(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの制御装置が適用されるエンジンシステムの構成を示した図である。当実施形態のエンジンシステムは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路50と、エンジン本体1から外部に排気を排出するための排気通路60とを備えている。図2は、エンジンシステムの一部を示した概略平面図である。図2に示すように、エンジン本体1は、所定の方向に並ぶ4つの気筒2aを有する4気筒エンジンである。
図1に示すように、エンジン本体1は、気筒2aが内部に形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に設けられたシリンダヘッド3と、気筒2aに往復摺動可能に挿入されたピストン4とを有している。
ピストン4の上方には燃焼室5が形成されている。燃焼室5内には、インジェクタ11から燃料が噴射される。噴射された燃料と空気との混合気は燃焼室5で燃焼し、ピストン4はその燃焼による膨張力で押し下げられて上下に往復運動する。
ピストン4はコネクティングロッドを介してクランク軸15と連結されており、ピストン4の往復運動に応じてクランク軸15は中心軸回りに回転する。
シリンダブロック2には、クランク軸15の回転数をエンジンの回転数として検出するエンジン回転数センサSW1が設けられている。
シリンダヘッド3には、インジェクタ11と、インジェクタ11から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火を行う点火プラグ10とが、各気筒2aにつきそれぞれ1組ずつ設けられている。
インジェクタ11は、噴射口を先端部に有しており、この噴射口が各気筒2aの燃焼室5をその吸気側の側方から臨むように設けられている。
点火プラグ10は、火花を放電するための電極を先端部に有しており、各気筒2aの燃焼室5を上方から臨むように設けられている。
シリンダヘッド3には、吸気通路50から供給される空気を各気筒2aの燃焼室5に導入するための吸気ポート6と、吸気ポート6を開閉する吸気弁8と、各気筒2aの燃焼室5で生成された排気を排気通路60に導出するための排気ポート7と、排気ポート7を開閉する排気弁9とが設けられている。
吸気通路50には、上流側から順にエアクリーナ51、スロットル弁54、サージタンク55が設けられており、エンジン本体1には、エアクリーナ51でろ過された後の空気が導入される。スロットル弁54は、吸気通路50を開閉可能なバルブであり、スロットル弁54の開度に応じて吸気通路50を流通する吸気の量すなわち気筒2aに流入する空気量である充填量が調整される。また、吸気通路50には、吸気通路50を流通する吸気の流量ひいては充填量を検出するためのエアフローセンサSW2が設けられている。当実施形態では、エアフローセンサSW2は、吸気通路50のうちエアクリーナ51とスロットル弁54との間(エアクリーナ51のすぐ下流側)の部分に設けられている。
図2に示すように、本実施形態に係る排気通路60は、いわゆる4−2−1排気とよばれる構造を有しており、各気筒2a(気筒2aの排気ポート7)にそれぞれ個別に接続される4本の第1独立通路60aと、これら通路60aのうち排気順序が連続しない気筒2aに対応する通路60aに共通して接続される2本の第2独立通路60bと、これら通路60bに共通して接続される1本の集合通路60cとで構成されている。
図1に示すように、排気通路60には、上流側から順に、第1触媒コンバータ(浄化装置)63、第2触媒コンバータ(浄化装置)64が設けられている。各触媒コンバータ63,64には、酸素を吸蔵可能、すなわち、酸素吸蔵能力を有する触媒63a,64aが内蔵されている。本実施形態では、各触媒コンバータ63,64に、それぞれ三元触媒63a,64aが内蔵されている。
これら触媒コンバータ63,64は、排気通路60のうち集合通路60cに設けられており、各気筒2aの排気ポート7から排出された排気が集合する部分よりも下流側に設けられている。これに伴い、本実施形態では、エンジン本体1と各触媒コンバータ63,64との距離が比較的長くなっている。
ここで、第2触媒コンバータ64は、第1触媒コンバータ63で浄化できなかった排ガスを浄化するための補助的な装置であり、省略してもよい。また、以下に説明する触媒を活性化させるためのパータベーション制御は、主として第1触媒コンバータ63に対して行われる。
排気通路60のうち第1触媒コンバータ63よりも上流側の部分には、この部分を通過する排ガスの酸素濃度を検出するためのリニアO2センサSW3が設けられている。本実施形態では、リニアO2センサSW3は、第1触媒コンバータ63の上流端付近に設けられている。リニアO2センサSW3は、排ガス中の酸素濃度に対してリニアな出力特性を示す。
また、排気通路60のうち第1触媒コンバータ63と第2触媒コンバータ64との間には、この部分を通過する排気の空燃比が理論空燃比以下であるか否かを検出するためのラムダセンサSW4が設けられている。ラムダセンサSW4は、排ガスの空燃比が理論空燃比(すなわちストイキ)または理論空燃比より小さい(すなわちリッチ)であるときに、所定の第1電圧V1(例えば1V)となり、排ガスの空燃比が理論空燃比より大きい(すなわちリーン)ときに第1電圧V1よりも低い第2電圧(例えば0V)となる。
ここで、気筒2a内の混合気の空燃比は、スロットル弁54の開度を変化させて充填量を変化させること、あるいは/および、インジェクタ11から気筒2a内に噴射される燃料量(燃料噴射量)を変化させることによって変化させることができる。すなわち、スロットル弁54およびインジェクタ11が各気筒2a内の混合気の空燃比を変更可能な空燃比変更手段として機能する。ただし、本実施形態では、後述するパータベーション制御、LAFS制御、F/C後リッチ化制御において、燃料噴射量を変化させることで気筒2a内の空燃比を変化させる。
(2)制御系
