JP6424036B2 - グラファイトの接合方法、およびグラファイト接着用積層体 - Google Patents
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Description
グラファイト結晶の基本的な構造は、六角網目状に結ばれた炭素原子のつくる基底面が規則正しく積み重なった層状構造(層が積み重なった方向をc軸と言い、六角網目状に結ばれた炭素原子のつくる基底面の広がる方向をa−b面方向と言う)である。基底面内の炭素原子は共有結合で強く結ばれ、一方、積み重なった層面間の結合(c軸方向)は比較的弱いVan der Walls力によるものであり、理想的なグラファイト層間距離は0.3354nmである。通常グラファイト層間距離はX線測定によって決定されるが、グラファイトの理想的な構造から乱れるに従って層間距離が大きくなる事が知られている。グラファイトはこの様な構造を有しているので電気伝導度、熱伝導度などの物性はa−b面方向に大きく、c軸方向には小さい。また、層間での剥離が起こり易いと言う特徴がある。
一方、100μm未満の薄いグラファイトであれば、電気伝導度や熱伝導度の観点からは高性能なものが得られ、熱拡散フィルムとして広く利用されている。しかしながら、熱の移動量は膜厚に比例することから、薄いグラファイトフィルムの場合、熱の移動量(運ばれる熱量)は少なくなってしまうという問題があった。
一方、複数枚のグラファイトを接着材を用いずに接着・積層するために、2500℃以上の温度領域で、100kgf以上の圧力を印加して高温プレスする方法が報告されている(特許文献11、非特許文献1)。しかしながら、この方法は極めて高温を必要とする特殊な方法であって、工業的にも、コストの面からも大きな問題を抱えている。
原理的には、本発明の方法はニッケル、ビスマス、鉄のいずれか、または少なくともこれらの金属元素を含む合金であれば良いと考えられる。しかしながら、ニッケルやニッケル合金と比較して、ビスマスの薄膜を形成するためには極めて特殊な方法が必要であるので、実用的な観点から本発明の接合層として好ましくない。また、鉄は上記の様に、溶解するのみでなく炭化鉄(Fe3C)を形成し、この炭化鉄はグラファイト層を破壊してグラファイトの電気伝導度や熱伝導度を劣化させる要因となる事が分かった。したがって鉄を用いて接合する事は本発明の目的には好ましくない。
以上の通り、前記接着用(接合用)金属としてニッケルまたはニッケル合金が特に優れており、これらを用いることで、グラファイトの物性を損なう事無く、層間剥離強度以上の強度を持つ接着が可能になった。
(1)複数枚のグラファイトフィルムのa−b面同士が、ニッケルまたはニッケル合金層を介して接合されている事を特徴とするグラファイト接合体。
(2)グラファイトフィルムのa−b面と金属が、ニッケルまたはニッケル合金層を介して接合されている事を特徴とするグラファイトと金属の接合体。
(3)前記グラファイトフィルムが、芳香族高分子フィルムを炭素化し、不活性ガス中で2400℃以上の温度で処理することによって作製されたものである(1)または(2)に記載の接合体。
(4)前記芳香族高分子が芳香族ポリイミドである(3)に記載の接合体。
(5)複数枚のグラファイトフィルムのa−b面同士を、ニッケルまたはニッケル合金層を用いて接着する事を特徴とするグラファイトの接合方法。
(6)グラファイトフィルムのa−b面と金属を、ニッケルまたはニッケル合金層を用いて接着する事を特徴とするグラファイトと金属の接合方法。
(7)ニッケルまたはニッケル合金層の厚さが0.5nm〜1μmの範囲である(5)または(6)に記載の接合方法。
(8)複数枚のグラファイトフィルムのa−b面同士の間に、またはグラファイトフィルムのa−b面と金属の間に、ニッケルまたはニッケル合金層を介入することによって得られる積層体を、不活性ガス中または真空中、700℃以上、1300℃以下の温度範囲で加圧する(5)〜(7)のいずれかに記載の接合方法。
(9)前記加圧の条件が0.02〜9.8MPaの範囲で加圧することを特徴とする(8)に記載の接合方法。
(10)前記グラファイトフィルムが、芳香族高分子フィルムを炭素化し、不活性ガス中で2400℃以上の温度で処理することによって作製されたものである(5)〜(9)のいずれかに記載の接合方法。
(11)前記芳香族高分子が芳香族ポリイミドである(10)に記載の接合方法。
(12)グラファイトフィルム又は金属の少なくとも片面に、ニッケルまたはニッケル合金層が積層されているグラファイト接着用積層体。
なお本明細書において、用語「シート」、「フィルム」、「膜」は厚みを特に限定するものでなく、柔軟性を有する平面体の意味で使用し、好ましくは平面方向の最長長さが、厚さの500倍以上であるものを指す。
