近年、都市化の進展により、緑地の減少及び路面のコンクリート化、アスファルト化の拡大が進むことでヒートアイランド現象が発生し、いわゆるゲリラ豪雨と呼ばれる局所的な集中豪雨が都市部で頻発している。局所的な大量の降雨は、コンクリート化、アスファルト化した路面では、地中に吸収されることなくそのまま水路に導かれる。その結果、大量の雨水が、短時間のうちに排水機場に流入する。
頻発するこのような集中豪雨によってもたらされる大量の雨水の速やかな排水に備えるために排水機場に設置される排水ポンプでは、始動遅れによる浸水被害が生じないよう、雨水が排水機場に到達する前に予め排水ポンプを始動させておく先行待機運転が行われている。
図1は、先行待機運転を行う立軸ポンプの部分概略図である。排水機場の水槽100には、縦方向に配置された軸の先端にインペラ22を備えた立軸ポンプ3が配置される。立軸ポンプ3は、インペラ22に水と共に空気を吸い込ませることにより、水槽100の水位が最低運転水位LWL以下であっても運転(先行待機運転)を継続することができる。この立軸ポンプ3は、インペラ22入口側の吸い込みベル27の側面部に設けられる貫通孔5を有しており、この貫通孔5には、外気に接する開口6aを備えた空気管6が設けられている。この立軸ポンプ3は、貫通孔5を介して立軸ポンプ3内に供給する空気の量を水位に応じて変化させ、水位が最低運転水位LWL以下の状況において、立軸ポンプ3の排水量をコントロールすることができる。
図2は、先行待機運転の運転状態を説明する図である。例えば大都市の雨水排水のために、吸込水位に依らず降雨情報等に応じて、予め立軸ポンプを始動しておく(A:気中運転)。低水位の状態から水位が上昇するに従って、インペラの位置まで水位が達し、立軸ポンプの運転状態は、空運転(気中運転)からインペラで水を撹拌する運転(B:気水撹拌運転)へ移行する。さらに、立軸ポンプの運転状態は、貫通孔を経て供給される空気を水と共に吸い込ませつつ水量を徐々に増やす運転(C:気水混合運転)を経て水のみの排出を行う全量運転(D:定常運転)へ移行する。また、高水位から水位が低下するときは、全量運転から、空気を水と共に吸い込ませつつ水量を徐々に減らす運転(C:気水混合運転)へ移行する。水位がLLWL近くに至ると、水を吸い込まず排水もしない運転(E:エアロック運転)へ移行する。これら5つの特徴ある運転を総称して先行待機運転という。なお、ポンプ始動は、ケーシング下端よりも低い水位LLLWLから開始する。
図3は、図1に示した先行待機運転を行う立軸ポンプ3の全体を示す断面図である。なお、図2に示した貫通孔5及び空気管6は図示省略されている。図3に示すように、立軸ポンプ3は、ポンプ設置床に設置され且つ固定される吐出エルボ30と、この吐出エルボ30の下端に接続されるケーシング29と、ケーシング29の下端に接続され、インペラ22を内部に格納する吐出ボウル28と、吐出ボウル28の下端に接続され、水を吸い込むための吸い込みベル27と、を備えている。
立軸ポンプ3のケーシング29、吐出ボウル28、及び吸い込みベル27の径方向略中心部には、軸継手26によって互いに接続された回転軸10,10´が配置されている。回転軸10,10´は、支持部材13を介してケーシング29に固定されている中間軸受32と、支持部材を介して吐出ボウル28に固定されている下部軸受33によって支持されている。回転軸10,10´の一端側(吸い込みベル27側)には、水をポンプ内に吸い込むためのインペラ22が接続されている。回転軸10,10´の他端側は、吐出エルボ30に設けられた孔から立軸ポンプ3の外部へ通じ、インペラ22を回転させる図示しないエンジンやモータ等の駆動機へ接続される。回転軸10,10´と吐出エルボ30に設けられた孔との間にはフローティングシール、グランドパッキンまたはメカニカルシール等の軸シール34が設けられており、これにより立軸ポンプ3が扱う水が立軸ポンプ3の外部に流出することを防止する。
駆動機は、保守点検を容易に行うことができるように陸上に設けられる。電動機の回転は回転軸10,10´に伝達され、インペラ22を回転させることができる。インペラ22の回転によって、水は吸込みベル27から吸い込まれ、吐出ボウル28、ケーシング29を通過して吐出エルボ30から吐出される。
図4は、図3に示した吐出ボウル28に固定されている下部軸受33と、吐出エルボ30に設けられた軸シール34との間に設けられた中間軸受32に適用される従来の軸受装置の拡大図である。この軸受装置は、ケーシング29(図3参照)等に接続される支持部材13に固定されている。なお、排水運転中の立軸ポンプ3内の排水の流れ方向を矢印A1にて図示している。図5はすべり軸受の斜視図である。
図4に示すように、従来の軸受装置は、回転軸10(10´)の外周に、ステンレス鋼等からなる金属製のスリーブ11を有している。スリーブ11は、略円筒形状である。スリーブ11の外周側には、中空円筒の樹脂材料、セラミックス、焼結金属又は表面改質された金属等からなる、図5に示すすべり軸受1が設けられている。スリーブ11の外周面は、すべり軸受1の内周面(すべり面)と非常に狭いクリアランスを介して対面し、すべり軸受1に対して摺動するように構成されている。
すべり軸受1は、金属又は樹脂からなる軸受ケース12によりつば部12aを介して支持部材13に固定されている。排水中の異物(スラリー)がスリーブ11とすべり軸受1とのクリアランスに混入すると、軸受の摩耗が促進する。排水中の異物(スラリー)の侵入を防止するために、軸受ケース12は、回転軸10(10´)を囲繞する略筒状の周壁部12bをスリーブ11に近い位置に有する。
回転軸10(10´)は、周壁部12bの上方に防塵カバー50を備えている。防塵カバー50は、回転軸10(10´)に取り付けられる略円盤状のカバー本体50aと、カバー本体50aの外周部から周壁部12bに向かって延在する筒状部50bとを有する。筒状部50bは、周壁部12bを外周側から囲繞する。防塵カバー50と周壁部12bとの隙間ができる限り小さくなるように、筒状部50bは、周壁部12bにできる限り近接するように構成される。これにより、防塵カバー50は、防塵カバー50と周壁部12bとの隙間に異物が侵入することを低減する。
