JP6385640B2 - タンパク質及び酸性多糖類を含有する、酸性ゲル状飲食品の凝集物形成抑制方法 - Google Patents
タンパク質及び酸性多糖類を含有する、酸性ゲル状飲食品の凝集物形成抑制方法Info
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Description
κカラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸類及びLMペクチン等の酸性多糖類は、食感改良効果以外にも、離水防止、耐熱性付与等の機能を有する。しかし、従来技術では、タンパク質を含有する酸性ゲル状飲食品において、これら酸性多糖類が有する機能(食感改良、離水防止、耐熱性付与等)を十分に発揮させることができないことも問題視されていた。
特許文献1に開示された技術は、水溶液中で加水分解によりグルコン酸を放出する「グルコノデルタラクトン」を用いた技術であり、液全体のpHを徐々に低下させることで、キサンタンガム単独使用でゲルを形成させる技術である。従って、ゲルを形成するまでに2時間以上の時間を要し、工業規模での製造ラインに適さない。また、酸性ゲル状飲食品に通常用いられるpH調整剤(クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、リン酸、アスコルビン酸等)を用いた場合は、凝集物の形成やゲル化阻害を引き起こす等の問題を抱えていた。
更には、グルコノデルタラクトンを用いた場合も、厳格に製造条件を設定しなければならず、特定条件を満たさない場合はゲル化せず、汎用性が低い技術であった。
特許文献2に開示された技術は保存安定性の側面から、牛乳と混合する前のデザートベース自体のpHを3.7〜4.0に調整する技術であり、かつ当該デザートベースは店舗や家庭で牛乳と混合することを特徴とする。従って、牛乳(乳タンパク質)と混合後に加熱殺菌を行わないため、タンパク質の凝集物形成やゲル化阻害が問題視されにくい範囲での使用である。更には凝集物形成が目立たない間に冷却してゲル化されている可能性が高い。かかるLMペクチン及びカラギーナンを用いた場合であっても、通常のゲル状飲食品に用いられる殺菌条件(80〜95℃で30〜60分等)では、依然として凝集物の形成やゲル化阻害が課題となっていた。
特許文献3に開示された技術も特許文献2と同様、乳タンパク質(牛乳、ヨーグルト等)と混合後、加熱殺菌を行っておらず、通常のゲル状飲食品に用いられる殺菌条件を用いると、凝集物やゲル化阻害が発生し、均一な酸性ゲル状飲食品を提供することができなかった。更には、特許文献3に開示された製法は、安定剤を用いて予め酸乳を安定化する工程が必須であり、製造工程が煩雑であるといった問題も抱えていた。
しかし、上述のとおり、タンパク質を含む場合にpH2.5〜6の酸性条件下で使用できる多糖類は、寒天などの中性多糖類に限られる。寒天を用いて得られるゲルは一般的に硬くて脆い食感であり、食塊形成性に劣る、離水が発生しやすいなど、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感や物性を付与することが難しい場合があった。
ひいては、タンパク質及び酸性多糖類を含有しつつも、均一な食感や組織を有する酸性ゲル状飲食品を提供すること、並びに酸性多糖類が有する本来の機能(食感改良、離水防止、耐熱性付与機能等)を期待した酸性ゲル状飲食品の処方設計を可能とすることを目的とする。
項2.酸性多糖類が、κカラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸類及びLMペクチンからなる群から選択される一種以上である、項1に記載のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の凝集物形成を抑制する方法。
項3.タンパク質含有酸性ゲル状飲食品が、酸性ゲル状デザート、酸性ゲル状調味料又は酸性ゲル状濃厚流動食である、項1又は2に記載のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の凝集物形成を抑制する方法。
項4.以下の(1)〜(3)を含有する、pHが2.5〜6であるタンパク質含有酸性ゲル状飲食品;
(1)タンパク質、
(2)pH2.5〜6でタンパク質と相互作用して凝集物を形成する酸性多糖類、
(3)ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナン。
項5.酸性ゲル状デザート、酸性ゲル状調味料又は酸性ゲル状濃厚流動食である、項4に記載のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品。
また、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品に使用できる多糖類の制約を受けず、従来から使用されている寒天などの中性多糖類に加え、酸性多糖類を用いることができる。従って、酸性多糖類が有する本来の機能(食感改良、離水防止、耐熱性付与機能等)を期待した酸性ゲル状飲食品の処方設計が可能となる。
本発明は、タンパク質及び酸性多糖類をpH2.5〜6の酸性条件下で併用する場合に生じる凝集物の形成を抑制する方法に関する。本発明の方法を用いることで、凝集物に由来するざらつきのない、滑らかな食感を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供できる。また、凝集物形成によりゲル化阻害が生じる場合がある。かかる点、本発明は凝集物の形成抑制を図ることで、ゲル化阻害を抑制する方法にも関する。
一方、タンパク質はプラスとマイナスの電荷を持つが、系のpHが低下するほどプラスの電荷が増大する。特にpH2.5〜6の範囲では、タンパク質のプラスの電荷と酸性多糖類のマイナスの電荷が相互作用し、凝集物の形成やゲル化阻害等の各種問題を引き起こす。
かかるところ、κカラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸類及びLMペクチン等の酸性多糖類を、本発明の方法によりタンパク質と相互作用させずに用いることで、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の食感改良とバリエーション化(弾力を有するゲル状飲食品等、様々な食感を有するゲル状飲食品を提供できる)、離水防止、耐熱性付与等の効果を期待できる。本発明において、酸性多糖類はゲル化剤として使用されることが望ましい。例えば、キサンタンガムであれば、ローカストビーンガムと併用してゲル化剤として使用されることが望ましい。
