近年、都市化の進展により、緑地の減少及び路面のコンクリート化、アスファルト化の拡大が進むことでヒートアイランド現象が発生し、いわゆるゲリラ豪雨と呼ばれる局所的な集中豪雨が都市部で頻発している。局所的な大量の降雨は、コンクリート化、アスファルト化した路面では、地中に吸収されることなくそのまま水路に導かれる。その結果、大量の雨水が、短時間のうちに排水機場に流入する。
頻発するこのような集中豪雨によってもたらされる大量の雨水の速やかな排水に備えるために排水機場に設置される排水ポンプでは、始動遅れによる浸水被害が生じないよう、雨水が排水機場に到達する前に予め始動させておく先行待機運転が行われている。
図1は、先行待機運転を行う立軸ポンプの部分概略図である。排水機場の水槽100には、立軸ポンプ3が配置される。立軸ポンプ3は、鉛直に配置された回転軸10と、回転軸10の先端に設けられたインペラ22とを備える。立軸ポンプ3は、インペラ22に水とともに空気を吸い込ませることにより、水槽100の水位が最低運転水位LWL以下であっても運転(先行待機運転)を継続することができる。この立軸ポンプ3には、インペラ22の入口側の吸い込みベル27の側面部に貫通孔5が設けられている。この貫通孔5には、外気に接する開口6aを備えた空気管6が取付けられている。これにより、この立軸ポンプ3では、貫通孔5を介して立軸ポンプ3内に供給する空気の供給量が水位に応じて変化され、最低運転水位LWL以下で立軸ポンプ3の排水量がコントロールされる。
図2は、先行待機運転の運転状態を説明する図である。前述したように、始動遅れによる浸水被害が生じないよう、例えば大都市の雨水排水用として、吸込水位に関係なく降雨情報等に基づいて予め立軸ポンプが始動される(A:気中運転)。雨水が排水機場に到達すると、低水位の状態から水位が上昇するに従って、インペラの位置まで水位が達し、立軸ポンプは空運転(気中運転)からインペラで水を撹拌する運転(B:気水撹拌運転)へ移行する。さらに、立軸ポンプは、貫通孔を経て供給される空気を水とともに吸い込ませつつ水量を徐々に増やす運転(C:気水混合運転)を経て、100%水の排出を行う全量運転(D:定常運転)へ移行する。また、高水位から水位が低下するときは、全量運転から貫通孔を経て供給する空気を水とともに吸い込ませつつ水量を徐々に減らす運転(C:気水混合運転)へ移行する。水位がLLWL近くに至ると、水を吸い込まず排水もしない運転(E:エアロック運転)へ移行する。これら5つの特徴ある運転を総称して先行待機運転という。なお、ポンプ始動は、ケーシング下端よりも低い水位LLLWLから開始する。なお、気水混合運転時にスラスト方向の上下荷重の変動が激しくなる。
図3は、図1に示した先行待機運転を行う従来の立軸ポンプ3の全体を示す断面図である。なお、図2に示した貫通孔5及び空気管6は図示省略されている。図3に示すように、立軸ポンプ3は、吐出エルボ30と、ケーシング29と、吐出ボウル28と、吸い込みベル27と、を備える。吐出エルボ30は、ポンプ設置床に設置固定される。ケーシング29は、この吐出エルボ30の下端に接続される。吐出ボウル28は、ケーシング29の下端に接続されるとともにインペラ22を内部に格納する。吸い込みベル27は、吐出ボウル28の下端に接続されるとともに水を吸い込む。
立軸ポンプ3のケーシング29、吐出ボウル28、及び吸い込みベル27の径方向略中心部には、上下二本の軸が軸継手26によって互いに接続されることにより形成された一本の回転軸10が配置されている。回転軸10は、支持部材13を介してケーシング29に固定されている上部すべり軸受装置32と、支持部材13を介して吐出ボウル28に固定されている下部すべり軸受装置33によって支持されている。回転軸10の一端側(吸い込みベル27側)には、水を立軸ポンプ3内に吸い込むためのインペラ22が接続されている。回転軸10の他端側は、吐出エルボ30に設けられた孔を通って立軸ポンプ3の外部へ延び、インペラ22を回転させるエンジンやモータ等の駆動機へ接続される。
回転軸10と吐出エルボ30に設けられた孔との間には、フローティングシール、グランドパッキン又はメカニカルシール等の軸シール34が設けられており、軸シール34により立軸ポンプ3が扱う水が立軸ポンプ3の外部に流出することを防止する。
