JP2006105248A - トルクカム機構 - Google Patents
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Abstract
【課題】2つのカム部材の回転方向及び軸線方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持すること。
【解決手段】相互に噛み合うカム部2a,3aを有し、且つ相対的に回転すると共に回転軸6の軸線方向にて接近又は離隔する2つのカム部材2,3を備えたトルクカム機構1において、その各カム部材2,3間の回転方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持する相対位置関係保持手段9を設けること。例えば、その相対位置関係保持手段9は、一方のカム部材2に設けたガイド部(ガイド溝9a)と、このガイド部に係合して案内される他方のカム部材3に設けた被ガイド部(ガイドピン9b)とを備え、前記所定の範囲内の境界にて被ガイド部が係止され得る端部9a2をガイド部に設ける。
【選択図】 図2
【解決手段】相互に噛み合うカム部2a,3aを有し、且つ相対的に回転すると共に回転軸6の軸線方向にて接近又は離隔する2つのカム部材2,3を備えたトルクカム機構1において、その各カム部材2,3間の回転方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持する相対位置関係保持手段9を設けること。例えば、その相対位置関係保持手段9は、一方のカム部材2に設けたガイド部(ガイド溝9a)と、このガイド部に係合して案内される他方のカム部材3に設けた被ガイド部(ガイドピン9b)とを備え、前記所定の範囲内の境界にて被ガイド部が係止され得る端部9a2をガイド部に設ける。
【選択図】 図2
Description
本発明は、共通の回転軸上で相対回転及び軸線方向への相対移動をし得る相互に噛み合う2つのカム部材を備えたトルクカム機構に関する。
従来、共通の回転軸上で相対回転及び軸線方向への相対移動をし得る相互に噛み合う2つのカム部材を備え、その何れか一方のカム部材に取り付けた部材への入力トルクに応じて当該部材に軸線方向の押圧力を発生させるトルクカム機構がある。
この種のトルクカム機構としては、カム山及びカム溝からなる相互に噛み合うカム部を夫々のカム部材に設けたものや、その夫々のカム部におけるカム溝の間に球状部材やローラ部材等の転動部材を介在させたもの等がある。
例えば、下記の特許文献1には、そのトルクカム機構をベルト式無段変速機における可動シーブの押圧機構として適用したものが開示されている。この特許文献1に開示されたトルクカム機構は、一方のカム部材を回転軸に対して相対的な回転及び摺動を行い得るよう可動シーブの背面に固定し、他方のカム部材をその回転軸に固定したものであり、これにより、可動シーブへの入力トルクに応じた軸線方向の押圧力を当該可動シーブに発生させて、その可動シーブと固定シーブとの間にベルト挟圧力を発生させるものである。
しかしながら、上記従来のトルクカム機構にあっては、少なくとも何れか一方のカム部材にトルク変動に伴う急激なトルクや過大なトルク等の外乱が入力されると、夫々のカム部材間で回転方向及び軸線方向への相対的な位置関係がズレてしまう虞がある。特に、その外乱によるトルクの大きさ如何では夫々のカム部間で回転方向への位相ズレ(カム山の飛び越え)が発生する虞があり、そのような位相ズレが発生することによって、カム部に偏摩耗等が生じてしまい耐久性が悪化してしまう。また、上記特許文献1の如くベルト式無段変速機に適用した従来のトルクカム機構において位相ズレが発生すると、その際の回転変動が駆動軸に伝達されてしまいドライバビリティが悪化してしまう。
ここで、上述した転動部材を有する従来のトルクカム機構においては、その転動部材によってのみ夫々のカム部材の相対的な位置関係が規制される。一方、その転動部材を挟持する夫々のカム部間の力(トルク)が低いときには、その転動部材は容易且つ自在に移動することができる。このようなことから、この転動部材を有する従来のトルクカム機構においては、夫々のカム部材のカム部間で回転方向への位相ズレが発生し易く、上述した不都合がより顕著に現れる。
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、トルク変動等の外乱に伴うカム部材間の位置関係のズレを抑制し得るトルクカム機構を提供することを、その目的とする。
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、相互に噛み合うカム部を有し、且つ相対的に回転すると共に接近又は離隔する2つのカム部材を備えたトルクカム機構において、その各カム部材間の回転方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持する相対位置関係保持手段を設けている。
この請求項1記載の発明によれば、各カム部材間における回転方向での相対的な位置関係を所定の範囲内に保持することができる。即ち、相対位置関係保持手段によって各カム部材間の相対的な移動量を所定の範囲内で規制することができる。これが為、例えばトルク変動等の外乱が生じた場合においても、各カム部材間の相対的な位置関係を所定の範囲内に保つことが可能になる。
例えば、請求項2記載の発明の如く、上記相対位置関係保持手段としては、一方のカム部材又は当該一方のカム部材に対して一体的に配置された部材に設けたガイド部と、このガイド部に係合して案内され、且つ他方のカム部材又は当該他方のカム部材に対して一体的に配置された部材に設けた被ガイド部とを備えたものを用意し、そのガイド部に、前記所定の範囲内の境界にて被ガイド部が係止され得る回転方向の端部を設ける。より具体的には、そのようなガイド部としてガイド溝やガイド壁を設けると共に被ガイド部としてガイドピン等の係合体を設けることによって、簡易的に上記の如き効果を奏することが可能になる。
また、別の構成としては、請求項3記載の発明の如く、各カム部材のカム部間に挟持される転動部材と、この転動部材を保持する保持器とを備え、上記相対位置関係保持手段として、カム部材に設けたガイド部と、このガイド部に係合して案内される保持器に設けた被ガイド部とを備えたものを用意し、そのガイド部に、前記所定の範囲内の境界にて被ガイド部が係止され得る回転方向の端部を設ける。より具体的には、そのようなガイド部としてガイド溝やガイド壁を設けると共に被ガイド部として保持器にガイド爪等の係合体を設けることによって、簡易的に上記の如き効果を奏することが可能になる。
ここで、請求項4記載の発明の如く、上述した各カム部材の内の何れか一方をベルト式無段変速機の可動シーブに対して一体的に設けることによって、上述したトルクカム機構単独での効果だけでなくドライバビリティの向上をも図ることができる。
本発明に係るトルクカム機構は、夫々のカム部材間の相対的な位置関係を所定の範囲内に保つことができるので、夫々のカム部間の回転方向における位相ズレを抑制することができる。また、これに伴って、カム部や転動部材における摺動面の偏摩耗等を抑制することが可能になり、トルクカム機構の耐久性を向上させることができる。
以下に、本発明に係るトルクカム機構1の実施例及びその適用例を図1から図12に基づいて詳細に説明する。尚、ここでは、本発明に係るトルクカム機構1について4つの実施例(トルクカム機構1A,1B,1C,1D)を例示するが、必ずしもこれらの実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、便宜上、図1においては、後述する実施例1のトルクカム機構1Aについて図示する。
図1は、本発明に係るトルクカム機構1をその回転軸6に対して平行に見た図である。このトルクカム機構1は、相互に噛み合うカム部2a,3aを有し、且つ相対的に回転すると共に接近又は離隔する第1及び第2のカム部材2,3を備えている。
例えば、この種のトルクカム機構1は、図1に示す如く回転軸6,6’上に夫々配置された第1及び第2の部材7,8の間に配設される。ここで、その第1及び第2の部材7,8は、回転軸6,6’を中心とした相対回転を行い得ると共に、その回転軸6,6’の軸線方向に相対移動し得る。ここでは、回転軸6と一体になって回転し且つ軸線方向に摺動し得るよう第1部材7を構成する一方、軸線方向での位置を一定にしたまま回転軸6’と共に一体回転し得るよう第2部材8を構成する。また、その夫々の回転軸6,6’は、同軸上にベアリング等を介して相対回転可能に配置されている。
以下、本発明に係るトルクカム機構1の実施例1について図1から図4を用いて詳述する。
その各図における符号1Aは、本実施例1のトルクカム機構を示す。この本実施例1のトルクカム機構1Aは、相互に噛み合うカム部2a,3aを有し、且つ相対的に回転すると共に接近又は離隔する第1及び第2のカム部材2,3と、その第1及び第2のカム部材2,3のカム部2a,3aに挟持される複数の被挟持部材4と、これら各被挟持部材4が第1及び第2のカム部材2,3の間から外れないよう保持する環状の保持器5とを備えている。
先ず、このトルクカム機構1Aを構成する第1カム部材2は、第1部材7における第2部材8との対向面から回転軸6を中心軸にして環状又は筒状に立設され、その自由端側の環状の面に軸線方向へ向けた略均等な山谷状のカム部2aが形成されている。一方、第2カム部材3についても同様に、第2部材8における第1部材7との対向面から回転軸6を中心軸にして環状又は筒状に立設され、その自由端側の環状の面に軸線方向へ向けた略均等な山谷状のカム部3aが形成されている。
ここで例示する第1及び第2のカム部材2,3は、略同等の外径からなり、夫々のカム部2a,3aが略同等の形状に且つ軸線方向にて対向するよう形成される。尚、夫々のカム部2a,3aが軸線方向にて対向するのであれば、第1及び第2のカム部材2,3は、必ずしも夫々の内外径が同等である必要はない。
また、第1カム部材2には、その外径よりも小径の環状部2bが第2カム部材3に向けて延設されている。その環状部2bは、第2カム部材3の内径よりも僅かに小さな外径からなり、第2カム部材3の内側にまで延設される。
このような第1及び第2のカム部材2,3は、夫々第1及び第2の部材7,8とは別体構造であっても一体構造であってもよいが、その第1及び第2の部材7,8に対しては一体的に設ける。
ここで、第1及び第2のカム部材2,3の夫々のカム部2a,3aにおいては、山状の部分がカム山となり、谷状の部分がカム溝となる。
上述した各被挟持部材4は、その夫々のカム溝で挟持される一方、保持器5によって第1及び第2のカム部材2,3の間からの離脱が防止される。尚、図2〜図4においては、便宜上、保持器5が外された状態を図示している。
その被挟持部材4としては球状のボール部材や円柱状のローラ部材等の種々の形態の転動部材が考えられるが、本実施例1にあっては、後者のローラ部材を第1及び第2のカム部材2,3の間に配置する。具体的に、そのローラ部材4は、その中心軸を回転軸6に向け且つ外周面が夫々のカム溝の壁面と当接するよう第1及び第2のカム部材2,3の間に配置される。
このように構成されたトルクカム機構1Aにおいては、例えば第1部材7と第2部材8とが離隔し、これらの間に図2に示す方向Aの相対回転が生じた場合、第1カム部材2と第2カム部材3とが離隔しつつ当該第1カム部材2と第2カム部材3との間に同一方向Aの相対回転が生じ、図2に示す状態から図3に示す状態へと変化する。
また、その図3に示す状態において第1部材7と第2部材8とが接近し、これらの間に図2に示す逆方向Bの相対回転が生じた場合、第1カム部材2と第2カム部材3とが接近しつつ当該第1カム部材2と第2カム部材3との間に上記と同一方向Bの相対回転が生じ、図3に示す状態から図2に示す状態へと変化する。
