この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は右ハンドルの自動車に組み込んだペダル後退防止構造を示し、図1は本実施例のペダル後退防止構造を車両に組み込んだ状態の概略図、図2(a)は図1の要部拡大図であり、ペダル非後退時における正常状態のペダル後退防止構造を示す図、図2(b)はペダル後退防止構造の規制手段周辺を示す要部斜視図である。
なお、図1及び図2(b)以外の図面では第1支軸S1および第2支軸S2を構成するボルト頭部の図示を省略している。さらに、以下の実施例においては、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印INはペダル後退防止構造の車幅方向の内側(車両左側)を示し、矢印OUTはペダル後退防止構造の車幅方向の外側(車両右側)を示し、矢印Uは車両上方を示す。
図1中の符号1は、前方のエンジンルームEと後方の車室Cとを区画するダッシュパネル1であり、このダッシュパネル1には、ブレーキペダル2と、ブレーキペダル2を車両前後方向に揺動自在に支持するペダル後退防止構造3と、ブレーキブースタ4とが取り付けられている。
ペダル後退防止構造3は、主にペダルブラケット5と回動レバー6とを備え、上記ペダルブラケット5は、ダッシュパネル1に後方からボルト止めされた取付基板51と、この取付基板51の左右両端縁部から車両後方に車幅方向に互いに対向するように延びる左右一対の側板52,52とを有している。なお、図面では車幅方向内側の側板52のみを示している。
さらに、ペダルブラケット5には、該ペダルブラケット5の基部から後方に向けて延出した後方延出部53を形成している。この後方延出部53は、左右一対の側板52,52の後方へ延出する後側上部分52aと、これら左右一対の後側上部分52a、52aの後端を車幅方向に連結する後側縦壁部54とで形成している。
後方延出部53を構成する側板52,52の基部には、夫々略円形の第1支持孔H1が形成され(図2(a)参照)、これら左右の第1支持孔H1,H1には、車幅方向に延びる第1支軸S1が挿通され、第1支軸S1は左右の側板52,52間に架け渡された状態で、第1支持部として、これら左右の軸受(支持部)としての第1支持孔H1,H1の周縁H1a,H1aによって支持されている。なお、図面では車幅方向内側の第1支持孔H1およびその周縁H1aのみを示している。
図1、図2(a)に示すように、第1支軸S1は車体側に取り付けたペダルブラケット5に対してブレーキペダル2をその上端において揺動可能に支持するものであり、本実施例においてはペダルブラケット5の左右一対の側板52,52間に架け渡した車幅方向に延びるボルトをこの第1支軸S1の主要部品として採用している。
ブレーキペダル2は、図示省略するがその上端部に設けられた挿通孔に円筒状に形成されたスリーブが該上端部の車幅方向両側からボス状に突出するように一体に嵌挿され、該スリーブに第1支軸S1が適宜、ブッシュ等を介して挿通され、該スリーブを支持している。これにより、ブレーキペダル2は、車幅方向に延びる第1支軸S1を中心に前後に揺動可能にその上端が第1支軸S1を介してペダルブラケット5に支持された状態となる。
上記ブレーキブースタ4は図1に示すように、ダッシュパネル1に対して前方側から取り付けられ、ブレーキペダル2にプッシュロッド7を介して連結されており、ブレーキペダル2の下端部つまりペダル踏込部31をドライバが足で前方に押すことにより、ブレーキペダル2が第1支軸S1を中心に前方動してプッシュロッド7を前方に押すことで車両を制動することができる。
上記プッシュロッド7は、ブレーキブースタ4(図1参照)に備えたマスタシリンダ(図示省略)とブレーキペダル2との間に、ブレーキブースタ4の入力軸として前後方向に備えている。
このプッシュロッド7の後端(ペダル側端)に設けられた連結ピンは、ブレーキペダル2の上下方向の中間位置に枢結され、プッシュロッド7の後端軸7bを構成している(図3(a)参照)。
一方、プッシュロッド7の前端(マスタシリンダ側端)に設けられた連結ピンは、受け部19に枢結され、プッシュロッド7の前端軸7aを構成している(図3(a)参照)。なお、受け部19は、マスタシリンダ内をスライド可能なシリンダロッド9の後端に設けられ、後方へ向けて開口する凹状に形成されたものである(同図参照)。
