1.燃料電池システムの全体構成
図1において、電動車両1は、燃料電池およびバッテリを選択的に動力源とするハイブリッド車両であって、燃料電池システム2を搭載している。
燃料電池システム2は、燃料電池3と、燃料給排部4と、空気給排部5と、水分供給部23と、制御部6と、動力部7とを備えている。
(1)燃料電池
燃料電池3は、液体燃料が直接供給および排出される、例えば、アニオン交換型燃料電池またはカチオン交換型燃料電池であって、電動車両1の中央下側に配置されている。
燃料電池3に供給され、また、燃料電池3から排出される液体燃料としては、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジン(例えば、無水ヒドラジンや、ヒドラジン1水和物などの水加ヒドラジンなどを含む)などが挙げられる。
なお、以下において、燃料電池3に供給される液体燃料を供給液、一方、燃料電池3から排出される液体燃料を排出液として、それぞれ区別する。
燃料電池3は、電解質層8と、電解質層8の一方側に配置され、液体燃料が供給されるアノード9と、電解質層8の他方側に配置され、空気(酸素)が供給されるカソード10とを有する単位セル21(燃料電池セル)が、セパレータ(図示せず)を介して複数積層されたスタック構造として形成されている。なお、図1では、積層される複数の単位セル21の内、電動車両1の前後方向途中に配置される単位セル21だけを拡大して表わし、その他の単位セル21については簡略化して記載している。
電解質層8は、例えば、アニオン成分またはカチオン成分が移動可能な層であり、アニオン交換膜またはカチオン交換膜を用いて形成されている。
アノード9は、アノード電極11と、アノード電極11に液体燃料(供給液)を供給するための燃料供給部材12とを備えている。
アノード電極11は、電解質層8の一方面に形成されている。アノード電極11の電極材料としては、例えば、アノード触媒が担持された多孔質担体(触媒担持多孔質担体)などが挙げられる。
燃料供給部材12は、セパレータとしても兼用され、ガス不透過性の導電性部材からなる。燃料供給部材12には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、燃料供給部材12は、溝の形成された表面がアノード電極11に対向接触されている。これにより、アノード電極11の一方面と燃料供給部材12の他方面(溝の形成された表面)との間には、アノード電極11全体に液体燃料(供給液)を接触させながら通過させるための燃料供給路13が形成される。
燃料供給路13には、液体燃料(供給液)をアノード9内に流入させるための燃料供給口14が一端側(下側)に形成され、液体燃料(排出液)をアノード9から排出するための燃料排出口15が他端側(上側)に形成されている。
カソード10は、カソード電極16と、カソード電極16に空気(酸素)を供給するための空気供給部材17とを備えている。
カソード電極16は、電解質層8の他方面に形成されている。カソード電極16の電極材料としては、例えば、アノード電極11の電極材料として例示した、触媒担持多孔質担体などが挙げられる。
空気供給部材17は、セパレータとしても兼用され、ガス不透過性の導電性部材からなる。空気供給部材17には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、空気供給部材17は、溝の形成された表面がカソード電極16に対向接触されている。これにより、カソード電極16の他方面と空気供給部材17の一方面(溝の形成された表面)との間には、カソード電極16全体に空気を接触させながら通過させるための空気供給路18が形成される。
空気供給路18には、空気を空気供給路18内に流入させるための空気供給口19が他端側(上側)に形成され、空気を空気供給路18から排出するための空気排出口20が一端側(下側)に形成されている。
また、このような燃料電池3において、複数の単位セル21をそれぞれ区分する1つのセパレータは、上記燃料供給部材12および上記空気供給部材17を兼ね備える。換言すると、セパレータは、その一方側面において、燃料供給部材12として作用するとともに、他方側面において、空気供給部材17として作用する。
また、燃料電池3は、後述する電気化学反応が生じることで、熱を発生する。燃料電池3は、電気化学反応で発生する熱と熱交換可能な熱交換領域の一例としての熱交換部22を備えている。
熱交換部22は、複数の単位セル21の積層方向に沿って延びる略角筒形状に形成されている。熱交換部22は、単位セル21からの熱が効率良く伝導されるように、積層された複数の単位セル21に対して上側に隣接配置されている。
(2)燃料給排部
