送信素子101は伝送線路103aを介して、ダンピング抵抗102a及び遅延素子105bに接続され、ダンピング抵抗102aは遅延素子105aに接続されている。また、遅延素子105bはダンピング抵抗102bに接続され、受信素子104は伝送線路103bを介して、遅延素子105a及びダンピング抵抗102bに接続されている。
言い換えると、送信素子101は、伝送線路103aの一端に接続され、ダンピング抵抗102a及び遅延素子105bは、伝送線路103aの他端に接続されている。また、遅延素子105a及びダンピング抵抗102bは、伝送線路103bの一端に接続され、受信素子104は、伝送線路103bの他端に接続されている。
遅延素子105a、105bは、信号の伝搬遅延時間を制御する信号配線であって、例えば図1(b)に示すように、プリント回路板100上に形成された伝送線路により構成されている。
図1(c)に示すように、プリント回路板100の断面には導体層121〜124が含まれ、各導体層間は、絶縁層125〜127により分離されている。導体層121、124は信号配線層であり、導体層122はグラウンド層であり、そして導体層123は電源層である。
本実施形態に係るプリント回路板100の各部材101、102a、102b、103a、103b、104、105a、105bは、図1(c)に示すプリント回路板100の導体層121上に構成されている。なお、全ての部材101〜105bが導体層121上に構成されている必要はなく、その全部又は一部が導体層124上に構成されていてもよい。なお、全ての部材101〜105bが導体層121、124のいずれか一方のみに構成されている場合には、他方の導体層を設けていなくてもよい。
本実施形態に係るプリント回路板100において、ダンピング抵抗102a、102bは、対角配置され、遅延素子105a、105bとともにリング状回路を構成し、該リング状回路が伝送線路103a、103b間に直列に接続され実装されている。
次に、プリント回路板100の回路パラメータの条件について説明する。送信素子101の出力抵抗値をRoとし、伝送線路103a、103bの特性インピーダンスをZoとし、受信素子104の入力インピーダンスをZiとする。遅延素子105aの特性インピーダンスをZ1とし、Z1=Zoとする。遅延素子105bの特性インピーダンスをZ2とし、Z2=Zoとする。ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成されたリング状回路の仮想の直流抵抗値をRvとする。そうすると、インピーダンス整合のためには、Ro+Rvの値が0.9Zo≦Ro+Rv≦1.1Zoの範囲(即ち、Ro+Rv=Zo±10%)にあるとよい。また、ダンピング抵抗102aの抵抗値R1は、R1=2Rvであり、ダンピング抵抗102bの抵抗値R2は、R2=2Rvである。送信素子101の信号の遷移時間(即ち、立ち上り、立ち下り時間)をtrとすると、遅延素子105aにおける信号の伝搬遅延時間Td1は、Td1=0.5trであり、遅延素子105bにおける信号の伝搬遅延時間Td2は、Td2=0.5trである。また、伝送線路103aにおける信号の伝搬遅延時間Td0は、0.5trより大きい。
なお、図1(b)に示す符号106は、プリント回路板100に部材を実装するうえで発生するスタブ配線(以下単に「スタブ」という。)である。スタブ106における信号の伝搬遅延時間は、前述のようにtrに対して十分に短いため、等価回路としては無視でき、図1(a)には示されていない。ここでは、信号の伝搬遅延時間が0.1tr以下である場合に、十分短いとしている。
プリント回路上のバス配線において、1mm×0.5mm(1005サイズ)のチップ抵抗をプリント回路板に配置する場合、スタブ503aの長さは、一般的に10(mm)〜15(mm)程度になる。このスタブの長さにおける信号の伝搬遅延時間に関して、一般的なプリント基板は、絶縁体の比誘電率εrが4.0〜4.7程度であり、誘電体中の信号伝搬速度は、c0/(εr)0.5である。c0は真空中の光速であり、c0≒3×108(m/s)である。よって、誘電体中の信号伝搬速度は1.5×108(m/s)程度となり、単位長さあたりの信号の伝搬遅延時間が信号伝搬速度の逆数であるから、長さ10(mm)の伝送線路(スタブ503a)における信号の伝搬遅延時間は、約66(ps)となる。
次に、信号伝送速度100(Mbps)における、長さ10mm程度(伝搬遅延時間=66(ps))のスタブ503aの影響を考える。信号伝送速度100(Mbps)(即ち、動作周期10000(ps))程度の信号伝送速度における信号の立ち上がり時間trは、一般的に周期の1/10〜1/5程度であり、tr=1000〜2000(ps)程度となる。よって、信号伝送速度が100(Mbps)程度の場合、スタブ503aにおける信号の伝搬遅延時間(=66(ps))が、信号の立ち上がり時間trよりも十分に短い。そのため、送信端の実効的な出力抵抗値は、スタブ503aにおける信号の伝搬遅延時間を無視したRo+Rsと考えることができる。