本発明において、アルギン酸類とは、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム又はアルギン酸アンモニウムを指す。
かかる特定のカラギナンを用いることで、タンパク質及び酸性多糖類をpH2.5〜6の条件下で併用する場合であっても、凝集物の形成やゲル化阻害が生じることなく、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供することができる。
すなわち上記特定のカラギナンは、本飲食品中で主として安定剤の機能を果たす。
λカラギナンは、(化2)に示すλ成分を基本構造とするカラギナンである。商業上入手可能なλカラギナンとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポート[登録商標]P−30」を例示できる。
μ成分及びν成分を含有するカラギナンとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「カラギニンHi−pHive(「Hi−pHive」はCPケルコ社の登録商標)」を商業上入手することが可能である。
当該製品はμ成分を2〜7質量%、ν成分を10〜17質量%含有するものである。
なお、μ成分及びν成分を含有するカラギナンは、それ自体でゲルを形成しないという特徴を有している。
特に、pHが4.6未満、更にはpHが3〜4.5の範囲において凝集物の形成、ゲル化阻害が顕著に発生するが、本発明によれば上記pHの範囲であっても凝集物形成やゲル化阻害が抑制されたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供できる。
しかし、寒天を用いた場合は脆くて硬い食感となりやすく食感にバリエーションを付与することが難しい、離水が発生しやすい等の問題も有する。
本発明では、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品中における寒天含量が0.5質量%以下、又は0.15質量%以下、更には寒天を使用しない場合であっても、酸性多糖類をゲル化剤として利用でき、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供できる。
これにより、例えば咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感と物性を有する酸性ゲル状飲食品を提供できるという利点も有する。具体的には、下記1)〜4)を満たす咀嚼・嚥下機能低下者用の喫食に適した酸性ゲル状飲食品を提供できる。
1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(咀嚼後の食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着が少ないこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)。
本特性に関して、ユニバーサルデザインフード(UDF)は、「かたさ」によって以下の区分に分類されている。
区分1:容易にかめる / かたさ500,000N/m2以下
区分2:歯ぐきでつぶせる / かたさ50,000N/m2以下
区分3:舌でつぶせる / かたさ20,000N/m2以下
区分4:かまなくてよい / かたさ5,000N/m2以下
ユニバーサルデザインフード(UDF)は、日本介護食品協議会が、利用者が選択する際の目安となるよう、食品を「かたさ」や「粘度」に応じて4段階に区分したものである。区分選択の目安は、ユバーサルデザインフード自主規格 第2版(日本介護食品協議会)を参照することができる。本発明では、ゲル化剤の添加量を適宜調整することで、各区分に応じた「かたさ」を対象飲食品に付与することができる。「かたさ」の測定方法は以下のとおりである。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し、直線運動により圧縮応力を測定することが可能な装置(例.テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製))および直径20mmのプランジャーを用いて、測定温度20℃、圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmで1回圧縮を行う。そのときの最大圧縮応力を「かたさ」とする。
食塊形成性(咀嚼後の食品のまとまりやすさ、口腔・咽頭相において食塊がばらばらにならないこと)は、飲み込む力が衰えた咀嚼・嚥下機能低下者が対象飲食品を飲み込みやすいか否かの指標となる。
食塊形成性の指標として、例えば、特別用途食品の「えん下困難者用食品の試験方法(実施例参照)」に従って測定した「凝集性」をあげることができ、「凝集性」の範囲として好ましくは0.2〜0.9、更に好ましくは0.2〜0.6を例示できる。「凝集性」の測定方法は以下のとおりである。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し、直線運動により圧縮応力を測定することが可能な装置(例.テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製))および直径20mm、高さ8mmのプランジャーを用いて、測定温度20℃、圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行う。2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第二バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A2を、第一バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A1で割った値、すなわちA2/A1を「凝集性」とする。
咀嚼・嚥下機能低下者は筋肉の衰えなどから食塊を口腔から咽頭へ送り込む機能が低下しており、スムースに咽頭相を通過することができるよう付着の少ない食感が求められる。
付着性の指標として、例えば、特別用途食品の「えん下困難者用食品の試験方法(実施例参照)」に従って測定した「付着性」をあげることができ、「付着性」の範囲として1500J/m3以下、好ましくは1000J/m3以下、更に好ましくは400J/m3以下を例示できる。「付着性」の測定方法は以下のとおりである。
