧センサ28、クランク角センサ29などの各種センサからの検出信号が入力されている。アクセルポジションセンサ26は、アクセル操作量ACCPを検出する。水温センサ27はエンジン水温を検出する。レール圧センサ28はレール圧PCRを検出する。クランク角センサ29は、エンジン出力軸の回転に応じてパルス状のクランク角信号を出力する。
また、本実施形態では各気筒毎のインジェクタ14にそれぞれ、燃料導入通路の内部の燃料圧力PQに応じた信号を出力する燃圧センサ30が一体に取り付けられており開弁動作に伴うインジェクタ14内部の燃料圧力PQの変化を精度良く検出することができる。なお、インジェクタ14には、燃圧センサ30の検出値などを記憶するためのメモリ(図示せず)も一体に取り付けられている。
また、エンジン制御ユニット20にはADコンバータ(ADC)25が設けられており、アクセルポジションセンサ26、水温センサ27およびレール圧センサ28の各検出信号はデジタル信号に変換されて、マイクロコンピュータ21に入力される。また、クランク角センサ29からのクランク角信号は直接、マイクロコンピュータ21に入力され、燃圧センサ30からの燃料圧力PQの信号は直接、サブマイコン22に入力される。
−燃料噴射量の制御−
以上のように構成されたエンジン制御ユニット20は、エンジン制御の一環として以下に説明する燃料噴射量の制御を行う。すなわち、図2に示すようにマイクロコンピュータ21は、燃料噴射量の制御に際して、まず、燃料噴射量制御ルーチンR1の処理を行う。この燃料噴射量制御ルーチンR1では、インジェクタ駆動電流の通電期間τを算出するにあたり、要求噴射量演算処理P2、噴射量分割処理P3、通電期間演算処理P4の3つの処理が行われる。
前記要求噴射量演算処理P2は、エンジンへの要求噴射量Qfinを求める処理であって、エンジン回転速度NE、アクセル操作量ACCP等に基づいて、要求噴射量Qfinを算出する。この要求噴射量Qfinの演算に際しては、エンジン回転速度NEおよびアクセル操作量ACCPからベース噴射量が算出される。ここでのベース噴射量の算出は、マイクロコンピュータ21に記憶された噴射量算出用のマップに基づいて行われる。
このマップには、エンジン回転速度NEおよびアクセル操作量ACCPと、ベース噴射量との関係が記憶されており、これを参照して算出されたベース噴射量をエンジン水温等によって補正することで、要求噴射量Qfinが算出される。なお、エンジン回転速度NEは、回転速度算出処理P1により算出されている。回転速度算出処理P1では、クランク角センサ29から入力されたクランク角信号に基づいて、エンジン回転速度NEの算出が行われる。
前記噴射量分割処理P3では、要求噴射量Qfinが、パイロット噴射、メイン噴射、アフタ噴射の各噴射に割り振られる。これにより、各噴射の噴射量が決定される。なお、燃料噴射の分割数や各噴射の噴射量の分配比率などは、予めエンジン運転状況に対応付けて好適な噴射パターンが設定されて、エンジン制御ユニット20のメモリ(図示略)に記憶されており、そのときのエンジン運転状況に応じて選択される。
そうして決定された各噴射の噴射量が得られるように、前記通電期間演算処理P4では各噴射についてのインジェクタ駆動電流の通電期間τが算出される。この演算については図3を参照して後述するが、通電期間τは、前記要求噴射量Qfinおよびレール圧PCRに基づき、インジェクタ14による燃料の噴射を模擬するモデル式を用いて算出される。そして、マイクロコンピュータ21は、算出した各噴射についての通電期間τの情報を含む制御信号をEDU23に送信する。なお、この通電期間演算処理P4を行うことによってマイクロコンピュータ21は、本発明に係る噴射制御手段を構成する。
そして、前記の制御信号を受けたEDU23は、各噴射の通電期間τに基づいて噴射指令信号を生成する指令信号生成処理P5を行う。噴射指令信号は、通電の開始とともにインジェクタ14の電磁弁を開弁可能なレベルまで信号レベルが上がり、通電の終了に応じてその開弁を保持不能となるレベルまで信号レベルが下がるように生成される。そして、生成された噴射指令信号は、該当する気筒のインジェクタ14に出力される。
また、EDU23は、各インジェクタ14の電磁弁に流れる電流を検出して、噴射モニタ信号を生成するモニタ信号生成処理P6も行う。噴射モニタ信号は、図4を参照して後述するように、インジェクタ14の電磁弁に駆動電流が実際に通電されている期間は信号レベルが「Lo」となり、通電がなされていない期間は信号レベルが「Hi」となるパルス状の信号として生成される。生成された噴射モニタ信号は、マイクロコンピュータ21に入力される。