一方、信号伝送速度3.125(Gbps)(即ち、最小パルス幅320(ps))における、長さ10mm程度のスタブ503aの影響を考える。信号伝送速度が1(Gbps)を超えると、信号の立ち上り時間trの回路動作周期に占める割合は高くなり、一般的に周期の1/5〜1/3程度となる。そのため、この場合の信号の立ち上り時間trは、50〜100(ps)程度となり、スタブ503aの信号の伝搬遅延時間66(ps)は、信号の立ち上がり時間trと同程度のオーダーとなる。
一般的に、配線における信号の伝搬遅延時間が信号の立ち上がり時間の50%以上になると、該配線は分布定数回路として振る舞い始め、インピーダンス不整合がある場合には、反射波が発生する。前述のように1(Gbps)以上の信号伝送速度においては、0.5tr=25〜50(ps)であるため、66(ps)の伝搬遅延時間を持つスタブ503aは、分布定数回路として振る舞うことになる。なお、信号の立ち上がり時間の50%という値は臨界値ではなく目安であり、50%以上になると急激に分布定数回路になるわけではない。
スタブ503aを分布定数回路の線路として取り扱った場合の、プリント回路板500aにおける信号の伝搬と反射波の振る舞いについて説明する。送信素子501から信号が出力される際、送信素子501の出力抵抗値Roとスタブ503aの特性インピーダンスZoとの比で分圧された電圧が信号として送信される。即ち、ダンピング抵抗502に到達する電圧Vd1は、送信素子501の出力電圧をVoとすると、Vd1=(Zo/(Ro+Zo))×Voとなる。ダンピング抵抗502に到達した信号は、反射波と透過波とに分けて考えることができる。
まず、反射波の振る舞いについて説明する。スタブ503aの特性インピーダンスZoよりも、ダンピング抵抗502の抵抗値Rsと伝送線路503bの特性インピーダンスZoとの和の方が大きいため、接続点508における反射係数γ1が正となる反射波が発生する。ここで、接続点508における反射係数γ1は、γ1=((Rs+Zo)−Zo)/((Rs+Zo)+Zo)である。この反射波が送信素子501に戻ると、スタブ503aの特性インピーダンスZoよりも送信素子501の出力抵抗値Roの方が小さいため、送信素子501における反射係数γ0が負となる反射波が発生する。この負の反射波は、スタブ503aとダンピング抵抗502との間の接続点508で発生した正の反射波を、打ち消す効果を持つ。よって、反射波の収束が早く、波形乱れへの影響はほんどない。
次に、ダンピング抵抗502を透過した透過波について説明をする。入射波+反射波=透過波であるため、スタブ503aとダンピング抵抗502との間の接続点508を透過する信号の電圧Vd2は、Vd2=(1+γ1)×Vd1={2(Rs+Zo)/(Ro+2Zo)}×Vd1となる。また、ダンピング抵抗502と伝送線路503bとの間の接続点509における電圧Vd3は、ダンピング抵抗502の抵抗値Rsと、伝送線路503bの特性インピーダンスZoにより分圧される。即ち、ダンピング抵抗502と伝送線路503bとの間の接続点509の電圧Vd3は、Vd3={Zo/(Rs+Zo)}×Vd2となる。そして、受信端(受信素子504)は無終端であり、受信素子504の入力インピーダンスZiは、伝送線路503bの特性インピーダンスZoに対して非常に大きい。ここで、Zo=50(Ω)、Zi=100k(Ω)とすると、受信端における反射係数γ2は、γ2=(Zi−Zo)/(Zi+Zo)≒1である。そのため、受信端(受信素子504)に到達した信号は全て正反射され、受信端の電圧Vd4は、Vd4=2Vd3となる。
受信端(受信素子504)で反射した信号は、ダンピング抵抗502に戻っていくが、スタブ503aがダンピング抵抗502と送信素子501との間に存在すると、送信端は理想的な終端とならない。伝送線路503bの特性インピーダンスZoよりも、ダンピング抵抗502の抵抗値Rsとスタブ503aの特性インピーダンスZoとの和の方が大きいため、接続点509において反射係数γ3が正となる反射波が発生する。ここで、反射係数γ3は、γ3=((Rs+Zo)−Zo)/((Rs+Zo)+Zo)となる。この反射波は再び受信端に伝搬されるため、伝搬してきた正の反射波が再び受信端で正反射される。そのため、前述の送信素子501及びダンピング抵抗502間の反射の場合のように、反射波を打ち消す効果がない。従って、伝送線路503bとダンピング抵抗502との間の接続点509で発生した反射波の収束は比較的遅くなる。
