JP6371744B2 - 潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱槽 - Google Patents

潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱槽 Download PDF

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本発明は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材に、この潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合した潜熱蓄熱材組成物、及びこの潜熱蓄熱材組成物を用いた潜熱蓄熱槽に関する。
潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱することができる物性を有しており、本来廃棄される排熱をこの潜熱蓄熱材に蓄熱し、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことで、エネルギが無駄なく有効に活用できる。このような潜熱蓄熱材には、当該潜熱蓄熱材による融液を凝固点以下に冷却しても結晶化しない過冷却現象が生じてしまうことが一般的に知られており、過冷却防止剤が潜熱蓄熱材に配合されることがある。過冷却防止剤は、潜熱蓄熱材の過冷却現象を防ぐのに、融液状態にある潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す添加剤である。潜熱蓄熱材には、このような過冷却防止剤のほか、潜熱蓄熱材の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する目的で配合する融点調整剤等のように、潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤が、配合されることがある。
例えば、無機塩水和物のように、分子構造の中で水分子を含んだ潜熱蓄熱材では、無機塩と水分子とが均一に混ざった使用開始時の状態から、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返すうちに、無機塩と水とが分離しまう相分離が生じてしまう。この相分離を回避する手段の一つとして、増粘性を有した添加剤が潜熱蓄熱材に添加されると、このような添加剤は、潜熱蓄熱材に含まれる無機塩と水とのバインダーとして作用し、潜熱蓄熱材の性能が維持され易くなる。
特許文献1は、過冷却防止剤として、キサンタンガム等の親水性多糖類を、酢酸ナトリウム三水和物に配合した蓄熱材について、開示されている。特許文献1の蓄熱材では、添加したキサンタンガム等の親水性多糖類は、増粘性を有しているため、蓄熱材のゲル化を図るのに作用し、蓄熱材を構成する成分同士が、均一に分散された状態で保たれている。そのため、この蓄熱材に含まれる酢酸ナトリウム三水和物は、約60〜100℃の加熱により、ゲル状に融解すると共に熱を蓄熱する一方、室温まで冷却するとゲル状のままで、顕熱を放出するものの、潜熱を放出しない状態を、極めて安定的に継続できる。そして、必要に応じて、酢酸ナトリウム三水和物の微量の種結晶が、このゲル状物に接触すると、直ちに結晶化し潜熱を放出するとされている。
特公平7−45654号公報
しかしながら、特許文献1では、蓄熱材に添加したキサンタンガム等の親水性多糖類は、その増粘性により、蓄熱材を構成する成分同士を、均一に分散した状態で保つことができているものの、当該親水性多糖類自体に、蓄熱できる物性を有していない。そのため、特許文献1の蓄熱材では、蓄熱できない物性の親水性多糖類を含んでいることで、単位体積当たりにつき、潜熱により蓄熱できる蓄熱量がより大きく得られず、大容量の蓄熱ができる蓄熱材を用いて貯湯槽を構成する上で、問題となっていた。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、潜熱蓄熱材に添加剤を配合しても、潜熱蓄熱材と添加剤との成分同士を、経時的に安定し、均一に混じり合った状態に保つと共に、より大きな蓄熱量を得ることができる潜熱蓄熱材組成物と、そのような潜熱蓄熱材組成物を用いた潜熱蓄熱槽を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、以下の構成を有する。
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、一の前記添加剤である第1の添加剤は、液相状態にある前記潜熱蓄熱材の融液の粘度を高める増粘剤であり、糖アルコールに属する物質であること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記潜熱蓄熱材の主成分がミョウバン水和物であること、を特徴とする。
(3)(2)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH(SO・12HO)であること、を特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記第1の添加剤は、マンニトール(C14)であること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記第1の添加剤とは別の他の前記添加剤である第2の添加剤が配合されており、前記第2の添加剤は、前記潜熱蓄熱材の過冷却現象を防ぐのに、融液状態にある前記潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤、または、前記潜熱蓄熱材の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する融点調整剤の少なくとも一方を含むものであること、を特徴とする。
(6)(5)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記融点調整剤は、無水硫酸ナトリウム(NaSO)であること、を特徴とする。
