JP6405549B2 - 急性冠症候群のマーカー及びその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、急性冠症候群のマーカー及びその利用に関し、詳しくは、急性冠症候群の病態を判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法、及びそれに使用する診断薬等に関する。
脳におけるアミロイドβ(Aβ)の沈着は、アルツハイマー病(AD)と密接に関連している(非特許文献1)。Aβは、β−セクレターゼ(β-site amyloid precursor protein cleaving enzyme;BACE1)及びγ−セクレターゼによる逐次的な切断により、
一回膜貫通型タンパク質のアミロイド前駆体タンパク質(APP)から生成され、細胞外に放出される(非特許文献2)。またAPPは、α−セクレターゼによりAβ配列内のα部位で切断され得る。APPのα部位及びβ部位における切断により、それぞれsAPPα及びsAPPβと呼ばれるAPPのN末端部分が細胞外に放出される。APPには、選択的スプライシングによる3種類のアイソフォーム、APP695、APP751及びAPP770が存在し(非特許文献3及び4)、ニューロンにおいてはAPP695が主に発現している(非特許文献5)。多くの証拠が、AD患者が初期において脳血管性脳病変を有することを示唆している(非特許文献6−11)。またほとんどのAD患者において、脳の細動脈壁でのAβ沈着(脳血管アミロイドアンギオパチーと呼ばれる)がみられることも重要な知見である(非特許文献12−15)。本発明者らは、血管内皮細胞がAPP770を発現し、Aβ40/42を産生することを既に見出している(非特許文献16)。血管に沈着するAβの由来については議論があるが、最近のAβ免疫療法研究では、脳実質と血管におけるAβ沈着は独立に起こることが示された(非特許文献17)。
これまでに、アルツハイマー病との関連で、sAPPα及びsAPPβの産生並びにα切断活性及びβ切断活性について詳細に解析されている(非特許文献18及び19)。
最近、本発明者らは、APP770のBACE1切断産物のN末端側断片である可溶型APP770β(sAPP770β)を特異的に検出するサンドイッチELISAシステムを発明した(特許文献1)。このシステムを用いることにより、血管内皮細胞のsAPP770βが脳血管アミロイドアンギオパチー及びアルツハイマー病といったAβ蓄積を伴う疾患のバイオマーカーとなる可能性を見出している。
他方、アルツハイマー病などの認知症とは別に、急性冠症候群も社会的影響が大きい重要な疾患の一つである。狭心症患者数は2010年の時点でおよそ65万人と推計されている。実臨床においては侵襲的処置(緊急心臓カテーテル検査)の緊急性が高い急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞)を安定狭心症と区別することが重要である。現在確立している代表的な急性冠症候群マーカー(トロポニンT、トロポニンI、H−FABP、AST、CPK、LDHなど)は血管障害ではなく心筋の障害(myocardial damage)を起こ
して初めて上昇を示すものである。一方で、血管内のプラーク性状や不安定さを示すマーカーは確立されていない。
国際公開第2012/015050号パンフレット
Physiol Rev 81(2):741-766 (2001) Physiol Rev 90(2):465-494 (2010) Nature 331(6156):525-527 (1988) Nature 331(6156):528-530 (1988) Proc Natl Acad Sci USA 90(20):9513-9517 (1993) Neurology 38(6):931-937 (1988) JAMA 277(10):813-817 (1997) Neurology 51(4):1009-1013 (1998) Neurobiol Aging 21(2):153-160 (2000) N Engl J Med 348(13):1215-1222 (2003) Journal of Neuroscience 28(50):13542-13550 (2008) Neurology 25(2):120-126 (1975) Ann Pathol 1(2):120-129 (1981) Stroke 18(2):311-324 (1987) Lancet 354(9182):919-920 (1999) J Biol Chem 285(51):40097-40103 (2010) Nature Medicine 9(4):448-452 (2003) Journal of Neuroscience 28(46):12052-12061 (2008) J Neurosci Res 89(6):822-832 (2011)
本発明では、APPの選択的スプライシングバリアントの可溶型フォームであるsAPP770の生体における役割をさらに解明し、アルツハイマー病等の認知症以外の疾患との関連性を明らかにして、疾患のバイオマーカーを確立することを目的とした。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、意外にも炎症性サイトカインにより血管内皮細胞から分泌されるsAPP770が増加することや活性化した血小板から脱顆粒しsAPP770が大量に放出されることを見出した。血管内皮損傷、血小板活性化及び血栓形成は、アテローム性動脈硬化の発生及び進行並びに急性冠症候群(acute coronary syndrome)(ACS)の発症における重要事象である(N Engl J Med 357(24):2482-2494 (2007))。そこで、ACS患者(不安定狭心症患者及び急性心筋梗塞(AMI)患者を含む)由来の生体試料中のsAPP770レベルの測定を行なったところ、血漿のsAPP770レベルはAMI患者において健常者よりも有意に高く、血清のsAPP770レベルはAMI患者において有意に低いこと、また急性冠症候群の病態が進行するほど血漿中のsAPP770レベルが高くなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
より詳しくは、本発明は以下を提供するものである。
[1]急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法であって、
(1)被験者の血漿中及び/又は血清中の可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)770レベルを測定する工程;及び
(2)(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程
を含む、方法。
[2]工程(1)が、被験者の血漿中のsAPP770レベルを測定する工程であり、工程(2)が、血漿中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程である、[1]に記載の方法。
[3]工程(1)が、被験者の血漿中及び血清中のsAPP770レベルを測定する工程
であり、工程(2)が、血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率と急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程である、[1]に記載の方法。
[4]工程(1)が、被験者の血清中のsAPP770レベルを測定する工程であり、工程(2)が、血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程である、[1]に記載の方法。
[5]工程(2)が、工程(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態とを関連付ける工程である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]急性冠症候群の重篤度を判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[5]に記載の方法。
[7]急性冠症候群と非急性冠症候群とを鑑別するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[5]に記載の方法。
[8]急性冠症候群の予後の良否を判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[5]に記載の方法。
[9]工程(2)が、工程(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の発症リスクとを関連付ける工程であり、急性冠症候群の発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[10]sAPP770レベルがsAPP770特異的抗体を用いて検出される、[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]sAPP770特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、[10]に記載の方法。
[12]sAPP770レベルがサンドイッチELISAにより測定される、[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断薬。
[14]sAPP770特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、[13]に記載の診断薬。
[15]前記sAPP770特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、[13]又は[14]に記載の診断薬。
[16]sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断用キット。