さらに、信号伝送速度1(Gbps)以上の伝送回路では送信する信号周期が短いため、反射波の収束が遅いと、反射波が重畳する現象が起こり、波形乱れに大きな影響を与える。例えば、図8(b)は、信号の伝搬遅延時間が66(ps)であるスタブ503aを備えたプリント回路板500aの受信素子504におけるアイパタンを示す。この例では、信号伝送速度は3.125(Gbps)であり、図7(b)の場合と同じ回路パラメータを用いて得られた結果である。図8(b)の電圧幅514は、図7(b)の電圧幅510に比べて大きく、図8(b)のタイミングジッタ515は、図7(b)のタイミングジッタ511に比べて大きかった。
本発明の実施例1において、各部材のパラメータ(回路パラメータ)の具体的な値を設定しながら、第1実施形態に係るプリント回路板100が多重反射を低減する原理について説明する。原理を理解しやすくするために、図2(a)、(b)に示すように、図1(a)に示すプリント回路板100の等価回路を信号の伝搬方向ごとの等価回路100a、100bに置き換えて考える。
<等価回路の置換>
ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成されたリング状回路は、遅延素子105a、105bにおける信号の伝搬遅延時間が0.5trであるため、集中定数回路と分布定数回路との境界領域となっている。そのため、プリント回路板100の等価回路は、図2(a)、(b)に示す等価回路として考えることができる。以下、この点についてさらに詳しく説明する。
信号が送信素子101から受信素子104に伝搬するときには、図1(a)に示す等価回路は、図2(a)に示す等価回路100aで置き換えられる。伝送線路103aは遅延105vに接続されている。等価回路100aにおいて、遅延105vは抵抗102vに接続され、抵抗102vは伝送線路103bに接続されている。伝送線路103aと遅延105vとの間の接続点を108とし、遅延105vと抵抗102vとの間の接続点を110とし、そして抵抗102vと伝送線路103bとの間の接続点を109とする。
また、信号が受信素子104から送信素子101に伝搬するときには、図1(a)に示す等価回路は、図2(b)に示す等価回路100bで置き換えられる。等価回路100bは、受信素子104で反射した信号が送信素子101に戻っていくときの伝送回路の状態である。等価回路100bにおいて、伝送線路103aは、抵抗102vに接続され、抵抗102vは遅延105vに接続され、そして遅延105vは伝送線路103bに接続されている。伝送線路103aと抵抗102vとの間の接続点を108とし、抵抗102vと遅延105vとの間の接続点を110とする。また、遅延105vと伝送線路103bとの間の接続点を109とする。
まず、送信素子101から受信素子104に信号が伝搬する場合の電圧波形を比較し、上記のように信号の伝搬方向を限定した時の等価回路100a、100bの妥当性について説明する。
図1(a)に示す等価回路においては、ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成されたリング状回路を分布定数回路として捉えると、接続点108のインピーダンスZpは次のようになる。ダンピング抵抗102aは集中定数回路の抵抗である。そのため、接続点108のインピーダンスZpは、ダンピング抵抗102aの抵抗値R1及び遅延素子105aの特性インピーダンスZ1(=Zo)の和のインピーダンスと、遅延素子105bの特性インピーダンスZ2(=Zo)との並列インピーダンスとなる。つまり、接続点108のインピーダンスZpは、Zp=((R1+Zo)×Zo)/((R1+Zo)+Zo)である。
また、ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成されたリング状回路を集中定数回路として捉えると、直流抵抗は、ダンピング抵抗102aの抵抗値R1とダンピング抵抗102bの抵抗値R2との並列抵抗値Rpとなる。つまり、並列抵抗値Rpは、Rp=(R1×R2)/(R1+R2)である。
そのため、信号が送信素子101から受信素子104に伝搬される場合、図1(a)に示す等価回路は、図2(a)に示す等価回路100aで置き換えられる。
ここで、図1(a)の等価回路のシミュレーションに基づく電圧波形と、図2(a)の等価回路100aのシミュレーションに基づく電圧波形とを比較する。なお、シミュレーションの条件として、Ro=30(Ω)、Zo=50(Ω)とし、Rv=50−30=20(Ω)より、R1=R2=40(Ω)とし、Rp=20(Ω)とした。また、tr=100(ps)とするためにTd1=Td2=50(ps)とし、Td0=66(ps)とした。
図3(a)は、送信素子101から信号を送信した時のシミュレーションに基づく電圧波形を示す。実線131は図1(a)の等価回路の接続点108における電圧波形であり、実線132は該等価回路の接続点109における電圧波形であり、そして実線133は該等価回路の受信素子104における電圧波形である。また、破線134は図2(a)の等価回路100aの接続点108における電圧波形であり、破線135は等価回路100aの接続点109における電圧波形であり、また破線136は等価回路100aの受信素子104における電圧波形である。
