[エンジンの概略構成]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係るターボ過給機付エンジンを詳細に説明する。先ずは、当該エンジンの概略構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るターボ過給機付エンジン1の斜視図、図2は、エンジン1のターボ過給機3の部分を一部破断して示す斜視図である。図1、図2及び他の図面において、前後、左右、上下の方向表示を付している。これは説明の便宜のためであり、実際の方向を必ずしも示すものではない。
ターボ過給機付エンジン1は、多気筒型のエンジン本体10と、エンジン本体10の左側面に連結された排気マニホールド14と、図略の吸気マニホールドと、エンジン本体10の左方に隣接して配置されたターボ過給機3とを含む。図1では除去した状態を示しているが、排気マニホールド14の周囲はマニホールドインシュレータ15で囲まれ、エンジン本体10の左側面はエンジン本体インシュレータ16で覆われ、ターボ過給機3の周囲はターボインシュレータ17で覆われている。
エンジン本体10は、直列四気筒のディーゼルエンジンであり、シリンダブロック11と、シリンダブロック11の上面に取り付けられたシリンダヘッド12と、シリンダヘッド12の上方に配置されたシリンダヘッドカバー13とを備えている。シリンダブロック11は、燃料の燃焼室を形成する4つの気筒2(後出の図3、図4にその一つが示されている)を備えている。
排気マニホールド14は、各気筒2の排気ポート25から排出される排気ガスを一つの流路に集合させるマニホールド通路141(図4)を内部に備えている。排気マニホールド14の入気側はシリンダヘッド12に連結され、出気側はターボ過給機3に接続されている。
ターボ過給機3は、エンジン本体10から排出される排気エネルギーを利用して、エンジン本体10へ導入される吸気を過給する装置である。ターボ過給機3は、エンジン本体10の全回転域で動作して吸気を過給するものであって、排気流量が所定流量以上となるエンジンの中速から高速回転域において大きな過給能力を発揮する大型ターボ部3Aと、排気流量が上記所定流量未満の少ない流量となるエンジン低速回転域で動作して吸気を過給する小型ターボ部3Bとを備えている。本実施形態では、大型ターボ部3Aの下方に小型ターボ部3Bが連設されている。大型ターボ部3A及び小型ターボ部3Bは各々、前方側に配置されるタービン室と、後方側に配置されるコンプレッサ室とを備える。ターボ過給機3内には、前記各タービン室を経由し、エンジン本体10から排気が供給される排気通路と、前記各コンプレッサ室を経由し、エンジン本体10へ導入される吸気が流通する吸気通路とが備えられている。つまり、前記各タービン室はエンジン本体10の排気経路に、前記各コンプレッサ室はエンジン本体10の吸気経路に、各々組み込まれている。
図2には、大型ターボ部3Aの大タービン室33(図3)を区画する大型ターボハウジング31(第1タービンケース)と、小型ターボ部3Bの小タービン室35(図3)を区画する小型ターボハウジング32(第2タービンケース)とが示されている。大型ターボハウジング31は、後記で説明する大スクロール通路55他を区画する二重の板金製のケースからなる板金ハウジング311と、板金ハウジング311の下端を支持する上フランジ部312とを備えている。
一方、小型ターボハウジング32は、鋳鉄性のケースからなるハウジングであり、排気通路の上流側には導入フランジ部321が、下流側には下フランジ部322が一体的に備えられている。導入フランジ部321は、排気マニホールド14との連結を行うためのフランジ部であり、ターボ過給機3への排気の入口となる部分である。下フランジ部322は、大型ターボハウジング31との連結を行うためのフランジ部である。下フランジ部322の上に上フランジ部312が載置され、両者がボルト締結されることによって、大型ターボハウジング31と小型ターボハウジング32とが一体化されている。ターボ過給機3からの排気の出口となる部分には、排気側フランジ部323が備えられている。排気側フランジ部323には、排気通路の下流側配管が接続される。
マニホールドインシュレータ15は、高温の排気が流通する排気マニホールド14から発せられる熱によって周辺部品が熱害を受けないよう遮熱するインシュレータである。エンジン本体インシュレータ16は、排気マニホールド14及びターボ過給機3から発せられる熱から、シリンダヘッドカバー13、ハーネス、センサ類を保護する。ターボインシュレータ17は、同じく高温の排気が流通する大型、小型ターボハウジング31、32の周囲を覆い、周辺部品の熱害を抑止するインシュレータである。
[エンジンの内部的構成]
図3は、ターボ過給機付エンジン1及びその周辺部品の構成と、吸気及び排気のフローとを模式的に示す図である。エンジン1は、エンジン本体10と、エンジン本体10に燃焼用の空気を導入するための吸気通路P1と、エンジン本体10で生成された燃焼ガス(排気)を排出するための排気通路P2と、これら吸気通路P1及び排気通路P2の一部を各々構成する通路を備えたターボ過給機3と、排気通路P2の下流端付近に配置された排気浄化装置70と、吸気通路P1と排気通路P2との間に配置されたEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置80とを備えている。
エンジン本体10の各気筒2には、ピストン21、燃焼室22、クランク軸23、吸気ポート24、排気ポート25、吸気弁26及び排気弁27が備えられている。図3では、1つの気筒2が示されている。ピストン21は、気筒2内に往復運動可能に収容されている。燃焼室22は、気筒2内においてピストン21の上方に形成されている。燃焼室22には、図略のインジェクタからディーゼル燃料が噴射される。前記インジェクタから噴射された燃料は、吸気通路P1から供給される空気と混合して燃焼室22内で自着火する。ピストン21は、この燃焼による膨張力で押し下げられて上下方向に往復運動する。