燃料給排部4は、液体燃料を貯蔵するための燃料タンク24と、燃料タンク24から燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)に対して供給液を供給する燃料供給経路の一例としての燃料供給ライン25と、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)から排出液を排出する燃料排出経路の一例としての燃料排出ライン26と、燃料排出ライン26から燃料供給ライン25へ排出液を輸送する還流ライン28とを備えている。
なお、燃料供給ライン25と燃料排出ライン26との間には、燃料電池3が介在されており、また、燃料排出ライン26と還流ライン28との間には、第1気液分離器27(後述)が介在されている。
燃料タンク24は、燃料電池3よりも後方、電動車両1の後側に配置されている。燃料タンク24には、液体燃料として、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジンなどが貯蔵されている。
燃料供給ライン25は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料タンク24に接続されるとともに、その下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給口14)に接続されている。
また、燃料供給ライン25の流れ方向途中には、燃料供給ポンプ30が介在されており、また、その下流側には、燃料供給弁31が設けられている。
燃料供給ポンプ30としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。燃料供給ポンプ30は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、燃料供給ポンプ30に入力され、コントロールユニット70(後述)が、燃料供給ポンプ30の駆動および停止を制御する。
燃料供給弁31は、燃料供給ライン25を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。また、燃料供給弁31は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、燃料供給弁31に入力され、コントロールユニット70(後述)が、燃料供給弁31の開閉を制御する。
このような燃料供給ライン25により、燃料タンク24から、液体燃料(供給液)が燃料電池3へ供給される。
燃料排出ライン26は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料排出口15)に接続されるとともに、下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、第1気液分離器27に接続されている。
このような燃料排出ライン26により、排出液が燃料電池3から排出され、第1気液分離器27に輸送される。
第1気液分離器27は、例えば、中空の容器からなり、その下部には、第1気液分離器27の内外を流通させる底部流通口33が2つ形成されている。また、第1気液分離器27の上部には、第1気液分離器27の内外を流通させる上部流通口34が1つ形成されている。
第1気液分離器27は、燃料電池3よりも電動車両1の前後方向後方、かつ、電動車両1の上下方向上方において、2つの底部流通口33が、それぞれ、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料排出ライン26および還流ライン28(後述)に接続されている。
上部流通口34には、第1気液分離器27で分離されたガス(気体)を排出するためのガス排出管36が接続されている。ガス排出管36は、その上流側端部がシール材(ガスケット)を介して上部流通口34に接続され、その下流側端部が大気に開放されている。また、ガス排出管36の途中には、ガス排出弁37が設けられている。
ガス排出弁37は、ガス排出管36を開放して第1気液分離器27内の圧力を開放するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。ガス排出弁37は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号がガス排出弁37に入力され、コントロールユニット70(後述)が、ガス排出弁37の開閉を制御する。
還流ライン28は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、第1気液分離器27に接続されるとともに、その下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料供給ライン25の流れ方向途中、詳しくは、燃料供給ポンプ30および燃料供給弁31よりも下流側の燃料供給ライン25に接続されている。
