JP4039272B2 - ベルト式無段変速機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベルトの巻き掛け半径を変化させることにより所望の変速比を得ることができるベルト式無段変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、車両用の変速装置として、ベルト式無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この種のベルト式無段変速機は、互いに平行に配列されたプライマリシャフト(駆動側回転軸)およびセカンダリシャフト(従動側回転軸)と、プライマリシャフトに装着されたプライマリプーリと、セカンダリシャフトに装着されたセカンダリプーリとを備える。プライマリプーリおよびセカンダリプーリは、何れも、固定シーブと、固定シーブに対して移動可能な可動シーブとを含むものである。また、各可動シーブは、ボールおよびボール溝(ボールスプライン)を介して、対応する回転軸に対して軸方向に移動可能かつ周方向に移動不能とされている。固定シーブと可動シーブとの間には、略V字形状のプーリ溝が形成され、プライマリプーリおよびセカンダリプーリそれぞれのプーリ溝には、無端ベルトが巻き掛けられる。また、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに対しては、それぞれの可動シーブを対応する固定シーブに対して接近離間させるための油室が設けられている。各油室の油圧は別個に制御され、これにより、プーリの溝幅が変更されてベルトの巻き掛け半径が変化し、変速比が所望の値に設定されると共に、ベルトの張力が調整される。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−323978号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような可動シーブを安定的に動作させるためには、ボールスプラインの軸方向両端に摺動部を設ける必要がある。しかしながら、従来、その摺動部の存在により、ボールスプラインを形成することが困難となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、容易にスプラインを形成することが可能であり、かつ、可動シーブの動作を良好に安定化させることができるベルト式無段変速機の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明によるベルト式無段変速機は、回転軸の外周に配置された可動シーブおよび固定シーブと、これら可動シーブおよび固定シーブに巻き掛けられるベルトとを含み、前記可動シーブを前記固定シーブに対して移動させて前記ベルトの巻き掛け半径を変化させることにより所望の変速比を得ることができるベルト式無段変速機において、前記可動シーブは、前記回転軸に対する可動シーブの軸方向移動を許容する一方、前記回転軸に対する可動シーブの回転を規制するスプラインと、前記回転軸の軸方向における前記スプラインの側方、かつ、可動シーブの内周部に設けられており、前記回転軸の外周面と接触する第1の摺動部と、前記スプラインを挟んで前記第1の摺動部の反対側であって、可動シーブの内周部、かつ、可動シーブの軸方向最端部に設けられており、前記回転軸の外周面と接触する第2の摺動部とを備え、この第2の摺動部には、前記スプラインと平行に延びる複数の溝が形成されており、前記各溝は、前記回転軸の内部に形成された油路と前記可動シーブに油圧を作用させるための油室との間の作動油の流路の一部を形成している、ことを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面と共に本発明によるベルト式無段変速機の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るベルト式無段変速機が適用された車両を示す概略構成図である。図1に示される車両1は、いわゆるFF車両(フロントエンジンフロントドライブ:エンジン前置き前輪駆動車両)として構成されており、駆動源としてのエンジン2を備える。エンジン2としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、水素エンジン、あるいは、バイフューエルエンジン等が採用され得るが、ここでは、エンジン2としてガソリンエンジンが用いられるものとして説明する。