(通電期間の演算処理)
以下、前記通電期間演算処理P4におけるインジェクタ駆動電流の通電期間τの演算について説明する。本実施形態では、図1を参照して前述したコモンレール13、各分岐通路13a、各インジェクタ14等からなる燃料供給系をモデル化した物理モデルが構築されており、通電期間演算処理P4では、その物理モデルを通じて通電期間τを算出するようになっている。
すなわち、例えば要求噴射量Qfin、目標レール圧、燃料温度などの他、後述する初期調整項および学習補正項を算出パラメータとするモデル式が予め実験やシミュレーションによって定められ、エンジン制御ユニット20のメモリに記憶されている。このような
モデル式を用いて通電期間τが算出されることで、従来一般的な流量特性のマップを参照して通電期間を算出する手法と比べて、即応性や安定性の高い噴射量の制御が行える。
しかも、本実施形態では、そのモデル式に含まれる複数の特性パラメータを、エンジンの運転中にインジェクタ14毎の燃圧センサ30による燃料圧力PQの検出値に基づいて学習する。具体的には図3に模式的に示すように、燃料噴射率波形の特性パラメータとして噴射遅れ時間τd、噴射率上昇速度Qup、最大噴射率Qmax、閉弁遅れ時間τe、噴射率低下速度Qdnが設定されている。
詳しくは図3の中段に実線で噴射率波形を示すように、開弁遅れ時間τdは、エンジン制御ユニット20からインジェクタ14に噴射指令信号(開弁)が出力されてから、開弁動作によって燃料の噴射率が上昇し始めるまでの時間であり、その噴射率の上昇速度が噴射率上昇速度Qupである。また、最大噴射率Qmaxは噴射率の最大値であり、閉弁遅れ時間τeは、噴射指令信号(閉弁)が出力されてから閉弁動作によって噴射率が下降し始めるまでの時間であり、その噴射率の下降速度が噴射率低下速度Qdnである。
本実施形態では、まず、燃圧センサ30によって検出される燃料圧力PQに基づいて、実際の燃料噴射率の波形(検出波形)が形成される。インジェクタ14の内部の燃料圧力PQは、図3の下段に一例を示すように開弁動作に伴って低下した後に、閉弁動作に伴って上昇する。本実施形態では、そうした燃料圧力PQの推移をもとに、前記特性パラメータのそれぞれの値が特定され、これを用いて実際の燃料噴射率を表す台形状の波形(図3の中段に実線で表す)が形成される。
一方で、例えば要求噴射量Qfin、目標レール圧、燃料温度といった種々の算出パラメータに基づいて、燃料噴射率の基本波形が算出される。本実施形態では、それらの算出パラメータにより定まるエンジン運転領域と同運転領域に適した基本波形との関係が、予め実験やシミュレーションに基づいて求められてエンジン制御ユニット20のメモリに記憶されている。図3の中段に仮想線で示すように基本波形も、前記の特性パラメータ(噴射遅れ時間τd、噴射率上昇速度Qup、最大噴射率Qmax、閉弁遅れ時間τe、噴射率低下速度Qdn)によって規定される台形状の波形である。
そして、燃料噴射特性を学習する場合、エンジンの運転中において前記の検出波形と基本波形とが比較され、それら2つの波形の各特性パラメータの差が逐次算出される。すなわち、噴射遅れ時間τdの差、噴射率上昇速度Qupの差、最大噴射率Qmaxの差、閉弁遅れ時間τeの差、および噴射率低下速度Qdnの差がそれぞれ算出されて、経時的な変化による燃料噴射のばらつきを補正するための学習補正項として、エンジン制御ユニット20のメモリに記憶される。
このように学習処理では、インジェクタ14の燃圧センサ30の検出値により形成される検出波形と、その理想的な波形である基本波形との乖離度合いに基づいて、経時的な変化による燃料噴射のばらつきを学習する。こうして学習された結果が前述したモデル式の学習補正項に反映されることによって、経時的な変化による燃料噴射ばらつきが補正される。このような学習処理P12は本実施形態ではサブマイコン22において行われ、このことによってサブマイコン22が、本発明に係る学習手段を構成する。
また、本実施形態では、前記の経時的な変化を招く前、いわゆる新品時におけるインジェクタ14についても、標準的な(理想的な)噴射特性のインジェクタとの間における前記各特性パラメータ(τd、Qup、Qmax、τe、Qdn)の差に相当する値が検出されて、この差が、主にインジェクタ14の個体差に起因する燃料噴射ばらつきを補正するための初期調整項として、エンジン制御ユニット20のメモリに予め記憶されている。