また、支持部材13は、すべり軸受1よりも流れ方向A1の上流側のすべり軸受1から比較的離れた位置において、回転軸10(10´)の外周面に近接して、回転軸10(10´)を囲繞する周壁部13aを有する。周壁部12bと防塵カバー50との間隔と、回転軸10(10´)と周壁部13aの間隔は、スリーブ11とすべり軸受1のクリアランスよりは広く形成される。一方で、これらの間隔(流路)をできる限りを狭くすることで、すべり軸受1に至る異物を巻き込んだ水流を低減し、すべり軸受1に至る異物の侵入を
低減している。
図3に示した立軸ポンプ3は、ポンプ起動時には大気中で運転される。すなわち、軸受32,33は液体の潤滑のないドライ条件で運転される。ここでドライ条件とは、ポンプ運転中の軸受32,33の雰囲気が、液体の潤滑がない大気中である条件をいい、ドライ運転とはその条件で運転することをいう。また、図4に示した軸受32,33は軸受に通水した排水条件でも運転される。ここで、排水条件とは、ポンプ運転中の軸受32,33の雰囲気が、土砂等の異物(スラリー)が混入した水中である条件をいい、排水運転とはその条件で運転すること、例えば気水混合運転、全量運転等、エアロック運転等をいう。このような条件で軸受32,33が使用されるので、軸受32、33には次のような課題があった。
すべり軸受1には様々な材料が使用されるが、ドライ運転を行う立軸ポンプ3においては、ドライ摺動性及び排水運転時の信頼性の観点から樹脂又はセラミックス製の軸受が用いられることが多い。この場合、すべり軸受1には、ドライ運転時の摩擦発熱に耐えることとともに、排水運転時の水中のスラリーによる摩耗に強いことが要求される。しかしながら、この二つの特性は相反することが多く、一般に耐摩耗性の高い軸受材料は摩擦係数が高い傾向がある。このため排水運転時の耐摩耗性を優先して軸受材料を選定すると、ドライ条件での摩擦発熱が大きくなり、ドライ条件での摩擦発熱を抑えるために摩擦係数の低い軸受材料を選定すると、排水運転時のスラリーによる軸受材料の摩耗量が増加する。
また、すべり軸受1、又はすべり軸受1と軸受ケース12との間に配置する緩衝材に樹脂やゴム等の高分子材料を用いる場合は、高分子材料ごとに決定される使用可能温度の上限があるので、許容される摩擦による発熱限度は、これらの高分子材料の性質により決定される。
以上で説明した特性を有するすべり軸受1において、すべり軸受1の維持管理性を向上させるためにすべり軸受1の耐摩耗性を向上させると、軸受すべり面の摩擦係数が大きくなり、この軸受すべり面の摩擦が原因となって、以下で説明する振動が発生する可能性がある。
一般に、立軸ポンプ3のような回転機械を運転すると、回転体自体が有する重量の不釣合いや流体荷重によって回転体に強制的に生じる加振力により、回転機械が振動することがある。しかしながら、この他に回転機械の振動の原因として、回転体の振れ回りにより、変位方向(回転体の径方向)と直交する方向(回転体の周方向)に発生する力がある。この力は不安定化力と呼ばれ、回転体の減衰作用を打ち消す働きがある。結果、不安定化力によって回転体全体の減衰作用が負になると、発散的な振動(徐々に振れ回りが大きくなるような振動)を引き起こす場合がある。
ここで、立軸ポンプ3の起動時などの気中運転では水中運転と比べて軸受部に潤滑流体がないので、軸受すべり面は摩擦係数が大きい。この軸受すべり面における摩擦力が上記不安定化力となるので、摩擦係数が高い軸受材料を用いた場合には不安定化力が大きくなり、回転軸10,10´に回転方向と逆向きに振れ回る発散的な振動が生じることとなる。
また、ドライ運転時にこのような発散的な振動が発生した場合、振動により軸受面圧が増大し、軸受すべり面で発生する摩擦力が極めて大きくなる。そのため、急激な軸受温度上昇による熱膨張や焼付きによって、軸受が機能不全に陥る可能性がある。
一方で立軸ポンプ3の排水運転時には、すべり軸受1のすべり面に液膜が形成される。
この液膜によって不安定化力が発生し、この不安定化力により大きな振動が発生する場合がある。この現象は、油で潤滑させるすべり軸受においてオイルホイップ又はオイルホワールと呼ばれる現象と同様のメカニズムで発生する。この現象が発生すると、回転軸10,10´は激しく振動し、正常な運転が不可能となる。
これらの振動を防止するには、不安定化力の低減、又は減衰作用の付加による回転軸10,10´の安定性向上を図る必要がある。しかしながら、ドライ運転時における不安定化力の原因である摩擦係数を大きく下げることは上述したように困難であり、また立軸ポンプ3の構造上、回転軸10,10´に十分な減衰作用を与えることが難しい。
このように、先行待機運転を行う立軸ポンプ用のすべり軸受では、耐摩耗性、耐発熱性(低摩擦性)、耐振動性といった性能が要求されるが、これらの要求を高いレベルで同時に満たすことはこれまで困難であった。また、耐摩耗性が高い軸受材料はドライ条件時の摩擦係数が高いため使用できないことが多く、結果として軸受寿命が大きく向上できないという問題点があった。
以下、本発明の実施形態の立軸ポンプに使用される軸受装置の基本的な構成、その変形、及び従来の立軸ポンプに備えられた軸受装置を利用した本実施形態の軸受装置について、図面を参照しつつ複数の例を用いて説明する。なお、以下の実施形態の説明においては、便宜上、シンプルな構成で説明が容易な中間軸受に関して説明する。また、図6から図17において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図6を参照して、本実施形態に係る立軸ポンプに適用される軸受装置の基本的な構成を説明する。図6は、本実施形態に係る立軸ポンプに適用される軸受装置の縦断面図である。ここで、本実施形態に係る立軸ポンプは、図3に示した先行待機運転を行う立軸ポンプ3の中間軸受32(又は下部軸受33)に代えて、図6に示す軸受装置を適用したものである。本実施形態に係る立軸ポンプは、中間軸受32(又は下部軸受33)を除いて、図3に示した立軸ポンプ3と同一の構成であるので、本実施形態に係る立軸ポンプ3全体に関して重複する説明は省略する。