次に、図3を用いて、エンジンシステムの制御系について説明する。当実施形態のエンジンシステムは、自動車等の車両に搭載されており、車両に備わるECU(エンジン制御ユニット、制御手段)100によって制御される。ECU100は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサである。
ECU100には、各種センサからの情報が入力される。例えば、ECU100は、エンジン回転数センサSW1、エアフローセンサSW2、リニアO2センサSW3、ラムダセンサSW4と電気的に接続されており、これらのセンサからの入力信号(エンジン回転数、充填量、第1触媒コンバータ63直前の排気の酸素濃度、第1触媒コンバータ63通過後の空燃比)を受け付ける。また、エンジン本体1には、エンジン水温を検出するためのエンジン水温センサSW5が設けられている。また、車両には、運転者により操作されるアクセルペダル(不図示)の開度を検出するアクセル開度センサSW6、車速を検出する車速センサSW7、イグニッションスイッチ(IGスイッチ)SW8が設けられており、これらのセンサSW5〜8で検出された信号(エンジン水温、アクセル開度、車速)およびIGスイッチSW8の信号もECU100に入力される。
ECU100は、各センサ(SW1〜SW7等)および各スイッチ(SW8等)からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンシステムの各部を制御する。すなわち、ECU100は、点火プラグ10、インジェクタ11、スロットル弁54等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
ECU100は、機能的に、触媒温度推定部101と、メイン制御部110とを有する。メイン制御部110は、点火プラグ10、インジェクタ11、スロットル弁54を制御する部分であり、機能的に、ベース制御実行部111、パータベーション制御実行部112、AWS制御実行部113、LAFS診断制御実行部114、F/C後リッチ化制御実行部115を有している。
触媒温度推定部101は、第1触媒コンバータ63内の触媒63aの温度である触媒温度Tcatを推定する。
触媒温度推定部101は、第1触媒コンバータ63に流入する排ガスの温度に、第1触媒コンバータ63内での排ガスの温度上昇量を加えることで、触媒63aの温度を推定する。
第1触媒コンバータ63に流入する排ガスの温度は、排気ポート7内の排ガスの温度、排気通路60内で生じた燃焼(いわゆる後燃え)による排ガスの温度上昇量、排気通路60での放熱による排ガスの温度低下量をそれぞれ算出して、排ガスの遅れを加味した上でこれらを合算して算出する。
ここで、排気ポート7内の排ガスの温度は、エンジン回転数と充填量と気筒2a内の空燃比と排気弁9の閉弁時期とから推定する。排気通路60内で生じた燃焼による排ガスの温度上昇量は、排気通路60内に流入した空気の量すなわち新気の吹き抜け量(充填量と空燃比とから推定する)と、気筒2a内の空燃比とから推定する。排気通路60での放熱による排ガスの温度低下量は、車速と充填量と外気温とから推定する。
また、第1触媒コンバータ63内での排ガスの温度上昇量は、触媒反応による排ガスの温度上昇量と、第1触媒コンバータ63内での後燃えによる排ガスの温度上昇量と算出して、これらを合算することで算出する。
ここで、触媒反応による排ガスの温度上昇量は、エンジン回転数と充填量と気筒2a内の空燃比とから推定する。第1触媒コンバータ63内での後燃えによる排ガスの温度上昇量は、新気の吹き抜け量と気筒2a内の空燃比とから推定する。
ベース制御実行部111は、通常運転時(各制御実行部112〜115による制御が実施されないとき)の制御を行う。
ベース制御実行部111は、エンジン回転数とエンジン負荷(アクセル開度から算出されるエンジン負荷の要求値)等に応じて、充填量の目標値、気筒2a内の空燃比(気筒2a内の混合気の空燃比)の目標値を設定し、これらが実現されるように、各アクチュエータを制御する。
具体的には、ベース制御実行部111は、充填量の目標値に基づいてスロットル弁54の開度を設定して、この開度となるようにスロットル弁54に制御信号を出す。例えば、充填量の目標値はエンジン回転数とエンジン負荷とに対して予め設定されたマップから抽出され、スロットル弁54の開度は、充填量とスロットル弁54とについて予め設定されたマップから抽出される。
また、ベース制御実行部111は、気筒2a内の空燃比の目標値と充填量とに基づいて必要な燃料噴射量を算出するとともに、気筒2a内の空燃比が目標値になるようにリニアO2センサSW3の出力値を用いて燃料噴射量をフィードバック制御して、インジェクタ11に制御信号を出す。本実施形態では、全運転領域において、気筒2a内の空燃比の目標値は理論空燃比とされる。また、ベース制御実行部111は、エンジン回転数とエンジン負荷等に応じて点火時期を設定して、点火プラグ10に制御信号を出す。例えば、点火時期は、エンジン回転数とエンジン負荷等とに対して予め設定されたマップから抽出される。
以下において、ベース制御実行部111により設定された、スロットル弁54の開度、燃料噴射量、気筒2a内の空燃比の目標値をそれぞれ基本スロットル弁開度、基本噴射量、基本空燃比という。
次に、他の制御実行部112〜115の制御内容について説明する。
(i)パータベーション制御実行部
パータベーション制御実行部112は、触媒を活性させるため(本実施形態では、主として第1触媒コンバータ63の触媒63aを活性化させるため)、より詳細には触媒63aに含まれる貴金属を活性化させるために、触媒63aに供給される酸素および燃料量を増減させるべく、気筒2aの空燃比を強制的に振動させるいわゆるパータベーション制御を実施する部分である。すなわち、酸素吸蔵能を有する触媒では、酸素の吸蔵と放出とを繰り返させることで触媒を活性化させて浄化能力を高くすることができ、本実施形態では、これを利用して浄化能力を確保する。
パータベーション制御実行部112は、後述するパータベーション実行フラグFpが1となり、パータベーション制御の実施が許可されると、気筒2aの空燃比を振動させる。