ここで、第1部材7と第2部材8との離隔に伴って方向Bの相対回転が生じた場合には、第1カム部材2と第2カム部材3とが離隔しつつ同一方向Bに相対回転し、図2に示す状態から図4に示す状態へと変化する。また、かかる図4の状態において第1部材7と第2部材8とが接近し、これらの間に逆方向Aの相対回転が生じた場合には、第1カム部材2と第2カム部材3とが接近しつつ同一方向Aに相対回転し、図4に示す状態から図2に示す状態へと変化する。
ところで、かかる構成のみからなるトルクカム機構1Aにおいては、前述したが如く、トルク変動等の外乱に伴って第1カム部材2と第2カム部材3との間で相対的な位置関係にズレが生じる虞があり、特に、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔している状態において外乱が発生すると、カム山の飛び越えに伴って第1カム部材2のカム部2aと第2カム部材3のカム部3aとの間で回転方向における位相ズレ(初期設定位置からのカム山(又はカム溝)のズレ)が生じてしまう虞がある。ここで、その第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態とは、ローラ部材4が挟持されてトルクカム機構1Aとして機能し得る第1及び第2のカム部材2,3の最大離隔状態を指す場合もあれば、第1部材7と第2部材8とが予め設定された最大離隔状態になった際の状態を指す場合もある。ここでは後者の場合をいう。
そこで、本実施例1のトルクカム機構1Aには、第1カム部材2と第2カム部材3との間における回転方向及び軸線方向での相対的な位置関係を所定の範囲内に保持する相対位置関係保持手段(換言すれば、相対的な移動量を所定の範囲内で規制する相対移動量規制手段)9が設けられている。この相対位置関係保持手段9は、ガイド部と当該ガイド部に沿って案内される被ガイド部とで構成される。
例えば、本実施例1にあっては、そのガイド部として第1カム部材2と共に一体となって回転及び軸線方向への摺動を行う少なくとも1つのガイド溝9aを設け、その被ガイド部としてガイド溝9aに係合して案内されるガイドピン9b等の係合体を第2カム部材3に設ける。
具体的に、本実施例1のガイドピン9bは、その中心軸を回転軸6’に向け且つ一端を第2カム部材3の内径側へと突出させて、そのカム部3aにおける夫々のカム山の頂点部分に1本ずつ埋設されている。本実施例1にあっては、そのガイドピン9bの突出部分が被ガイド部としてガイド溝9aに係合する。
一方、本実施例1の各ガイド溝9aは、第1カム部材2における環状部2bの外周面に形成され、上述した夫々のガイドピン9bの突出部分が挿入される。その夫々のガイド溝9aは、図2に示す如く、第2カム部材3のカム山(カム溝)と同一方向の傾斜を有し、且つ、そのカム山(カム溝)のカム角αと略同等の傾斜角βを有するV字状に形成されたものであって、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も接近した状態において、その頂点(V字状の交点部分)9a1に夫々のガイドピン9bが位置するよう配置される。ここで、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も接近した状態とは、図2に示す如く、各ローラ部材4が夫々のカム溝の溝底部にて挟持されている状態のことをいう。
これにより、前述したが如く第1カム部材2と第2カム部材3とが相対的に離隔又は接近しつつ回転する際に、図3及び図4に示す如く、夫々のガイドピン9bが夫々のガイド溝9aに沿って移動する。
ここで、ガイド溝9aとガイドピン9bは、そのガイド溝9aの溝底面とガイドピン9bの突出部分とが接しないように設定することが好ましく、これにより第1カム部材2と第2カム部材3とが相対移動する際のかかる位置での摩擦損失を発生させずに済む。
更に、その夫々のガイド溝9aは、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態において各ガイドピン9bが図2に示すV字状の回転方向における何れか一方の端部9a2に位置するよう形成する。
例えば、その状態において端部9a2とガイドピン9bとが当接するようガイド溝9aを形成する。
これにより、第1及び第2の部材7,8の相対的な離隔及び回転(例えば図2に示す方向A)に伴って第1カム部材2と第2カム部材3とが相対的に離隔しつつ相対回転し、第1部材7と第2部材8(第1カム部材2と第2カム部材3)とが最も離隔した位置にまで相対移動すると、夫々のガイドピン9bがガイド溝9aの一方の端部9a2に係止される。これが為、第1カム部材2と第2カム部材3との間の相対移動が停止させられて、第1及び第2の部材7,8がそれ以上相対的に離隔及び回転することを抑止できる。
また、かかる状態において第1部材7と第2部材8とを上記と同一の方向(例えば図2に示す方向A)に相対回転させようとするトルク(トルク変動に伴う過大なトルク等の外乱)が生じたとしても、ガイド溝9aの端部9a2とガイドピン9bとの係止状態が保たれるので、第1及び第2のカム部材2,3が相対移動せず、かかる位置からの第1及び第2の部材7,8の相対的な離隔及び回転を抑止することができる。
更にまた、夫々のガイドピン9bがガイド溝9aの途中(例えば頂点9a1と端部9a2の中間)に位置している状態において上記の如き外乱が生じた場合、第1及び第2のカム部材2,3(第1及び第2の部材7,8)は、その外乱によるトルクに伴って相対的に離隔及び回転し、そのトルクの大きさによってはガイドピン9bがガイド溝9aの端部9a2に当接するまで相対移動して停止する。
このように、上述した相対位置関係保持手段9は、ガイド溝9aの双方の端部9a2が上述した所定の範囲内の境界にてガイドピン9bを係止し得るストッパーとして機能し、第1カム部材2と第2カム部材3(換言すれば、第1部材7と第2部材8)の相対的な移動量を所定の範囲内に規制して、夫々の回転方向及び軸線方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持することができる。また、これが為、第1カム部材2と第2カム部材3との間の回転方向における位相ズレ(カム山の飛び越え)を抑制することができるので、夫々のカム部2a,3aやローラ部材4における摺動面の偏摩耗等の抑制が可能になり、トルクカム機構1Aの耐久性を向上させることができる。
一方、上述した夫々のガイド溝9aは、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態において、ガイドピン9bと端部9a2とが僅かな間隙を有するよう形成してもよい。
このようなガイドピン9bとの間で間隙を設け得るガイド溝9aの場合、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態で上記の如きトルク変動等の外乱が生じると、その第1及び第2のカム部材2,3(第1及び第2の部材7,8)は、ガイドピン9bがガイド溝9aの端部9a2に当接するまで僅かに相対的な離隔及び回転を行って停止する。
ここで、かかる場合にあってもガイド溝9aの双方の端部9a2はガイドピン9bのストッパーとして機能するので、第1カム部材2と第2カム部材3(換言すれば、第1部材7と第2部材8)の回転方向及び軸線方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持することができる。そして、これにより、その第1カム部材2と第2カム部材3との間の回転方向における位相ズレ(カム山の飛び越え)が抑制されるので、トルクカム機構1Aの耐久性を向上させることができる。
また、このような相対位置関係保持手段9においては、上記の如き外乱が生じなければガイド溝9aの端部9a2とガイドピン9bとが当接することはない。これが為、そのガイド溝9aの端部9a2及びガイドピン9bの変形や摩耗等を回避することができる。更に、これらが当接しないことから打音が発生しないので、音振(騒音及び振動)性能の向上をも図ることができる。
以下に、本実施例1のトルクカム機構1Aの具体的な適用例について説明する。ここでは、そのトルクカム機構1Aをベルト式無段変速機50におけるベルト挟圧力の発生機構(可動シーブの押圧機構)として用いた場合について例示する。
先ず、そのベルト式無段変速機50を備えた図5に示す動力伝達装置の全体構成について説明する。この動力伝達装置は、内燃機関10と、この内燃機関10の出力側に配置されたトランスアクスル20とで構成される。
上記トランスアクスル20は、図5に示す如く、内燃機関10の出力側から順に、内燃機関10に取り付けられたトランスアクスルハウジング21と、このトランスアクスルハウジング21に取り付けられたトランスアクスルケース22と、このトランスアクスルケース22に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー23とを備えており、これらにより筐体が構成される。
先ず、上記トランスアクスルハウジング21の内部には、トルクコンバータ(発進装置)30が収納されている。このトルクコンバータ30は、内燃機関10のトルクを増加させて後述するベルト式無段変速機50に伝達するものであり、ポンプインペラ31,タービンライナ32,ステータ33,ロックアップクラッチ34及びダンパ装置35等を備えている。
また、このトランスアクスルハウジング21の内部には、内燃機関10のクランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能なインプットシャフト38が設けられている。ここで、このインプットシャフト38における内燃機関10側の端部には、上記タービンライナ32が取り付けられており、更に上記ダンパ装置35を介して上記ロックアップクラッチ34が設けられている。
一方、上記クランクシャフト11におけるトランスアクスル20側の端部には、ドライブプレート12を介してトルクコンバータ30のフロントカバー37が連結されており、このフロントカバー37に上記ポンプインペラ31が接続されている。
このポンプインペラ31は上記タービンライナ32と対向配置され、これらの内側に上記ステータ33が配置されている。また、このステータ33には、ワンウェイクラッチ39を介して中空軸36が接続されており、この中空軸36の内部に上記インプットシャフト38が配置されている。
ここで、上記の如きフロントカバー37やポンプインペラ31等により形成されたケーシング(図示略)内には、作動油が供給されている。
以下に、上記トルクコンバータ30の動作説明を行う。
先ず、内燃機関10のトルクがクランクシャフト11からドライブプレート12を介してフロントカバー37に伝達される。ここで、ロックアップクラッチ34がダンパ装置35により解放されている場合には、フロントカバー37に伝達されたトルクがポンプインペラ31に伝達され、このポンプインペラ31とタービンライナ32との間を循環する作動油を介して、タービンライナ32にトルクが伝達される。そして、このタービンライナ32に伝達されたトルクは、インプットシャフト38に伝達される。
ここで、このトルクコンバータ30と後述する前後進切換え機構40との間には、図5に示すオイルポンプ(油圧ポンプ)26が設けられている。このオイルポンプ26は、そのロータ27により円筒形状のハブ28を介して上記ポンプインペラ31に接続されており、また、そのボデー(筐体)29がトランスアクスルケース22側に固定されている。更に、上記ハブ28は、上記中空軸36にスプライン嵌合されている。以上の如き構成により内燃機関10の動力がポンプインペラ31を介してロータ27に伝達されるので、オイルポンプ26を駆動することが可能になる。