そして、その初期調整項および前記学習補正項が前述のモデル式に含まれており、通電期間演算処理P4においてインジェクタ駆動電流の通電期間τを算出するために用いられる。このようにして通電期間τを算出することにより、主にインジェクタ14の個体差に起因する燃料噴射ばらつきの影響と、経時的な変化による燃料噴射ばらつきの影響とを共に補正することができ、燃料噴射量の制御の精度をより高めることができる。
(噴射圧制御)
次に、前述した燃料噴射量制御に付随して行われる噴射圧制御について説明する。マイクロコンピュータ21は、回転速度算出処理P1で算出されたエンジン回転速度NEと、要求噴射量演算処理P2で算出された要求噴射量Qfinとに基づいて、目標レール圧を算出する目標レール圧算出処理P7を行う。そして、その目標レール圧と、レール圧センサ28により検出された実際のレール圧PCRとに基づいて、ポンプフィードバック(F/B)制御処理P8と減圧弁制御処理P9とを実施する。
ポンプF/B制御処理P8では、目標レール圧と実際のレール圧PCRとの偏差に応じてPCV12の目標開度が算出される。算出された目標開度は、駆動回路24に出力される。そして、駆動回路24が、目標開度が得られるようにPCV12を駆動することで、燃料ポンプ11の吐出圧が調整される。
また、減圧弁制御処理P9では、実際のレール圧PCRが目標レール圧よりも高いときに、減圧弁15の作動指令が駆動回路24に出力される。駆動回路24は、この作動指令の入力に伴って減圧弁15を作動させて、コモンレール13から燃料を排出させることで、レール圧PCRを降下させる。
−燃料噴射量制御の監視−
前述した燃料噴射量の制御と並行してマイクロコンピュータ21は、その制御が正常に行われているか否かを監視している。本実施形態では、こうした燃料噴射量制御の監視を、次の2つの監視ルーチンの処理を通じて行っている。すなわち、燃料噴射量制御ルーチンR1の要求噴射量Qfinの演算機能を監視する第1監視ルーチンR2と、要求噴射量Qfinに基づくインジェクタ14の駆動機能を監視する第2監視ルーチンR3とにより、燃料噴射量制御の監視が行われている。
(第1監視ルーチン)
第1監視ルーチンR2では、要求噴射量演算処理P2で算出された要求噴射量Qfinと、その演算に使用されたエンジン運転状態の検出値(エンジン回転速度NE、アクセル操作量ACCP、エンジン水温)とに基づいて、要求噴射量Qfinの演算が正常に行われたか否かが判定される。すなわち、図2に示すように第1監視ルーチンR2は、噴射量モニタ値算出処理P10と第1異常判定処理P11との2つの処理を通じて行われる。
前記噴射量モニタ値算出処理P10では、エンジン回転速度NEとアクセル操作量ACCPとエンジン水温とに基づいて要求噴射量(要求噴射量モニタ値)の算出が行われる。また、第1異常判定処理P11では、要求噴射量モニタ値と要求噴射量Qfinとの比較により、要求噴射量Qfinの演算が正常に行われたか否かが判定される。なお、要求噴射量モニタ値の算出は、マイクロコンピュータ21に記憶された噴射量モニタ値算出用のマップに基づいて行われる。
(第2監視ルーチン)
次に、本実施形態の特徴部分である第2監視ルーチンR3の処理の詳細を説明する。第2監視ルーチンR3では、インジェクタ14から実際に噴射された燃料の量(実燃料噴射
量;本発明でいう総モニタ噴射量ΣQM)と、燃料噴射量制御ルーチンR1で算出された要求噴射量Qfinとを比較する。そして、要求噴射量Qfinの演算結果に基づくインジェクタ14の駆動が正常に行われたか否か(即ち、燃料噴射量制御が正常に行われているか否か)判定する。
図2に表れているように第2監視ルーチンR3は、主として実通電期間計測処理P20、噴射量換算処理P21および第2異常判定処理P22の3つの処理により構成されている。まず、実通電期間計測処理P20では、EDU23から入力された噴射モニタ信号に基づいてインジェクタ14の駆動電流の実際の通電期間(実通電期間であり、以下の通電モニタ期間INJM)が計測される。この実通電期間に基づいて噴射量換算処理P21では、モニタ噴射量QMおよびその合計値ΣQM(以下、総モニタ噴射量ΣQMともいう)が算出される。そして、第2異常判定処理P22では、前記の総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとが比較されて、インジェクタ14の駆動が正常に行われたか否か判定される。
最初に図4を参照して実通電期間計測処理P20について説明すると、この図4には、燃料噴射時におけるクランク角信号、噴射指令信号、燃料の噴射率、および、噴射モニタ信号それぞれの変化を示している。この図4に表れているように、各噴射時において、EDU23がインジェクタ14に出力する噴射指令信号の信号レベルが立ち上がると、それに若干遅れてインジェクタ14の電磁弁に流れる駆動電流が同電磁弁を開弁可能なレベルまで上昇し、燃料噴射が開始される。