【0018】
図1に示されるように、車両1は、横置きにされたエンジン2の側方に配置され、エンジン2のクランクシャフトSCと連結されるトランスアクスル3を有する。トランスアクスル3は、トランスアクスルハウジング4、トランスアクスルケース5およびトランスアクスルリヤカバー6とを含む。ハウジング4は、エンジン2の側方に配置され、ケース5は、ハウジング4のエンジン2とは反対側の開口端に固定されている。また、リヤカバー6は、ケース5のハウジング4とは反対側の開口端に固定されている。そして、トランスアクスルハウジング4の内部には、トルクコンバータ7が配置されており、トランスアクスルケース5およびトランスアクスルリヤカバー6の内部には、前後進切り換え機構8、本発明の第1実施形態に係るベルト式無段変速機(CVT)9、最終減速機(差動装置)10が配置されている。
【0019】
トルクコンバータ7は、ドライブプレート11と、ドライブプレート11を介してエンジン2のクランクシャフトSCに固定されるフロントカバー12とを有する。フロントカバー12には、図1に示されるように、ポンプインペラ14が取り付けられている。また、トルクコンバータ7は、ポンプインペラ14と対向する状態で回転可能なタービンランナ15を含む。
【0020】
タービンランナ15は、クランクシャフトSCと概ね同軸に延びる入力シャフトSIに固定されている。更に、ポンプインペラ14およびタービンランナ15の内側にはステータ16が配置されており、ステータ16の回転方向は、ワンウェイクラッチ17によって一方向にのみ設定される。ステータ16には、ワンウェイクラッチ17を介して中空軸18が固定されており、上述の入力シャフトSIは、この中空軸18の内部に挿通されている。そして、入力シャフトSIのフロントカバー12側の端部には、ダンパ機構19を介してロックアップクラッチ20が取り付けられている。
【0021】
上述のポンプインペラ14、タービンランナ15およびステータ16は、作動液室を画成し、この作動液室には、トルクコンバータ7と前後進切り換え機構8との間に配置されたオイルポンプ21から作動液が供給される。そして、エンジン2が作動し、フロントカバー12およびポンプインペラ14が回転すると、作動液の流れによりタービンランナ15が引きずられるようにして回転し始める。また、ステータ16は、ポンプインペラ14とタービンランナ15との回転速度差が大きい時に、作動液の流れをポンプインペラ14の回転を助ける方向に変換する。
【0022】
これにより、トルクコンバータ7は、ポンプインペラ14とタービンランナ15との回転速度差が大きい時には、トルク増幅機として作動し、両者の回転速度差が小さくなると、流体継手として作動する。そして、車両1の発進後、車速が所定速度に達すると、ロックアップクラッチ20が作動され、エンジン2からフロントカバー12に伝えられた動力が入力シャフトSIに機械的かつ直接に伝達されるようになる。また、フロントカバー12から入力シャフトSIに伝達されるトルクの変動は、ダンパ機構19によって吸収される。
【0023】
トルクコンバータ7と前後進切り換え機構8との間のオイルポンプ21は、ロータ22を有し、このロータ22は、ハブ23を介してポンプインペラ14と接続されている。また、ハブ23は、中空軸18に対してスプライン嵌合されており、オイルポンプ21の本体24は、トランスアクスルケース5側に固定されている。従って、エンジン2の動力は、ポンプインペラ14を介してロータ22に伝達されることになり、これにより、オイルポンプ21が駆動される。
【0024】
前後進切り換え機構8は、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構25を有している。遊星歯車機構25は、入力シャフトSIの無段変速機9側の端部に取り付けられたサンギヤ26と、サンギヤ26の外周側に同心状に配置されたリングギヤ27と、サンギヤ26と噛み合う複数のピニオンギヤ28と、リングギヤ27およびピニオンギヤ28の双方と噛み合う複数のピニオンギヤ29と、各ピニオンギヤ28を自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ28をサンギヤ26の周囲で一体的に公転可能な状態に保持するキャリヤ30とを含む。
