JP6434867B2 - 蓄熱材充填容器、及び蓄熱槽 - Google Patents

蓄熱材充填容器、及び蓄熱槽 Download PDF

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Description

この発明は、例えば、相変化に伴う潜熱により、融点90℃程度等に蓄熱することができる潜熱蓄熱材等、生じた熱を蓄熱可能な蓄熱材を密封する蓄熱材充填容器、及びこの蓄熱材充填容器内の蓄熱材に蓄熱される熱を利用するのに用いる蓄熱槽に関する。
潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱することができる物性を有しており、本来廃棄される排熱をこの潜熱蓄熱材に蓄熱し、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことで、エネルギが無駄なく有効に活用できる。潜熱蓄熱材への蓄熱と、潜熱蓄熱材からの放熱を行うのには、例えば、特許文献1に開示された蓄熱槽が用いられる。
特許文献1は、潜熱蓄熱材と充填ガスを密封する密閉容器を備えた蓄熱槽であり、この密閉容器を、気体透過膜を挟んだ下側に蓄熱材貯留部とする第1空間と、その上側にガス貯留部とする第2空間とに区画して構成している。ガス貯留部の側壁は、全てが融解状態にある潜熱蓄熱材の液面より高い位置にあり、かつ伸縮自在な蛇腹状に形成されている。蓄熱材貯留部内の潜熱蓄熱材が融解すると、それに伴う体積増加により、潜熱蓄熱材の液面が上昇し、充填ガスだけが、気体透過膜を通じてガス貯留部に移動する。これにより、ガス貯留部では、側壁が伸長して、容積が増加する。
その反対に、潜熱蓄熱材が凝固すると、それに伴う体積減少により、潜熱蓄熱材の液面が下降し、充填ガスだけが、気体透過膜を通じて蓄熱材貯留部に移動し、ガス貯留部の側壁が収縮する。これにより、ガス貯留部の容積が減少する。特許文献1では、蓄熱材貯留部で、相変化に因らず潜熱蓄熱材の体積変化はなく、ガス貯留部で、潜熱蓄熱材の体積変化を確実に吸収して、蓄熱槽の破損を防止することができるとされている。
ところで、潜熱蓄熱材は、相変化により蓄熱または放熱を行うと、潜熱蓄熱材の体積が大きく変化し、潜熱蓄熱材を充填した封入容器内の圧力が上昇すると、この封入容器は破損する虞がある。それを回避する策の一つとして、特許文献1の他にも、内圧を低減させる開口部を封入容器に設け、この封入容器のうち、開口部だけを、熱媒体とする水の液面上に配置する蓄熱槽が考えられる。
特開2004−278857号公報
しかしながら、特許文献1の蓄熱槽では、密閉容器の構造が複雑であり、蓄熱槽全体が大型化してしまう問題がある。また、内圧を低減させる開口部を設けた封入容器が用いられた蓄熱槽では、蓄熱槽内の水蒸気が凝縮することにより、発生した水滴が、開口部を通じて封入容器内に侵入してしまう。そのため、水滴の侵入により、潜熱蓄熱材の性能が低下する虞がある。他方、構造中に水分を含む潜熱蓄熱材の場合、潜熱蓄熱材から蒸発した水分が、開口部を通じて蓄熱槽内の空気中に発散してしまい、潜熱蓄熱材の性能が低下する虞も生じる。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、蓄熱材の性能の劣化を招くことなく、蓄熱材の相変化、構造変化または温度変化に伴う体積変化を確実に吸収することができる蓄熱材充填容器、及び蓄熱槽を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る蓄熱材充填容器は、以下の構成を有する。
(1)生じた熱を蓄熱する蓄熱材を、充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器において、前記蓄熱材を収容する内部空間の圧力を制御する圧力調整弁を備え、前記圧力調整弁は、液体が当該蓄熱材充填容器の外部から前記内部空間に流入することを遮断すると共に、前記蓄熱材が前記内部空間から前記外部に流出することを遮断する一方で、前記内部空間にある気体が前記外部に流出するのを許容する弁体部を有していること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する蓄熱材充填容器において、前記弁体部は、前記内部空間と前記外部との間で、水の流通を阻む防水性と、空気と水蒸気だけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材で形成されていること、を特徴とする。
(3)(2)に記載する蓄熱材充填容器において、前記防水透湿素材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)であること、を特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する蓄熱材充填容器において、前記内部空間を形成する本体部は、樹脂からなること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する蓄熱材充填容器において、前記蓄熱材は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材であること、を特徴とする。
(6)(5)に記載する蓄熱材充填容器において、前記潜熱蓄熱材は、アンモニウムミョウバン(AlNH(SO・12HO)と無水硫酸ナトリウム(NaSO)とを含むこと、またはエチルマルトールを含むこと、を特徴とする。
