以下、図面を参照して本発明にかかる電気自動車用自動変速機の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。かかる実施形態を部分的に用いて実施したり、一部を変更して実施したり、同等の機能を有する他の機構や装置に置き換えて実施したりすることができるものである。
本実施形態にかかる電気自動車(以下、単に車両ともいう)は、電動モータのみを駆動源として走行する電気自動車(EVともいう)であり、電動モータと内燃機関とを選択的に駆動源として走行するハイブリッド電気自動車は含まない。また、本自動変速機は、このような車両の電動モータと駆動輪との間に介装される。
〔駆動系ユニットの構成〕
まず、車両の駆動系ユニットを説明する。図1及び図2に示すように、この駆動系ユニットは、車両の駆動源である主電動モータ(単に、電動モータとも言う)1と、主電動モータ1の出力軸と一体連結された変速機入力軸(以下、入力軸という)2Aを有する自動変速機2と、自動変速機2に接続された減速機構6と、減速機構6に接続された差動機構7と、を備えている。差動機構7の左右のサイドギヤに接続された車軸7L,7Rには、図示しない駆動輪がそれぞれ結合されている。
自動変速機2は、いわゆる副変速機構付きベルト式無段変速機(CVT)に、直結ギヤ機構20を付加したものである。自動変速機2は、動力伝達用のベルト37を有し、プライマリプーリ(入力部)30Pが入力軸2Aと相対回転可能に配置されたベルト式無段変速機構(以下、バリエータともいう)3と、このバリエータ3のセカンダリプーリ(出力部)30Sの回転軸36に連結された常時噛み合い型平行軸式歯車変速機構(以下、副変速機構ともいう)4と、バリエータ3及び副変速機構4を迂回するようにして入力軸2Aと減速機構6とを直結する直結ギヤ機構20とを備えている。
バリエータ3は、回転軸33を有する固定プーリ31と可動プーリ32とからなるプライマリプーリ30Pと、回転軸(出力軸)36を有する固定プーリ34と可動プーリ35とからなるセカンダリプーリ30Sと、プライマリプーリ30Pとセカンダリプーリ30SとのV溝に巻き掛けられたベルト37とを備えている。プライマリプーリ30Pの固定プーリ31の回転軸33は、入力軸2Aと相対回転可能に配置されている。
なお、図1には、バリエータ3のプライマリプーリ(プーリ装置)30P,セカンダリプーリ(プーリ装置)30S及びベルト37をそれぞれ、変速比がロー側の状態とハイ側の状態とで示している。プライマリプーリ30P,セカンダリプーリ30Sの各外側(互いに離隔している側)の半部にロー側の状態を示し、各内側(互いに接近している側)の半部にハイ側の状態を示している。ベルト37については、ロー側の状態を実線で模式的に示し、ハイ側の状態を各プーリ30P,30Sの内側に二点鎖線で模式的に示している。但し、二点鎖線で示したハイ状態は、プーリとベルトの半径方向の位置関係を示すのみであり、実際のベルト位置がプーリの内側半部に現れることはない。
このバリエータ3のプライマリプーリ30P及びセカンダリプーリ30Sのベルト巻き掛け半径の変更による変速比の調整及びプーリ軸推力(単に、推力とも言う)、即ちベルト狭圧力の調整は、電動アクチュエータ80Aと機械式反力機構とによって実行されるようになっている。機械式反力機構としては、トルクカム機構が用いられている。このトルクカム機構は、それぞれ端部に螺旋状に傾斜したカム面を有する一対の環状のカム部材で構成され、各カム面が互いに摺接するようにして同軸上に配置され、また一対のカム部材の相対回転に応じて、一対のカム部材が軸方向に相互に離接し、一対のカム部材の全長が変更されることにより、一方のカム部材に圧接した回転部材(プーリ30P,30S)の推力を調整するものである。
ここでは、プライマリプーリ30P及びセカンダリプーリ30Sの何れにも、機械式反力機構としてトルクカム機構が用いられている。これにより、ベルト37がプライマリプーリ30P及びセカンダリプーリ30Sを押圧する力(プーリを離隔させようとする力)の反力として両プーリの各ボールトルクカム機構が作用してベルト37の伝達トルクに応じた推力が油圧等を用いることなく両プーリ30P,30Sに発生するようになっている。
また、プライマリプーリ30Pには、一対のカム部材の一方を能動的に回転駆動する電動アクチュエータ80Aが装備され、一対のカム部材の全長を変更して、プライマリプーリ30PのV溝の溝幅を調整するように構成される。なお、本実施形態では、各トルクカム機構として、それぞれのカム面の摺接部分を、ボールを介した点接触としたボールトルクカム機構が採用されている。
このように、プライマリプーリ30Pには、機械式反力機構であるトルクカム機構と一対のカム部材の一方を回転駆動する電動アクチュエータ80Aとから、一対のカム部材の全長を変更しプライマリプーリ30PのV溝の溝幅を調整して変速比を調整すると共に、プーリ30Pの推力を調整してベルト挟圧力を調整するように構成される。そこで、プライマリプーリ30Pの電動アクチュエータ80A及びトルクカム機構からなる機構を変速機構8とも呼ぶ。一方、セカンダリプーリ30Sのトルクカム機構は、これによりセカンダリプーリ30Sの推力を発生させるため、推力発生機構9とも呼ぶ。これらの、変速機構8及び推力発生機構9については詳細を後述する。
副変速機構4は、複数の変速段(ここでは、ハイ,ローの2段)を有し、バリエータ3のセカンダリプーリ30Sの回転軸36と同軸一体の回転軸43に相対回転可能に装備されたギヤ41,42と、回転軸43と平行な回転軸46に一体回転するように固設されたギヤ44,45とをそなえている。ギヤ41とギヤ44とは常時噛み合っており、2速(ハイ)ギヤ段を構成する。ギヤ42とギヤ45とは常時噛み合っており、1速(ロー)ギヤ段を構成する。
副変速機構4には、2速ギヤ段及び1速ギヤ段を選択的に切り替えるために、3ポジション式の噛み合いクラッチ機構5Bが装備される。噛み合いクラッチ機構5Bは、回転軸43と一体回転するクラッチハブ54と、クラッチハブ54に設けられた外歯54aにスプライン係合する内歯55aを有するスリーブ55と、スリーブ55をシフト方向(軸方向)に移動させるシフトフォーク56と、シフトフォーク56を駆動する切替用電動アクチュエータ50Bとをそなえている。
ギヤ41にはスリーブ55の内歯55aと噛合しうる外歯41aが設けられ、ギヤ42にはスリーブ55の内歯55aと噛合しうる外歯42aが設けられている。
スリーブ55は、ニュートラルポジション(N)と、2速(ハイ)ギヤ段を設定する2速ポジション(H)と、1速(ロー)ギヤ段を設定する1速ポジション(L)との各ポジションを有し、各ポジション間を、シフトフォーク56によってスライド駆動される。