【0025】
前後進切り換え機構8のキャリヤ30は、ベルト式無段変速機9に含まれるプライマリシャフトSPに固定され、キャリヤ30と入力シャフトSIとの間の動力伝達経路は、フォワードクラッチCRを用いて接続または遮断される。また、前後進切り換え機構8は、リングギヤ27の回転・固定を制御するリバースブレーキBRを有している。
【0026】
一方、本発明の第1実施形態に係るベルト式無段変速機9は、入力シャフトSIと概ね同軸に延びる上述のプライマリシャフト(駆動側回転軸)SPと、プライマリシャフトSPと平行をなすように配置されたセカンダリシャフト(従動側回転軸)SSとを有する。プライマリシャフトSPは、軸受31および32によって回転自在に支持されており、セカンダリシャフトSSは、軸受33および34によって回転自在に支持されている。そして、プライマリシャフトSPには、プライマリプーリ35が、セカンダリシャフトSSには、セカンダリプーリ36がそれぞれ装備されている。
【0027】
プライマリプーリ35は、プライマリシャフトSPの外周に一体に形成された固定シーブ37と、プライマリシャフトSPの外周に摺動自在に装着された可動シーブ38とにより構成されている。固定シーブ37と可動シーブ38とは互いに対向し合い、両者間には、略V字形状のプーリ溝39が形成される。また、可動シーブ38は、固定シーブ37に対してプライマリシャフトSPの軸方向に移動可能であり、無段変速機9は、可動シーブ38をプライマリシャフトSPの軸方向に移動させて可動シーブ38と固定シーブ37とを接近・離間させる油圧アクチュエータ40を有している。
【0028】
同様に、セカンダリプーリ36も、セカンダリシャフトSSの外周に一体に形成された固定シーブ41と、セカンダリシャフトSSの外周に摺動自在に装着された可動シーブ42とにより構成されている。固定シーブ41と可動シーブ42とは互いに対向し合い、両者間には、略V字形状のプーリ溝44が形成される。また、可動シーブ42も、固定シーブ41に対してセカンダリシャフトSSの軸方向に移動可能であり、無段変速機9は、可動シーブ42をセカンダリシャフトSSの軸方向に移動させて可動シーブ42と固定シーブ41とを接近・離間させる油圧アクチュエータ45を有している。
【0029】
上述のプライマリプーリ35のプーリ溝39と、セカンダリプーリ36のプーリ溝44とには、多数の金属製の駒および複数本のスチールリングにより構成されるベルトBが巻き掛けられる。そして、各油圧アクチュエータ40および45による油圧が別個に制御され、これにより、プライマリプーリ35およびセカンダリプーリ36の溝幅が変更されてベルトBの巻き掛け半径が変化する。この結果、無段変速機9による変速比が所望の値に設定されると共に、ベルトBの張力が調整されることになる。なお、セカンダリシャフトSSを支持する軸受34はトランスアクスルリヤカバー6に固定されており、軸受34とセカンダリプーリ36との間には、パーキングギヤPGが設けられている。
【0030】
図1に示されるように、ベルト式無段変速機9のセカンダリシャフトSSには、軸受46および47によって支持されたシャフト48が連結されている。シャフト48には、カウンタドリブンギヤ49が固定されており、このカウンタドリブンギヤ49を介して、ベルト式無段変速機9から最終減速機10に動力が伝達される。最終減速機10は、セカンダリシャフトSSと平行をなすように配置されたインターミディエートシャフト50を含む。インターミディエートシャフト50は、軸受51および52によって支持されており、シャフト50には、セカンダリシャフトSSのカウンタドリブンギヤ49と噛み合うカウンタドリブンギヤ53と、ファイナルドライブギヤ54とが固定されている。
【0031】
また、最終減速機10は、中空のデフケース55を有している。デフケース55は、軸受56および57によって回転自在に支持されており、その外周には、リングギヤ58が形成されている。このリングギヤ58は、インターミディエートシャフト50のファイナルドライブギヤ54と噛み合っている。更に、デフケース55は、その内部にピニオンシャフト59を支持しており、ピニオンシャフト59には、2体のピニオンギヤ60が固定されている。各ピニオンギヤ60には、2体のサイドギヤ61が噛み合わされており、各サイドギヤ61には、フロントドライブシャフト62がそれぞれ別個に接続され、各フロントドライブシャフト62には、車輪(前輪)FWが固定されている。