そして、このときの駆動電流の上昇に応じて、EDU23が生成する噴射モニタ信号が立ち下げられる。その後、噴射指令信号の信号レベルが立ち下がると、それに若干遅れてインジェクタ14の電磁弁への駆動電流の通電が停止され、インジェクタ14からの燃料噴射が停止される。また、そのときの駆動電流の通電停止に応じて、噴射モニタ信号が立ち上げられる。
そのような噴射モニタ信号の立ち下がり、および立ち上がりに応じた割り込み処理として、マイクロコンピュータ21が時刻の取り込みを行う。すなわち、噴射モニタ信号に基づいて各噴射の開始および終了の時刻を取得し、各噴射における駆動電流の実通電期間を通電モニタ期間INJMとして算出する。なお、その時刻の取り込みと並行してマイクロコンピュータ21は、レール圧PCRの取り込みも行っており、各噴射の終了時に取り込んだレール圧PCRを各噴射の噴射圧Pcrinjとして取得する。
(噴射量換算処理)
次に、噴射量換算処理P21の詳細を説明する。この処理では、前記のように実通電期間計測処理P20によって計測されたインジェクタ駆動電流の実通電期間、即ち通電モニタ期間INJMに基づいて、モニタ噴射量QMを算出するものであるが、これには以下のような問題があった。すなわち、上述したように本実施形態では、燃料噴射量の制御の精度を高めるために、通電期間演算処理P4としてインジェクタ駆動電流の通電期間τを、モデル式を用いて算出している。
このため、前記噴射量換算処理P21においては同様のモデル式を用いて、通電モニタ期間INJMからモニタ噴射量QMを逆算することも考えられるが、このモデル式を用いた演算ロジックは複雑であって、高い演算負荷を要求するものであるから、これを第2監視ルーチンR3において行うことは現実的とは言えない。監視のための演算は、演算負荷の高騰が抑えられるように、噴射量の制御演算に比べて簡略化された演算ロジックを用いることが望ましい。
この点に着目して本発明の発明者は、噴射量換算処理P21においてインジェクタ14の流量特性のマップ(図6を参照)を参照し、通電モニタ期間INJMからモニタ噴射量QMを算出することを考えた。但し、図3を参照して上述したように、通電期間演算処理P4に用いられるモデル式には初期調整項および学習補正項が含まれているので、前記のようなマップを参照してモニタ噴射量QMを算出すると、その合計値ΣQMは自ずと要求噴射量Qfinとは異なる値になってしまい、誤って異常判定するおそれがある。
そこで、本実施形態では通電モニタ期間INJMに対して、前記初期調整項および学習補正項の影響を除去するような補正を行い、この補正後の通電モニタ期間INJMに基づき、前記のマップを参照してモニタ噴射量QMを算出するようにしている。以下にまず、図5を参照して前記の通電モニタ期間INJMの補正について説明する。
図5の下段に示すように、エンジン制御ユニット20の制御系(燃料噴射量制御ルーチンR1)においては、前述の如くモデル式を用いてインジェクタ駆動電流の通電期間τを算出する通電期間演算処理P4と並行して、インジェクタ14の流量特性のマップを用いて通電期間のベース値τbを算出する処理(ベース値演算処理P23)が行われる。このマップは図6に一例を示すように、通電期間(ベース値τbまたは通電モニタ期間INJM)およびレール圧PCR(噴射圧Pcrinjを含む)と、燃料噴射量Q(モニタ噴射量QMを含む)との関係を実験などによって調べて、設定したものである。
そして、そのように算出された通電期間のベース値τbと、前記通電期間演算処理P4によって算出された通電期間τとの差分を、通電期間の補正値τcとして算出する処理(補正値演算処理P24)が行われる。このように算出される補正値τcには、通電期間演算処理P4において算出された通電期間τに含まれる初期調整項および学習補正項など、補正の影響が反映されている。なお、そうして通電期間のベース値τbを算出するベース値演算処理P23と、このベース値τbと通電期間τとの差分を通電期間の補正値τcとして算出する補正値演算処理P24とを実行することによってマイクロコンピュータ21は、本発明に係る補正値演算手段を構成する。
次に、図7に示すフローチャートを参照して前記ベース値演算処理P23および補正値演算処理P24について、より具体的に説明する。この処理はマイクロコンピュータ21によって、インジェクタ14の各噴射が行われる都度、クランク角割り込み処理として実施される。