本実施形態では、パータベーション制御が実施されていない状態での空燃比(以下、ベース空燃比という場合がある)を基準とし、このベース空燃比に所定の増減率Cをかけた値を振幅として、空燃比を振動させる。例えば、ベース制御実行部111によって通常運転時の制御が実施されている場合は、基本空燃比である理論空燃比を基準として、理論空燃比に所定の増減率Cをかけた値を振幅として、空燃比を振動させる。また、図4に示すように、点火順序に沿って気筒毎に空燃比を増減させる。すなわち、第1気筒では空燃比を増大させ、第3気筒では空燃比を減少させ、第4気筒では再び空燃比を増大させ、第2気筒では空燃比を減少させて、空燃比を振動させる。
なお、空燃比の振動方法はこれに限らず、例えば、複数の気筒毎に空燃比を変化させてもよい。また、図4に示した例とは別に、パータベーション制御開始時に空燃比をまずは減少させるようにしてもよい。ただし、図4に示したように、空燃比を点火順に交互に変化させれば、空燃比の振動が高周波振動となるため、空燃比の振動に伴うエンジンの振動を乗員が体感しにくくなり乗り心地を良好にすることができる。また、触媒に供給される酸素および燃料量を頻繁に変動させることができ触媒をより早期に活性化させることができる。
また、本実施形態では、パータベーション制御を実施する場合において、上記増減率Cを図5のようにエンジン回転数に応じて変化させる。具体的には、エンジン回転数が第1回転数N1以上第3回転数N3以下の領域(A2_1で示した領域とA2_2で示した領域とをあわせた領域)では、エンジン回転数が高くなるほど増減率Cが高くなるようにする。詳細には、エンジン回転数が第1回転数N1以上第2回転数N2以下の低回転領域A2_1では、エンジン回転数が高くなるに従って増減率Cを高くする。図5に示した例では、増減率Cをエンジン回転数に比例して最小増減率C_minから最大増減率C_maxに向けて増大させる。一方、エンジン回転数が第2回転数N2以上第3回転数以下の中回転領域A2_2では、増減率Cを最大増減率C_max一定とする。また、エンジン回転数が第3回転数N3以上の高回転領域A2_3では、エンジン回転数が高くなるほど増減率Cを小さくする。図5に示した例では、増減率Cを最大増減率C_maxから最小増減率C_minに向けてエンジン回転数が高くなるに従って小さくする。また、増減率Cをエンジン回転数に比例して小さくする。なお、本実施形態では、エンジン回転数が第1回転数N1未満の領域A0(図12参照)ではパータベーション制御の実施に伴うエンジントルクの変動の影響が大きくなるためパータベーション制御は実施しない。また、エンジン回転数が第4回転数N4以上の領域A4(図12参照)では、通常運転でも排ガスの温度が高くなり触媒63aが活性化されるため、パータベーション制御は実施しない。
このパータベーション制御実行部112の制御手順を、図6のフローチャートに示す。
図6に示すように、パータベーション制御実行部112は、まず、ステップS1にてパータベーション実行フラグFpを読み込む。次に、ステップS2にて、パータベーション実行フラグFpが1か否かを判定する。この判定がNOの場合は、ステップS1に戻る。一方、ステップS2の判定がYESであってパータベーション実行フラグFpが1の場合は、ステップS3に進む。
ステップS3では、エンジン回転数を読み込む。
次に、ステップS4において、上記で説明したように、増減率Cを図5に示すようにエンジン回転数に応じて設定する。
次に、ステップS5において、パータベーション制御を実施する。すなわち、空燃比を、気筒2a毎にベース空燃比から増減率C分増加あるいは減少させる。具体的には、ベース空燃比が基本空燃比の場合は、基本空燃比に増減率Cをかけた空燃比に対応する燃料量の増減量、すなわち、基本噴射量に増減率Cをかけた燃料量の増減量を算出して、燃料噴射量を、基本噴射量からこの増減量増加あるいは減少させる。
そして、これらステップS3〜S5を、ステップS6においてパータベーション実行フラグFpが0になるまで繰り返す。
(ii)AWS制御実行部
AWS制御実行部113は、いわゆるAWS(Accelerated Warm−up System)制御であって触媒の温度が低い場合にこれらを早期に暖機して活性化させるための制御を実行する。なお、本実施形態では、第1触媒コンバータ63の触媒63aを基準にこの制御を実行するが、この制御の実行によって第1触媒コンバータ63の触媒63aと合わせて第2触媒コンバータ64の触媒64aも早期暖機される。
図7のフローチャートを用いて、AWS制御実行部113による制御内容を説明する。
まず、ステップS11にて、触媒温度推定部101で推定された推定触媒温度Tcatおよび車速を読み込む。
次に、ステップS12にて、推定触媒温度Tcatが予め設定されたAWS実施温度Tcat_AWS未満か否かを判定する。AWS実施温度Tcat_AWSは、触媒63aがライトオフするとき(触媒63aの浄化率が50%となるとき)の触媒63aの温度であり、実験等によって予め設定されている。この判定がNOであって、推定触媒温度TcatがAWS実施温度Tcat_AWS以上であり、触媒63aがライトオフしている場合はAWS制御を実施することなく処理を終了する。一方、ステップS12の判定がYESであって、推定触媒温度TcatがAWS実施温度Tcat_AWS未満であり触媒63aの浄化率がライトオフしていない場合はステップS13に進む。
ステップS13では、車速が予め設定されたAWS許可速度以下か否かを判定する。本実施形態では、AWS許可速度は0付近の値に設定されている。この判定がNOの場合、すなわち、車速がAWS許可速度より大きい場合は、そのまま処理を終了する。
一方、ステップS13の判定がYESであって車速がAWS許可速度以下の場合はステップS14に進み、AWS制御を実施する。具体的には、ステップS14では、各気筒2aの充填量を増大させ、点火時期をリタードする。また、本実施形態では、これに合わせて燃料を分割噴射する。