次に、上記トランスアクスルケース22及びトランスアクスルリヤカバー23の内部には、前後進切換え機構40とベルト式無段変速機50と差動装置たる最終減速機80とが収納されている。
先ず、上記前後進切換え機構40は、トルクコンバータ30内のインプットシャフト38に伝達された内燃機関10のトルクを後述するベルト式無段変速機50のプライマリプーリ60に伝達するものであり、遊星歯車機構41と、フォワードクラッチ42と、リバースブレーキ43とから構成されている。
上記遊星歯車機構41は、サンギヤ44と、ピニオン(プラネタリピニオン)45と、リングギヤ46とから構成されている。
ここで、そのサンギヤ44は連結部材(図示略)にスプライン嵌合されており、その連結部材はプライマリプーリ60の回転軸たるプライマリシャフト61にスプライン嵌合されている。かかる構成により、サンギヤ44に伝達されたトルクは、プライマリシャフト61に伝達される。
また、上記ピニオン45は、サンギヤ44の周囲に複数個(例えば3個)配置され、そのサンギヤ44に噛み合わされている。ここで、夫々のピニオン45は、ピニオン45自身を自転可能に支持すると共にサンギヤ44の周囲で一体に公転可能に支持するキャリヤ48に保持されている。このキャリヤ48は、その外周端部でリバースブレーキ43に接続されている。
また、上記リングギヤ46は、キャリヤ48に保持されている各ピニオン45に噛み合わされ、フォワードクラッチ42を介してトルクコンバータ30内のインプットシャフト38に接続されている。
続いて、上記フォワードクラッチ42は、インプットシャフト38の中空部に供給された作動油によりON/OFF制御されるものである。ここで、このON/OFF制御には、ブレーキピストン(図示略)が用いられる。尚、前進走行時には、フォワードクラッチ42がON、リバースブレーキ43がOFFにされ、後進走行時には、フォワードクラッチ42がOFF、リバースブレーキ43がONにされる。
次に、上記ベルト式無段変速機50の概略構成について説明する。
このベルト式無段変速機50は、上記インプットシャフト38と同心円上に配置されたプライマリシャフト(プーリ軸)61と、このプライマリシャフト61に対して所定の間隔を設けて平行に配置されたセカンダリシャフト(プーリ軸)71とを備えている。ここで、このプライマリシャフト61は図5に示す軸受91,92により回転可能に支持されており、セカンダリシャフト71は図5に示す軸受93,94により回転可能に支持されている。
先ず、上記プライマリシャフト61側の構成について説明する。
このプライマリシャフト61には、これを回転軸とする図5に示すプライマリプーリ60が設けられている。このプライマリプーリ60は、図6に示す如く、プライマリシャフト61の外周に一体的に配設された固定シーブ62と、そのプライマリシャフト61の軸線方向に摺動可能な可動シーブ63とを備えている。
ここで、その固定シーブ62と可動シーブ63との対向面間には、V字形状の溝90aが形成されている。また、その可動シーブ63は、スプライン64によってプライマリシャフト61にスプライン嵌合されており、これにより、プライマリシャフト61や固定シーブ62と一体になって回転すると共にそのプライマリシャフト61上を軸線方向へと摺動し得る。
更に、このプライマリシャフト61には、その可動シーブ63をプライマリシャフト61の軸線方向へと摺動させて固定シーブ62に接近又は離隔させる可動シーブ摺動機構65が設けられている。以下、この可動シーブ摺動機構65について図6及び図7に基づき詳述する。
この可動シーブ摺動機構65は、図6に示す如く、可動シーブ63をプライマリシャフト61の軸線方向に摺動させる為の駆動源たる油圧モータ650と、この油圧モータ650の駆動力(回転方向の力)を可動シーブ63の摺動方向の力に変換する運動方向変換機構651とを備えている。
先ず、その油圧モータ650としては、インナーロータとの相対回転により生じたアウターロータの回転を駆動力とする構造のモータを用いる。例えば、アウターロータを構成するモータケース内に配置された少なくとも二つのベーン(羽根)により少なくとも二つの油室を形成し、その油室に流入させた作動油の油圧により各ベーンを相対回転させて駆動力を発生させる所謂ベーン式油圧モータを使用する。
このベーン式油圧モータ650にあっては、図6及び図7に示す如く、プライマリシャフト61の外周面に嵌合又は圧入されて当該プライマリシャフト61と一体的に回転するモータシャフト650aと、このモータシャフト650aに対して相対回転可能に配設されたモータケース650bとを備えており、これにより、そのモータケース650bがプライマリシャフト61とモータシャフト650aに対してその回転軸を中心とした相対回転を行い得るよう構成されている。
ここで、そのモータケース650bは、モータシャフト650aを中心軸にして配置される円筒部650b1と、この円筒部650b1の開口を閉塞し得るよう例えばネジ部材(図示略)で固定される環状部650b2とにより構成され、プライマリシャフト61と共に回転可能な図6に示す軸受61aを介してプライマリシャフト61に保持されている。
具体的に、このベーン式油圧モータ650においては、図7に示す如く、モータケース650bの円筒部650b1の内周面に二つの第1ベーン650c,650cがモータシャフト650aの外周面に向けて一体的に立設されており、そのモータケース650bと第1ベーン650c,650cによりアウターロータが構成されている。その一方で、モータシャフト650aの外周面には二つの第2ベーン650d,650dが円筒部650b1の内周面に向けて一体的に立設されており、そのモータシャフト650aと第2ベーン650d,650dによりインナーロータが構成されている。
即ち、本実施例1のベーン式油圧モータ650においては、モータシャフト650aとモータケース650bとの間の環状の空間に上記第1及び第2のベーン650c,650dを配置することによって図7に示す第1及び第2の油室650e,650fを形成している。
ここで、その第1ベーン650c,650cとモータシャフト650aの外周面及びモータケース650bの内壁面との間に夫々シール部材650c1,650c1を設け、更に、その第2ベーン650d,650dとモータケース650bの内壁面との間に夫々シール部材650d1,650d1を設けることにより、第1及び第2の油室650e,650fの気密性を確保している。
上述したが如く構成されたベーン式油圧モータ650は、可動シーブ63における上記溝90aの反対側に配置される。具体的には、図6に示す如く、その反対側に向けて可動シーブ63から円筒状の延設部63aが延設されており、その延設部63aの内部空間にベーン式油圧モータ650が配置されている。
一方、そのような位置に配置されたベーン式油圧モータ650は、モータケース650bの外周部分において延設部63aの内周面に上記運動方向変換機構651を介して取り付けられる。続いて、その運動方向変換機構651について詳述する。
例えば、その運動方向変換機構651としては、アウターロータの回転力をその軸線方向の力に変換する多条ネジや滑りネジ等の所謂運動ネジを用いる。この種の運動方向変換機構651は、図6に示す如く、モータケース650bの円筒部650b1の外周面に一体的に設けられた筒状の第1運動方向変換機構構成部651aと、可動シーブ63の延設部63aの内周面に一体的に設けられた筒状の第2運動方向変換機構構成部651bとにより構成される。
この運動方向変換機構651においては、その第1運動方向変換機構構成部651aの外周面に周方向のネジ部分が形成される一方、その第2運動方向変換機構構成部651bの内周面にも周方向のネジ部分が形成されている。ところで、ベーン式油圧モータ650のモータケース650bは、プライマリシャフト61と共に又はプライマリシャフト61に対して相対的に周方向へと回転するが、その軸線方向には移動しない。これが為、運動方向変換機構651は、モータケース650bがプライマリシャフト61に対して相対的に周方向へと回転することによって可動シーブ63を軸線方向に摺動させることができる。
このように、運動ネジの如き運動方向変換機構651を設けているので、そのネジ面の摩擦によって大きな可動シーブ推力の反力を比較的小さなトルクで負担することができる。これが為、ベーン式油圧モータ650の出力(トルク)を低くすることができ、特に変速比定常時における可動シーブ63の軸線方向位置の保持油圧低減による高効率化やベーン式油圧モータ650の小型化(小径化)が可能になる。
また、この運動方向変換機構651は、モータケース650bと可動シーブ63とをプライマリシャフト61の回転方向において一体回転させるものであることから、ベーン式油圧モータ650を可動シーブ63と共に一体回転させる一体回転機構としても機能する。
以上の軸受61aと運動方向変換機構651とにより、ベーン式油圧モータ650と可動シーブ63との間の相対移動を可能にする相対移動機構が構成される。例えば、モータケース650bがモータシャフト650aに対して相対回転すると、その回転力(トルク)は、運動方向変換機構651を介することで可動シーブ63を摺動させる為のベーン式油圧モータ650の推力となる。ここで、この推力に対する反力は軸受61aに掛かるが、この軸受61aはプライマリシャフト61に固定されたものであり、その推力に対する反力をプライマリシャフト61で受けるので、モータケース650bが上記反力の方向に然程移動しない。これが為、可動シーブ63は、ベーン式油圧モータ650に対して相対移動し、固定シーブ62に接近する。このように、モータケース650bをモータシャフト650aに対して相対回転させることによって、可動シーブ63をプライマリシャフト61の軸線方向に摺動させることができる。
また、上述したが如くベーン式油圧モータ650の推力に対する反力は軸受61aを介してプライマリシャフト61で受けることができ、更に、モータケース650bとプライマリシャフト61との間の相対回転は、可動シーブ63の摺動方向のストロークで制限される。これらのことから、トランスアクスルケース22やトランスアクスルリヤカバー23等の静止系で上記反力を受けず、また、軸受61aの転動は殆ど起こらないので、この軸受61aにおける損失を低減することができる。
ここで、前述したが如くベーン式油圧モータ650の第2ベーン650d,650dはプライマリシャフト61と一体的に回転するので、ベーン式油圧モータ650のモータケース650bは、ベーン式油圧モータ650の回転が停止していればプライマリシャフト61と同一回転数で回転し、モータケース650bと第2ベーン650d,650dとの間に相対回転が生じていればプライマリシャフト61とは異なる回転数で回転する。
次に、上述したベーン式油圧モータ650における第1及び第2の油室650e,650fへの油路について説明する。
先ず、モータシャフト650aには第1油室650e,650eと連通する図7に示す油路650a1,650a1が形成される一方、プライマリシャフト61にはその油路650a1,650a1と連通する図7に示す油路61bが形成されており、これら各油路650a1,650a1,61bにより第1油室650e,650eへの作動油の供給又は当該第1油室650e,650eからの作動油の排出が行われる。
また、そのモータシャフト650aには第2油室650f,650fと連通する図7に示す油路650a2,650a2が形成される一方、プライマリシャフト61にはその油路650a2,650a2と連通する図7に示す油路61cが形成されており、これら各油路650a2,650a2,61cにより第2油室650f,650fへの作動油の供給又は当該第2油室650f,650fからの作動油の排出が行われる。
