以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両1000の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両1000を示す模式図である。図1に示すように、車両1000は、前輪100,102、後輪104,106、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動する駆動力発生装置(モータ)108,110,112,114、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれの車輪速を検出する車輪速センサ116,118,120,122、ステアリングホイール124、舵角センサ130、パワーステアリング機構140、ヨーレートセンサ150、横加速度センサ160、制御装置(コントローラ)200を有して構成されている。
本実施形態に係る車両1000は、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動するためにモータ108,110,112,114が設けられている。このため、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれで駆動トルクを制御することができる。従って、前輪100,102の操舵によるヨーレート発生とは独立して、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動することで、トルクベクタリング制御によりヨーレートを発生させることができる。特に、本実施形態では、後輪104,106のトルクを個別に制御することで、ハンドル操舵系とは独立してヨーレートを発生させる。後輪104,106は、制御装置200の指令に基づき、後輪104,106に対応するモータ112,114が制御されることで、駆動トルクが制御される。
パワーステアリング機構140は、ドライバーによるステアリングホイール124の操作に応じて、トルク制御又は角度制御により前輪100,102の舵角を制御する。舵角センサ130は、運転者がステアリングホイール124を操作して入力した舵角θhを検出する。ヨーレートセンサ150は、車両1000の実ヨーレートγを検出する。車輪速センサ116,118,120,122は、車両1000の車両速度Vを検出する。
なお、本実施形態はこの形態に限られることなく、前輪100,102を駆動するモータ108,102が設けられておらず、後輪104,106のみがモータ112,114で独立して駆動力を発生する車両であっても良い。また、本実施形態は、駆動力制御によるトルクベクタリングに限定されるものではなく、後輪の舵角を制御する4WSのシステム等においても実現可能である。
図2は、本実施形態に係る車両1000が行う操舵による旋回制御(操安制御)を示す模式図である。操舵による旋回制御では、ドライバーによるステアリングホイール130の操作に応じて後輪104,106に駆動力差を生じさせることで、車両1000の旋回を支援する。図2に示す例では、ドライバー(運転者)の操舵により車両1000が左に旋回している。また、後輪104,106の駆動力差によって、右側の後輪106に前向きの駆動力を発生させ、左側の後輪104には右側の後輪106に対して駆動力を抑制、または後ろ向きに駆動力を発生させることで、左右に駆動力差を発生させ、左回りの旋回を支援する方向にモーメントを発生させている。
本実施形態では、車両の運動制御において、車両モデルから求まるヨーレートモデル値とヨーレートセンサから求まる実ヨーレートとの差分から、車両の旋回特性を推定し、差分が小さいときにはタイヤのグリップ性能が十分確保されている安定領域(高μ)にあるものと判定し、その状況に応じた制御目標ヨーレートを演算する。
また、ヨーレートモデル値と実ヨーレートとの差分が大きい時には、タイヤのグリップ性能が確保しづらく車両の応答限界に達しやすい領域(低μ)と判別するとともに、操舵とヨーレートの値を符合関数により符合化することで、操舵している向きとヨーが発生している向きを判別する。そして、それぞれ符号化した値の積が負になった場合には、切返し操舵を行ったものと判定するとともに、車体の傾き量に応じて、旋回支援モード、左右等トルクモード、逆モーメント付与モードを段階的に切替え、車両の旋回性能とロールオーバーの抑制機能の両立を図る。以下、詳細に説明する。
図3は、制御装置200の構成を示す模式図である。制御装置200は、車載センサ210、制御目標ヨーレート演算部220、車両モデル230、フィルタ処理部240、減算部250,252,254、フィードバックヨーレート演算部260、ロールモデル270、ロールオーバー判定部280、制御目標モーメント演算部290、モータ要求トルク演算部295を有している。
ロールオーバー判定部280は、ロールモデル信頼度判定部282、フィードバックロール角演算部284、減算部286,287、符号関数288,289、ロールオーバー調整ゲイン算出部285を有している。
図4は、制御装置200で行われる処理を説明するための模式図である。また、図5は、ロールオーバー判定部280で行われる処理を説明するための模式図である。なお、図4及び図5は、図3と同様に制御装置200の構成要素を示すとともに、各構成要素が行う処理を詳細に示したものである。以下では、図3〜図5に基づいて、制御装置200で行われる処理について説明する。車載センサ210は、上述した舵角センサ130、ヨーレートセンサ150、加速度センサ160、車輪速センサ116,118,120,122を含む。
制御用目標ヨーレート演算部220は、一般的な平面2輪モデルを表す以下の式(1)から操安制御用目標ヨーレートγTgtを算出する。操安制御用目標ヨーレートγTgtは、平面2輪モデルの式(1)における車両ヨーレートγに相当し、式(1)の右辺に各値を代入することによって算出される。
なお、式(1)〜式(3)において、変数、定数は以下の通りである。
<変数>
γ:車両ヨーレート
V:車両速度
δ:タイヤ舵角
θh:ハンドル操舵角
