JP6923212B2 - 動脈硬化性疾患の発症の予測因子および検査方法 - Google Patents
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Description
[2]前記C5aタンパク質の量の測定値が基準値と比較して統計学的に有意に大きいとき、前記被験者における動脈硬化性疾患の発症リスクが高いと決定する、[1]に記載の方法。
[3]前記被検者が、基準値と比較して統計学的に有意に増加していない血中濃度の1または複数の因子を有し、該因子がTNF−α、IL−1α、IL−1β、IL−7およびIL−11から成る群より選択される1または複数の因子である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]動脈硬化性疾患が、アテローム性動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中、狭心症、脳血栓、脳出血、または腎不全である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]前記C5aタンパク質が配列番号1に示される配列を有するポリペプチドまたはその変異体もしくは断片である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記測定がC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質を用いて行われる、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]前記結合可能な物質が抗体である、[6]に記載の方法。
[8]前記血液試料が血清、血漿、または全血である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]抗C5a抗体、その断片、および/またはそれらの化学修飾誘導体を含む、動脈硬化性疾患の発症リスクの評価用キット。
[10][1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法に使用するためのものである、[9]に記載のキット。
[11]前記抗体、断片または化学修飾誘導体が固相担体に結合されている、[9]または[10]に記載のキット。
[12]前記固相担体が検査用ストリップ、プラスチックチューブ、マイクロプレート、またはガラスビーズである、[11]に記載のキット。
[13]動脈硬化性疾患の治療または予防に用いるための組成物であって、有効成分としてC5aタンパク質とC5a受容体との結合を阻害する物質を含む、組成物。
[14]前記C5aタンパク質とC5a受容体との結合を阻害する物質がC5a受容体アンタゴニストである、[13]に記載の組成物。
[15]前記被検者が75歳以上である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[16]前記被検者においてプラークが未形成または未発達である、[1]〜[8]のいずれか一項または[15]に記載の方法。
本発明の態様の一つは、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価する方法に関する。このような評価方法は、例えば、(i)被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量をインビトロで測定する工程、および(ii)C5aタンパク質の量を指標にして被検者における動脈硬化症または血管炎症の発症リスクを評価する工程を含みうる。
動脈硬化性疾患には、アテローム性動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中、狭心症、脳血栓、脳出血、腎不全が含まれる。動脈硬化とは、動脈壁の肥厚化、硬化および弾力性の喪失をいう。動脈硬化が進行すると徐々に臓器、組織への血流が徐々に制限される。アテローム性動脈硬化症は、動脈壁における脂肪プラーク、コレステロール、および他の物質の蓄積により引き起こされる動脈硬化の一形態であり、脳梗塞、心筋梗塞などの重篤な病の原因となりうる。本発明によれば、被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量を指標にして被検者における動脈硬化性疾患の発症リスクを評価することができる。本発明の方法は特に、アテローム性動脈硬化症の発症リスクを評価において好適に利用することができる。
動脈硬化と血管炎症の間には密接なかかわりがあると考えられる。本発明者らは、高脂肪食が急性炎症を誘発し、それがさらに慢性炎症を誘発することを見出した。本発明によれば、被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量を指標にして被検者における動脈硬化症の前段階としての血管炎症の発症リスクを評価することもできる。