【0032】
さて、図2は、上述の車両1に含まれる本発明によるベルト式無段変速機9の要部を示す拡大断面図であり、同図は、無段変速機9のプライマリプーリ35およびプライマリシャフトSPに関連する構成を示している。図2および図3に示されるように、ベルト式無段変速機9では、可動シーブ38の内周面に複数(本実施形態では、合計30本)のスプライン(歯)38sが形成されている。また、可動シーブ38を摺動自在に支持するプライマリシャフトSPの外周面には、可動シーブ38のスプライン38sと噛み合う複数のスプライン溝SPgが形成されている。
【0033】
可動シーブ38のスプライン38sと、プライマリシャフトSPのスプライン溝SPgとは、歯面または溝表面がインボリュート曲線をなすように形成されている。これにより、ベルト式無段変速機9では、スプライン38sおよびスプライン溝SPgとによって、可動シーブ38がプライマリシャフト(回転軸)SPに対し軸方向に移動可能とされる一方、プライマリシャフトSPの周方向には移動不能とされる。
【0034】
更に、ベルト式無段変速機9は、環状の隔壁部材(ピストン)70を含む。隔壁部材70は、図2からわかるように、プライマリシャフトSPの径方向に延びる基端部71と、基端部71からプライマリシャフトSPと概ね平行に延びる中間部72と、中間部72から可動シーブ38の背面38aに沿ってプライマリシャフトSPの径方向に延びる外周部73とを有する。
【0035】
隔壁部材70の基端部71に形成されている孔部には、プライマリシャフトSPの先端(軸受32側の端部)の小径部が圧入され、隔壁部材70は、ロックナット80を用いてプライマリシャフトSPに固定される。そして、隔壁部材70の基端部71は、支持部材81等によってトランスアクスルリヤカバー6に固定されている軸受32によって回転自在に支持される。これにより、ベルト式無段変速機9では、プライマリシャフトSPが隔壁部材70(基端部71)を介して軸受32により回転自在に支持されることになる。
【0036】
また、隔壁部材70の外周部73の外縁部には、可動シーブ38の外周に形成されている筒状部38bの内周面と摺接するようにシール部材74が配置されている。これにより、可動シーブ38の背面38a、筒状部38bおよび隔壁部材70によって、上述の油圧アクチュエータ40を構成する油室40aが画成される。この油室40a内の油圧を制御することにより、可動シーブ38を固定シーブ37に対して移動させてベルトBの巻き掛け半径を変化させることにより、所望の変速比を得ることができる。
【0037】
ここで、上述のように、ベルト式無段変速機9では、ごくシンプルなスプライン(インボリュートスプライン)を利用して、プライマリシャフトSPに対する可動シーブ38の軸方向移動を許容する一方、プライマリシャフトSPに対する可動シーブ38の回転を規制している。この場合、可動シーブ38の動作を安定化させるためには、可動シーブ38に、プライマリシャフトSP等と接触する摺動部を適切に設けておく必要がある。また、可動シーブ38にスプラインを形成するに際しては、製造コストをいたずらに増大化させることないようにする必要がある。
【0038】
これらの点に鑑みて、ベルト式無段変速機9では、可動シーブ38に対して、プライマリシャフトSPの軸方向におけるスプライン38sの両側に、第1の摺動部38cと第2の摺動部38dとが設けられている。可動シーブ38の2つの摺動部38cおよび38dのうち、第1の摺動部38cは、スプライン38sよりもプライマリシャフトSPの軸方向における固定シーブ37側、かつ、可動シーブ38の内周面に設けられており、プライマリシャフトSPの外周面と接触する。一方、第2の摺動部38dは、スプライン38sを挟んで第1の摺動部38dの反対側(リヤカバー6側)、かつ、可動シーブ38の外周面に設けられている。そして、第2の摺動部38は、図2に示されるように、プライマリシャフトSPではなく、隔壁部材70の中間部72の内周面と接触する。
【0039】