<定数>
l:車両ホイールベース
lf:車両重心点から前輪中心までの距離
lr:車両重心点から後輪中心までの距離
m:車両重量
kf:コーナリングパワー(フロント)
kr:コーナリングパワー(リア)
Gh:ハンドル操舵角からタイヤ舵角への変換ゲイン(ステアリングギヤ比)
制御用目標ヨーレートγTgt(式(1)の左辺のγ)は、車両速度V、及びタイヤ舵角δを変数として、式(1)から算出される。式(1)のタイヤ舵角δは、直接センシングできないため、式(2)から、ハンドル操舵角θhに変換ゲインGhを乗じることで算出される。変換ゲインGhとして、ステアリングギア比が用いられる。また、式(1)における定数Aは車両の特性を表す定数であり、式(3)から求められる。制御用目標ヨーレートγTgtは、減算部250へ入力される。
なお、制御用目標ヨーレートγTgtの算出において、タイヤの舵角δは、操舵モデルから算出しても良い。
一方、車両モデル230、フィルタ処理部240では、車両1000が発生しているヨーレートを計算又は実測により求める。車両モデル230は、車両1000の横すべり角、ヨー、ロールを連成させた下記の車両モデルの式(4)〜(6)からヨーレートモデル値γ_clcを算出する。また、車両モデル230は、下記の車両モデルの式から、車体の傾き量として第1ロール角φ1_clcを算出する。ヨーレートモデル値γ_clcはフィードバックヨーレート演算部260へ入力される。また、第1ロール角φ1_clcは、減算部254、及びフィードバックロール角演算部284へ入力される。
なお、上記のモデル式において、γは本実施形態のγ_clcに対応し、φは本実施形態の第1ロール角φ1_clcに対応する。
また、Iは車両1000のヨー慣性、βは車体横滑り角、Kcfは前輪のキャンバスラスト係数、Kcrは後輪のキャンバスラスト係数、hはロールアーム長(車両重心高−ロールセンタ高)、IXZは慣性乗積、gは重力加速度、Iφはローリング運動に対する慣性モーメント、Cφはローリング運動に対する減衰係数、Kφはロール剛性、∂φf/∂φは前輪のキャンバ角、∂φr/∂φは後輪のキャンバ角、∂αf/∂φは単位ロール角当たりの前輪のロールステア量、∂αr/∂φは単位ロール角当たりの後輪のロールステア量、である。
フィルタ処理部240は、ヨーレートセンサ150が検出した実ヨーレートγに対してノイズを除去するためにフィルタ処理を行い、フィルタ処理の結果得られたヨーレートγ_filをフィードバックヨーレート演算部260へ出力する。
減算部252は、ヨーレートモデル値γ_clcからヨーレートγ_filを減算し、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分γ_diffを求める。差分γ_diffは、フィードバックヨーレート演算部260へ入力される。
以上にようにして、フィードバックヨーレート演算部260には、ヨーレートモデル値γ_clc、ヨーレートγ_filが入力される。フィードバックヨーレート演算部260は、制御目標ヨーレートγTgtとの比較対象として、車両1000からフィードバックされるフィードバックヨーレートγF/Bを算出する。この際、フィードバックヨーレート演算部260は、ヨーレートモデル値γ_clcと実ヨーレートγ_filとの差分γ_diffに基づいて、重み付けゲインκを算出する。そして、フィードバックヨーレート演算部260は、以下の式(7)に基づき、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filを重み付けゲインκによって重み付けし、フィードバックヨーレートγF/Bを算出する。算出されたフィードバックヨーレートγF/Bは、減算部250へ入力される。
γF/B=κ×γ_clc+(1−κ)×γ_fil ・・・・(7)
図6は、フィードバックヨーレート演算部232が重み付けゲインκを算出する際のゲインマップを示す模式図である。図6に示すように、重み付けゲインκの値は、車両モデル230の信頼度に応じて0から1の間で可変する。車両モデル230の信頼度を図る指標として、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分(偏差)γ_diffを用いる。図6に示すように、差分γ_diffの絶対値が小さい程、重み付けゲインκの値が大きくなるようにゲインマップが設定されている。フィードバックヨーレート演算部260は、差分γ_diffに図6のマップ処理を施し、車両モデル230の信頼度に応じた重み付けゲインκを演算する。
図6において、TH1_Pは重み付けゲインκの切り替えのしきい値(+側)、TH2_Pは重み付けゲインκの切り替えしきい値(+側)、TH1_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、TH2_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、をそれぞれ示している。なお、+側のしきい値の大小関係はTH1_P<TH2_Pとし、−側のしきい値の大小関係はTH1_M>TH2_Mとする。
図6に示すゲインマップの領域A1は、差分γ_diffが0に近づく領域であり、S/N比が小さい領域や、タイヤ特性が線形の領域(ドライの路面)であり、車両モデル216から算出されるヨーレートモデル値γ_clcの信頼性が高い。このため、重み付けゲインκ=1として、式(7)よりヨーレートモデル値γ_clcの配分を100%としてフィードバックヨーレートγF/Bが演算される。これにより、ヨーレートγ_filに含まれるヨーレートセンサ150のノイズの影響を抑止することができ、フィードバックヨーレートγF/Bからセンサノイズを排除することができる。従って、車両1000の振動を抑制して乗り心地を向上することができる。
特に、運転支援制御では、車両1000がコーナーに進入する前の直進状態から、推定走行路に基づいて車両1000が旋回する量を予見的に制御する。従って、車両1000の旋回時のみならず、車両1000の直進状態においても、センサノイズの影響を排除することで、車両1000に振動を生じさせることなく、安定して直進させることが可能である。