ここで、上記プライマリシャフト61の各油路61b,61cは、図8に示す如く、変速比制御用切替バルブ66Aと連通している。この変速比制御用切替バルブ66Aには、図8に示すオイルタンクOT,オイルポンプ(O/P)OP,油路66a,レギュレータバルブ66C,油路66b,挟圧力調圧バルブ66B及び油路66cを介して作動油が供給される。
この変速比制御用切替バルブ66Aは、複数の油路が形成されたバルブの位置を切り替えることによって、作動油の供給対象たる油室(上記第1油室650e,650e又は第2油室650f,650f)の切り替えを行うものである。この切り替えは、シリンダの内部に配置されたバネの反発力とその内部に供給する空気や作動油等の流体の圧力との差分を調節することで行われ、その流体の圧力制御は後述する電子制御装置(ECU)Cによって行われる。
例えば、この変速比制御用切替バルブ66Aは、バルブの位置が図9−1に示す如く切り替えられることで作動油の供給先を第1油室650e,650eに切り替え、図9−3に示す如く切り替えられることで作動油の供給先を第2油室650f,650fに切り替える。
また、この変速比制御用切替バルブ66Aは、バルブの位置を図9−2に示す如く切り替えることで第1油室650e,650e及び第2油室650f,650fに同圧の作動油を供給する。これによりベーン式油圧モータ650の回転が停止するので、この変速比制御用切替バルブ66Aは、変速比を固定する際にも使用される。
ここでは、上記第1油室650e,650eの油圧を上昇させていった際のモータケース650bの回転方向を正転といい、この正転時に可動シーブ63が固定シーブ62に接近するものと定義する。また、上記第2油室650f,650fの油圧を上昇させていった際のモータケース650bの回転方向を逆転といい、この逆転時に可動シーブ63が固定シーブ62から離隔するものと定義する。
以上示した如く、ここで例示したベルト式無段変速機50においては、プライマリシャフト61上でベーン式油圧モータ650と可動シーブ63とを延設部63a内で一体的に配置しているので、そのベーン式油圧モータ650と可動シーブ63とをコンパクトに纏めることができ、可動シーブ63を摺動させる可動シーブ摺動機構65の小型化が可能になる。また、かかる可動シーブ摺動機構65の小型化により、ベルト式無段変速機50自体の小型化も可能となる。更に、ベーン式の油圧モータ650を用いることで、また、上述した運動方向変換機構651を具備することで、モータの駆動力を可動シーブ63に伝達する為の歯車群が不要になり、可動シーブ摺動機構65やベルト式無段変速機50の更なる小型化を図ることができる。
また、上記の如き運動方向変換機構651を用いて可動シーブ63を摺動させるので、従来の如き歯車群により発生していた駆動損失が無くなり、可動シーブ摺動機構65における駆動損失が低減される。
続いて、このベルト式無段変速機50のプライマリシャフト61には、可動シーブ63を固定シーブ62側に押し付けて、固定シーブ62と可動シーブ63との間の軸線方向のベルト挟圧力を発生させる押圧機構が設けられている。
この押圧機構は、ベーン式油圧モータ650(モータケース650b)と可動シーブ63との間に形成された図6及び図8に示す油圧室67と、この油圧室67に連通する例えばプライマリシャフト61に形成された図8に示す油路61dと、この油路61dに連通する挟圧力調圧バルブ66Bとにより構成される。
このように、ここではベーン式油圧モータ650(モータケース650b)が油圧室67の一部を構成するので、押圧機構の小型化が図れ、ひいてはベルト式無段変速機50の小型化にも寄与する。
この押圧機構は、電子制御装置Cによって作動油の供給圧が調節された挟圧力調圧バルブ66Bからの油圧を油圧室67に供給することで、固定シーブ62と可動シーブ63との間にベルト挟圧力を発生させ、後述するベルト90の滑りを防ぐことができる。また、油圧室67がプライマリシャフト61の軸線方向に対してベーン式油圧モータ650(モータケース650b)と直列に設けられており、この油圧室67内の油圧によって可動シーブ63を固定シーブ62に向けて押圧することができるので、ベーン式油圧モータ650の出力を小さくすることができ、これによりベーン式油圧モータ650の小型化,ひいてはベルト式無段変速機50の小型化が図れる。
ここで、上記挟圧力調圧バルブ66Bは、図8に示す油路66cを介して前述した変速比制御用切替バルブ66Aと連通しているので、この挟圧力調圧バルブ66Bからの油圧が、変速比制御用切替バルブ66Aを介して、ベーン式油圧モータ650内の第1油室650e,650e及び第2油室650f,650fにも供給される。
また、上記油圧室67とベーン式油圧モータ650の第1及び第2の油室650e,650fはプライマリシャフト61の軸線方向において対向配置されているので、これらにおける油圧が同一になる。これが為、油圧室67と第1及び第2の油室650e,650fとの間の内圧が相殺されるので、その油圧室67と第1及び第2の油室650e,650fとの間に位置するベーン式油圧モータ650(モータケース650b)の壁面を薄型化でき、これにより、その軽量化が可能になる。
また、上記油圧室67とベーン式油圧モータ650の第1及び第2の油室650e,650fは、油路61d,油路66c,変速比制御用切替バルブ66A,油路61b及び油路61cを介して連通している。これが為、その油圧室67と第1及び第2の油室650e,650fとの間において作動油のやり取りが可能になる。このことは、特に急減速ダウンシフトの際に有用であり、後述する如く油圧室67から排出された作動油を第2油室650f,650fに供給することができるので、変速比変更時のレスポンスを向上し得る。また、その作動油のやり取りを可能にしたことで、オイルポンプOPから供給される作動油の消費量を低減することができ、これによりオイルポンプOPを小容量化することができる。
以上示した如く、このプライマリプーリ60側には、油圧により可動シーブ63を軸線方向に摺動させる二つのアクチュエータ,即ち、油圧室67や挟圧力調圧バルブ66B等からなる第1アクチュエータと、ベーン式油圧モータ650及び運動方向変換機構651等からなる第2アクチュエータとが設けられている。
尚、ここでは二種類のアクチュエータを例示したが、それ以上の種類のアクチュエータを用意してもよい。また、油圧によるアクチュエータを例示したが、必ずしもこれに限定するものではない。
次に、上記セカンダリシャフト71側の構成について説明する。
このセカンダリシャフト71には、これを回転軸とする図5に示すセカンダリプーリ70が設けられている。このセカンダリプーリ70は、図10に示す如く、セカンダリシャフト71の外周に一体的に配設された固定シーブ72と、そのセカンダリシャフト71の軸線方向に摺動可能な可動シーブ73とを備えている。これら固定シーブ72及び可動シーブ73の対向面間には、V字形状の溝90bが形成されている。
ここで、その可動シーブ73は、図10に示す如く、その背面(溝90bの反対側の面)におけるセカンダリシャフト71側に筒状の延設部73aを備えており、その延設部73aの内周面とセカンダリシャフト71の外周面に設けたスプライン74Aによってセカンダリシャフト71にスプライン嵌合されている。これが為、この可動シーブ73は、セカンダリシャフト71や固定シーブ72と一体になって回転すると共に、その固定シーブ72に対して接近又は離隔し得るようセカンダリシャフト71上を軸線方向へと摺動する。このように固定シーブ72と可動シーブ73とが一体的に回転するので、下記の押圧機構が固定シーブ72と可動シーブ73との間にベルト90へのベルト挟圧力を発生させても、金属製のベルト90を使用することができ、ベルト式無段変速機50の高トルク化が可能になる。
また、このセカンダリシャフト71には、可動シーブ73を固定シーブ72側に押し付けて、その固定シーブ72と可動シーブ73との間の軸線方向のベルト挟圧力を発生させる押圧機構が設けられている。ここで例示する押圧機構としては、前述したトルクカム機構1Aと図10に示す油圧室75の2種類が用意されている。
最初に、ここで適用したトルクカム機構1Aについて詳述する。
ここでは、そのトルクカム機構1Aを図10に示す如く可動シーブ73の背面(溝90bの反対側の面)にセカンダリシャフト71を中心軸にして設ける。即ち、前述した図1に示す回転軸6の機能をセカンダリシャフト71に担わせると共に、第1及び第2の部材7,8の何れか一方(このベルト式無段変速機50においては第1部材7)の機能を可動シーブ73に担わせる。
先ず、環状の第1カム部材2を可動シーブ73の背面における外径側にセカンダリシャフト71を中心軸にして一体的に設ける。これにより、その第1カム部材2は、可動シーブ73と一体になって回転すると共に軸線方向へ摺動し得る。
一方、第2カム部材3は、第1カム部材2に対し間隔を設けて配置する。ここでの第2カム部材3は、図10に示す如く、その一端がセカンダリシャフト71の外周面近傍にまで延設されており、その環状の延設端にて軸受74Bを介してセカンダリシャフト71に保持される。これにより、この第2カム部材3は、セカンダリシャフト71,可動シーブ73や第1カム部材2に対してその回転軸を中心に相対回転し得ると共に軸線方向における位置が一定に保たれる。即ち、このベルト式無段変速機50においては、前述した図1に示す第2部材8が第2カム部材3と一体のものとして用意されている。
また、その第1及び第2のカム部材2,3の対向する夫々の環状の面にはカム部2a,3aが形成されており、その夫々のカム溝にて各々ローラ部材4が挟持されている。その夫々のローラ部材4は、保持器5によって保持される。
更に、このベルト式無段変速機50のトルクカム機構1Aにおいても、第2カム部材3のカム部3aにおける夫々のカム山の頂点部分に設けたガイドピン9bと、このガイドピン9bの突出部分が挿入されるガイド溝9aとにより前述した相対位置関係保持手段9が構成される。
ところで、前述した図1〜図4に示す本実施例1の相対位置関係保持手段9においては、第1カム部材2における環状部2bの外周面にガイド溝9aを形成している。本実施例1のトルクカム機構1Aをベルト式無段変速機50に適用する場合においても、そのような形態でガイド溝9aを設けてもよいが、ここでは後述する油圧室75の壁面を形成する筒状部材75aがトルクカム機構1Aの内側(セカンダリシャフト71側)に設けられているので、その筒状部材75aを利用してガイド溝9aを形成する。即ち、ここでのベルト式無段変速機50においては、図10に示す如く、筒状部材75aの外周面に前述したV字状の溝を形成してガイド溝9aを設ける。
このように、ガイド溝9aは、第1カム部材2に直接形成してもよく、また、その第1カム部材2に対して一体的に固定又は配置された部材(ここでは一体的に固定された可動シーブ73の筒状部材75a)に形成してもよい。尚、ガイドピン9bについても同様に、本実施例1の如く第2カム部材3に直接設けてもよく、また、その第2カム部材3に対して一体的に固定又は配置された部材に設けてもよい。
ここで、その相対位置関係保持手段9は、ベルト式無段変速機50が最小変速比になっている,即ちセカンダリプーリ70の固定シーブ72と可動シーブ73とが最も離隔している状態(換言すれば、トルクカム機構1Aの第1カム部材2と第2カム部材3とが最も接近している状態)において、各ガイドピン9bがガイド溝9aの頂点9a1に位置するように設定する。
また、この相対位置関係保持手段9のガイド溝9aは、ベルト式無段変速機50が最大変速比になっている,即ちセカンダリプーリ70の固定シーブ72と可動シーブ73とが最も接近している状態(換言すれば、トルクカム機構1Aの第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔している状態)において、各ガイドピン9bが端部9a2に位置するよう形成する。
