以下、添付図面を参照して、本実施形態の音響発生器の一例について詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
図1(a)は本実施形態の音響発生器の一例を示す概略平面図、図1(b)は図1(a)に示す領域Aの概略断面図である。
図1に示す本実施形態の音響発生器10は、表面電極11a、11bを有する圧電素子1と、圧電素子1が取り付けられた振動体2と、振動体2を支持する枠体3と、一端部が表面電極11aまたは表面電極11bに接続されるとともに他端部が枠体3に固定された配線部材4a、4bとを備え、配線部材4a、4bの他端部は他の部位よりも幅が広くなっている。
音響発生器10を構成する励振器としての圧電素子1は、例えば板状のものが用いられる。この圧電素子1は、振動板2の主面に貼り付けられるなどして取り付けられ、電圧の印加を受けて振動することによって振動板2を励振させる。
圧電素子1は、例えば図2に示すように、4層の圧電体層11cと、3層の内部電極層11dが交互に積層された積層体と、かかる積層体の一方主面(上面)および他方主面(下面)に形成された表面電極11a、11bと、内部電極層11dが導出された側面に形成された外部電極11eとを備える。
圧電素子1を構成する圧電体層11cは圧電特性を有するセラミックスで形成されたもので、このようなセラミックスとして、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、Bi層状化合物、タングステンブロンズ構造化合物等の非鉛系圧電体材料等、従来から用いられている圧電セラミックスを用いることができる。圧電体層11cの1層の厚みは、低電圧で駆動させるために、例えば0.01〜0.1mmに設定することが好ましい。また、大きな屈曲振動を得るために、200pm/V以上の圧電定数d31を有することが好ましい。
また、圧電素子1を構成する内部電極層11dは、圧電体層を形成するセラミックスと同時焼成により形成されたもので、第1の内部電極層および第2の内部電極層からなる。内部電極層11dは、圧電体層11cと交互に積層されて圧電体層11cを上下から挟んでおり、積層順に第1の内部電極層および第2の内部電極層が配置されることにより、表面電極11aおよび内部電極層11dの間に挟まれた圧電体層11cに駆動電圧を印加するものである。内部電極層11dを形成する材料としては、種々の金属材料を用いることができる。例えば、低温焼成に適した銀や銀−パラジウムを主成分とする導体、あるいは銅、白金などを含む導体を用いることができるが、これらにセラミック成分やガラス成分を含有させてもよい。なお、銀とパラジウムとからなる金属成分と、圧電体層11cを構成するセラミック成分とを含有した材料で内部電極層11dを構成した場合、圧電体層11cと内部電極層11dとの焼成収縮差による応力を低減することができるので、積層不良のない圧電素子1を得ることができる。
励振器としては、例えば上面側および下面側の主面が長方形状または正方形状といった
多角形の形状、あるいは円形または楕円形といった形状をなしている板状体からなる圧電素子1が好ましく、このような圧電素子1および後述の振動板2と枠体3を用いることにより、音響発生器10を薄型にすることができる。
圧電素子1としてはユニモルフ構造であっても構わないが、図2に示すようなバイモルフ構造とするのが好ましい。すなわち、ある瞬間に加えられる電界の向きに対する分極の向きが厚み方向における一方側と他方側とで逆転するように分極されているのが好ましい。それにより、薄型化に貢献するとともに、少ないエネルギーで効率よく振動板2を振動させることができる。また、圧電素子1自体が屈曲振動することにより、振動板2との接合面での機械的損失を低減でき、音圧の向上に寄与することができる。
音響発生器10を構成する振動板2は、樹脂、布や金属等の種々の材料を用いて形成することができる。例えば、厚さ10〜200μmのポリエチレン、ポリイミド等の樹脂フィルムやコート布等の繊維系材料で振動板2を構成することができる。
この振動板2には、圧電素子1が取り付けられている。具体的には、圧電素子1の主面がエポキシ系樹脂等の接着剤により振動板2の主面に接合されている。