駆動機は、保守点検を容易に行うことができるように陸上に設けられる。駆動機の回転は回転軸10に伝達され、インペラ22を回転させることができる。インペラ22の回転によって水は吸い込みベル27から吸い込まれ、吐出ボウル28、ケーシング29を通過して吐出エルボ30から吐出される。
図4は、図3に示したすべり軸受装置32,33に用いられるすべり軸受装置の拡大図である。図5は、図4に示すすべり軸受装置に設置されたすべり軸受の斜視図である。図4に示すように、回転軸10は、その外周に、ステンレス鋼、セラミックス、焼結金属又は表面改質された金属からなるスリーブ11を有している。スリーブ11の外周側には、中空円筒の樹脂材料、セラミックス、焼結金属又は表面改質された金属からなるすべり軸受1が設けられている。スリーブ11の外周面は、すべり軸受1の内周面(すべり面)と非常に狭いクリアランスを介して対面し、すべり軸受1に対して摺動するように構成されている。すべり軸受1は、金属又は樹脂からなる軸受ケース12によりつば部12aを介してポンプのケーシング29(図3参照)等へ繋がる支持部材13に固定されている。図5に示すように、すべり軸受1は中空円筒状の形状を有しており、内周面1aがスリーブ11の外周面と対面し、外周面1bが軸受ケース12に嵌合される。
図6は、図3に示した立軸ポンプ3の上部における、立軸ポンプ3とモータ等の駆動機との接続状況を示した模式図である。立軸ポンプ3の上部における吐出エルボ30から、軸シール34により回転軸10と吐出エルボ30との間が軸封された状態で上部に延びた回転軸10は、その端部においてカップリング51により原動機50の回転軸56と接続する。原動機50は、原動機50を支持する原動機架台52の上に固定される。原動機架台52は、架台53に固定される。回転軸10にはラジアル力を受ける転がり軸受55、及びスラスト力を受ける転がり軸受55´が設けられる。転がり軸受55、55´は軸受ハウジング54に収納されている。軸受ハウジング54は架台53に固定されている。軸受ハウジング54内には、転がり軸受55の潤滑に必要な潤滑油が満たされている。
ところで、近年、ポンプ機場はより深い地下に配置されるようになり、それに応じて先行待機ポンプも長軸化が進んでいる。回転軸を長くすればするほど、回転軸には軸の振れ回りが激しくなる部分が生じる。この軸の振れ回りを抑制するために、回転軸に沿ってすべり軸受を適切な位置により多く配置する必要が生まれてきた。
しかしながら、このことにより、新たな技術的課題が発生する虞がある。図7A及び図7Bは、軸の振れ回りが激しくなる部分にすべり軸受装置32,33を配置したポンプにおける回転軸10、スリーブ11、及びすべり軸受1の状態を示す模式的断面図である。ドライ運転においては、すべり軸受装置32,33のすべり軸受1と回転軸10に取り付
けたスリーブ11とが摺動する際に、接触部(斜線で示される部分)での摩擦力が大きくなり摩耗が促進し、同時に発生する摩擦熱が大きくなる。そのため、すべり軸受1やスリーブ11の損傷が懸念される。
そもそも、回転軸の振れ回り自体を、全体として適切に低減すれば良いのであるが、これまで、立軸ポンプにおける対策は、どちらかといえば負荷の大きい軸受に関する対策等、局部的な対策が多かった。
そこで、発明者等は、ドライ運転の摺動時に、互いに逆向きの摩擦力による偶力を生じさせて摩擦力を相殺し、回転軸の振れ回りを抑制する仕組みを有するすべり軸受装置を発明した(特許文献1参照)。
このすべり軸受装置では、相殺される力が、回転軸の軸方向に垂直な振れ幅(径方向の振れ幅)の大小に依存する。すなわち、回転軸の振れ回りの大きい場所(腹)にこのすべり軸受装置を配置した場合は、振れ回りを抑制する効果が大きいが、回転軸の振れ回りの小さい場所(節)にこのすべり軸受装置を配置した場合、この効果が得にくくなる。