また本発明では、グラファイトとはグラファイト層間距離が0.3354〜3.6nmの範囲にあるものであると定義される。また、電気伝導度の値はグラファイトの品質を判定する簡便な指標となるので、本発明におけるグラファイトとは、グラファイトa−b面方向の電気伝導度が1000S/cm以上のものであるとも定義される。さらに、グラファイト構造体がその結晶構造の異方性を反映している事から、電気伝導度の異方性(a−b面方向とc軸方向の比)が100倍以上異なるものもグラファイトであると定義される。本発明では、これら3つの定義、すなわち、(1)層間距離、(2)a−b面方向の電気伝導度、(3)伝導度の異方性の内、少なくとも何れか一つ、好ましくは少なくとも何れか二つ、より好ましくは三つを満足する炭素材料がグラファイトであると定義される。
本発明に用いられるグラファイトは、前記定義に該当する限り特に制限はない。本発明の目的の一つが、本来接着する事が極めて困難なグラファイトa−b面同士、あるいはグラファイトa−b面と金属を接着・接合させる事にあるので、グラファイトa−b面がグラファイトフィルム面と平行になる様に発達したグラファイトフィルム(グラファイト膜)は本発明のグラファイトとして特に好ましい。
本発明のグラファイトとして好ましく用いられる、高分子から作製されるグラファイトフィルムについて述べる。このグラファイトフィルムの作製に好ましく用いられる高分子原料は芳香族高分子である。芳香族高分子としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのフィルムは公知の製造方法で製造すればよい。
芳香族高分子フィルムの厚さは、例えば150μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下であり、例えば1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上である。この様な芳香族ポリイミドのフィルム(膜)を作製するには、エンドレスベルト、ドラム、金属フィルムなどの基板上へのワイヤバーによる膜作製法、スピンコート法による膜作製法などを好ましく用いる事が出来る。
グラファイト化は不活性ガス中で行なうが、不活性ガスとしてはアルゴンや窒素が用いられ、中でもアルゴンは最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えても良い。またグラファイト化は、加圧雰囲気でおこなうことが好ましく、その圧力(ゲージ圧)の下限は、例えば、0.01MPa(0.1kg/cm2)以上、好ましくは0.03MPa(0.3kg/cm2)以上であり、より好ましくは0.05MPa(0.5kg/cm2)以上である。また圧力(ゲージ圧)の上限は、例えば、0.3MPa(3kg/cm2)以下、好ましくは0.2MPa(2kg/cm2)以下、より好ましくは0.15MPa(1.5kg/cm2)以下である。
芳香族ポリイミドからの炭素化フィルムを用いた場合、最終的に得られるグラファイトフィルムの厚さは、一般に出発高分子フィルムの90〜30%の範囲となる。
グラファイトフィルムの面方向電気伝導度は、例えば、10000S/cm以上、好ましくは15000S/cm以上、より好ましくは17000S/cm以上である。またその上限は、例えば、20000S/cm以下、または18000S/cm以下であってもよい。
またグラファイトフィルムの面方向熱伝導度は、例えば、1000W/mK以上、好ましくは1500W/mK以上、より好ましくは1800W/mK以上である。またその上限は、例えば、1950W/mK以下、または1900W/mK以下であってもよい。
本発明では、前記グラファイトフィルムのa−b面同士を接合するか、前記グラファイトフィルムのa−b面と金属とを接合する。接合対象となる金属は特に限定されず、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)などが挙げられる。本発明によれば、通常、接合が困難な金属をグラファイトと接合できる。特にCuはグラファイトと反応しない金属であり、通常の方法では、直接接合する事が出来ない。しかし、接着用金属層を用いる本発明の接合方法によれば、グラファイトとCuを強固に接合できる。
また接合対象金属の形状は特に限定されず、立体的形状、板状、フィルム状のいずれであってもよい。