立軸ポンプは、要求される揚程により高さ方向の寸法、回転軸10(10´)の回転数、又はインペラ22(図3参照)の段数が異なる。高さ方向の寸法が長くなると、回転軸10(10´)の長さが長くなるので、回転軸10(10´)の振れ回りも大きくなる。このように、回転軸10(10´)の長さが比較的長い場合は、回転軸10(10´)の振れ回りを低減するため、図3に示す立軸ポンプ3のように、吐出ボウル28に固定されている下部軸受33と、吐出エルボ30に設けられた軸シール34との間に中間軸受32が設けられる。回転軸10(10´)の長さによっては、立軸ポンプに中間軸受32が複数設けられる場合もある。
回転軸10(10´)の振幅は、その長さ及び回転数等により異なる。本軸受装置は、回転軸10(10´)の振幅が比較的大きい位置に設けられる中間軸受の少なくとも一つに採用することが好ましい。なお、回転軸10(10´)の振幅が大きい部分が吐出ボウ
ル28(図3参照)内の他の部分であれば、その位置に本軸受装置を採用することが好ましい。
図6に示すように、本実施形態に係る軸受装置は、回転軸10(10´)の外周に、超硬合金やステンレス鋼等からなる金属製のスリーブ11を有している。スリーブ11は、略円筒形状である。スリーブ11の外周側には、図5に示した中空円筒の樹脂材料、セラミックス、焼結金属又は表面改質された金属からなる第1のすべり軸受1が設けられている。スリーブ11の外周面(第1の摺動部17)は、第1のすべり軸受1の内周面(すべり面)と非常に狭い第1のクリアランス7を介して対面する。スリーブ11は、回転軸10(10´)の回転に伴って回転するとともに、第1のすべり軸受1のすべり面に対して内接し、摺動するように構成されている。第1のすべり軸受1の外周部は、金属又は樹脂からなる軸受ケース12の内周面に固定されており、軸受ケース12は、つば部12aを介して、ボルト等の固定手段21bにより支持部材13に固定されている。支持部材13は、立軸ポンプ3のケーシング29(図3参照)等に固定される。
また、軸受ケース12の外周面には、中空円筒の樹脂材料、セラミックス、焼結金属又は表面改質された金属からなる第2のすべり軸受14が設けられている。回転軸10(10´)には、固定ピン又はボルト等の固定手段21aによってスリーブケース15が固定されている。スリーブケース15は、回転軸10(10´)が回転することで回転軸10(10´)と同様に回転するように構成されている。スリーブケース15の内周面にはスリーブ9が設けられる。スリーブ9の内周面(第2の摺動部18)は第2のすべり軸受14の外周面(すべり面)と非常に狭い第2のクリアランス8を介して対面する。スリーブケース15が回転するのに伴ってスリーブ9は回転し、第2のすべり軸受14のすべり面に対して接触して摺動するように構成されている。
第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14は、立軸ポンプ3の始動時においてはドライ条件下でスリーブ11及びスリーブ9を支持し、排水条件においては極めて薄い液膜を介してスリーブ11及びスリーブ9を支持する。しかし、第1のクリアランス7と第2のクリアランス8に満たされている媒体が異なっている状態、即ち一方のクリアランスに排水が、他方のクリアランスには空気が満たされている状態では、この軸受装置の機能は低下する可能性がある。この軸受装置の機能を十分に発揮するためには、両方のクリアランスに同じ媒体が満たされていることが必要である。そのため、立軸ポンプ3の運転状態が、排水運転からドライ運転、及びドライ運転から排水運転に切り替わるときに、両方のクリアランスを満たす媒体の入れ替えが速やかに行われることが必要である。
スリーブケース15には、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8に通水する給水口19が設けられている。給水口19に流入した水は、流路としての第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8を通過する。即ち、給水口19により、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8へ水を通過させる流路が形成される。したがって、立軸ポンプ3の運転状態がドライ運転から排水運転に移る場合、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8も流路として機能し、且つ、回転により遠心力が水に加わる、これにより、排水運転時にこれらのクリアランスに満たされている空気を速やかに排出し、水に置き換えることができる。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の水環境中における機能を速やかに発揮することができる。
また、立軸ポンプ3の運転状態が排水運転からドライ運転に移る場合は、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8に満たされた水が、給水口19から排出される。このように、速やかに第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8を通過して摺動部の水が排出され、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8も空気に置換される。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の大気環境中
における機能を速やかに発揮することができる。