本発明の方法においては、被検者から得た血液試料を測定に使用する。本明細書において「被検者」は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。ヒト被検者から血液を採取する工程は、本発明の方法の工程からは除外されうる。被検者由来の血液は、被検者から採取されたものを直ちに本発明の方法に供してもよいし、採取後、直接、または適当な処理を施した後に、冷蔵または凍結したものを本発明の方法に供する前に、室温に戻して使用してもよい。冷蔵または凍結前の適当な処理としては、例えば、全血にヘパリン等を添加して抗凝固処理を施した後、または血漿若しくは血清として分離すること等が含まれる。これらの処理は、当該分野で公知の技術に基づいて行なえばよい。
C5aは、補体成分C5がC5転換プロテアーゼによってC5aとC5b断片へと切断されることによって放出されるタンパク質断片である。C5bは補体カスケードの後期のイベントにおいて重要となる一方、C5aは炎症性の高いペプチドとして作用する。C5の起源は肝細胞であるが、その合成はマクロファージにおいても見られ、これはC5aの局所的な増加を引き起こしうる。C5aは走化性とアナフィラトキシン性を有し、自然免疫に不可欠であるが、適応免疫にも関係している。C5aの産生増加は多くの炎症性疾患と関連づけられている。
C5 complement component 5 [ Homo sapiens (human) ]
Gene ID: 727
mRNA: NM_001317163.1
Protein: NP_001304092.1
本発明の方法において、C5aタンパク質量の測定に利用する抗C5a抗体は、ポリクローナル抗体でも、モノクローナル抗体でも良い。抗C5a抗体は、当業者に公知の方法を用いて作製することができる。また、抗C5a抗体は、市販されている抗体を購入して利用してもよい。抗体のアイソタイプには限定は無く、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれを用いてもよい。抗体の由来する動物種にも限定は無い。また、これらの抗体の断片(例えば、Fab、F(ab’)2、Fab、Fv、Facb、Fd)を用いることもできる。これらの抗体および抗体断片は、検出に有用な標識などによる修飾を含んでいてもよい。なお、本発明において使用する抗C5a抗体は、C5タンパク質、C5a des-Arg、C5aタンパク質の断片、および/または、一部に変異を有するC5aタンパク質変異体も同様に認識するものであってもよい。
本明細書においてC5aタンパク質の「変異体」とは、C5aタンパク質の、好ましくは配列番号1に示されるヒト由来の野生型C5aタンパク質を構成するアミノ酸配列またはその部分配列において、1以上、好ましくは1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入を含む変異体、あるいは該アミノ酸配列またはその部分配列と、約80%以上、例えば約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、例えば約97%以上、約98%以上もしくは約99%以上の%同一性を示す変異体を意味する。本明細書中、「数個」とは、約10以下、例えば9、8、7、6、5、4、3または2個の整数を指す。また、「%同一性」とは、配列番号1のタンパク質のアミノ酸配列と、その変異体のアミノ酸配列との一致度が最大となるように、またこのときギャップを導入するか若しくはギャップを導入しないで、好ましくはギャップを導入して、この2つのアミノ酸配列のアラインメントを行ったとき、総アミノ酸残基数(ギャップを導入する場合、ギャップ数を含む)に対する一致したアミノ酸残基数の割合(%)を指し、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて、ギャップを導入してまたはギャップを導入しないで、決定することができる。C5aタンパク質の変異体の具体例として、被検者の人種や個体に基づく多型(SNPsを含む)、スプライス変異等が挙げられる。すなわち、本発明の方法における被検者のC5aタンパク質は、必ずしも配列番号1に示されるアミノ酸配列を有している必要はなく、その変異体であってもよい。