(7)(6)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める前記無水硫酸ナトリウム(NaSO)の配合比率が、10wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。
(8)(4)乃至(7)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記第1の添加剤は、マンニトール(C14)であり、当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める前記マンニトール(C14)の配合比率が、20wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱槽は、以下の構成を有する。
(9)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物と、前記潜熱蓄熱材組成物との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、前記潜熱蓄熱材組成物と前記熱媒体を区画する区画部材とを、内部に備えた潜熱蓄熱槽において、前記潜熱蓄熱材組成物は、(1)乃至(8)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物であること、を特徴とする。
上記構成を有する本発明の潜熱蓄熱材組成物の作用・効果について説明する。
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、一の添加剤である第1の添加剤は、液相状態にある潜熱蓄熱材の融液の粘度を高める増粘剤であり、糖アルコールに属する物質であること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材の成分と添加剤の成分とを均一な状態に保持することができるほか、潜熱蓄熱材と同様、第1の添加剤である増粘剤にも、潜熱の蓄熱または放熱を可能とする蓄熱性能を具備することができる。
従って、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物によれば、潜熱蓄熱材に添加剤を配合しても、潜熱蓄熱材と添加剤との成分同士を、経時的に安定し、均一に混じり合った状態に保つと共に、より大きな蓄熱量を得ることができる、という優れた効果を奏する。
(2)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、潜熱蓄熱材の主成分がミョウバン水和物であること、を特徴とする。また、(3)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH(SO・12HO)であること、を特徴とする。この特徴により、様々な種類の潜熱蓄熱材の中でも、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH(SO・12HO)等のように、ミョウバン水和物を主成分とする潜熱蓄熱材は、相変化に伴う潜熱が比較的大きい物性を有する。そのため、このように比較的大きな潜熱の出入りを利用した潜熱蓄熱材では、潜熱蓄熱材に蓄熱できる蓄熱量も比較的大きく得られる。よって、ミョウバン水和物を主成分とする潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱材組成物は、大容量の熱を蓄熱し、それを放熱する蓄放熱性能を具備できている点で、優れている。
(4)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、第1の添加剤は、マンニトール(C14)であること、を特徴とする。この特徴により、マンニトールは、液相状態にある潜熱蓄熱材の融液の粘度を高めると共に、本発明の潜熱蓄熱材組成物を構成する成分同士の相分離現象や、本発明の潜熱蓄熱材組成物を構成する成分で、密度が互いに異なる成分同士に対し、密度差による成分同士の不均一化を防止することができる。また、マンニトールは、無毒で非危険物であるため、取扱いが容易である上に、安価でもある。
ところで、蓄熱性能を備えていない従来の添加剤が、潜熱蓄熱材に配合されていると、この潜熱蓄熱材とこの従来の添加剤との組成物である従来の潜熱蓄熱材組成物では、従来の添加剤が配合されているために、従来の潜熱蓄熱材組成物の蓄熱量は、それと同体積で比べても、潜熱蓄熱材だけの蓄熱量より大幅に低下する。これに対し、本発明の潜熱蓄熱材組成物では、マンニトールは、増粘性のほか、当該潜熱蓄熱材組成物に含有する主の潜熱蓄熱材と共に、潜熱の蓄熱または放熱を可能とする蓄熱性能を具備している。そのため、第1の添加剤であるマンニトールが添加されていても、蓄熱性能を備えていない従来の添加剤と異なり、本発明の潜熱蓄熱材組成物の畜熱量は、同体積で比べても、潜熱蓄熱材だけの蓄熱量より大幅に低下するのを抑制できている。
(5)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、第1の添加剤とは別の他の添加剤である第2の添加剤が配合されており、第2の添加剤は、潜熱蓄熱材の過冷却現象を防ぐのに、融液状態にある潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤、または、潜熱蓄熱材の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する融点調整剤の少なくとも一方を含むものであること、を特徴とする。この特徴により、過冷却防止剤が含まれている場合には、潜熱蓄熱材が過冷却現象を防止する一方で、第1の添加剤により、この過冷却防止剤の成分と潜熱蓄熱材の成分との不均一化が経時的に発生することが、抑止できている。また、融点調整剤が含まれている場合には、融点調整剤が、本発明の潜熱蓄熱材組成物の融点を任意の温度に調整できる一方で、第1の添加剤により、この融点調整剤の成分と潜熱蓄熱材の成分との不均一化が経時的に発生することが、抑止できている。
