本発明のある態様にかかる実施形態の作用効果を説明する。なお、本実施形態の作用効果を具体的に説明するに際しては、具体的な例を示して説明することになる。しかし、それらの例示される態様はあくまでも本発明に含まれる態様のうちの一部に過ぎず、その態様には数多くのバリエーションが存在する。したがって、本発明は例示される態様に限定されるものではない。
実施形態の標本観察方法及び標本観察装置について説明する。本実施形態の標本観察装置に用いられる観察方法を、以下、本実施形態の標本観察方法という。以下の各実施形態の標本観察方法及び標本観察装置は、明視野観察の状態で用いられるものである。本実施形態における明視野観察では、蛍光観察のように、励起フィルタ、ダイクロイックミラー、吸収フィルタからなる蛍光ミラーユニットは用いられない。よって、明視野観察の状態では、標本が無色透明の場合、標本の像を形成する光(以下、適宜、「結像光」という)の波長帯域は、標本を照明する光(以下、適宜、「照明光」という)の波長帯域のうちの一部と一致しているか、又は結像光の波長帯域と照明光の波長帯域とは一致している。
また、本実施形態における明視野観察では、位相差観察における位相膜や、微分干渉観察における微分干渉プリズムは用いられない。よって、標本の一点から出た光についてみると、明視野観察の状態では、照明光学系における光の波面の変化と結像光学系における波面の変化はいずれもレンズのみで生じる。
また、本実施形態における明視野観察では、標本から来る光束の一部を減光するような減光フィルタは用いられない。よって、明視野観察の状態では、標本から標本の像までの間で、結像光に強度変化は生じない(ただし、レンズに起因する強度変化は除く)。
第1実施形態の標本観察方法は、標本の電子画像を取得する取得ステップと、電子画像の信号から直流成分を減算する減算ステップと、を有し、取得ステップは明視野観察の状態で行われ、減算ステップにおける電子画像は、所定の状態で取得された画像であって、所定の状態では、少なくとも、標本の位置と結像光学系の合焦位置とが異なっていることを特徴とする。
第1実施形態の標本観察方法について、図1を用いて説明する。図1は、第1実施形態の標本観察方法のフローチャートである。
第1実施形態の標本観察方法は、取得ステップS10と、減算ステップS20とを有する。これにより、第1実施形態の標本観察方法では、明瞭な電子画像が得られる。
第1実施形態の標本観察方法では、まず、取得ステップS10が実行される。取得ステップS10では、標本の電子画像(以下、適宜、「電子画像」という)の取得が行われる。標本の像(光学像)は、結像光学系によって形成される。電子画像の取得では、この像をCCDやCMOSのような撮像素子で撮像する。撮像によって、標本の像は電子画像(デジタルデータ)に変換される。なお、標本の像は明視野観察の状態で形成されているので、電子画像の取得も明視野観察の状態で行われる。
取得ステップS10が終わると、減算ステップS20が実行される。減算ステップS20では、電子画像の信号に対して直流成分(バイアス成分)の減算が行われる。減算ステップS20における電子画像は、所定の状態で取得された画像である。この所定の状態では、少なくとも、標本の位置と結像光学系の合焦位置(以下、適宜、「合焦位置」という)とが異なっている。
標本の位置と結像光学系の合焦位置とを異ならせるには、例えば、合焦位置からずれていると思われる位置まで、目測で標本を移動させれば良い。また、まず合焦位置に標本の位置を一致させ、その後、合焦位置から離れる方向に標本を移動させても良い。あるいは、合焦位置が予め分かっている場合、合焦位置からずれた位置を予め決めておくことができるので、その位置まで標本を移動させれば良い。
減算ステップS20における電子画像は、少なくとも、標本の位置と合焦位置とが異なっているときの画像である。よって、電子画像の取得時には、標本の位置と合焦位置とが異なっている状態、すなわち、標本の位置が合焦位置からずれている状態が含まれる。
ここで、標本が格子状の位相物体の場合、標本を照明すると、標本から0次回折光と回折光が出てくる。標本の位置が合焦位置からずれている状態では、0次回折光と回折光との間に波面収差の差(光路長差)が発生する。この点ついて、図2〜図9を使って説明する。なお、回折光として1次回折光を用いて説明する。また、結像光学系の収差は無収差であるとする。また、結像光学系の合焦位置と標本の位置との差、すなわち、標本の位置の合焦位置からのずれ量を、適宜、ずれ量ΔZという。
図2は、標本の位置と合焦位置との関係、及び波面収差量を示す図であって、図2(a)は、合焦状態のときの図、図2(b)は、非合焦状態(ずれ量ΔZ=10μm)のときの図である。図3は、合焦状態のときの標本の電子画像である。図4は、非合焦状態(ずれ量ΔZ=10μm)のときの標本の電子画像である。図5は、標本の位置と合焦位置との関係、及び波面収差量を示す図であって、図5(a)は、合焦状態のときの図、図5(b)は、非合焦状態(ずれ量ΔZ=20μm)のときの図である。図6は、合焦状態のときの標本の電子画像である。図7は、非合焦状態(ずれ量ΔZ=20μm)のときの標本の電子画像である。なお、図3、4、6及び7は、いずれも減算ステップS20が実行された後の画像である。また、図3、4、6及び7における標本は細胞である。
また、合焦状態とは、標本Sの位置が合焦位置と一致した状態のことであって、非合焦状態とは、標本Sの位置が合焦位置からずれた状態のことである。また、ずれの方向は、図2(b)と図5(b)のいずれにおいても上方向(結像光学系31に近づく方向)である。
また、標本Sについては、図2と図5で空間周波数が異なっている。図2と図5では、標本Sは、いずれも格子状の位相物体である。ただし、図2における標本Sでは、空間周波数が高い(位相の凹凸の周期が短い)。一方、図5における標本Sでは、図2の標本Sよりも空間周波数が低い(位相の凹凸の周期が図2の標本Sよりも長い)。
また、グラフは瞳位置での波面収差の量を表している。グラフの縦軸は波面収差量(単位は波長)、横軸は瞳面(瞳面上)の中心からの距離を表している。瞳面の中心からの距離は規格化されているので、無名数となっている。横軸の数値0は瞳面の中心位置、数値1は瞳面の最も外側の位置を表している。
図2(a)に示すように、光軸上の一点から出た光には、光線LCと光線LPとが含まれている。光線LCは光軸上を進む光線である。ここで、光線LCと瞳面の交点は、瞳面の中心位置に一致している。一方、光線LPは、光軸AXに対して所定の角度で結像光学系31に入射する光線である。ここで、光線LPと瞳面の交点は、瞳面の中心から所定の距離だけ離れた位置になっている。
標本Sを照明光(平行光束)で照明すると、標本Sから0次回折光と1次回折光が出てくる。ここで、標本Sと光軸が交わる点(光軸上の一点)に着目すると、0次回折光は回折されないので、この点から出た0次回折光は光軸上を進んで瞳の中心に到達する。よって、0次回折光は光線LCとみなすことができる。一方、1次回折光は所定の方向に回折されるので、この点から出た1次回折光は光軸に対して所定の角度で結像光学系31に入射する。結像光学系31に入射した1次回折光は、瞳面の中心から離れた位置に到達する。よって、1次回折光は光線LPとみなすことができる。
まず、標本Sが高い空間周波数を持つ場合について説明する。合焦状態では、標本Sの位置PSは合焦位置PFと一致している。この状態では、図2(a)のグラフに示すように、瞳面のどの位置においても波面収差量は0になっている。これは、0次回折光における波面収差量と1次回折光における波面収差量が、共に0であることを示している。波面収差量に(2π/λ)を乗じた値は位相量に相当するので、合焦時は、0次回折光と1次回折光のいずれにおいても、位相に変化は生じない。1次回折光の位相は、0次回折光の位相に対してπ/2遅れたままなので、ψ=0−(−π/2)=π/2となる。この場合、2A1A2cosψ=0となるので、位相情報をコントラスト情報として得られない。その結果、電子画像はコントラストが無い画像になる。
ただし、実際の結像光学系には軸上色収差が残存している。そのため、白色光で標本Sを照明すると、波長よっては標本Sの位置PSと合焦位置PFとが一致しなくなる。この場合、結像光には、1次回折光に波面収差量が加わった波長の光が含まれる。そのため、本来であれば、電子画像はコントラストが無い画像になるが、実際には、図3に示すように、電子画像はコントラストを若干持った画像になる。
一方、非合焦状態では、標本の位置PSは合焦位置PFからずれている。図2(b)では、標本Sの位置PSが合焦位置PFよりも上方向(結像光学系31に近づく方向)にずれている。この状態では、図2(b)のグラフに示すように、瞳面の中心では波面収差量は0であるが、瞳面の中心から離れた位置では波面収差が発生する。ここで、波面収差は参照波面に対する実際の波面のずれで、このずれは位相のずれになる。そのため、波面収差が発生している範囲内に、1次回折光の位置があると、1次回折光の位相は、本来持っている位相に波面収差量が加わったものになる。このように、標本Sの位置PSを合焦位置PFからずらすことで、1次回折光の位相を変化させられる。