本発明では、グラファイト接着用(接合用)金属として、金属ニッケル(純ニッケル)を用いるのが好ましく、ニッケル合金を使用することも可能である。金属ニッケルを用いると、グラファイトからの炭素を高温で固溶でき、ついで冷却時にニッケル表面に固溶炭素を析出でき、最後に自身の触媒作用によって析出炭素をグラファイト化できるため、有機系接着剤やシリコーン系接着剤によって接合を行う場合と異なり、グラファイトの物性を損なうことなく、グラファイトを接合でき、簡便に厚いグラファイトやグラファイト金属接合体を作製でき、大量の熱拡散が可能な高性能の熱拡散フィルムを製造できる。またニッケル合金も同様の作用を有し、有用である。
ニッケル合金としては、例えば、Ni−Fe系合金、Ni−Cu系合金、Ni−Al系合金、Ni−Co系合金、Ni−Cr系合金、Ni−Mo系合金、Ni−Ti系合金、Ni−Nb系合金などが本発明の本目的に好ましく用いられ、前記合金元素(Fe、Cu、Al、Co、Cr、Mo、Ti、Nb)を2種以上含むNi合金も同様に好ましく用いられる。Ni−Fe系合金は通称パーマロイやアンバーなどと呼ばれ、Ni−Cu系合金、Ni−Cr系、Ni−Mo系などの合金は、それぞれ、通称モネル、インコネル、ハステロイとして知られている。純Niは、中性およびアルカリ性環境において良好な耐食性を示すが、Cr、Mo、Cuなどが目的に応じて添加された各種Ni基合金も、それぞれの腐食環境下で良好な耐食性を示す。Nb、Ti、Alなどの元素を追加して、さらにクリープ強度、高温強度を高めたニッケル合金も本発明の接着層として好ましい。なお、本発明の目的からニッケル合金におけるニッケル含有量は40質量%以上である事が好ましく、50質量%以上である事はより好ましく、60質量%以上である事は最も好ましい。この様なニッケル合金の場合は、金属炭化物を形成する場合と炭素を溶解する場合の中間的な接合機構であると考えられるが、金属炭化物を形成する場合に比べてグラファイト自体の電気物性、熱物性が損なわれる程度は著しく小さくなる。したがってニッケル合金は本発明の接着層として好ましい。
本発明では、前記グラファイトフィルム、金属(接合対象金属)からなる接合対象の間に接着用金属を介入して積層体(以下、最終積層体と言うことがある)を形成し、この最終積層体を加圧・加熱する事によって接合体を製造する。具体的には、複数枚のグラファイトフィルムのa−b面同士の間に接着用金属層を介入させたもの、またはグラファイトフィルムのa−b面と金属の間に接着用金属層を介入させたものなどが最終積層体として使用できる。
なお前記最終積層体を製造するに当たっては、金属又はグラファイトフィルムのいずれかの表面に前記接着用金属(ニッケル、ニッケル合金など)の層を積層しておいたもの(グラファイト接着用積層体)を予め製造しておき、その接着用金属層面に残りの接合対象を接触させて最終積層体にするのが、接合を簡便に実施する上で推奨される。具体的には、金属と接着用金属層の積層体を形成しておいた場合には、接着用金属側にグラファイトフィルムを積層することで、最終積層体を形成でき、これを加圧・加熱することでグラファイトフィルムと金属とを接着(接合)できる。またグラファイトフィルムと接着用金属層の積層体を形成しておいた場合には、接着用金属層側に別のグラファイトフィルムをさらに積層して最終積層体を形成でき、これを加圧・加熱することによってグラファイトフィルム同士を接着(接合)でき、或いは前記接着用金属層側に接着対象となる金属を接触することによっても最終積層体を形成することができ、これを加圧・加熱することでグラファイトフィルムと金属とを接着(接合)できる。さらに、グラファイトフィルムと接着用金属層の積層体を、その向きをそろえて複数枚重ね合わせることでも、接着体(接合体)を形成できる。なお必要に応じて、グラファイトフィルムの両面或いは金属の複数面に接着用金属層を積層してもよい。
一方、接着用金属層の厚さの上限は特に制限はないが、1μm超の厚さの場合には、接合体の電気物性や熱物性が接着用金属層(ニッケル層、またはニッケル合金層など)の物性も反映する事になるので好ましくない。すなわち、本発明において、接着用金属層の好ましい厚さの下限は、0.5nm以上、より好ましくは1nm以上、最も好ましくは2nm以上であり、前記厚さの好ましい上限は、1μm以下、より好ましくは100nm以下、最も好ましくは50nm以下である。
以上のようにして得られる最終積層体は、炉内部にセットし加熱しながら加圧することによって接合体となる。この様な加圧・加熱処理をすると、接合面におけるグラファイト層の内の数層は接着用金属と互いに溶融した状態となり、層構造は失われる。しかし、互いに溶融した状態となるのはグラファイトの表面1〜3層程度に限られ、さらに接合の後に温度が低下するに従いニッケル層からグラファイト構造をもった炭素が析出するので、本発明の方法によってグラファイトの電気的性質や熱的性質が失われる事はない。そして本発明の方法によれば、接合面の接着強度は、グラファイトの層間強度よりも高くなる。