クランク軸23は、エンジン本体10の出力軸であり、ピストン21の下方に配設されている。ピストン21とクランク軸23とは、コネクティングロッドを介して互いに連結されている。クランク軸23は、ピストン21の往復運動に応じて、その中心軸回りに回転する。吸気ポート24は、吸気通路P1から供給される空気(吸気)を気筒2に導入する開口である。排気ポート25は、気筒2内での燃料の燃焼によって生成された排気を排気通路P2に導出するための開口である。吸気弁26は、吸気ポート24を開閉する弁であり、排気弁27は排気ポート25を開閉する弁である。
エンジン本体10は図略の制御装置によって、少なくとも低負荷時において、燃焼時の空燃比が理論空燃比よりも大きいリーンの状態で運転される、圧縮自己着火燃焼が行われるよう制御される。すなわち、低負荷時においては、燃料の供給量に対して過剰な空気を燃焼室22に導入し、リーンな空燃比下で燃焼が行われる。これにより、理論空燃比下での燃焼と比べて燃焼温度を低下させ、エンジンの排気損失及び冷却損失を低減して熱効率を向上させる。また、低負荷時には火花点火燃焼ではなく圧縮自己着火燃焼を実行することで、熱効率を向上させる。なお、前記リーン運転及び前記圧縮自己着火燃焼が実行されることで、排気の温度が比較的低くなる傾向がある。
吸気通路P1には、吸気のフローの上流側から順に、エアクリーナ41、ターボ過給機3のコンプレッサ部(大コンプレッサ室34及び小コンプレッサ室36)、インタークーラ42及びスロットルバルブ43が設けられている。吸気通路P1の下流端は、吸気マニホールド(図示せず)を介して吸気ポート24に接続されている。エアクリーナ41は、吸気通路P1に取り入れる空気を浄化する。インタークーラ42は、吸気ポート24を通して燃焼室22に送る吸気を冷却する。スロットルバルブ43は、燃焼室22に送る吸気の量を調整するバルブである。なお、吸気通路P1においてターボ過給機3の上流側には、ブローバイガスを燃焼室22に送るブローバイ還流路411が接続されている。吸気は、後記で詳述するターボ過給機3の前記コンプレッサ部を通過する際に過給される。
排気通路P2の上流端は、排気マニホールド14を介して、排気ポート25に接続されている。排気通路P2には、排気のフローの上流側から順に、ターボ過給機3のタービン部(小タービン室35及び大タービン室33)、排気浄化装置70が設けられている。排気浄化装置70は、ターボ過給機3を通過した排気を浄化する装置であって、排気中のNOxを一時的に吸蔵し後に還元するNOx吸蔵還元触媒を含む触媒装置71と、排気中の粒子状物質を捕集するDPF(Diesel Particulate Filter)72とからなる。排気が有する運動エネルギーは、当該排気がターボ過給機3の前記タービン部を通過する際に回収される。
EGR装置80は、エンジン本体10から排出された排気の一部(EGRガス)を吸気に還流させるための装置である。EGR装置80は、排気通路P2と吸気通路P1とをそれぞれ連通させる第1EGR通路81及び第2EGR通路84と、これら通路81、84をそ各々開閉する第1EGRバルブ82及び第2EGRバルブ85とを有する。第1EGR通路81には、EGRクーラ83が設けられている。EGRガスは、第1EGR通路81の通過途中にEGRクーラ83により冷却されて、その後、吸気通路P1に流入する。一方、第2EGR通路84にはEGRクーラは設けられておらず、EGRガスは高温のまま吸気通路P1に流入可能である。第1、第2EGR通路81、84は、排気通路P2のターボ過給機3よりも上流側の部分と、吸気通路P1のスロットルバルブ43よりも下流側の部分とを連通している。従って、ターボ過給機3の前記タービン部へ導入される前の排気が、吸気と共に吸気ポート24に供給される。
[ターボ過給機の詳細]
続いて、本実施形態に係るターボ過給機3の内部構造について、上掲の図3と、ターボ過給機3の概略断面を示す図4とを参照して説明する。既述の通りターボ過給機3は、中速〜高速回転域動作用の大型ターボ部3Aと低速回転域動作用の小型ターボ部3Bとを備える。大型ターボ部3Aは、大タービン室33及び大コンプレッサ室34を備える。同様に、小型ターボ部3Bは、小タービン室35及び小コンプレッサ室36を備える。大タービン室33及び小タービン室35は排気通路P2に連通しており、大コンプレッサ室34及び小コンプレッサ室36は吸気通路P1に連通している。
本実施形態では、大タービン室33は、図4に示す大型ターボハウジング31の板金ハウジング311で区画されている。板金ハウジング311は、板金製のケースであって、インナーシェル31Aと、このインナーシェル31Aの外側を覆うアウターシェル31Bとで構成される二重構造を有している。インナーシェル31Aとアウターシェル31Bとの間には空間が存在し、該空間は断熱空間Hとして作用する。板金ハウジング311として用いられる板金としては、例えば、冷間圧延鋼鈑、熱圧延鋼鈑などの各種の鋼鈑、ステンレス鋼鈑、アルミニウム合金板、銅合金板等を例示することができる。大型ターボハウジング31は、大部分が板金にて形成されていることから熱容量は小さく、排気の熱を奪いにくい特性を有している。
一方、小タービン室35は、小型ターボハウジング32で区画されている。小型ターボハウジング32は、鋳鉄製のケースであって、鉄系の材料を鋳型に注型して形成された部材である。鋳鉄としては、鉄に炭素及びケイ素などを含有させた合金からなる各種の鋳鉄を用いることができ、例えば普通鋳鉄、白鋳鉄、まだら鋳鉄等を用いることができる。小型ターボハウジング32は、鋳鉄製であるため、比較的熱容量が大きい特性を有する。