また、還流ライン28の流れ方向途中には、燃料還流ポンプ38が介在されている。
燃料還流ポンプ38としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。燃料還流ポンプ38は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、燃料還流ポンプ38に入力され、コントロールユニット70(後述)が、燃料還流ポンプ38の駆動および停止を制御する。
これにより、燃料排出ライン26内を輸送される排出液が、第1気液分離器27および還流ライン28を介して、燃料供給ライン25に輸送される。そして、燃料タンク24から輸送された液体燃料(1次供給液)と混合され、濃度調整された後、供給液(2次供給液)として、燃料電池3に戻ることにより、アノード9を循環するクローズドライン(閉流路)が形成される。
(3)空気給排部
空気給排部5は、燃料電池3(具体的には、カソード10空気供給路18)に対して空気を供給する空気供給経路の一例としての空気供給ライン41と、カソード10から排出される空気を外部に排出するための空気排出ライン42とを備えている。
空気供給ライン41は、その上流側端部が大気中に開放され、その下流側端部が空気供給口19に接続されている。空気供給ライン41の途中には、空気供給ポンプ43が介在されており、また、その下流側には、空気供給弁44が設けられている。
空気供給ポンプ43としては、例えば、エアコンプレッサなど、公知の送気ポンプが用いられる。空気供給ポンプ43は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、空気供給ポンプ43に入力され、コントロールユニット70(後述)が、空気供給ポンプ43の駆動および停止を制御する。
空気供給弁44は、空気供給ライン41を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。空気供給弁44は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、空気供給弁44に入力され、コントロールユニット70(後述)が、空気供給弁44の開閉を制御する。
空気排出ライン42は、その上流側端部が空気排出口20に接続され、下流側端部がドレンとされる。
(4)水分供給部
水分供給部23は、燃料電池3において液体燃料の電気化学反応(後述)によって生じる水分を回収し、空気供給ライン41に供給するために設備されている。
具体的には、水分供給部23は、排出液から水分を分離するための水分離手段の一例としての水分離装置47と、第1水分供給経路の一例としての第1水分供給ライン48と、第2水分供給経路の一例としての第2水分供給ライン49と、第2気液分離器50とを備えている。
水分離装置47は、第1気液分離器27を介して還流ライン28に流入する排出液から、排出液に含まれる水分を分離するための装置であって、還流ライン28における燃料還流ポンプ38よりも上流側に介在されている。
このような水分離装置47は、図2に示されるように、膜ユニット52と、減圧装置53とを備えている。
膜ユニット52は、図3に示されるように、ハニカムセラミック担体54と、ハニカムセラミック担体54に担持される水分離膜55とを備えている。
ハニカムセラミック担体54は、例えば、アルミナなどのセラミックからなる略円筒部材であって、その径方向内側には、略六角形の貫通孔(パス)56が、複数形成されている。
各貫通孔(パス)56は、ハニカムセラミック担体54の軸線方向を貫通する流体通路として形成されており、その周壁面は、水分離膜55により被覆されている。
水分離膜55は、排出液中に含まれる未反応の液体燃料などを遮断する一方、水分を透過させる膜であって、特に制限されないが、例えば、孔径が1nm以下の炭素膜などが挙げられる。水分離膜55の孔径は、例えば、1nm以下、好ましくは、0.5nm以下であり、通常、0.3nm以上である。
そして、このような膜ユニット52は、その長手方向が排出液の流れ方向に沿うように還流ライン28に介在されている(図2参照)。これにより、膜ユニット52の貫通孔56(水分離膜55により被覆された貫通孔56)内に、排出液が通過可能とされ、水分離膜55の厚み方向一方側(貫通孔56の内側)に、排出液が接触可能とされている。また、水分離膜55の厚み方向他方側(貫通孔56の外側)には、ハニカムセラミック担体54が接触される。
減圧装置53は、膜ユニット52の径方向外側を減圧するために設備されている。
具体的には、図2に示されるように、減圧装置53は、例えば、膜ユニット52を収容する収容部57と、減圧ポンプ58とを備えており、減圧ポンプ58の駆動によって、収容部57内、すなわち、水分離膜55(膜ユニット52)の周囲を減圧可能としている。減圧ポンプ58としては、公知のポンプが用いられる。