一方、第1カム部材2と第2カム部材3とが相対移動し得る所定の範囲の境界については、固定シーブ72と可動シーブ73とが最も接近している状態での第1カム部材2と第2カム部材3とが相対的に離隔及び回転した位置,又はその位置から僅かに第1カム部材2と第2カム部材3とが相対的な離隔及び回転を行った位置の何れか一方に設定する。これが為、ガイド溝9aの端部9a2は、その所定の範囲の境界の設定位置にまで第1及び第2のカム部材2,3が相対移動し得る(即ち、各ガイドピン9bが案内され得る)よう形成する。
このように、セカンダリプーリ70に本実施例1のトルクカム機構1Aを設けることによって、可動シーブ73と固定シーブ72とが相対的に接近又は離隔する際に、第1及び第2のカム部材2,3は、そのカム部2a,3aのカム溝とローラ部材4との間で面圧を発生させながら相対的に離隔又は接近しつつ相対回転する。
これが為、そのトルクカム機構1Aは、その第2カム部材3とローラ部材4が第1カム部材2を押圧し、可動シーブ73に対して固定シーブ72へと向かう推力を発生させるので、固定シーブ72と可動シーブ73との間にベルト挟圧力を発生させてベルト90の滑りを防ぐことができる。
一方、その可動シーブ73の推力により可動シーブ73と固定シーブ72との間の捩れが懸念されるが、第2カム部材3は、固定シーブ72,可動シーブ73及び第1カム部材2に対して相対回転するので、そのような捩れが発生することはない。これが為、ベルト90の耐久性の向上や変速比の幅の拡大が可能になり、また、プライマリプーリ60とセカンダリプーリ70との相対位置を初期設定値のまま維持することができるので、耐久性の向上にも寄与する。
ここで、トルクカム機構1Aが発生させた推力に対する反力は、第2カム部材3から軸受74Bを介してセカンダリシャフト71で受けることができる。このように、その反力をプライマリプーリ60の場合と同様に静止系で受けず、軸受74Bの転動は殆ど起こらないので、この軸受74Bでの損失を低減することができる。
また、トルクカム機構1Aを可動シーブ73の外径側に配置しているので、その第1カム部材2と第2カム部材3とローラ部材4との間の面圧の低減も可能になる。
更に、このトルクカム機構1Aには上述したが如き相対位置関係保持手段9が設けられているので、第1カム部材2と第2カム部材3における回転方向及び軸線方向での相対的な位置関係が所定の範囲内に規制される。
続いて、上記油圧室75について詳述する。
この油圧室75は、上述したトルクカム機構1Aの内側に設けた筒状部材75aの内周面と可動シーブ73の延設部73aの外周面との間における略環状の空間部分に設けられている。ここで、その筒状部材75aは、セカンダリシャフト71を中心軸にして可動シーブ73の背面(溝90bの反対側の面)から筒状に延設されたものであって、その外周面に前述した複数のガイド溝9aが形成されている。
具体的に、上述した略環状の空間部分は、筒状部材75aの内周面,可動シーブ73の背面,延設部73aの外周面及びセカンダリシャフト71の外周面により構成されており、その一端(図10の紙面右側)が環状に開口している。
そこで、その空間内に、上記開口を閉塞すると共にセカンダリシャフト71と一体になって軸線方向一定のまま回転する図10に示す壁面部材75bを配設し、この壁面部材75bにおける可動シーブ73側の壁面,筒状部材75aの内周面,可動シーブ73の背面,延設部73aの外周面及びセカンダリシャフト71の外周面により囲まれた空間で油圧室75を形成する。即ち、筒状部材75aの内周面,可動シーブ73の背面,延設部73aの外周面及びセカンダリシャフト71の外周面からなる壁面は油圧室75におけるシリンダとしての機能を成し、壁面部材75bは油圧室75におけるピストンとしての機能を成す。
例えば、本実施例1の壁面部材75bは、図10に示す如く、筒状部材75aの内周面に環状のシール部材75b1を介して外周面が当接する第1環状部75b2と、この第1環状部75b2の内径側から上記溝90bの反対側方向に向けて延設された第1円筒部75b3と、この第1円筒部75b3の延設端を外径とする第2環状部75b4と、この第2環状部75b4の内径側から上記溝90bの反対側方向に向けて延設された第2円筒部75b5と、この第2円筒部75b5の延設端における環状の開口を閉塞する第3環状部75b6とから構成されている。
この壁面部材75bは、第3環状部75b6の内径側にてセカンダリシャフト71の外周面に嵌合されており、そのセカンダリシャフト71と一体になって軸線方向一定のまま回転する。
また、この油圧室75には、一端が可動シーブ73の背面に固定され、他端が壁面部材75b(ここでは第2環状部75b4)の壁面に固定された例えばコイルスプリング等の弾性部材76が設けられている。
ここで、この油圧室75は、例えばセカンダリシャフト71に形成された図8に示す油路71aと連通しており、更にこの油路71aと連通する上記油路61dを介して挟圧力調圧バルブ66Bに連通している。
これが為、このように油圧室75,油路71a及び挟圧力調圧バルブ66B等により構成されたセカンダリプーリ70の押圧機構においては、電子制御装置Cによって作動油の供給圧が調節された挟圧力調圧バルブ66Bからの油圧を油圧室75に供給することで、固定シーブ72と可動シーブ73との間にベルト挟圧力を発生させ、ベルト90の滑りを防ぐことができる。
また、この油圧室75は、可動シーブ73の内径側に配置しているので、その容積を小さくすることができ、これが為、急変速時等における油圧室75の流量の低減が図れる。
更に、変速比変更時(セカンダリプーリ70における可動シーブ73の駆動/非駆動時)等にトルクの乱れが生じてトルクカム機構1Aによる推力を得られなくても、このトルクカム機構1Aとは別個独立に油圧で作動する油圧室75からなる押圧機構で所望のベルト挟圧力を発生させることができる。これにより、より確実にベルト90の滑りを防ぐことができるので、信頼性の向上やドライバビリティの向上が可能となる。
このように、このベルト式無段変速機50にあっては、セカンダリプーリ70側においても油圧により可動シーブ73を軸線方向に摺動させるアクチュエータ,即ち、油圧室75や挟圧力調圧バルブ66B等からなる第3アクチュエータが設けられている。
尚、トルクカム機構1Aについては、これによる推力が必要推力に対して低くなるようなカム角(例えば非線形カム)に設定し、その不足分を油圧室75及び弾性部材76からなる押圧機構で補うように設定する。これにより、ベルト90を必要以上の力で挟まずともすむので、そのベルト90の耐久性を向上させることができ、更にベルト90における損失の低減が可能となり、動力伝達効率を向上させることができる。
また、内燃機関10の非駆動時のトルクに対応する推力を油圧室75等からなる押圧機構で受け持つように設定してもよく、これにより、トルクカム機構1Aのガイドピン9bがガイド溝9aの中間に位置している場合においても可動シーブ73の移動(換言すれば変速)を抑制し、変速比を一定に保つことが可能になる。また、ベルト挟圧力も必要値に保つことが可能になる。
更に、このセカンダリプーリ70側の押圧機構は、上述した2種類に限定するものではなく、1種類又は3種類以上であってもよい。尚、固定シーブ72と可動シーブ73との間におけるベルト挟圧力の制御性を高める為には、少なくとも2種類以上の押圧機構が設けられることが好ましい。即ち、夫々の押圧機構にベルト挟圧力を分担させ、その内の少なくとも一つを油圧により作動する押圧機構(上述した油圧室75)にすることで、ベルト挟圧力の制御性を向上させることができる。
以上示したベルト式無段変速機50においては、上記プライマリプーリ60及びセカンダリプーリ70の夫々のV字形状の溝90a,90bにベルト90が巻き掛けられており、このベルト90を介してプライマリプーリ60に伝達された内燃機関10のトルクがセカンダリプーリ70に伝達される。このベルト90は、多数の金属製の駒と複数本のスチールリングで構成された無端ベルトである。
ここで、第2カム部材3にはカウンタドライブピニオン102が一体的に固定されており、このカウンタドライブピニオン102の両側にはセカンダリシャフト71と第2カム部材3を支持する軸受97,98が配置されている。
これが為、セカンダリプーリ70に伝達されたトルクは、第2カム部材3,カウンタドライブピニオン102を経て後述する動力伝達経路100や最終減速機80に伝達され、これら動力伝達経路100や最終減速機80のギヤ群を介してドライブシャフト111に伝達される。
ここでは、図10に示す如く、その第2カム部材3にパーキングギヤ99を一体的に設けている。例えば、このパーキングギヤ99は、第2カム部材3の外周面に嵌合固定される。これが為、セカンダリプーリ70側におけるベルト式無段変速機50の軸方向長さを短縮できる。即ち、従来のパーキングギヤはセカンダリプーリ70とトランスアクスルリヤカバー23との間のセカンダリシャフト71上に配置されていたが、図10に示す如く配置することにより、パーキングギヤ用として別途配置場所を確保する必要が無いので、セカンダリプーリ70側の軸方向長さの短縮化が図れる。また、ドライブシャフト111とギヤ群等を介して直結している第2カム部材3にパーキングギヤ99を一体的に設けているので、カム部に相対回転が生じても確実に車輌を静止させることができる。
次に、上記カウンタドライブピニオン102と後述する最終減速機80との間には、セカンダリシャフト71と平行なインターミディエイトシャフト101を有する動力伝達経路100が設けられている。そのインターミディエイトシャフト101は、軸受95,96により回転可能に支持され、上記カウンタドライブピニオン102に噛み合わされたカウンタドリブンギヤ103とファイナルドライブピニオン104とを軸上に備えている。
続いて、上記最終減速機80について説明する。この最終減速機80は、内部が中空のデフケース81と、ピニオンシャフト82と、ピニオン83,84と、サイドギヤ85,86とから構成されている。
先ず、上記デフケース81は、軸受87,88により回転可能に支持されており、その外周に上記ファイナルドライブピニオン104と噛み合わされたリングギヤ89が設けられている。
また、上記ピニオンシャフト82はデフケース81の中空部に取り付けられており、このピニオンシャフト82に上記ピニオン83,84が固定されている。
また、上記サイドギヤ85,86は、車輪110が取り付けられたドライブシャフト(ここではフロントドライブシャフト)111に夫々固定されている。
以上の如く構成されたトランスアクスルケース22の内部においては、その底部(オイルパン)に貯留された潤滑油が、回転するリングギヤ89によって掻き上げられて各ギヤ104,103,102の噛み合い面を伝達し飛散しながら、最終減速機80等の各構成部材(例えば各シャフト111,101,71や各軸受93〜98等)を潤滑すると共に、トランスアクスルケース22の内壁面に当たって落下することでプライマリシャフト61等の潤滑を行っている。
ここで、上記ベルト式無段変速機50をはじめとする各構成要素は、各種センサの情報に基づいて電子制御装置(ECU)Cにより制御される。この電子制御装置Cには、ベルト式無段変速機50の変速制御を行う為のデータ,例えばアクセル開度や車速等の情報に基づいた走行状態に応じてベルト式無段変速機50の変速比を制御する為のデータが予め記憶されている。以下、変速比を制御する際の上記可動シーブ摺動機構65及び押圧機構(トルクカム機構1A、油圧室67,75)の動作について詳述する。