本実施形態に係る立軸ポンプに使用される軸受装置は分割可能な構造となっている。図7は、図6におけるXX´における軸受装置の断面図である。第1のすべり軸受1、軸受ケース12、第2のすべり軸受14、スリーブケース15、及びスリーブ9は、各々が円筒を縦に半分に割った形状でそれぞれ二つに分割されている。スリーブケース15及びスリーブ9は、図7に示すように、分割面YY´において締結部材24により互いに接合されて、組み合わされる。また、第1のすべり軸受1、軸受ケース12、及び第2のすべり軸受14は、図示しない締結部材等により互いに接合されて組み合わされる。これらが組み合わされた状態において、第1のすべり軸受1、第2のすべり軸受14、及びスリーブ9はほぼ完全な円筒となり、円筒状の摺動面を形成する。このように、第1のすべり軸受1、第2のすべり軸受14、及びスリーブ9を分割可能にすることにより、メンテナンス性が向上する。
第1のクリアランス7の直径方向の隙間寸法(第1のすべり軸受1の内径−スリーブ11の外径)と第2のクリアランス8の直径方向の隙間寸法(スリーブ9の内径−第2のすべり軸受14の外径)は同一であることが好ましい。しかしながら、第1のすべり軸受1、第2のすべり軸受14、スリーブ9、又はスリーブ11が樹脂で形成されている等、これらに弾性があれば、その寸法に差があっても本軸受装置は機能する。この場合は、第1のクリアランス7の直径方向の隙間寸法に対する第2のクリアランス8の直径方向の隙間寸法の比率は、好ましくは0.5以上2.0以下であり、より好ましくは0.7以上1.3以下である。ただし、第1のすべり軸受1、第2のすべり軸受14、スリーブ9、又はスリーブ11を、ゴムなどの緩衝材を介して固定する場合は、上記寸法の範囲でなくとも、緩衝材の変形によって第1のすべり軸受1と第2のすべり軸受14が同時に夫々スリーブ11及びスリーブ9と接触可能であり、本軸受装置の機能を発揮する。
回転軸10(10´)の定常的な振れ回りを抑制し、また振れ回りによって第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14に加わる荷重を抑制するために、第1のクリアランス7の直径方向の隙間寸法及び第2のクリアランス8の直径隙間寸法は、それぞれ第1のすべり軸受1の内径の1/1000以上1/100以下、第2のすべり軸受14の外径の1/1000以上1/100以下であることが好ましい。第1のクリアランス7の直径方向の隙間寸法及び第2のクリアランス8の直径隙間寸法がこれらの範囲より大きい場合は、回転軸10(10´)の定常的な振れ回りが大きくなる。この振れ回りによって第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14に加わる荷重も大きくなり、安定的な運転が困難になる場合がある。また、第1のクリアランス7の直径方向の隙間寸法及び第2のクリアランス8の直径隙間寸法がこれらの範囲より小さい場合は、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8が異物により閉塞したり、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14が異物との摩擦により焼きついたりする場合がある。したがって、軸受装置内に、極力異物が侵入しないようにすることが必要となる。
再び図6を参照して軸受装置を説明する。図6に示すように、軸受ケース12の上側(電動機側)、及びスリーブケース15の下側(インペラ側)には、回転軸10(10´)の外周面を囲繞する防塵カバー51,52がそれぞれ設けられる。防塵カバー51,52は、回転軸10(10´)に近接して配置され、排水中の異物(スラリー)が軸受装置内に混入することを低減する。これらの防塵カバー51,52は、立軸ポンプ3のケーシング29(図3参照)等へ繋がる支持部材13にボルト等の固定手段21cにより固定されている。
防塵カバー51,52は、回転軸10(10´)が貫通して延在するための開口51a,52aを構成する縁部51b,52bをそれぞれ有する。縁部51b,52bは、回転
軸10(10´)の外周面と所定のクリアランスを有するように位置する。
図8は、上側(電動機側)から見た軸受装置を示す平面図である。軸受ケース12を支持する支持部材13は、立軸ポンプ3のケーシング29から回転軸10(10´)に向かって延在し、中央部において軸受装置を囲繞している。第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14(図6参照)は上述したように分割可能であり、軸受装置を囲繞する支持部材13に軸受ケース12を介して固定されている。
防塵カバー51は、図示のように縦に二つに分割した板材から構成される。これらの板材を、軸受装置を囲繞する支持部材13に固定手段21cにより締結し、組み合わせると、板材は略円盤状又は略円錐状に形成される。これにより、回転軸10(10´)に近接してこれを囲繞する防塵カバー51が組み立てられる。防塵カバー51の縁部51bは、回転軸10(10´)に近接して配置され、回転軸10(10´)との間隔をできる限り狭くしている。これにより、防塵カバー51は、回転軸10(10´)と防塵カバー51との隙間により形成される流路を狭くしている。したがって、防塵カバー51は、異物を含んだ水流が軸受装置内に侵入することを抑制し、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14に至る異物の侵入を低減している。
防塵カバー51は、図示のように半円に二つに分割して形成されずに、ドーナツ状の板材から構成されていてもよい。その場合は、メンテナンス時には固定手段21cを外して、軸受装置の上側(電動機側)に持ち上げておき、軸受装置のメンテナンスが終了した後に、再度固定手段21cで支持部材13に締結することができる。なお、防塵カバー52も、防塵カバー51と同様に、分割可能な略円盤状又は略円錐状の板材から構成され得る。