このように、ベルト式無段変速機9では、第2の摺動部38dが可動シーブ38の外周面に設けられ、プライマリシャフトSP以外の部材である隔壁部材70と接触するように構成されている。すなわち、かかる構成のもとでは、可動シーブ38の内周面のうち、図2において第2の摺動部38dの内側に位置する領域をプライマリシャフトSPの外周面と接触させる必要がなくなる。これにより、可動シーブ38の内周面のうち、第2の摺動部38dの内側に位置する領域の内径をプライマリシャフトSPの外径よりも大きくすることが可能となる。
【0040】
この結果、可動シーブ38にスプライン38sを形成するに際して、第2の摺動部38dによって工具の移動が妨げられてしまうことがなくなるので、摺動部38cおよび38dの一方側から他方側へとブローチ等の工具を移動させながら加工を行なってスプライン38sを形成することができる。すなわち、スプライン38sの形成にスロッタ等を使用する必要がなくなり、低コストで短時間のうちに極めて容易にスプライン38sを可動シーブ38に形成しておくことが可能となる。加えて、ベルト式無段変速機9では、プライマリシャフトSPの軸方向におけるスプライン38sの両側に摺動部38cおよび38dが確保されることから、プライマリシャフトSPに対する可動シーブ38の動作を極めて良好に安定化させることができる。
【0041】
また、上述の無段変速機9では、図2からわかるように、可動シーブ38の内周面のうち、第2の摺動部38dの内側に位置する領域と、プライマリシャフトSPの外周面との間に、円筒状の隙間82を形成することができる。この隙間82は、可動シーブ38の第2の摺動部38dを含む端部に形成された少なくとも1本の油路38eを介して、油室40aと常時連通する。
【0042】
このような構成のもとでは、プライマリシャフトSPに対して1本の径方向油路SPbを設けておけば、外部の油圧装置(図示省略)に接続されたプライマリシャフトSPの内部の油路SPaから隙間82に対して作動油を常に円滑に供給することができる。これにより、プライマリシャフトSPの軸方向における可動シーブ38の位置に拘わらず、いわゆる油だまりを生じさせることなく、隙間82から可動シーブ38の油路38eを介して油室40a内に所望量の作動油を供給することが可能となる。この結果、無段変速機9では、可動シーブ38に加える油圧を応答性よく制御することが可能となる。
【0043】
なお、上述の第1実施形態では、インボリュートスプラインを利用して、可動シーブ38をプライマリシャフトSPに対し軸方向に移動可能とする一方、プライマリシャフトSPの周方向に移動不能としているが、これに限られるものではない。すなわち、インボリュートスプラインの代わりに、ボールスプラインや、インボリュートスプライン以外のボールを用いないスプラインが利用されてもよい。
【0044】
〔第2実施形態〕
以下、図4を参照しながら、本発明の第2実施形態に係るベルト式無段変速機について説明する。なお、上述の第1実施形態に関連して説明されたものと同一の要素には同一の参照符号が付され、重複する説明は省略される。
【0045】
図4に示されるベルト式無段変速機9Aでは、可動シーブ38と共に油室40aを画成するようにプライマリシャフトSPに固定される隔壁部材70Aが、プライマリシャフトSPの外周を覆う円筒部75を有している。本実施形態において、円筒部75は、隔壁部材70Aの基端部71から固定シーブ37に向けてプライマリシャフトSPの軸方向に延出されている。そして、無段変速機9Aの可動シーブ38も、プライマリシャフトSPの軸方向におけるスプライン38sの両側に第1の摺動部38cと第2の摺動部38dとを有する。この場合、第1および第2の摺動部38cおよび38dは、何れも、可動シーブ38の内周面に設けられるが、固定シーブ37側の第1の摺動部38cは、プライマリシャフトSPの外周面と接触するのに対して、リヤカバー6側の第2の摺動部38dは、隔壁部材70Aの円筒部75の外周面と接触する。
【0046】
このように、第2の摺動部38dをプライマリシャフトSPに固定される隔壁部材70Aの円筒部75と接触するように構成することにより、第2の摺動部38dの内半径をプライマリシャフトSPの外径よりも概ね円筒部75の厚さ分だけ大きくすることが可能となる。この結果、可動シーブ38にスプライン38sを形成するに際して、第2の摺動部38dによって工具の移動が妨げられてしまうことがなくなるので、摺動部38cおよび38dの一方側から他方側へとブローチ等の工具を移動させながら加工を行なってスプライン38sを形成することができる。すなわち、スプライン38sの形成にスロッタ等を使用する必要がなくなり、低コストで短時間のうちに極めて容易にスプライン38sを可動シーブ38に形成しておくことが可能となる。