図13は、大気(ドライ)運転時に、摺動面に液体の潤滑のない大気雰囲気で運転されるすべり軸受装置の摺動部分に働く力を模式的に示す断面図である。すなわち、図13に示すように、大気(ドライ)運転時に摺動面が大気雰囲気にある状態で回転軸10が回転すると、回転軸10に固定されたスリーブ11が回転する。大気雰囲気でこのすべり軸受装置が使用される場合、回転軸10の振れ回りによりスリーブ11の外周面がすべり軸受1に点Aにて接触したときに、回転軸10には軸受反力FANが発生する。この軸受反力FANによって、回転軸10の回転方向とは逆方向に摩擦力FAFが発生し、この摩擦力FAFが回転軸10に回転方向とは逆方向の振れ回り振動を引き起こす不安定化力となる。
ここの場合の不安定化力である摩擦力FAFの大きさの程度は、回転軸10の軸方向に垂直な振れ幅(即ち、回転軸10の径方向の振れ幅)の大きさに依存する。すなわち、摩擦力FAFの大きさは、この回転軸10の振れが腹であるか節であるかに比較的敏感である。
一方、図14は、軸受ハウジング内に収容されて、摺動面が潤滑油や水などの液体に浸された液中雰囲気にある状態で使用されるすべり軸受61の摺動部分に働く力を模式的に示す図である。回転軸10が回転すると、回転軸10に固定され一体化された転動体65が回転する。摺動面が潤滑油や水などの液体雰囲気にあるので、転動体65とラジアルすべり軸受61の間に液膜が構成される。このとき、液膜には転動体65の回転による周方向の圧力不均一が生じ、その結果、転動体65に半径方向流体力FARと周方向流体力FATが発生する。この現象による効果を軸受内液膜効果といい、この周方向流体力FATは、図13に関連して説明したドライ運転で発生する摩擦力FAFとは逆回転方向(逆方向)の力である。
この場合、回転軸10の軸方向に垂直な振れ幅の大きさへの周方向流体力FATの依存性は、図13におけるドライ運転時の摩擦力FAFに比べて小さい。すなわち、周方向流体力FATは、回転軸10の振れの発生位置が腹であるか節であるかでなく、むしろ回転数の大きさに影響される。
以上の二つの原理に基づき、これらのすべり軸受装置を有する立軸ポンプでは、ドライ運転で発生する摩擦力FAFと、それを相殺する液膜効果による周方向流体力FATによって、立軸ポンプの振れ回り振動の抑制が行われるものである。
しかしながら、大気雰囲気で使用されるすべり軸受装置の摺動面で発生する摩擦力の大きさに対して、常時液体雰囲気で使用されるすべり軸受装置の摺動面で発生する軸受内液膜効果による周方向流体力の大きさが、振れ回り振動を抑えるほど十分ではない場合がある。また、周方向流体力が摩擦力よりも大きく作用してしまう場合もある。これらの場合、不安定化が生じ得ることが分かってきた。
そこで発明者らは、常時液体雰囲気で使用されるすべり軸受装置が、回転軸に平行な分割面により分割され、回転軸周りに分解組立可能である真円軸受又は多円弧軸受を有するようにし、摺動面の面積を状況に応じて調節することができる軸受装置を提案したところである。これにより、大気雰囲気で使用されるすべり軸受装置の摺動面で発生する摩擦力に対して、常時液体雰囲気で使用されるすべり軸受装置の摺動面で発生する軸受内液膜効果による周方向流体力を調整することができる。
以下、本実施形態に係る立軸ポンプ、及びそれに用いるすべり軸受装置の実施形態を、図面を参照して説明する。同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。本明細書において、「上部」及び「下部」とは、立軸ポンプが移送する液体の下流側(図示において「吐出」側)及び上流側(図示において「吸込」側)をそれぞれ意味するものとして説明する。
図8は、本実施形態に係る立軸ポンプの縦断面図である。立軸ポンプはポンプケーシン
グ内にポンプの揚水対象の水がない状態で回転軸を運転することがあるポンプである。立軸ポンプにはそのような状態で管理運転を行うものや、先行待機運転において、気中運転を行うものもある。図8では先行待機運転を行う立軸ポンプを例示している。なお、管理運転とは、降水が稀な季節においてポンプの停止状態が継続している時期に、ポンプが正常に運転できるかどうかを点検するための運転であって、ポンプケーシング内がドライな状態で行う運転である。その運転時間は、十数分から数十分になる場合もある。