図2(b)のグラフに示すように、位置PWにおける波面収差量は−λ/4である。そこで、瞳面での1次回折光の位置が位置PWと一致するように、合焦位置PFからのずれ量ΔZを調整する。言い換えると、瞳面における1次回折光の位置において波面収差量が−λ/4となるように、ずれ量ΔZを調整する。図2(b)では、ずれ量ΔZを10μmにすることで、瞳面での1次回折光の位置を位置PWに一致させている。
このようにすることで、0次回折光における波面収差量を0にしたままで、1次回折光における波面収差量を−λ/4にできる。上述のように、波面収差量に(2π/λ)を乗じた値は位相量であるので、非合焦時は、0次回折光については位相に変化は生じないが、1次回折光については位相に変化が生じる。具体的には、1次回折光では、もともとの位相の遅れπ/2に加えて、更に位相がλ/4×(2π/λ)=π/2遅れる。1次回折光の位相は、0次回折光の位相に対してπ遅れた状態になるので、ψ=0−(−π)=πとなる。この場合、2A1A2cosψ≠0となるので、位相情報がコントラスト情報として得られる。その結果、図4に示すように、電子画像は、コントラストを明らかに持った画像になる。よって、この電子画像を、例えば、表示装置に表示すれば、観察者は標本S(標本Sの像)を明瞭に観察できる。
次に、標本Sが低い空間周波数を持つ場合について説明する。合焦状態では、標本Sの位置PSは合焦位置PFと一致している。この状態では、図5(a)のグラフに示すように、瞳面のどの位置においても波面収差量は0になっている。これは、図2(a)と同じである。そのため、電子画像はコントラストが無い画像になる。ただし、上述の理由により、図6に示すように、電子画像は、コントラストを若干持った画像になる。
一方、非合焦状態では、図5(b)に示すように、標本Sの位置PSが合焦位置PFよりも上方向(結像光学系に近づく方向)にずれている。この状態では、図5(b)のグラフに示すように、瞳面の中心では波面収差量は0であるが、瞳面の中心から離れた位置では波面収差が発生する。ここで、図5における標本Sの構造は、図2における標本Sの構造と異なる。
この場合、1次回折光の回折角は、図5(b)と図2(b)とで異なる。図5(b)における回折角は、図2(b)に比べて小さくなる。そのため、瞳面における1次回折光の位置も、図5(b)と図2(b)とで異なる。図5(b)のグラフに示すように、波面収差量が−λ/4となる位置はPW’となる。位置PW’は、図2の位置PWに比べて瞳面の中心に近い位置になっている。
上述のように、位置PW’における波面収差量は−λ/4である。そこで、瞳面での1次回折光の位置が位置PW’と一致するように、ずれ量ΔZを調整する。言い換えると、瞳面における1次回折光の位置において波面収差量が−λ/4となるように、ずれ量ΔZを調整する。図5(b)では、ずれ量ΔZを20μmにすることで、瞳面での1次回折光の位置を位置PW’に一致させている。
このようにすると、0次回折光における波面収差量を0にしたままで、1次回折光における波面収差量を−λ/4にできる。これは、図2(b)と同じである。そのため、図7に示すように、電子画像は、コントラストを明らかに持った画像になる。よって、観察者は標本S(標本Sの像)を明瞭に観察できる。
図2(b)や図5(b)では、1次回折光における波面収差量が−λ/4になっている。この場合、0次回折光の位相と1次回折光の位相は逆位相の関係になる。逆位相の関係では、0次回折光と1次回折光は弱め合うことになる。よって、電子画像では、背景に比べて標本Sが暗くなる。これは、位相差観察におけるダークコントラストに相当する。
また、回折光の回折角は、標本Sが持っている空間周波数によって異なる。例えば、標本Sを格子状の位相物体とした場合、格子の間隔が広いということは、標本Sが持っている空間周波数が低いということになる。一方、格子の間隔が狭いということは、標本Sが持っている空間周波数が高いということになる。ここで、格子の間隔が広いほど回折角は小さく、格子の間隔が狭いほど回折角は大きくなる。よって、標本Sが低い空間周波数を持つ場合回折角は小さく、標本Sが高い空間周波数を持つ場合回折角は大きくなる。
細胞には、様々な空間周波数を持つ構造が含まれている。そのため、標本Sが細胞の場合、波面収差量が−λ/4となる位置を、どの空間周波数における1次回折光の位置と一致させるかで、標本の像の見え方が変わってくる。
高い空間周波数における1次回折光の位置で波面収差量が−λ/4となるように、ずれ量ΔZを調整すると(調整1)、電子画像では、空間周波数の高い部分が明瞭になる。一方、低い空間周波数における1次回折光の位置で波面収差量が−λ/4となるように、ずれ量ΔZを調整すると(調整2)、電子画像では、空間周波数の低い部分が明瞭になる。
図4は調整1による電子画像で、図7は調整2による電子画像である。なお、標本は同じである。図4の電子画像と図7の電子画像を比べると、図4の電子画像では細胞の外周(空間周波数が高い部分)が明瞭になっているのに対して、図7の電子画像では細胞の内側(空間周波数が低い部分)が明瞭になっていることがわかる。
また、ずれの方向は下方向(結像光学系31から離れる方向)であっても良い。その様子を図8と図9に示す。なお、図8と図9の詳細な説明は、図2と図5と同様であるので省略する。
図8は標本の位置と合焦位置との関係、及び波面収差量を示す図であって、(a)は合焦状態のときの図、(b)は非合焦状態(ずれ量ΔZ=10μm)のときの図である。図9は標本の位置と合焦位置との関係、及び波面収差量を示す図であって、(a)は合焦状態のときの図、(b)は非合焦状態(ずれ量ΔZ=20μm)のときの図である。
図8(b)や図9(b)では、1次回折光における波面収差量が+λ/4になっている。この場合、0次回折光の位相と1次回折光の位相は同位相の関係になる。同位相の関係では、0次回折光と1次回折光は強め合うことになる。よって、電子画像では、背景に比べて標本Sが明るくなる。これは、位相差観察におけるブライトコントラストに相当する。
また、電子画像は示さないが、1次回折光の回折角は、図8(b)の方が図9(b)に比べて大きい。よって、図8(b)の電子画像では細胞の外周(空間周波数が高い部分)が明瞭になるのに対して、図9(b)の電子画像では細胞の内側(空間周波数が低い部分)が明瞭になる。
なお、本実施形態の観察方法では、ずれ量ΔZはそれほど大きくない。この場合、合焦位置に対して標本Sの位置をずらしても、結像光学系31に対する1次回折光の入射位置はほとんど変化しない。そのため、瞳面での1次回折光の位置も、ほとんど変化しないものとみなせる。よって、標本Sの位置を移動させるだけで、1次回折光に追加される波面収差量が−λ/4となるようにできる。
取得ステップS10が終わると、続いて減算ステップS20が実行される。減算ステップS20では、電子画像の信号に対して直流成分(バイアス成分)の減算が行われる。
上述のように、取得ステップS10では、標本の位置と合焦位置とが異なっている。そのため、2A1A2cosψ≠0になる。この場合、像面における光の強度Iは以下のようになる。
I=A1 2+A2 2+2A1A2cosψ
ここで、A1 2+A2 2は標本の像における直流成分(バイアス成分)、すなわち、電子画像の信号うちの直流成分(バイアス成分)を表している。このうち、0次回折光の振幅A1 2は、非常に大きな値を持つ。そこで、減算ステップS20で、A1 2の値を小さくする。このようにすることで、A1 2+A2 2の値に対して2A1A2cosψの値を相対的に大きくできる。その結果、標本S(標本Sの像)を明瞭に観察できる。
以上のように、第1実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、無色透明な標本を明瞭に観察できる。
第2実施形態の標本観察方法は、減算ステップよりも後に比較ステップを有し、取得ステップを少なくとも3回行い、先に取得した電子画像と後に取得した電子画像とを、比較ステップで比較し、所定の条件を満足する電子画像が得られるまで、取得ステップから比較ステップまでを繰り返し行うものである。
第2実施形態の標本観察方法について、図10と図11を用いて説明する。図10(a)は、第2実施形態の標本観察方法の簡単なフローチャート、図10(b)は、標本と結像光学系の間隔と、コントラストの関係を示すグラフである。また、図11は、第2実施形態の標本観察方法の詳細なフローチャートである。
第2実施形態の標本観察方法は、図10(a)に示すように、取得ステップS10と減算ステップS20に加え、更に、比較ステップS30−1を有する。比較ステップS30−1は減算ステップS20よりも後に実行される。また、取得ステップS10は少なくとも3回行い、先に取得した電子画像と後に取得した電子画像とを、比較ステップS30−1で比較する。更に、所定の条件を満足する電子画像が得られるまで、取得ステップS10から比較ステップS30−1までを繰り返し行う。これにより、第2実施形態の標本観察方法では、より明瞭な電子画像が自動的に得られる。