信号が送信素子101から受信素子104に到達するまでの時間において、実線131及び破線134は概ね一致し、実線132と破線135は概ね一致した。実線133及び破線136も立ち上がり直後は概ね一致した。この結果からも分かるように、信号が送信素子101から受信素子104に伝搬する場合には、図1(a)の等価回路を図2(a)の等価回路100aで置き換えることができる。
他方、信号が受信素子104から送信素子101に伝搬する場合(即ち、受信素子104で反射した信号が送信素子101に戻る場合)も上記と同様に考えられる。この場合について以下に説明する。
図1(a)に示す等価回路において、ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成されたリング状回路を分布定数回路として捉えると、接続点109におけるインピーダンスZpは次のようになる。ダンピング抵抗102bは集中定数回路の抵抗である。接続点109におけるインピーダンスZpは、ダンピング抵抗102bの抵抗値R2及び遅延素子105bの特性インピーダンスZ2(=Zo)の和のインピーダンスと、遅延素子105aの特性インピーダンスZ1(=Zo)との並列インピーダンスとなる。つまり、接続点109におけるインピーダンスZpは、Zp=((R2+Zo)×Zo)/((R2+Zo)+Zo)である。
また、ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成されたリング状回路を集中定数回路として捉えると、直流抵抗は、ダンピング抵抗102aの抵抗値R1とダンピング抵抗102bの抵抗値R2との並列抵抗値Rpとなる。つまり、並列抵抗値Rpは、Rp=(R1×R2)/(R1+R2)である。
よって、前述の送信素子101から信号が伝搬するときと同じように、信号が受信素子104から送信素子101に伝搬する場合には、図1(a)の等価回路を図2(b)の等価回路100bで置き換えることができる。
<信号の伝搬と反射波の振る舞い>
次に、図2(a)、(b)に示した等価回路100a、100bを用いて、本実施例における信号の伝搬と反射波の振る舞いについて説明する。送信素子101から送信された信号が波形整形された状態で受信素子104に到達すると、伝送回路は安定動作することになる。そのため、受信素子104における電圧波形に着目する。
まず、図2(a)を用いて、送信素子101から出力された信号が、受信素子104に到達するまでの説明をする。送信素子101から信号が出力されると、送信素子101の出力抵抗値Roと伝送線路103aの特性インピーダンスZoとの比で分圧された電圧が信号として送信される。接続点108に信号が到達すると、伝送線路103aの特性インピーダンスZo=50(Ω)に対して、遅延105vのインピーダンスZp=((40+50)×50)/((40+50)+50)≒32(Ω)であるため、負の反射波が発生する。ここで、接続点108における反射係数γ108は、γ108=(32−50)/(32+50)≒−0.22となる。
その後、信号は遅延105vを伝搬し接続点110に到達する。遅延105vのインピーダンスZp≒32(Ω)であり、抵抗102vの抵抗値Rpと伝送線路103bの特性インピーダンスZoとの和は、Rp+Zo=70(Ω)である。そのため、接続点110において正の反射波が発生し、接続点110における反射係数γ110は、γ110=(70−32)/(70+32)=0.37となる。
次に、接続点108及び接続点110で発生した反射波のその後の振る舞いについて説明する。
まず、接続点108で発生した負の反射波は送信素子101に戻っていく。そして、伝送線路103aの特性インピーダンスZo=50(Ω)に対して、送信素子101の出力抵抗値Ro=30(Ω)であるため、送信素子101において負の反射波が発生する。送信素子101における反射係数γ0は、γ0=(Ro−Zo)/(Ro+Zo)=−0.25である。このように、接続点108から送信素子101に戻ってきた負の反射波に対して送信素子101において負の反射が発生するため(即ち正の反射波の発生)、該正の反射波とで打ち消し合い、接続点108で発生する負の反射波を低減する効果がある。
また、接続点110で発生した正の反射波は接続点108に戻っていく。このとき、送信時とは信号の伝搬方向が逆であるため、接続点108で正の反射波が発生し、このときの接続点108における反射係数γ108sは、γ108s=(50−32)/(50+32)≒0.22となる。よって、接続点110で発生した正の反射波は、(1+γ108s)倍になって送信素子101に伝搬していくことになる。しかし、接続点110で発生した正の反射波に対して送信素子101において負の反射波が発生することで、この負の反射波が、接続点110で発生し接続点108を経由して送信素子101に到達した正の反射波を低減する効果がある。
