JP6923212B2 - 動脈硬化性疾患の発症の予測因子および検査方法 - Google Patents

動脈硬化性疾患の発症の予測因子および検査方法 Download PDF

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Description

関連出願の相互参照
本願は、特願2016−27867号(出願日:2016年2月17日)の優先権の利益を享受する出願であり、これは引用することによりその全体が本明細書に取り込まれる。
本発明は、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価するための方法およびキットに関する。より具体的には、血液中におけるC5aタンパク質の量を測定することにより、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価するための方法およびキットに関する。また、本発明は、C5aタンパク質の活性を抑制する物質を含有する、動脈硬化性疾患の治療または予防に用いるための組成物にも関する。
動脈硬化症は、致死的な心筋梗塞や脳梗塞の原因ともなる重大な疾患である。動脈硬化症は、高血圧・脂質異常症・糖尿病といった生活習慣病の基盤病態であり、生活の質を損ない、しばしば致命的となる。全身における動脈硬化のモニター方法として、MRI(大脳白質病変)、血管エコー(頸動脈内膜中膜複合体肥厚)、脈波伝播速度(PWV)測定等が知られているが、これらから動脈硬化性疾患の発症を初期に予測することは難しい(非特許文献1)。
従来、血中のLDLやHDL等のリポプロテインがアテローム性動脈硬化の発症に関連することが知られている(非特許文献2)。また、炎症マーカーであるCRP、IL−5やその他の分子が閉塞性動脈硬化症や冠状動脈硬化症と関連することが報告されている(特許文献1、非特許文献3)。また、過剰な脂質摂取は動脈硬化症の発症に関与するといわれ、血中のコレステロール値が高いと動脈硬化症・心筋梗塞のリスクが高まることが知られている(非特許文献4)。しかしながら、現在のところ信頼性の高い動脈硬化症の初期マーカーは存在しておらず、そのような病初期マーカーに対するニーズが存在している。
WO2012/067165
London GM et al., Arterial functions: how to interpret the complex physiology. Nephrol Dial Transplant. 25(12):3815-23. 2010. Babiak J. et al., Lipoproteins and atherosclerosis. Baillieres Clin Endocrinol Metab. 1(3):515-50. 1987. Ait-Oufella Het al., Recent advances on the role of cytokines in atherosclerosis. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 31(5):969-79. 2011. Martin SS et al., Dyslipidemia, coronary artery calcium, and incident atherosclerotic cardiovascular disease: implications for statin therapy from the multi-ethnic study of atherosclerosis. Circulation. 129(1):77-86. 2014.
本発明は、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価するための方法およびキットを提供することを目的の一つとする。また、本発明の別の目的としては、動脈硬化性疾患の治療または予防に用いるための組成物を提供することが含まれる。
発明者らは、補体成分C5aが動脈硬化症発症前の血管炎症が起こる前より血液中で上昇することを見出した。C5aの上昇により好中球が活性化し、血管内膜への好中球接着と白血球集積が誘導され、さらに、ほかの炎症性因子(MCP−1など)の増加が招かれる。また、C5aを抑制することで好中球接着と白血球集積、炎症性因子の発現は減弱することが確認された。このC5aの上昇は他の炎症性因子やマーカーの上昇に先んじて起こり、発症前に特異的であることから、従来の検査法に比べ、より早期の段階において利用可能な、動脈硬化症および血管炎症発症リスクの予測因子として有用となることが当業者には理解される。また、動脈硬化症の発症前またはその極めて初期の時点で血中に存在するC5aの活性を抑制することで、動脈硬化症を治療または予防しうることも当業者には理解される。本発明は、これらの知見を基礎とするものであり、より具体的には、以下の事項に関する。
[1]動脈硬化性疾患の発症リスクを評価する方法であって、被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量をインビトロで測定する工程、およびC5aタンパク質の量を指標にして被検者における動脈硬化性疾患の発症リスクを評価する工程を含む、方法。
[2]前記C5aタンパク質の量の測定値が基準値と比較して統計学的に有意に大きいとき、前記被験者における動脈硬化性疾患の発症リスクが高いと決定する、[1]に記載の方法。
[3]前記被検者が、基準値と比較して統計学的に有意に増加していない血中濃度の1または複数の因子を有し、該因子がTNF−α、IL−1α、IL−1β、IL−7およびIL−11から成る群より選択される1または複数の因子である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]動脈硬化性疾患が、アテローム性動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中、狭心症、脳血栓、脳出血、または腎不全である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]前記C5aタンパク質が配列番号1に示される配列を有するポリペプチドまたはその変異体もしくは断片である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記測定がC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質を用いて行われる、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]前記結合可能な物質が抗体である、[6]に記載の方法。
[8]前記血液試料が血清、血漿、または全血である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]抗C5a抗体、その断片、および/またはそれらの化学修飾誘導体を含む、動脈硬化性疾患の発症リスクの評価用キット。
[10][1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法に使用するためのものである、[9]に記載のキット。
[11]前記抗体、断片または化学修飾誘導体が固相担体に結合されている、[9]または[10]に記載のキット。
[12]前記固相担体が検査用ストリップ、プラスチックチューブ、マイクロプレート、またはガラスビーズである、[11]に記載のキット。