先ず、変速比を小さくして増速させる場合について説明する。電子制御装置Cは、レギュレータバルブ66C,挟圧力調圧バルブ66B及び変速比制御用切替バルブ66Aを制御して、第1油室650e,650eに作動油を流入させ、所望の変速比に相当するプライマリプーリ60におけるベルト90の巻き掛け半径となるよう可動シーブ63を固定シーブ62に接近させる。
かかる場合、この電子制御装置Cは、変速比制御用切替バルブ66Aの作動用流体の圧力制御を行うことで図9−1に示す如くバルブ位置の調整を行う。これにより、第1油室650e,650eに作動油が供給されると共に第2油室650f,650fの作動油が排出されるので、ベーン式油圧モータ650のモータケース650bがプライマリシャフト61に対して相対回転する。
そして、このベーン式油圧モータ650の回転により、運動方向変換機構651を介してプライマリプーリ60の可動シーブ63が固定シーブ62に接近すると共に、セカンダリプーリ70の可動シーブ73が固定シーブ72から離隔して、変速比が小さくなる。
その際、セカンダリプーリ70の可動シーブ73は、固定シーブ72,セカンダリシャフト71及び第1カム部材2と一体になって回転しながら固定シーブ72から離隔する(例えば、図11に示す状態から図10に示す状態へと変化する)。一方、トルクカム機構1Aにおいては、その可動シーブ73の動作に伴って、第1及び第2のカム部材2,3のカム溝とローラ部材4との間に面圧を発生させながら、第1カム部材2が第2カム部材3に接近しつつこれらの間に例えば図2に示す方向Bの相対回転が生じる。
これにより、そのトルクカム機構1Aは、固定シーブ72と可動シーブ73との間にベルト挟圧力を発生させながら図3に示す状態から図2に示す状態へと変化してベルト90の滑りを防ぐ。
また、双方の可動シーブ63,73の摺動時には、プライマリプーリ60の油圧室67に油路61dを介して作動油が供給され、セカンダリプーリ70の油圧室75の作動油は油路71aを介して排出される。
ここで、プライマリプーリ60においては、油圧室67に作動油が供給されることで可動シーブ63が固定シーブ62に向けて押圧される。これが為、プライマリプーリ60におけるベルト挟圧力が発生する。一方、その押圧力はベーン式油圧モータ650による可動シーブ63の摺動力を補助することとなるので、そのベーン式油圧モータ650を出力の低いものにしても可動シーブ63を十分に摺動させることができ、出力を低下させた小型のベーン式油圧モータ650の使用が可能になる。
また、上記夫々の油路61dと油路71aは図8に示す如く連通しているので、セカンダリプーリ70の油圧室75から排出された作動油は、プライマリプーリ60の油圧室67に供給される。更に、そのセカンダリプーリ70の油圧室75から排出された作動油は、変速比制御用切替バルブ66Aを介して第1油室650e,650eにも供給される。このように、排出された作動油を循環させて他の油圧室や油室に送ることができるので、作動油の消費量の低減が図れ、オイルポンプOPの小容量化が可能になる。
以上の如くして変速比の変更を終えると、電子制御装置Cは、変速比制御用切替バルブ66Aのバルブ位置を図9−2に示す如く調整し、第1油室650e,650e及び第2油室650f,650fに挟圧力調圧バルブ66Bからの同一の油圧を掛ける。これにより、ベーン式油圧モータ650のプライマリシャフト61に対する相対回転が停止し、このベーン式油圧モータ650は、プライマリシャフト61や可動シーブ63と共に一体となって回転する。これが為、そのベーン式油圧モータ650とプライマリシャフト61や可動シーブ63との間の回転差が無くなるので、その間における無用な相対回転や摩擦等による損失を低減することができる。
ここで、その挟圧力調圧バルブ66Bからの油圧はプライマリプーリ60の油圧室67及びセカンダリプーリ70の油圧室75にも掛けられており、これが為、プライマリプーリ60における固定シーブ62と可動シーブ63との間及びセカンダリプーリ70における固定シーブ72と可動シーブ73との間にベルト挟圧力が発生し、ベルト90の滑りを防ぐことができる。
次に、変速比を大きくして減速させる場合について説明する。かかる場合の電子制御装置Cは、レギュレータバルブ66C,挟圧力調圧バルブ66B及び変速比制御用切替バルブ66Aを制御して、第2油室650f,650fに作動油を流入させ、所望の変速比に相当するプライマリプーリ60におけるベルト90の巻き掛け半径となるよう可動シーブ63を固定シーブ62から離隔させる。
かかる場合、この電子制御装置Cは、変速比制御用切替バルブ66Aの作動用流体の圧力制御を行うことで図9−3に示す如くバルブ位置の調整を行う。これにより、第2油室650f,650fに作動油が供給されると共に第1油室650e,650eの作動油が排出されるので、ベーン式油圧モータ650のモータケース650bがプライマリシャフト61に対して相対回転する。
そして、このベーン式油圧モータ650の回転により、運動方向変換機構651を介してプライマリプーリ60の可動シーブ63が固定シーブ62から離隔すると共に、セカンダリプーリ70の可動シーブ73が固定シーブ72に接近して、変速比が大きくなる。
その際、セカンダリプーリ70の可動シーブ73は、固定シーブ72,セカンダリシャフト71及び第1カム部材2と共に回転しながら固定シーブ72へと接近する(例えば、図10に示す状態から図11に示す状態へと変化する)。一方、トルクカム機構1Aにおいては、その可動シーブ73の動作に伴って、第1及び第2のカム部材2,3のカム溝とローラ部材4との間に面圧を発生させながら、第1カム部材2が第2カム部材3から離隔しつつこれらの間に例えば図2に示す方向Aの相対回転が生じる。
これにより、そのトルクカム機構1Aは、固定シーブ72と可動シーブ73との間にベルト挟圧力を発生させながら図2に示す状態から図3に示す状態へと変化してベルト90の滑りを防ぐ。
ここで、かかる場合にあっても、双方の可動シーブ63,73の摺動時には、セカンダリプーリ70の油圧室75に作動油が供給される一方、プライマリプーリ60の油圧室67から作動油が排出される。そして、その排出された作動油は、セカンダリプーリ70の油圧室75やベーン式油圧モータ650の第2油室650f,650fに供給される。このように、その油圧室67の作動油が第2油室650f,650fに供給されることによってベーン式油圧モータ650を即座に回転させることができるので、特に、急減速ダウンシフト時においては、前述したオイルポンプOPの小容量化だけでなく、変速比の変更のレスポンスを向上させることができる。
以上の如くして変速比の変更を終えると、電子制御装置Cは、前述した場合と同様に、第1及び第2の油室650e,650fに同一の油圧を掛けてベーン式油圧モータ650のプライマリシャフト61に対する相対回転を停止させる。
ところで、セカンダリプーリ70やセカンダリシャフト71等にトルク変動等による外乱が生じた場合、相対位置関係保持手段9における夫々のガイドピン9bがガイド溝9aの途中に位置していれば、第1及び第2のカム部材2,3は、その外乱によるトルクに伴って相対移動する。ここで、そのトルクの大きさや回転方向によっては、第1及び第2のカム部材2,3はガイドピン9bがガイド溝9aの端部9a2に当接するまで相対移動して停止する。
一方、ガイドピン9bとガイド溝9aの端部9a2とが当接するまで第1及び第2のカム部材2,3が相対移動し、かかる状態でその相対的な回転方向に対して外乱によるトルクが入力された場合であっても、その端部9a2によってガイドピン9bが係止されるので、第1及び第2のカム部材2,3の相対移動は起こらない。
このように、本実施例1の相対位置関係保持手段9は、第1カム部材2と第2カム部材3の回転方向及び軸線方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持し得るストッパーとして機能し、かかるストッパー機能によって第1及び第2のカム部材2,3における夫々のカム部2a,3a間の回転方向における位相ズレ(カム山の飛び越え)を抑制することができる。
これが為、夫々のカム部2a,3aやローラ部材4における摺動面の偏摩耗等を抑制することができ、トルクカム機構1Aの耐久性を向上させることができる。
また、そのような本実施例1のトルクカム機構1Aをセカンダリプーリ70に設けることによって、上述したが如き位相ズレに伴うドライブシャフト111の回転変動をも抑制することができるので、乗員へのドライバビリティの向上が可能になる。
尚、本実施例1にあってはトルクカム機構1Aをセカンダリプーリ70に設けているが、そのトルクカム機構1Aは、プライマリプーリ60に対して又はプライマリプーリ60及びセカンダリプーリ70の双方に設けてもよい。
ここで、上記に例示したベルト式無段変速機50においては可動シーブ摺動機構65の駆動源として油圧により駆動するモータ(ベーン式油圧モータ650)を例示したが、この種の油圧モータに替えて図12に示す電動モータ652を使用してもよい。
この電動モータ652は、可動シーブ63における溝90aの反対側の空間部分に且つプライマリシャフト61と同心円上に配置されたものであり、インバータ653を介してバッテリ654に繋がれた3相交流ブラシ652aへ給電することにより、軸受652cを介したアウターロータ652bをプライマリシャフト61に対して相対回転させるものである。ここで、この電動モータ652は、電子制御装置Cが3相交流ブラシ652aへの給電を制御することで正転又は逆転の切り替えを行う。
また、そのアウターロータ652bの外周部分と可動シーブ63における上記空間部分の内壁面との間には、前述した運動方向変換機構651が設けられており、これが為、この電動モータ652を駆動させることによって、可動シーブ63をプライマリシャフト61の軸線方向に摺動させることができる。
このように、電動モータ652を用いることによっても、上述したベーン式油圧モータ650の場合と同様にベルト式無段変速機50の小型化や駆動損失の低減を図ることが可能になる。
ここで、その電動モータ652と可動シーブ63との間は、上述した油圧室67として構成してもよい。
尚、本実施例1のトルクカム機構1Aにあっては、第1カム部材2における環状部2bのガイド溝9aと、このガイド溝9aに係合して案内される第2カム部材3のカム山の頂点部分に埋設したガイドピン9bとで相対位置関係保持手段9を構成したが、その相対位置関係保持手段9は、必ずしもかかる構成に限定するものではない。
例えば、第1カム部材2の環状部2bに相当する環状部を第2カム部材3に設ける。そして、その第2カム部材3の環状部にガイド溝9aを形成し、第1カム部材2のカム山の頂点部分にガイドピン9bを埋設することで相対位置関係保持手段9を構成してもよい。
また、上記ガイド溝9aに替えて、これと同様の機能を有するガイド部としてのガイド壁を第1又は第2のカム部材2,3の少なくとも何れか一方に立設し、そのガイド壁に対応するガイドピン9b等の被ガイド部を他方のカム部材2,3に設けることで相対位置関係保持手段9を構成してもよい。
また、本実施例1のトルクカム機構1Aにおいては第2カム部材3のカム山(カム溝)のカム角αとガイド溝9aの傾斜角βが略同等になるよう設定したものを例示したが、そのガイド溝9aの傾斜角βは、その第2カム部材3のカム山(カム溝)のカム角αの約2倍になるように設定してもよい。
次に、本発明に係るトルクカム機構1の実施例2について図1及び図13を用いて説明する。
その図13における符号1Bは、本実施例2のトルクカム機構を示す。この実施例2のトルクカム機構1Bは、前述した実施例1のトルクカム機構1Aと同様に、第1カム部材2,第2カム部材3,被挟持部材(ローラ部材)4,保持器5及び相対位置関係保持手段9を備えており、その実施例1のトルクカム機構1Aに対して相対位置関係保持手段9の構成を下記の如く変更したものである。