すなわち、本実施例においてプッシュロッド7は、いずれも車幅方向軸回りに揺動可能な前端軸7aと後端軸7bとを有している。
図2(a)に示すように、第1支持孔H1の下側には、該第1支持孔H1が下方に向けて開放するように該第1支持孔H1とペダルブラケット5の後方延出部53の下方の空間とを上下方向に連通する開口部8が形成されており、これにより第1支持孔H1は、該開口部8を通じて下方に向けて開放するように形成されている。
この開口部8は、その前後幅が第1支軸S1の軸径(直径)および第1支持孔H1の孔径(内径)よりも小さく狭められて形成され、この開口部8の前後両縁部には、互いに近接するように突き出して開口部8を隔てて前後各側で対向する一対の突起部11,11(脆弱部)が形成されている。これら一対の突起部11,11は、加締めにより第1支軸S1を支持可能に第1支持孔H1の周縁H1aの下側を形成するとともに、これら一対の突起部11,11によって開口部8が画成されている。
上述した第1支持孔H1の周縁H1aにおける突起部11,11は、ペダル非後退時(非衝突時)に第1支軸S1が第1支持孔H1から下方に離脱するのを規制して、第1支軸S1が不用意に第1支持孔H1から開口部8を通じて下方に離脱するのを防止する一方、第1支軸S1を介して第1支持孔H1の周縁H1aに対して主に下方に向けて設定値以上の大きな荷重が加わったときには、突起部11,11の塑性変形を伴って実質的に拡開した開口部8を通じて第1支軸S1が第1支持孔H1から下方に離脱することができる。なお、図示の例では、突起部11は、開口部8の前後両縁部に設けてあるが、前後両縁部のうちいずれか一方の縁部に設けてもよい。
図1、図2(a)に示すように、ペダルブラケット5の後方延出部53よりも下部には、第1支持孔H1から離脱して下方向に変位する第1支軸S1を受け止めて支持する補助支持部12を設けている。
詳しくは、補助支持部12は、ペダルブラケット5における第1支持孔H1よりも前側、かつ後方延出部53の後述する下縁辺53aに対して下方に離間した位置から後方へ水平かつ直線状に延出しており、第1支持孔H1よりも後方に有する後述する第2支軸S2の下方に至るまで延出している。
すなわち、補助支持部12は、その前端(基端)をペダルブラケット5の本体部分と一体に形成するとともに、第1支持孔H1の下方を通るように後方に延びるとともに、その後端(先端)を自由端とした片持ち状(一端支持状)に形成している。
後方延出部53を構成する側板52の下縁辺53aと、補助支持部12の上縁辺12aとの間には、隙間14を構成している。本実施例において、後方延出部53の下縁辺53aと補助支持部12の上縁辺12aとは、互いに略平行に前後方向に延設している。
図2(a)に示すように、後方延出部53の下縁辺53aにおける、第1支持孔H1よりも後方位置、詳しくは開口部8の後縁側の突起部11よりも後方位置には、該後方位置から隙間14(下方)へ突出した移動規制突起15が設けられている。
この移動規制突起15は、ペダル非後退時(非衝突時)に第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1が、ブレーキペダル2の操作荷重に対して後方へ移動することを規制するものである。
また上記の隙間14は、この移動規制突起15の配設箇所を除いて前後方向において上下方向の間隔を略一定としている。本実施例においてこの隙間14は、その上下方向の間隔が、第1支軸S1の軸径および第1支持孔H1の内径よりも小さく形成されている(図2(a)参照)。
ここで、この隙間14のうち移動規制突起15よりも前側を前側隙間14fに設定する。
また、第1支持孔H1の周縁H1aと補助支持部12との隙間には、第1支軸S1の軸径よりも大きな大径部位13が形成されている。すなわち本実施例において、この大径部位13は、前側隙間14fと、第1支持孔H1からの第1支軸S1の離脱に伴って押し広げられた開口部8とで形成されている(図3(b)参照)。