以上のようにして、グラファイト同士の接合体、またはグラファイトと金属の接合体が得られる。なおグラファイト同士が接着用金属層で接合された接合体のグラファイト面に、接着用金属層を介して金属が接合されたものも本発明の接合体に含まれる。本発明において、接合体(または積層体)は、接着用樹脂層を用いず、接着用金属層のみを用いてグラファイト同士またはグラファイトと金属を接合したものであることが好ましく、より好ましくは接着用樹脂層を用いず、ニッケル層またはニッケル合金層のみを用いてグラファイト同士またはグラファイトと金属を接合したものである。グラファイト同士を接合した場合、接合体の厚さは特に限定されないが、例えば、100μm以上、好ましくは200μm以上、より好ましくは500μm以上である。高分子焼成法で作製したグラファイトフィルムでは、厚さが100μm以上になると熱伝導性や電気伝導性が大きく劣化したが、本発明の接合体によれば、厚さ100μm以上でも、優れた熱伝導性や電気伝導性を示す。接合体の厚さの上限は特に限定されないが、例えば、5mm以下でもよく、3mm以下、または1mm以下でもよい。
接合体の面方向電気伝導度は、例えば、10000S/cm以上、好ましくは15000S/cm以上、より好ましくは17000S/cm以上である。またその上限は、例えば、20000S/cm以下、または18000S/cm以下であってもよい。
また接合体の面方向熱伝導度は、例えば、1000W/mK以上、好ましくは1500W/mK以上、より好ましくは1800W/mK以上である。またその上限は、例えば、1950W/mK以下、または1900W/mK以下であってもよい。
<高分子フィルム厚さ・グラファイトフィルム厚さ>
原料である高分子フィルム、グラファイトフィルムの厚さは、プラス、マイナス5〜10%程度の誤差がある。そのため得られたフィルムの10点平均の厚さを本発明における試料の厚さとした。
金属層の厚さは水晶振動子の蒸着材料付着による振動数の変化より決定した。
グラファイトフィルムの熱拡散率は、周期加熱法による熱拡散率測定装置(アルバック理工株式会社「LaserPit」装置)を用いて、20℃、真空下(10-2Pa程度)、10Hzの周波数を用いて測定した。これはレーザー加熱の点から一定距離だけ離れた点に熱電対を取り付け、その温度変化を測定する方法である。ここで熱伝導率(W/mK)は、熱拡散率(m2/s)と密度(kg/m3)と比熱(798kJ/(kg・K))を掛け合わせることによって算出した。
グラファイトフィルムの電気伝導度の測定はファン・デル・ポー法によって行った。この方法は薄膜状の試料の電気伝導度を測定するのに最も適した方法である。この測定法の詳細は(第四版)実験化学講座9 電気・磁気(社団法人日本化学会編、丸善株式会社発行(平成3年6月5日発行))のP170に記載されている。この手法の特徴は、任意の形状の薄膜試料端部の任意の4点に電極をとり測定を行うことが出来る事であり、試料の厚さが均一であれば正確な測定が行える点である。本発明においては正方形に切断した試料を用い、それぞれの4つの角(稜)に銀ペースト電極を取り付けて行った。測定は(株)東洋テクニカ製、比抵抗/DC&ACホール測定システム、ResiTest 8300を用いて行った。
(株)カネカより厚みの異なる4種類のポリイミドフィルム(商品名AH;厚さ12.5μm、25μm、50μm、または75μm)を入手し原料高分子フィルムとした。これらのフィルムを電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って炭素化処理した。次に得られた炭素化フィルムを円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度で2900℃まで昇温した。2900℃で30分間保持し、その後40℃/分の速度で降温し、グラファイトフィルムを作製した。グラファイト化処理はアルゴン雰囲気でゲージ圧98kPa(1.0kg/cm2)の加圧下で行った。
製造例1A:グラファイトフィルムA(AH(12.5μm)より作製)
厚さ:7.4μm、電気伝導度:18000S/cm、熱伝導度1900W/mK
製造例1B:グラファイトフィルムB(AH(25μm)より作製)
厚さ:16μm、電気伝導度:16000S/cm、熱伝導度1600W/mK
製造例1C:グラファイトフィルムC(AH(50μm)より作製)
厚さ:40μm、電気伝導度:13800S/cm、熱伝導度1400W/mK
製造例1D:グラファイトフィルムD(AH(75μm)より作製)
