JP6364755B2 - 衝撃吸収特性に優れた高強度鋼材 - Google Patents
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Fave∝(σY・t2)/4
σY:有効流動応力
t:板厚
として与えられることが開示されているように、衝撃吸収エネルギーは鋼材の板厚に大きく依存する。したがって、単に鋼材を高強度化することだけでは、衝撃吸収部材について薄肉化と高衝撃吸収性能とを両立させることには限界がある。
(A)鋼材の衝撃吸収エネルギーを高めるには、降伏強度と低ひずみ域での加工硬化係数を高めて有効流動応力を向上させることが有効である。
(D)衝撃吸収材において、衝撃荷重負荷時に割れが発生すると、エネルギー吸収能が低下するばかりでなく、エンジン内の他の部分の損傷原因となる。
旧オーステナイト粒の平均粒径が10μm以下の複相組織を有し、
前記複相組織が、ナノ硬さが9GPa以下のベイナイト相および/または焼き戻しマルテンサイト相を主相とし、主相の総量が面積率で80%以上であり、残部がフェライト、オーステナイトおよびセメンタイトからなる、引張強度が980MPa以上の鋼板。
(3)前記残部のうち、前記フェライトの面積率が最も高く、前記セメンタイトの面積率が最も小さい、上記(1)または(2)に記載の鋼板。
(4)面積率で、前記フェライトが5〜10%、前記オーステナイトが3〜7%、前記セメンタイトが0.5〜2.5%である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼板。
前記熱間圧延工程で得られた熱延鋼板に、総圧下率が30〜70%の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
前記冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に、平均昇温速度10〜100℃/秒で800〜950℃の温度域まで昇温し100〜500秒保持した後、平均冷却速度10〜50℃/秒で400〜560℃の温度域まで冷却し、該温度域で50〜300秒保持する熱処理を施す熱処理工程。
前記熱間圧延工程で得られた熱延鋼板に、総圧下率が30〜70%の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
前記冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に、平均昇温速度10〜100℃/秒で800〜950℃の温度域まで昇温し100〜500秒保持した後、平均冷却速度10〜50℃/秒で200〜330℃の温度域まで冷却し、該温度域で50〜200秒保持し、5〜20℃/秒の昇温速度で400〜560℃の温度域まで再加熱し、該温度域で50〜200秒保持する熱処理を施す熱処理工程。
1.化学組成
(1)C:0.3%超0.6%以下
Cは鉄鋼材料の強度を向上させる基本的な元素である。Cは固溶強化によりフェライト相の高強度化に寄与する。さらに、C量の増加により、低温変態相であるベイナイト相、マルテンサイト相は著しく高強度化する。また、残留オーステナイト相を安定化させるため、均一延性の向上に寄与する。さらに、微細なセメンタイトにより結晶粒の粗大化を抑制し、局部延性を向上させる。加えて、主相の加工硬化係数を向上させる。しかしながら、C含有量が0.3%以下では、上記作用による効果を得ることが困難な場合がある。したがって、C含有量は0.3%超とする。一方、C含有量が0.6%を超えると、上記効果が飽和するだけでなく、セメンタイト、マルテンサイト、オーステナイトが過剰に生成して、衝撃荷重負荷時における割れの発生を促進する。したがって、C含有量は0.3%超0.6%以下とする。望ましくは0.40〜0.57%である。より望ましくは0.45〜0.55%である。
Mnは、焼き入れ性を向上させ、ベイナイト相の相率を増加させる。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。しかしながら、Mn含有量が0.4%未満では、上記作用による効果を得ることが困難な場合がある。したがって、Mn含有量は0.4%以上とする。一方、Mn含有量が1.2%以上では、マルテンサイトやオーステナイトが過剰に生成して、局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、Mn含有量は1.2%未満とする。好ましくは1.0%以下である。
Siは、ベイナイトやマルテンサイト相中の炭化物の生成を抑制し、オーステナイトを安定化させることにより均一延性を向上させる作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。Siの含有量が0.6%以下では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Si量は0.6%超とする。一方、Si含有量が1.8%を超えると、過剰のオーステナイトが残留し、衝撃割れ感受性を高める。したがって、Si含有量は1.8%以下とする。望ましいSi量の範囲は0.8〜1.5%である。
Tiは凝固組織を微細化し、その後の加工熱処理後のオーステナイト粒の微細化をもたらす。しかしながら、Tiの含有量は0.001%未満では上記の効果を得ることが困難である。したがって、Tiの含有量は0.001%以上とする。一方、Tiの含有量が0.01%以上になると、TiCなどの析出物が増加し、靭性が低下することで衝突時に割れが発生しやすくなる。したがって、Tiの含有量は0.001%以上0.01%未満とする。望ましくは、0.006%以下である。