(7)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する蓄熱材充填容器において、前記蓄熱材は、水との化学反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う化学蓄熱材であること、を特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明に係る蓄熱槽は、以下の構成を有する。
(8)生じた熱を蓄熱する蓄熱材と、該蓄熱材を充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器と、該蓄熱材充填容器を介して、蓄熱材との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、を有する蓄熱槽において、前記蓄熱材充填容器は、(1)乃至(7)のいずれか1つに記載する蓄熱材充填容器であること、を特徴とする。
上記構成を有する本発明の蓄熱材充填容器、及び蓄熱槽の作用・効果について説明する。
(1)生じた熱を蓄熱する蓄熱材を、充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器において、蓄熱材を収容する内部空間の圧力を制御する圧力調整弁を備え、圧力調整弁は、液体が当該蓄熱材充填容器の外部から内部空間に流入することを遮断すると共に、蓄熱材が内部空間から外部に流出することを遮断する一方で、内部空間にある気体が外部に流出するのを許容する弁体部を有していること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材充填容器内の蓄熱材が、例えば、蓄熱材の相変化、構造変化または温度変化に伴う体積増加等で、内部空間の圧力が上昇しても、内部空間に内在する空気や水蒸気等の気体が、弁体部を通じて当該蓄熱材充填容器の外部に放出できる。そのため、蓄熱材充填容器の内圧が、当該蓄熱材充填容器の破裂に至る圧力まで上昇してしまうのを抑止できる。また、蓄熱材充填容器が、蓄熱槽内の熱媒体に浸漬された状態にあっても、熱媒体が、弁体部を通じて内部空間に侵入せず、内部空間に存在する蓄熱材は、弁体部を通じて、蓄熱槽内の熱媒体に流出することもない。そのため、本来不要な空気や水蒸気等の気体と、水等の熱媒体との接触に起因した蓄熱材の性能劣化を、効果的に防止することができる。
従って、本発明に係る蓄熱材充填容器によれば、蓄熱材の性能の劣化を招くことなく、蓄熱材の相変化、構造変化または温度変化に伴う体積変化を確実に吸収することができる、という優れた効果を奏する。
(2)に記載する蓄熱材充填容器において、弁体部は、内部空間と外部との間で、水の流通を阻む防水性と、空気と水蒸気だけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材で形成されていること、を特徴とする。この特徴により、構造中に水分を含む無機塩水和物を主成分とした潜熱蓄熱材の場合、弁体部を通じて水蒸気が内部空間と外部の間を自由に行き来することができるため、無機塩水和物が水分を喪失することなく、無機塩水和物の組成が維持され、蓄熱性能の劣化を回避することができる。また、同様に水分の結合・脱離反応を伴う化学蓄熱材である場合にも、弁体部を通じて水蒸気が内部空間と外部の間を行き来することで、反応率の低下による蓄熱性能の劣化を回避することができる。
(3)に記載する蓄熱材充填容器において、防水透湿素材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)であること、を特徴とする。この特徴により、ポリテトラフルオロエチレン製の弁体部は、例えば、80〜100℃近傍等という高温環境下にも耐え得る耐熱性や、強い酸性物質や強いアルカリ性物質にも耐え得る耐薬品性、耐腐食性に優れた弁となり得る。そのため、蓄熱材や熱媒体が、たとえ腐食性を持った高温の物質であって、これらの材料を貯めた蓄熱槽でも、蓄熱材充填容器を問題なく使用することができる。また、ポリテトラフルオロエチレンは、毒性を持たず化学的に不活性であるため、ポリテトラフルオロエチレン製の弁体部は、使用上、安全である。
(4)に記載する蓄熱材充填容器において、内部空間を形成する本体部は、樹脂からなること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材充填容器が安価に製造できる。
(5)に記載する蓄熱材充填容器において、蓄熱材は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材であること、を特徴とする。また、(6)に記載する蓄熱材充填容器において、潜熱蓄熱材は、アンモニウムミョウバン(AlNH(SO・12HO)と無水硫酸ナトリウム(NaSO)とを含むこと、またはエチルマルトールを含むこと、を特徴とする。この特徴により、例えば、潜熱蓄熱材に含まれるアンモニウムミョウバンは、固相から液相に相変化する際に必要な潜熱が、他の潜熱蓄熱材に比して、より大きい物質であるため、このアンモニウムミョウバンを含む潜熱蓄熱材でも、潜熱により蓄熱できる蓄熱量が大きく、潜熱蓄熱材は、優れた機能を有する。同様に、潜熱蓄熱材に含まれるエチルマルトールは、固相から液相に相変化する際に必要な潜熱が大きく、かつ過冷却度が小さい物質であるため、このエチルマルトールを含む潜熱蓄熱材等でも、潜熱により蓄熱できる蓄熱量が大きく、かつ蓄えた潜熱を安定的に放出でき、潜熱蓄熱材は、優れた機能を有する。このように、潜熱により蓄熱できる蓄熱量がより大きく得られる物性の潜熱蓄熱材であっても、本発明の蓄熱材充填容器は、潜熱蓄熱材の密封にあたり、このような有意性のある物性を損なうことなく、有効に用いることができる。
