以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる小便器装置の要部構成を表すブロック図である。 なお、図1は、水路系と電気系との要部構成を併せて表している。
本実施形態にかかる小便器装置100は、第1の洗浄水供給手段140と、第2の洗浄水供給手段(アンモニア溶解手段、洗浄水散水手段)160と、小便器170と、を備える。本実施形態にかかる小便器装置100は、制御部110と、人体検知手段120と、流路切替弁130と、機能水生成手段150と、を備えていてもよい。
小便器170は、男子用小便器である。小便器170は、ボウル部171(図2および図3参照)と、トラップ部173(図5参照)と、を有する。トラップ部173は、ボウル部171の下部に設けられ、トラップ部173自身の内部において封水を形成する。これにより、トラップ部173は、小便器装置100の後方に設けられた図示しない横引排水配管などから悪臭や害虫類などがトイレ室などに侵入することを防止することができる。トラップ部173には、尿および水が流れ込む。
流路切替弁130は、制御部110から送信された信号に基づいて、図示しない給水源(例えば水道あるいはタンクなど)から供給された水が第1の洗浄水供給手段140へ導かれる状態と、給水源から供給された水が第2の洗浄水供給手段160へ導かれる状態と、を切り替える。
第1の洗浄水供給手段140は、スプレッダ141を有し、流路切替弁130を介して給水源から供給された水を小便器170のボウル部171に供給する。
第2の洗浄水供給手段160は、散水部161を有し、流路切替弁130を介して給水源から供給された水であって液滴化された水を散水部161から小便器170のボウル部171に供給する。散水部161から小便器170のボウル部171に供給された水は、アンモニアを溶解することができる。第2の洗浄水供給手段160が散水する液滴化された水の径は、例えば約10マイクロメートル(μm)以上12000μm以下である。第2の洗浄水供給手段160が散水する液滴化された水の径の詳細については、後述する。
ここで、アンモニアの発生のメカニズムは、例えば次の通りである。
すなわち、便器に排尿がなされると、尿は、便器の表面に付着したり、トラップ部の封水(滞留水)に滞留する。滞留した尿に、空気中や便器表面等に存在する一般細菌が付着する。一般細菌は尿から栄養を吸収し、ウレアーゼ酵素を出す活動が活性化され、ウレアーゼ酵素より尿素の分解抑制が促進される。尿素はアンモニアと二酸化炭素に分解され、そのアンモニアが悪臭の一因となる。また、発生したアンモニアにより、分解物の水素イオン濃度(pH)がアルカリ性に偏り、pHが8.0から8.5を超えてアルカリ性に偏ると、尿中に溶解していたカルシウムイオンが、難溶性のカルシウム化合物(リン酸カルシウム等、また一般的に尿石と呼ばれる)になる。この尿石が菌の温床となり、加速度的にこれまでの過程を繰り返し、一層のアンモニアを発生させることとなる。
機能水生成手段150は、制御部110から送信された信号に基づいて、流路切替弁130を介して給水源から供給された水により機能水を生成することができる。機能水は、アンモニアを溶解および分解することができる。
例えば、機能水生成手段150は、図示しない陽極板および図示しない陰極板を内部に有し、制御部110から送信される信号に基づいて、内部を流れる水道水や雑用水を電気分解できる。ここで、水道水は、塩化物イオンを含んでいる。塩化物イオンは、水源(例えば、地下水や、ダムの水や、河川などの水)に例えば食塩(NaCl)や塩化カルシウム(CaCl2)などとして含まれている。そのため、塩化物イオンを電気分解することにより次亜塩素酸が生成される。その結果、機能水生成装置150において電気分解された水(電解水)は、次亜塩素酸を含む液(機能水)に変化する。
次亜塩素酸は、消臭成分あるいは殺菌成分として機能する。次亜塩素酸を含む液は、アンモニアを溶解したり、分解したり、あるいは一般細菌などを殺菌したりすることができる。
なお、本実施形態の機能水生成手段150は、次亜塩素酸を含む液を生成することに限定されるわけではない。機能水生成手段150において生成される機能水は、銀イオンや銅イオンなどの金属イオンを含む液であってもよい。あるいは、機能水生成手段150において生成される機能水は、電解塩素やオゾンなどを含む液であってもよい。あるいは、機能水生成手段150において生成される機能水は、酸性水やアルカリ水であってもよい。これらの中でも、次亜塩素酸を含む溶液は、アンモニアをより溶解および分解することができる。また、機能水生成手段150は、陽極板および陰極板を有する電解槽ユニットに限定されるわけではない。
