JP6405549B2 - 急性冠症候群のマーカー及びその利用 - Google Patents
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Description
一回膜貫通型タンパク質のアミロイド前駆体タンパク質(APP)から生成され、細胞外に放出される(非特許文献2)。またAPPは、α−セクレターゼによりAβ配列内のα部位で切断され得る。APPのα部位及びβ部位における切断により、それぞれsAPPα及びsAPPβと呼ばれるAPPのN末端部分が細胞外に放出される。APPには、選択的スプライシングによる3種類のアイソフォーム、APP695、APP751及びAPP770が存在し(非特許文献3及び4)、ニューロンにおいてはAPP695が主に発現している(非特許文献5)。多くの証拠が、AD患者が初期において脳血管性脳病変を有することを示唆している(非特許文献6−11)。またほとんどのAD患者において、脳の細動脈壁でのAβ沈着(脳血管アミロイドアンギオパチーと呼ばれる)がみられることも重要な知見である(非特許文献12−15)。本発明者らは、血管内皮細胞がAPP770を発現し、Aβ40/42を産生することを既に見出している(非特許文献16)。血管に沈着するAβの由来については議論があるが、最近のAβ免疫療法研究では、脳実質と血管におけるAβ沈着は独立に起こることが示された(非特許文献17)。
して初めて上昇を示すものである。一方で、血管内のプラーク性状や不安定さを示すマーカーは確立されていない。
[1]急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法であって、
(1)被験者の血漿中及び/又は血清中の可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)770レベルを測定する工程;及び
(2)(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程
を含む、方法。
[2]工程(1)が、被験者の血漿中のsAPP770レベルを測定する工程であり、工程(2)が、血漿中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程である、[1]に記載の方法。
[3]工程(1)が、被験者の血漿中及び血清中のsAPP770レベルを測定する工程
であり、工程(2)が、血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率と急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程である、[1]に記載の方法。
[4]工程(1)が、被験者の血清中のsAPP770レベルを測定する工程であり、工程(2)が、血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程である、[1]に記載の方法。
[5]工程(2)が、工程(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態とを関連付ける工程である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]急性冠症候群の重篤度を判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[5]に記載の方法。
[7]急性冠症候群と非急性冠症候群とを鑑別するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[5]に記載の方法。
[8]急性冠症候群の予後の良否を判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[5]に記載の方法。
[9]工程(2)が、工程(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の発症リスクとを関連付ける工程であり、急性冠症候群の発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[10]sAPP770レベルがsAPP770特異的抗体を用いて検出される、[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]sAPP770特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、[10]に記載の方法。
[12]sAPP770レベルがサンドイッチELISAにより測定される、[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断薬。
[14]sAPP770特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、[13]に記載の診断薬。
[15]前記sAPP770特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、[13]又は[14]に記載の診断薬。
[16]sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断用キット。
[17]sAPP770特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、[16]に記載の診断用キット。
[18]前記sAPP770特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、[16]又は[17]に記載の診断用キット。
り、侵襲的治療(カテーテル治療など)の適用に関する治療方針判断が容易になり、さらにACSの予後の良否も判定できる。
本発明において、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)とは、αセクレターゼによる切断(α切断)を受けた際にはその後のγセクレターゼによる切断(γ切断)で可溶性
アミロイドを生成、またはβセクレターゼによる切断(β切断)を受けた際にはその後のγ切断によってアミロイドβペプチドを生成する分子を意味する。一例として、ヒトAPPには3種類のスプライシングバリアント、APP695、APP751及びAPP770が知られている。
また本発明におけるsAPP770レベルは、通常α切断産物とβ切断産物の合計レベルである。生体内のAPPの切断産物としては、一般に、β切断産物よりもα切断産物の方が存在量が多い(Selkoe, D.J., Cell biology of protein misfolding: the examples
of Alzheimer's and Parkinson's diseases. Nat. Cell Biol., 6, 1054-1061 (2004); Etcheberrigaray, R., et al., Therapeutic effects of PKC activators in Alzheimer's disease transgenic mice. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 11141- 11146 (2004)
)ことから、本発明におけるsAPP770レベルは、α切断産物のレベルであってもよい。
)2、Fab’、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等が挙げられる(Exp. Opin.
Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。
また本発明において非急性冠症候群とは、急性冠症候群と類似した症状(前胸部痛、胸部絞扼感等)ではあるが急性冠症候群にまでは至っていない病態をいい、例えば、安定狭心症、労作性狭心症、非心臓性胸痛等が含まれる。
本発明は、急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法であって、
(1)被験者の血漿中及び/又は血清中の可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)770レベルを測定する工程;及び
(2)(1)において測定した血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態又は発症リスクとを関連付ける工程
を含む、方法(以下、本発明の検査方法とも称する)を提供するものである。
また本発明において急性冠症候群の発症リスクを判定するとは、事前に被験者が急性冠症候群を発症するおそれがあるか否かを判定することを意味し、被験者(特に生活習慣病罹患者)が急性冠症候群の発症リスクを有するか否かを判定すること、及びその発症リスクの高低を判定することが含まれる。従来の血液生化学検査において使用されている心筋梗塞マーカー(トロポニンT、トロポニンI、H−FABP、AST、CPK、LDH等)は、心筋の障害を示すものであり、血流障害から心筋障害を起こし始めてから上昇する。一方、血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルは、急性冠症候群に至る病理カスケードの比較的初期段階に関連することが知られている血管内皮細胞の炎症状態、血小板の活性化状態等を反映していると考えられ、従来のマーカーに比べてより早い段階で上昇する。そのため、本発明によれば被験者が急性冠症候群を発症する前にその発症リスクを判定することができ、例えば急性冠症候群の予備軍(例えば、動脈硬化発生の初期の段階にある生活習慣病罹患者)の分別も可能である。
物、イヌ及びネコなどのペット、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ及びヒツジなどの家畜、サル、オランウータン及びチンパンジーなどの霊長類並びにヒトなどが挙げられ、特にヒトが好ましい。被験者は、急性冠症候群の病態を示していても示していなくてもよく、また急性冠症候群に対する治療を受けていても受けていなくてもよい。
付属の希釈緩衝液等を用いて75〜100倍あるいはそれ以上に希釈してもよい。採血から測定まで時間がかかる場合は、血漿及び/又は血清を凍結保存しておいたものを測定することが可能である。
方法などは特に限定されない。接触は、例えば抗体が固相化されたプレートに血漿又は血清を添加することでなされ得る。また例えば、血漿中又は血清中のタンパク質をSDS−PAGEなどの手段によって分離し、メンブレンに移して固定した後、抗体と接触させることによってもなされ得る。
ここで「sAPPを認識する抗体」とは、上記sAPP695、sAPP751及びsAPP770を含むsAPPの全て又は少なくともsAPP770と結合する能力がある抗体を意味する。また「sAPPを認識する抗体」は、少なくともAPPのα切断産物と結合する能力を有することが好ましい。このような抗体は、例えばsAPPに共通するアミノ酸配列、糖鎖付加状態等の情報に基づき、自体公知の方法により調製することができる。またこのような抗体は、商業的にも入手可能である(例えばマウスモノクローナル抗APP 22C11抗体(Chemicon)、抗KPI抗体(Chemicon)など)。
被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルと急性冠症候群の病態とを関連付けるとは、被験者のデータが急性冠症候群の病態(例えば、不安定狭心症、急性心筋梗塞等)を示唆(又は指示)するものであるか否かを決定することをいう。被験者のデータと急性冠症候群の病態との関連付けは、通常、被験者のデータと急性冠症候群患者から
得られたデータとの比較、被験者のデータと非急性冠症候群患者から得られたデータとの比較、被験者のデータと健常者から得られたデータとの比較により行なう。被験者のデータ(血漿中のsAPP770レベル、血清中のsAPP770レベル、又は血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率)が、特定の病態の患者(例えば、不安定狭心症患者、急性心筋梗塞患者等)のデータと統計学的に有意差(通常、p<0.005)を示さなければ、被験者のデータと当該病態とを関連付けることができる。これにより、被験者が当該病態であると判定することができ、被験者の急性冠症候群の重篤度の判定や、急性冠症候群の予後の良否の判定が可能となる。