電子画像における画質を評価するものに、コントラストがある。このコントラストは、図10(b)に示すように、標本Sと結像光学系31の間隔(以下、適宜、「間隔D」という)によって変化する。間隔Dが広い状態から狭まるにつれて、区間X1ではコントラストは徐々に上昇し、その後、区間X2ではコントラストは徐々に低下する。続いて、区間X3ではコントラストは徐々に上昇し、区間X4ではコントラストは徐々に低下する。
そこで、画質の高い電子画像を取得するには、間隔Dをコントラストが大きいときの間隔にすれば良い。すなわち、間隔Dを、区間X1と区間X2の境界部分の間隔(以下、適宜、「間隔DM1」という)、あるは、区間X3と区間X4の境界部分の間隔(以下、適宜、「間隔DM2」という)にすれば良い。
しかしながら、図10(b)に示すコントラストの曲線では、コントラストの値によっては、同じコントラストになる間隔Dが、区間X1〜区間X4のそれぞれの区間内に存在する。そのため、最初に電子画像を取得したときの間隔(以下、適宜、「間隔D1」という)が、区間X1〜区間X4のうちの、どの区間内に存在するかを特定する必要がある。
また、最初に取得した電子画像のコントラストが低い場合、コントラストが大きくなるようにする必要がある。しかしながら、間隔Dを広い状態から狭くしていった場合、区間X1と区間X3ではコントラストは徐々に上昇し、逆に、区間X2と区間X4ではコントラストは徐々に低下する。そのため、コントラストを大きくするために、間隔Dを広げるようにするのか、狭めるようにするのかを特定する必要がある。
そこで、比較ステップS30−1では、これらの点を考慮した比較が行われる。第2実施形態の標本観察方法について、図11を用いてより詳しく説明する。
まず、取得回数を計測するために、変数nに0が設定される(S300)。続いて、取得ステップS10(1回目)と減算ステップS20が実行される。なお、この取得ステップS10では、間隔D1で電子画像の取得が行われる。
続いて、取得回数の判断が行われる(S301)。ここでは、変数nの値が0なので、S301の判断結果はYESとなる。そこで、変数nに1が加算され(S302)、取得した電子画像が記憶部1に保存される(S303)。そして、標本Sと結像光学系31の間隔(間隔D)が所定量だけ広げられる(S304)。なお、所定量は、予め設定されているものとする。
S304が終了すると、再び、取得ステップS10(2回目)が実行される。このとき、間隔Dが間隔D1よりも広がった状態で、電子画像の取得が行われる。その後、減算ステップS20が実行され、取得回数の判断が行われる(S301、S305)。ここでは、変数nの値が1になっているので、S301の判断結果はNO、S305の判断結果はYESになる。そこで、変数nに1が加算され(S306)、取得した電子画像が記憶部2に保存される(S307)。
続いて、記憶部1の電子画像と記憶部2の電子画像について、コントラストの比較が行われる(S308)。ここで、判断結果がYESの場合、すなわち、
記憶部1の電子画像のコントラスト>記憶部2の電子画像のコントラスト
の場合、区間X1内又は区間X3内に間隔D1が存在している。
区間X1内又は区間X3内に間隔D1が存在している場合、コントラストを大きくするためには、間隔Dを狭くすれば良い。そこで、間隔Dを狭くする指定が行われる(S309)。なお、フローチャートには示していないが、S309では、間隔Dを所定量だけ狭める処理も行われる。このときの所定量は、S304での所定量と同じであっても、異なっていても良い。
一方、判断結果がNO場合、すなわち、
記憶部1の電子画像のコントラスト<記憶部2の電子画像のコントラスト
の場合、区間X2内又は区間X4内に間隔D1が存在している。
区間X2内又は区間X4内に間隔D1が存在している場合、コントラストを大きくするためには、間隔Dを広くすれば良い。そこで、間隔Dを広くする指定が行われる(S310)。なお、フローチャートには示していないが、S310では、間隔Dを所定量だけ広げる処理も行われる。このときの所定量は、S304での所定量と同じであっても、異なっていても良い。更に、記憶部2に保存していた電子画像が記憶部1に保存される(S311)。この記憶部1には、先に取得した電子画像が保存されていることになる。
ここで、比較ステップS30−1には、S301からS311までの処理が含まれているが、S301からS311までの処理は1回だけ行えば良い。よって、取得ステップS10から比較ステップS30−1までを繰り返し行ったとしても、S301からS311までの処理は繰り返し行われない。
S309またはS311が終了すると、再び、取得ステップS10(3回目)が実行される。このとき、間隔Dが所定量だけ広がった状態又は狭まった状態で、電子画像の取得が行われる。その後、減算ステップS20が実行され、取得回数の判断が行われる(S301、S305)。ここでは、変数nが3になっているので、S301の判断結果はNO、S305の判断結果もNOになる。そして、取得した電子画像が記憶部2に保存される(S312)。この記憶部2には、後に取得した電子画像が保存されていることになる。
続いて、記憶部1の電子画像と記憶部2の電子画像について、コントラストの比較が行われる(S313)。ここで、この比較では、所定の条件として、
記憶部1の電子画像のコントラスト>記憶部2の電子画像のコントラスト
を用いる。また、記憶部1には、常にコントラストの高い電子画像が保存されている。
判断結果がYESの場合、すなわち、
記憶部1の電子画像のコントラスト>記憶部2の電子画像のコントラスト
の場合、所定の条件が満足されたことになる。これは、十分にコントラストの高い電子画像が得られたことを示しているので、比較を終了する。
一方、判断結果がNO場合、すなわち、
記憶部1の電子画像のコントラスト<記憶部2の電子画像のコントラスト
の場合、所定の条件が満足されていないことになる。これは、取得した電子画像のコントラストが十分に高いとは言えないことを意味している。そこで、変数nに1が加算され(S314)、取得した電子画像が記憶部1に保存される(S315)。
更に、指定された間隔変化に従って、間隔Dが所定量だけ変化される(S316)。指定された間隔変化とは、間隔Dを狭くする変化(S309で指定)や間隔Dを広くする変化(S310で指定)のことである。
S316の終了後、再び、取得ステップS10が実行される。これ以降の処理は、S313における判断結果がYESになるまで繰り返し行われる。判断結果がYESになると比較を終了する。
このように、第2実施形態の標本観察方法では、S313における判断結果がYESとなるまで繰り返し処理を行う。この繰り返し処理を行うことで、十分にコントラストの高い電子画像が自動的に得られる。その結果、標本S(標本Sの像)をより明瞭に観察できる。
なお、S313では、所定の条件を、
記憶部1の電子画像のコントラスト>記憶部2の電子画像のコントラスト
とした。しかしながら、以下のように、2つの電子画像のコントラストの差が許容値Eよりも小さくなることを、所定の条件にしても良い。
|記憶部1の電子画像のコントラスト−記憶部2の電子画像のコントラスト|<E
また、図11のフローチャートでは、区間X1内又は区間X2内に間隔D1が存在している場合、最終的に取得される電子画像は間隔DM1の画像になる。一方、区間X3内又は区間X4内に間隔D1が存在している場合、最終的に取得される電子画像は間隔DM2の画像になる。
しかしながら、別の処理を加えて、区間X1内又は区間X2内に間隔D1が存在している場合であっても、間隔DM2での電子画像が得られるようにしても良い。同様に、区間X3内又は区間X4内に間隔D1が存在している場合であっても、間隔DM1での電子画像が得られるようにしても良い。この場合、処理の途中で、標本Sの位置と結像光学系31の合焦位置とが一致した状態になるが、この状態になったとしても、取得ステップS10は実行される。なお、別の処理については、説明を省略する。
以上のように、第2実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
第3実施形態の標本観察方法は、減算ステップよりも後に増幅ステップを有し、増幅ステップでは、減算ステップ後の電子画像の信号を増幅するものである。
第3実施形態の標本観察方法について、図12(a)を用いて説明する。図12(a)は、第3実施形態の標本観察方法のフローチャートである。
第3実施形態の標本観察方法は、図12(a)に示すように、取得ステップS10と減算ステップS20に加え、更に、増幅ステップS30−2を有する。これにより、第3実施形態の標本観察方法では、より明瞭な電子画像が得られる。
上述のように、A1 2+A2 2は標本の像の直流成分、すなわち、電子画像の信号うちの直流成分を表している。減算ステップS20では、A1 2の値を小さくすることで、2A1A2cosψの値をA1 2+A2 2の値に対して相対的に大きくしている。
これに対して、第3実施形態の標本観察方法では、取得ステップS10と減算ステップS20の終了後に、増幅ステップS30−2が実行される。増幅ステップS30−2では、2A1A2cosψの値を大きくしている(増幅している)。このようにすることで、A1 2+A2 2の値に対して2A1A2cosψの値を相対的により大きくできる。その結果、標本S(標本Sの像)をより明瞭に観察できる。