機能水生成手段150が制御部110から送信される信号に基づいて機能水を生成する場合には、第2の洗浄水供給手段160は、機能水生成手段150において生成された機能水を散水部161から小便器170のボウル部171に供給する。
一方で、機能水生成手段150が機能水を生成しない場合には、第2の洗浄水供給手段160は、流路切替弁130および機能水生成手段150を介して給水源から供給された水(この水を真水と呼ぶ。真水は給水源から供給される水道水や雑用水である。)を散水部161から小便器170のボウル部171に供給する。
人体検知手段120は、小便器170の前方にいる使用者、すなわち小便器170から前方へ離間した位置に存在する使用者を検知することができる。このような人体検知手段120としては、例えば、赤外線投受光式の測距センサや、焦電センサや、ドップラーセンサなどのマイクロ波センサなどを用いることができる。
本実施形態によれば、第2の洗浄水供給手段160は、小便器170のボウル部171に水を供給し、ボウル部171の内部に生成されたアンモニアおよびボウル部171の周辺に存在するアンモニアの少なくともいずれかを溶解および分解する。ボウル部171の周辺に存在するアンモニアとは、例えば、ボウル部171の周辺に漂うアンモニアあるいはボウル部171の周辺に浮遊しているアンモニアをいう。これにより、第2の洗浄水供給手段160は、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを抑制することができる。また、第1の洗浄水供給手段140は、小便器170のボウル部171に水を供給し、小便器170に付着した尿を除去し、例えば体毛などの異物を除去することができる。また、第1の洗浄水供給手段140は、小便器170のトラップ部173に水を供給し、トラップ部173の内部の封水を新たに供給された水で置換することができる。
第2の洗浄水供給手段160から散水された水であって液滴化された水は、ボウル部171の内部に生成されたアンモニアおよびボウル部171の周辺に存在するアンモニアの少なくともいずれかを効率的に溶解する。これにより、第2の洗浄水供給手段160が液滴化された水を散水部161から小便器170のボウル部171に散水する場合には、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いをより抑制することができる。
第2の洗浄水供給手段160から散水された機能水は、ボウル部171の内部に生成されたアンモニアおよびボウル部171の周辺に存在するアンモニアの少なくともいずれかを溶解し分解する。これにより、第2の洗浄水供給手段160が機能水を散水する場合には、例えばアンモニアを溶解した水が小便器170の周りに付着し蒸発しても、アンモニアによる臭いが再び発生することを抑制することができる。
前述したように、第2の洗浄水供給手段160が散水する液滴化された水の径は、約10μm以上である。これにより、第2の洗浄水供給手段160から散水された液滴が空間を浮遊し続ける程度が低くなり、意図しない空間まで飛散することを抑制することができる。そのため、第2の洗浄水供給手段160から散水された液滴により、使用者が濡れたり、小便器170の周りが濡れることを抑制することができる。また、第2の洗浄水供給手段160が散水する液滴化された水の径は、約1200μm以下である。これにより、第2の洗浄水供給手段160から散水された液滴が比較的早く落下し、アンモニアを溶解する効果が低下することを抑制することができる。
ここで、水の径の数値の定義について述べる。第2の洗浄水供給手段160から散水される水の径は、一般的に一定の範囲を持っている。粒径の積算%の分布曲線が50%の横軸と交差するポイントの粒子径を50%径(一般的にメディアン径と呼ばれる)を、水の径とする。
図2は、本実施形態の第2の洗浄水供給手段の設置形態を例示する模式的斜視図である。
図2に表したように、例えば、第2の洗浄水供給手段160の散水部161は、小便器170のボウル部171の上部に設けられている。散水部161は、ボウル部171の下方へ液滴化された水を散水する。ここでいう「下方」とは、鉛直方向の下向きに限定されず、水平方向から下側の方向を含む。つまり、ここでいう「下方」とは、水平方向および水平方向よりも上側の方向を除く方向をいう。
これによれば、散水部161がボウル部171の上部から下方へ液滴化された水を散水するため、ボウル部171の内部には、散水部161から下方へ向かう気流が発生する。そのため、ボウル部171の内部で発生した気流は、アンモニアの上昇を抑えることができる。また、散水部161から散水された水は、アンモニアを溶解する。さらに、散水された水が次亜塩素酸を含む機能水である場合には、アンモニアの溶解に加え、アンモニアを無臭物質に分解する。これにより、使用者は、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを感じにくくなる。