詳細には、各気筒2aの充填量を、基本制御実行時の充填量よりも増大させる。本実施形態では、スロットル弁54の開度を基本スロットル弁開度よりも開き側にすることで各気筒2aの充填量を増大させる。また、点火時期を基本点火時期よりもリタードする。本実施形態では、点火時期を、圧縮上死点を大幅に超えた時期とする。また、燃料を吸気行程後期に実施する第1噴射と、圧縮行程中期に実施する第2噴射とに分割して噴射する。
上記のように点火時期を遅角させると、排ガスの温度が上昇して高温の排ガスが触媒63aに導入されるため触媒63aを昇温して活性化することができる。しかも、各気筒2aの充填量が増大されていることで、トルクおよびエンジン回転数を維持することができる。また、燃料が上記のように分割噴射されていることで、気筒2a内の混合気が弱成層化される。すなわち、第1噴射によって気筒2a内全体にリーンな混合気の層が形成され、第2噴射によって点火プラグ10周りにリッチな混合気の層が形成される。従って、点火時期をリタードさせつつ燃焼安定性を確保することができる。
このように、本実施形態では、推定触媒温度TcatがAWS実施温度Tcat_AWS未満で、かつ、車速がAWS許可速度以下の場合に、各気筒2aの充填量を増大させて点火時期をリタードさせるとともに燃料を分割噴射するAWS制御を実施して、触媒63a,64aの早期活性化を実現する。
(iii)LAFS診断制御実行部
LAFS診断制御実行部114は、リニアO2センサSW3の出力特性が正常か否かの判定を行うLAFS診断制御(異常判定制御)を実施する。
図8のフローチャートを用いて、LAFS診断制御実行部114の制御内容を説明する。
まず、ステップS21にて、LAFS診断実行条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態では、エンジンが定常運転をしている場合にLAFS診断実行条件が成立しているとする。具体的には、エンジン水温が予め設定された所定温度以上であってエンジンの暖機が完了しており、かつ、エンジン回転数の変動量および充填量の変動量が十分に小さい場合にLAFS診断実行条件が成立していると判定される。
ステップS21の判定がNOであって、LAFS診断実行条件が非成立の場合は、その後の診断を実施せずに処理を終了する。
一方、ステップS21の判定がYESであってLAFS診断実行条件が成立していると判定した場合は、ステップS22に進む。ステップS22では、全気筒2aについて空燃比を一律に変化させる。具体的には、図9の実線で示すように、4気筒2a全ての空燃比を基本空燃比(例えば理論空燃比)よりも所定量高い値(例えば理論空燃比よりも高いリーン)とし、その後、基本空燃比に戻す。
図8に戻って、ステップS22の次はステップS23に進む。ステップS23では、リニアO2センサSW3の出力変化の時定数を測定する。具体的には、上記空燃比の変動に伴って、リニアO2センサSW3の出力は図9の鎖線で示すようになる。そこで、この出力変化の時定数(出力の変化が開始してから全変化量の63%の値に到達するまでの時間)を測定する。詳細には、空燃比を上昇させたときの出力変化に係る時定数と、空燃比を基本空燃比に戻したときの出力変化に係る時定数とを測定する。
次に、ステップS24にて、上記時定数の測定回数が予め設定された基準回数以上となったか否かを判定する。この判定がNOの場合は、ステップS21に戻り、ステップS21〜S23を実施する。すなわち、LAFS診断実行条件が成立していると判定され、かつ、時定数の測定回数が基準回数未満の間は、図9の実線のように、隔燃焼サイクル毎に気筒2aの空燃比を基本空燃比から増加させて時定数を測定する。
一方、ステップS24の判定がYESであって時定数の測定回数が基準回数以上になると、ステップS25に進む。
ステップS25では、ステップS24で測定した時定数が予め設定された正常範囲内にあるか否かを判定する。
そして、このステップS25の判定がYESであれば、ステップS26に進みリニアO2センサSW3が正常であると判定する。一方、ステップS25の判定がNOであれば、ステップS27に進みリニアO2センサSW3が異常(故障等)であると判定する。なお、リニアO2センサSW3が異常であると判定された場合は、MIL点灯等を行う。
このように、本実施形態では、隔燃焼サイクル毎に気筒の空燃比を増加させる。すなわち、2燃焼サイクルを1周期として空燃比を増減させる。そして、リニアO2センサSW3の出力特性が正常か否かを判定する。
(iv)F/C後リッチ化制御実行部
F/C後リッチ化制御実行部115は、触媒63aの浄化能力を確保するために、減速時等の燃料カット(F/C)の終了後から触媒63aが酸素吸蔵可能な状態となるまでの特定期間(後述するステップS34の判定がYESとなるまでの期間)、第1触媒コンバータ63の触媒63aの酸素吸蔵量を低減するべく、気筒2a内の空燃比をリッチにするF/C後リッチ化制御(リッチ化制御)を実施する。すなわち、燃料カット時は、空気すなわち酸素が多量に触媒63aに供給されて触媒63aの酸素吸蔵量が増加する。そのため、燃料カット終了後は、触媒63aの還元能力が十分に発揮されず排ガス性能が悪化するおそれがある。具体的には、排気中のNOxが触媒63aにおいて適正に還元されず、車外に排出されるNOxの量が増加するおそれがある。そこで、本実施形態では、F/C後リッチ化制御実行部115によって燃料カット終了後に触媒63aの酸素吸蔵量を低減するF/C後リッチ化制御を実施させて、触媒63aの還元能力を回復させる。なお、このとき第2触媒コンバータ64の触媒64aの酸素吸蔵量も低減し、この触媒64aの還元能力も回復する。また、本実施形態では、F/C後リッチ化制御実行部115によって、触媒63aの状態が正常か否かを判定する触媒劣化診断制御を実施する。
図10のフローチャートを用いて、F/C後リッチ化制御実行部115の制御内容を説明する。
まず、ステップS31において、燃料カットが終了したか否かすなわち燃料カット状態から通常運転すなわち燃料が気筒2a内に供給される運転に移行したか否かを判定する。この判定がNOの場合は、そのまま処理を終了する。一方、この判定がYESの場合は、ステップS32に進む。