大タービン室33には大タービン33T(第1タービン)が、大コンプレッサ室34には大ブロワー34Bが、各々収容されている。大タービン33Tと大ブロワー34Bとは、大タービン軸37で連結されている。すなわち、大タービン軸37の一端に大タービン33Tが取り付けられ、他端に大ブロワー34Bが取り付けられている。大タービン33Tは、排気のフロー(運動エネルギー)を受け取り、大タービン軸37の軸回り回転する。大ブロワー34Bは、同じく大タービン軸37の軸回りに回転して吸気を圧縮(過給)する。大タービン33Tが排気の運動エネルギーを受けて回転すると、大ブロワー34Bも大タービン軸37の軸回りに一体回転する。
大タービン33Tとしては、複数の翼を有しこれら翼に排気が衝突することで大タービン軸37の軸回りに回転するインペラを用いることができる。この大タービン33Tには、排気の流速(タービン容量)を変更するVGT(Variable Geometry Turbine)39(流速変更手段)が付設されている。図5は、大タービン33Tに対して組み付けられたVGT39を概略的に示す断面図である。なお、図4ではVGT39の記載は省かれており、図5では板金ハウジング311のうちインナーシェル31Aだけが描かれている。
VGT39は、大タービン33Tの外周部に配置され、角度変更が可能な複数のノズルベーン391を含む。ノズルベーン391の角度が調整されることによって、大タービン33Tに流入する排気の流路面積が変更され、これにより排気の流速が調整される。ノズルベーン391の角度は、VGTアクチュエータ39Aによって調整される。VGT39については、大型ターボハウジング31の構造と共に、図7に基づいて後記でさらに詳述する。
小タービン室35には小タービン35T(第2タービン)が、小コンプレッサ室36には小ブロワー36Bが、各々収容されている。小タービン35Tと小ブロワー36Bとは、小タービン軸38で連結されている。すなわち、小タービン軸38の一端に小タービン35Tが取り付けられ、他端に小ブロワー36Bが取り付けられている。小タービン35Tは、排気の運動エネルギーを受け取り、小タービン軸38の軸回り回転する。小ブロワー36Bは、同じく小タービン軸38の軸回りに回転して吸気を圧縮(過給)する。小タービン35Tが排気の運動エネルギーを受けて回転すると、小ブロワー36Bも小タービン軸38の軸回りに一体回転する。本実施形態では、小タービン35Tとして、流入する排気の流速を変更不能な、いわゆるFGT(Fixed Geometry Turbine)が用いられている。
大タービン33Tの容量は小タービン35Tの容量よりも大きく、また、大ブロワー34Bの容量は小ブロワー36Bの容量よりも大きく設定されている。これにより、大型ターボ部3Aは、小型ターボ部3Bよりも大きな流量の排気によって大タービン33Tを回転させ、大ブロワー34Bの回転によってより大きな流量の吸気を過給することが可能である。
ターボ過給機3には、その機内において吸気通路P1の一部を担う通路として、過給機内吸気通路44が備えられている。過給機内吸気通路44は、吸気導入通路45、第1主通路46、第2主通路47、出口通路48及び吸気バイパス通路49を含む。吸気導入通路45は、ターボ過給機3内において最も上流側の吸気通路であり、大タービン軸37の軸方向から大コンプレッサ室34内の大ブロワー34Bに向かう通路である。第1主通路46は、大ブロワー34Bの外周部から、小コンプレッサ室36内の小ブロワー36Bの軸心へ向けて吸気を案内する通路である。第2主通路47は、小ブロワー36Bの外周部から、出口通路48に向かう通路である。出口通路48は、ターボ過給機3内において最も下流の吸気通路であり、インタークーラ42に接続される通路である。このように、吸気のフローにおいて、大ブロワー34Bが小ブロワー36Bの上流側に配置されている。
吸気バイパス通路49は、小コンプレッサ室36をバイパスする通路、すなわち、小ブロワー36Bに吸気を与えることなく、吸気を下流に導く通路である。具体的には吸気バイパス通路49は、大コンプレッサ室34と小コンプレッサ室36とを繋ぐ第1主通路46の途中から分岐し、第2主通路47と共に出口通路48に合流している。吸気バイパス通路49には、該通路49を開閉する吸気バイパス弁491が配置されている。
吸気バイパス弁491が全閉となり吸気バイパス通路49を閉鎖している状態では、吸気の全量が小コンプレッサ室36に流入する。一方、吸気バイパス弁491が開弁している状態では、吸気の多くは小コンプレッサ室36をバイパスし、吸気バイパス通路49を通して下流側に流れる。すなわち、小コンプレッサ室36に収容されている小ブロワー36Bは、吸気のフローに対して抵抗となるため、吸気バイパス弁491が開弁している状態では、吸気の多くはより抵抗の小さい吸気バイパス通路49に流入する。吸気バイパス弁491は、負圧式のバルブアクチュエータ492により開閉される。
ターボ過給機3には、その機内において排気通路P2の一部を担う通路として、過給機内排気通路50が備えられている。過給機内排気通路50は、排気導入通路51(導入通路)、連絡通路52、小スクロール通路53(第2スクロール通路)、ターボ間通路54、大スクロール通路55(第1スクロール通路)、排出通路56及び排気バイパス通路57(バイパス通路)を含む。図4から明らかな通り、排気導入通路51、連絡通路52及び小スクロール通路53は小型ターボハウジング32内に形成される通路、大スクロール通路55及び排出通路56は大型ターボハウジング31内に形成される通路、ターボ間通路54及び排気バイパス通路57は両ハウジング31、32に跨って形成される通路である。本実施形態では、小タービン35T(即ち小型ターボ部3B)が、排気通路P2において大タービン33T(即ち大型ターボ部3A)の上流側に配置されている。