このように、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が高い領域は、差分γ_diffと走行状況から指定することができる。図6に示したように、ドライ路面(高μ)走行時であり、かつ転舵量が小さい場面(低曲率での旋回など)においては、重み付けゲインκが1となる様に差分γ_diffと重み付けゲインκを関係づけることが、マップによる係数設定の一例として想定される。なお、上述した平面2輪モデルは、タイヤのスリップ角と横加速度との関係(タイヤのコーナーリング特性)が線形である領域を想定している。タイヤのコーナーリング特性が非線形になる領域では、実車のヨーレートと横加速度が舵角やスリップ角に対して非線形になり、平面2輪モデルと実車でセンシングされるヨーレートとが乖離する。このため、タイヤの非線形性を考慮したモデルを使用すると、ヨーレートに基づく制御が煩雑になるが、本実施形態によれば、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度を差分γ_diffに基づいて容易に判定することが可能である。
また、図6に示すゲインマップの領域A2は、差分γ_diffが大きくなる領域であり、ウェット路面走行時、雪道走行時、または高Gがかかる旋回時などに相当し、タイヤが滑っている限界領域である。この領域では、車両モデル216から算出されるヨーレートモデル値γ_clcの信頼性が低くなり、差分γ_diffがより大きくなる。このため、重み付けゲインκ=0として、式(7)よりヨーレートγ_filの配分を100%としてフィードバックヨーレートγF/Bが演算される。これにより、ヨーレートγ_filに基づいてフィードバックの精度を確保し、実車の挙動を反映したヨーレートのフィードバック制御が行われる。従って、ヨーレートγ_filに基づいて車両1000の旋回を最適に制御することができる。また、タイヤが滑っている領域であるため、ヨーレートセンサ150の信号にノイズの影響が生じていたとしても、車両1000の振動としてドライバーが感じることはなく、乗り心地の低下も抑止できる。図6に示す低μの領域A2の設定については、設計要件から重み付けゲインκ=0となる領域を決めても良いし、低μ路面を実際に車両1000が走行した時の操縦安定性能、乗り心地等から実験的に決めても良い。
また、図6に示すゲインマップの領域A3は、線形領域から限界領域へ遷移する領域(非線形領域)であり、実車である車両1000のタイヤ特性も必要に応じて考慮して、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filの配分(重み付けゲインκ)を線形に変化させる。領域A1(高μ域)から領域A2(低μ域)への遷移、ないし領域A2(低μ域)から領域A1(高μ域)へ遷移する領域においては、重み付けゲインκの急変に伴うトルク変動、ヨーレートの変動を抑えるため、線形補間で重み付けゲインκを演算する。
また、図6に示すゲインマップの領域A4は、ヨーレートγ_filの方がヨーレートモデル値γ_clcよりも大きい場合に相当する。例えば、車両モデル216に誤ったパラメータが入力されてヨーレートモデル値γ_clcが誤計算された場合等においては、領域A4のマップによりヨーレートγ_filを用いて制御を行うことができる。更に、領域A4のマップによれば、フィルタ処理に伴うヨーレートγ_filの位相遅れに起因して、一時的にヨーレートモデル値γ_clcがヨーレートγ_filよりも小さくなった場合においても、ヨーレートγ_filを用いて制御を行うことができる。なお、重み付けゲインκの範囲は0〜1の間に限定されるものではなく、車両制御として成立する範囲であれば任意の値を取れる様に構成を変更することも、本発明の技術で成し得る範疇に入る。
減算部250には、制御目標ヨーレート演算部230から制御目標ヨーレートγTgtが入力され、フィードバックヨーレート演算部232からフィードバックヨーレートγF/Bが入力される。減算部250は、制御目標ヨーレートγTgtからフィードバックヨーレートγF/Bを減算し、γTgtとγF/Bとの差分ΔγTgtを求める。すなわち、差分ΔγTgtは、以下の式(8)から算出される。
ΔγTgt=γTgt−γF/B ・・・・(8)
差分ΔγTgtは、ヨーレート補正量として制御目標モーメント演算部290へ出力される。
制御目標モーメント演算部290は、差分ΔγTgtを0とするため、すなわち、制御目標ヨーレートγTgtとフィードバックヨーレートγF/Bとを一致させるため、差分ΔγTgtに基づいて制御目標モーメントMgTgtを演算する。この際、制御目標モーメント演算部290は、制御目標モーメントMgTgtをロールオーバー調整ゲインにより補正する。
上述したように、第1ロール角φ1_clcは、式(4)〜(6)に基づいて、舵角θh、車両速度Vから推定される。また、ロールモデル270には、横加速度センサ160が検出した横加速度Gyが入力される。ロールモデル270は、横加速度Gyに基づいて、車体の傾き量として第2ロール角φ2_clcを算出する。第2ロール角φ2_clcは、以下の式(9)から算出される。
ロールオーバー判定部280は、第1ロール角φ1_clcと第2ロール角φ2_clcに基づいて、ロールオーバーのリスク判定を行う。具体的には、ロールオーバー判定部280は、車両モデル230と舵角θhと車両速度Vから算出される第1ロール角φ1_clcと、横加速度センサ160から取得される横Gから算出される第2ロール角φ2_clcとによってロール角の偏差(φ_diff)を求め、この偏差(φ_diff)によって「ロールモデルの信頼度」を判別する。このため、減算部254は、車両モデル230から計算される第1ロール角φ1_clcと横加速度センサの検出値Gyから算出される第2ロール角φ2_clcの差分φ_diffを算出する。ロールオーバー判定部280のロールモデル信頼度判定部282は、差分φ_diffを、ロールモデル270の信頼度を判別する指標とし、モデル信頼度に応じた重み付けゲインτを算出することで、実車の挙動を検知する横加速度センサ160の検出値のノイズの影響を排除する。ロールモデル270の信頼度の判別は、上述した車両モデル230の信頼度の判別と同様に行われる。