以上より、送信素子101から接続点110までの間で発生する反射波の収束は早い。なお、送信素子101から出力された信号は、送信素子101と接続点110との間で繰り返し反射されているが、3度目以降の反射の影響は概ね無視できる。なぜならば、本実施形態では、反射係数の絶対値が0.22〜0.37程度であるため、反射係数0.37で反射を繰り返したとしても、2度目の反射波は0.372≒0.14、3度目の反射波は0.373≒0.05となる。よって、3度目以降の反射波の振幅は、元の信号の振幅の5%以下になるため、無視できると考えて良い。
次に、接続点110を透過し、受信素子104へ到達する信号の振る舞いについて説明する。送信素子101の出力電圧をVoとすると、接続点108での透過電圧Vt1は、送信端で送信素子101の出力抵抗値Roと伝送線路103aの特性インピーダンスZoで分圧される。そのため、接続点108での透過電圧Vt1は、Vt1=(1+γ108)×(Zo/(Ro+Zo))×Voとなり、接続点110での透過電圧Vt2は、Vt2=(1+γ110)×Vt1となる。
さらに、信号は、抵抗102vを伝搬し、接続点109では抵抗102vの抵抗値Rpと伝送線路103bの特性インピーダンスZoで分圧された透過電圧Vt3となり、受信素子104に伝搬する。接続点109での透過電圧Vt3は、Vt3=Zo/(Rp+Zo)×Vt2となる。
伝送線路103bの特性インピーダンスZo=50(Ω)に対し、受信素子104の入力インピーダンスZi=100k(Ω)とすると、受信素子104における反射係数γ104は、γ104=(Zi−Zo)/(Zi+Zo)≒1となる。つまり、信号が受信素子104に到達すると、受信素子104に到達した信号とほぼ同じ振幅の反射波が発生することになる。そして、受信素子104での電圧V104は、V104=(1+γ104)×Vt3≒2Vt3となる。
送信素子101の出力電圧をVoとし、接続点108の反射係数γ108=−0.22、接続点110の反射係数γ110=0.37、接続点104の反射係数γ104=1から、接続点108、110、109での透過電圧を求める。上記より、接続点108での透過電圧Vt1はVt1=0.49Voとなり、接続点110での透過電圧Vt2はVt2=0.67Voとなり、接続点109での透過電圧Vt3はVt3=0.48Voとなる。そうすると、受信素子104での電圧V104は、V104=0.96Voとなる。
ここで、送信素子101の出力電圧VoをVo=0.5(V)としたとき、受信素子104での電圧V104の電圧波形は、図3(b)の実線133となった。ここで、図8に示す従来技術の伝送回路に関する電圧波形は、図3(b)の破線138で表されている。図3(b)から、受信素子104で信号が立ち上った直後は、実線133及び破線138は概ね同じ電圧波形となっていることがわかる。
次に、信号が受信素子104で反射し送信素子101に戻る場合について説明する。信号が受信素子104に到達し発生した反射波は、送信素子101に戻っていき、この場合の等価回路は、前述のように図2(b)の等価回路100bである。
該反射波が接続点109に戻ると、遅延105vのインピーダンスZp(=32(Ω))の方が、伝送線路103bの特性インピーダンスZo(=50(Ω))よりも低いため、接続点109において負の反射波が発生する。このときの接続点109における反射係数γ109sは、γ109s=(Zp−Zo)/(Zp+Zo)=−0.22となる。そして、この反射波は再び受信素子104に到達し、さらに受信素子104で全反射することになる。このとき、負の反射波が受信素子104に戻ってきているため、最初に受信素子104で発生した正の反射波を低減する効果がある。
一方、図8(a)に示す従来技術における接続点509では、先に述べた通り、ダンピング抵抗502の抵抗値Rsとスタブ503aの特性インピーダンスZoとの和の方が、伝送線路503bの特性インピーダンスZoより高いため、正の反射波が発生する。接続点509における反射係数γ3は、γ3=((Rs+Zo)−Zo)/((Rs+Zo)+Zo)=0.17となる。この反射波は再び受信素子504に到達し、さらに受信素子504で全反射される。このとき、正の反射波が受信素子504に戻ってきているため、最初に受信素子504で発生した正の反射波をさらに増加させてしまう。
図3(b)では、実線137は、図1(a)の等価回路において送信素子101から送信された信号が受信素子104で最初に反射した後の受信素子104における電圧波形である。また、破線139は、従来技術である図8(a)の等価回路において送信素子501から送信された信号が受信素子504で最初に反射した後の受信素子504における電圧波形である。