電動アクチュエータ50Bによりシフトフォーク56を駆動して、スリーブ55をギヤ41側(即ち、2速ポジション)に移動させれば、スリーブ55の内歯55aがギヤ41の外歯41aと噛み合って、回転軸43とギヤ41とが一体回転するようになって、2速ギヤ段が設定される。2速ギヤ段が設定されると、バリエータ3のセカンダリプーリ30Sの回転軸36(即ち、回転軸43)からギヤ41,ギヤ44,回転軸46を経て減速機構6に動力伝達される。
電動アクチュエータ50Bによりシフトフォーク56を駆動して、スリーブ55をギヤ42側(即ち、1速ポジション)に移動させれば、スリーブ55の内歯55aがギヤ42の外歯42aと噛み合って、回転軸43とギヤ42とが一体回転するようになって、1速ギヤ段が設定される。1速ギヤ段が設定されると、バリエータ3のセカンダリプーリ30Sの回転軸36(即ち、回転軸43)からギヤ42,ギヤ45,回転軸46を経て減速機構6に動力伝達される。
なお、スリーブ55の内歯55aをギヤ41の外歯41aやギヤ42の外歯42aと円滑に噛合させるために後述の回転同期制御を行なうので、噛み合い箇所にシンクロ機構は不要であり、装備していない。
直結ギヤ機構20は、入力軸2Aと相対回転可能に配置された入力ギヤ(入力歯車)21を備え、図2に示すように、この入力ギヤ21が副変速機構の複数の変速歯車の1つ(ここでは、1速ギヤ段の出力側歯車であるギヤ45)と噛合して駆動連結されている。
なお、前記入力ギヤ21とギヤ45は、それぞれの歯数を略同一として、変速比が略1.0となるように設定されている。
この直結ギヤ機構20をバリエータ3と選択的に使用するために、3ポジション式の噛み合いクラッチ機構5Aが装備される。噛み合いクラッチ機構5Aは、図1に示すように、噛み合いクラッチ機構5Bと同様に構成され、入力軸2Aと一体回転するクラッチハブ51と、クラッチハブ51に設けられた外歯51aにスプライン係合する内歯52aを有するスリーブ52と、スリーブ52をシフト方向(軸方向)に移動させるシフトフォーク53と、シフトフォーク53を駆動する切替用電動アクチュエータ50Aとをそなえている。
入力ギヤ21にはスリーブ52の内歯52aと噛合しうる外歯22が設けられ、バリエータ3におけるプライマリプーリ30Pの固定プーリ31の回転軸33にはスリーブ52の内歯52aと噛合しうる外歯38が設けられている。
スリーブ52は、ニュートラルポジション(N)と、バリエータ3を経由する動力伝達経路を設定するCVTポジション(C)と、直結ギヤ機構20を経由する動力伝達経路を設定する直結ポジション(D)との各ポジションを有し、各ポジション間を、シフトフォーク53によってスライド駆動される。
電動アクチュエータ50Aによりシフトフォーク53を駆動して、スリーブ52を回転軸33側に移動させれば、スリーブ52の内歯52aが回転軸33の外歯38と噛み合って、入力軸2Aとプライマリプーリ30Pの固定プーリ31とが一体回転するようになって、バリエータ3を経由する動力伝達経路が設定される。
電動アクチュエータ50Aによりシフトフォーク53を駆動して、スリーブ52を入力ギヤ21側に移動させれば、スリーブ52の内歯52aが入力ギヤ21の外歯22と噛み合って、入力軸2Aと入力ギヤ21とが一体回転するようになって、直結ギヤ機構20を経由する動力伝達経路が設定される。
ここでも、スリーブ52の内歯52aを回転軸33の外歯38や入力ギヤ21の外歯22と円滑に噛合させるために後述の回転同期制御を行なうので、噛み合い箇所にシンクロ機構は不要であり、装備していない。
なお、本実施例では、前記の通り回転同期制御を実行するため噛み合いクラッチ機構5A,5B共にシンクロ機構を装備しない構成としたが、シンクロ機構を装備すれば同期がより促進される効果が得られ、また前記回転同期制御を実行しない場合はシンクロ機構の装備が必須である。
減速機構6は、副変速機構4の回転軸46に一体回転するように固設されたギヤ61と、回転軸46と平行な回転軸65に一体回転するように固設されてギヤ61と噛合するギヤ62と、回転軸65に一体回転するように固設されたギヤ63と、差動機構7の入力ギヤであってギヤ63と噛合するギヤ64とから構成される。ギヤ61とギヤ62との間でそのギヤ比に応じて減速され、さらに、ギヤ63とギヤ64との間でそのギヤ比に応じて減速される。
〔推力発生機構(機械式反力機構)〕
ここで、機械式反力機構の一つであり、セカンダリプーリ30Sに装備されている推力発生機構9を説明する。前記のように、この推力発生機構9にはトルクカム機構を採用している。ここで採用するトルクカム機構(トルクカム装置)90について、図5〜図9を参照して説明する。
図5に示すように、本実施形態では、トルクカム機構90は、端面カムであり、可動プーリ35の背面に固設された駆動カム部材(ドライブカム部材)91と、駆動カム部材91に隣接して固定プーリ34の回転軸36に固設された被駆動カム部材(ドリブンカム部材)93と、駆動カム部材91と被駆動カム部材93との間に同軸に配置されこれらのカム部材91,93に対して相対回転可能な中間カム部材92との3つのカム部材を備えている。駆動カム部材91は車両のドライブ走行時(駆動走行時)に被駆動カム部材93を駆動し、被駆動カム部材93は車両のコースト走行時(被駆動走行時)に駆動カム部材91を駆動する。このように、本実施形態では、トルクカム機構90を3つのカム部材から構成しているが、本発明としては、トルクカム機構90には中間カム部材92は必須でなく、中間カム部材92を備えないトルクカム機構にも適用しうる。
駆動カム部材91は、図6(b)の斜視図に示すように、円筒状(又は環状)の部材であって、一端側に環状の第1駆動カム面91Dを有しており、他端側が可動プーリ35の背面に固設される。環状の第1駆動カム面91Dは、環状全周を2つに等分割されていて、それぞれの第1駆動カム面91Dが所定のカム角度に応じた螺旋状曲面91dを有している。等分割された2つの第1駆動カム面91Dの相互間には、それぞれ接続部91Jが形成されている。この接続部91Jは、一方側の螺旋状曲面91dの端部から段状に形成されて軸方向に伸びる接続面(第1連結面)91jと、接続面91jの端部と他方側の螺旋状曲面91dの端部とを連結する第2連結面91kと、を有している。この接続面91jは、それぞれ駆動カム部材91の回転軸線に沿う軸線方向(回転軸線と平行な方向)に形成され、第2連結面91kは軸線方向に対し垂直な面とされている。
被駆動カム部材93は、駆動カム部材91と対称な形状であり、図6(b)の斜視図を反転させた形状である。図6(b)の斜視図を流用して説明すると、一端側に環状の第1被駆動カム面93Cを有しており、他端側が回転軸36に固設される。環状の第1被駆動カム面93Cは、環状全周を2つに等分割されていて、それぞれの第1被駆動カム面93Cが所定のカム角度に応じた螺旋状曲面93cを有している。等分割された2つの第1被駆動カム面93Cの相互間には、それぞれ接続部93Jが形成される。この接続部93Jは、一方側の螺旋状曲面93cの端部から段状に形成されて軸方向に伸びる接続面(第1連結面)93jと、接続面93jの端部と他方側の螺旋状曲面93cの端部とを連結する第2連結面93kと、を有している。この接続面93jは、それぞれ被駆動カム部材93の回転軸線に沿う軸線方向(回転軸線と平行な方向)に形成されている。この接続面93jも、それぞれ被駆動カム部材93軸線方向に形成され、第2連結面93kは軸線方向に対し垂直な面とされている。