(7)に記載する蓄熱材充填容器において、蓄熱材は、水との化学反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う化学蓄熱材であること、を特徴とする。この特徴により、反応熱により蓄熱できる蓄熱量がより大きく得られ、かつ蓄えた熱を安定的に放出できる物性の化学蓄熱材であっても、本発明の蓄熱材充填容器は、化学蓄熱材の密封にあたり、このような有意性のある物性を損なうことなく、有効に用いることができる。
(8)生じた熱を蓄熱する蓄熱材と、該蓄熱材を充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器と、該蓄熱材充填容器を介して、蓄熱材との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、を有する蓄熱槽において、蓄熱材充填容器は、(1)乃至(7)のいずれか1つに記載する蓄熱材充填容器であること、を特徴とする。この特徴により、例えば、同体積で、水の蓄熱量42kJの約10倍を超える蓄熱量を保持できる物性の潜熱蓄熱材等が、蓄熱材充填容器に密封され、このような潜熱蓄熱材等による蓄熱または放熱を利用した蓄熱槽を構成すれば、蓄熱槽の構造を、簡単かつ小さくすることが可能となり、蓄熱槽全体を、従来の蓄熱槽(貯湯槽)との対比で、例えば、1/3〜1/4程度等までコンパクト化することができる。
実施形態の実施例1に係る蓄熱材充填容器に蓄熱材を充填して密封した様子を示す半断面図である。 同じく、実施例2に係る蓄熱材充填容器を示す斜視図である。 同じく、実施例3に係る蓄熱材充填容器を示す斜視図である。 実施形態に係る蓄熱材充填容器の圧力調整弁を示す断面図であり、圧力調整弁の作用を説明する図である。 変形形態に係る圧力調整弁を示す断面図である。 実施形態に係る蓄熱材充填容器を横に寝かせた状態で配置した蓄熱槽を示す模式図である。 変形例1に係る蓄熱材充填容器の配置形態で構成した蓄熱槽を示す模式図である。 変形例2に係る蓄熱材充填容器の配置形態で構成した蓄熱槽を示す模式図である。 変形例3に係る蓄熱材充填容器の配置形態で構成した蓄熱槽を示す模式図である。 変形例4に係る蓄熱材充填容器の配置形態で構成した蓄熱槽を示す模式図である。 変形例5に係る蓄熱材充填容器の配置形態で構成した蓄熱槽を示す模式図である。 変形例6に係る蓄熱材充填容器の配置形態で構成した蓄熱槽を示す模式図である。
(実施形態)
以下、本発明に係る蓄熱材充填容器、及び蓄熱槽について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態では、本発明に係る蓄熱材充填容器に密封する蓄熱材が、相変化に伴う潜熱の出入りにより蓄熱を行う潜熱蓄熱材である場合について、説明する。また、蓄熱槽は、病院やビルの発電等に用いられるコジェネレーション(CogenerationまたはCombined Heat and Power)として、ガスエンジンシステムの排熱を利用して熱媒体を約90℃に加熱し、80〜90℃の温度帯域で行う蓄熱とその放熱により、給湯設備や、冷暖房を行う空気調和設備の熱源(エネルギ源)として活用する目的で用いられる。蓄熱と放熱は、蓄熱材によって行われ、この潜熱蓄熱材は、本実施形態に係る蓄熱材充填容器に充填されている。この蓄熱材充填容器は、蓄熱槽に複数収容されている。
はじめに、蓄熱材について、説明する。図1は、実施形態に係る蓄熱材充填容器に蓄熱材を充填して密封した様子を示す半断面図である。図1に示すように、蓄熱材2は、蓄熱材充填容器10の内部空間13に充填されている。蓄熱材2は、本実施形態では、相変化に伴う潜熱の出入りにより、蓄熱を可能とする潜熱蓄熱材であり、アンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH(SO・12HO)と、無水硫酸ナトリウム(NaSO)とからなる蓄熱材である。この蓄熱材2では、添加剤として、無水硫酸ナトリウムが、主成分であるアンモニウムミョウバンに配合されており、蓄熱材2の融点を調整する調整剤の役割を担う。
アンモニウムミョウバンは、融点93.5℃の物性で、常温では固体の物質である。そのため、アンモニウムミョウバンが、単体で融点未満の90℃程度に加熱されたとしても、アンモニウムミョウバンは、ほとんど溶融することなく、潜熱を蓄熱することもできない。
無水硫酸ナトリウムは、融点884℃の物性で、常温では固体の物質である。蓄熱材2では、その全体重量に占める無水硫酸ナトリウム(NaSO)の割合が、1wt%以上、かつ10wt%未満の範囲内で、主成分であるアンモニウムミョウバンに添加されて混合される。このような添加割合で無水硫酸ナトリウムが、アンモニウムミョウバンに配合されると、その混合物である蓄熱材2の物性は、アンモニウムミョウバンの融点より低い温度の融点となる。
ここで、蓄熱材2に占める無水硫酸ナトリウムの比率と、無水硫酸ナトリウムの添加割合を変化させた蓄熱材2の、潜熱による蓄熱量との関係について、表1を用いて簡単に説明する。表1は、無水硫酸ナトリウムの添加割合を0wt%から10wt%まで変化させた各蓄熱材2を試料とし、90℃に加熱保持した際の各試料の潜熱による蓄熱量について、示差走査熱量測定装置による実測値を示す。