[13]動脈硬化性疾患の治療または予防に用いるための組成物であって、有効成分としてC5aタンパク質とC5a受容体との結合を阻害する物質を含む、組成物。
[14]前記C5aタンパク質とC5a受容体との結合を阻害する物質がC5a受容体アンタゴニストである、[13]に記載の組成物。
[15]前記被検者が75歳以上である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[16]前記被検者においてプラークが未形成または未発達である、[1]〜[8]のいずれか一項または[15]に記載の方法。
HFDが大腿動脈における白血球遊走を誘導することを示す画像およびグラフである。左の画像の上段は、通常の食餌(NC)を1週間(1w)から8週間(8w)与えたマウスの大腿動脈中の血流を示している。左の画像の下段は、高脂肪食(HFD)を1週間(1w)から8週間(8w)与えたマウスの大腿動脈中の血流を示している。矢印は内皮に接着した白血球、ローリングしている白血球を示している。右のグラフは、大腿動脈における接着性の白血球(adhesion)とローリングしている白血球(rolling)の数を表している。 NCとHFDとの間で循環白血球(Circulating leukocytes)、好中球(Neutrophil)、単球(Monocyte)、リンパ球(Lymphocytes)の数を比較したグラフである。好中球が有意に増加していることが示されている。 好中球枯渇実験のタイムスケジュールとフローサイトメトリー分析について示した図である。HFD開始から22日後と24日後に野生型マウスを好中球枯渇抗体1A8または対照のIgGで処置した。これらのマウスにおいて、白血球の遊走がHFD開始の28日後に観察された。1A8は対照のIgGに比べて、末梢血における好中球を明らかに減少させた。 1A8(右の画像)またはIgG(左の画像)で処置したHFD給餌野生型マウスの大腿動脈における白血球遊走について示した画像およびグラフである。グラフは、白血球の遊走が好中球の枯渇によって有意に阻害されることを示している(それぞれn=4)。 クロドロン酸リポソームを用いたLysM−eGFPマウスの血液における単球枯渇について示した画像およびグラフである。末梢白血球におけるGFPの最も高い発現は好中球において観察されたが、単球も中間的に陽性であった。そこで、クロドロン酸リポソームを用いて単球を除去した。クロドロン酸リポソーム処理は、末梢血において単球としてのGFPLy−6Chi白血球を枯渇させたが、好中球としてのGFPLy6G白血球は除去しない。画像は、単球を除去するためにクロドロン酸リポソームで処置したHFD給餌LysM−eGFPマウスにおける白血球動員について示している。クロドロン酸リポソームが観察の24時間前に投与された。左の画像は溶媒のみで処置した場合の大腿動脈を示し、右の画像はクロドロン酸リポソームで処置した場合の大腿動脈を示している。白血球の遊走は、単球の枯渇によって変化を示さなかった(グラフ)(それぞれn=4)。 HFDを4週間与えたマウスの血清をサイトカインアレイで分析した結果を示すグラフである。各種サイトカインの中でC5aの発現が最も大きく増加していることが示された。 HFDを4週間与えると血清のC5aレベルが上昇することを示すグラフである。ELISAの結果が示されている(左)。同様に、肝臓におけるC5(C5aの前駆体)のmRNAレベルも上昇する(右)。 通常の食餌を与えたマウスにC5aタンパク質を投与すると、白血球遊走が観察されることを示す画像およびグラフである。veh:対照。C5a:C5a投与。 マウスC5aを投与すると好中球が誘導されることを示すグラフである。veh:対照。C5a:C5a投与。 C5aRアンタゴニスト(C5aのC末端ペプチド)を投与するとHFD誘導性の白血球遊走が生じなくなることを示す画像およびグラフである。veh:対照。antagonist:アンタゴニスト投与。 HFDがMCP−1発現を増加させることを示すグラフである。HFDを4週間与えると、マウスの血清中のMCP−1レベルが有意に上昇した。NC:通常の食餌。HFD:高脂肪食。 さまざまな組織におけるMCP−1mRNAレベルの分析結果を示すグラフである。HFDは、循環白血球におけるMCP−1mRNAを有意に増加させた。 HFDが末梢血白血球である好中球においてMCP−1のmRNAレベルを増加させることを示すグラフである。 C5aRアンタゴニストを投与した際の血清中のMCP−1量を測定した結果を示すグラフである。C5aRアンタゴニストは、HFDにより増加する血清MCP−1レベルを有意に減少させた。 3nMのリコンビナントC5aで処理した好中球様HL−60におけるMCP−1mRNAレベルを示すグラフである。C5aは、対照に比べてMCP−1発現レベルを増加させた(各々N=5)。 NCまたはHFDを給餌した野生型マウスまたはCCR2−/−マウスの大腿動脈における白血球のフローサイトメトリー分析について示した図とグラフである。CD45細胞を囲みの部分でゲーティングした(上段)。HFDを与えた野生型マウスではNC群と比べて、内膜の白血球が有意に増加していたが、CCR2−/−マウスでは、HFDとNCの間でCD45陽性細胞に変化はなかった(各群n=7)。これらの白血球はCD11b、CD11c、およびCCR2について陽性であった(8回の独立した実験を実施)。ネガティブコントロールとして、アイソタイプコントロール抗体が用いられた(灰色部分)。 末梢血の好中球を特異的抗体(1A8)によって枯渇させた場合における、HFDを4週間与えた野生型マウスの大腿動脈の単一細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析について示したグラフである。好中球の枯渇は、大腿動脈の内膜白血球を対照(IgG)に比べて有意に減少させた(それぞれn=6)。 C5aで4週間処置した野生型マウスの大腿動脈の単一細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析について示したグラフである。C5aは大腿動脈の白血球を有意に増加させた。veh:対照。 HFDによる血管炎症について提唱されるメカニズムを示した図である。HFDの給餌(HFD-feeding)は肝臓(Liver)におけるC5発現レベルと血清C5aレベルを増加させる。C5aは好中球の増加(Neutrophilia)と、大腿動脈における好中球遊走(Neutrophil recruitment)を誘導する。好中球の遊走は、大腿動脈内膜におけるCD11c白血球(CD11c+ leukocyte)の集積に寄与する。 冠動脈疾患者(CAD(+))と非患者(CAD(−))における血中C5a濃度の分析結果を示した図である。グラフは左から、75歳未満の非患者(CAD(−))、75歳未満の冠動脈疾患者(CAD(+))、75歳以上の非患者(CAD(−))、75歳以上の冠動脈疾患者(CAD(+))。縦軸はC5aの濃度。75歳以上の冠動脈に狭窄のある群において、血中C5a濃度が有意に上昇している。データは平均±SD。p<0.05。
以下に、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書中において参照している特許および特許出願書類を含む、全ての刊行物に記載の内容は、その引用によって、本明細書中に明記された内容と同様に組み込まれていると解釈すべきである。
動脈硬化性疾患の発症リスクの評価方法