図7に示すように補正値演算ルーチンの処理が開始されると、まず、ステップST01において、噴射量分割処理P3によってパイロット噴射、メイン噴射、アフタ噴射などの各噴射に割り振られた要求噴射量Qfin(分割後の各噴射の噴射量)と、レール圧PCR(インジェクタ14に供給される燃料の圧力)とに基づき、前記図6のマップを参照して各噴射のためのインジェクタ駆動電流の通電期間のベース値τbが算出される(ベース値演算処理P23)。
そうして算出された通電期間のベース値τbと、通電期間演算処理P4においてモデル式を用いて算出された通電期間τとの差分、例えば通電期間τからベース値τbを減算したものが、ステップST02において補正値τcとして算出される(補正値演算処理P24)。こうして各噴射について算出された補正値τcは、1燃焼サイクルにおける噴射順に配列化されたデータセットとして、エンジン制御ユニット20のメモリに記憶される(ステップST103)。
例えば、1燃焼サイクルにおける燃料の噴射が第1および第2の2回のパイロット噴射と、1回のメイン噴射と、1回のアフタ噴射である場合、それらの各噴射について算出さ
れた4つの補正値τcが順番に並んだ1つのデータセットとしてメモリに記憶される。これにより、4つの補正値τcはそれぞれ後述する上限ガード処理P25を経た後に、噴射量換算処理P21において第1および第2のパイロット噴射、メイン噴射およびアフタ噴射の各噴射についての通電モニタ期間INJMを補正するために用いられる。
すなわち、噴射量換算処理P21では、1燃焼サイクルにおける各噴射についての通電モニタ期間INJMをそれぞれ対応する補正値τcによって補正した上で、この補正後の通電モニタ期間INJMに基づき前記図6のマップを参照して、各噴射についてのモニタ噴射量QMが算出される。そして、1燃焼サイクルにおける各噴射についてのモニタ噴射量QMが合算されて、総モニタ噴射量ΣQMが算出される。この噴射量換算処理P21を実行することによってマイクロコンピュータ21は、本発明に係るモニタ噴射量演算手段を構成する。
以下、図8に示すフローチャートを参照して、主に前記噴射量換算処理P21について具体的に説明する。この処理はマイクロコンピュータ21によって、インジェクタ14からの一連の燃料噴射(例えば1燃焼サイクルにおける複数回の燃料噴射)の終了後に、クランク角割り込み処理として実施される。
図8に示すようにモニタ噴射量算出ルーチンの処理が開始されると、まず、ステップST11において、1燃焼サイクルにおける各噴射についての補正値τcがメモリから読み出されて、それぞれの上限ガード処理が行われる(上限ガード処理について詳しくは後述する)。続いてステップST12では、前記各噴射の通電モニタ期間INJMがそれぞれ前記補正値τcによって補正される。例えば補正値τcが正値であれば、これを通電モニタ期間INJMから減算する。
こうして補正された各噴射の通電モニタ期間INJMと噴射圧Pcrinjとに基づいて、ステップST13では、各噴射の噴射量(モニタ噴射量QM)が前記図6のマップを参照して算出される。なお、この場合に図6のマップにおけるレール圧PCRは噴射圧Pcrinjと読み替えられ、燃料噴射量Qはモニタ噴射量QMに読み替えられる。そして、ステップST14において各噴射のモニタ噴射量QMが合算されて、総モニタ噴射量ΣQMとされ、処理が終了する。
こうして求められた総モニタ噴射量ΣQMは、一連の燃料噴射(この例では1燃焼サイクルにおけるパイロット噴射からアフタ噴射まで)において、インジェクタ14から実際に噴射された燃料の総量を表している。そして、前述したようにモニタ噴射量QMは、補正値τcによって補正された通電モニタ期間INJM、即ち、モデル式を用いた演算における初期調整項および学習補正項の影響が除去された通電モニタ期間INJMに基づいて算出されている。
このため、以下に説明するように第2異常判定処理P22によって、総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとを比較することで、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否か正確に判定することができる。
(第2異常判定処理)
次に、図9のフローチャートを参照して第2異常判定処理P22について具体的に説明する。この第2異常判定処理P22は、前記のモニタ噴射量算出ルーチン(図8)に引き続いて、マイクロコンピュータ21により実行されるものであり、このことによってマイクロコンピュータ21は、総モニタ噴射量ΣQMの要求噴射量Qfinからの乖離が所定以上のときに、燃料噴射量の制御が正常に行われていないと判定する異常判定手段を構成する。