本明細書においてC5aタンパク質の「断片」とは、野生型C5aタンパク質、好ましくは配列番号1で示されるヒト由来の野生型C5aタンパク質、またはその変異体を構成するアミノ酸の少なくとも5個以上全数未満、少なくとも7個以上全数未満、好ましくは少なくとも8個以上全数未満、例えば、少なくとも10個以上全数未満、少なくとも15個以上全数未満、より好ましくは少なくとも20個以上全数未満、少なくとも25個以上全数未満、さらにより好ましくは少なくとも35個以上全数未満、少なくとも40個以上全数未満、少なくとも50個以上全数未満の連続するアミノ酸残基からなり、1個または複数のエピトープを保持するポリペプチド断片をいう。このような断片は、本発明において使用される抗体またはその断片と免疫特異的に結合することができる。このようなペプチド断片をC5aタンパク質に包含する理由は、たとえ断片化されていても血液中のC5aタンパク質を定量できれば、本発明の目的を達し得るし、また、血液中の上記野生型C5aタンパク質(好ましくは配列番号1で示されるヒト由来の野生型C5aタンパク質)またはその変異体の全長ポリペプチドが、例えば、血液中に存在するプロテアーゼ、ペプチダーゼ等の加水分解酵素によって断片化されて存在する場合があるからである。すなわち、本発明の方法において測定の対象となるC5aタンパク質は、必ずしも全長配列を有している必要はなく、その断片であってもよい。
本明細書において「C5aタンパク質の量」とは、被検者由来の血液(全血、血清、または血漿)中に存在するC5aタンパク質の分量をいう。本発明において、血液試料は好ましくは血清である。分量は、絶対量または相対量のいずれであってもよい。絶対量の場合、所定の血液量中に含まれるC5aタンパク質の質量または容量が該当する。相対量の場合、特定の測定値に対する被検者由来のC5aタンパク質の測定値によって表わされる相対的な値をいい、例えば、濃度、蛍光強度、吸光度が挙げられる。C5aタンパク質の量は、公知のインビトロ測定方法を用いて測定することができ、例えば、抗体などのC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質を用いて測定する方法が挙げられる。
C5aタンパク質の量をインビトロで測定する方法としては、当業者に公知の任意の方法、例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、免疫比濁法、ラテックス凝集反応、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応またはウエスタンブロット法などを用いることができる(例えば、特開2015−155795に記載の測定方法を参照)。一連の測定工程は、例えば、全自動ELISAシステムを利用して行うこともできる。
上記のインビトロ測定においては、抗C5a抗体に限らず、C5aタンパク質と特異的に結合可能な物質であれば、他の物質を使用することもできる。本明細書において「特異的に結合可能」とは、ある物質が実質的にC5aタンパク質のみと結合し得ることを意味する。この場合、C5aタンパク質の検出に影響を与えない程度の非特異的な結合が存在してもよい。なお、本発明において使用する「C5aタンパク質と特異的に結合可能な物質」は、C5タンパク質、C5a des-Arg、C5aタンパク質の断片、および/または、一部に変異を有するC5aタンパク質も同様に認識するものであってもよい。
本発明の態様の一つは、被検者から得た血液試料中において、C5a以外の他のマーカー(例えば他の公知の炎症マーカー)の量をインビトロで測定する工程をさらに含んでいてもよい。
基準値としては、例えば、健常者の対応する測定値を用いることができる。「健常者」とは、少なくとも明らかな動脈硬化症に罹患していない個体、好ましくは健康な個体をいう。さらに、健常者は、被検者と同一の生物種であることを要する。例えば、検出に供する被検者がヒト被検者の場合には、健常者もヒトでなければばらない。健常者の身体的条件は、被検者と同一または近似することが好ましい。身体的条件とは、例えば、ヒトの場合であれば、人種、性別、年齢、身長、体重等が該当する。あるいは、被検者の過去における測定値を用いることもできる。過去における測定値は、例えば、定期的または不定期的な健康診断時に測定されたものを使用することができる。測定値の経時的な評価は、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価する上で有用となりうる。
「統計学的に有意」とは、例えば、得られた値の危険率(有意水準)が5%、1%または0.1%より小さい場合が挙げられる。それ故、測定値について「統計学的に有意に大きい」とは、例えば、被検者と健常者のそれぞれから得られたC5aタンパク質の量的差異を統計学的に処理したときに両者間に有意差があり、かつ被検者の前記タンパク質の量が健常者のそれと比較して相対的に多いことをいう。例えば、血液中のC5aタンパク質の量に関して、被検者が健常者の2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、最も好ましくは5倍以上多い場合が該当する。量的差異が3倍以上であれば信頼度は高く、統計学的にも有意に多いといえる。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定はされず、例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法、Kruskal−Wallis検定、Dunnの多重解析を用いることができる。