そして、詳しくは後述するが、このような減圧装置53によって膜ユニット52の径方向外側を減圧することにより、排出液に含有される水分を水蒸気化して、膜ユニット52の径方向内側から外側に(水分離膜55の厚み方向一方側から他方側に)水蒸気を透過させ、膜ユニット52内を通過する排出液から水分を分離することができる(浸透気化法)。つまり、水分離装置47は、水分を供給する供給部の一例としての役割を兼ねている。
第1水分供給ライン48は、図1に示すように、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、水分離装置47(収容部57)に接続されるとともに、その下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して空気供給ライン41(空気供給弁44の下流側、かつ、燃料電池3の上流側の空気供給ライン41)に接続されている。
また、第1水分供給ライン48の流れ方向途中には、第1水分供給ポンプ60が介在されており、また、その下流側には、第1水分供給弁61が設けられている。さらに、第1水分供給ライン48において、第1水分供給弁61よりも下流側には、インジェクタ62が設けられている。
第1水分供給ポンプ60としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。第1水分供給ポンプ60は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、第1水分供給ポンプ60に入力され、コントロールユニット70(後述)が、第1水分供給ポンプ60の駆動および停止を制御する。
第1水分供給弁61は、第1水分供給ライン48を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。また、第1水分供給弁61は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、第1水分供給弁61に入力され、コントロールユニット70(後述)が、第1水分供給弁61の開閉を制御する。
インジェクタ62は、第1水分供給ライン48内を通過する排出液から分離された水分を空気供給ライン41(空気供給弁44の下流側、かつ、燃料電池3の上流側の空気供給ライン41)内に向かって噴射する。また、インジェクタ62は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、インジェクタ62に入力され、コントロールユニット70(後述)が、インジェクタ62の駆動および停止を制御する。
そして、第1水分供給弁61とインジェクタ62との間の第1水分供給ライン48は、熱交換部22に挿通されている。これにより、第1水分供給弁61よりも下流側の第1水分供給ライン48を通過する水分は、燃料電池3の熱と熱交換されることにより温められる。
第2水分供給ライン49は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、第1水分供給ライン48(水分離装置47の下流側、かつ、第1水分供給ポンプ60の上流側の第1水分供給ライン48)に接続されるとともに、その下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して空気供給ライン41(熱交換部22の下流側、かつ、インジェクタ62の上流側の空気供給ライン41)に接続されている。つまり、第2水分供給ライン49は、第1水分供給ライン48から、熱交換部22を通過しないように分岐されたバイパスラインである。
また、第2水分供給ライン49の流れ方向途中には、第2水分供給ポンプ64が介在されており、また、その下流側には、第2水分供給弁65が設けられている。
第2水分供給ポンプ64としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。第2水分供給ポンプ64は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、第2水分供給ポンプ64に入力され、コントロールユニット70(後述)が、第2水分供給ポンプ64の駆動および停止を制御する。
第2水分供給弁65は、第2水分供給ライン49を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。また、第2水分供給弁65は、コントロールユニット70(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット70(後述)からの制御信号が、第2水分供給弁65に入力され、コントロールユニット70(後述)が、第2水分供給弁65の開閉を制御する。