Alは脱酸効果により鋼中の介在物を抑制し、衝撃割れを防止する効果がある。しかしながら、Al含有量が0.01%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。一方、Al含有量が0.5%を超えると、酸化物や窒化物を粗大化させ、かえって衝撃割れを助長する。したがって、Al含有量は0.01〜0.5%とする。
Nは窒化物を生成することにより、オーステナイトやフェライトの粒成長を抑制し、衝撃割れを抑制する効果がある。しかしながら、N含有量が0.001%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。一方、N含有量が0.015%を超えると窒化物が粗大化し、かえって衝撃割れを助長する。したがって、N含有量は0.001〜0.015%とする。
Crは、焼き入れ性を高め、ベイナイト相率を増加させる。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。したがって、必要に応じて含有させることができる。
MoはCrと同様に焼き入れ性を高め、ベイナイト相率を増加させる。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。したがって、必要に応じて含有させることができる。
Bは焼き入れ性を高めるとともに、微量のTiを含む材料では、結晶粒の微細化をもたらす。したがって、必要に応じて含有させることができる。
しかしながら、B含有量が0.001%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。一方、Bの含有量が0.005%を超えると、粒界炭化物が粗大化し、延性を低下させる。したがって、Bの含有量は0.001〜0.005%とする。
不純物としてのPは、粒界を脆弱にし、熱間加工性の悪化を招く。そこで、Pの含有量は0.02%以下とする。P含有量は少なければ少ないほど望ましいが、現実的な製造工程と製造コストの範囲内で脱Pすることを前提にすれば、Pの上限は0.02%である。望ましくは0.015%以下である。
不純物としてのSは、粒界を脆弱にし、熱間加工性や延性の劣化を招く。そこで、Sの含有量は0.005%以下とする。S含有量は少なければ少ないほど望ましいが、現実的な製造工程と製造コストの範囲内で脱Sすることを前提にすれば、Sの上限は0.005%である。望ましくは0.002%以下である。
本発明に係る鋼組織は、高い降伏強度と低ひずみ域の加工硬化係数を得て有効流動応力を高めるため、旧オーステナイト粒の平均粒径が10μm以下の複相組織であり、その組織を構成するベイナイト相、および/または焼き戻しマルテンサイト相の総量が面積比で80%以上、残部がフェライト、オーステナイト、およびセメンタイトからなる。
ベイナイト相および/または焼き戻しマルテンサイト相は降伏応力と低ひずみ域での加工硬化係数を高める。しかしながら、ベイナイト相と焼き戻しマルテンサイト相の総量が面積比で80%未満の場合には、降伏応力および低ひずみ域での加工硬化係数が低く、所定の衝撃吸収特性を満たさない。よって、ベイナイト相と焼き戻しマルテンサイト相の総量は面積比で80%以上とする。望ましくは、80〜95%である。
均一延性を向上させるため、残部はフェライト、オーステナイト、およびセメンタイトから構成される。ただし、局部延性を兼備させるため、フェライトとオーステナイトの平均結晶粒径は1.5μm以下であることが望ましく、セメンタイト粒径は200nm以下であることが望ましい。
また、ベイナイトや焼き戻しマルテンサイトを主相とする場合、旧オーステナイト粒が脆性破壊の破面単位になる場合が多い。旧オーステナイト粒の平均粒径が10μmを超えると衝突時に旧オーステナイト粒界を起点とする脆性破壊が起こりやすくなる。したがって、旧オーステナイト粒の平均粒径は10μm以下とする。
本発明に係る鋼で形成した鋼は、有効流動応力が高く、衝撃吸収エネルギーが高いと同時に、衝撃荷重負荷時における割れの発生が抑制されている点に特徴を有する。この特徴は、後述する実施例に示すように、5%流動応力が高いこと、穴拡げ率が高いこと、および軸圧潰特性に優れることにより実証される。
(1)熱間圧延工程
前述の化学組成を有し、予め1200℃以上に加熱処理が施されたスラブに熱間圧延を施すことにより熱延鋼板が得られる。熱延鋼板をそのまま熱処理工程の母材として使用する場合、熱間圧延工程において1200℃以上の温度域で1回以上再加熱したのち、所定の粗圧延を経て、最終の仕上圧延を800〜900℃の温度域で、総圧下率50%以上の多段圧延により実施し、その後0.4秒以内に、500℃/秒以上の平均冷却速度で600〜700℃の範囲内に冷却した後、室温で巻き取りを行う。
その後の冷間圧延と焼鈍により、旧オーステナイト粒径が10μm以下の複相組織とするため、上記の熱延鋼板に冷間圧延および連続焼鈍を施して冷延鋼板とする場合には、冷間圧延における圧下率を30〜70%とする。冷間圧延における圧下率を30〜70%とすることにより加工歪を蓄積し、平均昇温速度が10〜100℃/秒で、800℃〜950℃の温度域まで昇温し、100〜500秒保持することで、再結晶させることにより、微細な鋼組織を得ることができる。