Figure 0006434867
表1から容易に理解できるように、主成分であるアンモニウムミョウバンに、無水硫酸ナトリウムの添加する割合を、蓄熱材2の全体重量あたり、1wt%から10wt%と高くなるにつれて、蓄熱材2の蓄熱量が増加する傾向にある。しかしながら、無水硫酸ナトリウムの添加割合が10wt%になると、90℃の加熱で融解し蓄熱した蓄熱材2(融点約90℃)が、80℃まで冷却されたとき、80℃の蓄熱材2では、凝固せず、ほぼ液体の状態が保持される過冷却現象が生じてしまう。
この過冷却現象を解除する過冷却解除温度は、80℃未満の温度となり、融点と過冷却解除温度の差分だけ蓄熱材2が顕熱を失うこととなるため、80〜90℃の温度帯域で、前述した給湯設備や冷暖房の熱源に活用する用途には適さない。よって、蓄熱材2は、全体重量に占める無水硫酸ナトリウムの添加割合を、1wt%以上、かつ10wt%未満の範囲内で配合することが好ましい。
本実施形態では、表1に示すように、蓄熱材2は、その体積1Lあたり400kJ以上の蓄熱量を有し、体積1Lあたりの水の蓄熱量42kJに対し、同体積で約10倍の蓄熱量を保持可能とする物性を有する。また、蓄熱材2は、ガスエンジンシステムからの排熱で、約90℃に加熱された熱媒体3を利用して、固相から液相に相変化するときの潜熱(吸熱)によって蓄熱する。その一方で、この蓄熱材2は、無水硫酸ナトリウムを、前述した範囲内の添加割合で配合していることで、融点と過冷却解除温度を80〜90℃の範囲内に調整できており、液相から固相に相変化するときの潜熱(発熱)によって、80〜90℃の温度帯域で放熱する。特に、蓄熱材2の融点約90℃と過冷却解除温度との温度差が、10℃程度に温度帯域を狭く収まっていると、蓄熱材2において、蓄熱される熱量と、放熱される熱量とが、安定的に得られる。
なお、本実施形態では、主成分とする融点93.5℃のアンモニウムミョウバンに、無水硫酸ナトリウムを添加して混合して融点約90℃の蓄熱材2を生成し、蓄熱材2の過冷却解除温度を、80〜90℃の範囲内に調整した。しかしながら、潜熱蓄熱材の融点と過冷却解除温度は、このような温度帯域に限定されるものではなく、例えば、20〜30℃の範囲や、50〜60℃の範囲等のように、放熱を利用する熱供給先で、必要とする熱源の温度帯域に応じて調整されれば良い。融点と過冷却解除温度を調整するのにあたり、添加剤である無水硫酸ナトリウムの添加割合を変えるほか、無水硫酸ナトリウムのほかにも、他の物質を添加させることや、無水硫酸ナトリウムに代えて別の物質を添加材として配合しても良い。
また、蓄熱材2は、アンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH(SO・12HO)と、無水硫酸ナトリウム(NaSO)とからなる組成に限定されるものではない。潜熱蓄熱材は、本実施形態の蓄熱材2のほかにも、例えば、エチルマルトールを含む蓄熱材料であっても良い。エチルマルトールは、結晶化速度が速い物性であり、蓄熱された熱を、比較的短い時間で放熱することができる。加えて、エチルマルトールを含む潜熱蓄熱材の物性は、融点約90℃、過冷却解除温度約86℃であり、90℃程度で蓄熱し、その蓄えた熱を80℃以上で放熱することを可能にするため、潜熱蓄熱材として優れている。そのほか、潜熱蓄熱材は、潜熱により蓄熱を行うのにあたり、相変化で体積の増減を伴う性状の蓄熱材や、構造中に水を含む蓄熱材であれば、何でも良い。
また、蓄熱材2は、水との化学反応に伴う反応熱により、吸熱または放熱を行う化学蓄熱材でも良い。この化学蓄熱材の場合、構造変化に伴う体積増減の変化がほとんどない特性や、体積増減の変化が生じる特性に関係なく、化学蓄熱材は、いずれの特性でも良い。
次に、蓄熱材充填容器について、説明する。図6は、実施形態に係る蓄熱材充填容器を横に寝かせた状態で配置した蓄熱槽を示す模式図である。蓄熱材充填容器10は、蓄熱槽1内に配置される容器で、蓄熱材2を充填して密封するのに用いられる。この蓄熱材充填容器10は、蓄熱材2を収容するための内部空間13を形成する本体部11と、内部空間13とその外部とが連通する開口部12と、温度変化や構造変化に伴う蓄熱材2の体積増減により、変動する内部空間13の圧力を制御する圧力調整弁20と、を有している。
本体部は、図1に例示するように、その外形を略直方体形状に形成された本体部11(実施例1)であるほか、外形が細長の円筒形状に形成された本体部11A(実施例2の図2参照)、外形が球形状で、その芯部に蓄熱材2の収容空間を有した形状に形成された本体部11B(実施例3の図3参照)等である。すなわち、本体部11は、充填された蓄熱材2との接触面積をより大きく取ることができると共に、蓄熱槽1内に貯められた水等の熱媒体3との接触面積をより大きく取ることができる形状に形成されている。
蓄熱材充填容器10は、本体部11の内部空間13に充填し、後述する圧力調整弁20と共に密封された蓄熱材2を、蓄熱槽1内に貯められた水等の熱媒体3と区画して互いに混ざるのを防ぎ、蓄熱材2と熱媒体3とがいずれも透過しない材質からなる。この本体部11(本体部11A,11Bも同様)と圧力調整弁20のキャップ22は、樹脂からなり、本実施形態では、ポリプロピレン(PP:Polypropylene)製である。