被検者の血液中のC5aタンパク質の量が健常者の血液中のC5aタンパク質の量よりも統計学的に有意に多い場合、その被検者は動脈硬化性疾患の発症リスクが高いと評価する。特に、早期の動脈硬化性疾患であっても、評価が可能である点において、本発明の実益がある。早期の動脈硬化性疾患とは、例えば、プラークが未形成または未発達のものを言う。また、マーカータンパク質の観点からは、CRPやIL−1などが検出されないものを言う。特に、本発明の方法によれば、TNF−α、IL−1α、IL−1β、IL−7およびIL−11の一部または全部の増加が検出されない被検者においても、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価することができる。また、対象となる被験者は、IMT(血管エコー)、PWV(脈波伝播速度)などの血管パラメータが正常範囲であることを指標として特定することもできる。
本発明の態様の一つは、動脈硬化性疾患の発症リスクを評価に使用するキットに関する。本発明に係るキットは、被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量をインビトロで測定するためにC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質、例えば、抗C5a抗体、その断片、および/またはそれらの化学修飾誘導体を含むことができる。このような抗体、断片または化学修飾誘導体は固相担体に結合されていてもよい。固相担体としては、検査用ストリップ、プラスチックチューブ、マイクロプレート、またはガラスビーズなどを使用できる。上記の要素に加え、本キットには、例えば、標識二次抗体、さらには標識の検出に必要な基質、担体、洗浄バッファー、試料希釈液、酵素基質、反応停止液、精製された標準物質としてのC5aタンパク質、使用説明書なども含まれうる。
本発明の態様の一つは、有効成分としてC5aタンパク質とC5a受容体(C5aR)との結合を阻害する物質を含む、動脈硬化性疾患の治療または予防に用いるための組成物に関する。C5aタンパク質とC5a受容体との結合を阻害する物質は、例えば、C5a受容体アンタゴニスト、抗C5a抗体、抗C5aR抗体、可溶性C5aR断片でありうる。C5a受容体アンタゴニストとしては、例えば、C5aのC末端ペプチドを利用することができる。そのほか、CCX168(Avacopan)、W−54011、PMX−53なども利用されうる。補体成分C5aは動脈硬化症発症前の血管炎症が起こる前より血液中で上昇することから、本発明に係る医薬組成物は、プラークが未形成または未発達な段階の潜在的な動脈硬化性疾患の予防に特に有用であると考えられる。
生体顕微鏡(IVM)を使用して、高脂肪食(HFD)または通常の食餌(NC)を与えた野生型マウスの大腿動脈における白血球遊走を観察した。野生型マウス(C5lBL/6J、雄、7週令)はCharles river Laboより購入したものを使用した。7週令の野生型マウスに高脂肪食(HFD:1.25%コレステロール、20%脂質含有)あるいは普通食(NC)を与えた。その後、野生型マウスについては1,2,4,8週間後に大腿動脈での白血球遊走をIVMによって観察した。ペントバルビタールをマウスに腹腔内投与して麻酔し、観察中は正常な血液pHを維持するために機械的換気を行い、体温を36〜37℃に維持するために保温パッドと赤外線ランプの照射を行った。大腿部の皮膚を切開して大腿動脈と静脈を露出し、右大腿静脈よりローダミン6G(0.3 mg/kg in 300 ul PBS(-))を投与して左大腿動脈分岐上腹側を20倍水浸対物レンズを装備した蛍光顕微鏡(BX51WI)で観察した(ローダミン6Gは赤血球以外の血球を細胞内に取り込むことで蛍光を発光する)。5フレーム/秒のフレームレートで録画し、解析ソフト(MetaMorph)を使って接着あるいはローリングする白血球数を算出した。接着は3秒間以上静置している白血球とし、ローリングは次のフレームで移動したものとした。
Rat anti-mouse CD11b-FITC
Rat anti-mouse CD45 PerPC
Rat anti-mouse Ly-6G-APC
Rat anti-mouse Ly-6C-APC
Rat anti-mouse CD3-PE