排気導入通路51は、ターボ過給機3内において最も上流側の排気通路であり、エンジン本体10側から排気を受け入れる通路である。連絡通路52は、排気導入通路51の下流に連なり、排気を小タービン室35に向けて導く通路である。小スクロール通路53は、小タービン室35の一部を形成しており、小タービン35Tへ向けて排気を導く通路である。連絡通路52の下流端は、小スクロール通路53の上流部53Uに連なっている。小スクロール通路53は、小タービン35Tの外周を周回するように配置された渦巻き状の通路であり、下流に向けて流路幅が徐々に狭くなっている。排気は、小スクロール通路53から小タービン35Tの径方向中心に向けて流入し、小タービン35Tを小タービン軸38の軸回りに回転させる。
ターボ間通路54は、小タービン35Tと大スクロール通路55の上流部55Uとを繋ぐ通路である。ターボ間通路54の上流部分は、小タービン室35から小タービン35Tの軸方向に延び出す部分であり、下流部分は、上流部55Uに連なる部分である。小タービン35Tの外周から径方向内側に流入し小タービン35Tに対して膨張仕事を為した排気は、ターボ間通路54から取り出され、大タービン33Tに向かうことになる。
大スクロール通路55は、大タービン室33の一部を形成しており、大タービン33Tへ向けて排気を導く通路である。大スクロール通路55は、大タービン33Tの外周を周回するように配置された渦巻き状の通路であり、下流に向けて流路幅が徐々に狭くなっている。排気は、大スクロール通路55から大タービン33Tの径方向中心に向けて流入し、大タービン33Tを大タービン軸37の軸回りに回転させる。排出通路56は、ターボ過給機3内において最も下流の排気通路であり、大タービン室33から大タービン33Tの軸方向に延び出している。大タービン33Tの外周から径方向内側に流入し大タービン33Tに対して膨張仕事を為した排気は、排出通路56から取り出される。排出通路56の下流端は、排気側フランジ部323に設けられた開口であり、下流の排気浄化装置70に至る排気通路に接続される。
排気バイパス通路57は、小タービン室35をバイパスする通路、すなわち、小タービン35Tに排気を作用させることなく、排気を下流(大タービン33T)に導く通路である。具体的には排気バイパス通路57は、排気導入通路51と連絡通路52との間から分岐し、大スクロール通路55の上流部55Uに合流しており、小スクロール通路53及びターボ間通路54をバイパスしている。排気バイパス通路57には、該通路47を開閉する排気バイパス弁6(バイパス弁)が配置されている。排気バイパス弁6は、実際に排気バイパス通路57を開閉する弁本体61と、弁本体61を動作させるバルブアクチュエータ6Aとを含む。
排気バイパス弁6(弁本体61)が全閉となり排気バイパス通路57を閉鎖している状態では、排気の全量が小タービン室35に流入する。なお、EGR装置80が作動して、EGRガスの還流が実施されている場合は、エンジン本体10から排出された排気から前記EGRガスを除いたガスの全量が、小タービン室35に流入する。一方、排気バイパス弁6が開弁している状態では、排気の多くは小タービン室35をバイパスして下流側の大タービン室33(大スクロール通路55)に流れ込む。すなわち、小タービン室35に収容されている小タービン35Tは、排気のフローに対して抵抗となるため、排気バイパス弁6が開弁している状態では、排気の多くはより抵抗の小さい排気バイパス通路57に流入する。つまり、排気は、小タービン35Tを通過せずに(小型ターボ部3Bが動作せずに)下流側に流れる。
換言すると、排気バイパス弁6が如何に動作しようとも、排気は必ず大タービン室33の大タービン33Tを通過する。つまり、常に大型ターボ部3Aが動作して吸気の過給を行わせることができるので、ターボ過給機3による吸気の過給圧を高くし、エンジンシステム全体でのエネルギー効率を高めることができる。
基本動作として、排気バイパス弁6は、エンジン本体10が低速回転域で動作している場合には全閉とされ、連絡通路52及び小スクロール通路53を通して小タービン35Tに排気が供給される。小タービン35Tはイナーシャが小さいため、たとえ排気流量が小さくても早期に回転数が上昇し、小ブロワー36Bによる過給力を高めることができる。その後、排気は、ターボ間通路54及び大スクロール通路55を通過し、大タービン33Tに供給される。すなわち、低速回転域では大タービン33T及び小タービン35Tの双方が回転し、これに伴い大ブロワー34B及び小ブロワー36Bも回転する。従って、大型ターボ部3A及び小型ターボ部3Bの双方が動作して、吸気を過給することができる。
この際、大タービン33Tに付設されているVGT39の開度は小さく設定される。すなわち、図略の制御装置は、VGTアクチュエータ39Aがノズルベーン391を所定角度だけ回動させ、排気の流路面積が小さくなるように制御する。これにより、大タービン33Tに流入する排気の流速が高められ、低速回転域における大ブロワー34Bによる過給力を高めることができる。
一方、エンジン本体10が中速〜高速回転域で動作している場合に、排気バイパス弁6は全開とされ、排気は排気バイパス通路57を通して専ら大タービン33Tに供給され、大型ターボ部3Aのみが動作して、吸気を過給するようになる。つまり、排気のフロー抵抗を極力抑えて、大タービン33Tに排気を供給することができるので、エネルギー効率を高めることができる。この際、VGT39の開度は、予め設定された所定の過給圧を得るための基本VGT開度とされる。