また、液滴化された水を散水することにより、ボウル部171の表面にあるアンモニア発生源付近のアンモニアによる臭いを抑制することができることに加え、液滴が空間を通過する際に、空間中に存在するアンモニアによる臭いをも抑制することができる。さらに、単位水量あたりの水の表面積については、第1の洗浄水供給手段140から供給されるボウル部171の表面を伝う水の状態よりも、液滴化された水において著しく広くすることができる。結果、水がアンモニアと接触する面積を増やし、効率的に臭いを抑制することができる。空間中に存在する臭いは、尿を起因とするアンモニアのみならず、使用者が排尿した後の尿そのものの臭い(例えばコーヒー臭などのような摂取した食物由来の臭い)もある。その臭いについても、液滴化された水の散水により臭いを抑制することが可能である。
図3は、本実施形態の第2の洗浄水供給手段の他の設置形態を例示する模式的斜視図である。
図3に表したように、例えば、第2の洗浄水供給手段160の散水部161は、小便器170のボウル部171の下部に設けられている。散水部161は、ボウル部171の上方へ液滴化された水を散水する。ここでいう「上方」とは、鉛直方向の上向きに限定されず、水平方向から上側の方向を含む。つまり、ここでいう「上方」とは、水平方向および水平方向よりも下側の方向を除く方向をいう。
これによれば、散水部161がボウル部171の下部から上方へ液滴化された水を散水するため、散水部161から散水された水のうちの少なくとも一部は、ボウル部171の外側に漂うことができる。ボウル部171の外側に漂う水は、ボウル部171の外側に存在するアンモニアガスを溶解することができる。これにより、使用者は、小便器170の臭いだけではなく、小便器170の周りの臭いを感じにくくなる。
図4は、本実施形態のボウル部に供給される水の領域を表す模式的斜視図である。
図4(a)は、本実施形態の第1の洗浄水供給手段140からボウル部171に供給される水の領域を表す模式的斜視図である。図4(b)は、本実施形態の第2の洗浄水供給手段160からボウル部171に供給される水の領域を表す模式的斜視図である。
図4(a)に表したように、例えば、第1の洗浄水供給手段140のスプレッダ141は、小便器170のボウル部171の上部に設けられている。なお、スプレッダ141の設置形態は、図4(a)に表した例に限定されるわけではない。図4(a)に表した第1の領域171aのように、スプレッダ141は、ボウル部171の略中央部に水を供給する。つまり、第1の領域171aは、第1の洗浄水供給手段140のスプレッダ141から供給される水により洗浄されるボウル部171の内部の領域である。
ボウル部171の内部において第1の領域171aの左右両側(横側)には、第2の領域171bが存在する。第2の領域171bは、第1の洗浄水供給手段140のスプレッダ141から供給される水によっては洗浄されないボウル部171の内部の領域である。ボウル部171の内部においてリップ部175には、第3の領域171cが存在する。第3の領域171cは、第2の領域171bと同様に、第1の洗浄水供給手段140のスプレッダ141から供給される水によっては洗浄されないボウル部171の内部の領域である。本願明細書において「リップ部」とは、小便器170の側面179から前方へ突出した部分をいう。
図2に関して例示したように、例えば、第2の洗浄水供給手段160の散水部161は、小便器170のボウル部171の上部に設けられている。図4(b)に表した第4の領域171dのように、散水部161は、ボウル部171の略全体に水を供給する。つまり、第4の領域171dは、ボウル部171の内部の領域であって、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から供給される水の散水領域である。図4(b)に表したように、第4の領域171dは、第2の領域171bのうちの少なくとも一部を含む。第4の領域171dは、第3の領域171cのうちの少なくとも一部を含む。
これによれば、第2の洗浄水供給手段160は、第1の洗浄水供給手段140によっては水が供給されない領域(第2の領域171bおよび第3の領域171c)のうちの少なくとも一部に水を散水し供給することができる。そのため、第1の洗浄水供給手段140によっては水が供給されない領域に付着した尿から発生するアンモニアによる臭いを抑制することができる。これにより、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを抑制することができる。また、第1の洗浄水供給手段140によっては水が供給されない領域を洗浄することができる。