そして、圧電素子1の振動によって、振動板2は圧電素子1とともに振動するようになっている。例えば、圧電素子1がバイモルフ構造の圧電素子である場合において、外部電極に後述する配線部材4a、4bが接続され、この配線部材4a、4bを介して圧電素子1に電気信号が入力され電圧が印加されると、ある瞬間において振動板2に接着された側(圧電素子1の下面側)の圧電体層は積層方向に垂直な面内方向に縮み、反対側(圧電素子1の上面側)の圧電体層は積層方向に垂直な面内方向に延びるように変形し、圧電素子1は屈曲する。したがって、圧電素子1に交流信号を与えることにより、圧電素子1が屈曲振動し、振動板2に屈曲振動を与えることができる。
また、振動板2の外周部を支持するように枠体3が設けられている。枠体3としては、例えば内周形状および外周形状が矩形である枠部材を用いることができる。図1(b)に示すように、本例では、枠体3は、振動板2の一方主面側に設けられた一方主面側枠部材31と、振動板2の他方主面側に設けられた他方主面側枠部材32とからなり、一方主面側枠部材31および他方主面側枠部材32とで振動板2の外周部を挟み込んで振動板2を支持している。言い換えると、振動板2の外周部が枠体3を構成する一方主面側枠部材31と他方主面側枠部材32とに挟まれて固定されている。このようにして、振動板2は枠体3の枠内に張った状態で枠体3に支持されている。なお、振動板2のうち枠体3を構成する一方主面側枠部材31と他方主面側枠部材32とに挟まれていない内側の部分は、自由に振動することができるようになっている。
枠体3を構成する一方主面側枠部材31、他方主面側枠部材32の厚さとしては、例えば0.1〜5mmのものを採用することができる。また、枠体3を構成する一方主面側枠部材31、他方主面側枠部材32の材質としては、例えばガラスや金属や樹脂など種々の材料を用いることができる。ガラスの場合は、機械的強度が高いため、一方主面側枠部材31、他方主面側枠部材32の変形が小さく、音質が安定する。金属の場合は、ガラスよりも剛性が小さくなり、共振ピークとディップとの差が更に分散され、周波数特性を平坦化することができる。よって、音圧の平坦化による音質の向上を図ることができる。樹脂の場合は、金属よりも更に剛性が小さくなり、共振ピークとディップとの差が分散され、周波数特性を平坦化することができる。よって、音圧の平坦化による音質の向上を図ることができる。
また、枠体3(一方主面側枠部材31および他方主面側枠部材32)は、周方向におい
て複数個の部材が配置されて組み立てられてなり、これらが互いに接合されたものであってもよい。
なお、図1に示す例に限られず、枠体3としては振動板2の一方主面側のみに設けられた一方主面側枠部材31からなり、これに振動板2の外周部が貼り付けられて音響発生器が構成されてもよい。
また、図1には、枠体3が長方形状であり、その内側の領域の形状が長方形状である例を示しているが、縦横比が1よりも大きいことで、共振の分散に寄与し、ピーク/ディップの平坦化に寄与することができる。ただし、正方形、平行四辺形、台形および正n角形といった多角形であってもよく、円形や楕円形であってもよい。
また、図1では圧電素子1が1個の場合を例示しているが、圧電素子1の個数を限定するものではない。また、図1では振動板2の一方の主面に圧電素子1を設けた場合を示しているが、振動板2の両面に圧電素子1が設けられてもよい。
図示しないが、一方主面側枠部材31の内側に圧電素子1および振動板2を覆うように設けられた被覆層をさらに含んでいてもよい。
そして、音響発生器10は、一端部が表面電極11aまたは表面電極11bに接続されるとともに、他端部が枠体3(一方主面側枠部材31)に固定された配線部材4a、4bを備えている。
配線部材4a、4bは、平たく一方方向に延びた形状をしている。配線部材4a、4bは、例えば銅またはアルミニウムなどの金属箔を樹脂フィルムで挟んだフレキシブル基板(FPC)、金属板等が用いられる。金属板の場合は、例えば銅、リン青銅、ステンレス鋼、Fe−Ni−Co合金、ニッケル、あるいはこれらの材料にNiめっきなどの表面処理を施したものを採用することができる。配線部材4a、4bは、例えば幅0.5〜5.0mm、厚み0.01〜0.5mmの長尺薄板状に形成されたもので、プラス側とマイナス側とで一対設けられている。これらの配線部材4a、4bの一方方向(長手方向)の一端部が、圧電素子1の表面電極11a、11bに、はんだ、導電性樹脂ペースト、異方性導電ペースト、異方性導電シートなどの導電性接合材を介して接合されている。また、これらの配線部材4a、4bの他端部が、枠体3(一方主面側枠部材31)の主面上(図1(b)に示す上面)に、例えば接着剤や熱圧着シートなどを介して固定されている。この配線部材4a、4bの他端部に外部回路へと通じるリード6a、6bが別途接続されて給電される。