バルブアクチュエータ6Aは、電動式のアクチュエータ装置からなり、弁本体61を単純に開閉させるだけでなく、全閉から全開の間で弁本体61の開度を調整することが可能である。弁本体61の開度は、運転条件毎に、過給圧が目標の圧力になるように設定される。目標の過給圧及び弁本体61の開度は、エンジン回転数とエンジン負荷とによって予め設定されている。バルブアクチュエータ6Aは、その設定に従い、弁本体61の開度を制御する。
[ターボ過給機内の排気通路の詳細]
続いて、主に図4を参照して、ターボ過給機3内における過給機内排気通路50の具体的な配置関係、通路の形状等について詳述する。まず、排気導入通路51は、上述の導入フランジ部321の端面に開口を有し、左方に延びる通路である。この排気導入通路51は、大型ターボ部3Aと小型ターボ部3Bとの間に配置されている。詳しくは、大型ターボ部3Aと小型ターボ部3Bとは上下方向に配置され、排気導入通路51はこれらターボ部3A、3Bの間の中間の高さ位置に配置されている。
エンジン本体10(シリンダヘッド12)の左側面には、排気ポート25の出気開口が設けられている。排気マニホールド14は、右端側に入気側フランジ部142を、左端側に出気側フランジ部143を有しており、これらフランジ部142、143にはマニホールド通路141の左右端部開口が設けられている。入気側フランジ部142は、排気ポート25の出気開口に位置合わせしてシリンダヘッド12に結合される。出気側フランジ部143は、導入フランジ部321と結合される。これにより、排気ポート25と排気導入通路51(過給機内排気通路50)とがマニホールド通路141を介して連通状態となり、図4において矢印Fで示すように、エンジン本体10側からの排気をターボ過給機3内へ取り入れ可能とされている。
排気導入通路51と、小スクロール通路53の上流部53Uと大スクロール通路55の上流部55Uとの間には、これらを繋ぐY字型の分岐通路50Bが配置されている。なお、上流部53U、55Uとは、スクロール通路53、55が各タービン33T、35Tの軸心に向けて渦を巻始めるスクロール始点部分である。この分岐通路50Bのうち、排気導入通路51の下流端より下方へ向かい上流部53Uに繋がる通路が連絡通路52であり、同下流端より上方へ向かい上流部55Uに繋がる通路が排気バイパス通路57である。
小スクロール通路53は、図4において反時計方向にスクロールする通路である一方、大スクロール通路55は時計方向にスクロールする通路である。つまり、両スクロール通路53、55が渦を巻く方向は互いに反対方向に設定されている。これは、スクロール通路53、55の上流部53U、55Uを次の通りに配置したことによる。
小スクロール通路53は、上流部53Uがエンジン本体10の左側面に対して小タービン軸38よりも遠い側(左側)に配置され、上流部53Uから下流側に向けて渦を巻く部分が小タービン軸38よりもエンジン本体10に近い側(右側)に向かうようにスクロールした通路である。小スクロール通路53の上流部53Uは、上向きに開口している。小スクロール通路53は、この上流部53Uから右下方向に向かい、小タービン軸38の下方側を通過し、その後に小タービン軸38の右方側を抜けて上方に向かっている。もちろん、小タービン35Tの周囲を周回した小スクロール通路53の下流端は、小タービン軸38よりも左側に位置している。
大スクロール通路55も同様に、上流部55Uがエンジン本体10の左側面に対して大タービン軸37よりも遠い側(左側)に配置され、上流部55Uから下流側に向けて渦を巻く部分が大タービン軸37よりもエンジン本体10に近い側(右側)に向かうようにスクロールした通路である。大スクロール通路55の上流部55Uは、下向きに開口している。大スクロール通路55は、この上流部55Uから右上方向に向かい、第1タービン軸37の上方側を通過し、その後に大タービン軸37の右方側を抜けて下方に向かっている。もちろん、大タービン33Tの周囲を周回した大スクロール通路55の下流端は、大タービン軸37よりも左側に位置している。
このように小スクロール通路53と大スクロール通路55とは、それぞれの上流部53U、55Uが概ね上下方向において向き合うように配置されている。また、排気導入通路51は、上流部53U、55Uの中間に位置している。それゆえ、上述のY字型のコンパクトな分岐通路50Bにて、両スクロール通路53、55を排気導入通路51に繋ぐことが可能である。
また、両スクロール通路53、55が渦を巻く方向が互いに反対方向であることから、小タービン35Tの回転方向と大タービン33Tの回転方向も反対である。すなわち、小タービン35Tは、小スクロール通路53のスクロール方向に沿って、図4に示す断面では、小タービン軸38の軸回りに反時計方向へ回転する。一方、大タービン33Tは、大スクロール通路55のスクロール方向に沿って、大タービン軸37の軸回りに時計方向へ回転する。
さらに、このような大、小スクロール通路53、55の配置は、それぞれの上流部53U、55Uに連なる上流側通路を、直線状乃至は緩やかな湾曲状の排気通路とすることを可能としている。図4に示されている通り、連絡通路52の少なくとも上流部53Uから上流側に延びる部分である上流側通路53UAは、概ね直線状に下方に延びる通路である。また、ターボ間通路54の少なくとも上流部55Uから上流側に延びる部分である上流側通路55UAも、概ね直線状に上方に延びる通路である。従って、排気は、大、小スクロール通路53、55の上流部53U、55Uに、それぞれ直線的なルートに沿ってフロー抵抗が少ない状態で進入することができる。