詳しくは後述するが、このような第1水分供給ライン48および第2水分供給ライン49により、水分離装置47によって液体燃料(排出液)から分離された水分が、空気供給ライン41(空気供給弁44の下流側、かつ、燃料電池3の上流側の空気供給ライン41)へ供給される。
第2気液分離器50は、空気供給ライン41の途中(第1水分供給ライン48の下流側、かつ、燃料電池3の上流側)に介在されている。第2気液分離器50は、例えば、中空の容器からなり、その前側側面には、第2気液分離器50の内外を流通させる流入口67が形成され、その後側側面には、第2気液分離器50の内外を流通させる流出口68が形成されている。第2気液分離器50は、流入口67と流出口68とが、それぞれ空気供給ライン41に、シール材(ガスケットなど)を介して接続されることにより、空気供給ライン41に介装されている。
(5)制御部
制御部6は、燃料電池システム2のコントロールユニット70を備えている。
コントロールユニット70は、電動車両1における電気的な制御を実行するユニット(例えば、ECU:Electronic Control Unit)であり、CPU、ROMおよびRAMなどを備えるマイクロコンピュータから構成されている。
(6)動力部
動力部7は、燃料電池3から出力される電気エネルギを電動車両1の駆動力として機械エネルギに変換するためのモータ71と、モータ71に電気的に接続されるインバータ72と、モータ71による回生エネルギを蓄電するための動力用バッテリ73と、DC/DCコンバータ74とを備えている。
モータ71は、燃料電池3よりも前方、電動車両1の前側に配置されている。モータ71としては、例えば、三相誘導電動機、三相同期電動機など、公知の三相電動機が挙げられる。
インバータ72は、モータ71と燃料電池3との間に配置されている。インバータ72は、燃料電池3で発電された直流電力を交流電力に変換する装置であって、例えば、公知のインバータ回路が組み込まれた電力変換装置が挙げられる。また、インバータ72は、配線により、燃料電池3およびモータ71にそれぞれ電気的に接続されるとともに、図示しないが、コントロールユニット70と電気的に接続されており、これにより、燃料電池3の発電を制御している。
動力用バッテリ73としては、例えば、ニッケル水素電池や、リチウムイオン電池など、公知の二次電池が挙げられる。また、動力用バッテリ73は、インバータ72と燃料電池3との間の配線に接続され、これにより、燃料電池3からの電力を蓄電可能、かつ、モータ71に電力を供給可能とされている。
DC/DCコンバータ74は、動力用バッテリ73と燃料電池3との間に配置されている。DC/DCコンバータ74は、燃料電池3の出力電圧を昇降圧する機能を有し、燃料電池3の電力および動力用バッテリ73の入出力電力を調整する機能を有している。
そして、DC/DCコンバータ74は、コントロールユニット70と電気的に接続されており(図1の破線参照)、これにより、コントロールユニット70から出力される出力制御信号の入力に応じて、燃料電池3の出力(出力電圧)を制御する。
また、DC/DCコンバータ74は、配線により、燃料電池3および動力用バッテリ73にそれぞれ電気的に接続されているとともに、配線の分岐により、インバータ72に電気的に接続されている。
これにより、DC/DCコンバータ74からモータ71への電力は、インバータ72において直流電力から三相交流電力に変換され、三相交流電力としてモータ71に供給される。
2.燃料電池システムによる発電
上記した燃料電池システム2において、コントロールユニット70の制御により、燃料供給弁31が開かれ、燃料供給ポンプ30および燃料還流ポンプ38が駆動されることにより、液体燃料が、燃料供給ライン25を介してアノード9に供給される。
一方、空気供給弁44が開かれ、空気供給ポンプ43が駆動されることにより、空気が空気供給ライン41を介してカソード10に供給される。
なお、燃料供給弁31は、液体燃料が所定量供給されるように、コントロールユニット70の制御により、適宜開閉される。
アノード9では、液体燃料が、アノード電極11と接触しながら燃料供給路13を通過する。
一方、カソード10では、空気が、カソード電極16と接触しながら空気供給路18を通過する。
そして、各電極(アノード電極11およびカソード電極16)において電気化学反応が生じ、起電力が発生する。例えば、アニオン交換型燃料電池であって、液体燃料の燃料成分がメタノールである場合には、下記式(1)〜(3)の通りとなる。
(1) CH3OH+6OH−→CO2+5H2O+6e−(アノード電極11での反応)
(2) O2+2H2O+4e−→4OH− (カソード電極16での反応)
(3) CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O (燃料電池3全体での反応)