[17]sAPP770特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、[16]に記載の診断用キット。
[18]前記sAPP770特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、[16]又は[17]に記載の診断用キット。
本発明によれば、血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態を迅速且つ高精度で評価することが可能となる。急性冠症候群の基本病態は冠動脈プラーク破綻や血小板活性化であり、本発明では、心筋の障害ではなく血管内皮の障害を反映した現象を捉えることで、より早い段階での急性冠症候群の病態を把握することが可能となる。ACSの予備軍である生活習慣病患者(高血圧患者、糖尿病患者、脂質異常症患者、睡眠時無呼吸症候群患者、喫煙者)における血管機能低下、血小板活性の評価をすることにより、ACSの発症リスクの高低等(例えば、動脈硬化発生の初期の段階にあるか否か)を事前に予測することも期待される。さらに、本発明により、あるいは、本発明と他の検査手段(CT、超音波検査等)とを組み合わせることにより、ACSとそれに類似した非ACSとの鑑別(例えば、不安定狭心症と安定狭心症等との鑑別)が可能にな
り、侵襲的治療(カテーテル治療など)の適用に関する治療方針判断が容易になり、さらにACSの予後の良否も判定できる。
図1は、本発明者らが確立したAPP770 ELISAシステムを使用した、脳内皮細胞から分泌されたsAPP770、ヒト血清試料中のsAPP770及びヒト血漿試料中のsAPP770の検出を示す。(A)APP total ELISA及びAPP770 ELISAの簡単な説明。これらのELISAシステムの捕捉抗体(星印あり)及び検出抗体(星印なし)の認識部位を模式図中に示す。(B)ウェスタンブロット解析。抗N末端APP(22C11)抗体は、APP695、APP751及びAPP770を過剰発現するCOS細胞のライセート中の全長APP695、APP751及びAPP770を検出するのに対し、APP770 ELISAで捕捉抗体として使用する抗OX2抗体はAPP770を特異的に認識する。(C)APP total ELISAはCOS細胞から分泌されたsAPP695、sAPP751及びsAPP770を検出するが、APP770 ELISAはsAPP770のみを検出する。(D)炎症性サイトカイン(TNFα、IL−1β又はIL−6;各100ng/ml)の存在下又は非存在下で16時間、BMECを培養し、細胞から分泌されたsAPP770をAPP770 ELISAにより検出した。データを平均±SEM(n=4)で示す。*P<0.00001;**P<0.05。(E)TAPI−0(10μM)存在下での16時間の培養の、BMECからのsAPP770の分泌への影響。データを平均±SEM(n=4)で示す。*<0.0005。(F)ヒト血清及びヒト血漿試料中のsAPP770レベルを平均±SEM(n=19)で示す。 図2は、活性化血小板からのsAPP770の放出を示す。(A、B)PRPを撹拌しながらコラーゲン(終濃度3μg/ml)で刺激した。図中に表示した時点において各試料を遠心した後、T−PERバッファーで可溶化した上清(A)及び血小板ペレット(B)をAPP770 ELISAにより分析した。(C)洗浄した血小板をコラーゲンで刺激し、遠心後、上清中の放出されたsAPP770を分析した。(D)APP770及び一連の抗APP抗体により認識される部位を示す模式図。(E)コラーゲンでの血小板の刺激後、図中に表示した時点において血小板ペレットを可溶化し、血小板放出物からsAPPをプルダウンし、抗APP(22C11)抗体、抗OX2抗体、抗APP(C)抗体及び抗KPI抗体を用いたウェスタンブロッティングにより分析した。黒色及び灰色矢頭はそれぞれ全長APP770及びsAPP770を示す。 図3は、AMI患者では、健常者よりも血漿sAPP770が有意に高く、血清sAPP770が有意に低いことを示す。(A、B)健常者及びAMI患者における末梢血試料由来の血漿sAPP770(A)及び血清sAPP770(B)を測定した。横線は各群の平均値を表す。*P<0.005;**P<1x10−5。(C)AMI患者及び正常例における血清sAPP770に対する血漿sAPP770の比率。横線は各群の平均値を表す。**P<1x10−5。(D)ACSの病理カスケード。内皮炎症、血小板活性化、及び血栓形成により血漿sAPP770が増加すると考えられる。 図4は、急性冠症候群患者(不安定狭心症患者及び急性心筋梗塞患者)では、労作性狭心症患者よりも血漿sAPP770レベルが高いことを示す。データを平均±SEM(n=10)で示す。 図5は、心筋梗塞(MI)モデルラットにおいて、sAPPα(A)が、心筋梗塞マーカーである心筋トロポニンI(cTn-I)(B)及びクレアチンキナーゼ(CK-MM)(C)に先駆けて増加することを示す。データを平均±SEM(n=8)で示す。
定義
本発明において、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)とは、αセクレターゼによる切断(α切断)を受けた際にはその後のγセクレターゼによる切断(γ切断)で可溶性
アミロイドを生成、またはβセクレターゼによる切断(β切断)を受けた際にはその後のγ切断によってアミロイドβペプチドを生成する分子を意味する。一例として、ヒトAPPには3種類のスプライシングバリアント、APP695、APP751及びAPP770が知られている。
APPのアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列は、数種の動物において公表されている。ヒトにおいては、APPの3種類のスプライシングバリアント、APP695、APP751及びAPP770について、アミノ酸配列(それぞれ、GenBank Accession No.NP_958817、NP_958816及びNP_000475)及び塩基配列(それぞれ、GenBank Accession No.NM_201414.1、NM_201413.1及びNM_000484.2)が公表されており、自体公知の方法により単離することができる。ヒト以外の動物由来のAPPのアミノ酸配列及び塩基配列も、各種動物のゲノムデータベースを検索することにより、容易に配列情報を入手することが可能であり、当該情報に基づいて自体公知の方法により単離することができる。以下、ヒトAPPを例にして説明する。
APP695と比較して、APP751はKunitz型プロテアーゼインヒビター(KPI)領域をさらに含み、APP770はKPI領域に加えてOX2領域を含む。これら3つのスプライシングバリアントは、KPI領域及びOX2領域以外の領域(Aβ領域及び膜貫通領域を含むC末端側部分を含む)においては同一のアミノ酸配列を有する。したがってOX2領域は、APP770を他の2つのバリアントと区別するために利用可能な、特徴的な配列である。
本発明において、可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)とは、αセクレターゼによる切断(α切断と呼ばれる)又はβセクレターゼによる切断(β切断と呼ばれる)で産生されたAPPのN末端側の断片を意味し、ここにはC末端側の断片は含まれない。APPのスプライシングバリアントであるAPP695、APP751及びAPP770から産生される切断産物は、それぞれsAPP695、sAPP751及びsAPP770と呼ぶ。
本発明において可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)770レベルとは、一定量の試料中のsAPP770の含有量を表す。sAPP770レベルは、後述の測定手法に応じて当業者に公知の様式で表すことができ、例えば、sAPP770の濃度として表現してもよく、また標準試料の測定値を基準とする相対値として表現してもよい。
また本発明におけるsAPP770レベルは、通常α切断産物とβ切断産物の合計レベルである。生体内のAPPの切断産物としては、一般に、β切断産物よりもα切断産物の方が存在量が多い(Selkoe, D.J., Cell biology of protein misfolding: the examples
of Alzheimer's and Parkinson's diseases. Nat. Cell Biol., 6, 1054-1061 (2004); Etcheberrigaray, R., et al., Therapeutic effects of PKC activators in Alzheimer's disease transgenic mice. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 11141- 11146 (2004)
)ことから、本発明におけるsAPP770レベルは、α切断産物のレベルであってもよい。
本発明において抗体とは、免疫グロブリンのすべてのクラス及びサブクラス、抗体の機能的断片の形態も含む意であり、当該抗体には、天然型抗体の他に、遺伝子組換技術を用いて製造され得る抗体、抗体断片、及びこれらの結合性断片も含まれるが、これらに限定されない。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体が含まれるが、ポリクローナル抗体とは異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物であり、モノクローナル抗体とは実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。また結合性断片とは、前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab’
、Fab’、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等が挙げられる(Exp. Opin.
Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。
本発明において急性冠症候群とは、急激な冠動脈閉塞によって生じる病態であって、不安定狭心症(心筋壊死に陥らなかった症例)から急性心筋梗塞(心筋壊死に陥った症例)に至る疾患概念をいう。従って、本発明において「急性冠症候群」とは、不安定狭心症及び急性心筋梗塞を含む意である。
また本発明において非急性冠症候群とは、急性冠症候群と類似した症状(前胸部痛、胸部絞扼感等)ではあるが急性冠症候群にまでは至っていない病態をいい、例えば、安定狭心症、労作性狭心症、非心臓性胸痛等が含まれる。
本発明において病態又は発症リスクを判定するとは、一定の基準に照らした評価、検査を行なうことを含む意である。
1.急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法
本発明は、急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法であって、
(1)被験者の血漿中及び/又は血清中の可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)770レベルを測定する工程;及び
(2)(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程
を含む、方法(以下、本発明の検査方法とも称する)を提供するものである。
本発明において急性冠症候群の病態を判定するとは、被験者が急性冠症候群のいずれの段階にあるかを判定することを意味し、被験者の急性冠症候群の重篤度を判定することのみならず、被験者が急性冠症候群(特に急性心筋梗塞)を発症しているか否かを判定すること、急性冠症候群とそれに類似した症状(例えば、労作性狭心症等)とを鑑別すること、及び急性冠症候群の予後の良否を判定することも含まれる。本発明の検査方法は、急性冠症候群患者(不安定狭心症患者及び急性心筋梗塞患者を含む)の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態との相関を初めて見出したことに基づいており、本発明によれば被験者の血漿及び/血清を検査することにより、急性冠症候群の病態を迅速且つ高精度で判定することが可能となる。
また本発明において急性冠症候群の発症リスクを判定するとは、事前に被験者が急性冠症候群を発症するおそれがあるか否かを判定することを意味し、被験者(特に生活習慣病罹患者)が急性冠症候群の発症リスクを有するか否かを判定すること、及びその発症リスクの高低を判定することが含まれる。従来の血液生化学検査において使用されている心筋梗塞マーカー(トロポニンT、トロポニンI、H−FABP、AST、CPK、LDH等)は、心筋の障害を示すものであり、血流障害から心筋障害を起こし始めてから上昇する。一方、血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルは、急性冠症候群に至る病理カスケードの比較的初期段階に関連することが知られている血管内皮細胞の炎症状態、血小板の活性化状態等を反映していると考えられ、従来のマーカーに比べてより早い段階で上昇する。そのため、本発明によれば被験者が急性冠症候群を発症する前にその発症リスクを判定することができ、例えば急性冠症候群の予備軍(例えば、動脈硬化発生の初期の段階にある生活習慣病罹患者)の分別も可能である。
本発明における被験者は、任意の哺乳動物であってよいが、好ましくは急性冠症候群に罹患しているか又は罹患していることが疑われる哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類及びウサギなどの実験動
物、イヌ及びネコなどのペット、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ及びヒツジなどの家畜、サル、オランウータン及びチンパンジーなどの霊長類並びにヒトなどが挙げられ、特にヒトが好ましい。被験者は、急性冠症候群の病態を示していても示していなくてもよく、また急性冠症候群に対する治療を受けていても受けていなくてもよい。
被験者の血漿及び血清は、被験者から採取した末梢血試料から自体公知の方法で調製することができる。これらはsAPP770の測定手段に応じて公知の緩衝液等を用いて適宜希釈してもよく、例えばヒトsAPP total アッセイキット(IBL-Japan)等に
付属の希釈緩衝液等を用いて75〜100倍あるいはそれ以上に希釈してもよい。採血から測定まで時間がかかる場合は、血漿及び/又は血清を凍結保存しておいたものを測定することが可能である。
工程(1)におけるsAPP770レベルは、sAPP770を特異的に認識する抗体(即ち、sAPP770特異的抗体)を用いて、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、抗体アレイ、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色、酵素免疫測定法(EIA法)、蛍光免疫測定法(FIA)、イムノクロマトグラフィー法等を挙げられるが、感度及び実施しやすさの観点からELISAが好ましい。
抗体による抗原Xの「特異的な認識」とは、抗原抗体反応における、抗体の抗原Xに対するアフィニティが、抗原X以外の抗原に対するアフィニティよりも強いことを意味する。本明細書において、抗原Xを特異的に認識する抗体を「抗X抗体」又は「X特異的抗体」と略記する場合がある。
sAPP770特異的抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよく、またこれらの結合性断片であってもよい。
前記抗体は、直接的又は間接的に標識物質により標識されていてもよい。標識物質としては、蛍光物質(例、FITC、ローダミン)、放射性物質(例、32P、35S、14C、H)、酵素(例、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ)、着色粒子(例、金属コロイド粒子、着色ラテックス)、ビオチンなどが挙げられる。
また、前記抗体は、他に何も結合していない可溶性の状態で用いることも可能であるが、固相に結合していてもよい。「固相」としては、プレート(例、マイクロウェルプレート)、チューブ、ビーズ(例、プラスチックビーズ、磁気ビーズ)、クロマトグラフィー用担体(例、ニトロセルロースメンブレンなどの吸水性基材、Sepharose)、メンブレン(例、ニトロセルロースメンブレン、PVDF膜)、ゲル(例、ポリアクリルアミドゲル)、金属膜(例、金膜)などが挙げられる。なかでも、プレート、ビーズ、クロマトグラフィー用担体及びメンブレンが好ましく用いられ、取り扱いの簡便性からプレートが最も好ましく用いられる。上記結合としては、共有結合、イオン結合、物理的吸着などが挙げられ、特に限定されないが、共有結合及び/又は物理的吸着が十分な結合強度を得られるため好ましい。また固相への結合は、固相に直接結合してもよいし、自体公知の物質を利用して間接的に固相に結合していてもよい。また、非特異的吸着や非特異的反応を抑制するために牛血清アルブミン(BSA)や牛ミルク蛋白などのリン酸緩衝溶液を固相と接触させ、抗体によってコートされなかった固相表面部分を前記BSAや牛ミルク蛋白等などでブロッキングすることが一般に行われる。
sAPP770特異的抗体と、被験者由来の血漿又は血清との接触は、これらの抗体と血漿中又は血清中のsAPP770が相互作用できる方法であれば、態様、順序、具体的
方法などは特に限定されない。接触は、例えば抗体が固相化されたプレートに血漿又は血清を添加することでなされ得る。また例えば、血漿中又は血清中のタンパク質をSDS−PAGEなどの手段によって分離し、メンブレンに移して固定した後、抗体と接触させることによってもなされ得る。
なお、かかる接触を保つ時間は、前記抗体と、被験者由来の血漿又は血清中に含まれるsAPP770とが結合して複合体を形成するのに十分な時間であれば特に限定されないが、通常、数秒〜十数時間である。また、接触を行なう温度条件としては、通常4℃〜50℃であり、4℃〜37℃が好ましく、15℃〜30℃程度の室温が最も好ましい。さらに、反応を行なうpH条件は、5.0〜9.0が好ましく、特に6.0〜8.0の中性域が好ましい。