ところで上記補助支持部12は、上述したように、第1支持孔H1から下方へ離脱したブレーキペダル2を操作可能に該ブレーキペダル2の上端の第1支軸S1をその上縁辺12aによって受け止める。このとき、大径部位13には、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1が配置された状態となる。そして大径部位13は、上述したように第1支軸S1よりも大径としているため、補助支持部12によって受け止めた第1支軸S1が前後方向に変位可能な大きさを確保している(図3(b)参照)。
但し、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1は、大径部位13の前後方向において第1支持孔H1の周縁H1aによる第1支軸S1の支持位置(すなわち、第1支持孔H1の位置)よりも前に移動してもよいが該支持位置よりも後に移動しないことが、第1支軸S1の前方移動によるドライバへの不具合の認知性を高めつつ、ブレーキペダル2の操作性を確保する観点で好ましい。
このため、実施例の移動規制突起15は、上述したように、ペダルブラケット5の後方延出部53の下縁辺53aにおける第1支持孔H1よりも若干後方位置から隙間14(下方)に向けて突出形成している。これにより移動規制突起15は、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1が大径部位13よりも後方へ移動しないように規制してブレーキ操作可能としている。
また、上記の移動規制突起15は、図2(a)に示すように、補助支持部12に支持された第1支軸S1の重心c(図3(b)参照)よりも若干下方まで突出している。
換言すると、移動規制突起15は、少なくとも補助支持部12に支持された第1支軸S1の重心cよりも下方に突出しつつも該移動規制突起15の下縁辺15aと補助支持部12の上縁辺12aとの隙間14mの上下幅を出来るだけ確保するように形成している。
さらに、移動規制突起15の前縁辺15bは、下部が上部に対して前方に突出した下前上後状に形成している(図3(b)参照)。
また、図2(a)、(b)に示すように、補助支持部12の後端(自由端)には、ペダル非後退時(非前突時)に補助支持部12に受け止められている第1支軸S1が該補助支持部12から離脱しないように回動レバー6側に設けた後述する係止部18に係止される被係止部17が設けられている。なお、図2(a)、(b)に示すように、この被係止部17の下縁辺17aは、回動レバー6側の係止部18との係止を解除する際に抉ることがなく互い17,18の係止が解除され易いように前下後上状に傾斜して形成している。
このように回動レバー6に支持された状態の補助支持部12の第1支軸S1に対する支持限界荷重は、第1支持孔H1の離脱荷重よりも大きく設定されるのが好ましい。
一方、ペダル後退時(前突時)には被係止部17と係止部18との係合が解除され、上述した補助支持部12は、第1支軸S1からの荷重を受けて後述する軸離脱位置P1(図6参照)まで変形する。詳しくは、補助支持部12は、ペダル後退時にその基部が曲げ変形して水平姿勢から後下前上状に傾斜した姿勢となり、該第1支軸S1の離脱を許容する(図6参照)。
図1、図2(a)に示すように、回動レバー6は、左右一対の側板62,62(図面では車幅方向内側のみ図示)と、これら左右一対の側板62,62の上端を車幅方向に連結する天板63(図1参照)とを有している。回動レバー6は、左右の側板62,62に備えた第2支軸S2を介してペダルブラケット5の左右の側板52,52に対して車幅方向内側から回動可能に取り付けられており、左右の側板62,62の第2支軸S2よりも前縁辺には第1支軸S1に対して径方向外側から対向する円弧状縁辺部61,61が設けられている。
この第2支軸S2は、図2(a)に示すように、第1支軸S1よりも後方、かつ該第1支軸S1と略同じ高さに位置しており、第2支軸S2を中心に回動レバー6が反時計回りに回転したとき、回動レバー6の円弧状縁辺部61が第1支軸S1を押圧する位置に配置している(図4(a)、(b)参照)。
なお、第2支軸S2についても第1支軸S1と同様にその主要部品として側板62,62間に架設されたボルトを採用している。さらに回動レバー6の左右一対の側板62,62間には、円筒状の軸受(支持部)としてのスペーサ64(図2(a)参照)が横架され、この円筒状のスペーサ64内にボルトが挿通されており、回動レバー6が第2支軸S2を中心として回動可能に軸支された状態としている。