ステップS32では、気筒2aの空燃比を理論空燃比よりもリッチにするリッチ運転を実施する。具体的には、燃料噴射量を理論空燃比に対応する量よりも多くする。
次に、ステップS33にて、過剰燃料積算値を算出する。過剰燃料積算値は、ステップS32のリッチ運転が実施されることで触媒63aに供給された燃料量すなわち気筒2aに噴射された燃料量のうち理論空燃比に対応する量を差し引いた量を積算した値であり、F/C後リッチ化制御実行部115は、ステップS32の実施毎に、この量を積算していく。
ステップS33の次はステップS34に進む。ステップS34では、ラムダセンサSW4の出力値が判定出力値V0以上になったか否かを判定する。判定出力値V0は、排ガスの空燃比がリーンであって排ガス中に酸素が多く含まれているときの出力値である第2電圧V2よりもわずかに大きい値に設定されている。
このステップS34では、ラムダセンサSW4の出力値に基づいて、ステップS32の実施に伴って触媒63aの酸素吸蔵量が0付近まで低減したか否かを判定している。
具体的には、上記のように燃料カットによって触媒63aの酸素吸蔵量は増大して飽和酸素量あるいはこれに近い量になるが、ステップS33において気筒2aの空燃比をリッチにすると触媒63aに燃料が供給されて、触媒63aにて燃料と触媒63aが吸蔵している酸素とが反応し、これに伴い触媒63aで吸蔵されている酸素量は低減していく。そのため、ステップS32を繰り返すと触媒63aの吸蔵酸素量は低減して0となる。そして、このように触媒63aの酸素吸蔵量が0付近になると、触媒63aの下流側であってラムダセンサSW4の設置部分に触媒63aで反応できなかった燃料が流下する結果、ラムダセンサSW4の出力は、第2電圧V2から判定出力値V0を超えて第1電圧V1に向かって上昇する。従って、ラムダセンサSW4の出力が判定出力値V0以上になれば、触媒63aの酸素吸蔵量が0付近まで低減したと判定することができる。
ステップS34の判定がNOであって、ラムダセンサSW4の出力値が判定出力値V0以上になっていない場合は、ステップS32に戻りステップS32、S33繰り返す。すなわち、本実施形態では、ステップS34の判定がYESとなって触媒63aの酸素吸蔵量が0となるまで気筒2aの空燃比をリッチにするとともに噴射された燃料のうち理論空燃比に対応する量を差し引いた量を積算して過剰燃料積算値を算出する。
一方、ステップS34の判定がYESであって、ラムダセンサSW4の出力値が判定出力値V0以上であって触媒63aの酸素吸蔵量が0付近になったと判定されると、ステップS35に進む。
ステップS35では、通常運転を実施する。すなわち、リッチ運転を終了して、通常運転時の制御に移行する。
次に、ステップS36において、ステップS34の判定がYESとなったときの最終的な過剰燃料積算値が、予め設定された基準積算値より小さいか否かを判定する。そして、この判定がYESの場合は、ステップS37に進み、触媒63aが異常(劣化している)であると判定する。一方、この判定がNOの場合は、ステップS38に進み、触媒63aが正常である(劣化していない)と判定する。
すなわち、上記の最終的な過剰燃料積算値は、ステップS31での判定がYESとなって(燃料カットが終了して)ステップS34での判定がYESとなる(ラムダセンサSW4の出力値が判定出力値V0以上となる)までの間、すなわち、触媒63aの酸素吸蔵量が飽和酸素量になってから0付近になるまでの間に、触媒63aに供給されて触媒63aで反応した燃料量の総量であって、触媒63aの飽和酸素量に対応する値である。そして、基準積算値は、正常な触媒63aの飽和酸素量に対応する燃料量である。そのため、最終的な過剰燃料積算値がこの基準積算値よりも小さければ、触媒63aが劣化して、吸蔵可能な最大酸素量が正常なときの量よりも低減したと判定することができる。一方、最終的な過剰燃料積算値がこの基準積算値以上であれば、吸蔵可能な最大酸素量が正常なときの量以上であり、触媒が正常であると判定することができる。
このように、本実施形態では、燃料カットの終了後、気筒2a内の空燃比をリッチにして触媒63aに吸蔵されている酸素を放出させるとともに、このときに触媒63aが正常か否かを判定する。
(3)パータベーション制御の許可判定
次に、パータベーション制御の許可判定の手順、すなわち、パータベーション実行フラグFpの設定手順について、図11のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS41にて、運転状態を読み込む。例えば、推定触媒温度Tcat、車速、各気筒2aの充填量等を読み込む。
次に、ステップS42にて、推定触媒温度Tcatが予め設定されたパータベーション実施温度Tcat_p11未満か否かを判定する。パータベーション実施温度Tcat_p1は、触媒63aがある程度活性化している状態(浄化率が0より大きい所定値になっている状態)の触媒63aの温度である。例えば、このパータベーション実施温度Tcat_p1は、AWS実施温度Tcat_AWSとほぼ同じ値に設定されている。この判定がYESであって推定触媒温度Tcatがパータベーション実施温度Tcat_p1未満の場合は、ステップS50に進み、パータベーション制御を禁止すると判定してパータベーション実行フラグFpを0にする。
このように、本実施形態では、推定触媒温度Tcatがパータベーション実施温度Tcat_p1未満であって触媒63a活性が十分でない場合は、パータベーション制御の実施を禁止する。すなわち、触媒63aの活性が低い場合には触媒63aは十分に酸素を吸蔵/放出することができずパータベーション制御を実施しても触媒63aの活性化効果は小さい。そのため、この場合にはパータベーション制御の実施を禁止する。一方、ステップS42の判定がNOの場合はステップS43に進む。
次に、ステップS43にて車両が停止中か否かを判定する。具体的には、車速が0以下か否かを判定する。この判定がYESであって車両が停止中の場合は、ステップS50に進み、パータベーション制御を禁止すると判定してパータベーション実行フラグFpを0にする。このように、本実施形態では、車両が停止している場合は、パータベーション制御の実施を禁止する。一方、ステップS43の判定がNOの場合はステップS44に進む。