厚さ:62μm、電気伝導度:11200S/cm、熱伝導度1100W/mK
製造例1Aで作製したグラファイトフィルムA(面積4cm×4cm)の表面に真空蒸着法でニッケル金属層を厚さが約4〜5nmになるように形成し、第1積層体を製造した。この第1積層体のニッケル金属層面に、製造例1Aで作製した別のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、900℃で10分間処理をした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。厚さは14.6μm、電気伝導度は18000S/cm、熱伝導度は1900W/mKであり物性値はグラファイトフィルムAと全く変わりが無かった。つぎに得られたグラファイト接合体を4mm×4cmの長方形に切断し、両面にスコッチテープを貼り付けて試料の剥離実験をおこなった。その結果、剥離はすべてグラファイト層間で起こり、接合面、即ちグラファイトとニッケル層界面での剥離は観察されなかった。この事から本発明の接合方法がグラファイト本来の物性値を損なう事無く、グラファイトを極めて強固に接着できる方法である事が分かった。さらに、得られた試料を500℃で1時間加熱し、その後、上記剥離試験を行ったが接合強度に変化はなく、すべての剥離はグラファイト層間で起きる事が分かった。
実施例1と同じ条件でグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、それぞれ700℃で1時間、800℃で20分間、1000℃で1分間、1100℃で20秒間、加熱・加圧処理した。いずれの条件でも良好な接着性を示し、実施例1と同様の剥離実験を行うと、剥離はすべてグラファイト層間で起こった。得られたグラファイト積層体の電気伝導度は18000S/cm、熱伝導度は1900W/mKであった。
実施例1と同じ条件でニッケル金属層を介して2枚のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、1.0MPaの圧力を加えながら、600℃で1時間の処理を行ったがグラファイトフィルムA同士を接着出来なかった。この結果からニッケルを用いた接合には700℃以上の温度が必要であると結論した。
実施例1と同じ条件でニッケル金属層を介して2枚のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、1400℃で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、それぞれ10秒または1分間の処理を行ったがグラファイトフィルムA同士を接着出来なかった。この様な条件では、ニッケル層が完全に、グラファイト中に拡散してしまい接合に寄与できない事が分かった。
実施例1と同じ方法でグラファイトフィルムA(面積4cm×4cm)の表面にスパッタリング法でニッケル金属層を形成し、第1積層体を製造した。ニッケル金属層の厚さは、0.5nm(実施例3)、2nm(実施例4)、50nm(実施例5)、200nm(実施例6)、または800nm(実施例7)である。この第1積層体のニッケル金属層面に、別のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、900℃で10分間処理をした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。実施例3〜6では、いずれの実施例でも電気伝導度は18000S/cm、熱伝導度は1900W/mKであり物性値はグラファイトフィルムAと変わりが無かった。実施例7では電気伝導度は17500S/cm、熱伝導度は1800W/mKであり物性値にやや低下が見られたが、基本的には優れた物性値である事に変わりが無かった。また、実施例3〜7のいずれの場合でも、極めて良好に接合されており、実施例1と同様の剥離実験を行うと、剥離はすべてグラファイト層間で起こった。
実施例1と同じ方法でグラファイトフィルムA(面積4cm×4cm)の表面にスパッタリング法でニッケル金属層を厚さが0.2nmとなる様に形成し、第1積層体を製造した。なお、この様な厚さの測定を正確に行う事は極めて困難であるので、厚さはスパッタリング時間からの推定値である。次に、この第1積層体のニッケル金属層面に、別のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、900℃で10分間処理をした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。電気伝導度は18000S/cm、熱伝導度は1900W/mKであり物性値はグラファイトフィルムAと変わりが無かった。しかしながら、得られたグラファイト接合体を4mm×4cmの長方形に切断し、両面にスコッチテープを貼り付けて試料の剥離実験をおこなったところ、剥離はグラファイト層間、またはニッケル金属層とグラファイト層の間で発生し、どちらで発生するかはランダムであった。すなわちグラファイト層とニッケル金属層界面での剥離が部分的に観察された。この事からニッケル金属層の厚さが0.2nmでは不十分であると結論した。実施例3の場合と比較すると、強固な接着を実現するためには0.5nm以上のニッケル金属層の厚さが有効である事が分かった。