前述した実施例1のトルクカム機構1Aにおいては、カム山の頂点部分に埋設したガイドピン9bと、このガイドピン9bを案内する第1カム部材2における環状部2bのガイド溝9aとで相対位置関係保持手段9を構成したが、本実施例2の相対位置関係保持手段9は、カム部3aにおけるカム溝の溝底部近傍に被ガイド部として少なくとも1本のガイドピン9bを突設させ、このガイドピン9bに対応させたガイド部としてのガイド溝9aを第2カム部材3に設けて構成する。
具体的に、本実施例2にあっては、ガイドピン9bをカム部3aにおける夫々のカム溝の溝底部近傍に1本ずつ埋設する一方、各ガイドピン9bの突出部分に対応させてガイド溝9aを第1カム部材2における環状部2bの外周面に形成する。
その夫々のガイド溝9aは、図13に示す如く、カム部3aのカム山(カム溝)と同一方向の傾斜を有し、且つ、そのカム山(カム溝)のカム角αと略同等の傾斜角βを有するV字状に形成され、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も接近した状態において頂点(V字状の交点部分)9a1に夫々のガイドピン9bが位置し、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態においてV字状の何れか一方の端部9a2に夫々のガイドピン9bが位置するよう形成される。
ここで、そのガイド溝9aは、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態において、ガイドピン9bとガイド溝9aの端部9a2とが当接するように形成してもよく、ガイドピン9bとガイド溝9aの端部9a2とが僅かな間隙を有するように形成してもよい。
このように相対位置関係保持手段9を構成することによって、本実施例2のトルクカム機構1Bは、実施例1のトルクカム機構1Aと同様に、ガイド溝9aがガイドピン9bの案内及びストッパーとして機能し、第1カム部材2と第2カム部材3(換言すれば、第1部材7と第2部材8)における回転方向及び軸線方向での相対的な位置関係を所定の範囲内に保持することができる。そして、これにより、第1及び第2のカム部材2,3の夫々のカム部2a,3a間の回転方向における位相ズレ(カム山の飛び越え)の抑制が可能になり、トルクカム機構1Bの耐久性を向上させることができる。
また、上記の如く端部9a2とガイドピン9bとが僅かな間隙を有するようにガイド溝9aを形成した場合においては、トルク変動に伴う過大なトルク等の外乱が生じなければ、その端部9a2とガイドピン9bとの接触は起こらない。これが為、そのガイド溝9aの端部9a2及びガイドピン9bの変形や摩耗等を回避することができ、更に、これらが当接しないことから打音が発生しないので、音振(騒音及び振動)性能の向上をも図ることができる。
このような本実施例2のトルクカム機構1Bは、前述した実施例1の場合と同様にベルト式無段変速機50におけるベルト挟圧力の発生機構として用いることができ、これにより実施例1においてトルクカム機構1Aをベルト式無段変速機50に適用した場合と同様の効果を奏することができる。
尚、本実施例2のトルクカム機構1Bについても、相対位置関係保持手段9は、第2カム部材3へ設けた環状部にガイド溝9aを形成し、第1カム部材2のカム山の頂点部分にガイドピン9bを埋設することで構成してもよく、また、第1又は第2のカム部材2,3の少なくとも何れか一方にガイド部としてのガイド壁を立設し、このガイド壁に対応するガイドピン9b等の被ガイド部を他方のカム部材2,3に設けることで構成してもよい。更に、ガイド溝9aの傾斜角βを第2カム部材3のカム山(カム溝)のカム角αの約2倍になるように設定してもよい。
次に、本発明に係るトルクカム機構1の実施例3について図1及び図14から図16を用いて説明する。
その各図における符号1Cは、本実施例3のトルクカム機構を示す。この実施例3のトルクカム機構1Cは、前述した実施例1,2のトルクカム機構1A,1Bと同様に、第1カム部材2,第2カム部材3,被挟持部材(ローラ部材)4,保持器5及び相対位置関係保持手段9を備えており、その実施例1,2のトルクカム機構1A,1Bに対して相対位置関係保持手段9の構成を下記の如く変更したものである。
前述した実施例1,2のトルクカム機構1A,1Bにおいては、カム部3aに埋設したガイドピン9bと、このガイドピン9bを案内する第1カム部材2における環状部2bのガイド溝9aとで相対位置関係保持手段9を構成したが、本実施例3の相対位置関係保持手段9は、図14に示す如く、ガイド部としてのガイド溝3bを第2カム部材3のカム部3aにおける外周面に少なくとも1つ設け、そのガイド溝3bに沿って案内されるガイド爪5a等の係合体を被ガイド部として保持器5に設けることで構成する。
具体的に、本実施例3のガイド溝3bは、カム部3aの外周面における夫々のカム溝側に形成される。その夫々のガイド溝3bは、図14に示す如く、第2カム部材3のカム山(カム溝)と同一方向の傾斜を有し、且つ、そのカム山(カム溝)のカム角αと略同等の傾斜角βを有するV字状に形成されたものであって、その溝底面がカム溝の溝壁面に繋がるように形成される。
一方、本実施例3の各ガイド爪5aは、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も接近した状態において各ガイド溝3bの頂点(V字状の交点部分)3b1に位置するよう保持器5から延設される。
ここで、本実施例3にあっては、図15に示す如く、第2カム部材3及び保持器5の外径を第1カム部材2の外径よりも大きめに成型する一方、各ガイド爪5aを保持器5の側面から延設しているが、必ずしもかかる態様に限定するものではない。
また、ガイド溝3bとガイド爪5aは、そのガイド溝3bの溝底面とガイド爪5aの内周面とが接しないように設定することが好ましく、これにより第1カム部材2と第2カム部材3とが相対移動する際のかかる位置での摩擦損失を発生させずに済む。
このように相対位置関係保持手段9を構成することによって、第1カム部材2と第2カム部材3とが相対的に離隔又は接近しつつ回転する際に、図14及び図16に示す如く、夫々のガイド爪5aが夫々のガイド溝3bに沿って移動する。
更に、その夫々のガイド溝3bは、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態において各ガイド爪5aが図14に示すV字状の何れか一方の端部3b2に位置するよう形成する。
例えば、そのような状態においてガイド溝3bの端部3b2とガイド爪5aとが当接するようガイド溝3bを形成することによって、第1及び第2の部材7,8の相対的な離隔及び回転に伴って第1カム部材2と第2カム部材3とが相対的に離隔しつつ回転し、第1部材7と第2部材8とが最も離隔した位置にまで変化した際に、夫々のガイド爪5aがガイド溝3bの何れか一方の端部3b2に係止され、それ以上の第1及び第2の部材7,8の相対的な離隔と回転を抑止することができる。
また、かかる状態において第1カム部材2と第2カム部材3(第1部材7と第2部材8)を上記と同一の方向に相対回転させようとするトルク(トルク変動に伴う過大なトルク等の外乱)が生じたとしても、ガイド溝3bの端部3b2とガイド爪5aとの係止状態が保たれるので、かかる位置からの第1及び第2のカム部材2,3(第1及び第2の部材7,8)の相対的な離隔と回転を抑止することができる。
更に、例えば夫々のガイド爪5aがガイド溝3bの途中(例えば頂点3b1と端部3b2の中間)に位置している状態において上記の如き外乱が生じた場合、第1及び第2のカム部材2,3(第1及び第2の部材7,8)は、その外乱によるトルクに伴って相対的に離隔及び回転し、そのトルクの大きさによってはガイド爪5aがガイド溝3bの端部3b2に当接するまで相対移動して停止する。
このように、この本実施例3の相対位置関係保持手段9は、ガイド溝3bの双方の端部3b2がガイド爪5aのストッパーとして機能し、第1カム部材2と第2カム部材3(換言すれば、第1部材7と第2部材8)の相対的な移動量を規制して、その回転方向及び軸線方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持することができる。そして、これにより、第1カム部材2と第2カム部材3との間の回転方向における位相ズレ(カム山の飛び越え)を抑制することができるので、夫々のカム部2a,3aやローラ部材4における摺動面の偏摩耗等の抑制が可能になり、トルクカム機構1Cの耐久性を向上させることができる。
一方、本実施例3の相対位置関係保持手段9においても、上述した夫々のガイド溝3bは、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態でガイド爪5aと端部3b2とが僅かな間隙を有するよう形成してもよい。
そのような間隙を設けることによって、かかる状態で上記の如きトルク変動等の外乱が生じた際に、第1及び第2のカム部材2,3(第1及び第2の部材7,8)は、ガイド爪5aがガイド溝3bの端部3b2に当接するまで僅かに相対的な離隔及び回転を行って停止する。このように、かかる場合にあってもガイド溝3bの双方の端部3b2がガイド爪5aのストッパーとして機能する。これが為、第1カム部材2と第2カム部材3(換言すれば、第1部材7と第2部材8)の回転方向及び軸線方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持することができ、これにより、第1カム部材2と第2カム部材3との間の回転方向における位相ズレ(カム山の飛び越え)を抑制してトルクカム機構1Cの耐久性を向上させることができる。
また、そのような外乱が生じない場合には、ガイド溝3bの端部3b2とガイド爪5aとが当接しないので、ガイド溝3bの端部3b2やガイド爪5aの変形や摩耗等を回避することができ、更に、これらが当接しないことから打音が発生しないので、音振(騒音及び振動)性能の向上をも図ることができる。
このような本実施例3のトルクカム機構1Cは、前述した実施例1,2の場合と同様にベルト式無段変速機50におけるベルト挟圧力の発生機構として用いることができ、これにより実施例1,2においてトルクカム機構1A,1Bをベルト式無段変速機50に適用した場合と同様の効果を奏することができる。
尚、本実施例3のトルクカム機構1Cにあっては第2カム部材3のガイド溝3bと保持器5のガイド爪5aとで相対位置関係保持手段9を構成したが、その相対位置関係保持手段9は、必ずしもかかる構成に限定するものではない。
例えば、同様のガイド溝を第1カム部材2の外周面に設け、そのガイド溝に向けて保持器5からガイド爪5aを延設することで相対位置関係保持手段9を構成してもよい。
また、第1カム部材2又は第2カム部材3の外周面におけるカム溝の壁面から離間した位置に上述したガイド溝3bと同様の傾斜角からなるガイド溝を設ける一方、そのガイド溝の上方に保持器5から延設体を設け、その延設体に実施例1,2の如きガイドピンを埋設させることによって、そのガイド溝とガイドピンの突出部分で相対位置関係保持手段9を構成してもよい。
更にまた、上記ガイド溝3bに替えて、これと同様の機能を有するガイド部としてのガイド壁を第1又は第2のカム部材2,3の何れか一方に立設し、そのガイド壁に対応するガイド爪5a等の被ガイド部を保持器5から延設することで相対位置関係保持手段9を構成してもよい。
ここで、本実施例3のトルクカム機構1Cにあってはカム山(カム溝)のカム角αとガイド溝3bの傾斜角βを略同等に設定したものを例示したが、そのガイド溝3bの傾斜角βは、カム山(カム溝)のカム角αの約2倍になるように設定してもよい。