中間カム部材92は、図6(a)の斜視図に示すように、円筒状(又は環状)の部材であって、一端側に駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dに対向する環状の第2被駆動カム面92Dを有しており、他端側に被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cに対向する環状の第2駆動カム面92Cを有している。中間カム部材92は、駆動カム部材91に対しては被駆動カム部材として機能し、被駆動カム部材93に対しては駆動カム部材として機能する。環状の第2被駆動カム面92Dは、図6(a)に示すように、環状全周を2つに等分割されていて、それぞれが所定のカム角度に応じた螺旋状曲面92dを有している。等分割された2つの第1駆動カム面92Dの相互間には、それぞれ接続部92Jが形成される。この接続部92Jは、一方側の螺旋状曲面92dの端部から段状に形成されて軸方向に伸びる接続面(第1連結面)92jと、接続面92jの端部と他方側の螺旋状曲面92dの端部とを連結する第2連結面92kと、を有している。この接続面92jも、それぞれ中間カム部材92の軸線方向に形成され、第2連結面92kは軸線方向に対し垂直な面とされている。
環状の第2駆動カム面92Cは、第2被駆動カム面92Dと対称な形状であり、図6(a)の斜視図を反転させた形状である。この第2駆動カム面92Cも、環状全周を2つに等分割されていて、それぞれが所定のカム角度に応じた螺旋状曲面92cを有している。等分割された2つの第1被駆動カム面92Cの相互間には、それぞれ接続部92Jが形成される。この接続部92Jは、一方側の螺旋状曲面92dの端部から段状に形成されて軸方向に伸びる第1連結面92jと、第1連結面92jの端部と他方側の螺旋状曲面92dの端部とを連結する第2連結面92kと、を有している。第1連結面接続面92jも、それぞれ中間カム部材92の軸線方向に形成され、第2連結面92kは軸線方向に対し垂直な面とされている。
したがって、仮に第1駆動カム面91D及び第2被駆動カム面92Dの各螺旋状曲面91d,92dを右ネジ状の螺旋とすれば、第1被駆動カム面93C及び第2駆動カム面92Cの各螺旋状曲面は左ネジ状の螺旋となる。
また、中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dと第2駆動カム面92Cとは、回転方向へ位相ずれして形成されている。つまり、2つの第2被駆動カム面92Dを接続する第1連結面92jと、2つの第2駆動カム面92Cを接続する第1連結面92jとが、回転方向へ位相をずらせて配置形成されている。両カム面92D,92Cの位相ずれは、最大90度とすることができる。これにより、中間カム部材92の軸方向長さを短縮することができる。
中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dは、駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dに接触可能であって、中間カム部材92の第2駆動カム面92Cは、被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cに接触可能である。ただし、両駆動カム面91D,92D間、及び、両被駆動カム面93C,92C間には、ボール(鋼球)95が介装され、トルクカム機構90は、ボールトルクカム装置として構成される。
このため、図6(a),(b)に示すように、駆動カム部材91の第1駆動カム面91D、中間カム部材92の第2被駆動カム面92D及び第2駆動カム面92C、被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cの螺旋状曲面等には、ボール95を介装する、断面円弧状の溝(案内溝)91g,92G,93gがそれぞれ形成されている。これにより、各駆動カム面91D,92Cと各被駆動カム面93D,92Cとの間は、ボール95による点接触により滑らかに摺動する。
なお、本実施形態では、中間カム部材92の第2被駆動カム面92D及び第2駆動カム面92Cの各溝92Gを、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝(深溝)として構成しており、駆動カム部材91の第1駆動カム面91D及び被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cの各溝91g,93gを、各溝92G内に収容されたボール95の突出した頂部が摺接する浅溝(ここでは、断面は部分円弧状)として構成している。
ここで、図10〜図13を参照して、各溝92G内にボール95を装填するための構成について説明する。
図10に示すように、中間カム部材92の溝92Gは、中間カム部材92の第2被駆動カム面92D及び第2駆動カム面92Cの螺旋状曲面92d,92cに沿った螺旋状に形成された螺旋状溝部92gと、この螺旋状溝部92gの相互間に形成され螺旋状溝部92gを滑らかに接続する接続溝部92mと、を備えている。接続溝部92mは周方向に螺旋状溝部92gとは逆傾斜する部分螺旋状に形成されており、螺旋状溝部92gとの間は滑らかな曲面で接続される。したがって、溝92Gは、これらの螺旋状溝部92g及び接続溝部92mによって全周にわたって連続するように構成され、全周にわたってボール95の移動を円滑に案内する。
溝92Gの内部には、複数のボール95が直列状態で互いに摺動接触しながら転動自在に装備されている。したがって、コースト走行時のように、駆動カム部材91と被駆動カム部材93とのトルクの伝達方向が入れ替わる、即ち、カム部材91,93の駆動と被駆動とが入れ替わるような場合にも、溝92Gの内部のボール95は、この入れ替わりの影響を受けにくい。なお、溝92Gの内部には潤滑油が供給され、溝92Gの内部での各ボール95の転動は極めて円滑に行われる。
溝92Gは、図11〜図13に示すように、断面が半円よりも広範囲な部分円状に形成され、ボール95を保持し且つボール95の離脱を規制するようになっている。つまり、溝92Gは、図13に示すように、螺旋状溝部92gにおいて、ボール95の一部を螺旋状曲面92dから突出可能とする開口部98を備え、ボール95の半部(図13では下半部)よりも多くの部分を収容する。