ターボ間通路54は、小タービン35Tの配置位置から当該小タービン35Tの軸方向に延び出し、左上方向に経路を変え、上述の略直線状の上流側通路55UA(ターボ間通路54の下流付近の通路)を通して大スクロール通路55の上流部53Uへ繋がっている。既述の通り、排気バイパス通路57も、上流部53Uへ繋がる排気通路である。両者の配置関係は、ターボ間通路54が排気バイパス通路57よりもエンジン本体10の左側面に対して遠い側に配置される関係にある。
上述の通り、上流部53Uはエンジン本体10の左側面に対して大タービン軸37よりも遠い側に配置されている。この上流部53Uに、ターボ間通路54の下流端54E及び排気バイパス通路57の下流端57Eが合流しているのであるが、両者の位置関係は、下流端57Eの方が下流端54Eよりもエンジン本体10に対して近い側において上流部53Uに対向する関係にある。
このように、排気バイパス通路57及びその下流端57Eが、ターボ間通路54及びその下流端54Eよりも、排気を吐出するエンジン本体10により近い側に配置されることから、排気導入通路51と上流部53Uとを短絡的に繋ぐ排気バイパス通路57を、短く且つ湾曲度合いが小さい排気通路として設定し易くなる。
他方、このような配置関係は、ターボ間通路54における、上流部53Uの上流側通路55UAを直線状乃至は緩やかな湾曲状に設定し易いレイアウトである。つまり、排気バイパス通路57をエンジン本体10に近い側に配置することで、下向きに開口する上流部53Uの下方にスペースを取り易くなる。さらに本実施形態では、小タービン軸38の方が大タービン軸37よりもエンジン本体10の左側により近い位置に配置されており、小タービン35Tの径も小さいことから、小型ターボ部3Bの左側方に空きスペースを作り易い。従って、上流部53Uの下方スペースを利用して、ターボ間通路54の下流部分である上流側通路55UAを略直線状に設定し易いものである。
なお、小タービン軸38をエンジン本体10により近く配置することは、連絡通路52を略直線状に設定することにも寄与している。小タービン軸38を大タービン軸37よりも右方に配置することで、小スクロール通路53の左方にスペースを取り易くなる。上流部53Uが小タービン軸38よりも左方に位置し、小スクロール通路53の径が大スクロール通路55の径よりも小さいことも相俟って、前記左方スペースは相応の広さを確保できる。従って、この左方スペースを利用して、左方に延びる排気導入通路51から下方に分岐する連絡通路52について、その上流側通路53UAを略直線状にして上流部53Uに合流させることができる。
[大型ターボハウジングの詳細]
続いて、大型ターボハウジング31について詳述する。図6は、大型ターボハウジング31の構造を示す断面図(大タービン軸37の延在方向と直交する方向の断面図)、図7は、図6のVII−VII線断面図である。既述の通り、大型ターボハウジング31の板金ハウジング311は、板金製のインナーシェル31Aと、その外側を覆う板金製のアウターシェル31Bとの二重構造体からなる。インナーシェル31Aは、上方側に配置されるスクロールハウジング313と、下方側に配置された導入ハウジング314との組合せ体からなる。
スクロールハウジング313は、上述の大スクロール通路55を区画するためのハウジングであり、大タービン33Tの周囲に時計方向に渦を巻く空間を形成している。スクロールハウジング313の左下には、下方に向けた開口であるスクロール入口313Aが備えられている。このスクロール入口313Aは、上述した大スクロール通路55の上流部55Uに相当する。スクロールハウジング313の内面と大タービン33Tの外周との間の断面積は、スクロール入口313Aから時計方向にスクロールするに連れて、徐々に小さくなっている。
導入ハウジング314は、上フランジ部312に取り付けられる上流端314A(下端部)と、スクロール入口313Aに入り込む下流端314B(上端部)との2つの開口を備えたハウジングである。上流端314Aは、図6に示されている通り、ターボ間通路54の下流端54E及び排気バイパス通路57の下流端57Eに跨る左右幅を有している。導入ハウジング314の左方部分314Lは、概ね鉛直方向に延びており、その下端部は上フランジ部312の左端側の内壁面312Cに固着されている。導入ハウジング314の右方部分314Rは、下流端314Bから右斜め下方向に延び、右上方向に膨らみを持った曲面を有している。右方部分314Rの下端部は、上フランジ部312の右端側に設けられた固定溝部312Bに嵌め込まれ、固定されている。
下流端54E、57Eに連なる導入ハウジング314は、それぞれターボ間通路54及び排気バイパス通路57の下流部分を構成しているとも言える。ターボ間通路54の下流端54Eから供給される排気は、導入ハウジング314の左方部分314Lにて鉛直上方にガイドされて、スクロール入口313Aに入る。排気バイパス通路57の下流端57Eから供給される排気は、右方部分314Rの曲面にガイドされて、同じくスクロール入口313Aに入る。このように、大スクロール通路55及び排気バイパス通路57の下流付近が、板金製のインナーシェル31Aで形成されている。このため、弁本体61が開姿勢であるときは、ターボ過給機3に導入された排気は、経路の大部分が板金によって形成された排気通路を通過することになる。
アウターシェル31Bは、左右方向の断面において、下向きに開口するU字型の形状を有している。インナーシェル31Aは、アウターシェル31Bのキャビティに完全に収容されており、インナーシェル31Aから排気の漏れが発生した場合でも、これを外部に漏らさないようガスシールの役目を果たしている。さらに、アウターシェル31Bは、高温の排気が通過するインナーシェル31Aの外周部に、断熱空間Hを形成する役目も果たし、ターボインシュレータ17と共に周辺部品への熱害を防止している。アウターシェル31Bの下端部は、上フランジ部312の上面に突設された固定リング部312Aに固着されている。