本発明の態様の一つは、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価する方法に関する。このような評価方法は、例えば、(i)被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量をインビトロで測定する工程、および(ii)C5aタンパク質の量を指標にして被検者における動脈硬化症または血管炎症の発症リスクを評価する工程を含みうる。
動脈硬化性疾患
動脈硬化性疾患には、アテローム性動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中、狭心症、脳血栓、脳出血、腎不全が含まれる。動脈硬化とは、動脈壁の肥厚化、硬化および弾力性の喪失をいう。動脈硬化が進行すると徐々に臓器、組織への血流が徐々に制限される。アテローム性動脈硬化症は、動脈壁における脂肪プラーク、コレステロール、および他の物質の蓄積により引き起こされる動脈硬化の一形態であり、脳梗塞、心筋梗塞などの重篤な病の原因となりうる。本発明によれば、被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量を指標にして被検者における動脈硬化性疾患の発症リスクを評価することができる。本発明の方法は特に、アテローム性動脈硬化症の発症リスクを評価において好適に利用することができる。
血管炎症
動脈硬化と血管炎症の間には密接なかかわりがあると考えられる。本発明者らは、高脂肪食が急性炎症を誘発し、それがさらに慢性炎症を誘発することを見出した。本発明によれば、被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量を指標にして被検者における動脈硬化症の前段階としての血管炎症の発症リスクを評価することもできる。
血液試料
本発明の方法においては、被検者から得た血液試料を測定に使用する。本明細書において「被検者」は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。ヒト被検者から血液を採取する工程は、本発明の方法の工程からは除外されうる。被検者由来の血液は、被検者から採取されたものを直ちに本発明の方法に供してもよいし、採取後、直接、または適当な処理を施した後に、冷蔵または凍結したものを本発明の方法に供する前に、室温に戻して使用してもよい。冷蔵または凍結前の適当な処理としては、例えば、全血にヘパリン等を添加して抗凝固処理を施した後、または血漿若しくは血清として分離すること等が含まれる。これらの処理は、当該分野で公知の技術に基づいて行なえばよい。
C5aタンパク質
C5aは、補体成分C5がC5転換プロテアーゼによってC5aとC5b断片へと切断されることによって放出されるタンパク質断片である。C5bは補体カスケードの後期のイベントにおいて重要となる一方、C5aは炎症性の高いペプチドとして作用する。C5の起源は肝細胞であるが、その合成はマクロファージにおいても見られ、これはC5aの局所的な増加を引き起こしうる。C5aは走化性とアナフィラトキシン性を有し、自然免疫に不可欠であるが、適応免疫にも関係している。C5aの産生増加は多くの炎症性疾患と関連づけられている。
ヒトC5およびC5aの遺伝子配列は既知であり、例えば、GenBankなどのデータベースから入手することができる:
C5 complement component 5 [ Homo sapiens (human) ]
Gene ID: 727
mRNA: NM_001317163.1
Protein: NP_001304092.1
C5aはC5のアミノ酸678〜751位の74アミノ酸残基に対応する。C5aはさらに、カルボキシペプチダーゼBによって迅速に代謝されて、C末端のアルギニンを欠いた73アミノ酸のC5a des-Argとなる。よって、本願において「C5aタンパク質の量」と言う際には、C5aとC5a des-Argとの総量を意味すると解することもできる。例えば、C5aタンパク質量の測定に抗体を利用する場合、C5aのN末端側を認識する抗体であれば、C5aとC5a des-Argの両者を認識することが当業者には理解される。C5aのC末端を認識する抗体であれば、C5aまたはC5a des-Argのいずれか一方のみを特異的に認識しうるが、本発明においては、これらを区別して認識する必要は無い。また、C5a des-Argの量を測定することで、C5aタンパク質の量を間接的に評価することもできる。
抗C5a抗体
本発明の方法において、C5aタンパク質量の測定に利用する抗C5a抗体は、ポリクローナル抗体でも、モノクローナル抗体でも良い。抗C5a抗体は、当業者に公知の方法を用いて作製することができる。また、抗C5a抗体は、市販されている抗体を購入して利用してもよい。抗体のアイソタイプには限定は無く、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれを用いてもよい。抗体の由来する動物種にも限定は無い。また、これらの抗体の断片(例えば、Fab、F(ab’)、Fab、Fv、Facb、Fd)を用いることもできる。これらの抗体および抗体断片は、検出に有用な標識などによる修飾を含んでいてもよい。なお、本発明において使用する抗C5a抗体は、C5タンパク質、C5a des-Arg、C5aタンパク質の断片、および/または、一部に変異を有するC5aタンパク質変異体も同様に認識するものであってもよい。
C5aタンパク質の変異体
本明細書においてC5aタンパク質の「変異体」とは、C5aタンパク質の、好ましくは配列番号1に示されるヒト由来の野生型C5aタンパク質を構成するアミノ酸配列またはその部分配列において、1以上、好ましくは1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入を含む変異体、あるいは該アミノ酸配列またはその部分配列と、約80%以上、例えば約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、例えば約97%以上、約98%以上もしくは約99%以上の%同一性を示す変異体を意味する。本明細書中、「数個」とは、約10以下、例えば9、8、7、6、5、4、3または2個の整数を指す。また、「%同一性」とは、配列番号1のタンパク質のアミノ酸配列と、その変異体のアミノ酸配列との一致度が最大となるように、またこのときギャップを導入するか若しくはギャップを導入しないで、好ましくはギャップを導入して、この2つのアミノ酸配列のアラインメントを行ったとき、総アミノ酸残基数(ギャップを導入する場合、ギャップ数を含む)に対する一致したアミノ酸残基数の割合(%)を指し、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて、ギャップを導入してまたはギャップを導入しないで、決定することができる。C5aタンパク質の変異体の具体例として、被検者の人種や個体に基づく多型(SNPsを含む)、スプライス変異等が挙げられる。すなわち、本発明の方法における被検者のC5aタンパク質は、必ずしも配列番号1に示されるアミノ酸配列を有している必要はなく、その変異体であってもよい。
C5aタンパク質の断片