被験者のデータと急性冠症候群の病態との関連付けは、被験者のデータと被験者以外の急性冠症候群に類似した非急性冠症候群(例えば、労作性狭心症等)の患者のデータとを比較して行なってもよい。被験者の血漿中のsAPP770レベル、又は血漿中のsAPP770レベルと血清中のsAPP770レベルの比率が、急性冠症候群に類似した非急性冠症候群の患者のそれよりも高ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)高ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の病態とを関連付けることができ、急性冠症候群とそれに類似した症状とを鑑別することができる。また被験者の血清中のsAPP770レベルが、健常者のそれよりも低ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)低ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の病態とを関連付けることができる。これにより、被験者が急性冠症候群を発症していると判定することが可能となる。
被験者のデータと急性冠症候群の発症リスクとの関連付けは、通常、被験者のデータと被験者以外の健常者のデータとを比較して行なう。被験者の血漿中のsAPP770レベル、又は血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率が、健常者のそれよりも高ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)高ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の発症リスクとを関連付けることができ、被験者が急性冠症候群の発症リスクを有すると判定することができる。更に、被験者の値と健常者の値との差が大きいほど被験者の急性冠症候群の発症リスクが高いと判定することができる。また被験者の血清中のsAPP770レベルが、健常者のそれよりも低ければ(好ましくは、統計学的に有意に(通常、p<0.005)低ければ)、被験者のデータと急性冠症候群の発症リスクとを関連付けることができ、被験者が急性冠症候群の発症リスクを有すると判定することができる。更に、被験者の値と健常者の値との差が大きいほど被験者の急性冠症候群の発症リスクが高いと判定することができる。
、被験者が急性冠症候群を患っていると判定することができ、更に被験者の血漿中のsAPP770レベルが高いほど、急性冠症候群の重篤度が高いと判定することができる。
Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な
限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。また、例えば多数の健常者における血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率の「平均値+2標準偏差」をカットオフ値とすることも好ましく、この値を用いれば良好な感度及び特異性で急性冠症候群を発症していると判定することが可能となる。
で判定を行なうことができる。かかる態様は急性冠症候群の病態又は発症リスクの判定を要するあらゆる状況において有用である。また血漿中のsAPP770レベル又は血清中のsAPP770レベルを測定して急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定する場合には、一種類の試料について測定を行なえばよいため、迅速且つ簡便に、低コストで判定を行なうことができる。かかる態様は迅速な対応を要する臨床現場で検査を行なう場合や、後述の他の診断方法と併用する場合において、特に有用である。従って、急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定する状況に応じて、血漿中のsAPP770レベル、血清中のsAPP770レベル、及び血漿中のsAPP770レベル/血清中のsAPP770レベルの比率のいずれに基づいて判定を行なうかを適宜決定することができる。
本発明は更に、sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断薬を提供する。本発明の診断薬を用いれば、上記本発明の検査方法を容易に実施することができ、迅速且つ高精度で急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定することが可能となる。
本発明は、sAPP770特異的抗体を含む、被験者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770レベルに基づき急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための診断用キットを提供する。本発明の診断用キットに含まれるsAPP770特異的抗体は、「1.
急性冠症候群の病態又は発症リスクを判定するための被験者の血漿及び/又は血清の検査方法」に記載の抗体と同様である。
(対象)
臨床研究は、理化学研究所、東北大学及び福島県立医科大学の倫理委員会の承認を受けた。
ACS患者、労作性狭心症及び不安定狭心症患者の研究対象集団には、福島医科大学病院に入院した患者を登録した。末梢血試料は、来院時に採取した。AMI患者は、冠動脈の閉塞を観察するために冠動脈造影により診断し、経皮的冠動脈形成により治療した。入院時にAMI患者から末梢血を採取した。
本実施例において使用した材料の供給源は次の通りである:組織培養培地及び試薬(DMEMを含む)はInvitrogenから;タンパク質分子量スタンダードはBio-Radから;組換
えヒトIL-1β、TNFα及びIL-6はR&D Systemsから;TAPI0はPeptide Institute Inc.から;コラーゲンはNycomedから;他の全ての化学製品はSigma又はWako Chemicalsから。抗APP(C)抗体は、APPのC末端部分を認識する。抗OX2抗体は、キ