次に、本実施形態の軸受装置の作動原理を図9ないし図11を用いて説明する。図9は、図6に示す軸受装置のXX´断面における断面図である。図示のように、スリーブ11の外周面、第1のすべり軸受1の内周面、第2のすべり軸受14の外周面、及びスリーブ9の内周面のそれぞれの中心が中心軸Oと略一致するように構成されている。なお、図9においては、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8の寸法は、便宜上拡大されて示されている。また、説明に不要な部位は省略している。
図10は、ドライ運転時における軸受装置の動作を示す図である。回転軸10(10´)が回転すると、回転軸10(10´)に固定されたスリーブ11、及びスリーブケース15に固定されたスリーブ9も回転する。ドライ条件においては、スリーブ11の外周面が第1のすべり軸受1に点Aにて接触したときに、回転軸10(10´)には軸受反力FANが発生する。この軸受反力FANによって、回転軸10(10´)の回転方向とは逆方向に摩擦力FAFが発生し、この摩擦力FAFが回転軸10(10´)に回転方向とは逆方向の振れ回り振動を引き起こす不安定化力となる。
一方で、スリーブ9が第2のすべり軸受14に点Bにて接触することで、軸受反力FBNが発生し、この軸受反力FBNによって、摩擦力FAFと逆方向の力である摩擦力FBFが発生する。回転軸10(10´)の系にとって、摩擦力FAFと摩擦力FBFは相殺されるので、回転軸10(10´)は安定して回転することができる。また、回転軸10(10´)に係る荷重(軸受反力)が点Aと点Bに分散されることで、すべり軸受に加わる摩擦力も分散される。その結果摩擦による発熱が低減され、ドライ運転時における軸受の温度上昇が抑制される。
図11は、排水運転時における軸受装置の動作を示す図である。第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8(図9及び図10等参照)は水で満たされており、この水は夫
々液膜41、液膜42を構成し、これにより本軸受装置は流体潤滑軸受装置として機能する。このとき液膜41には、回転軸10(10´)の回転による周方向の圧力不均一が生じ、その結果回転軸10(10´)に半径方向流体力FARと周方向流体力FATが発生する。この周方向流体力FATは排水運転時に振動を発生させる不安定化力となる。なお、この周方向流体力FATは上記ドライ運転で発生する摩擦力FAFとは逆方向の力である。
従来は、立型の回転軸においてこの液膜による不安定振動を防止するために、軸受の内面形状を真円形状ではなく多円弧形状に形成することが行われていた。しかしながら、スラリーを多く含有する水中において、樹脂からなる軸受を用いた場合、摩耗によって軸受の内面形状が真円形状に近づき、振動抑制効果を失うことがあった。
本軸受装置によれば、第2のクリアランス8における液膜42において、スリーブ9の回転による周方向の圧力不均一が生じ、その結果回転軸10(10´)に半径方向流体力FBRと周方向流体力FBTが発生する。このとき、周方向流体力FATと周方向流体力FBTとは互いに逆方向であるので、液膜41、液膜42による不安定化力は相殺され、回転軸10(10´)は不安定化力による振動を発生することなく安定して回転することができる。
図12は、図6に示した軸受装置を備えた本実施形態に係る立軸ポンプ3がドライ運転したときの振動速度を示す図である。本立軸ポンプ3との比較のため、図4に示した従来構造の軸受装置を備えた立軸ポンプ(従来構造)がドライ運転したときの振動速度が示されている。なお、従来構造の軸受装置及び図6に示した軸受装置は、共にすべり軸受として耐摩耗性が高く摩擦係数が大きい同一の材料を使用している。図示のように、本軸受装置を備えた立軸ポンプ3(本実施形態)では、始動開始から停止まで一定して従来構造と比較して低い振動速度で運転されていることがわかる。
図13は、図6に示した軸受装置を備えた本実施形態に係る立軸ポンプ3がドライ運転したときの軸受温度を示す図である。本立軸ポンプ3との比較のため、図4に示した従来構造の軸受装置を備えた立軸ポンプ(従来構造)がドライ運転したときの軸受温度が示されている。なお、従来構造の軸受装置及び図6に示した軸受装置は、共にすべり軸受として耐摩耗性が高く摩擦係数が大きい同一の材料を使用している。図示のように、本軸受装置を備えた立軸ポンプ3(本実施形態)では、始動開始から停止まで一定して従来構造と比較して低い軸受温度が保たれていることがわかる。
図12及び図13に示したように、従来構造の軸受装置を備えた立軸ポンプでは、回転軸に加わる摩擦力が大きいため、大きな振動が発生し、その結果軸受の温度上昇が大きくなっている。一方、本軸受装置を備えた立軸ポンプ3では、これまで説明したように、振動を低減すると共に摩擦力を低減することができ、軸受温度の上昇を抑制することができる。
図14は、図6に示した軸受装置を備えた本実施形態に係る立軸ポンプ3が排水運転したときの振動速度を示す図である。本立軸ポンプ3との比較のため、図4に示した従来構造の軸受装置を備えた立軸ポンプ(従来構造)が排水運転したときの振動速度が示されている。なお、図14に示す結果は、立軸ポンプの運転条件を振動が発生しやすい条件で運転して、そのときの振動を計測したものである。図示のように、本軸受装置を備えた立軸ポンプ3(本実施形態)では、始動開始から停止まで一定して従来構造と比較して低い振動速度で運転されていることがわかる。
以上で説明したように、本実施形態に係る立軸ポンプ3によれば、ドライ運転時におい
て回転軸10(10´)の軸の振れ回りにより、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14に回転体(スリーブ11及びスリーブ9)が衝突しても、その衝突時に摩擦力の向きが互いに逆向きに作用して相殺する。このため、本立軸ポンプ3は、回転軸10(10´)の振れ回りの発散を抑制し、不安定化による振動を防止することができる。加えて、この振動に起因する摩擦を低減して、軸受温度の上昇を抑制することができる。