図7を参照して、インナーシェル31A及びアウターシェル31Bの後端部は、大タービン33Tと大ブロワー34Bとの間に配置されているベース板33Aに取り付けられている。ベース板33Aは、大タービン軸37を回転自在に支持する軸受け部を備える。一方、インナーシェル31A及びアウターシェル31Bの前端部は、排出通路56を形成する排出円筒管561の外周面に固着されている。図7に示すように、インナーシェル31Aとアウターシェル31Bとの間には、径方向だけでなく、軸方向(前後方向)にも断熱空間Hが設けられている。
インナーシェル31Aの内部には、大タービン33Tだけでなく、VGT39も収容されている。大タービン33Tへ流入する排気の流速を調整するノズルベーン391は、大タービン33Tの外周に配置されている(図5も参照)。ノズルベーン391は、前後方向に延びる支軸391aに固定され、該支軸391aの軸回りに、所定の回転角の範囲で揺動自在である。VGT39は、前後方向に間隔をおいて配置されたマウントリング392とフロントリング393とを含み、両者間にノズルベーン391が介在されている。マウントリング392は、大タービン軸37を前後方向に貫通させる中心開口を備えた円板部材であり、ベース板33Aに固定されている。フロントリング393は、ノズルベーン391と対向するフランジ部を後端に備えた円筒部材であり、前端部分が排出円筒管561に内挿されている。
マウントリング392の後方にはドライブリング394が配置されている。支軸391aの前端はフロントリング393の前記フランジ部で軸支され、後端はマウントリング392を貫通してドライブリング394にて軸支されている。このドライブリング394は、大タービン軸37を軸中心として回動可能である。ドライブリング394にはクランク部395が接続されており、クランク部395の後端からはピン395Aが突設されている。ピン395Aには、VGTアクチュエータ39Aによって進退移動されるロッド396(図5)がヒンジ結合されている。
VGTアクチュエータ39Aがロッド396を進退移動させると、ドライブリング394が軸回りに回転し、これに連動してノズルベーン391も支軸391aに回転し、その角度が変更される。例えば、VGTアクチュエータ39A及びロッド396によって、ノズルベーン391が閉方向(隣接するノズルベーン391同士の間隔を狭める方向)に駆動されると、大タービン33Tに流入する排気の流路の面積が小さくなる。これにより、大タービン33Tに流入する排気の流速が増大する。この動作は、既述の通り、エンジン本体10が低速回転域で動作し、排気バイパス弁6が閉とされている場合に実行される。
[排気のフローについて]
次に、図4、図8及び図9を参照して、ターボ過給機3内における排気のフローを、排気バイパス弁6の動作状態と関連付けて説明する。排気バイパス弁6は、弁本体61、保持片62及び回動軸63を備えている。弁本体61は、排気バイパス通路57を開閉する。保持片62は、弁本体61の背面に配置され、その一端側で弁本体61を保持している。回動軸63は、大タービン軸37と略平行な方向(前後方向)に延び、保持片62の他端側に結合されている。回動軸63は、バルブアクチュエータ6Aによって、その軸回りに回動可能である。
回動軸63は、保持片62を介して弁本体61を片持ち支持している。従って、回動軸63が軸回りに回動することで、弁本体61も回動軸63を軸心として回動する。バルブアクチュエータ6Aが回動軸63を軸回りに回動させることで、弁本体61は排気バイパス通路57を閉じる姿勢(図8)と、排気バイパス通路57を開放する姿勢(図9)との間で姿勢変更する。
図8は、エンジン本体10の低速回転域における、ターボ過給機3内の排気のフローを示す断面図である。低速回転域では、バルブアクチュエータ6Aは弁本体61を閉姿勢とし、排気バイパス通路57が閉じられる。この場合、エンジン本体10側から吐出されてくる排気(矢印F)は、ターボ過給機3の小型ターボハウジング32に備えられている排気導入通路51に進入する。排気は、連絡通路52によって下方に導かれ、小スクロール通路53の上流部53Uに至る(矢印F1)。そして排気は、小タービン35Tに作用すべく、小タービン35Tの外周部の小スクロール通路53から小タービン軸38に向かう方向に流入し、小タービン35Tを反時計方向R2に回転させる。
その後、排気は、小タービン35Tの軸方向から導出され、ターボ間通路54に進入する。排気は、ターボ間通路54に沿って上方へ導かれ、上流側通路55UAを経て大スクロール通路55の上流部55Uに至る(矢印F2)。このとき、排気は小型ターボハウジング32から大型ターボハウジング31内へ流入することにもなる。そして排気は、大タービン33Tに作用すべく、大タービン33Tの外周部の大スクロール通路55から大タービン軸37に向かう方向に流入し、大タービン33Tを時計方向R1に回転させる。しかる後、排気は大タービン33Tの軸方向から導出され、排出通路56(図7)を通してターボ過給機3の機外へ排出され、排気浄化装置70へ向かう。
図9は、エンジン本体10の中速及び高速回転域における、ターボ過給機3内の排気のフローを示す断面図である。中速〜高速回転域では、バルブアクチュエータ6Aは弁本体61を開姿勢とし、排気バイパス通路57が開かれる。この場合、エンジン本体10側から吐出されてくる排気(矢印F)は、排気導入通路51を経て、フロー抵抗が小さい排気バイパス通路57へ専ら流入する。そして排気は、排気バイパス通路57に沿って左上方へ導かれ、大スクロール通路55の上流部55Uへ、右寄りの部分から流入する(矢印F3)。このとき、排気は小型ターボハウジング32から大型ターボハウジング31内へ流入することにもなる。以下同様に、排気は、大スクロール通路55から大タービン33Tに対して流入し、大タービン33Tの軸方向から導出されて排出通路56へ向かう。