ーホールリンペットヘモシアニンとコンジュゲートさせた合成オリゴペプチドTTQEPLARDPVKLを抗原として使用して作製した。本実施例において使用した商業的に入手可能な抗体
は、マウスモノクローナル抗APP 22C11(Chemicon)抗体及び抗Kunitz型プロテアーゼ阻害(KPI)領域(Chemicon)抗体である。SDラットは、日本クレア株式会社から購入した。
ヒトAPP695-pcDNA3.1、APP751-pcDNA3.1及びAPP770-pcDNA3.1は、これまでの研究(J Biol Chem 285(51):40097-40103 (2010))において構築したものを使用した。ヒトBME
C(Applied Cell Biology Research Institute)は、10%FBSを添加したCS−C
完全培地中で培養し、継代4代以内に使用した。
実験当日に、3.8%クエン酸ナトリウムを含む真空採血管(ニプロ)を使用して、健常者から血液(16ml)を採取した。20分間200xgにて遠心することにより、PRP(2.3x108−2.7x108血小板/ml)を回収した。4mMクエン酸塩の存在下、10分間900xgにて遠心することにより、PRPから血小板を回収した。血小板ペレットを、2.5x108血小板/mlの密度になるように、改変HEPES−Tyrode緩衝液(134mM NaCl、12mM NaHCO3、2.9mM KCl
、0.34mM NaH2PO4、1mM CaCl2、5mM Hepes、5mMグル
コース、pH7.4)中に再懸濁した。PRP又は血小板懸濁液のアリコート(200μl)を血小板凝集アッセイに使用した。血小板凝集アッセイは、TPA−4C血小板凝集計(東京光電株式会社)を使用して、シリコンガラスキュベット中で37℃にて1,000rpmで常に撹拌しながら行なった。コラーゲン(終濃度3μg/ml)を添加することにより、血小板凝集を開始させた。各時点で、PRP又は血小板懸濁液を遠心し、血小板ペレットを、コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)を含むT−P
ERバッファー(Thermo Fisher Scientific Inc.)200μlで可溶化した。得られた
細胞ライセートをELISA及びウェスタンブロット解析により評価した。
ヒトsAPP total アッセイキット(IBL-Japan)を使用して、確立されたプロ
トコール(http://www.ibl-japan.co.jp)に従ってsAPP695、sAPP751及びsAPP770を検出した。APP770 ELISAシステムは、既報(Anal Chim Acta 631(1): 116-120 (2009))のように確立した。簡潔に説明すると、96ウェルプレートを抗OX2抗体でコートし、horseradish peroxidase標識抗APP R101A4抗体を
検出抗体として使用した。ヒトCSF(キットに付属の希釈用緩衝液にて1:16希釈)
、血漿及び血清(キットに付属の希釈用緩衝液にて1:75希釈)を、APP total
ELISA及びAPP770ELISAにより評価した。
ヒトAPP695、APP751又はAPP770を発現するCOS細胞又は血小板ライセートを、コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテルを含むT−PERバッファー中で可溶化した。血小板放出物中のsAPPをヘパリン−アガロース(Thermo Fisher Scientific Inc.)でプルダウンした。COS細胞ライセート(5μgのタンパク質を含
む)及び血小板由来試料(〜5x106の血小板に相当する)をSDS−PAGE(5−20%勾配ゲル)に供し、ニトロセルロースメンブレンに移した。ウェスタンブロット解析では、メンブレンを抗APP 22C11抗体(1:1,000希釈)、抗OX2抗体
(1:100希釈)、抗APP(C)抗体(1:1,000希釈)又は抗KPI抗体(1:1,000希釈)と共にインキュベートした。二次抗体として、horseradish peroxidase結合ロバ抗ヤギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)、抗マウスIg
G抗体及び抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare)を使用した(1:1,000希釈)。
結合した抗体の検出には、ECL Prime Blocking Agent及びECL Advanced Chemiluminescent Substrate(GE Healthcare)を使用した。Luminoimage Analyzer LAS-1000 PLUS(富士フイルム)を用いて、検出したシグナルを定量した。
ラットsAPPαは、日本免疫生物研究所のラット/マウスsAPPαELISAアッセイキットを用いて測定した。冠状動脈を結紮した心筋梗塞モデルラットおよび開腹のみ行ったコントロールラットから0、1及び2時間において経時的に血清及び血漿を0.5ml程度採取し、キット付属の緩衝液で4倍希釈した後にELISAキットを用いて測定を行った。
ラット血清中の心筋トロポニンIは、Life Diagnostics社のELISAキットを用いた。上述の方法で得た心筋梗塞およびコントロールラット血清を付属の希釈緩衝液で5倍希釈し、ELISAで測定を行った。