また、開口部98の両縁部には、互いに対向するオーバハング部98a,98aが形成され、オーバハング部98a,98aの相互間、即ち、開口部98の開放幅wは、ボール95の外径dよりも小さく形成されている。これにより、ボール95を保持しボール95の離脱を規制するようになっている。なお、螺旋状溝部92gの横断面は、ボール95の外径dよりも僅かに大きい内径の部分円形状に形成される。
ところで、このようなボール95の外径dよりも小さい開口部98の溝92G内に、ボール9を装填するために、図11(a),(b)及び図13(b),(c)に示すように、開口部98の一部に、ボール95の外径dよりも大きく拡径した挿入用拡径部96が形成されている。これにより、挿入用拡径部96から溝92G内にボール9を装填することができる。
この挿入用拡径部96には、装填後のボール95の溝92Gの内部からの離脱を防止する離脱防止部が形成される。本実施形態の離脱防止部は、挿入用拡径部96の拡径部分を閉塞するように装着されたネジ部材99により形成される。つまり、挿入用拡径部96の両側部にネジ穴97を加工し、ボール95を全て装填したら、各ネジ穴97にネジ部材99を締結する。ネジ部材99の頭部には、オーバハング部98aと断面同形状の部分が形成されており、ネジ部材99の締結後は、挿入用拡径部96の断面においてもオーバハング部98a,98aと同様な断面形状となり、装填後のボール95の溝の内部92Gからの離脱を防止、且つ溝92G内でのボール95の円滑な転動を妨げない。なお、離脱防止部は、ネジ部材99に限るものでなく、例えば、挿入用拡径部96においてカム面92dを外方〔図13(a)中の上方〕に肉盛させておき、ボール95を全て装填したら、この部分を外方から加締めることでオーバハング部98aと同形状の部分を形成することも考えられる。
ところで、挿入用拡径部96は、螺旋状曲面92dにおいて、軸方向への突出量が半分以下の箇所に形成されている。つまり、螺旋状曲面92dは、位相角度に応じて軸方向へ突出し、例えば軸方向への突出量が全突出量の半分以下の箇所を螺旋状曲面92dの谷側、突出量が全突出量の半分よりも大きい個所を螺旋状曲面92dの山側とも称することができるが、挿入用拡径部96は、この谷側に形成されている(図10参照)。
この理由は、螺旋状曲面92dの谷側の場合、対向するカム部材91,93のカム面91D,93Cに対して、摺接領域が長くなり、より多くのボール95が両カム面91D,92D又は92C,93Cに接触する。このため、螺旋状曲面92dの谷側の部分(谷部)は、応力が分散されて、挿入用拡径部96及びその周囲の応力集中を招きやすい箇所に加わる応力も軽減され、耐久性を向上させることができるためである。
図14(a)は溝92Gの傾斜状態を模式的に示す展開図であり、図14(b)は溝92Gの平面図である。図14(a)に示すカム角度θは、溝92Gの螺旋状溝部92gの全てがカム機構のストロークに寄与するものと仮定し、カム溝中心半径をR〔図14(b)参照〕とし、カム機構の必要ストロークをLとし、図14(a)に示す接続溝部92mの循環カム戻し角度をθ´とすると、次式で表すことができる。
θ=tan−1〔L/(πR−L/tanθ´)〕
ここで、例えば、R=40(mm),L=20(mm),θ´=45(deg)と仮定すると、
θ=10.7(deg)
となる。
ところで、図14(b)に示すように、挿入用拡径部96の位置を螺旋状溝部92gの上昇開始点0(deg)から角度ε(deg)の箇所とすると、εの物理的な下限値εminは、次式(a)のようになる。
εmin=(L×sinθ×cosθ)×360/(2×π×R)・・・(a)
しかし、カム溝加工のための工具径及び備品のばらつき等を考慮し、且つ、カム面に対し垂直に工具で加工することを考慮して、例えば物理的な下限値εminの3倍程度の長さをカム溝加工時の工具の干渉防止用、すなわち、εの実用上の下限値εminrとして設定すると、次式(b)のようになる。
εminr=(L×sinθ×cosθ×3)×360/(2×π×R)・・・(b)
また、挿入用拡径部96の位置を、カムの斜面(螺旋状曲面92d)の半分よりも下側の谷部に設けるようにεの上限値εmaxを設定すると、次式(c)のようになる。なお、nはCAM山数である。
εmax=(2×π×R/n)−L/tanθ´)×360/(4×π×R)・・・(c)
したがって、ε(deg)の範囲は、次式(d)のようになる。
εminr<ε<εmax・・・(d)
ここで、例えば、R=40(mm),L=20(mm),θ´=45(deg),n=2と仮定すると、ε(deg)の範囲は、次式(e)のようになる。
15.70(deg)<ε<75.68(deg)・・・(e)
つまり、挿入用拡径部96の位置がこの範囲にあることにより、下限側では下降時の工具干渉を確実に防ぎつつ、上限側では挿入口付近の周辺部材に応力が集中するのを抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
なお、ここでは、物理的な下限値εminの3倍程度の長さを、実用上の下限値(工具の干渉防止用の下限値)εminrとしたが、工具の干渉防止用の下限値εminrは物理的な下限値εminに工具の挿入領域に基づく所定量を加えて設定するなどこれに限らない。
このトルクカム機構90の作動メカニズムを詳細に説明する。
駆動カム部材91と被駆動カム部材93とが位相ずれを生じていなければ、図7(a)に示すように、駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dと中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dとが噛み込むと共に、被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cと中間カム部材92の第2駆動カム面92Cとが噛み込んで、駆動カム部材91と中間カム部材92と被駆動カム部材93とのトータル軸長、つまり、トルクカム機構90の全長は最小となる。この場合、セカンダリプーリ30SのV溝の溝幅は最大になり、バリエータ3の変速比は最ハイとなる。
バリエータ3では、車両のドライブ走行時に、ベルト37からセカンダリプーリ30Sに伝達される入力トルクが強まると、セカンダリプーリ30Sのベルト挟圧力が不足し、セカンダリプーリ30Sの固定プーリ34がベルト37に対して滑りを生じる。ただし、回転軸36と相対動可能な可動プーリ35はベルト37に追従するので、固定プーリ34は可動プーリ35に対して回転位相遅れを生じる。
このときには、可動プーリ35に固設された駆動カム部材91は、ボール95を介して駆動カム面91D,被駆動カム面92D間をスライドさせながら、図7(b)に示すように、中間カム部材92及び固定プーリ34に固設された被駆動カム部材93よりも先行するように相対回転しつつ、被駆動カム部材93及び中間カム部材92に対して軸方向に離隔するように移動して可動プーリ35を固定プーリ34に接近させる。この結果、セカンダリプーリ30SのV溝の溝幅が狭まってプーリ30Sの推力が強まるため、ベルト挟圧力が強まり、固定プーリ34の滑りが解消される。