試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し、直線運動により圧縮応力を測定することが可能な装置(例.テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製))および直径20mm、高さ8mmのプランジャーを用いて、測定温度20℃、圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行う。2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第一バイトの圧縮後に現れる負の応力値と移動距離の積により求められる面積を「付着性」とする。
飲食品からの離水は、誤嚥を引き起こす要因となり得る。特に咀嚼・嚥下機能低下者用の食品では保水性の高さが求められる。
本発明はまた、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品に関する発明であり、当該ゲル状飲食品は、下記(1)〜(3)を含有し、pHを2.5〜6に調整する以外は常法のゲル状飲食品の製法に従って調製可能である。
(1)タンパク質、
(2)pH2.5〜6でタンパク質と相互作用して凝集物を形成する酸性多糖類、
(3)ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナン。
表1及び表2の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表2に示す。
なお、本発明で用いたカラギナンは全て硫酸基含量が20〜40%の範囲内である。
注2)「サンサポート※P−30*」を使用。
注3)「サンサポート※P−40*」を使用。
注4)「カラギニンHi−pHive*」(μ成分を2〜7質量%、ν成分を10〜17質量%含有するカラギナン100質量%)を使用。
注5)ゲル化が阻害されなかったもの(容器から取り出して静置した場合に、容器の形状を保つもの)を○、ゲル化しなかったもの(容器から取り出して静置した場合に、容器の形状を保たずに広がるもの、ペースト状あるいはゾル状のもの)を×とした。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品について、各々のゲル強度を測定した。ゲル強度は、テクスチャーアナライザー TA-XT2i(Stable Micro Systems社製)を用いて測定した(測定条件:プランジャー直径11.3mm、侵入速度1mm/s、品温5℃)。
表中、斜線で示している部分(比較例1−1)はゲル化せず、ゲル強度の測定が不可能であったものを示す(ゲル化の阻害)。
下記表3に示す基準に従って凝集物形成を評価した。
ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンを各々用いて調製した実施例1−1〜1−8のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びキサンタンガムを含有しつつも、両者が凝集物を形成したり、ゲル化が阻害されることなく、均一な組織を有するゲルを形成した。また、得られたゲルは弾力的な食感を有していた。
一方、上記特定のカラギナン以外のカラギナン、例えばκカラギナンを用いた場合は、目的とするタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製することができなかった。
例えば、κカラギナンを0.3%添加した比較例1−2のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、凝集物形成を抑制することができなかった。更にはゲル強度が弱く、キサンタンガム及びローカストビーンガムを用いたゲル特有の弾力ある食感を有することができなかった。
κカラギナンの添加量を0.6%まで増加した比較例1−3のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、一定のゲル強度を有するものの、1m程遠目にも凝集物の形成が確認され、商品価値がないゲル状飲食品であった。
表4及び表5の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で60分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表5に示す。
ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンを各々用いて調製した実施例2−1〜2−4のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びネイティブ型ジェランガムを含有しつつも、両者が凝集物を形成したり、ゲル化が阻害されることなく、均一な組織を有するゲルを形成した。また、得られたゲルは弾力的な食感を有していた。
また、表5に示すように上記特定のカラギナンを用いることで、0.05質量%と低添加量であってもタンパク質及び酸性多糖類(ネイティブ型ジェランガム)の凝集物形成を顕著に抑制することができた。
一方、上記特定のカラギナン以外のカラギナン、例えばκカラギナンを用いた場合(比較例2−2)はゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった。
表6及び表7の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。90℃で20分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表7に示す。
カラギナンとしてκカラギナンを用いた比較例3−2は凝集物形成の程度がひどく、分離も発生してしまい、商品価値がないものであった。
比較例3−3及び比較例3−4は、酸性条件下における乳タンパク質の安定化剤として多用される水溶性大豆多糖類及びHMペクチンを各々用いた例である。
水溶性大豆多糖類を用いた場合(比較例3−3)は1m程遠目からも確認できるほどの凝集物が形成され、かつ得られた酸性ゲル状飲食品のゲル強度も低く、商品価値がないものであった。HMペクチンを用いた場合(比較例3−4)は、ゲルを形成しなかった。
安定剤としてιカラギナン(実施例3−3)、κ2カラギナン(実施例3−4)並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナン(実施例3−5)を用いることで、顕著に凝集物の形成を抑制することができ、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製できた。