なお、枠体3(一方主面側枠部材31)が金属などの導体からなる場合には、短絡しないようにするために、枠体3と配線部材4a、4bの他端部との間に絶縁材料からなる中間層5a、5bが介在されていてもよい。また、枠体3の主面上には、外部回路からの接続点、いわゆる電極夕一ミナルとしての端子が設けられていてもよい。
そして、図に示すように、配線部材4a、4bの他端部は他の部位よりも幅が広くなっている。
このような構成とすることで、駆動中に配線部材4a、4bで発生する熱を効率よく枠体4へ逃がすことができるため、配線部材4a、4bの一端部に接続された圧電素子1への熱の伝達量が低減されて圧電素子1の温度が上がりにくくなり、温度変化に伴う特性変化も起こりにくく、音質の変動を小さく抑えることができる。
配線部材4a、4bの他端部の幅が他の部位の幅よりも広くなっている構成は、主な振動モードである厚み方向の振動に対して、影響を及ぼしにくい点で好ましい構成でもある。また、配線部材4a、4bの厚みが他端部に向かって徐々に厚くなる構成の場合は、配線部材4a、4bの曲げ剛性が高くなり、振動板2の振動に影響を与えるおそれがあり、また配線部材4a、4bの他端部のみを厚くした場合は、厚みが急激に変化するところに曲げ変形の応力集中が発生し、耐久性が損なわれるおそれがあるが、配線部材4a、4bの他端部が他の部位よりも幅が広くなっている構成となっているので、これらの問題が生じるおそれもない。
配線部材4a、4bの他端部の幅としては、より放熱効果を得られるとともに不要振動源となってしまうのを抑制する観点から、配線部材4a、4bの表面電極11a、11bに接続された一端部の幅に対して1.1倍から6倍の範囲の幅であることが好ましい。
なお、音響発生器の音質(音圧特性)は、例えば音響発生器とマイクとを無響室に配置し、音響スイーパーで生成された正弦波の電気信号をアンプを介して増幅させ、電圧信号として音響発生器に入力して、音波信号を発生させる。そして、音波信号の音圧をマイクを介して電気信号に変換し、周波数特性測定器により測定することで、確認することができる。
ここで、図3に示すように、配線部材4aまたは4bの他端部が、他の部位よりも幅方向の両側に突出しており、一方側の突出距離と他方側の突出距離とは異なっているのがよい。図3に示す例では、配線部材4aの他端部に幅方向の両側に突出した突出部4a1、4a2を有し、配線部材4bの他端部に幅方向の両側に突出した突出部4b1、4b2を有していて、突出部4a1の突出距離と突出部4a2の突出距離とが異なっているとともに、突出部4b1の突出距離と突出部4b2の突出距離とが異なっている。
このような構成とすることで、配線部材4a、4bが圧電素子1の振動に伴って上下に揺れたとき、配線部材4a、4bの他端部が幅方向で左右非対称のためにねじり振動が発生し、複数の振動モードにエネルギーが分散されるため、音響発生器全体の振動への影響が小さくなり、不要振動が少なく良好な音質を得ることができる。
なお、一方(突出部4a2、4b2)の突出距離が0.05〜3μmで、他方(突出部4a1、4b1)の突出距離が一方の突出距離に対し1.1〜4倍の突出距離であるのがねじり振動の発生効率の点で好ましい。また、図3に示す形態では、配線部材4aと配線部材4bの両方において、他端部に設けられた幅方向の両側に突出した突出部の突出距離が異なる構成となっているが、いずれか一方の配線部材(配線部材4aまたは配線部材4b)でこのような構成になっているものでもよい。また、図3に示す形態では、配線部材4a、4bの他端部以外の領域において、他端部に近づくにしたがって徐々に幅が広くなっているが、このような形態に限られず、他端部以外の領域では一定の幅となっている形態であってもよい。
また、図4に示すように、配線部材4a、4bを2本備え、当該2本の配線部材4a、4bが並んで配置されており、それぞれの配線部材4a、4bの他端部の互いに向かい合う側の突出距離よりも反対側の突出距離のほうが長いことがより好ましい。具体的には、配線部材4aおよび配線部材4bがそれぞれの他端部が枠体3の同じ辺に接続されるように並んで配置され、配線部材4aおよび配線部材4bのそれぞれの他端部における互いに向かい合う側に設けられた突出部4a2と突出部4b1の突出距離よりも、反対側の突出部4a1と突出部4b2の突出距離のほうが長いことが好ましい。