第2の洗浄水供給手段160が1回の動作でボウル部171に供給する水の量は、第1の洗浄水供給手段140が1回の動作でボウル部171に供給する水の量よりも少ない。第2の洗浄水供給手段160が1回の動作でボウル部171に供給する水の量は、例えば約20ミリリットル(mL)以上100mL以下程度である。第1の洗浄水供給手段140が1回の動作でボウル部171に供給する水の量は、例えば約0.4リットル(L)以上1.5L以下程度である。
これによれば、第2の洗浄水供給手段160は、第1の洗浄水供給手段140から供給される水によっては洗浄されないボウル部171の内部の領域(第2の領域171bおよび第3の領域171c)のうちの少なくとも一部を比較的少量の水で効率的に洗浄することができる。そのため、節水を実現することができる。
使用者の排尿行為は、ボウル部171から尿が飛び出さないようボウル部171の左右中央領域になされるものである。従って、小便器170のボウル部171の左右中央領域上部に取り付けられたスプレッダ141の直下の領域には、使用者からの多量の尿が全面的に付着することとなる。第1の洗浄水供給手段140から、スプレッダ141の直下の領域に、多量の水を全面的に供給し尿をボウル部171から洗い流すことにより、尿を起因とするアンモニアガスの発生を抑制することができる。一方、スプレッダ141の横側を含む領域には、使用者からの尿の飛散りが局所的に付着することになる。
これに対して、図4(b)に表したように、スプレッダ141は、スプレッダ141自身の横側の付近に水を散水し供給するため、スプレッダ141の横側の付近を洗浄することができる。そのため、スプレッダ141から散水された水は、使用者からの尿が局所的に付着し、その尿を起因とするアンモニアガスを溶解することができる。あるいは、スプレッダ141から散水された水は、スプレッダ141の付近で小便器170の表面を洗浄することができる。これにより、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを抑制することができる。
第1の洗浄水供給手段140から供給される水によっては洗浄されない領域には、第3の領域171cが含まれる。第3の領域171cは、リップ部175の先端部を含む。リップ部175には、尿が比較的付着しやすい。
これに対して、第2の洗浄水供給手段160は、リップ部175の先端部に水を散水し供給することができる。これにより、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを抑制することができる。
第1の洗浄水供給手段140からボウル部171に供給された水は、ボウル部171の表面を伝って下方へ流れる。第2の洗浄水供給手段160からボウル部171に供給された水であってボウル部171の表面に付着した水は、ボウル部171の表面を伝って下方へ流れる。このとき、第2の洗浄水供給手段160からボウル部171に供給されボウル部171の表面を伝う水の速度は、第1の洗浄水供給手段140からボウル部171に供給されボウル部171の表面を伝う水の速度よりも遅い。また、第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に供給する水は、液滴化された水である。
これによれば、第2の洗浄水供給手段160から供給されボウル部171の表面を伝う水は、第1の供給手段140から供給されボウル部171の表面を伝う水よりも、ボウル部171への接触時間を長くすることができ、尿への作用時間を長くすることができる。従って、比較的少ない流量の水でボウル部171の表面の汚れを洗い流し、ボウル部171を効率的に洗浄することができる。これにより、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを抑制することができる。
図5は、本実施形態の第2の洗浄水供給手段が吐出する水の形状を説明する模式図である。
図5(a)は、本実施形態の小便器装置を側方からみたときの模式的断面図である。図5(b)は、第2の洗浄水供給手段が吐出する水を図5(a)に表した矢印Aの方向に眺めたときの模式的平面図である。
図5(a)および図5(b)に表したように、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から吐出された水の形状は、円錐形169を有する。図5(a)に表したように、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から吐出される水の範囲(散水範囲あるいは散水範囲)は、ボウル部171の内部に収まる。つまり、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から散水される水は、ボウル部171の外側へ直接的には進行しない。