本明細書においてC5aタンパク質の「断片」とは、野生型C5aタンパク質、好ましくは配列番号1で示されるヒト由来の野生型C5aタンパク質、またはその変異体を構成するアミノ酸の少なくとも5個以上全数未満、少なくとも7個以上全数未満、好ましくは少なくとも8個以上全数未満、例えば、少なくとも10個以上全数未満、少なくとも15個以上全数未満、より好ましくは少なくとも20個以上全数未満、少なくとも25個以上全数未満、さらにより好ましくは少なくとも35個以上全数未満、少なくとも40個以上全数未満、少なくとも50個以上全数未満の連続するアミノ酸残基からなり、1個または複数のエピトープを保持するポリペプチド断片をいう。このような断片は、本発明において使用される抗体またはその断片と免疫特異的に結合することができる。このようなペプチド断片をC5aタンパク質に包含する理由は、たとえ断片化されていても血液中のC5aタンパク質を定量できれば、本発明の目的を達し得るし、また、血液中の上記野生型C5aタンパク質(好ましくは配列番号1で示されるヒト由来の野生型C5aタンパク質)またはその変異体の全長ポリペプチドが、例えば、血液中に存在するプロテアーゼ、ペプチダーゼ等の加水分解酵素によって断片化されて存在する場合があるからである。すなわち、本発明の方法において測定の対象となるC5aタンパク質は、必ずしも全長配列を有している必要はなく、その断片であってもよい。
C5aタンパク質の量
本明細書において「C5aタンパク質の量」とは、被検者由来の血液(全血、血清、または血漿)中に存在するC5aタンパク質の分量をいう。本発明において、血液試料は好ましくは血清である。分量は、絶対量または相対量のいずれであってもよい。絶対量の場合、所定の血液量中に含まれるC5aタンパク質の質量または容量が該当する。相対量の場合、特定の測定値に対する被検者由来のC5aタンパク質の測定値によって表わされる相対的な値をいい、例えば、濃度、蛍光強度、吸光度が挙げられる。C5aタンパク質の量は、公知のインビトロ測定方法を用いて測定することができ、例えば、抗体などのC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質を用いて測定する方法が挙げられる。
インビトロ測定
C5aタンパク質の量をインビトロで測定する方法としては、当業者に公知の任意の方法、例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応またはウエスタンブロット法などを用いることができる(例えば、特開2015−155795に記載の測定方法を参照)。一連の測定工程は、例えば、全自動ELISAシステムを利用して行うこともできる。
酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法または発光免疫測定法等の標識を用いた免疫測定法を用いて本発明の方法を実施する場合には、抗C5a抗体を固相化するか、または試料中の成分を固相化して、それらの免疫学的反応を行うことが好ましい。固相担体としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックスまたは磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティックまたは試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。固相化は、固相担体と前記抗C5a抗体または試料成分とを物理的吸着法、化学的結合法またはこれらの併用等の公知の方法に従って結合させることにより行うことができる。
本発明においては、前記抗C5a抗体を標識することにより反応を直接検出するか、または標識二次抗体を用いることにより間接的に検出する。感度の点からは、後者の間接的検出(例えばサンドイッチ法等)を本発明の方法において利用することが好ましい。
標識物質としては、酵素免疫測定法の場合には、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ(POD)、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、乳酸脱水素酵素、アミラーゼまたはビオチン−アビジン複合体等を用いることができる。蛍光免疫測定法の場合には、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、置換ローダミンイソチオシアネート、ジクロロトリアジンイソチオシアネート、AlexaまたはAlexaFluoro等を用いることができる。放射免疫測定法の場合には、トリチウム、ヨウ素125またはヨウ素131等を用いることができる。また、発光免疫測定法は、NADH、FMNH、ルシフェラーゼ系、ルミノール−過酸化水素−POD系、アクリジニウムエステル系またはジオキセタン化合物系等を用いることができる。
標識物質と抗体との結合には、酵素免疫測定法の場合にはグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法または過ヨウ素酸法等の公知の方法を、放射免疫測定法の場合にはクロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法を用いることができる。測定の操作法は、公知の方法に従えばよい。例えば、前記抗C5a抗体を直接標識した場合には、血液中の成分を固相化し、標識した前記抗C5a抗体と接触させて、C5aタンパク質−抗C5a抗体複合体を形成させる。そして未結合の標識抗体を洗浄分離して、結合標識抗体量または未結合標識抗体量より血液中のC5aタンパク質の量を測定することができる。
また、例えば、標識二次抗体を用いる場合には、本発明の抗体を一次抗体として試料と反応させ(一次反応)、さらに標識二次抗体を一次抗体に反応させる(二次反応)。一次反応と二次反応は逆の順序で行ってもよいし、同時に行ってもよいし、または時間をずらして行ってもよい。一次反応および二次反応により、固相化したC5a−抗C5a抗体−標識二次抗体の複合体が、または固相化した抗C5a抗体−C5a−標識二次抗体の複合体が形成される。そして未結合の標識二次抗体を洗浄分離して、結合標識二次抗体量または未結合標識二次抗体量より試料中のC5aの質量を測定することができる。
具体的には、酵素免疫測定法の場合は標識酵素にその至適条件下で基質を反応させ、その反応生成物の量を光学的方法により測定すればよい。蛍光免疫測定法の場合には蛍光物質標識による蛍光強度を、放射免疫定法の場合には放射性物質標識による放射能量を測定する。発光免疫測定法の場合は発光反応系による発光量を測定すればよい。
また、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応または粒子凝集反応の免疫複合体凝集物の生成を、その透過光や散乱光を光学的方法により測るか、目視的に測る測定法により実施することもできる。この場合、溶媒としてリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液またはグッド緩衝液等を用いることができ、更にポリエチレングリコール等の反応促進剤や非特異的反応抑制剤を反応系に含ませてもよい。
本発明の測定法の実施形態の一例は、以下の手順を含む。最初に、本発明の抗体を一次抗体として不溶性担体に固定する。そして、好ましくは抗原が吸着していない固相表面を、抗原とは無関係のタンパク質(仔ウシ血清、ウシ血清アルブミン、ゼラチン等)によりブロッキングする。続いて、固定化された一次抗体と被検試料とを接触させる。次いで、上記一次抗体と異なる部位でC5aと反応する標識二次抗体とを接触させ、該標識からの信号を検出する。ここで用いる「一次抗体と異なる部位でC5aと反応する二次抗体」は、一次抗体とC5aタンパク質との結合部位以外の部位を認識する抗体であれば特に制限はなく、免疫原の種類を問わず、ポリクローナル抗体、抗血清、モノクローナル抗体のいずれでもよく、またこれらの抗体の断片(フラグメントともいう)(例えば、Fab、F(ab’)、Fab、Fv、Facb、Fd等)を用いることもできる。更に、二次抗体として複数種のモノクローナル抗体を用いてもよい。