本発明の好ましい態様において、工程(1)におけるsAPP770レベルの測定を、sAPP770特異的抗体と、当該抗体とは異なる可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)を認識する抗体とを用いたサンドイッチELISA法により実施することができる。このようなサンドイッチELISA法は抗原に対する特異性が高いため、本発明の実施に適している。
ここで「sAPPを認識する抗体」とは、上記sAPP695、sAPP751及びsAPP770を含むsAPPの全て又は少なくともsAPP770と結合する能力がある抗体を意味する。また「sAPPを認識する抗体」は、少なくともAPPのα切断産物と結合する能力を有することが好ましい。このような抗体は、例えばsAPPに共通するアミノ酸配列、糖鎖付加状態等の情報に基づき、自体公知の方法により調製することができる。またこのような抗体は、商業的にも入手可能である(例えばマウスモノクローナル抗APP 22C11抗体(Chemicon)、抗KPI抗体(Chemicon)など)。
サンドイッチELISA法は、例えば次のように行なう。まず、一方の抗体をELISA用プレートのウェル表面に固相化する。次いでウェル表面への非特異的な吸着を防ぐためにブロッキングを行なった後、試料を添加し、試料中のsAPP770を該抗体と接触させて複合体を形成させる。該抗体と結合しなかったタンパク質を洗浄により除去した後、標識した他方の抗体をウェルに加え、sAPP770に接触させて複合体を形成させ、該標識により検出・定量を行なう。定量は、用いた標識に基づき検出したシグナルを、sAPP770の標準試料を使用して作成した検量線を利用して数値化すること等の自体公知の方法により行なうことができる。
サンドイッチELISA法には標識抗体を使用することができ、例えば酵素標識抗体を使用することができる。標識に利用される酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどが例示される。酵素の検出に用いられる基質剤としては、選択した標識酵素に応じて適当なものが選ばれる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを選択した場合には、o−フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンジジン(TMB)などが使用され、アルカリホスファターゼを選択した場合においては、p−ニトロフェニルホスフェート(PNPP)などが使用される。また、反応停止液、基質溶解液についても、選択した酵素に応じて、従来公知のものを特に制限なく適宜使用することができる。
次に、工程(2)では、工程(1)において測定した被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける。
被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態とを関連付けるとは、被験者のデータが急性冠症候群の病態(例えば、不安定狭心症、急性心筋梗塞等)を示唆(又は指示)するものであるか否かを決定することをいう。被験者のデータと急性冠症候群の病態との関連付けは、通常、被験者のデータと急性冠症候群患者から
得られたデータとの比較、被験者のデータと非急性冠症候群患者から得られたデータとの比較、被験者のデータと健常者から得られたデータとの比較により行なう。被験者のデータ(血漿中のsAPP770レベル、血清中のsAPP770レベル、又は血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率)が、特定の病態の患者(例えば、不安定狭心症患者、急性心筋梗塞患者等)のデータと統計学的に有意差(通常、p<0.005)を示さなければ、被験者のデータと当該病態とを関連付けることができる。これにより、被験者が当該病態であると判定することができ、被験者の急性冠症候群の重篤度の判定や、急性冠症候群の予後の良否の判定が可能となる。
被験者のデータと急性冠症候群の病態との関連付けは、被験者のデータと被験者以外の急性冠症候群に類似した非急性冠症候群(例えば、労作性狭心症等)の患者のデータとを比較して行なってもよい。被験者の血漿中のsAPP770レベル、又は血漿中のsAPP770レベルと血清中のsAPP770レベルの比率が、急性冠症候群に類似した非急性冠症候群の患者のそれよりも高ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)高ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の病態とを関連付けることができ、急性冠症候群とそれに類似した症状とを鑑別することができる。また被験者の血清中のsAPP770レベルが、健常者のそれよりも低ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)低ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の病態とを関連付けることができる。これにより、被験者が急性冠症候群を発症していると判定することが可能となる。
また被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の発症リスクとを関連付けるとは、被験者のデータが急性冠症候群の発症リスクを示唆(又は指示)するものであるか否かを決定することをいう。
被験者のデータと急性冠症候群の発症リスクとの関連付けは、通常、被験者のデータと被験者以外の健常者のデータとを比較して行なう。被験者の血漿中のsAPP770レベル、又は血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率が、健常者のそれよりも高ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)高ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の発症リスクとを関連付けることができ、被験者が急性冠症候群の発症リスクを有すると判定することができる。更に、被験者の値と健常者の値との差が大きいほど被験者の急性冠症候群の発症リスクが高いと判定することができる。また被験者の血清中のsAPP770レベルが、健常者のそれよりも低ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)低ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の発症リスクとを関連付けることができ、被験者が急性冠症候群の発症リスクを有すると判定することができる。更に、被験者の値と健常者の値との差が大きいほど被験者の急性冠症候群の発症リスクが高いと判定することができる。
上記の関連付けは、測定した被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルを、あらかじめ求めておいた、急性冠症候群を発症した多数の患者、急性冠症候群に類似した非急性冠症候群の多数の患者、又は多数の健常者についての血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルの平均値或いは血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率の平均値と比較してもよい。
後述の実施例に示すように、急性冠症候群患者の血漿中のsAPP770レベルは、労作性狭心症患者の血漿中のsAPP770レベルよりも高値を示した。また急性冠症候群の中でもより症状の重篤度が高い急性心筋梗塞患者の血漿中のsAPP770レベルの方が、比較的重篤度の低い不安定狭心症患者の血漿中のsAPP770レベルよりも高値を示した。即ち、被験者の血漿中のsAPP770レベルを測定し、当該レベルと急性冠症候群の病態とを関連付けることで、急性冠症候群の病態を判定することが可能である。例えば、労作性狭心症などの急性冠症候群に類似した非急性冠症候群の患者の血漿中のsAPP770レベルと比較して、被験者の血漿中のsAPP770レベルが有意に高ければ
、被験者が急性冠症候群を患っていると判定することができ、更に被験者の血漿中のsAPP770レベルが高いほど、急性冠症候群の重篤度が高いと判定することができる。