これにより、散水部161から散水された水がボウル部171の外側に付着することが抑制される。そのため、散水部161から散水された水により、使用者が濡れたり、小便器170の周りが濡れることを抑制することができる。
図5(a)に表したように、第2の洗浄水供給手段160の散水部161は、ボウル部171の内側へ向かって水を散水する。言い換えれば、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から散水された水は、ボウル部171の内側へ向かう指向を有する。具体的には、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から散水された円錐形169の水の軸169cは、散水部161からみて後方へ向いている。
これによれば、散水部161から散水された水により、使用者が濡れたり、小便器170の周りが濡れることをより抑制することができる。また、第1の洗浄水供給手段140から供給された水によっては洗浄されない領域に尿が付着しても、第2の洗浄水供給手段160は、ボウル部171の表面に付着した尿を散水部161から散水された水で洗い流すことができる。これにより、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを抑制することができる。
散水部161は、小便器170のボウル部171の内部の領域であってボウル部171に対面した使用者の鼻の位置とトラップ部173との間のいずれかの領域に液滴化された水を散水する。本願明細書において「使用者の鼻の位置」とは、小便器装置100が設置されたトイレ室の床面201から約140センチメートル(cm)以上170cm以下の範囲の高さの位置をいうものとする。なお、小便器装置100は、必ずしもトイレ室の床面201に載置されるわけではなく、トイレ室の図示しない壁面に設置されることがある。この場合でも、本願明細書において「使用者の鼻の位置」とは、トイレ室の床面201から約140センチメートル(cm)以上170cm以下の範囲の高さの位置をいうものとする。
図6は、本実施形態の第2の洗浄水供給手段が吐出する水の他の形状を説明する模式図である。
図6(a)は、本実施形態の小便器装置を側方からみたときの模式的断面図である。図6(b)は、第2の洗浄水供給手段が吐出する水を図6(a)に表した矢印Bの方向に眺めたときの模式的平面図である。
図6(a)および図6(b)に表したように、第2の洗浄水供給手段160の噴霧散水部161から吐出された水の形状は、扇形169aを有する。第2の洗浄水供給手段160の散水部161は、ボウル部171の内側へ向かって水を散水する。言い換えれば、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から散水された水は、ボウル部171の内側へ向かう指向を有する。具体的には、第2の洗浄水供給手段160の散水部161から散水された扇形169aの水の軸169dは、噴霧散水部161からみて略下方へ向いている。他の吐出形態は、図5に関して前述した吐出形態と同様である。
これによれば、小便器170の壁面への散水量(ボウル部171の表面を伝う水)を減らし空間への散水を最大化することができる。これにより、ボウル部171の表面に付着した尿に起因するアンモニア発生源の洗浄よりも空間に存在する臭い成分の消臭を最大化することができる。
図5および図6に表した吐出形態によれば、散水部161から散水された水は、トラップ部173から発生するアンモニアを溶解する。さらに、散水された水が次亜塩素酸を含む機能水である場合には、アンモニアの溶解に加え、アンモニアを無臭物質に分解する。そのため、使用者は、トラップ部173から発生するアンモニアによる臭いを感じにくくなる。
図7は、本実施形態の第1の洗浄水供給手段および第2の洗浄水供給手段の具体例を例示する模式図である。
図7(a)は、第1の洗浄水供給手段および第2の洗浄水供給手段の具体例を例示する模式的斜視図である。図7(b)は、図7(a)に表した切断面A1−A1における模式的断面図である。図7(c)は、図7(a)に表した切断面A2−A2における模式的断面図である。
図7(a)〜図7(c)に表した具体例では、第1の洗浄水供給手段140および第2の洗浄水供給手段160は、互いに一体化されている。図7(b)に表したように、第1の洗浄水供給手段140は、スプレッダ141を有する。スプレッダ141の内部には、スプレッダ流路143が設けられている。図7(b)および図7(c)に表したように、スプレッダ流路143の一端には、吐水口145が形成されている。スプレッダ流路143を通して導かれた水は、吐水口145から吐出され小便器170のボウル部171に供給される。