ステップS44では、AWS制御が実施中か否かを判定する。なお、この判定は、例えば、AWS制御が実施中か否かに応じて値が変化するフラグを設定しておき、このフラグの値に応じて行うことができる。この判定がYESであってAWS制御が実施されている場合は、ステップS50に進み、パータベーション制御を禁止すると判定してパータベーション実行フラグFpを0にする。このように、本実施形態では、AWS制御が実施されている場合は、パータベーション制御の実施を禁止する。一方、ステップS44の判定がNOの場合はステップS45に進む。
ステップS45では、F/C後リッチ化制御が実施中か否かを判定する。なお、この判定は、例えば、F/C後リッチ化制御が実施中か否かに応じて値が変化するフラグを設定しておき、このフラグの値に応じて行うことができる。この判定がYESであってF/C後リッチ化制御が実施されている場合は、ステップS50に進み、パータベーション制御を禁止すると判定してパータベーション実行フラグFpを0にする。このように、本実施形態では、F/C後リッチ化制御が実施されている場合は、パータベーション制御の実施を禁止する。一方、ステップS45の判定がNOの場合はステップS46に進む。
ステップS46では、LAFS診断制御が実施中か否かを判定する。なお、この判定は、例えば、LAFS診断制御が実施中か否かに応じて値が変化するフラグを設定しておき、このフラグの値に応じて行うことができる。この判定がYESであってLAFS診断制御が実施されている場合は、ステップS50に進み、パータベーション制御を禁止すると判定してパータベーション実行フラグFpを0にする。このように、本実施形態では、LAFS診断制御が実施されている場合は、パータベーション制御の実施を禁止する。一方、ステップS46の判定がNOの場合はステップS47に進む。
ステップS47では、各気筒2aの充填量が下限充填量未満か否かを判定する。そして、この判定がYESであって、充填量が下限充填量未満の場合は、ステップS50に進み、パータベーション制御を禁止すると判定してパータベーション実行フラグFpを0にする。すなわち、本実施形態では、図12に示すように気筒2aの充填量が下限充填量L1未満の第1領域A1であって充填量が小さくエンジン負荷の低い第1領域A1では、パータベーション制御の実施を禁止する。
図12に示すように、下限充填量L1は、エンジン回転数が高いほど小さい値に設定されている。図12に示した例では、下限充填量L1は、エンジン回転数が高くなるに従って小さくなるように、特に、エンジン回転数に比例して小さくなるように設定されている。
ステップS47の判定がNOの場合はステップS48に進む。
ステップS48では、各気筒2aの充填量が上限充填量以上か否かを判定する。そして、この判定がYESであって、充填量が上限充填量以上の場合は、ステップS50に進み、パータベーション制御を禁止すると判定してパータベーション実行フラグFpを0にする。すなわち、本実施形態では、図12に示すように気筒2aの充填量が上限充填量L2以上の領域A3であって充填量が大きくエンジン負荷の高い第3領域A3では、パータベーション制御の実施を禁止する。
図12に示すように、上限充填量L2は、エンジン回転数が高いほど大きい値に設定されている。図12に示した例では、上限充填量L2は、エンジン回転数が高くなるに従って大きくなるように、特に、エンジン回転数に比例して大きくなるように設定されている。
このように、本実施形態では、充填量が下限充填量から上限充填量の間の第2領域A2でのみ、パータベーション制御を実施するようになっている。
ここで、上記のように、下限充填量L1はエンジン回転数が高くなるほど小さい値に設定され、上限充填量L2はエンジン回転数が高くなるほど大きい値に設定されており、第2領域A2は、エンジン回転数が高いほど充填量の範囲が広くなっている。
なお、図11に示したA2_1、A2_2、A2_3は、それぞれ、上記で説明した低回転領域A2_1、中回転領域A2_2、高回転領域A2_3を示しており、上記のように、本実施形態では、第2領域A2においてパータベーション制御を実施する場合において、エンジン回転数に応じて増減率Cをそれぞれ個別に設定する。
ステップS48の判定がNOの場合はステップS49に進む。
ステップS49では、パータベーション制御を許可するすなわちパータベーション制御を実行すると判定してパータベーション実行フラグFpを1にする。
(4)作用
以上のように、本実施形態では、車両が停止中、AWS制御の実施中、F/C後リッチ化制御の実施中、LAFS診断制御(リニアO2センサSW3の診断制御)の実施中の場合、また、気筒2aの充填量が下限充填量L1未満、気筒2aの充填量が上限充填量L2以上の場合には、パータベーション制御の実施を禁止する。そのため、パータベーション制御を適正に実施して触媒63aを活性化させ、これにより浄化性能を高めつつ、パータベーション制御を実施することに伴う乗り心地の悪化および排ガス性能の悪化を抑制することができる。
以下、具体的に説明する。
パータベーション制御では、気筒2aの空燃比をベース空燃比に対してリッチおよびリーンに変動させる。そのため、パータベーション制御を実施すると、エンジントルクが変動して、エンジン振動および騒音が大きくなる。一方、車両の停止中は乗員がエンジン振動や騒音を感じやすい。そのため、車両停止中にパータベーション制御を実施すると、乗員がエンジン振動および騒音が大きくなったと感じやすい。これに対して、本実施形態では、車両停止中はパータベーション制御の実施が禁止される。従って、車両停止時に乗員が感知するエンジン振動および騒音の増大を回避することができ、乗り心地を良好にすることができる。