逆に、車両のコースト走行時に、駆動源が負の入力トルク(制動トルク)を作用する状態では、固定プーリ34の回転位相遅れは解消され、負の入力トルクに対してセカンダリプーリ30Sのベルト挟圧力が不足すると、固定プーリ34が可動プーリ35に対して回転位相進みを生じる(逆に言えば、可動プーリ35が固定プーリ34に対して回転位相遅れを生じる)。
このときには、固定プーリ34に固設された被駆動カム部材93は、ボール95を介して被駆動カム面93C,駆動カム面92C間をスライドさせながら、図7(c)に示すように、中間カム部材92及び可動プーリ35に固設された可動カム部材91よりも先行するように相対回転しつつ、駆動カム部材91及び中間カム部材92に対して軸方向に離隔するように移動して可動プーリ35を固定プーリ34に接近させる。この結果、セカンダリプーリ30SのV溝の溝幅が狭まってプーリ30Sの推力が強まるため、ベルト挟圧力が強まり、固定プーリ34の滑りが解消される。
なお、車両の停止時等には、駆動トルクも制動トルクも作用しないため、トルクカム機構90によるプーリの推力は加えられない。そこで、車両の発進時等の初期駆動時にも、ベルト滑りを防止してベルト37を確実にクランプすることができるように、可動プーリ35を固定プーリ34に接近する方向に付勢するコイルスプリング94が装備されている。
〔変速機構〕
図1に示すように、プライマリプーリ30Pに装備される変速機構8は、電動アクチュエータ80Aと機械式反力機構80Bとから構成される。本実施形態の場合、機械式反力機構80Bには、トルクカム機構を採用している。
機械式反力機構80Bに採用されたトルクカム機構は、プライマリプーリ30Pの可動プーリ32の背部に配置され、回転軸33上に同軸に配置された一対のカム部材83,84を有している。各カム部材83,84には、それぞれ、回転軸33と直交する方向に対して傾斜する螺旋状のカム面83a,84aが形成されていて、一対のカム部材83,84は、それぞれのカム面83a,84aを接触させて配置されている。ただし、ここでは、摺接するカム面83a,84aの相互間にボール(鋼球)85を介装し、摺接部分をボール85による点接触とするボールトルクカム機構を採用しており、各カム面83a,84aは、滑らかに摺動する。
カム部材83もカム部材84も回転軸33と相対回転可能であり、プライマリプーリ30Pの固定プーリ31及び可動プーリ32とは独立して回転軸33と同軸に配設される。つまり、プライマリプーリ30Pが回転してもカム部材83,84は回転しない。ただし、カム部材84は回転方向にも軸方向にも固定されている固定カム部材であるのに対して、カム部材83はカム部材84に対して相対回転可能で且つ軸方向にも移動可能な可動カム部材である。また、可動カム部材83には、カム面83aと逆側に可動プーリ32の背面32aとスラストベアリング等を介して摺接する摺接面83bが設けられている。
電動アクチュエータ80Aは、可動カム部材83を回転駆動して、可動カム部材83のカム面83aを固定カム部材84のカム面84aに対して回転させることによって、カム面83a,カム面84aの傾斜に沿って可動カム部材83を回転軸33の軸方向に移動させて、可動プーリ32を回転軸33の軸方向に移動させ、プライマリプーリ30PのV溝の溝幅を調整する。
また、電動アクチュエータ80Aは、ウォーム(ネジ歯車)82aとこのウォーム82aと噛合するウォームホイール(はす歯歯車)82bとからなるウォームギヤ機構82と、ウォーム82aを回転駆動する電動モータ81とから構成され、ウォームホイール82bは、回転軸33と同軸上に配置され、可動カム部材83と一体回転し且つ軸方向には可動カム部材83の移動を許容するように可動カム部材83の外周にセレーション結合されている。これにより、電動モータ81を作動させてウォーム82aを回転駆動すると、ウォームホイール82bが回転し可動カム部材83を回動させ、プライマリプーリ30PのV溝の溝幅を調整する。
この変速機構8によるプライマリプーリ30PのV溝の溝幅調整は、推力発生機構9による発生するセカンダリプーリ30Sの推力を受けながら実施される。プライマリプーリ30PのV溝の溝幅を狭める際には、ベルトを介して接続されたセカンダリプーリ30SのV溝の溝幅を広げることになり、推力発生機構9による推力に対向することになる。プライマリプーリ30PのV溝の溝幅を広げる際には、セカンダリプーリ30SのV溝の溝幅を狭めることになり、推力発生機構9による推力を利用することになる。
例えば、プライマリプーリ30PのV溝の溝幅を狭める際には、電動モータ81を作動させて可動カム部材83を固定カム部材84から離隔させる。これに応じて、プライマリプーリ30Pに対するベルト37の巻き掛け半径は拡大していき、ベルト37の張力が増加する。このベルト37の張力増加は、セカンダリプーリ30Sに対するベルト37の巻き掛け半径を縮小させていくように作用する。セカンダリプーリ30Sに対するベルト37の巻き掛け半径の縮小には、セカンダリプーリ30SのV溝の溝幅を拡大させることが必要であり、セカンダリプーリ30Sの推力発生機構9では、この溝幅拡大に対抗する効力が推力として発生する。したがって、電動アクチュエータ80Aは、この推力に抗して可動カム部材83を駆動する。
また、プライマリプーリ30PのV溝の溝幅を拡げる際には、電動モータ81を作動させて可動カム部材83を固定カム部材84に接近させる。このとき、プライマリプーリ30Pに対するベルト37の巻き掛け半径は縮小していき、ベルト37の張力が減少する。ベルト37の張力減少は、セカンダリプーリ30Sとベルト37との滑りを生じることになり、セカンダリプーリ30Sの可動プーリ35はベルト37に追従するが、固定プーリ34はベルト37に対して滑りを生じる。この滑りに応じて、固定プーリ34と可動プーリ35とにねじれが生じる。この固定プーリ34と可動プーリ35とにねじれに応じてセカンダリプーリ30Sの推力が増強されることになる。
〔補助電動モータ〕
また、この自動変速機2のバリエータ3には、プライマリプーリ30Pの回転軸33に直結した補助電動モータ10が設けられている。この補助電動モータ10は、噛み合いクラッチ機構5Aによる切り替え動作中に、回転軸33を回転駆動して、副変速機構4の何れかの変速段の入力側と出力側との回転同期を促進するために装備される。
〔制御装置〕
図1に示すように、この車両には、電気自動車をトータルに制御するEVECU110及び自動変速機(副変速機構付きCVT)2の要部を制御するCVTECU100をそなえている。各ECUは、それぞれメモリ(ROM,RAM)及びCPU等で構成されるコンピュータである。CVTECU100は、変速機構8の電動アクチュエータ80Aを構成する電動モータ81、切替用電動アクチュエータ50A,50B及び補助電動モータ10の作動等をEVECU110からの指令又は情報や他のセンサ類からの情報に基づいて制御する。