このような構成とすることで、配線部材4a、4bから離れた方向に対しての放熱性が
優れており、発熱による特性変動が起こりにくくなることから、より音質の変動を小さく抑えることができる。
また、図5に示すように、配線部材4a、4bは、一端部から他端部までの間の両側部にスリット41、42が設けられていることがより好ましい。このような構成とすることで、配線部材4a、4bの柔軟性が高くなるため、枠体3から配線部材4a、4bを経由して圧電素子1に伝わろうとする外部振動を減衰させることができ、外部振動の影響を受けにくく良好な音質を得ることができる。
ここで、図に示す配線部材4a、4bは、圧電素子1から延出する方向に長く延びる長尺形状であって、圧電素子1の表面電極11a、11bに接続された一端部から他端部にかけて延びている。したがって、一端部から他端部までの間の両側部にスリット41、42が設けられているとは、一端部と他端部とを結ぶ方向に対して垂直な幅方向の両側面(一方の側面および他方の側面)から、内側に向かって、好ましくは幅方向に向かってスリット41、42が形成されていることを意味している。
図5に示す例では、両側部にスリット41、42を有しており、一方の側部にある(一方の側面から延びる)スリット41と他方の側部にある(他方の側面から延びる)スリット42とは、長手方向の位置に関して異なる位置になっている。また、一方側の側面から延びるスリット41と他方の側面から延びるスリット42とは、同じ長さになっている。
配線部材4a、4bに形成されているスリット41、42の長さは、例えば0.25〜4.5mmに形成される。なお、配線部材4a、4bの幅に対して50%以上95%以下の長さとするのがよい。すなわち、配線部材4a、4bの一端部と他端部とを結ぶ方向(長手方向)から見て複数のスリット41、42の先端同士が重なり合うようにスリット41、42が設けられるのがよい。これにより、配線部材4a、4bの形状変化をより顕著にさせることができ、より良好な音質とすることができる。
また、スリット41、42の幅を広く、隣り合うスリット41、42間の間隔(ピッチ)を狭くするのが、配線部材4a、4bをより顕著に形状変化させることができ、より良好な音質とすることができる点で好ましい。ただし、スリット41、42間の間隔を配線部材4a、4bの厚みよりも狭くする場合には、音響発生時の振動振幅により破断する不具合や、流れる電流に伴う発熱により溶断する不具合が生じるおそれを考慮する必要がある。これらのことから、スリット41、42の幅は例えば0.05〜1.0mmであるのがよく、隣り合うスリット41、42の間隔は例えば0.05〜1.0mmであるのがよい。
また、配線部材4a、4bのスリット41、42は、一端部が接合される圧電素子1と他端部が接合される枠体3との間にあるのがよく、例えば圧電素子1の角部に当たらない位置にあるのが、配線部材4a、4bの耐久性の点で好ましい。
また、スリット41、42の先端は平坦であってもよく丸みを帯びていてもよい。また、スリット41、42の先端が他の部位の幅よりも幅広に形成されていてもよく、スリット41、42の先端に向かって幅が次第に狭くなるテーパー状であってもよく、スリット41の先端に向かって幅が次第に広くなるテーパー状であってもよい。
ここで、配線部材4a、4bを2本備え、当該2本の配線部材4a、4bが並んで配置されており、それぞれの配線部材4a、4bの一端部から他端部までの間の両側部にスリット41、42が同じパターンで設けられているのがよい。このような構成とすることで、2本の配線部材4a、4bが対称に振動するモードが励振されにくいため、2本の配線
部材4a、4bの振動が相殺されやすく振幅が小さくなり、圧電素子1や振動体2の振動を阻害しにくく、より不要振動が少なく良好な音質を得ることができる。
なお、スリットの数は、図5の構成に限定されるものではなく、その構造により、柔軟性を付与しうるものであればよい。例えば、配線部材4a、4bの両側部に開いているもの以外に開いていないものを含んでいてもよい。また、一方の側面から幅方向に向かって設けられたスリット41のみからなる形態であってもよく、この場合、スリット41の数は一個でも複数個であってもよい。
次に、本実施の形態の音響発生器10の製造方法について説明する。