或いは、後述の実施例に示すように、急性心筋梗塞患者における血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率は、健常者と比較して有意に高かった。即ち、被験者の血漿中及び血清中のsAPP770レベルを測定し、血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率と急性冠症候群の病態とを関連付けることで、急性冠症候群の病態を判定することが可能である。例えば、被験者の血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率が、健常者と比較して有意に高ければ、被験者が急性冠症候群(例えば急性心筋梗塞)を患っていると判定することができる。
また本発明の方法を用いて、急性冠症候群を治療中の患者について、治療の効果を評価すること(即ち急性冠症候群の予後の良否を判定すること)ができる。このような患者から、治療前、治療中及び/又は治療後に血漿及び/又は血清を採取し、血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルを測定し、その変化を調べることで治療の効果を知ることができる。例えば、後から採取された血漿中のsAPP770レベルが先に採取された血漿中のそれよりも低ければ、その治療を有効であると評価することができ、後から採取された血清中のsAPP770レベルが先に採取された血清中のものよりも高ければ、予後が良好であると評価することができる。また後から採取された血漿及び血清についての血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率が、先に採取された血漿及び血清についてのそれよりも低ければ、予後が良好であると評価することができる。
また血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率を急性冠症候群の病態又は発症リスクとの関連付けに用いる場合、そのカットオフ値をあらかじめ設定しておき、被験者のデータとこのカットオフ値とを比較してもよい。例えば、被験者の血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率がカットオフ値以上である場合には、当該被験者のデータと急性冠症候群の病態又は発症リスクとが関連付けられ、被験者が急性冠症候群(例えば急性心筋梗塞)を患っているか、又は急性冠症候群を発症するリスクを有すると判定することができる。
「カットオフ値」は、その値を基準として疾患の判定をした場合に、高い診断感度(有病正診率)及び高い診断特異度(無病正診率)の両方を満足できる値である。例えば、急性冠症候群を発症した個体で高い陽性率を示し、かつ、急性冠症候群を発症していない個体で高い陰性率を示す値をカットオフ値として設定することが出来る。
カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。例えば、急性冠症候群を発症した個体及び急性冠症候群を発症していない個体における血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率を算出し、算出された値における診断感度及び診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver
Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な
限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。また、例えば多数の健常者における血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率の「平均値+2標準偏差」をカットオフ値とすることも好ましく、この値を用いれば良好な感度及び特異性で急性冠症候群を発症していると判定することが可能となる。
本発明の上記態様のうち、血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率を算出して急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定する場合には、高い確度
で判定を行なうことができる。かかる態様は急性冠症候群の病態又は発症リスクの判定を要するあらゆる状況において有用である。また血漿中のsAPP770レベル又は血清中のsAPP770レベルを測定して急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定する場合には、一種類の試料について測定を行なえばよいため、迅速且つ簡便に、低コストで判定を行なうことができる。かかる態様は迅速な対応を要する臨床現場で検査を行なう場合や、後述の他の診断方法と併用する場合において、特に有用である。従って、急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定する状況に応じて、血漿中のsAPP770レベル、血清中のsAPP770レベル、及び血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率のいずれに基づいて判定を行なうかを適宜決定することができる。
本発明は、公知の急性冠症候群の診断方法と併用することができる。公知の診断方法としては、非観血的検査(胸部X線検査、心電図検査、心エコー図検査(心臓超音波検査)、核医学検査等)、血液生化学検査(クレアチニンキナーゼ、トロポニンT、トロポニンI、H−FABP、AST、CPK、LDH等の測定等)、観血的検査(冠動脈造影、左室造影、CT検査等)が挙げられるが、これらに限定されない。従来の観血的検査では、血管の狭窄が認められたとしても血管内のプラークの安定性については判別できず、急性冠症候群の重篤度を判定することは困難であるが、本発明の検査方法を併用すればより高精度の診断が可能となる。
2.急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断薬
本発明は更に、sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断薬を提供する。本発明の診断薬を用いれば、上記本発明の検査方法を容易に実施することができ、迅速且つ高精度で急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定することが可能となる。
本発明の診断薬に含まれるsAPP770特異的抗体は、「1.急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法」に記載の抗体と同様である。
一態様において、本発明の診断薬は、前記sAPP770特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含んでもよい。sAPPを認識する抗体は、「1.急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法」に記載の抗体と同様である。
本発明の診断薬は、上記抗体のみからなるものであってもよいし、医薬的に許容される担体を含んでいてもよい。医薬的に許容される担体としては、本発明の診断薬を液剤として調製する場合、製剤素材として慣用されている各種担体、例えば希釈剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤などを含んでいてもよい。さらに抗体の凝集を防ぐために、Tween20(登録商標)などの界面活性剤を添加するのが好ましい。これらの配合比は、当業者が適宜決定することができる。
本発明の診断薬を用いて、前記の本発明の検査方法により被験者の血漿及び/又は血清を検査することで、より容易に急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定することが可能となる。
3.急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断用キット
本発明は、sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断用キットを提供する。本発明の診断用キットに含まれるsAPP770特異的抗体は、「1.