さらに回動レバー6の第2支軸S2よりも下方には、図2(a)、(b)に示すように、補助支持部12の先端(後端)よりも下方へ延出した下方延出部65を設けている。この下方延出部65は、回動レバー6が反時計回りに回動時にペダルブラケット5の後方延出部53の後側縦壁部54に干渉せずに該後側縦壁部54の前方を通過可能な長さで延出している。
下方延出部65の下端部には、上記被係止部17と係止可能にブレーキペダル2の側と反対側へ延出する係止部18が設けられている。係止部18は、回動レバー6の反時計回りの回動に伴って被係止部17との係止が解除可能に該被係止部17に対して下側から係止する。
すなわち、補助支持部12側の上記被係止部17と回動レバー6側の上記係止部18とによって規制手段16を構成している。この規制手段16は、ペダル非後退時に片持ち状に延出する補助支持部12の自由端を支持するものであり、補助支持部12に支持されている第1支軸S1が該補助支持部12から離脱することを規制するものである。
ペダル非後退時には、通常、図1、図2(a)に示すように、第1支軸S1は、一対の突起部11,11を含めた第1支持孔H1の周縁H1aによって支持され、その離脱荷重は想定されるペダル操作力に対し、十分な余裕をもって設定されているため、第1支持孔H1から離脱することがない。
しかし、ペダル非後退時であっても、ペダル踏込部31の踏込に起因する大きな荷重が第1支軸S1から第1支持孔H1の周縁H1aに加わった場合には、一対の突起部11,11等の製造公差等の影響により、開口部8に第1支軸S1が入り込み易くなる等して一対の突起部11,11が拡開変形し、第1支軸S1が第1支持孔H1から離脱するという誤作動が生じることがある。
しかし、ペダル非後退時であっても、ペダル踏込部31への回動レバー6からの入力荷重に匹敵するような想定を大幅に超える大きな荷重が第1支軸S1から第1支持孔H1の周縁H1aに加わった場合には、一対の突起部11,11等の製造公差等の影響により、開口部8に第1支軸S1が入り込み易くなる等して一対の突起部11,11が拡開変形し、第1支軸S1が第1支持孔H1から離脱するという誤作動が生じることが否定できない。
ペダル非後退時に、第1支軸S1がこのような第1支持孔H1から離脱状態となっても補助支持部12は、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1を受け止めることができる。
このような軸離脱状態を示す側面図が図3(a)であり、図3(b)は図3(a)中の領域X1の拡大図を示す。
そして補助支持部12は、図3(a)、(b)に示すように、第1支軸S1が上述のような軸離脱状態となってもその後端に設けた被係止部17と回動レバー6側に設けた係止部18とが係止しているため、前後方向に略水平に延びる補助支持部12が曲げ変形するなどして第1支軸S1をそれ以上落下しないようにしっかりと受け止めるものである。
また第1支軸S1は、ペダル非後退時に第1支持孔H1から軸離脱状態となっても大径部位13において前後方向に遊動可能に補助支持部12によって支持される。このため、ドライバがペダル操作をする際のブレーキペダル2のガタつきによって第1支持孔H1から第1支軸S1が離脱した状態であるという異変を認知することができる。
一方、ブレーキペダル2は、ペダル非後退時に第1支軸S1が第1支持孔H1から軸離脱状態となり、大径部位13において前後方向に遊動可能な状態となっても操作可能としている。具体的には、ペダル非後退時における第1支軸S1の離脱状態の時に、ドライバがペダル踏込部31を前方へ踏み込んだとき、プッシュロッド7が前方へ押されることにより、このプッシュロッド7を中心としたペダル反力が第1支軸S1に後方向に作用するが、このペダル反力は移動規制突起15によって受け止められる。
すなわち、大径部位13における前側隙間14fの後側に配設された移動規制突起15によってブレーキペダル2の操作荷重に対する第1支軸S1の後方への移動を規制することにより、ブレーキペダル2は、第1支軸S1を支点としてプッシュロッド7を前方へ押し込むことができるため、該ブレーキペダル2の操作を可能としている。