第2の洗浄水供給手段160は、散水部161と、チューブ163と、を有する。散水部161は、例えばノズルなどを有し、チューブ163の一端に接続されている。チューブ163を通して導かれた水あるいは機能水は、液滴化された水あるいは液滴化された機能水として散水部161から散水され小便器170のボウル部171に供給される。
図7(a)および図7(b)に表したように、本具体例の第1の洗浄水供給手段および第2の洗浄水供給手段の内部には、人体検知手段120が設けられている。人体検知手段120については、図1に関して前述した通りである。
なお、本実施形態では、第1の洗浄水供給手段140および第2の洗浄水供給手段160は、互いに一体化されていることに限定されるわけではない。
図8は、本実施形態にかかる小便器装置の動作を例示するタイミングチャート図である。
まず、人体検知手段120が小便器170の前方において使用者を検知すると、制御部110は、第2の洗浄水供給手段160の動作を制御し、第2の洗浄水供給手段160の散水部161からボウル部171に水を供給する(タイミングt1)。つまり、第2の洗浄水供給手段160は、使用者が小便器170に近づき小便器170を使用する前の状態において散水部161からボウル部171に水を供給する(タイミングt1)。
続いて、人体検知手段120が小便器170の前方で静止した使用者を検知すると、制御部110は、第2の洗浄水供給手段160の動作を制御し、散水部161から散水される水を停止する(タイミングt2)。なお、制御部110は、人体検知手段120が小便器170の前方で静止した使用者を検知した信号に基づいてではなく、散水部161が散水した水の量に基づいて散水部161から散水される水を停止してもよい。
図8に表した第2の洗浄水供給手段160に関する「オン」は、第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に水を供給する動作あるいは状態を表す。図8に表した第2の洗浄水供給手段160に関する「オフ」は、第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に水を供給しない動作あるいは状態を表す。
続いて、使用者が排尿行為を終了し、人体検知手段120が小便器170の前方から遠ざかる使用者を検知すると、制御部110は、第1の洗浄水供給手段140の動作を制御し、第1の洗浄水供給手段140のスプレッダ141からボウル部171に水を供給する(タイミングt3)。所定の量の水がボウル部171に供給されると、制御部110は、第1の洗浄水供給手段140の動作を制御し、スプレッダ141から供給される水を停止する(タイミングt4)。
図8に表した第1の洗浄水供給手段140に関する「オン」は、第1の洗浄水供給手段140がボウル部171に水を供給する動作あるいは状態を表す。図8に表した第1の洗浄水供給手段140に関する「オフ」は、第1の洗浄水供給手段140がボウル部171に水を供給しない動作あるいは状態を表す。
続いて、使用者が小便器170の前方に存在しなくなったことを人体検知手段120が検知すると、制御部110は、機能水生成手段150および第2の洗浄水供給手段160の動作を制御し、機能水生成手段150において機能水を生成し、第2の洗浄水供給手段160の散水部161からボウル部171に機能水を供給する(タイミングt5)。所定の量の機能水がボウル部171に供給されると、制御部110は、機能水生成手段150および第2の洗浄水供給手段160の動作を制御し、散水部161から散水される機能水を停止する(タイミングt6)。
続いて、第1の洗浄水供給手段140がボウル部171に水を供給して(タイミングt3)から所定時間が経過すると、制御部110は、第1の洗浄水供給手段140の動作を制御し、第1の洗浄水供給手段140のスプレッダ141からボウル部171に水を供給する(タイミングt7)。所定の量の水がボウル部171に供給されると、制御部110は、第1の洗浄水供給手段140の動作を制御し、スプレッダ141から供給される水を停止する(タイミングt8)。これにより、小便器170のトラップ部173の内部の封水を新たに供給された水で置換することができる。
なお、タイミングt7〜t8の動作は、第1の洗浄水供給手段140がボウル部171に水を供給した後(タイミングt4)から所定時間が経過したときに実行されてもよい。あるいは、タイミングt7〜t8の動作は、第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に機能水を供給して(タイミングt5)から所定時間が経過したときに実行されてもよい。あるいは、タイミングt7〜t8の動作は、第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に機能水を供給した後(タイミングt6)から所定時間が経過したときに実行されてもよい。