(6)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、融点調整剤は、無水硫酸ナトリウム(NaSO)であること、を特徴とする。この特徴により、無水硫酸ナトリウムは、融点884℃の物性で、常温では固体の物質であるものの、本発明の潜熱蓄熱材組成物全体の重量に対し、例えば、5wt%の配合比率で、潜熱蓄熱材の一種であるアンモニウムミョウバン(融点93.5℃)等に添加されると、融点が約90℃の潜熱蓄熱材組成物を生成することができる。この潜熱蓄熱材組成物の融点が約90℃であると、例えば、80〜90℃の温度帯域で行う蓄熱とその放熱により、給湯設備や、冷暖房を行う空気調和設備の熱源(エネルギ源)等として、約90℃の熱源は、産業界において幅広い分野で多様的に活用できる。
(7)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める無水硫酸ナトリウム(NaSO)の配合比率が、10wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。この特徴により、無水硫酸ナトリウムの添加量をこのような範囲内とした潜熱蓄熱材組成物では、90℃程度の熱が、潜熱蓄熱材による潜熱で蓄熱することができる。また、80℃以上の温度を熱源として必要とする環境下で、潜熱蓄熱材に蓄熱した熱を長時間、80℃以上の高温で、放熱させることができる。
(8)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、第1の添加剤は、マンニトール(C14)であり、当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占めるマンニトール(C14)の配合比率が、20wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。この特徴により、本発明の潜熱蓄熱材組成物に、例えば、過冷却防止剤、融点調整剤等、第1の添加剤とは別の第2の添加剤が配合されている場合、マンニトールの添加量がこのような範囲内にあれば、第2の添加剤により、本発明の潜熱蓄熱材組成物の物性を弊害なく調整することと、添加したマンニトールにより、このような第2の添加剤の成分と、潜熱蓄熱材の成分との不均一化を抑止することが、バランス良く安定して行うことができる。
また、上記構成を有する本発明の潜熱蓄熱槽の作用・効果について説明する。
(9)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物と、潜熱蓄熱材組成物との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、潜熱蓄熱材組成物と熱媒体を区画する区画部材とを、内部に備えた潜熱蓄熱槽において、潜熱蓄熱材組成物は、(1)乃至(8)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物であること、を特徴とする。この特徴により、本発明の潜熱蓄熱材組成物は、例えば、80℃から90℃に昇温する際の蓄熱量では、同体積で水を昇温する場合の蓄熱量42kJに対し、その約数〜10倍を超える等、より大きな蓄熱量を保持できる物性が得られる。そのため、この潜熱蓄熱材組成物を用いた本発明の潜熱蓄熱槽では、蓄熱槽全体の大きさを、従来の蓄熱槽(貯湯槽)との対比で、例えば、1/3〜1/4程度等まで、コンパクト化することができる。また、蓄熱槽の構造も簡単にすることができる。
本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物の構成成分の分布について、模式的に示す図である。 比較形態1に係る潜熱蓄熱材について、初期状態にある構成成分の分布について、模式的に示す図である。 比較形態1に係る潜熱蓄熱材について、一定時間経過した状態にある構成成分の分布について、模式的に示す図である。 比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物について、初期状態にある構成成分の分布について、模式的に示す図である。 比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物について、一定時間経過した状態にある構成成分の分布について、模式的に示す図である。 本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物の測定用試料の結晶に対し、蓄熱量の測定部位の位置を説明する図である。 図6に示す結晶に対し、測定部位での蓄熱量の計測結果と、外観状態の観察結果とをまとめて示した表である。 比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物の測定用試料について、その外観の様子を上方から見た図を示す。 本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物の有意性を説明するグラフを示す図である。 本実施形態に係る潜熱蓄熱槽を、実施例1として例示した模式図である。 本実施形態に係る潜熱蓄熱槽を、実施例2として例示した模式図である。 本実施形態に係る潜熱蓄熱槽を、実施例3として例示した模式図である。 変形形態に係る潜熱蓄熱材組成物を充填して密封する蓄熱材充填容器を例示した半断面図である。 図13に示す蓄熱材充填容器の圧力調整弁を示す断面図であり、圧力調整弁の作用を説明する図である。
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物、及び潜熱蓄熱槽について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。潜熱蓄熱槽は、例えば、病院やビルの発電等に用いられるコジェネレーション(CogenerationまたはCombined Heat and Power)で、ガスエンジンシステムの排熱を利用して熱媒体を約90℃に加熱し、80〜90℃の温度帯域で行う蓄熱とその放熱により、給湯設備や、冷暖房を行う空気調和設備の熱源(エネルギ源)として活用する目的で用いられる。蓄熱と放熱は、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物によって行われ、この潜熱蓄熱材組成物は、本実施形態では、蓄熱材充填容器(本発明に係る区画部材に対応)に充填され、この蓄熱材充填容器は、潜熱蓄熱槽内に複数収容される。