この移動規制突起15と補助支持部12との間には隙間14mを有しているが、上述したように、移動規制突起15は、補助支持部12に支持された第1支軸S1の重心cよりも下方へ突出し、さらにその前縁辺15bを、該前縁辺15bの下部を前方へ突出させた下前上後状の傾斜形状としている。このため、移動規制突起15の下縁辺15aと補助支持部12の上縁辺12aとの隙間14mに第1支軸S1が楔のように入り込むことがなく、移動規制突起15によって第1支軸S1が後方移動することを確実に規制することができる。
ここで、移動規制突起15は重心cよりも若干下方へ位置する程度の突出量で形成し、移動規制突起15と補助支持部12との間には隙間14mを確保して形成しているため、ペダル後退時には補助支持部12を十分に前上後下状に傾けなくても、移動規制突起15による後方への移動規制を解除することができる。
次にペダル後退時(前突時)におけるペダル後退防止構造3の作用について図4(a)、(b)〜図7(a)、(b)を用いて説明する。
図4(a)はペダル後退直後における軸離脱状態のペダル後退防止構造の側面図、図4(b)は図4(a)中の領域X2の拡大図、図5(a)はペダル後退初期における軸離脱状態のペダル後退防止構造の側面図、図5(b)は図5(a)中の領域X3の拡大図、図6(a)はペダル後退中期における軸離脱状態のペダル後退防止構造の側面図、図6(b)は図6(a)中の領域X4の拡大図、図7(a)はペダル後退後期における軸離脱状態のペダル後退防止構造の側面図、図7(b)は図7(a)中の領域X5の拡大図である。
図4(a)、(b)に示すように、車両が前方衝突してダッシュパネル1(図1参照)及びペダルブラケット5が後方に変位したときには(図4(a)中の大矢印D参照)、回動レバー6の側板52,52の力点である後部が、車体側部材90に衝突し、これに伴って回動レバー6が、図4(a)中の仮想線で示す状態から第2支軸S2を中心として、回動レバー6の後端部が上方に跳ね上がるようにして反時計回りに回動する。
図4(b)に示すように、この回動レバー6の回動に伴って該回動レバー6に備えた係止部18が略後方へ移動するように回動することで被係止部17との係合が解除される。
すなわち、規制手段16は、ペダル非後退時においては第1支持孔H1から軸離脱した第1支軸S1が補助支持部12に受け止められた状態からさらに軸離脱しないように補助支持部12の曲げ変形を規制するが、ペダル後退時においては回動レバー6の回動に連動することでこの規制が解除され、補助支持部12は片持ち状になる。
そして、回動レバー6の円弧状縁辺部61が第1支軸S1を下方に押し下げ、これにより、ブレーキペダル2を軸支する第1支軸S1は、ペダルブラケット5の第1支持孔H1から開口部8に楔のように入り込み、突起部11,11の塑性変形を伴いながら開口部8を通過して第1支持孔H1から下方へ離脱する。
回動レバー6の円弧状縁辺部61による押出しによって第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1は、図5(a)(b)に示すように、一旦、補助支持部12によって受け止められ、移動規制突起15よって後方移動が規制されるが、回動レバー6の円弧状縁辺部61は、引続き第1支軸S1を押圧する。
これにより、図6(a)(b)に示すように、回動レバー6の回動に伴って補助支持部12は、第1支軸S1に押圧されながら該補助支持部12の基部が時計回りに曲げ変形していき、略水平な姿勢から徐々に前上後下状に傾いた姿勢となる(図6(b)中の大矢印参照)。
ここで、このような回動レバー6の回動によって、回動レバー6の円弧状縁辺部61は、第1支軸S1を第1支持孔H1から補助支持部12の軸ガイド方向d1(図6(b)参照)よりも前下方向に押し出すことが好ましい。
すなわち、この前下方向とは、第1支軸S1の第1支持孔H1からの押出し方向のうち、図6(b)中の範囲αに含まれる押出し方向であり、回動レバー6の円弧状縁辺部61は、後述する軸離脱位置P1まで曲げ変形した補助支持部12の軸ガイド方向d1(延出方向)である後下方向よりも前下方向に第1支軸S1を押し出すことが好ましい。