Rat anti-mouse CD19-PE
蛍光染色した白血球は1%パラホルムアルデヒドで固定し、解析した。BD FACS Caliburを使って10000個の白血球についてフローサイトメトリーを行い、そのデータはFlowJo7.6で解析した。解析の際、好中球はCD45+Ly6G+CD11b+,単球はCD45+Ly6ChiCD11b+,リンパ球はCD45+CD3+とCD45+CD19+とした。白血球数はXT−2000iVを使ってカウントした。
HFD誘導性の白血球遊走における好中球の関与を確認するため、Ly−6G特異的抗体である1A8の注射によって好中球を枯渇させた後にIVM分析を行った。なお、好中球除去(枯渇)実験は以下のようにして行った。末梢血中の好中球を除去するために、野生型マウスに高脂肪食負荷後22日目と24日目に250μgのラット抗Ly6G抗体を腹腔内投与した。正常ラットIgG2a投与群をコントロール群とした。高脂肪食負荷後28日目にIVMを行い、末梢血のフローサイトメトリーと血漿中のMCP−1レベルの測定をELISA法にて行った。
HFDがどのように好中球を誘導してMCP−1を産生するのかを理解するため、HFDまたはNCを4週間与えたマウスにおいて、種々のサイトカインの血清レベルを測定した。4週間高脂肪食あるいは普通食を与えたマウスから血清を採取し、それぞれの群について8匹分を混合してサイトカインアレイに使用した。使用したサイトカインアレイは膜に20種類ほどのサイトカインに対する特異的抗体がスポットされており、そこに血清を反応させると血清中の濃度に応じてスポットが化学発光する。LAS−1000イメージアナライザーでそのスポットの濃さを定量し、普通食群を1.00として高脂肪食群の発光量の相対値を算出した。
C5aは好中球を活性化することができるため、HFDを与えずにC5aで処置したマウスにおいてIVM分析を行った。2μg/kgのマウスC5aを尾静脈より投与し、90分後にIVMによる白血球遊走の観察と末梢血白血球に対するフローサイトメトリーを行った。C5aを投与すると、マウスの大腿動脈における白血球の遊走が顕著に誘導された(図3c)。また、C5aによる処置は、野生型マウスにおける末梢好中球の数を有意に増加させた(溶媒のみ:7.38±0.17%,n=4;C5a:12.41±1.55%,n=4;P<0.05;図3d)。これらのデータは、大腿動脈におけるHFD誘導性好中球遊走においてC5aが果たす役割の重要性を示している。さらに、C5a受容体アンタゴニスト(C5aR)の注入は、HFD誘導性白血球遊走を有意に減少させた(図3e)。野生型マウスに高脂肪食を与えて0.3mg/kg/dayのC5aRアンタゴニストあるいはコントロールを毎日腹腔内投与した。4週間後にIVMによる白血球遊走の観察を行った。
HFDの持続は、血清MCP−1レベルを増加させる。HFDを与えたマウスでは、血清MCP−1レベルが4週間の時点で早くも、NCを与えたマウスに比べて有意に増加していた(HFD:268.1±40.6 pg/ml,n=8;NC:115.1±10.43pg/ml,n=8;P<0.01;図4a)。様々な組織におけるMCP−1の発現レベルを測定したところ、HFDを4週間与えた後にはMCP−1レベルが白血球において非常に高くなっていた(図4b)。好中球はMCP−1の受容体と推定されるCCR2を発現していなかったため、発明者らは、好中球がHFDに反応してMCP−1を産生したという仮説を立てた。この仮説を確認するために、好中球(Ly6g+)と単球/リンパ球(LY−6G−)において別々にMCP−1の発現レベルが測定された。図4cに示されているように、HFDは好中球ではMCP−1の発現を有意にアップレギュレートしたが、単球/リンパ球ではそうしなかった(Ly−6G−,NC:1.00±0.15,HFD:1.21±0.71;Ly−6G+,NC:1.49±0.73,HFD:5.01±1.10,n=3;P<0.05)。また、C5aRアンタゴニストは、HFD給餌マウスの血清中におけるMCP−1レベルを有意に低下させた(溶媒のみ:330.4±49.92pg/ml,n=4;C5aR:189.8±11.72pg/ml,n=4;P<0.05;図4d)。野生型マウスに高脂肪食を与えて0.3mg/kg/dayのC5aRアンタゴニストあるいはコントロールを毎日腹腔内投与した。4週間後に血中MCP−1濃度の測定をELISA法により行った。