【0047】
また、隔壁部材70Aに円筒部75を設けることにより、円筒部75の内周面積分だけ、隔壁部材70AとプライマリシャフトSPとの圧入面積を増大化させることが可能となる。これにより、面圧を低下させつつ、プライマリシャフトSPに対する隔壁部材70Aの保持力を増加させることが可能となり、ロックナット80の負担を低減させることができる。この結果、ロックナット80の軸方向長さを短縮化することができるので、無段変速機9Aをよりコンパクト化することが可能となる。
【0048】
そして、ベルト式無段変速機9Aにおいても、プライマリシャフトSPの軸方向におけるスプライン38sの両側に摺動部38cおよび38dが確保されることから、プライマリシャフトSPに対する可動シーブ38の動作を極めて良好に安定化させることができる。また、本実施形態の場合、プライマリシャフトSPには、可動シーブ38の油路38eと連通可能な少なくとも2本の径方向油路SPbおよびSPcを形成しておくことが好ましい。これにより、プライマリシャフトSPの軸方向における可動シーブ38の位置に拘わらず、いわゆる油だまりを生じさせることなく、油室40a内に所望量の作動油を供給することが可能となる。
【0049】
なお、隔壁部材70Aの保持性を向上させる観点から、円筒部75は、隔壁部材70Aと一体化されていると好ましいが、これに限られるものではない。すなわち、図5に示されるように、隔壁部材70およびプライマリシャフトSPの双方と別体化された円筒部材85をプライマリシャフトSPに対して位置決めし、可動シーブ38の第2の摺動部38dを円筒部材85の外周面と接触させてもよい。また、上述の第2実施形態においても、インボリュートスプラインを利用して、可動シーブ38をプライマリシャフトSPに対し軸方向に移動可能とする一方、プライマリシャフトSPの周方向に移動不能としているが、これに限られるものではない。すなわち、インボリュートスプラインの代わりに、ボールスプラインや、インボリュートスプライン以外のボールを用いないスプラインが利用されてもよい。
【0050】
〔第3実施形態〕
以下、図6を参照しながら、本発明の第3実施形態に係るベルト式無段変速機について説明する。なお、上述の第1実施形態等に関連して説明されたものと同一の要素には同一の参照符号が付され、重複する説明は省略される。
【0051】
図6に示されるベルト式無段変速機9Bの可動シーブ38も、プライマリシャフトSPの軸方向におけるスプライン38sの両側に第1の摺動部38cと第2の摺動部38dとを有する。これら摺動部38cおよび38dのうち、第2の摺動部38dは、可動シーブ38の軸方向におけるプーリ溝39と反対側の最端部38gに設けられている。この場合、第1および第2の摺動部38cおよび38dは、何れも、可動シーブ38の内周面に設けられてプライマリシャフトSPの外周面と接触するが、リヤカバー6側の第2の摺動部38dには、各スプライン38sと平行に延びる複数の溝38fが形成されている。なお、本実施形態においては、スプラインとしてインボリュートスプライン等のボールを用いないスプラインが利用されると好ましい。
【0052】
このような構成のもとでは、摺動部38cおよび38dの一方側から他方側へとブローチ等の工具によって加工を行なうことにより、第2の摺動部38dの溝38fと共に、各スプライン38sを可動シーブ38に対して同時に形成することができる。すなわち、本実施形態の構成のもとでも、スプライン38sの形成にスロッタ等を使用する必要がなくなり、低コストで短時間のうちに極めて容易にスプライン38sを可動シーブ38に形成しておくことが可能となる。そして、ベルト式無段変速機9Bにおいても、プライマリシャフトSPの軸方向におけるスプライン38sの両側に摺動部38cおよび38dが確保され、摺動部38d(摺動面)が可動シーブ38の最端部38gまで有効に設けられることから、プライマリシャフトSPに対する可動シーブ38の動作を極めて良好に安定化させることができる。
【0053】