図8に示すように、立軸ポンプ3は、ポンプ設置床に設置固定される吐出エルボ30と、この吐出エルボ30の下端に接続されるケーシング29と、ケーシング29の下端に接続されるとともにインペラ22(羽根車の一例に相当する)を内部に格納する吐出ボウル28と、吐出ボウル28の下端に接続されるとともに水を吸い込むための吸い込みベル27とを備えている。吸い込みベル27の下端から吐出エルボ30の吐出端部までをポンプケーシングと呼ぶ。
インペラ22の入口側の吸い込みベル27の側面部には貫通孔が設けられており、この貫通孔には、外気に接する開口を備えた空気管6が取り付けられている。これにより、この立軸ポンプ3では、貫通孔を介して立軸ポンプ3内に供給する空気の供給量が水位に応じて変化し、立軸ポンプ3の排水量がコントロールされる。
立軸ポンプ3のケーシング29、吐出ボウル28、及び吸い込みベル27の径方向略中心部、すなわちポンプケーシング内部には、回転軸10が配置されている。回転軸10の一端側(吸い込みベル27側)には、水をポンプ内に吸い込むためのインペラ22が接続されている。
回転軸10は、すべり軸受装置32、33によって支持される。すべり軸受装置32は、軸方向の適当な位置で、支持部材を介してケーシング29に固定されている。すべり軸受装置33は、吐出ボウル28の内筒に支持部材を介して固定されている。インペラ22を回転軸10が貫通する場合においては、すべり軸受33は、回転軸10の下端部で、支持部材を介してケーシング29に固定されていてもよい。すべり軸受装置32,33は、大気運転時に摺動面が大気雰囲気にある状態で使用されるすべり軸受装置であってよい。大気運転時に摺動面が大気雰囲気にある状態で使用されるすべり軸受装置とは、例えば、図4及び図5に示したすべり軸受装置である。
すなわち、図4に示すように、このすべり軸受装置は、回転軸10の外周に、ステンレス鋼、セラミックス、焼結金属又は表面改質された金属等からなるスリーブ11を有している。スリーブ11の外周側には、中空円筒の樹脂材料、セラミックス、焼結金属又は表面改質された金属からなるすべり軸受1が設けられている。スリーブ11の外周面は、すべり軸受1の内周面(すべり面)と非常に狭いクリアランスを介して対面し、すべり軸受1に対して摺動するように構成されている。すべり軸受1は、金属又は樹脂からなる軸受ケース12によりつば部12aを介してポンプのケーシング29等へ繋がる支持部材13に固定されている。図5に示すように、すべり軸受1は中空円筒状の形状を有しており、内周面1aがスリーブ11の外周面と対面し、外周面1bが軸受ケース12に嵌合される。すべり軸受装置33とすべり軸受装置32はともに1か所以上配置され、両者合わせて複数のすべり軸受装置となる。
回転軸10の上端側は、吐出エルボ30に設けられた孔を通って立軸ポンプ3の外部へ延び、インペラ22を回転させるエンジンやモータ等の駆動機へ接続される。回転軸10と吐出エルボ30に設けられた孔との間には、フローティングシール、グランドパッキン又はメカニカルシール等の軸シール34が設けられており、軸シール34により立軸ポンプ3が扱う水が立軸ポンプ3の外部に流出することを防止する。
駆動機は、保守点検を容易に行うことができるように陸上に設けられる。駆動機の回転は回転軸10に伝達され、インペラ22を回転させることができる。インペラ22の回転によって水が吸い込みベル27から吸い込まれ、吐出ボウル28、ケーシング29を通過して吐出エルボ30から吐出される。
図9は、図8に示した本実施形態に係る立軸ポンプ3の回転軸10と原動機50の回転軸56の接続状況を示した模式図である。立軸ポンプ3の上部における吐出エルボ30から、軸シール34により回転軸10と吐出エルボ30との間が軸封された状態で上部に延びた回転軸10は、その端部においてカップリング51により原動機50の回転軸56と接続する。原動機50は、原動機50を支持する原動機架台52の上に固定される。回転軸10にはラジアル力を受ける転がり軸受55、及びスラスト力を受ける転がり軸受55´が設けられる。転がり軸受55、55´は軸受ハウジング63に収納されている。軸受ハウジング63は架台53に固定されている。軸受ハウジング63内には、転がり軸受55の潤滑に必要な分まで潤滑油が満たされている。