図3(b)の中で符号140で囲った部分は、接続点109、509で反射した信号が受信素子104、504に戻ってきた場合の振る舞いを示している。囲った部分140において、実線137は振幅が低くなる方へ変化していることから、反射波が低減している様子が分かる。他方、破線139は振幅が高くなる方へ変化しており、反射波が増加している様子が分かる。なお、実線137及び破線139は見易くするために反射波のみを示した電圧波形であり、実際には実線133及び破線138の中に重ね合わさっており、図3(b)の中で符号141で囲った部分のように電圧の変化が見られる。
また、図3(b)の符号133aは、本実施形態に係るプリント回路板における波形乱れの大きさを表し、符号138aは、図8に示す従来技術のプリント回路板における波形乱れの大きさを表す。このように、本実施形態に係るプリント回路板は、接続点109で発生する反射波を低減する効果があるため、従来技術よりも受信素子104における波形の乱れを小さくすることができる。
<タイミングジッタについて>
次に、本実施例のタイミングジッタと図8に示す従来技術のタイミングジッタとを比較する。
まず、回路パラメータとして、送信素子101の信号の繰り返し周期を320(ps)とし、送信素子101における信号の振幅を1.5(V)とし、送信素子101における信号の0(V)から1.5(V)までの遷移時間trを100(ps)とする。送信素子101における出力抵抗値Roを30(Ω)とし、寄生容量を3(pF)とする。伝送線路103aにおける信号の伝搬遅延時間Td0を66(ps)とし、伝送線路103aの特性インピーダンスZoを50(Ω)とする。ダンピング抵抗102aの抵抗値R1を40(Ω)とし、ダンピング抵抗102bの抵抗値R2を40(Ω)とする。遅延素子105aにおける信号の伝搬遅延時間Td1を50(ps)とし、遅延素子105aの特性インピーダンスZ1を50(Ω)とする。遅延素子105bにおける信号の伝搬遅延時間Td2を50(ps)とし、遅延素子105bの特性インピーダンスZ2を50(Ω)とする。伝送線路103bにおける信号の伝搬遅延時間を380(ps)とし、伝送線路103bの特性インピーダンスZoを50(Ω)とする。また、受信素子104の入力インピーダンスZiを100k(Ω)とし、寄生容量を3(pF)とする。スタブ106における信号の伝搬遅延時間を10(ps)とし、特性インピーダンスを50(Ω)とする。なお、スタブ106における信号の伝搬遅延時間は、送信素子101における遷移時間trに対して十分小さいため、回路シミュレーションのパラメータに含めない。
ここで、伝送線路103a、103b及び遅延素子105a、105bは、プリント回路板100の導体層121に構成されているが、ここでは導体層121の幅を125(μm)とし、その厚さを43(μm)とした。なお、導体層122はグラウンド層である。また、絶縁層125の比誘電率εrを4.3とし、その厚みを100(μm)とした。このとき、導体層121の伝送線路の特性インピーダンスは50(Ω)となり、誘電体中の信号伝搬速度は、c0/(εr)0.5である。ここで、c0=真空中の光速≒3×108(m/s)である。絶縁層125の比誘電率が4.3であるため、プリント回路板100における信号伝搬速度は、真空中の光速の約0.5倍である1.5×108(m/s)となる。よって、10mmの配線長で66(ps)の信号伝搬遅延が生じる。
ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成される仮想の直流抵抗値Rvは、Rv=Zo−Roより、Rv=20(Ω)となる。ここで、R1=R2=2Rv=40(Ω)であるため、送信端におけるインピーダンス整合の条件、0.9Zo≦Ro+Rv≦1.1Zo、を満たしている。
スタブ103aにおける信号の伝搬遅延時間は100(ps)であり、これは、送信素子101の信号の立ち上り時間tr(=100(ps))の50%よりも大きい。また、遅延素子105a、105bにおける信号の伝搬遅延時間は50(ps)であるため、立ち上り時間trの50%と同じである。
次に、図8に示す従来技術の伝送回路の回路パラメータを示す。送信素子501の信号の繰り返し周期を320(ps)とし、送信素子501の信号の振幅を1.5(V)とし、送信素子501の信号の立ち上がり時間trを100(ps)とする。送信素子501の出力抵抗値を30(Ω)と、寄生容量を3(pF)とする。スタブ503aにおける信号の伝搬遅延時間を66(ps)とし、スタブ503aの特性インピーダンスZoを50(Ω)とする。ダンピング抵抗502の抵抗値Rsを20(Ω)とする。伝送線路503bにおける信号の伝搬遅延時間を430(ps)とし、伝送線路503bの特性インピーダンスZoを50(Ω)とする。また、受信素子504の入力インピーダンスZiを100k(Ω)とし、寄生容量を3(pF)とする。