なお、増幅ステップS30−2を、第2実施形態の標本観察方法に用いても良い。この場合、増幅ステップS30−2は、比較ステップS30−1よりも前に実行される。
以上のように、第3実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
第4実施形態の標本観察方法は、電子画像の信号をフーリエ変換する変換ステップと、逆フーリエ変換を行う逆変換ステップと、を有し、変換ステップは、減算ステップよりも前に行われ、逆変換ステップは、少なくとも減算ステップよりも後に行われるものである。
第4実施形態の標本観察方法について、図12(b)と図13を用いて説明する。図12(b)は、第4実施形態の標本観察方法のフローチャートである。図13は、各空間周波数における大きさを示す図であって、(a)は減算ステップ実行前の状態、(b)は減算ステップ実行後の状態を示す図である。
第4実施形態の標本観察方法は、図12(b)に示すように、取得ステップS10と減算ステップS20に加え、更に、変換ステップS15−1と逆変換ステップS30−3とを有する。これにより、第4実施形態の標本観察方法では、より明瞭な電子画像が簡単に得られる。
上述のように、減算ステップS20では、A1 2の値を小さくすることで、A1 2+A2 2の値に対して2A1A2cosψの値を相対的に大きくしている。ここで、周波数空間で減算ステップS20が実行されると、減算を効率的に行える。
減算ステップS20における減算について、図13を用いて説明する。上述のように、細胞のような標本には、様々な空間周波数を持つ構造が含まれている。そこで、標本Sの像の明るさを空間周波数ごとに分離できれば、空間周波数ごとに減算が行える。
そこで、第4実施形態の標本観察方法では、取得ステップS10の終了後に、変換ステップS15−1が実行される。変換ステップS15−1では、電子画像の信号をフーリエ変換する。その結果、図13(a)に示すように、空間周波数ごとに、その大きさ(縦軸、明るさに相当)が分離される。図13(a)では、横軸の数値は空間周波数を示しており、空間周波数が0では、その大きさは100で、空間周波数が1では、その大きさは30になっている。
ここで、空間周波数の値(横軸の数値)は、回折光の次数と対応している。そのため、空間周波数0では、その大きさ(縦軸の数値)は0次回折光の明るさに対応する。同様に、空間周波数1では、その大きさは1次回折光の明るさに対応する。そこで、変換ステップS15−1の終了後に、減算ステップS20が実行される。この減算ステップS20では、空間周波数0での大きさを小さくしている。例えば、図13(b)に示すように、空間周波数0での大きさを、100から50に半減させている。これは、A1 2の値を小さくすることに相当する。このようにすることで、0次光の明るさを小さくできる。
続いて、逆変換ステップS30−3が実行される。逆変換ステップS30−3では、逆フーリエ変換を行う。これにより、電子画像の信号を得ることができる。なお、減算ステップS20によって、0次光の明るさ、すなわち、A1 2の値が小さくなっている。そのため、A1 2+A2 2の値に対して2A1A2cosψの値を相対的により大きくできる。その結果、標本S(標本Sの像)をより明瞭に観察できる。
なお、変換ステップS15−1と逆変換ステップS30−3を、第2実施形態の標本観察方法や第3実施形態の標本観察方法に用いても良い。この場合、変換ステップS15−1は、減算ステップS20よりも前に実行される。また、逆変換ステップS30−3は、減算ステップS20よりも後に実行される。
以上のように、第4実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
第5実施形態の標本観察方法は、事前取得ステップと、規格化ステップと、を有し、事前取得ステップでは、標本が無い状態で電子画像を取得し、規格化ステップでは、電子画像で標本の電子画像を規格化し、減算ステップの前に、規格化ステップを行うものである。
第5実施形態の標本観察方法について、図14を用いて説明する。図14は第5実施形態の標本観察方法のフローチャートである。
第5実施形態の標本観察方法は、図14に示すように、取得ステップS10と減算ステップS20に加え、更に、事前取得ステップS00と規格化ステップS15−2とを有する。これにより、第5実施形態の標本観察方法では、より明瞭な電子画像が得られる。
なお、図14では、減算ステップS20の後に、増幅ステップS30−2が備わっているが、この増幅ステップS30−2は必須ではない。
標本Sの像の明るさは、照明光学系による影響や結像光学系による影響を受けることがある。例えば、照明光学系や結像光学系を光が通過することで、通過後の光の明るさにむらが生じる。この場合、照明光学系や結像光学系による明るさのむらのために、標本Sの像にも明るさにむらが生じる。この明るさのむらは電子画像の画質を低下させるので、除去することが好ましい。
そこで、第5実施形態の標本観察方法では、取得ステップS10の実行に先立って、事前取得ステップS00が実行される。事前取得ステップS00では、標本Sが無い状態で電子画像Aの取得が行われる。このとき、電子画像Aは、明るさのむらのみの画像になる。
続いて、取得ステップS10が実行され、標本Sの電子画像Bの取得が行われる。この電子画像Bは、標本Sの像に、照明光学系や結像光学系による明るさのむらが加わった画像になる。そこで、規格化ステップS15−2が実行される。規格化ステップS15−2では、電子画像Aで電子画像Bを規格化する。すなわち、以下の演算、
電子画像B/電子画像A
を規格化ステップS15−2において行う。これにより、電子画像Bにおける明るさのむらが、電子画像Aにおける明るさのむらでキャンセルされる。そのため、規格化後の電子画像は、照明光学系や結像光学系による明るさのむらが低減された画像になる。
規格化ステップS15−2の終了後、減算ステップS20が実行される。減算ステップS20では、規格化後の電子画像においてA1 2の値を小さくし、これにより、A1 2+A2 2の値に対して2A1A2cosψの値を相対的に大きくする。その結果、標本S(標本Sの像)をより明瞭に観察できる。
なお、事前取得ステップS00と規格化ステップS15−2を、第2実施形態の標本観察方法から第4実施形態の標本観察方法までのいずれに用いても良い。この場合、事前取得ステップS00は、取得ステップS10よりも前に実行される。また、規格化ステップS15−2は、減算ステップS20よりも前に実行される。
以上のように、第5実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
第6実施形態の標本観察方法は、結像光学系の合焦位置に対して標本の位置を複数回変化させ、変化させた標本の位置で、取得ステップと減算ステップが行われ、これにより、減算ステップを実行した後の電子画像を複数生成し、生成した複数の電子画像を加算するものである。
第6実施形態の標本観察方法によれば、電子画像の生成の際に、低い空間周波数から高い空間周波数までの各々の空間周波数でコントラストが高くなっている画像が使われる。よって、生成された電子画像では、どの空間周波数においてもコントラストが高くなっている。その結果、標本S(標本Sの像)を明瞭に観察できる。
以上のように、第6実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、明瞭に無色透明な標本を観察できる。
第7実施形態の標本観察方法は、加算の前に、複数の電子画像の各々について、電子画像のうちでコントラストが最も高い部分を抽出し、抽出した部分を使って加算を行うものである。
第7実施形態の標本観察方法によれば、加算によって電子画像を生成する時に、各空間周波数でコントラストが最も高くなっている部分のみが使われている。よって、生成された電子画像では、どの空間周波数においてもコントラストが非常に高くなっている。その結果、標本S(標本Sの像)をより明瞭に観察できる。
以上のように、第7実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
第8実施形態の標本観察方法では、標本の位置の変化は、所定の状態における波面収差量の符号が同じ状態で行われるものである。
上述のように、1次回折光における波面収差量が−λ/4になると、電子画像はダークコントラストの画像になる。すなわち、電子画像では、背景に比べて標本Sが暗くなる。一方、1次回折光における波面収差量が+λ/4になると、電子画像はブライトコントラストの画像になる。すなわち、電子画像では、背景に比べて標本Sが明るくなる。
そこで、加算によって電子画像を生成する時は、波面収差量の符号が同じ状態の画像を用いるのが良い。このようにすることで、生成した電子画像を、ダークコントラストのみに基づく画像、あるいは、ブライトコントラストのみに基づく画像にできる。その結果、標本S(標本Sの像)をより明瞭に観察できる。
以上のように、第8実施形態の標本観察方法によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