また、AWS制御は触媒63aを活性化させるための制御であって、AWS制御は触媒63aの温度が低く十分に活性していないときに行われる。そして、このように触媒63aの温度が低く十分に活性していない状態では、触媒63aは十分に酸素を吸蔵/放出することができない。そのため、AWS制御実施時にパータベーション制御を実施しても、パータベーション制御の実施による触媒63aの活性化効果は小さい。また、触媒63aが活性していない状態でパータベーション制御を実施して空燃比をリッチにすると未燃のHC等が触媒63aで浄化されずに排出されて排ガス性能が悪化する。これに対して、本実施形態では、AWS制御の実施中はパータベーション制御の実施が禁止される。従って、パータベーション制御の実施によって排ガス性能が悪化するのを回避することができる。
また、LAFS診断制御では、上記のように、気筒2a内の空燃比を基本空燃比からリーンに変化させている。そのため、このときに気筒2aの空燃比を変動させると燃焼安定性が著しく悪化する。すなわち、LAFS診断制御の実施によって気筒2a内の空燃比がリーンになった状態で、これを基準としてさらにパータベーション制御によって空燃比をリーンにすると、著しいエンジントルクの低下や失火等が生じるおそれがある。これに対して、本実施形態では、LAFS診断制御の実施中はパータベーション制御の実施が禁止される。従って、パータベーション制御の実施によって、エンジントルクの低下や失火が生じることを回避して燃焼安定性を確保することができる。
また、上記のように、LAFS診断制御では、1燃焼サイクル間は空燃比を同じ値に維持し、1燃焼サイクル終了毎に空燃比を変化させて、この変化に伴うリニアO2センサSW3の時定数に基づいてリニアO2センサSW3の出力特性が正常か否かを判定している。そのため、LAFS診断制御実施時にパータベーション制御を実施して、1燃焼サイクルの間で空燃比が変動した場合には、リニアO2センサSW3の出力が安定せずリニアO2センサSW3の出力特性の時定数の検出精度が悪化するおそれがある。これに対して、本実施形態では、LAFS診断制御の実施中パータベーション制御の実施が禁止されるため、リニアO2センサSW3の時定数をより精度よく検出して、このセンサSW3の異常判定をより適切に行うことができる。
また、F/C後リッチ化制御実施時は、上記のように、気筒2aの空燃比をリッチにする。そのため、このときにパータベーション制御を実施して気筒2aの空燃比をさらにリッチにすると失火等が生じたりエンジントルクの変動が著しく増大したりして、エンジン振動および騒音が悪化して乗り心地が悪くなるおそれがある。
また、パータベーション制御を実施して気筒2aの空燃比ひいては触媒63aに流入するガスの空燃比をリーンにすると、F/C後リッチ化制御実施時における触媒63aが正常か否かの判定を精度よく行うことができなくなる。すなわち、上記のように、本実施形態では、F/C後リッチ化制御の実施時に(燃料カット終了後からラムダセンサSW4の出力が基準出力値以上となるまでの間)触媒63aにリッチなガスを供給し続けて、このガスに含まれる未燃燃料の量の積算値と触媒63aの飽和酸素量とを対応させることで、触媒63aの判定を行っている。そのため、このときにパータベーション制御を実施して、空燃比を振動させると、触媒63aに供給される未燃燃料の量を適切に算出することができず、触媒63aが正常か否かの判定精度が悪化するおそれがある。
上記に対して、本実施形態では、F/C後リッチ化制御実施時中はパータベーション制御の実施が禁止される。従って、パータベーション制御の実施によって、失火等やエンジントルク変動の増大およびこれに伴う乗り心地の悪化を抑制することができるとともに、触媒63aが正常か否かの判定を精度よく行うことができる。
また、気筒2aの充填量が小さくエンジン負荷が低い運転領域は、燃焼安定性が高くない。そのため、このような運転領域でパータベーション制御を実施して気筒2aの空燃比をリーンにすると燃焼安定性が悪化して失火するおそれがある。また、気筒2aの充填量が小さく燃料噴射量が小さい運転領域では、パータベーション制御を実施しても、触媒63aに供給される酸素および燃料の変動量は小さく抑えられるため、パータベーション制御の実施により得られる触媒活性化の効果は大きくない。
これに対して、本実施形態では、気筒2aの充填量が下限充填量L1未満の第1領域A1ではパータベーション制御の実施が禁止される。従って、パータベーション制御の実施によって、燃焼安定性が悪化することひいてはエンジントルクの変動が大きくなって振動や騒音が大きくなり走行性能および乗り心地が悪化するのを回避することができる。
また、触媒活性化の効果を大きく損なうことなく、パータベーション制御の実施に伴う燃費性能の悪化を効果的に抑制することができる。すなわち、パータベーション制御では空燃比をリッチにするため燃費性能が悪化する。そのため、パータベーション制御の実施機会が少ない場合には、触媒活性化の効果は小さくなる一方燃費性能の悪化を抑制することができる。
特に、エンジン回転数が低い場合は、気筒2a内のガス流動が小さいために火炎伝播性能が低く燃焼安定性が低くなりやすい。これに対して、本実施形態では、下限充填量L1をエンジン回転数が低いほど高くしている。そのため、燃焼安定性をより確実に確保することができる。
また、気筒2aの充填量が大きくエンジン負荷が高い運転領域は、気筒2aに供給される燃料量が多い。そのため、このような運転領域でパータベーション制御を実施して気筒2aの空燃比を変動させると、気筒2aに供給される燃料量の変動量が多くなりエンジントルクの変動が大きくなる。これに対して、本実施形態では、気筒2aの充填量が上限充填量L2以上の第3領域A3ではパータベーション制御の実施が禁止される。従って、パータベーション制御の実施によって、エンジントルクの変動が大きくなって振動や騒音が大きくなるのを回避することができる。
特に、エンジン回転数が低い場合は、乗員がエンジントルクの変動を感知しやすい。これに対して、本実施形態では、上限充填量L2をエンジン回転数が低いほど低くしている。そのため、乗員が感じる振動や騒音を小さく抑えて乗り心地を良好にすることができる。
また、本実施形態では、パータベーション制御の実施が許可される第2運転領域A2のうちエンジン回転数が低い低回転領域A2_1において、エンジン回転数が高いほど増減率Cが大きくされている。すなわち、エンジン回転数が低くエンジントルクの変動を感じやすい場合ほど、増減率Cが小さく空燃比の変動が小さくされてエンジントルクの変動が小さくなるように構成されている。そのため、パータベーション制御を実施して触媒63aを活性化させつつより確実に乗り心地を良好にすることができる。