ところで、立軸ポンプの回転軸10の上部は、以上で説明した構造により、転がり軸受55、55´により支持され、また、それらを支持する軸受ハウジング63が、さらに剛性の高い架台53にしっかり固定されている。回転軸10の軸受ハウジング63より下方は、軸受ハウジング63からインペラ22までの距離が長いので、回転軸10をそのまま回転させると振れ回りが生じることがある。その振れ回りの程度は高さ方向の位置により異なる。この振れ回りを抑制するように、ポンプケーシング内にすべり軸受装置32,33を設けて回転軸10を支持している。
すべり軸受装置32の位置は、設計段階において、経験、あるいは便法的な計算により決定される。具体的には、回転軸10の太さ、長さ、回転数、インペラの重さや枚数等の条件から、回転軸10の振れ回りの大きい位置を割り出し、それに基づいて軸方向のどの位置に、いくつのすべり軸受装置32を配置するかが、ある程度決められる。しかしながら、回転軸10の振れ回りの大きい位置として予測されたすべり軸受装置32の配置位置が、実際の振れ回りの大きい位置からずれることがある。また、このすべり軸受装置32の配置位置は、立軸ポンプ3を組み立てた後に修正することはできない。
ところで、ドライ運転においては、ポンプケーシング内のすべり軸受装置32,33におけるすべり軸受1と、回転軸10に取り付けたスリーブ11とが摺動する際に、接触部での摩擦力が大きくなり、発生する摩擦熱が大きくなる。そのため、すべり軸受1やスリーブ11の損傷が懸念される。
特に、回転軸10の振れ回りの大きい所に備えたすべり軸受装置32,33ほど軸受荷重が大きいので、摺動する相手方の回転軸10に取り付けたスリーブ11の局所的な摩耗や高温化が生じやすくなり、立軸ポンプ3の回転体(回転軸10及びスリーブ11)と固定体(すべり軸受1)との干渉による振動や軸受荷重が増加する。
そこで、本実施形態に係る立軸ポンプ3は、ポンプケーシング外部の原動機架台52部分において、回転軸10のラジアル力とスラスト力を受ける軸受装置として転がり軸受55、55´を備えるとともに、回転軸10を囲繞したすべり軸受61を備える。軸受ハウジング63内に収容された転がり軸受55、55´及びすべり軸受61は、潤滑油や水等の液体に浸漬される。
図10は、本実施形態に係るポンプケーシング外部の原動機架台52部分に備えられた軸受装置60の縦断面図である。図10に示すように、軸受装置60は、軸受ハウジング
63を有する。軸受ハウジング63は、回転軸10の径よりやや大きい径の略円筒壁である内筒63aと、内筒63aより大きい径の略円筒壁の外筒63bと、内筒63a及び外筒63bの壁面の下部同士を接続するとともに、架台53と固定される底板63dと、外筒63bの壁面の上部と接続して、転がり軸受55を固定する支持板63cと、支持板63cの上に固定され、転がり軸受55、55´及び回転軸10を囲繞するすべり軸受61の上部に位置する天板63eを有する。これらにより、軸受ハウジング63は、潤滑油や水などを受液できる槽を形成している。各部材は分解可能であるが、組み立てられた状態では互いに水密に接合しており、形成される軸受ハウジング63内に液体を注入しても外部に漏洩することはない。
内筒63aの内側には、回転軸10が延在する。回転軸10は、この内筒63aを外側から覆うように構成された転動体65を備えている。転動体65は回転軸10と一体となって回転するように構成されている。天板63eと転動体65及び回転軸10等を含む回転体との間は、わずかな隙間が形成されるか、リップシール等の摺動シール部材によりほぼ封止されている。内筒63aと転動体65及び回転軸10との間には、内筒63aの上端及び側面と転動体65及び回転軸10とが干渉しないように、円環状に隙間通路71が形成されている。なお、本明細書において、少なくとも回転軸10と転動体65とを総称して回転体ということがある。