(実施形態)
はじめに、潜熱蓄熱材組成物について、説明する。図1は、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物の構成成分の分布について、模式的に示す図である。図1に示すように、潜熱蓄熱材組成物30は、潜熱蓄熱材31に、2種の添加剤32を配合してなる。潜熱蓄熱材31は、相変化に伴う潜熱の出入りにより、蓄熱または放熱を可能とする潜熱蓄熱材であり、当該潜熱蓄熱材31の主成分をミョウバン水和物とする蓄熱材である。具体的には、潜熱蓄熱材31は、本実施形態では、アンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH(SO・12HO)である。アンモニウムミョウバンは、融点93.5℃の物性で、常温では固体の物質である。そのため、アンモニウムミョウバンが、単体で融点未満の90℃程度に加熱されたとしても、アンモニウムミョウバンは、ほとんど溶融することなく、潜熱を蓄熱することもできない。
添加剤32は2種とも、潜熱蓄熱材31の物性を調整する役割を担う。一の添加剤32である第1の添加剤は、液相状態にある潜熱蓄熱材31の融液の粘度を高める増粘剤33であり、この増粘剤33は、糖アルコールに属する物質である。また、増粘剤33とは別の他の添加剤である第2の添加剤は、潜熱蓄熱材31の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する融点調整剤34である。
具体的に説明する。本実施形態では、増粘剤33は、マンニトール(C14)であり、当該潜熱蓄熱材組成物30全体の重量に占める配合比率として、マンニトール(C14)の配合比率は、20wt%以下の範囲内である。一方、融点調整剤34は、無水硫酸ナトリウム(NaSO)であり、無水硫酸ナトリウムは、融点884℃の物性で、常温では固体の物質である。無水硫酸ナトリウム(NaSO)の配合比率は、10wt%以下の範囲内である。このような無水硫酸ナトリウムが、潜熱蓄熱材組成物30全体の重量に対し、例えば、5wt%の配合比率で、アンモニウムミョウバン(潜熱蓄熱材31)に添加されると、潜熱蓄熱材組成物30の融点は、約90℃になる。
なお、本実施形態では、潜熱蓄熱材31の主成分を、アンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH(SO・12HO)とした。しかしながら、潜熱蓄熱材の主成分で、アンモニウムミョウバンに含まれる金属イオンは、アルミニウムイオン以外にも、例えば、クロムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、マンガンイオン等、3価の金属イオンであっても良く、アンモニウムミョウバンは、このような3価の金属イオンを含む複硫酸塩となっていれば良い。また、潜熱蓄熱材31の主成分は、アンモニウムミョウバンに限らず、例えば、カリミョウバン、カリウムミョウバン等、ミョウバン水和物であれば、特に限定されるものではない。
また、本実施形態では、増粘剤33にマンニトールを用いたが、増粘剤は、マンニトールのほか、例えば、エリトリトールや、加熱しても褐色化やキャラメル化を起こさず、酸に強い物性等を有する糖アルコールに属する物質であれば、特に限定されるものではない。
(比較形態1)
次に、比較形態1として、潜熱蓄熱材組成物30に含む添加剤32のような、潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を含まない潜熱蓄熱材40について、説明する。図2は、比較形態1に係る潜熱蓄熱材について、初期状態にある構成成分の分布について、模式的に示す図である。図3は、図2に示す潜熱蓄熱材について、一定時間経過した状態にある構成成分の分布について、模式的に示した図である。
潜熱蓄熱材40は、無水塩41と水分子42とからなる無機塩水和物であり、相変化に伴う潜熱の出入りにより、蓄熱または放熱を可能とする潜熱蓄熱材である。この潜熱蓄熱材40は、無水塩41の構造中に水分子42を含んでおり、調合後、蓄熱材としての使用を開始して間もない初期状態では、図2に示すように、無水塩41の成分と水分子42の成分とが均一に混ざった成分分布になっている。
しかしながら、この潜熱蓄熱材40の使用開始後、蓄熱と放熱とが潜熱蓄熱材40で繰り返し行われているうちに、使用開始から一定時間が経過した状態になると、図3に示すように、潜熱蓄熱材40では、水分子42より密度(比重)の大きい無水塩41の成分が沈殿していまい、無水塩41の相と水分子42の相とが分離しまう。潜熱蓄熱材40が、このような相分離状態になってしまうと、蓄熱とその放熱を効果的に行う蓄放熱性能が、大幅に低下する。
(比較形態2)
次に、比較形態2として、本発明の第2の添加剤に対応する添加剤のみを含む潜熱蓄熱材組成物について、説明する。図4は、比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物について、初期状態にある構成成分の分布について、模式的に示す図である。図5は、比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物について、一定時間経過した状態にある構成成分の分布について、模式的に示す図である。
潜熱蓄熱材組成物50は、潜熱蓄熱材51に添加剤52を配合してなる。潜熱蓄熱材51は、相変化に伴う潜熱の出入りにより、蓄熱または放熱を可能とする潜熱蓄熱材であり、当該潜熱蓄熱材51の主成分をミョウバン水和物とする蓄熱材である。添加剤52は、潜熱蓄熱材51の過冷却現象を防ぐのに、融液状態にある潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤、または潜熱蓄熱材51の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する融点調整剤である。この潜熱蓄熱材組成物50は、潜熱蓄熱材51に添加剤52を配合しているため、調合後、蓄熱材としての使用を開始して間もない初期状態では、図4に示すように、潜熱蓄熱材51の成分と添加剤52の成分とが均一に混ざった成分分布になっている。