本実施形態に係る立軸ポンプ3は第1のすべり軸受1と第2のすべり軸受14を有するので、ドライ運転時における軸受すべり面の摩擦力を分散して、軸受すべり面の摩擦による発熱を抑制することができる。これにより、従来構造よりも摩擦係数の高い軸受材料、即ち耐摩耗性の高い軸受材料を使用することができ、長期間にわたって安定した運転をすることができる。
また、本実施形態に係る立軸ポンプ3では、軸受ケース12の内周面に第1のすべり軸受1を保持し、その外周面に第2のすべり軸受14を保持するので、立軸ポンプ3の軸方向にコンパクトな構造とすることができる。
なお、本立軸ポンプ3では、回転軸10(10´)の水中に位置し得る部分であるスリーブ11及びスリーブ9の支持は第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14等のすべり軸受のみで行われる。即ち、立軸ポンプ3のような排水運転を行う回転機械には、玉軸受やコロ軸受のような転がり軸受は適しておらず、すべり軸受によって本実施形態の効果を奏することができる。
尚、スリーブは、一般的に軸材等の外周に設置されるものであるが、本願においては、軸受装置の構成を分かりやすくするため、便宜上、主となる軸受材を担うものを第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14とし、相対する被摺動部材をスリーブ9,14と称するものとする。
すなわち、以上で説明した軸受装置は、回転体(回転軸10)の外周にスリーブ11を有し、スリーブ11に対応する非回転側のすべり軸受を第1のすべり軸受1としている。同様に、軸受装置は、回転体(スリーブケース15)の内周にスリーブ9を有し、スリーブ9に対応する非回転側のすべり軸受を第2のすべり軸受14としている。しかしながら、立軸ポンプ3は、回転体の外周にすべり軸受を保持し、対する非回転体にスリーブを備えてもよい。また、回転体の外周にスリーブ11が保持され、それに対応する第1のすべり軸受1が非回転体の内周に設けられ且つ、回転体の内周に第2のすべり軸受14が保持され、それに対応するスリーブ9が非回転側に設けられてもよい。また、この逆の関係で、スリーブ11、第1のすべり軸受1、第2のすべり軸受14、及びスリーブ9が、軸受装置に設けられてもよい。
次に、本発明の変形例として、他の実施形態に係る立軸ポンプを説明する。図15は、他の実施形態に係る立軸ポンプに適用される軸受装置の縦断面図である。本軸受装置では、図6に示した軸受装置に対して、構成部品が回転軸10(10´)の軸方向で逆向きになるように配置されている。
スリーブケース15は、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8に通水するための給水口19を有する。また、軸受装置を囲繞する支持部材13は、円筒状の内壁面13´の近傍に、軸受装置の上下の各側に通水可能な通水口19´を有する。
流路としての第1のクリアランス7に下方から侵入した水は第1のクリアランス7における大気を給水口19から押し出す。また、給水口19´に下方から流入した水は、第2のクリアランス8の下方から第2のクリアランス8内の大気を給水口19に押し出す。こ
れにより、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8へ水を通過させる流路が形成される。したがって、立軸ポンプ3の運転状態がドライ運転から排水運転に移る場合、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8も流路として機能し、且つ、回転により遠心力が水に加わる。これにより、排水運転時にこれらのクリアランスに満たされている空気を速やかに排出し、水に置き換えることができる。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の水環境中での機能を速やかに発揮することができる。
また、立軸ポンプ3の運転状態が排水運転からドライ運転に移る場合は、大気が給水口19から第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8に侵入し、第1のクリアランス7に満たされた水は下方に流下し、第2のクリアランス8に満たされた水は給水口19´を通過して下方に排出される。このように、速やかに第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8を通過して摺動部の水が排出され、第1のクリアランス7及び第2のクリアランス8も空気に置換される。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の大気環境中での機能を速やかに発揮することができる。
防塵カバー51,52は、図8に関連して説明した方法で、立軸ポンプ3のケーシング29(図3参照)等へ接続される支持部材13にボルト等の固定手段21cにより固定される。
次に、例えば、図4に示すような従来の立軸ポンプに備えられた軸受装置に対して、一部を増設又は置換することにより形成された、他の実施形態に係る立軸ポンプに用いられる軸受装置を図16及び図17により説明する。
図16は図4に示した軸受装置に対して一部を増設することにより形成された、他の実施形態の立軸ポンプに用いられる軸受装置を示す図である。図4に示した従来の軸受装置の回転軸10(10´)、スリーブ11、すべり軸受1、周壁部12b、及び防塵カバー50は、本軸受装置にそのまま利用される。すべり軸受1は、ここでは第1のすべり軸受1と呼ぶ。防塵カバー50は、第1のすべり軸受1のメンテナンスを行うために、既に説明したように回転軸10(10´)に対して脱着可能に構成される。
図4に示した周壁部13aは、切断して除外される。これに代えて、上述した防塵カバー52を、支持部材13に脱着可能に取り付ける。防塵カバー52が囲む空間内において、金属又は樹脂からなる軸受ケース12cを支持部材13に固定し、軸受ケース12cの外周面に、第2のすべり軸受14を固定する。また、防塵カバー52が囲む空間内において、スリーブケース15を回転軸10(10´)に固定し、スリーブケース15の内周面にスリーブ9を固定する。スリーブ9は、第2のすべり軸受14の外周面に相対する位置に配置され、スリーブ9の内周面は第2のすべり軸受14の外周面(すべり面)と非常に狭いクリアランスを介して対面する。スリーブ9は、スリーブケース15の回転に伴って回転し、第2のすべり軸受14のすべり面に対して接触して摺動するように構成されている。