このように、ロールモデル270から計算される第1ロール角φ1_clcと横加速度センサの検出値Gyから算出される第2目標ロール角の差分をロールモデル270の信頼度を判別する指標とし、フィードバックヨーレート演算で述べた車両モデル信頼度の判別と同様の手順に基づき、ロールに関しても、モデル信頼度を判別するための、重み付けゲイン(τ)を算出する。これにより、横加速度など実車の挙動を検知するセンサによるノイズの影響を排除することができる。
なお、車両1000のサスペンションのストローク量や上下Gセンサの検出値、ロールレートを直接計測したものを積分したパラメータ、または傾斜角センサで直接検出した値などを用いて、第2ロール角φ2_clcを算出しても良い。
図7は、ロールモデル信頼度判定部282が重み付けゲインτを算出する際のゲインマップを示す模式図である。図7に示すように、重み付けゲインτの値は、ロールモデル270の信頼度に応じて0から1の間で可変する。ロールモデル270の信頼度を図る指標として、第1ロール角φ1_clcと第2ロール角φ2_clcとの差分φ_diffを用いる。図7に示すように、差分φ_diffの絶対値が小さい程、重み付けゲインτの値が大きくなるようにゲインマップが設定されている。ロールモデル信頼度判定部282は、差分φ_diffに図7のマップ処理を施し、ロールモデル270の信頼度に応じた重み付けゲインτを演算する。
図7において、TH1_Pは重み付けゲインτの切り替えのしきい値(+側)、TH2_Pは重み付けゲインτの切り替えしきい値(+側)、TH1_Mは重み付けゲインτの切り替えしきい値(−側)、TH2_Mは重み付けゲインτの切り替えしきい値(−側)、をそれぞれ示している。なお、+側のしきい値の大小関係はTH1_P<TH2_Pとし、−側のしきい値の大小関係はTH1_M>TH2_Mとする。
図8は、重み付けゲインτを算出する処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS10では、φ_diff≧0であるか否かを判定し、φ_diff≧0の場合はステップS12へ進み、φ_diff≦TH1_Pであるか否かを判定する。そして、φ_diff≦TH1_Pの場合はステップS14へ進み、τ=MAX_GAINとする。一方、ステップS12でφ_diff>TH1_Pの場合はステップS16へ進み、φ_diff≧TH2_Pであるか否かを判定し、φ_diff≧TH2_Pの場合はステップS18へ進み、τ=MIN_GAINとする。ステップS16でφ_diff<TH2_Pの場合はステップS20へ進み、以下の式(10)から重み付けゲインτを算出する。
また、ステップS10でφ_diff<0の場合はステップS22へ進み、φ_diff≧TH1_Mであるか否かを判定し、φ_diff≧TH1_Mの場合はステップS24へ進み、τ=MAX_GAINとする。一方、ステップS22でφ_diff<TH1_Mの場合はステップS26へ進み、φ_diff≦TH2_Mであるか否かを判定し、φ_diff≦TH2_Mの場合はステップS28へ進み、τ=MIN_GAINとする。ステップS26でφ_diff>TH2_Mの場合はステップS30へ進み、以下の式(11)から重み付けゲインτを算出する。
以上のように、図8の処理によれば、図7のマップに従って重み付けゲインτを算出することができる。
そして、フィードバックロール角演算部284は、以下の式(12)に基づき、第1ロール角φ1_clcと第2ロール角φ2_clcを重み付けゲインτによって重み付けし、制御で用いるロール角の参照値φ_refを算出する。算出されたφ_refは、ロールオーバー調整ゲイン算出部285へ入力される。
φ_ref=τ×φ1_clc+(1−τ)×φ2_clc ・・・・(12)
このように、モデル信頼度を表す重み付けゲインτによって、舵角θhと車両速度Vと車両モデルから推定した第1ロール角φ1_clcと、横加速度とロールモデルから推定した第2ロール角φ2_clcを按分し、ロール角の参照値φ_refを算出する。
従って、高μ域ではモデル値ベースでロールオーバーのリスクを判定することができる。一方、低μ域や横Gが高い領域などモデル値と実車の挙動が乖離する領域では、タイヤの横力が高μ域よりも小さい状態で飽和し、車体がロールするよりも横滑りが発生する現象を考慮し、実車挙動(横G)から算出したロール角を使って判定することで、リスクの誤判定を防止することができる。
一方、ドライバーのステアリング操作に伴い車両1000に付与される操舵トルクによってタイヤが転舵され、車両にヨーレートが付与されるまで、ステアリング機構やタイヤ等を介在させることによる位相遅れが発生する。ロールオーバー判定部280は、このメカニズムを利用し、操舵の向きとヨーレートの発生方向を比較して切返し操舵のタイミングを推定する。
また、ロールオーバー判定部280は、切返し操舵時に車体の傾き量(φ_ref)に応じて、旋回支援モード、左右等トルクモード、逆モーメント付与モードへ段階的に遷移し、φ_refが所定の閾値を超えていると判別される場合には、車両挙動が不安定な状況と判別し、左右の駆動力差を縮小、ないし操舵で旋回する方向とは逆側に働くモーメントを発生させるべく、目標減衰モーメントを補正するゲインDampGainForRollOverを算出する。これにより、特に車両1000の定常的な挙動に対して、車両挙動を安定させることができる。
また、ロールオーバー判定部280は、目標慣性補償モーメントを補正するゲインTransGainForRollOverについても算出し、φ_refが所定の閾値を超えていると判別される場合には、目標慣性補償モーメントの出力を段階的に制限する。これにより、特に車両1000の瞬間的な挙動に対して、車両挙動を安定させることができる。