ラット血清中のCK-MMは、Life Diagnostics社のELISAキットを用いた。上述の方
法で得た心筋梗塞およびコントロールラット血清を付属の希釈緩衝液で15倍希釈し、ELISAで測定を行った。
本発明者らは、APP770を特異的に検出し且つAPP695及びAPP751を検出しないサンドイッチELISAシステムを開発している(WO2012/015050)。このEL
ISAシステムにおいては、APP770に固有のドメインであるOX2ドメインに対する抗体を使用する。図1Bに示すように、抗N末端APP抗体(22C11)はAPP695、APP751及びAPP770を検出したのに対し、抗OX2抗体はAPP770のみを特異的に検出した。抗N末端APP抗体及び抗OX2抗体を使用した場合、APP770サンドイッチELISAシステムは、50 pg/ml〜9 ng/mlの直線範囲を有する。
本実施例においては、比較のため、従来のAPP total ELISAも使用した。APP total ELISAは、それぞれAPP695、APP751及びAPP770を一過的に過剰発現するCOS細胞から分泌されるsAPP695、sAPP751及びsAPP770を検出した。対照的に、APP770 ELISAは、sAPP770
のみを検出した(図1C)。更に、ヒト脳微小血管内皮細胞(BMEC)から分泌された内皮sAPP770レベルも、本ELISAにより検出された(図1D)。IL−1βは、内皮細胞(Proc Natl Acad Sci USA 89(21):10075-10078 (1992))及びニューロン(J Neurochem 104(5):1387-1393 (2008))からのsAPP分泌を促進することが知られてい
る。実際、BMECから分泌されたsAPP770レベルは、IL−1β及びTNFαの添加によりわずかではあるが有意に増加し、IL−6の添加では増加しなかった(図1D)。選択的TACE阻害剤TAPI−0がBMECからのsAPP770の分泌を部分的に阻害したこと(図1E)から、sAPP695産生の場合(Journal of Neuroscience 28(46):12052-12061 (2008))と同様に、TACEは、内皮細胞におけるsAPP770
αの産生に少なくとも部分的には関与している。次に、ヒト血清試料及びヒト血漿試料にAPP770ELISAを適用した。健常人の血漿は、〜99.7±13 ng/mlのsAPP770を含有していたのに対し、健常人の血清は、意外にもより高いレベルのsAPP770(〜376±19 ng/ml)を含有しており、血漿sAPP770レベルのほぼ4倍であった(
図1F)。
プロテアーゼネキシン−2(PN2)と呼ばれる)として大量に見出されること、及び脱顆粒により血小板からPN2/APPが放出されることがこれまでの報告(Science 248(4956):745-748 (1990)、J Biol Chem 265(26):15977-15983 (1990))により示されていることから、sAPP770の血清レベルが有意に高いことの主な原因が血小板にあると推測した。血小板がAPP770を発現しているか否か、及び血小板の活性化によりAPP770が放出されるか否かを調べるために、まず多血小板血漿(platelet-rich plasma)(PRP)を単離し、血小板を刺激するためにコラーゲンを加えた。遠心後、上清及び血小板沈殿中のAPP770レベルを測定した。コラーゲンでの刺激の1分後、PRP上清中のsAPP770のレベルは急速に増加した(図2A)。これに対応して、血小板沈殿中のAPP770レベルは顕著に低下した(図2B)。血小板を単離し、コラーゲンで刺激した場合、PRPの場合と同様に、sAPP770の放出がみられた(図2C)。これらのことから、血小板がAPP770を発現し、活性化によりAPP770を放出すると結論された。一連の抗APP抗体(図2D)を使用した休止血小板及び活性化血小板のウェスタンブロット解析により、22C11で検出されるが抗APP(C)抗体では検出されないsAPP(〜120 kDa、灰色矢頭)が休止血小板中に既に存在することが示された
(図2E)。このsAPPシグナルは、抗OX2抗体及び抗KPI抗体でも検出されたことから、sAPP770が実際に血小板中に存在することが確認された。活性化による血小板中のsAPP770の減少と一致して、血小板放出物(platelet releasate)中のsAPP770は顕著に増加した。sAPP770に加えて、全長APP770(〜140 kDa、黒色矢頭)(抗APP(C)抗体及び抗OX2抗体の両方によって検出された)も、
はるかに低レベルではあるが存在した。この結果は、APP770の切断は、血小板活性化によるAPP770の放出にそれ程貢献しないことを示す。
PP770の割合は〜7.4%であり、血清sAPP770の場合(〜46%)よりも顕著に低
かった(表1)。これは、血液脳関門が脳への血清sAPP770の流入を妨げていることによる可能性がある。従って、CSFのsAPP totalのほとんどはニューロン
のsAPP695由来であるのに対して、血清sAPP totalはほとんどがsAP
P770由来であると考えられる。APP770 ELISAとAPP total EL
ISAについて標準試料が異なるという技術的制限のため、sAPP770レベルとsAPP totalレベルを直接比較することはそれ程正確ではないかもしれない。