まず、圧電素子1となるセラミックグリーンシートを作製する。具体的には、圧電セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系,ブチラール系等の有機高分子からなるバインダーと、可塑剤とを混合してセラミックスラリーを作製する。そして、ドクターブレード法、カレンダーロール法等のテープ成型法を用いることにより、このセラミックスラリーを用いてセラミックグリーンシートを作製する。圧電セラミックスとしては圧電特性を有するものであればよく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)からなるペロブスカイト型酸化物等を用いることができる。また、可塑剤としては、フタル酸ジブチル(DBP),フタル酸ジオクチル(DOP)等を用いることができる。
次に、セラミックグリーンシート上に、内部電極層11dとなる導電性ペーストを例えばスクリーン印刷等の印刷法によって内部電極層11dのパターン形状に塗布する。導電性ペーストは、銀−パラジウムの金属粉末にバインダーおよび可塑剤を添加混合することによって作製する。この導電性ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを複数枚積層して生の積層体を作製する。生の積層体を所定の温度で加熱して脱バインダー処理を行なった後、酸化アルミニウムや酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等を主成分とする焼成鉢中で900℃〜1200℃の温度で焼成することによって、複数の圧電体層11cと複数の内部電極層11dとが積層された、焼結体である積層体を作製する。積層体は、例えば平面研削盤等を用いて研削処理を施すなどして所定の形状に整えてもよい。
積層体の主面および側面に、表面電極11a、11bおよび外部電極11eとなる導電性ペーストを例えばスクリーン印刷等の印刷法によって表面電極11a、11bおよび外部電極11eのパターン形状で印刷して乾燥させた後、650〜750℃の温度で焼き付け処理を行ない、表面電極11a、11bおよび外部電極11eを形成する。表面電極11a、11bおよび外部電極11eとなる導電性ペーストは、銀を主成分とする導電性粒子とガラスとを混合したものに、バインダー,可塑剤および溶剤を加えて作製した銀ガラス含有導電性ペーストである。
なお、表面電極11a、11bと内部電極層11dとの電気的な接続は、外部電極11eにかえて、圧電体層11cを貫通する貫通導体によって接続してもよく、この場合は、例えば、表面電極11a、11bとなる導電性ペーストの印刷の前に、金型による打ち抜き加工やレーザー加工による穴あけ加工によってセラミックグリーンシートに貫通孔を形成し、この貫通孔に貫通導体となる導電性ペーストを印刷法によって充填しておけばよい。貫通導体となる導電性ペーストは、表面電極11a、11bおよび外部電極11eとなる導電性ペーストと同様のものを、バインダーや溶剤の量を調整することによって粘度を調整したものを用いればよい。
圧電素子1に分極処理を施して圧電活性を付与することで、電圧の印加により屈曲振動する振動発生体となる。分極処理には直流電源装置を用いて、例えば2kV/mm〜3kV/mmの電位差を、15℃〜35℃の雰囲気温度にて、印加時間として数秒印加すれば
よい。なお圧電材料の性質により電圧、雰囲気温度、印加時間は好適に選定される。
次に、圧電素子1の他方主面に接合材を用いて振動板2を接合固定する。接合材として、例えば嫌気性樹脂接着剤を用いる場合は、振動板2の一方主面側の所定の位置に嫌気性接着剤用ペーストをスクリーン印刷等の手法を用いて塗布形成する。その後、圧電素子1を当接させた状態で圧力を印加し嫌気性接着剤用ペーストを硬化させることにより、圧電素子1を振動板2に接合固定する。なお、嫌気性接着剤用ペーストは、圧電素子1側に塗布形成しておいてもよい。その他の接合材としては、例えば、加熱硬化型のエポキシ系接着剤等の接着剤を用いることができる。
振動板2の主面の外周部に枠体3(一方主面側枠部材31および他方主面側枠部材32)を接合する場合は、例えばステンレス等の金属やガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の材料を用いて所望の形状に加工された枠体3を、接合材を介して接合する。
そして、圧電素子1には、当該圧電素子1に電圧を印加するための配線部材4a、4bの一方端部を接続する。用いられる配線部材4a、4bとしては、例えば平板状の金属部材(金属板)を用いることができ、プレスやエッチングにより所望の形状に加工すればよい。