血管の内膜および内側の領域における炎症をモニターするため、大腿動脈試料の単一細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析を行った。血管内膜に集積する白血球と接着した白血球について解析を行った。野生型マウスあるいはCCR2−/−マウスに高脂肪食あるいは普通食を4週間与えて左心室からPBS(−)を還流して脱血した。CCR2−/−マウスはDr. K. Egashiraより譲渡されたものを使用した。大腿動脈を採取して2匹分を1つにまとめて1サンプルとした。採取した血管をコラゲナーゼ処理によって単一細胞懸濁液にし、ナイロンメッシュに通して遠心した。得られた細胞に下記の抗体を反応させて染色し、フローサイトメトリーを行った。
Anti-mouse CD11b-FITC
Anti-mouse CD11c-PE
Anti-mouse CD45-PerPC
Anti-mouse/rat CCR2-APC
抗凝固剤としてEDTA、クエン酸ナトリウムあるいはヘパリンを使用して被検者より採血し、血漿あるいは血清を分離する。1次抗体を吸着させた96ウェルプラスチックマイクロプレートを0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄し、1%BSA含有PBS(−)を加える。30分静置し、0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してサンプルあるいは基準液を添加する。室温で1.5時間静置後0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄して、ビオチンラベルされた2次抗体を加え、1.5時間静置する。0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してHRP−ストレプトアビジンを加えて30分静置する。0.02%Tween20含有PBS(−)で3回洗浄してTMB基質を加えて15分後に0.6N硫酸を加えて反応を停止させる。吸光度450nmを測定して検量線からサンプル中のC5a濃度を算出する。
心臓カテーテル検査施行者99名(男性88名、女性11名;平均年齢67.2±0.8歳)を対象として、血中C5a濃度を測定した。対象者から得られた血漿について、ELISA法を用いて血中C5a濃度を測定した。96ウェルプレートに抗C5a抗体を加えて一晩静置し、プレート底面に抗体を吸着させて洗浄後5%BSA入りPBS(−)溶液を添加してブロッキングを行った。続いて調整したC5a基準溶液と血漿を各ウェルに添加し、反応させた。その後プレートを洗浄してビオチン結合した抗C5a抗体を加えて反応させ、洗浄後アビジン−HRPを添加した。洗浄後、発色基質である3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)溶液を加えて発色させてH2SO4溶液によって反応停止した。その後マイクロプレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定し、標準物質より標準曲線を作成して各サンプルのC5a濃度を算出した。
Claims (8)
- 動脈硬化性疾患の発症リスクを検査する方法であって、
前記動脈硬化性疾患が冠動脈疾患であり、
被検者から得た血液試料中におけるC5aタンパク質の量をインビトロで測定する工程
を含み、
前記被検者が、基準値と比較して統計学的に有意に増加していない血中濃度の1または複数の因子を有し、該因子がTNF−α、IL−1α、IL−1β、IL−7およびIL−11から成る群より選択される1または複数の因子であり、
前記C5aタンパク質の量の測定値が基準値と比較して統計学的に有意に大きいとき、前記被験者における冠動脈疾患である動脈硬化性疾患の発症リスクが高いことの指標となる、方法。 - 前記被検者が75歳以上である、請求項1記載の方法。
- 前記被検者においてプラークが未形成または未発達である、請求項1または2記載の方法。
- 冠動脈疾患である動脈硬化性疾患が、アテローム性動脈硬化症、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、または狭心症である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記C5aタンパク質が配列番号1に示される配列を有するポリペプチドまたはその変異体もしくは断片である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 前記測定がC5aタンパク質と特異的に結合可能な物質を用いて行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- 前記結合可能な物質が抗体である、請求項6に記載の方法。
- 前記血液試料が血清、血漿、または全血である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
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