すなわち、メタノールが供給されたアノード電極11では、メタノール(CH3OH)とカソード電極16での反応で生成した水酸化物イオン(OH−)とが反応して、二酸化炭素(CO2)および水(H2O)が生成するとともに、電子(e−)が発生する(上記式(1)参照)。
そして、上記と同様、アノード電極11で発生した電子(e−)は、図示しない外部回路を経由してカソード電極16に到達する。つまり、この外部回路を通過する電子(e−)が、電流となる。
一方、カソード電極16では、電子(e−)と、外部からの供給もしくは燃料電池3での反応で生成した水(H2O)と、空気供給路18を流れる空気中の酸素(O2)とが反応して、水酸化物イオン(OH−)が生成する(上記式(2)参照)。
そして、生成した水酸化物イオン(OH−)が、電解質層8を通過してアノード電極11に到達し、上記と同様の反応(上記式(1)参照)が生じる。
このようなアノード電極11およびカソード電極16での電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池3全体として、上記式(3)で表わされる反応が生じて、燃料電池3に起電力が発生する。
また、例えば、アニオン交換型燃料電池であって、液体燃料の燃料成分がヒドラジンである場合には、電気化学反応は、下記式(4)〜(6)の通りとなる。
(4) N2H4+4OH−→N2+4H2O+4e− (アノード電極11での反応)
(5) O2+2H2O+4e−→4OH− (カソード電極16での反応)
(6) N2H4+O2→N2+2H2O (燃料電池3全体での反応)
そして、発生した起電力が、配線を介して、DC/DCコンバータ74に送電され、動力部7では、インバータ72およびモータ71、および/または、動力用バッテリ73に送電される。そして、モータ71では、インバータ72により三相交流電力に変換された電気エネルギが電動車両1の車輪を駆動させる機械エネルギに変換される。一方、動力用バッテリ73では、その電力が充電される。
また、燃料給排部4では、燃料供給路13から排出される排出液が、燃料排出ライン26を通過して、上流側の底部流通口33から第1気液分離器27に流入する。
第1気液分離器27では、水位が、上部流通口34よりも下方位置に保持される液体燃料の排出液溜まり76が、第1気液分離器27の中空部分に生じるとともに、排出液溜まり76に含まれるガス(上記式(1)の反応により生成する二酸化炭素(CO2)や、上記式(4)の反応により生成する窒素(N2)など)の一部が排出液溜まり76の上方空間へ分離される。
その一方で、排出液溜まり76の一部が、下流側の底部流通口33から、還流ライン28に流出する。
このようにして、液体燃料が、クローズドライン(還流ライン28、燃料供給ライン25、燃料排出ライン26、第1気液分離器27、および、燃料供給路13)を循環する。なお、第1気液分離器27で分離された気体は、ガス排出弁37が開かれることにより、ガス排出管36を介して外部へ排出される。
一方、空気給排部5では、カソード10から排出される空気(反応に寄与した酸素を除く空気)が、空気排出ライン42を介して、外部へ排出される。
3.排出液からの水分の分離、および、分離水の空気供給ラインへの供給
上記した燃料電池システム2において、カソード10における上記した電気化学反応には、水(H2O)が必要である。また、燃料電池3から排出され、第1気液分離器27に貯留される排出液の排出液溜まり76は、未反応の液体燃料の他、水分を含んでいる。
そこで、この燃料電池システム2では、第1気液分離器27に貯留される排出液の排出液溜まり76に含まれる水分を、カソード10における電気化学反応に利用している。
具体的には、第1気液分離器27から排出される排出液(排出液溜まり76の一部)は、還流ライン28に流入され、水分離装置47に供給される。
水分離装置47では、図2に示されるように、排出液が、膜ユニット52の貫通孔56に供給されるとともに、その膜ユニット52の外側(収容部57内)が、減圧装置53により減圧される。
このとき、図3に示されるように、各貫通孔56の内面には、水分離膜55が配置されている。また、厚み方向他方側(貫通孔56外側)面には、ハニカムセラミック担体54が接触されている。
そのため、排出液が貫通孔56内を通過すると、水分離膜55の厚み方向一方側(貫通孔56内側)面には、排出液が接触される。また、膜ユニット52の径方向外側(収容部57内)が減圧装置53により減圧されると、水分離膜55の厚み方向他方側が減圧される。
減圧時における収容部57内の圧力は、例えば、10Torr以上、好ましくは、30Torr以上であり、例えば、100Torr以下、好ましくは、50Torr以下である。
そして、上記のように膜ユニット52の外側(収容部57)が減圧装置53により減圧されることによって、排出液に含有される水分が水蒸気化され、その水蒸気が、膜ユニット52の径方向内側から外側に透過される(図3矢印参照)。