ここで、例えば導電性接着剤を用いて、配線部材4a、4bを圧電素子1に接続固定(接合)する。例えば、圧電素子1の所定の位置に導電性接着剤用ペーストをスクリーン印刷等の手法を用いて塗布形成する。その後、配線部材4a、4bを当接させた状態で導電性接着剤用ペーストを硬化させることにより、配線部材4a、4bを圧電素子1に接続固定する。なお、導電性接着剤用ペーストは、配線部材4a、4b側に塗布形成しておいてもよい。配線部材4a、4bの圧電素子1への接続は、圧電素子1と振動板2との接合前であってもよいし、接合後でもよい。
また、配線部材4a、4bの他方端部を枠体3(一方主面側枠部材31)に接着剤や熱圧着シートを介して固定する。ここで、枠体3(一方主面側枠部材31)が導電性材料からなる場合は、プラス側とマイナス側の両極の短絡を防止するために、必要により枠体3(一方主面側枠部材31)の主面(図の上面)に絶縁材料からなる中間層5a、5bを形成したうえで、配線部材4a、4bの他方端部を固定してもよい。枠体3(一方主面側枠部材31)が導電性材料でない場合は、この限りではない。
なお、圧電素子1を覆うように樹脂層を設ける場合は、枠体3を接合した後に樹脂を塗布するようにすればよい。
以上の製法により、本実施形態の音響発生器10が得られる。
次に、本発明の音響発生装置の実施の形態の一例について説明する。
音響発生装置20は、いわゆるスピーカーのような発音装置であり、図6に示すように、たとえば、音響発生器10と、音響発生器10を収容する筐体30を備える。筐体30は、音響発生器10の発する音響を内部で共鳴させるとともに、筐体30に形成された図示せぬ開口から音響を外部へ放射する。この筐体30は、例えば、アルミニウムやマグネシウム合金などの金属、ポリカーボネートなどの樹脂、木材など、種々の材料を用いて形成することができる。このような筐体30を有することにより、たとえば低周波数帯域における音圧を高めることができる。
かかる音響発生装置20は、スピーカーとして単独で用いることができる他、後述するように、携帯端末や薄型テレビ、あるいはタブレット端末などへ好適に組み込むことが可能である。また、冷蔵庫、電子レンジ、掃除機、洗濯機などのように、従来、音質については重視されなかった家電製品に組み込むこともできる。
本例の音響発生装置20によれば、音質の変動の少ない音響発生器10を用いて構成されていることから、音質の優れた音響発生装置を実現することができる。
次に、音響発生器を搭載した電子機器について、図7を用いて説明する。図7は、実施形態に係る電子機器50の構成を示す図である。なお、図には、説明に必要となる構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
図7に示すように、本例の電子機器50は、音響発生器10と、音響発生器10に接続された電子回路60と、電子回路60および音響発生器10を収容する筐体40とを備える。図7に示す例では、電子機器50が、携帯電話やタブレット端末のような携帯端末装置であるものとする。
図7に示すように、電子機器50は、電子回路60を備える。電子回路60は、たとえば、コントローラ50aと、送受信部50bと、キー入力部50cと、マイク入力部50dとから構成される。電子回路60は、音響発生器1に接続されており、音響発生器1へ音声信号を出力する機能を有している。音響発生器1は電子回路60から入力された音声信号に基づいて音響を発生させる。
また、電子機器50は、表示部50eと、アンテナ50fと、音響発生器1とを備え、これら各デバイスを収容する筐体40を備える。なお、図7では、1つの筐体40にコントローラ50aをはじめとする各デバイスがすべて収容されている状態をあらわしているが、各デバイスの収容形態を限定するものではない。本実施形態では、少なくとも電子回路60と音響発生器1とが、1つの筐体40に収容されていればよい。
ここで、音響発生器1は、例えば筐体40の内壁に接合されるなどして筐体40に収容される。このとき、音響発生器1を接合するための接合部材としては、少なくとも一部に粘弾性体を含む接合部材である。この接合部材は粘弾性体のみからなる単一のものであっても、粘弾性体を含むいくつかの部材からなる複合体であっても構わない。このような接合部材としては、例えば不織布等からなる基材層の両面に粘着剤が付着された両面テープ等を好適に用いることができる。接合部材の厚みは、例えば0.1mm〜0.6mmに設定される。