る心臓のカテーテル処置中に大動脈から採取した血漿試料中のAPP770を分析した。
血漿APP770レベルは、安定AP症例、不安定AP症例、AMI症例の順に高かった(図4)。このことは、内皮損傷及び血小板活性化のグレードを、血漿APP770レベルによってモニターし得ることを示唆している。次に、実用性を評価するために、正常例及びAMI患者の末梢血由来の血漿及び血清試料中のsAPP770を分析した。正常例と比較して、AMI患者は、有意に高いレベルの血漿APP770(図3A)及び予想外に低いレベルの血清APP770(図3B)を有していた。その結果、AMI患者における血清sAPP770に対する血漿sAPP770の比率は、〜1.06±0.16であり、正常例の場合(〜0.26±0.03)よりも顕著に高かった(図3C)。血漿sAPP770/血清sAPP770比率のカットオフ値を、正常例の平均+2SDに相当する0.48に設定した。その結果、正常例の94.4%はカットオフ値よりも低い値を示し、AMI患者の100%がカ
ットオフ値よりも高い値を示した。これらの結果は、この血漿sAPP770/血清sAPP770比の感度及び特異性がそれぞれ100%及び94%であることを示しており、本EL
ISAがAMIの診断及び管理のために有用であることが強調される。
MIモデルラットは、SDラットを開腹して冠動脈を結紮することにより作製した。MIモデルラット同様に開腹は行なうが冠動脈の結紮は行なわないラットをコントロールとした。結紮前(0h)並びに結紮から1及び2h後に、血漿及び血清を採取し、血漿中のラットsAPPαレベル、血清中の心筋トロポニンI(cardiac Troponin-I(cTn-I))
レベル及びクレアチンキナーゼ(CK-MM)レベルを測定した。
ラットのsAPP770測定システムは開発途中であったため、ここではラット/マウスsAPPαELISAを用いた。血中においてはsAPPのうちsAPP770が主要成分であること、またsAPPαがsAPPβよりも圧倒的に量が多いことからも、sAPPαレベルを測定することでsAPP770レベルを把握することができると考えられた。
その結果、MIモデルラットのsAPPαは、結紮から1h後にはコントロールに比べて4倍以上も増加していたのに対し(図5A)、心筋梗塞マーカーであるcTn-I及びCK-MMは、結紮から1h後では2倍以下の増加であった(図5B、C)。このことから、sAPP770は、心筋からの逸脱酵素マーカーに先駆けて増加することが明らかになり、心筋梗塞の早期診断マーカーとしての有用性が示された。
Claims (13)
- 以下の工程を含む、血管内皮損傷又は血栓形成を判定するための被検者の血漿及び/又は血清の検査方法:
(1)被検者の血漿中及び/又は血清中の可溶型アミロイドβ前駆体タンパク質(sAPP)770αレベルを測定する工程;
ここで、
測定した血漿中のsAPP770αレベルが、健常者のそれよりも高い場合には、被検者は、血管内皮損傷又は血栓形成を有するとの指標となり、
測定した血清中のsAPP770αレベルが、健常者のそれよりも低い場合には、被検者は、血管内皮損傷又は血栓形成を有するとの指標となり、又は、
測定した血漿中のsAPP770αレベル/血清中のsAPP770αレベルの比率が、健常者のそれよりも高い場合には、被検者は、血管内皮損傷又は血栓形成を有するとの指標となる。 - 工程(1)が、被検者の血漿中のsAPP770αレベルを測定する工程である、請求項1に記載の方法。
- 工程(1)が、被検者の血漿中及び血清中のsAPP770αレベルを測定する工程である、請求項1に記載の方法。
- 工程(1)が、被検者の血清中のsAPP770αレベルを測定する工程である、請求項1に記載の方法。
- sAPP770αレベルがsAPP770α特異的抗体を用いて検出される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- sAPP770α特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、請求項5に記載の方法。
- sAPP770αレベルがサンドイッチELISAにより測定される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- sAPP770α特異的抗体を含む、被検者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770αレベルに基づき血管内皮損傷又は血栓形成を判定するための診断薬。
- sAPP770α特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、請求項8に記載の診断薬。
- 前記sAPP770α特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、請求項8又は9に記載の診断薬。
- sAPP770α特異的抗体を含む、被検者の血漿中及び/又は血清中のsAPP770αレベルに基づき血管内皮損傷又は血栓形成を判定するための診断用キット。
- sAPP770α特異的抗体がOX2ドメインを認識する抗体である、請求項11に記載の診断用キット。
- 前記sAPP770α特異的抗体とは異なるsAPPを認識する抗体を更に含む、請求項11又は12に記載の診断用キット。
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