図9に示すように、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップST21において、噴射量換算処理P21で算出された総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとが、乖離しているか否か判定される。なお、本実施形態では、総モニタ噴射量ΣQMが過剰となる場合のみをフェールセーフ処理が必要な異常としている。そのため、総モニタ噴射量ΣQMが要求噴射量Qfinよりも既定値α以上大きい場合に、それらの乖離が生じたと判定される。
ここで、乖離が生じていなければ(ステップST21でNO判定)、ステップST22において、異常検出カウンタC2の値がクリアされた後、リターンされる。なお、異常検出カウンタC2の値は、一定の時間毎に自動的にカウントアップされる。したがって、異常検出カウンタC2の値は、総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとが乖離している状態の継続に応じて、次第に大きくなる。
これに対し、総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとが乖離していると判定されたときには(ステップST21でYES判定)、ステップST23において、異常検出カウンタC2が予め規定された異常判定値γ以上であるか否かが判定される。ここで、異常検出カウンタC2が異常判定値γ未満であれば(ステップST23でNO判定)、そのままリターンされる。
一方、異常検出カウンタC2が異常判定値γ以上であれば(ステップST23でYES判定)、ステップST24において、通電期間演算機能異常フラグがセットされた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。なお、通電期間演算機能異常フラグがセットされると、マイクロコンピュータ21は、フェールセーフ処理として、異常が生じた気筒を休止、すなわちその気筒の燃料噴射を停止する。
(上限ガード処理)
次に、前述したモニタ噴射量算出ルーチン(図8)のステップST11における補正値τcの上限ガード処理について説明する。図5を参照して前述したように、補正値演算処理P24によって算出される補正値τcには、上限ガード処理P25が施される。これは、補正値τcには本来、燃料噴射のばらつきなどを補正するための初期調整項および学習補正項などの影響が含まれるが、それ以外にも例えば通電期間演算処理P4における通電期間τの演算に異常が発生した場合に、この異常による影響が含まれるからである。
こうして異常による影響が含まれる補正値τcによって、前述の如く通電モニタ期間INJMを補正すると、この通電モニタ期間INJMにも含まれている異常の影響が除去されてしまい、異常を判定できなくなるおそれがあった。すなわち、例えば通電期間演算処理P4の異常によって通電期間τが過大になった場合、これに応じて噴射される燃料の量も過大になってしまい、通電モニタ期間INJMも過大なものとなるが、同時に補正値τcも過大なものとなる。この結果、この補正値τcによって補正された通電モニタ期間INJMからは異常の影響が除去されることになり、総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとの間に差が生じ難くなるからである。
この点を考慮して本実施形態では、前記補正値τcの絶対値が予め設定した上限ガード値を超えていれば、この上限ガード値を絶対値とするように補正値τcを変更する上限ガード処理P25を行うようにしている。こうすれば、前記のように通電期間τが過大になって、通電モニタ期間INJMも過大なものとなった場合でも、補正値τcの増大は上限ガード値までとなるので、これによって補正をしても通電モニタ期間INJMには異常の影響が残ることになる。
よって、この補正後の通電モニタ期間INJMに基づいて算出されるモニタ噴射量QMにも異常の影響が残ることになり、総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとの比較によって、燃料噴射量の制御(この場合は噴射制御手段による演算)に異常が発生していることを正確に判定できる。なお、この上限ガード処理P25を行うことによってマイクロコンピュータ21は、本発明に係る上限ガード手段を構成する。