安定剤無添加区(比較例3−5)は、酸性多糖類及びタンパク質の相互作用によりゲルを形成しなかった。安定剤としてκカラギナンを用いた場合(比較例3−6)は、凝集物形成の程度がひどく、更には分離も発生していた。
表8及び表9の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
具体的には、水、ヤシ油にグラニュー糖、脱脂粉乳、ゲル化剤、安定剤及び乳化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌した。マンゴーピューレ、色素、香料及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行い、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
得られた酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表9に示す。
注9)κカラギナン33質量%及びローカストビーンガム45質量%含有製剤を使用。
同様にして、酸性条件下における乳タンパク質の安定化剤として多用される水溶性大豆多糖類及びHMペクチンを用いた比較例4−2及び比較例4−4も、タンパク質及びκカラギナンが相互作用して凝集物を形成し、ゲルを形成しなかった。
表10の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(ヨーグルト風ゼリー)を調製した。具体的には、水にグラニュー糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。クエン酸及び香料を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。容器に充填し、85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(ヨーグルト風ゼリー)を調製した。
表10の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表10に示す。
一方、安定剤としてιカラギナン(実施例6−1)を用いることで、凝集物形成もなく、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製できた。また、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品に従来使用することができなかった脱アシル型ジェランガムを使用することで、ゲル状飲食品に耐熱性を付与することができた。
pH変化に伴う、安定剤によるタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の安定化試験を実施した。
(タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の調製)
表11及び表12の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
(評価)
pH3〜4の試験区はゲル化の有無を「○、×」で評価した。pH4.5〜6の試験区は実施例及び比較例のいずれもゲルを形成したため、凝集物形成の様子を表3の基準と同様に「−、±、+、++、+++」で5段階評価した。
同様にして、酸性条件下における乳タンパク質の安定化剤として多用される水溶性大豆多糖類及びHMペクチンを含有する安定化剤を用いた比較例7−2も、pH4以下ではゲルを形成せず、pH4.5以上ではゲルを形成したが、凝集物形成の程度はひどく、分離も発生していた。
一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例7−1は、pH3〜6までの広範囲でゲルを形成し、更に凝集物形成の程度がひどいpH4.5〜6での凝集物形成を顕著に抑制し、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供できた。また、得られたゲルは弾力的な食感を有していた。
pH変化に伴う、安定剤(ιカラギナン)による、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の安定化試験を実施した。
(タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の調製)
表13及び表14の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
(評価)
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表14に示す。
一方、安定剤無添加区では、pH3.8〜4でゲルを形成せず、pH4.5〜6では酸性多糖類及びタンパク質による凝集物形成が発生し、商品価値を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供できなかった。
表15に示す処方に従って、酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
具体的には、水、ヤシ油にグラニュー糖、脱脂粉乳、ゲル化剤、安定剤及び乳化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌した。マンゴーピューレ、色素、香料及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行った後、108℃で10秒のUHT殺菌を行い、容器に充填及び冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例9−1は、UHT殺菌後も粗い粒子が形成されることなく、ざらつきのない均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)であった。図1と同様にして、撮影したUHT殺菌後の様子を図2に示す。
表16に示す処方に従って、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
具体的には、常温で水、油脂を撹拌しながら脱脂粉乳、カゼインナトリウム、デキストリン、乳化剤、水溶性大豆多糖類、HMペクチン、安定剤及びゲル化剤を添加し、80℃まで加温後、80℃で10分間撹拌した。クエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。容器に充填し、85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態評価(ゲル化の有無、凝集物の形成)、及び物性測定を実施した。結果を表17に示す。