また、これとは逆に、本発明の抗体に標識を付して二次抗体とし、本発明の抗体と異なる部位で、C5aと反応する抗体を一次抗体として不溶性担体に固定し、この固定化された一次抗体と被検試料とを接触させ、次いで、二次抗体として標識を付した本発明の抗体とを接触させ、前記標識からのシグナルを検出してもよい。
また、本発明の方法においては、当技術分野で公知の免疫クロマト用テストストリップ(例えば、特開2015−155795等の記載を参照。この文献の記載は参照により本明細書に明示的に取り込まれる)を利用してもよい。免疫クロマト用テストストリップ(検査用ストリップともいう)とは、例えば、試料を吸収しやすい材料からなる試料受容部、抗体を含有する試薬部、試料と抗体との反応物が移動する展開部、展開してきた反応物を呈色する標識部、呈色された反応物が展開してくる提示部等から構成されるものであり、妊娠診断薬と同様の形態とすることができる。まず、試料受容部に試料を与えると、試料受容部は試料を吸収して試料を試薬部にまで到達させる。続いて、試薬部において、試料中のC5aと抗C5a抗体との反応が起こり、反応した複合体が展開部を移動して標識部に到達する。標識部においては、上記反応複合体と標識二次抗体との反応が起こって、その標識二次抗体との反応物が提示部にまで展開すると呈色が認められることになる。
C5aタンパク質と特異的に結合可能な物質
上記のインビトロ測定においては、抗C5a抗体に限らず、C5aタンパク質と特異的に結合可能な物質であれば、他の物質を使用することもできる。本明細書において「特異的に結合可能」とは、ある物質が実質的にC5aタンパク質のみと結合し得ることを意味する。この場合、C5aタンパク質の検出に影響を与えない程度の非特異的な結合が存在してもよい。なお、本発明において使用する「C5aタンパク質と特異的に結合可能な物質」は、C5タンパク質、C5a des-Arg、C5aタンパク質の断片、および/または、一部に変異を有するC5aタンパク質も同様に認識するものであってもよい。
「特異的に結合可能な物質」としては、例えば、C5a結合タンパク質が挙げられ、より具体的には、上記の抗C5a抗体に加えて、例えば、C5a受容体タンパク質またはその断片、ファージディスプレイ法などのスクリーニングによって得られたC5a結合ポリペプチド、あるいは、それらの化学修飾誘導体であってもよい。ここで、「化学修飾誘導体」とは、前記物質のC5aタンパク質との特異的な結合活性を獲得または保持する上で必要な機能上の修飾、または前記物質を検出する上で必要な標識のための修飾のいずれをも含む。
機能上の修飾には、例えば、グリコシル化、脱グリコシル化、PEG化が挙げられる。標識上の修飾には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、GFP、EGFP、RFP、YFP、CFP、PE、APC、)、酵素(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、またはビオチン、アビジン、ストレプトアビジンによる標識が挙げられる。
他のマーカーの併用
本発明の態様の一つは、被検者から得た血液試料中において、C5a以外の他のマーカー(例えば他の公知の炎症マーカー)の量をインビトロで測定する工程をさらに含んでいてもよい。
基準値
基準値としては、例えば、健常者の対応する測定値を用いることができる。「健常者」とは、少なくとも明らかな動脈硬化症に罹患していない個体、好ましくは健康な個体をいう。さらに、健常者は、被検者と同一の生物種であることを要する。例えば、検出に供する被検者がヒト被検者の場合には、健常者もヒトでなければばらない。健常者の身体的条件は、被検者と同一または近似することが好ましい。身体的条件とは、例えば、ヒトの場合であれば、人種、性別、年齢、身長、体重等が該当する。あるいは、被検者の過去における測定値を用いることもできる。過去における測定値は、例えば、定期的または不定期的な健康診断時に測定されたものを使用することができる。測定値の経時的な評価は、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価する上で有用となりうる。
統計学的有意性
「統計学的に有意」とは、例えば、得られた値の危険率(有意水準)が5%、1%または0.1%より小さい場合が挙げられる。それ故、測定値について「統計学的に有意に大きい」とは、例えば、被検者と健常者のそれぞれから得られたC5aタンパク質の量的差異を統計学的に処理したときに両者間に有意差があり、かつ被検者の前記タンパク質の量が健常者のそれと比較して相対的に多いことをいう。例えば、血液中のC5aタンパク質の量に関して、被検者が健常者の2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、最も好ましくは5倍以上多い場合が該当する。量的差異が3倍以上であれば信頼度は高く、統計学的にも有意に多いといえる。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定はされず、例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法、Kruskal−Wallis検定、Dunnの多重解析を用いることができる。
健常者の血液中におけるC5aタンパク質の量は、上述した被検者の血液中におけるC5aタンパク質の量の測定方法と同様の方法で測定することが好ましい。健常者の血液中におけるC5aタンパク質の量は、被検者の血液中におけるC5aタンパク質の量を測定する都度、測定することもできるが、予め測定しておいたC5aタンパク質の量を利用することもできる。特に、健常者の様々な身体的条件におけるC5aタンパク質量を予め測定しておき、その値をコンピューターに入力してデータベース化しておけば、被検者の身体的条件を当該コンピューターに入力することで、その被検者との比較に最適な身体的条件を有する健常者のC5aタンパク質の量を即座に利用できるので便利であろう。
発症リスクの評価
被検者の血液中のC5aタンパク質の量が健常者の血液中のC5aタンパク質の量よりも統計学的に有意に多い場合、その被検者は動脈硬化性疾患の発症リスクが高いと評価する。特に、早期の動脈硬化性疾患であっても、評価が可能である点において、本発明の実益がある。早期の動脈硬化性疾患とは、例えば、プラークが未形成または未発達のものを言う。また、マーカータンパク質の観点からは、CRPやIL−1などが検出されないものを言う。特に、本発明の方法によれば、TNF−α、IL−1α、IL−1β、IL−7およびIL−11の一部または全部の増加が検出されない被検者においても、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価することができる。また、対象となる被験者は、IMT(血管エコー)、PWV(脈波伝播速度)などの血管パラメータが正常範囲であることを指標として特定することもできる。
キット
本発明の態様の一つは、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価に使用するキットに関する。本発明に係るキットは、被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量をインビトロで測定するためにC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質、例えば、抗C5a抗体、その断片、および/またはそれらの化学修飾誘導体を含むことができる。このような抗体、断片または化学修飾誘導体は固相担体に結合されていてもよい。固相担体としては、検査用ストリップ、プラスチックチューブ、マイクロプレート、またはガラスビーズなどを使用できる。上記の要素に加え、本キットには、例えば、標識二次抗体、さらには標識の検出に必要な基質、担体、洗浄バッファー、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、精製された標準物質としてのC5aタンパク質、使用説明書なども含まれうる。