〔作用及び効果〕
本実施形態は、上述のように構成されるので、以下のような作用及び効果を得ることができる。
自動変速機2は、バリエータ(ベルト式無段変速機構副変速機構)3に、副変速機構(常時噛み合い型平行軸式歯車変速機構)4及び直結ギヤ機構20で構成加されているので、CVTECU100は、例えば、図4に示すような変速マップを使用して、図3に示すような大別して3つの動力伝達モードを選択して使用することができる。
通常の車両発進時には、図3(a)に示すように、バリエータ3を使用し副変速機構4を1速(ロー)としたCVTローモードを選択する。発進後、車速が上がると、図3(b)に示すように、バリエータ3を使用し副変速機構4を2速(ハイ)としたCVTハイモードを選択する。通常、このCVTハイモードで多くの走行態様に対応することができる。
このように、副変速機構4を使用することにより、図4に示すように、副変速機構4を1速(ロー)としたCVTローモードでバリエータ3を最ローとした状態(1st Low)から、副変速機構4を2速(ハイ)としたCVTハイモードでバリエータ3を最ハイとした状態(2nd High)までの広い変速比範囲で走行することができ、自動変速機2の変速比幅を拡大できると、駆動源の電動モータ1の負担を減少させることができ、電動モータ1の小型化によるパワートレイン全体のコンパクト化や、電動モータ1を効率の良い領域を使うことができるため、パワートレイン効率を向上させることができ、電気自動車の航続距離を増加させることができる。
さらに、車両が高速道路等で高速走行している際には、図3(b)に示すように、直結ギヤ機構20を使用する。これにより、伝達効率の高い歯車による動力伝達を実現することができ、この点からも電費を向上させることができ、電気自動車の航続距離を増大することができる。なお、図4に破線で示すように、直結ギヤ機構20による変速比を2速最ローの変速比よりもやや高く設定すれば、高速走行時のモータ1の負担を軽減でき、電気自動車の航続距離の増大にも寄与する。
また、3つの動力伝達モードの切り替えは、電動モータ1と補助電動モータ10とを利用して回転同期を図るので、回転同期が促進されて変速時間を短縮でき、且つ変速ショックの低減も図ることが可能となる。また、電動モータ1と補助電動モータ10とによる回転同期により、同期調整を正確に実行することができ、シンクロ機構等を省いて装置コストを低減することができる。
例えば、噛み合いクラッチ機構5Bによって副変速機構4を1速(ロー)と2速(ハイ)とで切り替えるときには、副変速機構4の回転軸43の回転をギヤ41またはギヤ42の回転に同期させるが、これには電動モータ1と補助電動モータ10を協働して作動させることにより、バリエータ3の大きな慣性質量を克服して素早く同期を得ることができ、変速時間の短縮が可能となる。
また、噛み合いクラッチ機構5Aによって、バリエータ3を使用する状態と直結ギヤ機構20を使用する状態とで切り替える際にも、噛み合いクラッチ機構5Aにおける入力回転部材と出力回転部材とを回転同期させるが、これには、電動モータ1と補助電動モータ10とを利用することができる。
例えば、直結ギヤ機構20を使用する状態からバリエータ3を使用する状態に切り替える場合、以下の手順で速やかに切り替えることができる。
(1)噛み合いクラッチ機構5A,5Bを何れもニュートラルにする。
(2)補助電動モータ10によって、バリエータ3を介して副変速機構4の回転軸43と達成する変速段に対応するギヤ(ギヤ41またはギヤ42)との回転同期を促進しながら、駆動源である電動モータ1の回転をバリエータ3の入力部(プライマリプーリ)30Pの回転軸33の回転と同期させるように制御する。
(3)ニュートラル状態の噛み合いクラッチ機構5Aを、入力軸2A側の部材(スリーブ52の内歯52a)とバリエータ3のプライマリプーリ30Pの入力回転部材(回転軸33の外歯38)とが噛み合うように、CVTポジション(C)に切り替えると共に、ニュートラル状態の噛み合いクラッチ機構5Bを、達成する変速段に対応するギヤ(ギヤ41またはギヤ42)に連結されるように切り替える。
これにより、噛み合いクラッチ機構5A,5Bを短時間で切り替えることができ、トルク抜け感を与えにくくなり、変速にかかるドライブフィーリングを良好にすることができる。
なお、本実施形態における補助電動モータ10は、変速時の回転同期に用いるだけなので、小出力の小型モータを採用でき、装置のコスト増を抑制することができる。
また、車両の駆動系ユニットの動力伝達経路下流側ほどトルク増幅のために動力伝達系に大トルクが加わるが、このように、動力伝達経路の比較的上流側のプライマリプー30Pの回転軸33に補助電動モータ10を接続すれば、低トルクに対応した小出力の小型モータを採用しやすい。
なお、この補助電動モータ10の出力を車両の駆動のためのトルクアシストとして利用することも考えられ、この場合、補助電動モータ10を相応の出力の物を採用することになる。
一方、バリエータ3を使用する状態から直結ギヤ機構20を使用する状態に切り替える場合は、両噛み合いクラッチ機構5A,5Bをニュートラルにする。そして、電動モータ1の回転を入力歯車21の回転と同期させるように制御する。回転が同期したら、ニュートラル状態の噛み合いクラッチ機構5Aを、入力軸2A側の部材(スリーブ52の内歯52a)と入力歯車21側の部材(外歯52a)とが噛み合うように、直結ポジション(D)に切り替える。
なお、噛み合いクラッチ機構5Bは、直結駆動の間はニュートラルを保持する。
また、トルクカム機構(トルクカム装置)90によれば、以下のような作用及び効果が得られる。
ドライブ時、即ち、駆動カム部材91から被駆動カム部材93への動力伝達時には、駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dと中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dとが当接し、コースト時、即ち、被駆動カム部材93から駆動カム部材91への動力伝達時には、被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cと中間カム部材92の第2駆動カム面92Cとが当接して、動力伝達が達成される。
これらの何れも環状である第1駆動カム面91D及び第2被駆動カム面92D並びに第1被駆動カム面93C及び第2駆動カム面92Cは、それぞれ環状の全周に亘って形成でき、全周分だけカム面の長さを確保できる。