電子回路60としては、例えば、ディスプレイに表示させる画像情報や携帯端末によって伝達する音声情報を処理する回路や、通信回路等が例示できる。これらの回路の少なくとも1つであってもよいし、全ての回路が含まれていても構わない。また、他の機能を有する回路であってもよい。さらに、複数の電子回路を有していても構わない。なお、電子回路60と音響発生器1とは接続用配線で接続されている。
コントローラ50aは、電子機器50の制御部である。送受信部50bは、コントローラ50aの制御に基づき、アンテナ50fを介してデータの送受信などを行う。キー入力部50cは、電子機器50の入力デバイスであり、操作者によるキー入力操作を受け付ける。マイク入力部50dは、同じく電子機器50の入力デバイスであり、操作者による音声入力操作などを受け付ける。表示部50eは、電子機器50の表示出力デバイスであり、コントローラ50aの制御に基づき、表示情報の出力を行う。例えば、液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイ等の既知のディスプレイを好適に用いることができる。な
お、ディスプレイは、タッチパネルのような入力装置を有するものであっても良い。ここで、筐体40の一部がディスプレイであってもよく、筐体40の一部がディスプレイのカバーとなってその内側にディスプレイが配置されたものであってもよい。
そして、音響発生器1は、電子機器50における音響出力デバイスとして動作する。なお、音響発生器1は、電子回路60のコントローラ50aに接続されており、コントローラ50aによって制御された電圧の印加を受けて音響を発することとなる。
なお、図7では、電子機器50として、アンテナなどを介してデータの送受信などを行う通信手段(通信部)を有する携帯端末について説明を行ったが、電子機器50の種別を問うものではなく、音響を発する機能を有する様々な民生機器に適用されてよい。たとえば、薄型テレビやカーオーディオ機器は無論のこと、音響を発する機能を有する製品、例を挙げれば、掃除機や洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなどといった種々の製品に用いられてよい。
本例の電子機器50によれば、音質の変動の少ない音響発生器10を用いて構成されていることから、音質の優れた電子機器を得ることができる。
次に、本発明の音響発生器の実施例について説明する。
圧電素子は、縦20mm、横45mm、厚みが30μmの圧電体層と内部電極とが交互に積層された構造とし、圧電体層の総数は8層とした。圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛で形成した。内部電極は、銀パラジウムの合金を用いた。
枠体は、上下一対の枠部材で振動板を挟むような構成であり、内周が縦40mm、横70mm、平面視による幅が2.0mmのステンレス製のものを用いた。
また、配線部材は、リン青銅合金からなる板状の部材を用いて、圧電素子上の表面電極に接続される一端部から枠体までの長さが6.0mm、幅が1.0mmで一定幅であり、厚みが0.1mmで、幅方向の両側部に交互に2本ずつ合計4本のスリットを設けた構成とした。また、スリットの長さは0.65mm、スリットの幅は0.2mmで、スリットのピッチは0.5mmとした。また、枠体上には、配線部材の他端部として、長さ2.0mm、幅3.2mmの領域を設けた。配線部材の幅1.0mmに対して、幅方向の一方に1.5mm、他方に0.7mm突出した突出部を設けた形状とし。これを実施例とした。
一方、本発明の範囲外である比較例の配線部材として、長さが8.0mm、幅が1.0mmで一定幅であり、厚みが0.1mmで、長さ8.0mmのうち2.0mmが枠体上に搭載された形状のものを用意した。
そして、これらについて、以下のように特性の比較を行った。
実施例の配線部材を用いた音響発生器について、圧電素子に1kHzの周波数で実効値±7Vrmsとなる電圧で、ホワイトノイズ信号による連続駆動を20分間継続した前後に直ちに200Hzから20kHzまでの周波数掃引試験を行って最低共振周波数の変動を確認したところ、連続駆動前後で408Hzから405Hzに変動することが確認された。これに対し、比較例の配線部材を用いた音響発生器について、上記と同条件の試験を行ったところ、最低共振周波数は410Hzから397Hzまで低下した。
以上の結果により、本実施形態の音響発生器を用いることで、音質の変動が小さく抑え
られることが確認できた。