「えん下困難者用食品の試験方法」に従って各種力学特性を測定した。
直径40mm、高さ15mmの容器の中でゲル化させた試料(酸性ゲル状濃厚流動食)について、直径20mm、高さ8mmのプランジャーおよびテクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製)を用いて、各種力学特性を測定した。測定温度20℃、圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行った。
(かたさ(注12))
実験例1とは異なり、実験例10では上記「えん下困難者用食品の試験方法」に準拠して「かたさ」を測定した。具体的には、2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第一バイトにおける最大圧縮応力を「かたさ」とした。
表中、「測定不能」とは、ゲル化せず、「かたさ」の測定が不可能であったものを示す。
(付着性(注13))
2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第一バイトの圧縮後に現れる負の応力値と移動距離の積により求められる面積を「付着性」とした。本数値が小さい程、付着性が小さいことを意味する。
(凝集性(注14))
2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第二バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A2を、第一バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A1で割った値、すなわちA2/A1を「凝集性」とした。ゲル状試料の場合、本数値が小さい程まとまりがなく、大きいほどまとまりがあることを意味する。ただし、咀嚼・嚥下機能低下者向けには0.2〜0.6程度が適してるとされる。
一方、安定剤不使用の比較例10−1及び比較例10−2は、タンパク質と、ゲル化剤中に含まれるκカラギナン、キサンタンガムが相互作用して凝集物を形成し、ゲルを形成しなかった。
表18に示す処方に従って、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
具体的には、常温で水、油脂を撹拌しながら脱脂粉乳、カゼインナトリウム、デキストリン、乳化剤、水溶性大豆多糖類、HMペクチン、κカラギナン(ゲル化剤)及び安定剤を添加し、80℃まで加温後、80℃で10分間撹拌した。クエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。容器に充填し、85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質を含有する酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例11−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質、脂質及び炭水化物を複合的に含有する濃厚流動食であっても、酸性多糖類とタンパク質が凝集物を形成することなく、均一で滑らかな食感を有していた、更には、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適したかたさ、良好な食塊形成性を有しており、付着性も小さく、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感及び物性を有していた。また、実施例11−1の酸性ゲル状濃厚流動食は、離水の発生も顕著に抑制されており、保水性も高かった。
一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いていない比較例11−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質とκカラギナンが相互作用して凝集物を形成し、ゲル自体を形成できなかった。
表19に示す処方に従って、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(イチゴプリン)を調製した。
具体的には、水、ヤシ油、牛乳、生クリームに砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤、メタリン酸ナトリウム、乳化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌した。イチゴ果汁、色素、香料及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行い、容器に充填後、121℃で20分間レトルト殺菌し、冷却することでタンパク質含有ゲル状飲食品(イチゴプリン)を調製した。
得られた酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表19に示す。
一方、安定剤としてμ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例12−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びキサンタンガムを含有しつつも、両者が凝集物を形成することなくゲルを形成し、滑らかで弾力のあるイチゴプリンであった。
表20の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表20に示す。
Claims (2)
- 乳タンパク質及び酸性多糖類をpH2.5〜6の酸性条件下で併用する場合に生じる凝集物の形成を抑制する方法であって、
ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンと、前記乳タンパク質と、κカラギナン、キサンタンガム、ジェランガム及びLMペクチンからなる群から選択される一種以上の酸性多糖類とを含有する混合物とすることを含む乳タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の凝集物形成を抑制する方法。 - 乳タンパク質含有酸性ゲル状飲食品が、酸性ゲル状デザート、酸性ゲル状調味料又は酸性ゲル状濃厚流動食である、請求項1に記載の乳タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の凝集物形成を抑制する方法。
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