図4は、実施形態に係る蓄熱材充填容器の圧力調整弁を示す断面図であり、圧力調整弁の作用を説明する図である。図1及び図4に示すように、圧力調整弁20は、本体部11の開口部12に設けられている。この圧力調整弁20は、水等の液体LQが当該蓄熱材充填容器10の外部から内部空間13に流入することを遮断すると共に、蓄熱材2が内部空間13から外部に流出することを遮断する一方で、内部空間13にある気体GSが外部に流出するのを許容する弁体部21を有している。
具体的には、圧力調整弁20は、本実施形態では、本体部11の開口部12を閉塞する弁体部21と、保持した弁体部21を本体部11に螺合または融着により固定するキャップ22とからなる。弁体部21は、内部空間13と当該蓄熱材充填容器10の外部との間で、熱媒体3である水の流通を阻む防水性と、気体GSとして、空気と水蒸気だけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)製の防水透湿膜で形成されている。
蓄熱材2は、蓄熱材充填容器10の開口部12から本体部11の内部空間13に、粉体または液体の状態で充填された後、開口部12を弁体部21で閉塞して密封される。このような蓄熱材2入りの蓄熱材充填容器10は、図6に示すように、蓄熱槽1に収容される。蓄熱槽1内には、水等の熱媒体3が貯められている。熱媒体3は、蓄熱材2入りの蓄熱材充填容器10を介して、蓄熱材2との間で熱を移動させる役割を担う流体で、蓄熱槽1の全容積をほぼ満たす程度の容量に貯められている。
蓄熱槽1は、熱発生源であるガスエンジンシステムと、熱供給先である給湯設備や空気調和設備との間に管路上に設置される。その設置にあたり、熱媒体3の流路は、熱発生源から蓄熱槽1を通じて熱供給先へ一方向の流れとなっている場合のほか、熱発生源と蓄熱槽1と熱供給先とを循環する流れとなっている場合もある。
蓄熱槽1は、当該蓄熱槽1に連通する流入側流路管より、ガスエンジンシステム(熱発生源)からの排熱で約90℃に加熱された熱媒体3を槽内に取り入れ、熱媒体3を通じて蓄熱材充填容器10内の蓄熱材2に伝熱し、固相から液相に相変化するときの潜熱(吸熱)により、約90℃で蓄熱する。そして、この蓄熱槽1は、液相から固相に相変化するときの潜熱(発熱)により、蓄熱材2から放熱する約90℃の熱を、蓄熱材充填容器10を通じて熱媒体3に伝熱し、当該蓄熱槽1に連通する流出側流路管より、給湯設備や空気調和設備(熱供給先)に向けてこの熱媒体3を、エネルギ源として供給する。なお、空気調和設備で冷房を行う場合には、流出側流路管供給される熱媒体3は、ナチュラルチラーに供給され、冷房用の冷水を生成するための熱源として使用される。
蓄熱槽1では、蓄熱材2入りの蓄熱材充填容器10(以下、単に「蓄熱材充填容器10」と総称する。蓄熱材充填容器10A,10B,10Cについても同様)が複数、規則化された配置形態で収容される。その配置形態の一例として、図1に示す全ての蓄熱材充填容器10が、図6に示すように、圧力調整弁20を蓄熱槽1の側壁に向けて横向きに寝かせた姿勢で、複数列に亘り、複数段に積み重ねて配置され、熱媒体3に完全に浸漬した状態で収容されている。
また、上記例の変形例1に係る蓄熱材充填容器の配置形態として、図7に示すように、蓄熱槽1Aでは、図2に示す全ての蓄熱材充填容器10Aが、圧力調整弁20を蓄熱槽1Aの天井に向けた縦置きの姿勢で、複数列に亘って平行に互いに間隔を設けて配置され、圧力調整弁20より下方の本体部11Aだけを熱媒体3に浸漬した状態で収容されている。
また、変形例2に係る蓄熱材充填容器の配置形態として、図8に示すように、蓄熱槽1Bでは、図3に示す全ての蓄熱材充填容器10Bが、蓄熱槽1B内に載置された棚30に、圧力調整弁20を蓄熱槽1Bの天井に向けた縦置きの姿勢で、横並びに複数段に分けて配置され、熱媒体3に完全に浸漬した状態で収容されている。
また、変形例3に係る蓄熱材充填容器の配置形態として、図9に示すように、蓄熱槽1Cでは、本体部を直方体または立方体形状に形成した蓄熱材充填容器10Cが、蓄熱槽1C内に載置された棚30に、圧力調整弁20を蓄熱槽1Cの天井に向けた縦置きの姿勢で、横並びに複数段に分けて配置され、熱媒体3に完全に浸漬した状態で収容されている。
変形例2,3に係る蓄熱材充填容器の配置形態のように、棚30を利用して蓄熱材充填容器10B,10Cを複数段に分けて蓄熱槽1B,1Cに配置すると、上下の位置関係にある下側の蓄熱材充填容器10B等が、上側の蓄熱材充填容器10B等の重みによって圧迫されるのを回避できる。そのため、圧迫に起因する下側の蓄熱材充填容器10B等で、破裂等の損傷が確実に防止できる。
また、棚30を用いることで、隣接する蓄熱材充填容器10B等同士の間隔を、適切に取って蓄熱材充填容器10B等を配置することが可能となり、蓄熱材充填容器10Bの本体部11B等と熱媒体3との接触面積をより大きく確保することができる。これにより、潜熱蓄熱材2と熱媒体3との相互の熱交換が効率良く行われ、蓄熱槽1B等において、蓄熱と放熱に掛かる時間を、より短くすることができる。
次に、本実施形態の蓄熱材充填容器10(以下、蓄熱材充填容器10A,10B,10Cをも含めて、「蓄熱材充填容器10」と総称する。)と蓄熱槽1(以下、蓄熱槽1A,1B,1C,1D,1E,1Fをも含めて、「蓄熱材充填容器10」と総称する。)の作用・効果について説明する。蓄熱材充填容器10は、相変化に伴う潜熱の出入りにより蓄熱を行う蓄熱材2を、充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器であり、蓄熱材2を収容する内部空間13の圧力を制御する圧力調整弁20を備える。この圧力調整弁20は、液体LQが当該蓄熱材充填容器10の外部から内部空間13に流入することを遮断すると共に、蓄熱材2が内部空間13から外部に流出することを遮断する一方で、内部空間13にある気体GSが外部に流出するのを許容する弁体部21を有していること、を特徴とする。