スリーブケース15は、その下方に給水口19を有する。給水口19を設けることにより、給水口19に流入した水が、第2のすべり軸受14とスリーブ9とのクリアランス、及び第1のすべり軸受1とスリーブ11とのクリアランスに速やかに流入する。これにより、排水運転時にこれらのクリアランスの空気を速やかに排出し、水に置き換えることができる。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の水環境中での機能を速やかに発揮することができる。
また、立軸ポンプ3の運転状態が排水運転からドライ運転に移る場合は、第1のすべり
軸受1とスリーブ11とのクリアランスを流下した水は、速やかに給水口19から下方に排出される。同様に、第2のすべり軸受14とスリーブ9とのクリアランスを流下した水が、給水口19から下方に排出される。このように、摺動部の水は、速やかに各々のクリアランスを通過して、スリーブケース15の内側に溜まることなく排出され、空気に置換される。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の大気環境中での機能を速やかに発揮することができる。
本軸受装置の第1のすべり軸受1、軸受ケース12、第2のすべり軸受14、スリーブケース15、及びスリーブ9は、図7に示した軸受装置と同様に、分割可能に構成される。スリーブケース15及びスリーブ9は、締結部材24により接合される。また、第1のすべり軸受1、軸受ケース12、及び第2のすべり軸受14は、図示しない締結部材等により互いに接合されて組み合わされる。第1のすべり軸受1、軸受ケース12、第2のすべり軸受14、スリーブケース15、及びスリーブ9が分割可能に構成されることで、メンテナンス性が向上する。
以上で説明したように、従来の立軸ポンプ3の軸受装置において、スリーブ11と第1のすべり軸受1とをそのまま利用し、これに加えて、第2のすべり軸受14とスリーブ9とを互いに対向するように配置することにより、本軸受装置を構成することができる。
また、追加として設ける第2のすべり軸受14及びスリーブ9は、従来の立軸ポンプ3の周壁部13a(図4参照)に囲まれる空間内に配置するので、従来の立軸ポンプ3のポンプ性能を損なうことがない。なお、追加として設ける防塵カバー52の形状は、従来の立軸ポンプ3の周壁部13aと同様の形状であることが望ましい。
図17は、図4に示した軸受装置に対して一部を置換することにより形成された、他の実施形態の軸受装置を示す図である。図4に示した軸受装置のスリーブ11が軸方向に十分な長さで延在する場合、図16に示した軸受装置の構成よりも、図17に示す軸受装置の構成が好ましい。第1のすべり軸受1と第2のすべり軸受14は、同一断面上に配置されるほうが好ましいためである。
図17に示す軸受装置では、図4に示した軸受装置のすべり軸受1は用いずに、周壁部12bを有する軸受ケース12と、防塵カバー50はそのまま利用する。また、図17に示す軸受装置では、図16と同様に、図4に示した周壁部13aは、切断して除外される。これに代えて、上述した防塵カバー52を、支持部材13に脱着可能に取り付ける。防塵カバー52が囲む空間内において、金属又は樹脂からなる軸受ケース12cを支持部材13に固定し、軸受ケース12cの内周面に、第1のすべり軸受1を固定する。第1のすべり軸受1は、スリーブ11の外周面に相対する位置に配置され、スリーブ11の内周面は第1のすべり軸受1の外周面(すべり面)と非常に狭いクリアランスを介して対面する。スリーブ11は、回転軸10(10´)の回転に伴って回転し、第1のすべり軸受1のすべり面に対して接触して摺動するように構成されている。なお、防塵カバー50は、第1のすべり軸受1のメンテナンスを行うために、上述したように回転軸10(10´)に対して脱着可能に構成される。
また、軸受ケース12cの外周面には、第2のすべり軸受14が固定される。防塵カバー52が囲む空間内において、スリーブケース15を回転軸10(10´)に固定し、スリーブケース15の内周面にスリーブ9を固定する。スリーブ9は、第2のすべり軸受14の外周面に相対する位置に配置され、スリーブ9の内周面は第2のすべり軸受14の外周面(すべり面)と非常に狭いクリアランスを介して対面する。スリーブ9は、スリーブケース15の回転に伴って回転し、第2のすべり軸受14のすべり面に対して接触して摺動するように構成されている。
スリーブケース15は、その下方に給水口19を有する。給水口19を設けることにより、給水口19に流入した水が、第2のすべり軸受14とスリーブ9とのクリアランス、及び第1のすべり軸受1とスリーブ11とのクリアランスに速やかに流入する。これにより、排水運転時にこれらのクリアランスの空気を速やかに排出し、水に置き換えることができる。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の水環境中での機能を速やかに発揮することができる。
また、立軸ポンプ3の運転状態が排水運転からドライ運転に移る場合は、第1のすべり軸受1とスリーブ11とのクリアランスを流下した水は、速やかに給水口19から下方に排出される。同様に、第2のすべり軸受14とスリーブ9とのクリアランスを流下した水が、給水口19から下方に排出される。このように、摺動部の水は、速やかに各々のクリアランスを通過して、スリーブケース15の内側に溜まることなく排出され、空気に置換される。したがって、立軸ポンプ3では、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14の大気環境中での機能を速やかに発揮することができる。