本実施形態の軸受装置60によれば、軸受装置60の上方の液体注入ライン69から軸受ハウジング63内の空間に水や油等の液体を、内筒63aの上端の高さFLまで注入して、立軸ポンプ3を運転することが可能となる。軸受ハウジング63の内筒63aの上端部は、転がり軸受55よりも、高い位置まで延びている。FLを越えて液体を注入すると、液体が内筒63aの上端を溢流してしまうので、レベル計70等により、溢流しないレベルに液面が維持されるように、液面が監視される。液面の低下があれば、再び液体注入ライン69から補充の液を注入する。液の交換や軸受装置60のメンテナンスでは、液体パージライン68から軸受ハウジング63内の液体を外部に放出する。液体注入ライン69にはバルブ69aが、液体パージライン68にはバルブ68aが備えられ、各ラインの液の注入・放出時に開閉される。
回転軸10は、上方に配置され、ラジアル方向の摺動荷重を受けるように構成されたラジアル転がり軸受55と、下方に配置され、スラスト方向の摺動荷重を受けるように構成されたスラスト転がり軸受55´により支持される。ラジアル転がり軸受55の外輪は外輪の支持部材72に固定されている。外輪の支持部材72は軸受ハウジング63の支持板63cに固定されている。スラスト転がり軸受55´の外輪は、軸受ハウジング63の底板63dに固定されている。なお、転がり軸受55、55´の内輪は回転軸10(転動体65)に固定されている。
転がり軸受55と転がり軸受55´との間には、回転軸10(転動体65)の摺動部分が位置しており、軸受装置60は、回転軸10(転動体65)を囲繞するすべり軸受61を備えている。すべり軸受61は、回転軸10(転動体65)の摺動部分に対応するように位置している。なお、回転軸10(転動体65)の少なくとも摺動面は、ステンレス鋼、セラミックス、焼結金属、又は表面改質された金属からなる。また、回転軸10(転動体65)の摺動面に相対するすべり軸受1、61は、樹脂材料、セラミックス、焼結金属、又は表面改質された金属からなる。
ここで、図10における軸受装置60の、液膜効果に関する寸法パラメータを説明する。比較的小さなサイズのパラメータに関する説明も存在するので、便宜上、図15を参照する。図15は、図10における軸受装置60の、回転軸10(転動体65)、ラジアル転がり軸受55、すべり軸受61の位置関係を説明するための模式図である。図15では
、軸方向をZ軸とし、回転軸10の径方向のXY平面の第4象限側が切断されている。説明の便宜のため、寸法尺度は必要に応じて誇張されている。
ここで、すべり軸受61の摺動面の軸方向の長さをLb、すべり軸受61と転動体65が摺動する、転動体65の摺動部分における直径をD、すべり軸受61の軸方向長さの半分の位置(軸方向中央の位置)から、ラジアル転がり軸受55の軸方向長さの半分の位置(軸方向中央の位置)までの距離をLs、すべり軸受61と転動体65の互いの摺動面間の平均クリアランスをC(所謂、半径隙間)、転動体65の摺動部分における転動体65の径方向の振幅をAmとする。
液膜効果による流体力Ffは、これらパラメータとの間に以下の関係を有する。
Ff=κ・Am・D・Lb
3/C3・・・(数式2)
(ただし、κは比例定数)
一般的に、すべり軸受におけるLb/Dは0.1~1.0の範囲内にあり、2C/Dは1~3/1000の範囲内にあることは知られている。
さらに、発明者らの研究によれば、転動体65の振幅Amは、ラジアル転がり軸受55の近傍では、以下の式で表すことができることが分かった。
Am=αLs・・・(数式3)
(ただし、αは比例定数)
ここで、転動体65の振幅Amが、距離Lsに比例する範囲は、0<Ls<Dである。
数式2によれば、転動体65の摺動部分における直径Dを大きくすれば、流体力Ffは増加する。しかしながら、直径Dを大きくするよりも、すべり軸受の軸方向長さLbを長くするか、クリアランスCを小さくする方が流体力Ffを増加させる効果は大きい。一方で、転動体65の摺動部分における直径D、すべり軸受の軸方向長さLb、クリアランスCは寸法的に決められており、大きく変更することは困難である。
数式3によれば、転動体65の振幅Amは、すべり軸受61の軸方向長さの半分の位置(軸方向中央の位置)から、ラジアル転がり軸受55の軸方向長さの半分の位置(軸方向中央の位置)までの距離Lsに比例する。したがって、数式3によれば、Lsがゼロに近づくと(即ち、すべり軸受61とラジアル転がり軸受55が近接することを示す)、振幅Amもゼロに近づくので、数式2によれば、流体力Ffをゼロに近づけることができる。