この特徴により、蓄熱材充填容器10内の蓄熱材2が、その融点約90℃を超える温度で加熱されて融解し、この蓄熱材2の体積増加により、内部空間13の圧力が上昇しても、図4に示すように、内部空間13に内在する空気や水蒸気等の気体GSが、弁体部21を通じて蓄熱槽1内に放出できる。そのため、蓄熱材充填容器10内の内圧が、当該蓄熱材充填容器10の破裂に至る圧力まで上昇してしまうのを抑止できる。また、図6に示すように、蓄熱材充填容器10が、蓄熱槽1内の熱媒体3に浸漬された状態にあっても、熱媒体3は、弁体部21を通じて内部空間13に侵入せず、内部空間13に存在する蓄熱材2は、弁体部21を通じて、蓄熱槽1内の熱媒体3に流出することもない。そのため、本来不要な空気や水蒸気等の気体GSと、水等の熱媒体3との接触に起因した蓄熱材2の性能劣化を、効果的に防止することができる。
従って、本実施形態に係る蓄熱材充填容器10によれば、蓄熱材2の性能の劣化を招くことなく、蓄熱材2の相変化に伴う体積変化を確実に吸収することができる、という優れた効果を奏する。
また、本実施形態の蓄熱材充填容器10では、弁体部21は、内部空間13とその外部との間で、水の流通を阻む防水性と、空気と水蒸気だけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材で形成されていること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材2が、本実施形態のように、アンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH(SO・12HO)と、無水硫酸ナトリウム(NaSO)とからなる組成である場合には勿論、融解時における蓄熱材2の体積増加による内部空間13の圧力上昇で、内部空間13に内在する空気や水蒸気等の気体GSが、弁体部21を通じて蓄熱槽1内に放出できる。
また、アンモニウムミョウバンのように、構造中に水分を含む無機塩水和物を主成分とした潜熱蓄熱材(蓄熱材2)の場合、蓄熱材充填容器10の内部空間13(図4参照)で、蓄熱材2の加熱により、水分が蒸発して、弁体部21を通じて蓄熱槽1A内に放出されてしまい、蓄熱材2の組成変化が生じてしまうことも考えられる。しかしながら、図7に示すように、このような蓄熱材2入りの蓄熱材充填容器10Aが、圧力調整弁20より下方の本体部11Aだけを熱媒体3に浸漬した状態で収容し、熱媒体3として温水を選定することで、蓄熱槽1A内の空間から水蒸気が、弁体部21を通じて内部空間13に侵入する。これにより、蓄熱材2の加熱時に弁体部21の外部に放出する水分を、弁体部21を通じて内部空間13に流入した水蒸気により補充することができるため、水分を喪失することなく、無機塩水和物を主成分とする潜熱蓄熱材の組成が維持され、蓄熱材2の性能の劣化を回避することができる。
また、蓄熱材2が、水との化学反応に伴う反応熱により、吸熱または放熱を行う化学蓄熱材の場合にも、加熱時の脱水反応により、水分が蒸発して、弁体部21を通じて蓄熱槽1A内に放出されてしまい、反応生成物が不可逆的に生成されることが考えられる。しかしながら、無機塩水和物を主成分とした潜熱蓄熱材の場合と同様に、蓄熱材2入りの蓄熱材充填容器10Aが、圧力調整弁20より下方の本体部11Aだけを熱媒体3に浸漬した状態で収容し、熱媒体3として温水を選定することで、蓄熱槽1A内の空間から水蒸気が、弁体部21を通じて内部空間13に侵入し、蓄熱材2と反応する水分を供給することができる。これにより、蓄熱材2は反応率を低下させることなく、可逆的に水との化学反応を進行させることができ、蓄熱材2の性能の劣化を回避することができる。
また、本実施形態の蓄熱材充填容器10では、防水透湿素材は、ポリテトラフルオロエチレンであること、を特徴とする。この特徴により、ポリテトラフルオロエチレン製の弁体部21は、例えば、80〜100℃近傍等という高温環境下にも耐え得る耐熱性や、強い酸性物質や強いアルカリ性物質にも耐え得る耐薬品性、耐腐食性に優れた弁となり得る。そのため、蓄熱材2や熱媒体3が、たとえ腐食性を持った高温の物質であって、このような熱媒体3等を貯めた蓄熱槽1でも、蓄熱材充填容器10を問題なく使用することができる。また、ポリテトラフルオロエチレンは、毒性を持たず化学的に不活性であるため、ポリテトラフルオロエチレン製の弁体部21は、使用上、安全である。
また、本実施形態の蓄熱材充填容器10では、内部空間13を形成する本体部11は、樹脂からなること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材充填容器10が安価に製造できる。特に、本実施形態のように、本体部11がポリプロピレン製で形成されていると、安価である上に、100℃という温度環境下にも耐え得る耐熱性が優れており、本体部11の成形も容易である。