まとめると、本実施例の回路パラメータと、比較例の回路パラメータは下記表1のとおりである。
図4(a)に本実施例の受信素子104におけるアイパタンのシミュレーション結果を示し、図8(b)に従来技術の受信素子504におけるアイパタンのシミュレーション結果を示す。ここで、図において、縦軸は電圧(V)であり、横軸は時間(ps)である。回路シミュレータは、シノプシス社製HSPICE(登録商標)を使用した。
図4(a)に示す本実施例の結果に関する電圧ノイズ114は、約319(mV)であり、図8(b)に示す従来技術の結果に関する電圧ノイズ514の値約368(mV)よりも小さくなった。また、本実施形態のタイミングジッタ115は、約51(ps)であり、従来技術のタイミングジッタ515の値(=102(ps))よりも小さくなった。
なお本実施形態では、回路が安定的に動作するために許容できる最大のタイミングジッタを、送信素子101の信号の繰り返し周期の25%以下としている。そうすると、本実施形態における繰り返し周期は320(ps)であるため、タイミングジッタが約80(ps)以下であると、伝送回路は安定動作する。
実際のプリント回路板では、ダンピング抵抗102a、102bの抵抗値が離散値であり、その許容誤差が発生する場合がある。また、遅延素子105a、105bの特性インピーダンスや長さにも許容誤差が発生する場合がある。
そこで、受信素子104におけるタイミングジッタが約80(ps)以下になるように、ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bの回路パラメータの許容値を、シミュレーションによって求めた。なお、送信素子101、伝送線路103a、伝送線路103b、受信素子104に関するパラメータは上記と同じである。
上記インピーダンス整合の関係式より、(0.9Zo−Ro)≦Rv≦(1.1Zo−Ro)である必要があるから、ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成される仮想の直流抵抗値Rvは、Rv=15〜25(Ω)となる。
すると、ダンピング抵抗102a、102bの抵抗値R1、R2は、R1=R2=2Rv=30〜50(Ω)となる。さらに抵抗値の許容誤差が±10%であることを考慮すると、R1=R2=27〜55(Ω)となる。ここで、遅延素子105a、105bの特性インピーダンスZ1、Z2を0.9Zo〜1.1Zo=45〜55(Ω)とし、遅延素子105a、105bにおける信号の伝搬遅延時間Td1、Td2を25〜75(ps)とした。
図4(b)にタイミングジッタと回路パラメータとの関係を示すグラフを示す。回路パラメータ150は、Z1及びZ2がZoに整合し、仮想の直流抵抗値Rvがその中心値(即ち、Zo/2)となる組み合わせであり、Z1=Z2=50(Ω)、R1=R2=40(Ω)である。ここで、Z1、Z2はそれぞれ遅延素子105a、105bの特性インピーダンスであり、Zoは伝送線路103a、103bの特性インピーダンスであり、そしてR1、R2はそれぞれダンピング抵抗102a、102bの抵抗値である。
同様に、回路パラメータ151は、Z1及びZ2がZoより10%低く、仮想の直流抵抗値Rvがその中心値より低く、ダンピング抵抗の許容誤差10%を含んだ組み合わせであり、Z1=Z2=45(Ω)、R1=27(Ω)、R2=33(Ω)である。回路パラメータ152は、Z1、Z2がZoより10%低く、仮想の直流抵抗値Rvがその中心値より低く、ダンピング抵抗の許容誤差10%を含んだ組み合わせであり、Z1=Z2=45(Ω)、R1=33(Ω)、R2=27(Ω)である。回路パラメータ153は、Z1、Z2がZoより10%高く、仮想の直流抵抗値Rvがその中心値より高く、ダンピング抵抗の許容誤差10%を含んだ組み合わせであり、Z1=Z2=55(Ω)、R1=55(Ω)、R2=45(Ω)である。また、回路パラメータ154は、Z1、Z2がZoより10%高く、仮想の直流抵抗値Rvがその中心値より高く、ダンピング抵抗の許容誤差10%を含んだ組み合わせであり、Z1=Z2=55(Ω)、R1=45(Ω)、R2=55(Ω)である。
各回路パラメータ150〜154において、遅延素子105a、105bにおける信号の伝搬遅延時間Td1、Td2を25(ps)、50(ps)、及び75(ps)として回路シミュレーションを行った。回路シミュレーションの結果、回路パラメータ150〜154において、受信素子104におけるタイミングジッタはすべて80(ps)以下となった。
以上より、以下の条件を満たせば、従来技術に比べ、受信素子におけるタイミングジッタを低減させることができ、さらにタイミングジッタは所望の値(この例では80(ps))以下となる。
(1)ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子105a、105bで構成されたリング状回路の仮想の直流抵抗値Rvが、(0.9Zo−Ro)≦Rv≦(1.1Zo−Ro)を満たし、かつ、