本実施形態の標本観察装置について説明する。本実施形態の標本観察装置は、光源と、照明光学系と、結像光学系と、撮像装置と、画像処理装置と、を有し、照明光学系は、光源からの照明光を標本に照射するように配置され、結像光学系は、標本からの光が入射するように配置されると共に、標本の光学像を形成し、撮像装置は光学像の位置に配置され、画像処理装置は、上述の実施形態の標本観察方法を行うことを特徴とする。
第1実施形態の標本観察装置の構成を図15に示す。標本観察装置1は、正立型顕微鏡を用いた観察システムである。標本観察装置1は、本体部10と、照明部20と、観察部30と、画像処理装置40と、を備える。ここで、照明部20と観察部30とは、本体部10に取り付けられている。また、本体部10と画像処理装置40とは、有線または無線で接続されている。
なお、標本観察装置1は、表示装置50を備えていても良い。表示装置50は、有線または無線で画像処理装置40に接続されている。
本体部10はステージ11を有する。ステージ11は保持部材である。このステージ11には、標本Sが載置される。標本Sの移動はステージに取り付けられた操作ノブ(不図示)や焦準ノブ(不図示)で行われる。操作ノブの操作により、光軸と垂直な面内で、標本Sが移動する。焦準ノブの操作により、光軸に沿って標本Sが移動する。
照明部20は、光源21と照明光学系22とを有する。照明光学系22は、コンデンサレンズ23と開口絞り24とを有する。なお、図15に示すように、照明光学系22は、レンズ25と、ミラー26と、レンズ27とを備えていても良い。図15では、コンデンサレンズ23と開口絞り24はステージ11に保持されている。照明光学系22は、光源21からステージ11までの間の光路中に配置されている。
観察部30は、結像光学系31と撮像装置32とを有する。なお、観察部30は、レボルバ33と観察鏡筒34とを備えていても良い。結像光学系31は、顕微鏡対物レンズ35と撮像レンズ36とを有する。なお、図15に示すように、結像光学系31は、結像レンズ37とプリズム38とを備えていても良い。結像光学系31は、ステージ11から撮像装置32までの間の光路中に配置されている。撮像装置32は撮像素子39を有する。
標本観察装置1では、照明部20は、ステージ11を挟んで観察部30と対向する側に配置されている。よって、標本観察装置1では、標本Sは透過照明で照明される。
光源21から照明光が出射する。照明光は照明光学系22を通過して、ステージ11に到達する。この照明光によって、標本Sが照明される。標本Sからの光は結像光学系31によって集光され、これにより、集光位置に標本Sの像(光学像)が形成される。結像光学系31の光路中にプリズム38がない場合、撮像装置32の撮像素子39によって標本Sの像が撮像される。
撮像によって、標本Sの像は電子画像(デジタルデータ)に変換される。電子画像は画像処理装置40に送られる。画像処理装置40では各種の処理が行われる。ここで、標本観察装置1が表示装置50を備えている場合、電子画像は表示装置50に表示される。観察者は表示装置50に表示された電子画像を見ることで、標本S(標本Sの像)を観察できる。
撮像装置32は、自動利得制御を行う回路を備えていても良い。このようにすると、撮像した電子画像の明るさ(コントラスト)を一定にできる。なお、自動利得制御を行う回路は、画像処理装置40が備えていても良い。
なお、結像光学系31の光路中に、プリズム38を挿入することもできる。このようにすることで、標本Sからの光は、観察鏡筒34の接眼レンズに導かれる。観察者は、接眼レンズを介して、標本Sの光学像を観察できる。
標本観察装置1を用いて、実施形態の標本観察方法を実施する手順について説明する。ここでは、第1実施形態の標本観察方法を例に説明する。なお、光源21として、白色光源を用いる。
まず、観察者は、照明光学系22と結像光学系31を、明視野観察の状態となるようにする。続いて、観察者は、ステージ11に標本Sを載置する。そして、観察者は、合焦位置からずれていると思われる位置まで、目測で標本を移動させる。これにより、明視野観察の状態で、なお且つ標本Sの位置と合焦位置とが異なった状態になる。続いて、画像処理装置40を作動させる。なお、これらの作業は、順不同で行って良い。
画像処理装置40が作動することで、標本Sの像が撮像可能になるので、取得ステップS10が実行される。取得ステップS10が実行されることで、電子画像の取得が行われる。取得ステップS10で取得された電子画像は、画像処理装置40内の一時記憶部(不図示)に保存される。
続いて、減算ステップS20が実行される。減算ステップS20では、A1 2の値を小さくすることで、2A1A2cosψの値がA1 2+A2 2の値に対して相対的に大きくなる。減算ステップS20の実行結果は、例えば、表示装置50に表示される。
上述のように、標本Sの位置の設定は目測で行われている。この場合、標本Sの位置と合焦位置とが大きく異なっている可能性が高いので、標本Sの像は大きくぼけている。そのため、標本Sの像が撮像されても、観察者は表示装置50で電子画像を観察できない。
そこで、観察者は焦準ノブを操作して、標本Sを合焦位置に向けて移動させる。標本Sの位置が顕微鏡対物レンズ35から大きく離れている場合、観察者は、標本Sが顕微鏡対物レンズ35に近づく方向にステージ11を移動させれば良い。一方、標本Sの位置が顕微鏡対物レンズ35に非常に近い場合、観察者は、標本Sが顕微鏡対物レンズ35から離れる方向にステージ11を移動させれば良い。
標本Sを移動させている間、撮像は常に行われている。よって、取得ステップS10と減算ステップS20も、常に実行されている。そこで、観察者は、表示装置50で電子画像を見ながら標本Sを光軸に沿って移動させ、コントラストの良い電子画像が得られた時点で標本Sの移動を終わる。その結果、標本S(標本Sの像)を明瞭に観察できる。
なお、本体部10は、モータ12を備えていても良い。図15では、モータ12はステージ11に接続されている。モータ12によって、ステージ11を光軸に沿って移動させることで、標本Sの移動ができる。
以上のように、第1実施形態の標本観察装置によれば、明視野観察の状態でありながら、無色透明な標本を観察できる。
第2実施形態の標本観察装置の構成を図16に示す。標本観察装置1’は、倒立型顕微鏡を用いた観察システムである。標本観察装置1と同じ部材については同じ番号を付け、説明は省略する。
標本観察装置1’では、標本観察装置1と同じように、照明部20は、ステージ11が挟んで観察部30と対向する側に配置されている。よって、標本観察装置1’においても、標本Sを透過照明で照明できる。ただし、標本観察装置1’は、照明部20とは別に、照明部20’も備えている。照明部20’は、観察部30と同じ側に配置されている。よって、標本観察装置1’では、照明部20’を用いて標本Sを落射照明で照明できる。
照明部20’は、光源21’と照明光学系22’とを有する。照明光学系22’は、コンデンサレンズと開口絞りとを有する。ここで、照明光学系22’では、顕微鏡対物レンズ35を介して照明が行われる。よって、顕微鏡対物レンズ35がコンデンサレンズに相当する。なお、開口絞りは図示を省略している。また、図16に示すように、照明光学系22’は、レンズ25’と、ハーフミラーHMと、レンズ27’とを備えていても良い。照明光学系22’は、光源21’からステージ11までの間の光路中に配置されている。また、ハーフミラーHMと顕微鏡対物レンズ35は、照明光学系22’を構成すると共に、結像光学系31を構成している。
結像光学系31の光路中にプリズム38がある場合、撮像装置32の撮像素子39によって標本Sの像が撮像される。また、結像光学系31の光路外にプリズム38を移動させることで、標本Sの光を観察鏡筒34の接眼レンズに導くことができる。この場合、標本Sの光は、ミラーMによって観察鏡筒34に向けて反射される。
また、標本観察装置1’では、モータ12がレボルバ33に接続されている。よって、標本観察装置1’では、モータ12によって、レボルバ33が光軸に沿って移動する。レボルバ33が光軸に沿って移動することで、顕微鏡対物レンズ35(結像光学系31)が光軸に沿って移動する。これにより、標本Sの位置と合焦位置とを異なる状態にできる。
標本観察装置1’では、標本Sは透過照明か落射照明で照明できる。落射照明について説明する。落射照明では、光源21’から照明光が出射する。照明光は照明光学系22’を通過して、ステージ11に到達する。この照明光によって標本Sが照明される。標本Sからの光は結像光学系31によって集光され、これにより、集光位置に標本Sの像(光学像)が形成される。結像光学系31の光路中にプリズム38がある場合、撮像装置32の撮像素子39によって標本Sの像が撮像される。
撮像によって、標本Sの像は電子画像(デジタルデータ)に変換される。電子画像は画像処理装置40に送られる。画像処理装置40では各種の処理が行われる。ここで、標本観察装置1’が表示装置50を備えている場合、電子画像は表示装置50に表示される。観察者は表示装置50に表示された電子画像を見ることで、標本S(標本Sの像)を明瞭に観察できる。
標本観察装置1’を用いて、実施形態の標本観察方法を実施する手順について説明する。ここでは、第2実施形態の標本観察方法を例に説明する。なお、光源21’として、白色光源を用いる。