実施例1と同じ方法でグラファイトフィルムA(面積4cm×4cm)の表面にスパッタリング法でニッケル金属層を厚さが1.2μmとなる様に形成し、第1積層体を製造した。第1積層体のニッケル金属層面に別のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、900℃で10分間処理をした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。電気伝導度は15500S/cm、熱伝導度は1600W/mKであり物性値の低下が観察された。これはニッケル金属層の厚さが厚くなったため、電気伝導度や熱伝導度の値にニッケル自体の物性値が反映された結果である。この実験結果と先に述べた実施例7との結果から、ニッケル金属の場合、本発明の接着層として1μm以下が好ましいと結論した。
実施例1と同じ方法でグラファイトフィルムA(面積4cm×4cm)の表面に真空蒸着法でニッケル金属層を厚さが約4〜5nmになるように形成し、第1積層体を製造した。第1積層体のニッケル金属層面に別のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、900℃で10分間処理をした。この時加える圧力は、それぞれ、0.02MPa(0.2kg/cm2;実施例8A)、0.05MPa(0.5kg/cm2;実施例8B)、0.1MPa(1kg/cm2;実施例8C)、0.5MPa(5kg/cm2;実施例8D)、1.96MPa(20kg/cm2;実施例8E)、または4.9MPa(50kg/cm2;実施例8F)とした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。いずれのグラファイト接合体も、厚さは14.6μm、電気伝導度は18000S/cm、熱伝導度は1900W/mKであり、物性値はグラファイトフィルムAと全く変わりが無かった。つぎに得られたグラファイト接合体を4mm×4cmの長方形に切断し、両面にスコッチテープを貼り付けて試料の剥離実験をおこなった。その結果、剥離はすべてグラファイト層間で起こり、接合面、即ちグラファイトとニッケル層界面での剥離は観察されなかった。この事から0.02〜4.9MPa(0.2〜50kg/cm2)の範囲の圧力で実施する本発明の方法は、グラファイト本来の物性値を損なう事無く、グラファイトを極めて強固接着できる方法である事が分かった。さらに、得られた試料を500℃で1時間加熱し、その後、上記剥離試験を行ったが接合強度に変化はなく、すべての剥離はグラファイト層間で起きる事が分かった。
実施例1と同じ方法でグラファイトフィルムA(面積4cm×4cm)の表面に真空蒸着法でニッケル金属層を厚さが約4〜5nmになるように形成し、第1積層体を製造した。第1積層体のニッケル金属層面に別のグラファイトフィルムAを積層し、アルゴンガス中で、900℃で10分間処理をした。この時、この積層体の上に所定の重さのグラファイトブロックを置き、該積層体に加える圧力をそれぞれ、0.01MPa(0.1kg/cm2;比較例5A)、0.005MPa(0.05kg/cm2;比較例5B)とした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。いずれのグラフィ後接合体も、厚さは14.6μm、電気伝導度は18000S/cm、熱伝導度は1900W/mKであり、物性値はグラファイトフィルムAと全く変わりが無かった。つぎに得られたグラファイト接合体を4mm×4cmの長方形に切断し、両面にスコッチテープを貼り付けて試料の剥離実験をおこなった。その結果、剥離がグラファイト層間とニッケルとグラファイト層の間でランダムに起こり、部分的に接合できていない部分がある事が分かった。この事から本発明の手法では0.02MPa(0.2kg/cm2)以上の加圧圧力が必要であると結論した。