急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法」に記載の抗体と同様である。
本発明の診断用キットは、更に前記sAPP770特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含んでもよい。「sAPPを認識する抗体」は、「2.急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断薬」に記載の抗体と同様である。
本発明の診断用キットには、上記抗体に加えて他の抗体又は試薬等が含まれていてもよく、これらの抗体又は試薬等は、あらかじめ上記抗体と一緒になっていてもよいし、別々の容器に格納されていてもよい。抗体又は試薬などとしては、二次抗体、基質剤、標識物質(例、蛍光色素、酵素)、固相、反応容器の他に、処理液や抗体を希釈するための緩衝液、陽性対照(例、組換えsAPP770)、陰性対照、プロトコールを記載した指示書などが挙げられる。これらの要素は、必要に応じてあらかじめ混合しておくこともできる。
本発明の診断用キットにおいては、抗体はあらかじめ固相化されていてもよく、該抗体はあらかじめ標識されていてもよい。本発明の診断用キットにおいて用いることができる固相としては特に限定されず、例えば、ポリスチレンなどのポリマー、ガラスビーズ、磁性粒子、マイクロプレート、イムノクロマトグラフィー用濾紙、ガラスフィルターなどの不溶性担体を挙げることができる。好ましくはサンドイッチELISA法に用いるマイクロプレートである。
本発明の診断用キットの形態も特に限定されないが、簡便に診断を行なうことを目的として、本発明の診断用キットの構成成分が一体となった一体型の診断用キットとすることができる。一体型の診断用キットの形態としては、例えば、イムノクロマトグラフィー法を用いるカセット型が挙げられる。
本発明の診断用キットの使用により、急性冠症候群の病態又は発症リスクの判定がより簡便に実施できるようになる。
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
材料及び方法
(対象)
臨床研究は、理化学研究所、東北大学及び福島県立医科大学の倫理委員会の承認を受けた。
ACS患者、労作性狭心症及び不安定狭心症患者の研究対象集団には、福島医科大学病院に入院した患者を登録した。末梢血試料は、来院時に採取した。AMI患者は、冠動脈の閉塞を観察するために冠動脈造影により診断し、経皮的冠動脈形成により治療した。入院時にAMI患者から末梢血を採取した。
(材料)
本実施例において使用した材料の供給源は次の通りである:組織培養培地及び試薬(DMEMを含む)はInvitrogenから;タンパク質分子量スタンダードはBio-Radから;組換
えヒトIL-1β、TNFα及びIL-6はR&D Systemsから;TAPI0はPeptide Institute Inc.から;コラーゲンはNycomedから;他の全ての化学製品はSigma又はWako Chemicalsから。抗APP(C)抗体は、APPのC末端部分を認識する。抗OX2抗体は、キ
ーホールリンペットヘモシアニンとコンジュゲートさせた合成オリゴペプチドTTQEPLARDPVKLを抗原として使用して作製した。本実施例において使用した商業的に入手可能な抗体
は、マウスモノクローナル抗APP 22C11(Chemicon)抗体及び抗Kunitz型プロテアーゼ阻害(KPI)領域(Chemicon)抗体である。SDラットは、日本クレア株式会社から購入した。
(発現プラスミド及び細胞培養)
ヒトAPP695-pcDNA3.1、APP751-pcDNA3.1及びAPP770-pcDNA3.1は、これまでの研究(J Biol Chem 285(51):40097-40103 (2010))において構築したものを使用した。ヒトBME
C(Applied Cell Biology Research Institute)は、10%FBSを添加したCS−C
完全培地中で培養し、継代4代以内に使用した。
(ヒトPRP及び血小板の調製)
実験当日に、3.8%クエン酸ナトリウムを含む真空採血管(ニプロ)を使用して、健常者から血液(16ml)を採取した。20分間200xgにて遠心することにより、PRP(2.3x10−2.7x10血小板/ml)を回収した。4mMクエン酸塩の存在下、10分間900xgにて遠心することにより、PRPから血小板を回収した。血小板ペレットを、2.5x10血小板/mlの密度になるように、改変HEPES−Tyrode緩衝液(134mM NaCl、12mM NaHCO、2.9mM KCl
、0.34mM NaHPO、1mM CaCl、5mM Hepes、5mMグル
コース、pH7.4)中に再懸濁した。PRP又は血小板懸濁液のアリコート(200μl)を血小板凝集アッセイに使用した。血小板凝集アッセイは、TPA−4C血小板凝集計(東京光電株式会社)を使用して、シリコンガラスキュベット中で37℃にて1,000rpmで常に撹拌しながら行なった。コラーゲン(終濃度3μg/ml)を添加することにより、血小板凝集を開始させた。各時点で、PRP又は血小板懸濁液を遠心し、血小板ペレットを、コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)を含むT−P
ERバッファー(Thermo Fisher Scientific Inc.)200μlで可溶化した。得られた
細胞ライセートをELISA及びウェスタンブロット解析により評価した。
(ELISAシステムを使用したsAPPの定量)
ヒトsAPP total アッセイキット(IBL-Japan)を使用して、確立されたプロ
トコール(http://www.ibl-japan.co.jp)に従ってsAPP695、sAPP751及びsAPP770を検出した。APP770 ELISAシステムは、既報(Anal Chim Acta 631(1): 116-120 (2009))のように確立した。簡潔に説明すると、96ウェルプレートを抗OX2抗体でコートし、horseradish peroxidase標識抗APP R101A4抗体を
検出抗体として使用した。ヒトCSF(キットに付属の希釈用緩衝液にて1:16希釈)
、血漿及び血清(キットに付属の希釈用緩衝液にて1:75希釈)を、APP total
ELISA及びAPP770ELISAにより評価した。
(APPの検出)
ヒトAPP695、APP751又はAPP770を発現するCOS細胞又は血小板ライセートを、コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテルを含むT−PERバッファー中で可溶化した。血小板放出物中のsAPPをヘパリン−アガロース(Thermo Fisher Scientific Inc.)でプルダウンした。COS細胞ライセート(5μgのタンパク質を含
む)及び血小板由来試料(〜5x10の血小板に相当する)をSDS−PAGE(5−20%勾配ゲル)に供し、ニトロセルロースメンブレンに移した。ウェスタンブロット解析では、メンブレンを抗APP 22C11抗体(1:1,000希釈)、抗OX2抗体