動脈硬化性疾患の治療用または予防用組成物
本発明の態様の一つは、有効成分としてC5aタンパク質とC5a受容体(C5aR)との結合を阻害する物質を含む、動脈硬化性疾患の治療または予防に用いるための組成物に関する。C5aタンパク質とC5a受容体との結合を阻害する物質は、例えば、C5a受容体アンタゴニスト、抗C5a抗体、抗C5aR抗体、可溶性C5aR断片でありうる。C5a受容体アンタゴニストとしては、例えば、C5aのC末端ペプチドを利用することができる。そのほか、CCX168(Avacopan)、W−54011、PMX−53なども利用されうる。補体成分C5aは動脈硬化症発症前の血管炎症が起こる前より血液中で上昇することから、本発明に係る医薬組成物は、プラークが未形成または未発達な段階の潜在的な動脈硬化性疾患の予防に特に有用であると考えられる。
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
実施例1:高脂肪食は野生型マウスの大腿動脈における白血球遊走を増加させる
生体顕微鏡(IVM)を使用して、高脂肪食(HFD)または通常の食餌(NC)を与えた野生型マウスの大腿動脈における白血球遊走を観察した。野生型マウス(C5lBL/6J、雄、7週令)はCharles river Laboより購入したものを使用した。7週令の野生型マウスに高脂肪食(HFD:1.25%コレステロール、20%脂質含有)あるいは普通食(NC)を与えた。その後、野生型マウスについては1,2,4,8週間後に大腿動脈での白血球遊走をIVMによって観察した。ペントバルビタールをマウスに腹腔内投与して麻酔し、観察中は正常な血液pHを維持するために機械的換気を行い、体温を36〜37℃に維持するために保温パッドと赤外線ランプの照射を行った。大腿部の皮膚を切開して大腿動脈と静脈を露出し、右大腿静脈よりローダミン6G(0.3 mg/kg in 300 ul PBS(-))を投与して左大腿動脈分岐上腹側を20倍水浸対物レンズを装備した蛍光顕微鏡(BX51WI)で観察した(ローダミン6Gは赤血球以外の血球を細胞内に取り込むことで蛍光を発光する)。5フレーム/秒のフレームレートで録画し、解析ソフト(MetaMorph)を使って接着あるいはローリングする白血球数を算出した。接着は3秒間以上静置している白血球とし、ローリングは次のフレームで移動したものとした。
図1aに示されているように、HFDを与えたマウスにおける時間依存的な白血球の遊走を1〜8週間から観察したところ、4週間目と8週間目において、血管接着性の白血球の数がNCに比較して有意に増加していることが画像解析から示された(図1a)。マウスにHFDを与えると、特に末梢好中球(CD11bLy−6G)の数が増加しており(HFD:22.7±1.0%,n=11;NC:7.7±0.70%,n=10;P<0.001)、白血球の総数は変化していなかった(図1b)。単球やリンパ球などの他の型の細胞数には、顕著な変化は示されなかった。
なお、末梢血のフローサイトメトリーと白血球数のカウントは以下のようにして行った。血液を心臓から回収し、以下の抗体を含む1.8mlのLysing bufferに200μlの血液を加えて室温で15分反応させた。
Rat anti-mouse CD11b-FITC
Rat anti-mouse CD45 PerPC
Rat anti-mouse Ly-6G-APC
Rat anti-mouse Ly-6C-APC
Rat anti-mouse CD3-PE
Rat anti-mouse CD19-PE
蛍光染色した白血球は1%パラホルムアルデヒドで固定し、解析した。BD FACS Caliburを使って10000個の白血球についてフローサイトメトリーを行い、そのデータはFlowJo7.6で解析した。解析の際、好中球はCD45Ly6GCD11b,単球はCD45Ly6ChiCD11b,リンパ球はCD45CD3とCD45CD19とした。白血球数はXT−2000iVを使ってカウントした。
実施例2:大腿動脈のHFD誘発性白血球遊走における好中球の役割
HFD誘導性の白血球遊走における好中球の関与を確認するため、Ly−6G特異的抗体である1A8の注射によって好中球を枯渇させた後にIVM分析を行った。なお、好中球除去(枯渇)実験は以下のようにして行った。末梢血中の好中球を除去するために、野生型マウスに高脂肪食負荷後22日目と24日目に250μgのラット抗Ly6G抗体を腹腔内投与した。正常ラットIgG2a投与群をコントロール群とした。高脂肪食負荷後28日目にIVMを行い、末梢血のフローサイトメトリーと血漿中のMCP−1レベルの測定をELISA法にて行った。
末梢血のフローサイトメトリー解析により、好中球の枯渇(除去)が確認された(図2a)。好中球を枯渇させると、HFD誘導性の白血球遊走が有意に減少した(図2b)。好中球がGFPを豊富に発現しているリゾチームM(LysM)−eGFPマウスにおいて、クロドロン酸リポソームの腹腔内注射により単球の枯渇を誘導した場合には、リポソームは明らかに末梢血における単球の枯渇を引き起こしていたが、大腿動脈における白血球遊走に変化は見られなかった(図2cおよび図2d)。これらの結果は、HFDでは4週間目までに、単球ではなく、好中球が大腿動脈に動員されたことを示している。
なお、単球除去(枯渇)実験は以下のようにして行った。高脂肪食によって遊走する白血球分画を同定するために高脂肪食を与えたLysM−eGFP(LysMはリゾチームMというタンパク質を指し、好中球、単球、マクロファージに発現している。LysMの遺伝子にeGFP遺伝子を組みこむことでLysMタンパクが蛍光標識される)マウスでのIVMを行った。LysM−eGFPマウスはDr. Y. Inomataより譲渡されたものを使用した。このマウスは白血球の中でeGFPを最も高発現しているので、もし接着やローリングがみられたら、それは好中球であるといえる。しかし、単球もその1/10ほど発現しているので、単球の可能性を除くために高脂肪食を与えたLysM−eGFPマウスのIVMを単球除去下で行うために200μlのクロドロン酸リポソームをIVMの24時間前に尾静脈より投与した(クロドロン酸リポソームは、単球やマクロファージが貪食することでそれらを死滅させる)。
実施例3:HFDは肝臓におけるC5aレベルを増加させて好中球を動員し、活性化する
HFDがどのように好中球を誘導してMCP−1を産生するのかを理解するため、HFDまたはNCを4週間与えたマウスにおいて、種々のサイトカインの血清レベルを測定した。4週間高脂肪食あるいは普通食を与えたマウスから血清を採取し、それぞれの群について8匹分を混合してサイトカインアレイに使用した。使用したサイトカインアレイは膜に20種類ほどのサイトカインに対する特異的抗体がスポットされており、そこに血清を反応させると血清中の濃度に応じてスポットが化学発光する。LAS−1000イメージアナライザーでそのスポットの濃さを定量し、普通食群を1.00として高脂肪食群の発光量の相対値を算出した。