このように、第2の洗浄水供給手段160が散水部161からボウル部171に水を供給しアンモニアを溶解および分解するタイミングは、第1の洗浄水供給手段140がボウル部171に水を供給するタイミングとは異なる。これにより、小便器装置100から発生するアンモニアによる臭いを効率的に抑制することができる。
また、タイミングt1の動作に関して前述したように、第2の洗浄水供給手段160は、使用者が小便器170に近づき小便器170を使用する前の状態において散水部161からボウル部171に水を供給する。これにより、使用者が小便器170に近づきアンモニアガスによる臭いを感ずる前に、第2の洗浄水供給手段160は、ボウル部171に水を供給しアンモニアガスによる臭いを抑制することができる。なお、小便器170の使用回数が一定以上となる場合、つまり一定時間間隔で連続する場合には、今回使用する使用者にとって、例えば、前回使用者のタイミングt5〜t6の動作による第2の洗浄水供給手段160からの機能水の供給による効果は、タイミングt1〜t2の動作による第2の洗浄水供給手段160からの機能水の供給による効果とほぼ同程度となる。したがって、タイミングt1〜t2における機能水の供給およびタイミングt5〜t6における機能水の供給のいずれかを省略することも可能である。また、t1〜t2の動作による第2の洗浄水供給手段160からの機能水の供給を省略することで、小便器170を今回使用する使用者に対して、確実に、散水された機能水による被水を防止することができ好適である。
なお、図8を参照しつつ説明した小便器装置100の動作は、一例であり、これだけに限定されるわけではない。
次に、本発明者が実施した検討の結果の一例について、図面を参照しつつ説明する。
図9は、本発明者が実施した検討の結果の一例を表すグラフ図である。
本発明者は、体積が0.6立方メートル(m3)の箱の中に疑似尿(アンモニア温水)を入れ、その箱に付設されたノズルから箱の中に水および機能水を散水させた。本発明者は、機能水として次亜塩素酸を含む液を使用した。次亜塩素酸の濃度は、約2.5ppm(parts per million)程度である。
図9に表したグラフ図の縦軸は、箱の中のアンモニアの残存率(%)を表す。図9に表したグラフ図の横軸は、箱の中に水および機能水を散水させてから経過した時間(秒)を表す。図9に表したグラフ図では、箱の中に水および機能水を散水させる前のアンモニアの残存率を100パーセント(%)としている。
水および機能水を散水させた後の箱の中のアンモニアの残存率の推移は、図9に表した通りである。すなわち、箱の中に水を散水させると、その箱の中のアンモニアは、水に溶解される。また、箱の中に機能水を散水させると、その箱の中のアンモニアは、機能水に溶解される。これにより、水および機能水は、比較的短時間で、アンモニアを溶解し除去できることが分かる。機能水は、水(ここでは真水)と比較すると、より多くの量のアンモニアを溶解し除去できることが分かる。これは、アンモニアをクロラミンという無臭物質に分解しているためである。つまり、機能水のアンモニアに対する消臭効果は、水(ここでは真水)のアンモニアに対する消臭効果よりも高い。
図10は、本発明者が実施した他の検討の結果の一例を表すグラフ図である。
本発明者は、小便器170のボウル部171に疑似尿(アンモニア温水)を入れ、そのボウル部171から発生する臭いのレベルの官能評価を行った。具体的には、本発明者は、7名の被験者を選定し、その7名の被験者のそれぞれに対して、ボウル部171から発生する臭いのレベルを10段階で官能評価を行ってもらった。官能評価のタイミングは、疑似尿を小便器170のボウル部171に入れた後と、第1の洗浄水供給手段140がボウル部171に水を供給した後と、第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に水を供給した後である。
本検討の結果は、図10に表した通りである。すなわち、第1の洗浄水供給手段140からボウル部171に供給された水は、ボウル部171の表面に付着した尿を洗い流す。これにより、ボウル部171から発生する臭いのレベルを低下させることができる。また、第2の洗浄水供給手段160から供給された水は、ボウル部171の内部に生成されたアンモニアを溶解する。これにより、ボウル部171から発生する臭いのレベルをさらに低下させることができる。
図11は、本発明者が実施したさらに他の検討の結果の一例を表すグラフ図である。
図11(a)は、アンモニアの濃度の測定位置を説明する模式的斜視図である。図11(b)は、第1の位置におけるアンモニアの濃度の推移を例示するグラフ図である。図11(c)は、第2の位置におけるアンモニアの濃度の推移を例示するグラフ図である。