しかしながら、この潜熱蓄熱材組成物50の使用開始後、蓄熱と放熱とが潜熱蓄熱材51で繰り返し行われるうちに、使用開始から一定時間が経過した状態になると、潜熱蓄熱材組成物50では、図5に示すように、潜熱蓄熱材51の成分と添加剤52の成分とが、不均一な混ざり具合で分布してしまう。これは、潜熱蓄熱材51と添加剤52とが、結晶構造上、結合していないため、潜熱蓄熱材51と添加剤52との密度差(比重差)により、潜熱蓄熱材51の成分と添加剤52の成分とが、分離してしまうために生じる。潜熱蓄熱材組成物50の成分に、このような分離が生じると、潜熱蓄熱材組成物50の融点の変化や、蓄熱または放熱できる熱量の低減等が生じ、潜熱蓄熱材組成物50の蓄放熱性能が低下してしまう。
ここで、潜熱蓄熱材組成物において、構成成分の分布状況と、蓄熱材の性能との関係について、その確認を目的とする調査実験を行った。調査実験は、潜熱蓄熱材組成物30を試料とする実験1と、潜熱蓄熱材組成物50を試料とする実験2を実施し、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物30と、比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物50とを対比して、潜熱蓄熱材組成物30の有意性を確認した。
<実験方法>
・調査実験では、100gの潜熱蓄熱材組成物30,50を、A5サイズの樹脂袋に充填し、畜放熱操作を480サイクル実施した。畜放熱操作は、1サイクルに付き、95℃の熱湯により潜熱蓄熱材組成物30,50全体を均等に95℃に加熱し、95℃の温度状態を45分間維持した後、常温まで冷却させるまでの一連の操作である。
・畜放熱操作を480サイクル完了した後、潜熱蓄熱材組成物30,50を樹脂袋から取出して、この潜熱蓄熱材組成物30,50から測定用試料を採取。
・潜熱蓄熱材組成物30,50の測定用試料に対し、その上部と、中部と、下部とに分けて、周知の示差走査熱量測定装置(DSC:Differential scanning calorimetry)により、これら3つの部分の蓄熱量を、それぞれ測定。測定は、常温から90℃に加熱し、この温度を保持して実施。
<実験1と実験2との共通条件>
・潜熱蓄熱材31,51:アンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH(SO・12HO)
・融点調整剤:無水硫酸ナトリウム(NaSO
・融点:約90℃
<実験1の条件>
・添加剤32:増粘剤33と融点調整剤34
・増粘剤33:マンニトール(C14
・潜熱蓄熱材組成物30全体の重量に対するマンニトールの配合比率:2wt%
・潜熱蓄熱材組成物30全体の重量に対する無水硫酸ナトリウムの配合比率:8wt%
<実験2の条件>
・添加剤52:融点調整剤
・潜熱蓄熱材組成物50全体の重量に対する無水硫酸ナトリウムの配合比率:5wt%
図6は、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物の測定用試料の結晶に対し、蓄熱量の測定部位の位置を説明する図であり、図6に示す結晶に対し、測定部位での蓄熱量の計測結果と、外観状態の観察結果とをまとめて示した表を、図7に示す。図8は、比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物の測定用試料について、その外観の様子を上方から見た図を示す。
<実験結果>
図6及び図7に示すように、実験1では、潜熱蓄熱材組成物30において、上方表面Aの測定結果に対し、その概算中央値を含む第1の測定値帯域が、320〜330kJ/Lであったものの、その他の4つの測定部位において、概算中央値を含む第2の測定値帯域は、380〜390kJ/Lであった。潜熱蓄熱材組成物30によれば、300〜400kJ/Lという、非常に大きな蓄熱量が得られることが判る。また、潜熱蓄熱材組成物30の外観は全体的に、白色がかかった半透明状の固体になっていた。
一方、実験2では、図8に示す潜熱蓄熱材組成物50の測定用試料では、その上側半分(図8の紙面表側)と、その反対側にある下側半分(図8の紙面裏側)で、DSCによる測定結果が、大きく異なった。具体的には、上側半分における測定結果は、130kJ/Lであったのに対し、下側半分における測定結果は、340〜420kJ/Lであった。また、潜熱蓄熱材組成物50の外観では、上側半分が、アンモニウムミョウバン単体の立方体結晶であったのに対し、下側半分は、アンモニウムミョウバンと融点調整剤との混合物である白色固体となっていた。
<考察>
実験2では、畜放熱操作の開始後、潜熱蓄熱材組成物50で畜放熱操作を繰り返し行っているうちに、使用開始から一定時間が経過したところで、潜熱蓄熱材組成物50において、潜熱蓄熱材51であるアンモニウムミョウバンの成分と、添加剤52である無水硫酸ナトリウムの成分とが、互いの密度差(比重差)により、分離してしまっている。そのため、外観状態は、上側半分と下側半分で明らかに異なっているほか、上側半分の蓄熱量が、下側半分の蓄熱量に比して、約1/3以下に低下しているものと考えられる。
これに対し、実験1では、潜熱蓄熱材組成物30には、増粘剤33であるマンニトール(C14)が添加されている。この増粘剤33は、潜熱蓄熱材31であるアンモニウムミョウバンの成分と、添加剤32である無水硫酸ナトリウムの成分とのバインダーとして作用しているため、アンモニウムミョウバンの成分と、無水硫酸ナトリウムの成分とが、経時的に分離せず、より均一に混ざった成分分布が維持できている。そのため、潜熱蓄熱材組成物30は、比較形態2に係る潜熱蓄熱材組成物50とは異なり、300〜400kJ/Lという、非常に大きな蓄熱量を得ることができている。なお、DSCによる測定値の結果では、第1の測定値帯域は、第2の測定値帯域の約15%減になっていたが、これは、上方表面Aの潜熱蓄熱材組成物30に含まれる水分の一部が蒸発し、樹脂袋内面に付着したことで、一部のアンモニウムミョウバンの水和数が変化したことが原因と考えられ、潜熱蓄熱材組成物30全体への影響は軽微であると考えられる。