そして、ヨーレート補正量ΔγTgtから、目標減衰モーメントMgDampTgtと目標慣性補償モーメントMgTransTgtを算出し、その各々の目標モーメントに対し、補正ゲインを各々乗じたものを合算することで、φ_refの大小に応じて車両の旋回性能と安定性能の両立させるための制御目標モーメントMgTgtを算出する。
このため、ロールオーバー判定部280には、ヨーレートγ_filと操舵角θhが入力される。減算部286は、操舵角θHの今回値と前回値との差分に不感帯処理を施してΔθtを算出する。また、減算部287は、ヨーレートγ_filの今回値と前回値の差分に不感帯処理を施してΔγtを算出する。符号化処理部288は、Δθtを符号関数(sgn)により1、0、−1の何れかの値に変換し、sgn(Δθt)を算出する。また、符号化処理部288は、Δγtを符号関数(sgn)により1、0、−1の何れかの値に変換し、sgn(Δγt)を算出する。
すなわち、sgn(Δθt),sgn(Δγt)は、以下の式(13)、式(14)から算出することができる。
そして、sgn(Δθt)とsgn(Δγt)の値が違う場合は、操舵を切返し始めると同時に、ヨーの向きが変化し始めているものと判別し、切返し判定用スイッチ(Sgn_TurnSt)をオン(ON)にする。また、sgn(Δθt)とsgn(Δγt)の値が同じ場合は、操舵とヨーの向きが一致しているものと判別し、切返し判定用スイッチをオフ(OFF)にする。このように、sgn(Δθt)とsgn(Δγt)の値に基づいて、操舵切り返しのタイミングを判定することができる。
なお、本実施形態ではハンドル操作量の差分とヨーレートの差分を用いているが、舵角速度やヨー加速度に置き換えて符号化しても、同様の機能を実現できる。
ロールオーバー調整ゲイン算出部285は、φ_refの値に基づいて2種類のゲインを算出する。先ず、ロールオーバー補正用の定常ゲインの算出について説明する。符号関数の積(sgn_TurnSt=sgn(Δθt)×sgn(Δγt))が負になり(操舵の切返し発生)、且つ、φ_refが所定の閾値を超えたタイミングに応じて、旋回支援モード(Gain>0)、左右等トルクモード(Gain=0)、逆モーメント付与モード(Gain<0)の3モードを段階的に遷移させるべく「ロールオーバー補正用定常ゲイン」の値を変更する。
一方、符号関数の積(sgn_TurnSt=sgn(Δθt)×sgn(Δγt))が負から0以上の値に切り替わったタイミングに応じて、すなわち、舵角とヨーレートの向きが一致したタイミングに応じて、モード急変に伴う車両挙動の急変を防止するため、3サンプリング間は「ロールオーバー補正用定常ゲイン」の平均値を取り、ゲインを徐々に変化させる。
図9は、sgn_TurnStを設定する処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS40では、sgn(Δθt)≠sgn(Δγt)であるか否かを判定し、sgn(Δθt)≠sgn(Δγt)の場合はステップS42へ進み、sgn_TurnStをオン(ON)とする。これにより、sgn_TurnStが1に設定される。一方、sgn(Δθt)=sgn(Δγt)の場合はステップS44へ進み、sgn_TurnStをオフ(OFF)とする。これにより、sgn_TurnStが0に設定される。
図10は、ロールオーバー補正用の定常ゲインを演算するマップを示す模式図である。また、図11は、ロールオーバー補正用の定常ゲインを演算するための処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS50では、sgn_TurnSt=ONであるか否かを判定し、sgn_TurnSt=ONの場合はステップS52へ進む。ステップS52では、ロールオーバー補正用の定常ゲインを算出する。
図12は、図11のステップS52においてロールオーバー補正用の定常ゲインを算出する処理を示すフローチャートである。図12の処理では、先ずステップS60において、差分φ_ref≧0であるか否かを判定し、差分φ_ref≧0の場合はステップS62へ進み、0以上の値であるφ_refの値に基づいてロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する。また、差分φ_ref<0の場合はステップS64へ進み、0より小さい値であるφ_refの値に基づいてロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する。
図13は、φ_ref≧0の場合にロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する処理を示すフローチャートである。φ_ref≧0の場合、図10に示すマップのうち、φ_ref≧0の領域の特性に従ってロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverが算出される。先ず、ステップS70では、φ_ref≦TH1_Pであるか否かを判定し、φ_ref≦TH1_Pの場合はステップS72へ進み、ConstGainForRollOver=MAX_GAINとする。また、ステップS70でφ_ref>TH1_Pの場合はステップS74へ進み、φ_ref≦TH2_Pであるか否かを判定し、φ_ref≦TH2_Pの場合は以下の式(15)からロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する。
また、ステップS74でφ_ref>TH2_Pの場合はステップS78へ進み、φ_ref≦TH3_Pであるか否かを判定し、φ_ref≦TH3_Pの場合はステップS80へ進み、ConstGainForRollOver=MID_GAINとする。また、ステップS78でφ_ref>TH3_Pの場合はステップS82へ進み、φ_ref≦TH4_Pであるか否かを判定し、φ_ref≦TH4_Pの場合はステップS84へ進み、以下の式(16)からロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する。
また、ステップS82でφ_ref>TH4_Pの場合はステップS86へ進み、ConstGainForRollOver=MIN_GAINとする。