さらに、回動レバー6の円弧状縁辺部61による第1支持孔H1からの第1支軸S1の押し出し方向は、図6(b)中の範囲αに含まれる押出し方向の中でも、車体側部材90や不図示のフロアパネル等を基準として真下(鉛直下方)乃至前下の方向に設定する、すなわち、図6(b)中の範囲βに含まれる方向に設定することがより好ましい。
本実施例では、図6(b)に示すように、第1支軸S1の押し出し方向d2は、真下(鉛直下方)に設定している。
具体的には、回動レバー6は、上述したように、回動支点である第2支軸S2が第1支軸S1と略同じ高さになるようにペダルブラケット5に取り付けており(図2(a)参照)、作用点である円弧状縁辺部61を第2支軸S2の前方に設けることで、円弧状縁辺部61によって第1支軸S1を、第1支持孔H1から上述した前下方向(図6(b)中の範囲αに含まれる押出し方向)の中でも真下(鉛直下方)に押し出す構成としている。
また、上述したように、回動レバー6の回動に伴って規制手段16による第1支軸S1の離脱規制が解除されているため、補助支持部12は、第1支軸S1が第1支持孔H1からの離脱荷重よりも低い押圧荷重を第1支軸S1から受けて変形する。
補助支持部12は、図6(b)中の大矢印に示すように、第1支軸S1からの荷重を受けて徐々に曲げ変形していき、やがて前上後下状に傾いた姿勢に曲げ変形した該補助支持部12の上縁辺12aと移動規制突起15の下縁辺15aとの隙間14mが第1支軸S1の軸径よりも大きくなる軸離脱位置P1まで傾くと、移動規制突起15による第1支軸S1の後方への移動規制が解除される。図6(a)、(b)に示す補助支持部12の位置が上記軸離脱位置P1を示し、補助支持部12がこの軸離脱位置P1まで傾くと、第1支軸S1は、移動規制突起15の下を通過しながら補助支持部12に沿って後下方向へ移動する。
ここで、上述したように、移動規制突起15はペダル非後退時において、大径部位13に有する第1支軸S1の重心cよりも若干下方へ突出する突出し量に留めて形成することで(図2(a)、図3(b)参照)、移動規制突起15の下縁辺15aと曲げ変形前の補助支持部12の上縁辺12aとの間には隙間14mを確保して形成している。
このような隙間14mを確保することで、ペダル後退時において、移動規制突起15を例えば、補助支持部12の上縁辺12aに達する程度まで下方へ突き出して形成した場合と比較して補助支持部12を急勾配で前上後下状に傾けなくてもよく、延びるように傾けた補助支持部12に沿って第1支軸S1を後下方へしっかりと後方へ移動させることができる。
そして、図7(a)、(b)に示すように、補助支持部12は、移動規制突起15による第1支軸S1の後方移動規制が解除される軸離脱位置P1まで曲げ変形しても第1支軸S1を後下方向へ変位するようにガイドし続けるため、ブレーキペダル2は、その慣性力を利用してペダル踏込部31を前方にしっかりと変位させながら脱落することができる(図7(a)中の大矢印Df参照)。
ここで上述したように、回動レバー6は、第2支軸S2が第1支軸S1と略同じ高さになるようにペダルブラケット5に取り付けているため、回動レバー6の円弧状縁辺部61によって第1支軸S1を押圧する際、第1支軸S1を補助支持部12の軸ガイド方向d1である後下方向よりも前下方向である真下に押し出したが(図6(b)中の矢印d2参照)、このような押出し方向に押し出しても、第1支軸S1は、補助支持部12によって後下方向へガイドすることができる。
上述した本実施例の自動車のペダル後退防止構造3は、車体の車室前部に対して操作ペダルとしてのブレーキペダル2を揺動可能に該ブレーキペダル2の第1支軸S1(ペダル軸)を支持する第1支持孔H1の周縁H1a(軸受)を有するペダルブラケット5と、該ペダルブラケット5に回動自在に取り付けられ(図1参照)、ペダル後退時に後側に設けられた車体側部材90に当接することで回動して第1支軸S1を押圧することによって第1支持孔H1から離脱させる回動レバー6と、を備えたペダル後退防止構造であって(図4(a)、(b)参照)、第1支持孔H1から離脱する方向に変位する第1支軸S1を、該第1支軸S1の軸径よりも大きな大径部位13を形成してペダル操作が可能に受け止め、ペダル後退時に第1支軸S1の離脱を許容する補助支持部12(図6(a)、(b))と、ペダル非後退時に補助支持部12からの第1支軸S1の離脱を規制する規制手段16が設けられたものである(図2(a)、(b)、図3(a)、(b)参照)。