しかも、実験1では、増粘剤33に用いたマンニトール(C14)は、アンモニウムミョウバンの成分と、無水硫酸ナトリウムの成分とのバインダーとして作用するほかに、当該マンニトール自体に、蓄熱または放熱を可能とする蓄熱特性を兼ね備えている。この蓄熱特性は、潜熱蓄熱材組成物30において、300〜400kJ/Lという、非常に大きな蓄熱量を得ることに、大きく寄与しているものと考えられる。
すなわち、図9に示すように、潜熱蓄熱材(図9では、「PCM」と表示)以外に、何ら添加剤が配合されていないPCM単体の場合、単位体積当たりに蓄熱できる蓄熱量はPである。PCM単体に添加剤(例えば、無水硫酸ナトリウム等の融点調整剤)を加えた潜熱蓄熱材組成物50(比較形態2)では、蓄熱特性を持たない添加剤の配合により、単位体積当たりに蓄熱できる蓄熱量は、PよりP1(P1<P)だけ低減したP0(P1<P0<P)となる。この蓄熱量P0は、潜熱蓄熱材組成物50に含まれる潜熱蓄熱材51(PCM単体)に対応した熱量である。
ところが、潜熱蓄熱材組成物30に含まれる潜熱蓄熱材31と同様、増粘剤33に用いるマンニトール(C14)にも、蓄熱できる蓄熱量P2(P2<P)を有しているため、PCM蓄熱分として、潜熱蓄熱材31に対応した蓄熱量P0と、マンニトール蓄熱分とする蓄熱量P2との和が、潜熱蓄熱材組成物30における単位体積当たりに蓄熱できる蓄熱量となる。従って、潜熱蓄熱材組成物30では、300kJ/Lを超える大きな蓄熱量が確保できると共に、潜熱蓄熱材組成物30を用いて畜放熱操作を、複数回にわたって繰り返し行っても、このような畜放熱操作に対しの安定性が担保できている。
次に、潜熱蓄熱材組成物30を用いた潜熱蓄熱槽について説明する。図10は、本実施形態に係る潜熱蓄熱槽を、実施例1として例示した模式図であり、実施例2として例示した模式図を図11に、実施例3として例示した模式図を図12に、それぞれ示す。前述したように、潜熱蓄熱材組成物30は、本実施形態では、例示する蓄熱材充填容器10A,10B,10C,10Dに充填され、この蓄熱材充填容器10A,10B,10C,10Dは、例示する潜熱蓄熱槽1A,1B,1C内に複数収容される。
(実施例1)
潜熱蓄熱槽1Aでは、潜熱蓄熱材組成物30入りの筒状の蓄熱材充填容器10Aが複数、規則化された配置形態で収容される。その配置形態の一例として、図10に示す全ての蓄熱材充填容器10Aが、蓋部を潜熱蓄熱槽1Aの天井に向けた縦置きの姿勢で、複数列に亘って平行に互いに間隔を設けて配置され、蓄熱材充填容器10A全体が、水等の熱媒体2に浸漬した状態で収容されている。
(実施例2)
また、潜熱蓄熱槽1Bでは、蓄熱材充填容器10Bが、図11に示すように、蓋部を潜熱蓄熱槽1Bの側壁に向けて横向きに寝かせた姿勢で、複数列に亘り、複数段に積み重ねて配置され、熱媒体2に完全に浸漬した状態で収容されている。
(実施例3)
また、潜熱蓄熱槽1Cでは、蓄熱材充填容器10Cが、図12に示すように、潜熱蓄熱槽1C内に載置された棚5に、蓋部を潜熱蓄熱槽1Cの天井に向けた縦置きの姿勢で、横並びに複数段に分けて配置され、熱媒体2に完全に浸漬した状態で収容されている。
また、潜熱蓄熱材組成物30を充填する蓄熱材充填容器の中には、図13及び図14に示す蓄熱材充填容器10Dもある。蓄熱材充填容器10Dは、潜熱蓄熱材組成物30を収容するための内部空間13を形成する本体部11と、内部空間13とその外部とが連通する開口部12と、温度変化や構造変化に伴う潜熱蓄熱材組成物30の体積増減により、変動する内部空間13の圧力を制御する圧力調整弁20と、を有している。
図13及び図14に示すように、圧力調整弁20は、本体部11の開口部12に設けられている。この圧力調整弁20は、水等の液体LQ(熱媒体2)が当該蓄熱材充填容器10Dの外部から内部空間13に流入することを遮断すると共に、潜熱蓄熱材組成物30が内部空間13から外部に流出することを遮断する一方で、内部空間13にある気体GSが外部に流出するのを許容する弁体部21を有している。
具体的には、圧力調整弁20は、本実施形態では、本体部11の開口部12を閉塞する弁体部21と、保持した弁体部21を本体部11に螺合または融着により固定するキャップ22とからなる。弁体部21は、内部空間13と当該蓄熱材充填容器10Dの外部との間で、熱媒体2(図10〜12参照)である水の流通を阻む防水性と、気体GSとして、空気と水蒸気だけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)製の防水透湿膜で形成されている。
次に、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30と、潜熱蓄熱槽1A,1B,1C(潜熱蓄熱槽1A等)の作用・効果について説明する。本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材31に、該潜熱蓄熱材31の物性を調整する添加剤32(増粘剤33と融点調整剤34)を配合してなる潜熱蓄熱材組成物30において、一の添加剤32である第1の添加剤33は、液相状態にある潜熱蓄熱材の融液の粘度を高める増粘剤であり、糖アルコールに属する物質であること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材31の成分と融点調整剤34の成分とを均一な状態に保持することができるほか、潜熱蓄熱材31と同様、増粘剤33にも、潜熱の蓄熱または放熱を可能とする蓄熱性能を具備することができる。
従って、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物30によれば、潜熱蓄熱材31に、増粘剤33と融点調整剤34とを配合しても、潜熱蓄熱材31と融点調整剤34との成分同士を、経時的に安定し、均一に混じり合った状態に保つと共に、より大きな蓄熱量を得ることができる、という優れた効果を奏する。