また、本実施形態の蓄熱材充填容器10では、充填して密封される蓄熱材2は、アンモニウムミョウバン(AlNH(SO・12HO)と無水硫酸ナトリウム(NaSO)とを含む蓄熱材料であること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材2に含まれるアンモニウムミョウバンは、固相から液相に相変化する際に必要な潜熱が、他の潜熱蓄熱材に比して、より大きい物質であるため、このアンモニウムミョウバンを含む蓄熱材2でも、潜熱により蓄熱できる蓄熱量が大きく、蓄熱材2は、優れた機能を有する。また、全体の重量に占める無水硫酸ナトリウムの比率を調整することにより、蓄熱材2の蓄熱や放熱に係る温度を、利用温度帯に合わせて調整することができる。このように、潜熱により蓄熱できる蓄熱量がより大きく得られる物性の蓄熱材2であっても、蓄熱材充填容器10は、蓄熱材2の密封にあたり、このような有意性のある物性を損なうことなく、有効に用いることができる。
前述したように、特に蓄熱材2全体重量に占める無水硫酸ナトリウム(NaSO)の割合が、1wt%以上、かつ10wt%未満の範囲内で、主成分であるアンモニウムミョウバンに添加されていると、蓄熱材2では、潜熱により90℃程度の熱が蓄熱できる。そして、熱供給先で、80℃以上の温度の熱源を必要とする環境条件の下、蓄熱された熱源から80℃以上という高温の熱を長時間、放熱することができる。
また、蓄熱槽1等(1,1A,1B,1C)は、相変化に伴う潜熱の出入りにより蓄熱または放熱を行う蓄熱材2と、この蓄熱材2を充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器10等(10,10A,10B,10C)と、蓄熱材充填容器10等を介して、蓄熱材2との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体3と、を有している。これにより、同体積で、水の蓄熱量42kJの約10倍を超える蓄熱量を保持できる物性の蓄熱材2が、蓄熱材充填容器10等に密封され、このような蓄熱材2等による蓄熱または放熱を利用した蓄熱槽1等を構成すれば、蓄熱槽1等の構造を、簡単かつ小さくすることが可能となる。そのため、蓄熱槽1等全体を、従来の蓄熱槽(貯湯槽)との対比で、例えば、1/3〜1/4程度等までコンパクト化することができる。
また、蓄熱槽1等は、蓄熱材2により、90℃程度の温度で蓄熱し、その蓄熱した熱を80℃以上に放熱した熱源を熱供給先に供給できるため、ポテンシャルエネルギの高い熱源となり得る蓄熱槽として、利用できる。そして、この蓄熱槽1等は、発電用や空気調和設備用等のエネルギ源として、例えば、太陽光で温められた温水を蓄熱して貯水する蓄熱槽や、病院やビル等に設置される容量数十〜数百mの槽、大型プラントに設置されるプール施設等、幅広い用途先で利用できる。また、これまで蓄熱槽を設置したくても、そのスペースが十分に確保できず、必要量の熱源が得られない場合もあったが、蓄熱材2は、蓄熱量と放熱量をより大きく得ることができているため、本実施形態の蓄熱槽1等は、そのような狭いスペースに設置されても、必要量の熱源を、熱供給先に提供することができる。なお、蓄熱槽1等は、蓄熱材2入りの蓄熱材充填容器10等を配置する貯湯槽として、新設の貯湯槽、または既存の貯水槽を利用して構成できる。
以上において、本発明を実施形態、及び変形例1〜3に即して説明したが、本発明は上記実施形態の実施例1〜3、及び変形例1〜3に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
(1)例えば、実施形態では、キャップ22に保持した弁体部21を有する圧力調整弁20を例示したが、蓄熱材充填容器10の本体部11の開口部12は、弁体部21で閉塞されていれば良く、実施形態の圧力調整弁20に限定されず、圧力調整弁の構成は種々変更可能である。その一例を図5に示す。図5は、変形形態に係る圧力調整弁を示す断面図である。
蓄熱材充填容器110は、蓄熱材2を収容する内部空間113を形成する本体部111と、内部空間113とその外部とが連通する開口部112と、内部空間113の圧力を制御する圧力調整弁120と、を有している。圧力調整弁120は、弁体部21と同じ材料のポリテトラフルオロエチレン製の防水透湿膜(防水透湿素材)で形成された弁体部121で、蓄熱材充填容器110の本体部111の開口部112を閉塞し、接着または溶着による固着部122で固着することにより、弁体部121を本体部111と一体化したものである。
(2)例えば、実施形態では、本体部11を、ポリプロピレン製の容器とした。しかしながら、本体部11は、ポリプロピレン製の容器に限らず、例えば、芯材とするアルミ箔の両面に、シート状の樹脂をそれぞれ積層した複層構造で袋状に成形されたフィルム等によって構成されていても良い。このような本体部は、複層構造のフィルム等によって構成されているため、ある程度の耐圧強度を確保できると共に、柔軟性を有した容器となる。そして万一、圧力調整弁20の機能が低下した場合でも、袋状のフィルムで成形された本体部は、相変化に基づく潜熱等で、充填されている蓄熱材2に生じる体積変化にも対応できる。また、このような袋状のフィルムは、加熱による融着で成形することができ、製造コストの低減に寄与する。
(3)例えば、実施形態では、本体部11の材質は、樹脂製に限定されるものでなく、例えば、銅、アルミニウム合金等の金属材料でも良く、熱伝導率が比較的高く、耐腐食性を有した材料であれば、何でも良い。また、キャップ22についても、樹脂製に限定されるものでなく、内部空間に充填した潜熱蓄熱材を確実に密封するのにあたり、本体部の開口部を弁体部で確実に閉塞できるものであれば、キャップ22に相当する部材の構造・材質・形状・大きさは、特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