図9(a)は中間カムを用いずにトルクカム装置を構成した場合の模式的な周面図であり、図9(a)に示すように、駆動カム面192D及び被駆動カム面192cは環状の全周の半分ずつしかカム面の長さを確保できない。一方、図9(b)は本トルクカム機構90のカム面の高低差(カムストロークに対応する)を図9(a)のものと同一設定した場合の模式的な周面図である。本トルクカム機構90の場合、各カム面91D,93Cを(図示しないカム面92D,92Cも)、環状の全周に亘って形成でき、カム面の長さを略倍増させることができる。この結果、カムトローク量を確保しながらカム面の傾斜角度α2を、中間カムを用いないものの傾斜角度α1よりも小さくする(α2<α1)ことができ、発生推力を増大することができる。
また、各接続面91j,92j,93jがそれぞれ回転軸線に沿う方向(回転軸線と平行な方向)に形成されているので、トルクカム機構90が速やかに作動する。
つまり、トルクカム機構90において、ドライブ時には、図8(a)に示すように、駆動カム部材91から被駆動カム部材93へ向けて動力伝達される状態となり、駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dが中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dを押圧し(矢印F1参照)、中間カム部材92の接続面92jが被駆動カム部材93の接続面93jに当接する。
接続面92j,93jがそれぞれ回転軸線に沿う方向に形成されているので、第2被駆動カム面92Dには、接続面92j,93jに沿って回転軸線方向に分力F2が作用し、これによって、中間カム部材92は、図8(b)に示すように、被駆動カム部材93の側に押されて、中間カム部材92の第2駆動カム面92Cが被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cに当接する。
さらに、駆動カム部材91から被駆動カム部材93へ向けて動力伝達がされようとすると、図8(c)に示すように、駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dが中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dに沿ってスライドして、推力F3を発生させる。
このようにして、トルクカム機構90が速やかに作動する。
一方、図8(d)に示すように、カム部材91´,92´,93´の終端面91j´,92j´,93j´が回転軸線に沿わずに傾斜していると、中間カム部材92が駆動カム部材91のから受ける押圧力F´によるカム部材92´とカム部材93´との衝突時のトルクにより、その角度分の推力F4が発生し、カム部材92´を一旦カム部材91´C側に押し戻す動きをとることになるため、トルクカム機構90の動作が遅れてしまう。
また、中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dと第2駆動カム面92Cとが、回転方向へ位相ずれして形成されているので、両カム面92D,92Cの位置的な干渉を回避することができ、中間カム部材92の軸方向長さが抑えられる。本実施形態の場合、両カム面92D,92Cの位相ずれは90度となっているので、中間カム部材92の軸方向長さが最も抑えられる。
そして、本トルクカム装置90の場合、中間カム部材92の第2被駆動カム面92D及び第2駆動カム面92Cには、全周にわたって連続してボール95の移動を案内する案内溝92Gが設けられているので、カム面間に多数のボール95を介装できるようにしながら、カム面の傾斜角度を大きくすることなく、各カム面の長さを確保できるようになる。このため、各ボール95や各カム面91D,92D,92C,93Cの荷重負担を抑制することができ、例えば、ベルト式無段変速機の変速機構の推力発生機構に使用した場合には、装置を大きくすることなく、大きな推力を発生することができ且つレシオカバレッジを十分に確保することができるようになる。
特に、案内溝92Gは、螺旋状曲面92dに沿った螺旋状に形成された螺旋状溝部92gと、螺旋状溝部92gの相互間に形成され螺旋状溝部92gを滑らかに接続する接続溝部92mとを備えているので、ボール95の移動が規制されることがなく摺動抵抗が少なくなり、全周にわたってボール95が滑らかに移動することができる。
また、各カム面91D,92D,92C,93Cの等分割された螺旋状曲面91d,92d,92c,93cの相互間は、接続部91J,92J,93Jが形成されている。この接続部91J,92J,93Jは、相互間が接続される両螺旋状曲面のうちの一方側の螺旋状曲面の端部から軸方向に伸びる第1連結面91j,92j,93jと、この第1連結面91j,92j,93jの端部と他方側の螺旋状曲面の端部とを連結する第2連結面91k,92k,93kとを備えており、この第2連結面91k,92k,93kが、軸線方向に対し垂直な面とされているため、駆動カム部材91,中間カム部材92及び被駆動カム部材932の軸方向を短縮化できる利点がある。
また、案内溝92Gは、開口部98を備え、ボール95の一部を開口部98から外方へ突出させてボール95の半部よりも多くを収容しており、開口部98の開放幅は、ボール95の外径よりも小さく形成されているので、ボール95が案内溝92Gから離脱することなく、案内溝92G内に確実に保持される。
案内溝92Gの開口部98の一部に、案内溝92Gの内部にボール95を挿入するために拡径した挿入用拡径部96が形成され、挿入用拡径部96には、挿入後のボール95の案内溝の内部からの離脱を防止する離脱防止部としてのネジ部材97が、挿入用拡径96部の拡径部分を閉塞するように装着されるので、ボール95が挿入用拡径部96から離脱することなく、案内溝92G内に確実に保持される。
さらに、挿入用拡径部96は、上記の角度εの範囲であって、特にカムの斜面の半分よりも下側の谷部に設けられているので、挿入用拡径部96付近では、常にボール95が多点接触となるため、カム部材91,92,93が螺旋状曲面に正確に沿って修道することが可能になる。例えば、1点接触の時のように、カム部材91,92,93の軸線方向に対する傾斜が発生してその周辺部材に応力が集中するのを抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
なお、本実施形態では、トルクカム機構90を3つのカム部材91,92,93から構成しているが、本発明としては、トルクカム機構90には中間カム部材92は必須でなく、図15に示すように、中間カム部材92を備えないトルクカム機構にも適用しうる。
図15に示すように、このトルクカム機構90は、可動プーリ35の背面に固設された駆動カム部材(ドライブカム部材)91と、駆動カム部材91に隣接して固定プーリ34の回転軸36に固設された被駆動カム部材(ドリブンカム部材)193との2つのカム部材から構成されている。駆動カム部材91は車両のドライブ走行時(駆動走行時)に被駆動カム部材193を駆動し、被駆動カム部材193は車両のコースト走行時(被駆動走行時)に駆動カム部材91を駆動する。