また、図14は、φ_ref<0の場合にロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する処理を示すフローチャートである。φ_ref<0の場合、図7に示すマップのうち、φ_ref<0の領域の特性に従ってロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverが算出される。先ず、ステップS90では、φ_ref≧TH1_Mであるか否かを判定し、φ_ref≧TH1_Mの場合はステップS92へ進み、ConstGainForRollOver=MAX_GAINとする。また、ステップS90でφ_ref<TH1_Mの場合はステップS94へ進み、φ_ref≧TH2_Mであるか否かを判定しφ_ref≧TH2_Mの場合は以下の式(17)からロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する。
また、ステップS94でφ_ref<TH2_Mの場合はステップS98へ進み、φ_ref≧TH3_Mであるか否かを判定し、φ_ref≧TH3_Mの場合はステップS100へ進み、ConstGainForRollOver=MID_GAINとする。また、ステップS98でφ_ref<TH3_Mの場合はステップS102へ進み、φ_ref≧TH4_Mであるか否かを判定し、φ_ref≧TH4_Mの場合はステップS104へ進み、以下の式(18)からロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する。
また、ステップS102でφ_ref<TH4_Mの場合はステップS106へ進み、ConstGainForRollOver=MIN_GAINとする。
以上のように、図13及び図14の処理によれば、sgn_TurnSt=ONの場合に、図10のマップに基づいてロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出することができる。
図11のステップS50でsgn_TurnSt=OFFの場合はステップS54へ進む。ステップS54では、同一の状況が3回以上継続したか否かを判定し、同一の状況が3回以上継続した場合はステップS56へ進む。ステップS56では、ConstGainForRollOver=ConstGainForRollOver(n)とし、通常制御モードへ復帰する(OUT)。また、ステップS54で同一の状況が3回以上継続していない場合はステップS58へ進む。ステップS18では、以下の式(19)よりロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverを算出する。これにより、ロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverが徐々に変化する。
なお、本実施形態では、操舵切り返し状態から通常の旋回モードに遷移する際に、3サンプリングデータの平均値を取って補正ゲインを徐変させているが、2サンプリングデータ(2パラメータ)の平均値や、4サンプリング(4パラメータ)以上のデータの平均値を算出して、補正ゲインを徐変させても良い。
次に、ロールオーバー補正用の過渡ゲインの算出について説明する。符号関数の積(sgn_TurnSt=sgn(Δθt)×sgn(Δγt))が負になり(操舵の切返し発生)、且つ、φ_refが所定の閾値を超えたタイミングに応じて、目標慣性補償モーメントの出力を段階的に制限するべく「ロールオーバー補正用
過渡ゲイン」の値を変更する。
一方、符号関数の積(sgn_TurnSt=sgn(Δθt)×sgn(Δγt))が負から0以上に切り替わったタイミング(舵角とヨーレートの向きが一致)では、補正ゲインの急変を防止するため、3サンプリング間は「ロールオーバー補正用過渡ゲイン」の平均値を取り、ゲインを徐変させる。
図15は、ロールオーバー補正用の過渡ゲインを演算するマップを示す模式図である。また、図16は、ロールオーバー補正用の過渡ゲインを演算するための処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS110では、sgn_TurnSt=0であるか否かを判定し、sgn_TurnSt≧0の場合はステップS112へ進む。ステップS112では、ロールオーバー補正用の過渡ゲインを算出する。
図17は、図16のステップS112においてロールオーバー補正用の過渡ゲインを算出する処理を示すフローチャートである。図13の処理では、先ずステップS120において、差分φ_ref≧0であるか否かを判定し、差分φ_ref≧0の場合はステップS122へ進み、0以上の値であるφ_refの値に基づいてロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出する。また、差分φ_ref<0の場合はステップS124へ進み、0より小さい値であるφ_refの値に基づいてロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出する。
図18は、φ_ref≧0の場合にロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出する処理を示すフローチャートである。φ_ref≧0の場合、図15に示すマップのうち、φ_ref≧0の領域の特性に従ってロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverが算出される。先ず、ステップS130では、φ_ref≦TH1_Pであるか否かを判定し、φ_ref≦TH1_Pの場合はステップS132へ進み、TransGainForRollOver=MAX_GAINとする。また、ステップS130でφ_ref>TH1_Pの場合はステップS134へ進み、φ_ref≦TH2_Pであるか否かを判定し、φ_ref≦TH2_Pの場合は以下の式(20)からロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出する。