より具体的には、減圧装置53により膜ユニット52の外側(収容部57)が減圧されると、膜ユニット52の径方向内側における貫通孔56では、その貫通孔56内を流通する排出液から、水が水蒸気として分離され、水分離膜55およびハニカムセラミック担体54、さらに、隣接する貫通孔56の水分離膜55を順次通過して、より径方向外側に隣接する貫通孔56内に移動する。
そして、膜ユニット52の最も径方向外側における貫通孔56では、その内側を流通する排出液から、水が水蒸気として分離され、径方向内側の貫通孔56から導入する水蒸気とともに、水分離膜55およびハニカムセラミック担体54を順次通過して、膜ユニット52の外側に移動する。
これにより、膜ユニット52の内側から外側に水分が移動し、排出液から水分が水蒸気として分離される(浸透気化法)。
このようにして水分が分離された排出液は、図1に示すように、還流ライン28および燃料供給ライン25を介して、再び燃料電池3に供給される。
一方、分離された水分(分離水とする)は、第1水分供給ライン48に供給される。
ここで、上記した燃料電池システム2の発電において、一時的に大きな電力が必要になるとき、例えば、電動車両1の起動時(暖気運転時)や加速時などには、コントロールユニット70の制御により、第2水分供給弁65が閉鎖され、第1水分供給弁61が開放される。
そして、第2水分供給ポンプ64が停止され、第1水分供給ポンプ60が駆動されることによって、分離水は、その全量が第1水分供給ライン48内を通過し、燃料電池3の熱交換部22によって加熱され、高温とされる。
次いで、高温になった分離水は、インジェクタ62により、空気供給ライン41内に噴射され、空気供給ライン41を通過する空気中の水蒸気量を増加させる。
そして、高温の水蒸気を多く含み空気供給ライン41を通過する空気は、流入口67から第2気液分離器50に流入する。
そうすると、第2気液分離器50において、高温の水蒸気を含む空気と、空気に含み切れなかった水とに分離され、空気に含み切れなかった水は第2気液分離器50内部に貯留され、高温の水蒸気を含む空気は、流出口68を介して、第2気液分離器50よりも下流側の空気供給ライン41に流入される。
これにより、燃料電池3(具体的には、カソード10)に供給される空気に高温の水蒸気が含まれるので、燃料電池3の発電効率が上昇する。
また、上記した燃料電池システム2の発電において、電動車両1の通常運転時には、コントロールユニット70の制御により、第1水分供給弁61が閉鎖され、第2水分供給弁65が開放される。
そして、第1水分供給ポンプ60が停止され、第2水分供給ポンプ64が駆動されることによって、分離水は、熱交換部22を通過しないように、第1水分供給ライン48の途中で分岐され、第2水分供給ライン49に送られる。
こうして、加熱されていない分離水が、インジェクタ62により、空気供給ライン41内に噴射され、空気供給ライン41を通過する空気中の水蒸気量を増加させる。
なお、このとき、コントロールユニット70によって、第1水分供給弁61が適宜開閉され、第1水分供給ポンプ60が適宜駆動されることにより、熱交換部22を通過する分離水の量と、熱交換部22を通過しない分離水の量とが調節される。
そして、熱交換部22を通過する分離水と、熱交換部22を通過しない分離水とは、熱交換部22よりも下流側の第1水分供給ライン48において、混合され、適温に調整されて、空気供給ライン41内に蒸気として噴射される。
これにより、適温に調整された水蒸気を含む空気が、上記したように、第2気液分離器50に流入され、燃料電池3(具体的には、カソード10)に供給される。
こうして、適温に調整された水分(水蒸気)を含んだ空気が燃料電池3(カソード10)に供給され、燃料電池3が安定して電力を発電する。
つまり、コントロールユニット70によって制御される第1水分供給弁61、および、第2水分供給弁65が、切替手段の一例として構成されている。
4.作用効果
このような燃料電池システム2によれば、図1に示すように、水分離装置47によって排出液(排出液溜まり76の一部)から分離された分離水は、第1水分供給ライン48に流入され、熱交換部22を通過することにより、燃料電池3の発熱を利用して高温とされ、インジェクタ62によって蒸気として空気供給ライン41に噴射される。
そのため、空気供給ライン41を介してカソード10に対して供給される空気に、応答性良く、高温の水分を含ませることができる。
その結果、空気に水分を含ませるための加湿器などの装置を別途設ける必要がなく、また、加湿器によって発生する水分の温度を上昇させる時間をかけることなく、短時間で空気供給ライン41を通過する空気に高温の水分を含ませることができる。
従って、省スペース化および低コスト化を図ることができながら、応答性良く大きな電力を発電することができる。