上記構成によれば、ペダル非後退時に、ブレーキペダル2の操作が可能でありながら第1支軸S1の支持の緩みをドライバに容易に認知させることができる。
詳述すると、従来のペダル後退防止構造として、例えば、特許第4814036号公報に開示の操作ペダルの支持構造は、ペダルブラケット(3)に設けた脱落規制部としての突起(305)と、該ペダルブラケット(3)とは別部材である脱落規制部材(8)との双方によってブレーキペダル(4)を、第1支軸(S1)を介して揺動可能に支持する構成としている。
このような突起(305)と脱落規制部材(8)のように、ブレーキ踏込時のブレーキペダル(4)のペダルブラケット(3)に対する支持剛性を確保するために、第1と第2の系統からなる軸支持構造を備えたものは公知であった。
しかし、このような2系統からなる軸支持構造は、ブレーキペダル(4)の踏み込みに起因して第1(メイン)のペダル軸支持構造(例えば、突起(305))に不具合が生じても、その不具合が生じる前と同じ状態で第2(補助)のペダル軸支持構造(例えば、脱落規制部材(8))によって第1支軸S1を支持し続けるものであった。このため、従来のペダル後退防止構造は、車検等の検査を受けなければ2つのペダル軸支持構造の双方に不具合が生じない限り、ドライバは、その不具合を認知することができなかった。
これに対して本実施例のペダル後退防止構造3は、ブレーキペダル2の踏み込みに起因して第1支軸S1が第1支持孔H1から離脱した場合には、ブレーキペダル2の操作を可能としつつ第1支軸S1を大径部位13によって遊びを有した状態(ガタつきのある状態)で補助支持部12によって支持するものである(図3(a)、(b)参照)。
よって、第1の軸支持構造である突起部11,11等の第1支持孔H1の周縁H1aに緩み等の不具合が生じると、第2の軸支持構造である補助支持部12によって第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1を受け止めることでドライバは通常のブレーキペダル2の操作が可能でありながらペダル操作を通じて第1支軸S1のガタつきによって不具合を確実に認知することができる。
すなわち、第1支軸S1が第1の軸支持構造である第1支持孔H1の周縁H1aによって適切に支持されない不具合が生じても、その不具合を車検等を待たずにドライバに素早く認知させることができ、また、その不具合を、センサ等を設けることなくドライバに直接認知させることができるため、修理が遅れることもない。
この発明の態様として、補助支持部12は第1支軸S1からの荷重を受けて軸離脱位置P1に変形するようペダルブラケット5に設けられたものである(図6(a)、(b)参照)。
上記構成によれば、補助支持部12をペダルブラケット5に設けることで補助支持部12をペダルブラケット5とは別部材で形成するよりも部品点数を削減することができる。
詳述すると、本実施例の補助支持部12は、ペダルブラケット5の一部として形成することが可能であるため、例えば、上述した特許第4814036号公報に開示の脱落規制部材(8)や、単価が高いピン部材(20)、或いは特許文献1に開示の揺動ペダル支持部材(19,20)といった部品を用いずとも2系統からなる軸支持構造を達成することができる。
従って、部品点数および組み立て工数を削減することができるとともに運転席の足元に配設されるペダル後退防止構造3のレイアウト性も高めることができる。
またこの発明の態様として、ブレーキペダル2の操作荷重に対する第1支軸S1の移動を規制する移動規制部としての移動規制突起15が設けられたものである(図1、図2(a)、(b)参照)。
上記構成によれば、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1は、大径部位13において前後方向に移動することが許容されるため、このような第1支軸S1の前後方向の遊び(ガタつき)によってドライバは第1支軸S1が第1支持孔H1から離脱したという不具合を認知することができる。