まず、観察者は、照明光学系22’と結像光学系31を、明視野観察の状態となるようにする。そして、観察者は、ステージ11に標本Sを載置する。続いて、画像処理装置40を作動させる。なお、これらの作業は、順不同で行って良い。
観察者は、観察開始の情報を画像処理装置40に入力する。ここで、画像処理装置40に、合焦位置からのずれ量の情報が予め記憶されているとする。画像処理装置40はレボルバ33(顕微鏡対物レンズ35)の現在の位置と合焦位置からのずれ量との情報に基づいて、移動量を算出する。算出した結果に基づいて、画像処理装置40はモータ12に駆動信号を送信する。送信された信号に基づいて、モータ12はレボルバ33を移動させ、標本Sの位置が、合焦位置からずれた状態にする。このようにすることで、標本Sの位置と合焦位置とが異なった状態にできる。
明視野観察の状態、且つ標本Sの位置と合焦位置とが異なる状態になったところで、取得ステップS10(1回目)が実行される。これにより、電子画像の取得が行われる。取得された電子画像は、画像処理装置40内の一時記憶部(不図示)に保存される。続いて、減算ステップS20が実行される。減算ステップS20の終了後、電子画像は画像処理装置40内の記憶部1(不図示)に保存される。なお、記憶部1に保存した電子画像は、例えば、表示装置50に表示される。
減算ステップS20の終了後、画像処理装置40はモータ12に駆動信号を送信する。このときの駆動信号は、間隔D(標本Sと顕微鏡対物レンズ35の間隔)を所定量だけ広げる信号である。この信号に従って、顕微鏡対物レンズ35がステージ11から遠ざかるように、モータ12はレボルバ33を移動させる。
顕微鏡対物レンズ35が所定量だけ移動すると、取得ステップS10(2回目)と減算ステップS20が実行される。減算ステップS20の終了後、電子画像は画像処理装置40内の記憶部2(不図示)に保存される。
続いて、記憶部1の電子画像と記憶部2の電子画像について、コントラストの比較が行われる。判断結果がYESの場合、間隔Dを狭くする指定が行われる。一方、判断結果がNO場合、間隔Dを広くする指定が行われると共に、記憶部2に保存していた電子画像が記憶部1に保存される。
間隔Dに関する指定が終了すると、取得ステップS10(3回目)と減算ステップS20が実行される。続いて、記憶部1の電子画像と記憶部2の電子画像について、コントラストの比較が行われる。そして、所定の条件を満足するまで、取得ステップS10から比較ステップ30−1までが繰り返し行われる。
所定の条件を満足すると、全ての処理が終了する。これにより、十分にコントラストの高い電子画像が自動的に得られる。その結果、標本S(標本Sの像)をより明瞭に観察できる。
以上のように、第2実施形態の標本観察装置によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
第3実施形態の標本観察装置の構成を図17に示す。図17(a)は、観察装置の概略構成を示す図、図17(b)は、光学系の構成を示す図である。
標本観察装置300は、電子内視鏡を用いた観察システムである。標本観察装置300は、電子内視鏡100と画像処理装置200とから構成されている。電子内視鏡100は、スコープ部100aと接続コード部100bとを備えている。また、画像処理装置200には、表示ユニット204が接続されている。
スコープ部100aは、操作部140と挿入部141に大別される。挿入部141は、細長で患者の体腔内へ挿入可能になっている。また、挿入部141は、可撓性を有する部材で構成されている。観察者は、操作部140に設けられているアングルノブ等により、諸操作を行うことができる。
また、操作部140からは、接続コード部100bが延設されている。接続コード部100bは、ユニバーサルコード150を備えている。ユニバーサルコード150は、コネクタ250を介して画像処理装置200に接続されている。
ユニバーサルコード150は、各種の信号等の送受信に用いられる。各種の信号としては、電源電圧信号及びCCD駆動信号等がある。これらの信号は、電源装置やビデオプロセッサからスコープ部100aに送信される。また、各種の信号として映像信号がある。この信号は、スコープ部100aからビデオプロセッサに送信される。なお、画像処理装置200内のビデオプロセッサには、図示しないVTRデッキ、ビデオプリンタ等の周辺機器が接続可能である。ビデオプロセッサは、スコープ部100aからの映像信号に対して信号処理を施す。映像信号に基づいて、表示ユニット204の表示画面上に内視鏡画像が表示される。
挿入部141の先端部142には、光学系が配置されている。ここで、電子内視鏡100は拡大内視鏡である。そのため、光学系は、標本Sの拡大像を形成するようになっている。内視鏡における観察対象としては、体内の組織がある。以下の説明では、体内の組織も標本Sに含まれるものとする。
照明部は、光源と照明光学系とを有する。光源からの光は光ファイバ401から出射する。照明光学系は、レンズ402と、ミラー403と、レンズ404と、ハーフプリズム405と、対物レンズ406とを備える。観察部は、結像光学系と撮像装置とを有する。結像光学系は、対物レンズ406と、ハーフプリズム405と、結像レンズ407とを有する。撮像装置は撮像素子408を有する。この光学系では、標本Sは落射照明で照明される。
標本観察装置300を用いて、実施形態の標本観察方法を実施する手順について説明する。ここでは、第3実施形態の標本観察方法を例に説明する。なお、光源として、白色光源を用いる。
まず、観察者は、照明光学系と結像光学系を、明視野観察の状態となるようにする。続いて、観察者は、合焦位置からずれた位置だと思われる位置まで、目測で挿入部141を移動させる。そして、画像処理装置200を作動させる。なお、これらの作業は、順不同で行って良い。
画像処理装置200が作動することで、標本Sの像が撮像可能になるので、取得ステップS10が実行される。取得ステップS10が実行されることで、電子画像の取得が行われる。取得ステップS10で取得された電子画像は、画像処理装置200内の一時記憶部(不図示)に保存される。
続いて、減算ステップS20が実行される。減算ステップS20では、A1 2の値を小さくすることで、2A1A2cosψの値がA1 2+A2 2の値に対して相対的に大きくなる。
減算ステップS20の終了後、増幅ステップS30−2が実行される。増幅ステップS30−2では、2A1A2cosψの値を大きくする(増幅する)。これにより、A1 2+A2 2の値に対して2A1A2cosψの値が相対的により大きくなる。増幅ステップS30−2の実行結果は、例えば、表示ユニット204に表示される。
挿入部141を移動させている間、撮像は常に行われている。よって、取得ステップS10、減算ステップS20及び増幅ステップS30−2も、常に実行されている。そこで、観察者は、表示ユニット204で電子画像を見ながら挿入部141を移動させ、コントラストの良い電子画像が得られた時点で挿入部141の移動を終わる。その結果、標本S(標本Sの像)を明瞭に観察できる。
なお、対物レンズ406、結像レンズ407及び撮像素子408の少なくとも1つを、光軸に沿って移動させても良い。これらの移動には、例えば、マイクロアクチュエータ(不図示)やボイスコイルモータ(不図示)を用いれば良い。このようにすれば、ずれ量ΔZの調整を細かにできる。よって、挿入部141の移動は、ある程度のコントラストを持つ電子画像が取得できたところまでで済む。
以上のように、第3実施形態の標本観察装置によれば、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、以下の条件式(1)を満足することが好ましい。
0.01<NAill/NAob<1 (1)
ここで、
NAillは、照明光学系の標本側の開口数、
NAobは、結像光学系の標本側の開口数、
である。
条件式(1)を満足することで、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
条件式(1)の下限値を下回ると、照明光学系の標本側の開口数が小さくなりすぎる。この場合、照明光の光量不足や、照明むらが大きくなる。また、電子画像において、カバーガラスの汚れやゴミが目立つようになる。
条件式(1)の上限値を上回ると、照明光学系の標本側の開口数が大きくなりすぎる。この場合、光軸に対して斜めから入射する照明光が増加する。そのため、コントラストの良い電子画像を得るのが難しくなる。この点について、図18を用いて説明する。
図18は、照明光の入射方向と回折光の回折方向の関係、及び波面収差量を示す図であって、図18(a)は、照明光の入射方向が光軸と平行である場合、図18(b)は照明光の入射方向と光軸との角度が小さい場合、図18(c)は照明光の入射方向と光軸との角度が大きい場合を示す図である。
標本Sから生じる回折光は、照明光の標本Sへの入射方向に依存する。図18(a)に示すように、照明光Lillの入射方向が光軸と平行である場合、0次回折光L0は、光軸上を進んで瞳位置に到達する。一方、+1次回折光L+1は光軸に対して+θの角度で結像光学系に入射して、瞳位置に到達する。また、−1次回折光L-1は光軸に対して−θの角度で結像光学系に入射して、瞳位置に到達する。