また、このような燃料電池システム2によれば、図1に示すように、大きな電力を発電させるときには、コントロールユニット70の制御により、第2水分供給弁65を閉鎖し、第1水分供給弁61を開放する。
そして、第2水分供給ポンプ64を停止し、第1水分供給ポンプ60を駆動させることによって、水分離装置47によって分離された分離水の全量が、第1水分供給ライン48を介して、熱交換部22を通過するように設定する。
これにより、必要時に、高温の分離水を空気供給ライン41内に蒸気として噴射でき、応答性良く大きな電力を発電することができる。
また、水分離装置47によって分離された分離水が、熱交換部22を通過しない第2水分供給ライン49を介して、空気供給ライン41に流入するように、コントロールユニット70の制御により、第1水分供給弁61を閉鎖し、第2水分供給弁65を開放する。
そして、第1水分供給弁61を停止し、第2水分供給弁65を駆動させることによって、加熱されていない分離水を、空気供給ライン41内に蒸気として噴射する。
これによって、高温の水分を供給し続けることによって発生する燃料電池3の水分の溢れを抑制することができるので、燃料電池3が劣化することを抑制しながら、発電することができる。
さらに、水分離装置47によって分離された分離水が、熱交換部22を通過する第1水分供給ライン48、および、熱交換部22を通過しない第2水分供給ライン49の両方を通過するように、コントロールユニット70の制御により、第1水分供給弁61および第2水分供給弁65の開閉を適宜設定することができる。
その結果、空気供給ライン41に噴射させる分離水の温度を適宜調整することができ、効率良く発電することができる。
また、このような燃料電池システム2によれば、図1に示すように、空気供給ライン41に供給するための水分を貯留する部材(タンクなど)を別途設ける必要がなく、水分離装置47によって、排出液から水分を分離させて、空気供給ライン41に流入させることができる。
そのため、排出液から水分を分離させることで、排出液の燃料成分の濃度を上げて、アノード9に循環させることができながら、分離水をカソード10に対して供給される空気に含ませることができる。
その結果、より一層の省スペース化および低コスト化を図ることができる。
また、このような燃料電池システム2によれば、図1に示すように、分離水が熱交換部22を通過するように設定することにより、分離水を加熱して高温にすることができるとともに、発熱し高温となる燃料電池3を冷却することができる。
そのため、燃料電池3を冷却させるための装置や、スタックとして構成される単位セル21に冷却通路を別途設ける必要がないので、より一層の省スペース化および低コスト化を図ることができる。
5.第2実施形態
上記した第1実施形態では、水分供給部23は、水分離装置47を備えているのに対し、第2実施形態では、図4に示すように、水分供給部23は、水分離装置47を備えておらず、供給部の一例としての水タンク80を備えている。
水タンク80は、例えば、中空の容器からなり、その内部には水が貯蔵されている。水タンク80は、燃料電池3よりも後方、かつ、電動車両1の上下方向上方に配置されている。
第1水分供給ライン48は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、水タンク80に接続されている。
そして、水タンク80内の水は、第1水分供給弁61と第2水分供給弁65とが適宜開閉され、第1水分供給ポンプ60と第2水分供給ポンプ64とが適宜駆動されることにより、熱交換部22を通過する水の量と、熱交換部22を通過しない水の量とが調節される。これにより、所定の温度に調整された水が、蒸気として空気供給ライン41内に供給される。
このような第2実施形態においても上記した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
6.変形例
上記した第1実施形態および第2実施形態では、第1水分供給ライン48から、熱交換部22を通過しないように分岐されたバイパスラインである第2水分供給ライン49が設けられているが、例えば、第2水分供給ライン49を設けず、第1水分供給ライン48のみを通過して、空気供給ライン41に分離水を供給することもできる。
また、上記した実施形態では、高温の水蒸気を含む空気と、空気に含み切れなかった水とに分離する第2気液分離器50が設けられているが、例えば、第2気液分離器50を設けず、インジェクタ62による分離水の噴射量を調整することで、空気供給ライン41を通過する空気中の水蒸気量を調整することもできる。
このような変形例においても、上記した第1実施形態および第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。