また、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、潜熱蓄熱材31の主成分がミョウバン水和物であること、を特徴とする。また、本実施形態では、ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH(SO・12HO)であること、を特徴とする。この特徴により、様々な種類の潜熱蓄熱材の中でも、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH(SO・12HO)等のように、ミョウバン水和物を主成分とする潜熱蓄熱材31は、相変化に伴う潜熱が比較的大きい物性を有する。そのため、このように比較的大きな潜熱の出入りを利用した潜熱蓄熱材31では、この潜熱蓄熱材31に蓄熱できる蓄熱量も比較的大きく得られる。よって、ミョウバン水和物を主成分とする潜熱蓄熱材31を含む潜熱蓄熱材組成物30は、大容量の熱を蓄熱し、それを放熱する蓄放熱性能を具備できている点で、優れている。
また、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、第1の添加剤33は、マンニトール(C14)であること、を特徴とする。この特徴により、マンニトールは、液相状態にある潜熱蓄熱材の融液の粘度を高めると共に、当該潜熱蓄熱材組成物30を構成する成分同士の相分離現象や、この潜熱蓄熱材組成物30を構成する成分で、密度が互いに異なる成分同士に対し、密度差による成分同士の不均一化を防止することができる。また、マンニトールは、無毒で非危険物であるため、取扱いが容易である上に、安価でもある。
ところで、蓄熱性能を備えていない従来の添加剤が、潜熱蓄熱材に配合されていると、この潜熱蓄熱材とこの従来の添加剤との組成物である従来の潜熱蓄熱材組成物では、従来の添加剤が配合されているために、従来の潜熱蓄熱材組成物の蓄熱量は、それと同体積で比べても、潜熱蓄熱材だけの蓄熱量より大幅に低下する。これに対し、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、マンニトールは、増粘性のほか、当該潜熱蓄熱材組成物30に含有する主の潜熱蓄熱材31と共に、潜熱の蓄熱または放熱を可能とする蓄熱性能を具備している。そのため、第1の添加剤33であるマンニトールが添加されていても、蓄熱性能を備えていない従来の添加剤と異なり、潜熱蓄熱材組成物30の畜熱量は、同体積で比べても、潜熱蓄熱材だけの蓄熱量より大幅に低下するのを抑制できている。
また、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、第1の添加剤33とは別の他の添加剤である第2の添加剤34が配合されており、第2の添加剤34は、潜熱蓄熱材31の融点を、必要に応じて任意の温度(約90℃)に調整する融点調整剤であること、を特徴とする。この特徴により、融点調整剤34が、当該潜熱蓄熱材組成物30の融点を約90℃に調整できる一方で、第1の添加剤である増粘剤33により、この融点調整剤34の成分と潜熱蓄熱材31の成分との不均一化が経時的に発生することが、抑止できている。
また、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、融点調整剤34は、無水硫酸ナトリウム(NaSO)であること、を特徴とする。この特徴により、無水硫酸ナトリウムは、融点884℃の物性で、常温では固体の物質であるものの、潜熱蓄熱材組成物30全体の重量に対し、例えば、5wt%の配合比率で、潜熱蓄熱材31であるアンモニウムミョウバン(融点93.5℃)等に添加されると、融点が約90℃の潜熱蓄熱材組成物30を生成することができる。この潜熱蓄熱材組成物30の融点が約90℃であると、例えば、80〜90℃の温度帯域で行う蓄熱とその放熱により、給湯設備や、冷暖房を行う空気調和設備の熱源(エネルギ源)等として、約90℃の熱源は、産業界において幅広い分野で多様的に活用できる。
また、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、当該潜熱蓄熱材組成物30全体の重量に占める無水硫酸ナトリウム(NaSO)の配合比率が、10wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。この特徴により、無水硫酸ナトリウムの添加量をこのような範囲内とした潜熱蓄熱材組成物30では、90℃程度の熱が、潜熱蓄熱材31による潜熱で蓄熱することができる。また、80℃以上の温度を熱源として必要とする環境下で、潜熱蓄熱材31に蓄熱した熱を長時間、80℃以上の高温で、放熱させることができる。
また、本実施形態の潜熱蓄熱材組成物30では、第1の添加剤33は、マンニトール(C14)であり、当該潜熱蓄熱材組成物30全体の重量に占めるマンニトール(C14)の配合比率が、20wt%以下の範囲内であること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物30に、第1の添加剤33とは別の第2の添加剤34(融点調整剤34)が配合されている場合、マンニトールの添加量がこのような範囲内にあれば、融点調整剤34により、潜熱蓄熱材組成物30の融点を弊害なく約90℃に調整することと、添加したマンニトールにより、このような融点調整剤34の成分と、潜熱蓄熱材31の成分との不均一化を抑止することが、バランス良く安定して行うことができる。
また、本実施形態の潜熱蓄熱槽1A〜1C(1A等)では、潜熱蓄熱槽1A等は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材31に、該潜熱蓄熱材31の物性を調整する添加剤32を配合してなる潜熱蓄熱材組成物30と、潜熱蓄熱材組成物30との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体2と、潜熱蓄熱材組成物30と熱媒体2を区画する蓄熱材充填容器10A等とを、内部に備えている。これにより、潜熱蓄熱材組成物30は、例えば、80℃から90℃に昇温する際の蓄熱量では、同体積で水を昇温する場合の蓄熱量42kJに対し、その約数〜10倍を超える等、より大きな蓄熱量を保持できる物性が得られる。そのため、この潜熱蓄熱材組成物30を用いた潜熱蓄熱槽1A等では、蓄熱槽全体の大きさを、従来の蓄熱槽(貯湯槽)との対比で、例えば、1/3〜1/4程度等まで、コンパクト化することができる。また、蓄熱槽の構造も簡単にすることができる。