(1:100希釈)、抗APP(C)抗体(1:1,000希釈)又は抗KPI抗体(1:1,000希釈)と共にインキュベートした。二次抗体として、horseradish peroxidase結合ロバ抗ヤギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)、抗マウスIg
G抗体及び抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare)を使用した(1:1,000希釈)。
結合した抗体の検出には、ECL Prime Blocking Agent及びECL Advanced Chemiluminescent Substrate(GE Healthcare)を使用した。Luminoimage Analyzer LAS-1000 PLUS(富士フイルム)を用いて、検出したシグナルを定量した。
(sAPPαレベルの測定)
ラットsAPPαは、日本免疫生物研究所のラット/マウスsAPPαELISAアッセイキットを用いて測定した。冠状動脈を結紮した心筋梗塞モデルラットおよび開腹のみ行ったコントロールラットから0、1及び2時間において経時的に血清及び血漿を0.5ml程度採取し、キット付属の緩衝液で4倍希釈した後にELISAキットを用いて測定を行った。
(心筋トロポニンI(cTn-I)レベルの測定)
ラット血清中の心筋トロポニンIは、Life Diagnostics社のELISAキットを用いた。上述の方法で得た心筋梗塞およびコントロールラット血清を付属の希釈緩衝液で5倍希釈し、ELISAで測定を行った。
(クレアチンキナーゼ(CK-MM)レベルの測定)
ラット血清中のCK-MMは、Life Diagnostics社のELISAキットを用いた。上述の方
法で得た心筋梗塞およびコントロールラット血清を付属の希釈緩衝液で15倍希釈し、ELISAで測定を行った。
実施例
本発明者らは、APP770を特異的に検出し且つAPP695及びAPP751を検出しないサンドイッチELISAシステムを開発している(WO2012/015050)。このEL
ISAシステムにおいては、APP770に固有のドメインであるOX2ドメインに対する抗体を使用する。図1Bに示すように、抗N末端APP抗体(22C11)はAPP695、APP751及びAPP770を検出したのに対し、抗OX2抗体はAPP770のみを特異的に検出した。抗N末端APP抗体及び抗OX2抗体を使用した場合、APP770サンドイッチELISAシステムは、50 pg/ml〜9 ng/mlの直線範囲を有する。
本実施例においては、比較のため、従来のAPP total ELISAも使用した。APP total ELISAは、それぞれAPP695、APP751及びAPP770を一過的に過剰発現するCOS細胞から分泌されるsAPP695、sAPP751及びsAPP770を検出した。対照的に、APP770 ELISAは、sAPP770
のみを検出した(図1C)。更に、ヒト脳微小血管内皮細胞(BMEC)から分泌された内皮sAPP770レベルも、本ELISAにより検出された(図1D)。IL−1βは、内皮細胞(Proc Natl Acad Sci USA 89(21):10075-10078 (1992))及びニューロン(J Neurochem 104(5):1387-1393 (2008))からのsAPP分泌を促進することが知られてい
る。実際、BMECから分泌されたsAPP770レベルは、IL−1β及びTNFαの添加によりわずかではあるが有意に増加し、IL−6の添加では増加しなかった(図1D)。選択的TACE阻害剤TAPI−0がBMECからのsAPP770の分泌を部分的に阻害したこと(図1E)から、sAPP695産生の場合(Journal of Neuroscience 28(46):12052-12061 (2008))と同様に、TACEは、内皮細胞におけるsAPP770
αの産生に少なくとも部分的には関与している。次に、ヒト血清試料及びヒト血漿試料にAPP770ELISAを適用した。健常人の血漿は、〜99.7±13 ng/mlのsAPP770を含有していたのに対し、健常人の血清は、意外にもより高いレベルのsAPP770(〜376±19 ng/ml)を含有しており、血漿sAPP770レベルのほぼ4倍であった(
図1F)。
Kunitzプロテアーゼ阻害ドメインを有するsAPPが血小板α顆粒タンパク質(
プロテアーゼネキシン−2(PN2)と呼ばれる)として大量に見出されること、及び脱顆粒により血小板からPN2/APPが放出されることがこれまでの報告(Science 248(4956):745-748 (1990)、J Biol Chem 265(26):15977-15983 (1990))により示されていることから、sAPP770の血清レベルが有意に高いことの主な原因が血小板にあると推測した。血小板がAPP770を発現しているか否か、及び血小板の活性化によりAPP770が放出されるか否かを調べるために、まず多血小板血漿(platelet-rich plasma)(PRP)を単離し、血小板を刺激するためにコラーゲンを加えた。遠心後、上清及び血小板沈殿中のAPP770レベルを測定した。コラーゲンでの刺激の1分後、PRP上清中のsAPP770のレベルは急速に増加した(図2A)。これに対応して、血小板沈殿中のAPP770レベルは顕著に低下した(図2B)。血小板を単離し、コラーゲンで刺激した場合、PRPの場合と同様に、sAPP770の放出がみられた(図2C)。これらのことから、血小板がAPP770を発現し、活性化によりAPP770を放出すると結論された。一連の抗APP抗体(図2D)を使用した休止血小板及び活性化血小板のウェスタンブロット解析により、22C11で検出されるが抗APP(C)抗体では検出されないsAPP(〜120 kDa、灰色矢頭)が休止血小板中に既に存在することが示された
(図2E)。このsAPPシグナルは、抗OX2抗体及び抗KPI抗体でも検出されたことから、sAPP770が実際に血小板中に存在することが確認された。活性化による血小板中のsAPP770の減少と一致して、血小板放出物(platelet releasate)中のsAPP770は顕著に増加した。sAPP770に加えて、全長APP770(〜140 kDa、黒色矢頭)(抗APP(C)抗体及び抗OX2抗体の両方によって検出された)も、
はるかに低レベルではあるが存在した。この結果は、APP770の切断は、血小板活性化によるAPP770の放出にそれ程貢献しないことを示す。
次に、sAPP770がin vivo試料中の全sAPPのどれだけの割合を占めるのかを明らかにするために、健常者由来のヒト血清試料及びヒト脳脊髄液(CSF)試料中のsAPP totalレベル及びsAPP770レベルを測定した。CSF中のsA
PP770の割合は〜7.4%であり、血清sAPP770の場合(〜46%)よりも顕著に低
かった(表1)。これは、血液脳関門が脳への血清sAPP770の流入を妨げていることによる可能性がある。従って、CSFのsAPP totalのほとんどはニューロン