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係るターボ過給機付エンジン1によれば、次のような作用効果を奏する。ターボ過給機3は、大タービン33Tを収容する大型ターボハウジング31を含み、エンジン本体10の中速から高速回転域で主に動作する大型ターボ部3Aと、小タービン35Tを収容する小型ターボハウジング32を含み、エンジン本体10の低速回転域で主に動作する小型ターボ部3Bとを備える。そして、小型ターボハウジング32は鋳鉄製のケースである一方、大型ターボハウジング31は板金製のケースである。
大型ターボハウジング31が板金製のケースとされるので、当該大型ターボハウジング31の熱容量を小さくすることができる。大型ターボハウジング31は、大タービン33Tを収容するので、自ずとそのサイズが大きくなる。とりわけ、本実施形態ではVGT39が大タービン33Tに付設されているので、前記サイズはより大型化する。このような大サイズの大型ターボハウジング31を、熱容量が小さい部材によって形成することで、排気の熱を奪い難くすることができる。従って、ターボ過給機3の下流側に配置される排気浄化装置70(触媒装置71)に向かう排気の熱損を小さくすることができ、当該触媒装置71の活性化温度の維持に寄与することができる。
一方、小型ターボ部3Bの小型ターボハウジング32については鋳鉄製のケースとされるので、微細な精度でケースの成型可能となる。このため、小タービン35Tの翼車の先端と小型ターボハウジング32の内面との間のチップクリアランスを、タービン効率を高めることができる狭い幅に、精度良く設定することが可能となる。従って、小型ターボ部3Bが主に動作する低速回転域において過給特性を良好なものとすることができ、例えば低速回転域で加速が行われる際の要求トルクにエンジン1が十分に応えるようにすることができる。なお、小型ターボハウジング32は小サイズとなるので、これを鋳鉄製のケースとしてもさほど排気の熱を奪うことはない。
また、ターボ過給機3は、小型ターボ部3Bが過給機内排気通路50において大型ターボ部3Aの上流に配置される2ステージターボ過給機である。過給機内排気通路50は、上流側から順に並ぶ排気導入通路51、連絡通路52、小スクロール通路53、ターボ間通路54及び大スクロール通路55と、排気導入通路51と大スクロール通路55とを短絡する排気バイパス通路57とを含む。排気バイパス通路57には排気バイパス弁6が配置され、該バイパス弁6が開とされたとき、排気は排気バイパス通路57から大スクロール通路55に至る。このように、排気が専ら大型ターボ部3Aに導入される場合には、排気は、排気導入通路51を通過した後は、殆ど板金製のケースからなる大型ターボハウジング31を通過し、触媒装置71に至る。従って、中速から高速回転域において、ターボ過給機3を通過する排気の熱損を小さくすることができる。
大型ターボハウジング31が、大スクロール通路55を区画するインナーシェル31Aと、このインナーシェル31Aの外側を覆うアウターシェル31Bとで構成される板金製ケースの二重構造体からなる。一般に、板金製のケースは、継ぎ目や他の部材との接合部分においてガス漏れの懸念が生じる。しかし、大型ターボハウジング31は二重構造とされているので、インナーシェル31Aから排気の漏れが生じたとしても、アウターシェル31Bがガスシールの役目を果たす。また、両シェル間の断熱空間Hが、断熱作用を果たす。従って、ターボ過給機3の周辺部品の熱劣化を抑止することができる。
大型ターボ部3Aは、大タービン33Tに流入する排気の流路面積を変更してこの排気の流速を変更するVGT39を備えている。VGT39を具備させることで、大タービン33Tの翼車の先端と大型ターボハウジング31の内面との間のチップクリアランスは、さほど精度が求められなくなる。つまり、大型ターボハウジング31を板金製のケースとすることによって加工精度が低下しても、タービン効率に大きな影響を与えない。従って、VGT39を具備させる構成は、本実施形態のターボ過給機付エンジン1に好適である。
また、エンジン本体10は、低負荷時にリーン運転が実行される、圧縮自己着火エンジンである。理論空燃比よりも低い混合気で運転されるリーン運転では、排気の温度が比較的低くなる。従って、大型ターボハウジング31を板金製のケースとして熱損を小さくした本実施形態のターボ過給機付エンジン1は、触媒装置71の活性化温度の維持という観点で、リーン運転に好適である。また、排気温度が比較的低いことは、大型ターボハウジング31の熱変形による板金部分のクラックやフランジ合わせ面の変形による排気ガス漏れを抑制することにも貢献するので好ましい。
[変形実施形態の説明]
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば上記実施形態では、板金製の大型ターボハウジング31が、インナーシェル31Aとアウターシェル31Bとの二重構造とされた例を示した。これに代えて、大型ターボハウジング31を単層の構造としても良く、或いは三重構造としても良い。また、上記実施形態では、排気通路において小型ターボ部3Bの下流に大型ターボ部3Aが直列に配置される例を示した。第1、第2ターボ部は、排気導入通路51にパラレルに接続されるものであっても良い。
上記実施形態では、小型ターボ部3Bの上に大型ターボ部3Aが配置される態様を例示した。大型ターボ部3A及び小型ターボ部3Bは、上下方向に並ぶ態様に限らず、水平方向、斜め方向に並ぶ態様としても良い。また、大型ターボ部3A及び小型ターボ部3Bが本発明の条件を満たす限りにおいて、さらに他のターボ部が備えられていても良い。