また、ステップS134でφ_ref>TH2_Pの場合はステップS138へ進み、TransGainForRollOver=MIN_GAINとする。
また、図19は、φ_ref<0の場合にロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出する処理を示すフローチャートである。φ_ref<0の場合、図11に示すマップのうち、φ_ref<0の領域の特性に従ってロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverが算出される。先ず、ステップS140では、φ_ref≧TH1_Mであるか否かを判定し、φ_ref≧TH1_Mの場合はステップS142へ進み、TransGainForRollOver=MAX_GAINとする。また、ステップS140でφ_ref<TH1_Mの場合はステップS144へ進み、φ_ref≧TH2_Mであるか否かを判定し、φ_ref≧TH2_Mの場合は以下の式(21)からロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出する。
また、ステップS144でφ_ref≧TH2_Mの場合はステップS148へ進み、TransGainForRollOver=MIN_GAINとする。
以上のように、図18及び図19の処理によれば、sgn_TurnSt=ONの場合は、図15のマップに基づいてロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出することができる。
図10及び図15に示すように、φ_refがTH2_Pよりも大きくなると、ロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverが0となり、定常項では旋回支援が行われなくなる。更に、φ_refがTH3_Pよりも大きくなると、ロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverが負の値となり、その時のロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverの設定にもよるが、目標減衰モーメントMgDampTgtと目標慣性補償モーメントMgTransTgtを加算した値が負の値となる。従って、旋回を抑制する方向に制御目標モーメントMgTgtを発生させることができる。これにより、φ_refの増加に伴って、旋回を支援するモーメント、旋回を支援しないモーメント及び旋回と逆方向のモーメントに順次変化するように制御を行うことができる。
図16のステップS110でsgn_TurnSt=OFFの場合はステップS114へ進む。ステップS114では、同一の状況が3回以上継続したか否かを判定し、同一の状況が3回以上継続した場合はステップS116へ進む。ステップS116では、TransGainForRollOver=TransGainForRollOver(n)とし、通常制御モードへ復帰する(OUT)。また、ステップS114で同一の状況が3回以上継続していない場合はステップS118へ進む。ステップS118では、以下の式(22)よりロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出する。
なお、本実施形態では、操舵切り返し状態から通常の旋回モードに遷移する際に、3サンプリングデータの平均値を取って補正ゲインを徐変させているが、2サンプリングデータ(2パラメータ)の平均値や、4サンプリング(4パラメータ)以上のデータの平均値を算出して、補正ゲインを徐変させても良い。
なお、上述した例では、φ_refを用いてロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOver、及びロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを算出したが、φ_refの代わりにφ_refの微分値からこれらの補正ゲインを算出しても良い。
以上のようにしてロールオーバー調整ゲイン算出部285が算出したロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverとロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverは、制御目標モーメント演算部290へ入力される。制御目標モーメント演算部290は、制御目標ヨーレートγTgtとフィードバックヨーレートγF/Bとの差分ΔγTgtから、制御目標モーメントMgTgtを算出する。また、制御目標モーメント演算部290は、ロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverとロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverにより制御目標モーメントMgTgtを補正することで、切返し操舵時の安定性確保と、通常操舵時の旋回支援制御を両立させる。
目標モーメント演算部290は、差分ΔγTgtに基づいて車両挙動を補正するためのモーメントを算出する。このため、図4に示すように、目標モーメント演算部290は、以下の式(23)で表される公知の平面2輪モデル(ヨー運動)において、ヨーレートに掛かっている係数に基づく値D1をΔγTgtに乗じることで「目標減衰モーメントMgDampTgt」を演算する減衰制御モーメント演算部(定常項算出部)290aと、ΔγTgtの微分値に、式(23)でヨー加速度に掛かっている係数に基づく値T1を乗じることで「目標慣性補償モーメントMgTransTgt」を算出する慣性補償モーメント演算部(過渡項演算部)290bを有している。ここで、係数D1は、式(23)でγに掛かっている2/V(lf 2Kf−lr 2Kr)に基づく値に相当し、係数T1は、式(23)でdγ/dtに掛かっているI(車両のヨー慣性)に基づく値に相当する。また、目標モーメント演算部290は、「目標減衰モーメントMgDampTgt」と「目標慣性補償モーメントMgTransTgt」を加算する加算部290cを有している。