図3aに示されているように、HFDを与えたマウスでは、血清中のC5aの相対的発現レベルが最も高くなっていた(NC:1.00、HFD:2.81)。この結果は、図3bに示されているように、C5aのELISAによっても確認された(HFD:18.15±1.53ng/ml,n=4;NC:11.95±0.52ng/ml,n=4;P<0.01)。C5の活性化型であるC5aは、肝臓において産生される強力な好中球の化学誘引物質である。続いて行った定量的RT−PCRは、肝臓におけるC5レベルがHFDによって増加することを明らかにした(HFD:2.57±0.52,n=8;NC:1.00±0.13,n=8;P<0.05;図3b)。
なお、ELISAによる分析は以下のようにして行った。高脂肪食負荷後4週の時点で心臓から採血し、その血清についてMCP−1とC5aの濃度をELISA法で定量した。96ウェルプラスチックマイクロプレートに1次抗体を加えて一晩室温で静置する。その後0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄し、1%BSA含有PBS(−)を加える。30分静置し、0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄して血清あるいは基準液を添加する。室温で1.5時間静置後0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄して、ビオチンラベルされた2次抗体を加え、1.5時間静置する。0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してHRP−ストレプトアビジンを加えて30分静置する。0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してTMB基質を加えて15分後に0.6N硫酸を加えて反応を停止させる。吸光度450nmを測定して検量線からサンプル中のMCP−1あるいはC5a濃度を算出する。
定量的RT−PCRは以下のようにして行った。高脂肪食あるいは普通食を4週間与えた野生型マウスの左心室からPBS(−)を還流して脱血し、大動脈、肝臓、脾臓、骨髄、内臓脂肪を採取した。末梢血白血球は採血して溶血し、4匹分を1つにまとめ、好中球は3匹分を1つにまとめてそれぞれの組織からRNAを採取した。採取したRNAからcDNAを合成してリアルタイムPCRを行った。その相対的発現量は内在性コントロールを18SリボソーマルRNAとし、標準曲線法あるいはΔΔCt法で算出した。
実施例4:HFD誘導性の好中球遊走におけるC5aの重要な役割
C5aは好中球を活性化することができるため、HFDを与えずにC5aで処置したマウスにおいてIVM分析を行った。2μg/kgのマウスC5aを尾静脈より投与し、90分後にIVMによる白血球遊走の観察と末梢血白血球に対するフローサイトメトリーを行った。C5aを投与すると、マウスの大腿動脈における白血球の遊走が顕著に誘導された(図3c)。また、C5aによる処置は、野生型マウスにおける末梢好中球の数を有意に増加させた(溶媒のみ:7.38±0.17%,n=4;C5a:12.41±1.55%,n=4;P<0.05;図3d)。これらのデータは、大腿動脈におけるHFD誘導性好中球遊走においてC5aが果たす役割の重要性を示している。さらに、C5a受容体アンタゴニスト(C5aR)の注入は、HFD誘導性白血球遊走を有意に減少させた(図3e)。野生型マウスに高脂肪食を与えて0.3mg/kg/dayのC5aRアンタゴニストあるいはコントロールを毎日腹腔内投与した。4週間後にIVMによる白血球遊走の観察を行った。
実施例5:HFDによる好中球におけるMCP−1発現の増加
HFDの持続は、血清MCP−1レベルを増加させる。HFDを与えたマウスでは、血清MCP−1レベルが4週間の時点で早くも、NCを与えたマウスに比べて有意に増加していた(HFD:268.1±40.6 pg/ml,n=8;NC:115.1±10.43pg/ml,n=8;P<0.01;図4a)。様々な組織におけるMCP−1の発現レベルを測定したところ、HFDを4週間与えた後にはMCP−1レベルが白血球において非常に高くなっていた(図4b)。好中球はMCP−1の受容体と推定されるCCR2を発現していなかったため、発明者らは、好中球がHFDに反応してMCP−1を産生したという仮説を立てた。この仮説を確認するために、好中球(Ly6g)と単球/リンパ球(LY−6G)において別々にMCP−1の発現レベルが測定された。図4cに示されているように、HFDは好中球ではMCP−1の発現を有意にアップレギュレートしたが、単球/リンパ球ではそうしなかった(Ly−6G,NC:1.00±0.15,HFD:1.21±0.71;Ly−6G,NC:1.49±0.73,HFD:5.01±1.10,n=3;P<0.05)。また、C5aRアンタゴニストは、HFD給餌マウスの血清中におけるMCP−1レベルを有意に低下させた(溶媒のみ:330.4±49.92pg/ml,n=4;C5aR:189.8±11.72pg/ml,n=4;P<0.05;図4d)。野生型マウスに高脂肪食を与えて0.3mg/kg/dayのC5aRアンタゴニストあるいはコントロールを毎日腹腔内投与した。4週間後に血中MCP−1濃度の測定をELISA法により行った。
好中球におけるMCP−1発現に対するC5aの直接的な影響を示すために、発明者らは、好中球へ分化したHL60におけるC5a処理下でのMCP−1発現を調べた。HL−60細胞を好中球様に分化させるために10%牛胎児血清1.3%DMSO含有RPMI1640で5日間培養した。分化した細胞に3nMのC5aを添加して1時間後に回収し、mRNAを分離した。MCP−1発現を検討するためにリアルタイムPCRを行った。C5a処理下におけるMCP−1の発現は、好中球へ分化したHL60では、対照と比較して有意に増加していた(対照:1.00±0.24,n=5;C5a:2.58±1.15,n=5;P<0.05;図4e)。これとは対照的に、未分化のHL−60におけるMCP−1の発現レベルは、C5a処理と対照との間で異なっておらず(対照:1.00±0.24,n=5;C5a:0.62±0.27,n=4)、これは、C5aが分化した好中球に作用することを示している。これらの結果は、C5aが好中球におけるMCP−1の発現を誘導することを示している。
実施例6:内膜白血球のHFD誘導性の増加には好中球由来のMCP−1が必要とされる
血管の内膜および内側の領域における炎症をモニターするため、大腿動脈試料の単一細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析を行った。血管内膜に集積する白血球と接着した白血球について解析を行った。野生型マウスあるいはCCR2−/−マウスに高脂肪食あるいは普通食を4週間与えて左心室からPBS(−)を還流して脱血した。CCR2−/−マウスはDr. K. Egashiraより譲渡されたものを使用した。大腿動脈を採取して2匹分を1つにまとめて1サンプルとした。採取した血管をコラゲナーゼ処理によって単一細胞懸濁液にし、ナイロンメッシュに通して遠心した。得られた細胞に下記の抗体を反応させて染色し、フローサイトメトリーを行った。
Anti-mouse CD11b-FITC
Anti-mouse CD11c-PE
Anti-mouse CD45-PerPC
Anti-mouse/rat CCR2-APC