また、本実施形態の無段変速機9Bにおいても、図6からわかるように、可動シーブ38の内周面のうち、第2の摺動部38d付近の領域と、プライマリシャフトSPの外周面との間に、第2の摺動部38dの各溝38fと連通する円筒状の隙間82を形成することができる。そして、この場合も、プライマリシャフトSPに対して少なくとも1本の径方向油路SPbを設けておけば、外部の油圧装置(図示省略)に接続されたプライマリシャフトSPの内部の油路SPaから隙間82に対して作動油を常に円滑に供給することができる。これにより、プライマリシャフトSPの軸方向における可動シーブ38の位置に拘わらず、いわゆる油だまりを生じさせることなく、隙間82から可動シーブ38の油路38eを介して油室40a内に所望量の作動油を供給することが可能となる。この結果、無段変速機9Bにおいても、可動シーブ38に加える油圧を応答性よく制御することが可能となる。
【0054】
なお、上述の各実施形態は、何れも、本発明がプライマリプーリおよびプライマリシャフトに対して適用されたものとして説明されたが、これに限られるものではなく、本発明がセカンダリプーリおよびセカンダリシャフトに適用され得ることはいうまでもない。
【0055】
【発明の効果】
以上説明されたように、本発明によれば、可動シーブにスプラインを容易に形成することができると共に、無段変速機の可動シーブの動作を良好に安定化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る無段変速機が適用された車両を示す概略構成図である。
【図2】本発明による無段変速機の第1実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図3】図2に示される無段変速機を説明するための断面図である。
【図4】本発明による無段変速機の第2実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図5】図4に示される無段変速機の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明による無段変速機の第3実施形態を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
1 車両
2 エンジン
3 トランスアクスル
7 トルクコンバータ
8 前後進切り換え機構
9,9A,9B ベルト式無段変速機
10 最終減速機
19 ダンパ機構
20 ロックアップクラッチ
21 オイルポンプ
25 遊星歯車機構
35 プライマリプーリ
36 セカンダリプーリ
37,41 固定シーブ
38,42 可動シーブ
38s スプライン
38a 背面
38b 筒状部
38c 第1の摺動部
38d 第2の摺動部
38e 油路
38f 溝
38g 最端部
39,44 プーリ溝
40,45 油圧アクチュエータ
40a 油室
70,70A 隔壁部材
71 基端部
72 中間部
73 外周部
74 シール部材
75 円筒部
80 ロックナット
81 支持部材
82 隙間
85 円筒部材
B ベルト
SP プライマリシャフト
SPa 油路
SPb,SPc 径方向油路
SPg スプライン溝
SS セカンダリシャフト

Claims (1)

  1. 回転軸の外周に配置された可動シーブおよび固定シーブと、これら可動シーブおよび固定シーブに巻き掛けられるベルトとを含み、前記可動シーブを前記固定シーブに対して移動させて前記ベルトの巻き掛け半径を変化させることにより所望の変速比を得ることができるベルト式無段変速機において、
    前記可動シーブは、
    前記回転軸に対する可動シーブの軸方向移動を許容する一方、前記回転軸に対する可動シーブの回転を規制するスプラインと、
    前記回転軸の軸方向における前記スプラインの側方、かつ、可動シーブの内周部に設けられており、前記回転軸の外周面と接触する第1の摺動部と、
    前記スプラインを挟んで前記第1の摺動部の反対側であって、可動シーブの内周部、かつ、可動シーブの軸方向最端部に設けられており、前記回転軸の外周面と接触する第2の摺動部とを備え、
    この第2の摺動部には、前記スプラインと平行に延びる複数の溝が形成されており、
    前記各溝は、前記回転軸の内部に形成された油路と前記可動シーブに油圧を作用させるための油室との間の作動油の流路の一部を形成している、
    ことを特徴とするベルト式無段変速機。
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