本実施形態に係る軸受装置は、第1のすべり軸受1、軸受ケース12、第2のすべり軸受14、スリーブケース15、及びスリーブ9は、図7に示した軸受装置と同様に、分割可能に構成される。スリーブケース15及びスリーブ9は、締結部材24により接合される。また、第1のすべり軸受1、軸受ケース12、及び第2のすべり軸受14は、図示しない締結部材等により互いに接合されて組み合わされる。第1のすべり軸受1、軸受ケース12、第2のすべり軸受14、スリーブケース15、及びスリーブ9が分割可能に構成されることで、メンテナンス性が向上する。
以上で説明したように、従来の立軸ポンプ3の軸受装置において、スリーブ11をそのまま利用し、これに加えて、第1のすべり軸受1をスリーブ11に対向するように配置し、第2のすべり軸受14及びスリーブ9を互いに対向するように配置する。これにより、本実施形態に係る軸受装置を構成することができる。
また、追加として設ける第1のすべり軸受1、第2のすべり軸受14、及びスリーブ9は、従来の立軸ポンプ3の周壁部13a(図4参照)に囲まれる空間内に配置するので、従来の立軸ポンプ3のポンプ性能を損なうことがない。なお、追加として設ける防塵カバー52の形状は、従来の立軸ポンプ3の周壁部13aと同様の形状であることが望ましい。
なお、図6及び図15に示した軸受装置は、防塵カバー51及び防塵カバー52を備え、図16及び図17に示した軸受装置は、防塵カバー50及び防塵カバー52を備えるものとして説明した。しかしながら、図6及び図15に示した軸受装置は、防塵カバー51及び防塵カバー52の少なくともいずれか一方を備え、図16及び図17に示した軸受装置は、防塵カバー50及び防塵カバー52の少なくともいずれか一方を備えるように構成されてもよい。
以上で説明した各実施形態に係る立軸ポンプに適用される軸受装置においては、第1のすべり軸受1の内径に対する第2のすべり軸受14の外径の比率が0.2以上2.0以下であることが好ましい。第2のすべり軸受14の外周面(すべり面)の径の比率がこの範囲を上回ると、スリーブ9の周速度が大きくなり、ドライ運転時の摩擦による発熱が大きくなるので好ましくない。なお、内径の異なる複数の第1のすべり軸受1が用いられる場合は、その最小径の0.2倍以上であって最大径の2.0倍以下となる外径を有する第2のすべり軸受14を用いることが好ましい。
また、以上で説明した各実施形態に係る立軸ポンプに適用される軸受装置においては、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14に用いる材料は、ドライ運転及び排水運転において長期間軸受として機能するために、ドライ運転時の低い摩擦係数、及びスラリーを含んだ水中での高い耐摩耗性が要求される。このため、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14は、PA(ポリアミド)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタラート)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PC(ポリカーボネート)、UHMW−PE(超高分子ポリエチレン)、PTFE(ポリ四フッ化エチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PI(ポリイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAR(ポリアリレート)、PSF(ポリサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PES(ポリエーテルスルホン)、及びPF(フェノール樹脂)のうち少なくとも1つを含む樹脂材料を含む、耐摩耗性の高い材料で形成されることが好ましい。
さらに、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14は、上記樹脂材料に炭素繊維、ガラス繊維、炭素粒子、ガラス粒子、又はグラファイト等を添加した材料を含む、強化・改質された材料で形成されることがより好ましい。また、第1のすべり軸受1及び第2のすべり軸受14は、高い耐摩耗性を備える必要がある観点から、窒化珪素や炭化珪素等のセラミックス又は金属を含む材料で形成されてもよい。
これらの材料の比摩耗量(摩擦体積/軸受荷重/走行距離で定義される耐摩耗性の指標)は少なくとも1×10−6mm2/N以下であり、材料によっては1×10−7mm2/N以下である。このため、従来構造では低摩擦性と耐摩耗性を両立する材料を選択する必要があったが、上記の材料では低摩擦性有するので耐摩耗性のみを考慮すればよい。
スリーブ11及びスリーブ9は、超硬合金及びステンレス等の金属材料、セラミックス、又は上記の樹脂材料を含む材料で形成することができ、耐摩耗性が高い材料が好ましい。第1のすべり軸受1と第2のすべり軸受14の材料は互いに異なる材料であってもよい。スリーブ11とスリーブ9の材料は互いに異なる材料であってもよい。本実施形態の立軸ポンプに使用される軸受装置は、どのような摩擦係数を有する材料を第1のすべり軸受1、第2のすべり軸受14、スリーブ11及びスリーブ9に用いたとしても、不安定化力を低減することができる。
上記各実施形態で説明した軸受装置は、上述した実施形態に係る立軸ポンプに限らず、すべり軸受を有する立軸ポンプ、特に先行待機運転における気中運転、気水撹拌運転、気水混合運転、定常運転、エアロック運転のような、運転状態毎に軸受に加わる負荷が変化し、不安定化力が変化する立軸ポンプに好適に使用することができる。
また、上記各実施形態に係る立軸ポンプは、スラリーを含む水を排出する排水機場に用いられるポンプに好適である。特に、大深度型雨水排水設備であって、沈砂池をポンプの吐出側に設ける後沈砂方式を採用している排水機場においては、ポンプの流入前に沈砂池を設ける前沈砂方式の排水機場に比べてスラリー量が多いため、上記各実施形態に係る立軸ポンプはより好適に使用することができる。