HFDを4週間与えると、NCを与えた場合に比べて、大腿動脈におけるCD45陽性細胞の数が有意に増加していた(HFD:7.21±0.67%,n=7;NC:3.47±0.50%,n=7;P<0.0001;図5a)。CCR2欠損(CCR2−/−)マウスを使用してMCP−1/CCR2シグナルを阻害すると、HFDに関連するCD45陽性細胞の減少が大腿動脈において見られた(HFD:2.40±0.38%,n=7;NC:2.62±0.51%,n=7;図5a)。図5aに示されているように、CD45陽性細胞の大部分はCD11bとCD11cについて陽性であった。これらの内膜白血球における好中球の重要性を確認するために、好中球の枯渇がHFDを4週間与えた野生型マウスにおいて行われた。図5bに示されているように、好中球の枯渇は、大腿動脈におけるHFD誘発性の内膜CD45陽性細胞を有意に減少させた(対照IgG:11.38±0.82%,n=6;1A8:8.96±0.69%,n=6;P<0.05)。さらに、野生型マウスにマウスC5aを28日間投与したところ、大腿動脈における内膜CD45陽性細胞の数が対照に比べて有意に増加していた(溶媒のみ:5.38±0.69%,n=7;C5a:8.41±1.04%,n=8;P<0.05;図5c)。これらの結果は、血清MCP−1のアップレギュレーション、末梢好中球、および血清C5aが、HFDによる内膜CD45陽性細胞の増加において重要な役割を果たすことを示している。
実施例7:被検者由来の血液試料の分析
抗凝固剤としてEDTA、クエン酸ナトリウムあるいはヘパリンを使用して被検者より採血し、血漿あるいは血清を分離する。1次抗体を吸着させた96ウェルプラスチックマイクロプレートを0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄し、1%BSA含有PBS(−)を加える。30分静置し、0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してサンプルあるいは基準液を添加する。室温で1.5時間静置後0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄して、ビオチンラベルされた2次抗体を加え、1.5時間静置する。0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してHRP−ストレプトアビジンを加えて30分静置する。0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してTMB基質を加えて15分後に0.6N硫酸を加えて反応を停止させる。吸光度450nmを測定して検量線からサンプル中のC5a濃度を算出する。
実施例8:冠動脈疾患者と非患者における血中C5a濃度の分析
心臓カテーテル検査施行者99名(男性88名、女性11名;平均年齢67.2±0.8歳)を対象として、血中C5a濃度を測定した。対象者から得られた血漿について、ELISA法を用いて血中C5a濃度を測定した。96ウェルプレートに抗C5a抗体を加えて一晩静置し、プレート底面に抗体を吸着させて洗浄後5%BSA入りPBS(−)溶液を添加してブロッキングを行った。続いて調整したC5a基準溶液と血漿を各ウェルに添加し、反応させた。その後プレートを洗浄してビオチン結合した抗C5a抗体を加えて反応させ、洗浄後アビジン−HRPを添加した。洗浄後、発色基質である3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)溶液を加えて発色させてHSO溶液によって反応停止した。その後マイクロプレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定し、標準物質より標準曲線を作成して各サンプルのC5a濃度を算出した。
血中C5a濃度の測定終了後、統計処理を行った。心臓カテーテル検査施行者について、75歳未満とそれ以上の2群分け、それぞれの群において冠動脈に狭窄のあった群となかった群での血中C5a濃度の比較検定を行った。Kruskal−Wallis検定を行い、その後の結果によりDunnの多重解析を行った。P値が0.05未満を有意差ありとした。結果として、75歳以上の冠動脈に狭窄のあった群において、血中C5a濃度が有意に上昇していることが判明した。
本明細書には、本発明の好ましい実施態様を示してあるが、そのような実施態様が単に例示の目的で提供されていることは、当業者には明らかであり、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変形、変更、置換を加えることが可能であろう。本明細書に記載されている発明の様々な代替的実施形態が、本発明を実施する際に使用されうることが理解されるべきである。
上記のとおり、発明者らは、補体成分C5aが動脈硬化症発症前の血管炎症が起こる前より血液中で上昇することを見出した。C5aの上昇により好中球が活性化し、血管内膜への好中球接着と白血球集積が誘導され、さらに、ほかの炎症性因子(MCP−1)の増加が招かれる。また、C5aを抑制することで好中球接着と白血球集積、炎症性因子の発現は減弱することが確認された。このC5aの上昇は他の炎症性因子やマーカーの上昇に先んじて起こり、発症前に特異的であることから、従来の検査法に比べ、より早期の段階において利用可能な、動脈硬化性疾患発症リスクの予測因子として有用である。また、当業者には、動脈硬化性疾患の発症前またはその極めて初期の時点で血中に存在するC5aの活性を抑制することで、動脈硬化性疾患を治療または予防することも可能であると理解される。

Claims (8)

  1. 動脈硬化性疾患の発症リスクを検査する方法であって、
    前記動脈硬化性疾患が冠動脈疾患であり、
    被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量をインビトロで測定する工
    含み、
    前記被検者が、基準値と比較して統計学的に有意に増加していない血中濃度の1または複数の因子を有し、該因子がTNF−α、IL−1α、IL−1β、IL−7およびIL−11から成る群より選択される1または複数の因子であり、
    前記C5aタンパク質の量の測定値が基準値と比較して統計学的に有意に大きいとき、前記被験者における冠動脈疾患である動脈硬化性疾患の発症リスクが高いことの指標となる、方法。
  2. 前記被検者が75歳以上である、請求項1記載の方法。
  3. 前記被検者においてプラークが未形成または未発達である、請求項1または2記載の方法。
  4. 冠動脈疾患である動脈硬化性疾患が、アテローム性動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、または狭心症である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記C5aタンパク質が配列番号1に示される配列を有するポリペプチドまたはその変異体もしくは断片である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記測定がC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質を用いて行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記結合可能な物質が抗体である、請求項6に記載の方法。
  8. 前記血液試料が血清、血漿、または全血である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
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