以上、説明したように本実施形態のエンジン制御ユニット20によれば、マイクロコンピュータ21の実行する通電期間演算処理P4によって、要求噴射量Qfinに基づき、インジェクタ14による燃料の噴射を模擬するモデル式を用いて、インジェクタ駆動電流の通電期間τが算出される。こうしてモデル式を用いて算出された通電期間τは、燃料噴射のばらつきなどを好適に補正したものであり、その通電期間τに応じてEDU23がインジェクタ14を駆動することで、燃料噴射量を精度良く制御することができる。
また、前記要求噴射量Qfinおよびレール圧PCRに基づき、マップを参照して通電期間のベース値τbが算出されるとともに、このベース値τbと前記通電期間τとの差分が通電期間の補正値τcとして算出される。そして、噴射モニタ信号から得られる通電モニタ期間INJMが前記補正値τcによって補正されることで、燃料噴射のばらつきなどの補正分が除去されて、通電期間のベース値τbに対応する通電モニタ期間INJMが求められる。
よって、その補正後の通電モニタ期間INJMに基づき、マップを参照することによって算出される各噴射のモニタ噴射量QMを合算し、この総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとを比較することにより、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否か正確に判定することができる。つまり、エンジンの燃料噴射量の制御にモデル式を導入して、その精度を高めるようにした場合でも、監視系の演算負荷は高騰しないように抑えつつ、制御が正常に行われているか否かを精度良く判定することができる。
しかも、本実施形態では、前記の補正値τcに上限ガード処理P25を施すようにしているので、通電期間演算処理P4における通電期間τの演算に異常が発生し、過大な通電期間τが算出されてしまった場合でも、補正値τcは過大なものとはならない。このため、補正値τcによって補正される通電モニタ期間INJMに基づいて算出されるモニタ噴射量QMは、過大な通電期間τを反映する大きな値になり、総モニタ噴射量ΣQMを要求噴射量Qfinと比較することによって、異常を判定することができる。
−他の実施形態−
以上、説明した実施形態では、図7の補正値演算ルーチンによって算出された補正値τcに上限ガード処理を施すようにしているが、これに限らず、補正値τcはそのまま通電モニタ期間INJMの補正に用いるようにしてもよい。こうすると、通電期間演算処理P4の演算の異常を判定することは困難になるが、EDU23の故障などは精度良く判定できる。
また、図10に一例を示すように通電期間演算処理P4において、インジェクタ駆動電流の通電期間τの演算を分割して行うようにしてもよい。すなわち、まず、モデル式の学習補正項に学習結果を反映させずに演算し、通電期間の中間値τmを算出する(第1の演算)。そして、この中間値τm(第1演算値)に学習結果を反映させて(第2の演算)、インジェクタ駆動電流の通電期間τ(第2演算値)を算出する。
この場合、補正値演算処理P24では、ベース値演算処理P23によって算出された通電期間のベース値τbと、前記通電期間の中間値τmとの差分を、通電期間の第1の補正値τc1として算出するとともに、その中間値τmと通電期間τとの差分を、通電期間の
第2の補正値τc2として算出する。そして、それらの補正値τc1,τc2にそれぞれ上限ガード処理P25を施した上で、噴射量換算処理P21において通電モニタ期間INJMを補正する。
このようにすると、前記第2の補正値τc2には、通電期間演算処理P4における演算の異常の影響が含まれ得るとともに、学習処理P12の演算に異常があった場合には、その影響も含まれることになる。一方、第1の補正値τc1には学習処理P12に関する異常の影響が含まれることはない。そこで、第1の補正値τc1には、通電期間演算処理P4に異常があった場合に好適な上限ガード値を設定し、第2の補正値τc2には、通電期間演算処理P4および学習処理P12の少なくとも一方に異常があった場合に好適な上限ガード値を設定する。
これにより、前記第1および第2の補正値τc1,τc2による通電モニタ期間INJMの補正をより好適に行えるようになり、補正した通電モニタ期間INJMに基づくモニタ噴射量QMの演算、および、総モニタ噴射量ΣQMと要求噴射量Qfinとの比較による異常の判定を、より適切に行うことが可能になる。なお、そうして2つの補正値τc1,τc2の上限ガード値を異ならせるだけでなく、通電モニタ期間INJMの補正の重み付けを変えるようにしてもよい。