本発明の製造方法で採用する熱処理工程は図1に記載のような熱サイクルにより行われる。熱間圧延後または冷間圧延後の焼鈍熱処理は、平均昇温速度10〜100℃/秒で800〜950℃の温度域まで昇温し100〜500秒保持したのち、所定の冷却制御を選択する必要がある。冷間圧延および焼鈍熱処理条件が上記を満たさなければ、旧オーステナイト粒が粗大になり、延性、靭性が低下する。さらに、ベイナイト相および/または焼き戻しマルテンサイト相の総量が面積比で80%以上、残部がフェライト、オーステナイトおよびセメンタイトから構成される複相組織とするためには、上記の焼鈍後、平均冷却速度10〜50℃/秒で400〜560℃の温度まで冷却し、400〜560℃の範囲の一定温度で50〜300秒の熱履歴を与えて焼鈍処理する必要がある。特に、10〜50℃/秒以上の平均冷却速度でベイナイト生成域である400〜560℃以下の温度域まで冷却することにより、ベイナイト主相の組織を生成することができる。
すなわち、JIS5号引張試験片を採取して引張試験を行うことにより、5%流動応力、最大引張強さ(TS)、一様伸び(U−El)を求めた。穴広げ性は、端面ダメージの影響を除去するため、機械加工穴はリーマー加工を行い評価した。
Claims (8)
- 質量%で、C:0.3%超0.6%以下、Mn:0.4%以上1.2%未満、Si:0.6%超1.8%以下、Ti:0.001%以上0.01%未満、Al:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.015%を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、
旧オーステナイト粒の平均粒径が10μm以下の複相組織を有し、
前記複相組織が、ナノ硬さが9GPa以下のベイナイト相および/または焼き戻しマルテンサイト相を主相とし、主相の総量が面積率で80%以上であり、残部がフェライト、オーステナイトおよびセメンタイトからなる、引張強度が980MPa以上の鋼板。 - 質量%で、Cr:0.05〜0.25%、Mo:0.1〜0.35%、B:0.001〜0.005%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の鋼板。
- 前記残部のうち、前記フェライトの面積率が最も高く、前記セメンタイトの面積率が最も小さい、請求項1または2に記載の鋼板。
- 面積率で、前記フェライトが5〜10%、前記オーステナイトが3〜7%、前記セメンタイトが0.5〜2.5%である、請求項1から3までのいずれかに記載の鋼板。
- 次の工程を備えることを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の鋼板の製造方法。
請求項1または2に記載された化学組成を有するスラブを、1200℃以上の温度域で加熱した後、800〜900℃の温度域で、総圧下率が50%以上の仕上熱間圧延を行い、当該圧延後0.4秒以内に、500℃/秒以上の平均冷却速度で600〜700℃の温度域まで冷却した後、室温で巻き取って熱延鋼板とする熱間圧延工程。 - 次の工程を備えることを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の鋼板の製造方法。
請求項1または2に記載された化学組成を有するスラブを、1200℃以上の温度域で加熱した後、800〜900℃の温度域で、総圧下率が50%以上の仕上熱間圧延を行い、当該圧延後0.4秒以内に、500℃/秒以上の平均冷却速度で600〜700℃の温度域まで冷却した後、室温で巻き取りを行い、500℃以下の温度域に保持して熱延鋼板とする熱間圧延工程。 - 次の工程を備えることを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の鋼板の製造方法。
請求項1または2に記載された化学組成を有するスラブを、1200℃以上の温度域で加熱した後、800〜900℃の温度域で、総圧下率が50%以上の仕上熱間圧延を行い、50℃/秒以上500℃/秒未満の平均冷却速度で冷却し、300〜600℃の温度域で巻き取りを行って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
前記熱間圧延工程で得られた熱延鋼板に、総圧下率が30〜70%の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
前記冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に、平均昇温速度10〜100℃/秒で800〜950℃の温度域まで昇温し100〜500秒保持した後、平均冷却速度10〜50℃/秒で400〜560℃の温度域まで冷却し、該温度域で50〜300秒保持する熱処理を施す熱処理工程。 - 次の工程を備えることを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の鋼板の製造方法。
請求項1または2に記載された化学組成を有するスラブを、1200℃以上の温度域で加熱した後、800〜900℃の温度域で、総圧下率が50%以上の仕上熱間圧延を行い、50℃/秒以上500℃/秒未満の平均冷却速度で冷却し、300〜600℃の温度域で巻き取りを行って熱延鋼板とする熱間圧延工程;
前記熱間圧延工程で得られた熱延鋼板に、総圧下率が30〜70%の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
前記冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に、平均昇温速度10〜100℃/秒で800〜950℃の温度域まで昇温し100〜500秒保持した後、平均冷却速度10〜50℃/秒で200〜330℃の温度域まで冷却し、該温度域で50〜200秒保持し、5〜20℃/秒の昇温速度で400〜560℃の温度域まで再加熱し、該温度域で50〜200秒保持する熱処理を施す熱処理工程。
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