以上において、本発明を実施形態、実施例1〜3、変形形態、及び比較形態1,2に即して説明したが、本発明は上記実施形態、実施例1〜3、変形形態、及び比較形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
(1)例えば、実施形態では、融点調整剤34の配合により、潜熱蓄熱材組成物30の融点を約90℃に調整したが、融点調整剤により調整される潜熱蓄熱材組成物の融点温度は、約90℃に限定されるものではなく、潜熱蓄熱材組成物から放熱される熱を利用する熱供給先で、必要する熱源の温度に対応した温度に調整されたものであれば良い。
(2)また、実施形態の実施例1〜3では、潜熱蓄熱材組成物30を充填した蓄熱材充填容器10A,10B,10C,10Dを、潜熱蓄熱槽1A,1B,1C内に複数収容したが、蓄熱材充填容器10A,10B,10C,10Dは単なる例示に過ぎず、区画部材の構成・形状は、潜熱蓄熱槽内で潜熱蓄熱材組成物と熱媒体とを区画し、潜熱蓄熱材組成物と熱媒体との間で、熱が伝導できるものであれば、何でも良い。
(3)また、実施形態の実施例1〜3では、潜熱蓄熱材組成物30入りの蓄熱材充填容器10A,10B,10C,10Dを収容した潜熱蓄熱槽1A,1B,1Cを例示したが、潜熱蓄熱槽内での区画部材の配置形態、潜熱蓄熱槽内の棚の有無や、熱媒体の液面位置は、実施形態の実施例1〜3に限定されるものはなく、適宜変更可能である。
(4)また、実施形態の実施例1〜3では、潜熱蓄熱材組成物30入りの蓄熱材充填容器10A,10B,10C,10Dを、熱媒体2に完全に浸漬した状態で、潜熱蓄熱槽1A,1B,1C内に配置したが、これらの蓄熱材充填容器10A,10B,10C,10Dの一部が、熱媒体2の液面上にあっても良い。
(5)また、実施形態では、潜熱蓄熱槽1A等の放熱による熱源の熱供給先として、80〜90℃の温度帯域で使用する給湯設備や空気調和設備を挙げたが、熱供給先は、例えば、ガス吸収式冷凍機の再生器を加熱するのに用いる熱源等のほか、80℃以上の温度を必要とする装置を対象に、多様に用いることができる。また、80℃未満の温度帯域で使用する給湯設備や空気調和設備を熱供給先とすることもできる。
1A,1B,1C 潜熱蓄熱槽
2 熱媒体
10A,10B,10C,10D 蓄熱材充填容器(区画部材)
30 潜熱蓄熱材組成物
31 潜熱蓄熱材
32 添加剤
33 増粘剤(第1の添加剤)
34 融点調整剤(第2の添加剤)

Claims (6)

  1. 相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物において、
    一の前記添加剤である第1の添加剤は、液相状態にある前記潜熱蓄熱材の融液の粘度を高める増粘剤であり、糖アルコールに属する物質であること、
    前記潜熱蓄熱材の主成分がミョウバン水和物であること、
    前記第1の添加剤は、マンニトール(C 14 )であること、
    当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める前記マンニトール(C 14 )の配合比率が、20wt%以下の範囲内であること、
    を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
  2. 請求項に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
    前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH(SO・12HO)であること、
    を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
  3. 請求項1または請求項2に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
    前記第1の添加剤とは別の他の前記添加剤である第2の添加剤が配合されており、前記第2の添加剤は、前記潜熱蓄熱材の過冷却現象を防ぐのに、融液状態にある前記潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤、または、
    前記潜熱蓄熱材の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する融点調整剤
    の少なくとも一方を含むものであること、
    を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
  4. 請求項に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
    前記融点調整剤は、無水硫酸ナトリウム(NaSO)であること、
    を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
  5. 請求項に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
    当該潜熱蓄熱材組成物全体の重量に占める前記無水硫酸ナトリウム(NaSO)の配合比率が、10wt%以下の範囲内であること、
    を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
  6. 相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物と、前記潜熱蓄熱材組成物との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、前記潜熱蓄熱材組成物と前記熱媒体を区画する区画部材とを、内部に備えた潜熱蓄熱槽において、
    前記潜熱蓄熱材組成物は、請求項1乃至請求項のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材組成物であること、
    を特徴とする潜熱蓄熱槽。
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