さらに、前記の実施形態では、車両に搭載されたディーゼルエンジンの制御ユニット20に本発明を適用した場合について説明したが、これにも限定されず、本発明は、ガソリンエンジンの制御ユニットに適用することも可能であり、また、車両以外のものに搭載されるエンジンの制御ユニットに適用することも可能である。
本発明は、ディーゼルエンジンのエンジン制御ユニットによる燃料噴射量制御が正常に行われているか否かを監視する監視装置に適用可能である。
14 インジェクタ(燃料噴射弁)
20 エンジン制御ユニット
21 マイクロコンピュータ
22 サブマイコン
P4 通電期間演算処理(噴射制御手段)
P12 学習処理(学習手段)
P20 実通電期間計測処理(モニタ噴射量演算手段)
P21 噴射量換算処理(モニタ噴射量演算手段)
P22 第2異常判定処理(異常判定手段)
P23 ベース値演算処理(補正値演算手段)
P24 補正値演算処理(補正値演算手段)
P25 上限ガード処理(上限ガード手段)

Claims (5)

  1. エンジンの制御ユニットにて算出される燃料の要求噴射量と、燃料噴射弁の駆動電流の実通電期間を表す噴射モニタ信号から算出されるモニタ噴射量とを比較して、燃料噴射量の制御が正常に行われているか否か監視するエンジン制御ユニットの監視装置において、
    前記制御ユニットは、前記要求噴射量と、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力とに基づき、当該燃料噴射弁による燃料の噴射を模擬するモデル式を用いて前記駆動電流の通電期間を算出し、この通電期間の情報を含む制御信号を出力する噴射制御手段を有しており、
    前記要求噴射量と、前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力とに基づき、予め設定したマップを参照して前記通電期間のベース値を算出するとともに、このベース値と、前記噴射制御手段によって算出された通電期間との差分を通電期間の補正値として算出する補正値演算手段と、
    前記噴射モニタ信号から得られる実通電期間を前記補正値によって補正した上で、この補正後の実通電期間に基づき、前記マップを参照して前記モニタ噴射量を算出するモニタ噴射量演算手段と、
    前記モニタ噴射量演算手段によって算出されたモニタ噴射量の要求噴射量からの乖離が所定以上のときに、燃料噴射量制御が正常に行われていないと判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とするエンジン制御ユニットの監視装置。
  2. 請求項1記載のエンジン制御ユニットの監視装置において、
    前記補正値演算手段によって算出された補正値の絶対値が予め設定した上限ガード値を超えていれば、この上限ガード値を絶対値とするように前記補正値を変更する上限ガード手段を備える、エンジン制御ユニットの監視装置。
  3. 請求項1または2のいずれかに記載のエンジン制御ユニットの監視装置において、
    エンジンの運転中に、前記燃料噴射弁による燃料の噴射率波形の特性パラメータについて学習する学習手段を備え、
    前記燃料噴射弁による燃料の噴射を模擬するモデル式は、前記学習手段による学習結果が反映される学習補正項を有している、エンジン制御ユニットの監視装置。
  4. 請求項3に記載のエンジン制御ユニットの監視装置において、
    前記噴射制御手段は、前記モデル式の学習補正項に学習結果を反映させずに、前記駆動電流の通電期間を算出する第1の演算と、この第1の演算の結果に前記学習結果を反映させる第2の演算と、を行うように構成され、
    前記補正値演算手段は、前記通電期間のベース値と、前記第1の演算の結果である第1演算値との差分を、通電期間の第1の補正値として算出するとともに、その第1演算値と、前記第2の演算によって算出された通電期間の第2演算値との差分を、通電期間の第2の補正値として算出するように構成され、
    前記モニタ噴射量演算手段は、前記実通電期間を前記第1および第2補正値によって補正し、この補正後の実通電期間に基づいて前記モニタ噴射量を算出するように構成されている、エンジン制御ユニットの監視装置。
  5. 請求項4に記載のエンジン制御ユニットの監視装置において、
    前記補正値演算手段によって算出された第1および第2の補正値のそれぞれについて、その絶対値が予め設定した上限ガード値を超えていれば、この上限ガード値を絶対値とするように当該補正値を変更する上限ガード手段を備える、エンジン制御ユニットの監視装置。
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