上述のように、標本Sの位置と合焦位置がずれていると波面収差が生じる。この波面収差は、瞳面の中心に対して対称に発生する。そのため、図18(a)の場合、0次回折光L0に加わる波面収差量は0であるが、+1次回折光L+1と−1次回折光L-1には、所定量の波面収差が加わることになる。
ここで、+1次回折光L+1の回折方向と−1次回折光L-1の回折方向は、光軸を挟んで対称になっており、波面収差も、瞳面の中心(光軸)に対して対称に発生している。そのため、+1次回折光L+1に加わる波面収差量と、−1次回折光L-1に加わる波面収差量は同じになる。
図18(a)では、0次回折光L0には光軸上を進むので、0次回折光L0に加わる波面収差量は0である。+1次回折光L+1と−1次回折光L-1には、共に−λ/4の波面収差量が加わる。
その結果、0次回折光L0の位相に変化は生じない。一方、+1次回折光L+1の位相と−1次回折光L-1の位相は、もともとの遅れπ/2に対してπ/2が更に加わるので、遅れは合計でπになる。すると、ψ=0−(−π)=πとなる。この場合、2A1A2cosψ≠0となるので、位相情報がコントラスト情報として得られる。また、コントラストは、いわゆるダークコントラストになる。−1次回折光L-1については、+1次回折光L+1と同じである。
次に、図18(b)に示すように、照明光Lillの入射方向と光軸との角度が小さい場合(角度がθの場合)、0次回折光L0は、照明光Lillの入射方向と同じ方向に進む。よって、0次回折光L0は光軸に対して+θの角度で結像光学系に入射して、瞳位置に到達する。一方、+1次回折光L+1は、所定の方向よりも更に外側(光軸から離れる方向)に回折される。よって、+1次回折光L+1は、光軸に対して+2θの角度で結像光学系に入射して、瞳位置に到達する。また、−1次回折光L-1も回折されるが、−1次回折光L-1は光軸上を進んで瞳位置に到達する。
ここで、+1次回折光L+1の回折方向と−1次回折光L-1の回折方向は、光軸を挟んで非対称になっているが、波面収差は、瞳面の中心(光軸)に対して対称に発生している。そのため、0次回折光L0に加わる波面収差量、+1次回折光L+1に加わる波面収差量及び−1次回折光L-1に加わる波面収差量は、それぞれ異なる。
図18(b)では、0次回折光L0には−λ/4の波面収差量が加わり、+1次回折光L+1には−3λ/4の波面収差量が加わる。一方、−1次回折光L-1は光軸上を進むので、−1次回折光L-1に加わる波面収差量は0になる。
その結果、0次回折光L0の位相はπ/2遅れる。一方、+1次回折光L+1の位相は、もともとの遅れπ/2に対して3π/2が更に加わるので、遅れは合計で2πになる。すると、ψ=−π/2−(−2π)=3π/2となる。この場合、2A1A2cosψ=0となるので、位相情報はコントラスト情報として得られない。一方、−1次回折光L -1 については、加わる波面収差量が0なので、−1次回折光L -1 の位相は、もともとの遅れπ/2だけになる。すると、ψ=−λ/2−(−λ/2)=0となる。この場合、2A1A2cosψ≠0となるので、位相情報がコントラスト情報として得られる。また、コントラストは、いわゆるブライトコントラストになる。
次に、図18(c)に示すように、照明光Lillの入射方向と光軸との角度が大きい場合(角度が2θの場合)、0次回折光L0は、照明光Lillの入射方向と同じ方向に進む。よって、0次回折光L0は光軸に対して+2θの角度で結像光学系に入射して、瞳位置に到達する。一方、+1次回折光L+1は、結像光学系の有効口径よりも外側に回折される。よって、+1次回折光L+1は瞳位置に到達しない。また、−1次回折光L-1は光軸に対して+θの角度で結像光学系に入射して、瞳位置に到達する。
ここで、+1次回折光L+1の回折方向と−1次回折光L-1の回折方向は、光軸を挟んで非対称になっているが、波面収差は、瞳面の中心(光軸)に対して対称に発生している。そのため、0次回折光L0に加わる生じる波面収差量と、−1次回折光L-1に加わる生じる波面収差量は異なる。
図18(c)では、0次回折光L0には−3λ/4の波面収差量が加わり、−1次回折光L-1には、−λ/4の波面収差量が加わる。
その結果、0次回折光L0の位相は3π/2遅れる。一方、−1次回折光L -1 の位相は、もともとの遅れπ/2に対して更にπ/2が加わるので、遅れは合計でπになる。すると、ψ=−3π/2−(−π)=−π/2となる。この場合、2A1A2cosψ=0となるので、位相情報はコントラスト情報として得られない。
照明光学系の標本側の開口数が小さい場合、照明光Lillの入射方向は光軸と平行な方向になる。すなわち、図18(a)に示す状態になる。よって、光軸上の点の像は、いわゆるダークコントラストの状態で観察できる。ところが、照明光学系の標本側の開口数が大きくなるにしたがって、図18(b)や図18(c)に示すように、入射方向が光軸と交差する照明光Lillが加わってくる。
そうすると、光軸上の点の像は、ダークコントラストの像に、ブライトコントラストの像が加わったものになる。そのため、像のコントラストが低下することになる。このように、照明光学系の標本側の開口数が大きくなると、コントラストの低下につながる光が増えてしまうことになる。
なお、条件式(1)に代えて、下記の条件式(1’)を満足すると良い。
0.02<NAill/NAob<0.9 (1’)
さらに、条件式(1)に代えて、以下の条件式(1”)を満足するとなお良い。
0.03<NAill/NAob<0.8 (1”)
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、以下の条件式(2)を満足することが好ましい。
0.1μm<ΔZ×NAob 2<30μm (2)
ここで、
ΔZは、結像光学系の合焦位置と標本の位置との差、
NAobは、結像光学系の標本側の開口数、
である。
条件式(2)を満足することで、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
条件式(2)の下限値を下回ると、結像光学系の合焦位置と標本の位置との差が小さくなりすぎる。この場合、回折光に加わる波面収差量が小さくなる。特に、1次回折光に加わる波面収差量がλ/4よりも小さくなる。そのため、コントラストの良い電子画像を得るのが難しくなる。
条件式(2)の上限値を上回ると、結像光学系の合焦位置と標本の位置との差が大きくなりすぎる。この場合、回折光に加わる波面収差量が大きくなる。特に、1次回折光に加わる波面収差量がλ/4よりも大きくなる。また、光学像が大きくぼやけてしまう。その結果、解像度の高い電子画像を得るのが難しくなる。
なお、条件式(2)に代えて、下記の条件式(2’)を満足すると良い。
0.2μm<ΔZ×NAob 2<25μm (2’)
さらに、条件式(2)に代えて、以下の条件式(2”)を満足するとなお良い。
0.3μm<ΔZ×NAob 2<20μm (2”)
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、以下の条件式(3)を満足することが好ましい。
0.05μm<ΔZ×NAill<10μm (3)
ここで、
ΔZは、結像光学系の合焦位置と標本の位置との差、
NAillは、照明光学系の標本側の開口数、
である。
条件式(3)を満足することで、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。
条件式(3)の下限値を下回ると、結像光学系の合焦位置と標本の位置との差が小さくなりすぎる。この場合、回折光に加わる波面収差量が小さくなる。特に、1次回折光に加わる波面収差量がλ/4よりも小さくなる。そのため、コントラストの良い電子画像を得るのが難しくなる。
条件式(3)の上限値を上回ると、結像光学系の合焦位置と標本の位置との差が大きくなりすぎる。この場合、回折光に加わる波面収差量が大きくなる。特に、1次回折光に加わる波面収差量がλ/4よりも大きくなる。また、光学像が大きくぼやけてしまう。その結果、解像度の高い電子画像を得るのが難しくなる。また、条件式(3)の上限値を上回ると、照明光学系の標本側の開口数が大きくなりすぎる。この場合、光軸に対して斜めに入射する照明光が増加する。そのため、コントラストの良い電子画像を得るのが難しくなる。
なお、条件式(3)に代えて、下記の条件式(3’)を満足すると良い。
0.1μm<ΔZ×NAill<8μm (3’)
さらに、条件式(3)に代えて、以下の条件式(3”)を満足するとなお良い。
0.2μm<ΔZ×NAill<6μm (3”)
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、照明光学系は、コンデンサレンズと開口絞りを有することが好ましい。
このようにすることで、対物レンズの光学性能にあわせて、照明光学系の標本側の開口数を適切な値に設定できる。そのため、コントラストの良い電子画像が得られる。
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、照明光学系は、ケーラー照明光学系であることが好ましい。