また、本実施形態では、パータベーション制御の実施が許可される第2運転領域A2のうちエンジン回転数が高い高回転領域A2_3において、エンジン回転数が高いほど増減率Cが小さくされている。すなわち、上記のように本実施形態ではエンジン回転数が第4回転数N4以上ではパータベーション制御が行われないようになっているが、第3回転数N3から第4回転数N4に向けてエンジン回転数が高くなるほど増減率Cが小さくされている。そのため、第3回転数N3以上の運転領域において、エンジン回転数が変化したときの増減率Cすなわち空燃比の変化を小さく抑えることができ、加減速時に空燃比を円滑に変化させることができる。
(5)変形例
上記実施形態では、F/C後リッチ化制御を実施して燃料カット終了後に気筒2a内の空燃比をリッチにする場合について説明したが、このF/C後リッチ化制御は省略可能である。すなわち、燃料カット終了後において通常の運転が実施されることによっても触媒63aの酸素吸蔵量は低減していく。そのため、F/C後リッチ化制御を省略してもよいが、F/C後リッチ化制御を実施すれば、触媒63aの酸素吸蔵量をより早期に低減して触媒63aの還元能力をより早期に回復させることができるため、排ガス性能を高めることができる。
また、上記のようにF/C後リッチ化制御を省略した場合であっても、燃料カット終了後は触媒63aの酸素吸蔵量はほぼ飽和酸素量となっているため、燃料カット終了直後からパータベーション制御を通常どおりに実施して気筒2aの空燃比をリーンにすると触媒63aでNOxを十分に還元することができず排ガス性能が悪化するおそれがある。
従って、F/C後リッチ化制御を実施しない場合であっても、燃料カット終了後から触媒63aが酸素を吸蔵可能となるまでの特定期間はパータベーション制御を禁止する。あるいは、増減率Cを通常制御の実施時の増減率Cすなわち同じ運転状態であってこの特定期間以外の期間に設定される増減率Cよりも小さくしてパータベーション制御を制限する。例えば、増減率Cを最小増減率C_minよりも小さくする。
ここで、パータベーション制御を禁止すれば、より確実NOxの排出量を抑制することができる。一方、パータベーション制御を実施しつつ増減率Cを低減した場合には、パータベーション制御の機会を多くして触媒63aをより確実に活性化させることができる。
なお、触媒63aが酸素を吸蔵可能となったか否かは、燃料カット終了後からの経過時間や、各種センサの値等に基づいて推定した触媒63aの酸素吸蔵量等に基づいて判定すればよい。例えば、燃料カット終了後から所定時間が経過するまでの間パータベーション制御を制限するように構成すればよい。
また、上記実施形態では、F/C後リッチ化制御の実施時に、触媒63aの状態が正常か否かを判定する触媒劣化診断制御を実施した場合について説明したが、この触媒劣化診断制御は省略可能である。すなわち、図10のフローチャートにおけるステップS33,S36〜S38は省略可能である。
ただし、上記のようにF/C後リッチ化制御を実施してこのときに触媒63aに流入する未燃燃料の量に基づいて触媒63aの劣化状態を判定すれば、触媒63aの還元能力を回復させつつ触媒63aの劣化状態を精度よく判定することができる。
特に、上記実施形態では、F/C後リッチ化制御の実施中であって触媒劣化診断制御における過剰燃料積算値の算出中(図10におけるステップS33の実施中)のパータベーション制御の実施が禁止されている。そのため、触媒63aの劣化状態をより精度よく判定することができる。すなわち、F/C後リッチ化制御を実施して気筒2a内の空燃比をリッチにした状態でパータベーション制御を実施して空燃比を振動させた場合には、触媒63aに流入する未燃燃料の量が変動して触媒63aに流入した未燃燃料の量および過剰燃料積算値の推定精度が悪化するおそれがある。これに対して、上記実施形態では、触媒劣化診断制御の実施中のパータベーション制御の実施が禁止されるため、触媒63aに流入した未燃燃料の量および過剰燃料積算値をより精度よく推定して触媒の劣化状態を精度よく判定することができる。
また、上記実施形態では、ラムダセンサSW4の出力値が判定出力値V0以上になると(図10のフローチャートのステップS4の判定がYESとなると)、F/C後リッチ化制御を停止する場合について説明したが、F/C後リッチ化制御の停止タイミングはこれに限らない。例えば、燃料カット終了後からの経過時間等に基づいてF/C後リッチ化制御を停止させてもよい。ただし、上記のように、ラムダセンサSW4の出力値が判定出力値V0を超えたときであって触媒63aの酸素吸蔵量が0付近になったときにF/C後リッチ化制御を停止させれば、触媒63aの酸素吸蔵量を0付近まで低減させて触媒63aの還元能力を適切に回復させることができる。また、触媒63aの酸素吸蔵量が0付近である状態で気筒2aの空燃比がリッチとされて未燃燃料が触媒63aで浄化されずに車外に排出される時間を短く抑えることができ、排ガス性能を高くすることができる。
また、上記実施形態では、AWS制御、LAFS診断制御を実施する場合について説明したが、これらの制御は省略してもよい。
また、車両が走行中の場合にのみパータベーション制御が実施される場合について説明したが、車両が停止中の場合にパータベーション制御を実施してもよい。
また、推定触媒温度Tcatがパータベーション実施温度Tcat_p1以上の場合にのみベーション制御が実施される場合について説明したが、推定触媒温度Tcatに関わらずパータベーション制御を実施してもよい。
また、気筒2aの充填量が下限充填量L1未満の第1領域A1、気筒2aの充填量が上限充填量L2以上の第3領域A3、エンジン回転数の低い運転領域A0、エンジン回転数の高い運転領域A4において、それぞれパータベーション制御を実施してもよい。
また、下限充填量L1および上限充填量L2は、エンジン回転数によらず一定の値であってもよい。