以上のことから、本実施形態に係る軸受装置60は、回転軸10のラジアル方向の摺動荷重を受けるラジアル転がり軸受55を備え、回転軸10又は転動体65と液体雰囲気で摺動するすべり軸受61を備え、すべり軸受61とラジアル転がり軸受55の距離は、すべり軸受61と摺動する位置での回転軸10の直径よりも大きいことを特徴としている。なお、ここでのすべり軸受61とラジアル転がり軸受55の距離とは、上述したように、すべり軸受61の軸方向長さの半分の位置(軸方向中央の位置)から、ラジアル転がり軸受55の軸方向長さの半分の位置(軸方向中央の位置)までの距離Lsに相当する。図10においては、ラジアル転がり軸受55の下方にLs(>D)離れた位置にすべり軸受61が備えられている。このようにすることで、液膜効果による流体力Ffを効果的に引き出すことが可能となる。
図10に説明した軸受装置60を備えた図8及び図9の立軸ポンプ3において、転がり軸受55の潤滑ラインFLまで軸受ハウジング63内に液体が収容されている状態で立軸ポンプ3を運転すると、回転軸10(転動体65)とすべり軸受61の摺動面の間で液膜効果が生じる。この液膜効果による周方向流体力が、ドライ運転時にポンプケーシング内のすべり軸受装置32、33で生じる摩擦力を相殺及び緩和し、回転軸の振れ回り振動が
抑制される。
図11は、他の実施形態に係る立軸ポンプ3の回転軸10と原動機50の回転軸56の接続状況を示した模式図である。図11に示す立軸ポンプ3は、ポンプケーシングの外部に設けられる軸受装置60を除いて、図8及び図9に示した立軸ポンプ3と同様の構造を有する。即ち、立軸ポンプ3の上部における吐出エルボ30から、軸シール34により回転軸10と吐出エルボ30との間が軸封された状態で上部に延びた回転軸10は、その端部においてカップリング51により原動機50の回転軸56と接続する。原動機50は、原動機50を支持する原動機架台52の上に固定される。回転軸10にはラジアル力を受ける転がり軸受55、及びスラスト力を受ける転がり軸受55´が設けられる。転がり軸受55、55´は軸受ハウジング63に収納されている。軸受ハウジング63は架台53に固定されている。軸受ハウジング63内には、転がり軸受55の潤滑に必要な分まで潤滑油が満たされている。
立軸ポンプ3の回転軸10の上部は、回転軸10の転がり軸受55、55´により支持され、また、それらを支持する軸受ハウジング63が、さらに剛性の高い架台53にしっかり固定されている。この実施形態に係る立軸ポンプ3は、さらに、ポンプケーシング外部の原動機架台52部分において、回転軸10のラジアル力とスラスト力を受ける軸受装置として転がり軸受55、55´を備えるとともに、回転軸10を囲繞したすべり軸受61を備える。軸受ハウジング63内に収容された転がり軸受55、55´及びすべり軸受61は、潤滑油や水等の液体に浸漬される。
立軸ポンプ3の回転軸10の軸受ハウジング63より下方は、軸受ハウジング63からインペラ22までの距離が長いので、回転軸10をそのまま回転させると振れ回りが生じることがある。その振れ回りの程度は高さ方向の位置により異なる。この振れ回りを抑制するように、ポンプケーシング内にすべり軸受装置32,33を設けて回転軸10を支持している。
図12Aは、図11に示した立軸ポンプ3のポンプケーシング外部の原動機架台52部分に備えられた軸受装置60の縦断面図である。図12Aに示すように、軸受装置60は、軸受ハウジング63を有する。軸受ハウジング63は、回転軸10の径よりやや大きい径の略円筒壁である内筒63aと、内筒63aより大きい径の略円筒壁であって、内部に転がり軸受55の支持部材72を備えた外筒63bと、内筒63a及び外筒63bの壁面の下部同士を接続する底板63dと、外筒63bの壁面の上部と接続して、転がり軸受55´を固定するとともに、架台53に固定される支持板63cと、支持板63cの上に固定され、転がり軸受55、55´、及び回転軸10を囲繞するすべり軸受61の上部に位置する天板63eを有する。これらにより、軸受ハウジング63は、潤滑油や水などを受液できる槽を形成している。各部材は分解可能であるが、組み立てられた状態では互いに水密に接合しており、形成される軸受ハウジング63内に液体を注入しても外部に漏洩することはない。