製造例1Bで作製したグラファイトフィルムB(面積4cm×4cm)の表面に真空蒸着法でニッケル金属層を厚さが約4nmになるように形成し、第1積層体を製造した。この第1積層体を3枚作製し、ニッケル金属層の向きを揃えて積層した後、ニッケル金属層面にさらに別のグラファイトフィルムBを積層した。この全7層(グラファイトは4層)の積層体に、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、900℃で1分間処理をした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。厚さは64μm、電気伝導度は16000S/cm、熱伝導度は1600W/mKであり物性値はグラファイトフィルムBと変わりが無かった。この電気伝導度と熱伝導度の値は同程度の厚さであるグラファイトフィルムDよりも優れており、本発明の方法が高熱伝導性、高電気伝導性の厚いグラファイトフィルム、あるいはグラファイトブロック作製手法として優れた方法である事が分かった。次に得られたグラファイト接合体を4mm×4cmの長方形に切断し、両面にスコッチテープを貼り付けて試料の剥離実験をおこなった。その結果、剥離はグラファイト層間で起こり、グラファイトとニッケル層界面での剥離は観察されなかった。この事から本発明の接合方法がグラファイト本来の物性値を損なう事無く、極めて強固にグラファイトを接着できる優れた方法である事が分かった。さらに、得られた試料を500℃で1時間加熱後、剥離試験を行ったが、剥離はいずれもグラファイト層間で発生し、その接合強度に変化はなかった。
製造例1Cで作製したグラファイトフィルムC(面積4cm×4cm)の表面に真空蒸着法でニッケル金属層を厚さが約10nmになるように形成し、第1積層体を製造した。この第1積層体を19枚作製し、ニッケル金属層の向きを揃えて積層した後、ニッケル金属層面にさらに別のグラファイトフィルムCを積層した。この全39層(グラファイトは20層)の積層体に、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、900℃で5分間処理をした。処理後室温にもどし、得られたグラファイト接合体の物性を測定した。厚さは800μm、電気伝導度は13800S/cm、熱伝導度は1400W/mKであった。前述の通り、高分子焼成法では高電気伝導度や高熱伝導度を持つ、厚いグラファイトフィルムの作製は困難である事が知られており、その厚さの上限は100μmである事が知られている。しかしながら、この方法を用いれば高電気伝導度や高熱伝導度特性を有する、厚い(100μm以上の厚さの)グラファイト膜、あるいはグラファイトブロックの作製が可能である事が分かった。
つぎに得られたグラファイト接合体を4mm×4cmの長方形に切断し、両面にスコッチテープを貼り付けて試料の剥離実験をおこなった。その結果、剥離はグラファイト層間で起こり、グラファイトとニッケル層界面での剥離は観察されなかった。この事から本発明の接合方法がグラファイト本来の物性値を損なう事無く、極めて強固に接着を実現できる方法である事が分かった。さらに、得られた試料を500℃で1時間加熱後、剥離試験を行ったが、剥離はいずれもグラファイト層間で発生し、その接合強度に変化はなかった。
グラファイト表面にニッケル層を形成せず、20枚のグラファイトフィルムCを直接積層し、アルゴンガス中で、0.98MPa(10kg/cm2)の圧力を加えながら、900℃で20分間処理をした。加圧処理をしたグラファイト積層体は見かけ上接着している様に見えたが、4mm×4cmの長方形に切断する過程で、グラファイトフィルム面間で剥離し接着していない事が分かった。
グラファイトフィルムCの表面を有機溶媒で洗浄後、UV光を照射して表面クリーニングを行った。次いでフィルムの片面にエポキシ樹脂(DIC社製、ビスフェノールF型380番)を塗布し、この塗布フィルムを20枚積層した後、所定の条件で硬化させた。作製したグラファイト接合体の厚さは860μm、電気伝導度は11000S/cm、熱伝導度は1050W/mKであり、電気物性、熱物性共にグラファイトフィルムCよりも低下していた。得られたグラファイト接合体を4mm×4cmの長方形に切断し、両面にスコッチテープを貼り付けて試料の剥離実験をおこなった。その結果、剥離はすべてグラファイト層間で起こり、層間剥離強度以上の接着を実現できている事が分かった。しかしながら、得られた試料を500℃で1時間加熱したところ、完全にグラファイトフィルム間で剥離し、加熱処理でその接着性が失われる事が分かった。したがって、この様な接着法ではグラファイトの耐熱性という特徴は失われる事が分かった。