このようにすることで、標本をむら無く照明できる。そのため、上述の標本観察方法における処理(画像処理)を簡素にできる。
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、照明光学系は、テレセントリック光学系であることが好ましい。
このようにすることで、観察範囲の全域において、コントラストの良い電子画像が得られる。
図19は、照明光学系がテレセントリック光学系である様子を示す図である。照明光学系は、コンデンサレンズ62と、開口絞り60とを有する。コンデンサレンズ62の前側焦点面61に、開口絞り60が配置されている。そのため、開口絞り60の中心から出射した軸上光束(実線で示す線)はコンデンサレンズ62で平行光束に変換され、標本の位置63に到達する。一方、開口絞り60の周辺から出射した軸外光束(破線で示す線)もコンデンサレンズ62で平行光束に変換され、標本の位置63に到達する。ここで、照明光学系がテレセントリック光学系になっているので、軸外光束では、その主光線が光軸と平行になるようにコンデンサレンズに入射する。
図19に示すように、開口絞り60の中心を通る光束は光軸と平行になって標本の位置に到達する。標本は光軸と平行光束で照明され、標本からは0次回折光と1次回折光が出てくる。このうち、0次回折光は光軸と平行に進む。一方、+1次回折光と−1次回折光は光軸から離れる方向に進む。
また、+1次回折光と−1次回折光は、光軸に対して対称になって進む。この場合、+1次回折光に加わる波面収差量と−1次回折光に加わる波面収差量は、共に等しくなる。0次回折光と+1次回折光が弱め合えば、0次回折光と−1次回折光も弱め合う。逆に、0次回折光と+1次回折光が強め合えば、0次回折光と−1次回折光も強め合う。そのため、観察範囲の全域において、コントラストの良い電子画像が得られる。
また、上述の各実施形態の標本観察装置は、波長選択手段を有することが好ましい。あるいは、上述の各実施形態の標本観察装置では、照明光が単色光であることが好ましい。
このようにすることで、コントラストの良い電子画像が得られる。特に、軸上色収差の発生量が大きい結像光学系を用いても、コントラストの良い電子画像が得られる。
結像光学系の収差は少ないほど良い。本実施形態の標本観察装置(標本観察方法)では、特に、軸上色収差について良好に補正されていることが望ましい。軸上色収差色の発生量が大きいと、波長によって波面収差の発生量が異なってくる。例えば、白色光で標本を照明した場合、1次回折光に加わる波面収差量が、ある波長の光では1/4λで、別の波長の光では−1/4λになる可能性がある。
この場合、ある波長の光では、ダークコントラストの像になるのに対して、別の波長の光では、ブライトコントラストの像になる。そのため、白色光全体でみると、コントラストの良い電子画像を得るのが難しくなる。
そこで、標本観察装置が波長選択手段を有すると、コントラストの低下を抑制できる。標本観察装置が波長選択手段を持つことで、波長による波面収差の発生量のばらつきが無くなる。そのため、コントラストの良い電子画像が得られる。特に、軸上色収差が大きい結像光学系を用いる場合、波長選択手段を有すると、コントラストの良い電子画像が得られる。照明光が単色光の場合も同様である。
上述のように、本実施形態における明視野観察の状態では、標本が無色透明な標本の場合、照明光と結像光は共通の波長の光を有していれば良い。そこで、標本観察装置1(図15)では、照明光学系20の光路中に、光学フィルタFL(波長選択手段)が配置できるようになっている。また、標本観察装置1’(図16)では、結像光学系31の光路中に、光学フィルタFLと光学フィルタFL’を交互に配置できるようになっている。なお、標本観察装置300(図17)では、光学フィルタFLは図示してないが、標本観察装置1や標本観察装置1’と同様にできる。
なお、光学フィルタFLは、移動可能にしておいても良い。また、光学フィルタFLの数は1枚に限られない。分光透過率特性がそれぞれ異なる光学フィルタFLを複数枚用意しておき、1枚又は複数枚を光路中に配置するようにしても良い。
また、光学フィルタFLを配置する場所は、照明光学系と結像光学系のどちらか一方、又はその両方にすれば良い。また、撮像装置に光学フィルタFLを配置しても良い。撮像素子が光学フィルタを有している場合は、この光学フィルタを用いれば良い。
また、光学フィルタFLが、長波長の光を透過させる特性を有する場合、この光学フィルタFLを用いれば、細胞に与えるダメージを低減できる。一方、光学フィルタFLが、短波長の光を透過させる特性を有する場合、この光学フィルタFLを用いれば、解像度の高い電子画像が得られる。
また、光源自体を、波長帯域が狭い光を発するものにしても良い。このようにすれば、光学系の光路中に光学フィルタを配置しなくても良くなる。また、光源は複数用いても良い。
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、結像光学系はテレセントリック光学系であることが好ましい。
このようにすることで、観察範囲のどこにおいても、0次回折光の角度を略同じにできる。そのため、観察範囲のどこにおいても、コントラストの良い電子画像が得られる。
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、結像光学系は開口絞りを有することが好ましい。また、上述の各実施形態の標本観察装置では、結像光学系は対物レンズを有し、開口絞りは対物レンズに設けられていることが好ましい。
このようにすることで、標本に応じてコントラストの良い画像が得られる。
顕微鏡対物レンズを用いて説明する。図20は、開口数(NA)がそれぞれ異なる2つの顕微鏡対物レンズにおける波面収差の様子を示す図である。図20において、実線で示す曲線と破線で示す曲線は、共に開口数と波面収差量の関係を示している。実線は、開口数が大きい顕微鏡対物レンズ(以下、適宜、「対物レンズOB1」という)における波面収差量を示している。一方、破線は、開口数が小さい顕微鏡対物レンズ(以下、適宜、「対物レンズOB2」という)における波面収差量を示している。
対物レンズOB1と対物レンズOB2では、共に開口数が0.2となる位置で波面収差量が−λ/4になっている。そこで、1次回折光の位置を開口数が0.2となる位置に一致させるようにすることで、コントラストの良い電子画像が得られる。
しかしながら、対物レンズOB2の開口数に比べて、対物レンズOB1は開口数が大きい。そのため、対物レンズOB1には、1次回折光よりも高次の回折光が入射する。ここで、高次の回折光にも波面収差量が加わる。そのため、波面収差量の大きさによっては、0次回折光と高次の回折光が弱めあったり強めあったりする。その結果、対物レンズOB1では、コントラストの良い電子画像を得るのが難しくなる。
そこで、対物レンズOB1に開口絞りを設けることで、対物レンズOB1の開口数を制限できる。すなわち、対物レンズOB1の開口数を対物レンズOB2の開口数と同じ程度にできる。その結果、コントラストの良い電子画像が得られる。
なお、顕微鏡対物レンズから撮像装置までの間で開口数を制限できるのであれば、開口絞りを配置する位置はどこでも良い。よって、結像光学系に開口絞りを持たせても良い。また、対物レンズとしては、顕微鏡対物レンズの他に、例えば、内視鏡対物レンズがある。
また、上述の各実施形態の標本観察装置では、以下の条件式(4)を満足することが好ましい。
0.5<λ/(P×NAim)<20 (4)
ここで、
λは、撮像素子に入射する光の波長、
Pは、撮像装置における撮像素子の画素ピッチ、
NAimは、結像光学系の撮像装置側の開口数、
である。
なお、NAimは、結像光学系の標本側の開口数を結像光学系の投影倍率で割った値になる。
条件式(4)を満足することで、明視野観察の状態でありながら、より明瞭に無色透明な標本を観察できる。また、解像度の高い電子画像が得られる。
条件式(4)の下限値を下回ると、撮像素子におけるナイキスト周波数が、結像光学系(例えば、対物レンズ)のカットオフ周波数を大幅に下回る。そのため、電子画像の画質が悪くなる。条件式(4)の上限値を上回ると、結像光学系の分解能に比べて、撮像素子の画素が小さくなりすぎる。すなわち、電子画像は、画素数が必要以上に多い画像になる。そのため、電子画像の取扱いが困難になる。
また、上述の各実施形態の標本観察装置は、駆動機構を有し、駆動機構は、保持部材、撮像装置及び結像光学系の少なくとも1つを、光軸に沿って移動させることが好ましい。
このようにすることで、電子画像を容易に取得できる。特に、結像光学系や撮像素子を移動させると良い。結像光学系や撮像素子を移動させると、標本Sを静止状態にできる。そのため、標本が、非常にやわらかい構造を有している場合や、観察対象が液体中に浮遊しているような場合であっても、標本の状態を変化させることなく(形状の変形や液体中の位置を変化させることなく)電子画像が取得できる。
なお、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形例をとることができる。