駆動カム部材91は、図15(b)に示すように、第1実施形態のものと同様であるので説明を省略する〔図6(b)参照〕。
被駆動カム部材193は、図15(a)に示すように、駆動カム部材91と略対称な形状であり、一端側に環状の被駆動カム面193Dを有しており、他端側が回転軸36に固設される。環状の被駆動カム面193Dは、環状全周を2つに等分割されていて、それぞれの被駆動カム面193Dが所定のカム角度に応じた螺旋状曲面193dを有している。等分割された2つの被駆動カム面193Dの相互間には、それぞれ接続部193Jが形成される。この接続部193Jは、一方側の螺旋状曲面193dの端部から段状に形成されて軸方向に伸びる接続面(第1連結面)193jと、接続面193jの端部と他方側の螺旋状曲面193dの端部とを連結する第2連結面193kと、を有している。この接続面193jは、それぞれ被駆動カム部材193の回転軸線に沿う軸線方向(回転軸線と平行な方向)に形成されている。この接続面193jも、それぞれ被駆動カム部材193の軸線方向に形成され、第2連結面193kは軸線方向に対し垂直な面とされている。
被駆動カム部材193の被駆動カム面193Dは、駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dに接触可能である。両駆動カム面91D,193D間には、ボール(鋼球)95が介装され、トルクカム機構90は、ボールトルクカム装置として構成される。
このため、図15(a),(b)に示すように、駆動カム部材91の駆動カム面91D、被駆動カム部材193の被駆動カム面193Dの螺旋状曲面等には、ボール95を案内する、断面円弧状の溝(案内溝)91g,193Gがそれぞれ形成されている。これにより、駆動カム面91Dと被駆動カム面193Dとの間は、ボール95による点接触により滑らかに摺動する。
そして、本変形例の被駆動カム部材193の被駆動カム面193Dの案内溝193Gは、実施形態の中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dの案内溝92Gと同様に、螺旋状溝部193gと、接続溝部193mとを備えている。また、案内溝193Gは、案内溝92Gと同様に、図示しない開口部を備え、ボール95の一部を開口部から外方へ突出させてボール95の半部よりも多くを収容しており、開口部の開放幅は、ボール95の外径よりも小さく形成されている。
また、案内溝193Gの開口部の一部に、案内溝193Gの内部にボール95を挿入するために拡径した図示しない挿入用拡径部が形成され、挿入用拡径部には、挿入後のボール95の案内溝の内部からの離脱を防止する離脱防止部(例えば、ネジ部材97)が装備される。さらに、挿入用拡径部は、上記の角度εの範囲であって、特にカムの斜面の半分よりも下側の谷部に設けられている。
このような構成によっても、第1実施形態の対応する構成と同様の作用及び効果を得ることができる。
なお、ボール95を保持するための半円よりも大きな案内溝は、駆動カム部材91側に設けても良い。
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態を適宜変更したり部分的に採用したりして実施することができる。
例えば、第1実施形態では、駆動カム部材91の第1駆動カム面91Dと中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dとに、両者間に介装するボール95を全周にわたって連続して案内する案内溝91g,93Gを設け、このうち、中間カム部材92の第2被駆動カム面92Dの案内溝93Gの方を、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝としているが、第1駆動カム面91Dの案内溝91gの方を、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝として構成しても良い。
また、中間カム部材92の第2駆動カム面92Cと、被駆動カム部材93の第1被駆動カム面93Cとに、両者間に介装するボール95を全周にわたって連続して案内する案内溝92G,93Gを設け、このうち、中間カム部材92の第2駆動カム面92Dの案内溝92Gを、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝としているが、第1被駆動カム面93Cの案内溝93gの方を、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝として構成しても良い。
また、第2実施形態では、駆動カム部材91の駆動カム面91Dと被駆動カム部材93の被駆動カム面93Cとに、両者間に介装するボール95を全周にわたって連続して案内する案内溝91g,93Gを設け、このうち、被駆動カム部材93の被駆動カム面93Cの案内溝93Gの方を、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝としているが、駆動カム面91Dの案内溝91gの方を、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝として構成しても良い。
ただし、ボール95の半部よりも多くを収容する案内溝の加工は、特殊な工具を要する加工でもあるので、第1実施形態のように、中間カム部材92の両端にボール95の半部よりも多くを収容する案内溝を設けて、特殊な工具を要する加工を中間カム部材92に集中的に行なうように構成することで、加工を効率よく行なうことができる。
また、上記実施形態では、噛み合いクラッチ機構5A,5Bに、3ポジション式のものが採用されており装置構成を簡素化しているが、これらの何れかまたは両方に、2ポジション式の噛み合いクラッチ機構を2つ組み合わせて使用することもできる。
また、このトルクカム装置90を適用したプーリ装置30P,30Sは、上記の電気自動車だけでなく、ハイブリッド電気自動車や、エンジン駆動の自動車に広く適用しうる。
また、機械式反力機構としては、実施形態に示した端面カム機構に限定されないが、端面カム機構の場合、トルク容量の大きい機構をコンパクトに構成することができる。
また、上記実施形態では、噛み合いクラッチ機構5A,5Bの噛み合い箇所にシンクロ機構を装備していないが、噛み合い箇所にシンクロ機構を装備すれば、上記の回転同期制御に高い精度が要求されなくなるので、回転同期が完了する前にクラッチ機構5A,5Bを噛み合い操作することができ、変速に要する時間を短縮できる。
なお、上記実施形態では、案内溝が全周にわたって連続してボールの移動を案内するが、本発明の案内溝は、必ずしも、全周にわたって連続してボールの移動を案内する必要はなく、少なくとも断面が半円よりも広範囲な部分円状に形成され、ボール95を保持し且つボール95の離脱を規制する案内溝であればよい。