銅箔(三井住友金属鉱山伸銅(株)社製タフピッチ銅(C1100R)厚み16μm)を4cm×4cmのサイズに切断し、表面に真空蒸着法で20nmの厚さでニッケル金属層を蒸着し、第1積層体を作製した。第1積層体のニッケル金属層面にグラファイトフィルムDを積層し、アルゴンガス中で、1.96MPa(20kg/cm2)の加圧下、800℃で20分間の処理を行った。処理後室温にもどし、得られた接合体の熱伝導度は950W/mKであった。つぎに得られた接合体の接着強度をグラファイト面にスコッチテープを貼り付け剥離実験を行う事で実施した。その結果剥離はグラファイト内で起こり、ニッケル金属とグラファイトの界面での剥離は認められなかった。この事から本発明の手法で熱伝導度物性を損なう事無く銅とグラファイトの強固な接着が実現できる事が分かった。
ニッケルと鉄の合金(78質量%パーマロイ;実施例12)、ニッケルと銅の合金(モネル400;実施例13)、ニッケルとクロムの合金(インコネル600;実施例14)、またはニッケルとモリブデンの合金(ハステロイB−2;実施例15)をターゲットとして用い、スパッタリング法により銅箔(三井住友金属鉱山伸銅(株)社製タフピッチ銅(C1100R)厚み16μm)の表面にそれぞれのニッケル合金からなる金属層を形成した。ニッケル合金層の厚さは20nm〜80nmの範囲であった。次にアルゴンガス中で、1.96MPa(20kg/cm2)の加圧下、800℃で20分間の処理を行い、グラファイトフィルムDと銅の接合体を作製した。次に得られた接合体の接着強度をグラファイト面にスコッチテープを貼り付け剥離実験を行う事で実施した。その結果剥離はいずれもグラファイト内で起こり、金属とグラファイトの界面での剥離は認められなかった。この事から本発明の手法で銅とグラファイトの強固な接着が実現できる事が分かった。
2 ニッケル
3a 固溶炭素
3b 析出炭素
Claims (11)
- 複数枚のグラファイトフィルムのa−b面同士の間に、またはグラファイトフィルムのa−b面と金属の間に、ニッケル層またはニッケル合金層を介入することによって得られる積層体を、不活性ガス中または真空中、700℃以上、1300℃以下の温度範囲、0.02〜9.8MPaの加圧範囲で処理し、複数枚のグラファイトフィルムのa−b面同士またはグラファイトフィルムのa−b面と金属を、ニッケル層またはニッケル合金層を用いて接着する事を特徴とするグラファイトの接合方法。
- 前記積層体が、(1)金属と接着用ニッケル層または接着用ニッケル合金層の積層体において、接着用ニッケル層または接着用ニッケル合金層側にグラファイトフィルムをさらに積層したもの、(2)グラファイトフィルムと接着用ニッケル層または接着用ニッケル合金層の積層体において、接着用ニッケル層または接着用ニッケル合金層側にグラファイトフィルムまたは金属をさらに積層したもの、あるいは(3)グラファイトフィルムと接着用ニッケル層または接着用ニッケル合金層の積層体を、層の並び方向をそろえて複数積層し、接着用ニッケル層または接着用ニッケル合金層側にグラファイトフィルムをさらに積層したものである請求項1に記載の接合方法。
- ニッケル層またはニッケル合金層の厚さが0.5nm〜1μmの範囲である請求項1または2に記載の接合方法。
- グラファイト同士の接合体またはグラファイトと金属の接合体が、接着用ニッケル層または接着用ニッケル合金層のみを用いて接合されている請求項1〜3のいずれかに記載の接合方法。
- ニッケル合金が、(1)Ni−Fe系合金、Ni−Cu系合金、Ni−Al系合金、Ni−Co系合金、Ni−Cr系合金、Ni−Mo系合金、Ni−Ti系合金、又はNi−Nb系合金、或いは(2)Fe、Cu、Al、Co、Cr、Mo、Ti、及びNbから選ばれる2種以上を含むNi合金である請求項1〜4のいずれかに記載の接合方法。
- ニッケル合金におけるニッケル含有量が、40質量%以上である請求項5に記載の接合方法。
- 前記グラファイトフィルムが、芳香族高分子フィルムを炭素化し、不活性ガス中で2400℃以上の温度で処理することによって作製されたものである請求項1〜6のいずれかに記載の接合方法。
- 前記芳香族高分子が芳香族ポリイミドである請求項7に記載の接合方法。
- グラファイト同士の接合体またはグラファイトと金属の接合体が、面方向電気伝導度10000S/cm以上20000S/cm以下を有する請求項1〜8のいずれかに記載の接合方法。
- グラファイト同士の接合体またはグラファイトと金属の接合体が、面方向熱伝導度1000W/mK以上1950W/mK以下を有する請求項1〜9のいずれかに記載の接合方法。
- グラファイトフィルム又は金属の少なくとも片面に、ニッケル層またはニッケル合金層が積層されているグラファイト接着用積層体。
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