(4)例えば、実施形態では、蓄熱槽1等の蓄熱にあたり、その熱発生源をガスエンジンシステムの排熱としたが、熱発生源は、実施形態に限定されるものではなく、種々変更可能である。潜熱蓄熱材の融点より高い温度の熱であれば、潜熱蓄熱材に蓄熱することができるため、熱発生源は、このような高い温度の熱を蓄熱槽に供給できる装置対象であれば、何でも良い。
(5)例えば、実施形態では、蓄熱槽1等の放熱による熱源の熱供給先として、80〜90℃の温度帯域で使用する給湯設備や空気調和設備を挙げたが、熱供給先は、例えば、ガス吸収式冷凍機の再生器を加熱するのに用いる熱源等のほか、80℃以上の温度を必要とする装置を対象に、多様に用いることができる。また、80℃未満の温度帯域で使用する給湯設備や空気調和設備を熱供給先とすることもできる。
(6)例えば、実施形態では、潜熱蓄熱材入りの蓄熱材充填容器を、蓄熱槽1,1A,1B,1Cに例示したが、蓄熱材充填容器の本体部の形状や、蓄熱槽内での蓄熱材充填容器の配置形態、蓄熱槽内の棚の有無は、実施形態及び変形例1〜3に限定されるものはなく、適宜変更可能である。
その一例を変形例4〜6に挙げる。変形例4は、蓄熱槽内において、変形例1に係る蓄熱材充填容器10Aの配置形態を、さらに変更したものである。図10に示すように、蓄熱槽1Dでは、図2に示す全ての蓄熱材充填容器10Aが、圧力調整弁20を蓄熱槽1Dの天井に向けた縦置きの姿勢で、複数列に亘って平行に互いに間隔を設けて配置され、蓄熱材充填容器10A全体が、熱媒体3に浸漬した状態で収容されている。
また、図11に示すように、変形例5に係る蓄熱槽1Eでは、図3に示す全ての蓄熱材充填容器10Bがそれぞれ、圧力調整弁20を不特定な向きとする姿勢で、ランダムに積まれて配置され、熱媒体3に完全に浸漬した状態で収容されている。なお、このような配置形態を選択する場合には、蓄熱材充填容器10Bにおいて、耐圧強度等の耐久性がある程度確保されていることが必要になる。
また、変形例6は、蓄熱槽内において、変形例3に係る蓄熱材充填容器の配置形態からさらに変更したものである。具体的には、図12に示すように、蓄熱槽1Fでは、図1に示す全ての蓄熱材充填容器10が、蓄熱槽1F内に載置された棚30に、圧力調整弁20を蓄熱槽1Fの側壁に向けて横向きに寝かせた姿勢で、横並びに複数段に分けて配置され、熱媒体3に完全に浸漬した状態で収容されている。
(7)例えば、変形例2,3,6では、蓄熱材充填容器10,10B,10Cを、蓄熱槽1B,1C,1Fに設置した棚30に並べて配置したが、蓄熱材充填容器10等が、耐圧強度等の耐久性を十分に有しており、かつ熱媒体3との接触面積をできる限り大きく確保したまま、積層して配置できるようであれば、棚30のような棚部材は設置しなくても良い。
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F 蓄熱槽
2 潜熱蓄熱材
3 熱媒体
10,10A,10B,10C,110 蓄熱材充填容器
11,11A,11B,110 本体部
13 内部空間
20,120 圧力調整弁
21,121 弁体部
LQ 液体
GS 気体

Claims (5)

  1. 生じた熱を蓄熱する蓄熱材を、充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器において、
    前記蓄熱材を収容する内部空間の圧力を制御する圧力調整弁を備え、
    前記圧力調整弁は、液体が当該蓄熱材充填容器の外部から前記内部空間に流入することを遮断すると共に、前記蓄熱材が前記内部空間から前記外部に流出することを遮断する一方で、前記内部空間にある気体が前記外部に流出するのを許容する弁体部を有していること、
    前記蓄熱材は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材であること、
    前記潜熱蓄熱材は、アンモニウムミョウバン(AlNH (SO ・12H O)と無水硫酸ナトリウム(Na SO )とを含むこと、またはエチルマルトールを含むこと、
    を特徴とする蓄熱材充填容器。
  2. 請求項1に記載する蓄熱材充填容器において、
    前記弁体部は、前記内部空間と前記外部との間で、水の流通を阻む防水性と、空気と水蒸気だけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材で形成されていること、
    を特徴とする蓄熱材充填容器。
  3. 請求項2に記載する蓄熱材充填容器において、
    前記防水透湿素材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)であること、
    を特徴とする蓄熱材充填容器。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する蓄熱材充填容器において、
    前記内部空間を形成する本体部は、樹脂からなること、
    を特徴とする蓄熱材充填容器。
  5. 生じた熱を蓄熱する蓄熱材と、該蓄熱材を充填して密封するのに用いる蓄熱材充填容器と、該蓄熱材充填容器を介して、蓄熱材との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、を有する蓄熱槽において、
    前記蓄熱材充填容器は、請求項1乃至請求項のいずれか1つに記載する蓄熱材充填容器であること、
    を特徴とする蓄熱槽。
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