本発明者は、約2ヶ月間にわたって小便器170のボウル部171のアンモニアの濃度を測定した。具体的には、本発明者は、約2ヶ月間にわたって1日に約1回の頻度で、ボウル部171に設けられた目皿177の上の約10ミリメートル(mm)の位置(第1の位置)177aと、リップ部175の先端の上の約10mmの位置(第2の位置)175aと、におけるアンモニアの濃度を測定した。
本発明者は、2つの小便器170を用いて本検討を実施した。第1の小便器170aでは、第1の洗浄水供給手段140は、ボウル部171に水を供給せず、第2の洗浄水供給手段160は、次亜塩素酸の濃度が約2.5ppmの機能水をボウル部171に供給する。第2の小便器170bでは、第1の洗浄水供給手段140および第2の洗浄水供給手段160は、ボウル部171に水を供給しない。
第1の小便器170aでは、第2の洗浄水供給手段160は、第1の小便器170aが使用される毎に機能水をボウル部171に散水する。第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に供給する水の量は、1回あたり約60mL程度である。本発明者は、本検討を開始する前に、第1の小便器170aおよび第2の小便器170bをトイレ用洗剤を用いて洗浄した。本発明者は、検知管を用いてアンモニアの濃度を測定した。
第1の小便器170aおよび第2の小便器170bにおけるアンモニアの濃度の推移は、図11(b)および図11(c)に表した通りである。すなわち、第1の洗浄水供給手段140および第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に水を供給しないと、第1の位置177aおよび第2の位置175aにおけるアンモニアの濃度が上昇する(第2の小便器170b)。また、第1の洗浄水供給手段140がボウル部171に水を供給しなくとも、第2の洗浄水供給手段160がボウル部171に水あるいは機能水を供給することで、第1の位置177aおよび第2の位置175aにおけるアンモニアの濃度の上昇を抑えることができる(第1の小便器170a)。
図12は、本発明者が実施したさらに他の検討の結果の一例を表すグラフ図である。
図12(a)は、本検討の条件を説明する模式的斜視図である。図12(b)は、液滴化された水の径に対する水の飛散量を表すグラフ図である。
図12(b)に表したグラフ図の縦軸は、飛び散り量(飛散量)(mL)を表す。図12(b)に表したグラフ図の横軸は、液滴化された水の径(μm)を表す。
本発明者は、散水部161が散水する液滴化された水の径の違いによる、水の飛散量の違いについて原理モデル環境での検討を行った。すなわち、本発明者は、孔211を有する板210と、感水紙220と、を用意した。孔211の径は、20mm程度である。図12(a)に表したように、本発明者は、板210からみて一方の側に散水部161を設置し、板210からみて他方の側に感水紙220を設置した。図12(a)に表した状態において、本発明者は、散水部161から液滴化された水を散水させ、感水紙220に付着した水の量を測定した。
感水紙220に付着した水の量(飛び散り量:飛散量)は、図12(b)に表した通りである。すなわち、散水部161が散水した液滴化された水の径が10μm以上1200μm以下である場合には、感水紙220に付着した水の量は、1mLよりも少ない。一方で、散水部161が散水した液滴化された水の径が1500μmである場合には、感水紙220に付着した水の量は、1mL以上である。
ここで、本発明者が得た知見によれば、感水紙220に付着した水の量(飛び散り量:飛散量)が1mL以上である場合には、実際の小便器設置環境では、水の飛び散りを認識することができる。そのため、使用者あるいは床への水の飛び散りを使用者に認識させないためには、液滴化された水の径は、1200μm以下であることが好ましい。
また、液滴化された水の径が10μmよりも小さい場合には、その液滴化された水は、空間を漂ったり、空間を浮遊したりする程度が高くなる。そのため、使用者あるいは床への水の飛び散りを使用者に認識させないためには、液滴化された水の径は、10μm以上であることが好ましい。
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、第1の洗浄水供給手段140および第2の洗浄水供給手段160などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや第1の洗浄水供給手段140および第2の洗浄水供給手段160の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。