(2)ダンピング抵抗102a、102bの抵抗値R1、R2が、それぞれ1.8Rv≦R1≦2.2Rv(即ち、R1=2Rv±10%)、1.8Rv≦R2≦2.2Rv(即ち、R2=2Rv±10%)を満たし、かつ、
(3)ダンピング抵抗102a、102bにおける信号の伝搬遅延時間Td1、Td2が、それぞれ0.25tr≦Td1≦0.75tr、0.25tr≦Td2≦0.75trを満たし、かつ、
(4)遅延素子105a、105bの特性インピーダンスZ1、Z2が、それぞれ0.9Zo≦Z1≦1.1Zo(即ち、Z1=Zo±10%)、0.9Zo≦Z2≦1.1Zo(即ち、Z2=Zo±10%)を満たすこと。
[第2実施形態]
図5は本発明の第2実施形態に係るプリント回路板200を示す図である。図5(a)は本実施形態のプリント回路板200の等価回路であり、図5(c)は本実施形態のプリント回路板200の概略構成図である。
プリント回路板200において、送信素子101は、伝送線路103aを介して、ダンピング抵抗102aと遅延素子205bに接続され、ダンピング抵抗102aは遅延素子205aに接続されている。遅延素子205bはダンピング抵抗102bに接続され、受信素子104は伝送線路103bを介して、遅延素子205aとダンピング抵抗102bに接続されている。
遅延素子205a、205bは、信号の伝搬遅延時間を制御する部材である。例えば図5(b)、(c)に示すように、遅延素子205aは、プリント回路板200上に実装したインダクタンス205alとキャパシタンス205acによって構成されている。また、遅延素子205bは、インダクタンス205blとキャパシタンス205bcによって構成されている。
インダクタンス205alは、ダンピング抵抗102aと伝送線路103bに接続され、キャパシタンス205acは、インダクタンス205alとグラウンド層122に接続されている。同様に、インダクタンス205blは、伝送線路103aとダンピング抵抗102bに接続され、キャパシタンス205bcは、インダクタンス205blとグラウンド層122に接続されている。
伝送回路の各部材101、102a、102b、103a、103b、104、205a、205bは、図1(c)に示すプリント回路板100の層121上に構成されている。なお、第1実施形態と同様に、全ての部材101〜205bが導体層121に構成される必要はなく、部材101〜205bの全部又は一部が導体層124に構成されるようにしてもよい。
本実施形態の回路パラメータの条件について説明する。送信素子101の出力抵抗はRoであり、伝送線路103a、103bの特性インピーダンスはZoであり、受信素子104の入力インピーダンスはZiである。遅延素子205aの特性インピーダンスZ1はZoであり、遅延素子205bの特性インピーダンスZ2はZoである。
ダンピング抵抗102a、102b及び遅延素子205a、205bで構成されたリング状回路の仮想の直流抵抗値をRvとすると、Rvは、0.9Zo≦Ro+Rv≦1.1Zoの範囲(即ちRv=Zo±10%)にある。
ダンピング抵抗102aの抵抗値R1は、R1=2Rvであり、ダンピング抵抗102bの抵抗値R2は、R2=2Rvである。送信素子101の信号の遷移時間(立ち上がり、立ち下がり時間)はtrである。遅延素子205aにおける信号の伝搬遅延時間Td1は、Td1=0.5trであり、遅延素子205bにおける信号の伝搬遅延時間Td2は、Td2=0.5trである。また、伝送線路103aにおける信号の伝搬遅延時間Td0は、0.5trより大きい。
なお、プリント回路板200には部材を実装するうえで発生するスタブ106、206が設けられているが、スタブ106、206における信号の伝搬遅延時間は、伝搬遅延時間trに対して十分に短いため、等価回路として無視できる。ここでは0.1tr以下を、十分短いとしている。
ここで一般的に、伝送線路の特性インピーダンスZと伝搬遅延時間Tdの関係は、伝送線路のインダクタンスL成分とキャパシタンスC成分で決まり、Z=√(L/C)、Td=√(L×C)である。この関係式より、遅延素子205aのインダクタンス205alのインダクタンス値L205alと、キャパシタンス205acのキャパシタンス値C205acは、遅延素子205aの伝搬遅延時間Td1と特性インピーダンス値Z1によって決まる。即ち、L205al=Td1×Z1であり、C205ac=Td1/Z1である。同様に、遅延素子205bのインダクタンス205blのインダクタンス値L205blと、キャパシタンス205bcのキャパシタンス値C205bcは、205bの伝搬遅延時間Td2と特性インピーダンス値Z2によって決まる。即ち、L205bl=Td2×Z2であり、C205bc=Td2/Z2である。
なお、遅延素子205a、205bのLC回路は、チップ部品で構成するようにしてもよい。