次に、本発明に係るトルクカム機構1の実施例4について図1及び図17から図19を用いて説明する。
その各図における符号1Dは、本実施例4のトルクカム機構を示す。この実施例4のトルクカム機構1Dは、前述した実施例3のトルクカム機構1Cと同様に、第1カム部材2,第2カム部材3,被挟持部材(ローラ部材)4,保持器5及び相対位置関係保持手段9を備えており、その実施例3のトルクカム機構1Cに対して相対位置関係保持手段9の構成を下記の如く変更したものである。
前述した実施例3のトルクカム機構1Cにおいては、第1カム部材2又は第2カム部材3の何れか一方の外周面に設けたガイド溝(ガイド溝3b)と、このガイド溝により案内されるガイド爪(ガイド爪5a)とで相対位置関係保持手段9を構成したが、本実施例4の相対位置関係保持手段9は、第1及び第2のカム部材2,3の双方に少なくとも1つずつ設けたガイド溝(ガイド溝2c,3b)と、そのガイド溝により案内されるガイド爪(ガイド爪5b,5a)とで構成する。
本実施例4にあっては、図17に示す如く、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も接近した状態において、カム部2a,3a間で対向するカム溝の何れか一方に実施例3と同様のガイド溝2c,3bを設け、そのガイド溝2c,3bによって案内される実施例3と同様のガイド爪5b,5aを保持器5から延設する。ここで、本実施例4のトルクカム機構1Dにおいては、全てのカム溝の対に対してガイド溝2c,3bを交互に配置している。
即ち、第1カム部材2のカム部2aの外周面においては1つずつ間を空けて夫々のカム溝側にガイド溝2cを形成する一方、第2カム部材3のカム部3aの外周面においても1つずつ間を空けて夫々のカム溝側にガイド溝3bを形成し、そのカム部2a,3a間で対向するカム溝の何れか一方にのみガイド溝2c,3bが位置するように第1カム部材2と第2カム部材3とを組み付ける。
また、夫々のガイド爪5a,5bについては、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も接近した状態において各ガイド溝3b,2cの頂点(V字状の交点部分)3b1,2c1に位置するよう保持器5から延設し、夫々のガイド溝2c,3bについては、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態において各ガイド爪5b,5aが図17に示すV字状の何れか一方の端部2c2,3b2に位置するよう形成する。
本実施例4にあっては、図18に示す如く、第1カム部材2と第2カム部材3と保持器5の外径を全て略同一の外径に成型しているが、必ずしもかかる態様に限定するものではない。
このように構成された本実施例4のトルクカム機構1Dにおいては、第1カム部材2と第2カム部材3とが相対的に離隔又は接近しつつ回転する際に、図17及び図19に示す如く、各ガイド爪5a,5bが夫々に対応したガイド溝3b,2cに沿って移動する。
ここで、その夫々のガイド溝2c,3bは、第1カム部材2と第2カム部材3とが最も離隔した状態において、その端部2c2,3b2とガイド爪5b,5aとが当接するように形成してもよく、その端部2c2,3b2とガイド爪5b,5aとが僅かな間隙を有するように形成してもよい。
これにより、本実施例4のトルクカム機構1Dは、実施例3のトルクカム機構1Cと同様に、ガイド溝2c,3bがガイド爪5b,5aの案内及びストッパーとして機能し、第1カム部材2と第2カム部材3(換言すれば、第1部材7と第2部材8)の回転方向及び軸線方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持することができる。そして、これにより、第1及び第2のカム部材2,3の夫々のカム部2a,3a間の回転方向における位相ズレ(カム山の飛び越え)の抑制が可能になり、トルクカム機構1Dの耐久性を向上させることができる。
更に、上記の如く端部2c2,3b2とガイド爪5b,5aとが僅かな間隙を有するように形成したガイド溝2c,3bにおいては、トルク変動等の外乱が生じなければ端部2c2,3b2とガイド爪5b,5aとの接触は起こらない。これが為、その端部2c2,3b2及びガイド爪5b,5aの変形や摩耗等を回避することができ、更に、これらが当接しないことから打音が発生しないので、音振(騒音及び振動)性能の向上をも図ることができる。
このような本実施例4のトルクカム機構1Dは、前述した各実施例1〜3の場合と同様にベルト式無段変速機50におけるベルト挟圧力の発生機構として用いることができ、これにより実施例1〜3においてトルクカム機構1A,1B,1Cをベルト式無段変速機50に適用した場合と同様の効果を奏することができる。
尚、この本実施例4のトルクカム機構1Dにおいても、第1及び第2のカム部材2,3の外周面におけるカム溝の壁面から離間した位置に上述したガイド溝2c,3bと同様の傾斜角からなるガイド溝を設ける一方、そのガイド溝の上方に保持器5から延設体を設け、その延設体に実施例1,2の如きガイドピンを埋設させることによって、そのガイド溝とガイドピンの突出部分で相対位置関係保持手段9を構成してもよい。
また、上記ガイド溝2c,3bに替えて、これと同様の機能を有するガイド部としてのガイド壁を第1及び第2のカム部材2,3に立設し、そのガイド壁に対応するガイド爪5a等の被ガイド部を保持器5から延設することで相対位置関係保持手段9を構成してもよい。
ここで、本実施例4のトルクカム機構1Dにあってはカム溝と同一傾斜角のガイド溝2c,3bを形成したが、そのガイド溝2c,3bの傾斜角は、必ずしもカム溝と同一でなくともよい。
以上のように、本発明に係るトルクカム機構は、2つのカム部材の回転方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持させる技術として有用であり、特に、それに伴い回転方向における夫々のカム部の位相ズレを抑制して耐久性を向上させ得るのに適している。
1,1A,1B,1C,1D トルクカム機構
2 第1カム部材
2a カム部
2b 環状部
2c ガイド溝
2c1 頂点
2c2 端部
3 第2カム部材
3a カム部
3b ガイド溝
3b1 頂点
3b2 端部
4 被挟持部材、ローラ部材(転動部材)
5 保持器
5a,5b ガイド爪
6 回転軸
9 相対位置関係保持手段
9a ガイド溝(ガイド部)
9a1 頂点
9a2 端部
9b ガイドピン(被ガイド部)
50 ベルト式無段変速機
60 プライマリプーリ
61 プライマリシャフト
62 固定シーブ
63 可動シーブ
70 セカンダリプーリ
71 セカンダリシャフト
72 固定シーブ
73 可動シーブ
75a 筒状部材
2 第1カム部材
2a カム部
2b 環状部
2c ガイド溝
2c1 頂点
2c2 端部
3 第2カム部材
3a カム部
3b ガイド溝
3b1 頂点
3b2 端部
4 被挟持部材、ローラ部材(転動部材)
5 保持器
5a,5b ガイド爪
6 回転軸
9 相対位置関係保持手段
9a ガイド溝(ガイド部)
9a1 頂点
9a2 端部
9b ガイドピン(被ガイド部)
50 ベルト式無段変速機
60 プライマリプーリ
61 プライマリシャフト
62 固定シーブ
63 可動シーブ
70 セカンダリプーリ
71 セカンダリシャフト
72 固定シーブ
73 可動シーブ
75a 筒状部材
Claims (4)
- 相互に噛み合うカム部を有し、且つ相対的に回転すると共に回転軸の軸線方向にて接近又は離隔する2つのカム部材を備えたトルクカム機構において、
前記各カム部材間の回転方向における相対的な位置関係を所定の範囲内に保持する相対位置関係保持手段を設けたことを特徴とするトルクカム機構。 - 前記相対位置関係保持手段は、一方の前記カム部材又は当該一方のカム部材に対して一体的に配置された部材に設けたガイド部と、該ガイド部に係合して案内され、且つ他方の前記カム部材又は当該他方のカム部材に対して一体的に配置された部材に設けた被ガイド部とを備え、前記所定の範囲内の境界にて前記被ガイド部が係止され得る端部を前記ガイド部に設けたことを特徴とする請求項1記載のトルクカム機構。
- 前記各カム部材のカム部間に挟持される転動部材と、該転動部材を保持する保持器とを備え、
前記相対位置関係保持手段は、前記カム部材に設けたガイド部と、該ガイド部に係合して案内される前記保持器に設けた被ガイド部とを備え、前記所定の範囲内の境界にて前記被ガイド部が係止され得る回転方向の端部を前記ガイド部に設けたことを特徴とする請求項1記載のトルクカム機構。 - 前記各カム部材の内の何れか一方をベルト式無段変速機の可動シーブに対して一体的に設けたことを特徴とする請求項1,2又は3に記載のトルクカム機構。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2004291844A JP2006105248A (ja) | 2004-10-04 | 2004-10-04 | トルクカム機構 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2004291844A JP2006105248A (ja) | 2004-10-04 | 2004-10-04 | トルクカム機構 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2006105248A true JP2006105248A (ja) | 2006-04-20 |
Family
ID=36375234
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2004291844A Pending JP2006105248A (ja) | 2004-10-04 | 2004-10-04 | トルクカム機構 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2006105248A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2013042226A1 (ja) * | 2011-09-21 | 2013-03-28 | トヨタ自動車株式会社 | 無段変速機 |
JP2013113363A (ja) * | 2011-11-28 | 2013-06-10 | Toyota Motor Corp | 動作状態推定装置および無段変速機 |
JP2014190536A (ja) * | 2013-03-28 | 2014-10-06 | Nsk Ltd | ローディングカム装置及び摩擦ローラ式減速機 |
-
2004
- 2004-10-04 JP JP2004291844A patent/JP2006105248A/ja active Pending
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2013042226A1 (ja) * | 2011-09-21 | 2013-03-28 | トヨタ自動車株式会社 | 無段変速機 |
JPWO2013042226A1 (ja) * | 2011-09-21 | 2015-03-26 | トヨタ自動車株式会社 | 無段変速機 |
JP2013113363A (ja) * | 2011-11-28 | 2013-06-10 | Toyota Motor Corp | 動作状態推定装置および無段変速機 |
JP2014190536A (ja) * | 2013-03-28 | 2014-10-06 | Nsk Ltd | ローディングカム装置及び摩擦ローラ式減速機 |
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