内筒63aの内側には、回転軸10が延在する。回転軸10は、この内筒63aを外側から覆うように構成された転動体65を備えている。転動体65は回転軸10と一体となって回転するように構成されている。天板63eと転動体65及び回転軸10等を含む回転体との間は、わずかな隙間が形成されるか、リップシール等の摺動シール部材によりほぼ封止されている。内筒63aと転動体65及び回転軸10との間には、内筒63aの上端及び側面と転動体65及び回転軸10とが干渉しないように、円環状に隙間通路71が形成されている。
本実施形態の軸受装置60によれば、軸受ハウジング63内の空間に水や油等の液体を
、内筒63aの上端の高さFLまで注入して、立軸ポンプ3を運転することが可能となる。軸受ハウジング63の内筒63aの上端部は、転がり軸受55及び転がり軸受55´よりも高い位置まで延びている。FLを越えて液体を注入すると、液体が内筒63aの上端を溢流してしまうので、レベル計70等により、溢流しないレベルに液面が維持されるように、液面が監視される。
回転軸10は、上方に配置され、スラスト方向の摺動荷重を受けるように構成されたスラスト転がり軸受55´と、下方に配置され、ラジアル方向の摺動荷重を受けるように構成されたラジアル転がり軸受55により支持される。ラジアル転がり軸受55の外輪は外輪の支持部材72に固定されている。外輪の支持部材72は軸受ハウジング63の外筒63bに固定されている。スラスト転がり軸受55´の外輪は、軸受ハウジング63の支持板63cに固定されている。なお、転がり軸受55、55´の内輪は回転軸10(転動体65)に固定されている。
ラジアル転がり軸受55から軸方向下方に距離Ls離間した位置には、回転軸10(転動体65)の摺動部分が位置しており、軸受装置60は、回転軸10(転動体65)の当該摺動部分を囲繞するすべり軸受61を備えている。すべり軸受61は、外筒63bに支持され、回転軸10(転動体65)の摺動部分に対応するように位置している。すなわち、図示の実施形態において、軸受装置60は、回転軸10のラジアル方向の摺動荷重を受けるラジアル転がり軸受55と、回転軸10のスラスト方向の摺動荷重を受けるスラスト転がり軸受55´を備え、ラジアル転がり軸受55から距離Lsだけ下方に離間した位置に、回転軸10と液体雰囲気で摺動するすべり軸受61を備える。このすべり軸受61とラジアル転がり軸受55の距離Lsは、すべり軸受61と摺動する位置での回転軸10の直径Dよりも大きくされている。このようにすることで、既述したように、液膜効果による流体力Ffを効果的に引き出すことが可能となる。
図12Bは、図11に示した立軸ポンプ3のポンプケーシング外部の原動機架台52部分に備えられた軸受装置60の他の例の縦断面図である。図12Aにおいて、ラジアル転がり軸受55とすべり軸受61の位置関係を入れ替えたものであるが、このようにしても、図12Aと同じく液膜効果による流体力Ffを効果的に引き出すことが可能となる。
図12A及び図12Bに説明した軸受装置を備えた図8及び図11の立軸ポンプ3において、潤滑ラインFLまで軸受ハウジング63内に液体が収容されている状態で立軸ポンプ3を運転すると、回転軸10(転動体65)とすべり軸受61の摺動面の間で液膜効果が生じる。この液膜効果による周方向流体力が、ドライ運転時にポンプケーシング内のすべり軸受装置32、33で生じる摩擦力を相殺及び緩和し、回転軸の振れ回り振動は抑制される。
以上、本発明の実施形態について、主に先行待機運転を行う立軸ポンプを例として説明したが、立軸ポンプ3は、ポンプケーシング内に、ポンプが揚水する対象の水がない状態で回転軸を回転して運転することがあるポンプであって、そのような状態で管理運転を行うポンプも含まれる。上述した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、又は、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲及び明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、又は省略が可能である。