減衰制御モーメント演算部(定常項算出部)290aは、平面2輪モデルをヨーモーメントについて整理した式(23)でヨーレートに掛かっている係数から導出される定数D1を、ヨーレート補正量ΔγTgtに乗算することで、車両旋回時の収束性能を向上させる減衰モーメント基本量MgDampBasisを算出する。すなわち、減衰モーメント基本量MgDampBasisは以下の式(24)から算出される。ΔγTgtは、制御目標ヨーレートγTgtとフィードバックヨーレートγF/Bとの差分であり、ヨーレート補正量(目標値)に相当する。また、定数D1は、減衰モーメントの演算係数である。
また、減衰制御モーメント演算部(定常項算出部)290aは、以下の式(25)により、減衰モーメント基本量MgDampBasisに減衰モーメント補正ゲイン(ロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOver)を乗じて、目標減衰モーメントMgDampTgtを算出する。
また、慣性補償モーメント演算部(過渡項演算部)290bは、平面2輪モデルをヨーモーメントについて整理した式で、ヨー加速度に掛かっている係数から導出される定数T1をヨーレート補正量に乗算することで、車両旋回時におけるヨー慣性を補償する慣性補償モーメントの基本量MgTransBasisを算出する。すなわち、慣性補償モーメント基本量MgTransBasisは以下の式(26)から算出される。ΔγTgtは、制御目標ヨーレートγTgtとフィードバックヨーレートγF/Bとの差分であり、ヨーレート補正量(目標値)に相当する。また、定数T1は、慣性補償モーメントの演算係数である。
そして、慣性補償モーメント演算部(過渡項演算部)290bは、以下の式(27)により、慣性補償モーメント基本量MgTransBasisと慣性補償モーメント補正ゲイン(ロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOver)を乗じることで、目標慣性補償モーメントMgTransTgtを算出する。目標慣性補償モーメントMgTransTgtは、操舵の切返しを検知した時、かつ、φ_refが所定の閾値以上の値に達している際には、ロールオーバーを抑制すべく慣性補償モーメントの出力を制限する機能と、通常操舵時における旋回支援機能を併せ持つ。
その後、制御目標モーメント演算部290の加算部290cは、以下の式(28)により、目標減衰モーメントMgDampTgtと目標慣性補償モーメントMgTransTgtを加算し、制御目標モーメントMgTgtを算出する。
以上のようにして制御目標モーメント演算部290が算出した制御目標モーメントMgTgtは、モータ要求トルク演算部295へ入力される。モータ要求トルク演算部295は、制御目標モーメントMgTgtに基づいてモータ要求トルクを算出する。
次に、図20、図21に基づいて、本実施形態の制御を行った場合の車両挙動について説明する。図20、図21は、本実施形態に係る制御による効果を説明するための特性図であって、レーンチェンジ走行中(車速一定)で路面摩擦係数μが変化する場面を例に挙げて、一般的な制御(旋回支援モードのみ)における車両挙動と、本実施形態の制御による車両挙動をシミュレーションによって比較したものである。ここで、図20は一般的な制御(旋回支援モードのみ)における車両挙動を示しており、図21は本実施形態の制御による車両挙動を示している。図20及び図21では、車両挙動として、操舵角θh、実ヨーレートγ、横加速度Gy、ロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOver、ロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOver、車両のヨーモーメント、ロール角φ、ロールレートφ_dotの変化を示している。また、図20及び図21において、時刻t1を境に路面摩擦係数が高μから低μに切り換わっている。
図20に示す一般的な制御では、操舵角θhが変化したレーンチェンジのタイミングで実ヨーレートγに着目すると、高μ域と低μ域のいずれにおいても操舵に伴うオーバーシュート、操舵切り返しに伴うオーバーシュートが発生している。同様に、操舵角θhが変化したレーンチェンジのタイミングで車両のヨーモーメントに着目すると、高μ域と低μ域のいずれにおいても操舵に伴うオーバーシュート、操舵切り返しに伴うオーバーシュートが発生している。そして、操舵角θhが変化したレーンチェンジのタイミングでは、車両ヨーモーメント、及びロールレートφ_dotが大きく振動しており、この振動は高μ域及び低μ域で発生しているが、低μ域においてより増加していることが判る。
一方、図21に示す本実施形態に係る制御では、車体に発生しているロール角φによって制御目標モーメントMgTgtを補正することで、操舵切り返し時や低μでの操舵入力時に車両に発生する車両ヨーモーメントやロール角φ、ロールレートφ_dotが抑制されていることが判る。従って、本実施形態に係る制御によれば、旋回時における車両挙動を大幅に安定させることが可能である。
以上説明したように本実施形態によれば、ロールモデルの信頼度に応じて参照値φ_refを算出し、参照値φ_refの値に応じてロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverとロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを変動させて、制御目標モーメントMgTgtを補正するようにした。これにより、参照値φ_refの値が大きく、車両1000が大きくロールしている場合は、ロールオーバー補正用定常ゲインConstGainForRollOverとロールオーバー補正用過渡ゲインTransGainForRollOverを低下させることで、制御目標モーメントMgTgtを最適に制御することができる。従って、車両1000のロールを最適に制御することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。