のsAPP695由来であるのに対して、血清sAPP totalはほとんどがsAP
P770由来であると考えられる。APP770 ELISAとAPP total EL
ISAについて標準試料が異なるという技術的制限のため、sAPP770レベルとsAPP totalレベルを直接比較することはそれ程正確ではないかもしれない。
血小板活性化によりAPP770が放出されることが明らかとなったことから、急性冠症候群(ACS)患者における血清及び血漿sAPP770を分析した。最初の内皮損傷とそれに続く血小板活性化は、ACSの病理カスケードに密接に関連していることがよく知られている(N Engl J Med 326(4):242-250 (1992))。まず、安定狭心症(angina pectoris)(安定AP)患者(労作性狭心症患者)、不安定AP患者及びAMI患者におけ
る心臓のカテーテル処置中に大動脈から採取した血漿試料中のAPP770を分析した。
血漿APP770レベルは、安定AP症例、不安定AP症例、AMI症例の順に高かった(図4)。このことは、内皮損傷及び血小板活性化のグレードを、血漿APP770レベルによってモニターし得ることを示唆している。次に、実用性を評価するために、正常例及びAMI患者の末梢血由来の血漿及び血清試料中のsAPP770を分析した。正常例と比較して、AMI患者は、有意に高いレベルの血漿APP770(図3A)及び予想外に低いレベルの血清APP770(図3B)を有していた。その結果、AMI患者における血清sAPP770に対する血漿sAPP770の比率は、〜1.06±0.16であり、正常例の場合(〜0.26±0.03)よりも顕著に高かった(図3C)。血漿sAPP770/血清sAPP770比率のカットオフ値を、正常例の平均+2SDに相当する0.48に設定した。その結果、正常例の94.4%はカットオフ値よりも低い値を示し、AMI患者の100%がカ
ットオフ値よりも高い値を示した。これらの結果は、この血漿sAPP770/血清sAPP770比の感度及び特異性がそれぞれ100%及び94%であることを示しており、本EL
ISAがAMIの診断及び管理のために有用であることが強調される。
さらに本発明者らは、心筋梗塞(MI)モデルラットを作製し、心筋梗塞の早期診断マーカーとしてのsAPP770の有用性を検証した。
MIモデルラットは、SDラットを開腹して冠動脈を結紮することにより作製した。MIモデルラット同様に開腹は行なうが冠動脈の結紮は行なわないラットをコントロールとした。結紮前(0h)並びに結紮から1及び2h後に、血漿及び血清を採取し、血漿中のラットsAPPαレベル、血清中の心筋トロポニンI(cardiac Troponin-I(cTn-I))
レベル及びクレアチンキナーゼ(CK-MM)レベルを測定した。
ラットのsAPP770測定システムは開発途中であったため、ここではラット/マウスsAPPαELISAを用いた。血中においてはsAPPのうちsAPP770が主要成分であること、またsAPPαがsAPPβよりも圧倒的に量が多いことからも、sAPPαレベルを測定することでsAPP770レベルを把握することができると考えられた。
その結果、MIモデルラットのsAPPαは、結紮から1h後にはコントロールに比べて4倍以上も増加していたのに対し(図5A)、心筋梗塞マーカーであるcTn-I及びCK-MMは、結紮から1h後では2倍以下の増加であった(図5B、C)。このことから、sAPP770は、心筋からの逸脱酵素マーカーに先駆けて増加することが明らかになり、心筋梗塞の早期診断マーカーとしての有用性が示された。
本発明により、血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態を迅速且つ高精度で評価することが可能となり、医療現場において迅速な診断及び最適な治療が提供されるようになる。

Claims (13)

  1. 以下の工程を含む、血管内皮損傷又は血栓形成を判定するための被検者の血漿及び/又は血清の検査方法:
    (1)被検者の血漿中及び/又は血清中の可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)770αレベルを測定する工程;
    ここで、
    測定した血漿中のsAPP770αレベルが、健常者のそれよりも高い場合には、被検者は、血管内皮損傷又は血栓形成を有するとの指標となり、
    測定した血清中のsAPP770αレベルが、健常者のそれよりも低い場合には、被検者は、血管内皮損傷又は血栓形成を有するとの指標となり、又は、
    測定した血漿中のsAPP770αレベル/血清中のsAPP770αレベルの比率が、健常者のそれよりも高い場合には、被検者は、血管内皮損傷又は血栓形成を有するとの指標となる。
  2. 工程(1)が、被検者の血漿中のsAPP770αレベルを測定する工程である、請求項1に記載の方法。
  3. 工程(1)が、被検者の血漿中及び血清中のsAPP770αレベルを測定する工程である、請求項1に記載の方法。
  4. 工程(1)が、被検者の血清中のsAPP770αレベルを測定する工程である、請求項1に記載の方法。
  5. sAPP770αレベルがsAPP770α特異的抗体を用いて検出される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. sAPP770α特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、請求項5に記載の方法。
  7. sAPP770αレベルがサンドイッチELISAにより測定される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. sAPP770α特異的抗体を含む、被検者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770αレベルに基づき血管内皮損傷又は血栓形成を判定するための診断薬。
  9. sAPP770α特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、請求項8に記載の診断薬。
  10. 前記sAPP770α特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、請求項8又は9に記載の診断薬。
  11. sAPP770α特異的抗体を含む、被検者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770αレベルに基づき血管内皮損傷又は血栓形成を判定するための診断用キット。
  12. sAPP770α特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、請求項11に記載の診断用キット。
  13. 前記sAPP770α特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、請求項11又は12に記載の診断用キット。
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