その一方で、ブレーキペダル2の踏み込み時に、該ブレーキペダル2の操作荷重に対して第1支軸S1の後方移動を移動規制突起15によって規制することができるため、第1支軸S1が第1支持孔H1から離脱してもブレーキペダル2の操作性を確保することができる。
従って上記構成によれば、ブレーキペダル2の操作性とガタつきによる認知性とを効果的に両立できる。
またこの発明の態様として、補助支持部12は、第1支持孔H1の前側から該第1支持孔H1の下方を通るように後方へ延びるとともに、第1支持孔H1の周縁H1a、すなわち後方延出部53の下縁辺53aに対して下方に離間して延びており、第1支持孔H1の周縁H1aと補助支持部12との隙間、すなわち、前側隙間14fと拡開した開口部8とによって大径部位13が形成され、第1支持孔H1の周縁H1aよりも後方にペダルブラケット5の側から隙間14へ突き出した移動規制突起15が設けられたものである(図3(a)、(b)参照)。
上記構成によれば、ブレーキペダル2の踏み込みにより、該ブレーキペダル2は、プッシュロッド7の後端を連結した後端軸7bを支点としてそのペダル踏込部31が前方へ移動するように時計回りに揺動する。このようなブレーキペダル2の操作荷重に対して第1支軸S1は後方に移動しようとするが、その後方移動を移動規制突起15によって規制することができる。よって、ペダル非後退時に仮に第1支軸S1が第1支持孔H1から離脱してもブレーキペダル2の操作性を確保することができる。
一方、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1は、大径部位13において前後方向に移動することが許容される。よってこのような第1支軸S1の前後方向の遊動(ガタつき)によってドライバは第1支軸S1が第1支持孔H1から離脱したという不具合を認知することができる。
従って、ブレーキペダル2の操作性とガタつきによる認知性とをより一層効果的に両立できる。
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、この発明の操作ペダルは、本実施例のブレーキペダル2に対応し、以下同様に、
ペダル軸は、第1支軸S1に対応し、
軸受は、第1支持孔H1の周縁H1aに対応し、
移動規制部は、移動規制突起15に対応するも、この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、本発明の大径部位は、ペダル非後退時に、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1がペダル操作可能に前後に遊動可能な空間であれば、上述した実施例のように、前側隙間14fと、拡開した開口部8とで構成される空間に限らず、少なくとも前側隙間14fを有する空間であれば、第1支持孔H1も含めた空間、或いは、第1支持孔H1や開口部8は含まない前側隙間のみで構成した空間としてもよい。
後者の構成の具体例について図8を用いて説明する。
なお、図8は本発明の他の実施形態のペダル後退防止構造の構成説明図であり、図2(a)に相当する図である。
図8に示す他の実施例のペダル後退防止構造3Aは、前側隙間14Afの上下方向の幅、すなわち後方延出部53の下縁辺53aと補助支持部12の上縁辺12aとの間隔が、第1支軸S1の軸径よりも大きくなるように構成している。
なお、移動規制突起15Aは、隙間14Aを上述した実施例の隙間14よりも大きくしたことに伴って上述した実施例の移動規制突起15よりも、その突出し量を大きく設定している。
これにより、図8に示す大径部位13Aは、第1支持孔H1や拡開した開口部8は含まない前側隙間14Afのみによって構成することができ、このような大径部位13Aによってもペダル非後退時に、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1をペダル操作可能に前後に遊びを持たせることができ、ドライバに第1支持孔H1から第1支軸S1が離脱したという不具合を素早く認知させることができる。
また本発明の補助支持部は、第1支持孔H1から離脱した第1支軸S1をペダル操作可能に受け止めることができれば、上述した実施例の補助支持部12のように、前側から後方向に延設したものに限定せず、例えば後側から前方向、車幅方向等他の方向に延設してもよく、またその長さについても限定しない。